(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163851
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】希土類フェライト粒子及び希土類フェライト分散液
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20231102BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20231102BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20231102BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231102BHJP
D06M 11/49 20060101ALI20231102BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C01G49/00 D
A01N59/16 Z
A01N25/34 A
A01P1/00
C01G49/00 H
D06M11/49
B32B27/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075041
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】狩野 朋未
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
【テーマコード(参考)】
4F100
4G002
4H011
4L031
【Fターム(参考)】
4F100AA23
4F100AA23B
4F100AA33
4F100AA33B
4F100AK25
4F100AK51
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DE01
4F100DE01B
4F100DG10
4F100EH46B
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB48
4F100GB81
4F100JC00
4F100JC00B
4F100JG06
4F100JG06B
4F100JM01
4F100YY00B
4G002AA09
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
4H011AA02
4H011BB18
4H011DA07
4H011DA15
4L031AB21
4L031AB31
4L031BA09
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】環境汚染度が低く、安全性にも優れる防カビ・抗菌性化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1):Ln
2xFe
2(1-x)O
3 (1)(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)で表される希土類フェライト粒子であって、希土類フェライト粒子は、粒度分布の体積積算分布において、小粒径粒子及び大粒径粒子を含み、小粒径粒子は、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子であり、大粒径粒子は、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子であり、かつ、小粒径粒子及び大粒径粒子の合計体積に対する小粒径粒子の体積割合が、10体積%以上90体積%以下である、希土類フェライト粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)
で表される希土類フェライト粒子であって、
前記希土類フェライト粒子は、粒度分布の体積積算分布において、小粒径粒子及び大粒径粒子を含み、
前記小粒径粒子は、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子であり、
前記大粒径粒子は、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子であり、かつ、
前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、10体積%以上90体積%以下である、
希土類フェライト粒子。
【請求項2】
前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、50体積%超75体積%以下である、請求項1に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項3】
前記希土類フェライト粒子の全体積に対する、前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積の割合が、75体積%以上である、請求項1に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項4】
前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、50体積%超75体積%以下であり、かつ、
前記希土類フェライト粒子の全体積に対する、前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積の割合が、75体積%以上である、
請求項1に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項5】
前記小粒径粒子のd50粒径が0.05~0.50μmであり、
前記大粒径粒子のd50粒径が1.1~5.0μm以下である、
請求項1に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項6】
前記小粒径粒子が、粒径0.10~0.50μmの範囲内の粒子であり、かつ
前記大粒径粒子が、粒径1.0~5.0μm以下の範囲内の粒子である、
請求項1に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項7】
