(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163628
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】固体電池の製造方法および固体電池の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20231102BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231102BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074650
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉生 剛
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ04
5H029CJ30
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】正極層と負極層との短絡が生じにくい固体電池を歩留まり良く製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】開示される製造方法は、積層体100の主面100SA1が主面100SA2よりも第1の型210に近くなるように積層体100を第1の型210の載置面210pに載置する載置工程と、第2の型220の刃部220aが主面100SA2側から第1の型210に近づくように刃部220aと第1の型210とを近づけることによって積層体100を分割する分割工程とを含む。分割工程において、刃部220aの少なくとも一部が主面SA1の位置を通過しない範囲で刃部220aと第1の型210に近づけることによって積層体100を分割する。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素を含む積層体を用いる固体電池の製造方法であって、
前記発電要素は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含み、
前記積層体は、主面SA1と前記主面SA1とは反対側の主面SA2とを有し、
前記固体電解質層は、前記主面SA1側の主面SB1と前記主面SA2側の主面SB2とを有し、
前記製造方法は、
前記主面SA1が前記主面SA2よりも第1の型に近くなるように前記積層体を前記第1の型の載置面に載置する載置工程と、
第2の型の刃部が前記主面SA2側から前記第1の型に近づくように前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する分割工程とを含み、
前記分割工程において、前記刃部の少なくとも一部が前記主面SA1の位置を通過しない範囲で前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する、固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記分割工程において、前記刃部の前記少なくとも一部が前記主面SA1の位置に到達しない範囲で前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分割工程において、前記刃部の前記少なくとも一部が前記主面SB1の位置に到達しない範囲で前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分割工程において、前記刃部の前記少なくとも一部が前記主面SB2の位置に到達しない範囲で前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分割工程において、前記主面SB2の位置よりも前記載置面側の位置に前記刃部の前記少なくとも一部が到達するように、前記刃部と前記第1の型とを近づける、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記分割工程は、前記正極層と前記負極層とが短絡しない状態で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分割工程において、前記積層体を前記載置面に固定した状態で前記積層体を分割する、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記積層体は、少なくとも1つの金属層をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
発電要素を含む積層体を分割する工程を実施する固体電池の製造装置であって、
前記積層体が載置される第1の型と、第2の型と、前記第1の型と前記第2の型とを可逆的に近づける駆動機構と、を含み、
前記発電要素は、正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層を含み、
前記積層体は、主面SA1および主面SA2を有し、
前記固体電解質層は、前記主面SA1側の主面SB1と前記主面SA2側の主面SB2とを有し、
前記主面SA1が前記主面SA2よりも前記第1の型に近くなるように前記積層体が前記第1の型の載置面に載置された状態で、前記第2の型の刃部が前記主面SA2側から前記第1の型に近づくように前記駆動機構が前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体が分割され、
前記積層体の分割は、前記刃部の少なくとも一部が前記主面SA1の位置を通過しない範囲で前記駆動機構が前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって行われる、固体電池の製造装置。
【請求項10】
前記載置面と平行な方向において前記刃部が前記第1の型の肩部から離れている距離は、-50μm~100μmの範囲にある、請求項9に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池、固体電池の製造方法および固体電池の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、固体電池が注目されている。固体電池は、正極集電体と負極集電体との間に固体電解質層が配置された積層体(発電要素)を含む。固体電池を製造する場合、多数の電池の発電要素を含む大判の積層体を製造した後に、当該積層体を各電池に対応するように分割することがある。従来から、積層体の分割方法について、様々な方法が提案されている。
【0003】
特許文献1(特開2020-61258号公報)は、「正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に固体電解質層と、を積層した積層体をプレスする積層体プレス工程と、前記積層体をせん断加工することにより所定形状に打ち抜いて複数の単電池部品を形成するせん断加工工程と、を含む、固体電池の製造方法。」を開示している。
【0004】
特許文献2(国際公開第2019/131503号)は、「第1電極層と、前記第1電極層の極性と反対の極性を有する第2電極層と、前記第1電極層および前記第2電極層の間に介在する固体電解質層とを含む積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体の外周端部を切り落とす切り落とし工程と、を含み、前記積層体は粉体材料を含むことを特徴とする全固体電池の製造方法。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-61258号公報
【特許文献2】国際公開第2019/131503号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように積層体を従来の剪断工程で打ち抜く方法では、積層体の断面が荒れて正極層と負極層との短絡が生じやすくなるという問題があった。このような状況において、本開示の目的の1つは、正極層と負極層との短絡が生じにくい固体電池を歩留まり良く製造することが可能な製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、固体電池の製造方法に関する。当該製造方法は、発電要素を含む積層体を用いる固体電池の製造方法であって、前記発電要素は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含み、前記積層体は、主面SA1と前記主面SA1とは反対側の主面SA2とを有し、前記固体電解質層は、前記主面SA1側の主面SB1と前記主面SA2側の主面SB2とを有し、前記製造方法は、前記主面SA1が前記主面SA2よりも第1の型に近くなるように前記積層体を前記第1の型の載置面に載置する載置工程と、第2の型の刃部が前記主面SA2側から前記第1の型に近づくように前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する分割工程とを含み、前記分割工程において、前記刃部の少なくとも一部が前記主面SA1の位置を通過しない範囲で前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体を分割する。
【0008】
