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特開2023-163643成分濃度推定システム及び成分濃度推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163643
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】成分濃度推定システム及び成分濃度推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/00 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
G01N21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074679
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】若菜 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】高武 直弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 益義
(72)【発明者】
【氏名】松本 久功
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB12
2G059EE16
2G059GG02
2G059KK08
2G059MM01
2G059PP10
(57)【要約】
【課題】携帯性に優れた成分濃度推定システムを提供することを課題とする。
【解決手段】所定の波長幅を有する光を計測対象物に照射することで、計測対象物内に存在する所定の成分の濃度を計測する光音響センサ310による計測結果のうち、予め単一ピークに相当する成分に由来する計測結果を基に、当該成分の濃度を推定する第1の工程処理部110と、成分に対し、それぞれ異なる感度を有する、複数のにおいセンサ321のそれぞれにおける、単一ピークに相当する成分の濃度分の出力値である成分毎出力値22を推定し、推定された成分毎出力値22に基づく情報を基に、単一ピークに相当する成分以外の成分の濃度を推定する第2の工程処理部120と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長幅を有する光を計測対象物に照射することで、前記計測対象物内に存在する所定の成分の濃度を計測する光計測部による計測結果のうち、予め単一ピークに相当する成分である第1の成分に由来する計測結果を基に、当該第1の成分の濃度を推定する第1の工程処理部と、
前記成分に対し、それぞれ異なる感度を有する、複数の検出部のそれぞれにおける、前記第1の成分の濃度分の出力値を推定し、推定された前記第1の成分の濃度分の出力値に基づく情報を基に、前記第1の成分以外の成分である第2の成分の濃度を推定する第2の工程処理部と、
を有することを特徴とする成分濃度推定システム。
【請求項2】
前記第2の工程処理部は、
推定された前記第1の成分の濃度分の出力値を定数とし、前記検出部のそれぞれにおける、前記第2の成分の濃度分の出力値を変数とした、対象となる前記検出部の出力値である第1の式を、それぞれの前記検出部について生成し、前記第1の式を基に、前記変数を算出し、前記算出した変数を基に前記第2の成分の濃度を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の成分濃度推定システム。
【請求項3】
前記第1の式は、前記定数と、前記変数とを足し合わせたものであり、
第2の工程処理部は、
前記第1の式と、前記検出部の実測値とを基に、前記第1の式における前記変数の値を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の成分濃度推定システム。
【請求項4】
前記検出部の実測値と、前記第1の式との差分を二乗したものである第2の式を、それぞれの前記検出部について生成し、生成した前記第2の式のそれぞれが足し合わされた二乗和誤差の式である第3の式が最小となる前記第1の式における前記変数の値を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の成分濃度推定システム。
【請求項5】
前記二乗和誤差の式の値を基に、前記検出部における、それぞれの成分の濃度分の出力値を更新する更新部
を有することを特徴とする請求項4に記載の成分濃度推定システム。
【請求項6】
前記更新部は、
現在の前記二乗和誤差の式の最小値が、1つ前に算出された前記二乗和誤差の式の最小値より大きい状態が所定回数連続した場合、前記更新を行う
ことを特徴とする請求項5に記載の成分濃度推定システム。
【請求項7】
前記更新部は、
前記二乗和誤差の式の最小値が所定の閾値より大きい場合、前記更新を行う
ことを特徴とする請求項5に記載の成分濃度推定システム。
【請求項8】
前記光計測部は、光を射出する光源部を備え、
前記光源部はLED(Light Emission Diode)で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の成分濃度推定システム。
【請求項9】
前記光計測部は、光を射出する光源部を備え、
前記光源部は所定の波長幅を有するレーザ光を照射する
ことを特徴とする請求項1に記載の成分濃度推定システム。
【請求項10】
所定の波長幅を有する光を計測対象物に照射することで、前記計測対象物内に存在する所定の成分の濃度を計測する光計測部の出力値、及び、成分に対し、それぞれ異なる感度を有する、複数の検出部の出力値を基に、前記計測対象物の内部の成分濃度を計測する処理部が、
前記光計測部による計測結果のうち、予め単一ピークに相当する成分である第1の成分に由来する計測結果を基に、当該第1の成分の濃度を推定する第1の工程処理部と、
複数の前記検出部のそれぞれにおける、前記第1の成分の濃度分の出力値を推定し、推定された前記第1の成分の濃度分の出力値に基づく情報を基に、前記第1の成分以外の成分である第2の成分の濃度を推定する第2の工程処理部と、
を実行することを特徴とする成分濃度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分濃度推定システム及び成分濃度推定方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非侵襲で人の血中代謝物を計測する技術が報告されている。このような技術として、「自動車運転者において被分析物を非侵襲的に測定し、被分析物の測定値に基づいて自動車を制御するためのシステム。少なくとも1つの固体光源は、異なる光の波長を発するように構成される。サンプルデバイスは、少なくとも1つの固体光源によって発せられる光を自動車運転者の組織に導入するように構成される。1つ以上の光検出は、自動車運転者の組織によって吸収された光の波長を検出するように構成される。コントローラは、1つ以上の光検出器によって検出される光に基づいて、自動車運転者の組織の中の被分析物の測定値を計算し、自動車運転者の組織の中の被分析物の測定値が所定の値を超えるかどうかを判定し、自動車を制御するように構成されるデバイスに信号を提供するように構成される」という技術がある。例えば、特許文献1に記載の技術がある(要約参照)。
