(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163707
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置、レーザ溶接プログラム、及びレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20231102BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/21 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074782
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】100153981
【弁理士】
【氏名又は名称】衛藤 寛啓
(72)【発明者】
【氏名】水谷 春樹
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168DA13
4E168DA37
4E168EA02
4E168EA09
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められるレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、第1金属板と第2金属板とを溶接するレーザ溶接装置である。レーザ溶接装置は、第1金属板及び第2金属板に対し、第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドと、第1レーザ光によって第1金属板に溶融池を形成しつつ、第2レーザ光によって第1金属板と第2金属板とを溶接するように加工ヘッドを制御する制御装置と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属板と第2金属板とを溶接するレーザ溶接装置であって、
前記第1金属板及び前記第2金属板に対し、第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドと、
前記第1レーザ光によって前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第2レーザ光によって前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接するように前記加工ヘッドを制御する制御装置と、
を備える、レーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接装置であって、
前記制御装置は、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ部分に前記第2レーザ光を照射させると共に、前記第1金属板のうち前記突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域に前記第1レーザ光を照射させる、レーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ溶接装置であって、
前記制御装置は、前記第1金属板のうち前記第2金属板と重なった部分に前記第1レーザ光を照射させると共に、前記第1金属板のうち前記第1レーザ光の照射領域と溶接方向に沿って並ぶ領域に前記第2レーザ光を照射させる、レーザ溶接装置。
【請求項4】
第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドによる第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接に用いられるレーザ溶接プログラムであって、
前記第1レーザ光によって前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第2レーザ光によって前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接するように前記加工ヘッドを制御することをコンピュータに実行させる、レーザ溶接プログラム。
【請求項5】
第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドを用いた第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接方法であって、
前記第1レーザ光によって前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第2レーザ光によって前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接する工程を備える、レーザ溶接方法。
【請求項6】
第1金属板と第2金属板とを溶接するレーザ溶接装置であって、
前記第1金属板及び前記第2金属板に対し、レーザ光を照射する加工ヘッドと、
溶接方向と交差する方向に前記レーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接するように前記加工ヘッドを制御する制御装置と、
を備える、レーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ溶接装置であって、
前記制御装置は、前記第1金属板と前記第2金属板との突合せ部分における前記レーザ光による照射エネルギを、前記第1金属板のうち前記突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域における前記レーザ光による照射エネルギよりも大きくする、レーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項6に記載のレーザ溶接装置であって、
前記制御装置は、前記第1金属板と前記第2金属板とが重なった部分のうち第1領域における前記レーザ光による照射エネルギを、前記第1領域周辺の第2領域における前記レーザ光による照射エネルギよりも大きくする、レーザ溶接装置。
