(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163768
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ポリエステル系難燃コート剤
(51)【国際特許分類】
D06M 15/507 20060101AFI20231102BHJP
D06M 13/288 20060101ALI20231102BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20231102BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
D06M15/507
D06M13/288
D06M15/263
C09K21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074894
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】中川 大志
(72)【発明者】
【氏名】児下 未佳
(72)【発明者】
【氏名】石川 章
【テーマコード(参考)】
4H028
4L033
【Fターム(参考)】
4H028AA35
4H028AB01
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC05
4L033BA37
4L033CA18
4L033CA45
(57)【要約】
【課題】繊維質材料に高い難燃性を付与できるとともに、繊維質材料が本来有する風合いを効果的に維持できる難燃コート剤を提供する。
【解決手段】繊維質材料を難燃化するための難燃コート剤であって、(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂、(2)難燃成分、(3)増粘成分及び(4)水系溶媒を含むことを特徴とするポリエステル系難燃コート剤に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質材料を難燃化するための難燃コート剤であって、
(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂、
(2)難燃成分、
(3)増粘成分及び
(4)水系溶媒
を含むことを特徴とするポリエステル系難燃コート剤。
【請求項2】
難燃成分が、ホスホロアミデート化合物及びホスホン酸エステル化合物の少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
【請求項3】
固形分含量で、(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂:5~30重量%、(2)難燃成分:5~25重量%及び(3)増粘成分:0.1~3.0重量%を含有する、請求項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
【請求項4】
難燃成分が、水系ポリエステル樹脂100重量部に対して15~400重量部である、請求項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
【請求項5】
粘度(20℃)が1000~100000mPa・sである、請求項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
【請求項6】
シート状繊維質材料の表面にバックコート層を形成するために用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル系難燃コート剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル系難燃コート剤によるバックコート層がシート状繊維質材料の表面に形成されてなる難燃化製品。
【請求項8】
カーシートである、請求項7に記載の難燃化製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエステル系難燃コート剤に関する。より具体的には、本発明は、繊維部材を難燃化処理するための新規な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車内繊維製品(カーシート、カーマット、天井材等)のような産業資材等で使用される繊維織物は、一般的にバックコートと呼ばれる手法で裏面に樹脂成分を含むバックコート剤(BC剤)で塗工・乾燥し、樹脂で繊維を被覆することでほつれ防止処理を行っている。この場合、同時に難燃性を付与する目的で、バックコート剤中に難燃剤を添加する場合があり、特にカーシート分野では必須と言える難燃化処理方法となっている。
【0003】