【0003】
また、「成分濃度測定装置1は、互いに異なる波長の2つの光を同一周波数で、かつ、同じ位相の信号によって強度変調して被測定物10に照射する光照射部と、光照射部による照射によって被測定物10の内部で発生する光音響波を検出して第1電気信号に変換する検出部と、第1電気信号の振幅および位相に基づいて、被測定物10に含まれる対象成分10Gの濃度を求める処理部とを備え、被測定物10に含まれる背景成分10Wに対する2つの光の光吸収係数は、温度の変化に対する変化量δが等しく、互いに符号が異なることを特徴とする」という技術がある。例えば、特許文献2に記載の技術がある(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-101196号公報
【特許文献2】特開2019-165982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載に技術は、複数物質の検知を行う際、物質固有の波長に対応したレーザ光源が複数必要となる。この結果、特許文献1に記載に技術は、装置のサイズが大きくなり、携帯に対して不適である。
また、小型化が容易な光音響技術を利用した特許文献2に記載の技術は、グルコース以外の成分検出毎に、新たな光源(波長)が必要である。
また、特許文献1-2に記載の技術では、ピークの重複する領域での成分検出が困難である。
【0006】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、少ない構成で多くの成分を特定可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するため、本発明は、所定の波長幅を有する光を計測対象物に照射することで、前記計測対象物内に存在する所定の成分の濃度を計測する光計測部による計測結果のうち、予め単一ピークに相当する成分である第1の成分に由来する計測結果を基に、当該第1の成分の濃度を推定する第1の工程処理部と、前記成分に対し、それぞれ異なる感度を有する、複数の検出部のそれぞれにおける、前記第1の成分の濃度分の出力値を推定し、推定された前記第1の成分の濃度分の出力値に基づく情報を基に、前記第1の成分以外の成分である第2の成分の濃度を推定する第2の工程処理部と、を有することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、少ない構成で多くの成分を特定可能とすることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る成分濃度推定システムの構成を示す図である。
図2】センサ部の詳細な構成を示す図である。
図3】それぞれ成分の吸収スペクトルを示す図である。
図4】第1実施形態に係る血中成分検出処理の手順を示すフローチャート(その1)である。
図5】第1実施形態に係る血中成分検出処理の手順を示すフローチャート(その2)である。
図6】光音響センサによる出力値を示す図である。
図7】マルチセンサアレイを構成するにおいセンサそれぞれの出力値を示す図である。
図8】エタノール濃度に対する成分毎出力値の関係を示す図である。
図9】実際のにおいセンサの出力値と、推測されるにおいセンサの出力値とを示す図である。
図10】光音響センサによる出力値を示す図である。
図11】第2実施形態に係る成分濃度推定システムの構成を示す図である。
図12】第2実施形態に係る第2の工程の処理手順を示すフローチャートである。
図13】成分濃度推定装置のハードウェア構成を示す図である。
図14】ユーザ端末のハードウェア構成を示す図である。
図15】処理装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0011】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0012】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0013】
実施形態において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0014】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含む。また、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0015】
[第1実施形態]
<成分濃度推定システムZ>
図1は、第1実施形態に係る成分濃度推定システムZの構成を示す図である。
成分濃度推定システムZは、処理部1、データベース2、センサ部3及び表示部4を有する。
センサ部3は、光音響センサ(光計測部)310、及び、マルチセンサアレイ320を有する。光音響センサ310は、所定の波長幅を有する光を計測対象物に照射することで、計測対象物に含まれる成分(計測対象物内に存在する所定の成分)の濃度を計測する。光音響センサ310については後記する。マルチセンサアレイ320は、複数のにおいセンサ(検出部)321を有している。においセンサ321は、ある化学物質(以降では成分Gと記載)の分子が付着すると抵抗値が変化し、電圧信号として出力できるものである。
【0016】
データベース2には、濃度変換係数21及び成分毎出力値22が格納されている。濃度変換係数21は、光音響センサ310の計測結果である出力値に対して適用することで、光音響センサ310の出力値に対応する成分G(図2参照)の濃度を算出するものである。また、成分毎出力値22は、それぞれの成分Gの濃度分に対するにおいセンサ321の出力値である(第1の成分の濃度分の出力値、第2の成分の濃度分の出力値)。濃度変換係数21及び成分毎出力値22については後記する。また、データベース2には、過去の光音響センサ310や、においセンサ321の計測値が格納されていてもよい。
【0017】
処理部1は、第1の工程処理部110、第2の工程処理部120を有する。
第1の工程処理部110は、出力値取得部111、濃度変換係数取得部112、単一成分濃度算出部113、及び、格納処理部114を有する。
出力値取得部111は、センサ部3から光音響センサ310、マルチセンサアレイ320を構成するにおいセンサ321それぞれの出力値を取得する。
