(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163792
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20231102BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 171
B41J2/175 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074931
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 一太
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EB04
2C056EB15
2C056EB34
2C056EC17
2C056EC32
2C056EC37
2C056KB04
2C056KB08
2C056KB11
2C056KB16
2C056KB37
2C056KC16
(57)【要約】
【課題】ノズル圧力に応じて液体の循環を好適に停止できる手段を提供する。
【解決手段】プリンタ10は、負圧ポンプ112を含み、インクサブタンク74とヘッド30のノズル33との間でインクを循環させるインク循環部110と、インクサブタンク74の気体層と大気との連通を制御する負圧調整バルブ114と、制御部100とを備える。制御部100は、インク循環部110のノズル33近傍の圧力であるノズル圧力NPを取得し、ノズル圧力NPが負の値の負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第1閾値TM1より小さい負側第2閾値TM2以上であることに応じて、負圧調整バルブ114を開放する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する貯留部と、
液体を吐出するノズルを有するヘッドと、
少なくとも負圧ポンプを含み、上記貯留部と上記ノズルとの間で液体を循環させる液体循環部と、
上記貯留部の気体層と大気との連通を制御する負圧調整バルブと、
制御部とを備え、
上記制御部は、上記液体循環部の上記ノズル近傍の圧力であるノズル圧力を取得し、上記ノズル圧力が負の値の第1閾値より小さく、且つ上記第1閾値より小さい第2閾値以上であることに応じて、上記負圧調整バルブを開放する液体吐出装置。
【請求項2】
上記液体循環部の上流部分の圧力を検知する正圧センサと、
上記液体循環部の下流部分の圧力を検知する負圧センサと、をさらに備え、
上記制御部は、上記正圧センサで検知された圧力と上記負圧センサで検知された圧力とに基づき、上記ノズル圧力を取得する請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記ノズル圧力が上記第1閾値より小さく、且つ上記第2閾値以上であることに応じてカウント値を更新し、上記カウント値が当該カウント値に関する閾値以上であることに応じて、上記負圧調整バルブを開放した後に、所定の停止シーケンスに従い上記液体循環部の動作を停止する請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
上記制御部は、上記ノズル圧力が上記第2閾値より小さいことに応じて、上記停止シーケンスに従うことなく上記液体循環部の動作を停止する請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記制御部は、上記ノズル圧力が正の値の第3閾値より大きいことに応じて、上記停止シーケンスに従うことなく上記液体循環部の動作を停止する請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
表示部をさらに備え、
上記制御部は、上記ノズル圧力に基づいて上記液体循環部の動作を停止した後に、上記表示部にエラーメッセージを表示する請求項3から5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
上記停止シーケンスは、上記液体循環部における液体の循環量を徐々に減らして、液体の循環を終了させるシーケンスである請求項3から5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を循環させてノズルから吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インク循環機構を有する画像記録装置の例が記載されている。この画像記録装置は、インク循環経路上に、インク循環経路内の圧力を調整する圧力調整部を有する。圧力調整部は、インク循環開始時に、画像記録部の正圧側及び負圧側のうち圧力変化量が大きいほうの圧力変化を調整することにより、画像記録部内のノズル圧力を適正な範囲内に維持する。
【0003】
液体を循環させてノズルから吐出する液体吐出装置では、ノズル圧力が大きくなると、ノズルから液体が漏れて、記録画像の画質が低下することがある。また、ノズル圧力が小さくなると、ノズルから空気が侵入して、画像記録を正常に行えなくなることがある。このため、ノズル圧力が所定以上または所定以下になったときには、液体の循環を停止し、その後にメンテナンス処理を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノズル圧力が所定以下になるたびに、液体の循環を停止して、メンテナンス処理を行う構成には、画像記録時間が長くなり、液体の消費量が多くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノズル圧力に応じて液体の循環を好適に停止できる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明の液体吐出装置は、液体を貯留する貯留部と、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、少なくとも負圧ポンプを含み、上記貯留部と上記ノズルとの間で液体を循環させる液体循環部と、上記貯留部の気体層と大気との連通を制御する負圧調整バルブと、制御部とを備えている。上記制御部は、上記液体循環部の上記ノズル近傍の圧力であるノズル圧力を取得し、上記ノズル圧力が負の値の第1閾値より小さく、且つ上記第1閾値より小さい第2閾値以上であることに応じて、上記負圧調整バルブを開放する。
