IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特開2023-163721流体デバイス電極作製方法、及び電極付きマイクロ流体デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163721
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】流体デバイス電極作製方法、及び電極付きマイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20231102BHJP
   B81C 99/00 20100101ALI20231102BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231102BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B81B1/00
B81C99/00
G01N37/00 101
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074806
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓亮
【テーマコード(参考)】
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA00
3C081AA17
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA23
3C081CA11
3C081CA31
3C081CA45
3C081DA10
3C081DA27
3C081EA27
3C081EA28
3C081EA29
4G075AA02
4G075AA27
4G075AA39
4G075AA56
4G075BA10
4G075BB10
4G075CA05
4G075CA14
4G075DA02
4G075DA18
4G075EA02
4G075EC21
4G075FA05
4G075FB02
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】流体デバイスの機能を拡張できること。
【解決手段】流体デバイス電極作製方法は、流路が形成された流体デバイスには電極として用いられる金属を導入するための金属導入用流路が形成されており、金属導入用流路の流入口に金属が載置され、かつ金属導入用流路の流出口が所定の範囲のガス透過率を有する蓋によって塞がれた状態において、流体デバイスを耐圧容器内に載置する工程と、耐圧容器を真空状態にする工程と、耐圧容器内に空気を流入させる工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路が形成された流体デバイスには電極として用いられる金属を導入するための金属導入用流路が形成されており、
前記金属導入用流路の流入口に前記金属が載置され、かつ前記金属導入用流路の流出口が所定の範囲のガス透過率を有する蓋によって塞がれた状態において、前記流体デバイスを耐圧容器内に載置する工程と、
前記耐圧容器を真空状態にする工程と、
前記耐圧容器内に空気を流入させる工程と
を有する流体デバイス電極作製方法。
【請求項2】
前記金属とは、低融点合金である
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項3】
前記ガス透過率の下限は、前記耐圧容器を真空状態にする工程において前記金属導入用流路の内部の空気を抜くことができるという条件によって決められ、前記ガス透過率の上限は、前記耐圧容器内に空気を流入させる工程において、前記耐圧容器の外部が大気圧に達する時期において前記金属導入用流路の内部を真空に近い状態に保持できるという条件によって決められる
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項4】
前記蓋の材質は、PDMSである
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項5】
前記流体デバイスの材質は、紫外線硬化樹脂である
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項6】
前記金属導入用流路の幅は、750マイクロメートル以下である
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項7】
前記金属導入用流路の形状は、3次元形状である
請求項1に記載の流体デバイス電極作製方法。
【請求項8】
対象物を流通させるためのマイクロ流路と、
前記マイクロ流路を流通する対象物に電場を印加する電極と、
を備え、
前記電極は、幅が750マイクロメートル以下である3次元形状である
電極付きマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記マイクロ流体デバイスの材質は、紫外線硬化樹脂である
請求項8に記載の電極付きマイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体デバイス電極作製方法、及び電極付きマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、微細加工技術を用いて、マイクロ流路や微小な反応チャンバを作製し、流体中の化学物質や細胞やリポソームなど粒子の分析、合成、検出を行うための装置の総称である。マイクロ流体デバイスはマイクロスケールの操作を流体中で行えることから、化学や生物学で幅広く利用されている。マイクロ流体デバイスによってLab on a chip(LOC)、Micro total analysis systems(MicroTAS、マイクロタス)などの技術分野が発展し、微細化学反応容器、遺伝子解析、細胞解析、ドラッグデリバリ、Point of care検査、Organ on a chip、合成生物学や人工細胞の創生といった様々な研究に寄与している。
【0003】
近年では、3次元造形技術の進歩により、3次元マイクロ流体デバイスが注目されている。従来の主流であるソフトリソグラフィ技術により作られるマイクロ流体デバイスと比較して、3次元マイクロ流体デバイスは、低予算で大量に作製することができる。中でも、3Dプリンタはマイクロ流体デバイスを1ステップで作製することができ、3Dプリンタの発展と普及によって、より多くの分野の専門家がマイクロ流体デバイスを使えるようになる。
【0004】
一方、近年、3次元マイクロ流体デバイスに電極を埋め込むことによって、3次元マイクロ流体デバイスの機能を大きく拡張することが求められている。しかしながら、3次元的に電極を配線する方法の提案は少ない。従来では、マイクロ流体デバイスに2次元的な電極パターンを張り合わせる方法、ワイヤ電極を流路に直接差し込む方法が主流であった。最も用いられる電極付きマイクロ流体デバイスの作製方法は、金属薄膜をパターニングした基板とソフトリソグラフィ技術で作製した流路を組み合わせる方法である。しかしながら、この従来方法は流路底面や上面に非常に薄い電極を設けているために、センシングできる空間的な制限や電場によって粒子にかかる力が弱まりやすいといった欠点がある。そこで、これまでに流路の高さと同程度の分厚い電極をソフトリソグラフィ技術によって作製した流路と組み合わせる方法が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Lab on a Chip」、2007年6月25日、2007年7号、1114-1120頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流体デバイスの流路に電極を配置することによって、流体デバイスの機能を拡張することが求められている。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、マイクロ流体デバイスの機能を拡張できる流体デバイス電極作製方法、及び電極付きマイクロ流体デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、流路が形成された流体デバイスには電極として用いられる金属を導入するための金属導入用流路が形成されており、前記金属導入用流路の流入口に前記金属が載置され、かつ前記金属導入用流路の流出口が所定の範囲のガス透過率を有する蓋によって塞がれた状態において、前記流体デバイスを耐圧容器内に載置する工程と、前記耐圧容器を真空状態にする工程と、前記耐圧容器内に空気を流入させる工程とを有する流体デバイス電極作製方法である。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記金属とは、低融点合金である。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記ガス透過率の下限は、前記耐圧容器を真空状態にする工程において前記金属導入用流路の内部の空気を抜くことができるという条件によって決められ、前記ガス透過率の上限は、前記耐圧容器内に空気を流入させる工程において、前記耐圧容器の外部が大気圧に達する時期において前記金属導入用流路の内部を真空に近い状態に保持できるという条件によって決められる。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記蓋の材質は、PDMSである。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記マイクロ流体デバイスの材質は、紫外線硬化樹脂である。