また、ほつれ防止の目的が必要のない編物、合成皮革、人工皮革等においても、専ら難燃性を付与することを目的として、同様のバックコートが施される場合があり、近年その需要は増加している。
【0004】
このようなBC剤に含まれる樹脂成分としては、これまで主としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂等が一般的に用いられている(例えば、特許文献1~6)。
【0005】
しかし、アクリル樹脂は、安価で柔軟な材質も製造可能であるが、柔軟性に富んだものは乾燥後塗膜の表面にタック(ネチャつき)が生じやすい。風合い(柔軟性)とタックはトレードオフの関係にあり、その両者を完全に満足させることが困難である。また、アクリル樹脂自体の燃焼性が非常に高く、それだけ多量の難燃剤(塗工する難燃処理剤)が必要となる。すなわち、主たる目的であるほつれ防止性能を付与するために必要な量よりも過剰の塗工量を必要とする場合がある。
【0006】
ウレタン樹脂は、難燃性の付与がアクリル樹脂に比較して容易であり、また樹脂物性が強靭でほつれ防止に非常に効果が高い。その一方で、ウレタン樹脂は、比較的高価であるうえ、風合いはやや硬くなるという欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-233152
【特許文献2】特開2007-16357
【特許文献3】特開2014-141598
【特許文献4】特開2015-187317
【特許文献5】特開2021-54924
【特許文献6】国際公開WO2014/2958
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来のBC剤では繊維質材料に所望の難燃性を付与しようとすると、繊維質材料がもつ柔軟性を阻害するという問題がある。この点において、さらなる改善の余地があるといえる。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、繊維質材料に高い難燃性を付与できるとともに、繊維質材料が本来有する風合いを効果的に維持できる難燃コート剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の樹脂成分を含む組成を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のポリエステル系難燃コート剤に係るものである。
1. 繊維質材料を難燃化するための難燃コート剤であって、
(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂、
(2)難燃成分、
(3)増粘成分及び
(4)水系溶媒
を含むことを特徴とするポリエステル系難燃コート剤。
2. 難燃成分が、ホスホロアミデート化合物及びホスホン酸エステル化合物の少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
3. 固形分含量で、(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂:5~30重量%、(2)難燃成分:5~25重量%及び(3)増粘成分:0.1~3.0重量%を含有する、前記項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
4. 難燃成分が、水系ポリエステル樹脂100重量部に対して15~400重量部である、前記項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
5. 粘度(20℃)が1000~100000mPa・sである、前記項1に記載のポリエステル系難燃コート剤。
6. シート状繊維質材料の表面にバックコート層を形成するために用いられる、前記項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル系難燃コート剤。
7. 前記項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル系難燃コート剤によるバックコート層がシート状繊維質材料の表面に形成されてなる難燃化製品。
8. カーシートである、前記項7に記載の難燃化製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維質材料に高い難燃性を付与できるとともに、繊維質材料が本来有する風合いを効果的に維持できる難燃コート剤を提供することができる。
【0013】
本発明のポリエステル系難燃コート剤は、特定のガラス転移点(Tg)を有する水系ポリエステル樹脂を樹脂成分として採用していることから、従来のアクリル系及びウレタン系のBC剤と比較して難燃性能が高く、その結果として塗工量が比較的少量で済ませることが可能となり、軽量化に貢献するとともに製造コストも抑えることができる。
