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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163880
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】固定構造
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/88 20210101AFI20231102BHJP
   A61M 25/02 20060101ALI20231102BHJP
   A61M 39/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61M60/88
A61M25/02 504
A61M39/02 112
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075085
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嵐 伸作
【テーマコード(参考)】
4C066
4C077
4C267
【Fターム(参考)】
4C066LL16
4C077AA03
4C077AA04
4C077DD01
4C077DD21
4C077PP10
4C077PP12
4C077PP13
4C077PP14
4C077PP18
4C267AA33
4C267BB25
4C267CC01
4C267GG04
4C267GG05
4C267GG06
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG09
(57)【要約】
【課題】本発明は、細菌の侵入を抑制し、対象部位に対する位置ズレを抑制することができる固定構造の提供を目的とする。
【解決手段】固定構造1は、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成された多孔性のシート体2と、挿通部材を生体内から生体外に案内する筒状の挿通部4と、シート体2の開口周辺部分をシート体2の厚さ方向で挟持するとともに、挿通部4に固定される挟持部5と、シート体2と挟持部5とを固定するように、シート体2に縫い付けられた糸状体によって構成された固定糸状体33とを有し、固定糸状体33は、シート体2の延在方向での、挿通部材が挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、シート体2の表面に縫い付けられている。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内から生体外に導出される挿通部材が挿通可能な開口を有し、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成された多孔性のシート体と、
前記挿通部材を生体内から生体外に案内する挿通路を有する筒状の挿通部と、
前記シート体の開口周辺部分を前記シート体の厚さ方向で挟持するとともに、前記挿通部に固定される挟持部と、
前記シート体と前記挟持部とを固定するように、前記シート体に縫い付けられた糸状体によって構成された固定糸状体と
を有し、
前記固定糸状体は、前記シート体の延在方向での、前記挿通部材が挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、前記シート体の表面に縫い付けられている、固定構造。
【請求項2】
前記固定構造がさらに、
前記挟持部の外側において、前記シート体の延在方向での、前記対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、前記シート体の表面に縫い付けられたシート体側糸状体を備えている、請求項1に記載の固定構造。
【請求項3】
前記シート体側糸状体が前記シート体の厚さ方向で重なるように交差する交差縫合部を有している、請求項1に記載の固定構造。
【請求項4】
前記シート体側糸状体が、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での、前記交差縫合部の中央部分から内端までの間の領域で、前記シート体の周方向で前記交差縫合部に隣接して、または、前記交差縫合部に重なる位置に設けられた補助縫合部を備えている、請求項3に記載の固定構造。
【請求項5】
前記補助縫合部の外端が、前記交差縫合部の外端に対して内側に位置するように設けられている、請求項4に記載の固定構造。
【請求項6】
前記補助縫合部が、前記シート体の厚さ方向で重なるように交差している、請求項5に記載の固定構造。
【請求項7】
前記交差縫合部の交差部分と、前記補助縫合部の交差部分とが、前記シート体の厚さ方向で重なっている、請求項6に記載の固定構造。
【請求項8】
前記シート体側糸状体が、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での、前記交差縫合部の外端側の領域で、前記シート体の周方向で前記交差縫合部に隣接して、または、前記交差縫合部に重なる位置に設けられた補助縫合部を備えている、請求項3に記載の固定構造。
【請求項9】
前記補助縫合部が、前記シート体の厚さ方向で重なるように交差している、請求項8に記載の固定構造。
【請求項10】
前記挟持部が、前記シート体の開口周辺部において、前記シート体の一方の面に接触する環状の第1挟持部材と、前記シート体の開口周辺部において、前記シート体の他方の面に接触する環状の第2挟持部材とを備え、
前記第1挟持部材は、前記シート体よりも高い所定の剛性を有する硬質の生体適合性材料によって構成され、前記挿通部の周囲を取り囲むように配置され、
前記第2挟持部材は、前記挿通部に固定されている、請求項1に記載の固定構造。
【請求項11】
前記挿通部は、前記シート体の開口周辺部および前記第1挟持部材の内周側の部分が取り付けられる取付部を有し、
前記取付部は、前記第1挟持部材の前記シート体と接触する面とは反対側の面と、前記シート体の厚さ方向で係合するように構成された係合段部を有し、
前記第2挟持部材が、前記挿通部に対して、前記シート体の厚さ方向で前記第1挟持部材に近付く方向に移動するように締結されることで、前記シート体および前記第1挟持部材が、前記係合段部と前記第2挟持部材との間で圧縮して挟み込まれている、請求項10に記載の固定構造。
【請求項12】
前記シート体が、前記開口周辺部に前記第1挟持部材を配置するための配置部を有し、配置部は、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での前記第1挟持部材の幅に対応した幅で設けられ、前記配置部におけるシート体の厚さは、前記配置部の外側におけるシート体の厚さよりも薄くなるように構成されている、請求項10に記載の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用チューブやドライブラインなどの挿通部材を生体内から生体外へと導出する際に、当該挿通部材を皮膚に固定する固定具として、皮膚ボタンやカフ部材等が用いられている。
【0003】
このような固定具として、例えば特許文献1には、医療用チューブが挿入される筒状部と、経皮部において固定されるフランジ部と、フランジ部を筒状部に固定するための固定ナットを有する医療用チューブ固定具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-166310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような固定具は、フランジ部をフランジ押さえと固定ナットとによりフランジ部を挟持することで、フランジ部を筒状部に固定する。フランジ部がPTFEのような可撓性を有する材料により構成されている場合は、固定ナットの締め付けによりフランジ部が撓み、フランジ押さえと固定ナットとの間に隙間が生じる。そのため、隙間から細菌が浸入しないような処置が必要となり取り扱いが難しい。
【0006】
また、フランジ部に組織が侵入することで皮膚に固定されるが、フランジ部が皮膚に完全に固定されるまでは時間がかかる。そのため、フランジ部が皮膚に完全に固定される前の未固定の状態でフランジ部が皮膚に対して移動してしまうと、治癒が遅れてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、細菌の侵入を抑制し、対象部位に対する位置ズレを抑制することができる固定構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固定構造は、生体内から生体外に導出される挿通部材が挿通可能な開口を有し、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成された多孔性のシート体と、前記挿通部材を生体内から生体外に案内する挿通路を有する筒状の挿通部と、前記シート体の開口周辺部分を前記シート体の厚さ方向で挟持するとともに、前記挿通部に固定される挟持部と、前記シート体と前記挟持部とを固定するように、前記シート体に縫い付けられた糸状体によって構成された固定糸状体とを有し、前記固定糸状体は、前記シート体の延在方向での、前記挿通部材が挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、前記シート体の表面に縫い付けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固定構造によれば、細菌の侵入を抑制し、対象部位に対する位置ズレを抑制することができ、対象部位に対して早期固定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の固定構造が壁状の組織に埋設された状態を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態の固定構造の一方の面を示す図である。
図3】本発明の一実施形態の固定構造の他方の面を示す図である。
図4図2のIV-IV線断面の概略図である。
図5図4の領域A1が拡大された概略図である。
図6図4の領域A2が拡大された概略図である。
図7】本実施形態の固定構造が埋め込まれて所定の期間経過後、皮膚とともに除去された固定構造の断面の画像である。
図8】比較例の固定構造が埋め込まれて所定の期間経過後、皮膚とともに除去された固定構造の断面の画像である。
図9】第2実施形態の固定構造の縫いパターンを示す概略図である。
図10】第3実施形態の固定構造の縫いパターンを示す概略図である。
図11】第4実施形態の固定構造の縫いパターンを示す概略図である。
図12】第5実施形態の固定構造の縫いパターンを示す概略図である。
図13】糸状体が縫い付けられる前の、第6実施形態の固定構造を示す斜視図である。
図14図13のXIV-XIV線断面図である。
図15】第6実施形態の固定構造を簡略化して示す分解図である。
図16図15に示される状態から、固定構造の各部材が互いに組み付けられ、糸状体が縫い付けられた状態を示す、概略図である。
図17図16の固定構造の、糸状体が縫い付けられた部分の拡大図である。
図18】第6実施形態におけるシート体に挟持部が取り付けられた状態を示す図である。
図19】第6実施形態における挟持部の第1挟持部材を示す平面図である。
図20】第6実施形態におけるシート体の平面図である。
図21】第6実施形態におけるシート体にシート体側糸状体が縫い付けられた状態を示す写真である。
図22】第6実施形態における挟持部の第2挟持部材を示す平面図である。
図23】固定糸状体とシート体側糸状体とが縫い付けられた縫いパターンの一例を簡略化して示す概略図である。
