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特開2023-163869歯科用切削加工機の補正方法および歯科用切削加工機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163869
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】歯科用切削加工機の補正方法および歯科用切削加工機
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20231102BHJP
   A61C 13/38 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G05B19/404 G
A61C13/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075072
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】植田 潤
(72)【発明者】
【氏名】百々 晋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 涼
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆介
(72)【発明者】
【氏名】丹生石 啓一
(72)【発明者】
【氏名】新田 健司
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB05
3C269BB03
3C269CC02
3C269CC15
3C269EF10
(57)【要約】
【課題】動作に誤差が発生した歯科用切削加工機の誤差を補正する。
【解決手段】歯科用切削加工機の補正方法は、歯科用切削加工機に補正用ピースの加工プログラムを入力するプログラムステップS10と、加工プログラムが入力された歯科用切削加工機に補正用ピースの材料を装着する装着ステップS11と、加工プログラムに基づき、歯科用切削加工機により、材料から補正用ピースを加工する加工ステップS12と、加工ステップS12で加工された補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定する測定ステップS13と、測定ステップS13で測定された寸法に基づいて補正値を算出する算出ステップS14と、算出ステップS14で算出された補正値を歯科用切削加工機に入力する入力ステップS15と、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用切削加工機に補正用ピースの加工プログラムを入力するプログラムステップと、
前記加工プログラムが入力された前記歯科用切削加工機に前記補正用ピースの材料を装着する装着ステップと、
前記加工プログラムに基づき、前記歯科用切削加工機により、前記材料から前記補正用ピースを加工する加工ステップと、
前記加工ステップで加工された前記補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された寸法に基づいて補正値を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された補正値を前記歯科用切削加工機に入力する入力ステップと、を含む、
歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項2】
前記歯科用切削加工機は、
切削ツールを保持するツール保持装置と、
前記補正用ピースを保持するワーク保持装置と、
前記ツール保持装置および前記ワーク保持装置のうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記ワーク保持装置に対して前記切削ツールを所定の移動方向に移動させる移動装置と、を備え、
前記加工プログラムは、前記移動方向の座標が第1座標である第1平面と、前記移動方向の座標が第2座標である第2平面と、を前記切削ツールにより前記補正用ピースに形成するように構成され、
前記測定ステップでは、前記第1平面と前記第2平面との間の前記移動方向の距離を測定し、
前記補正値には、前記移動方向の距離に関する補正値が含まれており、
前記移動方向の距離に関する補正値は、前記第1座標と前記第2座標との間の座標値の差を前記測定ステップで測定された距離に合わせるような補正値である、
請求項1に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項3】
前記歯科用切削加工機は、
所定のZ軸方向に延びる棒状の切削ツールを保持するツール保持装置と、
前記補正用ピースの材料を保持するワーク保持装置と、
前記Z軸方向に直交するX軸方向に延びる回転軸周りに前記ワーク保持装置を回転させることにより、前記切削ツールに対する前記ワーク保持装置の向きを変更する回転装置と、
前記ワーク保持装置および前記回転装置と、前記ツール保持装置と、のうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記ワーク保持装置に対して、前記ツール保持装置を、前記Z軸方向に移動させるZ軸方向移動装置と、
前記ワーク保持装置および前記回転装置と、前記ツール保持装置と、のうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記ワーク保持装置に対して、前記ツール保持装置を、前記Z軸方向と前記X軸方向とに直交するY軸方向に移動させるY軸方向移動装置と、を備え、
前記加工プログラムは、
前記ワーク保持装置を前記回転軸周りの所定の第1の角度に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記回転軸よりも前記Y軸方向の一方側および他方側に、前記X軸方向および前記Y軸方向に延びる第1平坦面をそれぞれ1つ以上形成するとともに、
前記ワーク保持装置を前記第1の角度から180度ずれた第2の角度に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記複数の第1平坦面の裏側に、前記X軸方向および前記Y軸方向に延びる第2平坦面をそれぞれ形成するように構成され、
前記測定ステップでは、前記複数の第1平坦面と前記複数の第2平坦面との間の前記Z軸方向の厚さがそれぞれ測定され、
前記補正値には、前記回転装置の前記回転軸周りの回転角に関する補正値が含まれており、
前記回転装置の回転角に関する補正値は、前記測定ステップで測定された前記複数の厚さの間の差を解消するような補正値である、
請求項1に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項4】
前記加工プログラムは、前記Y軸方向の一方側と他方側とを識別するための識別部を、前記切削ツールによって前記補正用ピースに形成するように構成されている、
請求項3に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項5】
前記加工プログラムは、
前記ワーク保持装置を前記回転軸周りの所定の角度に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記Z軸方向の座標が第1座標である第1測定面を形成するとともに、
前記ワーク保持装置を前記所定の角度から180度ずれた角度に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記Z軸方向の座標が第2座標である第2測定面を形成するように構成され、
前記測定ステップでは、前記第1測定面と前記第2測定面との間の前記Z軸方向の距離を測定し、
前記補正値には、前記回転軸に対する前記ツール保持装置の前記Z軸方向の位置に関する補正値が含まれており、
前記ツール保持装置の前記Z軸方向の位置に関する補正値は、前記測定された前記第1測定面と前記第2測定面との間の距離と、前記加工プログラム上の前記第1測定面と前記第2測定面との間の前記Z軸方向の距離と間の差を解消するような補正値であり、前記回転装置の前記回転軸周りの回転角に関する補正の後に算出される、
