(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163760
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ヘミング加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 39/02 20060101AFI20231102BHJP
B21D 19/08 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B21D39/02 E
B21D19/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074879
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正敏
(57)【要約】 (修正有)
【課題】曲部の歪集中を抑制できるヘミング加工の製造方法を提供する。
【解決手段】第1押さえ部材と第2押さえ部材との間に第1板材の一部を配置し近接するように一方を押圧する保持工程と、第1押さえ部材の断面は一部が第1板材と接する曲率半径10mm超の第1外形線と、端点Aの曲率半径(RA)10mm以下の第2外形線と、端点Bの曲率半径(RB)10mm超の第3外形線と、を含み、接線LAと、接線LBと、の角度θ1が70~100°、且つRA<RBを満たす断面Sを含む工程と、断面Sにおいて、第1板材の保持されていない前記部分が、第3外形線の少なくとも一部に接するように第1板材を曲げる工程と、第1板材から第1押さえ部材および第2押さえ部材を取り外す工程と、第1外形線に接していた第1板材の表面上に第2板材を配置する工程と、第1板材をさらに曲げて第2板材を第1板材で挟み込む工程と、を含む、ヘミング加工品の製造方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材を保持する工程であって、
前記保持は、第1押さえ部材と第2押さえ部材との間に前記第1板材の一部を配置し、前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材が近接するように、前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材の少なくとも一方を押圧することにより行い、
前記押圧方向に平行な前記第1押さえ部材の断面は、
少なくとも一部が前記第1板材と接する曲率半径10mm超の第1外形線と、前記第1外形線と端点Aで接続する曲率半径10mm以下の第2外形線と、前記端点Aとは反対側の端点Bで前記第2外形線と接続する曲率半径10mm超の第3外形線と、を含み、
前記端点Aにおける接線LAと、前記端点Bにおける接線LBとのなす角度θ1が70~100°であり、且つ
下記式(1)を満たす断面Sを含む、工程と、
前記第1板材の保持されていない部分を曲げる工程であって、前記断面Sにおいて、前記第1板材の保持されていない前記部分が、前記第3外形線の少なくとも一部に接するように前記第1板材を曲げることを含む工程と、
前記第1板材から前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材を取り外す工程と;
前記第1押さえ部材の前記第1外形線に接していた前記第1板材の表面上に、第2板材を配置する工程と、
前記第1板材をさらに曲げて、前記第2板材を前記第1板材で挟み込む工程と、
を含む、ヘミング加工品の製造方法。
RA<RB ・・・(1)
ここで、RA(mm)は、前記端点Aにおける曲率半径であり、RB(mm)は、前記端点Bにおける曲率半径である。
【請求項2】
前記断面Sは、下記式(2)を満たす、請求項1に記載の製造方法。
RA/RB≦0.40 ・・・(2)
【請求項3】
前記第2外形線は楕円状である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はヘミング加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドア、エンジンフードおよびトランクリッド等は、アウタパネルとインナパネルとを含む。これらのパネルを結合する方法として、アウタパネルの端部を180°折り曲げて、インナパネルの端部を挟み込むことにより(すなわち、ヘミング加工により)結合する方法が一般的である。ヘミング加工は、一般的に、アウタパネルを約90°(例えば70~100°)曲げた後、インナパネルをアウタパネルの内側に配置し、さらにアウタパネルを曲げることで行われる。
【0003】