【0008】
上記液体吐出装置によれば、ノズル圧力が第1閾値より小さく、且つ第2閾値以上のときには、液体の循環を無条件に停止するのではなく、負圧調整バルブを開放することにより、貯留部の気体層の圧力を大気圧に近づけて、ノズル圧力を高くする。したがって、液体の循環を必要以上に停止することなく、ノズル圧力に基づき液体の循環を好適に停止できる。
【0009】
(2) 好ましくは、上記液体吐出装置は、上記液体循環部の上流部分の圧力を検知する正圧センサと、上記液体循環部の下流部分の圧力を検知する負圧センサと、をさらに備え、上記制御部は、上記正圧センサで検知された圧力と上記負圧センサで検知された圧力とに基づき、上記ノズル圧力を取得してもよい。
【0010】
(3) 好ましくは、上記制御部は、上記ノズル圧力が上記第1閾値より小さく、且つ上記第2閾値以上であることに応じてカウント値を更新し、上記カウント値が当該カウント値に関する閾値以上であることに応じて、上記負圧調整バルブを開放した後に、所定の停止シーケンスに従い上記液体循環部の動作を停止してもよい。
【0011】
(4) 好ましくは、上記制御部は、上記ノズル圧力が上記第2閾値より小さいことに応じて、上記停止シーケンスに従うことなく上記液体循環部の動作を停止してもよい。
【0012】
(5) 好ましくは、上記制御部は、上記ノズル圧力が正の値の第3閾値より大きいことに応じて、上記停止シーケンスに従うことなく上記液体循環部の動作を停止してもよい。
【0013】
(6) 好ましくは、上記液体吐出装置は、表示部をさらに備え、上記制御部は、上記ノズル圧力に基づいて上記液体循環部の動作を停止した後に、上記表示部にエラーメッセージを表示してもよい。
【0014】
(7) 好ましくは、上記停止シーケンスは、上記液体循環部における液体の循環量を徐々に減らして、液体の循環を終了させるシーケンスであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノズル圧力に応じて液体の循環を好適に停止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るプリンタ10の外観斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、ヘッド30のノズル面31を示す模式図であり、
図4(B)は、メンテナンス部60の上面を示す模式図である。
【
図5】
図5(A)は、第1支持部40が傾斜位置に回動した状態を示す図であり、
図5(B)は、メンテナンス部60が第1支持部40上に移動した状態を示す図である。
【
図6】
図6(A)は、キャップ61が吐出部32を覆う状態を示す図であり、
図6(B)は、メンテナンス部60のワイパが吐出部32を拭く状態を示す図である。
【
図7】
図7は、インク循環部110の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、制御部100によるノズル圧力に基づくエラー処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、プリンタ10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、プリンタ10の排出口13が形成された面を前面として前後方向8が定義され、プリンタ10を前面から視て左右方向9が定義される。上下方向7、前後方向8、及び左右方向9は、互いに直交している。
【0018】
[プリンタ10の概要]
本実施形態に係るプリンタ10は、インクジェット印刷方式でシートに対してインク(液体の一例)を吐出する液体吐出装置の一例である。プリンタ10は、シートにブラックのインクを吐出するモノクロプリンタである。
【0019】
図1に示されるように、プリンタ10は、概ね直方体の形状を有する筐体11を備える。筐体11は、例えば、卓上に載置可能なサイズを有する。プリンタ10は、卓上、床面、或いはラックに載置されて使用される。
【0020】
筐体11の前面12には、排出口13、操作パネル14、及び表示部15が位置する。排出口13は、左右方向9に長いスリット状である。排出口13からは、画像記録済みのシートS(
図2参照)が排出される。操作パネル14は、プリンタ10のユーザによって操作される。ユーザは、操作パネル14を操作することにより、プリンタ10に対して各種の指示や設定等を入力する。表示部15は、プリンタ10の状態等を表示する。表示部15は、例えば、プリンタ10でエラーが発生した旨を表示する。
【0021】
[プリンタ10の内部構成]
図2に示されるように、筐体11内には、ホルダ21、テンショナ22、搬送ローラ対23、搬送ローラ対24、支持部25、ワイパクリーニング部26、カッター27、ヘッド30、第1支持部40、第2支持部50、メンテナンス部60、及び装着ケース71が位置する。
図2には記載されていないが、筐体11内には、制御部100(
図3参照)、インク循環部110、インクサブタンク74(
図7参照)等が位置する。さらに筐体11内には、洗浄液槽、洗浄液ポンプ、廃液槽(いずれも図示せず)等が位置する。インク循環部110は、液体循環部の一例である。インクサブタンク74は、貯留部の一例である。
【0022】
筐体11内において、ホルダ21は、左右方向9に延伸する。ホルダ21には、芯管(図示せず)に長尺のシートSが巻回されたロール体Rが取り付けられる。ホルダ21は、ロール体Rが芯管の周方向に回転可能となるようにロール体Rを支持する。ホルダ21は、搬送モータ81(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。ホルダ21の回転に伴い、ホルダ21に支持されているロール体Rも回転する。
【0023】
シートSは、ロール体Rの後端から上方に引き出され、テンショナ22へ案内される。テンショナ22の前方には、搬送ローラ23Aとピンチローラ23Bとを含む搬送ローラ対23が位置する。搬送ローラ対23の前方には、搬送ローラ24Aとピンチローラ24Bとを含む搬送ローラ対24が位置する。
【0024】