本開示の他の一局面は、固体電池の製造装置に関する。当該製造装置は、発電要素を含む積層体を分割する工程を実施する固体電池の製造装置であって、前記積層体が載置される第1の型と、第2の型と、前記第1の型と前記第2の型とを可逆的に近づける駆動機構と、を含み、前記発電要素は、正極層、負極層、および前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層を含み、前記積層体は、主面SA1および主面SA2を有し、
前記固体電解質層は、前記主面SA1側の主面SB1と前記主面SA2側の主面SB2とを有し、前記主面SA1が前記主面SA2よりも前記第1の型に近くなるように前記積層体が前記第1の型の載置面に載置された状態で、前記第2の型の刃部が前記主面SA2側から前記第1の型に近づくように前記駆動機構が前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって前記積層体が分割され、前記積層体の分割は、前記刃部の少なくとも一部が前記主面SA1の位置を通過しない範囲で前記駆動機構が前記刃部と前記第1の型とを近づけることによって行われる。
【0009】
組み合わせが可能である限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。また、以下の実施形態に記載の様々な構成は、組み合わせが可能である限り、任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、正極層と負極層との短絡が生じにくい固体電池を歩留まり良く製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1の製造方法で分割される積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2A】実施形態1の製造方法の一工程を模式的に示す断面図である。
【
図2B】
図2Aの一工程に続く一工程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2Aの一工程を模式的に示す上面図である。
【
図4】
図2Aの一工程に続く一工程の他の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】実施形態1の製造装置の一例を模式的に示す図である。
【
図6】実施形態1の製造装置の他の一例の一部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本開示に係る実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示に係る発明を実施できる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかとを任意に組み合わせることができる。
【0013】
本実施形態に係る製造方法について以下に説明する。当該製造方法を以下では、「製造方法(M)」と称する場合がある。製造方法(M)で製造される固体電池の例には、全固体電池、半固体電池、擬似固体電池、全樹脂電池といった名称で称される電池などが含まれる。
【0014】
製造方法(M)は、全固体電池の製造に特に好ましく用いられる。以下では主に全固体電池の実施形態について説明するが、全固体電池以外の固体電池を製造する場合、発電要素として、該当する固体電池の発電要素を用いればよい。以下の説明において、特定の電池にのみ適用可能な説明以外の説明では、記載に矛盾が生じない限り、「全固体電池」を「固体電池」と読み替えてもよい。また、「全固体電池」は世の中で「固体電池」と称されることがある。そのため、記載に矛盾が生じない限り、以下の説明において、「全固体電池」を「固体電池」と読み替えてもよい。
【0015】
さらに、本開示は、製造方法(M)によって製造された固体電池(例えば全固体電池)に関する。後述する分割工程によって分割された発電要素の分割面は、通常の剪断工程によって分割された発電要素の分割面よりも短絡が生じにくい。そのため、当該固体電池は、製造後においても短絡などが生じにくく、信頼性が高い。
【0016】
この明細書において、固体電池の例には、電解質の構成要素として液状成分を含まない電池が含まれる。例えば、固体電池の例には、電池として機能するために必要な構成要素としての液状成分を含まない電池が含まれ、例えば、液状成分を含まない電池が含まれる。ここで、「液状成分」とは、室温(25℃)において液体である成分を意味する。また、固体電池の例には、一般的に、全固体電池または半固体電池と呼ばれる電池が含まれる。また、固体電池の例には、一般的に疑似固体電池と呼ばれる電池も含まれる。すなわち、固体電池は、微量の液状成分を含んでもよい。
【0017】
(製造方法(M))
本実施形態に係る製造方法(M)は、発電要素を含む積層体を用いる固体電池の製造方法である。発電要素は、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に配置された固体電解質層とを含む。積層体は、主面SA1と主面SA1とは反対側の主面SA2とを有する。固体電解質層は、主面SA1側の主面SB1と主面SA2側の主面SB2とを有する。
【0018】
製造方法(M)は、載置工程と分割工程とをこの順に含む。載置工程は、主面SA1が主面SA2よりも第1の型に近くなるように積層体を第1の型の載置面に載置する工程である。分割工程は、第2の型の刃部が主面SA2側から第1の型に近づくように当該刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する工程である。なお、第2の型の刃部とは、第2の型のうち、分割工程において、積層体を分割するために積層体と接触する部分(角部)を意味する。
【0019】
分割工程では、以下の条件(1)および/または(2)が満たされる。分割工程では、以下の条件(2)および/または(3)が満たされてもよく、以下の条件(2)および/または(4)が満たされてもよい。
(1)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(以下では「一部(P)」と称する場合がある)が第1の型の載置面(積層体の主面SA1と接触する面)の位置を通過しない範囲で刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。
(2)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が積層体の主面SA1の位置を通過しない範囲で刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。この場合、刃部と第1の型とが最も近づいたときに、一部(P)は、主面SA1と同じ位置にあるか、または、主面SA1と主面SA2との間の位置にある。
(3)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が固体電解質層の主面SB1の位置に到達しない範囲で第2の型の刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。この構成によれば、正極層と負極層との短絡を特に抑制できる。この場合、上記一部(P)の最近接位置は、固体電解質層の主面SB1よりも第1の型の載置面から離れた位置にありうる。
(4)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が固体電解質層の主面SB2の位置に到達しない範囲で第2の型の刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。この構成によれば、正極層と負極層との短絡を特に抑制できる。この場合、上記一部(P)の最近接位置は、固体電解質層の主面SB2よりも第1の型の載置面から離れた位置にありうる。
【0020】
条件(1)の「第1の型の載置面の位置を通過しない範囲」には、刃部の到達位置が第1の型の載置面の位置となる場合が含まれる。条件(2)の「主面SA1の位置を通過しない範囲」には、刃部の到達位置が主面SA1の位置となる場合が含まれる。分割工程において、上記一部(P)は、主面SA2よりも主面SA1側に移動する。すなわち、分割工程において、上記一部(P)は、主面SA2を通過し且つ主面SA1を通過しない範囲で移動する。
【0021】
分割工程は、条件(1)の代わりに以下の条件(1’)を満たしてもよく、条件(2)の代わりに以下の条件(2’)を満たしてもよい。すなわち、この明細書の説明において、条件(1)を条件(1’)と置き換えてもよく、条件(2)を条件(2’)と置き換えてもよい。
(1’)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が第1の型の載置面の位置に到達しない範囲で刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。
(2’)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が積層体の主面SA1の位置に到達しない範囲で刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する。
