(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163881
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】異種金属材の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/02 20060101AFI20231102BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20231102BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B23K9/02 M
B23K9/007
B23K9/235 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075087
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001CA00
4E001CB01
4E001DG01
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA16
4E081BA40
(57)【要約】
【課題】シール剤が溶接金属を形成する領域に侵入することを防止することができるとともに、接合後に水分の侵入を防止することができ、これにより、溶接不良の発生及び溶接部における腐食を防止し、接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法を提供する。
【解決手段】異種金属材の接合方法は、下板1の上に上板2を配置する工程の前に、少なくとも上板2に設けられた第1の貫通穴2aを囲むように、下板1から離隔する形状の凹部21を上板2に形成する工程と、少なくとも第1の貫通穴2aを囲むように、上板2における下板1に対向する面、及び下板1における上板2に対向する面の少なくとも一方の面にシール剤3を塗布する工程と、を有し、シール剤3を塗布する領域は、凹部21の内壁面、及び下板1における、凹部21に対向する領域を除き、凹部21に対して第1の貫通穴2aから離隔する領域とする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下板と、前記下板の厚さ方向に直交する面上に、前記下板と異なる材質からなり、第1の貫通穴を有する上板を配置する工程と、
アークスポット溶接により、前記第1の貫通穴を介して前記下板の一部を溶融させるとともに、前記下板と等しい主成分を有する溶接金属を形成する工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
前記上板を配置する工程の前に、少なくとも前記第1の貫通穴を囲むように、前記下板から離隔する形状の凹部を前記上板に形成する工程と、
少なくとも前記第1の貫通穴を囲むように、前記上板における前記下板に対向する面、及び前記下板における前記上板に対向する面の少なくとも一方の面にシール剤を塗布する工程と、を有し、
前記シール剤を塗布する領域は、前記凹部の内壁面、及び前記下板における、前記凹部に対向する領域を除き、前記凹部に対して前記第1の貫通穴から離隔する領域であることを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【請求項2】
前記溶接金属を形成する工程において、前記第1の貫通穴を充填するとともに、前記上板の上面に前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する余盛を形成し、前記下板と前記上板とを接合することを特徴とする、請求項1に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項3】
前記溶接金属を形成する工程の前に、
第2の貫通穴を有するエレメントを前記第1の貫通穴に挿入する工程を有し、
前記エレメントは、前記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され前記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、前記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
前記溶接金属を形成する工程において、前記下板の一部及び前記エレメントの少なくとも一部を溶融させるとともに、前記第2の貫通穴を充填する溶接金属を形成する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項4】
前記凹部は、前記第1の貫通穴側となる穴側壁部と、前記穴側壁部に対向する側となるシール剤側壁部とを有し、
前記凹部を前記上板に形成する工程において、前記穴側壁部の方が、前記シール剤側壁部よりも高くなるように前記凹部を形成することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項5】
前記シール剤を塗布する面は、前記上板における前記下板に対向する面とすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項6】
