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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163672
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】植物用処理組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/14 20060101AFI20231102BHJP
   A01N 59/26 20060101ALI20231102BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20231102BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20231102BHJP
   A01P 15/00 20060101ALI20231102BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A01N59/14
A01N59/26
A01N25/00 102
A01N25/02
A01P15/00
A01P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074726
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】310022224
【氏名又は名称】OATアグリオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】木藤 圭次郎
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB04
4H011BA06
4H011BB18
4H011DA13
4H011DC05
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】本発明は、農作物のホウ素欠乏による生理障害を抑制し、かつ、ホウ素過剰障害(植害)を抑制することで、農作物の品質を向上させることができる植物用処理組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、植物用処理組成物であって、(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、植物用処理組成物に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、植物用処理組成物であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、植物用処理組成物。
【請求項2】
植物のホウ素欠乏による生理障害及び植物のホウ素過剰障害を抑制できる、請求項1に記載の植物用処理組成物。
【請求項3】
(B)亜リン酸又はその塩の含有量が、酸化物換算で(A)ホウ酸又はその塩100質量部に対して、400~1000質量部である、請求項1に記載の植物用処理組成物。
【請求項4】
さらに、前記ホウ酸又はその塩及び前記亜リン酸又はその塩以外の肥料成分を含有する、請求項1に記載の植物用処理組成物。
【請求項5】
灌注処理用又は葉面散布用である、請求項1に記載の植物用処理組成物。
【請求項6】
亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素過剰障害抑制剤。
【請求項7】
(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、農作物の品質向上剤であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、農作物の品質向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用処理組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素(元素記号:B)は、植物中に必須の微量元素の一つである。植物において、ホウ素が欠乏すると、新葉の生育の停止、根毛の細胞伸長の阻害等の症状(ホウ素欠乏障害)が現れる。あるいは、植物の生育はそれほど抑制されなくても、茎又は果実組織に亀裂が入る、コルク化する等の症状が現れることもある。これらのことから、ホウ素が欠乏することにより、収穫物の品質が低下することが知られている。
その一方で、植物にホウ素を過剰に供給すると、ホウ素が毒(植害)となる可能性があり、ホウ素の量が植物体内で過剰になると、生育不良等の症状(ホウ素過剰障害)が現れ、減収の原因となる。よって、植物に対するホウ素の適量幅は狭く、施用に際しては十分な注意が必要とされる。
【0003】
例えば、植物、特に野菜へのホウ素供給に有用な組成物として、100重量部あたりソルビトールを0.01~5重量部、ホウ酸を0.005~0.25重量部含有する生育期の野菜へのホウ素供給用組成物であって、ダイコンの黒芯症等の改善又は予防剤が提案されている(特許文献1)。
つまり、植物の種類によってホウ素の要求量、及び、ホウ素の植害が現れるホウ素含量は様々であることから、過剰障害を抑制しつつホウ素を供給することができる、前記特許文献1とは異なる技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-038742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物のホウ素欠乏による生理障害を抑制し、かつ、植物のホウ素過剰障害(植害)を抑制することで、農作物の品質を向上させることができる植物用処理組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ホウ酸又はその塩と、亜リン酸又はその塩とを、特定の割合で配合することにより、植物のホウ素欠乏による生理障害を抑制しつつ、かつ、植物のホウ素過剰障害(植害)を抑制することで、農作物の品質を向上させることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0007】
本発明は、以下の植物用処理組成物等に関する。
項1.
(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、植物用処理組成物であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、植物用処理組成物。
項2.
植物のホウ素欠乏による生理障害及び植物のホウ素過剰障害を抑制できる、項1に記載の植物用処理組成物。
項3.
(B)亜リン酸又はその塩の含有量が、酸化物換算で(A)ホウ酸又はその塩100質量部に対して、400~1000質量部である、項1又は2に記載の植物用処理組成物。
項4.
さらに、前記ホウ酸又はその塩及び前記亜リン酸又はその塩以外の肥料成分を含有する、項1~3の何れか一項に記載の植物用処理組成物。
項5.
灌注処理用又は葉面散布用である、項1~4の何れか一項に記載の植物用処理組成物。
項6.
亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素欠乏障害抑制剤。
項7.
亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素過剰障害抑制剤。
項8.
亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素欠乏障害及び過剰障害抑制剤。
項9.
(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、農作物の品質向上剤であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、農作物の品質向上剤。
項10.
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩とを、
質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10となるように混合する工程を含む、
植物用処理組成物の製造方法。
項11.
(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する、植物へのホウ素供給組成物であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、植物へのホウ素供給組成物。
項12.
植物に処理するための、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する組成物の使用であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、組成物の使用。
項13.
植物へホウ素供給するための、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する組成物の使用であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、組成物の使用。
項14.
農作物の品質を向上するための、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する組成物の使用であって、
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10である、組成物の使用。
項15.
