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  • 特開-端面発光半導体レーザー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163791
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】端面発光半導体レーザー
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
H01S5/343
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074930
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】309017932
【氏名又は名称】華信光電科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江 鎮余
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 忠民
(72)【発明者】
【氏名】▲しぃん▼ 晋源
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AF05
5F173AF06
5F173AF33
5F173AH13
5F173AR14
5F173AR52
(57)【要約】
【課題】高出力端面発光半導体レーザーを提供する。
【解決手段】n-GaAsからなる基板層と、n-AlxGa1-xInP(xは0.2~0.4)からなり基板層に形成される下部クラッド層と、GaInPからなり下部クラッド層に形成される下部光導波路層と、GaAsPからなり下部光導波路層に形成される第一下部障壁層と、InGaAsからなり第一下部障壁層に形成される量子井戸層と、GaAsPからなり量子井戸層に形成される第一上部障壁層と、GaInPからなり、第一上部障壁層に形成され、厚さが300nm以下で下部光導波路層の厚さの1/3~1/2である上部光導波路層と、p-AlxGa1-xInP(xは0.55~0.9)からなり、上部光導波路層に形成され、厚さが900nm以下で下部クラッド層の厚さの1/3~1/2である上部クラッド層と、p-GaAsからなり、上部クラッド層に形成されるオーミック接触層と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n-GaAsからなる基板層と、
n-AlxGa1-xInP(xは0.2~0.4)からなり、前記基板層に形成されている下部クラッド層と、
GaInPからなり、前記下部クラッド層に形成されている下部光導波路層と、
GaAsPからなり、前記下部光導波路層に形成されている第一下部障壁層と、
InGaAsからなり、前記第一下部障壁層に形成されている量子井戸層と、
GaAsPからなり、前記量子井戸層に形成されている第一上部障壁層と、
GaInPからなり、前記第一上部障壁層に形成され、厚さが300nm以下で、前記下部光導波路層の厚さの1/3~1/2である上部光導波路層と、
p-AlxGa1-xInP(xは0.55~0.9)からなり、前記上部光導波路層に形成され、厚さが900nm以下で、前記下部クラッド層の厚さの1/3~1/2である上部クラッド層と、
p-GaAsからなり、前記上部クラッド層に形成されているオーミック接触層と、
を備えていることを特徴とする端面発光半導体レーザー。
【請求項2】
前記量子井戸層と前記第一下部障壁層との間に、GaAsからなる第二下部障壁層が更に形成され、前記量子井戸層と前記第一上部障壁層との間にGaAsからなる第二上部障壁層が更に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の端面発光半導体レーザー。
【請求項3】
下部遷移層はn-Ga0.51In0.49Pからなり、
前記下部クラッド層は厚さが2200nmで、n-(Al0.2Ga0.8)In0.5Pからなり、
前記下部光導波路層は厚さが800nmで、Ga0.51In0.49Pからなり、
前記第一下部障壁層はGa0.8AsP0.2からなり、
前記第二下部障壁層の厚さは2~5nmであり、
前記量子井戸層はIn0.2Ga0.8Asからなり、厚さが5~10nmであり、
前記第二上部障壁層の厚さは2~5nmであり、
前記第一上部障壁層はGa0.8AsP0.2からなり、
前記上部光導波路層の厚さは300nmで、Ga0.51In0.49Pからなり、
前記上部クラッド層は厚さが845nmで、p-(Al0.65Ga0.35)In0.5Pからなり、