濃度変換係数取得部112は、データベース2から濃度変換係数21を取得する。
単一成分濃度算出部113は、光音響センサ310で検出された単一ピークの出力値を、濃度変換係数21で除算することにより、単一ピークに相当する成分G(単一成分)の濃度(単一成分濃度)を算出する。単一ピーク、単一成分等については後記する。
格納処理部114は、単一成分濃度算出部113によって算出された単一成分濃度、光音響センサ310の出力値、においセンサ321の出力値のそれぞれをデータベース2に格納する。
【0018】
第2の工程処理部120は、データ取得部121、関係式生成部122、推測部123、格納処理部124、表示処理部125、更新部126を有する。
データ取得部121は、データベース2から単一成分濃度と、成分毎出力値22とをデータベース2から取得する。
関係式生成部122は、それぞれのにおいセンサ321に対する推測出力値の関係式を生成する。また関係式生成部122は、においセンサ321による実際の出力値と、推測出力値との二乗和誤差の式を生成する。関係式や、二乗和誤差の式については後記する。
推測部123は、関係式生成部122によって生成された各関係式を基に、光音響センサ310のピークが重複している成分Gの濃度を推定する。光音響センサ310のピークが重複している成分Gについては後記する。
【0019】
格納処理部124は、光音響センサ310のピークが重複している成分Gの濃度を光音響センサ310及びマルチセンサアレイ320の出力値とともにデータベース2に格納する。
表示処理部125は、単一成分濃度、及び、光音響センサ310において重複しているピークの濃度を表示部4に表示する。
【0020】
なお、センサ部3、処理部1、データベース2、表示部4については以下の形態が考えられる。
(A1)センサ部3、処理部1、データベース2、表示部4のすべてが一体となった装置に備えられている。
(A2)処理部1、データベース2、表示部4はスマートフォンや、タブレット端末や、スマートウオッチ等のユーザ端末820(図14参照)に備えられ、センサ部3はユーザ端末820とは別の計測端末(不図示)に備えられる。
(A3)処理部1、表示部4はスマートフォンや、タブレット端末や、スマートウオッチ等のユーザ端末820に備えられ、センサ部3はユーザ端末820とは別の計測端末(不図示)に備えられる。データベース2は、クラウドサーバ(不図示)に備えられる。
(A4)処理部1、データベース2が、クラウドサーバ(不図示)に備えられ、表示部4がユーザ端末820や、個人所有のPC(Personal Computer)に備えられ、センサ部3が計測端末(不図示)に備えらえる。
(A1)~(A4)以外の形態も可能である。
【0021】
<センサ部3の構成>
図2は、センサ部3の詳細な構成を示す図である。
センサ部3は、前記したように光音響センサ310と、マルチセンサアレイ320とを備える。
図2に示す例において、ユーザが計測対象物である指Fをセンサ部3に載置することで、指Fの内部(体内)の成分G(計測対象物内に存在する所定の成分)が計測される形式となっている。ただし、図2に示す例に限らず、例えば、腕時計のようにセンサ部3が装着されることで、手首(手首の内部)から成分Gが計測される形式であってもよい。本実施形態では、成分濃度推定システムZによって計測される成分Gは、アンモニア、アセトアルデヒド、エタノール、アセトン(計測対象物内に存在する所定の成分)であるが、計測される成分Gはこれらに限らない。
【0022】
光音響センサ310は、光源部311と、マイク312とを有する。光源部311には、LED(Light Emission Diode)や、レーザ光源が備えられている。なお、レーザ光源が光源部311に使用されている場合、射出されるレーザ光は、所定の波長幅を有することが求められる。計測対象物である指Fと、光源部311との間には、光を透過する透明部材313が備えられており、光源部311から射出された光が透過可能となっている。また、透明部材313の代わりに、穴が形成され、指Fに直接光が照射される構造でもよい。光源部311から射出された光は透明部材313を透過して、指Fに照射される。指Fに光が照射されると、指Fの内部における特定の成分Gが特定の波長の光を吸収する。成分Gは特定波長の光を吸収した際、超音波(音響波)を生じる。生じた音響波はマイク312によって集音される。
【0023】
また、マルチセンサアレイ320は、外部と連通している通路331に備えられている。通路331において、一方の開口端332Aは、ユーザがセンサ部3に指Fを載置した際、指Fと接触、もしくは指Fの近傍に位置するよう構成されている。また、通路331において、他方の開口端332Bには、通路331内の空気を排気するファン333が備えられている。成分Gは、ユーザの指Fから汗や、においとして体内から体外へ排出される。体外へ排出された成分Gは、ファン333によって生じる気流(実線矢印)に沿って、開口端332Aから通路331に導入され、開口端332Bから排出される(白抜矢印)。成分Gが通路331内を通過する際、マルチセンサアレイ320を構成するにおいセンサ321のそれぞれに成分Gが付着し、においセンサ321による計測が行われる。
【0024】
マルチセンサアレイ320に備えられているにおいセンサ321のそれぞれは、成分Gに対し、それぞれ異なる感度を有する。例えば、においセンサ321aは、エタノールに対する感度が高いが、エタノール以外の成分Gに対する感度は低い。ただし、においセンサ321aは、感度は低いものの、エタノール以外の成分Gに対しても出力を行う。同様に、においセンサ321bは、アセトンに対する感度が高いが、アセトン以外の成分Gに対する感度は低い。ただし、においセンサ321bは、感度は低いものの、アセトン以外の成分Gに対しても出力を行う。また、においセンサ321cは、アンモニアに対する感度が高いが、アンモニア以外の成分Gに対する感度は低い。ただし、においセンサ321cは、感度は低いものの、アンモニア以外の成分Gに対しても出力を行う。そして、においセンサ321dは、アセトアルデヒドに対する感度が高いが、アセトアルデヒド以外の成分Gに対する感度は低い。ただし、においセンサ321dは、感度は低いものの、アセトアルデヒド以外の成分Gに対しても出力を行う。
【0025】
<それぞれ成分Gの吸収スペクトル>
図3は、それぞれ成分Gの吸収スペクトルを示す図である。適宜、図1及び図2を参照する。