植物のホウ素過剰障害を抑制するための、亜リン酸又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物のホウ素欠乏による生理障害を抑制し、かつ、植物のホウ素過剰障害(植害)を抑制することで、農作物の品質を向上させることができる植物用処理組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、試験例1でトマトを用いて行った、本発明の組成物を用いた濃度ごとの潅注処理による裂果発生率の評価結果を示したグラフである。
図2図2は、試験例1でトマトを用いて行った、本発明の組成物を用いた濃度ごとの潅注処理による尻腐れ果発生率の評価結果を示したグラフである。
図3図3は、試験例2でトマトを用いて行った、摘果時における本発明の組成物を用いた希釈倍数ごとの灌注処理による尻腐れ果発生率の評価結果を示したグラフである。
図4図4は、試験例2でトマトを用いて行った、摘果時における本発明の組成物を用いた希釈倍数ごとの葉面散布による尻腐れ果発生率の評価結果を示したグラフである。
図5図5は、試験例2でトマトを用いて行った、収量調査時における本発明の組成物の灌注処理による裂果発生率の評価結果を示したグラフである。
図6図6は、試験例2でトマトを用いて行った、収量調査時における本発明の組成物の葉面散布による裂果発生率の評価結果を示したグラフである。
図7図7は、試験例3でコマツナを用いて行った、本発明の組成物によるホウ素過剰障害(葉縁部の枯れ症状)の評価結果を示したグラフである。
図8図8は、試験例4でコマツナを用いて行った、本発明の組成物によるホウ素過剰障害(葉縁部の枯れ症状)の評価結果を示したグラフである。
図9図9は、試験例4でコマツナを用いて行った、本発明の組成物によるホウ素過剰障害(葉縁部の枯れ症状)の評価結果を示したグラフである。
図10図10は、試験例5でコマツナを用いて行った、本発明の組成物によるホウ素過剰障害(葉縁部の枯れ症状)の評価結果を示したグラフである。
図11図11は、試験例6でコマツナを用いて行った、本発明の組成物によるホウ素過剰障害(葉縁部の枯れ症状)の評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
植物用処理組成物
本発明の植物用処理組成物は、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有する。本発明の植物用処理組成物は、以下、単に、本発明の組成物という場合もある。
(A)ホウ酸又はその塩は、植物にホウ素を供給するホウ素源をして作用する。なお、ホウ素は、通常肥料中に微量要素として配合されている成分である。
ホウ酸及びホウ酸塩は、水和物を形成していてもよい。
【0011】
ホウ酸又はその塩
ホウ酸は、化学式:HBO又はB(OH)で表されるホウ素のオキソ酸化合物である。
ホウ酸塩は、ホウ酸の塩、又はホウ酸が脱水縮合したメタホウ酸又はポリホウ酸の塩等が挙げられ、ここでいうホウ酸塩には、その水和物も含まれる。
ホウ酸の塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩(例えば、メタホウ酸ナトリウム(NaBO)、四ホウ酸ナトリウム(Na)、四ホウ酸ナトリウム十水和物(Na・10HO)、八ホウ酸二ナトリウム四水和物(Na13・4HO)、四ホウ酸カリウム四水和物(K・4HO)等)、ホウ酸のアルカリ土類金属塩(例えば、四ホウ酸カルシウム(CaB)等)等が挙げられる。
ホウ酸又はその塩は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0012】
ホウ素の含有量は、組成物全体に対して約0.01~40質量%が好ましく、約0.1~20質量%であることがより好ましく、約1~10質量%であることがさらに好ましい。本発明の植物用処理組成物を植物に施用する場合には、当該組成物を希釈して用いることもできる。その際の希釈倍率は、植物の種類等により適宜設定することができる。
【0013】
本発明の植物用処理組成物は、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを組み合わせて用いることが特徴の1つである。(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを組み合わせることで、下記の実施例で示すように、ホウ素による植物への植害を低減又は抑制することができる。また、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを組み合わせることで、植物のホウ素欠乏による生理障害を低減又は抑制し、農作物の品質を向上させることができる。
【0014】
亜リン酸又はその塩
亜リン酸は、化学式がHPOで表されるリンのオキソ酸化合物である。
亜リン酸塩として、例えば、亜リン酸一ナトリウム(NaHPO、別名:亜リン酸二水素ナトリウム)、亜リン酸一カリウム(KHPO、別名:亜リン酸二水素カリウム)、亜リン酸二ナトリウム(NaHPO、別名:亜リン酸水素二ナトリウム)、亜リン酸二カリウム(KHPO、別名:亜リン酸水素二カリウム)、亜リン酸三ナトリウム(NaPO)、亜リン酸三カリウム(KPO)、亜リン酸カルシウム(CaHPO)等が挙げられる。亜リン酸又はその塩として、亜リン酸一カリウム(亜リン酸二水素カリウム)が好ましい。
亜リン酸又はその塩は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
(B)亜リン酸又はその塩の含有量は、酸化物換算で(Pとして)(A)ホウ酸又はその塩100質量部に対して、通常400~1000質量部であり、500~990質量部が好ましく、600~980質量部がより好ましい。
(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比は、酸化物換算((A)B/(B)Pで)で、通常1/4~1/10であり、好ましくは1/5~1/9.9であり、より好ましくは1/6~1/9.8である。