【0014】
しかも、難燃成分として粉末状のものを使用する場合には、難燃性ととともに、その他の物性(風合い・キワツキ・耐熱性)を実質的に阻害することなく、所望の各性能を得ることができる。
【0015】
さらに、特にポリエステル繊維を含む繊維質材料に適用する場合は、本発明のポリエステル系難燃コート剤も繊維質材料もともにリサイクル化しやすいポリエステル材料となるため、使用後の再利用等も容易になり、SDGsの観点からも非常に価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のポリエステル系難燃コート剤によるバックコート層(BC層)がシート状繊維質材料の裏面に形成された製品の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.ポリエステル系難燃コート剤
本発明のポリエステル系難燃コート剤(本発明コート剤)は、繊維質材料を難燃化するための難燃コート剤であって、
(1)ガラス転移温度(Tg)が-30~30℃である水系ポリエステル樹脂(以下、単に「水系ポリエステル樹脂」ともいう。)、
(2)難燃成分、
(3)増粘成分及び
(4)水系溶媒
を含むことを特徴とする。
【0018】
A.本発明コート剤の組成について
(1)水系ポリエステル樹脂
水系ポリエステル樹脂は、主として、本発明コート剤のバインダーとして機能する成分である。
【0019】
一般に、ポリエステル樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂と比較して難燃化が容易であり、添加する難燃剤量を低減できる。ところが、ポリエステル樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂に比べて風合いが硬いため、実際上も一部のグレードがシート織物の硬仕上げ剤等としてディッピングで用いられている程度である。また、その性質上、軟化点以上では急激に液状化が進み、BC層の粘着性・流動性が懸念される等の理由から、BC剤として多量にシート織物に固着させるには不向きとされている。すなわち、ポリエステル樹脂をBC剤の樹脂成分として用いる場合、a)風合いが剛直に仕上がってしまうこと、b)耐熱性に不安があること、c)比較的高価であること等から、ポリエステル樹脂をBC剤として用いることは敬遠されているのが実情である。これに対し、本発明では、Tgが特定範囲の水系ポリエステル樹脂をBC剤の樹脂成分として採用することによって、高い難燃性を付与できるとともに、繊維質材料本来の風合い等を効果的に維持することが可能となる。
【0020】
水系ポリエステル樹脂のTgは、通常-30~30℃程度であり、特に-10~20℃であることが好ましく、その中でも-10~15℃であることが最も好ましい。Tgが高すぎると、BC剤として使用した場合に繊維質材料の風合いを維持することが困難となる。また、Tgが低すぎると、例えば耐熱性の低下、タックの増大等の問題が生じる。
【0021】
一般に、Tgは軟化点と通常連動したファクターであり、Tgが低いほど柔軟なBC剤を得ることが可能となるが、Tgが低すぎると一般的に軟化点も低くなり、熱時の物性(耐熱性)に問題が生じる。逆に、Tgが高すぎると柔軟性が失われてしまう。従って、本発明に使用される水系ポリエステル樹脂のTgは-30~30℃に設定される。
【0022】
また、本発明では、互いにTgが異なる2種以上の水系ポリエステル樹脂をブレンドして用いることができる。つまり、高Tgの樹脂と低Tgの樹脂をブレンドし、適正な風合いに調整することが可能となる。従って、Tgが-30~30℃である水系ポリエステル樹脂を含んでいる限り、本発明の効果を妨げない範囲内において、Tgが-30~30℃の範囲内にある水系ポリエステル樹脂が含まれていても良い。
【0023】
2種以上の水系ポリエステル樹脂をブレンドする場合、少なくとも1種の水系ポリエステル樹脂のTgが-30~30℃であれば良いが、特にブレンドした後に検出されるTg(すなわち混合樹脂のTg)が-30~30℃の範囲内にあることが望ましい。すなわち、Tgが-30~30℃の範囲内にある水系ポリエステル樹脂と、Tgが-30~30℃の範囲外にある水系ポリエステル樹脂とをブレンドした場合において、ブレンド後の混合樹脂のTgが-30~30℃の範囲内にあることが望ましい。特に、互いにTgが異なる2種以上の水系ポリエステル樹脂のすべてのTgが-30~30℃の範囲内にあることがより望ましい。
【0024】
Tgが-30~30℃の範囲内にある水系ポリエステル樹脂は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によっても合成することができる。例えば、Tgを上記の範囲で合成する方法は、特に限定されないが、特にモノマー組成に特定のソフトセグメントを導入する手法が非常に有効である。