請求項3に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項6】
前記加工プログラムは、前記補正用ピースの前記X軸方向の中心を通り前記Y軸方向に延びる線上に前記複数の第1平坦面、前記複数の第2平坦面、前記第1測定面、および前記第2測定面を形成するように構成されており、
前記加工ステップは、
前記複数の第1平坦面および前記複数の第2平坦面を前記補正用ピースに形成する第1の加工ステップと、
前記第1測定面および前記第2測定面を前記補正用ピースに形成する第2の加工ステップと、を含み、
前記測定ステップ、前記算出ステップ、および前記入力ステップは、
前記第1の加工ステップの後に行う第1の測定ステップ、第1の算出ステップ、および第1の入力ステップと、
前記第2の加工ステップの後に行う第2の測定ステップ、第2の算出ステップ、および第2の入力ステップと、をそれぞれ含み、
前記装着ステップは、
前記第1の加工ステップの前に、前記歯科用切削加工機に前記補正用ピースの材料を装着する第1の装着ステップと、
前記第1の加工ステップ、前記第1の測定ステップ、前記第1の算出ステップ、および前記第1の入力ステップの後に、前記第1の装着ステップとは前記Z軸周りの回転位置を変えて前記歯科用切削加工機に前記材料を装着する第2の装着ステップと、を含んでいる、
請求項5に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項7】
前記加工プログラムは、
前記ワーク保持装置を前記回転軸周りの所定の角度で保持し、かつ、前記ワーク保持装置を前記Y軸方向の所定位置に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記補正用ピースに、前記Z軸方向に延びる第1検査面を形成するとともに、
前記ワーク保持装置を前記所定の角度とは180度ずれた角度で保持し、かつ、前記ワーク保持装置を前記Y軸方向の前記所定位置に保持した状態で、前記切削ツールにより、前記補正用ピースに、前記Z軸方向に延びる第2検査面を形成するように構成され、
前記測定ステップでは、前記第1検査面と前記第2検査面との前記Y軸方向に関するずれの量が測定され、
前記補正値には、前記回転軸に対する前記ツール保持装置の前記Y軸方向の位置に関する補正値が含まれており、
前記ツール保持装置の前記Y軸方向の位置に関する補正値は、前記測定されたずれを解消するような補正値であり、前記回転装置の前記回転軸周りの回転角に関する補正の後に求められる、
請求項3に記載の歯科用切削加工機の補正方法。
【請求項8】
切削ツールを保持するツール保持装置と、
被加工物を保持するワーク保持装置と、
前記ツール保持装置および前記ワーク保持装置のうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記ワーク保持装置に対して前記切削ツールを移動させる移動装置と、
前記移動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記移動装置の位置補正のための補正用ピースの加工プログラムが登録されたプログラム登録部と、
前記加工プログラムに基づいて前記移動装置を制御し、前記補正用ピースを加工させる加工制御部と、
前記補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定した結果を入力可能な入力部と、
前記入力部に入力された結果に基づいて前記移動装置に設定する補正値を算出する算出部と、
前記算出部で算出された補正値を前記移動装置に設定する補正部と、を備えている、
歯科用切削加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用切削加工機の補正方法と、歯科用切削加工機と、に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物を切削加工することによって、歯科用成形品を作製する歯科用の切削加工機が従来から知られている。例えば特許文献1には、切削ツールを把持して回転させる主軸と、被加工物を保持する保持部材と、保持部材を回転させて向きを変える回転機構と、保持部材および回転機構を前後方向に移動させるX1方向移動機構と、主軸をそれぞれ左右方向および上下方向に移動させるY方向移動機構およびZ1方向移動機構と、を備えたデンタル用の切削加工機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-178372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯科用切削加工機において、例えば経年変化その他の理由により動作に誤差が発生し、加工プログラム上の寸法からずれた寸法の成形品が製作されるようになることがある。
【0005】
ここでは、動作に誤差が発生した歯科用切削加工機の誤差を補正する方法を提供する。また、提供する方法を実施するのに有利な構成を備えた歯科用切削加工機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する歯科用切削加工機の補正方法は、歯科用切削加工機に補正用ピースの加工プログラムを入力するプログラムステップと、前記加工プログラムが入力された前記歯科用切削加工機に前記補正用ピースの材料を装着する装着ステップと、前記加工プログラムに基づき、前記歯科用切削加工機により、前記材料から前記補正用ピースを加工する加工ステップと、前記加工ステップで加工された前記補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定された寸法に基づいて補正値を算出する算出ステップと、前記算出ステップで算出された補正値を前記歯科用切削加工機に入力する入力ステップと、を含んでいる。
【0007】
上記方法によれば、補正用ピースを作製し、補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定することにより、歯科用切削加工機に対して、補正用ピースの実際の寸法に基づく補正を行うことができる。これにより、歯科用切削加工機の動作の誤差を補正できる。
【0008】
ここに開示する歯科用切削加工機は、切削ツールを保持するツール保持装置と、被加工物を保持するワーク保持装置と、前記ツール保持装置および前記ワーク保持装置のうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記ワーク保持装置に対して前記切削ツールを移動させる移動装置と、前記移動装置を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記移動装置の位置補正のための補正用ピースの加工プログラムが登録されたプログラム登録部と、前記加工プログラムに基づいて前記移動装置を制御し、前記補正用ピースを加工させる加工制御部と、前記補正用ピースの予め定められた箇所の寸法を測定した結果を入力可能な入力部と、前記入力部に入力された結果に基づいて前記移動装置に設定する補正値を算出する算出部と、前記算出部で算出された補正値を前記移動装置に設定する補正部と、を備えている。
【0009】
上記歯科用切削加工機によれば、予め補正用ピースの加工プログラムが登録されたプログラム登録部と、補正用ピースの寸法測定結果を入力すると補正値を算出する算出部と、算出された補正値を移動装置に設定する補正部と、により、歯科用切削加工機の補正を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る切削加工機の斜視図である。
図2】被加工物およびアダプタの平面図である。
図3】左方から見た切削加工機の縦断面図である。
図4】ワーク保持装置および回転装置の平面図である。
図5】切削加工機のブロック図である。
図6】第1ステージのフローチャートである。
図7】第1補正用ピースの平面図である。
図8】第1補正用ピースの断面図である。
図9】加工プログラム上で180度の回転角が実際には(180-θ1)度であった場合の削り残し部分の厚さを示す模式図である。