【請求項9】
レーザ光を照射する加工ヘッドによる第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接に用いられるレーザ溶接プログラムであって、
溶接方向と交差する方向に前記レーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接するように前記加工ヘッドを制御することをコンピュータに実行させる、レーザ溶接プログラム。
【請求項10】
レーザ光を照射する加工ヘッドを用いた第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接方法であって、
溶接方向と交差する方向に前記レーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも前記第1金属板に溶融池を形成しつつ、前記第1金属板と前記第2金属板とを溶接する工程を備える、レーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ溶接装置、レーザ溶接プログラム、及びレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの金属板を接合するレーザ溶接において、溶接品質を向上させるための種々の手法が考案されている。例えば、重ね溶接における隙間を埋めるために溶融部を形成してからウェービングを行う手法(特許文献1参照)、突合せ溶接においてウェービングによってスパッタを低減する手法(特許文献2参照)等が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-062682号公報
【特許文献2】特開2021-133417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の溶融部の形成後にウェービングを行う手法では、溶接の長さに限界が生じる。また、上述の突合せ溶接におけるウェービングでは、金属板間の隙間によって溶接欠陥が生じ得る。
【0005】
本開示の一局面は、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められるレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、第1金属板と第2金属板とを溶接するレーザ溶接装置である。レーザ溶接装置は、第1金属板及び第2金属板に対し、第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドと、第1レーザ光によって第1金属板に溶融池を形成しつつ、第2レーザ光によって第1金属板と第2金属板とを溶接するように加工ヘッドを制御する制御装置と、を備える。
【0007】
このような構成によれば、溶接部に溶融金属を供給する溶融池の形成と、第1金属板と第2金属板との溶接とが同時に進行する。そのため、溶接長が制限されることなく、溶融金属によって隙間を埋めながら第1金属板と第2金属板とを接合できる。結果として、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められる。
【0008】
本開示の一態様では、制御装置は、第1金属板と第2金属板との突合せ部分に第2レーザ光を照射させると共に、第1金属板のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域に第1レーザ光を照射させてもよい。このような構成によれば、突合せ溶接において、第1金属板と第2金属板との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板と第2金属板とを接合できる。
【0009】
本開示の一態様では、制御装置は、第1金属板のうち第2金属板と重なった部分に第1レーザ光を照射させると共に、第1金属板のうち第1レーザ光の照射領域と溶接方向に沿って並ぶ領域に第2レーザ光を照射させてもよい。このような構成によれば、重ね溶接において、第1金属板と第2金属板との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板と第2金属板とを接合できる。
【0010】
本開示の別の態様は、第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドによる第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接に用いられるレーザ溶接プログラムである。レーザ溶接プログラムは、第1レーザ光によって第1金属板に溶融池を形成しつつ、第2レーザ光によって第1金属板と第2金属板とを溶接するように加工ヘッドを制御することをコンピュータに実行させる。
【0011】
本開示の別の態様は、第1レーザ光と第2レーザ光とを照射する加工ヘッドを用いた第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接方法である。レーザ溶接方法は、第1レーザ光によって第1金属板に溶融池を形成しつつ、第2レーザ光によって第1金属板と第2金属板とを溶接する工程を備える。
【0012】
これらのような構成によれば、溶接長が制限されることなく、溶融金属によって隙間を埋めながら第1金属板と第2金属板とを接合できるため、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められる。
【0013】
本開示の一態様は、第1金属板と第2金属板とを溶接するレーザ溶接装置である。レーザ溶接装置は、第1金属板及び第2金属板に対し、レーザ光を照射する加工ヘッドと、溶接方向と交差する方向にレーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板に溶融池を形成しつつ、第1金属板と第2金属板とを溶接するように加工ヘッドを制御する制御装置と、を備える。
