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特開2023-163810杖、杖用プログラム及び報知ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163810
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】杖、杖用プログラム及び報知ユニット
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20231102BHJP
   A61H 3/06 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61H3/00 A
A61H3/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074961
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】513059825
【氏名又は名称】インタアクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 修
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA23
4C046BB07
4C046BB12
4C046CC01
4C046DD44
4C046DD45
4C046EE04
4C046EE15
4C046EE26
4C046EE32
4C046EE33
4C046FF02
4C046FF12
(57)【要約】
【課題】屋外空間において、見守り対象者が杖を使用して歩行する際に、衝撃や転倒などの突発的な異常事態が生じた際に、その旨を速やかに見守り者に報知する。
【解決手段】本発明に係る杖は、長尺状の杖本体1と、杖本体1が倒れていることを検出する倒れ検出手段と、杖本体が停止していることを検出する停止検出手段と、倒れ検出手段が杖本体1が所定時間以上倒れた状態を検出し、かつ、停止検出手段が杖本体1が所定時間以上停止していることを検出することによって杖本体1の転倒状態を判別する転倒判別手段と、転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の杖本体と、
前記杖本体が倒れていることを検出する倒れ検出手段と、
前記杖本体が停止していることを検出する停止検出手段と、
前記倒れ検出手段が前記杖本体が所定時間以上倒れた状態を検出し、かつ、前記停止検出手段が前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別手段と、
前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、
を有することを特徴とする杖。
【請求項2】
長尺状の杖本体と、
前記杖本体の長手方向をX軸、前記X軸と直交する方向をY軸、前記X軸及びY軸と直交する方向をZ軸としたとき、前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸方向の加速度を検出する3軸加速度センサと、
前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸の角速度を検出する3軸角速度センサと、
前記3軸加速度センサによる前記杖本体の3軸方向のそれぞれの加速度と、前記3軸角速度センサによる前記杖本体の3軸のそれぞれの回転角速度から前記杖本体が所定時間以上倒れた状態であり、かつ、前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別手段と、
前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、
を有することを特徴とする杖。
【請求項3】
X軸方向の加速度が第1閾値以下である状態を倒れ状態とし、
前記X軸、Y軸、Z軸の3軸方向のそれぞれの加速度の絶対値の総和が重力加速度の絶対値と略等しく、前記X軸、Y軸、Z軸の3軸のそれぞれの回転角速度の絶対値の総和が第2閾値以下である状態を停止状態としたとき、
前記転倒判別手段は、倒れ状態、かつ、停止状態が所定時間以上継続したときに前記転倒状態と判別することを特徴とする請求項2記載の杖。
【請求項4】
前記杖本体は発光する発光部材を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記発光部材を発光させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の杖。
【請求項5】
前記杖本体は外部からの信号を受信する受信手段を備え、
前記受信手段からの受信信号により前記報知手段を動作させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の杖。
【請求項6】
前記杖本体は外部へ信号を送信する送信手段を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記送信手段により所定の信号を発信することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の杖。
【請求項7】
前記杖本体に着脱可能な撮像手段を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記撮像手段により撮影した画像を所定の受像装置に送信することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の杖。
【請求項8】
前記撮像手段により撮影した画像を所定の受像装置に送信するスイッチを有することを特徴とする請求項7記載の杖。
【請求項9】
3軸加速度センサが検出した杖本体におけるX軸、Y軸、Z軸方向の加速度と、3軸角速度センサが検出した杖本体におけるX軸、Y軸、Z軸の角速度を取得するステップと、
前記3軸加速度センサによる前記杖本体の3軸方向のそれぞれの加速度と、前記3軸角速度センサによる前記杖本体の3軸のそれぞれの回転角速度から前記杖本体が所定時間以上倒れた状態であり、かつ、前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別ステップと、
前記転倒判別ステップによる判別結果に応じて所定の報知を行う報知ステップと、
を有することを特徴とする杖用転倒判別プログラム。