図24】第7実施形態の固定構造における、シート体側糸状体の縫いパターンを示す概略図である。
図25】第7実施形態の固定構造の変形例を示す概略図である。
図26】第8実施形態の固定構造における、シート体側糸状体の縫いパターンを示す概略図である。
図27】第8実施形態の固定構造における、シート体側糸状体と固定糸状体との間の重なりを模式的に示す図である。
図28】第9実施形態の固定構造における、シート体側糸状体の縫いパターンを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の固定構造を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の固定構造は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
なお、本明細書において、「Aに垂直」およびこれに類する表現は、Aに対して完全に垂直な方向のみを指すのではなく、Aに対して略垂直であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「Bに平行」およびこれに類する表現は、Bに対して完全に平行な方向のみを指すのではなく、Bに対して略平行であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「C形状」およびこれに類する表現は、完全なC形状のみを指すのではなく、見た目にC形状を連想させる形状(略C形状)を含んで指すものとする。
【0013】
本実施形態の固定構造1は、図1に示されるように、生体内から生体外に導出される挿通部材ISを生体の壁状の組織Tに固定する際に用いられる。固定構造1は、図1に示されるように、挿通部材ISが挿通された状態で、壁状の組織Tの所定の位置、所定の深さに埋設されることで、生体の壁状の組織Tに固定される。固定構造1の用途は、生体内から生体外に導出される挿通部材ISを生体の壁状の組織Tに固定する用途であれば、特に限定されない。例えば、固定構造1は、挿通部材ISが挿通される皮膚ボタン(カフ部材)等に用いられ得る。
【0014】
本明細書において、「生体」とは、ヒトおよびヒト以外の動物の体をいう。「壁状の組織」とは、挿通部材ISが挿通される、所定の厚さを有する生体の任意の壁、膜などの組織をいう。具体的には、壁状の組織は、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、筋層、各種臓器を構成する組織など、生体内の各種組織、およびこれらが組み合わされた層をいう。本実施形態では、挿通部材ISが挿通される壁状の組織Tは、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)および筋層を含む組織である。固定構造1が固定される壁状の組織Tにおける固定位置(埋設位置)は、固定構造1が固定される患者(生体)の体型等に応じて適宜変更され得る。
【0015】
固定構造1の用途は、生体内から生体外に導出される挿通部材ISを生体の壁状の組織Tに固定するものであれば、特に限定されない。本実施形態では、固定構造1は、人体内に埋め込まれた医療機器(例えば、人工補助心臓(VAD)、人工肺などの人工臓器)に用いられるドライブライン(挿通部材IS)を腹部の壁状の組織Tに挿通し、人体の体内から体外にドライブラインを導出させる際に用いられる。体外に導出されたドライブラインは、図1に示されるように、固定構造1を介して腹部の所定の位置で固定される。
【0016】
挿通部材ISは、所定の長さを有し、生体の壁状の組織Tに挿通される線状の部材である。なお、挿通部材ISの「線状」とは、挿通部材ISが中空であるか中実であるかを問わず、挿通部材ISが所定の長さで延びるものであることを意味している。本実施形態では、挿通部材ISは、生体の壁状の組織Tを貫通した状態で配置される医療用の長尺部材である。より具体的には、挿通部材ISは、人工臓器(人工補助心臓)用のドライブラインである。挿通部材ISの一方の端部は、体内の所定の位置に配置された図示しない人工臓器に連結され、他方の端部は、体外に配置された機器(電源など)に連結される。
【0017】
挿通部材ISの内部構造は特に限定されないが、例えば、挿通部材ISは、体内の人工臓器と体外の圧送ポンプとの間で冷却水を循環させる冷却水循環通路と、体内の人工臓器および体外の電源を連結する電源ケーブルとを有している。なお、挿通部材ISは、電源ケーブルのみを有する構成としても良いし、冷却水循環路のみを有する構成としてもよい。また、挿通部材ISは、上記以外の他の機能を有する部材などを有する構成としてもよいし、内部に部材を有しない中空部材(チューブ)として構成されていてもよい。挿通部材ISは、体内と体外とを連通する中空の部材として用いる場合、体外から体内の治療部位へ治療のため薬を送達するために用いられてもよい。
【0018】
挿通部材ISを壁状の組織Tに挿通する際、例えば、図1に示されるように、固定構造1に挿通部材ISが挿通された状態で、固定構造1が壁状の組織Tに固定される。より具体的には、挿通部材ISが壁状の組織Tに挿通された状態で、挿通部材ISを壁状の組織Tに固定するために、図1に示される固定装置Dが用いられる。本実施形態の固定構造1(固定装置D)は、挿通部材ISをシート体2に(間接的に)接続する接続部材Cを備えている。本実施形態では、接続部材Cは、固定構造1の後述するシート体2をシート体2の厚さ方向に挟み込む第1接続部材C1と第2接続部材C2とを備えている。第1接続部材C1および第2接続部材C2は、挿通部材ISを挿通できるように構成されている。本実施形態では、第1接続部材C1および第2接続部材C2のうちの少なくとも一方(本実施形態では、第1接続部材C1)は、シート体2の開口21に挿入されている。挿通部材ISが挿通された、第1接続部材C1および第2接続部材C2が互いに螺合されることによって、シート体2の開口21周辺の部分が第1接続部材C1および第2接続部材C2によって挟み込まれる。これにより、固定構造1と挿通部材ISとが接続部材Cを介して接続される。この状態で、図1に示されるように、固定構造1が壁状の組織Tに埋設されることで、固定構造1を介して挿通部材ISが壁状の組織Tに挿通された状態で所定の位置に固定される。なお、接続部材Cとシート体2との間の接続方法は、上述した接続方法に限定されない。また、固定構造1の構造は、挿通部材ISを挿通した状態で支持することができれば、図2に示される接続部材Cを用いた構造に限定されない。例えば、固定構造1は、図16等に示されるように、筒状の挿通部4と、挟持部5とを備え、固定糸状体33によって挿通部4と挟持部5とが固定されていてもよい。
【0019】
固定構造1は、図1図3に示されるように、生体内から生体外に導出される挿通部材ISが挿通可能な開口21を有し、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成された多孔性のシート体2を有している。
【0020】
シート体2は、挿通部材ISを壁状の組織Tに挿通した状態で、固定構造1を壁状の組織Tに固定する(定着させる)際に、壁状の組織Tに埋設される部位である。例えば、シート体2は、挿通部材ISを挿通するために切開された壁状の組織Tの一部(例えば皮膚)の下に潜り込むように壁状の組織Tに埋設される。これにより、シート体2は、図1に示されるように、壁状の組織Tの所定の部位に固定される。
【0021】
シート体2は、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成されている。シート体2を構成する生体親和性を有する非吸収性材料は、医療用のシートとして体内や創傷部において用いられているものと同様の材料とすることができる。また、シート体2は、後述する糸状体3が縫い付けられる前の状態で、柔軟性を有する材料によって構成されていることが好ましい。シート体2を構成する材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種とすることができ、好ましくは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)とすることができる。
【0022】
また、シート体2は、壁状の組織Tの細胞がシート体2へ成長および定着することを促進するために、多孔性のシートによって構成されていることが好ましい。多孔性のシート体2の孔径(平均孔径)は、シート体2が壁状の組織Tに埋設された際に、細胞が成長および定着しやすい大きさであれば、特に限定されない。シート体2の平均孔径は、例えば、10~100μmとすることができる。
【0023】
シート体2の形状は、挿通部材ISを挿通することができ、壁状の組織Tに埋設するのに適した形状であれば、特に限定されない。本実施形態では、シート体2は、中央部分に開口21を有する円形(略円形)に形成されているが、楕円形や多角形状等、円形以外の形状に形成されていてもよい。シート体2の大きさは特に限定されず、シート体2に挿通される挿通部材ISの径や、固定構造1の用途や固定箇所に応じて適宜変更される。シート体2は、例えば、壁状の組織Tに埋設される公知の皮膚ボタン(カフ部材)のフランジ部分の大きさと同様の大きさとすることができる。シート体2が円形の場合、シート体2の直径は、例えば、5~80mmとすることができる。また、シート体2の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5~5mmとすることができる。また、シート体2が楕円形状等、長手方向の寸法と短手方向の寸法とが異なる場合、シート体2の長手方向の寸法は、10mm~80mmとすることができる。例えば、シート体2が楕円形状の場合、シート体2の長径を40~80mmとし、短径を20~40mmとすることができる。
【0024】
シート体2に設けられた開口21は、シート体2の中央部分において、シート体2の厚さ方向に貫通して設けられている。開口21の大きさは、挿通部材ISを挿通可能な大きさで適宜設定される。本実施形態では、開口21は、(後述する糸状体が設けられた状態で)接続部材C(図1参照)を挿通可能となる大きさで設けられている。なお、本明細書において、シート体2のうち、開口21の開口縁21aから、シート体2の外周縁22に向かう方向(本実施形態では、シート体2の径方向外側)で所定の領域を中央領域Ra(図2参照)と呼ぶ。また、シート体2のうち、シート体2の外周縁22の周辺の領域、すなわち、シート体2の外周縁22から開口21に向かう方向(本実施形態では、シート体2の径方向内側)で所定の領域を周縁領域Rb(図2参照)と呼ぶ。また、中央領域Raと周縁領域Rbとの間の領域を中間領域Rc(図2参照)と呼ぶ。シート体2の中央領域Raの範囲は、特に限定されないが、例えば、シート体2の開口縁21aから、シート体2の開口縁21aと外周縁22との間の(径方向での)距離の30~60%までの領域とすることができる。また、シート体2の周縁領域Rbの範囲は、特に限定されないが、シート体2の外周縁22から、シート体2の開口縁21aと外周縁22との間の(径方向での)距離の20~60%までの領域とすることができる。好ましくは、中央領域Raと中間領域Rcとの範囲が、シート体2の開口縁21aから、シート体2の開口縁21aと外周縁22との間の(径方向での)距離の50%までの領域とすることができる。
【0025】
また、シート体2は、後述するように、シート体2の厚さ方向に貫通した、糸状体3を挿通するための(複数の)貫通孔23(図6参照)を有している。当該貫通孔23は、糸状体3を縫い付ける前の状態で、後述するシート体2に形成される(糸状体3による)所定の凹凸構造に応じて所定の位置に形成されている。貫通孔23が糸状体3を縫い付ける前の状態で予めシート体2の所定の位置に設けられていることによって、貫通孔23が、糸状体3をどの位置に縫い付ければよいかの目印となり、容易に糸状体3による凹凸構造を形成することができる。なお、貫通孔23は、本実施形態では、放射方向に4つ設けられ、周方向に並んで配置されているが、貫通孔23の数や配置は、縫いパターンに応じて適宜変更される。
