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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163852
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20231102BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231102BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/134
H01M4/13
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075042
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉富 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和幸
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ01
5H029HJ12
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050FA08
5H050HA01
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】端部における金属の過剰な析出を防止することのできる、金属析出型の全固体電池を提供すること。
【解決手段】全固体電池において、負極中間層と負極集電体とが、負極中間層外周部に設けられた接着領域において接着し、接着領域よりも内側の金属析出領域において、充電時に前記負極中間層と前記負極集電体との間に金属が析出し得るように構成される。
正極層は、中央部に設けられた正極層中央部と、正極層外周部に設けられ、前記正極層中央部と連続しており、前記正極層中央部よりも低い正極活物質濃度を有する低濃度領域と、を有する。低濃度領域は、少なくとも一部で、前記金属析出領域に重なっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、
前記固体電解質層を挟むように設けられた正極層および負極中間層と、
前記負極中間層上に設けられた負極集電体と、
を有し、
前記負極中間層と前記負極集電体とは、負極中間層外周部に設けられた接着領域において接着し、前記接着領域よりも内側のアルカリ金属析出領域において、充電時に前記負極中間層と前記負極集電体との間にアルカリ金属が析出し得るように構成されており、
前記正極層は、
中央部に設けられた正極層中央部と、
正極層外周部に設けられ、前記正極層中央部と連続しており、前記正極層中央部よりも低い正極活物質濃度を有する低濃度領域と、を有し、
前記低濃度領域は、少なくとも一部で、前記アルカリ金属析出領域に重なっている、
全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池であって、
前記低濃度領域における正極活物質濃度は、内側から外側に向かって一定である、
全固体電池。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体電池であって、
前記低濃度領域における正極活物質濃度は、内側から外側に向かって、段階的または連続的に減少している、
全固体電池。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
さらに、前記正極層の外側端部を取り囲むように設けられた絶縁層を有する、
全固体電池。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体電池であって、
前記接着領域の内側端部が、前記絶縁層よりも内側に位置している、
全固体電池。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体電池であって、
前記低濃度領域の外側端部が、前記接着領域の外側端部よりも内側に位置している、
全固体電池。
【請求項7】
請求項4に記載の全固体電池であって、
前記低濃度領域が、前記正極層中央部を構成する材料と、前記絶縁層を構成する材料との混合物により形成されている、
全固体電池。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
前記接着領域において、前記負極集電体は、接着剤により前記負極中間層に接着されており、
前記接着剤は、前記負極中間層に染み込んでいる、
全固体電池。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
前記固体電解質層の端部は、前記負極中間層の端部よりも外側に位置している、
全固体電池。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
前記負極中間層が、柔軟性を付与する柔軟性付与物質を含んでいる、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、電解質層として固体電解質を使用した電池である。全固体電池として、充電時にリチウムなどのアルカリ金属(以下、単に金属という場合がある)が負極側に析出するように構成された電池(以下、金属析出型全固体電池などという場合がある)が知られている。