【請求項10】
歩行補助具の長尺体に固定する取付け部と、
前記歩行補助具が倒れていることを検出する倒れ検出手段と、
前記歩行補助具が停止していることを検出する停止検出手段と、
前記倒れ検出手段が前記歩行補助具が所定時間以上倒れた状態を検出し、かつ、前記停止検出手段が前記歩行補助具が所定時間以上停止していることを検出することによって前記歩行補助具の転倒状態を判別する転倒判別手段と、
前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、
を有することを特徴とする報知ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の異常発生等を報知可能な杖、その杖用プログラム及び報知ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
視覚障害者や高齢者などのいわゆる交通弱者は、外出時、白杖やステッキなど歩行を補助する器具を使用して歩行することが多い。しかし、健常者に比べて、周囲の視認が困難を伴うことで、交通事故や転落など突発的な事故を咄嗟に回避することが難しいため、事故に巻き込まれたり、急病によって転倒することがあった。
【0003】
視覚障害者や高齢者にとって、異常事態が発生したことを監督者に適時に報知することは容易ではない。見守り者にとっては見守り対象者を常時監督することは困難であるが、衝撃や転倒などの突発的な異常事態が生じた際に、その旨を速やかに報知される手段が求められていた。
【0004】
また、異常事態の当事者となった視覚障害者や高齢者などの見守り対象者にとって、その具体的な状況を説明することは困難が伴うことが多い。したがって、異常が生じた際の状況を映像に記録して、事故発生時や急病時の状況理解や証拠収集の補助となる手段が望まれていた。
【0005】
特許文献1には、視覚障害者や高齢者などが事故に遭遇した際、周囲の状況を把握するために、その状況を録画することが可能な監視用レコーダが記載されている。この技術では、所定の大きさ以上の衝撃が加えられたとき、被看視者が事故に巻き込まれたと検知し、事故前後の映像を別途記憶する点が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、入院患者の姿勢をセンサで検出することができる携帯型発信機を装着し、加速度が所定の閾値を超える場合、ベッドから転落する等、患者の身体に過度の衝撃が発生したと判断して異常検出信号を発出してナースステーションに報知するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-083423
【特許文献2】特開2008-047097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、人により様々な行動パターンが考えられる屋外空間において、所定の大きさ以上の衝撃が加えられたことをもって当事者が事故に巻き込まれたと判別しているが、いかなる衝撃を検出するのか明らかではなかった。また、異常事態は、単に衝撃が加えられるのみならず、転倒などによっても生じ得るが、所定の大きさ以上の衝撃を判別することによって、見守り対象者の転倒を検出するのか不明であった。
【0009】
また、特許文献2の技術では、入院患者など通常は静穏にしている者に加速度センサで検出された過度の衝撃によって異常検出する物であって、屋外空間を自由に歩行する者の事故、転倒等の異常事態を検知するものではなかった。
【0010】
本発明は、このような従来の構成が有していた課題を解決しようとするものであり、様々な行動パターンが想定される屋外空間において、見守り対象者が杖を使用して歩行する際に、衝撃や転倒などの突発的な異常事態が生じた際に、その旨を速やかに見守り者に報知するとともに、異常が生じた際の状況を映像に記録して、事故発生時や急病時の状況理解や証拠収集の補助となる杖を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する杖は、長尺状の杖本体と、前記杖本体が倒れていることを検出する倒れ検出手段と、前記杖本体が停止していることを検出する停止検出手段と、前記倒れ検出手段が前記杖本体が所定時間以上倒れた状態を検出し、かつ、前記停止検出手段が前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別手段と、前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、杖は、杖が倒れた状態と、杖が停止した状態とを検出することができ、かつ、倒れた状態及び停止した状態が所定時間継続することを転倒判別手段によって判別することができるので、杖使用者が杖を使用しているとすれば入力されている力が存在しないことをもって、杖の動作の異常から杖使用者に異常事態が生じたことを推測し、見守り者に杖使用者の異常発生情報を報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る杖本体を説明する図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る杖のシステム全体の概念図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る杖装着ユニットを説明する図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る杖本体及び杖装着ユニットの構成を説明するブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る携帯型情報通信端末の構成を説明するブロック図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る管理サーバの構成を示すブロック図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る3軸加速度センサ及び3軸角速度センサの各軸を示す説明図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る転倒判別プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図9】本発明の第2実施形態に係る杖の構成を説明する図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る転倒判別プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