【0026】
糸状体3が挿通される貫通孔23の大きさは、糸状体3を挿通可能であれば、特に限定されない。本実施形態では、貫通孔23は、貫通孔23が形成されたシート体2の部位の内周と糸状体3との間のクリアランスCL(図6参照)は、1mm以下、好ましくは、100μm~300μmとなるように形成されている。この場合、後述する糸状体3とシート体2の表面との間の隙間だけでなく、糸状体3とシート体2の貫通孔23との間のクリアランスCLの部分においても、表皮に向かって体液、細胞が流れ込みやすくなり、壁状の組織Tの細胞が成長および定着しやすくなる。上記クリアランスCLは、シート体2の表面の延在方向における、貫通孔23が形成されたシート体2の部位の内周(内面)と、糸状体3の外周との間の最大の隙間とすることができる。なお、1つの貫通孔23に、糸状体3が、シート体2の一方の面2a(図4参照)から他方の面2b(図4参照)に、または他方の面2bから一方の面2aに、複数回または複数本挿通されてもよい。その場合のクリアランスCLは、糸状体3が複数回または複数本通された状態での、貫通孔23が形成されたシート体2の部位の内周(開口縁)と糸状体3の外周との間の最大の隙間となる。
【0027】
固定構造1は、図1図6に示されるように、シート体2の表面に縫い付けられた糸状体3を備えている。糸状体3は、シート体2が、シート体2の延在方向での、挿通部材ISが挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成する。ここで、生体の対象部位とは、壁状の組織Tにおいて、挿通部材ISが挿通される部位の周辺部分である。より具体的には、生体の対象部位は、壁状の組織Tのうち、挿通部材ISが挿通された固定構造1を設置するために切開された部位である。なお、本明細書において、「糸状体」という場合、シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成することができれば、シート体2の部分のみに縫い付けられた糸状体(後述する放射状縫合部31、周方向縫合部32、シート体側糸状体34等)に限定されない。例えば、「糸状体」には、後述するように、シート体2と他の部材(例えば、後述する挟持部5)とを固定する固定糸状体33も含まれる。
【0028】
糸状体3によって構成される、「シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造」は、シート体2が延在する方向、すなわち、シート体2の厚さ方向に対して垂直な任意の方向での、シート2体と対象部位(壁状の組織T。以下、対象部位を壁状の組織Tとも呼ぶ)との間の相対移動を抑制する。凹凸構造は、シート体2の表面(厚さ方向で一方の面2aおよび/または他方の面2b)に糸状体3が所定のパターンで縫い付けられた状態で、糸状体3がシート体2の表面に対してシート体2の厚さ方向で突出する(図1および図4参照)ことによって設けられる。より具体的には、シート体2に糸状体3が縫い付けられた部分が凹凸構造の凸部を構成し、糸状体3が設けられていない部分、すなわちシート体2の表面が凹凸構造の凹部を構成している。
【0029】
上述したように、本実施形態では、固定構造1は、シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、シート体2の表面に縫い付けられた糸状体3を有している。これにより、固定構造1が対象部位(壁状の組織T)に設けられたときに、壁状の組織Tの一部が、凹凸構造の凹部に入り込む。また、本実施形態の固定構造1では、糸状体を有さないシート体だけの固定構造と比べて壁状の組織Tとの接触面積が大きくなるため、固定構造1による凹凸構造は、固定構造1が壁状の組織Tに対して移動する際の抵抗も大きくなる。したがって、シート体2と壁状の組織Tとが、シート体2の表面に平行なシート体2の延在方向(本実施形態では、シート体2の径方向および周方向)で相対移動する(シート体2が壁状の組織Tに対して、または、壁状の組織Tがシート体2に対して移動する)ことが抑制される。したがって、シート体2を皮膚等の対象部位に対して縫合することなく、対象部位に対する位置ズレを抑制することができる。よって、簡単な施術で固定構造1を対象部位に対して早期固定することができる。より具体的には、糸状体3によって形成された凹凸構造によって、固定構造1が、生体の壁状の組織Tに対して位置ズレすることが抑制される。したがって、壁状の組織Tの細胞が安定して繁殖してシート体2に入り込み、挿通部材ISが挿通された切開箇所(対象部位)の治癒が促進される。
【0030】
また、糸状体3がシート体2に縫い付けられていることによって、図5に示されるように、糸状体3とシート体2との間にシート体2の厚さ方向に微小な空間SP(図5では、理解を容易にするために空間SPの大きさを誇張して示している)が形成される。この微小な空間SP内には、固定構造1を壁状の組織Tに埋設して所定の期間が経過すると、壁状の組織Tの細胞が入り込む。これにより、壁状の組織Tの切開部位における治癒が促進され、固定構造1の壁状の組織Tへの早期固定が可能となる。また、この微小な空間SPに壁状の組織Tの細胞が入り込むことで、入り込んだ細胞によって糸状体3が拘束された状態となる。したがって、固定構造1全体が壁状の組織Tに対して相対移動しようとしても、微小な空間SPに入り込んだ細胞が糸状体3に絡んで、固定構造1の壁状の組織Tに対する相対移動が抑制される。
【0031】
図7は、ラットの背部を切開して、皮膚の下に、ePTFEのシート体2に糸状体3が縫い付けられた固定構造1を30日間埋設した後、固定構造1を皮膚を含めて背部から除去し、その部分の断面を40倍に拡大したヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)画像である。図7に示されるように、糸状体3とシート体2との間、および糸状体3と糸状体3との間に、壁状の組織Tの細胞が入り込んでおり、皮膚が剥がれにくくなっていることが観察された。また、糸状体3とシート体2の表面との間の隙間に入り込んだ細胞は、シート体2の表面に密着しており、多孔性のシート体2の表面に細胞が入り込んでいることが確認された(図7の画像において、シート体2の表面がわずかに変色している)。一方、図8は、糸状体3が縫い付けられていない比較例の固定構造を用いた以外は、図7の条件と同条件で埋設した後、比較例の固定構造を皮膚を含めて背部から除去し、その部分の断面を40倍に拡大したヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)画像である。図8の比較例では、図7の画像と同様の多孔性のePTFEのシート体を用いたが、壁状の組織Tがシート体2の表面から剥離して隙間が開いており、シート体2の表面への細胞の侵入は確認できなかった。このように、糸状体3がシート体2に縫い付けられていることによって、壁状の組織Tの細胞が、糸状体3とシート体2との間の微小な空間SPに入り込んで、切開部位の治癒が促進されるとともに、固定構造1と壁状の組織Tとの間での早期固定が可能であることがわかった。
【0032】
凹凸構造は、シート体2のうち、少なくとも片方の面に設けられていればよいが、本実施形態では、凹凸構造は、シート体2の両方の面に設けられている。シート体2の両方の面に凹凸構造が設けられている場合、より固定構造1と壁状の組織Tとの間の相対移動を抑制することができ、シート体2の一方の面2aおよび他方の面2bの両方で、壁状の組織Tの細胞が侵入しやすくなり、切開部位の治癒がさらに促進される。
【0033】
糸状体3は、シート体2と同様に、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成される。糸状体3を構成する生体親和性を有する非吸収性材料は、医療用の縫合糸として用いられているものと同様の材料とすることができる。糸状体3を構成する材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種とすることができ、好ましくは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)とすることができる。また、糸状体3は、より壁状の組織Tの細胞の成長・定着を促進するために、多孔性であることが好ましい。
【0034】
糸状体3の太さは、シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成することができれば、特に限定されないが、例えば、直径0.1~0.5mm、好ましくは0.1~0.3mm、より好ましくは0.2mmの糸を用いることができる。
【0035】
糸状体3は、後述する所定の縫いパターンで、シート体2に縫い付けられる。糸状体3の縫いパターンは、シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成することができれば、特に限定されない。糸状体3は、縫いパターン全体が1本の糸状体3によって連続して縫い付けられていてもよいし、複数の糸状体3によって分けて縫い付けられていてもよい。また、糸状体3は、図2および図3に示されるように、一方の面2aと他方の面2bとが同じ縫いパターンによって縫い付けられていてもよいし、一方の面2aと他方の面2bとで異なる縫いパターンで縫い付けられていてもよい。
【0036】
次に、本実施形態における糸状体3の縫いパターンについて説明する。
【0037】
本実施形態では、糸状体3は、図2および図3に示されるように、シート体2の開口21と外周縁22とを結ぶ方向となる放射方向に延びる複数の放射状縫合部31を有している。また、糸状体3は、シート体2の周方向に延びる周方向縫合部32を有している。
【0038】
放射状縫合部31は、放射状に延びている、糸状体3の縫いパターンの一部である。ここで、「放射状に延びる」とは、糸状体3が、開口21と外周縁22とを結ぶ方向(以下、放射方向)に延びていることをいう。本実施形態では、放射状縫合部31は、円形のシート体2の径方向に延びている。なお、放射状縫合部31は、開口21から放射するように、開口21と外周縁22とを結ぶ方向に延びていれば、シート体2の径方向に対して傾斜していてもよい。また、放射状縫合部31は、本実施形態では、シート体2の開口縁21aから放射状に延びているが、必ずしも開口縁21aから延びている必要はなく、開口縁21aよりも外周縁22側の位置から外周縁22側(径方向外側)に向かって延びていてもよい。なお、本実施形態では、放射状縫合部31は、図2および図3に示されるように、開口21から外周縁22には到達しない長さで放射方向に延びており、後述するように、シート体2は、糸状体3が縫い付けられていない非縫合部24を有している。
【0039】
放射状縫合部31は、凹凸構造の一部を構成しており、放射状に延びることで、固定構造1と、壁状の組織Tとの間の、放射方向に交差する方向の相対移動を抑制する。本実施形態では、放射状縫合部31は、開口縁21aから所定の角度間隔を空けて複数の放射方向に延びる、複数の放射状縫合部311、312によって構成されている。複数の放射状縫合部311、312は、開口縁21aの周方向全体に亘って設けられている。複数の放射方向に延びる、複数の放射状縫合部311、312が設けられている場合、固定構造1に対して様々な方向に力が加わったとしても、固定構造1の壁状の組織Tに対する相対移動を抑制することができる。また、固定構造1に、壁状の組織Tに対して、シート体2の周方向(挿通部材ISの軸まわり方向)に回転する方向の力が加わったとしても、それぞれの放射状縫合部311、312が抵抗となって、固定構造1の回転を抑制することができる。なお、本実施形態では、複数の放射方向に延びる、複数の放射状縫合部311、312は、互いに異なる長さで設けられているが、複数の放射方向に延びる、複数の放射状縫合部は同じ長さであってもよい。
