(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163882
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】異種金属材の接合方法及び接合継手
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20231102BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20231102BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20231102BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/007
B23K9/235 Z
B23K9/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075088
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA04
4E001BB07
4E001BB08
4E001BB11
4E001CA02
4E001CB01
4E001DD02
4E001DD04
4E001EA04
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA16
4E081BA40
4E081DA06
(57)【要約】
【課題】接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合継手を提供する。
【解決手段】異種金属材の接合方法は、鋼板(第1板材)1と、鋼板1の厚さ方向に直交する面上に、第1の貫通穴2aを有するアルミニウム合金板(第2板材)2を配置する工程と、第2の貫通穴4aを有するエレメント4を第1の貫通穴2aに挿入する工程と、アークスポット溶接により、鋼板1の一部及びエレメント4の一部を溶融させるとともに、鋼板1と等しい主成分を有する溶接金属5を形成する工程と、を有する。溶接金属5を形成する工程の前に、アルミニウム合金板2の鋼板1に対向する面における、少なくとも第1の貫通穴2aを囲む領域と、鋼板1のアルミニウム合金板2に対向する面との間に、0.1mm以上2.0mm以下の空隙部7を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材と、前記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、前記第1板材と異なる材質からなり、第1の貫通穴を有する第2板材を配置する工程と、
アークスポット溶接により、前記第1の貫通穴を介して前記第1板材の一部を溶融させるとともに、前記第1板材と等しい主成分を有する溶接金属を形成する工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
前記溶接金属を形成する工程の前に、前記第2板材の前記第1板材に対向する面における、少なくとも前記第1の貫通穴を囲む領域と、前記第1板材の前記第2板材に対向する面との間に、0.1mm以上2.0mm以下の空隙部を形成する工程を有することを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【請求項2】
前記溶接金属を形成する工程において、前記第1の貫通穴を充填するとともに、前記第2板材の上面に前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する余盛を形成し、前記第1板材と前記第2板材とを接合することを特徴とする、請求項1に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項3】
前記溶接金属を形成する工程の前に、
第2の貫通穴を有するエレメントを前記第1の貫通穴に挿入する工程を有し、
前記エレメントは、前記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され前記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、前記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
前記溶接金属を形成する工程において、前記第1板材の一部及び前記エレメントの少なくとも一部を溶融させるとともに、前記第2の貫通穴を充填する溶接金属を形成する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項4】
前記溶接金属を形成する工程において、前記第2板材の前記第1板材に対向する面と、前記エレメントの前記第1板材に対向する面とは、略同一面上となることを特徴とする、請求項3に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項5】
前記空隙部を形成する工程は、
前記第1板材と前記第2板材との間における、前記空隙部を形成する領域を除く位置にスペーサを配置する工程と、
前記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、前記第2板材を配置する工程と、を有し、
前記第2板材を配置する工程により、前記スペーサが配置されていない領域に、前記空隙部が形成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項6】
前記空隙部を形成する工程は、
前記第1板材及び前記第2板材の少なくとも一方の板材における、前記空隙部を形成する領域を含む位置に、他方の板材から離隔する形状の凹部を形成する工程と、
前記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、前記第2板材を配置する工程と、を有し、
前記第2板材を配置する工程により、前記凹部が形成された領域に、前記空隙部が形成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項7】
前記空隙部を形成する工程は、
前記第1板材及び前記第2板材の少なくとも一方の板材における、前記空隙部を形成する領域を除く位置に、他方の板材に向かって突出する形状の凸部を形成する工程と、
前記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、前記第2板材を配置する工程と、を有し、
前記第2板材を配置する工程により、前記凸部が形成されていない領域に、前記空隙部が形成されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項8】
前記第1板材を、アルミニウム又はアルミニウム合金板、及び鋼板のうちいずれか一方とし、前記第2板材を、他方とすることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項9】
前記溶接金属を形成する工程において、前記第1板材における前記第2板材に対向する面と反対側の面まで溶融させて、裏波を形成し、
前記溶接金属を形成する工程の後に、前記裏波の大きさを測定するとともに、前記第2板材と前記第1板材との接合強度を測定して、前記裏波の大きさと前記接合強度との関係を求め、
前記第2板材と前記第1板材との間の空隙部の間隔に基づき、前記接合強度を予測することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項10】
予備試験用第1板材と、貫通穴を有する予備試験用第2板材とを準備し、
前記溶接金属を形成する工程の前に、
前記予備試験用第1板材と前記予備試験用第2板材との間に予備試験用空隙部を形成し、前記溶接金属を形成する工程と同一の方法で、予備溶接試験を実施する工程を有し、