【0003】
金属析出型全固体電池に関する発明が、例えば特許文献1(特開2021-192354号公報)に記載されている。特許文献1には、析出したリチウム金属が固体電解質層の外側に向かって延伸するため、固体電解質層に応力が加わり、短絡発生の要因となるクラックを生じさせる恐れがある点が記載されており、そのようなクラックの発生を抑制し得る全固体電池として、負極の構成を工夫した発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-192354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属析出型全固体電池では、端部において金属が過剰に析出することがある。金属の過剰な析出は、固体電解質層等の破壊や、負極と正極との短絡の原因になり得る。
【0006】
そこで、本発明の目的は、端部における金属の過剰な析出を防止することのできる、金属析出型の全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による全固体電池は、固体電解質層と、正極層と、負極中間層と、負極集電体とを有する。正極層および負極中間層は、固体電解質層を挟むように設けられている。負極集電体は、負極中間層上に設けられている。負極中間層と負極集電体とは、外周部に設けられた接着領域において接着しており、接着領域よりも内側のアルカリ金属析出領域において、充電時に負極中間層と負極集電体との間にアルカリ金属が析出するように構成されている。正極層は、中央部に設けられた正極層中央部と、外周部に設けられた低濃度領域とを有している。低濃度領域は、正極層中央部と連続しており、正極層中央部よりも低い正極活物質濃度を有している。低濃度領域は、少なくとも一部で、アルカリ金属析出領域に重なっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端部における金属の過剰な析出を防止することのできる、金属析出型の全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の全固体電池の構成を概略的に示す断面図である。
図2図2は、充電時における第1実施形態の全固体電池の構成を示す概略断面図である。
図3A図3Aは、比較例に係る全固体電池の端部断面を概略的に示す断面図である。
図3B図3Bは、第1実施形態の全固体電池の端部断面を概略的に示す断面図である。
図4図4は、第2実施形態の全固体電池の端部断面を示す概略図である。
図5図5は、第3実施形態の全固体電池の端部断面を示す概略図である。
図6図6は、第4実施形態の全固体電池の端部断面を示す概略図である。
図7図7は、第5実施形態の全固体電池の端部断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の全固体電池1の全体的な構成を概略的に示す断面図である。全固体電池1は、金属析出型の電池であり、固体電解質層2、正極層3、負極中間層4、負極集電体5、および正極集電体6を有している。正極層3および負極中間層4は、固体電解質層2を挟むように設けられている。負極集電体5は、負極中間層4上に設けられており、正極集電体6は、正極層3上(図面上は正極層3の下)に設けられている。すなわち、全固体電池1においては、正極集電体6、正極層3、固体電解質層2、負極中間層4、および負極集電体5が、この順で積層されている。
【0011】
また、正極層3の外側には、正極層の外側端部を取り囲むように絶縁層9が設けられている。絶縁層9により、負極側に析出する金属が端部を回り込み、正極側と負極側とが短絡してしまうことが防止されている。
【0012】
負極中間層4は、負極中間層4の外周部に設けられた接着領域7において、負極集電体5と接着している。一方、接着領域7よりも内側の領域は、充電時に負極中間層4と負極集電体5との間に金属が析出し得るように構成されている。金属が析出し得る領域が、以下、アルカリ金属析出領域8xと称される。
【0013】
正極層3は、固体電解質層2よりも面積がやや小さい。その結果、正極層3の端部は、固体電解質層2の端部よりも内側に位置している。正極層3は、正極層中央部3-1と、低濃度領域3-2とを有している。正極層中央部3-1は、その名の通り、正極層3の中央部に位置している。一方、低濃度領域3-2は、正極層3の外周部に設けられている。低濃度領域3-2は、正極活物質の濃度が正極層中央部3-1よりも低い領域である。なお、低濃度領域3-2における正極活物質濃度は、内側から外側に向かって一定である。また、正極層中央部3-1と低濃度領域3-2とは、連続している。すなわち、正極層中央部3-1と低濃度領域3-2との間に、隙間は存在しない。
【0014】
正極層中央部3-1は、アルカリ金属析出領域8xに重なっている。また、低濃度領域3-2も、少なくとも一部で、アルカリ金属析出領域8xに重なっている。低濃度領域3-2の外側端部は、接着領域7の内側端部よりも内側に位置している。
【0015】