【0014】
このような構成によれば、溶接部に溶融金属を供給する溶融池の形成と、第1金属板と第2金属板との溶接とが同時に進行する。そのため、溶接長が制限されることなく、溶融金属によって隙間を埋めながら第1金属板と第2金属板とを接合できる。結果として、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められる。
【0015】
本開示の一態様では、制御装置は、第1金属板と第2金属板との突合せ部分におけるレーザ光による照射エネルギを、第1金属板のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域におけるレーザ光による照射エネルギよりも大きくしてもよい。このような構成によれば、突合せ溶接において、第1金属板と第2金属板との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板と第2金属板とを接合できる。
【0016】
本開示の一態様では、制御装置は、第1金属板と第2金属板とが重なった部分のうち第1領域におけるレーザ光による照射エネルギを、第1領域周辺の第2領域におけるレーザ光による照射エネルギよりも大きくしてもよい。このような構成によれば、重ね溶接において、第1金属板と第2金属板との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板と第2金属板とを接合できる。
【0017】
本開示の別の態様は、レーザ光を照射する加工ヘッドによる第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接に用いられるレーザ溶接プログラムである。レーザ溶接プログラムは、溶接方向と交差する方向にレーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板に溶融池を形成しつつ、第1金属板と第2金属板とを溶接するように加工ヘッドを制御することをコンピュータに実行させる。
【0018】
本開示の別の態様は、レーザ光を照射する加工ヘッドを用いた第1金属板と第2金属板とのレーザ溶接方法である。レーザ溶接方法は、溶接方向と交差する方向にレーザ光の照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板に溶融池を形成しつつ、第1金属板と第2金属板とを溶接する工程を備える。
【0019】
これらのような構成によれば、溶接長が制限されることなく、溶融金属によって隙間を埋めながら第1金属板と第2金属板とを接合できるため、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態におけるレーザ溶接装置の模式図である。
【
図2】
図2Aは、
図1のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な平面図であり、
図2Bは、
図1のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、
図1とは異なる実施形態におけるレーザ溶接装置の模式図である。
【
図4】
図4Aは、
図3のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な平面図であり、
図4Bは、
図3のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、
図1とは異なる実施形態におけるレーザ溶接装置の模式図である。
【
図6】
図6Aは、
図5のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な平面図であり、
図6Bは、
図5のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、
図1とは異なる実施形態におけるレーザ溶接装置の模式図である。
【
図9】
図9Aは、
図8のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な平面図であり、
図9Bは、
図8のレーザ溶接装置による溶接の状態を示す模式的な断面図である。
【
図11】
図11は、
図1とは異なる実施形態におけるレーザ溶接装置におけるレーザ光の照射状態を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示すレーザ溶接装置1は、第1金属板P1と第2金属板P2とを突合せ溶接する装置である。
【0022】
加工される第1金属板P1及び第2金属板P2は、端面同士が突き合わされるように配置される。レーザ溶接装置1は、レーザ供給部2と、加工ヘッド3と、制御装置4とを備える。
【0023】
<レーザ供給部>
レーザ供給部2は、レーザ光を生成して加工ヘッド3に供給する装置である。レーザ供給部2は、電源と、発振回路とを備える。レーザ供給部2が発生させるレーザ光のエネルギ分布のパターンは特に限定されない。
【0024】
<加工ヘッド>
加工ヘッド3は、レーザ供給部2から供給されたレーザ光を、上方から第1金属板P1と第2金属板P2との接合部分に照射する。加工ヘッド3は、第1金属板P1及び第2金属板P2に対し、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とを独立して照射可能に構成されている。
【0025】
第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2は、例えば、レーザ供給部2から供給されたレーザ光を分配素子によって分割することで生成される。分配素子としては、例えばナイフエッジを有するミラー、鏡面を有するプリズム等の光学素子(つまりビームスプリッタ)が使用できる。
【0026】