前記予備溶接試験は、前記予備試験用第1板材における前記予備試験用第2板材に対向する面と反対側の面まで溶融させて、裏波を形成する工程と、前記裏波の大きさを測定するとともに、前記予備試験用第1板材と前記予備試験用第2板材との接合強度を測定する工程とを、前記予備試験用空隙部を異なる間隔に設定して複数回実施して、前記予備試験用空隙部の間隔と前記接合強度との関係を求めるものであり、
前記関係に基づき、必要とする接合強度となる前記予備試験用空隙部の間隔を選択した後に、前記選択した間隔の空隙部を形成する工程を実施することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項11】
第1板材と、
第1の貫通穴を有する第2板材と、
前記第1板材の一部を含み、前記第1の貫通穴を充填するとともに、前記第2板材における前記第1板材に対向する面と反対側の面上に前記第1の貫通穴よりも大きい径の余盛を有する溶接金属と、を有し、
前記第1板材と前記第2板材との間の少なくとも前記溶接金属の周囲において、前記第1板材と前記第2板材とが離隔して空隙部が形成されており、前記空隙部の間隔は0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴とする、異種金属材の接合継手。
【請求項12】
第1板材と、
第1の貫通穴を有する第2板材と、
前記第1の貫通穴に挿入された、第2の貫通穴を有するエレメントと、
前記第1板材の一部及び前記エレメントの一部を含み、前記第2の貫通穴の内部に形成された溶接金属と、を有し、
前記エレメントは、前記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され前記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、前記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され前記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
前記第1板材と前記第2板材との間の少なくとも前記溶接金属の周囲において、前記第1板材と前記第2板材とが離隔して空隙部が形成されており、前記空隙部の間隔は0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴とする、異種金属材の接合継手。
【請求項13】
少なくとも前記空隙部及び前記溶接金属を除く領域における前記第1板材と前記第2板材との間に、スペーサが配置されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の異種金属材の接合継手。
【請求項14】
少なくとも前記空隙部及び前記溶接金属を含む領域における前記第1板材及び前記第2板材の少なくとも一方の板材に、他方の板材から離隔する形状の凹部が形成されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の異種金属材の接合継手。
【請求項15】
少なくとも前記空隙部及び前記溶接金属を除く領域における前記第1板材及び前記第2板材の少なくとも一方の板材に、他方の板材に向かって突出する形状の凸部が形成されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の異種金属材の接合継手。
【請求項16】
前記凸部は、前記第2板材に、前記第1の貫通穴を囲むように形成されているとともに、
前記凸部に対して前記第1の貫通穴と反対側の領域に、前記凸部を囲むように前記第1板材から離隔する形状の凹部が形成されており、
前記凹部は、前記第1の貫通穴側となる穴側壁部と、前記穴側壁部に対向する外側壁部と、を有し、
前記穴側壁部の方が、前記外側壁部よりも高いことを特徴とする、請求項15に記載の異種金属材の接合継手。
【請求項17】
前記凸部に対して前記第1の貫通穴と反対側の領域に、前記第1板材と前記第2板材との間の隙間を埋めるシール剤を有することを特徴とする、請求項16に記載の異種金属材の接合継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる材料からなる板材を高強度で接合することができる異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。以下、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金を、単に、アルミニウム合金、マグネシウム合金ということがある。
【0003】
ところで、鋼及び上記軽量素材を第2板材と第1板材として組み合わせて接合する方法として、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1板材と、鋼製の第2板材と、を接合する異材接合用アークスポット溶接法が、特許文献1に開示されている。上記特許文献1に記載のアークスポット溶接法は、第1板材に穴を空ける工程と、第1板材と第2板材を重ね合わせる工程と、挿入部と非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、挿入部及び非挿入部を貫通する中空部が形成される鋼製の接合補助部材を、第1板材に設けられた穴に挿入する工程と、所定の手法によって、接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、第2板材及び接合補助部材を溶接する工程と、を有する方法である。そして、上記溶接法により、強固かつ信頼性の高い品質で接合できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第1板材に設けられた穴に接合補助部材を挿入し、接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、第2板材及び接合補助部材を溶接する上記接合方法では、所望の接合強度を得られないことがある。特に、狭隘な領域での接合が要求される場合に、第1板材に設ける穴は小さくせざるを得ない。したがって、この穴に挿入する接合補助部材の中空部はさらに小さくなり、接合部の面積は極めて狭くなるため、第1板材に十分な大きさで穴を設ける場合と比較して接合強度が低下する。
【0006】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたものであって、接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、異種金属材の接合方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 第1板材と、上記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、上記第1板材と異なる材質からなり、第1の貫通穴を有する第2板材を配置する工程と、
アークスポット溶接により、上記第1の貫通穴を介して上記第1板材の一部を溶融させるとともに、上記第1板材と等しい主成分を有する溶接金属を形成する工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
上記溶接金属を形成する工程の前に、上記第2板材の上記第1板材に対向する面における、少なくとも上記第1の貫通穴を囲む領域と、上記第1板材の上記第2板材に対向する面との間に、0.1mm以上2.0mm以下の空隙部を形成する工程を有することを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【0009】
また、異種金属材の接合方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0010】