【0022】
なお、上記の位置とは、分割工程において型が移動する方向を座標軸としたときの座標位置を意味する。これは、以下の説明、例えば、後述する条件(5)~(7)の説明においても同様である。
【0023】
特許文献1では、積層体(発電要素)を剪断加工することによって所定形状に打ち抜いて複数の単電池部品を形成している。しかし、発電要素を含む積層体を従来の剪断方法で切断すると、切断面が荒れて短絡が生じやすくなる。
【0024】
従来の剪断方法では、下型の刃部と上型の刃部とが交差するように上型を移動させることによって、被加工物を剪断していた。固体電池を構成する積層体は薄いため、当業者の技術常識として、従来の剪断方法以外で被加工物を分割できるとは考えられていなかった。しかし、本願発明者は、従来の剪断方法とは全く異なる方法で積層体を分割できること、および、それによって正極層と負極層との短絡を抑制できることを新たに見出した。本開示は、この新たな知見に基づく。
【0025】
製造方法(M)の分割工程では、第2の型の刃部が、積層体を厚さ方向に横断することがない。また、従来の剪断工程と比べて、製造方法(M)の分割工程では、積層体の分割面が第1の型および/または第2の型によって擦られる程度が小さい。そのため、分割の際に分割面が荒れることを抑制でき、その結果、正極層と負極層との短絡を抑制できる。すなわち、製造方法(M)によれば、特性が高い固体電池を歩留まり良く製造することが可能である。載置工程の例および分割工程の例について、以下に説明する。
【0026】
(載置工程)
上述したように、載置工程は、積層体の主面SA1が積層体の主面SA2よりも第1の型に近くなるように積層体を第1の型の載置面に載置する工程である。換言すれば、積層体の主面SA2が主面SA1よりも第2の型に近くなるように、積層体が載置される。
【0027】
載置工程では、負極層よりも正極層が主面SA1に近くなるように積層体を配置してもよい。あるいは、正極層よりも負極層が主面SA1に近くなるように積層体を載置してもよい。
【0028】
(分割工程)
上述したように、分割工程は、第2の型の刃部が主面SA2側から第1の型に近づくように第2の型の刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割する工程である。
【0029】
分割工程によって、積層体が、線状の分割位置において分割される。分割位置では、第1の型の肩部と第2の型の刃部とが近づく。それによって、第2の型の刃部が積層体に接触し、第1の型の肩部と第2の型の刃部との間にある積層体が分割される。1つの観点では、第1の型の肩部は、第1の型の刃部である。
【0030】
線状の分割位置は、通常、積層体の上方から見たとき(
図3参照)に直線状である。ただし、積層体を分割できる限り、分割位置は、直線状ではなくてもよいし、直線状の部分と直線状ではない部分とを含んでもよい。積層体の上方から見たとき(
図3参照)に、分割位置は、曲線を含んでもよく、折れ曲がっていてもよい。当該分割位置は、湾曲していてもよい。当該分割位置は、90°よりも大きい角度で折れ曲がっていてもよい。第1の型の肩部の形状と第2の型の刃部の形状とを変化させることによって、分割位置の形状を変化させることができる。例えば、第1の型の肩部と第2の型の刃部とを直線状に延びる形状とすることによって、分割位置の形状を直線状とすることができる。
【0031】
第1および第2の型の典型的な配置の一例では、第1の型は下型であり、第2の型は上型である。この場合、第2の型を下方に向かって移動させることによって、第2の型を第1の型に近づけることができる。ただし、分割工程を実施できる限り、第1の型および第2の型の配置はこの典型的な配置に限定されない。例えば、第1の型を上型とし、第2の型を下型としてもよい。あるいは、両者を水平方向に沿って配置してもよい。
【0032】
典型的には、第2の型の刃部と第1の型とを近づける際に、第2の型のみが移動される。そのため、以下では、第2の型の刃部のみを移動させる場合について主に記載する。しかし、分割工程を実施できる限り、第1の型のみを第2の型に向かって移動させることによって、第2の型の刃部と第1の型とを近づけてもよい。あるいは、第1の型および第2の型の両方を移動させることによって、第2の型の刃部と第1の型とを近づけてもよい。
【0033】
分割工程において、第1の型と第2の型との接近速度(例えば、第2の型の移動速度)は、10~1000mm/s(好ましくは70~700mm/s)の範囲にあってもよい。この範囲とすることによって、分割工程を適切に実施しやすくなる。
【0034】
分割工程において、第2の型を最近接位置で停止するときは、第2の型の速度を徐々に低減してもよいし、第2の型の速度を急激に低減してもよい。第2の型の速度を急激に低減することによって、積層体を適正に分割しやすくなる。第2の型の移動速度を最近接位置で急激に低減するために、クランク機構を含まない駆動機構を用いて第2の型を移動させてもよい。そのような駆動機構の例には、液圧式(例えば油圧式)の駆動機構や、空圧式の駆動機構が含まれる。あるいは、第2の型の移動速度を最近接位置で急激に低減するために、最近接位置で第2の型を停止させるためのストッパを用いてもよい。
【0035】
第1および第2の型には、後述する製造装置(D)に関して説明する第1および第2の型を用いることができる。
【0036】
分割工程において、第2の型の刃部の上記一部(P)は、積層体の主面SA2の位置よりも主面SA1側(第1の型の載置面側)の位置に移動する。具体的には一部(P)の最近接位置は、主面SA1の位置、または、当該主面SA1の位置と主面SA2との間の位置にある。第1の型の載置面は、積層体が載置される面であり、積層体の主面SA1と接触する面である。
【0037】
第2の型の刃部の上記一部(P)の最近接位置は、分割工程において、一部(P)が第1の型の載置面に最も近づいたときの一部(P)の位置である。駆動機構がクランク機構を含む場合の一例では、下死点における一部(P)の位置が、最近接位置に対応する。
【0038】
分割工程が上記の条件(1)~(4)の少なくとも1つの条件を満たす場合、上記の条件と矛盾しない限り、分割工程はさらに以下の条件(5)、(6)、および(7)のいずれかを満たしてもよい。また、以下の説明において、「積層体の主面SA1」を「第1の型の載置面」に置き換えてもよい。
(5)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)の最近接位置は、積層体の主面SA2の位置よりも積層体の主面SA1に近く且つ固体電解質層の主面SB2の位置よりも第1の型から遠い位置にある。
(6)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)は、固体電解質の主面SB2の位置まで移動するか、あるいは、SB2の位置よりも載置面側の位置に移動する。例えば、分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)の最近接位置は、固体電解質層の主面SB2の位置、または主面SB2の位置よりも載置面側の位置にあってもよい。
(7)分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)は、固体電解質の主面SB1の位置まで移動するか、あるいは、主面SB1の位置よりも載置面側の位置に移動する。例えば、分割工程において、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)の最近接位置は、固体電解質層の主面SB1の位置、または主面SB1の位置よりも載置面側の位置にあってもよい。
【0039】
条件(1)~(7)の説明において、主面の位置とは、第1の型の載置面に載置されている積層体における主面の位置を意味する。積層体は、発電要素を1つだけ含んでもよいし、積層された複数の発電要素を含んでもよい。積層体が複数の発電要素を含む場合、主面SB1およびSB2は、積層体に含まれるいずれか1つの発電要素の固体電解質層の主面を意味する。例えば、主面SB1およびSB2は、主面SA1に最も近い固体電解質層の主面であってもよいし、主面SA2に最も近い固体電解質層の主面であってもよい。
【0040】
上述したように、刃部の上記少なくとも一部(P)の位置が上記の所定の位置となるように分割工程が行われる。好ましい一例では、刃部の大部分またはすべてが、上記の所定の位置となるように分割工程が行われる。そのため、記載に矛盾が生じない限り、この明細書において「刃部の少なくとも一部(または一部(P))」という記載を「刃部」と置き換えてもよい。
【0041】
刃部の上記少なくとも一部(P)の長さL1と刃部の長さ(全長)L0との比L1/L0は、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、または0.95以上であってもよく、1.0以下である。一例では、比L1/L0は、1.0である。
【0042】
一例として、積層体の各層の主面が湾曲しておらず互いに平行であり、且つ、第2の型の刃部が積層体の各層の主面に平行で且つ直線状に延びている場合について考える。この場合、第2の型の刃部が積層体の各層の主面に平行である状態を維持したまま第2の型の刃部を移動させて分割工程を実施すると、比L1/L0は、1.0となりうる。