加工ヘッド3は、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2それぞれの照射強度(つまり照射エネルギ)、焦点位置、照射角度等のパラメータを個別に調整する。これらのパラメータは、例えば、レーザ供給部2の出力、及び加工ヘッド3内に設けられたミラー、集光レンズ等の光学素子の位置又は方向の制御によって調整される。
【0027】
<制御装置>
制御装置4は、レーザ供給部2及び加工ヘッド3を制御するように構成されている。制御装置4は、例えば、プロセッサと、RAM、ROM等の記憶媒体と、入出力部とを備えるコンピュータにより構成される。
【0028】
制御装置4は、レーザ供給部2が供給するレーザ光の強度等のプロファイルを設定する。また、制御装置4は、レーザ溶接プログラムに基づいて、
図2Aに示すように、第1レーザ光L1によって第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第2レーザ光L2によって第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3を制御する。
【0029】
第2レーザ光L2は、第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接するように第2溶融池M2を形成する。第1レーザ光L1は、第2溶融池M2に溶融金属が流れ込む位置に第1溶融池M1を形成する。
【0030】
具体的には、
図2Bに示すように、制御装置4は、第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分に第2レーザ光L2を照射させると共に、第1金属板P1のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域に第1レーザ光L1を照射させる。
【0031】
本実施形態では、第1金属板P1は、第2金属板P2よりも厚みが大きい。また、第1金属板P1及び第2金属板P2は、厚み方向が上下方向と平行となるように載置されている。そのため、第1金属板P1の上面は、第2金属板P2の上面よりも上方(つまり加工ヘッド3の近く)に位置する。
【0032】
また、本実施形態では、第1レーザ光L1の照射領域は、第2レーザ光L2の照射領域に対し、溶接方向Dと直交する方向(
図2A中の上下方向)に並んでいる。また、第1レーザ光L1の照射領域は、第2レーザ光L2の照射領域よりも大きい。
【0033】
ただし、第1レーザ光L1の照射領域は、第2レーザ光L2の照射領域と同じ大きさか、又は第2レーザ光L2の照射領域よりも小さくてもよい。また、第1レーザ光L1の照射エネルギと、第2レーザ光L2の照射エネルギとの大小関係は問われない。なお、第1レーザ光L1の照射エネルギは、アンダーフィル等の欠陥が発生しない大きさに設定される。
【0034】
第1レーザ光L1が照射された領域では、第1金属板P1の溶融によって第1溶融池M1が形成される。第1溶融池M1内の溶融金属(つまり融液)は、表面張力及び重力によって第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分(つまり隙間G及び第2溶融池M2)に向かって流入する。
【0035】
第1レーザ光L1によって形成された溶融金属は、第1金属板P1から第2金属板P2に向かう流動方向Fに沿って、第2レーザ光L2の照射領域に対し溶接の進行方向後方の領域に供給される。
【0036】
その結果、第1溶融池M1から供給された溶融金属が、第2レーザ光L2の照射領域(つまり第2溶融池M2)における溶融金属と共に凝固して、溶接部Wを形成する。溶接部Wは、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間Gを埋めつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを接合する。
【0037】
本実施形態では、溶接部Wを形成する第2レーザ光L2の照射領域は、第1金属板P1の突合せ端部と、第2金属板P2の突合せ端部との双方と重なっている。ただし、第2レーザ光L2の照射領域は、第1金属板P1及び第2金属板P2の一方の突合せ端部のみと重なっていてもよい。
【0038】
また、第1金属板P1と第2金属板P2との厚みは同じであってもよい。つまり、第1金属板P1の上面と、第2金属板P2との上面とが面一であってもよい。この場合、第1金属板P1の上面が第2金属板P2の上面よりも上方に位置するように、第1金属板P1及び第2金属板P2を傾斜させることで、第1溶融池M1の溶融金属を突合せ部分に供給できる。
【0039】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2によって、溶接部に溶融金属を供給する第1溶融池M1の形成と、第1金属板P1と第2金属板P2との溶接とが同時に進行する。そのため、溶接長が制限されることなく、溶融金属によって隙間を埋めながら第1金属板P1と第2金属板P2とを接合できる。結果として、隙間が存在する2つの金属板間の溶接品質を高められる。
【0040】
(1b)第1金属板P1のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域に第1レーザ光L1を照射させることで、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを接合できる。
【0041】
(1c)第1溶融池M1を形成する第1レーザ光L1が第1金属板P1に対して溶接方向以外に移動しないため、スパッタの発生が抑制される。そのため、溶接速度を高めることができる。また、加工条件と溶接結果との対応が把握し易いため、レーザ溶接プログラムの構築が比較的容易となる。
【0042】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成]
図3に示すレーザ溶接装置1Aは、第1金属板P1と第2金属板P2とを重ね溶接する装置である。
【0043】
加工される第1金属板P1及び第2金属板P2は、厚み方向に少なくとも一部が重なるように配置される。第1金属板P1は、第2金属板P2よりも上方(つまり加工ヘッド3の近く)に配置される。
