IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エコ・ミリエーの特許一覧

特開2023-163714遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材
<>
  • 特開-遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材 図1
  • 特開-遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材 図2
  • 特開-遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材 図3
  • 特開-遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材 図4
  • 特開-遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163714
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】遮熱抗菌シート並びにそれを使用した農業温室用シート及び壁紙材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/14 20060101AFI20231102BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B32B15/14
A01G9/14 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074794
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】522173147
【氏名又は名称】株式会社エコ・ミリエー
(74)【代理人】
【識別番号】100117374
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真一
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼岡 哲夫
【テーマコード(参考)】
2B029
4F100
【Fターム(参考)】
2B029EB01
2B029EB16
2B029EC02
2B029EC09
2B029EC18
2B029EC20
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AB17D
4F100AB21D
4F100AB31D
4F100AB33B
4F100AJ01A
4F100AK15E
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100DG10A
4F100DG11C
4F100EH66D
4F100GB01
4F100GB08
4F100JC00D
4F100JJ02B
4F100JJ07E
(57)【要約】
【課題】多層構造であっても、簡単な構造で遮熱性を高めると共に抗菌性を備え、例えば砂漠地帯における農業用温室のように高気温の環境にあっても、外気温の急激な上昇を緩衝できる遮熱性を備えるとともに植物に好適な抗菌性を高めて、農業温室内の作物の好適な育成を保持したり、施設内の温度管理や衛生状態の保持を高めることのできる遮熱抗菌シートを提供する。
【解決手段】天然繊維、紙又はポリエステルを基材とする基材層11と、前記基材層11の上面に設けられ、金属フィルムにて形成される遮熱層12と、前記遮熱層12の上面にポリエステル繊維から織成された布帛を基材とし、前記布帛の表面に銅-錫合金層13aを蒸着して形成される抗菌層13を備えるよう形成した遮熱抗菌シート10。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維、紙又はポリエステルを基材とする基材層と、
前記基材層の上面に設けられ、金属フィルムにて形成される遮熱層と、
前記遮熱層の上面にポリエステル繊維から織成された布帛を基材とし、前記布帛の表面に銅-錫合金層を蒸着して形成される抗菌層を備えてなることを特徴とする遮熱抗菌性シート。
【請求項2】
前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして防炎層として形成され、
前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミニウムフィルムにて形成され、
前記抗菌層は100μm乃至150μmの紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着してなることを特徴とする請求項1に記載の遮熱抗菌性シート。
【請求項3】
前記基材層は天然繊維または紙から形成され、
前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、
前記抗菌層は100μm乃至150μmに紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着してなることを特徴とする請求項1に記載の遮熱抗菌性シート。