前記下板を、アルミニウム又はアルミニウム合金板、及び鋼板のうちいずれか一方とし、前記上板を、他方とすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる材料からなる板材を高強度で接合することができる異種金属材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。以下、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金を、単に、アルミニウム合金、マグネシウム合金ということがある。
【0003】
ところで、鋼と上記軽量素材を組み合わせて接合した場合に、異種金属の接触領域に、ガルバニック腐食と呼ばれる腐食が発生することが知られている。例えば、自然電位が低いアルミニウム合金材と、自然電位が高い鋼材とを水中で接触させると、腐食回路が形成され、アルミニウム合金材に腐食が発生する。この腐食回路は、アルミニウム合金と鋼とを通電させる媒体、すなわち、水が存在することにより形成される。
【0004】
そこで、上記のような異種金属材料の接触による腐食を防止する方法としては、以下に示す(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)異種金属材の接触領域への水の侵入を防止する。
(2)異種金属間の電位差を小さくする。
(3)通電経路を遮断する。
【0005】
上記腐食を防止する(1)~(3)の方法のうち、(1)異種金属材の接触領域への水の侵入を防止する方法として、例えば、接触領域の周囲に、浸水防止用のシール剤を配置する方法が挙げられる。
【0006】
図9A~
図9Cは、板材の間にシール剤を配置したアークスポット溶接方法を工程順に示す断面図である。
図9Aに示すように、下板となるアルミニウム合金板52の表面に、2枚の板材の接合予定位置を囲むようにシール剤53を配置する。次に、上板として、接合予定位置に貫通穴51aを設けた鋼板51を準備し、貫通穴51aとアルミニウム合金板52における接合予定位置とが重なるように鋼板51を位置決めする。
その後、
図9Bに示すように、鋼板51をアルミニウム合金板52の上面に配置する。
その後、
図9Cに示すように、鋼板51をアルミニウム合金板52に向けて押圧し、シール剤53をアルミニウム合金板52と鋼板51に密着させる。その後、図示は省略するが、貫通穴51aを介してアーク溶接を実施し、アルミニウム合金板52の一部を溶融させるとともに、貫通穴51aを充填する溶接金属を形成し、さらに鋼板51の上面に余盛を形成することにより、アルミニウム合金板52と鋼板51とを接合する。
【0007】
上記
図9A~
図9Cは、エレメントを使用しないアークスポット溶接方法の一例であるが、エレメントを使用したアークスポット溶接においても、同様に2枚の板材の間にシール剤を配置することができる。
【0008】
図10A~
図10Cは、板材の間にシール剤を配置したエレメントアークスポット溶接方法を工程順に示す断面図である。
図10Aに示すように、下板となる鋼板61の表面に、2枚の板材の接合位置を囲むようにシール剤53を配置する。次に、上板として、接合予定位置に貫通穴62aを設けたアルミニウム合金板62を準備し、貫通穴62aと鋼板61における接合予定位置とが重なるようにアルミニウム合金板62を位置決めする。また、アルミニウム合金板62の貫通穴62aに、この貫通穴62aと同一方向に貫通穴64aを有するエレメント64を挿入する。なお、エレメント64の上部には、アルミニウム合金板62の貫通穴62aの径よりも大きい外径を有する頭部が形成されている
その後、
図10Bに示すように、アルミニウム合金板62を鋼板61の上面に配置する。
その後、
図10Cに示すように、アルミニウム合金板62を鋼板61に向けて押圧し、シール剤53を鋼板61とアルミニウム合金板62に密着させる。その後、図示は省略するが、エレメント64の貫通穴64aを介してアーク溶接を実施し、鋼板61の一部及びエレメント64の一部を溶融させるとともに、エレメント64の貫通穴64aを充填する溶接金属を形成することにより、鋼板61とアルミニウム合金板62とを接合する。
【0009】
上記のような接合方法によると、上板と下板との間に水分が侵入することを防止することができるが、シール剤53の使用量、上板の下板に対する押圧力等によって、シール剤53が接合予定位置に侵入することがある。
図10A~
図10Cに示すエレメントアーク溶接を例に挙げると、接合予定位置にシール剤53が存在した状態でアーク溶接を実施した場合に、
図11に示すように、シール剤53が揮発することにより、溶接金属65にブローホール68が形成され、溶接不良が発生する。
【0010】
なお、シール剤を使用して異種金属材を重ね溶接する接合方法については、例えば、特許文献1に開示されている。上記特許文献1には、接合予定部位を囲繞する凹部又は凸部を両材料の少なくとも一方の接合面に形成すると共に、重ね合わせた両材料の間に、接合予定部位を囲んでシール材を配置した状態で溶接する接合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載の接合方法によると、鋼板とアルミニウム合金板とを、例えば、抵抗スポット溶接又は抵抗シーム溶接により接合しているため、両板材の溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃に対する強度が極めて低いという問題点がある。