搬送ローラ23A、24Aは、搬送モータ81(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。搬送ローラ対23は、テンショナ22から前向きに延びるシートSをニップしながら回転することにより、シートSを前向きに送り出す。搬送ローラ対24は、搬送ローラ対23から送り出されたシートSをニップしながら回転することにより、シートSをさらに前向きに送り出す。搬送ローラ対24から送り出されたシートSは、排出口13の近傍に位置するカッター27によって所望の長さに切断され、排出口13から排出される。
図2の二点鎖線は、シートSの搬送路28を示す。
【0025】
ヘッド30は、搬送路28の上方において、搬送ローラ対23より搬送向きの下流側に位置する。ヘッド30の下面は、ノズル面31と称される。ノズル面31は、下向きに開口する複数のノズル33を有する。複数のノズル33から、搬送ベルト41(後述)に支持されたシートSへ向かって、インクが下向きに吐出される。これにより、シートSに画像が記録される。
【0026】
第1支持部40は、ヘッド30の下方に位置し、ヘッド30と対向している。第1支持部40は、搬送ベルト41、駆動ローラ42、従動ローラ43、及びギヤ44、45を有する。搬送ベルト41は、搬送ローラ対23によって搬送されてヘッド30の直下に位置するシートSを支持する。搬送ベルト41は、支持しているシートSを前向きに搬送する。後述されるように、第1支持部40は、メンテナンス部60を支持可能である。
【0027】
駆動ローラ42及び従動ローラ43は、前後方向8に離れた位置に位置する。搬送ベルト41は、無端ベルトであり、駆動ローラ42及び従動ローラ43に張架される。搬送ベルト41は、左右方向9において、搬送路28内に配置されている。
【0028】
駆動ローラ42は、搬送モータ81(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転し、搬送ベルト41を回動させる。従動ローラ43は、搬送ベルト41の回動に伴い回転する。搬送ベルト41の外周面における上側部分は、シートSの搬送面46として機能する。搬送面46は、搬送ローラ対23、24の間で搬送されるシートSを下方から支持しながら、シートSに搬送力を与える。これにより、搬送路28に位置するシートSは、前向きに搬送される。
【0029】
第1支持部40は、左右方向9に延伸する軸47を有する。軸47は、筐体11によって回転可能に支持されている。軸47は、駆動ローラ42より搬送向きの上流側、且つ搬送ローラ対23より下方に位置する。軸47は、軸モータ84(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。軸47が回転することにより、第1支持部40は軸47を中心として回動し、ヘッド30のノズル面31に平行な水平位置(
図2参照)と、第2支持部50の上面に平行な傾斜位置(
図5(A)参照)との間で移動する。
【0030】
ギヤ44、45は、第1支持部40によって回転可能に支持されている。ギヤ45は、直接的に又は他のギヤ等を介して第1モータ85(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。
【0031】
支持部25は、ヘッド30及び第1支持部40より搬送路28の下流側、且つ搬送ローラ24Aの下方に位置する。支持部25の下面は、斜め方向6と平行である。斜め方向6は、左右方向9に直交し、且つ前方へ向かうに従い下方へ向かう方向である。ワイパクリーニング部26は、支持部25の下面に位置する。ワイパクリーニング部26には、図示しない手段で洗浄液槽から洗浄液が供給される。
【0032】
第2支持部50は、支持部25の下方、且つ斜め後方に位置する。第2支持部50は、ギヤ51~53を有する。第2支持部50は、全体として斜め方向6に延びた状態で配置されている。第2支持部50は、待機中のメンテナンス部60を支持する。
【0033】
第2支持部50を斜め方向6及び左右方向9に直交する方向(以下、直交方向と称される)に移動するために、第2支持部50はボールネジ54のナット部材に取り付けられている。ボールネジ54のネジ軸は、筐体11によって、直交方向に沿った軸周りに回転可能に支持されている。ネジ軸は、上下駆動モータ83(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。ボールネジ54のナット部材は、ネジ軸の回転によって直交方向に沿って斜め上向き又は斜め下向きに移動する。これにより、第2支持部50は、直交方向に沿って、ワイパクリーニング部26に近い位置、及びワイパクリーニング部26から離れた位置に移動する。第2支持部50が前者の位置に位置するときに、ワイパクリーニング部26は、メンテナンス部60のワイパ(後述)をクリーニングする。
【0034】
ギヤ51~53は、第2支持部50に回転可能に支持されている。ギヤ53は、ギヤ51、52に噛合している。ギヤ53は、直接的に又は他のギヤ等を介して第2モータ86(
図3参照)から駆動力を付与されて回転する。ギヤ53が回転すると、ギヤ51、52は同じ方向に回転する。ギヤ51、52は、対向する位置にあるメンテナンス部60の下面に位置するラック64と噛合可能である。
【0035】
装着ケース71は、筐体11の前下方に位置し、前方を向いて開口する箱形状である。装着ケース71は、インクニードル72を有する。装着ケース71には、インクカートリッジ73が後向きに装着される。インクカートリッジ73は、顔料等を含むインクを貯留している。装着ケース71にインクカートリッジ73が装着されるときに、インクカートリッジ73のインク流出口にはインクニードル72が挿入される。インクニードル72は、
図7に示されるインク循環部110に接続されている。装着ケース71に装着されたインクカートリッジ73に貯留されているインクは、インクサブタンク74(
図7参照)に供給され、インクサブタンク74からインク循環部110を経由してヘッド30のノズル33に供給される。
【0036】
[ヘッド30]
図2及び
図4(A)に示されるように、ヘッド30のノズル面31には、3つの吐出部32A~32Cが位置する。吐出部32A~32Cは、それぞれ、2次元上に並んだ複数のノズル33を有する。吐出部32A~32Cは、左右方向9において搬送路28内に配置される。吐出部32A、32Bは、前後方向8において同じ位置に、且つ左右方向9に間隔を空けて配置される。吐出部32Cは、吐出部32A、32Bより前、且つ左右方向9において吐出部32A、32Bの間に配置される。吐出部32Cの左端は、吐出部32Aの右端より左に位置する。吐出部32Cの右端は、吐出部32Bの左端より右に位置する。なお、ヘッド30が有する吐出部32の個数は、3つに限らず、任意でよい。