【請求項4】
請求項2に記載の遮熱抗菌性シートにより形成されてなることを特徴とする農業用温室の屋内シート。
【請求項5】
請求項3に記載の遮熱抗菌性シートにより形成されてなることを特徴とする壁紙材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、農業用温室の屋内側に空間を設けて張設されるシートや農業用温室の屋内側にカーテン状に壁面側に垂設されたり、農業用温室の屋内の区画材として垂設される農業温室用シートや、病院や屋内の温度管理及び抗菌性が必要とされる施設等の壁紙材として用いられる遮熱抗菌シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、農業用温室等施設園芸の環境制御においては、温度管理が重要な要素となる。農業用温室等の施設園芸においては、露地栽培に比べて植物の生育に適する温度帯に室温を制御することで、高い生産性を得られるからである。一方において、地球温暖化の進行は農業分野においても多大な影響を及ぼしており、今後も世界的にみて温暖化と共に極端な気象現象の頻発が予測されており、日本の年平均気温は21世紀末には1,4℃~4,5℃上昇すると予測されれている。
【0003】
また、現在、世界的に感染症が流行しているが、植物栽培においても、従来より、大腸菌や感染症の原因となる病原菌対策が要求されている。
【0004】
これらの課題に対応するため、従来、例えば、農業用温室等施設園芸の分野では、温室に遮熱シートや抗菌シートを適用するという方法が考えられている。
【0005】
例えば、農業用温室の温度管理の手段として、農業用温室等に使用される遮熱シートが考えられ、このような農業用温室等に使用される遮熱シートとしては、例えば、特許第6379432号に記載の遮熱シート(特許文献1)や特開2021-10321(特許文献2)に記載の遮熱シートが公知である。前記特許文献1に記載の遮熱シートは、 農業用ハウスに設けられる農業用ハウスの遮熱材であって、 太陽光の入射側から、着色され、輻射熱に対して高透過率の第一樹脂層と、輻射熱に対して高反射率の第一金属箔と、第一接着層と、補強材としての塩化ビニル樹脂フィルムと、第二接着層と、輻射熱に対して高反射率の第二金属箔と、輻射熱に対して高透過率の第二樹脂層とが順次積層され、前記農業用ハウスを構成する骨材の外側に取り付けられ、前記太陽光からの輻射熱を前記第一金属箔で反射させ、前記農業用ハウス内部からの輻射熱を前記第二金属箔で反射させることで、前記農業用ハウスの内部の保温性を向上させることを特徴としている。
【0006】
また、前記特許文献2の遮熱シートは、透明な遮熱シートならびにガラス、透明プラスチックシート等の基材層と遮熱層とを含む透明遮熱シートおよび前記遮熱層を形成するために用いる遮熱塗布剤を提供するものであり、平均可視光透過率が70%以上で、アンチモンドープ酸化スズ粒子と酸化チタン被覆マイカ粒子とを含有する遮熱シートであって、前記アンチモンドープ酸化スズ粒子の50%体積粒子径が、動的光散乱法による粒度分布測定で80~130nmであることを特徴としている。
【0007】
さらに、抗菌性塗膜を有するシート材としては、例えば特開2016-117680号(特許文献3)に記載のシートが公知である。前記シート材は、抗菌性塗膜を備えるシート材であって、 前記抗菌性塗膜は、全体100重量部に対し、ホモポリマー又はコポリマーを粘結剤とする水溶液に分散剤を1,0~20重量部とを配合する、消石灰と混合しても中和作用が生じないアルカリ性樹脂溶液20~70重量部と、希釈溶媒5~70重量部と、粉粒状の消石灰10~70重量部と、増粘剤0,1~10重量部とを含む泥状塗材を、前記シート材に塗工し、高温乾燥により前記泥状塗材から水分を沸騰蒸発させ、その沸騰時に無数の微小な蒸気道を形成するように前記シート材に形成され、 前記抗菌性塗膜の表面に付着する水分を前記蒸気道から内部に浸透させて内部の消石灰を前記抗菌性塗膜の表面に染み出させることにより前記抗菌性塗膜の表面をpH9以上のアルカリ性表面とさせて形成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6379432号公報
【特許文献2】特開2021-10321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に記載の遮熱シートは、骨材の外側に取り付けられるものであって、農業用温室の内部の保温性を向上させることを目的としており、そのため、輻射熱に対する透過層と反射層を有する構造となっており、複雑な構造となっている。また、 農業用温室の外装材として使用されるものであるため、ある程度の伸張性を必要としている。また、そもそも、抗菌性を有するものでもない。
【0010】
また、前記特許文献2に記載の遮熱シートは、基材層が透明な遮熱シートを使用しており、平均可視光透過率が70%以上であることが要求されており、複雑な構造となっている。また、特許文献1と同様に、抗菌性を有するものでもない。
【0011】
