(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163785
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】取付構造及び取付具
(51)【国際特許分類】
F16B 37/08 20060101AFI20231102BHJP
F16B 19/00 20060101ALI20231102BHJP
F16B 21/08 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
F16B37/08 B
F16B19/00 E
F16B21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074919
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】308011351
【氏名又は名称】大和化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】平川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】高田 和昇
【テーマコード(参考)】
3J036
3J037
【Fターム(参考)】
3J036AA03
3J036CA06
3J036DA06
3J036DB04
3J037AA02
3J037DB02
3J037DC02
(57)【要約】
【課題】スタッドボルトのような固定軸が突設されたベース部材に対し取付部材を取り付けるに際して、固定軸の挿入組付け位置のばらつきが吸収可能な形で、かつより確実に固定軸を挿入組付けすることが可能となる取付構造と、それに用いる取付具を提供する。
【解決手段】 第一部品4の挿入位置決め片40が板状部30の位置決め孔30Hに挿入保持され、かつその第一部品4に第二部品5が係合した状態において、ベース部材2のスタッドボルト20の先端部が第二部品5の傾斜案内面52aに案内されて本体部50に挿通保持されるとき、第二部品5との係合を維持しつつ第一部品4の挿入位置決め片40が撓み変形することにより、第一部品4と板状部30との相対位置関係が該板状部30の表面方向に沿って調整される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸が突設されたベース部材に対し、固定軸に対応する位置決め孔が貫通形成された板状部を有する取付部材を取り付けるための取付構造であって、
前記板状部に対し前記ベース部材の位置する側とは反対方向から前記位置決め孔に挿入保持され、少なくともその挿入方向と交差する方向への撓み変形が可能な挿入位置決め片を有する第一部材と、
前記ベース部材と前記板状部との間に位置し、前記ベース部材側から挿通された前記固定軸を内部の所定位置に保持可能な筒状の本体部と、前記本体部から前記ベース部材側へ向けて前記固定軸を包囲しつつ末広がり状に延び、固定軸が挿通されるときにその先端部を本体部の中心に案内するための傾斜案内面が内部に形成された拡開部と、前記本体部から前記板状部側へ延び、前記位置決め孔を通過して前記第一部材と係合する係合部と、を有する第二部材と、
を備え、前記第一部材の挿入位置決め片が前記板状部の位置決め孔に挿入保持され、かつ前記第二部材の係合部が係合した状態において、前記ベース部材の固定軸の先端部が前記第二部材の拡開部の傾斜案内面に案内されて前記本体部に挿通保持されるとき、前記第二部材との係合を維持しつつ前記第一部材の挿入位置決め片が撓み変形することにより、前記第一部材と前記板状部との相対位置関係が該板状部の表面方向に沿って調整されることを特徴とする取付構造。
【請求項2】
前記挿入位置決め片は、前記位置決め孔に対応する周方向の2以上の個所から突出形成され、それぞれが撓み変形可能で、かつ先端側に係止爪が設けられた弾性係止片であり、前記位置決め孔に挿入された際に前記位置決め孔の孔周辺部に対し係止して組付けられる請求項1に記載の取付構造。
【請求項3】
前記第一部材は、前記位置決め孔に挿入保持されるとき、前記位置決め孔及びその孔周辺を、前記ベース部材の位置する側とは反対側から覆う頭部を有し、
前記頭部は、前記ベース部材の位置する側の面において、前記挿入位置決め片の突出基端位置から内周側に内周側凹部が形成されている請求項1に記載の取付構造。