【0037】
ヘッド30を上下方向7に移動するために、ヘッド30はボールネジ34のナット部材に取り付けられている。ボールネジ34のネジ軸は、筐体11によって、上下方向7に沿った軸周りに回転可能に支持されている。ネジ軸は、ヘッドモータ82(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。ボールネジ34のナット部材は、ネジ軸の回転によって上向き又は下向きに移動する。これにより、ヘッド30は、上下方向7に沿って、
図2に示される記録位置、
図6(A)に示される被キャップ位置、
図6(B)に実線で示される被ワイプ位置、及び
図6(B)に破線で示されるアンキャップ位置に移動する。
【0038】
[メンテナンス部60]
メンテナンス部60は、ヘッド30のメンテナンスを行うための部材である。メンテナンス部60は、移動可能に構成されている。メンテナンス部60は、待機中は第2支持部50によって支持される(
図2及び
図5(A)参照)。ヘッド30のメンテナンスが行われるときには、メンテナンス部60は、第1支持部40によって支持され、ヘッド30の直下に移動される(
図5(B)及び
図6参照)。
【0039】
図2及び
図4(B)に示されるように、メンテナンス部60の上面には、3つのキャップ61A~61C、3つのスポンジワイパ62A~62C、及び3つのゴムワイパ63A~63Cが位置する。キャップ61A~61Cは、ゴムやシリコン等の弾性体で構成されており、上方が開放された箱形形状を有する。キャップ61A~61Cは、ヘッド30が被キャップ位置に位置し、且つメンテナンス部60がメンテナンス位置(後述)に位置するときに、吐出部32A~32Cを覆う位置に配置される。キャップ61A~61Cには、図示しない手段で洗浄液槽から洗浄液が供給される。
【0040】
スポンジワイパ62A~62Cは、スポンジによって形成されている。ゴムワイパ63A~63Cは、ゴムによって形成されている。スポンジワイパ62A~62C及びゴムワイパ63A~63Cは、左右方向9に長い形状を有する。スポンジワイパ62A~62Cの左右方向9の長さは、それぞれ、吐出部32A~32C内のノズル33の配置領域の左右方向9の長さより長い。ゴムワイパ63A~63Cの左右方向9の長さは、それぞれ、スポンジワイパ62A~62Cの左右方向9の長さと同等である。ゴムワイパ63A~63Cの高さは、それぞれ、スポンジワイパ62A~62Cの左右方向9の高さと同等である。
図4(B)に示されるように、スポンジワイパ62A~62Cは、それぞれ、キャップ61A~61Cの後方に、キャップ61A~61Cの後方の辺と平行に配置される。ゴムワイパ63A~63Cは、それぞれ、スポンジワイパ62A~62Cの後方に、スポンジワイパ62A~62Cと平行に配置される。
【0041】
メンテナンス部60の下面の一部には、ラック64が位置する。第1支持部40のギヤ44、及び第2支持部50のギヤ51、52は、ラック64に噛合可能である。ラック64とギヤ51、52の少なくとも一方が噛合した状態でギヤ53が回転することにより、メンテナンス部60は第2支持部50の上面に沿って移動する。ラック64とギヤ44とが噛合した状態でギヤ45が回転することにより、メンテナンス部60は第1支持部40の上面に沿って移動する。また、第1支持部40が傾斜位置に位置するとき、第1支持部40の前端は第2支持部50の後端の近傍に位置し、第1支持部40の上面と第2支持部50の上面とは同一平面上に位置する(
図5(A)参照)。したがって、メンテナンス部60は、
図2及び
図5(A)に示される待機位置、
図6(B)に破線で示される待避位置、
図6(A)に示されるメンテナンス位置、及び
図6(B)に実線で示されるワイプ位置に移動可能である。
【0042】
[ヘッド30のメンテナンス処理]
プリンタ10は、ヘッド30のメンテナンス処理として、パージ処理、キャップ洗浄処理、及びワイプ処理を実行する。パージ処理及びキャップ洗浄処理は、ヘッド30が被キャップ位置に位置し、且つメンテナンス部60がメンテナンス位置に位置する状態(
図6(A)に示される状態)で実行される。パージ処理は、メンテナンス部60のキャップ61A~61Cによってヘッド30の吐出部32A~32Cをそれぞれ覆った状態で、吸引ポンプ(図示せず)によってノズル33からインクを吸引する処理である。キャップ洗浄処理は、同じ状態で、キャップ61に供給した洗浄液によってヘッド30のノズル面31を洗浄する処理である。ワイプ処理は、ヘッド30が被ワイプ位置に位置し、且つメンテナンス部60がワイプ位置に位置する状態(
図6(B)に示される状態)で実行される。ワイプ処理は、メンテナンス部60のスポンジワイパ62A~62C及びゴムワイパ63A~63Cによってヘッド30のノズル面31を拭く処理である。
【0043】
[制御部100]
図3に示されるように、制御部100は、CPU101、ROM102、RAM103、EEPROM104、及びASIC105を備えている。CPU101、ROM102、RAM103、EEPROM104、及びASIC105は、内部バス106によって相互に接続されている。ROM102は、CPU101が各種の処理を実行するためのプログラム等を記憶している。RAM103は、CPU101がプログラムを実行する際に用いるデータや信号等を一時的に記録する記憶領域、或いはデータ処理の作業領域として使用される。EEPROM104は、電源オフ後も保持すべき情報を記憶している。
【0044】
ASIC105は、プリンタ10内のセンサから信号を受け取り、CPU101からの制御に従いプリンタ10内のモータ及びバルブを制御する。制御部100は、ASIC105を通じて各モータを駆動することにより、各モータを回転させ、各モータに接続された部材を回動させる。また、制御部100は、ASIC105を通じてヘッド30の駆動素子(図示せず)に駆動信号を出力することにより、ヘッド30のノズル33からインクを吐出させる。ASIC105は、ノズル33から吐出すべきインクの量に応じた駆動信号を出力する。ASIC105には、操作パネル14及び表示部15が接続されている。
【0045】
[インク循環部110]
以下、
図7が参照されて、プリンタ10のインク循環部110について説明される。