【0025】
通常、このような水系ポリエステル樹脂は、「二塩基酸」と「ジオール」及び少量の「極性官能基(スルホネート基)を導入した二塩基酸又は多塩基酸」を親水ユニットとして用いたモノマーから構成されている樹脂を好適に採用することができる。
【0026】
前記の二塩基酸基としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸等の芳香族系二塩基酸類;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族系二塩基酸類等が挙げられる。
【0027】
これらの中で、有効なソフトセグメントとしてより効果的に利用できるのは比較的長鎖の脂肪族系二塩基酸類であり、特に炭素数が6以上のものが好ましく、その中でも炭素数が6~12のものを含有することがより好ましい。イソフタル酸、テレフタル酸等に代表される芳香族系二塩基酸類に対して、これら長鎖の脂肪族二塩基酸類を任意の割合で共重合させることにより、柔軟な風合いを持ち、かつ、耐水性、生地への密着性等に優れた水系ポリエステル樹脂を提供することが可能となる。含有比率としては、限定的ではないが、芳香族二塩基酸類1モルに対して0.1~3モル程度とすることが望ましい。
【0028】
前記のジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールのような脂肪族系ジオール類、1,4-ベンゼンジメタノール、9,9--ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の芳香族系ジオール類;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテル系ジオール類等が挙げられる。
【0029】
ジオール成分についても比較的長鎖のジオールを用いることで風合いを柔軟に調整させることは可能であるが、二塩基酸成分組成での調整がより簡便で実際的となる。本発明に好適に用いられるジオール類としては、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール及びジエチレングリコールの少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
また、本発明に使用するポリエステル樹脂は水系ディスパージョン化されたものを用いることが好ましく、その場合には親水性を付与したモノマーユニットを導入すれば良い。親水性付与成分としては、例えばカルボン酸類の金属塩又はアンモニウム塩等が好適である。より具体的には、2-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸等の金属塩又はアンモニウム塩等が好適に使用できる。その他にも、例えばトリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメジン酸等の芳香族トリカルボン酸の金属塩又はアンモニウム塩も好適に使用することができる。
【0031】
このような水系ポリエステル樹脂としては、市販品を使用することもできる。例えば、製品名「CY-190」(丸菱油化工業株式会社製)、製品名「バイロナールMD-1930」、「バイロナールMD-1480」、「バイロナールMD-1985」、(いずれも東洋紡株式会社製)、製品名「プラスコートZ-3310」、「プラスコートZ-592」、「プラスコートZ-880」(いずれも互応化学株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
本発明コート剤中における水系ポリエステル樹脂の固形分含量は、限定的ではないが、通常5~30重量%程度とし、特に10~25重量%とすることが好ましく、その中でも12~20重量%とすることが最も好ましい。
【0033】
(2)難燃成分
難燃成分としては、特に限定されず、リン系難燃成分、窒素系難燃成分、金属化合物系難燃成分、ハロゲン系難燃成分等のいずれも用いることができる。
【0034】
リン系難燃成分としては、例えばリン酸エステル化合物、ホスホロアミデート化合物、ホスホン酸エステル化合物、有機ホスフィン酸塩類、ポリリン酸メラミン化合物、ホスファゼン系化合物等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0035】
窒素系難燃成分としては、例えばメラミンシアヌレート、ヒンダードアミン(HALS,特にNOR型HALS等)含有化合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0036】
無機系難燃成分としては、例えばポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が好適に使用される。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0037】