[2] 上記溶接金属を形成する工程において、上記第1の貫通穴を充填するとともに、上記第2板材の上面に上記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する余盛を形成し、上記第1板材と上記第2板材とを接合することを特徴とする、[1]に記載の異種金属材の接合方法。
【0011】
[3] 上記溶接金属を形成する工程の前に、
第2の貫通穴を有するエレメントを上記第1の貫通穴に挿入する工程を有し、
上記エレメントは、上記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され上記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、上記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され上記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
上記溶接金属を形成する工程において、上記第1板材の一部及び上記エレメントの少なくとも一部を溶融させるとともに、上記第2の貫通穴を充填する溶接金属を形成する工程を有することを特徴とする、[1]に記載の異種金属材の接合方法。
【0012】
[4] 上記溶接金属を形成する工程において、上記第2板材の上記第1板材に対向する面と、上記エレメントの上記第1板材に対向する面とは、略同一面上となることを特徴とする、[3]に記載の異種金属材の接合方法。
【0013】
[5] 上記空隙部を形成する工程は、
上記第1板材と上記第2板材との間における、上記空隙部を形成する領域を除く位置にスペーサを配置する工程と、
上記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、上記第2板材を配置する工程と、を有し、
上記第2板材を配置する工程により、上記スペーサが配置されていない領域に、上記空隙部が形成されることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0014】
[6] 上記空隙部を形成する工程は、
上記第1板材及び上記第2板材の少なくとも一方の板材における、上記空隙部を形成する領域を含む位置に、他方の板材から離隔する形状の凹部を形成する工程と、
上記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、上記第2板材を配置する工程と、を有し、
上記第2板材を配置する工程により、上記凹部が形成された領域に、上記空隙部が形成されることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0015】
[7] 上記空隙部を形成する工程は、
上記第1板材及び上記第2板材の少なくとも一方の板材における、上記空隙部を形成する領域を除く位置に、他方の板材に向かって突出する形状の凸部を形成する工程と、
上記第1板材の厚さ方向に直交する面上に、上記第2板材を配置する工程と、を有し、
上記第2板材を配置する工程により、上記凸部が形成されていない領域に、上記空隙部が形成されることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0016】
[8] 上記第1板材を、アルミニウム又はアルミニウム合金板、及び鋼板のうちいずれか一方とし、上記第2板材を、他方とすることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0017】
[9] 上記溶接金属を形成する工程において、上記第1板材における上記第2板材に対向する面と反対側の面まで溶融させて、裏波を形成し、
上記溶接金属を形成する工程の後に、上記裏波の大きさを測定するとともに、上記第2板材と上記第1板材との接合強度を測定して、上記裏波の大きさと上記接合強度との関係を求め、
上記第2板材と上記第1板材との間の空隙部の間隔に基づき、上記接合強度を予測することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0018】
[10] 予備試験用第1板材と、貫通穴を有する予備試験用第2板材とを準備し、
上記溶接金属を形成する工程の前に、
上記予備試験用第1板材と上記予備試験用第2板材との間に予備試験用空隙部を形成し、上記溶接金属を形成する工程と同一の方法で、予備溶接試験を実施する工程を有し、
上記予備溶接試験は、上記予備試験用第1板材における上記予備試験用第2板材に対向する面と反対側の面まで溶融させて、裏波を形成する工程と、上記裏波の大きさを測定するとともに、上記予備試験用第1板材と上記予備試験用第2板材との接合強度を測定する工程とを、上記予備試験用空隙部を異なる間隔に設定して複数回実施して、上記予備試験用空隙部の間隔と上記接合強度との関係を求めるものであり、
上記関係に基づき、必要とする接合強度となる上記予備試験用空隙部の間隔を選択した後に、上記選択した間隔の空隙部を形成する工程を実施することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載の異種金属材の接合方法。
【0019】
本発明の上記目的は、異種金属材の接合継手に係る下記[11]及び[12]の構成により達成される。
【0020】
[11] 第1板材と、
第1の貫通穴を有する第2板材と、
上記第1板材の一部を含み、上記第1の貫通穴を充填するとともに、上記第2板材における上記第1板材に対向する面と反対側の面上に上記第1の貫通穴よりも大きい径の余盛を有する溶接金属と、を有し、
上記第1板材と上記第2板材との間の少なくとも上記溶接金属の周囲において、上記第1板材と上記第2板材とが離隔して空隙部が形成されており、上記空隙部の間隔は0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴とする、異種金属材の接合継手。
【0021】
[12] 第1板材と、
第1の貫通穴を有する第2板材と、
上記第1の貫通穴に挿入された、第2の貫通穴を有するエレメントと、
上記第1板材の一部及び上記エレメントの一部を含み、上記第2の貫通穴の内部に形成された溶接金属と、を有し、
上記エレメントは、上記第2の貫通穴の軸方向一端側に形成され上記第1の貫通穴に挿入可能の径を有する挿入部と、上記第2の貫通穴の軸方向他端側に形成され上記第1の貫通穴の径よりも大きい径を有する頭部と、を有し、
上記第1板材と上記第2板材との間の少なくとも上記溶接金属の周囲において、上記第1板材と上記第2板材とが離隔して空隙部が形成されており、上記空隙部の間隔は0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴とする、異種金属材の接合継手。
【0022】
また、異種金属材の接合継手に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[13]~[7]に関する。
【0023】
[13] 少なくとも上記空隙部及び上記溶接金属を除く領域における上記第1板材と上記第2板材との間に、スペーサが配置されていることを特徴とする、[11]又は[12]に記載の異種金属材の接合継手。
【0024】
[14] 少なくとも上記空隙部及び上記溶接金属を含む領域における上記第1板材及び上記第2板材の少なくとも一方の板材に、他方の板材から離隔する形状の凹部が形成されていることを特徴とする、[11]又は[12]に記載の異種金属材の接合継手。
【0025】
[15] 少なくとも上記空隙部及び上記溶接金属を除く領域における上記第1板材及び上記第2板材の少なくとも一方の板材に、他方の板材に向かって突出する形状の凸部が形成されていることを特徴とする、[11]又は[12]に記載の異種金属材の接合継手。