さらに、特許文献3に記載のシート材は、表面が強アルカリ性を発揮するので、植物の栽培用や、病院や屋内の温度管理及び抗菌性が必要とされる高齢者施設等の壁紙材として使用するには適さない。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、多層構造であっても、簡単な構造で遮熱性を高めると共に抗菌性を備え、例えば砂漠地帯における農業用温室のように高気温の環境にあっても、外気温の急激な上昇を緩衝できる遮熱性を備えるとともに植物に好適な抗菌性を高めて、農業温室内の作物の好適な育成を保持したり、施設内の温度管理や衛生状態の保持を高めることのできる遮熱抗菌シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の遮熱抗菌シートは、天然繊維、紙又はポリエステルを基材とする基材層と、前記基材層の上面に設けられ、金属フィルムにて形成される遮熱層と、前記遮熱層の上面にポリエステル繊維から織成された布帛を基材とし、前記布帛の表面に銅-錫合金層を蒸着して形成される抗菌層を備えてなることを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の遮熱抗菌シートにあっては、天然繊維、紙又はポリエステルを基材とする基材層と、前記基材層の上面に設けられ、金属フィルムにて形成される遮熱層と、前記遮熱層の上面にポリエステル繊維から織成された布帛を基材とし、前記布帛の表面に銅-錫合金層を蒸着して形成される抗菌層を備えているので、銅-錫合金層が布帛の繊維面に蒸着されることにより、抗菌性を備える銅-錫合金層が、前記布帛に均一かつ剥離しにくく安定して保持されると共に、第2層の遮熱性を備える金属フィルムにより、遮熱性をも備えることができ、多層構造を備えるシートとしては3層という少ない層構造で形成されており、簡単に製造することができ、製造コストが抑えられ、所望の遮熱効果を発揮する、好適な遮熱抗菌シートを提供することができる。また、基材層の材質を使用用途に合わせて適宜選択することができる。
【0015】
請求項2に記載の遮熱抗菌シートは、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートにおいて、前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして防炎層として形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミニウムフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmの紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着してなることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の遮熱抗菌シートにあっては、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして防炎層として形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミニウムフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmの紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に、ポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成される前記基材層が防炎性能を備えることとなる。
【0017】
請求項3に記載の遮熱抗菌シートは、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートにおいて、前記基材層は天然繊維または紙から形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmに紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着してなることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の遮熱抗菌シートにあっては、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層は天然繊維または紙から形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmに紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に前記基材層が天然繊維または紙から形成されているので、天然繊維または紙に接着層を設けることにより、壁紙材として好適に使用することができる。
【0019】