<全体構成>
以下、本発明に係る杖の好ましい第1実施形態について図を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態に係る杖は、杖本体1と、杖装着ユニット2とからなり、杖装着ユニット2は杖本体1に固定されるように構成されている。図2に示すように、杖装着ユニット2は、携帯型情報通信端末4と近距離無線通信で接続可能に構成されている。携帯型情報通信端末4は、ネットワークを介して管理サーバ6と接続され、見守り者用端末7もまた、ネットワークを介して管理サーバ6と接続されている。
【0015】
杖本体1は、例えば、視覚障害者用の白杖、高齢者や脚に障害を有する人が使用する歩行の補助用杖、登山用のステッキなど、杖の使用者が手で握る持ち手部11と、長尺の支柱部12を有し、およそ杖として機能するものであればどのようなものでもよい。
【0016】
杖装着ユニット(報知ユニット)2は、取付け部3を介して杖本体1に取り付けられる。図3に示すように、杖本体1を杖装着ユニット2の裏面31に設けた第1杖受け部33と、第1杖受け部33に対向する位置になるように杖本体取り付け部3の蓋部32に設けた第2杖受け部34とで、杖本体1の支柱部12を挟み込み、蓋部32に設けた係合部35を、杖装着ユニット2本体側に設けた被係合部37に係止し、ロック機構36によって杖本体1の支柱部12と、第1杖受け部33及び第2杖受け部34とを緊密に締め付けることによって、これらの間に強い摩擦力を生じ、上下にずれることなく所望の位置に着脱可能に固定される。なお、杖装着ユニット2を杖本体1に固定する方法は実施形態1のように係止する方法に限られず、後述するように、杖装着ユニットに杖本体1の頭部端を差し込むように固定してもよい。
【0017】
杖装着ユニット2内部は、図4に示すように、撮像手段としてのビデオカメラ21、倒れ検出手段としての3軸加速度センサ22a、停止検出手段としての3軸加速度センサ22a及び3軸角速度センサ22b、転倒判別手段を構成する制御装置23、転倒判別プログラム24a及びタイマー29、メモリ24、報知手段としての近距離無線通信モジュール25、振動モータ26または発光装置(発光部材)27を有し、それぞれが電子回路で制御装置23と接続されている。転倒判別プログラム24aはメモリ24に記憶されている。また、杖装着ユニット2を起動する電源ボタン20、作動させる電源装置28も備えている。なお、電源ボタン20は物理ボタンに代えて、図示しないディスプレイに表示させたボタンや、接触式センサをタッチする方式とすることもできる。
【0018】
撮像手段は、周囲の状況を動画または静止画によって撮影し、記録することができるカメラであり、特に、ビデオカメラが好ましい。図1に示すように、第1実施形態においては、ビデオカメラ21は杖装着ユニット2に内蔵されるが、ビデオカメラ21を杖装着ユニット2から分離して、杖使用者の被服・所持物品にクリップやピンなどの固定具によって固定し、有線または無線で杖装着ユニット2に接続するよう構成することもできる。ビデオカメラ21は、動画または静止画の撮影と同時に、音声、位置情報などを併せて記録するものであってもよい。
【0019】
また、図1においては、ビデオカメラ21は、杖装着ユニット2において杖使用者の進行方向に向くように1つのレンズを配置しているが、杖使用者の進行方向の左右に向くように2以上の複数のレンズを配置してもよい。ビデオカメラ21が撮影する範囲は、杖装着ユニット2を中心に全方位の状況を撮影する全天球カメラを用いて記録することが好ましいが、撮影に伴うデータ量及びメモリ24の容量を考慮し、杖装着ユニット2から固定された特定方向にレンズを向けるよう設定し、その方向のみ撮影するビデオカメラを採用してもよい。
【0020】
ビデオカメラ21は、杖装着ユニット2を起動することにより、自動的に作動し、常時撮影を継続する。撮影する画像のフレームレートは3~5fps程度で足りる。杖装着ユニット2は近距離無線通信モジュール25を介して、図2に示す携帯型情報通信端末4と接続されている。携帯型情報通信端末4には、後述するように、メモリ42が内蔵されている。ビデオカメラ21によって撮影された連続画像は、常に携帯型情報通信端末4に常に送信され続け、メモリ42に一時的に保存され、所定の時間経過後、古いものから順次メモリ42から消去されていく。
【0021】
杖装着ユニット2に内蔵されるセンサ22は、少なくとも、3軸加速度センサ22aと3軸角速度センサ(ジャイロセンサ)22bとを含むものである。例えば、3軸加速度センサ22a、3軸角速度センサ22b及び3軸磁力センサ22cを内蔵する9軸センサモジュールが好ましい。例えば、TDK株式会社製センサユニットであるICM-20948は好適である。杖装着ユニット2が杖本体1に装着されることにより、杖使用者が杖を使用する際の杖本体1の速度変化や回転速度をセンサによって常時検出して監視するとともに、検出結果を制御装置23に出力している。
【0022】
3軸加速度センサ22aは、倒れ検知手段を構成する。3軸加速度センサとして、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式、熱検知方式などを採用することができる。静電容量検出方式の3軸加速度センサは、運動物体に生じた加速度と重力加速度とを合計した値を検出する。図7に示すように、杖本体1の長手方向に平行な軸をX軸、X軸に直交する方向の仮想軸をY軸、X軸及びY軸に直交する方向の仮想軸をZ軸とする3軸を想定するように、3軸が設定されている。杖使用者が杖を使用して歩行するとき、杖先端部13は地面を突き、その後杖先端部13が地面を離れ、杖使用者の前進または後退に沿って杖の先端が空中で孤を描くように移動し、再び地面を突くという上下運動を繰り返すから、杖本体1の長手方向であるにX軸に沿って正負の速度変化が加わっている。
【0023】
3軸加速度センサ22aは、また、停止検知手段をも構成する。杖本体1に加わる速度変化が存在しないとき、3軸加速度センサ22aは重力加速度のみを検出するから、停止状態にあるとき、各軸に入力される正負の加速度の値の絶対値の総和は標準重力9.8と略等しくなる。
【0024】
3軸角速度センサ22bもまた、停止検知手段を構成する。杖使用者が杖を使用して歩行するとき、杖は上下・前後・左右に振られるため、X軸、Y軸及びZ軸の少なくとも一つの軸において回転運動が生じている。杖が停止状態にあるとき、各軸に入力される正負の回転角速度の値の絶対値の総和は0に略等しくなる。