【0013】
また、従来の接合方法では、両板の間の溶接部にシール剤が侵入することを十分に抑制することができず、アーク溶接による接合方法を上記特許文献1に記載の接合方法に適用した場合に、
図11で示すように、シール剤の存在により溶接不良が発生することがある。その結果、接合強度が低下する。
【0014】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたものであって、互いに異なる材質からなる板材をアーク溶接により接合する際に、シール剤が溶接金属を形成する領域に侵入することを防止することができるとともに、接合後に水分の侵入を防止することができ、これにより、溶接不良の発生及び溶接部における腐食を防止し、接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、異種金属材の接合方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0016】
[1] 下板と、前記下板の厚さ方向に直交する面上に、前記下板と異なる材質からなり、第1の貫通穴を有する上板を配置する工程と、
アークスポット溶接により、前記第1の貫通穴を介して前記下板の一部を溶融させるとともに、前記下板と等しい主成分を有する溶接金属を形成する工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
前記上板を配置する工程の前に、少なくとも前記第1の貫通穴を囲むように、前記下板から離隔する形状の凹部を前記上板に形成する工程と、
少なくとも前記第1の貫通穴を囲むように、前記上板における前記下板に対向する面、及び前記下板における前記上板に対向する面の少なくとも一方の面にシール剤を塗布する工程と、を有し、
前記シール剤を塗布する領域は、前記凹部の内壁面、及び前記下板における、前記凹部に対向する領域を除き、前記凹部に対して前記第1の貫通穴から離隔する領域であることを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【0017】
また、異種金属材の接合方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[6]に関する。
【0018】
[2] 前記溶接金属を形成する工程において、前記第1の貫通穴を充填するとともに、前記上板の上面に前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する余盛を形成し、前記下板と前記上板とを接合することを特徴とする、[1]に記載の異種金属材の接合方法。
【0019】
[3] 前記溶接金属を形成する工程の前に、
第2の貫通穴を有するエレメントを前記第1の貫通穴に挿入する工程を有し、
前記エレメントは、前記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され前記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、前記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
前記溶接金属を形成する工程において、前記下板の一部及び前記エレメントの少なくとも一部を溶融させるとともに、前記第2の貫通穴を充填する溶接金属を形成する工程を有することを特徴とする、[1]に記載の異種金属材の接合方法。
【0020】
[4] 前記凹部は、前記第1の貫通穴側となる穴側壁部と、前記穴側壁部に対向する側となるシール剤側壁部とを有し、
前記凹部を前記上板に形成する工程において、前記穴側壁部の方が、前記シール剤側壁部よりも高くなるように前記凹部を形成することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0021】
[5] 前記シール剤を塗布する面は、前記上板における前記下板に対向する面とすることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0022】
[6] 前記下板を、アルミニウム又はアルミニウム合金板、及び鋼板のうちいずれか一方とし、前記上板を、他方とすることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、互いに異なる材質からなる板材をアーク溶接により接合する際に、シール剤が溶接金属を形成する領域に侵入することを防止することができるとともに、接合後に水分の侵入を防止することができ、これにより、溶接不良の発生及び溶接部における腐食を防止し、接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図1Aの次工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図1Bの次工程を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法により接合された継手を示す図面代用写真である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図3Aの次工程を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図4Aの次工程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法において使用されるアルミニウム合金板の形状を示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られた継手を示す断面図である。