【0013】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記合金導入用流路の幅は、750マイクロメートル以下である。
【0014】
また、本発明の一態様は、上記の流体デバイス電極作製方法において、前記金属導入用流路の形状は、3次元形状である。
【0015】
また、本発明の一態様は、対象物を流通させるためのマイクロ流路と、前記マイクロ流路を流通する対象物に電場を印加する電極と、を備え、前記電極は、幅が750マイクロメートル以下である3次元形状である電極付きマイクロ流体デバイスである。
【0016】
また、本発明の一態様は、上記のマイクロ流体デバイスにおいて、前記マイクロ流体デバイスの材質は、紫外線硬化樹脂である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流体デバイスの機能を拡張できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの外観の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの外観の一例を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る耐圧容器の内部に載置されたマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る真空引きが行われたマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る大気開放が行われたマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る低融点合金が滴下されるマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る耐圧容器の内部に載置されたマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る大気開放が行われたマイクロ流体デバイスの一例を示す断面図である。
図9】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す図である。
図10】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す図である。
図11】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスに低融点合金を導入し電極を作製した一例を示す図である。
図12】本発明の第1実施例に係る図11に示した電極のうち部分を拡大した図を示す。
図13】本発明の第1実施例に係る微細な電極を作製した例を示す図である。
図14】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す図である。
図15】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す図である。
図16】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す図である。
図17】本発明の第1実施例に係るマイクロ流体デバイスを示す断面図である。
図18】本発明の第1実施例に係る電極作製方法によって電極を作製した結果を示す図である。
図19】本発明の第1実施例に係る電極作製方法によって電極を作製した結果を示す図である。
図20】本発明の第1実施例に係る電極作製方法によって電極を作製した結果を示す図である。
図21】本発明の第1実施例に係る初期差圧と低融点合金の導入速度との関係を示す図である。
図22】本発明の第1実施例に係る流量としての低融点合金の導入速度の時間変化を示す図である。
図23】本発明の第1実施例に係る低融点合金の充填率を示す図である。
図24】本発明の第1実施例に係る流入口から7.5mm毎の低融点合金の充填率を示す図である。
図25】本発明の第2実施例に係る電極によって電場を与えたマイクロビーズの移動の様子を示す図である。
図26】本発明の第2実施例に係るマイクロビーズの移動距離を電場の大きさを変えながら測定した結果を示す図である。
図27】本発明の第3実施例に係る電極付きマイクロ流体デバイスのマイクロ流路と、電極との構成を示す図である。
図28】本発明の第3実施例に係るマイクロ流路を通過するマイクロビーズの様子を示す図である。
図29】本発明の第3実施例に係る流路上の距離と蛍光の相対強度の関係を示す図である。
図30】本発明の第4実施例に係る3次元配置デバイスを示す図である。
図31】本発明の第4実施例に係る交流電圧を与えた電極間の中心にマイクロビーズが集まる様子を示す図である。
図32】本発明の第4実施例に係る3次元的に配列されたマイクロビーズをゲル上面からみた図である。
図33】本発明の第4実施例に係る3次元的に配列されたマイクロビーズをゲル側面からみた図である。
図34】本発明の第4実施例に係るマイクロビーズの平面方向と高さ方向におけるゲル壁面からの相対的な距離を示す図である。
図35】本発明の第5実施例に係る1面電極の配置を示す図である。
図36】本発明の第5実施例に係る3面電極の配置を示す図である。
図37】本発明の第5実施例に係る1面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す上面図である。
図38】本発明の第5実施例に係る1面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す断面図である。
図39】本発明の第5実施例に係る3面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す上面図である。
図40】本発明の第5実施例に係る3面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す断面図である。
図41】本発明の第6実施例に係るスフェロイドが流出口に移動する様子を示す図である。
図42】本発明の第6実施例に係るソーティングしたスフェロイドについて生死判別を行った結果を示す図である。
図43】本発明の第6実施例に係る各サンプルにおける生スフェロイドと死スフェロイドの割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1の外観の一例を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1の外観の一例を示す断面図である。
【0020】
本実施形態では、マイクロ流体デバイス1に電極を作製する方法である電極作製方法について説明する。本実施形態に係る電極作製方法では、真空導入方法を利用し、マイクロ流体デバイス1に低融点合金4を導入する。マイクロ流体デバイス1に作製される電極は、マイクロ流体デバイスに導入された低融点合金4である。なお、図1及び図2はそれぞれ、低融点合金4がマイクロ流体デバイス1に導入される前の状態を示す。
【0021】