ハロゲン系難燃成分としては、例えば臭素系化合物、塩素系化合物等を挙げることができる。より具体的には、ビス(3,5-ジブロモ-4-ジブロモプロピルオキシフェニル)スルホン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、デカブロモジフェニルエタン等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0038】
本発明においては、難燃効果が非常に高いという点でリン系難燃成分を含むことが好ましい。そのうえで、補助的に窒素系難燃成分及び無機系難燃成分の少なくとも1種を添加することで、さらに高い難燃効果を得ることができる。また、環境保護等の見地より、難燃成分としてハロゲン系難燃成分が含まれないことが好ましい。
【0039】
リン系難燃成分では、特にホスホロアミデート化合物及びホスホン酸エステル化合物の少なくとも1種のリン系難燃成分が好ましい。特に、本発明では、下記化学式(1)~(3)に示すリン系難燃成分を好適に用いることができる。
【0040】
【0041】
これらの化合物は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって合成されたものも使用することができる。例えば、化学式(1)の化合物は、特許文献6に開示された製造方法によって得ることもできる。化学式(2)の化合物は、特許文献4に開示された製造方法によって得ることもできる。化学式(3)の化合物は、特開2021-123572に開示された製造方法によって得ることもできる。
【0042】
本発明における難燃成分は、融点が80℃以上(特に150℃以上)の粉末状の難燃成分であることが望ましい。粉末状の難燃成分を使用することにより、低Tg樹脂特有の粘着性(表面タック性)をより低減できるとともに、染料の染み出し又はキワツキに良好な耐性を発揮できる。また、粉末状の難燃剤を添加することにより熱時の流動性が緩和される結果、形成されたコート層の形状保持力を向上させることもできる。
【0043】
もっとも、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、液状の難燃成分(難燃剤)を使用することもできる。液状難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤が一般的に用いられる。液状のリン酸エステル系難燃剤の多量添加は、染料の移染性のおそれがあるのに対し、比較的少量であれば風合い調整剤として使用することは特に問題とならない。
【0044】
本発明コート剤中における難燃成分の固形分含量は、限定的ではないが、通常5~25重量%程度とし、特に7~20重量%とすることが好ましく、その中でも10~18重量%とすることが最も好ましい。
【0045】
また、難燃剤は、水系ポリエステル樹脂の固形分100重量部に対して15~400重量部とすることが好ましく、特に20~250重量部とすることがより好ましく、その中でも30~150重量部とすることが最も好ましい。
【0046】
(3)増粘成分
本発明において、増粘成分は、本発明コート剤の経時安定性、生地への塗工特性等を制御する役割(レオロジーコントロール剤としての機能)を果たすものである。
【0047】
増粘成分の種類は、特に限定されず、例えばアクリル系増粘剤(ポリアクリル酸系アルカリ増粘剤等)、会合型増粘剤、多糖系増粘剤等に含まれている増粘成分を好適に用いることができる。これらは、公知又は市販の増粘剤又は増粘成分も使用することができる。
【0048】
増粘成分の添加により、使用する塗工装置等の適性に合致した粘度・粘性を調整することもできる。例えば、ナイフコートにより塗工する場合、粘度(20℃)を10,000~100,000mPa・s程度とし、好ましくは10,000~80,000mPa・sとし、より好ましくは15,000~50,000mPa・sに保つことにより、経時安定性に優れ、なおかつ、生地への塗工適性に優れたBC剤とすることができる。また、その際、レオロジーコントロールを行い、PVI値を0.15~0.30とし、好ましくは0.18~0.25に調整することによって、より安定的な塗工が可能となる。また例えば、キスロール加工、グラビアロール加工等を行う場合は、粘度を1,000~10,000mPa・s程度に調節すれば良い。
【0049】
(4)水系溶媒
水系溶媒としては、a)水単独又はb)水と水溶性有機溶剤とを含む混合液を用いることができる。
【0050】
水溶性有機溶剤としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,8-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0051】