【
図7A】
図7Aは、第1の実施形態に適用することができるアルミニウム合金板の形状を示す平面図である。
【
図7C】
図7Cは、第1の実施形態に適用することができるアルミニウム合金板の形状を示す斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、断面形状がハット型である鋼板を使用し、第4の実施形態を適用して得られた継手を示す上面図である。
【
図8C】
図8Cは、断面形状がハット型である鋼板を使用し、第4の実施形態を適用して得られた継手を示す斜視図である。
【
図9A】
図9Aは、板材の間にシール剤を配置したアークスポット溶接方法を工程順に示す断面図である。
【
図9B】
図9Bは、板材の間にシール剤を配置したアークスポット溶接方法を示す図であり、
図9Aの次工程を示す断面図である。
【
図9C】
図9Cは、板材の間にシール剤を配置したアークスポット溶接方法を示す図であり、
図9Bの次工程を示す断面図である。
【
図10A】
図10Aは、板材の間にシール剤を配置したエレメントアークスポット溶接方法を工程順に示す断面図である。
【
図10B】
図10Bは、板材の間にシール剤を配置したエレメントアークスポット溶接方法を示す図であり、
図10Aの次工程を示す断面図である。
【
図10C】
図10Cは、板材の間にシール剤を配置したエレメントアークスポット溶接方法を示す図であり、
図10Bの次工程を示す断面図である。
【
図11】
図11は、従来のエレメントアークスポット溶接方法により得られた継手の様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0026】
[異種金属材の接合方法]
本発明者は、異種金属材をアークスポット溶接により接合する際に、溶接部への水分の侵入を防止するシール剤が溶接金属を形成する領域に侵入しないようにするために、鋭意検討を行った。その結果、上板に設けた貫通穴を囲むように、シール剤を留めることができる凹部を設け、この凹部よりも外側の領域にシール剤を塗布することが効果的であることを見出した。以下、本実施形態に係る異種金属材の接合方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
<第1の実施形態>
図1A~
図1Cは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。また、
図2は、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法により接合された継手を示す図面代用写真である。本実施形態は、鋼板(下板)1と、アルミニウム合金板(上板)2とをエレメントアークスポット溶接により接合する方法である。
【0028】
図1Aに示すように、アルミニウム合金板2の鋼板1との接合予定位置に、円筒形状の第1の貫通穴2aを形成するとともに、第1の貫通穴2aを囲むように、プレス加工により凹部21を形成する。凹部21は、鋼板1の上面にアルミニウム合金板2を配置した際に、アルミニウム合金板2から離隔する方向に窪んだ形状となっている。したがって、鋼板1の上面にアルミニウム合金板2を配置した際に、凹部21が形成されている箇所に隙間22が形成される。
【0029】
次に、凹部21よりも外側、すなわち凹部21に対して、第1の貫通穴2aから離隔する領域に、第1の貫通穴2aを囲むように、アルミニウム合金板2の鋼板1に対向する面(下面)にシール剤3を塗布する。このとき、シール剤3は、凹部21の内壁面には塗布しないようにする。次に、第1の貫通穴2aに、鋼製のエレメント4を挿入する。エレメント4には、第2の貫通穴4aが形成されており、第2の貫通穴4aの軸方向の一端側には、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aに挿入可能な径を有する挿入部4bが形成されている。また、エレメント4の第2の貫通穴4aの軸方向の他端側には、第1の貫通穴2aの径よりも大きい径を有する頭部4cが形成されている。なお、挿入部4bの軸方向の長さは、アルミニウム合金板2の板厚と等しいことが好ましい。
【0030】
その後、
図1Bに示すように、第2の貫通穴4aと鋼板1における接合予定位置とが重なるようにアルミニウム合金板2を位置決めし、鋼板1の厚さ方向に直交する面上にアルミニウム合金板2を配置する。なお、第1の貫通穴2aにエレメント4を挿入するタイミングは、アルミニウム合金板2を鋼板1の上面に配置した後でもよい。
【0031】
その後、