マイクロ流体デバイス1は、一例として、3Dプリンタによって作製(造形)されている。マイクロ流体デバイス1の材質は、一例として、ポリメチルメタクリレート(Poly Methyl Methacrylate:PMMA)を主剤とする紫外線硬化樹脂である。マイクロ流体デバイス1は、所定以下のガス透過率を有し、ほとんど空気を透過させない。
【0022】
マイクロ流体デバイス1には、低融点合金導入部分が形成されている。低融点合金導入部分は、合金導入用流路2と、合金流入口3と、蓋作製部5とを含む。
【0023】
合金流入口3は、載置された低融点合金4を合金導入用流路2に流入させるための入り口である。合金流入口3の形状は、一例として、直径が5mmであり、高さが3.8mmの円錐である。合金流入口3の形状は、載置された低融点合金4をこぼさずに合金導入用流路2に注入できれば円錐以外であってもよい。合金流入口3は、合金導入用流路2の流入口21と接続されている。
【0024】
低融点合金4は、所定より低い融点を有する合金である。低融点合金4は、一例として、ビスマス、鉛、インジウム、スズ、カドミウムなどが混ぜ合わせられた合金、共晶ガリウム-インジウム(EGaIn)、またはUアロイなどである。低融点合金4の材質は、所定より低い融点を有していればいずれの低融点合金(液体金属ともいう)が用いられてもよい。低融点合金4の融点は、一例として、約47度である。
【0025】
合金導入用流路2は、低融点合金4を内部に流し込み、内部に電極を作製するための流路である。合金導入用流路2の形状は、マイクロ流体デバイス1の使用目的に応じて設計される。合金導入用流路2の形状は、一例として、3次元的(立体的ともいう)に設計される。図1から図2に示す例では、合金導入用流路2の形状は、四角柱である。
【0026】
蓋作製部5は、PDMS蓋6を作製するための部位である。蓋作製部5は、合金導入用流路2の流出口22と接続されている。
【0027】
PDMS蓋6は、蓋作製部5において作製されることによって流出口22を塞ぐ。PDMS蓋6は、所定の範囲のガス透過率を有する。PDMS蓋6は、合金導入用流路2の内部の空気を合金導入用流路2の外部へとゆっくりと透過させる。PDMS蓋6の材質は、一例として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。PDMS蓋6の形状は、一例として、厚みが約0.8mmの円板形状である。
【0028】
PDMS蓋6の材質は、所定の範囲のガス透過率を有しさえすれば、PDMS以外であってもよい。例えば、PDMS蓋6の材質は、PMSPであってもよい。PDMS蓋6の材質は、PDMSの側鎖のメチル基をエチル基、プロピル基、またはフェニル基などに置換した物質などであってもよい。
【0029】
なお、マイクロ流体デバイス1には、対象物を流通させるためのマイクロ流路が形成されてもよい。ただし、本実施形態では、電極作製方法を中心に説明するため、マイクロ流体デバイス1には、マイクロ流路は形成されていない。
【0030】
マイクロ流体デバイス1には、合金導入用流路2と、マイクロ流路との微細で複雑な形状の流路を造形する必要がある。そのため上述したように、マイクロ流体デバイス1は、3Dプリンタによって作製されている。当該3Dプリンタは、一例として、ステレオリソグラフィ式である。当該3Dプリンタは、DLP方式により、紫外線をプロジェクタから照射し、樹脂を重合することで造形を行う。紫外線レーザーを走査して造形を行うレーザーベースのステレオリソグラフィ式の3Dプリンタと比較して、DLP方式の3Dプリンタは複雑で小さな構造を多く含むデバイスを速く造形することができる。マイクロ流体デバイス1の造形に用いた3Dプリンタの解像度は10μmであり、積層高さは10μmから40μmである。
【0031】
マイクロ流体デバイス1は、所定以上の荷重たわみ温度(例えば、114度)を有する。所定以上の荷重たわみ温度とは、PDMS蓋6として用いられるPDMSの硬化させるための加熱温度(例えば、75度)、及び低融点合金4を導入させるための加熱温度(例えば、75度)においてもマイクロ流体デバイス1がたわまない程度の温度である。
【0032】
図3から図5を参照し、ガス透過率の低いマイクロ流体デバイス1への低融点合金4を導入する原理について説明する。
上述したように、本実施形態に係る電極作製方法では、真空導入方法を用いる。本実施形態に係る電極作製方法では、マイクロ流体デバイス1を耐圧容器7に入れ、真空引きにより真空状態にした後に、大気開放を行うことで、マイクロ流路である合金導入用流路2の内部と外部との間に圧力差を生じさせ、低融点合金4を導入する。
【0033】
なお、耐圧容器7は、第1バルブ71と、第2バルブ72とを備える。第1バルブ71が開かれ、第2バルブ72が閉じられると、真空ポンプ8により真空引きが行われる。第1バルブ71が閉じられ、第2バルブ72が開かれると、大気開放が行われる。
【0034】
図3に示すように、マイクロ流体デバイス1は、耐圧容器7の内部に載置されている。低融点合金4を導入する流入口21には低融点合金4が載置されている。流出口22は、PDMS蓋6によって塞がれている。ここで、大気圧をPairとする。耐圧容器7の内部の圧力をPoutとする。耐圧容器7の内部の圧力は、マイクロ流体デバイス1の外部の圧力(外圧)に相当する。合金導入用流路2の内部の圧力(内圧)をPinとする。
【0035】
図4に示すように、第2バルブ72を閉じ、第1バルブ71を開くことによって耐圧容器7の内部を真空状態にする。つまり、マイクロ流体デバイス1に対して真空引きを行う。このとき、始めにマイクロ流体デバイス1の外部の空気が瞬時に耐圧容器7の外部へと抜けてゆく。その結果、PoutとPvacとが等しくなる。ここで真空時の圧力をPvacとする。一方で、合金導入用流路2の内部の空気は、マイクロ流体デバイス1の外部の空気と比較してゆっくりとPDMS蓋6を通って耐圧容器7の外部へと抜けてゆく。PoutとPvacとが等しくなったのと同様にして、真空引き数十分後には、PinとPvacとが等しくなる。つまり、合金導入用流路2の内部も真空状態となる。
【0036】
図5に示すように、合金導入用流路2の内部とマイクロ流体デバイス1の外部とを真空状態にした後に、一気に大気開放すると、耐圧容器7の内部つまりマイクロ流体デバイス1の外部に空気が瞬時に流入する。その結果、マイクロ流体デバイス1の外圧は大気圧に達する。つまり、PoutとPairとが等しくなる。
【0037】
一方で、合金導入用流路2の内部への空気の移動は、PDMS蓋6を通して行われており、大気開放をした直後は合金導入用流路2の内部は空気で充満されない。そのため、大気開放直後の合金導入用流路2の内圧は真空状態に近く、PinとPvacとがほぼ等しくなる。これによって、大気開放直後には、合金導入用流路2の外圧は、合金導入用流路2の内圧よりも大きくなり圧力差が生じる。つまり、PoutがPinよりも大きくなる。この圧力差によって低融点合金4が押されて、低融点合金4が合金導入用流路2の内部に導入される。
【0038】
上述したように、マイクロ流体デバイス1は、微細で複雑な形状の流路を造形する必要があるため、3Dプリンタによって作製されている。マイクロ流体デバイス1の材質は、3Dプリンタによる造形が可能な紫外線硬化樹脂である。そのため、マイクロ流体デバイス1は、ガス透過率が低くほとんど気体を通さない。本実施形態に係る電極作製方法では、ゆっくりとガス交換を行うことができるPDMS蓋6が合金導入用流路2の流出口22に載置されている。これによって、ガス透過率が低くほとんど気体を通さないマイクロ流体デバイス1においても、真空引きによって、合金導入用流路2の内部と外部との間に圧力差を生じさせ、低融点合金4を導入する。
【0039】
次に図6から図8を参照し、低融点合金4の導入について説明する。低融点合金4の導入では、流路である合金導入用流路2の内部の表面処理は行わず導入を行った。
【0040】
まず、75℃のホットプレート(不図示)上で低融点合金4を液化した。次に、図6に示すように、PDMS蓋6を取り付けたマイクロ流体デバイス1を75℃のホットプレート(不図示)上で温めながら、マイクロピペット9のチップの先で低融点合金4を合金流入口3に滴下した。
【0041】
次に、耐圧容器7を75℃に温めた。図9に示すように、温めた耐圧容器7の内部に、低融点合金4を滴下したマイクロ流体デバイス1を載置した。真空ポンプ8の第1バルブ71を開放し真空引きを行った。ここで、マイクロ流体デバイス1の外圧が-100kPaになるまで真空引きを行った。マイクロ流体デバイス1の外圧は、圧力メーター(不図示)によって測定した。