【請求項4】
前記第一部材は、前記位置決め孔に挿入保持されるとき、前記位置決め孔及びその孔周辺を、前記ベース部材の位置する側とは反対側から覆う頭部を有し、
前記頭部は、前記ベース部材の位置する側の面において、前記挿入位置決め片の突出基端位置から内周側に向けて、当該内周側に撓み変形した前記挿入位置決め片を収容可能な凹状収容部を有する請求項1に記載の取付構造。
【請求項5】
前記第二部材は、前記板状部の位置決め孔に挿入保持された前記第一部材に対し前記係合部によって係合した状態において、前記位置決め孔を挟む位置で互いに対面する形で前記板状部に向けて突出して当接する対向当接部を有する請求項1に記載の取付構造。
【請求項6】
前記固定軸は、スタッドボルトであり、
前記本体部は、前記スタッドボルトを予め定められた固定軸線と同軸をなし、かつ螺合する形で内部に収容保持し、
前記係合部は、前記第二部材が前記第一部材に係合した状態において、前記固定軸線と同軸をなし、かつ前記ベース部材の位置する側とは反対方向に向けて前記位置決め孔を通過するよう突出するとともに、
前記係合部の突出先端面には、所定治具によって前記第二部材全体を前記固定軸線の周りに回転させることを可能にする治具用係合部が設けられる請求項1に記載の取付構造。
【請求項7】
請求項1に記載された取付構造に用いる取付具であって、
前記ベース部材と前記取付部材との取り付け前において、前記第二部材の係合部が前記第一部材と着脱可能に係合したセット状態であることを特徴とする取付具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異なる2部材の取付構造とそれに用いる取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッシュパネルに突設されたスタッドボルトに対しインパネモジュールを搭載する場合、インパネモジュールに対するスタッドボルトの取付位置ばらつきを想定し、そのばらつきを吸収する構造が必要である。従来は、インパネモジュールに設けられるスタッドボルトの挿通孔の開口幅(径)を広げ、ばらつきがあってもスタッドボルトを挿入孔に挿入可能とし、挿入後にワッシャ付きのナットで締め付けることにより、そのばらつきを吸収して固定していた。ところが、挿入後の締め付け作業が必須となるため、作業性の改善が望まれている。
【0003】
これに対し特許文献1には、板状の取付部材に対し2部品からなる係止具を上下から挟む形で先付けして、下側の部品に設けられた案内部に下方からスタッドボルトを進入させ、スタッドの先端を案内部の斜面に押し付けて摺動させることにより、中心奥側へと案内する構造について記載がある。この場合、2部品で取付部材を上下から挟む係止具は、取付部材の横方向への移動を許容するから、スタッドボルトに位置ばらつきがあっても取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の係止具では、取付部材に対し2部品からなる係止具を組み付ける際、その取付位置にばらつきが生じる可能性がある。即ち、取付部材に設けられた開口幅(径)の広い挿通孔に対し、外周側に大きく偏って取り付けられることがありえる。この場合、取り付けられた係止具の案内部にスタッド先端を進入させることができなくなる可能性がある。
【0006】
本発明の課題は、スタッドボルトのような固定軸が突設されたベース部材に対し取付部材を取り付けるに際して、固定軸の挿入組付け位置のばらつきが吸収可能な形で、かつより確実に固定軸を挿入組付けすることが可能となる取付構造と、それに用いる取付具を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記課題を解決するための取付構造は、
固定軸(例えばスタッドボルト等)が突設されたベース部材(例えば車両のダッシュパネル等)に対し、固定軸に対応する位置決め孔が貫通形成された板状部を有する取付部材を取り付けるための取付構造であって、
前記板状部に対し前記ベース部材の位置する側とは反対方向から前記位置決め孔に挿入保持され、少なくともその挿入方向と交差する方向への撓み変形が可能な(可撓性を付与された)挿入位置決め片を有する第一部材(第一部品)と、