特許文献1は、曲部の不良(例えば、割れ、表面荒れなど)が生じず、寸法精度も良いヘミング加工の方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のパネルの軽量化および薄型化に伴い、ヘミング加工後の一部の曲部に歪が集中しやすくなった。そして、特許文献1に開示されるような従来技術では、ヘミング加工後の一部の曲部において不良が発生しやすくなった。
【0006】
本開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、一部の曲部への歪の集中を抑制できるヘミング加工品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
第1板材を保持する工程であって、
前記保持は、第1押さえ部材と第2押さえ部材との間に前記第1板材の一部を配置し、前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材が近接するように、前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材の少なくとも一方を押圧することにより行い、
前記押圧方向に平行な前記第1押さえ部材の断面は、
少なくとも一部が前記第1板材と接する曲率半径10mm超の第1外形線と、前記第1外形線と端点Aで接続する曲率半径10mm以下の第2外形線と、前記端点Aとは反対側の端点Bで前記第2外形線と接続する曲率半径10mm超の第3外形線と、を含み、
前記端点Aにおける接線LAと、前記端点Bにおける接線LBと、のなす角度θ1が70~100°であり、且つ
下記式(1)を満たす断面Sを含む、工程と、
前記第1板材の保持されていない部分を曲げる工程であって、前記断面Sにおいて、前記第1板材の保持されていない前記部分が、前記第3外形線の少なくとも一部に接するように前記第1板材を曲げることを含む工程と、
前記第1板材から前記第1押さえ部材および前記第2押さえ部材を取り外す工程と;
前記第1押さえ部材の前記第1外形線に接していた前記第1板材の表面上に、第2板材を配置する工程と、
前記第1板材をさらに曲げて、前記第2板材を前記第1板材で挟み込む工程と、
を含む、ヘミング加工品の製造方法である。
RA<RB ・・・(1)
ここで、RA(mm)は、前記端点Aにおける曲率半径であり、RB(mm)は、前記端点Bにおける曲率半径である。
【0008】
本発明の態様2は、
前記断面Sは、下記式(2)を満たす、態様1に記載の製造方法である。
RA/RB≦0.40 ・・・(2)
【0009】
本発明の態様3は、
前記第2外形線は楕円状である、態様1又は2に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、一部の曲部への歪の集中を抑制できるヘミング加工品の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、第1押さえ部材10及び第2押さえ部材20を用いて、第1板材1を押圧して保持したときの、押圧方向からみた投影図の一例である。
【
図2】
図2は、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げた後の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、ヘミング加工品3の一例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げた後の、本発明の実施形態の一例における、第1押さえ部材10の第2外形線10bおよび第1板材1の曲部1dの拡大図を示す。
【
図5A】
図5Aは、実施例における、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げる工程の、各部材の寸法および位置関係を示す。
【
図5B】
図5Bは、実施例における、
図5Aに示す工程後第1板材1をさらにθ
1(°)/2の角度で曲げる工程の、各部材の寸法および位置関係を示す。
【
図5C】
図5Cは、実施例における、
図5Bに示す工程後第1板材1をさらにθ
1(°)/2の角度で曲げる工程の、各部材の寸法および位置関係を示す。
【
図6】
図6は、実施例における、第1板材1の応力歪曲線を示す。
【
図7】
図7は、試験No.2(従来技術)の、90°曲げた後(破線)および合計で180°曲げた後(実線)の、各要素40~100における歪の解析結果を示す。
【
図8】
図8は、試験No.2~4の90°曲げた後の、各要素60~80における歪の解析結果を示す。
【
図9】