水と水溶性有機溶媒との混合液を用いる場合、両者の混合比は、通常は重量比で水:水溶性有機溶媒=1:0.02~0.25程度とすれば良いが、これに限定されない。
【0052】
(5)その他の添加剤
本発明コート剤では、本発明の効果を妨げない範囲内で他の添加剤が含まれていても良い。例えば、分散剤、液状難燃剤、風合い調整剤、防腐剤、顔料、消泡剤、酸化防止剤、耐光剤、抗ウィルス剤、吸着剤、消臭剤、芳香剤、抗菌剤、防菌剤、抗ウィルス剤、防虫剤、帯電防止剤、耐候向上剤、耐熱向上剤、架橋剤、高分子化合物等が挙げられる。また、最終的な物性を微調整するため、少量(固形分含量として合計約5重量%以下)の範囲内でポリエステル樹脂以外の樹脂成分(アクリル樹脂、ウレタン樹脂等)を配合しても良い。
【0053】
分散剤は、低分子化合物としてはノニオン系又はアニオン系分散剤を好適に用いることができる。
【0054】
ノニオン系分散剤としては、例えばポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレン ナフチルエーテル、ポリオキシアルキレン(モノ~ペンタ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン クミルエーテル、ポリオキシアルキレン アセチレングリコールエーテル等が挙げられる。
【0055】
アニオン系分散剤としては、例えばノニオン系分散剤の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ソーダ等が挙げられる。
【0056】
また、分散剤のうち、高分子化合物としては、例えばスチレン、酢酸ビニル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリロニトリル等の疎水モノマーに対して、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の親水モノマーを共重合させたコポリマー又はその塩等を好適に用いることができる。
【0057】
防腐剤としては、例えばベンズイミダゾール系、イソチアゾロン系、トリアジン系、ジンクピリチオン、ブロノポール等が一般的に用いられる。
【0058】
顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛等が一般的に用いられる。
【0059】
消泡剤としては、例えばシリコーン系、フッ素系消泡剤は、少量の添加で所望の効果を得ることができる結果、本発明の効果を損なわれにくいという点で望ましい。
【0060】
架橋剤としては、例えばブロックドイソシアネート等を挙げることができる。これにより、さらなる耐熱性の向上を図ることも可能となる。
【0061】
B.本発明コート剤の性状について
本発明コート剤は、通常は液状であるが、特に水系ポリエステル樹脂の粒子が水系溶媒中に分散してなる水系分散液の形態をとることもできる。
【0062】
この場合の粘度(20℃)は、前記で説明した通り、通常は1000~100000mPa・s程度の範囲内において、例えば適用される塗工装置、適用する繊維質材料の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0063】
2.本発明コート剤の製造方法
本発明コート剤は、基本的には前記各成分を均一に混合することによって調製することができる。従って、各成分の添加順序等も特に限定されない。また、混合に際しては、例えばミキサー、ニーダー等の公知又は市販の装置を用いて実施することができる。
【0064】
特に、本発明では、(1)水系溶媒、水系ポリエステル樹脂及び難燃成分を含む混合液を調製する工程、(2)前記混合液に増粘成分を添加する工程を含む方法によって好適に本発明コート剤を調製することができる。
【0065】
上記混合液は、通常は水系ポリエステル樹脂及び難燃成分が水系溶媒に分散した状態であるが、その一部が溶解している場合も本発明に包含される。また、その他の添加剤は、水系溶媒に溶解していても良いし、溶解せずに分散していても良い。
【0066】
この場合、前記で述べた通り、難燃成分は、粉末状難燃成分を用いることが望ましい。粉末状難燃成分を用いることによって、キワツキ、染料の染み出し等をより効果的に抑制することができる結果、より良好な外観をもつ製品を提供することが可能となる。
【0067】
3.本発明コート剤の使用
本発明コート剤は、繊維質材料を難燃化するために使用されるものである。すなわち、繊維質材料を構成する繊維表面を本発明コート剤で被覆できる限り、その方法は特に限定されない。従って、その使用方法は、例えば公知又は市販の難燃コート剤と同様にすることもできる。
【0068】