前記ベース部材と前記板状部との間に位置し、前記ベース部材側から挿通された前記固定軸を内部の所定位置に保持可能な筒状の本体部と、前記本体部から前記ベース部材側へ向けて前記固定軸を包囲しつつ末広がり状に延び(スカート状に広がり)、固定軸が挿通されるときにその先端部を本体部の中心に案内するための傾斜案内面が内部に形成された拡開部と、前記本体部から前記板状部側へ延び、前記位置決め孔を通過して前記第一部材と係合する係合部と、を有する第二部材(第二部品)と、
を備え、前記第一部材の挿入位置決め片が前記板状部の位置決め孔に挿入保持され、かつ前記第二部材の係合部が係合した状態(仮組付け状態)において、前記ベース部材の固定軸の先端部が前記第二部材の拡開部の傾斜案内面に案内されて前記本体部に挿通保持されるとき、前記第二部材との係合を維持しつつ前記第一部材の挿入位置決め片が撓み変形することにより、前記第一部材と前記板状部との相対位置関係が該板状部の表面方向に沿って調整されることを特徴とする。
【0008】
上記本発明によれば、第一部材(第一部品)が、挿入位置決め片によって取付部材の板状部の位置決め孔に挿入保持されることにより、取付部材(位置決め孔)に対し位置決めされる。そして、位置決めされた第一部材に対し第二部材(第二部品)が係合して組付けられる。これにより、第一部材に対し第二部材(第二部品)が係合して組付けられた取付具は、取付部材(位置決め孔)に対し位置決め状態で取り付けられるから、例えば位置決めされる取付位置を、第二部材の拡開部に挿入固定される固定軸がより挿入されやすい位置に設定できる。また、上記本発明によれば、拡開部への固定軸の挿入の際、固定軸の先端部の位置が本体部の保持位置に対しずれていると、拡開部の傾斜案内面に案内される形で本体部に挿通され、保持される。この案内の際、第一部材及び第二部材は、板状部の表面方向へスライドすることにより、固定軸の位置ずれを吸収しようとするが、このとき第一部材の挿入位置決め片がそのスライドを妨げる位置に存在する。ところが、挿入位置決め片は、撓み変形することでそのスライドを許容するから、スライドによる固定軸の位置ずれの吸収を行うことができる。つまり、上記本発明によれば、取付部材(位置決め孔)に対する第一部材及び第二部材の位置決めと、固定軸の位置ずれ吸収との双方を、同時に実現することができる。
【0009】
なお、「固定軸に対応する位置決め孔」とは、固定軸を取付部材の板状部に取り付ける際に、その取り付け位置の目安となるような位置にある位置決め孔という意味である。つまり、固定軸は、板状部の位置決め孔付近に取り付けられることを意味する。
【0010】
前記挿入位置決め片は、前記位置決め孔に対応する周方向の2以上の個所から突出形成され、それぞれが撓み変形可能で、かつ先端側に係止爪が設けられた弾性係止片であり、前記位置決め孔に挿入された際に前記位置決め孔の孔周辺部に対し係止して組付けることができる。この構成によれば、第一部材が位置決め孔に組付けられて容易に脱落しない状態となるから、第二部材の係合がしやすくなる。
【0011】
前記第一部材(第一部品)は、前記位置決め孔に挿入保持されるとき、前記位置決め孔及びその孔周辺を、前記ベース部材の位置する側とは反対側から覆う頭部を有し、前記頭部は、前記ベース部材の位置する側の面において、前記挿入位置決め片の突出基端位置から内周側に内周側凹部が形成されるようにできる。この内周側凹部が存在することにより、挿入位置決め片の撓み変形が容易になっている。
【0012】
前記第一部材(第一部品)は、前記位置決め孔に挿入保持されるとき、前記位置決め孔及びその孔周辺を、前記ベース部材の位置する側とは反対側から覆う頭部を有し、前記頭部は、前記ベース部材の位置する側の面において、前記挿入位置決め片の突出基端位置から内周側に向けて、撓み変形した前記挿入位置決め片を収容可能な凹状収容部(内周側凹部を含んでもよい)を有するようにできる。挿入位置決め片は、係止爪の突出方向とは逆側である内周側に傾倒する弾性変形を生じたときに、係止爪が下方に突出する形態となる。凹状収容部に挿入位置決め片を収容できることで、その下方の突出量を吸収できるから、第一部材と板状部との相対位置関係の調整時において、板状部との干渉を軽減できる。また、頭部の上下幅を薄くし、小型化することにも貢献する。
【0013】