続いて本実施形態に係る全固体電池1の概略動作について説明する。図2は、充電時における全固体電池1の構成を示す概略断面図である。本実施形態に係る全固体電池1においては、正極層3に含まれる正極活物質がアルカリ金属イオンの供給源となる。充電時には、正極層3から固体電解質層2および負極中間層4を介して負極集電体5側にアルカリ金属イオンが移動する。移動したアルカリ金属イオンは、アルカリ金属析出領域8xにおいて析出し、アルカリ金属層8を形成する。詳細には、アルカリ金属析出領域8xのうち概ね正極層3に重なる領域に、金属が析出する。接着領域7においては、金属が析出する余地はなく、負極中間層4と負極集電体5とは接着したままである。負極中間層4は、固体電解質層2の保護層として機能し、析出した金属が固体電解質層2と直接接触することを防止する。なお、アルカリ金属の主成分としては、例えば、リチウム金属、ナトリウム金属、及び、カリウム金属等を挙げることができる。
【0016】
析出する金属の厚みは、正極層中央部3-1に重なる中央部で厚く、低濃度領域3-2に重なる部分で薄くなる。低濃度領域3-2に重なる部分では、金属イオンの移動量が少なくなるからである。さらに、接着領域7においては、金属が析出しない。その結果、アルカリ金属層8の外周部は、外側に向かうにつれて段階的に厚みが減るような形状となる。
【0017】
一方、放電時には、充電時とは逆に、アルカリ金属層8から正極層3側にアルカリ金属イオンが移動し、正極層3にアルカリ金属イオンが吸蔵される。
【0018】
上述のような構成を採用することにより、充電時における端部での金属の過剰な析出が防止される。この点について、比較例と比較しつつ、以下に詳細に説明する。
【0019】
図3Aは、比較例に係る全固体電池1の端部断面を概略的に示す断面図である。なお、図3Aには、正極層3の活物質濃度(以下、単に活物質濃度という場合がある)と、固体電解質層2に生じる応力(以下、単に応力という場合がある)の大きさとが、併せて示されている。
【0020】
図3Aに示されるように、比較例に係る全固体電池では、正極層3における活物質濃度が一定である。すなわち、低濃度領域3-2は設けられていない。また、正極層3と絶縁層9との間には、隙間が生じている。さらに、負極中間層4と負極集電体5との間に接着領域7は設けられていない。その他の点は、第1実施形態に係る全固体電池1と同様の構成を有している。
【0021】
比較例の全固体電池1では、充電時に、正極層3と重なる領域において金属が析出する。低濃度領域3-2が存在しないため、アルカリ金属層8の端部には、比較的高さの高い段差が生じる。また、接着領域7が存在しないため、アルカリ金属層8の外側には、負極集電体5と負極中間層4との間に隙間が生じる。
【0022】
全固体電池1には、通常、保持などを目的として、厚み方向の上下から全固体電池を挟み込むように荷重が加えられる。負極集電体5側から加わる荷重は、段差が形成されているアルカリ金属層8の端部に集中することになる。その結果、固体電解質層2に対しても、アルカリ金属層8の端部に対応する位置(すなわち、正極層3の端部に重なる位置)において荷重が集中的に加わり、集中的な応力が発生する。固体電解質層2において、応力が集中的に生じた部分には、電流が集中しやすくなり、金属の過剰析出が起こりやすくなる。
【0023】
一方、図3Bは、第1実施形態に係る全固体電池の端部断面を、活物質濃度および応力とともに示す図である。図3Bに示されるように、第1実施形態に係る全固体電池1においては、アルカリ金属層8の外周部は、階段状となり、厚さが少しずつ変化するような形状になる。段差が生じたとしても、その高さは図3Aに示した比較例よりは小さい。また、接着領域7が設けられているため、負極集電体5の下に隙間はほとんど形成されず、負極集電体5はアルカリ金属層8に密着する。その結果、アルカリ金属層8に加わる荷重は、低濃度領域3-2に重なる領域で分散し、比較例とは異なり一か所に集中しない。正極層中央部3-1と低濃度領域3-2との境界部分に多少の応力が集中する可能性があるが、図3Aに示す比較例に比べれば、その大きさは小さい。従って、金属の過剰析出が抑制される。
【0024】
以上が全固体電池1の概略的な説明である。続いて、以下に、全固体電池1の詳細について説明する。
【0025】
全固体電池1の全体的な形状は、特に限定されないが、例えばシート状である。すなわち、固体電解質層2、正極層3、負極中間層4、負極集電体5、および正極集電体6は、それぞれシート状であり、これらの積層体である全固体電池1もシート状になっている。全固体電池1は、シート状の積層体が巻き回され、円筒型の容器に収容されて提供されてもよい。
【0026】
固体電解質層2は、固体であり、電池における電解質として機能するものであればよく、その材質は特に限定されない。例えば、固体電解質層2は、硫化物や酸化物により形成することができる。好ましくは、固体電解質層2は、硫化物固体電解質である。硫化物固体電解質としては、例えばLPS系(例えばアルジロダイト(LiPSCl))、およびLGPS系(例えばLi10GeP12)の材料が挙げられる。固体電解質層2の厚みは、特に限定されないが、例えば10~100μmである。
【0027】
負極集電体5および正極集電体6は、例えば導電性の薄膜により形成される。負極集電体5としては、例えば、ステンレス(SUS)や、銅(Cu)等の金属で形成された薄膜を用いることができる。正極集電体6としては、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。負極集電体5の厚みは、特に限定されないが、例えば5~30μmである。正極集電体6の厚みは、特に限定されないが、例えば5~30μmである。