【0043】
第2の型の刃部が積層体の各層の主面に平行ではない場合には、比L1/L0は1.0未満となることがある。また、第2の型の刃部が直線状ではない場合も、比L1/L0が1.0未満となることがある。例えば、後述する方向PDに垂直な面に第2の型の刃部を投影したときに投影された形状が湾曲している場合には、比L1/L0は1.0未満となることがある。分割工程において、一部(P)以外の刃部は、一部(P)よりも第1の型から離れた位置にあってもよいし、その逆方向の位置にあってもよい。例えば、分割工程において、一部(P)以外の刃部の少なくとも一部は、主面SA1の位置を通過してもよい。その場合でも、一部(P)の部分では、製造方法(M)による効果が得られる。
【0044】
製造方法(M)は、載置工程の前に、積層体の一主面(例えば主面SA1または主面SA2)と積層体を構成する層の主面(例えば主面SB1または主面SB2)との間の距離(層間距離)を測定し、得られた測定値に基づいて第2の型の刃部の移動範囲を調整する工程をさらに含んでもよい。この工程を行うことによって、第2の型の刃部を所望の範囲で正確に移動させることが可能となる。第2の型の刃部の移動範囲を調整する方法については後述する。上記層間距離は、例えば、積層体の断面を電子顕微鏡などで撮影し、得られた画像から測定してもよい。それによって、各層の厚さの比率を算出できる。なお、算出した各層の厚さの比率を、基準の比率として用いてもよい。例えば、量産工程では、分割される積層体の厚さを公知の方法で測定し、測定された厚さと上記基準の比率とに基づいて第2の型の刃部の移動範囲を調整してもよい。
【0045】
分割工程において正極層と負極層とが短絡すると、製造時の歩留まりが低下したり、分割後の積層体の信頼性や長期特性が低下したりする場合がある。そのため、分割工程は、正極層と負極層とが短絡しない状態で行われることが好ましい。
【0046】
分割工程において、以下の条件(a)~(c)のうちの少なくとも1つの条件が満たされてもよい。例えば、条件(a)~(c)のうちのいずれか1つが満たされてもよいし、2つが満たされてもよい。例えば、条件(a)および(b)が満たされてもよいし、条件(a)および(c)が満たされてもよいし、条件(b)および(c)が満たされてもよい。あるいは、条件(a)~(c)のすべてが満たされてもよい。
(a)分割工程は、第1の型と第2の型とが電気的に絶縁されている状態で行われる。
(b)第1の型の載置面は、絶縁性の材料で形成されている。
(c)第2の型の表面のうち分割工程において積層体と接触する表面は、絶縁性の材料で形成されている。
【0047】
第2の型の刃部の最近接位置が固体電解質層の主面SB1よりも積層体の主面SA2側にある場合、分割工程において、第2の型が、正極層と負極層とに同時に接触することはない。分割工程において第2の型が正極層と負極層とに同時に接触することがない場合、条件(a)および/または条件(b)を満たすことによって、正極層と負極層との短絡を防止できる。第2の型の刃部の最近接位置が固体電解質層の主面SB1よりも積層体の主面SA1側にある場合、分割工程において第2の型が正極層と負極層とに同時に接触することがある。その場合でも、条件(c)を満たすことによって、正極層と負極層との短絡を防止できる。なお、条件(c)を満たせばいずれの場合でも、分割工程における正極層と負極層との短絡を防止できる。
【0048】
条件(b)および/または条件(c)を満たすために、第1の型および/または第2の型を絶縁性の材料で形成してもよい。あるいは、第1の型の表面および/または第2の型の表面を絶縁性の材料でコートしてもよい。絶縁性の材料の例には、絶縁性の無機化合物(例えば酸化物や窒化物やセラミクス)が含まれる。絶縁性の無機化合物の例には、絶縁性の金属化合物(例えば金属酸化物や金属窒化物)が含まれる。
【0049】
分割工程において、積層体を第1の型の載置面に固定した状態で積層体を分割することが好ましい。この構成によれば、積層体を、正確且つ適正に分割位置で分割できる。さらにこの構成によれば、分割面の荒れをより少なくできるため、正極層と負極層との短絡を特に抑制できる。
【0050】
積層体を固定する方法に特に限定はなく、積層体を固定できる限り、部材(例えば押さえ板)で積層体を押さえる方法や、真空吸着法などを用いてもよい。載置工程において、積層体を第1の型の載置面に固定し、そのままの状態で分割工程を実施することができる。
【0051】
典型的には、分割工程は、積層体のうち第1の型の載置面から突出している部分が固定されていない状態で行われる。
【0052】
積層体は、少なくとも1つの金属層をさらに含んでもよい。金属層は、金属粒子を含む層であってもよいし、気相法(蒸着法やスパッタリング法など)や液相法で形成された金属層であってもよい。あるいは、金属層は金属箔であってもよい。積層体は、ただ1つの金属層を含んでもよいし、複数の金属層を含んでもよい。金属層は、積層体の表面に配置されていてもよいし、積層体の内部に配置されていてもよい。例えば、積層体が、積層された複数の発電要素を含む場合、隣接する発電要素の間に金属層が配置されていてもよい。
【0053】
上記少なくとも1つの金属層は、主面SA1および/または主面SA2に配置された少なくとも1つの金属箔を含んでもよい。その場合、金属箔の露出している表面が積層体の主面となる。金属層は、発電要素の少なくとも1つの主面(片面または両面)の全面(またはほぼ全面)を覆うように配置されてもよい。
【0054】
積層体が金属箔を含む場合、当該金属箔は、第2の型の刃部が通過する位置に配置されてもよい。例えば、積層体が一方の表面のみに配置された金属箔を含む場合、当該金属箔の表面が主面SA2となるように積層体を載置した状態で分割工程を行ってもよい。
【0055】
金属層(例えば金属箔)が発電要素の片面のみに配置される場合、金属層は、正極層側に配置されてもよいし、負極層側に配置されてもよい。例えば、積層体は、金属層/正極層/固体電解質層/負極層という積層構造を有してもよいし、金属層/負極層/固体電解質層/正極層という積層構造を有してもよい。なお、発電要素自体も、正極層/固体電解質層/負極層という積層構造を有する積層体である。金属層が発電要素の両面に配置される場合、積層体は、金属層/正極層/固体電解質層/負極層/金属層という積層構造を有する。なお、これらの積層体は、上記の層以外の層を、上記の層と層との間に含んでもよい。
【0056】
積層体が第1の型の載置面に載置された状態で、主面SA1と主面SA2との間の電気的特性を測定してもよい。測定される電気的特性は、正極層と負極層との短絡の有無を判定するための特性であってもよい。そのような電気的特性の例には、電気抵抗や電圧が含まれる。電気的特性は、分割工程の後に測定してもよいし、分割工程の前および後に測定してもよい。あるいは、電気的特性を測定しながら分割工程を行ってもよい。電気的特性を測定することによって、分割工程で短絡が発生したかどうかを判定できる。
【0057】
製造方法(M)では、1つの固体電池で使用される積層体のサイズ(以下では、「最終サイズ」と称する場合がある)よりも大きい積層体を、分割工程によって分割する。積層体は、最終的には、最終サイズになるまで分割される。製造方法(M)は1回の載置工程と1回の分割工程を含むが、載置工程と分割工程とを複数回繰り返してもよい。
【0058】
典型的な一例では、最終サイズを行列状に並べたときの大きさを有する積層体を、複数回の分割工程によって複数の帯状の積層体に分割する。次に、それぞれの帯状の積層体に対して分割工程を繰り返すことによって、複数の最終サイズの積層体が得られる。別の一例では、最終サイズよりも少し大きい積層体を作製し、その積層体の端部を分割工程によって分割して除去することによって、1つの最終サイズの積層体を得る。最初の積層体から形成される最終サイズの積層体の数は1以上または2以上であり、1~1000の範囲(例えば1~100の範囲や2~100の範囲)にあってもよい。
【0059】
載置工程で載置される積層体の平面形状および最終サイズの積層体の平面形状に限定はない。それらの平面形状は、直線状の辺で構成される形状であることが好ましく、矩形(正方形または長方形)や、菱形であってもよい。最終サイズの積層体の平面形状のサイズに限定はなく、当該平面形状の各辺は、1cm以上であってもよく、50cm以下であってもよい。最終サイズの積層体の平面形状は、一辺の長さが1cm~50cmの範囲(例えば1cm~30cmの範囲や1cm~20cmの範囲)にある正方形に収まるサイズであってもよい。
【0060】
積層体の材料および形成方法に特に限定はない。例えば、正極層、負極層、固体電解質層の材料および形成方法には、公知の材料および形成方法を適用してもよい。発電要素は、正極層、負極層、および固体電解質層のみによって形成されてもよい。あるいは、発電要素は、分割工程において積層体を分割することができる限り、他の層を含んでもよい。そのような他の層の例には、導電性粉末を含む材料で構成された薄い導電層などが含まれる。
【0061】
製造方法(M)は、載置工程の前に、積層体を準備する準備工程を含んでもよい。準備工程は、材料から積層体を作製する工程であってもよいし、すでに製造された積層体を入手する工程であってもよい。材料から積層体を作製する場合、積層体を構成する材料をプレスする工程を含む製造方法によって積層体を形成することが好ましい。積層体を製造する方法の一例を以下に説明する。