【0025】
制御装置23は、CPU、信号処理回路等を備える。メモリ24は、制御装置23を駆動する制御プログラムである転倒判別プログラム24aを格納し、また、撮像手段が撮像した画像・映像を携帯型情報通信端末4に転送する際に一時的に保存する。制御装置23は、杖装着ユニット2に内蔵された各センサからの入力、撮像手段からの画像・音声データの入力、振動モータ26及び発光装置27などの出力装置への出力を制御し、近距離無線通信モジュール25を介して携帯型情報通信端末4と送受信するデータを変換するための計算機能を有する。
【0026】
制御装置23は、3軸加速度センサ22aおよび3軸角速度センサ22bが取得した値に基づいて、転倒判別手段が後述する転倒検出手順によって、杖使用者が杖を使用しているとすれば入力が継続されているはずの力及び回転運動が入力されない状態となる異常状態が生じたと判断したときに、報知手段として、振動モータ26を振動させ、または、発光装置27を発光させることができる。発光装置27としてはLEDや小型の電球が好適である。予め定めた条件に基づいて杖使用者である視覚障害者や高齢者が転倒判別手段によって事故・転倒などに起因する異常事態が生じたと推測し得るとき、杖装着ユニット2の振動モータ26が振動し、または発光装置27が発光することによって、異常が生じていること、救助を求めていることを周囲に報知する。
【0027】
近距離無線通信モジュール25は、杖装着ユニット2が装着された杖本体1と、携帯型情報通信端末4を含む外部との間で信号及びデータを送受信するための装置であって、近距離無線通信によって、リアルタイムで両者間の双方向通信を行う。通信方式としては、Bluetooth(登録商標)や無線LANが好適である。
【0028】
電源装置28は、杖装着ユニット2を動作させるための電力を供給する。乾電池を挿入し、または内部の充電池に充電する方法によってもよい。
【0029】
杖装着ユニット2に内蔵されるタイマー29は、基準時からの経過時間を計測し、その経過時間を制御装置23に受け渡す。タイマー29がカウントする、基準時から所定時間(本実施形態では2秒)が経過するまでの時間において、3軸加速度センサ22a及び3軸角速度センサ22bが検出した値に基づいて、転倒判別手段が杖使用者が持つ杖の状態が正常か否か判断する。
【0030】
<携帯型情報通信端末>
次に、図5を用いて、携帯型情報通信端末4について説明する。携帯型情報通信端末4は、制御部41と、記憶装置(メモリ)42と、ディスプレイ43と、スピーカ44と、近距離無線通信モジュール45と、GPS46と、タイマー47と、移動通信用モジュール48とを備え、かつ、ウェブブラウザ51とウェブアプリケーション52を含む杖用アプリケーション5を備える。なお、杖用アプリケーション5は、ウェブアプリケーションではなく携帯型情報通信端末4にインストールして使用されるプログラムとして構成してもよい。
【0031】
携帯型情報通信端末4は、いわゆるスマートフォンやスマートウォッチ、PDAなどと呼ばれる、通信機能を備える小型で携帯性を有する電子計算機である。
【0032】
携帯型情報通信端末4の制御部41は、CPU、信号処理回路等を備えるものであり、記憶装置(メモリ)42に格納されたウェブアプリケーション52の処理によって、杖装着ユニット2との間で近距離無線通信モジュール45を介して行われるデータの送受信を制御する。また、杖装着ユニット2から送信された連続画像を記憶装置(メモリ)42に一時的に記憶し、GPS46によって位置情報を取得し、ディスプレイ43及びスピーカ44への出力を制御する。また、移動通信用モジュール48を通じて、ネットワークを経由して管理サーバ6とのデータの送受信を制御する機能を有する。
【0033】
記憶装置(メモリ)42は、杖装着ユニット2のビデオカメラ21が常時撮影している連続画像を携帯型情報通信端末4が受信したときに、一時的に記憶する。携帯型情報通信端末4に内蔵されるタイマー47は、保存時間を計測し、予め定めた時間内に後述する転倒検出手順によって画像が管理サーバ6に送信される指令がない場合、記憶された連続画像は、古いものから順次消去されていく。また、後述する転倒検出手順において、経過時間も計測する。
【0034】
ディスプレイ43は、報知情報、見守り者からのメッセージその他杖使用者に伝達すべき事項を画像または映像によって出力し、スピーカ44は、これらの事項を音声によって出力する。
【0035】
近距離無線通信モジュール45は、前述した近距離無線通信モジュール25と相互に通信を行うことができ、通信方式としては、Bluetooth(登録商標)や無線LANが好適である。携帯型情報通信端末4が有するテザリング機能によって、携帯型情報通信端末4を中継して杖装着ユニット2をインターネットに接続する構成とすることもできる。
【0036】
GPS46は、後述する転倒検出手順によって、杖使用者に異常が発生したと推測し得る状況と判断されたときに、杖用アプリケーション5によって、当該地点の位置情報を取得するように制御される。なお、常時位置情報を取得するように構成してもよい。
【0037】
移動通信用モジュール48は、LTEや5Gなどに代表される移動通信システムが構成する通信ネットワークに接続するための装置であり、一般に、携帯型情報通信端末4に搭載されている。
【0038】
<管理サーバ>
次に、図6を用いて管理サーバ6の構成について説明する。図6に示すように、管理サーバ6は、制御部61がメモリ62に格納されるオペレーティングシステムによって制御され、メモリ62に格納されたデータベース63からデータを呼び出し、書き込みを行う。データベース63において、杖使用者及び見守り者のアカウント名・識別情報、杖使用者から送信された位置情報、画像などのデータが管理される。
【0039】
データベース63において、杖使用者の識別情報と、見守り者の識別情報とが紐づけられて登録されている。管理サーバ6が杖使用者の識別情報とともに杖使用者の異常情報、位置情報、画像情報などのデータを取得したとき、制御部61が杖使用者に紐づけられた見守り者用端末7に、杖使用者の異常情報、位置情報、画像情報などをプッシュ送信するように構成されている。
【0040】
<見守り者用端末>