前記式(1)中のxが、0.65以上0.85以下の数である、請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項8】
前記式(1)中のLnが、ランタンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子、樹脂、及び溶媒を含む、希土類フェライト分散液。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子を含む塗膜を有する、防カビ・抗菌性物品。
【請求項11】
什器、カーテン、ドアノブ、パーティション、飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、タッチパネル用保護フィルム、マスク、電車の吊革、包装資材、一般印刷物、ビジネスフォーム、紙幣、有価証券、カード類、家電、空調機関連部材、玩具、建築内装、建築外装、自動車内装、電車内装、又は航空機内装である、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
透明パーティション、透明飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、又はタッチパネル用保護フィルムである、請求項11に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類フェライト粒子及び希土類フェライト分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生性の観点から、抗菌加工、防カビ加工が施された種々のものが流通している。消費者が直接使用するものに限らず、例えば、建物の外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン等についても、抗菌のニーズは高まっている。
【0003】
抗菌効果を発現する薬剤としては、フェノール系、有機スズ系、トリアジン系、ハロゲン化スルホニルピリジン系、キャプタン系、有機銅系、クロルナフタリン系、クロロフェニルピリタジン系等の化合物が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、抗菌効果を発現するイオンとして、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等が知られている。例えば、銀、銅、亜鉛等の金属粉、又はその合金や化合物を、担体に保持させた態様とし、微量のこれら金属イオンを溶出させることで、その毒性を利用する。特許文献2には、カルボキシル基含有ポリマーと金属化合物とから形成されたカルボン酸金属塩が分散された、消臭及び抗菌・抗カビ性を有する分散液が開示されている。
【0005】
しかしながら、最近では、薬剤形態の抗菌剤や、金属イオンの毒性を利用する抗菌剤は、環境汚染性や安全性が問題視される場合がある。
【0006】
ところで、近年、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防藻剤として、フェライト化合物が提案されている。例えば、特許文献3及び4には、それぞれ、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、及びイットリウム(Y)から選択される希土類元素、鉄、及び酸素を含むオルソフェライトを主成分とする防藻用添加剤、これを用いた防藻性塗料、及び該塗料を基材表面に塗布した防藻製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-17249号公報
【特許文献2】特開平2-288804号公報
【特許文献3】特開2005-272320号公報
【特許文献4】国際公開第2021/193644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3においては、防藻効果を材料の磁性と関連付けて考えており、保磁力が小さく、植物の固有磁場に近い磁力を示す、希土類酸化物:Fe2O3=1:1(モル比)のオルソフェライトが、防藻用添加剤として最も好ましいと説明されている。
【0009】
また、特許文献4では、ランタンリッチなオルソフェライトの防藻効果が検討されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3及び4においては、オルソフェライトの防カビ効果及び抗菌効果については、検討されていない。
【0011】
一般に、物品にカビが発生すると、カビに付随して細菌が発生することが多い。したがって、カビの発生を抑制することができ、かつ、滅菌効果を有する、防カビ・抗菌剤が望まれている。しかしながら、従来技術において、カビ及び細菌の双方に高い有効性を示す、防カビ・抗菌剤は知られていない。
【0012】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、環境汚染度が低く、安全性にも優れる防カビ・抗菌性化合物、及び物品の表面上に前記防カビ・抗菌化合物の塗膜を形成するための塗工液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、特定の組成を有し、かつ、特定の粒度分布を有する希土類フェライト粒子は、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防カビ・抗菌剤となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0014】
《態様1》下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)
で表される希土類フェライト粒子であって、
前記希土類フェライト粒子は、粒度分布の体積積算分布において、小粒径粒子及び大粒径粒子を含み、
前記小粒径粒子は、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子であり、
前記大粒径粒子は、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子であり、かつ、