図3において、破線401はアンモニアの吸収スペクトルを示す。また、破線402は、アセトアルデヒドの吸収スペクトルを示す。そして、実線403は、エタノールの吸収スペクトルを示す。さらに、二点鎖線404は、アセトンの吸収スペクトルを示す。なお、符号411は、光音響センサ310の光源部311から射出される光の波長域を示している(2.9μm辺りから3.7μm辺りの波長域)。それぞれの成分Gの吸収スペクトルは、既知のものである。また、生じる音響波は吸収スペクトルに応じた強度となる。つまり、光音響センサ310のマイク312によって集音される音響波は、吸収率に応じた強度を有し、吸収スペクトルの波長に応じた波長の音となる。換言すれば、音響波のスペクトルは図3で破線401、破線402、実線403、二点鎖線404で示される吸収スペクトルを合成したものと同様の形を有する。つまり、光音響センサ301の出力は、吸収率の情報を出力値として有し、さらに、吸収スペクトルの波長情報を有するものとなる。波長情報は、出力値の波長等で示される。
【0026】
光音響センサ310では、光源部311から射出された光のうち、図3に示す吸収スペクトルに従って、各成分Gが特定の波長の光を吸収する。そして、特定の波長の光を吸収した成分Gは、光吸収の際、超音波(音響波)を発生させる。
【0027】
図3の符号421は波長を示す目印の縦棒であり、縦棒421は、アンモニアの吸収スペクトルのピーク波長の位置を示している。同様に、符号422も波長を示す目印の縦棒であり、縦棒422は、アセトアルデヒドの吸収スペクトルのピーク波長を示している。すなわち、取得された音響波のスペクトルのうち、符号421に相当する波長に相当する音響波のピークが検出され、検出された音響波のピーク出力値によってアンモニアの濃度が計測される。また、取得された音響波のスペクトルのうち、符号422に示す波長に相当する音響波のピークが検出され、検出された音響波のピーク出力値によってアセトアルデヒドの濃度が計測される。
【0028】
図3において、符号431に示す範囲では、エタノールの吸収スペクトル(実線403)のピークと、アセトンの吸収スペクトル(二点鎖線404)のピークとが重複している。従って、符号423の目印の縦棒で示される波長は、エタノール及びアセトン双方の吸収スペクトルのピークが含まれている。そのため、それぞれの成分Gが、図3に示すような吸収スペクトルを有する場合、これまでの技術ではエタノール及びアセトンの濃度を計測することができない。
【0029】
また、光音響センサ310のピーク波長から、ピークに相当する成分Gの濃度を算出することが可能である。
そして、アンモニア及びアセトアルデヒドのピークは、符号421及び符号422に示すようにピークが単独(単一ピーク)となっている。従って、アンモニア及びアセトアルデヒドの濃度は光音響センサ310における単一ピークに対応する出力値(光計測部による計測結果のうち、予め単一ピークに相当する成分である第1の成分に由来する計測結果)によって算出できる。これに対し、エタノール及びアセトンのピークは、互いに重複しているため、光音響センサ310の出力値からエタノール及びアセトンの濃度を算出することができない。
【0030】
また、図1及び図2で示すように、本実施形態の成分濃度推定システムZでは、それぞれの成分Gに対して異なる感度を有するにおいセンサ321が複数(本実施形態では4つ)備えられている。しかし、理由については後記するが、においセンサ321は、成分の濃度を正確に計測することができない。
【0031】
本実施形態では、単一ピークを有する成分Gの濃度と、それぞれのにおいセンサ321の出力値とを基に、光音響センサ310によるピークが重複している成分Gの濃度を推定するものである。図3に示す例では、単一ピークを有する成分Gは、第1の成分であるアンモニア及びアセトアルデヒドである。また、ピークが重複している成分Gは、第2の成分であるエタノール及びアセトンである。
【0032】
なお、どの成分Gが単一ピークを示し、どの成分Gと、どの成分Gとが重複したピークを示すかは、予めわかっている。
【0033】
<フローチャート>
図4及び図5は、第1実施形態に係る血中成分検出処理の手順を示すフローチャートである。適宜、図1を参照する。
(第1の工程(図4のステップS100))
まず、第1の工程処理部110が第1の工程(S100)を実行する。
第1の構成では、光音響センサ310による計測が行われると同時に、マルチセンサアレイ320による計測が行われる(S101)。
続いて、出力値取得部111は、マルチセンサアレイ320及び光音響センサ310による出力値を取得する(S111)。
【0034】
図6は、光音響センサ310による出力値を示す図である。
図6において、横軸は波長を示し、縦軸は出力値を示す。出力値は具体的には出力強度である。
図6に示す例では、「Iλa」はアンモニアに相当するピークの波長を示す。すなわち、「Iλa」は、図3の符号421に示す波長に相当する。ここで、ピークとは図3に示す吸収スペクトルのピークである。波長は、出力値の波長を吸収スペクトルの波長に換算したものである。
【0035】
また、「Iλb」はアセトアルデヒドに相当するピークの波長を示す。すなわち、「Iλb」は、図3の符号422に示すピークの波長に相当する。そして、「Iλc」はエタノール及びアセトンに相当するピークの波長を示す。すなわち、「Iλc」は、図3の符号423に示す波長に相当する。つまり、「Iλc」における出力値には、エタノールの濃度及びアセトンの濃度による出力値が足し合わされている。
【0036】
図7は、マルチセンサアレイ320を構成するにおいセンサ321それぞれの出力値を示す図である。
図7において、横軸はにおいセンサ321を示し、縦軸は出力値を示す。出力値は具体的には電圧値である。
横軸において、「sa」はにおいセンサ321aを示し、「sb」はにおいセンサ321bを示す。同様に、「sc」はにおいセンサ321cを示し、「sd」はにおいセンサ321dを示す。
前記したように、それぞれのにおいセンサ321による出力値から、成分Gの濃度を定量的に計測することはできない(理由は後記)。
【0037】
図4の説明に戻る。
そして、濃度変換係数取得部112は、データベース2から光音響センサ310の計測において単一ピークとなっている波長に対する濃度変換係数21を取得する(S112)。
そして、単一成分濃度算出部113は、以下の式(1)、(2)で示すように光音響センサ310の出力値の内、単一ピークの出力値を、ステップS112で取得した濃度変換係数21で除算する。これにより、単一成分濃度算出部113は、単一ピークに相当する成分G(単一ピークの成分G)の濃度(単一成分濃度)を算出する(S113)。
【0038】
Cam = Iλa/Bλ1am ・・・ (1)
Caa = Iλb/Bλ2aa ・・・ (2)
【0039】
式(1)で、「Cam」は、第1の成分の濃度であるアンモニア濃度を示し、「Bλ1am」はアンモニアに相当する単一ピークの波長「Iλa」の濃度変換係数21である。また、式(2)で、「Caa」はアセトアルデヒド濃度を示し、「Bλ2aa」は、第1の成分の濃度であるアセトアルデヒドに相当する単一ピークの波長「Iλb」の濃度変換係数21である。濃度変換係数21は予め実験等によって算出されている。