上部遷移層はp-Ga0.51In0.49Pからなることを特徴とする請求項2に記載の端面発光半導体レーザー。
【請求項4】
前記基板層と前記下部クラッド層との間にn-GaInPからなる下部遷移層が更に形成され、前記上部クラッド層と前記オーミック接触層との間にp-GaInPからなる上部遷移層が更に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の端面発光半導体レーザー。
【請求項5】
前記基板層の(100)面における結晶方位角は10°偏移していることを特徴とする請求項1に記載の端面発光半導体レーザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称構造を具備する高出力端面発光半導体レーザーに関し、より詳しくは、非対称構造により活性領域の位置を上部クラッド層に近接するように偏移させる設計に関する。
【背景技術】
【0002】
976nmの半導体レーザーはエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)の励起光源とすることができ、そのレーザー光は水晶周波数増幅により480~490nmの青緑光出力を獲得し、青緑光源の発展という新たなトレンドとなっている。無鉛発光層構造はInGaAs、InGaAsP、GaAs、GaAsPのような780~980nmの半導体レーザーに用いられる。その最大の利点は発光層構造全体の破滅的光学的ミラー損傷(Catastrophic optical mirror damage(COMD))に対する耐性がアルミニウム含有エピタキシ構造よりも高いことである。例えば、J. Jimenez, C. R. Physique 4 (2003)(Jimenezの一つ目のeにはアクサンテギュが付されている)の表にCOMD levelに対する各材料の表現が整理されている。下記表1中、左端の列には「活性領域化合物」が、真ん中の列には「発光波長(nm)」が、右端の列には「COMD level(MW/cm2)」が示されている。
【0003】
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0009001号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザーの発光波長が976nmである場合、発光層の量子井戸の隙間が小さくなり、InGaAsを量子井戸(quantum well (QW))とするエピタキシ材料構造を使用可能になる。この際、QW/障壁(Barrier)/光導波路(waveguide(WG))システムの材料として、InGaAs/AlGaAs/AlGaAs、InGaAs/InGaAsP/GaInPまたはInGaAs/GaAsP/GaInPを使用可能であり、高効率(wall-plug efficiency)を追求する場合、InGaAs/AlGaAs/AlGaAsを用いて動作電圧の上昇に伴う電力の消耗を克服する。故に、従来の976nmの高パワー半導体レーザーではInGaAs/AlGaAs/AlGaAs材料システムを使用しており、AlGaAsは熱伝導率がGaInPよりも高く、初期電圧が低いという利点がある。但し、Al層を含むと酸化し易く、レーザー鏡面の酸化がCOMDを引き起こし、部材の信頼性を損ねるという欠点があった。また、InGaAs/InGaAsP/GaInP材料システムは、低い初期電圧、COMD levelが高いという利点があるが、GaInP及びInGaAsPのエピタキシは、その表面形状がGaAs基板の結晶方位の偏移角度と強く関係している。GaInPは高角度基板で成長するのに適合し、InGaAsPは0~2度の基板で成長するのに適合する。4元材料のInGaAsPの成長時にはAs/Pの2つの第5族ガスを精確に制御する必要があるため、高品質なInGaAsP/InGaPのエピタキシ成長技術の要求は高く、高品質なエピタキシャルウェハーを成長するのは容易ではなかった。
【0006】