見守り者用端末7は、携帯型情報通信端末4と同様に、通信機能を備える小型で携帯性を有する電子計算機であり、杖使用者と見守り者との間で文字・画像情報や音声情報を送受信可能にする見守り者用アプリケーションが見守り者用端末7に内蔵される記憶部に記憶されている。見守り者用端末7は、杖装着ユニット2のビデオカメラ21によって撮像された画像の受像装置として機能する。
【0041】
<転倒検出手順>
まず、図7を用いて3軸加速度センサおよび3軸角速度センサの各軸について説明する。3軸加速度センサ22aにおいては、図7(a)に示すように、杖本体1の長手方向にX軸を設定し、X軸に直交する方向にY軸、X軸及びY軸に直交する方向にZ軸を設定する。X軸方向に加えられた単位時間あたりの速度変化αx、Y軸方向に加えられた単位時間あたりの速度変化αy、Z軸方向に加えられた単位時間あたりの速度変化αzを測定する。
【0042】
3軸角速度センサ22bにおいては、図7(b)に示すように、3軸加速度センサと同様に設定されたX軸、Y軸、X軸の各軸において、X軸における単位時間あたりの回転角βx、Y軸における単位時間あたりの回転角βy、Z軸における単位時間あたりの回転角βzを測定する。
【0043】
次に、本実施形態に係る転倒判別プログラム24aの処理による転倒検出手順について図8のフローチャートを用いて説明する。まず、杖装着ユニット2の電源がONになると転倒判別プログラム24aが呼び出されるとともに、杖装着ユニット2に内蔵されるビデオカメラ21は、常時、視覚障害者や高齢者などの杖使用者が保持する杖の周囲の画像を撮影し始める(ステップS1)。同時に、杖装着ユニット2と携帯型情報通信端末4とは、近距離無線通信モジュール25,45で常時接続されているため、杖装着ユニット2の制御装置23の制御によって、常時、撮影した画像データが携帯型情報通信端末4に転送されている。
【0044】
次に、転倒判別プログラム24aによって、制御装置23から杖装着ユニット2に内蔵されるタイマー29に信号を送信し、ビデオカメラ21が画像の撮影を開始した時点を基準時として、基準時からの経過時間の計測を開始する(ステップS2)。杖装着ユニット2に内蔵された制御装置23は、3軸加速度センサ22aから単位時間あたりの加速度αx・αyおよびαzと、3軸角速度センサ22bから、単位時間あたりの角速度βx・βy及びβzをの値を取得する(ステップS3)。
【0045】
ところで、杖使用者が杖本体1を通常どおり使用しているとき、杖本体1は前述のとおり静止せずに上下運動を繰り返すから、杖本体1の長手方向であるX軸方向に繰り返し速度変化が生じている。つまり、通常の杖使用時においては、単位時間において計測したX軸方向の加速度αxは、杖本体1の引き上げ、引き下げに応じて常時変化する。例えば、引き上げる際には正の値を取ることが多いが、重力加速度のx軸方向成分よりも小さい加速度で杖が動けば、負の値となる。また、下ろす際には負の値を取る。他方、杖本体1が倒れているとき、杖本体1の長手方向(X軸方向)には、速度変化が生じず、また、地面に略水平方向となるため標準重力が加わらない。その結果、加速度αxの絶対値は0または0の近似値となる。なお、杖本体1が倒れているときに0の近似値となる場合があるのは、杖本体1が地面の小さな段差上に傾斜して倒れることがあり、杖本体1の長手方向(X軸方向)にもわずかに標準重力が加わるためである。例えば、杖装着ユニット2を装着した視覚障害者用白杖が、車道と歩道の境界部にある2センチ程度の段差上で倒れたとき、加速度αxの絶対値はおよそ1程度の値をとる。そこで、杖装着ユニット2が装着された杖本体1がおよそ転倒していると推定可能な加速度αxの絶対値をとった値を、杖本体1の倒れを判別して検知する閾値a(第1閾値)とする。
【0046】
なお、閾値aは、杖本体1の使用場面に応じて好ましい値を設定する。例えば、杖本体1が視覚障害者用白杖や歩行用の杖のときは、街路上の段差2センチ程度を考慮した値が好ましく、山岳用のステッキのときは、杖本体1が山岳の傾斜に沿って傾斜した状態で倒れることを考慮して値を設定すると良い。
【0047】
杖装着ユニット2の制御装置23に記憶される転倒判別プログラム24aは、転倒を判別するステップにおいて、まず、加速度αxの絶対値を制御装置23に演算させ、予め定めた閾値aの値と比較し、次のように判断をする(ステップS4)。
|αx|>aのとき、杖本体1の長手方向(X軸方向)に力が加わっている状態を示す。このとき、杖本体1は転倒することなく、通常の歩行時に検出される杖の上下動が生じていると推定できると判断する。そこで、転倒判別プログラム24aは、制御装置23からタイマー29に向けて時間の計測をリセットする信号を送信してタイマーカウントを0に戻し(ステップS4,NO)、ステップS2に戻り、新たにその時点を基準時としてタイマーカウントを開始する。
他方、|αx|≦aのとき、杖本体1の長手方向(X軸方向)に力が加わらずに倒れていることを示すから、杖本体1が転倒している状態と推定できると判断する(ステップS4,YES)。つまり、杖使用者が杖本体1を転倒させたまま動かせていない状態に陥っている可能性があることを意味するため、次のステップに進む。
【0048】
次に、転倒判別プログラム24aは、加速度αx・αyおよびαzそれぞれの絶対値の総和Pを制御装置23に演算させ、その総和Pが標準重力9.8と略同じ値を示すか否かを判断する(ステップS5)。3軸加速度センサ22aが静電容量検出方式のとき、杖本体1が杖使用者の手から離れて略停止状態であれば、杖本体1にかかる力は標準重力と略同一となる。すなわち、
P=|αx|+|αy|+|αz|≒9.8m/s(標準重力)となる。
なお、屋外で転倒した杖本体1が完全な停止状態になるとは限らず、衝撃や風など周囲の環境要因によって受ける外力でわずかに揺らぐことがあり、必ずしも標準重力9.8m/sと同一になるとは限らないため、一定程度の誤差を考慮してもよい。転倒判別プログラム24aは、P≠9.8m/s、つまり総和Pが標準重力と同一または予め設定した誤差の範囲内にあるとはいえないとき、杖本体1は略停止状態にないと判断する。このとき、杖使用者は正常に杖を動かしている可能性があるため、制御装置23からタイマー29に向けて時間の計測をリセットする信号を送信してタイマーカウントを0に戻し(ステップS5,NO)、ステップS2に戻り、新たにその時点を基準時としてタイマーカウントを開始する。
他方、P≒9.8m/sのとき、杖本体1は転倒後、略停止状態にあることを示す。つまり、杖使用者の手から杖本体1が離れて倒れた状態で、停止状態にある可能性があると判断し(ステップS5,YES)、次のステップに進む。
【0049】