【0042】
図8に示すように、真空引きを行ってから約30分後に、真空ポンプ8の第1バルブ71を閉じて、第2バルブ72を一気に開放した(大気開放)。大気開放により低融点合金4を合金導入用流路2の内部に導入した。合金導入用流路2の流入口21から流出口22まで低融点合金4が導入されている。
【0043】
低融点合金4を導入したマイクロ流体デバイス1をオーブンから取り出した。低融点合金4が冷めて固化する前に、流入口21に残った低融点合金4と導線を接続させてもよい。オーブンから取り出したマイクロ流体デバイス1は室温になるまで静置し、低融点合金4を固化させた。
【0044】
なお、第1バルブ71を開放し真空引きを開始してから、第1バルブ71を閉じて、第2バルブ72を開放し大気開放を行う工程は、マイクロ流体デバイス1の外圧が所定の圧力(例えば、-100kPa)以下になったことを確認した後、所定の時間(例えば、30分)だけ経過した後に行われる。マイクロ流体デバイス1の外圧が所定の圧力以下になってから大気開放を行うまでの所定の時間は、低融点合金4が合金導入用流路2内部に導入される速度を測定し予め決められる。
【0045】
本実施形態に係る電極作製方法によれば、作製される電極は、合金導入用流路2に導入された低融点合金4が固化したものである。そのため、作製される電極の形状は、合金導入用流路2の形状とほぼ同じである。また、作製される電極の大きさは、合金導入用流路2の大きさとほぼ同じである。合金導入用流路2は、3Dプリンタによって微細で複雑な形状の流路を造形することができる。そのため、本実施形態に係る電極作製方法によれば、微細かつ複雑な3次元形状である電極を作製できる。なお、マイクロ流体デバイス1は、3Dプリンタ以外の作製方法によって作製されてもよい。
【0046】
3次元形状とは、立体形状ともいう。3次元形状とは、厚さ(高さ)が長さ、及び幅に対して極端に薄くない形状をいう。つまり、3次元形状とは、ある1方向の長さが、他の2方向の長さに比べて極端に短くない形状をいう3次元形状とは、2次元形状と区別される。2次元形状(平面形状、フィルム形状などともいう)とは、例えば、長さ、及び幅に対して厚さが極端に薄い形状をいう。なお、合金導入用流路2の形状は、2次元形状であってもよい。
【0047】
なお、本実施形態では、電極として用いられる金属が、低融点合金である場合の一例について説明したが、これに限られない。電極として用いられる金属は、合金でなくてもよい。また、電極として用いられる金属は、流体デバイスに形成された金属を導入するための流路に導入できれば、低融点でなくてもよい。電極として用いられる金属は、例えば、金であってもよい。その場合、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法は、高温耐熱性の流体デバイスに金を流し込むことによっても、本実施形態と同様に適用できる。
【0048】
なお、本実施形態では、流路が形成された流体デバイスの一例として、マイクロ流体デバイス1について説明した。つまり、流体デバイスに形成された流路の幅が、マイクロメートルの程度である場合の一例について説明したが、これに限られない。流体デバイスに形成された流路の幅は、マイクロメートルの程度に限られず、マイクロメートルの程度よりも大きくてもよい。また、合金導入用流路の幅もマイクロメートルの程度よりも大きくてもよい。流体デバイスに形成された流路の幅、及びまたは合金導入用流路の幅がマイクロメートルの程度よりも大きい場合であっても、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法を適用可能である。
【0049】
本実施形態では、合金導入用流路2に流入口21、及び流出口22がそれぞれ1つずつ設けられる場合の一例について説明したが、これに限られない。合金導入用流路2には複数の流入口が設けられてもよい。また、合金導入用流路2には複数の流出口が設けられてもよい。つまり、合金導入用流路2は分岐を有する形状であってもよい。合金導入用流路2に複数の流入口が設けられる場合、複数の流入口それぞれについて合金流入口が設けられる。また、合金導入用流路2に複数の流出口が設けられる場合、複数の流出口それぞれについてPDMS蓋、及び蓋作製部が設けられる。
【0050】
以上に説明したように、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法では、流路が形成された流体デバイス(本実施形態において、マイクロ流体デバイス1)には電極として用いられる金属(本実施形態において、低融点合金4)を導入するための金属導入用流路(本実施形態において、合金導入用流路2)が形成されており、金属導入用流路(本実施形態において、合金導入用流路2)の流入口21に低融点合金4が載置され、かつ金属導入用流路(本実施形態において、合金導入用流路2)の流出口22が所定の範囲のガス透過率を有する蓋(本実施形態において、PDMS蓋6)によって塞がれた状態において、流路が形成された流体デバイス(本実施形態において、マイクロ流体デバイス1)を耐圧容器7内に載置する工程と、耐圧容器7を真空状態にする工程と、耐圧容器7内に空気を流入させる工程と、を有する。
【0051】
この構成により、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法では、流体デバイスの流路に電極を配置できるため、流体デバイスの機能を拡張できる。
【0052】
本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法は、3Dプリンタによって作製されたマイクロ流体デバイスに微小電極を配置するのに好適である。微小電極とは、例えば、幅が750マイクロメートル以下の電極である。また、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法では、合金導入用流路に微小電極の材料としての低融点合金を導入することによって微小電極を作製でき、合金導入用流路の形状はマイクロ流体デバイスを3Dプリンタによって作製することによって任意の3次元形状とできる。そのため、本実施形態に係る流体デバイス電極作製方法は、3次元形状の微小電極をマイクロ流体デバイスに配置するのに好適である。
【0053】
(第1実施例)
[電極付きマイクロ流体デバイスの作製例]
実施例として、上述した実施形態に係る電極作製方法によってマイクロ流体デバイスに電極が作製された例について説明する。
図9は、本実施例に係るマイクロ流体デバイス1aを示す図である。マイクロ流体デバイス1aは、合金導入用流路2aの形状は四角柱である。合金導入用流路2aの長さをL1とし、高さをH1とし、幅をW1とする。
【0054】
図10は、本実施例に係るマイクロ流体デバイス1bを示す図である。マイクロ流体デバイス1bは、合金導入用流路2bの形状は四角柱である。合金導入用流路2bは、狭窄な部分を有する。合金導入用流路2bの長さをL1とし、高さをH1とし、幅をW1とする。合金導入用流路2bのうち狭窄な部分の長さをL2とし、高さをH2とし、幅をW2とする。
【0055】
図11に、図9に示したマイクロ流体デバイス1aに、実施形態に係る電極作製方法によって低融点合金を導入し電極を作製した例を示す。図12図11に示した電極のうち部分R1を拡大した図を示す。部分R1の幅は、750μmである。
【0056】
また図13に示すように、合金導入用流路2の幅W1(または高さH1)に応じて、750μmよりもさらに狭い幅の微細な電極を作製できる。図13(A)に示す作製された電極の幅W1は500μmである。図13(B)に示す作製された電極の幅W1は250μmである。
【0057】
また、図10に示したマイクロ流体デバイス1bに、実施形態に係る電極作製方法によって低融点合金を導入し電極を作製した。当該電極のうち狭窄な部分を拡大した図を図13(C)、(D)、(E)に示す。図13(C)に示す作製された電極では、幅W1は250μmであり、幅W2は200μmである。図13(D)に示す作製された電極では、幅W1は250μmであり、幅W2は150μmである。図13(E)に示す作製された電極では、幅W1は250μmであり、幅W2は50μmである。
【0058】
次に、上述した実施形態に係る電極作製方法によって、3次元的に配線された流路へ低融点合金を導入であることを示すため様々な3次元形状の電極の作製例を示す。