【0028】
負極中間層4の厚みは、特に限定されないが、例えば1~100μmである。負極中間層4は、固体電解質層2とアルカリ金属層8との間に設けられている。この負極中間層4は、アルカリ金属の平滑な析出を補助するためおよび/またはアルカリ金属層8が固体電解質層に直接接しないようにするための層である。負極中間層4は、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料、または電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有する材料を含有している。アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料は、グラファイト等の炭素材料や銀等の金属材料からなる群から選択される1種または2種以上の材料を含有している。また、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有する材料は、固体電解質層2に含まれる固体電解質よりもリチウム金属と接触することによる還元分解に対して安定な材料である。そのような材料として、例えば、ハロゲン化リチウム(フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI))、リチウムイオン伝導性ポリマー、Li-M-O(Mは、Mg、Au、Al、SnおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属元素である)で表される複合金属酸化物、ならびにLi-Ba-TiO複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの材料はいずれも、リチウム金属との接触による還元分解について特に安定である。また、負極中間層4は、例えば、樹脂バインダーを含んでも良い。
【0029】
正極層3は、正極活物質を含む層である。正極層3は、例えば、樹脂バインダーと、樹脂バインダー中に分散した正極活物質とを含む。正極活物質としては、酸化還元反応を利用して、充電時にアルカリ金属イオンを放出し、放電時にアルカリ金属イオンを吸蔵することができる物質であればよい。正極活物質は、アルカリ金属イオンの供給源でもある。正極活物質として、例えばリチウム金属複合酸化物が挙げられる。リチウム金属複合酸化物としては、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、若しくはLi(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型化合物、LiMn、若しくはLiNi0.5Mn1.5等のスピネル型化合物、LiFePO、若しくはLiMnPO 等のオリビン型化合物、又はLiFeSiO、若しくはLiMnSiO等のSi含有化合物等が挙げられる。また上記以外のリチウム金属複合酸化物としては、例えば、Li4Ti12が挙げられる。
【0030】
既述のように、正極層3は、正極層中央部3-1および低濃度領域3-2を有している。低濃度領域3-2は、正極層中央部3-1よりも活物質濃度が低ければよい。例えば、低濃度領域3-2は、正極層中央部3-1を構成する材料と、絶縁層9を構成する材料との混合物により、形成することができる。
【0031】
低濃度領域3-2の幅は、例えば、0.1~100mmである。
【0032】
絶縁層9は、既述のように、正極層3の端部を保護するために設けられている。絶縁層9を設けることにより、金属が端部を回りむように析出して、負極側と正極側とが短絡することが防止される。絶縁層9を構成する材料は、絶縁性を有していればよく、特に限定されない。例えば、絶縁性の樹脂により絶縁層9を形成することができる。そのような樹脂として、例えば、アロニックス(登録商標)、アロンオキセタン(登録商標)等の紫外線硬化樹脂が挙げられる。あるいは、熱硬化性樹脂(ポリエチレンテレフタラート(PET)、エポキシ樹脂等)を用いることもできる。カプトン(登録商標)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)等を絶縁層9を構成する材料として使用することもできる。絶縁層9の幅は、例えば1~100mmである。
【0033】
なお、絶縁層9は、必ずしも必須の構成ではなく、省略することも可能である。
【0034】
接着領域7は、既述のように、負極集電体5が負極中間層4に接着した領域である。接着領域7においては、接着剤を介して負極集電体5を負極中間層4が接着させられている。接着剤としては、例えば、樹脂製の接着剤を用いることができる。例えば、負極中間層4が樹脂バインダーを含む場合、接着剤としては、その樹脂バインダーと同じ成分を使用することができる。接着領域7の幅は、例えば1~100mmである。
【0035】
続いて、本実施形態に係る全固体電池1の製造方法について、一例を挙げつつ説明する。
【0036】