【0062】
準備工程において、正極層、固体電解質層、および負極層のそれぞれの材料を積層した後、積層された材料をまとめてプレス(本プレス)することによって積層体を準備してもよい。このとき、それぞれの層の材料と金属箔とを積層して一緒にプレスしてもよい。例えば、準備工程の一例では、正極層の材料、固体電解質層の材料、および負極層の材料(および必要に応じて金属箔)を、所定の順に金属箔上に積層した後、積層された材料および1つまたは2つの金属箔をまとめてプレス(本プレス)することによって積層体を形成する。この形成方法は、全固体電池の積層体を製造する場合に好ましく用いられる。この本プレスによって、1つまたは2つの金属箔と各層とが一体化されて積層体が得られる。本プレスの圧力は、材料や厚さなどに応じて適宜変更すればよく、50MPa以上5000MPa以下(例えば、300MPa以上3000MPa以下)であってもよい。金属箔上に正極層を積層する場合、当該金属箔には正極集電体となる金属箔を用いる。金属箔上に負極層を積層する場合、当該金属箔には負極集電体となる金属箔を用いる。なお、発電要素を形成した後に、発電要素と少なくとも1つの金属箔とを一体化させて積層体を得ることも可能である。
【0063】
正極層の材料を配置した後、固体電解質層の材料を配置した後、負極層の材料を配置した後のいずれかの段階において、配置した材料を予備的にプレスしてもよい。予備的なプレスは通常、上記の本プレスの圧力よりも小さい圧力で行われる。予備的なプレスの圧力に特に限定はなく、1MPa~10MPaの範囲にあってもよい。積層体中の空隙を減らすために、積層体を形成する工程の少なくとも一部は減圧下で行われてもよい。
【0064】
準備工程において、正極層、固体電解質層、および負極層からなる群より選択される少なくとも1つの層は、液状成分を含まない材料(例えば、粉末を含み液状成分を含まない材料)を用いて形成してもよい。例えば、発電要素を構成するすべての層を、液状成分を含まない材料で形成してもよいし、積層体を構成するすべての層を、液状成分を含まない材料で形成してもよい。液状成分(分散媒)を含まない材料を層状に配置する方法として、静電スプレー法、スキージ成膜法、または、静電塗装法などを用いてもよい。液状成分を含まない材料をプレスする方法(乾式の方法)で積層体を形成することによって、分割工程で分割しやすい積層体が得られる。
【0065】
正極層、固体電解質層、および負極層からなる群より選択される少なくとも1つの層(例えばすべての層)は、層を構成する材料と液状成分とを含む混合物(例えばスラリー)を用いて形成してもよい。その場合、例えば、当該混合物を塗布、乾燥、プレスすることによって各層および積層体を形成することができる。液状成分を含む混合物を用いる場合でも、乾燥(液状成分の除去)および/またはプレスを行うことによって、分割工程での分割が容易な積層体が得られる。液状成分に特に限定はなく、公知の発電要素の形成に用いられている公知の液状成分(分散媒)を用いてもよい。液状成分の例には、例えば、酪酸ブチル、ジブチルエーテル、へプタン、水、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンなどが含まれる。
【0066】
なお、分割工程で分割することができる限り、積層体および積層体を構成する各層の形成方法に特に限定はない。例えば、各層のいずれかは、溶射法その他の方法で形成してもよい。
【0067】
発電要素を構成する少なくとも1つの層(例えばすべての層)における粉末の材料の割合は、50質量%以上、または70質量%以上であってもよく、100質量%以下であってもよい。粉末の材料の割合が50質量%以上である層を含む場合、発電要素の脆性が高く、分割工程で分割しやすくなる。正極層における粉末の材料の割合、負極層における粉末の材料の割合、固体電解質層における粉末の材料の割合は、それぞれ、上記の粉末の材料の割合の下限および上限で規定される範囲にあってもよい。粉末の材料は、無機材料の粉末であってもよいし、無機材料の粉末と有機材料の粉末との混合物であってもよい。
【0068】
正極層、固体電解質層、および負極層からなる群より選択される少なくとも1つの層(例えばすべての層)の材料は、バインダを含んでもよいし、バインダを含まなくてもよい。分割工程を容易にする観点では、当該材料は、バインダを含まないか、バインダの量が少ないことが好ましい。分割工程を行うことができる限り、各層におけるバインダの含有率は、10質量%以下(例えば5質量%以下や3質量%以下)であってもよく、それより多くてもよい。当該材料がバインダを含む場合、バインダに特に限定はなく、公知の発電要素の形成に用いられている公知のバインダを用いてもよい。バインダの例には、スチレン・ブタジエンゴムやブチレンゴムなどのゴム、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、アクリル系樹脂などが含まれる。
【0069】
なお、本プレスによってプレスされる各層の材料は、予め層状にした状態で配置されてもよい。すなわち、発電要素を形成する際に、正極層、固体電解質層、および負極層からなる群より選択される少なくとも1つの層は、予め材料を乾燥および/またはプレスすることによって単独の層として形成しておいてもよい。さらに、その単独の層を、金属箔または他の層の上に配置して本プレスすることによって、積層体を形成してもよい。
【0070】
積層体は、高温(例えば100℃以上)で加熱することなくプレスによって形成される積層体であってもよい。例えば、積層体は、焼結体ではなくてもよい。あるいは、準備工程は、材料のプレスの際、および/または、材料のプレス後に、材料および/または積層体を高温で加熱して焼成する工程を含んでもよい。
【0071】
以上のようにして、積層体を作製できる。ただし、積層体は上記以外の方法で作製されてもよい。
【0072】
金属層(例えば金属箔)の厚さは、1μm~50μmの範囲(例えば5μm~20μmの範囲)にあってもよい。
【0073】
発電要素の厚さは、100μm~1000μmの範囲(例えば200μm~800μmの範囲)にあってもよい。このような厚さの発電要素を剪断によって切断すると、切断面の荒れによる短絡が特に生じやすくなる。正極層の厚さは、50μm~500μmの範囲(例えば100μm~300μmの範囲)にあってもよい。固体電解質層の厚さは、10μm~300μmの範囲(例えば30μm~100μmの範囲)にあってもよい。負極層の厚さは、50μm~500μmの範囲(例えば100μm~300μmの範囲)にあってもよい。製造方法(M)は、薄型の発電要素を用いた固体電池の製造に好ましく用いられる。
【0074】
上記の分割工程によって、積層体を分割できる。積層体は、最終サイズにまで分割された後、それを用いて固体電池が製造される。製造方法(M)によって、発電要素を有する積層体を含む固体電池を製造することが可能である。当該積層体の少なくとも1つの側面において、上記発電要素は分割工程によって形成された端面を有しうる。
【0075】
分割工程で得られた積層体を用いて固体電池を作製する方法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。積層体が金属層(集電体)を含まない場合、製造方法(M)は、積層体の表面に金属層を配置する工程を含んでもよい。発電要素の片面のみに金属層が配置された積層体が準備される場合の製造方法(M)の一例では、まず、上記の積層体の金属層が形成されていない側に、別の集電体を形成し、金属層/発電要素/集電体という積層構造を含む発電体(積層体)を形成する。別の集電体は、金属箔であってもよいし、蒸着層などであってもよい。準備工程において、発電要素の両面に金属層が配置された積層体が準備される場合、分割された積層体をそのまま発電体として用いることが可能である。
【0076】
次に、得られた発電体に必要に応じて正極側リードおよび/または負極側リードを接続した後、発電体を外装体に収容することによって、固体電池が得られる。発電体は、外装体に収容する前または収容した後に、積層方向に加圧してもよい。固体電池は、上記の積層体を1つだけ含んでもよいし、積層された複数の積層体からなる発電体を含んでもよい。また、上記の別の集電体の形成を省略してもよい。
【0077】
外装体に特に限定はなく、公知の外装体を用いてもよい。外装体は、ケース、および/または、フィルムで形成された袋状体を含んでもよい。例えば、発電体は、ラミネートフィルムで形成された袋状体に封入されてもよく、発電体が封入された袋状体をさらにケースに収容してもよい。このとき、発電体は、袋状体またはケースの内部が減圧された状態で袋状体に封入されてもよい。
【0078】
本実施形態で製造される固体電池の構成要素の例について以下に説明する。ただし、以下の構成要素は例示であり、他の構成要素を用いた固体電池も本実施形態の製造方法で製造できる。なお、以下では、全固体電池(特に全固体リチウムイオン電池)の例について主に説明する。
【0079】
(正極層)