【0040】
上述したように、放射状縫合部31は、互いに長さの異なる複数の放射状縫合部311、312を有していてもよい。詳細は後述するが、本実施形態では、放射状縫合部31は、図2および図3に示されるように、開口21から放射方向に所定の長さで延びる複数の第1放射状縫合部311と、開口21から放射方向に第1放射状縫合部311の長さよりも短い長さで延びる複数の第2放射状縫合部312とを有している。なお、放射状縫合部31は、第1放射状縫合部311および第2放射状縫合部312の長さと異なる、さらに他の放射状縫合部(例えば、第3放射状縫合部、第4放射状縫合部等)を有していてもよい。
【0041】
また、図2および図3に示されるように、複数の放射状縫合部31の一部は、周方向で互いに隣接して、互いに平行に1の放射方向に延びていてもよい。この場合、互いに隣接する放射状縫合部31の間に空間が形成される。この空間に壁状の組織Tの細胞が入り込むことで、空間に入り込んだ細胞が糸状体3に絡んで、固定構造1の壁状の組織Tに対する相対移動がさらに抑制される。
【0042】
周方向縫合部32は、周方向に延びている、糸状体3の縫いパターンの一部である。ここで、「周方向に延びる」とは、シート体2の外周縁22またはシート体2の開口縁21aに沿う方向と実質的に同方向に延びていることをいう。本実施形態では、周方向縫合部32は、放射方向(シート体2の径方向)に対して交差する方向に延びている。より具体的には、周方向縫合部32は、1の放射状縫合部31(第1放射状縫合部311)と、他の放射状縫合部31(第1放射状縫合部311)とを、同じ径方向の位置で結ぶように延びている。
【0043】
本実施形態では、周方向縫合部32は、放射状縫合部31に交わるように延びている(第1放射状縫合部311の外周縁22側の端部同士を結ぶように延びている)。しかし、周方向縫合部32は、必ずしも放射状縫合部31に交わる必要はない。また、周方向縫合部32は、本実施形態では、周方向に連続して、開口21に挿通された挿通部材ISの軸まわりで1周するように設けられている。しかし、周方向縫合部32は、周方向に連続して設けられている必要はなく、途中で分断されて、周方向に断続的に設けられていてもよい。
【0044】
周方向縫合部32は、凹凸構造の一部を構成しており、周方向に延びることで、固定構造1と、壁状の組織Tとの間の、周方向に交差する方向の相対移動を抑制する。周方向縫合部32が、周方向に交差する方向の相対移動を抑制することにより、壁状の組織Tに埋設された固定構造1が、壁状の組織Tから離脱することが抑制される。例えば、挿通部材ISが図1において上側に引っ張られた場合に、固定構造1は、開口21の近傍の中央部側が上側に引っ張られるように力を受ける。この場合、図1において固定構造1の挿通部材ISに対して右側の部分は左側へと、挿通部材ISに対して左側の部分は、右側へと移動しようとする力を受ける。この力に対して、周方向縫合部32が、壁状の組織Tと引っ掛かることで抵抗となり、固定構造1の位置ズレや壁状の組織Tからの離脱が抑制される。また、周方向縫合部32は、周方向に連続して延びていることで、周方向に交差する方向を折り曲げ線とするシート体2の折れ曲がりを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、シート体2は、図2および図3に示されるように、シート体2の外周縁22から所定の幅を有する周縁領域Rbに、糸状体3が縫い付けられていない非縫合部24を有している。非縫合部24は、放射状縫合部31、周方向縫合部32のいずれも設けられていない部位であり、シート体2のみによって構成された部位である。シート体2が非縫合部24を有していることによって、固定構造1の周縁領域Rbは中央領域Raに対して柔軟な状態となる。したがって、固定構造1が壁状の組織Tに埋設された状態で、皮膚等の壁状の組織Tの動きに追従することができる。
【0046】
また、本実施形態では、糸状体3は、シート体2の開口21周辺の中央領域Ra側からシート体2の外周縁22側(周縁領域Rb側)に向かって密から粗となるようにシート体2に縫い付けられている。この場合、糸状体3(本実施形態では特に放射状縫合部31)が中央領域Raで密となることによって、固定構造1の中央領域Raの剛性が高まり、固定構造1は中央領域Raにおいて変形しにくくなる。これにより、固定構造1に挿通された挿通部材ISから、挿通部材ISの重量等によって固定構造1の開口21周辺部分を変形させる力が加わっても、固定構造1の変形が抑制される。したがって、固定構造1に挿通された挿通部材ISを対象部位(壁状の組織T)に対して所定の角度に維持することができる。したがって、固定構造1が変形したり、壁状の組織Tに対して傾いたりすることで、固定構造1と壁状の組織Tとの間で成長した細胞が剥がれてしまうことが抑制される。そのため、細胞の成長が阻害されず、中央領域Raでの細胞の繁殖が活発となり、切開部位の治癒が促進されるとともに、ダウングロースを抑制することができる。
【0047】
また、シート体2の周縁領域Rb側では糸状体3が粗となることで、固定構造1(シート体2)が皮膚等の対象部位の動きや形状に追従してなじむ。したがって、固定構造1を埋め込まれた患者は、固定構造1の埋込時の違和感を軽減することができる。なお、「中央領域Ra側からシート体2の外周縁22側に向かって密から粗となる」とは、糸状体3の、中央領域Ra側の所定の領域全体(図2では、中央領域Ra内の領域全体)における単位面積あたりの量が、外周縁22側の所定の領域全体(図2では、中間領域Rc全体または、周縁領域Rb全体)における単位面積あたりの量に対して多いことを意味している。したがって、「中央領域Ra側からシート体2の外周縁22側に向かって密から粗となる」とは、放射方向に所定の幅を有する所定の領域同士を比較したものであり、放射方向で外側に向かうにつれて、局所的に糸状体3の密度(固定構造1の単位面積当たりの糸状体3が占める割合)が高くなる部分を有していても、領域ごとで比較した場合に密度が低くなっていればよい。
【0048】
糸状体3は、中央領域Ra側から外周縁22側に向かって密から粗となるようにシート体2に縫い付けられていれば、糸状体3の縫いパターンは特に限定されない。本実施形態では、放射状縫合部31が、第1放射状縫合部311と第2放射状縫合部312とを有し、第1放射状縫合部311の外周縁側の端部(以下、外端という)が、第2放射状縫合部312の外端よりも放射方向で外側に位置している。これにより、第1放射状縫合部311は、第2放射状縫合部312に対して放射方向に突出している。したがって、放射状縫合部31は、第1放射状縫合部311と第2放射状縫合部312との両方が設けられた中央領域Raは、第2放射状縫合部312が設けられていない中間領域Rcよりも、放射状縫合部31の密度が高くなる(なお、本実施形態では、中間領域Rcに周方向縫合部32が設けられているが、周方向縫合部32を含めても、中央領域Raは中間領域Rcよりも密となっている)。
【0049】
また、中央領域Raは、図1に示されるように、開口21の開口縁21aから所定の領域が接続部材C等によって挟まれる場合があり、そのような場合、糸状体3が密から粗となる部分は、接続部材C等によって挟まれていない部分において、密から粗になっていればよい。
【0050】
また、糸状体3(特に、放射状縫合部31)は、中央領域Ra側から外周縁22側に向かって段階的に密から粗になっていることが好ましい。「段階的に密から粗になる」とは、2段階以上の糸状体3の密度の異なる領域を有していることを言うが、糸状体3は、好ましくは3段階以上の密度が異なる領域が段階的に設けられていることが好ましい。
【0051】
段階的に密から粗となるように糸状体3が縫い付けられている場合、固定構造1は、シート体2の中央領域Raから周縁領域Rbにかけて皮膚等の対象部位の動きに容易に追従することができる。そのため、シート体2の剛性が急激に変化して局所的に応力が加わることが抑制され、シート体2が折れ曲がって、シート体2の表面と壁状の組織Tの細胞とが固定されていた部分が剥離したりして、切開部位の治癒が遅れることが抑制される。
【0052】
つぎに、他の実施形態の固定構造について説明する。なお、以下の説明において、上述した第1実施形態と共通する事項についての説明は省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態で説明した事項の全ては、発明の目的を達成できる限りにおいて、以下の他の実施形態の固定構造に適用することができ、以下の他の実施形態の構成と、第1実施形態で説明した内容とを組み合わせて用いることができる。また、第1実施形態で説明した構成により得られる効果は、当該構成を有している限り、以下の他の実施形態においても得ることができる。また、以下の他の実施形態同士の構成を組み合わせることもできる。
【0053】
<第2実施形態>
第2実施形態の固定構造1は、図9に示されるように、複数の周方向縫合部32を有している。具体的には、第2実施形態の固定構造1は、放射方向で開口縁21aからの距離が異なる複数の(図9では3つの)周方向縫合部32を有している。本実施形態の固定構造1は、放射状縫合部を有しておらず、周縁領域Rbに糸状体3を有していない非縫合部24を有している。本実施形態では、複数の周方向縫合部32が設けられていることによって、固定構造1と壁状の組織Tとの間の放射方向での相対移動がさらに抑制される。
【0054】
<第3実施形態>
第3実施形態の固定構造1は、図10に示されるように、第2実施形態と同様に、放射方向で開口縁21aからの距離が異なる複数の(図10では3つの)周方向縫合部32を有している。本実施形態の固定構造1は、周縁領域Rbに糸状体3を有していない非縫合部24を有している。また、本実施形態では、中央領域Raに設けられ、最も開口21に近い周方向縫合部32から、放射方向で開口縁21aに向かって延びる複数の放射状縫合部31を有している。本実施形態の固定構造1は、第2実施形態と同様に、複数の周方向縫合部32が設けられていることによって、固定構造1と壁状の組織Tとの間の放射方向での相対移動がさらに抑制される。また、複数の放射状縫合部を有していることによって、固定構造1と、壁状の組織Tとの間の、放射方向に交差する方向の相対移動を抑制することができる。また、複数の放射状縫合部31は、開口縁21aの周方向全体に亘って設けられているので、固定構造1の壁状の組織Tに対する回転を抑制することができる。また、中央領域Ra側が密となり、シート体2の外周縁22側が粗となっているので、固定構造1の中央領域Raの剛性が高まり、固定構造1は中央領域Raにおいて変形しにくくなる。したがって、上述したように、固定構造1に挿通された挿通部材ISを対象部位(壁状の組織T)に対して所定の角度に維持することができる。したがって、固定構造1が変形したり、壁状の組織Tに対して傾いたりすることで、固定構造1と壁状の組織Tとの間で成長した細胞が剥がれてしまうことが抑制される。そのため、細胞の成長が阻害されず、中央領域Raでの細胞の繁殖が活発となり、切開部位の治癒が促進されるとともに、ダウングロースを抑制することができる。
【0055】
なお、中央領域Raの開口21周辺の部分が、上述したように、接続部材C等によって挟まれる場合は、周方向縫合部32および当該周方向縫合部32から径方向内側に延びる放射状縫合部31は、接続部材C等によって挟まれる部分よりも放射方向で外周縁22側にずらして設けることができる。
【0056】
<第4実施形態>