前記第二部材は、前記板状部の位置決め孔に挿入保持された前記第一部材に対し前記係合部によって係合した状態において、前記位置決め孔を挟む位置で互いに対面する形で前記板状部に向けて突出して当接する対向当接部を有するようにできる。対向当接部が位置決め孔を挟む両側に位置することにより、係合状態にある第一部材および第二部材の板状部の表面方向への移動がスライドの形で安定して生じる。また、対向当接部が位置決め孔を挟む位置の両側において所定方向に長い形状を有し、板状部との当接面がより長く確保されていることで、スライド時に位置決め孔内に落ち込む不安もない。
【0014】
前記固定軸は、スタッドボルトであり、前記本体部は、前記スタッドボルトを予め定められた固定軸線と同軸をなし、かつ螺合する形で内部に収容保持し、前記係合部は、前記第二部材が前記第一部材に係合した状態において、前記固定軸線と同軸をなし、かつ前記ベース部材の位置する側とは反対方向に向けて前記位置決め孔を通過するよう突出するとともに、前記係合部の突出先端面には、所定治具によって前記第二部材全体を前記固定軸線の周りに回転させることを可能にする治具用係合部を設けることができる。この構成によれば、治具用係合部に係合した所定治具により、第二部材全体を固定軸線の周りに回転させることで、本体部に螺合しているスタッドボルトを当該本体部から取り外すことができ、第一部材および第二部材を再利用することが可能になる。
【0015】
上記課題を解決するための取付具は、上述の取付構造に用いる取付具(締結具)であって、前記ベース部材と前記取付部材との取り付け前において、前記第二部材の係合部が前記第一部材と着脱可能に係合したセット状態にすることができる。この構成によれば、第一部材と第二部材をセット状態としておくことで、持ち運びしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図6】
図5の挿入位置決め片の撓み変形を示す拡大断面図。
【
図7】
図6の挿入位置決め片がさらに撓んだ状態を示す拡大断面図。
【
図8】
図1の取付構造の形成手順を説明する断面図。
【
図13】
図12のスタッドボルトの取り外しを説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施例は、
図1に示すように、スタッドボルト20(固定軸)が突設されたベース部材2(例えば車両のダッシュパネル)に対し、スタッドボルト20に対応する位置決め孔30H(
図2参照)が貫通形成された板状部30(ブラケット)を有する取付部材3(例えば車両のインパネモジュール)を取り付けるための取付構造100であり、その取り付けには取付具1が用いられる。なお、以下では、取付構造100におけるベース部材2側を下側、その逆側(第一部品4側)を上側として説明を行う。
【0019】
取付具1は、第一部品4(第一部材)と第二部品5(第二部材)とからなる。
【0020】
第一部品4は、
図2及び
図3に示す樹脂射出成形体である。
図4に示すように、第一部品4は、板状部30に対し上側(ベース部材2の位置する側とは反対方向)から位置決め孔30Hに挿入保持され、少なくともその挿入方向(下方向)と交差する方向への撓み変形が可能な挿入位置決め片40を有する。
【0021】
ここでの第一部品4は、板状部30の位置決め孔30H及びその孔周辺部30Aを、上側(ベース部材2の位置する側とは反対方向)から覆う頭部41を有し、
図3に示すように、挿入位置決め片40は頭部41から下方に突出する。頭部41は、上下に延びる軸線Z4の周りに円盤状に形成される中央部41Aと、その外周側から下方に向けて斜め外向きに広がる、中央部41Aよりも薄い外周当接部41Bと、を有する。中央部41Aは、軸線Z4の方向に貫通形成された中央孔41Hを有する。
【0022】
挿入位置決め片40は、位置決め孔30Hに対応する周方向の3以上の個所(
図10参照)から突出形成され、それぞれが撓み変形可能で、かつ先端側に係止爪40Aが設けられた弾性係止片である。位置決め孔30Hに挿入された際には、それぞれが位置決め孔30Hの内壁面に近接又は当接し、それぞれの係止爪40Aが位置決め孔30Hに対し係止して組付けられる。ここでの挿入位置決め片40は、
図3に示すように、それぞれが中央部41Aの外周側において頭部41(第一部品4)の軸線Z4周りの3個所から下方に向けて延びるとともに、係止爪40Aが外周側に突出している。
【0023】
また、第一部品4は、下側(ベース部材2の位置する側)の面41bにおいて、挿入位置決め片40の突出基端位置から、係止爪40Aの突出側とは逆側(ここでは内周側)に上方に向けて凹んだ基端内周側凹部42(内周側凹部:
図3及び
図5参照)が形成される。この基端内周側凹部42が存在することにより、挿入位置決め片40は、内周側に向けて傾倒する撓み変形(
図6及び
図7参照)がしやすくなっている。
【0024】
ここでの頭部41は、下側(ベース部材2の位置する側)の面41bにおいて、上記基端内周側凹部42側を含む挿入位置決め片40の突出基端周辺に上方に凹む基端周辺凹部44(
図3参照)が形成される。ここでの基端周辺凹部44は、内周側を除く挿入位置決め片40の突出基端周辺が上下に貫通形成される。内周側には中央側との接続部が形成され、その接続部において上方に向けて凹んで形成された凹状部が基端内周側凹部42(
図5参照)である。
【0025】
なお、基端内周側凹部42と基端周辺凹部44に関し、ここでいう上方に凹むとは、底のある凹形状に限らず、底のない上下方向に貫通した貫通形状も含むものとする。
【0026】
また、頭部41は、下側(ベース部材2の位置する側)の面41bにおいて、挿入位置決め片40の突出基端位置から、係止爪40Aの突出側とは逆側(ここでは内周側)に向けて、撓み変形した挿入位置決め片40を収容可能な凹状収容部43(
図5~
図7参照)を有する。これにより、挿入位置決め片40が内周側に撓んで傾倒した際に、係止爪40Aが下方に突出したとしても、凹状収容部43に少なくともその一部を収容できるから、その状態での第一部品4の厚み(上下方向幅)を軽減できる。
【0027】
ここでの凹状収容部43は、基端内周側凹部42を含み、基端内周側凹部42よりも係止爪40Aの突出側とは逆側(ここでは内周側)に長い領域にわたって形成されている。さらにいえば、ここでの凹状収容部43は、挿入位置決め片40に近い側(基端内周側凹部42)においてより深く形成されている。
【0028】
なお、
図7は、挿入位置決め片40が最大レベルで撓んだ状態を示している。この状態では、挿入位置決め片40が基端側を支点に傾倒する撓みだけでなく、挿入位置決め片40の長手方向の全体にわたって撓みを生じている。
図7では板状部30が
図5及び
図6よりも厚いため、そうした撓みが生じている。
【0029】
第二部品5は、本体部50と、拡開部52と、係合部51と、対向当接部54、54と、を有した樹脂射出成形体である。
【0030】
本体部50は、
図4に示すように、ベース部材2と板状部30との間に位置し、下側(ベース部材2側)から挿通されたスタッドボルト20を内部に収容保持可能な筒状部である。この筒状の本体部50は、スタッドボルト20を、予め定められた固定軸線Z5と同軸をなし、かつ螺合する形で内部に収容保持する。
【0031】
具体的にいえば、本体部50は、筒状の外周部50Aと、その内周面から内側に向けて斜め上方に延びる弾性片50Bと、を有する。ここでの外周部50Aは、周方向において固定軸線Z5を挟んで互いに対向する円弧状対向壁50A1、50A1と、周方向における円弧状対向壁50A1、50A1の非形成区間の中間位置から内側(固定軸線Z5側)に延びる板状対向壁50A2、50A2と、を有する。弾性片50Bは、円弧状対向壁50A1、50A1の内周面の周方向複数箇所(ここでは2か所)において、上下方向の複数箇所(ここでは2か所)に設けられる。各弾性片50Bの先端には、それぞれスタッドボルト20の外周面に形成される雄ねじと螺合する雌ねじ部50bが形成される。
【0032】
本体部50にスタッドボルト20を収容保持させるときは、外周部50Aの内周側にスタッドボルト20を下方から進入させ、天井部50Cに当接させる。その際、弾性片50Bは、先端側が外向きに撓むことによって雌ねじ部50bのネジ山を、スタッドボルト20の外周面のネジ山に乗り越えさせ、スタッドボルト20の奥(上方)への進入を可能にする。進入したスタッドボルト20は天井部50Cに当接し、外周面の雄ねじに各弾性片50Bの雌ねじ部50bが螺合する形で抜け止め状態に保持される。スタッドボルト20の天井部50Cへの当接により、進入したスタッドボルト20が抜け止め位置(組付け完了位置)に達したことを組付け作業者が触感ないし接触音等で確認できる。天井部50Cには、スタッドボルト20を受け止める受け止め部50c(