976nmの半導体レーザーではInGaAs/GaAs/GaInPより優れるInGaAs/GaAsP/GaInPを使用し、Inの含有量が多い場合、高い応力の量子井戸がフィルムに欠陥を発生させ易い。GaAsPは全活性領域の圧縮ひずみ(compressive strain)が減少し、QWの欠陥密度(defect density)が低下する。且つ、GaAsPのPの含有量が適度に増加し、障壁の高さ(barrier height)が増加し、更に多くの電子がQWに制限され、材料の光ルミネセンス(photoluminescence)強度が上昇し、部材の性能が向上する(例えば、駆動電流が低下し、スロープ効率(slope efficiency(SE))が向上する)。また、GaAsPは屈折率が低い材料であり、導波閉じ込め効果を低減し、近距離場の幅が増加し、垂直方向の遠距離場の角度が縮減する。また、複数のナノ厚さのGaAsをInGaAs/GaAsP境界面に挿入し、且つ光型に影響を与えず、In原子が拡散してGaAsPに進入するのを防ぎ、InGaAs/GaAsP境界面に相互に拡散する4元化合物層(InGaAsP)が形成されて部材の性能が低下するのを回避している。
【0007】
レーザー部材の共振空洞の長さが2~6mmまで延長し、注入する電流密度が効果的に低下し、同時に熱放散(heat dissipation)面積が増加し、部材のジャンクション温度(junction temperature)が低下する。但し、共振空洞の延長に従って内部の損耗(internal loss)が増加し、SEが低下した。
【0008】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものである。その目的は、非対称構造を具備する高出力端面発光半導体レーザーを提供することであり、非対称構造を利用して出力する光パワーを高める効果を有するものである。
【0010】
本発明の他の目的は、無鉛活性領域を利用してCOMD levelを高め、部材の信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、主たる発明の端面発光半導体レーザーは、以下を備える。
n-GaAsからなる基板層。
n-AlxGa1-xInP(xは0.2~0.4)からなり、前記基板層に形成されている下部クラッド層。
GaInPからなり、前記下部クラッド層に形成されている下部光導波路層。
GaAsPからなり、前記下部光導波路層に形成されている第一下部障壁層。
InGaAsからなり、前記第一下部障壁層に形成されている量子井戸層。
GaAsPからなり、前記量子井戸層に形成されている第一上部障壁層。
GaInPからなり、前記第一上部障壁層に形成され、厚さが300nm以下で、前記下部光導波路層の厚さの1/3~1/2である上部光導波路層。
p-AlxGa1-xInP(xは0.55~0.9)からなり、前記上部光導波路層に形成され、厚さが900nm以下で、前記下部クラッド層の厚さの1/3~1/2である上部クラッド層。
p-GaAsからなり、前記上部クラッド層に形成されているオーミック接触層。
【0012】
前記量子井戸層と前記下部光導波路層との間にGaAsPからなる第一下部障壁層が更に形成され、前記量子井戸層と前記上部光導波路層との間にGaAsPからなる第一上部障壁層が更に形成されている。前記量子井戸層と前記第一下部障壁層との間にGaAsからなる第二下部障壁層が更に形成され、前記量子井戸層と前記第一上部障壁層との間にGaAsからなる第二上部障壁層が更に形成されている。
【0013】
下部遷移層はn-Ga0.51In0.49Pからなる。
前記下部クラッド層の厚さは2200nmであり、n-(Al0.2Ga0.8)In0.5Pからなる。
前記下部光導波路層の厚さは800nmであり、Ga0.51In0.49Pからなる。
前記第一下部障壁層はGa0.8AsP0.2からなる。
前記第二下部障壁層の厚さは2~5nmである。
前記量子井戸層はIn0.2Ga0.8Asからなり、厚さは5~10nmである。
前記第二上部障壁層の厚さは2~5nmである。
前記第一上部障壁層はGa0.8AsP0.2からなる。
前記上部光導波路層の厚さは300nmであり、Ga0.51In0.49Pからなる。
前記上部クラッド層の厚さは845nmであり、p-(Al0.65Ga0.35)In0.5Pからなる。
上部遷移層はp-Ga0.51In0.49Pからなる。
【0014】
さらに、前記基板層と前記下部クラッド層との間にn-GaInPからなる下部遷移層が更に形成され、前記上部クラッド層と前記オーミック接触層との間にp-GaInPからなる上部遷移層が更に形成されている。また、前記基板層の(100)面における結晶方位角は10°偏移している。
【0015】