第4実施形態の固定構造1は、図11に示されるように、中央領域Raから外周縁22側に向かって延びる複数の異なる放射状縫合部31を有している。複数の放射状縫合部31を有していることによって、固定構造1と、壁状の組織Tとの間の、放射方向に交差する方向の相対移動を抑制することができる。また、複数の放射状縫合部31は、開口縁21aの周方向全体に亘って設けられているので、固定構造1の壁状の組織Tに対する回転を抑制することができる。なお、本実施形態では、周方向縫合部は設けられていない。なお、図11における二点鎖線は、固定構造1の領域の境界を示すものである。
【0057】
また、本実施形態では、複数の異なる放射状縫合部31は、外周縁22側の端部である外端311a、312a、313aの位置が互いに異なる位置となるように縫い付けられている。本実施形態では、中央領域Raから外周縁22側に向かって延びる放射状縫合部31の外端311a、312a、313aの位置が互いに異なることで、固定構造1が中央領域Ra側から外周縁22側に向かって段階的に密から粗となるように構成されている。
【0058】
具体的には、本実施形態の固定構造1は、複数の第1放射状縫合部311と、複数の第2放射状縫合部312と、第1放射状縫合部311よりもシート体2の外周縁22側(径方向外側)に延びる第3放射状縫合部313とを備えている。より具体的には、第1~第3放射状縫合部311、312、313は、第2放射状縫合部312の外端312aの位置が、放射方向で最も内側(開口21側)となり、第3放射状縫合部313の外端313aの位置が、放射方向で最も外側(外周縁22側)となり、第1放射状縫合部311の外端311aの位置が、放射方向で第2放射状縫合部312の外端312aと第3放射状縫合部313の外端312aの間となるように構成されている。これにより、本実施形態の固定構造1は、中央領域Raにおいて、放射状縫合部31の密度が最も高い密の状態となり、外周縁22側に向かって、徐々に放射状縫合部31の密度が粗に近付くようになっている。より具体的には、本実施形態では、図11に示されるように、固定構造1は、第1~第3放射状縫合部311、312、313が縫い付けられ、最も放射状縫合部31の密度が高い第1領域(中央領域)Ra、第1領域Raの外周縁22側に隣接し、第1および第3放射状縫合部311、313が縫い付けられ、第1領域Raの次に密度が高い第2領域(第1中間領域)Rc1、第2領域Rc1の外周縁22側に隣接し、第3放射状縫合部313が縫い付けられ、第2領域Rc1の次に密度が高い第3領域(第2中間領域)Rc2、および、放射状縫合部31が縫い付けられていない非縫合部24である、最も粗な第4領域(周縁領域)Rbを有している。なお、異なる放射状縫合部31の数は適宜変更可能であり、例えば、第4放射状縫合部、第5放射状縫合部等を有していてもよい。
【0059】
上述したように、固定構造1が中央領域Ra側から外周縁22側に向かって段階的に密から粗となるように構成されている。これにより、固定構造1の中央領域Raの剛性が高まり、固定構造1は中央領域Raにおいて変形しにくくなる。したがって、上述したように、固定構造1に挿通された挿通部材ISを対象部位(壁状の組織T)に対して所定の角度に維持することができる。したがって、固定構造1が変形したり、壁状の組織Tに対して傾いたりすることで、固定構造1と壁状の組織Tとの間で成長した細胞が剥がれてしまうことが抑制される。そのため、細胞の成長が阻害されず、中央領域Raでの細胞の繁殖が活発となり、切開部位の治癒が促進されるとともに、ダウングロースを抑制することができる。また、本実施形態では、上述したように、複数の異なる放射状縫合部31によって、段階的に密から粗となるように糸状体3が縫い付けられている。この場合、固定構造1は、シート体2の中央領域Raから周縁領域Rbにかけて皮膚等の対象部位の動きに容易に追従することができる。そのため、シート体2の剛性が急激に変化して局所的に応力が加わることが抑制され、シート体2が折れ曲がって、シート体2の表面と壁状の組織Tの細胞とが固定されていた部分が剥離したりして、切開部位の治癒が遅れることが抑制される。
【0060】
なお、本実施形態において、第3放射状縫合部313は、開口縁21aまで延びていてもよい。また、中央領域Raの開口21周辺は、接続部材C(図1参照)等によって挟まれる場合があり、その場合、第1および第2放射状縫合部311、312の内端311b、312bを、開口21に対して外周縁22側(例えば、第3放射状縫合部313の内端313bと同じ径方向の位置)としてもよい。
【0061】
<第5実施形態>
第5実施形態の固定構造1は、第4実施形態の固定構造1に対して、さらに周方向縫合部32を有している。第5実施形態では、第4実施形態で説明した効果に加えて、周方向縫合部32によって、固定構造1と壁状の組織Tとの間の放射方向での相対移動を抑制することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、周方向縫合部32は、複数の第3放射状縫合部313の外端313aを結ぶように周方向に延びているが、周方向縫合部32の径方向での位置は、図示する位置に限定されない。また、周方向縫合部32は、図9に示されるように、複数の異なる径方向位置に複数設けられていてもよい。
【0063】
また、さらなる変形例として、上述したいずれかの実施形態に用いられるシート体2に関して、シート体2の開口21周辺の中央領域Raからシート体2の外周縁22に向かって徐々にシート体2の柔軟性が高くなるように構成されていてもよい。この場合、シート体2が中央領域Raから周縁領域Rbにかけて皮膚等の対象部位の動きに容易に追従することができ、シート体2の剛性が急激に変化して局所的に応力が加わることが抑制される。したがって、シート体2が局所的な応力によって折れ曲がって、シート体2の表面と壁状の組織Tの細胞とが固定されていた部分が剥離したりして、治癒が遅れるといった問題が生じにくくなる。なお、シート体2の柔軟性を中央領域Raから外周縁22に向かって徐々に高くするための構成は特に限定されないが、例えば、シート体2の外周縁22に向かって、シート体2の厚さを変化させることや、シート体2にコーティングを施すことなどによって、シート体2の柔軟性を中央領域Raから外周縁22に向かって徐々に高くすることができる。
【0064】
<第6実施形態>
第6実施形態の固定構造1は、後述するように、挿通部材ISを案内する筒状の挿通部4と、シート体2を挟持し、挿通部4に固定される挟持部5とを備えている点で、第1~第5実施形態の固定構造と異なる。なお、以下に説明する点は、第1~第5実施形態、第7~第9実施形態の固定構造にも適用することができる。
【0065】
図13は、糸状体が縫い付けられる前の、第6実施形態の固定構造を示す斜視図である。図14は、図13のXIV-XIV線断面図である。図15は、第6実施形態の固定構造を簡略化して示す分解図である。図16は、図15に示される状態から、固定構造の各部材が互いに組み付けられ、糸状体が縫い付けられた状態を示す、概略図である。図17は、図16の固定構造の、糸状体が縫い付けられた部分の拡大図である。なお、図15図17は、固定構造を概念的に簡略化して示したものであり、貫通孔の数や、挿通部の形状等は、図14に示される固定構造とは一致していない。図18は、第6実施形態におけるシート体に挟持部が取り付けられた状態を示す図である。図19は、第6実施形態における挟持部の第1挟持部材を示す平面図である。図20は、第6実施形態におけるシート体の平面図である。図21は、第6実施形態におけるシート体にシート体側糸状体が縫い付けられた状態を示す写真である。図22は、第6実施形態における挟持部の第2挟持部材を示す平面図である。図23は、固定糸状体とシート体側糸状体とが縫い付けられた縫いパターンの一例を簡略化して示す概略図である。
【0066】
本実施形態の固定構造1は、図13図18に示されるように、挿通部材IS(図14参照)を生体内から生体外に案内する挿通路41を有する筒状の挿通部4と、シート体2の開口周辺部分をシート体2の厚さ方向で挟持するとともに、挿通部4に固定される挟持部5とを備えている。
【0067】
挿通部4は、挿通部材ISを挿通部4に挿通した状態で生体に対して支持する。挿通部4は、後述するように、シート体2に対して接続される。本実施形態では、挿通部4は、挟持部5を介してシート体2に接続される。
【0068】
挿通部4は、生体内と生体外とを連通する。本実施形態では、挿通部4は、ドライブライン等の挿通部材ISが挿通される部分であり、略円筒状に構成されている。挿通部4は、図14図16に示されるように、生体内側となる第1開口部42と、生体外側となる第2開口部43とを有している。挿通路41は、第1開口部42と第2開口部43との間に形成されている。
【0069】
挿通部4の形状および構造は、挿通部4が挿通部材ISを挿通部4に挿通した状態で生体に対して支持することができれば、特に限定されない。本実施形態においては、挿通部4は、生体外側に突出するように構成されている。具体的には、挿通部4は、図14に示されるように、挿通路41の軸がシート体2の表面に対して傾斜するように構成されているが、挿通路41の軸の傾斜角度は特に限定されない。また、挿通路41は、シート体2に対して直交するように設けられていてもよい(図16の模式図等参照)。
【0070】
なお、図示は省略しているが、挿通部4は、挿通路41の内壁と挿通部材ISの外面との間に配置され、挿通部材ISの外周面を締め付けて把持するチャック部材や、挿通部4において挿通部材ISを挿通路41内で液密に保持するためのシール部材等を有していてもよい。挿通路41の内壁と挿通部材ISの外面との間に設けられるチャック部材やシール部材等については、公知の構成とすることができるため、詳細な説明は省略する。なお、挿通部4を構成する材料は、生体適合性を有し、所定の剛性を有する材料によって構成される。例えば、挿通部4を構成する材料としては、チタンやチタン合金等、生体適合性を有し、耐食性の高い金属材料が用いられる。
【0071】
挿通部4は、本実施形態では、図15図17に示されるように、シート体2の開口周辺部および後述する第1挟持部材51の内周側の部分が取り付けられる取付部44を有している。取付部44は、第1挟持部材51のシート体2と接触する面とは反対側の面と、シート体2の厚さ方向で係合するように構成された係合段部44aを有している。
【0072】
取付部44は、シート体2および第1挟持部材51が挿通部4に取り付けられたときに、シート体2の開口周辺部の一部および第1挟持部材51の内周側の部分が配置される部分である。取付部44は、挿通部4の第1開口部42が設けられた端部において、シート体2および第1挟持部材51が外嵌できるように構成されている。本実施形態では、図14図17に示されるように、取付部44が設けられた筒状部分は、軸方向(シート体2の厚さ方向)で取付部44が設けられた筒状部分(第1筒状部分)に隣接する筒状部分(第2筒状部部分)よりも、径方向で一回り小さくなるように構成されている。取付部44が設けられた第1筒状部分と、第1筒状部分に隣接する第2筒状部分との径方向の大きさの違いによって、取付部44には、段差となる係合段部44aが設けられている。
【0073】
係合段部44aは、図17に示されるように、シート体2および第1挟持部材51が挿通部4に取り付けられた状態において、第1挟持部材51のシート体2と接触する面とは反対側の面(体外側の面)とシート体2の厚さ方向で係合する。係合段部44aは、後述するように、第2挟持部材52側から第1挟持部材51側に向かって、シート体2に力が加わって、シート体2が挟持される際に、第1挟持部材51と係合する。これにより、シート体2は、圧力が加えられた状態で挟み込まれて、挿通部4に対して安定して保持される。係合段部44aの形状および構造は、第1挟持部材51と係合段部44aとが係合することができれば、特に限定されない。本実施形態では、係合段部44aは、第1開口部42が設けられた端部側において、第1挟持部材51の表面と部分的に対向する環状の平面部によって構成されている。