【0026】
[16] 上記凸部は、上記第2板材に、上記第1の貫通穴を囲むように形成されているとともに、
上記凸部に対して上記第1の貫通穴と反対側の領域に、上記凸部を囲むように上記第1板材から離隔する形状の凹部が形成されており、
上記凹部は、上記第1の貫通穴側となる穴側壁部と、上記穴側壁部に対向する外側壁部と、を有し、
上記穴側壁部の方が、上記外側壁部よりも高いことを特徴とする、[15]に記載の異種金属材の接合継手。
【0027】
[17] 上記凸部に対して上記第1の貫通穴と反対側の領域に、上記第1板材と上記第2板材との間の隙間を埋めるシール剤を有することを特徴とする、[16]に記載の異種金属材の接合継手。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、接合強度を向上させることができる異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図1Aの次工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、
図1Bの次工程を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法により接合された継手を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に対して、鋼板とアルミニウム合金板との間隔G1を0mmとした場合のアークの状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に対して、鋼板とアルミニウム合金板との間隔G1を0mmとした場合のアークの状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第5の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
【
図9】
図9は、縦軸をナゲット径とし、横軸を裏波の直径とした場合の、ナゲット径と裏波の直径との関係を示すグラフ図である。
【
図10】
図10は、縦軸を引張せん断強さとし、横軸をナゲット径とした場合の、引張せん断強さとナゲット径との関係を示すグラフ図である。
【
図11】
図11は、第1板材として平板形状のアルミニウム合金板の上に、断面形状がハット型である鋼板を配置した異種金属材の組み合わせを示す斜視図である。
【
図12】
図12は、縦軸を裏波の直径とし、横軸を間隔G1とした場合の、裏波の直径と間隔G1との関係を示すグラフ図である。
【
図13】
図13は、縦軸をナゲット径とし、横軸を間隔G1とした場合の、ナゲット径と間隔G1との関係を示すグラフ図である。
【
図14】
図14は、比較例及び実施例の一部を切断して示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願発明者は、異種金属材の接合において、従来よりも接合強度を向上させることができるアーク溶接方法について、種々検討を行った。まず、異種材料からなる下板と上板とを、上板に設けられた穴を介して下板を溶融させるとともに、穴を充填する溶接金属を形成する方法により接合した場合に、所望の強度が得られない原因について検討した。
その結果、上板に設けられた穴の内径は、下板と上板との接合強度に大きく影響することを見出した。すなわち、穴の内径が大きい場合には、アークが十分に広がり、下板と上板との接合界面におけるナゲット径が大きくなるため、十分な接合強度を得ることができる。一方、穴の内径が小さい場合には、穴の内壁によってアークの広がりが阻害されるため、ナゲット径が小さくなり、接合強度が低下する。
【0031】
次に、本願発明者は、接合強度を向上させるために、ナゲット径を大きくする方法について検討した。接合部の領域として、十分な広さが確保できる場合には、単に上板に設ける穴の内径を大きくすればよい。しかし、上述のとおり、狭隘な領域での接合が要求される場合に、穴の内径を大きくすることができない。そこで、本願発明者は、上板における穴の周縁部において、下板と上板との間に適切な間隔で空隙部が存在すれば、穴の内径が小さい場合であっても、アークの広がりを十分に確保することができ、その結果、ナゲット径が大きくなって、接合強度を向上させることができることを見出した。
【0032】
また、本願発明者は、溶接後に形成される裏波の大きさとナゲット径との間、及びナゲット径と接合強度との間に相関性があることを見出した。すなわち、裏波の大きさを測定することにより、接合強度を予測することができるため、最適な空隙部の間隔を選択することができる。
本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0033】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0034】
[異種金属材の接合方法]
<第1の実施形態>
図1A~
図1Cは、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す断面図である。また、
図2は、本発明の第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法により接合された継手を示す断面図である。本実施形態は、鋼板(第1板材)1と、アルミニウム合金板(第2板材)2とをエレメントアークスポット溶接により接合する方法である。
【0035】
図1Aに示すように、アルミニウム合金板2の鋼板1との接合予定位置に、円筒形状の第1の貫通穴2aを形成する。また、本実施形態においては、鋼板1とアルミニウム合金板2との間における第1の貫通穴2aの周縁部に空隙部7を形成する。したがって、鋼板1とアルミニウム合金板2との間における、空隙部を形成する領域を除く位置に、スペーサ3を配置する。スペーサ3としては、薄い板状部材を所望の厚さとなるように複数枚重ねたものを使用してもよいし、樹脂剤等を鋼板1又はアルミニウム合金板2の所定の位置に塗布してもよい。板状部材を使用する場合に、その形状は、空隙部を形成する領域に穴を有する環状の板状部材でもよいし、空隙部を形成する領域を除く部分に載置可能な任意の形状の複数の板状部材でもよい。樹脂剤等を塗布する場合に、その位置は特に限定されず、所望の領域に空隙部7が形成されるように塗布すればよい。
【0036】
次に、第1の貫通穴2aに、鋼製のエレメント4を挿入する。エレメント4には、第2の貫通穴4aが形成されており、第2の貫通穴4aの軸方向の一端側には、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aに挿入可能な径を有する挿入部4bが形成されている。また、エレメント4の第2の貫通穴4aの軸方向の他端側には、第1の貫通穴2aの径よりも大きい径を有する頭部4cが形成されている。
【0037】
その後、
図1Bに示すように、第2の貫通穴4aと鋼板1における接合予定位置とが重なるようにアルミニウム合金板2を位置決めし、鋼板1の厚さ方向に直交する面上にアルミニウム合金板2を配置する。なお、第1の貫通穴2aにエレメント4を挿入するタイミングは、アルミニウム合金板2を鋼板1の上面に配置した後でもよい。このようにして、アルミニウム合金板2の下面、すなわち鋼板1に対向する面と、鋼板1の上面、すなわちアルミニウム合金板2に対向する面との間に、空隙部7を形成する。具体的に、空隙部7は、アルミニウム合金板2の下面における少なくとも第1の貫通穴を囲む面と、鋼板1の上面との間に形成される。また、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるように、空隙部7を形成する。
【0038】
その後、