【0044】
レーザ溶接装置1Aは、レーザ供給部2と、加工ヘッド3と、制御装置4Aとを備える。レーザ溶接装置1Aのレーザ供給部2及び加工ヘッド3は、第1実施形態のレーザ溶接装置1のレーザ供給部2及び加工ヘッド3と同じものである。
【0045】
<制御装置>
制御装置4Aは、実行されるレーザ溶接プログラムの詳細を除いて、第1実施形態の制御装置4と同じ構成を有する。
【0046】
制御装置4Aは、レーザ溶接プログラムに基づいて、
図4Aに示すように、第1レーザ光L1によって第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第2レーザ光L2によって第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3を制御する。
【0047】
第2レーザ光L2は、第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接するように第2溶融池M2を形成する。第1レーザ光L1は、第2溶融池M2に溶融金属が流れ込む位置に第1溶融池M1を形成する。
【0048】
具体的には、制御装置4Aは、第1金属板P1のうち第2金属板P2と厚み方向において重なった部分に第1レーザ光L1を照射させると共に、第1金属板P1のうち第1レーザ光L1の照射領域と溶接方向Dに沿って並ぶ領域に第2レーザ光L2を照射させる。
【0049】
これにより、
図4Bに示すように、第1溶融池M1内の溶融金属が、第2レーザ光L2が照射された領域に流動方向Fに沿って供給され、第2溶融池M2内の溶融金属と共に、第1金属板P1を貫通して第2金属板P2に到達する溶接部Wを形成する。
【0050】
図4Aでは、第1レーザ光L1の照射領域を取り囲むように第2レーザ光L2の照射領域が形成されている。なお、第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1の照射領域に重ねて照射されてもよい。また、第2レーザ光L2は、第1レーザ光L1の照射領域に対し溶接の進行方向前方の領域のみに照射されてもよいし、第1レーザ光L1の照射領域に対し溶接の進行方向後方の領域のみに照射されてもよい。
【0051】
つまり、第2レーザ光L2の照射領域は、必ずしも第1レーザ光L1の照射領域を取り囲まなくてもよいし、第1レーザ光L1の照射領域を溶接方向に沿って前後に挟まなくてもよい。
【0052】
[2-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)第1金属板P1のうち第1レーザ光L1の照射領域と溶接方向に沿って並ぶ領域に第2レーザ光L2を照射させることで、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを接合できる。
【0053】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成]
図5に示すレーザ溶接装置1Bは、第1金属板P1と第2金属板P2とを突合せ溶接する装置である。加工される第1金属板P1及び第2金属板P2の配置は、
図1の第1実施形態と同じである。
【0054】
レーザ溶接装置1Bは、レーザ供給部2と、加工ヘッド3Bと、制御装置4Bとを備える。レーザ溶接装置1Bのレーザ供給部2は、第1実施形態のレーザ溶接装置1のレーザ供給部2と同じものである。
【0055】
<加工ヘッド>
加工ヘッド3Bは、レーザ供給部2から供給されたレーザ光を、上方から第1金属板P1と第2金属板P2との接合部分に照射する。加工ヘッド3Bは、第1金属板P1及び第2金属板P2に対し、単一のレーザ光Lを照射可能に構成されている。
【0056】
加工ヘッド3Bは、レーザ光Lの照射強度(つまり照射エネルギ)、焦点位置、照射角度等のパラメータを調整する。これらのパラメータは、例えば、レーザ供給部2の出力、及び加工ヘッド3B内に設けられたミラー、集光レンズ等の光学素子の位置又は方向の制御によって調整される。
【0057】
<制御装置>
制御装置4Bは、実行されるレーザ溶接プログラムの詳細を除いて、第1実施形態の制御装置4と同じ構成を有する。
【0058】
制御装置4Bは、レーザ供給部2が供給するレーザ光の強度等のプロファイルを設定する。また、制御装置4Bは、レーザ溶接プログラムに基づいて、
図6Aに示すように、溶接方向Dと交差する方向にレーザ光Lの照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第1金属板P1及び第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3Bを制御する。
【0059】
具体的には、制御装置4Bは、第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分を含む第1領域R1におけるレーザ光Lによる照射エネルギを、第1金属板P1のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する第2領域R2におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも大きくする。
【0060】
制御装置4Bは、レーザ光Lの照射位置が、第1金属板P1の内側(つまり第1溶融池M1の形成領域)と第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分(つまり隙間G)との間を往復する「8の字」状の軌跡となるように加工ヘッド3Bを制御する。このようなレーザ光Lの制御によって、溶接方向Dに交差するジグザグ状の溶接軌跡が形成される。
【0061】