図4参照)が下方に突出する形で厚みを増して形成され、その受け止め部50cにスタッドボルト20の先端が当接している。受け止め部50cが厚みを有することにより、上記当接によって係合部51の係合に影響を与えることがない。なお、上記当接は必須ではない。また、厚みを増した受け止め部50cについても上記当接による影響を係合部51の係合が受けにくい場合は省略してよい。
【0033】
拡開部52は、
図4に示すように、本体部50からベース部材2側へ向けてスタッドボルト20を包囲しつつ末広がり状に延び(スカート状に広がり)、スタッドボルト20が挿通されるときにその先端部を本体部50の中心に案内するための傾斜案内面52aが内部に形成されている。ここでの拡開部52は、下端に入口側開口部50p、上端に出口側開口部50qを有する。
【0034】
下端の入口側開口部50pは、本体部50の外周面よりも径方向外側の位置まで広がる広い開口を形成し、拡開部52へのスタッドボルト20の進入口となる。上端の出口側開口部50qは、スタッドボルトの径に対応する開口であり、本体部50の外周部50Aの内周面よりも径方向内側で狭く開口しており、本体部50へのスタッドボルト20の進入口となる。下端の入口側開口部50pから上端の出口側開口部50qにかけて形成される傾斜案内面52aは、円錐状の斜面として形成される。ここでは入口側開口部50p及び出口側開口部50qの開口と、円錐状の斜面とが固定軸線Z5と同軸をなして形成される。
【0035】
係合部51は、
図4に示すように、本体部50から上側(ベース部材2の位置する側とは反対方向)へ延び、位置決め孔30Hを通過して第一部品4と係合する。ここでの係合部51は、固定軸線Z5と同軸をなすよう上方に突出形成される。具体的にいえば、係合部51は、固定軸線Z5と同軸をなして上方に突出する軸部51Aと、その先で固定軸線Z5の周方向複数個所から軸部51Aの外周側を逆向き(下方)に折り返して延びる弾性部51Bと、それら弾性部51Bの先端の係止部51Cと、を有する。
【0036】
対向当接部54、54は、
図4に示すように、板状部30の位置決め孔30Hに挿入保持された第一部品4と係合部51によって係合した状態において、位置決め孔30Hを挟む位置で互いに対面する形で板状部30の位置決め孔30Hの孔周辺部30Aに向けて上方に突出して当接する。ここでの対向当接部54、54は、それぞれが平板状をなし、互いが平行をなして形成される。具体的にいえば、対向当接部54、54は、それぞれが本体部50の天井部50Cから、位置決め孔30Hを挟む互いの対向方向の外向きに広がった先で上方に向けて突出した断面L字形状をなし、天井部50Cを含めた全体として断面コの字状(断面略U字状)をなすように形成されている。
【0037】
ここで取付構造100の形成手順を説明する。
【0038】
まずは
図8に示すように、第一部品4を、取付部材3の板状部30に貫通形成された位置決め孔30Hに挿入保持させる。具体的には、第一部品4の各挿入位置決め片40を板状部30の位置決め孔30Hに対し上方から下方に向けて挿入する。このとき、各挿入位置決め片40は、内周側に撓み変形を生じ、先端側の係止爪40Aが板状部30のベース部材2側に回り込むに伴い撓み変形が解除されて当該板状部30に係止する。一方、このとき頭部41の外周当接部41Bが板状部30における位置決め孔30Hの周辺部に当接し、係止爪40Aと外周当接部41Bとで板状部30を挟んだ状態となる。このようにして、第一部品4は、板状部30(位置決め孔30H)に対し抜け止めされる形で組付けられる。
【0039】
このときの各挿入位置決め片40は、位置決め孔30Hの内周壁に対しその内側に位置して近接又は当接する(
図10参照)。これにより、第一部品4が位置決め孔30Hに対し位置決めされる。ここでは、第一部品4の軸線Z4と、位置決め孔30Hの軸線Z3が一致した状態に位置決めされる。
【0040】
次に
図9に示すように、板状部30(位置決め孔30H)に位置決め状態で組付けられた第一部品4に対し第二部品5の係合部51を係合させる。これにより、第一部品4及び第二部品5の双方が取付部材3に組付けられた仮組付け状態を形成する。
【0041】