前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、10体積%以上90体積%以下である、
希土類フェライト粒子。
《態様2》前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、50体積%超75体積%以下である、態様1に記載の希土類フェライト粒子。
《態様3》前記希土類フェライト粒子の全体積に対する、前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積の割合が、75体積%以上である、態様1又は2に記載の希土類フェライト粒子。
《態様4》前記小粒径粒子のd50粒径が0.05~0.50μmであり、
前記大粒径粒子のd50粒径が1.1~5.0μm以下である、
態様1~3のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
《態様5》前記小粒径粒子が、粒径0.10~0.50μmの範囲内の粒子であり、かつ
前記大粒径粒子が、粒径1.0~5.0μm以下の範囲内の粒子である、
態様1~4のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
《態様6》前記式(1)中のxが、0.65以上0.85以下の数である、態様1~5のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
《態様7》前記式(1)中のLnが、ランタンである、態様1~6のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子。
《態様8》態様1~7のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子、樹脂、及び溶媒を含む、希土類フェライト分散液。
《態様9》態様1~7のいずれか一項に記載の希土類フェライト粒子を含む塗膜を有する、防カビ・抗菌性物品。
《態様10》什器、カーテン、ドアノブ、パーティション、飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、タッチパネル用保護フィルム、マスク、電車の吊革、包装資材、一般印刷物、ビジネスフォーム、紙幣、有価証券、カード類、家電、空調機関連部材、玩具、建築内装、建築外装、自動車内装、電車内装、又は航空機内装である、態様9に記載の物品。
《態様11》透明パーティション、透明飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、又はタッチパネル用保護フィルムである、態様10に記載の物品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、環境汚染度が低く、安全性にも優れる防カビ・抗菌性化合物、及び物品の表面上に前記防カビ・抗菌化合物の塗膜を形成するための塗工液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたランタンフェライト分散液に含まれるランタンフェライト粒子の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《希土類フェライト粒子》
本発明の希土類フェライト粒子は、下記式(1):
Ln2xFe2(1-x)O3 (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)
で表される希土類フェライト粒子であって、
粒度分布の体積積算分布において、小粒径粒子及び大粒径粒子を含み、
前記小粒径粒子は、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子であり、
前記大粒径粒子は、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子であり、かつ、
前記小粒径粒子及び前記大粒径粒子の合計体積に対する前記小粒径粒子の体積割合が、10体積%以上90体積%以下の、希土類フェライト粒子である。
【0018】
本明細書において、「粒子」とは、1個の粒子を指すのではなく、特定の粒度分布を示す「粒子の集合体」を意味する。したがって、本明細書中の「粒子」の語の多くは、「粉末」と言い換えてもよい。
【0019】
本発明者らは、希土類フェライトの組成及び粒度と、その抗菌効果について詳細に検討した。その結果、希土類フェライト中の希土類(Ln):Fe比及び粒度を、上記の範囲に設定することにより、高い防カビ効果と、高い抗菌効果とが両立されることを見出した。
【0020】
本発明の希土類フェライト粒子は、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子の集合体である小粒径粒子と、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子の集合体である大粒径粒子とを含む。
【0021】
従来技術の希土類フェライト粒子は、粗大粒子を多く含んでいる。従来技術の希土類フェライト粒子を含む塗膜を形成した場合、塗膜中の粗大な希土類フェライト粒子同士の間隔は、カビ及び細菌のサイズと比較して大きくなる。そのため、粗大な希土類フェライト粒子を含む塗膜にカビ又は細菌が接近したとしても、希土類フェライト粒子と接触しないものが少なからず存在することになり、所期の防カビ性・抗菌性が発現され難い結果になる。
【0022】
これに対して、本発明の希土類フェライト粒子は、細菌のサイズに近い小粒径粒子と、カビのサイズに近い大粒径粒子とを含む。また、本発明のある実施態様では、細菌及びカビのサイズよりも有意に大きい粗大粒子の割合が低減されている。
【0023】
そのため、本発明の希土類フェライト粒子を含む塗膜では、希土類フェライト粒子同士の間隔は、主として、カビのサイズと同等の部分と、細菌のサイズと同等の部分と、から構成されることになる。そのため、本発明の希土類フェライト粒子を含む塗膜に、カビが接近した場合でも、細菌が接近した場合でも、塗膜中の希土類フェライト粒子と接触する確率が高くなり、所期の防カビ性及び抗菌性が発現されるのである。
【0024】
したがって、本発明の希土類フェライト粒子は、防カビ・抗菌剤として極めて好適である。
【0025】