【0074】
なお、本実施形態では、取付部44のシート体2の厚さ方向での長さとなる、係合段部44aから第1開口部42を有する挿通部4の端面4aまでの長さは、第1挟持部材51の厚さおよびシート体2の厚さ(後述する配置部25におけるシート体2の厚さ)の和よりも小さくなるように構成されている。この場合、シート体2が第1挟持部材51および第2挟持部材52に圧縮されて、シート体2と第1挟持部材51、シート体2と第2挟持部材52との間に隙間が生じることが抑制され、液密にシート体2を挿通部4に接続することができる。
【0075】
挿通部4は、図15に示されるように、挟持部5が固定される固定部45を有している。本実施形態では、固定部45は、挿通部4の第1開口部42が設けられた端部(本実施形態では端面4a)に設けられる。挿通部4と挟持部5との間の固定手段は、シート体2が挟持部5によって挟持された状態で、挿通部4に挟持部5を固定することができれば、特に限定されない。本実施形態では、挿通部4と挟持部5との間の固定手段は、ネジやボルト等の締結部材SCであり、固定部45は、締結部材SCを締結できるように構成されている。本実施形態では、固定部45は、挿通部4の第1開口部42が設けられた端面4aに設けられたネジ穴である。第2挟持部材52を通して締結部材SCが締結されると、第2挟持部材52が第1挟持部材51に近付く方向に移動して、シート体2が圧縮されて挟み込まれた状態で、挟持部5が挿通部4に固定される。シート体2が挟持部5に挟持された状態で挿通部4に固定されることで、シート体2を均一に圧縮することができ、挿通部4とシート体2との間の隙間が生じるのを抑制し、シート体2の開口縁21a側の領域(配置部25)の剛性を高めることができ、挿通部4からのシート体2の抜けを防止できる。
【0076】
挟持部5は、図14図16および図17に示されるように、シート体2の開口周辺部分をシート体2の厚さ方向で挟み込む。また、挟持部5は、図16に示されるように、挿通部4に固定され、挟み込んだシート体2を挿通部4に対して間接的に固定する。挟持部5は、本実施形態では、図14図17に示されるように、シート体2の開口周辺部において、シート体2の一方の面2aに接触する環状の第1挟持部材51と、シート体2の開口周辺部において、シート体2の他方の面2bに接触する環状の第2挟持部材52とを備えている。
【0077】
第1挟持部材51は、第2挟持部材52とともにシート体2を挟み込む。第1挟持部材51の一方の面は、挿通部4の係合段部44aに接触して係合し、第1挟持部材51の他方の面は、シート体2の一方の面2aに接触する。第1挟持部材51は、シート体2よりも高い所定の剛性を有する硬質の生体適合性材料によって構成され、図14図16および図17に示されるように、挿通部4(取付部44)の周囲を取り囲むように配置される。
【0078】
第1挟持部材51を構成する材料は、生体適合性を有し、シート体2よりも高い所定の剛性を有していれば特に限定されない。例えば、第1挟持部材51の材料として、チタンやチタン合金等、生体適合性を有し、耐食性の高い金属材料が用いられる。第1挟持部材51の材料として、チタンやチタン合金が用いられる場合、シート体2よりも細菌が繁殖しにくく、第1挟持部材51に沿って、生体内に向かう細菌の侵入を抑制することができる。より具体的には、挿通部4の外面から第1挟持部材51の表面に到達した細菌は、チタンやチタン合金製の表面を伝って繁殖しにくい。また、第1挟持部材51の表面を伝って細菌がシート体2に向かって(図17において右側)繁殖するとしても、シート体2の表面において細胞の成長が促進されているので、細胞の成長によって細菌のさらなる繁殖を抑制する。また、シート体2の他方の面2bに向かう経路(対向する部材間の隙間による経路)は、糸状体3が貫通する貫通孔23、51a等を除き、取付部44や配置部25が段差状に入り組んで設けられていることによって、迂回した経路を構成している。したがって、細菌が繁殖しにくいうえ、シート体2の他方の面2b側に細菌が到達しにくい。したがって、切開箇所(対象部位)の治癒が促進される。
【0079】
第1挟持部材51の形状は、挿通部4に取り付け可能であり、第2挟持部材52とともにシート体2を挟み込むことができれば、特に限定されない。本実施形態では、第1挟持部材51は、図13図18および図19に示されるように、内側に空間を有する略楕円形(または略長円形)に形成されている。また、第1挟持部材51は、一方の面および他方の面を有する薄板状に形成されている。第1挟持部材51は、図18および図19に示されるように、第1挟持部材51の周方向に沿って、固定糸状体33を縫い付けるために予め形成された複数の貫通孔51aを有している。
【0080】
第1挟持部材51は、図17および図18に示されるように、シート体2の開口周辺部に設けられた配置部25に配置される。シート体2の配置部25は、開口21の開口縁21aとシート体2の外周縁22とを結ぶ方向での第1挟持部材51の幅に対応した幅で設けられている。これにより、図17および図18に示されるように、第1挟持部材51とシート体2の開口縁21aとが一致して、挿通部4の取付部44に対して隙間なく取り付けることができる。また、配置部25におけるシート体2の厚さは、配置部25の外側(シート体2の外周縁22側)におけるシート体2の厚さよりも薄くなるように構成されている。本実施形態では、シート体2の配置部25以外の部分でのシート体2の厚さと、配置部25におけるシート体2の厚さとの差が、第1挟持部材51の厚さに対応している。
【0081】
第2挟持部材52は、第1挟持部材51とともにシート体2を挟み込む。第2挟持部材52は、図16に示されるように、挿通部4に固定される。これにより、第1挟持部材51および第2挟持部材52に挟み込まれたシート体2が挿通部4に対して間接的に固定される。本実施形態では、第2挟持部材52は、挿通部4に対して、シート体2の厚さ方向で第1挟持部材51に近付く方向に移動するように締結されることで、シート体2および第1挟持部材51が、係合段部44aと第2挟持部材52との間で圧縮して挟み込まれている。これにより、シート体2が、第1挟持部材51および第2挟持部材52を介して、挿通部4に安定して固定される。したがって、シート体2が生体の対象部位に固定されたときに、挿通部4がシート体2に対して所定の角度で維持されやすくなる。
【0082】
第2挟持部材52を構成する材料は、生体適合性を有し、シート体2よりも高い所定の剛性を有していれば特に限定されない。例えば、第2挟持部材52の材料として、チタンやチタン合金等、生体適合性を有し、耐食性の高い金属材料が用いられる。
【0083】
第2挟持部材52の形状は、挿通部4に固定可能であり、第1挟持部材51とともにシート体2を挟み込むことができれば、特に限定されない。本実施形態では、第2挟持部材52は、図18および図22に示されるように、内側に空間を有する略楕円形(または略長円形)に形成されている。また、第2挟持部材52は、一方の面および他方の面を有する薄板状に形成されている。第2挟持部材52は、図22に示されるように、第2挟持部材52の周方向に沿って、固定糸状体33を縫い付けるために予め形成された複数の貫通孔52aを有している。第2挟持部材52の貫通孔52aは、第1挟持部材51の貫通孔51aの位置に対応した位置に設けられている。また、第2挟持部材52は、図22に示されるように、ネジやボルト等の締結部材SCを挿入するための挿入部52bを有している。本実施形態では、複数の挿入部52bが、第2挟持部材52の環状部分に対して内側に向かって突出している。後述するように、挿通部4の取付部44にシート体2および第1挟持部材51が取り付けられた状態で、第2挟持部材52が、挿入部52bに挿入された締結部材SCによって挿通部4に固定される。これにより、第2挟持部材52のシート体2の他方の面2bに対向する面が、シート体2を第1挟持部材51に向かって押圧して、シート体2が圧縮されて挟持部5に保持される。
【0084】
固定構造1は、図16図17および図23に示されるように、シート体2と挟持部5とを固定するように、シート体2に縫い付けられた糸状体によって構成された固定糸状体33を有している。固定糸状体33は、シート体2が、シート体2の延在方向での、挿通部材ISが挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、シート体2の表面に縫い付けられている。固定糸状体33が、上述したように対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成することによって、固定構造1が対象部位(壁状の組織T)に設けられたときに、壁状の組織Tの一部が、凹凸構造の凹部に入り込む。したがって、シート体2と壁状の組織Tとが、シート体2の表面に平行なシート体2の延在方向で相対移動することが抑制される。したがって、シート体2を皮膚等の対象部位に対して縫合することなく、対象部位に対する位置ズレを抑制することができる。よって、簡単な施術で固定構造1を対象部位に対して早期固定することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、固定構造1は、固定糸状体33以外に、シート体側糸状体34を有しているが、シート体側糸状体34を有さずに、固定糸状体33のみを有していてもよい。また、固定構造1は、固定糸状体33を有さずに、シート体側糸状体34のみを有していてもよい。
【0086】
固定糸状体33を構成する糸状体は、第1実施形態と同様の糸状体とすることができる。固定糸状体33は、シート体2と挟持部5とを固定するために、シート体2および挟持部5に縫い付けられる。本実施形態では、図17に示されるように、固定糸状体33の外端33aが、シート体2の配置部25よりも外側に位置するシート体2の貫通孔23に挿通しており、固定糸状体33の内端33bが、シート体2に設けられた貫通孔23および挟持部5に設けられた貫通孔51a、52aに挿通しており、固定糸状体33がシート体2に縫い付けられている。なお、固定糸状体33が挿通される貫通孔23は、固定糸状体33が挿通することができればよく、固定糸状体33を縫い付ける縫い針によってシート体2に縫い付ける際に形成したり、予めシート体2に貫通孔23を形成したりすることができる。また、固定糸状体33が挿通される貫通孔23は、糸状体のサイズやシート体のサイズに応じて、シート体側糸状体34と共通の貫通孔としてもよく、別の貫通孔としてもよい。固定糸状体33を縫い付ける縫い針によってシート体2に縫い付ける際に形成することによって、あらかじめシート体2へ貫通孔を形成する必要が無いため、容易に形成することができる。
【0087】