図9は、試験No.2~4の180°曲げた後の、各要素60~80における歪の解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、一部の曲部への歪の集中を抑制できるヘミング加工品の製造方法を実現するべく、様々な角度から検討した。そして、本発明者は、ヘミング加工品の製造方法において、板材を最初に曲げる工程を、特定の方法で行う必要があることを見出した。
【0013】
図1Aは、第1押さえ部材10及び第2押さえ部材20を用いて、第1板材1を押圧して保持したときの、押圧方向からみた投影図の一例である。
図1Aにおいて、第1板材1(アウタパネルに相当)の内側(
図1Aにおいて左側)に第1押さえ部材10が配置されている。
図1Bは、
図1AにおけるIB-IB線断面図(第1押さえ部材の外周線10Aに垂直な断面図)である。
図1Bにおいて、第1押さえ部材10と第2押さえ部材20との間に第1板材1の一部が配置され、第1押さえ部材10を矢印P1の方向に押圧するか、及び/又は、第2押さえ部材20を矢印P2の方向に押圧することにより、第1板材1の一部が所定位置に保持されている。第1押さえ部材10は、下面に相当する、略直線状(例えば曲率半径10mm超)の第1外形線10aと、第1外形線10aと端点Aで接続する曲線状(例えば曲率半径10mm以下)の第2外形線10bと、端点Aとは反対側の端点Bで第2外形線10bと接続する略直線状(例えば曲率半径10mm超)の第3外形線10cと、を含む。第1外形線10aの少なくとも一部は、第1板材1の表面(
図1Bでは上面)に相当する第1外形線1aと接している。端点Aにおける接線L
Aと、端点Bにおける接線L
Bと、のなす角度θ
1は、約90°(例えば70~100°)であり得る。
図1Bにおいて、例えば可動部材30を第1板材1の保持されていない部分に押し当てて、矢印P3の方向(L
Bと平行)に力を加えることにより、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げることができる。
【0014】
図2は、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げた後の一例を示す、断面の模式図である。なお、当該断面は、押圧方向からみた投影図における第1押さえ部材の外周線10Aに垂直な断面である。
図2において、第1板材1の第1外形線1aの端部1b側と、第1押さえ部材10の第2外形線10cの少なくとも一部とが接している。第1板材1の外形線1aに対向する第2外形線1cの、曲部1dが引き延ばされ、その結果、曲部1dには歪が生じる。
【0015】
図3は、第1板材1(アウタパネルに相当)の第1外形線1aを含む表面上に、第2板材2(インナパネルに相当)を配置し、さらに第1板材1を曲げた後の(すなわち第1板材1を合計で180°曲げた後の)、ヘミング加工品3の一例を示す、断面の模式図である。
第1板材1を合計で180°曲げると、曲部3dには、より大きな歪が生じ得る。
【0016】
本発明者は、曲部3dにおける歪が集中する箇所(すなわち曲部の不良が発生しやすい箇所)を詳細に検討した。その結果、従来技術における曲部3dの歪が集中する箇所は、約90°曲げた後の曲部1dの歪が集中していた箇所よりも、端部1b側(すなわち第3外形線10cに接していた側)にシフトし得ることを見出した。
そこで、本発明者は、第1板材1を180°曲げた後に歪が極力分散するように、約90°曲げた後の歪が集中する箇所を、端部1bとは反対側(すなわち第1外形線10aに接する側)にシフトさせることを考えた。
【0017】
図4は、第1板材1をθ
2(°)の角度で曲げた後の、本発明の実施形態の一例における、第1押さえ部材10の第2外形線10bおよび第1板材1の曲部1dの拡大図を示す。なお、
図4は、押圧方向からみた投影図における第1押さえ部材の外周線10Aに垂直な断面図である。第1押さえ部材10の第2外形線10bにつき、従来はR形状であって一定の曲率半径を有していたところ、本発明者は、
図4に示すように、端点Aにおける第2外形線10bの曲率半径R
A(mm)を、端点Bにおける第2外形線10bの曲率半径R
B(mm)よりも小さくした。これにより、第1板材1を約90°で曲げた後の歪が集中する箇所を、第1外形線10aに接する側にシフトさせることができ、その結果第1板材1を180°曲げた後の歪を分散させることができることを見出した。
以上のように、本発明者は、従来技術(すなわち第1押さえ部材10の第2外形線10bがR形状の場合)と比較して、一部の曲部3dへの歪の集中を抑制できるヘミング加工品3の製造方法を見出した。
以下、本発明の実施形態が規定する要件について詳述する。なお、本開示において曲率半径Rは、曲線をxとyの式で表したとき、下記式(3)で求めることとする。
R=(1+(dy/dx)
2)
3/2/(d