図1Cに示すように、アルミニウム合金板2を鋼板1にむけて押圧し、シール剤3を鋼板1とアルミニウム合金板2に密着させる。このとき、アルミニウム合金板2と鋼板1との間隔が狭くなるため、アルミニウム合金板2の下面に塗布されたシール剤3は、第2の貫通穴4aに近づく方向及び第2の貫通穴4aから遠ざかる方向に押し広げられる。ただし、第2の貫通穴4aに近づく方向に移動したシール剤3は、凹部21の隙間22に留まり、凹部21よりも第2の貫通穴4aの方向に侵入することはない。
【0032】
その後、
図2に示すように、エレメント4の第2の貫通穴4aを介して、鋼製の溶接ワイヤ(図示せず)を使用してアーク溶接を実施し、鋼板1の一部及びエレメント4の少なくとも一部を溶融させるとともに、第2の貫通穴4aを充填する溶接金属5を形成する。これにより、エレメント4と鋼板1とは、溶接により強固に溶接され、アルミニウム合金板2はエレメント4の頭部4cにより物理的に鋼板1に固定されるため、鋼板1とアルミニウム合金板2とが接合される。
【0033】
上記のような本実施形態に係る接合方法によると、アルミニウム合金板2に凹部21が形成されているため、アルミニウム合金板2を鋼板1に向けて押圧しても、シール剤3は凹部21の隙間22に留まり、第2の貫通穴4aに侵入することを防止することができる。したがって、その後のアーク溶接を実施する工程において、シール剤3が気化することにより溶接金属5にブローホールが発生することを防止でき、溶接不良の発生を防止することができる。なお、第2の貫通穴4aから遠ざかる方向に移動したシール剤3は、後のアーク溶接の工程に影響がないため、無視できる。
【0034】
また、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aと凹部21は、一度のプレス加工により形成することができるため、アルミニウム合金板2の加工が煩雑となることもない。なお、シール剤3は、アルミニウム合金板2における鋼板1に対向する面、及び鋼板1におけるアルミニウム合金板2に対向する面の少なくとも一方の面に塗布すればよい。ただし、アルミニウム合金板2側に塗布するようにすると、凹部21及び第1の貫通穴2aを目視で確認することができる。したがって、凹部21の内壁面を除く、第1の貫通穴2aから離隔する領域に、第1の貫通穴2aを囲むように塗布することができ、シール剤3を塗布する位置を容易に決定することができる。
【0035】
さらに、本実施形態においては、鋼板1と等しい主成分を有する溶接ワイヤを使用し、鋼板1とアルミニウム合金板2とを、鋼製のエレメント4を利用したアークスポット溶接により接合する。したがって、鋼材とアルミニウム合金材との異種金属が同時に溶融して脆弱な金属間化合物が生成されることがなく、鋼板1と等しい主成分を有する溶接金属が形成され、高強度の継手を得ることができる。さらに、溶接により得られた溶接金属5の周囲は、シール剤3によって完全に封止されているため、水分が溶接金属5や、鋼板1とアルミニウム合金板2との接触部分に侵入することを防止することができる。したがって、鋼板1とアルミニウム合金板2との間に腐食回路が形成されて、アルミニウム合金材に腐食が発生することを防止することができる。
【0036】
<第2の実施形態>
図3A及び
図3Bは、本発明の第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。
図3A及び
図3Bにおいて、
図1A~
図1Cに示す第1の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0037】
図3Aに示すように、第2の実施形態では、凹部21よりも第1の貫通穴2a側と、凹部21よりもシール剤を塗布する側との間で段差が形成されるように、凹部21をプレス加工する。すなわち、凹部21は、第1の貫通穴2a側となる穴側壁部21aと、この穴側壁部に対向する側、すなわちシール剤側となるシール剤側壁部21bとを有し、穴側壁部21aの方が、シール剤側壁部21bよりも高くなるように、凹部21を形成する。
その後、第1の実施形態と同様にして、凹部21よりも外側の領域に、第1の貫通穴2aを囲むように、アルミニウム合金板2の下面にシール剤3を塗布する。
【0038】
その後、
図3Bに示すように、エレメント4の第2の貫通穴4aと鋼板1における接合予定位置とが重なるように、アルミニウム合金板2を位置決めし、アルミニウム合金板2を鋼板1の上面に配置し、アルミニウム合金板2を鋼板1に向けて押圧する。その後、エレメント4の第2の貫通穴4aを介してアーク溶接を実施し、鋼板1の一部及びエレメント4の少なくとも一部を溶融させるとともに、第2の貫通穴4aを充填する溶接金属5を形成する。これにより、エレメント4と鋼板1とは、溶接により強固に溶接され、鋼板1とアルミニウム合金板2とが接合される。
【0039】
上記のような第2の実施形態に係る接合方法においても、上記第1の実施形態と同様に、溶接不良の発生及び溶接部における腐食を防止し、接合強度を向上させることができる。また、本実施形態においては、穴側壁部21aが、シール剤側壁部21bよりも高くなるように形成されているため、アルミニウム合金板2を鋼板1上に配置したときに、シール剤を塗布する領域において、アルミニウム合金板2と鋼板1との間にギャップGが形成される。したがって、シール剤3を、厚みを有する状態でアルミニウム合金板2と鋼板1との間配置することができ、シール剤3による水の侵入防止効果をより一層高めることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aが形成されている領域を鋼板1に接触するように配置するため、穴側壁部21aとシール剤側壁部21bとの高さの差がギャップGの距離となる。ギャップGの距離は特に限定されないが、大きすぎると、アルミニウム合金板2と鋼板1との間のギャップGを埋めるために、シール剤3の必要量が増加する。また、ギャップGが小さすぎると、シール剤3の厚さを確保することが難しくなる。したがって、ギャップGの距離は、0.1mm以上2.0mm以下となるようにプレス加工することが好ましい。