図14は、本実施例に係るマイクロ流体デバイス1cを示す図である。マイクロ流体デバイス1cは、合金導入用流路2cの形状は、曲がり角を有する形状(折れ線の形状)であり、かつ折れ線の一部の辺が他の辺とは異なる高さに配置された3次元形状である。
【0059】
図15は、本実施例に係るマイクロ流体デバイス1dを示す図である。マイクロ流体デバイス1dでは、合金導入用流路2dの形状は、螺旋形状(コイル形状)である。合金導入用流路2dは、円筒形状のマイクロ流路11dの周りに巻かれるように作製されている。
【0060】
図16は、本実施例に係るマイクロ流体デバイス1eを示す図である。図16(A)に示すように、マイクロ流体デバイス1eでは、合金導入用流路2eの形状は、マイクロ流路11eの内部に複数の円柱(ピラー)が並べられた3次元形状である。図16(B)に、図16(A)に示したマイクロ流路11eのうち部分R2を拡大した図を示す。図17にマイクロ流体デバイス1eの断面図を示す。ピラー形状の電極を作製するためのマイクロ流路11eとは、流路が分岐し分岐先が行き止まりとなっている形状(行き止まり形状ともいう)である。行き止まりは、図17に示すピラーの円柱形状の上面である。
【0061】
図14から図16に示したように設計したマイクロ流体デバイスをそれぞれ3Dプリンタで造形した。造形したマイクロ流体デバイスの合金導入用流路の流出口にPDMSの蓋を取り付け、75℃、90分間、真空オーブン中で真空引きをして、低融点合金を導入した。その後、マイクロ流体デバイスを観察し、低融点合金の導入を確認した。
【0062】
図18に、図14に示したマイクロ流体デバイス1cに、実施形態に係る電極作製方法によって低融点合金を導入し電極を作製した例を示す。合金導入用流路が互いに異なる高さの部分からなる場合であっても、低融点合金が重力の影響などで導入ができなくなることはなかった。実施形態に係る電極作製方法によって、3次元配線電極付きマイクロ流体デバイスのアレイ化電極のように、電極を3次元的に配線することによって集積などして、マイクロ流路への電極の配置の自由度を上げることができると考えられる。
【0063】
図19に、図15に示したマイクロ流体デバイス1dに、実施形態に係る電極作製方法によって低融点合金を導入し電極を作製した例を示す。合金導入用流路が螺旋形状である場合であっても、合金導入用流路に低融点合金を導入できることが確かめられた。螺旋形状の電極によってマイクロ流路の内部の温度制御などへの応用が期待できる。
【0064】
図20に、図16に示したマイクロ流体デバイス1eに、実施形態に係る電極作製方法によって低融点合金を導入し電極を作製した例を示す。図20(B)に、図20(A)に示した電極のうち部分R3を拡大した図を示す。
従来では、センサなどに利用されるマイクロピラー電極は、金属を積層蒸着することなどで作製されていた。しかしながら、この従来の方法では3次元形状のマイクロ流路の内部にマイクロピラー電極を併設することは難しかった。実施形態に係る電極作製方法では、行き止まり形状の流路にも低融点合金をしっかりと導入でき、直径200μmのマイクロピラー電極を作製することができた。
【0065】
3Dプリンタで作製した流路に液体金属を流し込む方法をはじめとする従来方法では比較的簡単で大きな流路幅の電極デザインに限定されていた。一方、実施形態に係る電極作製方法では、上述したような複雑な3次元形状の微小電極を作製することができる。実施形態に係る電極作製方法では合金導入用流路の内部の空気を抜いてから低融点合金を導入しているため、3次元配線電極などの曲がり角の多い形状、またはピラーなどの行き止まり形状を持つ場合でも、低融点合金を合金導入用流路に導入できる。
【0066】
本実施例に示したように、実施形態に係る電極作製方法は、従来方法より幅広いデザインの電極を作製することができる。実施形態に係る電極作製方法では、従来方法と比べて小さい様々な形状の電極を作製することができるため、微小電極を3次元的に配置したバイオセンサ、または3次元的な微小粒子を操作することによる人工組織の構築への応用が期待される。
【0067】
[導入速度及び充填率]
次に、実施形態に係る電極作製方法における低融点合金の合金導入用流路への導入速度及び充填率について説明する。
電極の作製においてマイクロ流路と電極を直接接触させる場合には、低融点合金をマイクロ流路に導入させてしまわないように、低融点合金の導入速度を下げる必要がある。そこで、初期差圧を下げることによって低融点合金の導入速度を下げることができるかを調べた。初期差圧は、真空引きを完了した時における耐圧容器の内部の圧力(合金導入用流路が形成されているマイクロ流体デバイスの外圧に相当する)と大気圧との差である。
【0068】
図21は、本実施例に係る初期差圧と低融点合金の導入速度との関係を示す図である。合金導入用流路の全長をLとする。合金導入用流路の流入口から低融点合金が導入された位置までの長さをLtとする。低融点合金導入率は、Lに対するLtの割合である。図21に示す2つグラフはそれぞれ、低融点合金導入率の大気開放後の時間変化を示す。一方のグラフは、初期差圧が-100kPaである場合の低融点合金導入率の時間変化を示す。他方のグラフは、初期差圧が-50kPaである場合の低融点合金導入率の時間変化を示す。
【0069】
初期差圧が-100kPaの場合は、大気開放後に低融点合金の導入が開始されるまでに約40msecかかった。一方、初期差圧が-50kPaの場合は、大気開放後に低融点合金の導入が開始されるまでに約100msecかかった。これは、初期差圧が低いほど、大気流入あたりの合金導入用流路の内外の圧力の変化が小さく、大気開放後に合金導入用流路の流入口から測定開始点までに低融点合金が流れるのに時間がかかるためであると考えられる。
【0070】
また、初期差圧が-100kPaの場合には低融点合金の導入に約100msecかかる。一方、初期差圧が-50kPaの場合には約400msecかかった。これも同様に初期差圧が低いほど合金導入用流路の内外に生じる圧力差が小さく低融点合金が押し出される力が弱くなるためであると考えられる。この結果から合金導入用流路の全体において、初期差圧が小さいほど低融点合金の導入に時間がかかることがわかった。
【0071】
低融点合金の導入速度を流量として、この流量の時間変化を図22に示した。初期差圧が-100kPaの場合と初期差圧が-50kPaの場合とのそれぞれにおいて、低融点合金は導入されるとある程度一定の流量で流れることがわかった。初期差圧が-50kPaの場合における低融点合金の平均流量は21±7μL/secであった。初期差圧が-50kPaの場合の流量は初期差圧が-100kPaの場合の流量の約5分の1であった。
【0072】
図21に示した結果と、図22に示した結果とから、初期差圧を下げることで低融点合金の導入速度を下げることができることがわかった。なお、低融点合金の導入を制御するために、初期差圧は-100kPaのままで合金導入用流路の抵抗を大きくするなどしてもよい。
【0073】
上述したように実施形態に係る電極作製方法においては、PDMS蓋が用いられる。蓋の材料がPDMSであることが低融点合金の導入に寄与していることを示すために、3つの条件について、低融点合金の充填率を測定した。3つの条件とは、蓋が無く穴A1が空いている場合、PDMS製の蓋A2の場合、及び3Dプリンタ樹脂製の蓋A3の場合である。
【0074】
蓋が無く穴A1が空いている場合は、低融点合金の導入が合金導入用流路の流入口から途中で止まり、最後(流出口)まで低融点合金は導入されなかった。PDMS製の蓋A2の場合は、低融点合金を合金導入用流路の全体に導入することができた。3Dプリンタ樹脂製の蓋A3の場合は、空気が生じて低融点合金の導入が途中で止まるなど低融点合金が流路全体に導入することができなかった。
【0075】
図23に示すように、上述した3つの条件それぞれにおいて低融点合金の充填率を算出し比較した。3つの条件それぞれについて、低融点合金の導入は複数回行われ、充填率は複数回測定された。
PDMS製の蓋A2の場合は、低融点合金の充填率は1.0であり、低融点合金は合金導入用流路の流入口から流出口まで導入された。
【0076】
蓋が無く穴A1が空いている場合は、低融点合金の導入率は0.15±0.07であり、3つの条件の中で導入率は最も低かった。これは、蓋がなく穴A1が空いている場合は、真空引き後の大気開放によって合金導入用流路に空気がすぐさま入り込み、合金導入用流路の内部の圧力を真空状態に保つことができずに、外部との圧力差を作れなくなるためである。つまり、蓋のガス透過率が高すぎる場合は、空気の流入によって導入時の合金導入用流路の内外の圧力差を保てずに、低融点合金の導入が途中で止まってしまうと考えられる。