具体的には、軸部51Aと共に弾性部51Bが位置決め孔30H及び中央孔41Hに対し下側から上向きに挿入される。位置決め孔30H及び中央孔41Hを通過する際、弾性部51Bが中央孔41Hの内壁面によって内側(軸部51A側)に押し付けられて弾性変形し、径方向の幅が内側に狭まる。その押し付けは中央孔41Hの通過完了に伴い解除され、これにより弾性復帰して外側に広がった係止部51Cが中央孔41Hの内壁面と周辺部上面に係止する。これにより、第二部品5が板状部30を挟む形で第一部品4に対し抜け止めされる形で係合した係合状態、即ち、取付具1が取付部材3に組付けられた仮組付け状態が形成される。
【0042】
このときの第二部品5は、
図10に示すように、位置決め孔30H及び中央孔41Hの中央を通過し、上記の仮組付け状態においては、第一部品4と位置決め孔30Hと第二部品5のそれぞれの軸線Z4、Z3、Z5が一致した状態となる。
【0043】
最後に
図11に示すように、上記の仮組付け状態において、ベース部材2のスタッドボルト20の先端部が第二部品5の拡開部52の傾斜案内面52aに案内されて本体部50に挿通保持される。このとき、第一部品4と第二部品5との係合を維持しつつ第一部品4の挿入位置決め片40が撓み変形することにより、第一部品4及び第二部品5からなる取付具1と、板状部30との相対位置関係が該板状部30の表面方向に沿って調整されることにより、スタッドボルト20の先端部が本体部50に挿通保持される。ここでの挿通保持は、スタッドボルト20の先端部に対し本体部50が螺合することによりなされる。
【0044】
具体的にいえば、拡開部52へのスタッドボルト20の挿入前において、第二部品5の係合部51は、軸部51Aと位置決め孔30Hの内壁面との間に空隙Sを有する形で第一部品4に係合している(
図10参照)。拡開部52にスタッドボルト20が挿入されるとき、スタッドボルト20の先端部が拡開部52の傾斜案内面52aに接触することなくそのまま出口側開口部50qに到達するならば、スタッドボルト20の先端部は、出口側開口部50qから先端面が天井部50Cに当接するまでそのまま進入し、その軸線Z2を固定軸線Z5に一致させる形で各弾性片50B(雌ねじ部50b)と螺合した保持状態(
図4参照)となる。
【0045】
ところが、拡開部52にスタッドボルト20が挿入されるとき、スタッドボルト20の先端部が拡開部52の傾斜案内面52aに接触する場合がある。この場合、
図11に示すように、スタッドボルト20の先端部が傾斜案内面52a上を傾斜案内面52aに沿って(
図11の矢印Q方向)摺動する形で案内され、出口側開口部50qに到達する。ただし、この摺動時において、取付具1(第一部品4及び第二部品5)は、スタッドボルト20の先端部によって全体が傾斜案内面52aの下り勾配側(
図11の矢印P方向)へと押し出される。この取付具1の押し出しは、対向当接部54、54が板状部30の下側の面上を摺動する形で生じるから、取付具1全体が板状部30の表面方向に沿って移動することになる。つまり、スタッドボルト20は、先端部で取付具1全体を板状部30の表面方向に沿って押し出すことにより出口側開口部50qに到達する(
図12参照)。出口側開口部50qに到達したスタッドボルト20は、先端部が出口側開口部50qから進入し、先端面が天井部50Cに当接するまで挿入され、軸線Z2を固定軸線Z5に一致させる形で各弾性片50B(雌ねじ部50b)と螺合した保持状態(
図4参照)となる。
【0046】
ただし、この取付具1全体の移動は、
図10に示すように位置決め孔30Hに挿入されている第一部品4の挿入位置決め片40によって妨げられるはずである。しかしながら、
図12に示すように取付具1全体がスタッドボルト20の先端部に押し出されることにより、押し出し方向側(
図11及び
図12の右側)に位置する挿入位置決め片40が位置決め孔30Hの内周壁によって押され、押された挿入位置決め片40が撓み変形を生じることで、取付具1全体の移動が可能になる。撓みによって傾倒した挿入位置決め片40は、
図6や
図7のようにして凹状収容部43に収容される。
【0047】
なお、この取付具1全体の移動は、位置決め孔30H内における第二部品5の軸部51Aの移動可能範囲内にて生じる。その移動可能範囲は、位置決め孔30H内を通過する形で配置された第二部品5の軸部51Aの移動可能範囲(空隙S)である。
【0048】
本実施例において、位置決め孔30Hに位置決め保持された第一部品4に対し係合した第二部品5(
図9参照)は、係合部51の弾性部51Bを軸部51A側に撓ませることで係合を解くことができる。その係合解除状態において、係合部51を、中央孔41H及び位置決め孔30Hを通過させる形で下方に抜き取ることにより、第一部品4及び板状部30から取り外すことができる。