まず、正極集電体6形成用の材料(例えばアルミ箔)を準備する。この材料の上に、正極層3形成用の材料と、絶縁層9形成用の材料とを配置する。絶縁層9形成用の材料は、枠状であり、その内側の一部で正極層3形成用の材料と重なるように配置される。さらに、これらの上に、固体電解質層2、負極中間層4、および負極集電体5を形成するための材料をそれぞれ積層する。なお、負極中間層4と負極集電体5との間には、接着領域7を形成するための接着剤を設ける。そして、得られた積層体をプレスし、一体化させる。これにより、本実施形態に係る全固体電池1が得られる。ここで、プレス時に、正極層3形成用の材料と絶縁層9形成用の材料とが重なった領域では、両者が混合され、低濃度領域3-2が形成される。このようにして全固体電池1を作成した場合、正極層中央部3-1、低濃度領域3-2、および絶縁層9が連続的に形成される。すなわち、正極層中央部3-1と低濃度領域3-2との間に隙間は生じず、低濃度領域3-2と絶縁層9との間にも隙間は生じない。隙間が生じていないことにより、固体電解質層2における応力の集中がより抑制されやすくなり、金属の過剰析出をより抑制しやすくなる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る全固体電池1によれば、負極中間層4と負極集電体5とが、負極中間層4外周部に設けられた接着領域7において接着しており、接着領域7よりも内側のアルカリ金属析出領域8xにおいて、充電時に負極中間層4と負極集電体5との間に金属が析出し得るように構成されている。正極層3は、中央部に設けられた正極層中央部3-1と、正極層3の外周部に設けられ、正極層中央部3-1と連続しており、正極層中央部3-1よりも低い正極活物質濃度を有する低濃度領域3-2と、を有している。低濃度領域3-2は、少なくとも一部で、アルカリ金属析出領域8xに重なっている。このような構成を採用することにより、充電時に析出する金属の端部に高さの大きい段差が形成されることが防止され、固体電解質層2における応力集中を防ぐことができる。これにより、金属の過剰析出を防止でき、固体電解質層2の破損や正極と負極間の短絡を防止できる。
【0038】
また、本実施形態に係る全固体電池1によれば、正極層3の外側端部を取り囲むように絶縁層9が設けられている。これにより、負極側に析出する金属が端部を回り込み、正極側と負極側とが短絡してしまうことが防止される。
【0039】
なお、本実施形態では、図1に示すように、固体電解質層2、正極層3、負極中間層4、負極集電体5、および正極集電体6からなる積層構造単位(以下、ユニットという)が単一の場合について説明した。しかし、全固体電池1におけるユニット数は、複数であってもよい。複数のユニット同士は、必要に応じて直列または並列に接続され、全体として全固体電池1を形成し得る。
【0040】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態の全固体電池1の端部断面を示す概略図である。図4には、正極層3の活物質濃度および固体電解質層2に生じる応力も併せて示されている。
【0041】
本実施形態においては、接着領域7の位置が工夫されている。その他の点については、第1実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0042】
図4に示されるように、本実施形態においては、接着領域7の内側端部が、絶縁層9よりも内側に位置している。具体的には、接着領域7の内側端部は、低濃度領域3-2に重なっている。また、接着領域7の外側端部は、低濃度領域3-2の外側端部よりも外側に位置しており、絶縁層9に重なっている。
【0043】
本実施形態によれば、充電時に、絶縁層9に対向する位置には金属が析出しない。仮に、接着領域7の内側端部が絶縁層9の内側端部よりも外側に位置している場合、金属が、絶縁層9に対向する位置にも析出する可能性がある。そのような位置に析出した金属は、放電時に正極層3側に移動せず、電池の充放電動作に寄与しない。従って、電池としての効率を低下させる。これに対して、本実施形態によれば、金属は、正極層3と対向する位置にのみ析出し、絶縁層9に対向する位置には析出しないから、電池としての効率を改善することができる。
【0044】
[第3実施形態]
続いて、第3実施形態について説明する。図5は、第3実施形態の全固体電池1の端部断面を示す概略図である。図5には、活物質濃度及び応力も併せて示されている。
【0045】
本実施形態においては、低濃度領域3-2における活物質濃度が工夫されている。その他の点については、既述の実施形態、特に、第2の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明については省略する。
【0046】
本実施形態においては、低濃度領域3-2における正極活物質濃度が、内側から外側に向かって連続的に減少している。
【0047】
本実施形態によれば、充電時に析出する金属の厚みが、低濃度領域3-2における正極活物質濃度に対応して、内側から外側に向かって連続的に小さくなる。すなわち、アルカリ金属層8の端部に、段差が生じない。その結果、負極集電体5側からアルカリ金属層8に加わる荷重がより分散しやすくなり、固体電解質層2に生じる応力が、より分散しやすくなる。従って、金属の過剰析出を、より確実に防止できる。
【0048】