【0077】
3Dプリンタ樹脂製の蓋A3の場合は、充填率は0.40±0.30であり、複数回の測定について、充填率の平均は3つの条件の中で2番目に低い値であり、充填率のばらつきは最も大きかった。3Dプリンタ樹脂製の蓋A3の場合は、真空引きの時に合金導入用流路の内部から空気を蓋部分から抜くことができず、大気開放時に合金導入用流路の内外に適切な圧力差が作られず、低融点合金を完全に導入することができないためである。また、充填率のばらつきが大きく、低融点合金が一部分のみに導入されるのは、真空引きの際に流路内部空気が低融点合金に入り込むため、及びまたは流路中に空気が残存するためであると考えられる。つまり、蓋の材料のガス透過率が非常に低い場合は、低融点合金または合金導入用流路の内部に空気が残存し、残存した空気によって低融点合金の導入が部分的になり電極を断線させてしまうと考えられる。
【0078】
図23に示す結果から、蓋の材料のガス透過率が低融点合金の導入に影響を与えることがわかった。蓋のガス透過率が高すぎる場合でも、低すぎる場合でも低融点合金は、合金導入用流路の流入口から流出口まで導入されない。つまり、実施形態に係る電極作製方法においては、蓋のガス透過率が所定の範囲にない場合、低融点合金の導入によって電極を作製することが困難であることがわかった。
【0079】
実施形態に係る電極作製方法において用いられる蓋には、時間をかければ真空引きによって流路内部の空気を抜くことができ、大気開放し外部が大気圧に達する時には合金導入用流路2の内部を真空に近い状態に保持できる所定の範囲のガス透過率の素材が適している。
【0080】
蓋のガス透過率の下限は、時間をかければ真空引きによって合金導入用流路2の内部の空気を抜くことができるという条件によって決まる。真空引きによって流路内部の空気を抜くために要する時間は、電極作製に必要とされる時間以下であればよい。一方、蓋のガス透過率の上限は、大気開放し外部が大気圧に達する時には合金導入用流路2の内部を真空に近い状態に保持できるという条件によって決まる。
【0081】
したがって、蓋のガス透過率の下限は、耐圧容器7を真空状態にする工程において合金導入用流路2の内部の空気を抜くことができるという条件によって決められ、蓋のガス透過率の上限は、耐圧容器7内に空気を流入させる工程において、耐圧容器7の外部が大気圧に達する時期において合金導入用流路2の内部を真空に近い状態に保持できるという条件によって決められる。
【0082】
このようなガス透過率を有する材料としては、上述したPDMSが好適である。低融点合金を導入するためには蓋のガス透過率がPDMSのガス透過率程度であることが好ましい。3Dプリンタ樹脂製の蓋の主成分であるPMMAは、ガス透過率がPDMSより1000分の1程度低い。図23に示す結果によれば、蓋のガス透過率がPDMSのガス透過率よりも1000分の1程度低い場合は導入できないこと示唆された。
【0083】
次に、合金導入用流路の長さの低融点合金の充填率への影響を調べた。一般的なマイクロ流体デバイスでは、その流路の流入口から流出口までが数cm四方に収まり、配線や電源との接続のために電極も流路と同程度の長さまで延ばされることが多い。また、3次元に電極を配線し設置する場合は、単位面積当たりの電極長は長くなる。実施形態に係る電極作製方法によって作製することができる電極の長さを調べることは非常に重要である。
【0084】
合金導入用流路の長さ(つまり、電極の長さ)がそれぞれ15mm、30mm、及び45mmであるマイクロ流体デバイスに低融点合金を導入した。全ての長さにおいて低融点合金の導入が確認された。各電極の長さにおいて、流入口から7.5mm毎の低融点合金の充填率を図24に示す。図24に示すグラフによれば、数cm程度まで高い(95パーセント以上)充填率が維持されていることがわかる。図24に示すグラフからわかるように、いずれの電極の長さにおいても、流入口からの距離が長くなることによって、低融点合金の充填率が著しく低下することはなかった。実施形態に係る電極作製方法では、真空引きにより合金導入用流路の空気がないため通常よりも流体の圧力損失が小さくなる。そのため、45mmの長さまでは低融点合金の導入は長さの影響を受けにくいと考えられる。
【0085】
このように、実施形態に係る電極作製方法では、数cm長の微小電極が作製できる。そのため、実施形態に係る電極作製方法では、マイクロ流体デバイスに統合するために配線を長くしても断線を起こすことなく電極が設置できる。
【0086】
(第2実施例)
本実施例では、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極付きマイクロ流体デバイスによって、3Dプリンタ製のマイクロ流路において粒子を操作できることを示すために、誘電泳動によるマイクロビーズの操作を行った。本実施例では、負の誘電泳動(nDEP)によってマイクロ流路を流れるマイクロビーズの操作の実験結果について説明する。
【0087】
マイクロ流路を流れるマイクロビーズにマイクロ流路に接続された微小な電極20によって電場を与えた。その結果、図25(A)に示すように電極20近傍側を流れるマイクロビーズが押し出され、図25(B)に示すようにこのマイクロビーズを電極20から離れるように移動させることができた。マイクロビーズが移動した方向は電場が弱まる方向である。また、電場を与えた時のみに移動が起こった。これらのことから、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極20によってnDEPによるマイクロビーズの操作が行われたことがわかる。
【0088】
本実施例では周波数を3MHzの交流電圧を付加した。従来技術によれば、純水中での直径10μmのポリスチレンマイクロビーズは106-103Hzの範囲でnDEPを示す。本実施例でも同様にnDEPを示すことが確認できた。また、周波数を変化させた実験においてもマイクロビーズのnDEPを確認しており、本実施例の3次元配線電極付きマイクロ流体デバイスでは、従来技術による微粒子操作と同様な誘電泳動を引き起こすことができる。
【0089】
次に、マイクロビーズの移動距離を電場の大きさを変えながら測定した結果を図26に示す。ここで図25に線L1で示したように、マイクロビーズが電極20を通過する前後において電極20側から反対側への移動方向を正の移動方向とした。与える電圧を大きくするとマイクロビーズの移動距離は大きくなった。本実施例での最大電圧である120Vにおいて、マイクロビーズの移動距離は、電極20から76±10μm(平均±標準偏差)であり流路幅の約半分程まで移動させることができた。
【0090】
100Vまでは電圧の大きさに応じてマイクロビーズの移動距離が大きくなった。一方、100Vと120Vでは移動距離が100Vまでの移動距離ほどは大きく変わらなかった。電圧を大きくすれば移動距離が大きくなるが、移動距離が大きくなることに伴ってマイクロビーズは電極20から離れ電場が弱まる。そのため、移動距離は減衰し、移動距離の上限に達するためであると考えられる。
【0091】
このように電場の大きさを変えることでマイクロビーズの移動度を制御することができた。この結果から、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極付きマイクロ流体デバイスによって、3Dプリンタ製のマイクロ流路中で粒子の操作が可能であることが示された。
【0092】
(第3実施例)
本実施例では、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極付きマイクロ流体デバイスによって、3Dプリンタ製のマイクロ流路において粒子を操作できることを示すために、マイクロビーズのフォーカシング実験の結果について説明する。
【0093】