図7に示されるインク循環部110は、正圧ポンプ111、負圧ポンプ112、補給バルブ113、負圧調整バルブ114、大気開放バルブ115、排気バルブ116、パージ遮断バルブ117、パージバイパスバルブ118、正圧センサ121、負圧センサ122、フィルタ123、6個のFEジョイント131~136、及び、これらの要素を接続する複数のチューブを備えている。インク循環部110は、インクカートリッジ73に貯留されているインクをインクサブタンク74に供給し、インクサブタンク74とヘッド30のノズル33との間でインクを循環させる。
【0046】
インクカートリッジ73は、接続口C11を有する。インクサブタンク74は、5個の接続口C21~C25を有する。接続口C21~C24は、インクサブタンク74の上面に設けられ、インクサブタンク74の空気層(空気が入っている部分)に接続される。接続口C25は、インクサブタンク74の側面に設けられ、インクサブタンク74の液体層(インクが入っている部分)に接続される。FEジョイント131~136は、それぞれ、3個の接続口C1~C3を有し、内部で接続口C1~C3を相互に接続する。
【0047】
補給バルブ113の一端は、インクカートリッジ73の接続口C11に接続される。補給バルブ113の他端は、インクサブタンク74の接続口C21に接続される。負圧ポンプ112の一端は、インクサブタンク74の接続口C22に接続される。負圧調整バルブ114の一端、及び大気開放バルブ115の一端は、インクサブタンク74の接続口C23に接続される。負圧ポンプ112の他端、負圧調整バルブ114の他端、及び大気開放バルブ115の他端は、大気開放される。
【0048】
正圧ポンプ111の一端は、インクサブタンク74の接続口C24に接続される。正圧ポンプ111の他端は、パージバイパスバルブ118の一端に接続されると共に、フィルタ123を介して、FEジョイント131の接続口C1に接続される。FEジョイント131の接続口C2は、FEジョイント132の接続口C1に接続される。FEジョイント132の接続口C2は、FEジョイント133の接続口C1に接続される。FEジョイント133の接続口C2は、排気バルブ116の一端に接続される。排気バルブ116の他端は、FEジョイント134の接続口C1に接続される。
【0049】
FEジョイント131の接続口C3は、ヘッド30の吐出部32Aの一端に接続される。吐出部32Aの他端は、FEジョイント136の接続口C3に接続される。FEジョイント132の接続口C3は、ヘッド30の吐出部32Bの一端に接続される。吐出部32Bの他端は、FEジョイント135の接続口C3に接続される。FEジョイント133の接続口C3は、ヘッド30の吐出部32Cの一端に接続される。吐出部32Cの他端は、FEジョイント134の接続口C3に接続される。
【0050】
FEジョイント134の接続口C2は、FEジョイント135の接続口C1に接続される。FEジョイント135の接続口C2は、FEジョイント136の接続口C1に接続される。FEジョイント136の接続口C2は、パージ遮断バルブ117の一端に接続される。パージ遮断バルブ117の他端は、パージバイパスバルブ118の他端、及びインクサブタンク74の接続口C25に接続される。
【0051】
正圧ポンプ111は、インク循環部110のインク流路上に設けられている。正圧ポンプ111は、ポンプモータ87(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。正圧ポンプ111は、回転することにより、インク循環部110内のインク流路にインクを押し出す。負圧ポンプ112は、インク流路上に設けられているのではなく、インクサブタンク74の空気層に接続されている。負圧ポンプ112は、ポンプモータ88(
図3参照)から駆動力が伝達されて回転する。負圧ポンプ112は、回転してインクサブタンク74に負圧を与えることにより、インク循環部110内のインク流路にあるインクを空気を介して引き込む。
【0052】
このような構成によれば、正圧ポンプ111と負圧ポンプ112の両方が動作するときに脈動の発生を防止できる。脈動は正圧ポンプ111では発生するが、負圧ポンプ112では発生しないので、負圧ポンプ112による圧力は、正圧ポンプ111による圧力と干渉しない。このため、正圧ポンプ111と負圧ポンプ112の両方が動作するときでも、大きな脈動は発生しない。また、正圧ポンプ111とフィルタ123とを接続するインク流路にダンパーフィルム(図示せず)を設けることにより、正圧ポンプ111による圧力を吸収できる。
【0053】
負圧調整バルブ114は、インクサブタンク74の気体層と大気との連通を制御する。負圧調整バルブ114は、ノーマルソレノイドバルブである。ノーマルソレノイドバルブは、バネを有し、電流が流れていない間はバネの弾性力により閉塞状態であり、電流が流れると電磁石の力がバネの弾性力より大きくなり開放状態になる。ノーマルソレノイドバルブには、開閉速度が速いという特徴がある。一方、大気開放バルブ115は、キープソレノイドバルブである。キープソレノイドバルブは、永久磁石を有し、電流が流れていない間は永久磁石の磁力により開放状態であり、電流が流れると電磁石の力が永久磁石の磁力より大きくなり閉塞状態になる。キープソレノイドバルブには、電源が喪失したときに開放状態を維持できるという特徴がある。
【0054】
正圧センサ121は、FEジョイント131の接続口C1の直前に設けられ、インク循環部110の上流部分の圧力を検知する。正圧センサ121は、制御部100に対して、検知した圧力を示す検知信号を出力する。負圧センサ122は、FEジョイント136の接続口C2の直後に設けられ、インク循環部110の下流部分の圧力を検知する。負圧センサ122は、制御部100に対して、検知した圧力を示す検知信号を出力する。制御部100は、正圧センサ121で検知された圧力、及び負圧センサ122で検知された圧力を受け取る(
図3参照)。
【0055】
制御部100は、画像記録等を行うときには、ヘッド30のノズル33を経由してインクを循環させるフロントエンド循環を行う。このとき、制御部100は、パージ遮断バルブ117を開放状態、補給バルブ113、負圧調整バルブ114、大気開放バルブ115、排気バルブ116、及びパージバイパスバルブ118を閉塞状態に制御し、正圧ポンプ111を駆動する。また、制御部100は、フロントエンド循環の開始時に、負圧ポンプ112を所定時間だけ駆動する。
【0056】