【0041】
<第3の実施形態>
図4A及び
図4Bは、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。また、
図5は、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法において使用されるアルミニウム合金板の形状を示す図面代用写真である。
図4A及び
図4Bにおいて、
図3A及び
図3Bに示す第2の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0042】
第3の実施形態においても、第2の実施形態と同様に、穴側壁部21aの方が、シール剤側壁部21bよりも高くなるように、凹部21を形成している。また、
図4B及び
図5に示すように、アルミニウム合金板2を鋼板1上に配置したときに、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aを含む領域が鋼板1の表面から離隔するように、アルミニウム合金板2を加工している。すなわち、凹部21における穴側壁部21aの先端に、凹部21と反対の方向に突出する凸部6を形成しており、貫通穴2aを含む領域は、凹部21と同一の方向に窪んだ形状となる。したがって、アルミニウム合金板2を鋼板1上に配置したときに、第1の貫通穴2aを含む領域と鋼板1との間に間隙部7が形成される。
【0043】
上記のような第3の実施形態に係る接合方法においても、上記第1の実施形態と同様に、溶接不良の発生及び溶接部における腐食を防止し、接合強度を向上させることができる。また、上記第2の実施形態と同様に、シール剤を塗布する領域において、アルミニウム合金板2と鋼板1との間にギャップGが形成されるため、シール剤3を塗布する厚みを確保することができ、シール剤3による水の侵入防止効果をより一層高めることができる。
さらに、本実施形態においては、エレメント4の第2の貫通穴4aの内部に対してアーク溶接を実施する際に、アルミニウム合金板2と鋼板1との間に間隙部7を有するため、アークの深い溶込みを得ることができ、より一層接合強度を向上させることができる。
【0044】
なお、本実施形態においても、凸部6の先端を鋼板1に接触させるように配置するため、凹部21における穴側壁部21aとシール剤側壁部21bとの高さの差がギャップGの距離となる。ギャップGの好ましい距離は、上記したとおりである。
【0045】
<第4の実施形態>
図6は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られた継手を示す断面図である。
図6に示す第4の実施形態において、
図1A~
図1Cに示す第1の実施形態と異なる点は、エレメント4の有無と、上板及び下板の材質のみであるため、工程順に示す図は省略している。
図6において、
図1A~
図1Cに示す第2の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0046】
本実施形態においては、アルミニウム合金板32を下板とし、鋼板31を上板として、両者をエレメントアークスポット溶接により接合する。すなわち、鋼板31におけるアルミニウム合金板32との接合予定位置に、第1の貫通穴31aを形成するとともに、第1の貫通穴31aを囲むように、プレス加工により凹部21を形成する。その後、第1の実施形態と同様に、上板側である鋼板31のアルミニウム合金板32に対向する面にシール剤3を塗布する。その後、
図1Bに示すように、第1の貫通穴31aとアルミニウム合金板32における接合予定位置とが重なるように、鋼板31を位置決めし、鋼板31をアルミニウム合金板32の上面に配置する。
【0047】
その後、鋼板31をアルミニウム合金板32に向けて押圧し、シール剤3を鋼板31とアルミニウム合金板32に密着させる。なお、本実施形態においては、エレメント4を使用しない。
その後、第1の貫通穴31aを介して、アルミニウム合金製の溶接ワイヤ(図示せず)を使用してアーク溶接を実施し、アルミニウム合金板32の一部を溶融させるとともに、第1の貫通穴31aを充填する溶接金属15を形成する。このとき、鋼板31の上面に、第1の貫通穴31aよりも大きい径を有する余盛15aを形成する。これにより、鋼板31とアルミニウム合金板32とを接合する。
【0048】