本発明の希土類フェライト粒子は、上記式(1)中のxが、0.45以上1.00未満の数である限り、どのような形態であってもよい。例えば、全体が均一な組成である固溶体を形成していてもよいし、LnFeO3相とLn2O3相との混合物であってもよいし、均一組成の固溶体とLnFeO3相とLn2O3相との混合物であってもよい。また、これら以外の相を含んでいてもよい。
【0026】
式(1)中のxは、0.50以上、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、又は0.75以上であってもよく、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、又は0.60以下であってもよい。
【0027】
上記式(1)中のxは、典型的には、例えば、0.50以上0.90以下の数であってよく、更には、更には、0.65以上0.85以下であってよく、特には、0.70以上0.80以下の数であってよい。
【0028】
式(1)中の希土類(Ln)は、防カビ・抗菌性及びコストの観点から、特に、ランタンであってよく、したがって本発明の防カビ・抗菌剤は、ランタンフェライト粒子であってよい。
【0029】
本発明の希土類フェライト粒子は、粒度分布の体積積算分布において、小粒径粒子及び大粒径粒子を含む。
【0030】
上記の粒度分布は、乾燥粉末状態の希土類フェライト粒子を、濃度0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に投入して分散させた後、動的光散乱によって測定される。
【0031】
〈小粒径粒子〉
小粒径粒子は、粒度分布の体積積算分布において、粒径0.01~1.0μmの範囲内の粒子の集合体である。
【0032】
小粒径粒子の粒径の範囲は、0.02μm以上、0.03μm以上、又は0.05μm以上であってよく、0.9μm以下、0.8μm以下、又は0.7μm以下であってよい。小粒径粒子の粒径の範囲は、例えば、0.1~0.5μmであってよい。
【0033】
小粒径粒子は、粒度分布の体積積算分布における50%径(d50粒径)が、0.05~0.50μmであってよい。小粒径粒子のd50粒径が、この範囲であることにより、小粒径粒子は、細菌のサイズと近い粒径の粒子を多く含むことになり、希土類フェライト粒子の抗菌性がより向上される。
【0034】
小粒径粒子のd50粒径は、0.08μm以上、0.10μm以上、0.12μm以上、0.15μm以上、又は0.18μm以上であってよく、0.45μm以下、0.40μm以下、0.35μm以下、0.30μm以下、又は0.25μm以下であってよい。
【0035】
〈大粒径粒子〉
大粒径粒子は、粒度分布の体積積算分布において、粒径1.0μm超17.0μm以下の範囲内の粒子の集合体である。
【0036】
大粒径粒子の粒径の範囲は、1.1μm以上、1.3μm以上、1.5μm以上、1.8μm以上、又は2.0μm以上であってよく、15.0μm以下、13.0μm以下、
10.0μm以下、8.0μm以下、5.0μm以下、又は4.5μm以下であってよい。大粒径粒子の粒径の範囲は、例えば、1.1~5.0μmであってよい。
【0037】
大粒径粒子は、粒度分布の体積積算分布における50%径(d50粒径)が、1.1~5.0μmであってよい。大粒径粒子のd50粒径が、この範囲であることにより、大粒径粒子は、カビのサイズと近い粒径の粒子を多く含むことになり、希土類フェライト粒子の防カビ性がより向上される。
【0038】
大粒径粒子のd50粒径は、0.8μm以上、1.0μm以上、1.2μm以上、又は1.5μm以上であってよく、4.5μm以下、4.0μm以下、3.5μm以下、3.0μm以下、2.5μm以下、又は2.0μm以下であってよい。
【0039】
〈小粒径粒子と大粒径粒子との存在比〉
小粒径粒子及び大粒径粒子の合計体積に対する小粒径粒子の体積割合は、10体積%以上90体積%以下であってよい。小粒径粒子及び大粒径粒子の合計体積に対する小粒径粒子の体積割合は、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、50体積%超、60体積%以上、又は70体積%以上であってよく、80体積%以下、75体積%以下、70体積%以下、又は60体積%以下であってよい。
【0040】
本発明の希土類フェライト粒子を含む塗膜に、カビ又は細菌が接近した場合、よりサイズの小さい細菌の方が、希土類フェライト粒子との接触確率が低いと考えられる。そこで、防カビ性と抗菌性との良好なバランスを確保する観点からは、抗菌性への寄与が大きい小粒径粒子を、大粒径粒子に比べて多く含むことが望ましい。
【0041】
このような観点からは、小粒径粒子及び大粒径粒子の合計体積に対する小粒径粒子の体積割合は、50体積%超、60体積%以上、又は70体積%以上であってよく、例えば、50体積%超75体積%以下であってよい。
【0042】
〈希土類フェライト粒子中の小粒径粒子及び大粒径粒子の割合〉
本発明の希土類フェライト粒子は、小粒径粒子及び大粒径粒子を含み、このうちの小粒径粒子は抗菌性に対する寄与が大きく、大粒径粒子は防カビ性に対する寄与が大きいと考えられる。
【0043】
したがって、これらのサイズ以外の粒子、すなわち、細菌の大きさよりも有意に小さい粒径の微小粒子、及びカビの大きさよりも有意に大きい粒径の粗大粒子は、できるだけ少ない方が、高度の防カビ性・抗菌性を発現する観点から望ましい。
【0044】
このような観点から、希土類フェライト粒子の全体積に対する、小粒径粒子及び大粒径粒子の合計体積の割合は、75体積%以上、80体積%以上、85体積%以上、90体積%以上、若しくは95体積%以上であってよく、又は100質量%であってもよい。
【0045】
《希土類フェライト粒子の製造方法》
本発明の希土類フェライト粒子の製造方法は、特に限定されるものではない。
【0046】
しかし、本発明の希土類フェライト粒子は、例えば、
所望の組成の希土類フェライトを合成すること(希土類フェライト合成工程);
得られた希土類フェライトを粉砕して、大粒径粒子を得ること(大粒径粒子調製工程);
得られた希土類フェライトを粉砕して、小粒径粒子を得ること(小粒径粒子調製工程);及び
大粒径粒子と小粒径粒子とを所定の割合で混合すること(混合工程);
を含む方法により、製造されてよい。