固定糸状体33は、図17および図23に示されるように、放射状に縫い付けられている。固定糸状体33の放射方向での長さは特に限定されない。固定糸状体33は、例えば、固定糸状体33の外端33aが、シート体2の開口縁21aから、開口縁21aと外周縁22との間の距離の50%までの領域(例えば、20~50%の領域)に位置するように縫い付けられることが好ましい。固定糸状体33は、シート体2に縫い付けられたシート体側糸状体34を跨ぐように(シート体側糸状体34に重なるように)縫い付けられていることが好ましい。この場合、固定糸状体33が、シート体側糸状体34の上を通るので、固定糸状体33およびシート体側糸状体34による凹凸構造のシート体2の表面からの高さが高くなる。したがって、固定構造1が壁状の組織Tに対して移動する際の抵抗がより大きくなる。よって、シート体2と壁状の組織Tとが、シート体2の表面に平行なシート体2の延在方向で相対移動することがさらに抑制される。また、固定糸状体33とシート体2の表面との間の微小な空間SP(図5参照)、シート体側糸状体34とシート体2の表面との間の微小な空間SP(図5参照)に加え、固定糸状体33とシート体側糸状体34との間にも微小な空間が生じる。したがって、これらの微小な空間に壁状の組織Tの細胞が入り込み、壁状の組織Tの切開部位における治癒が促進され、固定構造1の壁状の組織Tへの早期固定が可能となる。また、これらの微小な空間に壁状の組織Tの細胞が入り込むことで、入り込んだ細胞によって固定糸状体33およびシート体側糸状体34が拘束された状態となる。したがって、固定構造1全体が壁状の組織Tに対して相対移動しようとしても、微小な空間に入り込んだ細胞が固定糸状体33およびシート体側糸状体34に絡んで、固定構造1の壁状の組織Tに対する相対移動が抑制される。
【0088】
本実施形態では、図16図17図21および図23に示されるように、固定構造1がさらに、挟持部5の外側において、シート体2の延在方向での、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、シート体2の表面に縫い付けられたシート体側糸状体34を備えている。シート体側糸状体34は、第1~第5実施形態の糸状体3と同様に、対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成する。これにより、固定構造1が対象部位(壁状の組織T)に設けられたときに、壁状の組織Tの一部が、凹凸構造の凹部に入り込む。したがって、シート体2と壁状の組織Tとが、シート体2の表面に平行なシート体2の延在方向で相対移動することが抑制される。したがって、シート体2を皮膚等の対象部位に対して縫合することなく、対象部位に対する位置ズレを抑制することができる。よって、簡単な施術で固定構造1を対象部位に対して早期固定することができる。シート体側糸状体34は、上述した第1~第5実施形態で説明した糸状体3または固定糸状体33と同様の糸状体を用いることができる。
【0089】
シート体側糸状体34は、本実施形態では、シート体2のみに縫合された糸状体であり、挟持部5(第1挟持部材51および第2挟持部材52)には縫合されていない。シート体側糸状体34の延び方向は、シート体側糸状体34が上述した凹凸構造を形成することができれば、特に限定されない。例えば、シート体側糸状体34は、放射方向に延びていてもよいし、周方向に延びていてもよいし、放射方向または周方向に対して傾斜して延びていてもよい。シート体2において、シート体側糸状体34が延在する領域は、シート体側糸状体34が上述した凹凸構造を形成することができれば、特に限定されない。例えば、シート体側糸状体34は、挟持部5の外側で、かつ、シート体2の開口縁21aから、開口縁21aと外周縁22との間の距離の50%までの領域(例えば、20~50%の領域)に延在するように縫い付けられていることが好ましい。また、シート体側糸状体34は、本実施形態では、後述する交差縫合部341(図23参照)として示されている。しかし、シート体側糸状体34は、図23に示される縫いパターンに限定されず、第1~第5実施形態において説明した糸状体3であってもよいし、他の縫いパターンであってもよい。
【0090】
本実施形態では、図23に示されるように、シート体側糸状体34がシート体2の厚さ方向で重なるように交差する交差縫合部341を有している。交差縫合部341は、異なる方向に延びる少なくとも2本の糸状体が互いに交差する構造を有する縫合部である。シート体側糸状体34が交差縫合部341を有している場合、互いに交差する糸状体の一方が、もう一方の糸状体に重なって乗り上げる。したがって、交差縫合部341の交差部分において、シート体2の表面に対して垂直な方向(シート体2の厚さ方向)で、交差縫合部341によって形成された凹凸構造の高さが高くなる。したがって、固定構造1が生体の対象部位に配置されたときに、固定構造1による生体の対象部位との間の摩擦力をより高くすることができ、固定構造1の、皮膚等の対象部位に対するズレをさらに抑制することができる。また、交差縫合部341において互いに交差する糸状体の間に微小な空間が生じる。したがって、固定構造1はより複雑な立体構造を形成し、細胞が入り込んで、定着しやすくなる。
【0091】
本実施形態では、交差縫合部341は、図23に示されるように、シート体2の内側から外側に向かって、放射方向に対してわずかに傾斜して延びる2つの糸状体部分が互いに交差することで形成されている。しかし、交差縫合部341は、シート体2の厚さ方向で重なるように交差するのであれば、交差縫合部341の糸状体が延びる方向は特に限定されない。例えば、交差縫合部は、放射方向に延びる糸状体と、周方向に延びる糸状体とが互いに十字状に交差するように構成されていてもよい。また、交差縫合部は、3つ以上の糸状体が互いに交差するものであってもよい。
【0092】
なお、図23や、後述する実施形態に関する図24図28において、糸状体(固定糸状体33、シート体側糸状体34)を簡略化して線で示しているが、実際には、糸状体は所定の太さを有しており、貫通孔23、51a、52aと糸状体との間には、第1実施形態において説明したように、わずかなクリアランスしか形成されていない(図6のクリアランスCLに関する説明を参照)。
【0093】
なお、本実施形態における、固定構造1の製造方法は特に限定されないが、一例として、以下のように製造することができる。なお、以下の製造方法はあくまで一例であり、固定構造1の製造方法は限定されず、本発明が以下の説明によって限定されるものではない。
【0094】
まず、シート体2に、シート体側糸状体34を縫い付けて、図21に示されるように、交差縫合部341等の縫い付け構造を形成する。シート体側糸状体34が縫い付けられた状態のシート体2の配置部25に第1挟持部材51が配置された状態で、シート体2および第1挟持部材51が、挿通部4の一端側から挿通部4の取付部44に配置される。次に、シート体2の開口縁21aに沿うように、第2挟持部材52がシート体2の他方の面2b側に配置される。この状態で、第2挟持部材52が締結部材SCによって挿通部4の固定部45に締結される。次に、固定糸状体33が、シート体2、第1挟持部材51および第2挟持部材52に、シート体2の周方向全体に亘って縫い付けられる。これにより、シート体2と挟持部5とが安定して固定される。また、第2挟持部材52は挿通部4に対して固定されているので、シート体2、挟持部5および挿通部4が互いに固定され、シート体2が挿通部4に対して安定して保持される。なお、固定糸状体33は、第2挟持部材52が挿通部4の固定部45に締結される前に、シート体2、第1挟持部材51および第2挟持部材52に縫い付けられてもよい。
【0095】
<第7実施形態>
第7実施形態は、図24に示されるように、補助縫合部342が設けられている点で、第6実施形態と異なり、補助縫合部342が設けられている以外の構成は、第6実施形態と同様である。なお、以下で説明する構成は、他の実施形態においても適用することができ、他の実施形態の構成を本実施形態に適用することもできる。
【0096】
本実施形態では、シート体側糸状体34は、図24に示されるように、交差縫合部341に加えて、開口21の開口縁21aとシート体2の外周縁22とを結ぶ方向での、交差縫合部341の中央部分(交差部分341aを含む放射方向の所定の領域)から内端341bまでの間の領域で、シート体2の周方向で交差縫合部341に隣接して設けられた補助縫合部342とを備えている。
【0097】
補助縫合部342は、交差縫合部341によって構成される凹凸構造を補強するように、シート体2に補助的に設けられる縫合部である。補助縫合部342の構造は、交差縫合部341によって構成される凹凸構造を補強することができれば、特に限定されない。本実施形態では、補助縫合部342は、放射状に延びる直線状の縫合部として示されている。しかし、補助縫合部は、周方向に延びていてもよいし、直線状ではなく、ジグザグ状に延びていてもよい。また、補助縫合部342は、図25に示されるように、シート体2の厚さ方向で重なるように交差していてもよい。
【0098】
本実施形態では、上述したように、補助縫合部342が、交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域に設けられている。これにより、交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域で、交差縫合部341および補助縫合部342によって、糸状体を密な状態とすることができる。したがって、シート体2の剛性が、交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域で高くなる。これにより、固定構造1は交差縫合部341の内端341b側で変形しにくくなる。したがって、上述したように、固定構造1に挿通された挿通部材ISを対象部位(壁状の組織T)に対して所定の角度に維持することができる。したがって、固定構造1が変形したり、壁状の組織Tに対して傾いたりすることで、固定構造1と壁状の組織Tとの間で成長した細胞が剥がれてしまうことが抑制される。そのため、細胞の成長が阻害されず、交差縫合部341の内端341b側での細胞の繁殖が活発となり、切開部位の治癒が促進されるとともに、ダウングロースを抑制することができる。なお、交差縫合部341の内端341bは、シート体2の表面(一方の面2a)における挟持部5(第1挟持部材51)の外周に放射方向で隣接した位置(限定されないが、例えば、第1挟持部材51の外周から、開口縁21aと外周縁22との間の距離の20%以内の範囲)に設けられている。また、交差縫合部341の中央部分(交差部分341a)は、限定されないが、例えば、第1挟持部材51の外周から、開口縁21aと外周縁22との間の距離の30~50%以内の範囲に設けられる。
【0099】
また、シート体2の剛性が、交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域で高くなることで、シート体2の、交差縫合部341の内端341bが設けられた、挟持部5(第1挟持部材51)の外周に放射方向で隣接した部分において、シート体2が折れ曲がりにくくなる。したがって、固定構造1の生体に対する定着部分(フランジ状の部分)に薄くて柔軟なシート体2を用いたとしても、所定の大きさ・重量を有する挿通部4および挿通部材ISを所定の角度で安定して支持することが可能となる。なお、補助縫合部342が設けられる、「交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域」という記載は、中央部分から内端341bまでの間のいずれかの領域をいう。したがって、補助縫合部342は、交差縫合部341の内端341bに対応する領域に設けられずに交差縫合部341の中央部分に対応する領域だけに設けられていてもよいし、中央部分に対応する領域に設けられずに内端341bに対応する領域だけに設けられていてもよいし、中央部分から内端341bまでに対応する領域全体に亘って設けられていてもよい。
【0100】
また、本実施形態では、補助縫合部342の外端342aは、図24および図25に示されるように、交差縫合部341の外端341cに対して内側に位置するように設けられている。これにより、交差縫合部341および補助縫合部342によって、シート体2に設けられたシート体側糸状体34は、内側から外側に向かって密から粗となる。したがって、上述したように、シート体2の剛性が急激に変化して局所的に応力が加わることが抑制され、シート体2が折れ曲がって、シート体2の表面と壁状の組織Tの細胞とが固定されていた部分が剥離したりして、切開部位の治癒が遅れることが抑制される。