請求項4に記載の農業用温室の屋内シートは、請求項2に記載の遮熱抗菌性シートにより形成されてなることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の農業用温室の屋内シートにあっては、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして防炎層として形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミニウムフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmの紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に、ポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成される前記基材層が防炎性能を備えることとなる。
【0021】
請求項5に記載の壁紙材は、請求項3に記載の遮熱抗菌性シートにより形成されてなることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の壁紙材にあっては、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層は天然繊維または紙から形成され、前記遮熱層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記抗菌層は100μm乃至150μmに紡糸されたポリエステル繊維を織成し形成される布帛の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に、ポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成される前記基材層が天然繊維または紙から形成されているので、天然繊維または紙に接着層を設けることにより、壁紙材として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る遮熱抗菌シートに依ると、天然繊維、紙又はポリエステルを基材とする基材層と、前記基材層の上面に設けられ、金属フィルムにて形成される遮熱層と、前記遮熱層の上面にポリエステル繊維から織成された布帛を基材とし、前記布帛の表面に銅-錫合金層を蒸着して形成される抗菌層を備えているので、銅-錫合金層が布帛の繊維面に蒸着されることにより、抗菌性を備える銅-錫合金層が、前記布帛に均一かつ剥離しにくく安定して保持されると共に、第2層の遮熱性を備える金属フィルムにより、遮熱性をも備えることができ、多層構造を備えるシートとしては3層という少ない層構造で形成されており、簡単に製造することができ、製造コストが抑えられ、所望の遮熱効果を発揮する、好適な遮熱抗菌シートを提供することができる。また、基材層の材質を使用用途に合わせて適宜選択することができる。
【0024】
請求項2に係る遮熱抗菌シートに依ると、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成され、前記第2層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記第3層は100μm乃至150μmのポリエステル繊維を基材とし、前記基材の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に、ポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成される前記基材層が防炎性能を備えることとなる。
【0025】
請求項3に係る遮熱抗菌シートに依ると、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層は天然繊維または紙から形成され、前記第2層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記第3層は厚さ100μm乃至150μmのポリエステル繊維を基材とし、前記基材の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に前記基材層が天然繊維または紙から形成されているので、天然繊維または紙に接着層を設けることにより、壁紙材として好適に使用することができる。
【0026】
請求項4に係る農業用温室の屋内シートに依ると、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層はポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成され、前記第2層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記第3層は100μm乃至150μmのポリエステル繊維を基材とし、前記基材の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に、ポリエステルに塩化ビニルをコーティングして形成される前記基材層が防炎性能を備えることとなる。
【0027】