次に、転倒判別プログラム24aは、角速度βx・βyおよびβzそれぞれの絶対値の総和Qを制御部41に演算させ、その総和Qと所定の閾値bとを比較する(ステップS6)。視覚障害者用白杖の通常の使用時は、進行方向に障害物がないか確認するように、杖使用者の手首の回転に従って杖本体1が上下・前後・左右に振られる。また、その他の杖の使用時においても、歩行時の四肢の連動によって、杖本体1を所持する腕の振りつられて杖本体1が回転を伴って動かされる。つまり、角速度センサは、通常どおりの杖使用時においては、X軸、Y軸及びZ軸の少なくとも一つの軸において回転運動が生じていることを計測している。また、杖本体1が杖使用者の手を離れて転がり続けているときにも杖本体1に回転運動が生じている。他方、杖本体1が略停止状態にあるときは、杖本体1に回転運動が生じていないため、角速度は0または0に近い値となる。なお、杖本体1が略停止状態のときに0の近似値となる場合があるのは、屋外環境で衝撃や風など周囲の環境要因によって受ける外力でわずかに揺らぐことがあるためである。そこで、杖装着ユニット2が装着された杖本体1がおよそ静止していると推定可能な角速度βx・βyおよびβzそれぞれの絶対値の総和の値を、杖本体1の停止を判別して検知する閾値b(第2閾値)とし、閾値bは0または0に近い値をとる。
【0050】
転倒判別プログラム24aは、
Q=|βx|+|βy|+|βz|>b(ただし、b≒0で、かつ、正の数)のとき、杖本体1は何らかの回転運動が生じていると判断し、杖使用者が正常に杖を動かしている可能性があるため、制御装置23からタイマー29に向けてを時間の計測をリセットする信号を送信してタイマーカウントを0に戻し(ステップS6、NO)、ステップS2に戻り、新たにその時点を基準時としてタイマーカウントを開始する。
Q=|βx|+|βy|+|βz|≦b(ただし、b≒0で、かつ、正の数)のとき、
杖本体1に回転運動が生じず略停止状態にあると判断し(ステップS6、YES)、杖本体1が杖使用者の手から離れて略停止状態にあることを意味するため、次のステップに進む。
【0051】
次に、転倒判別プログラム24aは、タイマー29で予め定めた所定時間(本実施形態では2秒)の経過の有無を判断する(ステップS7)。所定時間が経過するまで(ステップS7、NO)、ステップ3に戻り、杖装着ユニット2に内蔵された制御装置23は、3軸加速度センサ22aから加速度αx・αyおよびαzと、3軸角速度センサ22bから角速度βx・βy及びβzをの値を取得し、取得した値を前述の転倒判別プログラム24aの手順に従って演算し、さらにS4,S5,S6の判断を繰り返す。
【0052】
所定時間継続後(ステップS7、YES)も、S4,S5,S6の判断に基づき杖の倒れ及び停止状態が継続しているとき、杖本体1が杖使用者の手を離れたまま、拾われることもない状態にあること、すなわち、杖使用者が転倒・事故等の異常が発生したことを意味する。そこで、転倒を判別した結果を報知するステップとして、転倒判別プログラム24aは、異常を検出したと判別したことを意味する信号(以下、異常信号という)を制御装置23から近距離無線通信モジュール25・45を介して携帯型情報通信端末4に送信する。そして、異常信号を受信した携帯型情報通信端末4において実行される杖用アプリケーション5は、杖本体1の倒れ及び停止状態が所定時間経過したことをトリガーとして、制御部41に、この所定時間経過時点tを基準時として、tより前の所定時間(本実施形態では20秒)前に遡った時点tを始点とし、tより後の所定時間(本実施形態では20秒)経過した時点tまでの連続画像(動画)を携帯型情報通信端末4のメモリ42から呼び出させ、その連続画像(動画)データと、杖使用者に異常が発生したことを通知する信号(異常発生情報)と、携帯型情報通信端末4から通信ネットワークを介して管理サーバ6に対して送信させる(ステップS8)。なお、所定時間が経過する前に倒れ及び停止状態でなくなったときは、杖使用者の杖は既に正常な使用状態に回復している可能性があるため、制御装置23からタイマー29に向けて時間の計測をリセットする信号を送信してタイマーカウントを0に戻し(ステップS7、NO)、ステップS2に戻り、新たにその時点を基準時としてタイマーカウントを開始する。
【0053】
杖用アプリケーション5は、制御部41に、生成した連続画像(動画)データと異常発生情報との送信に併せて、杖使用者の識別情報、アカウント名、連続画像の開始及び終了時刻データ、異常発生情報が生成された地点における携帯型情報通信端末4の位置情報データをGPS46から取得させ、杖使用者の所有する携帯型情報通信端末4から通信ネットワークを介して管理サーバ6に対して送信させる。
【0054】
また、転倒判別プログラム24aは、異常信号発生時に制御装置23から振動モータ26または発光装置27に向けて信号を送信させ、振動モータ26を振動させたり、発光装置27を発光させることで、周囲に対して杖使用者に異常が発生したことを報知する。
【0055】
また、杖用アプリケーション5は、制御部41に、異常が生じた旨をウェブブラウザ51上で表示させ、周囲に対して杖使用者に異常が発生したことを報知する。
【0056】
管理サーバ6は、携帯型情報通信端末4から杖使用者の識別情報、アカウント名、連続画像(動画)データ、異常発生情報、時刻データ、位置情報などのデータを受信する。管理サーバ6のオペレーティングシステムは、これらのデータを受信後、データベース63に予め登録された杖使用者情報とを突合し、受信した連続画像(動画)データ、異常発生情報、時刻データ、位置情報等をデータベース63に格納する。さらに、予め登録しておいた杖使用者の見守り者用端末7に向けて、異常発生情報、時刻データ、位置情報をプッシュ送信で報知し、連続画像(動画)データへのリンクを送信し、見守り者が同データにアクセス可能にする。
【0057】
見守り者は、見守り者用端末7に組み込まれた見守り者用アプリケーションを通じて、杖使用者の杖装着ユニット2によって撮影された連続画像(動画)データ、異常発生情報、時刻データ、位置情報を確認することができる。
【0058】
また、図2に示すように、見守り者用端末7からネットワークを介して、管理サーバ6を経由して杖使用者の携帯型情報通信端末4に任意の情報または信号を送信することもできる。杖使用者の携帯型情報通信端末4が見守り者用端末7から情報または信号を受信したことを通知するために、携帯型情報通信端末4の制御部41は、振動モータ26を振動させ、発光装置27を発光させる信号を杖装着ユニット2に送信し、またはウェブブラウザ51に受信内容を表示させる。