正圧ポンプ111が動作することにより、インク循環部110のインク流路にインクが押し出される。また、フロントエンド循環の開始時に負圧ポンプ112が動作することにより、インク循環部110のインク流路内のインクは引き込まれる。したがって、インクは、インクサブタンク74と吐出部32A~32Cとの間で循環する。吐出部32A~32Cは、それぞれ、複数のノズル33を含んでいる。吐出部32A~32Cに到達したインクの一部はノズル33から吐出され、残りはインクサブタンク74に戻る。このようにインク循環部110は、正圧ポンプ111を含み、インクサブタンク74とヘッド30のノズル33との間でインクを循環させる。
【0057】
制御部100は、排気循環等を行うときには、ヘッド30のノズル33を経由せずにインクを循環させるバックエンド循環を行う。このとき、制御部100は、排気バルブ116、及びパージ遮断バルブ117を開放状態、補給バルブ113、負圧調整バルブ114、大気開放バルブ115、及びパージバイパスバルブ118を閉塞状態に制御し、正圧ポンプ111を駆動する。排気バルブ116を経由する流路の抵抗は、吐出部32A~32Cを経由する流路の抵抗より小さい。このため、インクは、吐出部32A~32Cを経由する流路ではなく、排気バルブ116を経由する流路を主に流れる。したがって、ノズル33から空気を入れることなく、インク循環部110に入った空気を排出できる。
【0058】
制御部100は、インクカートリッジ73からインクサブタンク74へインクを補給するときには、補給バルブ113を開放状態、負圧調整バルブ114及び大気開放バルブ115を閉塞状態に制御し、負圧ポンプ112を駆動する。負圧ポンプ112がインクサブタンク74の空気層に負圧を与えることにより、インクカートリッジ73からインクサブタンク74へインクが補給される。
【0059】
[ノズル圧力に基づくエラー処理]
プリンタ10において画像記録を正しく行うためには、ノズル33のメニスカスを維持する必要がある。制御部100は、ノズル33のメニスカスを維持するために、正圧センサ121で検知された圧力と負圧センサ122で検知された圧力とに基づき、インク循環部110のノズル33近傍の圧力(以下、ノズル圧力NPと称される)を取得し、取得したノズル圧力NPに基づきエラー処理を行う。ノズル圧力NPは、例えば、吐出部32A~32Cのいずれかにおいて、一端と他端とを接続する主流路から分岐した、1個のノズル33と連通する個別流路内の圧力である。なお、ノズル圧力NPは、正圧センサ121で検知された圧力と負圧センサ122で検知された圧力とに基づき、ノズル33近傍の圧力を推定したものであり、ノズル33近傍の圧力を実際に測定したものではない。
【0060】
制御部100は、ノズル圧力NPに関して、3つの閾値(正側閾値TP、負側第1閾値TM1、及び負側第2閾値TM2)を有する。正側閾値TPは、正の値である。負側第1閾値TM1及び負側第2閾値TM2は、負の値である。負側第2閾値TM2は、負側第1閾値TM1より小さい。すなわち、3つの閾値の大小関係は、TM2<TM1<0<TPである。負側第1閾値TM1は、第1閾値の一例である。負側第2閾値TM2は、第2閾値の一例である。正側閾値TPは、第3閾値の一例である。
【0061】
制御部100は、ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第2閾値TM2以上である状態になった回数を数えるカウント値CNTを有する。カウント値CNTは、循環動作(フロントエンド循環又はバックエンド循環)の開始時に0に初期化され、ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第2閾値TM2以上であることに応じて、カウントアップされる。カウント値CNTは、循環動作の開始時に0に初期化される。制御部100は、カウント値CNTに関するカウント閾値TCを有する。なお、正側閾値TP、負側第1閾値TM1、及び負側第2閾値TM2、及びカウント閾値TCは、プリンタ10に予め設定された固定値でもよく、プリンタ10の動作状況等に応じて変化する値でもよい。
【0062】
以下、
図8が参照されて、制御部100によるノズル圧力に基づくエラー処理について説明される。制御部100は、始めにカウント値CNTを0に初期化する(S1)。次に、制御部100は、インク循環部110に循環動作を実行させる(S2)。制御部100は、S2において、インク循環部110内のポンプ及びバルブを制御して、インク循環部110にフロントエンド循環又はバックエンド循環を実行させる。循環動作は、プリンタ10の電源がオンしたとき、及び印刷中等に実行される。印刷終了から所定の時間が経過したときにも、ノズル33の乾燥を防止するために、循環動作は実行される。循環動作は、パージ処理を行う前にも実行される。
【0063】
次に、制御部100は、圧力検知タイミングであるか否かを判断する(S3)。制御部100は、圧力検知タイミングでないと判断したことに応じて(S3:No)、S2へ戻り、インク循環部110に循環動作を引き続き実行させる。制御部100は、圧力検知タイミングであると判断したことに応じて(S3:Yes)、S4へ進む。制御部100は、例えば、所定の時間間隔でS3を実行する。
【0064】
制御部100は、S4において、正圧センサ121で検知された圧力P1と、負圧センサ122で検知された圧力P2とを取得する。次に、制御部100は、S4で取得された2つの圧力P1、P2に基づき、ノズル圧力NPを取得する(S5)。制御部100は、S5において、例えば、S12で取得された2つの圧力P1、P2の平均(P1+P2)/2をノズル圧力NPとして取得する。なお、制御部100は、2つの圧力P1、P2に基づき、上記以外の方法でノズル圧力NPを取得してもよい。例えば、制御部100は、2つの圧力P1、P2を、正圧センサ121からノズル33に至る流路の長さ、及びノズル33から負圧センサ122に至る流路の長さとで按分することにより、ノズル圧力NPを取得してもよい。
【0065】