【0040】
そして、格納処理部114は、算出した単一成分濃度と、取得されたマルチセンサアレイ320及び光音響センサ310による出力値とを同一計測条件データとしてデータベース2に格納する(S114)。
【0041】
(第2の工程(図5のS200)
第1の工程(S100)の終了後、第2の工程処理部120が第2の工程(S200)を実行する。
データ取得部121は、データベース2から第1の工程(S100)で算出された単一成分濃度と、単一成分濃度に対応する成分毎出力値22とをデータベース2から取得する(S201)。
【0042】
そして、関係式生成部122は、単一成分濃度に対応する成分毎出力値22を基に、においセンサ321に対する推定出力値の関係式を生成する(S202)。
例えば、図3に示すように、単一ピークがアンモニア及びアセトアルデヒドであり、ピークが重複している成分Gとして、エタノール及びアセトンが存在しているものとする。この場合、光音響センサ310の出力が重複している成分Gとして、エタノール及びアセトンの濃度を推定することが目的となる。そこで、関係式生成部122は、推定されたアンモニア及びアセトアルデヒドの濃度分の出力値に基づく情報である推定出力値の関係式として、以下の式(11)~(14)を生成する。式(11)~(14)のそれぞれが対象となるにおいセンサ321の出力値である第1の式である。式(11)~(14)に示すように、第1の式はそれぞれのにおいセンサ321に対して生成される。
【0043】
Vsa = BetSa + BaaSa + BacSa + BamSa
・・・(11)
Vsb = BetSb + BaaSb + BacSb + BamSb
・・・(12)
Vsc = BetSc + BaaSc + BacSc + BamSc
・・・(13)
Vsd = BetSd + BaaSd + BacSd + BamSd
・・・(14)
【0044】
ここで、「BetSa」は、においセンサ321aが出力する出力値のうち、エタノール濃度分の出力値を示し、「BetSb」は、においセンサ321bが出力する出力値のうち、エタノール濃度分の出力値を示す。同様に、「BetSc」は、においセンサ321cが出力する出力値のうち、エタノール濃度分の出力値を示し、「BetSd」は、においセンサ321dが出力する出力値のうち、エタノール濃度分の出力値を示す。また、「BacSa」は、においセンサ321aが出力する出力値のうち、アセトン濃度分の出力値を示し、「BacSb」は、においセンサ321bが出力値のうち、アセトン濃度分の出力値を示す。同様に、「BacSc」は、においセンサ321cが出力する出力値のうち、アセトン濃度分の出力値を示し、「BacSd」は、においセンサ321dが出力する出力値のうち、アセトン濃度分の出力値を示す。
【0045】
式(11)~(14)において、「BaaSa」は、においセンサ321aが出力する出力値のうち、アセトアルデヒド濃度分の出力値を示し、「BaaSb」は、においセンサ321bが出力する出力値のうち、アセトアルデヒド濃度分の出力値を示す。同様に、「BaaSc」は、においセンサ321cが出力する出力値のうち、アセトアルデヒド濃度分の出力値を示し、「BaaSd」は、においセンサ321dが出力する出力値のうち、アセトアルデヒド濃度分の出力値を示す。「BaaSa」~「BaaSd」の各値は、図4のステップS113で算出された単一成分濃度(式(2)のCaa)に対応する成分毎出力値22である。図4のステップS113で算出された単一成分濃度(式(2)のCaa)に対応する成分毎出力値22の算出方法は後記する。
【0046】
また、「BamSa」は、においセンサ321aが出力する出力値のうち、アンモニア濃度分の出力値を示し、「BamSb」は、においセンサ321bが出力する出力値のうち、アンモニア濃度分の出力値を示す。同様に、「BamSc」は、においセンサ321cが出力する出力値のうち、アンモニア濃度分の出力値を示し、「BamSd」は、においセンサ321dが出力する出力値のうち、アンモニア濃度分の出力値を示す。「BamSa」~「BamSd」の各値は、図4のステップS113で算出された単一成分濃度(式(1)のCam)に対応する成分毎出力値22である。図4のステップS113で算出された単一成分濃度(式(1)のCam)に対応する成分毎出力値22の算出方法は後記する。
【0047】
また、「Vsa」は、においセンサ321aの出力値を示し、「Vsb」は、においセンサ321bの出力値を示す。同様に、「Vsc」は、においセンサ321cの出力値を示し、「Vsd」は、においセンサ321dの出力値を示す。
なお、においセンサ321に対する推定出力値の関係式である式(11)~(14)が4つであるのは、においセンサ321が4つであることによる。つまり、においセンサ321の数だけ、推定出力値の関係式が生成される。
【0048】
図8は、エタノール濃度に対する成分毎出力値22の関係を示す図である。
図8では、エタノール濃度に対する成分毎出力値22「BetSa」,「BetSb」,「BetSc」,「BetSd」における推定濃度との関係が示されている。すなわち、実線501がにおいセンサ321aによる推定濃度と出力値との関係である「BetSa」に相当し、破線502がにおいセンサ321bによる推定濃度と出力値との関係である「BetSb」に相当する。同様に、破線503がにおいセンサ321cによる推定濃度と出力値との関係である「BetSc」に相当し、一点鎖線504がにおいセンサ321dによる推定濃度と出力値との関係である「BetSd」に相当する。実線501、破線502、破線503、一点鎖線504に示されるように、一般的に濃度(推定濃度)と、においセンサ321の出力値との関係は、原点を通る線形(正比例)である。なお、濃度(推定濃度)と、においセンサ321の出力値との関係は、図8に示すような線形(正比例)関係でなくてもよい。
【0049】
図8では、エタノール濃度に対する成分毎出力値22の関係を示している。また、アンモニア(「BamSa」~「BamSd」)、アセトアルデヒド(「BaaSa」~「BaaSd」)、アセトン(「BacSa」~「BacSd」)でも図8と同様に、成分Gの濃度に対する成分毎出力値22の関係が設定されている。
【0050】
関係式生成部122は、アセトアルデヒドに関して、図8に示すような関係を用いて、図4のステップS113で算出された、アセトアルデヒドの単一成分濃度(式(2)のCaa)に対応する成分毎出力値22を算出する。つまり、関係式生成部122は、アセトアルデヒドに関する図8に示すような関係と、ステップS113で算出された、アセトアルデヒドの単一成分濃度(式(1)のCaa)とを用いて、「BaaSa」~「BaaSd」の値を算出する。同様に、関係式生成部122は、アンモニアに関する図8に示すような関係を用いて、図4のステップS113で算出された、アンモニアの単一成分濃度(式(1)のCam)に対応する成分毎出力値22を算出する。つまり、関係式生成部122は、アンモニアに関する図8に示すような関係と、ステップS113で算出された、アンモニアの単一成分濃度(式(1)のCam)とを用いて、「BamSa」~「BamSd」の値を算出する。このようにして、関係式生成部122は、複数のにおいセンサ321のそれぞれにおける、アセトアルデヒド及びアンモニアの濃度分の出力値を推定する。