【0059】
なお、本実施形態に係る杖本体1において、転倒判別手段による判断に基づいて杖使用者の状態を見守り者に通知する構成としているが、さらに、杖使用者の任意のタイミングで見守り者に対して自身の状態を通知することが可能なように、杖装着ユニット2において図示しない通知ボタンまたはスイッチを含めたり、ウェブブラウザ51上にタップ可能な通知ボタンを含めた構成としてもよいことはもちろんである。
【0060】
〔第2実施形態〕
次に、図9を使用して本発明に係る第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の装置の基本構成は前述した実施形態と同一であるため重複する説明は省略し、ここでは本実施形態の特徴となる構成について説明する。また、図9に記載のない、前述した実施形態と同一機能を有する部材には同一符号を付す。図9に示すように、杖装着ユニット82は、杖本体1の頭部端14を杖装着ユニット82の差込口83に差し込むように着脱可能に固定し、持ち手部11のカバーのように構成させてもよい。このように杖装着ユニット82を配置することにより、特に、杖本体1の持ち手部11が湾曲せずに支柱部12と直線状に構成された視覚障害者用白杖においては、図1に示すように支柱部12上に杖装着ユニット2が配置される場合よりも杖本体1における重心が偏心しないため、杖使用時の使用感が向上する。杖装着ユニット82の内部機構において、撮像手段(ビデオカメラ821)、倒れ検出手段、停止検出手段、転倒判別手段、報知手段を有し、それぞれが電子回路で制御装置23と接続されていること、電源装置828を備えていることは第1実施形態と同様であるから、ここでは詳述しない。
【0061】
第2実施形態においては、杖本体1に異常な回転が生じ、その後停止した場合に杖の転倒を検知する。図10の転倒判別プログラム24aの流れを示すフローチャートに示すように、杖装着ユニット82の電源がONになると転倒判別プログラム24aが呼び出されるとともに、杖装着ユニット82に内蔵されるビデオカメラ821は、常時、杖使用者が保持する杖の周囲の画像を撮影し始める(ステップS11)。同時に、杖装着ユニット82と携帯型情報通信端末4とは、近距離無線通信モジュール25・45で常時接続されているため、杖装着ユニット82の制御手段23の制御によって、撮影した画像データが携帯型情報通信端末4に転送される。
【0062】
次に、転倒判別プログラム24aによって、制御装置23から杖装着ユニット82に内蔵されるタイマー29に信号を送信し、ビデオカメラ821が画像の撮影を開始した時点を基準時として、基準時からの経過時間の計測を開始する(ステップS12)。次に、杖装着ユニット82に内蔵された制御装置23が、3軸角速度センサ22bから、単位時間あたりの角速度βx・βy及びβzの値を取得する(ステップS13)。
【0063】
次に、転倒判別プログラム24aは、角速度βx・βyおよびβzそれぞれの絶対値の総和Rを制御装置23に演算させ、その総和Rと所定の閾値cとを比較する(ステップS14)。本ステップにおいて、杖本体1に異常な回転が生じたか否か検知する。ここで、所定の閾値cは、通常の杖使用者の動作では生じ得ない高速での角速度の値を設定する。
R=|βx|+|βy|+|βz|≧cのとき、杖本体1に速い速度の回転が生じたこと、すなわち、杖使用者が意図せずに杖本体1が倒れ、地面上を転がりX軸を囲む周方向に回転が生じたり、杖本体1が跳ね上げられ宙を舞うことで各軸の周方向にランダムな回転が生じるなどが想定される。R<cのとき、転倒判別プログラム24aは、杖本体1が通常の使用状態にあるか、使用者がゆっくりと杖を横たえて置くなど、事故発生を示す異常状態ではないと判断し、制御装置23からタイマー29に向けて時間の計測をリセットする信号を送信してタイマーカウントを0に戻し(ステップS14、NO)、ステップS12に戻り、新たにその時点を基準時としてタイマーカウントを開始する。S12に戻る。
R≧cのとき、杖本体1が何らかの異常状態にあると判断し(ステップS14、YES)、さらに次のステップに進む。
【0064】
次に、転倒判別プログラム24aは、タイマー29で予め定めた所定時間(本実施形態では1秒)の経過の有無を判断する(ステップS15)。所定時間が経過するまで(ステップS15、NO)、ステップ13に戻り、杖装着ユニット82に内蔵された制御装置23は、3軸角速度センサ22bから角速度βx・βy及びβzをの値を取得し、それぞれの絶対値の総和Rを演算し、S14の判断を繰り返す。
【0065】
ステップS13及びステップS14において杖本体1が異常な回転状態にあるとの判断が所定時間継続後(ステップS15、YES)、転倒判別プログラム24aはタイマー29に信号を送信し、予め定めた時間を計測(例えば3秒)する(ステップS16)。例えば、120cm前後の白杖が杖使用者の手を離れ、地面に倒れて停止する程度の時間(例えば3秒)をおくことで、ステップS13及びステップS14と、次に実行される杖の転倒を判別するステップとのタイミングをずらす。
【0066】
この後のステップは、図8のフローチャートにおけるステップS2以降と同様の流れとなるが、ステップS4,S5またはS6でNOと判断されたときは、杖使用者が正常に杖を動かしている可能性があると判断して、ステップS12に戻るように設定する。第2実施形態においては、タイマーカウント開始から間もなく(本実施形態では1秒)杖が低速で回転したときは、杖使用者が杖本体1を横に向けるよう回転させて置くなどし、通常の使用状態にあり事故ではないと判別する。他方、杖本体1に異常な回転が生じたときに、それを契機として、その後、杖本体1が倒れたこと、停止したことを転倒判別プログラム24aが判断し、管理サーバ6を経由して見守り者用端末7に異常発生情報等が送信される。
【0067】
なお、本実施形態では歩行補助具である杖本体1に報知ユニットたる杖装着ユニット2を取り付けた杖を説明したが、この報知ユニットは高齢者が歩行補助具として使用して転倒の可能性のある、買い物カートや電動カートなどのカート類の長尺部分に取り付けてもよく、同様な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明によれば、高齢者や視覚障害者などの交通弱者が、街路上などで生じた異常を見守り者が即座に知り得、かつ、状況を確認することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 杖本体