図10】第2ステージのフローチャートである。
図11】第2補正用ピースの平面図である。
図12】前方側から見た測定ピースの斜視図である。
図13】後方側から見た測定ピースの斜視図である。
図14】回転軸に対する切削装置のZ軸方向の位置がずれている場合を示す模式図である。
図15】回転軸に対する切削装置のY軸方向の位置がずれている場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る歯科用切削加工機について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0012】
[切削加工機の構成]
図1は、一実施形態に係る歯科用切削加工機10(以下、単に切削加工機10と呼ぶ)の斜視図である。以下の説明では、切削加工機10を正面から見たときに、切削加工機10から遠ざかる方を前方、切削加工機10に近づく方を後方とする。左、右、上、下とは、切削加工機10を正面から見たときの左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味するものとする。
【0013】
本実施形態に係る切削加工機10は、アダプタに保持されたディスク状の被加工物を切削加工する切削加工機である。図2は、被加工物1およびアダプタ5の平面図である。切削加工機10は、ここでは、被加工物1を切削して、歯科用成形品、例えば、クラウン、ブリッジ、コーピング、インレー、アンレー、ベニア、カスタムアバットメント等の歯冠補綴物や、人工歯、義歯床等を作製する装置である。本実施形態に係る切削加工機10は、クーラントを使用しないドライ式の切削加工機である。
【0014】
被加工物1は、例えば、PMMA、PEEK、ガラス繊維強化樹脂、ハイブリッドレジン等のレジンや、ガラスセラミックス、ジルコニア等のセラミックス材料、コバルトクロムシンターメタル等の金属材料、ワックス、石膏等で構成されている。被加工物1の材料としてジルコニアを用いるときには、例えば、半焼結したジルコニアが用いられる。ここでは、被加工物1の形状は、ディスク状(円板状)である。ただし、被加工物1は、他の形状、例えばブロック状(例えば立方体状や直方体状)等であってもよい。
【0015】
アダプタ5は、ディスク状の被加工物1を保持する。アダプタ5は、ここでは、被加工物1に対応する略円形の挿入孔5aが中央部に形成された平板状のアダプタである。被加工物1は、挿入孔5aに挿入されることにより、アダプタ5に保持される。被加工物1は、アダプタ5に保持された状態で切削加工機10に収容され、加工される。
【0016】
図1に示すように、切削加工機10は、箱状に構成された筐体11を有している。図3は、左方から見た切削加工機10の縦断面図である。図3に示すように、切削加工機10は、棒状の切削ツール6を保持して軸線周りに回転させる切削装置20と、被加工物1(図2参照)を保持するワーク保持装置30と、切削装置20およびワーク保持装置30を移動させることにより、ワーク保持装置30に対して切削ツール6を移動させる移動装置40と、制御装置60(図1参照)と、を備えている。移動装置40は、ワーク保持装置30に対して切削装置20を平行移動させる装置の他に、切削ツール6に対するワーク保持装置30の向きを変更する回転装置50を含んでいる。切削装置20、ワーク保持装置30、回転装置50を含む移動装置40、および制御装置60は、筐体11の内部に収容されている。
【0017】
図3に示すように、切削装置20は、所定のZ軸方向に軸線が延びるように切削ツール6を保持する。切削装置20は、切削ツール6を保持するツール保持装置の一例である。Z軸方向は、ここでは、後方に傾斜した斜め上下方向である。ワーク保持装置30は、切削装置20よりも下方に配置されている。ワーク保持装置30は、被加工物1の加工が行われる加工室12内に設けられている。図1に示すように、加工室12の前面開口部には、加工室扉13が開閉可能に設けられている。移動装置40は、切削装置20をZ軸方向に移動させるZ軸方向移動装置40Zを備えている。移動装置40は、さらに、切削装置20をY軸方向に移動させるY軸方向移動装置40Yと、ワーク保持装置30および回転装置50をX軸方向に移動させるX軸方向移動装置40Xと、を備えている。X軸方向は、Z軸方向に直交する方向であり、ここでは、後方に向かって下降傾斜した斜め前後方向である。Y軸方向は、Z軸方向およびX軸方向に直交する方向であり、ここでは、左右方向である。
【0018】
図3に示すように、切削装置20は、切削ツール6を把持して回転させる主軸21を備えている。主軸21は、スピンドルユニット22と、スピンドルユニット22の下端部に設けられた把持部23と、を備えている。スピンドルユニット22は、Z軸方向に延びている。スピンドルユニット22は、把持部23をZ軸方向に平行な軸線周りに回転させる。スピンドルユニット22は、ここでは、モータ内蔵のユニットである。ただし、スピンドルユニット22は、例えば、外部のモータとベルト等により接続されていてもよい。把持部23は、例えば、エア駆動式のコレットチャックである。ただし、把持部23の方式は特に限定されない。
【0019】
図4は、ワーク保持装置30および回転装置50の平面図である。図4に示すように、ワーク保持装置30は、左右一対のアーム31を備えている。アダプタ5は、一対のアーム31の間に挿入されることによってワーク保持装置30に保持される。ワーク保持装置30は、ここでは、アダプタ5を介して被加工物1を保持する。ただし、ワーク保持装置30は、他の部材を介さず、直接に被加工物1を保持してもよい。
【0020】
回転装置50は、X軸方向に延びる回転軸51A周りにワーク保持装置30を回転させる回転装置50Aと、Y軸方向に延びる回転軸51B周りにワーク保持装置30を回転させる回転装置50Bと、を備えている。以下では、ワーク保持装置30の回転に関する場合、回転軸51Aの伸長方向をA軸方向とも呼び、回転軸51A周りに回転することをA軸周りに回転するとも言う。A軸方向は、X軸方向と平行である。回転装置50Aのことは、A軸回転装置50Aとも呼ぶ。A軸回転装置50Aは、回転軸51Aを回転させるA軸回転モータ52Aを備えている。
【0021】
同様に、以下では、ワーク保持装置30の回転に関する場合、回転軸51Bの伸長方向をB軸方向とも呼び、回転軸51B周りに回転することをB軸周りに回転するとも言う。B軸方向は、Y軸方向と平行である。回転装置50Bのことは、B軸回転装置50Bとも呼ぶ。B軸回転装置50Bは、回転軸51Bを回転させるB軸回転モータ52B(図5参照)を備えている。図4に示すように、B軸回転装置50Bは、A軸回転装置50Aを支持し、A軸回転装置50AをB軸周りに回転させる。A軸回転装置50Aは、ワーク保持装置30を支持し、ワーク保持装置30をA軸周りに回転させる。なお、A軸回転装置50Aの回転範囲は全周(360度)であるが、B軸回転装置50Bの回転範囲は360度よりも小さい。以下では、加工プログラム上、被加工物1の一方の面がX軸方向およびY軸方向に延びる(Z軸方向に直交する)ような回転軸51Aおよび回転軸51Bの角度を0度と呼ぶこととする。ただし、かかる呼称は便宜上のものに過ぎない。
【0022】
図3に示すように、Y軸方向移動装置40Yは、Y軸方向に延びる一対のY軸ガイドレール41Yと、Y軸ガイドレール41Yに摺動可能に係合したY軸方向移動体42Yと、Y軸方向駆動モータ43Y(図5参照)と、図示しないボールねじと、を備えている。Y軸方向移動体42Yは、Y軸ガイドレール41Yに沿ってY軸方向に移動可能である。Y軸方向移動体42Yは、Z軸方向移動装置40Zを支持している。Z軸方向移動装置40Zは、Z軸方向に移動可能に切削装置20を支持している。Y軸方向駆動モータ43Yが駆動すると、ボールねじが回転し、Y軸方向移動体42Y、Z軸方向移動装置40Z、および切削装置20がY軸ガイドレール41Yに沿ってY軸方向に移動する。Z軸方向移動装置40Zも、Y軸方向移動装置40Yと同様の構成を備えている。Z軸方向移動装置40Zは、Z軸方向に延びるZ軸ガイドレール41Zと、Z軸ガイドレール41Zに摺動可能に係合したZ軸方向移動体42Zと、Z軸方向駆動モータ43Zと、図示しないボールねじと、を備えている。Z軸方向駆動モータ43Zが駆動すると、ボールねじが回転し、Z軸方向移動体42Zおよび切削装置20がZ軸方向に移動する。