次に、制御部100は、ノズル圧力NPが正側閾値TPより大きいか否かを判断する(S10)。制御部100は、ノズル圧力NPが正側閾値TP以下であると判断したことに応じて(S10:No)、S20へ進む。この場合、制御部100は、ノズル圧力NPが負側第2閾値TM2より小さいか否かを判断する(S20)。制御部100は、ノズル圧力NPが負側第2閾値TM2以上であると判断したことに応じて(S20:No)、S30へ進む。この場合、制御部100は、ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さいか否かを判断する(S30)。制御部100は、ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1以上であると判断したことに応じて(S30:No)、S2へ進み、インク循環部110に循環動作を引き続き実行させる。
【0066】
制御部100は、S10においてノズル圧力NPが正側閾値TPより大きいと判断したことに応じて(S10:Yes)、S11へ進む。この場合、ノズル33からのインク漏れを防止するために、インク循環部110におけるインクの循環を速やかに停止する必要がある。そこで、制御部100は、インク循環部110を強制終了し、大気開放バルブ115を開放状態に制御する(S11)。ここで、強制終了とは、通常の終了シーケンス(後述)を実行せずに、直ちに終了することをいう。制御部100は、S11において、正圧ポンプ111を直ちに停止する。
【0067】
次に、制御部100は、表示部15に「ノズル圧力が正側閾値を超えるエラーが発生したこと」(
図8では「正側エラー」と記載)を示すエラーメッセージを表示させる(S12)。次に、制御部100は、EEPROM104に「ノズル圧力が正側閾値を超えるエラーが発生したこと」を記録する(S13)。
【0068】
制御部100は、S20においてノズル圧力NPが負側第2閾値TM2より小さいと判断したことに応じて(S20:Yes)、S21へ進む。この場合、ノズル33からの空気の侵入を防止するために、インク循環部110におけるインクの循環を速やかに停止する必要がある。そこで、制御部100は、インク循環部110を強制終了し、大気開放バルブ115を開放状態に制御する(S21)。なお、S21はS11と同じ処理である。
【0069】
次に、制御部100は、表示部15に「ノズル圧力が負側第2閾値を超えるエラーが発生したこと」(
図8では「負側エラー2」と記載)を示すエラーメッセージを表示させる(S22)。次に、制御部100は、EEPROM104に「ノズル圧力が負側第2閾値を超えるエラーが発生したこと」を記録する(S23)。
【0070】
制御部100は、S30においてノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さいと判断したことに応じて(S30:Yes)、S31へ進む。この場合、制御部100は、負圧調整バルブ114を所定時間だけ開放する(S31)。所定時間は、例えば、0.1秒である。負圧調整バルブ114が開放されると、インクサブタンク74内の気体層の圧力が大気圧に近づき、ノズル圧力NPは上昇する。次に、制御部100は、カウント値CNTに1を加算する(S32)。
【0071】
次に、制御部100は、カウント値CNTがカウント閾値TC以上であるか否かを判断する(S33)。カウント閾値TCは、例えば、10回である。制御部100は、カウント値CNTがカウント閾値TC未満であると判断したことに応じて(S33:No)、S2へ進み、インク循環部110に循環動作を引き続き実行させる。
【0072】
制御部100は、カウント値CNTがカウント閾値TC以上であると判断したことに応じて(S33:Yes)、S34へ進む。この場合、制御部100は、ノズル圧力が所定レベルになるまで負圧調整バルブ114を開放する(S34)。これにより、インクサブタンク74内の圧力は大気圧に近づき、ノズル圧力NPは所定レベルまで上昇する。
【0073】
次に、制御部100は、通常の停止シーケンスに従い、インク循環部110における循環動作を停止させる(S35)。通常の停止シーケンスとは、インク循環部110におけるインクの循環量を徐々に減らして、インクの循環を終了させるシーケンスである。インク循環部110におけるインクの循環量を徐々に減らすために、制御部100は、正圧ポンプ111がインク循環部110内のインク流路にインクを押し出す力を徐々に小さく制御する。これと共に、制御部100は、所定のタイミングで、所定の時間だけ負圧調整バルブ114を開放状態に制御してもよい。通常の停止シーケンスは、プリンタ10の電源をオフするときに実行される。
【0074】
次に、制御部100は、表示部15に「ノズル圧力が負側第1閾値を複数回超えるエラーが発生したこと」(
図8では「負側エラー1」と記載)を示すエラーメッセージを表示させる(S36)。次に、制御部100は、EEPROM104に「ノズル圧力が負側第1閾値を複数回超えるエラーが発生したこと」を記録する(S37)。
【0075】
制御部100は、S13、S23、又はS37を実行した後、画像記録処理を終了する。その後、ユーザは、プリンタ10の電源をオフする。ユーザ又は保守作業者は、フィルタ123の目詰まりを解消する、動作不良となったモータを交換する等して、エラーの原因を除去する。その後にプリンタ10の電源がオンされたときには、制御部100は、ノズル33のメニスカスを形成するために、上述されたヘッド30のメンテナンス処理を実行する。また、制御部100は、エラーの原因が除去される前にプリンタ10の電源がオンされたときには、EEPROM104に記録されたエラーの種類に基づき、表示部15にエラーの種類を示すエラーメッセージを表示させる。
【0076】
制御部100は、S33においてYesと判断したことに応じて、通常の停止シーケンスに従い、インク循環部110の動作を停止する(S34)。制御部100は、S10又はS20においてYesと判断したことに応じて、通常の停止シーケンスに従うことなく、インク循環部110の動作を停止する(S11、S21)。後者の場合、制御部100は、正圧ポンプ111を直ちに停止する。このため、通常の停止シーケンスに従うことなく停止した場合、通常の停止シーケンスに従い停止した場合と比べて、停止動作を開始してからインク循環部110の動作が停止するまでの時間が短い。
【0077】
[実施形態の作用効果]
以上に示されるように、本実施形態に係るプリンタ10は、インクサブタンク74と、ノズル33を有するヘッド30と、少なくとも負圧ポンプ112を含むインク循環部110と、負圧調整バルブ114と、制御部100とを備えている。制御部100は、インク循環部110のノズル33近傍の圧力であるノズル圧力NPを取得し、ノズル圧力NPが負の値の負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第1閾値TM1より小さい負側第2閾値TM2以上であることに応じて、負圧調整バルブ114を開放する。