【0016】
本発明の植物用処理組成物は、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩との混合物(固体)の形態で使用してもよいし、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを含有する溶液(液体)の形態で使用してもよい。本発明の植物用処理組成物は、溶液の形態で使用することが好ましい。
【0017】
植物用処理組成物の製造方法
本発明の植物用処理組成物の製造方法は、(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩とを、質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10となるように混合する工程を含んでいる。
【0018】
本発明の植物用処理組成物が、固体である場合、例えば、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを均一に混合することにより、組成物を製造することができる。
【0019】
本発明の植物用処理組成物が、液体である場合、例えば、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを、水及び/又は有機溶剤に溶かすことができれば、どのような方法で製造してもよい。
有機溶剤としては、植物及び人体に影響がないものであれば特に限定はなく、エタノール等のアルコール化合物等が挙げられる。
【0020】
その製造方法としては、例えば、
(1)上記で製造した固体の組成物と、水及び/又は有機溶剤とを混合することにより、固体の組成物を水及び/又は有機溶剤に溶解させる方法、
(2)(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを、水及び/又は有機溶剤に同時に添加し、撹拌等することにより溶解させる方法、
(3)(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを別々に水及び/又は有機溶剤に溶解させた後、それらを混合する方法、
(4)(B)亜リン酸又はその塩を水及び/又は有機溶剤に溶解させた後、そこに(A)ホウ酸又はその塩を添加して溶解させる方法、
(5)(A)ホウ酸又はその塩を水及び/又は有機溶剤に溶解させた後、そこに(B)亜リン酸又はその塩を添加して溶解させる方法、等が挙げられる。
【0021】
本発明の植物用処理組成物は、上記した有効成分のみからなるものでもよいが、上記した有効成分に加えて、必要に応じて、さらにその他の成分(任意成分)を含んでいてもよい。
【0022】
任意成分
本発明の植物用処理組成物がさらに含有してもよい任意成分としては、例えば、ホウ酸又はその塩、及び亜リン酸又はその塩以外の公知の肥料成分が挙げられる。
【0023】
本発明の植物用処理組成物に添加可能な肥料成分は、上記ホウ酸又はその塩、及び、亜リン酸又はその塩以外の、農業上容認可能な公知の肥料成分であれば特に制限はない。
【0024】
公知の肥料成分として、例えば、大量要素である窒素(N)、リン酸(P)、及び、カリウム(K);中量要素であるカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、及び、硫黄(S);微量要素である鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、塩素(Cl)等が挙げられる。なお、肥料成分としての「リン酸」は、一般的なリン酸(HPO)ではなく、リンを含むものという意味である。
【0025】
これらの肥料成分は、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
本発明の植物用処理組成物に、上記ホウ酸又はその塩及び亜リン酸又はその塩以外の公知の肥料成分を添加する場合、その添加量は、特に限定はなく、例えば、ホウ酸又はその塩100質量部に対して、通常0.01~10000000質量部、好ましくは0.1~1000000質量部、より好ましくは1~100000質量部程度である。
【0027】
また、本発明の植物用処理組成物には、本発明の効果を損なわない程度に、さらに、生理活性物質(例えば、生育促進剤、生育抑制剤等の生育調整剤等)、微生物資材、農薬(例えば、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、殺ダニ剤、殺線虫剤等)、界面活性剤(例えば、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤、スルホン酸系界面活性剤、硫酸エステル系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、両性界面活性剤等)、ビタミン類(例えば、ビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸アミド、コリン塩類等)、腐敗防止剤(例えば、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸等)、キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸又はその塩;クエン酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等))、pH調整剤、沈殿防止剤、展着剤、着色剤等の種々の添加剤を加えることができる。
【0028】
添加剤を使用する場合、その使用量は、ホウ酸又はその塩100質量部に対し、通常0.001~50000質量部、好ましくは0.01~5000質量部、より好ましくは0.1~500質量部程度である。
【0029】