【0047】
上記大粒径粒子調製工程及び小粒径粒子調製工程は、順不同で行われてよい。
【0048】
以下、本発明の希土類フェライト粒子の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0049】
〈希土類フェライト合成工程〉
希土類フェライト合成工程では、所望の組成の希土類フェライトを合成する。
【0050】
希土類フェライトの合成は、例えば、希土類源と鉄源とを所定の割合で含有する混合物に、適当な応力を印加して粉砕混合(第1の粉砕)した後に、焼成することにより、行われてよい。
【0051】
希土類源としては、例えば、所望の希土類元素の酸化物を使用してよい他、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム等を使用してよい。希土類元素としては、得られる希土類フェライト粒子の抗菌性、及びコストの観点から、ランタンを用いることが好ましい。中でも、La2O3を用いれば、効果が高く、比較的コストが安価なランタンフェライト粒子を製造することができる。
【0052】
鉄源としては、FeO、Fe3O4、Fe2O3等の酸化物;FeOOH、フェリヒドライト、シュベルマンライト等のオキシ酸化物;Fe(OH)2、Fe(OH)3等の水酸化物;等を使用してよい。これらの中で、鉄源としてFeOOHを用いれば、Fe2O3等と比較して反応性が高いため、低温での焼成が可能となり、また、Fe2O3等と比較して粒経の小さい希土類フェライト粒子を製造することができる。
【0053】
希土類源と鉄源との使用割合は、所望の希土類フェライト粒子についての式(1)中のxの値に適合するように、適宜に定められてよい。
【0054】
粉砕混合(第1の粉砕)は、乾式粉砕であっても、湿式粉砕であってもよい。第1の粉砕において希土類源と鉄源との混合物に印加される応力は、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。
【0055】
上述の応力を印加する方法としては、例えば、ボールミル中で湿式粉砕する方法等が挙げられる。第1の粉砕を湿式粉砕にて実施する場合には、液状媒体として、例えば、水、アルコール等を使用してよい。希土類源と鉄源との混合物を湿式粉砕によって粉砕混合した後は、必要に応じて、加熱乾燥等の適宜の方法によって液状媒体を除去し、その後に焼成を実施してもよい。
【0056】
焼成温度及び焼成時間は、特に限定されるものではなく、それぞれ、適宜に設定することができる。
【0057】
焼成温度は、例えば、700℃以上、800℃以上、900℃以上、又は1,000℃以上、かつ、例えば、1,300℃以下、1,200℃以下、1,100℃以下、又は1,000℃以下の温度において、実施してよい。
【0058】
焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、又は15時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、又は15時間以下の時間で、実施してよい。
【0059】
焼成時の周囲雰囲気は、酸化性雰囲気であってよく、例えば、空気中で焼成してよい。
【0060】
希土類フェライト合成工程では、上記のようにして、希土類フェライトを得ることができる。
【0061】
得られた希土類フェライトを、次工程に供する前に、必要に応じて焼成物の洗浄を行ってよい。この洗浄は、希土類フェライトを、例えば、水、アルコール等の適当な液状媒体に浸漬して、液状媒体中に不純物を抽出除去する方法によって行われてよい。洗浄前に、希土類フェライトを適法な方法によってラフに粉砕して、洗浄を容易化してもよい。
【0062】
〈大粒径粒子調製工程〉
大粒径粒子調製工程では、得られた希土類フェライトを粉砕(第2の粉砕)して、大粒径粒子を得る。
【0063】
大粒径粒子調製工程における第2の粉砕において希土類フェライトに印加される応力は、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。このような応力を印加する方法としては、例えば、ハンマーミル中で乾式粉砕する方法等が挙げられる。
【0064】
この第2の粉砕により、大粒径粒子が得られる。得られた大粒径粒子は、混合工程に供される。得られた大粒径粒子は、必要に応じて分級した後に、混合工程に供してもよい。
【0065】
〈小粒径粒子調製工程〉
小粒径粒子調製工程では、得られた希土類フェライトを粉砕(第3の粉砕)して、小粒径粒子を得る。
【0066】
小粒径粒子調製工程における第3の粉砕において希土類フェライトに印加される応力は、例えば、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。焼成物にこのような応力を加えるためには、例えば、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェイカー、遊星式撹拌機等の適宜の粉砕装置を用いてよい。
【0067】
第3の粉砕は、撹拌装置中に、焼成物及び液状媒体、並びに必要に応じて分散剤を入れ、適宜の振幅及び振動数にて、適宜の時間で行われてよい。このとき、粉砕装置に応じた適当な粉砕メディアを使用してもよい。粉砕メディアは、例えば、ボールミルのボール、ビーズミルのビーズ、ペイントシェイカーのビーズ等である。
【0068】
液状媒体は、例えば、水、アルコール、エステル等であってよい。
【0069】
分散剤は、例えば、アクリル酸系、カルボン酸系、スルホン酸系、アンモニウム塩系等の公知の分散剤から適宜に選択されてよい。分散剤として、具体的には、特に、アクリル系共重合体のアンモニウム塩、酸基を有する共重合体のアルキロールアンモニウム塩であってよい。
【0070】
分散剤の使用量は、任意であるが、例えば、希土類フェライト100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下であってよい。
【0071】
上記の第3の分粉砕を行う前に、大粒径粒子調製工程の第2の粉砕と同様の粉砕を行ってもよい。また、大粒径粒子調製工程で得られた大粒径粒子の一部を小粒径粒子調製工程に供することも、本発明の好ましい実施態様である。
【0072】