【0051】
図8に示すように、においセンサ321は、成分Gの濃度に比例した出力値を出力する。しかし、前記したように、においセンサ321は、単一の成分Gのみに反応せず、他の成分Gに対しても出力を行う。例えば、エタノールに対して感度が高いにおいセンサ321aは、エタノールに対して高い出力値を出力するが、他のアセトアルデヒド、アセトン、アンモニアに対しても低い出力値を出力する。このように、においセンサ321の出力値は、多数の成分Gの出力値が含まれているため、においセンサ321の出力値では、成分量を特定することができない。
【0052】
なお、成分毎出力値22は、マップあるいは関数の形式でデータベース2に格納されている。
【0053】
図5の説明に戻る。
また、関係式生成部122は、第3の式として式(15)に示す二乗和誤差の式を生成する(S203)。
【0054】
Fm = (Isa-Vsa)+(Isb-Vsb)
+(Isc-Vsc)+(Isd-Vsd) ・・・(15)
【0055】
式(15)において、「Isa」はにおいセンサ321aによる実際の出力値(実測値)である。同様に、「Isb」はにおいセンサ321bによる実際の出力値であり、「Isc」はにおいセンサ321cによる実際の出力値であり、「Isd」はにおいセンサ321dによる実際の出力値である。式(15)は、それぞれのにおいセンサ321において、においセンサ321の実測値と、式(11)~(14)との差分を二乗したものを足し合わせた二乗和誤差の式であるなお、式(15)の左辺における第1項から第4項のそれぞれが第2の式である。
【0056】
続いて、推測部123は、式(15)におけるFmが最小になるようなBetSa~BetSd、BacSa~BacSdの組を探索する(S204)。つまり、推測部123は、式(11)~(14)において、においセンサ321それぞれにおける、アセトアルデヒド及びアンモニアの濃度分に対する出力値である「BaaSa」~「BaaSd」、「BamSa」~「BamSd」を定数とする。また、推測部123は、式(11)~(14)において、においセンサ321それぞれにおける、エタノール及びアセトンの濃度分に対する出力値である「BetSa」~「BetSd」、「BacSa」~「BacSd」を変数とする。このように、式(11)~(14)は、定数と、変数とを足し合わせたものとなる。そして、推測部123は、式(15)におけるFmが最小になるようなBetSa~BetSd、BacSa~BacSdの組を探索する。このようにして、推測部123は、二乗和誤差の式(Fm)が最小となる変数の値を算出する。
【0057】
ただし、Fmが最小になるような「BetSa」~「BetSd」、「BacSa」~「BacSd」の組が探索される際、以下のような制約条件が課される。
(B1)「BetSa」~「BetSd」のそれぞれは同じエタノール濃度に対応する値となり、BacSa~BacSdのそれぞれは同じアセトン濃度に対応する値となる。
(B2)「BetSa」~「BetSd」、「BacSa」~「BacSd」のそれぞれは、予め算出されている、図8に示すような推定濃度と出力値との関係(線形関係)を満足する。
【0058】
図9は、実際のにおいセンサ321の出力値と、推測されるにおいセンサ321の出力値とを示す図である。
図9において、横軸は図7と同様、においセンサ321を示し、縦軸は出力値を示している。
図9において、符号601はにおいセンサ321aが実際に出力する出力値(式(15)の「Isa」)であり、符号611は、推測されるにおいセンサ321aの出力値(式(11)及び式(15)における「Vsa」)である。
同様に、符号602はにおいセンサ321bが実際に出力する出力値(式(15)の「Isb」)であり、符号612は、推測されるにおいセンサ321bの出力値(式(12)及び式(15)における「Vsb」)である。
また、符号603はにおいセンサ321cが実際に出力する出力値(式(15)の「Isc」)であり、符号613は、推測されるにおいセンサ321cの出力値(式(13)及び式(15)における「Vsc」)である。
そして、符号604はにおいセンサ321dが実際に出力する出力値(式(15)のIsd)であり、符号614は、推測されるにおいセンサ321dの出力値(式(14)及び式(15)における「Vsd」)である。
【0059】
ステップS204では、推測部123によって以下の(C1)~(C2)の二乗和が最小となる「BetSa」~「BetSd」、「BacSa」~「BacSd」が探索される。
(C1)符号601に示す実際の出力値と、符号611に示す推定される出力値との差。
(C2)符号602に示す実際の出力値と、符号612に示す推定される出力値との差。
(C3)符号603に示す実際の出力値と、符号613に示す推定される出力値との差。
(C4)符号604に示す実際の出力値と、符号614に示す推定される出力値との差。
【0060】
図9に示すように、それぞれのにおいセンサ321の実際の出力値(符号601~604)と、推定される出力値(符号611~614)とは、必ずしも一致しない。しかし、推定される出力値(符号611~614)は実際の出力値(符号601~604)の誤差範囲内となるため、問題はない。
【0061】
図5の説明に戻る。
ステップS205において、推測部123は、探索したBetSa~BetSd、BacSa~BacSdの組を基にエタノール及びアセトンの濃度を算出(推定)する。具体的には、推測部123は、探索したBetSa~BetSd、BacSa~BacSdの各値と、図8に示すような濃度(推定濃度)と出力値との関係から、エタノール及びアセトンの濃度を算出する。
【0062】
このように、推測部123は、式(15)に示すFmが最小になるような「BetSa」~「BetSd」、「BacSa」~「BacSd」の組を探索することによって、エタノール及びアセトンの濃度を推定する。つまり、推測部123は、式(11)~(14)を基に、変数であるBetSa~BetSd、BacSa~BacSdの各値を算出する。換言すれば、推測部123は、式(11)~(14)と、においセンサ321の実測値とを基に、式(11)~(14)における変数の値を算出する。そして、推測部123は、算出した変数を基にエタノール及びアセトンの濃度を推定する。
【0063】