本発明の組成物は、ホウ素欠乏障害(以下、ホウ素欠乏症ということもある。)又はホウ素過剰障害(以下、ホウ素過剰症ということもある。)が発生することが確認されている植物に対して処理(施用)することで、ホウ素欠乏障害又はホウ素過剰障害を抑制することができる。その処理方法としては、特に限定はなく、例えば、灌注処理、葉面散布等が挙げられる。
【0030】
また、本発明の組成物は、肥料分野において知られている剤型へ製剤化することができる。その製剤例としては、例えば、水和剤、粒剤、粉剤、粉粒剤、乳剤、液剤、水溶剤、フロアブル剤、ペースト剤等が挙げられる。その製剤中には、上記任意成分のうち、例えば、界面活性剤等、通常の肥料又は農薬で用いられる固体担体、液体担体、補助剤等を配合することができる。
【0031】
固体担体としては、例えば、鉱物質粉末(カオリン、ベントナイト、クレー、モンモリロナイト、タルク、ケイソウ土、雲母、バーミキュライト、セッコウ、炭酸カルシウム、リン石灰等)、植物質粉末(大豆粉、小麦粉、木粉、タバコ粉、デンプン、結晶セルロース等)、高分子化合物(石油樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル酢酸樹脂、ポリ塩化ビニル、ケトン樹脂等)、アルミナ、ワックス類等を使用することができる。
【0032】
また、液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等)、芳香族炭化水素類(トルエン、ベンゼン、キシレン等)、塩素化炭化水素類(クロロホルム、四塩化炭素、モノクロルベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、酸アミド類(N,N-ジメチルアセトアミド等)、エーテルアルコール類(エチレングリコールエチルエーテル等)、水等を使用することができる。
【0033】
界面活性剤としては、乳化、分散等の目的として、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤のいずれの界面活性剤も使用することができる。
具体的に、本発明において使用することができる界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、ポリアルキレングリコール高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ソルビタンモノアルキレート、アセチレンアルコール及びアセチレンジオール並びにそれらのアルキレンオキシド付加物等のノニオン性界面活性剤;
テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン、アルキルピリミジニウム塩等のカチオン性界面活性剤;アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルコハク酸塩、アリールスルホン酸塩及びその縮合物、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルアリールリン酸エステル塩、ポリカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤;
アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルイミダゾリニウムベタイン、アミノ酸、レシチン等の両性界面活性剤;
その他シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等を挙げることができる。
これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいし、又は、適宜2種以上を併用してもよい。上記界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、本発明組成物の100質量部あたり、通常1~15質量部、好ましくは3~10質量部である。
【0034】
本発明の組成物を製剤化する場合、常法に従い、本発明の組成物と、上記の任意成分とを、混合工程、撹拌工程、噴霧乾燥工程等の工程を適宜経ることで製造することができる。
【0035】
本発明の組成物の適用対象となる植物としては、特に限定されないが、ホウ素欠乏症が発生することが確認されている植物、例えば、コマツナ、ブロッコリー、ハクサイ、ダイコン、キャベツ、カブ、ストック、ナタネ等のアブラナ科植物;イチゴ、リンゴ、ナシ等のバラ科植物;ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ等のマメ科植物;サツマイモ、アサガオ等のヒルガオ科植物;トマト、ピーマン、ジャガイモ(バレイショ)、トウガラシ、ナス等のナス科植物;キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ科植物;レタス、ヒマワリ、ゴボウ、キク等のキク科植物;アヤメ、カキツバタ、ハナショウブ等のアヤメ科植物;ユリ、チューリップ等のユリ科植物;イネ、トウモロコシ、ベントグラス、コウライシバ、サトウキビ等のイネ科植物;ミツバ、セルリー、パセリー、ニンジン等のセリ科植物;サトイモ等のサトイモ科植物;ナガイモ等のヤマノイモ科植物;トルコギキョウ等のリンドウ科植物;カーネーション等のナデシコ科植物;ホウレンソウ、テンサイ等のヒユ科植物;タマネギ等のヒガンバナ科植物;アスパラガス等のキジカクシ科植物;ワタ等のアオイ科植物;イグサ等のイグサ科植物;ブドウ等のブドウ科植物;ウンシュウミカン、グレープフルーツ等のミカン科植物;等が挙げられる。
【0036】