これにより、上部光導波路層の厚さを下部光導波路層の厚さ未満とし、上部クラッド層の厚さを下部クラッド層の厚さ未満とし、活性領域の位置を上部クラッド層に近接するように偏移させ、構造上で出力する光パワーを高めている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上で説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【0017】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る非対称構造を具備する高出力端面発光半導体レーザーを示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態の、複数の非対称構造とP型ドーピング以外の領域の光強度率との関係説明図である。横軸は「n-WG(光導波路)厚さ(nm)」を示し、縦軸は「P型ドープ領域外の光場比」を示す。
【0019】
本明細書及び図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0021】
図1を参照すると、本発明は下から上にかけて順にn-GaAs基板層10、n-Ga0.51In0.49P下部遷移層12、厚さ2200nmのn-(Al0.2Ga0.8)In0.5P下部クラッド層14、厚さ800nmのGa0.51In0.49P下部光導波路層16、Ga0.8AsP0.2第一下部障壁層18、厚さ2~5nmのGaAs第二下部障壁層20、厚さ5~10nmのIn0.2Ga0.8As量子井戸層22、厚さ2~5nmのGaAs第二上部障壁層24、Ga0.8AsP0.2第一上部障壁層26、厚さ300nmのGa0.51In0.49P上部光導波路層28、厚さ845nmのp-(Al0.65Ga0.35)In0.5P上部クラッド層30、p-Ga0.51In0.49P上部遷移層32、及びp-GaAsオーミック接触層34となっている。
【0022】
このような構造に基づいて、本発明は非対称構造の無鉛活性領域が976nmの高パワー半導体レーザーとなり、材料のエピタキシ部分は(100)面における結晶方位角が10°偏移するようにGaAs基板層10に成長し、活性領域の応力補償構造には2~5nmの障壁層20、24が挿入され、量子井戸層22のPLの波長は965nmに設計されている。大電流下では、前記光ルミネセンス(Photoluminescence、PL)の波長が対応するエレクトロルミネセンス(Electroluminescence、EL)の波長は976nmとなる。このため、上部光導波路層28と下部光導波路層16の厚さ及び上部クラッド層30下部クラッド層14の成分と厚さを調整し、90%以上のライトフィールドをP型ドープ(p-doping)以外の領域に位置させ、内部の損耗(internal loss)を最少化し、且つP型ドープ側の厚さを短縮することで、部材が高パワー動作する際の熱抵抗(thermal resistance)を減少させている。図2は上部光導波路層28の厚さを150nmまたは300nmとし、異なるアルミニウム成分の上部クラッド層30は厚さ800nmの下部光導波路層16に対応し、そのライトフィールドはp-doping以外の領域の比率を≧93%としている。
【0023】
そこで、本発明は非対称光子キャリア分離閉じ込めヘテロ構造(Asymmetric decoupled confinement heterostructure(ADCH))により内部の損耗を減らし、SEを増加させている。上部光導波路層28の厚さを下部光導波路層16の厚さ未満とし、上部クラッド層30の厚さを下部クラッド層14の厚さ未満とし、活性領域の位置を上部クラッド層30に近接するように偏移させ、下部クラッド層14の屈折率を上部クラッド層30よりも高くすることで、上部クラッド層30に位置している自由キャリアに吸収されるライトフィールドを大幅に減少させている。
また、光制限要因はΓp-WG<Γn-WGであり、且つΓQWが小さくなり、等価光点が大きくなり、下記数式に基づいて構造上で出力する光パワーを高め、非対称構造により出力する光パワーを高める効果を有している。
数式Pmax=(dqw/Γqw)×W×[1-R/(1+R)]×PCOMD
(Pmax:最大出力パワー、dqw:量子井戸の幅、Γqw:制限要因、R:前鏡面反射率、PCOMD:許容可能COMDの最大出力パワー)
また、活性領域はAl-free材料であり、COMD levelを高め、部材の信頼性を高める効果を有している。
【0024】
本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0025】
10 基板層
12 下部遷移層
14 下部クラッド層
16 下部光導波路層
18 第一下部障壁層
20 第二下部障壁層
22 量子井戸層
24 第二上部障壁層
26 第一上部障壁層
28 上部光導波路層
30 上部クラッド層
32 上部遷移層
34 オーミック接触層
図1
図2