続いて、格納処理部124は、ステップS204の結果を基に、重複している成分Gのそれぞれの濃度を、光音響センサ310及びマルチセンサアレイ320の出力値とともにデータベース2に格納する(S211)。
そして、表示処理部125は、推定されるアンモニア、アセトアルデヒド、エタノール、アセトンの濃度を表示部4に表示する(S212)。なお、ステップS212表示されるアンモニア、アセトアルデヒドの濃度は、図4のステップS113で算出されたものである。
【0064】
図10は、光音響センサ310による出力値を示す図である。
図10において、白いヒストグラムは図6と同様である。波長「Iλc」で示される出力値(符号701)は、符号711で示すエタノールに由来する出力値と、符号712で示されるアセトンに由来する出力値との合計値である。
【0065】
図3に示すように、吸収波長のピークが重複している成分Gについて、光音響センサ310による濃度の計測が不可能となる。一方、それぞれの成分Gに対する感度が異なるにおいセンサ321を設置することができるが、においセンサ321では、濃度を定量的に計測することができない。従って、単に光音響センサ310と、においセンサ321を設置するだけでは、吸収波長のピークが重複している成分Gの計測ができないという阻害性がある。本実施形態に示す成分濃度推定システムZでは、このような阻害性を解決するため、まず、単一成分濃度算出部113が光音響センサ310による単一ピークの濃度(単一成分濃度)を算出する。そして、関係式生成部122は、単一成分濃度に基づく成分毎出力値22と、においセンサ321の実際の出力値を用いて、式(11)~(14)を生成する。推測部123は、式(11)~(14)に基づいて重複している成分Gの濃度を推定する。このようにすることで、成分濃度推定システムZは、光音響センサ310による出力値において、ピークが重複している成分Gの濃度を推定する。さらに、推測部123が、重複している成分Gの濃度について、式(15)を最小にするような値を推測する。このようにすることで、重複している成分Gの濃度の推定精度を向上させることができる。
【0066】
成分濃度推定システムZの携帯性を実現するためには、光源数以上の物質を計測する技術が必要となる。つまり、これまでの技術では用いられていない、重複ピーク領域での成分検出技術が必要となる。本実施形態では、前記したような手法でピークが重複している成分Gの濃度を推定する。
【0067】
このように、本実施形態によれば、1つの光源部311で複数の成分Gの濃度計測が可能となるため、成分濃度推定システムZを小型化することが可能となる。このような小型化によって、携帯性と成分数の向上との両立が可能となる。この結果、ユーザが、手軽に、家、現場、車内等で、血中のアルコールや代謝物等の健康に関する生体情報をリアルタイムに計測可能な端末を実現することができる。また、アルコール検知器として利用する場合、例えば光音響センサ310の出力値のレベル(出力レベル)でなりすまし防止を実現することも可能となる。その理由として、指Fが配置されない場合、音響波の出力レベルが極度に小さくなるためである。その他、他の物質の検出条件も含めてなりすまし対策が可能となる。つまり、アルコール以外の成分についても同様の理由でなりすまし対策が可能となる。
【0068】
[第2実施形態]
<成分濃度推定システムZa>
図11は、第2実施形態に係る成分濃度推定システムZaの構成を示す図である。
図11において、図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図1に示す成分濃度推定システムZと比較して、成分濃度推定システムZaには処理部1aの第2の工程処理部120aにおいて更新部126が追加されている。
更新部126は、二乗和誤差の式(式(15))の値を基に、においセンサ321における、それぞれの成分の濃度分の出力値である成分毎出力値22を更新する。
【0069】
<フローチャート>
図12は、第2実施形態に係る第2の工程(S200)の処理手順を示すフローチャートである。図12において、図5と同様の処理については同一のステップ番号を付して説明を省略する。なお、第2実施形態において第1の工程は図4と同様の処理であるため、第2実施形態における図示及び説明を省略する。
ステップS205の後、更新部126は、二乗和誤差の式の値が所定の条件を満たしているか否かを判定する(S221)。二乗和誤差の式の値とは、式(15)におけるFmの最小値である。
【0070】
ステップS221における「所定の条件を満たす」とは以下に示す条件のうち、いずれか一方を満たしていることを示す。
(D1)所定の回数(例えば、3回)連続して二乗和誤差の式の値が増加している。つまり、現在の二乗和誤差の式の最小値が、1つ前に算出された二乗和誤差の式の最小値より大きい状態が所定回数連続した場合。
(D2)最新の二乗和誤差の式の値(最小値)が所定の閾値より大きい。
なお、所定の回数、所定の閾値は予め任意に設定されているものである。
【0071】
二乗和誤差の式(式(15))の値が大きくなるということは、単一ピークに相当するにおいセンサ321の成分毎出力値22の値にずれが生じていることを意味している。成分毎出力値22の値にずれが生じる原因としてにおいセンサ321の劣化等がある。
【0072】
ステップS221において、所定の条件が満たされていない場合(S221→No)、第2の工程処理部120は、ステップS211へ処理を進める。
ステップS221において、所定の条件が満たされている場合(S221→Yes)、更新部126は、最新の二乗和誤差の式(式(15))が最も小さくなる成分毎出力値22の各値の組み合わせを算出する(S222)。この際、以下のような制約条件が課される。
(E1)同じ成分に関する成分毎出力値22は、同じ濃度に対する値となる。
(E2)成分毎出力値22のそれぞれは、予め算出されている、図8に示すような推定濃度と出力値との関係を満足する。
【0073】
そして、更新部126は、ステップS222で算出した成分毎出力値22の各値の組み合わせで、データベース2における成分毎出力値22を更新する(S223)。
【0074】
なお、ステップS222では、ある所定の濃度に対する成分毎出力値22が算出される。しかし、ステップS222では、その他の濃度に関する成分毎出力値22の値は算出されない。ただし、図8に示すように、成分毎出力値22の各値は、原点を通る直線として定義される。従って、更新部126は、ステップS222で算出された濃度と、原点とを結ぶ直線として、データベース2に格納されている成分毎出力値22のマップ、あるいは、関数を更新する。更新される対象は、成分毎出力値22のすべてである。
そして、第2の工程処理部120は、ステップS211へ処理を進める。
【0075】