図1Cに示すように、エレメント4の上方に、不図示の溶接トーチに保持された鋼製の溶接ワイヤ9を配置し、溶接トーチの先端に設けられたガスノズル8からシールドガスを流しつつ、溶接ワイヤ9に電流を流し、アーク11を発生させる。
【0039】
これにより、
図2に示すように、第1の貫通穴2aに挿入されたエレメント4の第2の貫通穴4aを介して、溶接ワイヤ9を溶融させるとともに、鋼板1の一部及びエレメント4の少なくとも一部を溶融させる。これにより、前記第2の貫通穴4aを充填し、鋼板1と等しい主成分を有する溶接金属5が形成される。
【0040】
本実施形態においては、エレメント4、鋼板1及び溶接金属5が全て等しい主成分を有するものであるため、これらが溶接により強固に固定される。また、アルミニウム合金板2はエレメント4の頭部4cにより物理的に鋼板1に固定される。したがって、鋼板1とアルミニウム合金板2とが高強度で接合された接合継手20を得ることができる。
【0041】
ここで、比較のため、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0mmの場合、すなわち鋼板1とアルミニウム合金板2とを接触させて配置した場合のアークの広がりについて、図面を用いて説明する。
図3は、第1の実施形態に対して、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1を0mmとした場合のアークの状態を示す断面図である。
図3において、
図1Cと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図3に示すように、鋼板1とアルミニウム合金板2とが接触した状態であると、第2の貫通穴4aの内壁によってアーク11の広がりが阻害される。
【0043】
一方、上記のような第1の実施形態に係る接合方法によると、空隙部7における鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるように、スペーサ3を配置している。したがって、アーク11が十分に広がり、十分な大きさの裏波12が形成される。また、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合界面におけるナゲット径N1を、上記
図3に示すナゲット径N2と比較して大きくすることができ、接合強度を向上させることができる。
【0044】
本願明細書において、ナゲット径とは、板材同士、すなわち鋼板1とアルミニウム合金板2とが接合している界面における溶接金属の径を示す。なお、上記
図2に示すように、鋼板1とアルミニウム合金板2とが離隔している場合のナゲット径は、鋼板(第1板材)1のアルミニウム合金板(第2板材)2側の面における溶接金属の径を示すものとする。
【0045】
空隙部7における鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm未満であると、十分なアーク11の広がりを確保することができず、接合強度を十分に向上させることが困難となる、したがって、空隙部7の間隔G1は0.1mm以上とし、0.2mm以上とすることが好ましく、0.3mm以上とすることがより好ましい。
一方、空隙部7の間隔G1の上限が2.0mmを超えると、溶接条件によってはアークが鋼板1を貫通してしまい、溶接不良が発生するか、又は裏波の直径が小さくなり、接合強度の低下が懸念される。また、空隙部7の間隔G1の上限が2.0mmを超えると、得られる継手の構造に影響を及ぼすことがあり、製造工程も煩雑となる。したがって、空隙部7の間隔G1は2.0mm以下とする。
【0046】
また、鋼板1及びアルミニウム合金板2の板厚方向に直交する方向における空隙部7の幅は特に限定しないが、第1の貫通穴2aの直径よりも大きいものとする。上記空隙部7の間隔G1が大きくなるにしたがって、アークが大きくなるため、空隙部7の幅は空隙部7の間隔G1に応じて設定することが好ましい。
【0047】
なお、上記第1の実施形態において、エレメント4の挿入部4bの軸方向長さは、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aが形成されている領域の板厚と略同一としている。挿入部4bの軸方向長さがアルミニウム合金板2の板厚よりも短いものであると、エレメント4の下面と鋼板1の上面との間に空隙部が形成され、アーク11の広がりを得ることはできる。しかし、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aの内壁面が露出するため、溶接条件によっては、アーク11によってアルミニウム合金板2の一部が溶融する可能性があり、鋼板1とアルミニウム合金板2との界面において脆弱な金属間化合物が形成されることがある。
【0048】
また、挿入部4bの軸方向長さがアルミニウム合金板2の板厚よりも長いものであると、鋼板1とアルミニウム合金板2との間に空隙部7を形成しても、エレメント4によってアークの広がりが阻害され、空隙部7の効果を十分に得ることができないおそれがある。
【0049】
したがって、エレメント4の挿入部4bの軸方向長さは、アルミニウム合金板2の第1の貫通穴2aが形成されている領域の板厚と略同一とすることが好ましい。言い換えると、アルミニウム合金板2の下面(鋼板1に対向する面)と、エレメント4の下面(鋼板に対向する面)とが略同一面上となるように、エレメント4のサイズを設計することが好ましい。
【0050】
<第2の実施形態>
図4は、本発明の第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
図4に示す第2の実施形態において、
図1A~
図1Cに示す第1の実施形態と異なる点は、エレメント4を使用していない点のみである。したがって、
図4において、
図1Cと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0051】
第2の実施形態においては、鋼板1の上に、スペーサ3を介して第1の貫通穴2aを有するアルミニウム合金板2を載置する。このとき、エレメントは使用しない。その後、アークスポット溶接により、第1の貫通穴2aを介して、溶接ワイヤ9を溶融させるとともに、鋼板1の一部を溶融させ、第1の貫通穴2aを充填する溶接金属15を形成する。さらに、鋼板1の上面に、第1の貫通穴2aよりも大きい径を有する余盛15aを形成する。これにより、鋼板1とアルミニウム合金板2とを接合する。
【0052】
本実施形態においては、エレメントを使用していないが、鋼板1及び溶接金属15が等しい主成分を有するものであるため、これらが溶接により強固に固定される。また、アルミニウム合金板2の上面に余盛15aを形成しており、この余盛15aが第1の実施形態におけるエレメント4の頭部4cに相当する。したがって、アルミニウム合金板2は溶接金属15の余盛15aにより物理的に鋼板1に固定されるため、鋼板1とアルミニウム合金板2とを高強度で接合することができる。
【0053】
ここで、第1の実施形態と同様に、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0mmの場合について、第2の実施形態と比較する。
図5は、第2の実施形態に対して、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1を0mmとした場合のアークの状態を示す断面図である。
図5において、
図4と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0054】
図5に示すように、鋼板1とアルミニウム合金板2とが接触した状態であると、第1の貫通穴2aの内壁によってアーク11の広がりが阻害される。
【0055】