正極層は、正極活物質を含み、必要に応じて他の成分を含んでもよい。当該他の成分の例には、全固体電池で正極に使用される公知の成分が含まれる。正極層におけるリチウムイオン伝導性を高める観点から、正極層は、正極活物質とともに、リチウムイオン伝導性を示す固体電解質を含むことが好ましい。固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を示す限り、特に制限されず、全固体電池で固体電解質層に使用されるような固体電解質が使用できる。通常、正極活物質は、粒子(粉末)の状態で用いられる。上述したように、正極層は、正極活物質の粉末や正極合剤(正極活物質の粉末および添加剤などを含む)を圧縮成形することによって形成できる。
【0080】
正極活物質には、全固体電池において正極活物質として使用できる材料を用いることができる。全固体リチウムイオン電池の場合、正極活物質の例には、リチウム含有複合酸化物や、酸化物以外の化合物が含まれる。リチウム含有複合酸化物の例には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、およびその他のリチウム含有複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、など)が含まれる。酸化物以外の化合物の例には、オリビン系化合物(LiMPO4)、硫黄含有化合物(Li2Sなど)などが含まれる。なお、上記式中、Mは遷移金属を示す。正極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
粉末の正極活物質を用いる場合、正極活物質の平均粒径は、例えば、3μm以上または4μm以上であってもよく、15μm以下または11μm以下であってもよい。この明細書において、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)である。
【0082】
(負極層)
負極層は、負極活物質を含み、必要に応じて他の成分を含んでもよい。当該他の成分の例には、全固体電池で負極に使用される公知の成分が含まれる。負極層は、負極活物質と、リチウムイオン伝導性を示す固体電解質とを含んでもよい。通常、負極活物質は、粒子(粉末)の状態で用いられる。上述したように、負極層は、負極活物質の粉末や負極合剤(負極活物質の粉末および添加剤などを含む)を圧縮成形することによって形成できる。
【0083】
負極活物質には、全固体電池において負極活物質として使用できる材料を用いることができる。全固体リチウムイオン電池の場合、負極活物質には、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な所定の材料(炭素質材料、金属や半金属の単体または合金、あるいは化合物など)を用いることができる。炭素質材料の例には、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛など)、ハードカーボン、非晶質炭素などが含まれる。金属や半金属の単体、合金の例には、リチウム金属や合金、Si単体などが含まれる。化合物の例には、酸化物(チタン酸化物、ケイ素酸化物など)、硫化物、窒化物、水化物、シリサイド(リチウムシリサイドなど)などが挙げられる。負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ケイ素酸化物と炭素質材料とを併用してもよい。負極活物質として、黒鉛粒子と黒鉛粒子を被覆する非晶質炭素とを含む粒子を用いてもよい。
【0084】
粉末の負極活物質を用いる場合、負極活物質の平均粒径は、例えば、3μm以上または4μm以上であってもよく、50μm以下または30μm以下であってもよい。
【0085】
(固体電解質層)
正極と負極との間に配置される固体電解質層は、電荷担体を伝導する固体電解質を含む。通常、固体電解質は、粒子(粉末)の状態で用いられる。上述したように、固体電解質層は、固体電解質の粉末を含む材料を圧縮成形することによって形成できる。
【0086】
固体電解質には、全固体電池において固体電解質として使用できる材料を用いることができる。全固体リチウムイオン電池の場合、固体電解質には、リチウムイオン伝導性を有する物質を用いることができる。そのような固体電解質の例には、硫化物(硫化物系固体電解質)、水素化物(水素化物系固体電解質)などの無機固体電解質が含まれる。
【0087】
硫化物の例には、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、Li2S-B2S3、Li2S-Ga2S3、Li2S-Al2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-Al2S3-P2S5、Li2S-P2S3、Li2S-P2S3-P2S5、LiX-Li2S-P2S5、LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-B2S3(X:I、Br、またはCl)などが含まれる。水素化物の例には、LiBH4-LiI系錯体水素化物およびLiBH4-LiNH2系錯体水素化物などが含まれる。
【0088】
(正極集電体)
発電要素の正極層の外側には、通常、金属層(正極集電体)が配置される。当該金属層(正極集電体)には、金属箔を用いてもよい。正極集電体(例えば金属箔)の材質の例には、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、亜鉛、スズ、またはこれらの合金などが含まれる。
【0089】
(負極集電体)
発電要素の負極層の外側には、通常、金属層(負極集電体)が配置される。当該金属層(負極集電体)には、金属箔を用いてもよい。金属層(負極集電体)の材質の例には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、これらの合金などが含まれる。
【0090】
なお、全固体電池以外の固体電池を製造する場合、発電要素には、その固体電池に応じた発電要素が用いられる。全固体電池以外の固体電池の発電要素には、全固体電池以外の公知の固体電池の発電要素を用いてもよい。それらの発電要素を含む積層体を分割工程で分割できる限り、製造方法(M)を用いることができる。分割工程で分割することが可能な積層体の例には、正極層、固体電解質層、および負極層のそれぞれが、固体または半固体で形成されている積層体が含まれる。そのような積層体は、正極層、固体電解質層、および負極層のうちの少なくとも一層(例えば全ての層)が固体で形成されている積層体であってもよい。
【0091】
(固体電池の製造装置)
本実施形態に係る製造装置は、固体電池(例えば全固体電池)の製造装置である。当該製造装置を以下では、「製造装置(D)」と称する場合がある。製造装置(D)によれば、製造方法(M)を容易に実施できる。ただし、製造方法(M)は、製造装置(D)以外の装置で実施してもよい。なお、製造方法(M)について説明した事項は、製造装置(D)にも適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、製造装置(D)について説明した事項を、製造方法(M)に適用してもよい。
【0092】
製造装置(D)は、固体電池の製造装置である。製造装置(D)は、発電要素を含む積層体を分割する工程を実施する。製造装置(D)は、積層体が載置される第1の型と、第2の型と、第1の型と第2の型とを可逆的に近づける駆動機構と、を含む。発電要素は、正極層、負極層、および正極層と負極層との間に配置された固体電解質層を含む。積層体は、主面SA1および主面SA2を有する。固体電解質層は、主面SA1側の主面SB1と主面SA2側の主面SB2とを有する。第1の型、第2の型、および積層体には、製造方法(M)における第1の型、第2の型、および積層体に関する説明を適用できる。
【0093】
製造装置(D)では、主面SA1が主面SA2よりも第1の型に近くなるように積層体が第1の型の載置面に載置された状態で、第2の型の刃部が主面SA2側から第1の型に近づくように駆動機構が刃部(第2の型)と第1の型とを近づけることによって積層体が分割される(分割工程)。この分割工程において、積層体の分割は、刃部の少なくとも一部(P)が積層体の主面SA1の位置を通過しない範囲で駆動機構が刃部と第1の型とを近づけることによって行われる。
【0094】
製造装置(D)によれば、製造方法(M)を実施できる。そのため、製造装置(D)によれば、正極層と負極層との短絡が生じにくい固体電池を歩留まり良く製造できる。すなわち、製造装置(D)によれば、特性が高い固体電池を歩留まり良く製造することが可能である。
【0095】
分割工程において、駆動機構は、第1の型および/または第2の型を移動させる。通常、第2の型は上型であり、駆動機構は第2の型のみを移動させる。
【0096】
第1の型および第2の型には、金属シートの剪断などに用いられる公知の下型および上型(ダイおよびパンチ)と同様の型を用いてもよい。
【0097】
第1の型は、積層体が載置される載置面を有する。載置面の端部は、第2の型の刃部と対向する肩部(刃部)として機能する。第2の型の刃部が第1の型の載置面に近づいたときに、第1の型の肩部と第2の型の刃部とに挟まれることによって積層体が分割される。
【0098】