ホウ素欠乏症の症状としては、黒芯症(ダイコン)、内部障害(カブ、ハクサイ)、花蕾生育障害(ブロッコリー)、チップバーン症(キャベツ、レタス)、尻腐れ症(トマト、ナス)、心腐れ症(ダイコン、カブ、セルリー)、赤心症(ダイコン、カブ)、すいり(ダイコン)、根腐れ症(ダイコン)、トップモザイク症(トマト)、くき割症(トマト)、やに症(トマト、ブドウ)、あんいり症(ブドウ)、茎裂開症(ブドウ)、落果症(ミカン、リンゴ)、縮果症(リンゴ)、樹脂症(リンゴ、ブドウ、モモ)、枝枯れ症(リンゴ、ブドウ)、花弁色抜け症(チューリップ)等を例示することができる。このような症状又は兆候が発見された場合には、本発明の組成物を灌注処理又は葉面散布することで症状を改善し、あるいは症状の拡大を予防することができる。
【0037】
また、本発明の組成物は、相乗効果(効果向上)を目的として、他のミネラルを配合することもできる。例えば、カルシウムの欠乏症は、ホウ素欠乏症と類似の心腐れ症(キャベツ、ダイコン)、赤心症(ダイコン、カブ)、尻腐れ症(トマト、ピーマン)等の障害を発生することが知られている。
したがって、本発明の組成物を、葉面散布又は灌注処理する場合は、カルシウムを成分として含む肥料を配合することで、ホウ素欠乏症と区別のつきにくい症状にも対処可能となるので農業作業上有利である。カルシウム肥料(石灰質肥料)としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0038】
一方、上述のとおり、ホウ素は植物へ過剰に供給すると、ホウ素過剰障害が起こる。ホウ素過剰障害としては、例えば、葉脈間が黄化し、さらに症状が進むと葉縁部が黄褐変化して壊死する症状がみられるが、本発明の組成物は、このような植物のホウ素過剰障害を抑制することができる。
【0039】
また、本発明の組成物は、その製剤中に、上記任意成分を配合するだけでなく、本発明の組成物とは別個に準備した各種成分(例えば、殺虫剤、殺菌剤、微生物農薬の農薬、肥料等)と混用又は併用することも可能である。
【0040】
亜リン酸又はその塩を含む、植物のホウ素欠乏障害抑制剤
本発明は、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを組み合わせることで、植物のホウ素欠乏障害を抑制(又は低減)することができる。よって、本発明は、亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素欠乏障害抑制剤を包含する。
【0041】
本発明は、(A)ホウ酸又はその塩と(B)亜リン酸又はその塩とを組み合わせることで、ホウ素による植物への植害を抑制(又は低減)することができる。よって、本発明は、亜リン酸又はその塩を含有する、植物のホウ素過剰障害抑制剤を包含する。
【0042】
農作物の品質向上剤
本発明の農作物の品質向上剤は、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有し、(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10であることを特徴としている。
【0043】
植物へのホウ素供給組成物
本発明の植物へのホウ素供給組成物は、(A)ホウ酸又はその塩、及び、(B)亜リン酸又はその塩を含有し、(A)ホウ酸又はその塩と、(B)亜リン酸又はその塩との質量比が、酸化物換算((A)B/(B)P)で1/4~1/10であることを特徴としている。つまり、本発明のホウ素供給組成物は、植物のホウ素欠乏障害又はホウ素過剰障害を抑制できる。さらに、本発明の植物へのホウ素供給組成物は、植物に亜リン酸も供給することができる。すなわち、本発明の植物へのホウ素供給組成物は、植物へのホウ素及び/又は亜リン酸供給組成物と言い換えることもできる。
【実施例0044】
以下、本発明の処理組成物を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下において、単に「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0045】
<原料>
以下の試験例で用いる原料を記載する。
ホウ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)
亜リン酸一カリウム(大道製薬株式会社製)
リン酸一カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)
亜リン酸カルシウム一水和物(大道製薬株式会社製)
亜リン酸二ナトリウム五水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0046】
試験例1(尻腐れ果及び裂果発生に対する抑制効果)
作物:トマト(穂木:桃太郎ピース(タキイ種苗株式会社)及び台木:ボランチ(タキイ種苗株式会社)、有限会社竹内園芸へ種子提供の上、育苗依頼したもの)
試験期間:5月11日(定植)~8月11日(最終生育調査)
試験場所:栽培研究センター3-1号ハウス
供試薬剤:
試料1:タンクミックス(登録商標)A 10kgとタンクミックス(登録商標)B 20kgとを水道水に溶解し、最終的に体積を200Lに合わせた水溶液。
試料2:ホウ酸と亜リン酸一カリウムを含有する植物用処理組成物(供試薬剤中に、質量当たり、リン酸を28%、ホウ素を3%、カリウムを18%、鉄を0.02%、亜鉛を0.02%、銅を0.01%含む水溶液(比重:1.44g/mL))。なお、前記水溶液において、リン酸、ホウ素、及び、カリウムは、酸化物換算濃度を記載している。また、前記リン酸はすべて亜リン酸に由来している。
試料3:試料2を300mLと、水道水とを混合し、最終的に体積を30Lに合わせた水溶液。
試料4:試料2を250mLと、水道水とを混合し、最終的に体積を50Lに合わせた水溶液。