また、制御装置4Bは、レーザ光Lの出力(つまりパワー密度)を一定としたまま、第2領域R2におけるレーザ光Lの照射位置の移動速度を、第1領域R1におけるレーザ光Lの照射位置の移動速度よりも大きくする。これにより、第1金属板P1の内側におけるレーザ光Lによる照射エネルギが、突合せ部分におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも小さくなる。なお、第2領域R2におけるレーザ光Lの照射エネルギは、アンダーフィル等の欠陥が発生しない大きさとして設定される。
【0062】
図6Bに示すように、レーザ光Lによって第1金属板P1の内側で形成された溶融金属は、第1金属板P1から第2金属板P2に向かう流動方向Fに沿って、突合せ部分におけるレーザ光Lの軌跡に対し溶接の進行方向後方の領域に供給される。その結果、第1溶融池M1から供給された溶融金属が、突合せ部分に形成される第2溶融池M2の溶融金属と共に凝固して、溶接部Wを形成する。
【0063】
本実施形態では、レーザ光Lの軌跡は、第1金属板P1の突合せ端部と、第2金属板P2の突合せ端部との双方と重なっている。ただし、レーザ光Lの軌跡は、第1金属板P1及び第2金属板P2の一方の突合せ端部のみと重なっていてもよい。
【0064】
また、制御装置4Bは、レーザ光Lの強度を位置によって変えることで、第1領域R1におけるレーザ光Lによる照射エネルギを、第2領域R2におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも大きくしてもよい。
【0065】
さらに、
図7A及び
図7Bに示すように、制御装置4Bは、レーザ光Lの照射位置を変えつつ、照射位置に対するレーザ光Lの焦点高さを変えることで、照射エネルギを変化させてもよい。
【0066】
図7Aは、レーザ光Lの焦点位置を変えずに、レーザ光Lを溶接方向と交差する方向に往復揺動させることで、焦点高さを変える例である。この例では、第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分にレーザ光Lの焦点が重なる。一方で、照射位置が突合せ部分から離れるほど焦点高さが大きくなり、金属板に与えられるエネルギが低下する。
【0067】
図7Bは、レーザ光Lの焦点位置を変えずにレーザ光L全体を上下方向に往復移動させながら照射位置を変えることで、焦点高さを変える例である。この例では、レーザ光Lの照射位置が第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分にあるときにレーザ光Lの焦点が最も低くなる(つまり突合せ部分と重なる)。一方で、照射位置が突合せ部分から離れるほどレーザ光Lの焦点高さが大きくなり、金属板に与えられるエネルギが低下する。
【0068】
[3-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(3a)第1金属板P1と第2金属板P2との突合せ部分におけるレーザ光Lによる照射エネルギを、第1金属板P1のうち突合せ部分よりも鉛直方向において上方に位置する領域におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも大きくすることで、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを接合できる。
【0069】
(3b)単一のレーザ光で溶接を行うことができるため、複雑な形状の溶接にも対応できる。
【0070】
[4.第4実施形態]
[4-1.構成]
図8に示すレーザ溶接装置1Cは、第1金属板P1と第2金属板P2とを重ね溶接する装置である。加工される第1金属板P1及び第2金属板P2の配置は、
図3の第2実施形態と同じである。
【0071】
レーザ溶接装置1Cは、レーザ供給部2と、加工ヘッド3Bと、制御装置4Cとを備える。レーザ溶接装置1Cのレーザ供給部2は、第1実施形態のレーザ溶接装置1のレーザ供給部2と同じものである。レーザ溶接装置1Cの加工ヘッド3Bは、第3実施形態のレーザ溶接装置1Bの加工ヘッド3Bと同じものである。
【0072】
<制御装置>
制御装置4Cは、実行されるレーザ溶接プログラムの詳細を除いて、第1実施形態の制御装置4と同じ構成を有する。
【0073】
制御装置4Cは、レーザ供給部2が供給するレーザ光の強度等のプロファイルを設定する。また、制御装置4Cは、レーザ溶接プログラムに基づいて、
図9Aに示すように、溶接方向Dと交差する方向にレーザ光Lの照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第1金属板P1及び第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3Bを制御する。
【0074】
具体的には、制御装置4Cは、第1金属板P1と第2金属板P2とが重なった部分のうち第1領域R1におけるレーザ光Lによる照射エネルギを、第1領域R1周辺の第2領域R2におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも大きくする。なお、第2領域R2におけるレーザ光Lの照射エネルギは、アンダーフィル等の欠陥が発生しない大きさとして設定される。
【0075】
制御装置4Cは、レーザ光Lの照射位置が、溶接方向Dと交差する方向に2つの円が連結された「8の字」状の軌跡となるように加工ヘッド3Bを制御する。この軌跡は、溶接の中心部(つまり溶接ビードの幅方向における中心部)で交差する。このようなレーザ光Lの制御によって、溶接方向Dに交差するジグザグ状の溶接軌跡が形成される。
【0076】
第1領域R1は、溶接の中心部を含む領域である。2つの第2領域R2は、それぞれレーザ光Lの照射位置の折り返し部分を含む領域であり、第1領域R1を溶接方向Dと直交する方向に挟んでいる。
【0077】
制御装置4Cは、レーザ光Lの出力(つまりパワー密度)を一定としたまま、2つの第2領域R2におけるレーザ光Lの照射位置の移動速度を、第1領域R1におけるレーザ光Lの照射位置の移動速度よりも大きくする。これにより、第2領域R2におけるレーザ光Lによる照射エネルギが、第1領域R1におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも小さくなる。