2y/dx
2) ・・・(3)
【0018】
本発明の実施形態に係るヘミング加工品の製造方法は、(a)第1板材1を保持する工程と、(b)第1板材1を曲げる工程と、(c)第1板材1から第1押さえ部材10および第2押さえ部材20を取り外す工程と、(d)第1板材1の表面上に、第2板材2を配置する工程と、(e)第1板材1をさらに曲げて、第2板材2を第1板材1で挟み込む工程と、を含む。
工程(a)において、保持は、第1押さえ部材10と第2押さえ部材20との間に第1板材1の一部を配置し、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20が近接するように、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20の少なくとも一方を押圧することにより行う。また、押圧方向に平行記第1押さえ部材10の断面は、
少なくとも一部が第1板材1と接する曲率半径10mm超の第1外形線10a(端点Aを含まない)と、第1外形線10aと端点Aで接続する曲率半径10mm以下の第2外形線10b(端点A及びBを含む)と、端点Bで第2外形線10bと接続する曲率半径10mm超の第3外形線10c(端点Bを含まない)と、を含み、
端点Aにおける接線LAと、端点Bにおける接線LBと、のなす角度θ1が70~100°であり、且つ
下記式(1)を満たす断面Sを含む。
RA<RB ・・・(1)
ここで、RA(mm)は、端点Aにおける第2外形線10bの曲率半径であり、RB(mm)は、端点Bにおける第2外形線10bの曲率半径である。
工程(b)は、断面Sにおいて、第1板材1の、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20により保持されていない部分を、第3外形線10cの少なくとも一部に接するように行う。
工程(d)は、第1押さえ部材10の第1外形線10aに接していた第1板材1の表面上に、第2板材2を配置することで行う。
上記製造方法により、断面Sを適用して得たヘミング加工品3の一部の曲部3dにおいて、従来技術(すなわち第2外形線10bがR形状の一定の曲率半径を有する場合)と比較して、歪の集中を抑制できる。より具体的には、断面Sを適用して第1板材1を曲げ角度θ2(°)で曲げた曲部1dにおいて、第1板材1における歪が集中する箇所を、端部1bとは反対側(すなわち第1外形線10aと接していた側)にシフトさせることができ、その結果ヘミング加工品3の一部の曲部3dにおける歪の集中を抑制できる。
本発明の実施形態の利用方法の一例として、例えば、ヘミング加工品のうち不良発生率の高い一部の曲部に対応する、第1板材1の部分を、断面Sを適用して曲げることが考えられる。
以下、各工程について詳述する。
【0019】
(a)第1板材1を保持する工程
第1板材1(アウタパネルに相当)は、例えば金属、高分子材料などの種々の材料で構成することができる。該金属としては、鉄鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金等が挙げられる。本発明の実施形態において、素材の局部伸びが低く、ヘミング加工で破断が生じやすいアルミニウム合金で第1板材1を構成したときに効果が顕著となる。特に自動車用パネル部品をヘミング加工品3の対象とした場合、該アルミニウム合金としては、5000系または6000系アルミニウム合金等が挙げられる。第1板材1の弾性率は、特に制限されないが65000MPa以上75000MPa以下であり得る。また第1板材1のポアソン比は、特に制限されないが0.25以上0.40以下であり得る。
【0020】
第1板材1の板厚to(mm)は、特に制限されないが、例えば0.5mm以上1.5mm以下であり得る。第1板材1の板厚toは、1.0mm以下であることが本発明の実施形態の効果が顕著となり好ましく、0.8mm以下であることがより好ましい。
【0021】
図1Bに示すように、第1板材1の一部は、第1押さえ部材10と第2押さえ部材20との間に配置され、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20が近接するように、第1押さえ部材10を矢印P1の方向に、及び/又は第2押さえ部材20を矢印P2の方向に押圧することにより保持される。
【0022】
押圧方向に平行な第1押さえ部材10の断面は、
図4に示すような断面Sを含む。断面Sの一例である
図4を参照すると、第1押さえ部材10は、第1外形線10aと、第1外形線10aと端点Aで接続する曲線状の第2外形線10bと、端点Aとは反対側の端点Bで第2外形線10bと接続する第3外形線10cとを含む。第1外形線10aおよび第3外形線10cは、直線又は角の無い滑らかな曲線であり得る。第1外形線10aおよび第3外形線10cが曲線である場合、曲率半径は10mm超であり、曲率半径が10mm以下の第2外形線10bと区別される。