請求項5に係る壁紙材に依ると、請求項1に記載の遮熱抗菌性シートに加えて、前記基材層は天然繊維または紙から形成され、前記第2層は厚さ12μm乃至15μmのアルミフィルムにて形成され、前記第3層は厚さ100μm乃至150μmのポリエステル繊維を基材とし、前記基材の表面に錫を15原子%以上40原子%未満含み、銅を60原子%以上85原子%未満含む銅-錫合金層を蒸着しているので、より好適な遮熱性及び抗菌性を備えると共に前記基材層が天然繊維または紙から形成されているので、天然繊維または紙に接着層を設けることにより、壁紙材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明にかかる遮熱抗菌シートの部分断面図である。
図2】(a)は遮熱性能試験装置の模式図であり、(b)は測定結果表である。
図3】(a)は他の遮熱性能試験装置の模式図であり、(b)は測定結果を示す表及びグラフである。
図4】遮熱抗菌シートの抗菌試験結果を示す表である。
図5】遮熱抗菌シートの引っ張り強度及び伸び率の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0030】
図1は本発明にかかる遮熱抗菌シートの部分断面図である。図1において、10は本発明にかかる遮熱抗菌シートであり、前記遮熱抗菌シート10は基材層11、遮熱層12及び基材層13の3層を接着剤により接着して形成される。
【0031】
前記基材層11は、可撓性や加工性がよく、比較的低コストである等の観点から、合成樹脂、天然繊維、または紙で構成されることが好ましいが、前記遮熱抗菌シート10の使用用途(例えば、農業用屋内シート、壁紙その他の建築材等)に併せて、それに応じた機能を備える材料を適宜選択することができる。例えば、本発明に係る前記遮熱抗菌シート10を、農業用屋内シートや建築現場の足場遮蔽シートとして使用する場合はポリエステル等の合成樹脂が好適であり、壁紙材等として使用する場合は、天然繊維や紙材が好ましい。
【0032】
図1に示す遮熱抗菌シートは、農業用屋内シートに好適なものであって、前記基材層11は、ポリエステルを基材とし、前記ポリエステルに難燃性の高いポリ塩化ビニル(PVC)層11aをコーティングして形成される。前記ポリエルテルは寸法安定性が高いため、難燃性は高いが伸縮しやすいポリ塩化ビニールと組み合わせることで寸法安定性を高めている。また、ポリ塩化ビニルは防炎剤と相性が良いので、コーティングするポリ塩化ビニルは、ポリ塩化ビニルに防炎剤を混合して形成されたものであっても良い。
【0033】
前記の混合される防炎剤としては、テトラブロモビスフェノールA、エチレンビステトラボロモフタルイミド、ビスエタン、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモベンゼンなどの臭素化合物や、トリフェニルホスフェートなどの芳香族のリン酸エステルなどを用いると良い。また、ハロゲンを含むリン酸エステルなどのリン化合物も用いても良い。さらに、臭素化合物など、ハロゲン化合物の難燃性を高める助剤として、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどのアンチモン化合物を用いても良い。
【0034】
なお、前記基材層11は、前記遮熱抗菌シート10の使用用途(例えば、農業用屋内シート、壁紙その他の建築材等)に合わせて、それに応じた機能を備える材料を適宜選択することができる。また、例えば壁紙として使用する場合には、前記基材層11は前述のように、天然繊維または紙で形成してもよい。さらに、その裏に剥離紙を伴う接着層を形成してもよい。
【0035】
前前記遮熱層12は、輻射熱に対して反射率の高い薄膜の金属フィルムで形成される。前記金属フィルムは、例えば、価格が安価で軽量で高反射率のアルミフィルムを使用すると好適である。前記アルミフィルムで前記遮熱層12を形成する場合は、厚さを12μm乃至15μmで比較的厚めに形成すれば、後述する実施例に示すように効率的に遮熱できることとなる。
【0036】
前記抗菌層13は、前記抗菌層13はポリエステル繊維により織成された基布を基材として、その上面に銅-錫合金層13aを蒸着して形成する。
【0037】
具体的には、ポリエステル樹脂を紡糸し形成した前記ポリエルテル繊維を織成し形成した基布の表面に、抗菌作用を有する銅-錫合金層13aを蒸着して形成している。
【0038】
前記基材と使用するポリエステルは、従来は一般に、耐熱性が低く、また、例えば紙や天然繊維などの熱により変色または変質を生じやすい基材に金属薄膜を合金の各成分毎に蒸着し高温下でのアニール処理を行うことは困難であったが、本発明においては銅及び錫を予め一定の比率で配分した単一合金としたので、共蒸着法により合成樹脂や天然繊維、紙などの基材に被膜させることでアニール処理が不要な合金薄膜を形成することができる。
【0039】
そして、一般に、銅-錫合金の錫の含有量は、10原子%未満であると、水や塩水、体液などとの接触により腐食または変色を生じる場合がある一方、錫含有量が10原子%を超える銅-錫合金は、脆性が増すため、塑性加工を施されるような材料には使用し辛いが、例えば、後述するように合成樹脂繊維で織成された基布に薄膜成型される場合等は、錫の含有量が10原子%を超える銅-錫合金であっても、加工性や使用時の耐久性を有することとなり、好適となる。
【0040】
したがって、前記の銅-錫合金層13aの合金比率は、銅を60原子%超90原子%以下含有し、かつ、錫を10原子%以上40原子%未満含有する銅-錫合金層であることが望ましい。