【0023】
詳しい図示は省略するが、X軸方向移動装置40Xは、加工室12の右壁12Rの右側に設けられている。X軸方向移動装置40Xも、Y軸方向移動装置40YおよびZ軸方向移動装置40Zと同様に、X軸方向に延びるガイドレールと、ガイドレールに摺動可能に係合したX軸方向移動体と、X軸方向駆動モータ43X(図5参照)と、ボールねじと、を備えている。X軸方向移動体は、回転装置50を支持している。X軸方向駆動モータ43Xが駆動すると、ボールねじが回転し、X軸方向移動体とともに、回転装置50およびワーク保持装置30がX軸方向に移動する。
【0024】
本実施形態では、移動装置40は、切削装置20をZ軸方向およびY軸方向に、ワーク保持装置30および回転装置50をX軸方向に移動させるように構成されている。ただし、移動装置40の構成は、上記には限定されない。Z軸方向移動装置40Zは、ワーク保持装置30および回転装置50と、切削装置20とのうちの少なくとも一方を移動させることにより、ワーク保持装置30に対して切削装置20をZ軸方向に移動させればよく、ワーク保持装置30および回転装置50と、切削装置20とのうちのいずれを移動させるのかは限定されない。同様に、Y軸方向移動装置40Yは、ワーク保持装置30および回転装置50と、切削装置20とのうちの少なくとも一方を移動させることにより、ワーク保持装置30および回転装置50に対して切削装置20をY軸方向に移動させればよい。X軸方向移動装置40Xは、ワーク保持装置30および回転装置50と、切削装置20とのうちの少なくとも一方を移動させることにより、切削装置20に対してワーク保持装置30および回転装置50をX軸方向に移動させればよい。
【0025】
図5は、切削加工機10のブロック図である。図5に示すように、制御装置60は、切削装置20のスピンドルユニット22および把持部23と、X軸方向移動装置40XのX軸方向駆動モータ43Xと、Y軸方向移動装置40YのY軸方向駆動モータ43Yと、Z軸方向移動装置40ZのZ軸方向駆動モータ43Zと、A軸回転装置50AのA軸回転モータ52Aと、B軸回転装置50BのB軸回転モータ52Bと、に接続され、それらの動作を制御している。
【0026】
制御装置60の構成は特に限定されない。制御装置60は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から切削データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。
【0027】
図5に示すように、制御装置60は、プログラム登録部61と、加工制御部62と、入力部63と、算出部64と、補正部65と、を備えている。プログラム登録部61には、移動装置40の位置補正のための補正用ピース100(図7および図11参照)の加工プログラムが登録されている。「移動装置40の位置」は、ここでは、X軸方向移動装置40X、Y軸方向移動装置40Y、およびZ軸方向移動装置40Zの位置と、A軸回転装置50AおよびB軸回転装置50Bの回転位置と、を含んでいる。「位置補正」は、ここでは、原点等の特定の点の座標の補正と、座標上の距離および角度をそれぞれ実際の距離および角度に合わせ込む補正と、を含んでいる。歯科用の切削加工機においては、例えば経年変化その他の理由により動作に誤差が発生し、加工プログラム上の寸法からずれた寸法の成形品が製作されるようになることがある。移動装置40の位置補正は、そのような誤差を補正して、加工プログラム通りの寸法の成形品が製作されるように、切削加工機10の状態を修正する作業である。なお、「移動装置の位置」および「位置補正」に含まれるものは、切削装置の構成と補正内容とに応じて変化し得る。
【0028】
補正用ピース100は、予め定められた形状に設定され、被加工物1から削り出される成形品であり、その所定の箇所の寸法が測定される。移動装置40の位置は、測定された補正用ピース100の寸法に基づいて補正される。補正用ピース100の詳細については後述する。プログラム登録部61には、補正用ピース100以外の成形品の加工データが保存されていてもよい。
【0029】
加工制御部62は、加工プログラムに基づいて切削装置20および移動装置40を制御し、補正用ピース100を加工させる。入力部63は、補正用ピース100の予め定められた箇所の寸法を測定した結果を入力可能に構成されている。算出部64は、入力部63に入力された結果に基づいて移動装置40に設定する補正値を算出する。補正部65は、算出部64で算出された補正値を移動装置40に設定する。制御装置60は、他の処理部を備えていてもよいが、ここでは図示および説明を省略する。
【0030】
なお、切削加工機10は、測定された補正用ピース100の寸法に基づいて外部で算出された補正値を入力可能なように構成されていてもよい。その場合、補正値の算出を行う主体は、例えば、補正値算出用のソフトウェアがインストールされた算出装置や、補正作業を行う作業者等であってもよい。切削加工機10の補正方法は、切削加工機10に補正用ピース100の加工プログラムを入力するプログラムステップと、加工プログラムが入力された切削加工機10に補正用ピース100の材料(ここでは、被加工物1)を装着する装着ステップと、加工プログラムに基づき、切削加工機10により、材料から補正用ピース100を加工する加工ステップと、加工ステップで加工された補正用ピース100の予め定められた箇所の寸法を測定する測定ステップと、測定ステップで測定された寸法に基づいて補正値を算出する算出ステップと、算出ステップで算出された補正値を切削加工機10に入力する入力ステップと、を含んでいればよい。各ステップを行う主体や方法は、特に限定されない。
【0031】
[補正用ピースの加工および切削加工機の補正:第1ステージ]
以下では、補正用ピース100の加工および補正用ピース100を使った切削加工機10の補正のプロセスの一例を説明する。以下に説明するプロセスは例示に過ぎず、切削加工機10の補正のプロセスは、これに限定されるわけではない。
【0032】
本実施形態では、切削加工機10の補正のプロセスは、第1の装着ステップ、第1の加工ステップ、第1の測定ステップ、第1の算出ステップ、および第1の入力ステップを含む第1ステージと、第2の装着ステップ、第2の加工ステップ、第2の測定ステップ、第2の算出ステップ、および第2の入力ステップを含む第2ステージと、を含んでいる。第2ステージは、第1ステージの後に行われる。まず、第1ステージについて説明する。
【0033】
図6は、第1ステージのフローチャートである。図6に示すように、第1ステージは、プログラムステップS10と、第1の装着ステップS11と、第1の加工ステップS12と、第1の測定ステップS13と、第1の算出ステップS14と、第1の入力ステップS15と、を含んでいる。プログラムステップS10は、図示の都合上、第1ステージに含めているが、補正作業のたびに行われる必要はなく、基本的には一度行えば足りる。プログラムステップS10では、切削加工機10に補正用ピース100の加工プログラムを入力する。加工プログラムは、第1の加工ステップS12で製作される第1補正用ピース100A(図7参照)を加工する第1加工プログラムと、第2ステージにおいて第1補正用ピース100Aから第2補正用ピース100B(図11参照)を加工する第2加工プログラムと、を含んでいる。
【0034】
第1の装着ステップS11では、補正用ピース100の加工プログラムが入力された切削加工機10に補正用ピース100の材料、ここでは、アダプタ5に装着されたディスク状の被加工物1を装着する。被加工物1の材料は、好ましくは、易切削材、例えば、ワックスである。易切削材とは、例えば、切削後の寸法の再現性が高く、切削ツール6を摩耗させにくい材料である。切削加工機10への被加工物1の取り付け向き(裏表および前後左右の向き)は特に限定されない。
【0035】