図4において、第1押さえ部材10の第1外形線10aのほぼ全部分が、第1板材1の第1外形線1aと接しているが、これに限定されず、第1押さえ部材10の第1外形線10aの少なくとも一部が第1板材1の第1外形線1aに接していればよい。
【0023】
断面Sの一例である
図4を参照すると、第2外形線10bは、端点Aおよび端点Bを有し、全部分において曲率半径10mm以下の曲線である。第2外形線10bは、外側に凸の曲線であり得る。第2外形線10bは、例えば、楕円状(すなわち楕円の円弧)、放物線状、カテナリー曲線状などの、角の無い滑らかな曲線であり得る。本発明の実施形態において、第2外形線10bは楕円状であることが好ましい。これにより、第1押さえ部材10の形状を制御しやすくなる。
【0024】
断面Sの一例である
図4を参照すると、端点Aにおける接線L
Aと、端点Bにおける接線L
Bとのなす角度は70~100°である。
図4に示すように、第1外形線10aが直線の場合、接線L
Aは第1外形線10aと平行であり得、第3外形線10cが直線の場合、接線L
Bは、第3外形線10cと平行であり得る。
【0025】
断面Sは、下記式(2)を満たすことが好ましい。
RA/RB≦0.40 ・・・(2)
これにより、ヘミング加工品3の一部の曲部3dにおける歪の集中をより抑制できる。また、断面Sは、端点Aから端点Bに向かって曲率半径が連続的に増大していることが好ましい。これにより、ヘミング加工品3の一部の曲部3dにおける歪の集中をより抑制できる。
【0026】
RB(mm)と、第1板材1の板厚to(mm)との比(RB/to)は、1.90以上であることが好ましく、2.10以上がより好ましい。これにより、ヘミング加工品3の一部の曲部3dにおける歪の集中をより抑制できる。
【0027】
押圧方向に平行な第1押さえ部材10の断面は、断面Sを含むことにより、ヘミング加工品3の一部の曲部3dにおける歪の集中を抑制できる。押圧方向に平行な第1押さえ部材10の断面としては、例えば、押圧方向からみた投影図における第1押さえ部材10の外周線10Aに垂直な断面であり得る。
押圧方向に平行な第1押さえ部材10の断面は、断面Sを複数含むことが好ましい。これにより、歪の集中が抑制された曲部3dを複数含むヘミング加工品3が得られる。その場合、複数の断面Sは、それぞれ押圧方向からみた投影図における第1押さえ部材10の外周線10Aに垂直な断面であって、外周線10Aに沿って、互いに外周線10Aの全長の1%以上離れて存在してもよい。また、当該外周線10Aに垂直な断面のうち、1%以上が断面Sであることが好ましく、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。これにより、歪の集中が抑制された曲部3dを多く含むヘミング加工品3が得られる。
【0028】
(b)第1板材1を曲げる工程
図1Bに示すように、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20により保持されていない第1板材1の一部が、第1押さえ部材10の第3外形線10cの少なくとも一部に接するように、第1板材1を曲げ角度θ
2(°)(=180°-θ
1(°))で曲げる。 第1板材1を曲げる際に、例えば、第1板材1の第1外形線1aと対向する第2外形線1cに対して、L
Bと平行に圧力をかける(例えば可動部材30を押しあてる)ことにより、第1板材1を曲げてもよい。可動部材30と第1押さえ部材10との間の距離C(mm)は、部材位置のバラツキ及び/又は曲げ加工に伴う板厚変化などに起因する、しごき加工及び/又はかじり傷を抑制するために、第1板材の板厚to(mm)よりも長いことが好ましく、例えば1.1×to(mm)以上が好ましく、1.15×to(mm)以上がより好ましい。Cの上限も特に制限されないが、より確実に目的の形状に成形するために、1.5×to(mm)以下にすることが好ましく、1.25×to(mm)以下にすることがより好ましい。可動部材30の角部31aは、適当な面取りを施してもよく、例えば半径1.0mm以上のR形状にしてもよい。
なお、
図4等では、第1板材1と、第1押さえ部材10とが隙間なく接しているが、それらの間の一部において隙間があってもよい。
【0029】
(c)第1板材1から第1押さえ部材10および第2押さえ部材20を取り外す工程
第1板材1を曲げ角度θ2(°)で曲げた後は、第1押さえ部材10および第2押さえ部材20を第1板材1から取り外してよい。
【0030】
(d)第2板材2を配置する工程