図27に、本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスのマイクロ流路と、電極との構成を示す。本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスは電極と流路の距離を制御するために、PDMS片を挿入することで低融点合金が流路壁で止まるように制御しながら作製した。また、本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスでは、マイクロビーズに連続的に誘電泳動力を与えるために200μmの電極を100μmの間隔で5対アレイ化させた電極30を作製した。電極30に3MHz、100Vの交流電圧を与えマイクロビーズの電極接続領域の通過前後での動きを観察した。
【0094】
電場を与えてない場合、マイクロビーズは流路中で拡散して移動した。一方、電場を与えた場合、マイクロビーズは電極接続領域を通過していくにつれてマイクロ流路の中心付近に集まるように軌道を変えた。その結果、図28に示すように、電極接続領域の通過後のマイクロビーズは流路中の中心付近に多く流れていた。図28では、マイクロビーズのマイクロ流路の長さ方向の位置に応じて、図27に示したマイクロ流路がマイクロ流路の長さ方向について部分毎に示されている。
【0095】
電極接続領域の通過後のマイクロビーズは流路中の中心付近に多く流れていた理由は、第2実施例において説明したように、電極30から与えられた電場によるnDEPによってマイクロビーズが電極30付近から遠ざかるように移動したためである。第2実施例の電極付きマイクロ流体デバイスと異なり、本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスでは流路の両側にnDEPを起こす電極30が設置されている。そのため、マイクロビーズが流路の両側から押し出されるため、結果としてマイクロビーズが中心に集まり、フォーカシングができたと考えられる。
【0096】
次に、本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスのフォーカシングを評価した結果について説明する。まず、250μmの流路幅のデバイスで本実施例と同様にマイクロビーズのフォーカシングを行った。フォーカシングの過程において、流路の電極接続領域の前後での通過するマイクロビーズの緑色蛍光を検出した。検出した緑色蛍光の強度を標準化することで本実施例の電極付きマイクロ流体デバイスのフォーカシングを評価した。
【0097】
電場を与えていない場合は電極接続領域の前後で流路を流れる蛍光標識したマイクロビーズの分布に大きな変化はなく、流路全体に広がって流れているような分布となった。
一方、図29に、電場を与えた場合の流路上の距離と蛍光の相対強度の関係を示す。図29に示すように、電場を与えた場合は電極接続領域の前後で流路を流れる蛍光標識したマイクロビーズの分布が変わった。その結果、一部分に多くのビーズが流れているような分布となった。この結果から、流路壁からの距離が約60μmから120μmの間に位置にマイクロビーズが集中していることがわかった。
【0098】
このように、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極付きマイクロ流体デバイスでは、3次元的に微小電極を集積化でき、3Dプリンタ製のマイクロ流路中でマイクロビーズのフォーカシングにより精緻な粒子操作に利用できることが確認された。また、フォーカシングデバイスのように複数の電極により形成される電場で粒子の流路中での位置をより精密に操作を行う場合は電極位置の制御が重要である。本実施例ではPDMS片を利用することで流路と接続された電極の位置を正確に制御することができた。なお、PDMS片を利用する制御では、開放されている流路底面部がしっかりと塞がれることが好ましい。
【0099】
(第4実施例)
本実施例では、実施形態に係る電極作製方法で作製された電極付きマイクロ流体デバイスによって、マイクロ流路を流れる粒子を3次元的に配列する場合について説明する。本実施例では、アガロースゲル中でマイクロビーズを3次元的に配列し、ゲル中への包埋を行った。図30に示すように、本実施例の3次元配置デバイス1fはオープンチャンバデバイスである。チャンバ11fの周りに電極10fが3次元に配線された。3次元に配線された電極10fにより不均一電場が形成され、誘電泳動力が生じ、チャンバ11f内のマイクロビーズ12fが配列する。ここで流路としてのチャンバ11の壁面の上下左右の四か所に設置された電極10fに極が対角となるように電源につなぎ電場を与えた。アガロースゲル中でマイクロビーズ12fを配列した後に、ゲル化処理を行い、ゲル中に3次元的に配列したマイクロビーズ12fを包埋した。
【0100】
3次元配置デバイス1fにマイクロビーズを滴下すると、図31に示すように、交流電圧を与えた電極10f間の中心にマイクロビーズが集まる様子が確認された。マイクロビーズが中心に配置された後にアガロースゲルをゲル化し、交流電源を停止した後もマイクロビーズは電極10f間の中心に配置された。この結果から、3次元配置デバイス1fによって純水より粘性の高いアガロースゲル溶液中でも粒子を動かすことができ、その後ゲル化処理を行うことで粒子を電場によって配置した位置に保持することができるとわかった。
【0101】
次に、アガロースゲルを3次元配置デバイス1fから取り出し、ゲル上面とゲル側面からマイクロビーズの観察を行い、3次元的にマイクロビーズが配列していることを確かめた。図32は、本実施例に係る3次元的に配列されたマイクロビーズをゲル上面からみた図である。図33は、本実施例に係る3次元的に配列されたマイクロビーズをゲル側面からみた図である。図32及び図33に示すように、ゲル上面、及び側面の両方において、マイクロビーズはゲルの両方の壁面から中心に直線状に配列していた。このことから、3次元配置デバイス1fによって、アガロースゲル中でマイクロビーズが3次元的に配列されていることができるとわかった。
【0102】
上述したように、チャンバ11の壁面の上下左右の四か所に設置された電極10fに極が対角となるように電源につなぎ電場を与えた。この場合nDEPによってマイクロビーズは電場の弱くなる中心に集まるため、3次元配置デバイス1fでは3次元的にフォーカシングされるようにマイクロビーズが配列したと考えられる。また、取り出したゲルの大きさが流路幅より大きくなっていた。これは、取り出す際にゲルを純水中に浸けているためにゲルが膨潤した影響であると考えられる。
【0103】
アガロースゲル中に3次元的に配列したマイクロビーズのゲル壁面からの距離を、平面方向と高さ方向において測定した。図34にマイクロビーズの平面方向と高さ方向におけるゲル壁面からの相対的な距離を示した。相対値で表しているため、図34に示す相対位置では、「1」 はゲルの反対側の壁面位置していることを意味し、「0.5」はゲルの中心に位置していることを意味する。
【0104】
平面方向において、マイクロビーズの相対位置は0.52±0.02であり、マイクロビーズは平面方向にはゲルのほぼ中心に配列していることがわかった。平面方向においては、マイクロビーズの相対位置は0.46±0.01であり、マイクロビーズは高さ方向においてもゲルのほぼ中心に配列していることがわかった。高さ方向で相対位置が少し低く、中心からゲル底面に少しだけ寄っているのはマイクロビーズが重力の影響で沈むためだと考えられる。したがって、4つの電極10fにかかる電圧を下側の電極対が大きくなるように調整すれば、マイクロビーズへの重力の影響をより小さすることが可能であると考えられる。本実施例では、平面方向、及び高さ方向のいずれからみてもマイクロビーズはゲルの中心位置しており、3次元的に中心に位置するように配列されていることがわかった。
【0105】
従来、ゲル中での粒子の3次元的な位置操作は、細胞をゲルの中心に配列させる細胞ファイバ技術などに見られるように、3次元マイクロ流体デバイスを用いて層流によりゲルの中心に目的の粒子を流しゲルを固める方法が主流であった。しかしながら、この従来方法では流れるゲルを瞬時に固める必要があり、利用できるゲルの種類が限られていた。
【0106】
一方、実施形態に係る電極作製方法によって作製された3次元配置デバイス1fを用いれば、ゲルが固まるまで電場によって粒子を3次元的に配列させることができるため、利用できるゲルの種類が広がると考えられる。本実施例により、3次元配置デバイス1fはゲル中での粒子の3次元的な操作を可能にし、将来的に3次元組織構築などへの応用が期待され、医療生命分野での有用な技術となることが示唆された。
【0107】
(第5実施例)
ダブルエマルジョン生成時に多くの微小油滴が生成されてしまうという問題がある。そこで、本実施例では、微小油滴のソーティングを行うために3次元配線した電極付きマイクロ流体デバイスを作製した。