一方、第2の実施形態に係る接合方法によると、空隙部7における鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるように、スペーサ3を配置している。したがって、アーク11が十分に広がり、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合界面におけるナゲット径N3を、上記
図5に示すナゲット径N4と比較して大きくすることができ、接合強度を向上させることができる。
【0056】
<第3の実施形態>
図6は、本発明の第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
図6に示す第3の実施形態において、
図1A~
図1Cに示す第1の実施形態と異なる点は、スペーサ3の代わりに第2板材に凸部を設けている点のみである。したがって、
図6において、
図1Bと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0057】
図6に示すように、第3の実施形態において、アルミニウム合金板22には第1の貫通穴22aが設けられているとともに、鋼板1に向かって突出する形状の凸部22bが設けられている。凸部22bの位置は、空隙部7を形成する領域を除く位置とし、例えば、第1の貫通穴22aから所定の間隔で離隔した位置に形成された円環状とすることができる。
【0058】
第3の実施形態においても、溶接ワイヤを溶融させるとともに、鋼板1の一部及びエレメント4の第2の貫通穴4aの内壁面を溶融させ、これらを接合する溶接金属を形成することにより、鋼板1とアルミニウム合金板22とを接合することができる。また、鋼板1とアルミニウム合金板22との間における凸部22bが形成されていない領域に、空隙部7が形成され、空隙部7の間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるようにアルミニウム合金板2の凸部22bを設計しているため、アークが十分に広がり、高い接合強度を得ることができる。
【0059】
なお、本実施形態においては、上板であるアルミニウム合金板22に凸部22bが設けられているが、本発明において、鋼板1(第1板材)にアルミニウム合金板22(第2板材)に向かって突出する形状の凸部が設けられていてもよい。このような構成であっても同様に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部を形成することができる。また、本実施形態においては、凸部22bに対して第1の貫通穴22aと反対側に、間隔G2の隙間17が形成されており、この隙間17には、シール剤等を配置することができる。シール剤を配置する効果については、後述する。
【0060】
<第4の実施形態>
図7は、本発明の第4の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
図7に示す第4の実施形態において、
図6に示す第3の実施形態と異なる点は、アルミニウム合金板の形状のみである。したがって、
図7において、
図6と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0061】
図7に示すように、第4の実施形態において、アルミニウム合金板32には第1の貫通穴32aが設けられているとともに、鋼板1から離隔する形状の凹部32bが設けられている。凹部32bの位置は、空隙部7を形成する領域を含む位置とし、例えば、第1の貫通穴32aを含む円形状の領域とすることができる。
【0062】
第4の実施形態においても、第3の実施形態と同様に、鋼板1とアルミニウム合金板32とを接合することができる。また、鋼板1とアルミニウム合金板22との間における凹部32bが形成されている領域に、空隙部7が形成され、空隙部7の間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるようにアルミニウム合金板2の凹部32bを設計しているため、アークが十分に広がり、高い接合強度を得ることができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、上板であるアルミニウム合金板22に凹部32bが設けられているが、本発明において、鋼板1(第1板材)にアルミニウム合金板22(第2板材)から離隔する形状の凹部が設けられていてもよい。このような構成であっても同様に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部を形成することができる。
【0064】
<第5の実施形態>
図8は、本発明の第5の実施形態に係る異種金属材の接合方法の一部を示す断面図である。
図8に示す第5の実施形態において、
図6に示す第3の実施形態と異なる点は、アルミニウム合金板の形状及びシール剤を配置している点である。したがって、
図8において、
図6と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0065】
図8に示すように、第5の実施形態において、アルミニウム合金板22には第1の貫通穴22aが設けられているとともに、鋼板1に向かって突出する形状の凸部22bが設けられている。したがって、凸部22bが形成されている位置よりも内側、すなわち第1の貫通穴22a側には、鋼板1とアルミニウム合金板2との間に空隙部7が形成されている。また、凸部22bに対して、第1の貫通穴22aと反対側には、凸部22bを取り囲む形状の凹部21が形成されている。凹部21は、第1の貫通穴側となる穴側壁部21aと、この穴側壁部21aに対向する側となる外側壁部21bとにより構成されており、穴側壁部21aの方が、外側壁部21bよりも高くなるように設計されている。
【0066】
このように構成されたアルミニウム合金板22を鋼板1の上に配置すると、溶接金属が形成される領域に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部7が形成される。また、凹部21に対して、第1の貫通穴22aと反対側の領域においては、鋼板1とアルミニウム合金板22との間に間隔G2の隙間17が形成される。さらに、凹部21が形成されている領域においては、鋼板1とアルミニウム合金板22との間に間隔G3の隙間27が形成される。
【0067】
第5の実施形態においても、上記第1~第4の実施形態と同様に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部7が形成されているため、鋼板1とアルミニウム合金板22とを高い強度で接合することができる。また、本実施形態においては、空隙部7を除く領域、すなわち隙間17及び隙間27に、空隙部7を囲むようにシール剤44を配置することができる。
【0068】
本実施形態においては、上板であるアルミニウム合金板22に、凸部22b及び凹部21が設けられているが、本発明において、鋼板1に、アルミニウム合金板22に向かって突出する形状の凸部と、凸部に対して第1の貫通穴22aと反対側の領域に凹部が設けられていてもよい。このような構成であっても同様に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部や、間隔G2の隙間及び間隔G3の隙間を形成することができる。
【0069】
ここで、シール剤44を配置した場合の本実施形態により得られる効果について説明する。例えば、上記第1~第5の実施形態に示すように、鋼板とアルミニウム合金板とを、アルミニウム合金板に設けた第1の貫通穴を介してアーク溶接した場合に、異種金属の接触領域に水分が侵入すると、腐食が発生しやすくなる。これを防止するため、上記接触領域に水分が侵入することを防止する方法として、接触領域の周囲にシール剤を配置する方法が挙げられる。
【0070】