図3に示すように、第1押さえ部材10の第1外形線10aに接していた第1板材1の第1外形線1aを含む表面上に、第2板材2(インナパネルに相当)を配置する。
第2板材2は、第1板材1と同様に、例えば金属、高分子材料などの種々の材料で構成することができる。第2板材2は、第1板材1と同じ材料で構成してもよく、第1板材1とは異なる材料で構成してもよい。第2板材2の板厚tiは、第1板材1の板厚と等しくても、異なっていてもよく、例えば第1板材1の板厚toよりも薄くてもよい。第2板材2の板厚tiは、特に制限されないが、例えば0.5mm以上1.5mm以下であり得、1.0mm以下または0.8mm以下であってもよい。第2板材2の角部2aは、適当な面取りを施してもよく、例えばR形状にしてもよい。
【0031】
後述する工程(e)により、第2板材2を第1板材1で挟みこむことが可能な位置関係であれば、第2板材2を配置する位置は、特に制限されない。また、押さえ部材(図示せず)等により、第1板材1及び第2板材2の上下から圧力をかけることにより、第1板材1の第1外形線1a上に、第2板材2を固定してもよい。
【0032】
(e)第2板材2を第1板材1で挟み込む工程
第1板材1をさらに曲げて(例えばさらにθ1(°)の角度で曲げて(合計で180°曲げて))、第2板材2を第1板材1で挟み込む。第1板材1をさらに曲げるとき、2段階(またはそれ以上)で曲げてもよく、例えば第1板材1をさらに(θ1/2-10)°~(θ1/2+10)°の角度で曲げた後、第1板材1をさらに(θ1/2+10)°~(θ1/2-10)°の角度で曲げてもよい。
【0033】
上記製造方法により、
図3に示すようなヘミング加工品3が得られる。ヘミング加工品3の厚さは、第1板材1の板厚toの2倍と、第2板材2の板厚tiとを足した厚さ(2to+ti(mm))であり得る。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0035】
第1押さえ部材の第2外形線10bの形状を変えて作製したヘミング加工品に生じる歪について、汎用の静的陰解法ソフトAbaqusを用いて解析した。
図5A~5Cは、解析に使用した、各工程における、各部材の寸法および位置関係を示す。
【0036】
図5Aは、第1板材1を曲げ角度θ
2(°)で曲げる工程の各部材の寸法および位置関係を示す。
図5Aは、押圧方向からみた投影図における第1押さえ部材の外周線に垂直な断面を想定した図である。
図5Aに示すように、第1板材1の第1外形線1aに接するように、第1押さえ部材の第1外形線10aを配置し、第1板材1の第2外形線1cに接するように、第2押さえ部材21および可動部材31を配置した。
第1押さえ部材の外形線10aは、端点Aで第2外形線10bと接続され、第2外形線10bは、端点Bで第3外形線10cと接続された。端点Aにおける接線L
Aは、第1外形線10aと平行とし、端点Bにおける接線L
Bは、第3外形線10cと平行とし、L
AとL
Bとのなす角度θ
1は90°とした(すなわちθ
2は90°とした)。第2外形線10bは、第1外形線10aと平行な長さをDxとし、第3外形線10cと平行な長さをDzとし、楕円状(Dx≠Dzの場合)又はR形状(Dx=Dzの場合)とした。Dx<Dzの場合、楕円の半短径はDxに相当し、Dx>Dzの場合、楕円の半短径はDzに相当するように構成した。第1押さえ部材の第3外形線10cと、可動部材31との間の距離Cは1.2×toとし、第1板材1の板厚toは0.8mmとし、可動部材31の角部31aはR形状とし、その半径は1.0mmとした。第1外形線10a、第2外形線10b、第3外形線10c、第2押さえ部材21および可動部材31は、形状が変化しないもの(すなわち剛体)とし、第1外形線10a、第2外形線10b、第3外形線10c、可動部材31および第1板材1の端部1bとは反対側の端部1b’の位置は固定した。第1板材1は、平面ひずみ二次元ソリッド要素を用いて構成し、そのメッシュ間隔は、端部1b’から端部1bまで、および第1外形線1aから第2外形線1cまで0.1mmとした。そして、第1板材1の第1外形線1cにある0.1mm×0.1mmの各要素160個に対し、端部1b’側から端部1b側まで順に、1~160の番号を付した。第1板材1の物性値について、一般的な6000系アルミニウム合金の2%ストレッチ品を想定して設定した。具体的に、弾性率は68600MPaとし、ポアソン比は0.33とし、応力歪曲線としては、
図6に示すものを使用した。また、第1板材1と、各部材との間の摩擦係数μは、一般的な鋼板用洗浄油の適用条件を想定し、0.14とした。
【0037】