試料5:試料1を体積当たり220倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料6:試料1を体積当たり220倍、及び、試料3を体積当たり440倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料7:試料1を体積当たり220倍、及び、試料3を体積当たり220倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料8:試料1を体積当たり220倍、及び、試料3を体積当たり110倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料9:試料1を体積当たり110倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料10:試料1を体積当たり110倍、及び、試料4を体積当たり220倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料11:試料1を体積当たり110倍、及び、試料4を体積当たり110倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
試料12:試料1を体積当たり110倍、及び、試料4を体積当たり55倍の倍率で水道水に希釈した水溶液。
区制:1区13株、4反復
【0047】
1.試験方法
栽培研究センター3-1号ハウス隔離栽培用ベッド(幅30cm、深さ10cm、長さ11.5m)8ベッドに養液土耕用培土を充填し、5月11日に定植を行った。畝間170cm、株間30cm間隔の一条植えとし、13株を1区として、1ベッドあたりに2区を設け、対照区(比較例1)、1ppm区(実施例1)、2ppm区(実施例2)、及び、4ppm区(実施例3)の各条件計4区設けた形での試験区割りを行った。試験区のうち、対照区は、薬剤を施用していない区である。1ppm区、2ppm区、及び、4ppm区については、実際に施用を行った供試薬剤のホウ素濃度(B換算)の概算値を表している。仕立ては、主枝一本仕立ての相互誘引とした。通常管理として、脇芽については週一回のペースで剪定を行い、週二回のトマトトーン(登録商標)(100倍)処理を行い、適宜、農薬を使用して慣行防除を実施した。果実については、最大4果として、適宜摘果を実施した。また、この時点において確認された不良果実についても併せて摘果した。
【0048】
定植後から5月13日までの間は、水道水のみでの給水を行い、5月14日より6月6日までの間は、いずれの試験区についても、試料5での施肥及び給水を行った。一段目の花芽に着果が見受けられるようになった6月7日より13日までの間は、対照区(比較例1)については試料5で、1ppm施用区(実施例1)については試料6で、2ppm施用区(実施例2)については試料7で、及び、4ppm施用区(実施例3)については試料8での施肥及び給水を行った。6月14日から試験終了までの間は、対照区(比較例1)については試料9で、1ppm施用区(実施例1)については試料10で、2ppm施用区(実施例2)については試料11で、及び、4ppm施用区(実施例3)については試料12での施肥及び給水を行った。施用量は、作物生育に合わせて適宜調整を行った。具体的な試験期間中の施用量としては、1日あたり0.2~1.7L/株の範囲であった。
【0049】
収穫及び収量調査は、7月5日から8月10日まで、週2回のペースで実施した。内容としては、正常果の個数及び重量、不良果実(裂果、尻腐れ果、その他(窓あき及びチャック果、筋腐れ果等)の個数の調査を実施した。
【0050】
2.結果及び考察
収量調査の結果の内、正常果、裂果、及び尻腐れ果の個数を下記表1に示す。なお、本表に記載の数値は、4区それぞれの調査を行ったうえで、一区(13株)当たりの平均値を算出したものである。また、「内訳(%)」は、全収穫果実数に対するそれぞれの果実性状を占める個数の割合を示し、「対照区比(%)」は、「内訳の対照区比(%)」を示している。
【0051】
【表1】
【0052】
さらに、表1中の裂果の結果を図1に、尻腐れ果の結果を図2に示す。
【0053】
図1に示されるように、本発明の処理組成物で処理することによって、裂果の発生が抑制された。
図2に示されるように、尻腐れ果の発生は、本発明の処理組成物を施用することにより抑制された。
【0054】
試験例2(尻腐れ果及び裂果発生に対する抑制効果)
作物:トマト(穂木:はれぞら(みかど協和株式会社)及び台木:キングバリア(タキイ種苗株式会社)、ベルグアース株式会社より購入)
試験期間:4月13日(定植)~8月31日(最終生育調査)
試験場所:栽培研究センター0号ハウス
供試薬剤:試験例1で使用した試料1及び試料2
区制:1区14~15株、1反復
【0055】
1.試験方法
4月13日において定植を実施した。
基肥(窒素7kg/10a、リン酸4.7kg/10a、カリウム5.9kg/10a)を定植5日前に施用し、耕耘(こううん)、畝立て(畝幅80cm、株間30cm、一条植え)、及びマルチ(表白色及び裏黒色)被覆を実施した。4月13日から6月14日の間は水道水のみを施用し、6月15日以降は試料1を適宜希釈して、追肥及び給水を実施した。具体的には、水量としては1日当たり0.4~1.0L/株の範囲で、希釈倍率としては、150倍から85倍希釈の範囲で調整した。
定植後、慣行的な防除を行い、仕立ては主枝一本仕立てでの相互誘引とし、通常管理として週1回の頻度でわき芽取り、週2回の頻度でトマトトーン(登録商標)(100倍)の処理を継続的に実施した。
薬剤の処理は、一段目において開花及び果実肥大、二段目において着蕾が進展している生育状態であった4月30日より開始し、それ以降、概ね週一回の頻度で実施した。具体的には、4月30日、5月6日、13日、14日、20日、21日、27日及び28日、6月3日、4日、15日、22日及び25日、7月1日、7日、15日、21日、28日及び29日、並びに、8月4日、5日、8月18日及び8月24日に実施した。なお、2日間の日程記載の箇所は、葉面散布及び潅注処理をそれぞれの日に行った。
葉面散布については、それぞれの試験区について試料2を水道水で、表2に記載の倍率で希釈し、作物体の地上部全体に充分散布液が付着する程度の量を処理した。具体的な散布量としては、100~300mL/株の範囲であった。