繊維質材料の形態としては、特に限定されず、ほつれ防止が必要となる繊維質材料(例えば、織物、編物、不織布等)のほか、合成皮革、人工皮革等のようにほつれ防止が必要でない材料にも適用可能である。
【0069】
繊維質材料を構成する繊維の材質としては、例えばポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアクリル系繊維等の合成繊維、レーヨン、綿、麻等の天然繊維のほか、これらの混合繊維のいずれにも適用可能である。特に、本発明では、リサイクル性が高いポリエステル系繊維を含む繊維質材料であれば、本発明コート剤の水系ポリエステル樹脂とともに再生処理できるので、持続可能な開発目標(SDGs)によりいっそう適した製品を提供することも可能となる。
【0070】
本発明コート剤は、特に、シート状繊維質材料の表面にバックコート層を形成するために用いることができる。すなわち、本発明コート剤はBC剤として好適に用いることができる。
【0071】
例えば、
図1に示すように、シート状繊維質材料である生地11の裏面に本発明コート剤を塗工することによってバックコート層12を好適に形成することができる。これにより、生地11の糸のほつれを防止するとともに、生地11に高い難燃性を付与することができる。
【0072】
塗工方法は、特に限定されず、例えばナイフコート、グラビアロールコート、キスロールコート、カレンダコート等の公知の塗布方法により実施することができる。塗工後は、必要に応じて乾燥工程等を実施すれば良い。
【0073】
図1では、生地11とバックコート層12の2層から構成されているように示されているが、本発明コート剤が生地11に含浸し、生地とバックコート層との層間において、生地に本発明コート剤が含まれた複合層(図示せず)が形成されていても良い。すなわち、生地11のバックコート層側の表面から一定の深さまで本発明コート剤が浸透して固化してなる複合層が形成される結果、「バックコート層/複合層/生地」という層構成になっていても良い。この場合、本発明コート剤が生地に含浸する度合い(すなわち、複合層の厚み)は、例えば生地の種類、目付け等に応じて本発明コート剤の粘度等を調整することによって適宜調節することができる。
【0074】
このように、本発明コート剤を用いることによって難燃化製品10を提供することが可能となる。このような難燃化製品10も、本発明に包含される。なお、
図1では、シート状繊維質材料の片面(裏面)のみにバックコート層12が形成されているが、両面にバックコート層を形成しても良い。
【0075】
難燃化製品としては、例えば自動車、船舶、航空機、鉄道等の座席のほか、壁紙、カーペット、カーテン等の内装用品、作業着等の衣料品のほか、各種の産業資材各種の製品が挙げられる。
【実施例0076】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、本実施例中における「%」は「重量%」を意味する。
【0077】
1.原料
難燃コート剤の原料として、以下に示すものをそれぞれ使用した。
【0078】
(1)樹脂成分
・「CY-190」(丸菱油化工業株式会社製、水系ポリエステル樹脂、固形分25%、Tg:20℃)
・「バイロナールMD-1930」(東洋紡株式会社製、水系ポリエステル樹脂、固形分30%、Tg:-10℃)(以下「MD-1930」と略記)
・「プラスコートZ-3310」(互応化学株式会社製、水系ポリエステル樹脂、固形分25%、Tg:-20℃)(以下「Z-3310」と略記)
・「プラスコートZ-592」(互応化学株式会社製、水系ポリエステル樹脂、固形分25%、Tg:40℃)(以下「Z-592」と略記)
・「プラスコートRZ-105」(互応化学株式会社製、水系ポリエステル樹脂、固形分25%、Tg:52℃)(以下「RZ-105」と略記)
・「CY-255」(丸菱油化工業株式会社製、水系アクリル樹脂、固形分50%、Tg:-40℃)
・「CY-234」(丸菱油化工業株式会社製、水系ウレタン樹脂、固形分40%、Tg:-60℃)
【0079】
(2)難燃成分
・「化合物(1)」公知の製造法により合成。
・「化合物(2)」公知の製造法により合成。
・「化合物(3)」公知の製造法により合成。
・メラミンシアヌレート(山東世安化工有限公司製)(以下「MCA」と略記)
【0080】
(3)増粘剤
・「CY-260」(丸菱油化工業株式会社製、アクリル系増粘剤、固形分28%)
【0081】
(4)分散剤及び消泡剤
・「ブラウノンDSP-12.5」(青木油脂工業株式会社製、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド12.5モル付加物)(以下「ブラウDSP」と略記)
・「SNディスパーサント5027」(サンノプコ株式会社製、特殊ポリカルボン酸アンモニウム塩)(以下「SNディス」と略記)