しかし、単に異種金属の接触領域となる接合予定位置を囲むようにシール剤を配置するのみでは、シール剤が接合予定位置に侵入し、その後、アーク溶接を実施した場合に、シール剤が揮発することにより、溶接金属にブローホールが形成され、溶接不良が発生する。
【0071】
本実施形態においては、接合予定位置である空隙部7を囲むようにシール剤44を配置した場合であっても、アルミニウム合金板22に凸部22bが形成されているため、凸部22bがシール剤44の空隙部7への侵入を阻止することができ、溶接不良の発生を防止することができる。また、シール剤44を配置する位置を、隙間17の領域にすると、鋼板1の上にアルミニウム合金板22を配置した際に、シール剤44が、空隙部7に近づく方向に押し広げられた場合であっても、隙間17の間隔G2よりも隙間27の間隔G3の方が大きいため、シール剤44は、凹部21の隙間27に留まる。したがって、シール剤44の空隙部7への侵入防止効果をより一層高めることができ、溶接不良の発生を防止できるため、鋼板1とアルミニウム合金板22との高い接合強度を維持することができる。
【0072】
なお、流動性が低い、又は流動性を有さないシール剤を使用する場合には、
図1A~
図1C及び
図4に示すような、第1及び第2の実施形態におけるスペーサ3として、シール剤を使用することができる。また、上述のとおり、
図6に示す第3の実施形態においては、アルミニウム合金板22に凸部22bが形成されているため、凸部22bを囲む隙間17にシール剤を配置することができ、第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
図6に示す第3の実施形態においては、凸部22bの高さが隙間17の間隔G2となる。また、
図8に示す第5の実施形態においては、穴側壁部21aと外側壁部21bとの高さの差が隙間17の間隔G2となる。隙間17の間隔G2は特に限定されないが、大きすぎると、アルミニウム合金板22と鋼板1との間の隙間17を埋めるために、シール剤44の必要量が増加する。また、間隔G2が小さすぎると、シール剤44の厚さを確保することが難しくなる。したがって、隙間17の間隔G2は、0.1mm以上2.0mm以下となるように、アルミニウム合金板22を設計することが好ましい。なお、アルミニウム合金板22の凹部21及び凸部22bは、プレス加工等により容易に成形することができ、第1の貫通穴22aと同時に作製することもできる。
【0074】
上記第1~第5の実施形態において、第1板材を鋼板とし、第1の貫通穴を有する第2板材をアルミニウム合金板としたが、本発明において、第1板材及び第2板材の材質は特に限定されず、第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板及び鋼板のうちいずれか一方とし、第2板材を他方とすることができる。第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板とする場合に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の溶接ワイヤを使用することにより、第1板材と同一の主成分を有する溶接金属を形成することができ、上記第1~第5の実施形態と同様に、高い接合強度を得ることができる。なお、第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板とする場合に、アルミニウム又はアルミニウム合金製のエレメントを使用することもできる。ただし、アルミニウム合金製のエレメントは、溶接によりほぼ溶融するため、得られる継手の断面形状は、エレメントを使用しない場合とほぼ同様の形状となる。
【0075】
また、上記第1~第5の実施形態において、第1板材である鋼板1と同一の主成分を有する溶接ワイヤを使用した例について示したが、本発明では、第1板材と同一の主成分を有する溶接金属を形成できる方法を使用すればよい。例えば、第1板材と同一の主成分を有する溶接金属が得られる溶接ワイヤを溶極として使用するガスシールドアーク溶接法の他に、第1板材と同一の主成分を有する溶接金属が得られる溶接材料をフィラーとして使用するガスタングステンアーク溶接法や、第1板材と同一の主成分を有する溶接金属が得られる溶接材料をフィラーとして使用するプラズマアーク溶接法を本発明に適用することもできる。
【0076】
上記第1~第5の実施形態において、空隙部7の間隔G1の好ましい範囲は、上述したとおりであるが、本発明においては、必要とされる接合強度に応じて、空隙部7の間隔G1を設計することができる。空隙部7の間隔G1を設計する方法について、以下に詳細に説明する。
【0077】
まず、種々の間隔G1の空隙部7が形成されるように鋼板1とアルミニウム合金板2とを重ね合わせ、本発明の第1の実施形態に係る方法を使用して、鋼板1とアルミニウム合金板2とを接合し、形成された裏波の直径とナゲット径とを測定した。
図9は、縦軸をナゲット径とし、横軸を裏波の直径とした場合の、ナゲット径と裏波の直径との関係を示すグラフ図である。そして、裏波12の直径U1と、ナゲット径N1との関係を測定した結果、
図9に示すように、裏波12の直径U1が大きくなるにしたがって、ナゲット径N1も大きくなることが示された。
【0078】
次に、上記種々のナゲット径が得られた場合の接合強度を測定した。
図10は、縦軸を引張せん断強さ(TSS:Tensile Shear Strength)とし、横軸をナゲット径とした場合の、引張せん断強さとナゲット径との関係を示すグラフ図である。
図10に示すように、ナゲット径が大きくなるにしたがって、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合部における引張せん断強さが向上することが示された。
【0079】
これらのことから、例えば
図2に示す空隙部7の間隔G1を種々に変化させることにより、裏波12の直径U1を変化させることができ、この裏波12の直径U1に比例して引張せん断強さが向上することがわかる。したがって、溶接金属5を形成する工程において、鋼板1の裏面側、すなわち、アルミニウム合金板2に対向する面と反対側の面まで溶融させて、裏波12を形成し、この裏波12の大きさを測定するとともに、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合強度を測定することにより、裏波12の大きさと接合強度との関係を求めることができる。すなわち、鋼板1とアルミニウム合金板2との間の空隙部7の間隔G1に基づき、両者の接合強度を予測することができる。
【0080】
必要とされる接合強度に応じて、空隙部7の間隔G1を設計するための予備溶接試験を実施する方法について、以下により詳細に説明する。以下、第1の実施形態に係る溶接方法における予備溶接試験を説明するために、
図1A~
図1C及び
図2を用いて説明する。
【0081】
予備溶接試験として、まず、予備試験用第1板材(鋼板1)と、貫通穴を有する予備試験用第2板材(アルミニウム合金板2)とを準備する。次に、実際に行なう溶接方法と同一の方法で予備溶接試験を実施する。本実施形態においては、第1の実施形態に係る溶接方法の予備溶接試験であるため、
図1A及び
図1Bに示すように、予備試験用第1板材と予備試験用第2板材との間にスペーサ3を配置した後、両者を重ねて配置する。また、貫通穴(第1の貫通穴2a)には、エレメント4を挿入する。
【0082】
その後、
図1Cに示すように、第1の実施形態と同一の条件でエレメントアークスポット溶接を実施する。このとき、
図2に示すように、予備試験用第1板材の裏面側まで溶融させて、裏波12を形成する。その後、裏波12の大きさ、例えば直径U1を測定するとともに、予備試験用第2板材と前記予備試験用第1板材との接合強度、例えば引張せん断強さを測定する。このような予備溶接試験を、予備試験用空隙部(空隙部7)を種々の異なる間隔に設定して複数回実施し、予備試験用空隙部の間隔と接合強度との関係を求める。その後、求めた予備試験用空隙部の大きさと接合強度との関係に基づき、必要とする接合強度となるように予備試験用空隙部の間隔を選択する。その後、選択した予備試験用空隙部の間隔を、空隙部7の間隔G1として採用して、上記第1の実施形態に係る接合方法を実施する。このような方法により、所望の接合強度を得ることができる。