また、潅注処理としては、それぞれの試験区について試料2を水道水で、表2に記載の倍率で希釈し、5月21日までは株あたり200mLとし、27日以降については株あたり500mLを株元に施用した。
摘果に際しては、各段最大4果とし、着果果実がピンポン玉程度以上の大きさになった時点で、着果数を予め計数し、その中から目視にて確認された不良果実(具体的には、チャック及び窓空き果、尻腐れ果、乱形果、筋腐れ果の発生が見られた)を計数した後、取り除いた。収穫については、週二回の頻度で実施し、正常果の重量及び個数に合わせ、裂果及び上記不良果実の計数を実施し、これらのデータを解析した。摘果及び収量調査については、各区より生育中庸な12株を目視にて選抜したうえで実施した。
【0056】
2.結果及び考察
(1)摘果時の着果数及び果実性状
下記試験区B-1(比較例2)、試験区B-2(実施例4)、試験区B-3(実施例5)、試験区B-4(実施例6)、並びに、試験区C-1(比較例3)、試験区C-2(実施例7)及び試験区C-3(実施例8)に示す処理内容(濃度)で、1~13段目までの摘果時の調査結果(摘果前着果数、尻腐れ果実数、内訳(%)、及び、対照比区(%))を株あたりで記載したものを表2に示す。そして、その中の試験区B-1~B-4(灌注処理)の結果を図3に、試験区C-1~C-3(葉面散布)の結果を図4に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
図3に示すように、本発明の処理組成物の潅注処理によって尻腐れ果発生の低減作用が確認された。また、図4に示すように、本発明の処理組成物の葉面散布処理によって尻腐れ果発生の低減作用が確認された。
【0059】
(2)収量調査結果
下記B-1(比較例4)、B-2(実施例9)、B-3(実施例10)、B-4(実施例11)、並びに、C-1(比較例5)、C-2(実施例12)及びC-3(実施例13)に示す処理内容(濃度)で、収量調査の結果(収穫果実総数、正常果個数、裂果個数、内訳(%)、及び、対照比区(%))を、下記表3、図5(灌注処理)及び図6(葉面散布)に示す。なお、本調査結果記載の数値は、各区の中庸株12株より収穫されたものをまとめたものである。
【0060】
【表3】
【0061】
まず、収量調査時点では、不良果実として、尻腐れ果の発生はほぼ確認されなかった。
今回の収穫果実全体のうち、6割から7割程度が不良果実であった。その中で、最も多くの発生が認められたのが裂果であった。
潅注処理と不良果実の発生との関連性を確認すると、表3及び図5に示すように、いずれの試験区においても、裂果の発生を抑制されており、試験区B-3(実施例10、2000倍希釈処理)が最も強い抑制作用を示し、正常果個数の割合が向上した。
葉面散布処理では、表3及び図6に示すように、いずれの試験区についても裂果の低減作用と正常果個数の割合の向上が確認された。
【0062】
試験例3(ホウ素の過剰障害の抑制効果)
作物:コマツナ(品種:夏楽天(タキイ種苗株式会社))
試験期間:12月1日(播種)~12月29日(最終調査)
試験場所:栽培研究センター 9号ハウス
供試薬剤:ホウ酸、亜リン酸一カリウム
区制:1区6株、1反復
【0063】
1.試験方法
11月15日に、ビーポット(キャネロン加工株式会社製Y-55型)にくみあい園芸培土愛菜1号(片倉コープアグリ株式会社製)を充填し、各セルへ2粒ずつ播種を行った。この播種以降、子葉展開後に、間引きを行い、1株/セルとした。12月17日に、下記表4に示す組成の供試薬液を調整し、2mL/株にて株元潅注を行った。この際の作物葉齢は2~3葉であった。
【0064】
【表4】
【0065】
株元潅注以降、12月21日及び24日にて同様の処理を行い、12月29日において、ホウ素の過剰障害の典型的な症状である葉縁部の枯れ症状について調査を実施した。なお、最終調査時の作物葉齢は4~5葉であった。
この症状について、下記表5の基準に従って試験区1-1(比較例6)、試験区1-2(比較例7)、試験区1-3(実施例14)、及び、試験区1-4(比較例8)の本葉4枚について達観評価を行い、これらの平均値を算出した。
【0066】
【表5】
【0067】
2.結果及び考察
その結果を、表6及び図7に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6及び図7より、ホウ酸のみを処理した試験区1-4では、葉縁部に枯れ症状の顕著な発生が確認されたが、ホウ酸に亜リン酸を混用した試験区1-3においては葉縁部の枯れ症状の発生が低減したことが確認された。
【0070】
試験例4(ホウ素の過剰障害の抑制効果)
作物:コマツナ(品種:夏楽天(タキイ種苗株式会社))
試験期間:12月21日(播種)~1月21日(最終調査)
試験場所:栽培研究センター 9号ハウス及び5号ハウス
供試薬剤:ホウ酸、亜リン酸一カリウム、リン酸一カリウム
区制:1区6株、1反復
【0071】
1.試験方法
12月21日に、ビーポット(キャネロン加工株式会社製Y-55型)にくみあい園芸培土愛菜1号(片倉コープアグリ株式会社製)を充填し、各セルへ2粒ずつ播種を行い、9号ハウスにて栽培管理を行った。以降、子葉展開後に、間引きを行い、1株/セルとした。1月7日に、下記表7に示す組成の溶液を調整し、2mL/株にて株元潅注を行った。なお、この際の亜リン酸とリン酸の処理濃度は同じモル濃度とした。
【0072】
【表7】
【0073】
この際の作物葉齢は2~3葉であった。以降、1月11日及び14日にて同様の処理を行い、1月21日に、各種の地上部に関する調査を実施した。また、同一の処理条件にて、1月7日の薬剤処理後より、5号ハウス内インキュベーター(35℃、D/L=16/8hr)で栽培を行ったものについても調査を実施した。ここで、使用した薬剤は、下記表8のとおりである。
【0074】
【表8】
【0075】
なお、最終調査時の作物葉齢は、ハウス内で管理した作物については4~5葉で、インキュベーター内の作物については5~7葉であった。