【0101】
<第8実施形態>
第8実施形態は、図26および図27に示されるように、補助縫合部342が交差縫合部341に重なる位置に設けられている点で、第7実施形態と異なり、それ以外の構成は、第7実施形態と同様である。なお、以下で説明する構成は、他の実施形態においても適用することができ、他の実施形態の構成を本実施形態に適用することもできる。
【0102】
図26および図27に示されるように、本実施形態では、補助縫合部342が、交差縫合部341の中央部分から内端341bまでの間の領域で、交差縫合部341に重なる位置に設けられている。交差縫合部341と補助縫合部342とが重なって設けられる場合、交差縫合部341の糸状体と補助縫合部342の糸状体とが重なった部分でシート体2の厚さ方向での高さが高くなる。具体的には、交差縫合部341の糸状体同士の交差に加え、交差縫合部341の糸状体と、補助縫合部342の糸状体とが交差する。したがって、交差縫合部341の糸状体の交差部分、および、交差縫合部341の糸状体と補助縫合部342の糸状体との交差部分において、固定構造1による生体の対象部位との間の摩擦力をより高くすることができる。また、交差縫合部341の糸状体と補助縫合部342の糸状体との間の隙間にも微小な空間が生じ、より複雑な立体構造を形成し、細胞が入り込んで、定着しやすくなる。なお、補助縫合部342について、「交差縫合部341に重なる位置に設けられた」とは、交差縫合部341を構成する糸状体の一部と、補助縫合部342を構成する糸状体の一部とがいずれかの場所で交差するように重なって配置されていることを意味する。したがって、交差縫合部341の交差部分と、補助縫合部342の交差部分とがずれていてもよい。なお、本実施形態では、図26に示されるように、交差縫合部341の交差部分と、補助縫合部342の交差部分とが、シート体2の厚さ方向で重なっている。この場合、凹凸構造の高さがより高くなるので、固定構造1による生体の対象部位との間の摩擦力をさらに高くすることができる。また、交差縫合部341の交差部分と補助縫合部342の交差部分とが、より複雑な立体構造を形成し、その立体構造に細胞が入り込んで、定着しやすくなる。
【0103】
<第9実施形態>
第9実施形態では、図28に示されるように、補助縫合部342が設けられている領域が、交差縫合部341の外端341c側の領域である点で、第8実施形態と異なり、それ以外の構成は、第8実施形態と同様である。なお、以下で説明する構成は、他の実施形態においても適用することができ、他の実施形態の構成を本実施形態に適用することもできる。
【0104】
本実施形態では、図28に示されるように、補助縫合部342が、交差縫合部341の外端341c側の領域で、交差縫合部341に重なる位置に設けられている。補助縫合部342が、交差縫合部341の外端341c側に設けられている場合、交差構造を有する領域が増えるため、より細胞が浸入しやすくなり、位置ずれを抑制することができるという効果がある。さらに、第1挟持部材51に厚みがある場合は、第1挟持部材51とシート体2との剛性の差をより少なくすることができる。
【0105】
なお、図28においては、補助縫合部342は、交差縫合部341に重なる位置に設けられているが、変形例として、補助縫合部は、交差縫合部341の外端341c側の領域で、シート体2の周方向で交差縫合部341に隣接して設けられていてもよい。
【0106】
なお、上述した実施形態は、あくまで一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、糸状体の縫いパターンは、周方向で一様であってもよいし、周方向で、異なる縫いパターンに切り替えられてもよい。また、糸状体の外端および/または内端の位置は、周方向で変化していてもよい。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0108】
(1)生体内から生体外に導出される挿通部材が挿通可能な開口を有し、生体親和性を有する非吸収性材料によって構成された多孔性のシート体と、
前記挿通部材を生体内から生体外に案内する挿通路を有する筒状の挿通部と、
前記シート体の開口周辺部分を前記シート体の厚さ方向で挟持するとともに、前記挿通部に固定される挟持部と、
前記シート体と前記挟持部とを固定するように、前記シート体に縫い付けられた糸状体によって構成された固定糸状体と
を有し、
前記固定糸状体は、前記シート体の延在方向での、前記挿通部材が挿通される生体の対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、前記シート体の表面に縫い付けられている、固定構造。
【0109】
(2)前記固定構造がさらに、
前記挟持部の外側において、前記シート体の延在方向での、前記対象部位に対する相対移動の抵抗となる凹凸構造を形成するように、前記シート体の表面に縫い付けられたシート体側糸状体を備えている、(1)に記載の固定構造。
【0110】
(3)前記シート体側糸状体が前記シート体の厚さ方向で重なるように交差する交差縫合部を有している、(1)または(2)に記載の固定構造。
【0111】
(4)前記シート体側糸状体が、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での、前記交差縫合部の中央部分から内端までの間の領域で、前記シート体の周方向で前記交差縫合部に隣接して、または、前記交差縫合部に重なる位置に設けられた補助縫合部を備えている、(1)~(3)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0112】
(5)前記補助縫合部の外端が、前記交差縫合部の外端に対して内側に位置するように設けられている、(1)~(4)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0113】
(6)前記補助縫合部が、前記シート体の厚さ方向で重なるように交差している、(1)~(5)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0114】
(7)前記交差縫合部の交差部分と、前記補助縫合部の交差部分とが、前記シート体の厚さ方向で重なっている、(1)~(6)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0115】
(8)前記シート体側糸状体が、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での、前記交差縫合部の外端側の領域で、前記シート体の周方向で前記交差縫合部に隣接して、または、前記交差縫合部に重なる位置に設けられた補助縫合部を備えている、(1)~(7)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0116】
(9)前記補助縫合部が、前記シート体の厚さ方向で重なるように交差している、(1)~(8)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0117】
(10)前記挟持部が、前記シート体の開口周辺部において、前記シート体の一方の面に接触する環状の第1挟持部材と、前記シート体の開口周辺部において、前記シート体の他方の面に接触する環状の第2挟持部材とを備え、
前記第1挟持部材は、前記シート体よりも高い所定の剛性を有する硬質の生体適合性材料によって構成され、前記挿通部の周囲を取り囲むように配置され、
前記第2挟持部材は、前記挿通部に固定されている、(1)~(9)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0118】
(11)前記挿通部は、前記シート体の開口周辺部および前記第1挟持部材の内周側の部分が取り付けられる取付部を有し、
前記取付部は、前記第1挟持部材の前記シート体と接触する面とは反対側の面と、前記シート体の厚さ方向で係合するように構成された係合段部を有し、
前記第2挟持部材が、前記挿通部に対して、前記シート体の厚さ方向で前記第1挟持部材に近付く方向に移動するように締結されることで、前記シート体および前記第1挟持部材が、前記係合段部と前記第2挟持部材との間で圧縮して挟み込まれている、(1)~(10)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0119】
(12)前記シート体が、前記開口周辺部に前記第1挟持部材を配置するための配置部を有し、配置部は、前記開口の開口縁と前記シート体の外周縁とを結ぶ方向での前記第1挟持部材の幅に対応した幅で設けられ、前記配置部におけるシート体の厚さは、前記配置部の外側におけるシート体の厚さよりも薄くなるように構成されている、(1)~(11)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0120】
(13)シート体側糸状体は、前記シート体の開口周辺の中央領域側から前記シート体の外周縁側に向かって密から粗となるように前記シート体に縫い付けられている、(1)~(12)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0121】
(14)前記糸状体は、前記シート体の前記開口と前記外周縁とを結ぶ方向となる放射方向に延びる複数の放射状縫合部を有している、(1)~(13)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0122】
(15)前記放射状縫合部は、前記開口から前記外周縁には到達しない長さで放射方向に延びている、(1)~(14)のいずれか1つに記載の固定構造。
【0123】
(16)前記放射状縫合部は、前記開口から放射方向に所定の長さで延びる複数の第1放射状縫合部と、前記開口から放射方向に前記第1放射状縫合部の長さよりも短い長さで延びる複数の第2放射状縫合部とを有している、(1)~(15)のいずれか1つに記載の固定構造。
【符号の説明】
【0124】
1 固定構造
2 シート体
2a シート体の一方の面
2b シート体の他方の面
21 シート体の開口
21a 開口縁
22 シート体の外周縁
23 貫通孔
24 非縫合部
25 配置部
3 糸状体
31 放射状縫合部
311 第1放射状縫合部
311a 第1放射状縫合部の外端
311b 第1放射状縫合部の内端
312 第2放射状縫合部
312a 第2放射状縫合部の外端
312b 第2放射状縫合部の内端
313 第3放射状縫合部
313a 第3放射状縫合部の外端
313b 第3放射状縫合部の内端
32 周方向縫合部
33 固定糸状体
33a 固定糸状体の外端
33b 固定糸状体の内端
34 シート体側糸状体
341 交差縫合部
341a 交差縫合部の交差部分
341b 交差縫合部の内端
341c 交差縫合部の外端
342 補助縫合部
342a 補助縫合部の外端
4 挿通部
4a 挿通部の端面
41 挿通路
42 第1開口部
43 第2開口部
44 取付部
44a 係合段部
45 固定部
5 挟持部
51 第1挟持部材
51a 貫通孔
52 第2挟持部材
52a 貫通孔
52b 挿入部
C 接続部材
C1 第1接続部材
C2 第2接続部材
CL シート体の内周と糸状体との間のクリアランス
D 固定装置
IS 挿通部材
Ra 中央領域(第1領域)
Rb 周縁領域(第4領域)
Rc 中間領域
Rc1 第1中間領域(第2領域)
Rc2 第2中間領域(第3領域)
SC 締結部材
SP 微小な空間
T 壁状の組織
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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