第1の加工ステップS12では、第1加工プログラムに基づき、切削加工機10により、被加工物1から第1補正用ピース100Aを加工する。図7は、第1補正用ピース100Aの平面図である。図8は、第1補正用ピース100Aの断面図である。図7および図8に示すように、第1補正用ピース100Aには、X軸方向の後方を0時方向として、0時、3時、6時、および9時の方向にそれぞれ凹部101Rr~101Lが加工されている。以下、0時の方向の凹部を後側凹部101Rr、3時の方向の凹部を右側凹部101R、6時の方向の凹部を前側凹部101F、9時の方向の凹部を左側凹部101Lとも呼ぶこととする。右側凹部101Rは、A軸回転装置50Aの回転軸51A(図7では、軸Aで示す)よりもY軸方向の右側に、左側凹部101Lは、回転軸51AよりもY軸方向の左側に形成されている。ここでは、右側凹部101Rと左側凹部101Lとは、回転軸51Aに対して左右対称に設けられている。
【0036】
また、前側凹部101Fは、B軸回転装置50Bの回転軸51B(図7では、軸Bで示す)よりもX軸方向の前側に、後側凹部101Rrは、回転軸51BよりもX軸方向の後ろ側に形成されている。前側凹部101Fと後側凹部101Rrとは、回転軸51Bに対して前後対称(X軸方向の前後対称)に設けられている。
【0037】
図8は、右側凹部101Rと左側凹部101Lとを通りZ軸方向に延びる面で切断した第1補正用ピース100Aの縦断面図である。図8に示すように、右側凹部101Rの底部102Rおよび左側凹部101Lの底部102Lは、それぞれ平坦に形成されている。右側凹部101Rの底部102Rおよび左側凹部101Lの底部102Lは、それぞれ、X軸方向およびY軸方向に延びている。断面の図示は省略するが、前側凹部101Fおよび後側凹部101Rrの底部も同様に平坦に形成されている。
【0038】
図8に示すように、右側凹部101Rおよび左側凹部101Lの裏側には、右側凹部101Rおよび左側凹部101Lに対応する裏側の右側凹部103Rおよび左側凹部103Lが形成されている。裏側の右側凹部103Rの底部104Rおよび裏側の左側凹部103Lの底部104Lも平坦に形成されている。右側の上下一対の底部102Rと104Rとは、両者の間の削り残し部分の上端と下端とを区画し、削り残し部分の厚みTRを規定している。左側の上下一対の底部102Lと104Lとは、両者の間の削り残し部分の上端と下端とを区画し、削り残し部分の厚みTLを規定している。断面の図示は省略するが、前側凹部101Fおよび後側凹部101Rrの裏側にも、それぞれ同様の凹部が形成されている。
【0039】
第1加工プログラムは、ワーク保持装置30をA軸回転装置50Aの回転軸51A周りの所定の第1の角度に保持した状態で、切削ツール6により、回転軸51AよりもY軸方向の一方側および他方側(ここでは、右側および左側)に、X軸方向およびY軸方向に延びる第1平坦面をそれぞれ1つ以上形成するように構成されている。これにより、第1平坦面としての、右側凹部101Rの底部102Rと、左側凹部101Lの底部102Lと、が形成される。ここでは、第1加工プログラムは、ワーク保持装置30を回転軸51A周りの0度位置に保持した状態で、切削ツール6により、回転軸51Aよりも右方および左方に、第1平坦面102Rおよび102L(底部102Rおよび102L)を形成するように構成されている。ただし、上記した第1の角度は、0度には限定されない。また、第1平坦面102Rと102L(底部102Rと102L)とは、回転軸51Aを挟むように配置されればよく、回転軸51Aに対して左右対称に配置されなくてもよい。
【0040】
第1加工プログラムは、ワーク保持装置30を第1の角度から180度ずれた第2の角度に保持した状態で、切削ツール6により、複数の第1平坦面の裏側に、X軸方向およびY軸方向に延びる第2平坦面をそれぞれ形成するように構成されている。これにより、第2平坦面としての、裏側の右側凹部103Rの底部104Rと、裏側の左側凹部103Lの底部104Lと、が形成される。ここでは、第1加工プログラムは、ワーク保持装置30を回転軸51A周りの180度位置に保持した状態で、切削ツール6により、第1平坦面102Rおよび102L(底部102Rおよび102L)の裏側に、第2平坦面104Rおよび104L(底部104Rおよび104L)を形成するように構成されている。
【0041】
第1加工プログラムは、前側凹部101F、後側凹部101Rr、図示しない裏側の前側凹部、および図示しない裏側の後側凹部も同様の手順で形成するように構成されている。このとき、B軸回転装置50Bの回転角は0度とされている。被加工物1を裏返す作業は、A軸回転装置50AによるA軸周りの回転によって行われる。
【0042】
図7に示すように、第1補正用ピース100Aには、Y軸方向の右側と左側とを識別するための識別目印105が形成されている。識別目印105は、ここでは、凹部である。識別目印105は、ここでは、表側の前側凹部101Fの近くに設けられている。これにより、第1補正用ピース100Aの前側および表側が認識できる。その結果、第1補正用ピース100Aの右側と左側との識別も可能となる。第1補正用ピース100Aの右側と左側を間違えると、補正値の符号が逆になる。識別目印105は、かかる左右の識別間違いを防止するためのものである。第1加工プログラムは、Y軸方向の一方側と他方側とを識別するための識別目印105を、切削ツール6によって第1補正用ピース100Aに形成するように構成されている。
【0043】
図6に示すように、第1の測定ステップS13では、表側の2つの底部102Rおよび102Lと裏側の2つの底部104Rおよび104Lとの間のZ軸方向の厚さTRおよびTLをそれぞれ測定する。この測定は、例えば、マイクロメータを使って補正担当者により行われる。また、第1の測定ステップS13では、表側の2つの底部102Fおよび102Rrと裏側の2つの底部との間のZ軸方向の厚さもそれぞれ測定される。
【0044】
図6に示すように、第1の算出ステップS14では、第1の測定ステップS13で測定された寸法に基づいて、A軸回転装置50Aの回転軸51A周りの回転角に関する補正値を算出する。A軸回転装置50Aの回転角に関する補正値は、加工プログラム上で180度となっている角度が実際には何度であるかを求め、180度と実測値との比に基づいて回転角を補正する補正値である。
【0045】
図9は、加工プログラム上で反時計回りに180度の回転角が実際には(180-θ1)度であった場合の削り残し部分の厚さTRおよびTLを示す模式図である。図9では、表側の凹部101Rおよび101Lが下側に、裏側の凹部103Rおよび103Lが上側に図示されている。簡略化のため、図9に示す例では、0度位置は正しく、180度位置が角度θ1だけマイナスしているものとする。ただし、ずれているのは、0度位置の場合もあり得、0度位置および180度位置の両方の場合もあり得る。図9に示すように、A軸回転装置50Aの回転角がマイナスしている場合には、プログラム上の180度位置において、第1補正用ピース100Aの回転軸51Aよりも左側部分が右側部分よりもZ軸方向の上方に位置する(ここでの左側部分および右側部分は、裏側が上面のときの左側部分および右側部分、すなわち図9の左右と一致する左側部分および右側部分を意味する)。このため、裏側の右側凹部103R(図9では左側の凹部)の方が、左側凹部103L(図9では右側の凹部)よりも深く切削される。これにより、厚さTRの方が厚さTLよりも薄くなる。A軸回転装置50Aの回転角がプラスしている場合には、この逆である。
【0046】
厚さTRおよびTLを測定し、その差を求めることにより、A軸回転装置50Aの回転角のずれを算出することができる。第1の算出ステップS14では、このA軸回転装置50Aの回転角のずれを補正する補正値が算出される。図6に示すように、第1の入力ステップS15では、第1の算出ステップS14で算出されたA軸回転装置50Aの回転角に関する補正値が切削加工機10に入力される。なお、補正値の「算出」および「入力」には、切削加工機10による補正値の自動算出および自動入力も含まれ得る。このように、本実施形態では、補正値には、A軸回転装置50Aの回転軸51A周りの回転角に関する補正値が含まれており、この補正値は、第1の測定ステップS13で測定された複数の厚さTRとTLとの間の差を解消するような補正値である。この補正値を切削加工機10に設定することにより、A軸回転装置50Aの回転軸51A周りの回転角のずれが補正される。