11 持ち手部
12 支柱部
13 杖先端部
2 杖装着ユニット(報知ユニット)
21 ビデオカメラ
22 センサ
22a 3軸加速度センサ
22b 3軸角速度センサ
23 制御装置
24 メモリ
24a 転倒判別プログラム
25 近距離無線通信モジュール(報知手段)
29 タイマー
3 取付け部
4 携帯情報通信端末
41 制御部
42 記憶装置(メモリ)
45 近距離無線通信モジュール(報知手段)
47 タイマー
48 移動通信用モジュール
5 杖用アプリケーション
52 ウェブアプリケーション
6 管理サーバ
63 データベース
7 見守り者用端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-07-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の杖本体と、
前記杖本体の長手方向をX軸、前記X軸と直交する方向をY軸、前記X軸及びY軸と直交する方向をZ軸としたとき、前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸方向の加速度を検出する3軸加速度センサと、
前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸の角速度を検出する3軸角速度センサと、
前記3軸加速度センサによる前記杖本体の3軸方向のそれぞれの加速度と、前記3軸角速度センサによる前記杖本体の3軸のそれぞれの回転角速度から前記杖本体が所定時間以上倒れた状態であり、かつ、前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別手段と、
前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、を有し、
前記X軸方向の加速度が第1閾値以下である状態を倒れ状態とし、
前記X軸、Y軸、Z軸の3軸方向のそれぞれの加速度の絶対値の総和が重力加速度の絶対値と略等しく、前記X軸、Y軸、Z軸の3軸のそれぞれの回転角速度の絶対値の総和が第2閾値以下である状態を停止状態、第3閾値以上である状態を異常回転状態としたとき、
前記転倒判別手段は、異常回転状態を検出し所定時間経過後に、倒れ状態、かつ、停止状態が所定時間以上継続したときに前記転倒状態と判別することを特徴とする杖。
【請求項2】
前記杖本体は発光する発光部材を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記発光部材を発光させることを特徴とする請求項1記載の杖。
【請求項3】
前記杖本体は外部からの信号を受信する受信手段を備え、
前記受信手段からの受信信号により前記報知手段を動作させることを特徴とする請求項1記載の杖。
【請求項4】
前記杖本体は外部へ信号を送信する送信手段を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記送信手段により所定の信号を発信することを特徴とする請求項1記載の杖。
【請求項5】
前記杖本体に着脱可能な撮像手段を備え、
前記報知手段は、前記転倒判別手段が前記転倒状態と判別したときに、前記撮像手段により撮影した画像を所定の受像装置に送信することを特徴とする請求項1記載の杖。
【請求項6】
前記撮像手段により撮影した画像を所定の受像装置に送信するスイッチを有することを特徴とする請求項記載の杖。
【請求項7】
3軸角速度センサが検出した杖本体におけるX軸、Y軸、Z軸の角速度を取得する第1ステップと、
第1ステップの次に所定時間経過後に、3軸加速度センサが検出した杖本体におけるX軸、Y軸、Z軸方向の加速度と、3軸角速度センサが検出した杖本体におけるX軸、Y軸、Z軸の角速度を取得する第2ステップと、
前記3軸加速度センサによる前記杖本体の3軸方向のそれぞれの加速度と、前記3軸角速度センサによる前記杖本体の3軸のそれぞれの回転角速度から前記杖本体が所定時間以上倒れた状態であり、かつ、前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別ステップと、
前記転倒判別ステップによる判別結果に応じて所定の報知を行う報知ステップと、
を有することを特徴とする杖用転倒判別プログラム。
【請求項8】
歩行補助具の長尺体に固定する取付け部と、
前記歩行補助具が異常回転状態を検出する異常回転検出手段と、
前記歩行補助具が倒れていることを検出する倒れ検出手段と、
前記歩行補助具が停止していることを検出する停止検出手段と、
前記異常回転検出手段が異常回転状態を検出し、所定時間経過後に、前記倒れ検出手段が前記歩行補助具が所定時間以上倒れた状態を検出し、かつ、前記停止検出手段が前記歩行補助具が所定時間以上停止していることを検出することによって前記歩行補助具の転倒状態を判別する転倒判別手段と、
前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、
を有することを特徴とする報知ユニット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記課題を解決する杖は、長尺状の杖本体と、前記杖本体の長手方向をX軸、前記X軸と直交する方向をY軸、前記X軸及びY軸と直交する方向をZ軸としたとき、前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸方向の加速度を検出する3軸加速度センサと、前記杖本体における前記X軸、Y軸、Z軸の角速度を検出する3軸角速度センサと、前記3軸加速度センサによる前記杖本体の3軸方向のそれぞれの加速度と、前記3軸角速度センサによる前記杖本体の3軸のそれぞれの回転角速度から前記杖本体が所定時間以上倒れた状態であり、かつ、前記杖本体が所定時間以上停止していることを検出することによって前記杖本体の転倒状態を判別する転倒判別手段と、前記転倒判別手段による判別結果に応じて所定の報知を行う報知手段と、を有し、前記X軸方向の加速度が第1閾値以下である状態を倒れ状態とし、前記X軸、Y軸、Z軸の3軸方向のそれぞれの加速度の絶対値の総和が重力加速度の絶対値と略等しく、前記X軸、Y軸、Z軸の3軸のそれぞれの回転角速度の絶対値の総和が第2閾値以下である状態を停止状態、第3閾値以上である状態を異常回転状態としたとき、前記転倒判別手段は、異常回転状態を検出し所定時間経過後に、倒れ状態、かつ、停止状態が所定時間以上継続したときに前記転倒状態と判別することを特徴とする。