【0076】
9号ハウスにおいて、展開済みの葉4枚(1~4葉)の葉縁部に発生したホウ酸植害による枯れの症状を、上記試験例3の表5と同様の基準に従い、達観評価を行い、これらの平均値を算出した。
【0077】
また、インキュベーターにおいて、展開済みの葉4枚(1~4葉)の葉縁部に発生したホウ酸植害による枯れの症状を、上記試験例3の表5と同様の基準に従い、達観評価を行い、これらの平均値を算出した。
【0078】
2.結果及び考察
9号ハウスでの試験区2-1(比較例9)、試験区2-2(比較例10)、試験区2-3(実施例15)、及び、試験区2-4(比較例11)における結果を表9及び図8に示す。
【0079】
【表9】
【0080】
表9及び図8より、ホウ酸による葉縁部の枯れ症状は、上記試験例3及び4の結果と同様、ホウ酸と亜リン酸とを混用した場合(試験区2-3)のみ、抑制されることが確認された。同様の効果は、ホウ酸とリン酸とを混用した場合(試験区2-4)では確認されなかったことから、ホウ酸による葉縁部の枯れ症状の低減作用は、亜リン酸に特異的なものであることが示唆された。
【0081】
インキュベーターにおける試験区3-1(比較例12)、試験区3-2(比較例13)、試験区3-3(実施例16)、及び、試験区2-4(比較例14)での結果を、表10及び図9に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
表10及び図9より、インキュベーターにおいても、ホウ酸と亜リン酸とを混用した場合(試験区3-3)のみ、ホウ酸による葉縁部の枯れ症状が緩和されることが確認された。ホウ酸とリン酸とを混用した場合(試験区3-4)は、ホウ酸のみを処理する場合(試験区3-2)と同程度であるか、むしろ症状が悪化していることから、ホウ酸による葉縁部の枯れ症状の低減作用は、亜リン酸に特異的なものであることが確認された。
【0084】
試験例5(ホウ素の過剰障害の抑制効果)
作物:コマツナ(品種:夏楽天(タキイ種苗株式会社))
試験期間・場所:1月27日(播種)~2月22日(最終調査)
試験場所:栽培研究センター 9号ハウス、5号ハウス
供試薬剤:ホウ酸、亜リン酸一カリウム
区制:1区6株、1反復
【0085】
1.試験方法
1月27日に、ビーポット(キャネロン加工株式会社製Y-55型)にくみあい園芸培土愛菜1号(片倉コープアグリ株式会社製)を充填し、各セルへ2粒ずつ播種を行い、9号ハウスにて栽培管理を行った。以降、子葉展開後に、間引きを行い、1株/セルとした。2月8日に、下記表11に示す組成の溶液を調整し、2mL/株にて株元潅注を行った後、5号ハウス内インキュベーター(35℃、D/L=16/8hr)で栽培を行った。この際の作物葉齢は1~2葉であった。以降、2月10日及び14日にて同様の処理を行い、2月22日において、2~5葉(1葉については著しく萎れている株が散見されたので、調査対象から除外)の葉縁部の枯れ症状を、上記試験例3の表6に従って調査し、これらの平均値を算出し、その株の枯れ症状の指数とした。なお、最終調査時の作物葉齢は6~8葉であった。
【0086】
【表11】
【0087】
2.結果・考察
試験区4-1(比較例15)、試験区4-2(比較例16)、試験区4-3(比較例17)、試験区4-4(実施例17)、試験区4-5(実施例18)、試験区4-6(実施例19)、及び、試験区4-7(比較例18)での葉縁部の枯れ症状の調査結果を、表12及び図10に示す。
【0088】
【表12】
【0089】
表12及び図10より、ホウ酸と亜リン酸とを酸化物換算で1/4~1/10の配合割合で混合した試験区4-4、試験区4-5、及び、試験区4-6において、枯れ症状の緩和効果が認められた。
【0090】
試験例6(ホウ素の過剰障害の抑制効果)
作物:コマツナ(品種:夏楽天(タキイ種苗株式会社))
試験期間:1月27日(播種)~2月22日(最終調査)
試験場所:栽培研究センター 9号ハウス、5号ハウス
供試薬剤:ホウ酸、亜リン酸一カリウム、亜リン酸カルシウム一水和物、亜リン酸二ナトリウム五水和物
区制:1区6株、1反復
【0091】
1.試験方法
2月10日に、ビーポット(キャネロン加工株式会社製Y-55型)にくみあい園芸培土愛菜1号(片倉コープアグリ株式会社製)を充填し、各セルへ2粒ずつ播種を行い、9号ハウスにて栽培管理を行った。以降、子葉展開後に、間引きを行い、1株/セルとした。2月22日に、下記表13に示す組成の溶液を調整し、2mL/株にて株元潅注を行った後、5号ハウス内インキュベーター(35℃、D/L=16/8hr)で栽培を行った。そのうち、試験区5-4については、純水のみでは試料の溶解が見られなかったことより、調整時に濃塩酸を加え、溶解させた溶液を用いた。また、この際の作物葉齢は1~2葉であった。以降、2月25日及び28日にて同様の処理を行い、3月10日において、3~6葉(1葉及び2葉については著しく萎れている株が散見されたので、調査対象から除外)の葉縁部の枯れ症状を、上記試験例3の表6に従って調査し、これらの平均値を算出し、その株の枯れ症状の指数とした。なお、最終調査時の作物葉齢は6~8葉であった。
【0092】
【表13】
【0093】
2.結果・考察
試験区5-1(比較例19)、試験区5-2(比較例20)、試験区5-3(実施例20)、試験区5-4(実施例21)、及び、試験区5-5(実施例22)での葉縁部の枯れ症状の調査結果を、表14及び図11に示す。
【0094】
【表14】
【0095】
表14及び図11より、ホウ酸とともに使用する亜リン酸又はその塩として、亜リン酸一カリウム(試験区5-2)、亜リン酸カルシウム一水和物(試験区5-3)、又は亜リン酸二ナトリウム五水和物(試験区5-4)のいずれを使用した場合でも、枯れ症状が緩和されることが確認された。以上より、亜リン酸塩によるホウ酸植害の緩和作用は、カウンターイオンの種類によらないことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11