型を移動させることができる限り駆動機構に限定はない。駆動機構には、従来の剪断装置(またはプレス機械)に用いられている駆動機構を用いてもよい。駆動機構は、機械式(例えば電動式)の駆動機構であってもよいし、液圧式(例えば油圧式)の駆動機構であってもよい。あるいは、駆動機構は、空圧式の駆動機構であってもよい。すなわち、駆動機構は、空気圧によって第1の型と第2の型とを可逆的に近づけてもよい。
【0099】
駆動機構は、電動式リニアアクチュエータ、油圧式リニアアクチュエータ、および空圧式リニアアクチュエータ(エアシリンダ)のいずれかであってもよい。これらには、公知のものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。これらの中でも、空圧式リニアアクチュエータ(エアシリンダ)は、装置を小型化、軽量化できる点で好ましい。
【0100】
分割工程において第2の型の刃部が到達する位置(最近接位置)は、製造方法(M)で例示した位置とすることができる。例えば、製造装置(D)で行われる分割工程では、上記の条件(1)~(4)のうちの少なくとも1つが満たされるように、駆動機構が第2の型の刃部と第1の型とを近づける。例えば、駆動機構は、第2の型の刃部の少なくとも一部(P)が固体電解質層の主面SB1の位置に到達しない範囲で当該刃部と第1の型とを近づけることによって積層体を分割してもよい。
【0101】
さらに、製造装置(D)で行われる分割工程では、上記の条件(5)~(7)のいずれかが満たされるように、駆動機構が第2の型の刃部と第1の型とを近づけてもよい。
【0102】
第2の型の刃部を最近接位置で停止させる方法に特に限定はない。駆動機構の設定によって、第2の型の刃部を所望の最近接位置で停止させてもよい。あるいは、駆動機構の位置を調節することによって、第2の型の刃部を所望の最近接位置で停止させてもよい。あるいは、第2の型の刃部が最近接位置に到達したときに、第2の型(または駆動機構の一部)と当接して第2の型の移動を停止させるストッパを用いてもよい。
【0103】
第2の型の刃部の少なくとも一部(P)の長さL1と刃部の長さL0との比L1/L0は、上述した関係を満たすことが好ましい。
【0104】
製造装置(D)では、積層体の一主面(例えば主面SA1または主面SA2)と積層体を構成する層の主面(例えば主面SB1または主面SB2)との間の距離(層間距離)の測定値に基づいて第2の型の刃部の移動範囲を調整してもよい。この調整によって、第2の型の刃部を所望の範囲で正確に移動させることが可能となる。第2の型の刃部の移動範囲の調整は、駆動機構の設定、駆動機構の位置の調整、およびストッパの使用から選択される少なくとも1つの方法で行ってもよい。
【0105】
製造装置(D)では、正極層と負極層とが短絡しない状態で積層体が分割されことが好ましい。具体的には、上記の条件(a)~(c)のうちの少なくとも1つが満たされることが好ましい。
【0106】
第2の型の刃部が第1の型の肩部から離れている距離G(後述する距離G)に特に限定はなく、分割工程を実施できる距離(間隔)であればよい。当該距離Gは、200μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm以下、10μm以下、または0μm以下であってもよい。当該距離Gは、-50μm以上、-10μm以上、または0μm以上であってもよい。当該距離Gは、-50~100μmの範囲、-10~50μmの範囲、0~50μmの範囲、0~20μmの範囲、または0~10μmの範囲にあってもよい。
【0107】
製造装置(D)は、積層体を第1の型の載置面に固定するための固定機構を含んでもよい。固定機構は、積層体を固定できる限り限定はない。例えば、固定機構には、剪断装置に用いられる公知の固定機構を用いてもよい。固定機構の例には、固定するための部材(例えば押さえ板)や、真空チャックなどが含まれる。
【0108】
第1の型は、積層体のうちの分割位置に隣接する部分のすべてが第1の型上に載置されるサイズであることが好ましい。第2の型の刃部は、積層体のうちの分割位置の全幅に当接するサイズであることが好ましい。
【0109】
第2の型の刃部の断面(刃部が延びる方向に垂直な断面)の角度αは、直角であってもよいし、鋭角であってもよい。角度αは、60°以上、または70°以上であってもよく、80~90°の範囲(例えば85~90°の範囲)にあってもよい。
【0110】
製造装置(D)は、積層体の主面SA1と主面SA2との間の電気的特性を測定するための測定器を含んでもよい。そして、上述したように、積層体が第1の型の載置面に載置された状態で、積層体の主面SA1と主面SA2との間の電気的特性を測定してもよい。電気的特性の種類、および、測定のタイミングについては、製造方法(M)に関する説明を適用できる。測定器は、測定する電気的特性の種類に応じて選択される。測定器の例には、抵抗計や電圧計が含まれる。
【0111】
第1の型と第2の型とは、電気的に絶縁されていてもよい。それらが電気的に絶縁されていることによって、積層体の主面SA1と主面SA2との間の電気的特性を測定しやすくなる。
【0112】
製造装置(D)は、必要に応じて、第1の型上で積層体を移動させるための送り出し機構を含む。さらに、製造装置(D)は、駆動機構や送り出し機構などの機構を制御するための制御装置を含んでもよい。送り出し機構および制御装置に特に限定はなく、公知の剪断装置やプレス装置に用いられている機構や制御装置を用いてもよいし、それらを本実施形態に係る装置に適合するように修正して用いてもよい。制御装置(D)は、例えば、分割工程などの必要な工程を行うプログラムを格納する記憶装置と、当該プログラムを実行するための演算処理装置とを含む。
【0113】
製造装置(D)は、必要に応じて、分割された積層体(第1の型から突出している積層体)を受けるための部材や、分割された積層体を搬送するための搬送機構などを含んでもよい。さらに、製造装置(D)は、必要に応じて、駆動機構の位置を調整するための調整機構を含んでもよい。調整機構で駆動機構の位置を調整することによって、第1の型と第2の型との間の距離G、および/または、第2の型の刃部の最近接位置を調整することが可能である。
【0114】
以下では、本開示に係る実施形態の例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する製造方法および製造装置には、上述した実施形態の記載を適用でき、上述した記載に基づいて変更してもよい。以下で説明する製造方法の工程および製造装置の構成要素のうち、本開示の製造方法および製造装置に必須ではない工程および構成要素は省略してもよい。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。なお、以下の図は模式的な図であり、実際の縮尺とは異なる。以下の図では、図を見やすくするために、部材の一部を省略して図示する場合がある。
【0115】
(実施形態1)
実施形態1では、第1の製造方法(M)の一例およびそれに用いられる製造装置(D)の一例について説明する。なお、以下の一例では、正極集電体/正極層/固体電解質層/負極層/負極集電体という構造を有する積層体を含む全固体電池の製造方法について説明する。しかし、これ以外の構造を有する積層体を含む全固体電池や、全固体電池以外の固体電池も同様に製造できる。
【0116】
実施形態1の製造方法では、まず、
図1に示すように、積層体100を準備する。積層体100は、発電要素110、正極集電体121、および負極集電体122を含む。発電要素110は、正極層111および負極層112と、それらの間に配置された固体電解質層113とを含む。積層体100は、上述した方法で形成することが可能である。
【0117】
積層体100は、主面100SA1と、主面100SA1とは反対側の主面100SA2とを有する。固体電解質層113は、主面100SA1側の主面113SB1と、主面100SA2側の主面113SB2とを有する。
【0118】
次に、
図2に示すように、主面100SA1が主面100SA2よりも第1の型210に近くなるように積層体100を第1の型(下型)210上に載置する。具体的には、第1の型210の載置面210pと主面100SA1とが接するように積層体100を第1の型210上に載置する。そして、第1の型210と押さえ部材(固定機構)211とによって積層体100を挟んで固定する。具体的には、積層体100の分割位置100dに隣接する隣接部(
図3の隣接部100a)を固定する。積層体100のうち、第1の型210から突出している部分(
図3の突出部100b)は固定されていない。
【0119】
第1の型210は、直線状に延びる肩部(角部)210aを有する。第2の型(上型)220は、刃部220aを含む。刃部220aは、直線状に延びる角の形状を有する。実施形態1に示す例では、肩部210aと刃部220aとは互いに平行に延びている。また、刃部220aは、載置面210pに対して平行に延びている。なお、これらの形状は、分割位置100dの形状などに応じて変化させることが可能である。第1の型210と第2の型220とは、電気的に絶縁されている。また、第1の型210と押さえ部材211とは、電気的に絶縁されている。
【0120】
図2Aの積層体100および第1の型210を上方から見たときの配置を、
図3に模式的に示す。
図3には、第2の型220の配置の一例も示す。