【0108】
図35は、本実施例に係る1面電極の配置を示す図である。図35に示す電極の配置では、マイクロ流路11gの4つの壁面のうち片側の側壁に電極10gが配置されている。1面に電極10gが配置された電極付きマイクロ流体デバイスでは、電極10gから離れた位置では電場の大きさが減衰してゆく。そのため、ソーティング対象の粒子(図35では、微小油滴12g)が大きくなり、流路幅が広くなるほど、粒子を動かすのに大きな電圧をかける必要がある。
【0109】
図36は、本実施例に係る3面電極の配置を示す図である。図36に示す電極の配置では、マイクロ流路11hの4つの壁面のうち3つの壁面(上面、下面、及び片方の側面)に電極10hが配置されている。3面に電極10hが配置電極付きマイクロ流体デバイスでは、電極10hが設置された流路壁面から離れることによる電場の減衰が1面電極の場合に比べて小さい。そのため、流路幅が広くなっても効率的に電場を与えられると考えられる。
【0110】
1面電極デバイスと3面電極デバイスそれぞれについて電場のシミュレーションを行った。図37は、本実施例に係る1面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す上面図である。図38は、本実施例に係る1面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す断面図である。図39は、本実施例に係る3面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す上面図である。図40は、本実施例に係る3面電極デバイスでの電場のシミュレーション結果を示す断面図である。なお図37から図40には、上面図と断面図との対応をわかりやすくするため、三次元直交座標系であるXYZ直交座標系を示してある。
【0111】
図37から図40には、誘電泳動力は電場の大きさの2乗の勾配に依存するため、電場のシミュレーション結果として、それぞれのデバイスにおける電場の大きさの2乗の値が示されている。図37及び図38に示すように、1面電極デバイスでは電極に近い場所で局所的に強い電場がかかり、流路壁から離れるとすぐに電場は弱まっていくことがわかった。一方で、3面電極デバイスでは1面電極デバイスほど局所的に強い電場は生じないが、電極が覆っている領域においては電極の設置された流路壁から離れても1面電極デバイスより電場の減衰が小さく、広域に電場を与えられていることがわかった。
【0112】
これらのシミュレーション結果から、1面電極デバイスよりも3面電極デバイスの方が、粒子が電極を設置した壁面から離れても、強い電場を与えることがわかる。そのため、1面電極デバイスよりも3面電極デバイスの方が、粒子をより大きな距離移動させることができる。
【0113】
また、高さ方向(Z軸方向)の電場を見てみると、1面電極デバイスでは電場の中央では電場が強く、流路上面と底面では電場が弱くなっていた。3面電極デバイスでは流路上面と底面と比較して中央において電場が少し弱くなっていた。これは3面電極デバイスでは上面の電極と底面の電極と側面の電極とは互いに異なる極に繋がれており、断面図で見た時の流路の隅は電極間距離が近くなり、側面の電極の中央に相当する高さでは電極同士の距離が遠くなるためであると考えられる。
【0114】
微小油滴は流路中で浮くため、3面電極デバイスにおいてはより電場が強くかかる領域を流れていくと考えられるが、流路中心で比較しても3面電極デバイスの方が電極設置壁面から離れた位置においても電場が強く与えられており、粒子の流れる高さのみが影響して3面電極デバイスのほうが効果的に働いているわけではないと考えられる。これらのことから、流路を覆うように電極を3次元的に配線することで電極を設置した流路壁から離れる方向における電場の減衰を小さくし、より大きく粒子を動かすことがきるようになると考えられる。
【0115】
従って、本実施例で作製された3次元配線電極デバイスは、ソーティングに大きな移動距離が必要となる比較大きな微小粒子のソーティングや低電圧で効率的なソーティングに有用であると考えられ、細胞を封入したビーズやスフェロイドなどの粒子を用いる組織工学等の研究にも利用できると考えられる。
【0116】
(第6実施例)
本実施例では、3面電極が配置された電極付きマイクロ流体デバイスを用いてスフェロイドのソーティングを行った。本実施例に係る3面電極デバイス1iでは、実施形態に係る電極作製方法を用いてマイクロ流路11iに3面電極である電極10iが配置されている。3面電極である電極10iの配置は、第5実施例に係る3面電極の配置(図36)と同様である。
【0117】
3面電極デバイス1iにスフェロイドを流して誘電泳動を行った。3面電極デバイス1iによって、ラベルフリーで生スフェロイドと死スフェロイドとを分取するソーティングを実証するために、生スフェロイドと死スフェロイドを分取することができる電場条件を調べた。その結果、100V、1MHzの条件で生細胞を多く含むスフェロイドと死細胞を多く含むスフェロイドが別々の流出口に移動することがわかった。
【0118】
図41は、本実施例に係るスフェロイドが流出口に移動する様子を示す図である。図41(A)、(B)、(C)では、生細胞を多く含むスフェロイドである生スフェロイドが下側の流出口に移動する様子が連続写真として撮像されている。図41(D)、(E)、(F)では、死細胞を多く含むスフェロイドである死スフェロイドが上側の流出口に流れる様子が連続写真として撮像されている。図41では、100V、1MHzの電場を与えた場合の結果である。
【0119】
図42は、本実施例に係るソーティングしたスフェロイドについて生死判別を行った結果を示す図である。図42に示す結果は、等量の生スフェロイドと死スフェロイドを流路に流し、電場を与えソーティングを行い、回収したサンプルを染色し生死判別を行った結果である。蛍光顕微鏡によってサンプルから発出される蛍光を観察した。図42(A)、(B)、(C)に示すように、生スフェロイドは緑色の強い蛍光が生じる。図42(D)、(E)、(F)に示すように、死スフェロイドは赤色の強い蛍光が生じる。図42(A)、(D)は、ソーティング前の流入口での観察結果である。図42(B)、(E)は、死スフェロイドを回収するための上側の流出口(図41参照)での観察結果である。図42(C)、(F)は、生スフェロイドを回収するための下側の流出口(図41参照)での観察結果である。
【0120】
図43に、各サンプルにおける生スフェロイドと死スフェロイドの割合を示す。ソーティング前のサンプルには生スフェロイドは約47%含まれ、死スフェロイドは約53%含まれていた。死スフェロイドを回収するための上側の流出口より回収したサンプルには、生スフェロイドは約13%含まれ、死スフェロイドは約87%含まれていた。生スフェロイドを回収するための下側の流出口より回収したサンプルには、生スフェロイドは約96%含まれ、死スフェロイドは約4%含まれていた。
【0121】
このことから、本実施例に係る3面電極デバイス1iを用いて、ラベルフリーで生スフェロイドと死スフェロイドを分取するソーティングができることがわかった。通常のスフェロイド作製方法ではスフェロイドが培養時に死んでしまうことがあるため、移植などを目的としたスフェロイド作製時にはラベルフリーで生細胞を効率的に分取する必要がある。本実施例に係る3面電極デバイス1iでは、細胞へのダメージが少ないより低電圧でのソーティングを実現できる。本実施例に係る3面電極デバイス1iは組織工学をはじめとした医療分野において好適に用いられる。
【0122】
上述した各実施形態によれば、実施形態に係る電極作製方法によって作製される電極付きマイクロ流体デバイスは、対象物を流通させるためのマイクロ流路と、マイクロ流路を流通する対象物に電場を印加する電極と、を備え、電極は、幅が750マイクロメートル以下である3次元形状である。
また、マイクロ流体デバイスは3Dプリンタによって造形されており、マイクロ流体デバイスの材質は、紫外線硬化樹脂である。
【0123】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0124】
1…マイクロ流体デバイス、4…低融点合金、2…合金導入用流路、21…流入口、22…流出口、6…PDMS蓋、7…耐圧容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43