表1に示すように、DxおよびDzを変化させることにより、端点Aにおける曲率半径RAおよび端点Bにおける曲率半径RBを変化させた、試験No.1~8の第1板材1を用意した。なお、RA=Dx2/Dz、RB=Dz2/Dxとして計算した。
【0038】
【0039】
図5Aに示すように、可動部材31を矢印の方向に移動させて、試験No.1~8の第1板材1を90°曲げたときの、第1板材1の第2外形線1cにある各要素1~160の歪を解析した。
【0040】
図5Bは、上記のようにして第1板材1を90°曲げた後、第1板材1をさらにθ
1(°)/2(=45°)の角度で(合計で135°)曲げる工程の各部材の寸法および位置関係を示す。
図5Bに示すように、第1外形線10aに接していた第1板材1の表面上に第2板材2を配置し、第1板材1の上方に第1パンチ41を配置し、第1板材1の下面に第3押さえ部材51を配置した。第1パンチ41と第3押さえ部材51とのなす角度は45°とした。第2板材2の板厚tiは0.8mmとし、第2板材2の角部2aはR形状とし、その半径は0.1mmとした。第2板材2、第1パンチ41および第3押さえ部材51は、形状が変化しないもの(すなわち剛体)とし、第3押さえ部材51、第1板材1の端部1b’および第2板材2の位置は固定した。第1板材1と、各部材との間の摩擦係数μは0.14とした。
第1パンチ41を、破線41aで示す位置まで(すなわち第1パンチ41が第3押さえ部材51と接触するまで)、矢印の方向に移動させて、第1板材1をさらに45°(合計で135°)曲げたときの、第1板材1の第2外形線1cにある各要素1~160の歪を解析した。
【0041】
図5Cは、上記のようにして第1板材1を合計で135°曲げた後、第1板材1をさらにθ
1(°)/2(=45°)の角度で(合計で180°)曲げる工程の各部材の寸法および位置関係を示す。
図5Cに示すように、第1板材1の上方に第2パンチ61を配置し、第1板材1の下方に第4押さえ部材71を配置した。第2パンチ61と第4押さえ部材71とは平行にした。第2板材2、第2パンチ61および第4押さえ部材71は、形状が変化しないもの(すなわち剛体)とし、第4押さえ部材71、第1板材1の端部1b’および第2板材2の位置は固定した。第1板材1と、各部材との間の摩擦係数μは0.14とした。
第2パンチ61を、破線61aで示す位置まで(すなわち第2パンチ61と第4押さえ部材71との距離が(2to+ti)になるまで)、矢印の方向に移動させて、第1板材1をさらに45°(合計で180°)曲げたときの、第1板材の第2外形線1cにある各要素1~160の歪を解析した。
【0042】
図7に、試験No.2(従来技術)の、90°曲げた後(破線)および合計で180°曲げた後(実線)の、各要素40~100における歪の解析結果を示す。
図7に示すように、試験No.2(従来技術)において、90°で曲げた後と比較して、180°曲げた後の方が、歪が増大している。また歪のピーク位置(歪が集中する箇所)は、90°曲げた後と比較して、要素番号が大きい側(すなわち端部1b側)にシフトしていることがわかる。
【0043】
図8に、試験No.2(実線)、No.3(破線)およびNo.4(点線)の90°曲げた後の各要素60~80における歪を示す。試験No.2と比較して、No.3および4は、歪のピーク位置(歪が集中する箇所)が端部1b’側(すなわち第1外形線10aに接する側)にシフトしていることがわかる。これは、試験No.3および4は上記式(1)を満たしたことに起因すると考えられる。
【0044】
図9に、試験No.2(実線)、No.3(破線)およびNo.4(点線)の180度曲げた後の各要素60~80における歪を示す。試験No.2と比較して、No.3および4は、歪の最大値が低減していることが分かる。これは、試験No.3および4が上記式(1)を満たしたことにより、90°曲げた後の歪が集中する箇所が端部1b’側にシフトした結果、180°曲げた後の歪が分散したことに起因すると考えられる。また、試験No.3と比較して、試験No.4は、歪の最大値がより低減していた。これは、試験No.4が、好ましい要件である上記式(2)(すなわち、R
A/R
B≦0.40)を満たしたことに起因すると考えられる。
【0045】
試験No.1~8の歪解析結果のまとめを表2に示す。
【0046】
【0047】
表2の試験No.3~8はいずれも本発明の実施形態で規定する要件の全てを満足する例であり、180°曲げた後の歪の最大値が、従来技術である試験No.2と比較して低減していた。特に試験No.4~8は、試験No.3とは異なり、好ましい要件である式(2)を満たしており、その結果180°曲げた後の歪の最大値がより低減していた。
一方、表2の試験No.1および2は、式(1)を満たしておらず、180°曲げた後の歪の最大値が高い値であった。