【0049】
また、本実施例において、第一部品4は、第二部品5とは係合しておらず、位置決め孔30Hに位置決め保持されているだけの状態(
図8参照)において、各挿入位置決め片40を位置決め孔30Hの内周側に傾倒するよう撓み変形させることで板状部30に対する係止爪40Aの係止を解くことができる。第一部品4は、その係止解除状態において上方に移動させることで、位置決め孔30Hから取り外すことができる。
【0050】
さらに本実施例の取付具1は、位置決め孔30Hに位置決め保持された第一部品4に対し第二部品5が係合した状態(
図4及び
図12参照)において、係合部51が位置決め孔30Hを通過する形で上側(ベース部材2の位置する側とは反対方向)に向けて突出している。その突出先端面51kには、
図13及び
図14に示すように、所定治具6が係合する治具用係合部51Kが形成されている。具体的にいえば、ここでの突出先端面51kには、治具用係合部51Kとして、所定治具6であるマイナスドライバーの先端と係合可能なマイナス溝が形成されている。このため、マイナスドライバー6の先端をマイナス溝51Kに係合させ、その治具係合状態においてマイナスドライバー6を第二部品5の軸線(ここでは固定軸線Z5:
図12参照)の周りに回転させることにより、第二部品5の本体部50に対し螺合して保持されているスタッドボルト20を、第二部品5(本体部50)から取り外すことが可能である。
【0051】
また、本実施例の取付具1は、ベース部材2や取付部材3への取り付け前において、
図15に示すように、第二部品5の係合部51が第一部品4と着脱可能に係合したセット状態にすることができる。ここでは、第一部品4と第二部品5のみの状態において、第二部品5の係合部51を第一部品4の中央孔41Hに挿入することにより、抜け止めされた組付け状態(セット状態)とすることができる。具体的にいえば、板状部30の位置決め孔30Hに位置決め保持された第一部品4に対し第二部品5を係合させるのと同様にして、第二部品5の係合部51を、板状部30の位置決め孔30Hを介することなく、中央孔41Hに対し挿入することにより、係止部51Cが中央孔41Hの周辺部に対し挿入方向の奥側に回り込み、抜け止めされた組付け状態(セット状態)を形成できる。
【0052】
以上、本発明の一実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、追加及び省略等の種々の変更が可能である。
【0053】
上記実施例の第一部品4は、挿入位置決め片40を板状部30の位置決め孔30Hに挿入して位置決め状態となるとき、位置決め孔30Hに対し係合することにより抜け止めされた状態で組付けられるが、少なくとも位置決め孔30Hに対する位置決め保持になってさえいればよい。例えば挿入位置決め片40は、係止爪40Aが無く、位置決め孔30Hに対し圧入されるよう形成されていれば、位置決め孔30Hに対する位置決めと保持は可能である。
【0054】
また、挿入位置決め片40は、位置決め孔30Hに対応する周方向の2以上の個所から突出形成されていればよい。挿入位置決め片40を2つとする場合は、各挿入位置決め片40の位置決め孔30Hの内壁面に対する接触面が、当該内壁面に対応する形状とすることが望ましい。上記実施例のような円筒状の位置決め孔30Hであれば、例えばそれと略同径の曲面として上記接触面を形成できる。これにより、この接触面は、位置決め孔30Hの内壁面と面接触する形状となるから、挿入位置決め片40が位置決め孔30Hに挿入されたときの位置決め精度を高めることができる。なお、この接触面の形状については挿入位置決め片40を3以上の有する実施例にも適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
100 取付構造
1 取付具(締結具)
2 ベース部材
20 スタッドボルト
30H 位置決め孔
30A 孔周辺部
30 板状部
4 第一部品(第一部材)
40 挿入位置決め片
40A 係止爪
41 頭部
42 基端内周側凹部(内周側凹部)
43 凹状収容部
5 第二部品(第二部材)
50 本体部
51 係合部
51k 突出先端面
51K 治具用係合部
52 拡開部
52a 傾斜案内面
54 対向当接部
6 所定治具