【0047】
図6に示すように、第1の算出ステップS14では、B軸回転装置50Bの0度位置に関する補正値も算出される。B軸回転装置50Bの0度位置がずれていると、回転軸51Bよりも前方部分および後方部分のうちの一方が他方よりも上方に位置する。そのため、図9に図示したのと同様の理由により、前方部分および後方部分のうち、上方に位置する方の凹部が他方よりも深くなる。そのため、前方部分および後方部分のうち、上方に位置する方が他方よりも削り残し部分の厚みが薄くなる。よって前方側および後方側の削り残し部分の厚さの差を求めることにより、B軸回転装置50Bの0度位置の誤差を求めることができる。B軸回転装置50Bの0度位置に関する補正値は、この誤差を補正する角度である。第1の入力ステップS15では、この補正値も切削加工機10に入力される。本実施形態では、B軸回転装置50Bの角度補正において、A軸回転装置50Aの場合のような、単位角度を合わせ込む補正は行われない。
【0048】
[補正用ピースの加工および切削加工機の補正:第2ステージ]
第1ステージの後、切削加工機10の補正の第2ステージが行われる。図10は、第2ステージのフローチャートである。図10に示すように、第2ステージは、第2の装着ステップS21と、第2の加工ステップS22と、第2の測定ステップS23と、第2の算出ステップS24と、第2の入力ステップS25と、を含んでいる。
【0049】
第2の装着ステップS21は、第1の加工ステップS12~第1の入力ステップS15の後に行われるステップであって、第1の装着ステップS11とはZ軸周りの回転位置を変えて、切削加工機10に被加工物1(第1補正用ピース100A)を装着する。詳しくは後述するが、加工プログラムは、第1ステージにおいて、補正用ピース100のX軸方向の中心を通りY軸方向に延びる線L1(図7参照)上に複数の凹部101Rおよび101Lを形成し、第2ステージにおいて、同じ線L1(図11参照)上に他の測定面を形成するように構成されている。第1ステージにおいては、線L1上に凹部101Rおよび101Lを設けることにより、A軸回転装置50Aの回転角に関する誤差が拡大され、誤差を測定しやすくなる。第2ステージにおいては、線L1上に測定面(詳しくは、Z軸方向の第1測定面111Z)を設けることにより測定面を大きくすることができ、これにより寸法を測定しやすくなる。第1ステージにおいて形成された複数の凹部101Rおよび101Lと第2ステージで形成される他の測定面とが重なるのを避けるため、第2の装着ステップS21では、第1の装着ステップS11とはZ軸周りの回転位置を変えて切削加工機10に第1補正用ピース100Aを装着する。正確である必要はないが、このときの回転角は、図11に示すように、例えば、Z軸周りに45度である。ただし、第2の装着ステップS21における回転角は、第1ステージで形成される部分と第2ステージで形成される部分とが重ならない限りで特に限定されない。
【0050】
なお、第1補正用ピース100Aと、第2補正用ピース100B(第1補正用ピース100Aの加工部分を除く)とを別に製作する場合には、第2の装着ステップS21において、第1補正用ピース100Aではなく、例えば、新品の被加工物1が切削加工機10に装着されてもよい。ただし、第2ステージにおいて第1補正用ピース100Aを再び使用することにより、切削加工機10の補正に使用される被加工物1の量を減らすことができる。
【0051】
第2の加工ステップS22では、第2加工プログラムに基づき、切削加工機10により、第1補正用ピース100Aから第2補正用ピース100Bを加工する。図11は、第2補正用ピース100Bの平面図である。
【0052】
図11に示すように、第2補正用ピース100Bには、0時、3時、6時、および9時の方向に、それぞれディスクから切り離して寸法を測定する4つの測定ピース100Cが加工されている。4つの測定ピース100Cは、同じものであり、配置された向きも同じである。さらには、4つの測定ピース100Cは、加工方向による加工精度の差(例えば、バックラッシュ等による)の影響をなくすため、同じ方向に加工して製作されている。なお、複数の測定ピース100Cを同じ向きに配置しなくても、同じ条件で複数の測定ピース100C加工することは可能である。以下、0時の方向に設けられた測定ピース100Cを後側の測定ピース100Cと、3時の方向に設けられた測定ピース100Cを右側の測定ピース100Cと、6時の方向に設けられた測定ピース100Cを前側の測定ピース100Cと、9時の方向に設けられた測定ピース100Cを左側の測定ピース100Cとも呼ぶ。右側の測定ピース100Cおよび左側の測定ピース100Cは、線L1上に形成されている。ここでは、右側の測定ピース100Cと左側の測定ピース100Cとは、回転軸51A(図11では、軸Aにより示す)に対して左右対称な位置に設けられている。前側の測定ピース100Cと後側の測定ピース100Cとは、回転軸51B(図11では、線L1により示す)に対して前後(X軸方向の前後)対称な位置に設けられている。測定ピース100Cは、サポート100Dを切断することにより、ディスクから分離される。図示は省略するが、4つの測定ピース100Cには、それぞれ、識別用の記号が加工されている。
【0053】
図12は、前方側から見た測定ピース100Cの斜視図である。図13は、後方側から見た測定ピース100Cの斜視図である。図12および図13に示すように、測定ピース100Cには、それぞれY軸方向およびZ軸方向に延び、X軸方向の座標が異なる2つの平面111Xと112Xとが形成されている。以下、この2つの平面をX軸方向の第1測定面111XおよびX軸方向の第2測定面112Xとも呼ぶ。加工プログラム上、第1測定面111XのX軸方向の座標は第1X座標であるとし、第2測定面112XのX軸方向の座標は第2X座標であるとする。第2加工プログラムは、X軸方向の座標が第1X座標である第1測定面111Xと、X軸方向の座標が第2X座標である第2測定面112Xと、を切削ツール6により、第2補正用ピース100Bに形成するように構成されている。
【0054】
図12に示すように、Y軸方に関してもX軸方向と同様に、測定ピース100Cには、それぞれX軸方向およびZ軸方向に延び、Y軸方向の座標が異なる2つの平面111Yと112Yとが形成されている。以下、この2つの平面をY軸方向の第1測定面111YおよびY軸方向の第2測定面112Yとも呼ぶ。加工プログラム上、第1測定面111YのY軸方向の座標は第1Y座標であるとし、第2測定面112YのY軸方向の座標は第2Y座標であるとする。第2加工プログラムは、Y軸方向の座標が第1Y座標である第1測定面111Yと、Y軸方向の座標が第2Y座標である第2測定面112Yと、を切削ツール6により、第2補正用ピース100Bに形成するように構成されている。
【0055】
さらに、測定ピース100Cには、それぞれX軸方向およびY軸方向に延び、Z軸方向の座標が異なるZ軸方向の第1測定面111Zと、第2測定面112Zと、第3測定面113Zと、が形成されている。加工プログラム上、第1測定面111ZのZ軸方向の座標は第1Z座標であり、第2測定面112ZのZ軸方向の座標は第2Z座標であり、第3測定面113ZのZ軸方向の座標は第3Z座標であるとする。第2加工プログラムは、Z軸方向の座標が第1Z座標である第1測定面111Zと、Z軸方向の座標が第3Z座標である第3測定面113Zと、を切削ツール6により、第2補正用ピース100Bに形成するように構成されている。第1測定面111Zと第3測定面113Zとは、ワーク保持装置30を回転軸51A周りの所定の角度に保持した状態で形成される。ここでは、上記所定の角度は0度である。ただし、上記所定の角度は0度には限定されない。
【0056】