・「FSアンチフォーム1266」(東レ・ダウコーニング社製、シリコーン系消泡剤)(以下「FSアンチ」と略記)
【0082】
2.実施例及び比較例
[実施例1]
イオン交換水(29.3重量部)に対して、ブラウDSP(0.1重量部)、SNディス(0.7重量部)及びFSアンチ(0.2重量部)を投入し、攪拌機を用いて均一になるまで攪拌した。攪拌を継続しつつ、CY-190(48.0重量部)、化合物(2)(18.0重量部)を徐々に加え、投入後にさらに20分間攪拌した。その後、25%アンモニア水(表中には「25%アンスイ」と略記)(0.6重量部)及びCY-260(3.0重量部)を加えて撹拌し、増粘させた。このようにして難燃コート剤(BC剤)を調製した。
【0083】
[実施例2~13及び比較例1~6]
各成分を表1~5に示す組成としたほかは、実施例1と同様の操作を行うことにより、難燃コート剤(BC剤)を調製した。
【0084】
[試験例1]
各実施例及び比較例で得られた難燃コート剤を用いて繊維質材料に塗布することによりサンプルを作製した後、その評価を行った。これらの結果を表1~5に示す。
なお、各実施例及び比較例で得られた難燃コート剤は、pHが8.0~9.0、粘度が20,000~26,000mPa・s(BM型粘度計、No.4×6rpm,20℃)、PVI値が0.18~0.20(60/6rpm)の範囲となっていた。
【0085】
(1)評価用サンプルの作製
各実施例及び比較例で調製されたBC剤を下記に示した生地1及び生地2の片面にドクターナイフにて塗工した。その後、80℃で予備乾燥し、150℃で1分間キュアした。次いで、20℃×50%RHで24時間以上の順化を行った。このようにして評価用サンプルを作製した。
生地1:目付250g/m2のカーシート用ポリエステル織物(色調:ベージュ)
生地2:目付205g/m2のアムンゼンポリエステル織物(色調:白)
なお、生地2は、負荷加工として、予めシリコーン系風合い改良剤(「ポロンMF-29」信越化学工業株式会社製)を有効成分で0.2%浸漬→乾燥加工したものである。
【0086】
(2)難燃性の評価
上記サンプル(塗工布)を大きさ35cm×20cmに切り出し、難燃性試験用のサンプルとした。
難燃性試験は、自動車内装用品の安全基準である「FMVSS-302法」に基づき行った。通常は、本試験はn=10にて行われるが、今回はn=20にて実施した。
評価基準は、以下の通りである。
・試験片に着火しない又はA標線手前で自消するもの:「不燃性」
・燃焼距離51mm以内(且つ60秒以内)で自消するもの:「難燃性」
・燃焼速度が102mm/min以下のもの:「遅燃性」
・燃焼速度が102mm/minを超えるもの:「易燃性」
表中では、各評価の回数を不燃性/難燃性/遅燃性/易燃性の順で記載している。不燃性~遅燃性が合格となり、易燃性の判定が20回中1度でもあった生地サンプルを「不合格」とした。
【0087】
(3)風合いの評価
上記サンプル(塗工布)を大きさ2cm×15cmに切り出し、カンチレバー法(JIS L1096、8.21.1A法)にて剛軟度の測定を行い、風合いを数値化した。評価は、45度の斜面を有するカンチレバー法試験器を用い、金属板でサンプルを抑えながら試験器の水平面上を滑るように移動させて前記斜面に押出し、試験片が垂れてその一端が前記斜面に接した際の上記移動距離(cm)を測定した。サンプルが柔軟であるほど少ない移動距離でサンプルが前記斜面に接する。以下にその評価基準を示す。
「〇」…移動距離が10cm未満
「×」…移動距離が10cm以上
【0088】
(4)耐熱性(風合い変化)の評価
上記難燃性の評価を行った生地の残布を用いて、耐熱性の試験を行った。残布を110℃の恒温環境試験機にて400時間処理した生地を難燃性、風合いの2点で変化がないかを確認した。本評価は、生地1を用いて行った。難燃性は上記「(2)難燃性の評価」の手法に従い、FMVSS-302法にて評価した。
同様に試験の前後で風合いに変化が無いか、触感を確認した。
「〇」…試験後、風合いに変化がみられない。(前記移動距離の変化が10%以下)
「×」…試験後、風合いが変化している。(前記移動距離の変化が10%を超える)
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
表1~5の結果からも明らかなように、ポリエステル系の樹脂を用いたBC剤では、塗工量の低減、難燃剤比率低減を行ってもほぼ不燃及び難燃の判定結果となり、安定的な難燃性を維持可能であることがわかる。また、耐熱性試験後も難燃性、風合いに大きな変化は認められなかった。
【0095】
これに対し、アクリル樹脂を用いた場合は、同条件で難燃性能が大きく劣る結果となった。また、ウレタン樹脂を用いた場合は、難燃性能についてはアクリル樹脂よりやや良好であったが、ポリエステル樹脂には及ばず、また耐熱性試験で外観又は風合いに変化が認められた。