以上のようにして、小粒径粒子を含む分散液が得られる。得られた分散液は、液状媒体及び粉砕メディアを除去したうえで、混合工程に供される。得られた小粒径粒子は、必要に応じて分級した後に、混合工程に供してもよい。
【0073】
〈混合工程〉
混合工程は、大粒径粒子と小粒径粒子とを所定の割合で混合する。これにより、所望の粒度分布を有する希土類フェライト粒子を得ることができる。
【0074】
大粒径粒子と小粒径粒子との混合は、公知の方法によって行われてよい。
【0075】
《希土類フェライト分散液》
本発明の別の観点によると、希土類フェライト分散液が提供される。
【0076】
本発明の希土類フェライト分散液は、本発明の希土類フェライト粒子、樹脂、及び溶媒を含み、更に分散剤を含んでいてよい。
【0077】
本発明の希土類フェライト分散液に含まれる希土類フェライト粒子は、本発明の希土類フェライト粒子であり、上記の説明をそのまま援用できる。
【0078】
本発明の希土類フェライト分散液に含まれる樹脂は、物品の表面上に塗膜を形成し、希土類フェライト粒子を物品に固定するためのバインダーとして機能する。樹脂は、希土類フェライト分散液の溶媒に溶解するか、又は分散性のよいものであってよい。
【0079】
樹脂は、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等から選択されてよい。
【0080】
分散剤は、本発明の希土類フェライト粒子を製造するときの第2の粉砕において使用される分散剤として、上記に例示したものの中から、適宜に選択されてよい。
【0081】
溶媒は、例えば、水、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、芳香族炭化水素等から選択される1種又は2種以上であってよい。
【0082】
本発明の希土類フェライト分散液における希土類フェライト粒子の含有量は、高度の抗菌性と塗膜形成性とのバランスをとる観点から、希土類フェライト分散液の総固形分含量を100質量%としたときに、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってよい。
【0083】
本発明の希土類フェライト分散液において、希土類フェライト粒子及び樹脂の合計質量に対する希土類フェライト粒子の割合は、高度の抗菌性と、塗膜への希土類フェライト粒子の良好な固着性とのバランスをとる観点から、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、又は20質量%以上であってよく、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0084】
本発明の希土類フェライト分散液における分散剤の含有量は、希土類フェライト粒子100質量部に対して、5質量部以上、10質量%以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、又は30質量部以上であってよく、200質量部以下、175質量部以下、150質量部以下、120質量部以下、100質量部以下、80質量部以下、75質量部以下、又は60質量部以下であってよい。
【0085】
《希土類フェライト分散液の製造方法》
本発明の希土類フェライト分散液は、上記の組成を有しているものである限り、任意の方法によって製造されてよい。
【0086】
本発明の希土類フェライト分散液は、例えば、上述の各成分を混合することにより、製造されてよい。希土類フェライト分散液の成分の混合は、例えば、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェイカー、遊星式撹拌機等の適宜の装置を用いて行われてよい。
【0087】
《防カビ・抗菌性物品》
本発明の更に別の観点によると、防カビ・抗菌性物品が提供される。
【0088】
本発明の防カビ・抗菌性物品は、本発明の希土類フェライト粒子を含む塗膜を有するものである。この塗膜は、任意の物品の表面上に形成されていてよい。
【0089】
本発明の防カビ・抗菌性物品の塗膜は、本発明の希土類フェライト粒子の他に、樹脂、分散剤等を含んでいてよい。これらの樹脂及び分散剤は、それぞれ、本発明の希土類フェライト分散液に含まれる樹脂及び分散剤から、適宜に選択されてよい。本発明の防カビ・抗菌性物品の塗膜における、希土類フェライト粒子、樹脂、及び分散剤の使用割合も、本発明の希土類フェライト分散液における使用割合と同様であってよい。
【0090】
本発明の防カビ・抗菌性物品の塗膜の厚みは、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよく、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0091】
本発明の防カビ・抗菌性物品の塗膜に含まれる希土類フェライト粒子の割合は、物品の単位表面積当たり、0.1g/m2以上、1g/m2以上、又は10g/m2以上であってよく、50g/m2以下、40g/m2以下、30g/m2以下、又は20g/m2以下であってよい。
【0092】
〈防カビ・抗菌性物品の防カビ性〉
本発明の防カビ・抗菌性物品は、優れた防カビ性を示す。具体的には、本発明の防カビ・抗菌性物品の塗工面上にカビ懸濁液を塗布して、室温環境下で45日間静置培養した後のカビ面積が、塗工面面積の12%以下、10%以下、8%以下、又は7%以下と、極めて低い。
【0093】
〈防カビ・抗菌性物品の抗菌性〉
本発明の防カビ・抗菌性物品は、優れた抗菌性を示す。具体的には、「拭取り法」による抗菌性評価におけるATP減少率を、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上とすることができる。
【0094】
「拭取り法」とは、湿度が比較的低く、通常の生活環境に近い環境下で、細菌の繁殖を抑制する程度を調べる試験である。
【0095】
「拭取り法」では、シャーレに、水で湿らせたろ紙を敷き、このろ紙上に試験片(塗膜を有する防カビ・抗菌性物品)を載置し、試験片上に例えば牛乳を滴下してシャーレに蓋をした状態で、恒温恒湿槽内で24時間静置して、故意に菌を繁殖させる。24時間後に取り出した試験片を、ATP拭取り検査試薬で拭き取って、検査試薬に付着した菌量をATP(アデノシン3リン酸)発光量として測定する。