上記第4の実施形態に示すように、上板及び下板の材質は特に限定されず、下板を、アルミニウム又はアルミニウム合金板及び鋼板のうちいずれか一方とし、上板を他方とすることができる。本実施形態においては、上板である鋼板31に凹部21を形成し、凹部21の内壁面を除く凹部21の外側に、シール剤3を塗布している。したがって、鋼板31をアルミニウム合金板32に向けて押圧した場合であっても、アークを発生させる箇所にシール剤が侵入することを防止することができ、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施形態においては、エレメントを使用せず、下板であるアルミニウム合金板32と同様の溶接材料を使用して、アルミニウム合金からなる溶接金属15を形成している。したがって、溶接金属15とアルミニウム合金板32とは、溶接により強固に接合される。また、鋼板31の上面に余盛15aを形成しており、この余盛15aが第1の実施形態におけるエレメント4の頭部4cに相当する。したがって、鋼板31は溶接金属15の余盛15aにより物理的に鋼板1に固定されるため、鋼板31とアルミニウム合金板32とが接合される。
【0049】
なお、第4の実施形態のように、アルミニウム合金板32を下板とし、鋼板31を上板とした場合であっても、アルミニウム合金製のエレメントを使用し、アルミニウム合金からなる溶接材料を使用して、アルミニウム合金板32と鋼板31とを接合することができる。ただし、アルミニウム合金製のエレメントは、溶接によりほぼ溶融するため、得られる継手の断面形状は、
図6に示すものと同様の形状となる。
【0050】
また、第4の実施形態において、第2の実施形態と同様に、凹部21における第1の貫通穴側の壁を、シール剤を塗布する側の壁よりも高くなるように形成し、シール剤を塗布する領域において、アルミニウム合金板32と鋼板31との間にギャップGを形成してもよい。これにより、シール剤3を塗布する厚みを確保することができる。
さらに、アルミニウム合金板32を下板とし、鋼板31を上板として、エレメントを使用しない接合方法を採用する場合にも、第1の貫通穴31aを含む領域を、凹部21と同一の方向に窪んだ形状とすることができる。このような構成とすると、鋼板31をアルミニウム合金板32上に配置したときに、第1の貫通穴31aを含む領域とアルミニウム合金板32との間に間隙部7が形成され、アークの溶込みを深くすることができる。
【0051】
なお、第2~第4の実施形態において、第1の実施形態と同様に、シール剤3は、上板側に塗布しても、下板側に塗布しても、両方に塗布してもよい。ただし、上板の凹部21の内壁面、又は下板における凹部21に対向する領域にシール剤3を塗布すると、下板の上に上板を配置し、上板を下板に向けて押圧する前に、隙間22の体積が小さい状態となる。したがって、上板を下板に向けて押圧した際に、シール剤3を凹部21の隙間22に留めることが困難となり、シール剤3が溶接部に侵入する可能性が生じる。したがって、シール剤3を下板側に塗布する場合に、凹部21に対向する領域には塗布しないことが重要である。
【0052】
図7Aは、上記第1の実施形態に適用することができるアルミニウム合金板の形状を示す平面図であり、
図7Bは、
図7AにおけるA-A断面図であり、
図7Cはその斜視図である。なお、
図7A及び
図7Cは、鋼板1に対向する面を表している。
上記のとおり、アルミニウム合金板2における鋼板1に対向する面に凹部21を形成しているため、シール剤がアークを発生させる領域に侵入することを防止することができる。なお、シール剤を塗布する領域は、凹部21の内壁面を除き、凹部21よりも外側の領域とし、第1の貫通穴2aを囲むように塗布すればよい。例えば、凹部21の近傍の領域A1に塗布してもよいし、アルミニウム合金板2の4端面の近傍の領域A2に塗布してもよい。
【0053】
図8Aは、断面形状がハット型である鋼板を使用し、第4の実施形態を適用して得られた継手を示す上面図であり、
図8Bは、
図8AにおけるB-B断面図であり、
図8Cはその斜視図である。なお、
図8A~
図8Cは、上記第3の実施形態に示された上板形状を採用し、下板をアルミニウム合金板、上板を鋼板として、エレメントを使用しない方法で接合した例を表している。
図8A~
図8Cにおいて、
図4A及び
図4Bに示す第3の実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0054】
図8A~
図8Cに示すように、鋼板41には、長手方向に延びるリブ43が形成されており、その断面形状がハット型となっている。また、リブ43の両側方に、複数の第1の貫通穴41aを設けている。なお、
図8Aには、破線及び一点鎖線でシール剤を塗布する領域A3、A4を示しているが、
図8Aに示す領域A3、A4は、鋼板41の上面ではなく、アルミニウム合金板42に対向する面とする。
このように、同一平面上に複数の第1の貫通穴41aを設けた場合であっても、シール剤を塗布する領域は、凹部21の内壁面を除き、凹部21よりも外側の領域とし、少なくとも1つの第1の貫通穴2aを囲むような領域であればよい。例えば、各凹部21の外側に、それぞれの凹部21を囲む領域A3に塗布してもよいし、同一平面上に設けられた全ての凹部21を囲むような領域A4に塗布してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,31,41,51,61 鋼板(下板)
2,32,42,52,62 アルミニウム合金板(上板)
2a,31a,41a,51a 第1の貫通穴
3,53 シール剤
4 エレメント
4a 第2の貫通穴
5,15 溶接金属
6 凸部
7 間隙部
21 凹部
22 隙間