第2加工プログラムは、ワーク保持装置30を0度位置から180度ずれた180度位置に保持した状態で、切削ツール6により、Z軸方向の座標が第2Z座標である第2測定面112Zを形成するように構成されている。第2測定面112Zは、第1測定面111Zおよび第3測定面113Zを形成するときの状態から、ワーク保持装置30をA軸周りに180度反転させて形成される。第1Z座標と第2Z座標とは、Z軸方向の座標として見る限り、同じ座標であってもよい。ただし、測定ピース100Cに形成された第1測定面111Zと第2測定面112Zとは、Z軸方向の位置が異なっている。
【0057】
また、図13に示すように、測定ピース100Cには、A軸回転装置50Aの回転軸51Aに対するY軸原点の位置を補正するための第1検査面113Yと第2検査面114Yとが形成されている。第1検査面113Yおよび第2検査面114Yは、いずれも、X軸方向およびZ軸方向に延びている。第1検査面113YのY軸座標と第2検査面114YのY軸座標とは、加工プログラム上は同じである。第1検査面113Yと第2検査面114Yとは、Z軸方向に並んで形成されている。
【0058】
第2加工プログラムは、ワーク保持装置30をA軸回転装置50Aの回転軸51A周りの所定の角度で保持し、かつ、ワーク保持装置30をY軸方向の所定位置に保持した状態で、切削ツール6により、第2補正用ピース100Bに、Z軸方向に延びる第1検査面113Yを形成するように構成されている。ここでは、回転軸51Aの上記所定の角度は、0度である。ただし、上記所定の角度は0度には限定されない。さらに、第2加工プログラムは、ワーク保持装置30を上記所定の角度とは180度ずれた角度で保持し、かつ、ワーク保持装置30をY軸方向の上記所定位置(第1検査面113Yを形成したときと同じ位置)に保持した状態で、切削ツール6により、第2補正用ピース100Bに、Z軸方向に延びる第2検査面114Yを形成するように構成されている。すなわち、第1検査面113Yと第2検査面114Yとは、ワーク保持装置30をA軸周りに反転させた状態で形成される。
【0059】
加工プログラム上では、第1検査面113Yと第2検査面114Yとは、面一である。ただし、A軸回転装置50Aの回転軸51Aに対するY軸原点の位置がずれていると、第2補正用ピース100Bでは、第1検査面113YのY軸方向の位置と、第2検査面114YのY軸方向の位置とにずれが生じる。その結果、第1検査面113Yと第2検査面114Yとの間に段差が生じる。
【0060】
図10に示すように、第2の測定ステップS23では、X軸方向の第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間のX軸方向の距離を測定する。測定方法は特に限定されないが、第1測定面111Xと第1測定面111Xに平行な他の面との間の距離X1、および、第2測定面112Xと上記他の面との間の距離X2をそれぞれマイクロメータで測定し、両者の間の差から、第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間のX軸方向の距離を求めてもよい。ただし、第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間のX軸方向の距離は、マイクロメータ等によって直接測定されてもよい。
【0061】
また、第2の測定ステップS23では、Y軸方向の第1測定面111Yと第2測定面112Yとの間のY軸方向の距離を測定する。図10に示すように、第2の測定ステップS23中のこれらのステップをステップS23Aとする。ステップS23Aでは、4つの測定ピース100Cからそれぞれ得られた測定値から平均値が算出され、代表値とされる。ただし、複数の測定値から代表値を得る方法は、平均値処理には限定されない。複数の測定値の代表値としては、例えば、中央値が採用されてもよい。
【0062】
また、第2の測定ステップS23では、Z軸方向の第1測定面111Zと第3測定面113Zとの間のZ軸方向の距離を測定する。第1測定面111Zと第3測定面113Zとは、ともにワーク保持装置30を0度位置に保持した状態で形成した面である。図10に示すように、第2の測定ステップS23中のこのステップをステップS23Bとする。ステップS23Bでは、Z軸方向の第2測定面112Zと第3測定面113Zとの間のZ軸方向の距離が測定されてもよい。ステップS23Bでは、4つの測定ピース100Cからそれぞれ得られた測定値が平均される。ただし、複数の測定値を処理する方法は、平均値処理には限定されない。
【0063】
第2の測定ステップS23では、さらに、Z軸方向の第1測定面111Zと第2測定面112Zとの間のZ軸方向の距離を測定する。第1測定面111Zと第2測定面112Zとは、ワーク保持装置30をA軸周りに180度反転させて形成した面である。図10に示すように、第2の測定ステップS23中のこのステップをステップS23Cとする。ステップS23Cでは、4つの測定ピース100Cからそれぞれ得られた測定値が平均される。ただし、複数の測定値を処理する方法は、平均値処理には限定されない。
【0064】
さらに、第2の測定ステップS23では、第1検査面113Yと第2検査面114YとのY軸方向に関するずれの量、すなわち、第1検査面113Yと第2検査面114Yと間のY軸方向の段差の高さY1(図15参照)が測定される。図10に示すように、第2の測定ステップS23中のこのステップをステップS23Dとする。ステップS23Dでは、4つの測定ピース100Cからそれぞれ得られた測定値が平均される。ただし、複数の測定値を処理する方法は、平均値処理には限定されない。
【0065】
図10に示すように、第2の算出ステップS24では、X軸方向の距離に関する補正値、Y軸方向の距離に関する補正値、Z軸方向の距離に関する補正値、A軸回転装置50Aの回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値、および、回転軸51Aに対する切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値が算出される。図10に示すように、以下では、X軸方向の距離に関する補正値およびY軸方向の距離に関する補正値を算出するステップをステップS24Aとする。また、以下では、Z軸方向の距離に関する補正値を算出するステップをステップS24Bとする。回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値を算出するステップ、および、回転軸51Aに対する切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値を算出するステップをそれぞれ、ステップS24CおよびステップS24Dとする。
【0066】
ステップS24AにおけるX軸方向およびY軸方向の距離に関する補正値は、ここでは、A軸回転装置50Aの回転角に関する補正の後に算出される。本実施形態では、A軸回転装置50Aの回転角に関する補正は、第1ステージの第1の入力ステップS15において行われている。ただし、X軸方向およびY軸方向の距離に関する補正値は、A軸回転装置50Aの回転角の精度には依存せず、従って、X軸方向およびY軸方向の距離に関する補正値は、A軸回転装置50Aの回転角に関する補正の前に算出されてもよい。本実施形態では、できるだけ効率的に加工ステップ~入力ステップを行うために、このような順番とされている。
【0067】
X軸方向に関して、ステップS24Aでは、第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間の加工プログラム上の距離を、第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間の距離の実測値(図12に示した場合では、X1-X2)に合わせ込む補正値が算出される。第1測定面111Xと第2測定面112Xとの間の加工プログラム上の距離は、言い換えると、第1X座標と第2X座標との間の座標値の差である。X軸方向の距離の補正値は、第1X座標と第2X座標との間の座標値の差を第2の測定ステップS23で測定された距離に合わせるような補正値である。例えば、実測値が加工プログラム上の距離よりも長い場合、成形品は予定よりも大きくできるということであり、加工プログラムのX軸方向の長さを小さくするような補正値(1よりも小さい補正値)が算出される。Y軸方向についても同様である。
【0068】