【0096】
一方、参照試料として塗膜を有さない物品を用い、上記と同様に菌の繁殖及び菌量の測定を行う。
【0097】
そして、試験片の菌量の、参照試料の菌量からの減少率を百分率で表した数値を、「ATP減少率」として評価するのである。
【0098】
「拭取り法」による抗菌性試験は、具体的には、後述の実施例に示した方法によって行われてよい。
【0099】
従来技術における抗菌性物品は、一般的な抗菌性試験法である「フィルム密着法」による評価では高度の抗菌性を示すが、「拭取り法」による評価では、抗菌性は低いとの評価結果になる。これに対して、本発明の防カビ・抗菌性物品は、「フィルム密着法」による評価においても優れた抗菌性を示すが、「拭取り法」による評価において、特に優れた抗菌性を示す。
【0100】
「フィルム密着法」は、水分の多い環境下の試験であり、物品の表面が水膜で覆われた条件下で試験が行われる。そのため、物品に接近した細菌は、物品の表面に到達せずに、物品から溶出して来た抗菌成分によって死滅すると考えられる。一方、「拭取り法」は、水分の少ない環境下の試験であり、物品に接近した細菌は、物品の表面に到達して接触し、物品中の抗菌成分によって死滅すると考えられる。
【0101】
従来技術における抗菌性物品は、抗菌成分溶出型である場合が多く、水分の多い環境下の「フィルム密着法」では、抗菌成分が溶出して細菌を死滅させることができる。しかし、水分の少ない環境下の「拭取り法」では、抗菌成分が溶出し難いから、抗菌性が発現され難いと考えられる。
【0102】
これに対して、本発明の防カビ・抗菌性物品では、抗菌成分である小粒径の希土類フェライト粒子が塗膜中に固定されている。そのため、水分の多い環境下の「フィルム密着法」では、物品の表面への細菌の接近及び接触が水膜によって妨げられるので、抗菌性は少し損なわれる。しかし、水分の少ない環境下の「拭取り法」では、物品の表面への細菌の接近及び接触が妨げられないので、高度の抗菌性が発現されるのである。
【0103】
〈防カビ・抗菌性物品の用途〉
上述したとおり、「拭取り法」は、湿度が比較的低く、通常の生活環境に近い環境下で、細菌の繁殖を抑制する程度を調べる試験である。したがって、この「拭取り法」において優れた抗菌性を示し、かつ、優れた防カビ性をも具備する本発明の防カビ・抗菌性物品は、例えば、家庭の玄関、居間、台所、食堂、寝室、廊下等;企業の受付、執務室、会議室、応接室、廊下、休憩室、食堂等;公共交通機関の券売機、改札、待合室、ホーム、車内等の、通常の生活環境に近い環境下で使用される物品への適用が好適である。
【0104】
本発明の防カビ・抗菌性物品は、例えば、什器、カーテン、ドアノブ、パーティション、飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、タッチパネル用保護フィルム、マスク、電車の吊革、包装資材、一般印刷物、ビジネスフォーム、紙幣、有価証券、カード類、家電、空調機関連部材、玩具、建築内装、建築外装、自動車内装、電車内装、航空機内装等から選ばれてよい。
【0105】
本発明の防カビ・抗菌性物品における塗膜は、含まれる希土類フェライト粒子が、50%径(d50粒径)17.0μm以下の微小な粒子であり、可視光を散乱する程度が低いので、透明性に優れ、ヘーズ値が低い。したがって、本発明の防カビ・抗菌性物品は、塗膜形成前の物品の色調が損なわれることなく、高度の防カビ性及び抗菌性が発現される。
【0106】
特に、本発明の防カビ・抗菌性物品において、塗膜形成前の物品が透明性を有するものであった場合、塗膜形成前の物品の透明性が損なわれることなく、高度の防カビ・抗菌性が発現される。
【0107】
したがって、本発明の防カビ・抗菌性物品は、透明性を要する物品であってよく、具体的には、例えば、透明パーティション、透明飛沫防止用フィルム、スマートフォン用保護フィルム、タッチパネル用保護フィルム等から選ばれてよい。
【0108】
《防カビ・抗菌性物品の製造方法》
本発明の防カビ・抗菌性物品は、上記の構成を有している限り、どのような方法によって製造されてもよい。
【0109】
本発明の防カビ・抗菌性物品は、例えば、所望の物品の表面に、本発明の希土類フェライト分散液を塗工した後、溶媒を除去して塗膜を形成することにより、製造されてよい。希土類フェライト分散液を塗工する前、物品に適宜のプライマーを塗工しておいてもよい。
【0110】
物品の表面への希土類フェライト分散液の塗工は、公知の方法により行われてよい。例えば、バーコーター、ドクターブレード、スプレーコーター、ロールコーター、スリットコーター、グラビアコーター、ディップコーター等の公知の塗工装置を使用してよい。また、スプレー、ローラー、刷毛、小手等の公知の塗工具を使用してよい。
【0111】
塗工後の溶媒の除去は、例えば、10℃以上、20℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、又は100℃以上、かつ、400℃以下、300℃以下、又は200℃以下の温度において、10秒以上、1分以上、30分以上、1時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、又は12時間以上、かつ、48時間以下、又は24時間以下の時間、静置することによって行われてよい。このとき、塗工後の物品を減圧下においてもよい。
【実施例0112】
《ランタンフェライト粒子の合成》
(1)ランタンフェライトの合成
粉砕メディアとして10mmΦのアルミナ球を使用するボールミル中に、0.3モル部のLa2O3、0.4モル部のFeOOH、及び水を仕込み、5時間粉砕混合した。得られた粉砕物を、300℃にて15時間乾燥した後、回転式粉砕機で解砕した。得られた解砕物を、1,000℃にて15時間焼成することにより、ランタンフェライトを合成した。
【0113】
(2)大粒径ランタンフェライト粒子の調製
得られたランタンフェライトを、ハンマーミルで解砕することにより、大粒径ランタンフェライト粒子を得た。得られた大粒径ランタンフェライト粒子のd50粒径は、1.5μmであった。
【0114】
得られた大粒径ランタンフェライトについて、(株)リガク製の走査型蛍光X線分析装置、品名「ZSX Primus III+」を用いて定性分析を行った。その結果、得られたランタンフェライトは、La:Fe=70:30(モル比)のランタンフェライト(式La1.4Fe0.6O3)であることが分かった。