【0041】
前記抗菌層13における銅-錫合金は、薄膜として基材に積層されるので、銅-錫合金の錫の含有量が10原子%を超える銅-錫合金であっても、加工性や使用時の耐久性を有する。また、銅の含有量が高いほど、抗菌性が向上する。
【0042】
前記銅-錫合金層13aの厚みは、抗菌効果が維持できる厚みであればよいが、後述する基布の厚みが100μm~150μmであり、前記ポリエステル繊維の縦糸と横糸から織成されるので、前記基布表面上の凹凸は30~75μm程度となり、0,3~0,75μm程度であれば好適に膜成することができる。
【0043】
前記基布を構成するポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等があるが、繊維として一般的に多く使用されるポリエチレンテレフタラート(PET)が好適であり、紡糸してポリエステル樹脂繊維を形成し、さらに織成して基布を形成する。
【0044】
前記抗菌層13の基材を織成した基布から形成したので、縦糸と横糸との織成により、表面に微小な凹凸が生じる。したがって、平滑面よりも、前記銅-錫合金層は着層し易く、また剥落が少なく、遮熱抗菌シートとの摺動により、シート表面が擦過した場合において、前記銅-錫合金層13aの剥落が一部あるとしても、前記凹部に着層された箇所は剥落しにくくなる、また可撓性が高まり、その用途により、前記のようにシートが揺動する場合に使用されるときであっても、好適に合金層を保持でき、例えば農業用屋内シートに使用される場合においては、好適な遮熱抗菌シート10となる。
【0045】
[実施例]
本発明に係る遮熱抗菌シート10は、例えば下記のようにを製造する。まず、前記基材層11として、ポリエステルで厚さ0,27mm程度に形成したシートにポリ塩化ビニルをコーティングしポリ塩化ビニル層11aを形成し防炎機能を備えるシートを形成する。本実施例においては、前記基材層11として、消防庁が認定する厚さ0,27mmの防炎シート(消防庁登録番号F-40-1271)を使用した。
【0046】
次に、銅、錫を前述の範囲内の所定割合で合金を作成しポリエステル樹脂を紡糸し形成した前記ポリエルテル繊維を織成し形成した厚さ0,15mm程度の基布を形成し、その表面に前記銅-錫合金層13aを共蒸着して抗菌層を形成した。
【0047】
前記遮熱層を形成する金属フィルムは、厚さ11μmのアルミニウムフィルム(三菱アルミニウム株式会社製)を使用した。
【0048】
前記基材層の上面に前記アルミニウムフィルムを接着しその上面に前記抗菌層を接着する。前記銅-錫合金層13aが表面となるように接着して、前記遮熱抗菌シートを形成する。
【0049】
前記基材層11、前記遮熱層12及び前記抗菌層13の各層の接着は木工用ボンド(コニシ株式会社)の水性液体を使用し、前記遮熱抗菌シートの重量を270g/平方mとした。
【0050】
図2(a)は、前記遮熱抗菌シートの遮熱効果を試験する遮熱性能試験装置であり、20は、出願人が自社で製作した試験装置である。前記遮熱試験装置20は、アルミテープで巻回し外面を覆った内径300mmφ、長さ560mmの紙管21,22を2個用意し、長手方向に連結し、その連結部23に前記遮熱抗菌シート10を密着介在させて密封する。そして一方の紙管21の端部21aは熱風を導入するための開閉自在の送風口(図示せず)を開口させて送風空間24を形成し、他方の紙管22の端部22aは密閉し、遮蔽空間25とする。前記紙管21には前記紙管21の送風空間24の温度を測定できる温度計26,27を取り付けている。前記温度計26は前記遮熱抗菌シート10から200mm離間した位置に、前記温度計27は前記遮熱抗菌シート10から50mm離間した位置に設ける。一方前記紙管22にも前記紙管22の遮蔽空間25の温度を測定できる温度計28,29を取り付けており、前記温度計28は前記遮熱抗菌シート10から50mm離間した位置に設け、前記温度計29は前記遮熱抗菌シート10から300mm離間した位置に設けている。
【0051】
前記紙管前記試験装置20は高さ方向中心を床から400mmの高さHとなるように配置し、前記送風口21aから断続的に熱風を送風し、送風空間24の温度を上昇させて、前記遮熱抗菌シートで遮蔽された遮蔽空間25の温度を測定した。
【0052】
図2(b)は、前記測定した結果を示す測定表である。図3(b)に示すように、前記送風空間24の空間温度が約18℃から約60℃に上昇しても、前記遮蔽空間25の空間温度の上昇は約18℃から約21℃程度に止めている。したがって、前記遮熱抗菌シート10を、例えば農業用の屋内シートに使用する場合は、設置場所が中東の砂漠気候のような地域であっても、温室内の野菜や果物を生育させるもに十分な室温環境を提供することができることとなる。
【0053】
図3(a)は、前記遮熱抗菌シートの遮熱効果を試験する他の遮熱性能試験装置であり、遮熱効果試験は一般社団法人カケンテストセンターによるものである。
【0054】
前記遮熱性能試験装置30は、熱線受光体(黒画用紙)31の上に5mm厚の試料ホルダー33を配置し、その上に試料(前記遮熱抗菌シート10片)を配置し、前記熱線受光体31の下には温度センサー(熱電対)32を配置させる。