なお、ステップS221の処理が省略されてもよい。つまり、血中成分検出処理が行われるたびに、成分毎出力値22が更新されてもよい。
【0076】
第2実施形態によれば、においセンサ321の劣化等が原因で、成分毎出力値22の値にずれが生じてきても、校正を行うことができる。これにより、成分濃度推定システムZaは、成分Gの濃度推定の精度を維持することができる。また、成分濃度推定システムZaは、所定の条件である(D1)、(D2)を満たす場合のみ成分毎出力値22を更新する。これにより、効率的な成分毎出力値22の更新を実現することが可能となる。
【0077】
<ハードウェア構成>
次に、図13図15を参照して、成分濃度推定システムZ,Zaのハードウェア構成について説明する。
図13は、成分濃度推定装置810のハードウェア構成を示す図である。
図13では、図1や、図11に示すセンサ部3、処理部1,1a、データベース2、表示部4のすべてが1つの装置である成分濃度推定装置810に搭載されている例を示す。
成分濃度推定装置810は、ROM(Read Only Memory)で構成されるメモリ811、CPU812、表示装置813、RAM(Random Access Memory)で構成される記憶装置814で構成される。また、成分濃度推定装置810はセンサ部3(図1図11参照)を構成する光音響センサ310及びマルチセンサアレイ320も搭載している。
【0078】
メモリ811に格納されているプログラムがCPU812によって実行されることにより、図1や、図11に示す各部111~114、121~126が具現化する。
また、表示装置813は液晶ディスプレイ等であり、図1や、図11に示す表示部4に相当する。さらに、記憶装置814は、図1や、図11に示すデータベース2に相当する。
【0079】
図14は、ユーザ端末820のハードウェア構成を示す図である。
図14に示すユーザ端末820は、スマートフォンや、タブレット端末等であり、図1や、図11に示す処理部1,1a、データベース2、表示部4を搭載している。この場合、センサ部3はユーザ端末820とは別の装置(例えば、図示しない計測装置)である。ユーザ端末820は、別の装置であるセンサ部3から光音響センサ310や、マルチセンサアレイ320の出力値を取得する。
【0080】
ユーザ端末820は、ROM等で構成されるメモリ821、CPU822、RAM等で構成される記憶装置823を備える。また、ユーザ端末820はタッチパネルディスプレイで構成される入出力装置824、ユーザ端末820とは別の装置であるセンサ部3との通信を行う通信装置825を備える。
メモリ821に格納されているプログラムがCPU822によって実行されることにより、図1や、図11に示す各部111~114、121~126が具現化する。
また、入出力装置824は、図1や、図11に示す表示部4に相当する。さらに、記憶装置823は、図1や、図11に示すデータベース2に相当する。
【0081】
図15は、処理装置830の構成例を示す図である。
処理装置830は、個人が所有するPC(Personal Computer)や、企業等が所有するサーバ等である。そして、処理装置830は、図1や、図11に示す処理部1,1a、データベース2、表示部4を搭載している。この場合、センサ部3は処理装置830とは別の装置(例えば、図示しない計測装置)である。ユーザ端末820は別の装置であるセンサ部3から光音響センサ310や、マルチセンサアレイ320の出力値を取得する。
【0082】
処理装置830は、RAM等の揮発性メモリで構成されるメモリ831、CPU832、HDD(Hard Disk Drive)や、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリで構成される記憶装置833を備える。また、処理装置830は、キーボードや、マウス等の入力装置834、ディスプレイ等の出力装置835、通信装置836を備える。
【0083】
記憶装置833に格納されているプログラムがメモリ831にロードされる。そして、ロードされたプログラムがCPU822によって実行されることにより、図1や、図11に示す各部111~114、121~126が具現化する。
また、出力装置835は、図1や、図11に示す表示部4に相当する。さらに、記憶装置833は、図1や、図11に示すデータベース2に相当する。そして、通信装置836は、処理装置830とは別の装置であるセンサ部3との通信を行う。
【0084】
光音響センサ310の光源部311はLED(Light Emission Diode)でもよいし、所定の波長幅を有するレーザ光源としてもよい。
また、本実施形態に示す成分濃度推定システムZ,Zaは血中の成分Gを計測することを目的としているが、これに限らない。例えば、成分濃度推定システムZ,Zaは果物内部の成分を計測してもよい。
【0085】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0086】
また、前記した各構成、機能、各部111~114,121~126、データベース2等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図13図15に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU812,822,832等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD以外に、メモリ811,821,831や、SSD等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納可能である。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0087】
1 処理部
1a 処理部
2 データベース
3 センサ部
4 表示部
21 濃度変換係数
22 成分毎出力値(第1の成分の濃度分の出力値、第2の成分の濃度分の出力値)
110 第1の工程処理部
111 出力値取得部
112 濃度変換係数取得部
113 単一成分濃度算出部
114 格納処理部
120 第2の工程処理部
120a 第2の工程処理部
121 データ取得部
122 関係式生成部
123 推測部
124 格納処理部
125 表示処理部
126 更新部
310 光音響センサ(光計測部)
311 光源部
312 マイク
320 マルチセンサアレイ
321 においセンサ(検出部)
321a においセンサ(検出部)
321b においセンサ(検出部)
321c においセンサ(検出部)
321d においセンサ(検出部)
F 指(計測対象物)
G 成分
Z 成分濃度推定システム
Za 成分濃度推定システム
S100 第1の工程
S200 第2の工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15