【0115】
また、得られた大粒径ランタンフェライト粒子の一部を、濃度0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に投入し、出力300Wの超音波を印加して3分間分散させて、分散液を得た。マイクロトラック・ベル(株)製の粒子径分布測定装置、品名「MICROTRAC MT3000」を用い、屈折率2.40にて、得られた分散液の粒度分布を測定した。この大粒径ランタンフェライト粒子のd50粒径は、1.5μmであった。
【0116】
(3)小粒径ランタンフェライト粒子の調製
容量0.3Lの塗料缶に、溶媒として水100mL、上記で得られた大粒径ランタンフェライト粒子(d50粒径=1.5μm)10g、及びΦ0.3mmのジルコニア製ビーズ100gを加えた。塗料缶をペイントシェイカーに装着し、振動数50rpmにて24時間の分散を行った。
【0117】
フィルターによってビーズを除去することにより、小粒径ランタンフェライト粒子を含む分散液得た。得られた小粒径ランタンフェライト粒子のd50粒径は、0.2μmであった。
【0118】
《寒天培地の作製》
精製水1,000mLに、培地用高品質寒天(伊那食品工業(株)製、品名「BA-70」)10g及びグラニュー糖30gを投入して、加熱溶解して、溶液を得た。得られた溶液を、滅菌シャーレ中に注ぎ入れ、室温において静置して固化させることにより、寒天培地を作製した。
【0119】
《カビ懸濁液の調製》
市販の木材を、多湿環境下で保管して、自然にカビを生やして育成した。このカビを0.001g採取し、10mLの精製水中に入れて撹拌混合することにより、濃度0.01質量%のカビ懸濁液を調製した。
【0120】
《実施例1》
(1)ランタンフェライト分散液の調製
上記で得られた大粒径ランタンフェライト粒子15質量部、小粒径ランタンフェライト粒子分散液(小粒径ランタンフェライト粒子15質量部相当)、樹脂としてのVONCOAT HY-364(DIC(株)製の水性アクリルウレタンエマルジョン、固形分含量45質量%)133.3質量部(固形分60質量部相当)に添加して混合することにより、ランタンフェライト分散液を調製した。
【0121】
得られたランタンフェライト分散液の一部をサンプリングして、粒度分布を測定した。測定結果を、表1及び
図1に示す。
【0122】
図1に見られるとおり、実施例1のランタンフェライト分散液に含まれるランタンフェライト粒子は、粒度分布の体積積算分布において、粒径0.1~1.0μmの小粒径粒子50体積%及び粒径1.0μm超17.0μm以下の大粒径粒子50体積%を含んでいた。
【0123】
(2)防カビ性の評価
バーコーター#10を用いて、得られたランタンフェライト分散液を紙基材上に塗工し、室温にて1日(24時間)静置して乾燥して、膜厚6μmの塗膜を形成することにより、防カビ性評価用試料を作製した。
【0124】
上記で得られた防カビ性評価用試料を5cm角にカットし、滅菌シャーレ中の寒天培地上に、塗膜面が上になるように載置した。試料の塗膜面上に、カビ懸濁液200μLを滴下し、試料上及び試料の周囲に均一に回し広げた。
【0125】
シャーレに蓋をして、室温環境下で静置し、45日間後に発生したカビの面積を測定して、試料面(5cm×5cm=25cm2)に対するカビの発生面積の割合を算出した。評価結果を表1に示す。
【0126】
(3)抗菌性の評価(拭取り法)
バーコーター#10を用いて、得られたランタンフェライト分散液をPET基材上に塗工し、室温にて1日(24時間)静置して乾燥して、膜厚6μmの塗膜を形成することにより、抗菌性評価用試料を作製した。
【0127】
シャーレ中に、精製水で湿らせたろ紙を敷き、その上に、10cm×5cmのサイズにカットした抗菌性評価用試料を、塗工面を上に向けて載置した。評価試料の塗工面上に、牛乳100μLを滴下し、塗工面上に均一に広げた。シャーレに蓋をし、チャック付きポリ袋中に入れた状態で、温度40℃及び相対湿度90%に調節された恒温恒湿槽内に24時間静置して、故意に菌を繁殖させた。
【0128】
24時間後、評価試料を取り出し、その塗工面を、キッコーマンバイオケミファ(株)製のATPふき取り検査試薬、「ルシパックA3 Surface」で拭き取り、同社製のATP量・微生物測定器、「ルミテスターSmart」により、検査試薬に付着した菌量をATP(アデノシン3リン酸)発光量として測定し、評価試料の塗工面上の菌量BASを算出した。
【0129】
また、ランタンフェライト分散液を塗工していないPET基材を用いて、上記と同様にして故意に菌を繁殖させ、PET基材上の菌量BARを算出した。
【0130】
上記で得られた、評価試料の塗工面上の菌量BAS、及びPET基材上の菌量BARを用いて、下記数式により、抗菌性(ATP減少率)を算出した。評価結果を表1に示す。
ATP減少率(%)={(BAR-BAS)/BAR}×100
【0131】
《比較例1》
ランタンフェライト分散液を塗工していない紙基材を用いて、実施例1と同様にして、防カビ性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0132】
《比較例2及び3》
ランタンフェライト分散液中の成分の組成を表1に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、ランタンフェライト分散液をそれぞれ調製し、これらを用いて各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0133】
【0134】
表1に見られるとおり、大粒径のランタンフェライト粒子のみを含むランタンフェライト分散液を用いて作製した比較例2の試料は、防カビ性には優れていたが、抗菌性には劣っていた。また、小粒径のランタンフェライト粒子のみを含むランタンフェライト分散液を用いて作製した比較例3の試料は、抗菌性には優れていたが、防カビ性には劣っていた。
【0135】
これらに対して、小粒径ランタンフェライト粒子、及び大粒径ランタンフェライト粒子双方を含むランタンフェライト分散液を用いて作製した実施例1の試料は、防カビ性及び抗菌性双方に優れることが検証された。