【0055】
そして、床面から上方500mm(H2)の位置にレフランプ34(岩崎電気株式会社製アイランプ スポット PRS100V500W)を配置し、試料10上方からランプ光を15分間照射して、熱源(レフランプ34)と試料間の空間35の空間温度を65℃に上昇させて、裏面の熱線受光体31の温度を熱電対32で経時的に測定して行った。なお、試験は試料10の位置を入れ替えて2回測定を行い、そのデータを平均した値を試験結果とした。なお、試験室温度は20℃±2℃であった。
【0056】
図3(b)は、前記試験経過時間と熱線受光体の温度の表とそのグラフである。
【0057】
図3(b)に示すように、ランプ光を15分間照射して、前記空間35の空間温度が約65℃に上昇しても、前記熱線受光体31の温度上昇は約20℃から約36℃程度に止めている。したがって、前記遮熱抗菌シート10を、例えば農業用の屋内シートに使用する場合は、設置場所が中東の砂漠気候のような地域であっても、温室内の野菜や果物を生育させるもに十分な室温環境を提供することができることとなる。
【0058】
図4は、一般社団法人カケンテストセンターにより行われた前記遮熱抗菌シート10の抗菌試験結果を示す表である。
【0059】
前記試験は、下記の条件下で行われた。
(1)試験日
2021年10月8日
(2)試験項目
抗菌性
(3)品名
シート1点(実施例の遮熱抗菌シート)
(4)試験方法
JIS L1902:2015 菌液吸収法
前記菌液吸収法は対象のスラント保存菌を液体培地に接種し、21時間振とう培養を行い、培養後の液体培地に接種し3時間振とう培養を行い、1/20液体培地で希釈し、試験布と対象布(未加工布)に試験菌液を接種し18時間インキュベータで培養し、試験管撹拌機でサンプル洗い出し(以下、接種直後と18時間培養共に実施)、10倍希釈系列作成し、シャーレに分注、寒天の流し込み後、インキュベータで48時間培養、コロニーのカウントを行い、所定の計算式により抗菌活性値を算出したものである。
(5)試験菌種
黄色ブドウ球菌・Staphylococcus aureus NBRC 12732
肺炎かん菌・Klebsiella pneumoniae NBRC 13277
大腸菌・Escherichia coli NBRC 3301
【0060】
前記試験においては、実施例の遮熱抗菌シート10は、図6の試験結果に示すように、黄色ブドウ球菌・肺炎かん菌・大腸菌の増殖に対して、好適な抗菌性能を発揮した。
【0061】
図5は前記遮熱抗菌シート20の引っ張り強度及び伸び率の試験結果を示す表である。
【0062】
図5に示す実施例の前記遮熱抗菌シート10の引張強度及び伸び率の試験は、JIS L 1096A法(ラベル遮熱ストリップ法)に基づいて、一般社団法人カケンテストセンターが行ったものである。
【0063】
前記引張強さ試験は、織物を引っ張った際の破断する強度を評価する物性試験であり、引張試験機により行われたものでる。試験片は50mm幅のものを引張試験機の上下のクランプに取り付け、上下のクランプ間は、200mm/分の速度で引っ張り、前記遮熱抗菌シート10が破断した時の最大値を、試験結果としている。なお、繊維生地の強度の一般的な目安は、200N(ニュートン)以上である。
【0064】
前記試験時には繊維生地の伸び率も同時に測定でき、 試験はたて方向とよこ方向で行い、所望の強度を持った生地かどうかの検査を行う。試料サイズは500mm×500mmであり、試料片を、つかみ間隔20cmに調整した引張試験機に試験片の両端を挟み荷重をかけます。切断した時の強さN(ニュートン)及び伸び率%を測定し、たて方向及びよこ方向それぞれ3回の平均値を算出した。
【0065】
試験結果は図5に示すとおり、たて1040N、よこ943Nと、良好な性能を示した。また、伸び率についても、たて20、8%、よこ26,5%の伸び率を示し、これも良好な性能を示した。
【0066】
以上のとおり、本発明にかかる前記遮熱抗菌シート10は、多層構造であっても、比較的少ない3層構造にて形成することができ、簡易かつ安価に製造でき、外気温が60℃程度に上昇しても内部空間を外気温から30℃以上低減させる遮熱性能を備るとともに、内部空間について抗菌機能を有し、農業用温室の屋内シートに使用する場合や病院や高齢者施設の温度管理及び抗菌性が必要とされる施設等の壁紙材や、建設工事の遮蔽シートとして使用する場合に好適なものとなる。
【0067】
なお、前記遮熱抗菌シートが使用される温室は農業用に限定されず、植物園等、他の用途に用いられるものであっても良い。
【符号の説明】
【0068】
10・・・遮熱抗菌シート
11・・・基材層
12・・・遮熱層
13・・・抗菌層

20・・・遮熱性能試験装置
21、22・・・紙官
21a・・・紙管21の端部
22a・・・紙管22の端部
23・・・連結部
24・・・送風空間
25・・・遮蔽空間
26、27・・・紙管21に取り付けられる温度計
28,29・・・紙管22に取り付けられる温度計

30・・・他の遮熱性能試験装置
31・・・熱線受光体(黒画用紙)
32・・・熱電対
33・・・試料ホルダー
34・・・レフランプ
図1
図2
図3
図4
図5