【0078】
このようなプリンタ10によれば、ノズル圧力が負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第2閾値TM2以上のときには、インクの循環を無条件に停止するのではなく、負圧調整バルブ114を開放することにより、インクサブタンク74の気体層の圧力を大気圧に近づけて、ノズル圧力NPを高くする。したがって、インクの循環を必要以上に停止することなく、ノズル圧力NPに基づきインクの循環を好適に停止できる。また、印刷を頻繁に停止しないので、プリンタ10のダウンタイムを減少できる。
【0079】
また、プリンタ10は、インク循環部110の上流部分の圧力を検知する正圧センサ121と、インク循環部110の下流部分の圧力を検知する負圧センサ122とを備えている。制御部100は、正圧センサ121で検知された圧力と、負圧センサ122で検知された圧力とに基づき、ノズル圧力NPを取得する。したがって、ノズル33の近傍に圧力センサを配置できない場合でも、正圧センサ121で検知された圧力と、負圧センサ122で検知された圧力とに基づき、ノズル圧力NPを取得し、ノズル圧力NPに基づきインクの循環を好適に停止できる。
【0080】
また、制御部100は、ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さく、且つ負側第2閾値TM2以上であることに応じてカウント値CNTを更新し、カウント値CNTがカウント閾値TC以上であることに応じて、負圧調整バルブ114を開放した後に、所定の停止シーケンスに従いインク循環部110の動作を停止する。ノズル圧力NPが負側第1閾値TM1より小さく、負側第2閾値TM2以上である状態にカウント閾値TC回以上なったときに、停止シーケンスに従いインクの循環を停止することにより、ノズル圧力NPに基づきインクの循環を好適に停止できる。
【0081】
また、制御部100は、ノズル圧力NPが負側第2閾値TM2より小さいことに応じて、停止シーケンスに従うことなくインク循環部110の動作を停止する。ノズル圧力NPが負側第2閾値TM2より小さいときに、インクの循環を速やかに停止することにより、ノズル33から空気が侵入することを防止できる。
【0082】
また、制御部100は、ノズル圧力NPが正の値の正側閾値TPより大きいことに応じて、停止シーケンスに従うことなくインク循環部110の動作を停止する。ノズル圧力NPが正側閾値TPより大きいときに、インクの循環を速やかに停止することにより、ノズル33から漏れたインクによる、記録画像の画質低下を防止できる。
【0083】
また、プリンタ10は、表示部15をさらに備えている。制御部100は、ノズル圧力NPに基づいてインク循環部110の動作を停止した後に、表示部15にエラーメッセージを表示する。したがって、ノズル圧力の異常を利用者に通知できる。
【0084】
また、停止シーケンスは、インク循環部110におけるインクの循環量を徐々に減らして、インクの循環を終了させるシーケンスである。したがって、インクの循環をある程度の時間をかけて徐々に停止できる。
【0085】
[変形例]
上記実施形態に係るプリンタ10については、各種の変形例を構成できる。例えば、実施形態に係るプリンタ10はモノクロプリンタであることとしたが、変形例に係るプリンタはシートに複数種類のカラーインクを吐出するカラープリンタであってもよい。カラープリンタの場合、制御部は、複数の色のそれぞれについてノズル圧力を取得し、あるノズル圧力が負側第1閾値より小さく、且つ負側第2閾値以上であることに応じて、対応する負圧調整バルブを開放し、複数のノズル圧力の少なくとも1つが正側閾値より大きいか、負側第2閾値より小さいか、或いは負側第1閾値より小さく、且つ負側第2閾値以上である状態にカウント閾値回以上なったことに応じて、すべての色のインクの循環動作を強制終了する。
【0086】
また、プリンタ10は、キャップ61、スポンジワイパ62、及びゴムワイパ63を有するメンテナンス部60を用いて、ヘッド30のメンテナンス処理として、パージ処理、キャップ洗浄処理、及びワイプ処理を実行することとしたが、変形例に係るプリンタは、上記以外の構成を有するメンテナンス部を備えてもよく、ヘッドのメンテナンス処理として、上記3つの処理に加えて、或いは代えて他の処理を実行してもよい。例えば、メンテナンス部は、スポンジワイパを備え、ゴムワイパを備えていなくてもよい。
【0087】
また、プリンタ10の制御部100は、正圧センサ121で検知された圧力と負圧センサ122で検知された圧力とに基づき、ノズル圧力NPを取得することとしたが、変形例に係るプリンタの制御部は、上記以外の方法でノズル圧力NPを取得してもよい。例えば、変形例に係るプリンタは、ノズル近傍に圧力センサを備え、変形例に係るプリンタの制御部は、当該圧力センサで検知された圧力をノズル圧力NPとして取得してもよい。
【0088】
また、プリンタ10のインク循環部110では、負圧ポンプ112は、インクサブタンク74の空気層に接続されており、インクサブタンク74に負圧を与えることとしたが、変形例に係るプリンタのインク循環部では、負圧ポンプは、正圧ポンプと同様にインク流路上に設けられており、インク流路内のインクを引き込むこととしてもよい。
【0089】
また、プリンタ10の制御部100は、ノズル圧力NPと正側閾値TPとを比較した後に、ノズル圧力NPと負側第2閾値TM2とを比較することとしたが、変形例に係るプリンタの制御部は、ノズル圧力NPと負側第2閾値TM2とを比較した後に、ノズル圧力NPと正側閾値TPとを比較してもよい。また、変形例に係るプリンタの制御部は、ノズル圧力に基づきエラーを検知したときに、他の処理を行ってもよい。例えば、制御部は、ノズル圧力に基づきエラーを検知したときに、通信インターフェースを介して接続された他の機器にエラーの発生を通知してもよい。
【符号の説明】
【0090】
10・・・プリンタ(液体吐出装置)
15・・・表示部
30・・・ヘッド
33・・・ノズル
74・・・インクサブタンク(貯留部)
100・・・制御部
110・・・インク循環部(液体循環部)
112・・・負圧ポンプ
114・・・負圧調整バルブ
121・・・正圧センサ
122・・・負圧センサ