図3において、分割位置100dが延びる方向を幅方向WDとし、幅方向WDにおける積層体100の幅を幅Wとして示す。押さえ部材211は、分割位置100dの全幅(幅W)にわたって積層体100を押さえて固定することが好ましい。ただし、積層体100の分割を行うことができる限り、全幅のうちの一部のみを押さえて固定してもよい。
図2に示すように、刃部220aは、積層体100の全幅にわたって積層体100と接触する形状であることが好ましい。
【0121】
図3には、後述する方向PDを示す。さらに、
図3には、第2の型220の刃部220aの長さ(全長)L0を示す。なお、上述したように、刃部220aとは、第2の型220のうち、分割工程において、積層体100を分割するために積層体100と接触する角部を意味する。実施形態1では、刃部220aのすべてが所定の位置の範囲内で移動する場合について説明する。すなわち、実施形態1では、L1/L0=1である場合について説明する。
【0122】
積層体100は、直線状の分割位置100dに沿って分割される。
図2Aに示す一例では、第1の型210と押さえ部材211とは、それぞれの直線状の肩部210aおよび211aが分割位置100dに沿うように配置されている。
図2Aに示すように、第1の型210の端面210sと押さえ部材211の端面211sとは面一であってもよい。あるいは、端面211sは、第1の型210上の位置であって端面210sから離れた位置にあってもよい。
【0123】
次に、
図2Bに示すように、第2の型220の刃部220aを主面100SA2側から第1の型210に近づけることによって積層体100を分割する。分割工程において、刃部220aが主面100SA1の位置(載置面210pの位置)を通過しない範囲で刃部220aを第1の型210に近づけることによって積層体100を分割する。
図2Bには、第2の型220の移動方向SDを矢印で示す。
【0124】
第1の型210の載置面210pと平行で且つ第1の型210の肩部210aと直交する方向を、方向PDとする。また、第1の型210上に載置されている積層体100の表面に垂直な方向を、方向NDとする。
図2Bに示す一例では、方向SDと方向NDとは実質的に平行である。
【0125】
第2の型の刃部220aが第1の型210の肩部210aから離れている距離G(方向PDにおける距離)は、分割工程を実施できる距離であればよい。距離Gは、上述した範囲にあってもよい。なお、距離Gは、第1の型210から離れる方向をプラスとする。距離Gがマイナスであるとは、第2の型220の側(上方)から第1の型210と第2の型220とを見たときに、両者が部分的に重なっていることを意味する。距離Gは、方向PDに沿った座標軸であって、肩部210aの位置を原点とし第1の型210の載置面210pから積層体100が突き出ている方向をプラスとする座標軸における刃部220aの座標の最小値と考えることも可能である。また、方向PDに沿った座標軸であって、肩部210aの位置を原点とし第1の型210の載置面210pから積層体100が突き出ている方向をプラスとする座標軸における刃部220aの座標の最大値Gmax、および当該座標の平均値Gaveは、距離Gについて例示した範囲にあってもよい。
【0126】
実施形態1の製造方法および製造装置では、刃部220aが第1の型210の肩部210aの位置を通過しなくても積層体100を分割することが可能である。そのため、従来の剪断装置とは異なり、距離Gを0μm以下とすることが可能である。距離Gを小さくすることによって、分割をより適正に行うことが可能となる。
【0127】
図2Bは、刃部220aが、分割工程において第1の型210の載置面210pに最も近くなる位置(最近接位置)に到達したときの状態の一例を示す。
図2Bに示す一例では、最近接位置は、固体電解質層の主面113SB1の位置と主面113SB2の位置との間にある。従来の技術常識では、刃部220aを載置面210pよりも下方に移動させることが必要であると考えられてきた。しかし、検討の結果、刃部220aを載置面210p(あるいは主面100SA1)よりも下方に移動させなくても、積層体100を分割できることが分かった。
【0128】
ここで、刃部220aの位置とは、分割工程において第2の型220(刃部220a)の移動方向SDを座標軸としたときの刃部220aの座標位置(高さ位置)を意味する。
【0129】
刃部220aの最近接位置が、載置面210p(あるいは主面100SA1)と固体電解質層113の主面113SB1との間の位置にある場合の一例を
図4に示す。
図4は、刃部220aが最近接位置にあるときの状態を示す。
図4に示すように、刃部220aは、固体電解質層113の主面113SB1よりも載置面210p(あるいは主面100SA1)に近づいてもよい。
【0130】
以上のようにして積層体100を分割できる。積層体100は最終のサイズまで分割された後に、必要に応じて、リードタブの接続や、外装体への封入が行われる。このようにして固体電池を製造できる。
【0131】
実施形態1では、積層体100が正極集電体121および負極集電体122を含む場合について説明した。しかし、積層体100は、正極集電体121および負極集電体122の一方または両方を含まなくてもよい。その場合、積層体100の分割が終了した後に、必要に応じて集電体を形成すればよい。
【0132】
第1の型210、押さえ部材211、および第2の型220を含む製造装置200の一例を、
図5に示す。
図5の製造装置200は、第1の型210、押さえ部材211、第2の型220、駆動機構231および250、ローラ240(送り出し機構)、位置調整機構251、および測定器260を含む。駆動機構231は、押さえ部材211を移動させることによって、積層体100の固定および解放を行う。ローラ240は、積層体100を送り出して、適切な位置に移動させる。位置調整機構251は、駆動機構250を、方向SDに沿って移動させ、固定することが可能である。位置調整機構251によって、最近接位置を調整することができる。例えば、積層体の層間距離、および/または、積層体の厚さを測定し、その測定値に基づいて最近接位置を調整してもよい。
【0133】
なお、最近接位置を変更する必要がない場合や、駆動機構250のみによって最近接位置を調製できる場合には、位置調整機構251はなくてもよい。また、第1の型210の載置面210pの位置を移動させることによって、最近接位置を変更することも可能である。
【0134】
駆動機構250は、
図5の矢印の方向SDに沿って第2の型220を下降および上昇させる。駆動機構250(製造装置200)は、第2の型220を下降させて、主面100SA2側から刃部220aを第1の型210に近づけることによって、分割工程を実施する(
図2Aおよび
図2B参照)。上述したように、駆動機構250(製造装置200)が刃部220aを所定の位置まで移動させることによって積層体100が分割される。
【0135】
測定器260は、積層体100の電気的特性を測定する。
図5には、押さえ部材211および第1の型210が導電性を有する場合の一例を示す。測定器260は、押さえ部材211および第1の型210に接続されており、それらを介して積層体100の電気的特性を測定する。なお、プローブなどを積層体100に接触させることによって積層体100の電気的特性を測定してもよい。
【0136】
駆動機構250がエアシリンダである場合の駆動機構250の周辺の構成の一例を
図6に示す。
図6の一例の装置は、駆動機構250に接続されたガス流路252aおよび252bと、それらの途中に設けられたスピードコントローラ253aおよび253bとを含む。ガス流路252aおよび252bを流れるガスによって、第2の型220が上下する。
【0137】
図6には、第2の型220の刃部220aの断面の角度αが鋭角である一例を示す。角度αは、刃部220aが延びる方向に垂直な断面における刃部220aの角度である。
【0138】
なお、上記の説明では、一度に積層体の一辺のみを分割する例のみについて説明した。しかし、第2の型の一度の移動によって、積層体の複数の辺を分割することも可能である。例えば、上述した第2の型を2つ、それらの肩部がL字を形成するように配置する。同様に、第1の型および押さえ部材も、第2の型に対応するように配置する。このとき、2つの第2の型は方向NDにおける位置が異なるように配置する(すなわち高さが異なるように配置する)。これらの第2の型、第1の型、押さえ部材を用いることによって、第2の型の一度の移動によって、積層体の2辺を分割することも可能である。同様の方法で、第2の型の一度の移動によって、積層体の3辺または4辺を分割することも可能である。なお、互いに交わらない辺であれば、方向NDにおける位置を異なるようにしなくとも、同時に分割することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示は、固体電池、固体電池の製造方法、および固体電池の製造装置に利用できる。
【符号の説明】
【0140】
100 :積層体
100d :分割位置
100SA1、100SA2、113SB1、113SB2:主面
110 :発電要素
111 :正極層
112 :負極層
113 :固体電解質層
200 :製造装置
210 :第1の型
210p :載置面
220 :第2の型
220a :刃部
250 :駆動機構
260 :測定器