なお、図5に示した例では、低濃度領域3-2において、活物質濃度が「連続的」に減少しているが、低濃度領域3-2における活物質濃度は、「段階的」に減少していてもよい。このような場合には、アルカリ金属層8に、低濃度領域3-2の活物質濃度に対応する段差が生じ得る。活物質濃度が「連続的」に減少する場合に比べると、段差部分に荷重が集中しやすい。しかしながら、既述の実施形態のように、低濃度領域3-2における活物質濃度が一定である場合に比べれば、各段差の高さは小さくなるから、アルカリ金属層8の端部に加わる荷重は分散しやすくなる。従って、この観点から、金属の過剰析出を防ぎやすくなる。
【0049】
なお、本実施形態における低濃度領域3-2は、例えば、予め、活物質濃度が異なる多数のシートを用意しておき、これらを重ねながらプレスすることにより、形成することができる。具体的には、中央部に活物質濃度が最も高いシートを配置する。そして、その外側に、活物質濃度が次に高い枠状のシートを、中央部のシートと部分的に重なるように配置する。さらにその外側に、次に活物質濃度が高い枠状のシートを、部分的に内側のシートと重なるように配置する。このようにして、活物質濃度が異なる複数の枠状のシートを、内側から外側に向かって活物質濃度が低くなるように部分的に重ねながら配置する。さらに、最も外側には、絶縁層9を形成するためのシートを配置する。そして、これらを最終的にプレスする。これにより、内側から外側に向かって活物質濃度が連続的または段階的に減少するような構成を得ることができる。
【0050】
[第4実施形態]
続いて、第4実施形態について説明する。図6は、第4実施形態の全固体電池1の端部断面を示す概略図である。本実施形態においては、接着領域7の構成が工夫されている。その他の点については、既述の実施形態、特に第2の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0051】
本実施形態においては、接着領域7において、接着剤が負極中間層4に染み込んでいる。負極中間層4が樹脂バインダー等により構成される場合、負極中間層4には、細孔(空隙)が生じる場合がある。細孔が存在する場合、析出時に金属が細孔を介して負極中間層4を透過し、外部に染み出す可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、接着剤が負極中間層4に染み込んでいる。すなわち、細孔が接着剤により埋められている。従って、金属が負極中間層4内に染み出さない。従って、金属が負極中間層4を介して外部に染み出すことを防止できる。これにより、正極側と負極側との短絡をより確実に防止できる。
【0052】
なお、本実施形態のような構成を有する接着領域7は、例えば、製造時に、接着剤として、負極中間層4に浸透する程度に低い粘度を有する材料を使用することにより、実現することができる。あるいは、接着時に接着剤を加熱して接着剤の粘度を下げ、これにより、負極中間層4に接着剤を染み込ませてもよい。
【0053】
[第5実施形態]
続いて、第5実施形態について説明する。図7は、第5実施形態の全固体電池1の端部断面を示す概略図である。本実施形態においては、負極中間層4と固体電解質層2のサイズが工夫されている。その他の点については、既述の実施形態、特に第2の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0054】
図7に示されるように、本実施形態においては、固体電解質層2が、負極中間層4よりも大きい。そして、固体電解質層2の端部は、負極中間層4の端部よりも外側に位置している。なお、負極中間層4の端部は、絶縁層9に重なる部分に位置している。
【0055】
本実施形態によれば、固体電解質層2の端部が負極中間層4の端部よりも外側に位置しているため、アルカリ金属層8の端部から、負極中間層4および固体電解質層2の端部を回り込んで正極層3に至るまでの経路が長くなる。そのため、全固体電池1の端部を回り込むように金属が析出し、正極側と負極側とが短絡することを防止することができる。
【0056】
[第6実施形態]
続いて、第6の実施形態について説明する。本実施形態においては、固体電解質層2の組成が工夫されている。その他の点については、既述の実施形態、特に第2の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態においては、負極中間層4が、柔軟性を付与する柔軟性付与物質を含んでいる。すなわち、負極中間層4に柔軟性が付与されている。負極中間層4が柔軟性を有していることにより、金属の析出時に、負極中間層4がアルカリ金属層8の形状に追従して変形可能となる。その結果、負極中間層4が破損しにくくなり、金属が均一に析出しやすくなる。
【0058】
柔軟性付与物質としては特に限定されないが、例えば、ゴム成分を使用することができる。ゴム成分としては、例えば、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、およびHNBR(水素化ニトリルゴム)などを用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 全固体電池
2 固体電解質層
3 正極層
3-1 正極層中央部
3-2 低濃度領域
4 負極中間層
5 負極集電体
6 正極集電体
7 接着領域
8 アルカリ金属層
8x アルカリ金属析出領域
9 絶縁層
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7