【0078】
図9Bに示すように、レーザ光Lによって第2領域R2で形成された2つの第1溶融池M1の溶融金属は、流動方向Fに沿って第1領域R1に供給され、第2溶融池M2内の溶融金属と共に第1金属板P1を貫通して第2金属板P2に到達する溶接部Wを形成する。
【0079】
制御装置4Cは、レーザ光Lの強度を位置によって変えることで、第1領域R1におけるレーザ光Lによる照射エネルギを、第2領域R2におけるレーザ光Lによる照射エネルギよりも大きくしてもよい。
【0080】
さらに、
図10A及び
図10Bに示すように、制御装置4Cは、レーザ光Lの照射位置を変えつつ、照射位置に対するレーザ光Lの焦点高さを変えることで、照射エネルギを変化させてもよい。
【0081】
図10Aは、レーザ光Lの焦点位置を変えずに、レーザ光Lを溶接方向と交差する方向に往復揺動させることで、焦点高さを変える例である。この例では、第1領域R1にレーザ光Lの焦点が重なる。一方で、照射位置が第1領域R1から離れるほど焦点高さが大きくなり、金属板に与えられるエネルギが低下する。
【0082】
図10Bは、レーザ光Lの焦点位置を変えずにレーザ光L全体を上下方向に往復移動させながら照射位置を変えることで、焦点高さを変える例である。この例では、レーザ光Lの照射位置が第1領域R1にあるときにレーザ光Lの焦点が最も低くなる(つまり第1金属板P1と重なる)。一方で、照射位置が第1領域R1から離れるほどレーザ光Lの焦点高さが大きくなり、金属板に与えられるエネルギが低下する。
【0083】
[4-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(4a)第1金属板P1と第2金属板P2とが重なった部分のうち第1領域R1におけるレーザ光による照射エネルギを、第1領域R1周辺の第2領域R2におけるレーザ光による照射エネルギよりも大きくすることで、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間に溶融金属を効率よく供給しつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを接合できる。
【0084】
(4b)レーザ光による溶接幅を大きくできるため、第1金属板P1と第2金属板P2との隙間が大きくても溶接が可能である。
【0085】
[5.第5実施形態]
(第1レーザ溶接プログラム)
第1実施形態の制御装置4又は第2実施形態の制御装置4Aを構成するコンピュータは、このコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録された第1レーザ溶接プログラムによって制御装置4,4Aとしての機能を実行する。
【0086】
第1レーザ溶接プログラムは、コンピュータに、第1レーザ光L1によって第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第2レーザ光L2によって第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3を制御することを実行させる。
【0087】
(第2レーザ溶接プログラム)
第3実施形態の制御装置4B又は第4実施形態の制御装置4Cを構成するコンピュータは、このコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録された第2レーザ溶接プログラムによって制御装置4B,4Cとしての機能を実行する。
【0088】
第2レーザ溶接プログラムは、コンピュータに、溶接方向と交差する方向にレーザ光Lの照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第1金属板P1及び第2金属板P2とを溶接するように加工ヘッド3Bを制御することを実行させる。
【0089】
[6.第6実施形態]
(第1レーザ溶接方法)
第1実施形態のレーザ溶接装置1又は第2実施形態のレーザ溶接装置1Aにより、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2とを照射する加工ヘッド3を用いた第1レーザ溶接方法が実施される。
【0090】
第1レーザ溶接方法は、第1レーザ光L1によって第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第2レーザ光L2によって第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接する工程を備える。
【0091】
(第2レーザ溶接方法)
第3実施形態のレーザ溶接装置1B又は第4実施形態のレーザ溶接装置1Cにより、レーザ光Lを照射する加工ヘッド3Bを用いた第2レーザ溶接方法が実施される。
【0092】
第2レーザ溶接方法は、溶接方向と交差する方向にレーザ光Lの照射位置を変化させることで、少なくとも第1金属板P1に第1溶融池M1を形成しつつ、第1金属板P1と第2金属板P2とを溶接する工程を備える。
【0093】
[7.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0094】
(7a)上記実施形態のレーザ溶接装置において、
図11に示すように、1つのレーザ光Lによって、第1溶融池M1の形成と、2つの金属板P1,P2の溶接(つまり第2溶融池M2の形成)とを同時に行ってもよい。
【0095】
(7b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0096】
1,1A,1B,1C…レーザ溶接装置、2…レーザ供給部、3,3B…加工ヘッド、
4,4A,4B,4C…制御装置、G…隙間、L…レーザ光、L1…第1レーザ光、
L2…第2レーザ光、M1…第1溶融池、M2…第2溶融池、P1…第1金属板、
P2…第2金属板、R1…第1領域、R2…第2領域、W…溶接部。