ステップS24Bでは、Z軸方向に関して、ステップS24Aと同様のことが行われる。ステップS24Bでは、第1測定面111Zと第3測定面113Zとの間の加工プログラム上の距離を、第1測定面111Zと第3測定面113Zとの間の距離の実測値に合わせ込む補正値が算出される。Z軸方向の距離に関する補正値も、A軸回転装置50Aの回転角の精度には依存しない。従って、Z軸の距離に関する補正値も、A軸回転装置50Aの回転角に関する補正の前に算出されてもよい。X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の距離は、単位距離の補正である。X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の距離がずれていると、加工プログラム上の距離に比例して、加工プログラム上の距離と実測値との差が大きくなる。
【0069】
図10に示すように、ステップS24Cでは、回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値を算出する。切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値は、好ましくは、本実施形態のように、ワーク保持装置30の角度に関する補正、およびZ軸方向の距離の補正の後に算出される。ただし、切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値の算出は、Z軸方向の距離の補正とは独立に実施されてもよい。図14は、回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置がずれている場合を示す模式図である。図14に示すように、回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置がZ1だけずれている(ここでは、Z軸方向の上方にZ1だけずれているものとする)と、第1測定面111Zは、加工プログラム上の位置(二点鎖線で表す)よりもZ1だけZ軸方向の上方に形成される。切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値は、Z軸方向の原点位置のシフト量である。同様に、第2測定面112Zも、加工プログラム上の位置よりもZ1だけZ軸方向の上方に形成される(図14では、第2測定面112Zは、加工プログラム上の位置よりも下方に位置する)。そのため、ステップS23Cにおいて測定された第1測定面111Zと第2測定面112Zとの間の距離は、加工プラグラム上の第1測定面111Zと第2測定面112Zとの間のZ軸方向の距離よりも、Z1の2倍だけ大きくなる。この加工プログラム上の距離と実測値との差は、加工プログラム上の距離に依存せず、一定である。切削装置20のZ軸方向の位置に関する補正値は、測定された第1測定面111Zと第2測定面112Zとの間の距離と、加工プログラム上の第1測定面111Zと第2測定面112Zとの間のZ軸方向の距離と間の差を解消するような補正値である。図14に示した場合には、補正値は、Z軸方向の原点位置をZ1だけ下方にシフトさせる補正値である。
【0070】
ステップS24Dでは、回転軸51Aに対する切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値を算出する。切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値は、好ましくは、本実施形態のように、ステップS24AのY軸方向の距離に関する補正の後に求められる。ただし、切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値の算出は、Y軸方向の距離の補正とは独立に実施されてもよい。図15は、回転軸51Aに対する切削装置20のY軸方向の位置がずれている場合を示す模式図である。本実施形態では、回転軸51AのY軸方向の座標は、Y軸方向の原点座標(図15では、Z軸として図示)と一致している。そのため、図15に示すように、回転軸51Aに対してY軸方向の原点位置がずれていると、回転軸51Aが0度位置に位置している状態と、回転軸51Aが180度位置に位置している状態とで、第2補正用ピース100Bに対するY軸方向の座標位置が変化する。ステップS24Dでは、Y軸方向の座標が同じ第1検査面113Yと第2検査面114Yとの段差の実測値Y1から、回転軸51Aに対するY軸方向の原点位置のずれが算出される。ここでは、補正値は、測定された段差の寸法Y1の半分Y1/2に等しい。補正値は、Y軸方向の原点位置のシフト量である。このように、切削装置20のY軸方向の位置に関する補正値は、ステップS23Dで測定されたずれを解消するような補正値である。
【0071】
図10に示すように、ステップS25では、第2の算出ステップS24で算出された補正値を切削加工機10に入力する。これにより、X軸方向の距離、Y軸方向の距離、Z軸方向の距離、回転軸51Aに対する切削装置20のZ軸方向の位置、および、回転軸51Aに対する切削装置20のY軸方向の位置が補正される。かかる補正により、加工プログラム通りの成形品を再び製作できるようになる。
【0072】
[他の実施形態]
以上、一実施形態に係る切削加工機および切削加工機の補正方法について説明した。しかし、ここに開示する技術は、他の態様により実施することもできる。例えば、上記した補正用ピースの形状や補正作業は例示に過ぎず、切削加工機の構成により変化し得る。切削加工機の構成上、誤差があってもよい箇所や、誤差が生じにくい箇所の補正は省略されてもよい。または、上記した実施形態では行わなかった補正も、切削加工機の構成上行うことが好ましければ行われてもよい。
【0073】
切削加工機の構成は特に限定されない。例えば、上記した実施形態では、A軸回転装置50AおよびB軸回転装置50Bは、X軸方向移動体に搭載され、X軸方向移動体とともにX軸方向に移動した。そのため、A軸回転装置50Aに対するX軸方向の原点位置はずれにくく、補正しなくてもよかった。しかし、A軸回転装置およびB軸回転装置は、X軸方向移動装置により移動されなくてもよい。例えば、A軸回転装置およびB軸回転装置は固定され、切削ツールがX軸方向にも移動されてもよい。その場合、回転装置の回転軸(例えば回転軸51B)に対するX軸方向の原点位置が補正されてもよい。また、回転装置は、ワーク保持装置の向きを変えるように構成されていなくてもよく、切削ツールの向きを変えるように構成されていてもよい。
【0074】
その他、特に言及されない限りにおいて、実施形態は本発明を限定しない。例えば、被加工物は、アダプタを介して切削加工機に保持されなくてもよく、切削加工機によって直接保持されてもよい。補正用ピースの材料である被加工物は、円板状のディスクでなくてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 被加工物
6 切削ツール
10 歯科用切削加工機
20 切削装置(ツール保持装置)
30 ワーク保持装置
40 移動装置
40X X軸方向移動装置
40Y Y軸方向移動装置
40Z Z軸方向移動装置
50 回転装置
50A A軸回転装置
51A 回転軸
50B B軸回転装置
51B 回転軸
60 制御装置
61 プログラム登録部
62 加工制御部
63 入力部
64 算出部
65 補正部
100 補正用ピース
102L 左側凹部の底部(第1平坦面)
102R 右側凹部の底部(第1平坦面)
104L 裏側の左側凹部の底部(第2平坦面)
104R 裏側の右側凹部の底部(第2平坦面)
105 識別目印(識別部)
111X X軸方向の第1測定面
111Y Y軸方向の第1測定面
111Z Z軸方向の第1測定面
112X X軸方向の第2測定面
112Y Y軸方向の第2測定面
112Z Z軸方向の第2測定面
113Z Z軸方向の第3測定面
113Y 第1検査面
114Y 第2検査面
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
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図15