【0083】
次に、本発明に係る異種金属材の接合方法により接合された異種金属材の接合継手について説明する。
【0084】
[異種金属材の接合継手]
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る接合継手20は、上記第1の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られる継手である。
図2に示すように、本実施形態に係る接合継手20は、鋼板1(第1板材)と、第1の貫通穴2aを有するアルミニウム合金板2(第2板材)と、第1の貫通穴2aに挿入された、第2の貫通穴4aを有するエレメント4と、鋼板1の一部及びエレメント4の一部を含み、第1の貫通穴2aの内部に形成された溶接金属5と、を有する。エレメント4及び溶接金属5は、鋼板1と等しい主成分を有し、エレメント4の形状は上記のとおりである。そして、鋼板1とアルミニウム合金板2との間の少なくとも溶接金属5の周囲において、鋼板1とアルミニウム合金板2とが離隔して空隙部7が形成されており、空隙部7の間隔G1は0.1mm以上2.0mm以下である。なお、本実施形態においては、鋼板1とアルミニウム合金板2との間における溶接金属5の周囲を除く領域の一部に、空隙部7を形成するためのスペーサが配置されている。
【0085】
このように構成された第1の実施形態に係る接合継手20においては、鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるようにスペーサ3を配置し、エレメントアークスポット溶接を実施することにより得られる。したがって、接合継手20は、十分な大きさの裏波12を有し、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合界面におけるナゲット径N1も大きいものとなり、高い接合強度を有するものとなる。
【0086】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る接合継手は、上記第2の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られる継手であり、
図2に示す接合継手20におけるエレメント4の頭部の代わりに、溶接金属の余盛が形成されている。具体的には、
図4に示すように、本実施形態に係る接合継手は、鋼板1(第1板材)と、第1の貫通穴2aを有するアルミニウム合金板2(第2板材)と、鋼板1の一部を含み、第1の貫通穴2aを充填するとともに、アルミニウム合金板2の上面、すなわち鋼板1に対向する面と反対側の面上に、第1の貫通穴2aよりも大きい径の余盛15aを有し、鋼板1と等しい主成分を有する溶接金属15と、を有する。そして、鋼板1とアルミニウム合金板2との間の少なくとも溶接金属の周囲において、鋼板1とアルミニウム合金板2とが離隔して空隙部7が形成されており、空隙部7の間隔G1は0.1mm以上2.0mm以下である。なお、本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、鋼板1とアルミニウム合金板2との間における溶接金属の周囲を除く領域の一部に、空隙部7を形成するためのスペーサ3が配置されている。
【0087】
このように構成された第2の実施形態に係る接合継手は、接合部における鋼板1とアルミニウム合金板2との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるようにスペーサ3を配置し、アークスポット溶接を実施することにより得られる。したがって、第2の実施形態に係る接合継手は、十分な大きさの裏波を有し、高い接合強度を有するものとなる。
【0088】
<第3の実施形態>
第3の実施形態に係る接合継手は、上記第3の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られる継手であり、接合継手のアルミニウム合金板の形状が第1の実施形態と異なるものである。その他の部分は、
図2に示す上記第1の実施形態に係る接合継手と同様であるので、詳細な説明は省略する。
図6に示すように、第3の実施形態において、鋼板1とアルミニウム合金板22との間における溶接金属の周囲を除く領域に、アルミニウム合金板22は、鋼板1に向かって突出する形状の凸部22bを有している。したがって、凸部22bが形成されていない領域に空隙部7が形成されており、空隙部7の間隔G1は0.1mm以上2.0mm以下である。
【0089】
このように構成された第3の実施形態に係る接合継手は、接合部における鋼板1とアルミニウム合金板22との間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下となるようにアルミニウム合金板22に凸部22bを形成し、アークスポット溶接を実施することにより得られる。したがって、第3の実施形態に係る接合継手は、十分な大きさの裏波を有し、高い接合強度を有するものとなる。
【0090】
なお、上述のとおり、本発明においては、鋼板1(第1板材)にアルミニウム合金板22(第2板材)に向かって突出する形状の凸部が設けられていてもよい。また、アルミニウム合金板22における鋼板1との接合面と反対側の面上に、第1の貫通穴22aよりも大きい径の余盛が形成されていれば、エレメント4は配置されていても配置されていなくてもよい。
【0091】
<第4の実施形態>
第4の実施形態に係る接合継手は、上記第4の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られる継手であり、接合継手のアルミニウム合金板の形状が第3の実施形態と異なるものである。その他の部分は、上記第3の実施形態に係る接合継手と同様であるので、詳細な説明は省略する。
図7に示すように、第4の実施形態において、アルミニウム合金板32には第1の貫通穴32aが設けられているとともに、第1の貫通穴32aを含む領域に、鋼板1から離隔する形状の凹部32bを有している。したがって、凹部32bが形成されている領域に空隙部7が形成されており、空隙部7の間隔G1は0.1mm以上2.0mm以下である。
【0092】
このように構成された第4の実施形態に係る接合継手は、第3の実施形態と同様に、十分な大きさの裏波を有し、高い接合強度を有するものとなる。
【0093】
なお、上述のとおり、本発明においては、鋼板1に、アルミニウム合金板32から離隔する形状の凹部が設けられていてもよい。また、第3の実施形態と同様に、溶接金属が適切な形状の余盛を有していれば、エレメント4は配置されていても配置されていなくてもよい。
【0094】
<第5の実施形態>
第5の実施形態に係る接合継手は、上記第5の実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られる継手であり、接合継手のアルミニウム合金板の形状が第3の実施形態と異なるものである。その他の部分は、上記第3の実施形態に係る接合継手と同様であるので、詳細な説明は省略する。
図8に示すように、第5の実施形態において、アルミニウム合金板22には第1の貫通穴22aが設けられているとともに、鋼板1に向かって突出する形状の凸部22bが設けられている。また、凸部22bに対して第1の貫通穴22aと反対側には、凸部22bを取り囲む形状の凹部21を有する。凹部21は、第1の貫通穴側となる穴側壁部21aと、この穴側壁部21aに対向する側となる外側壁部21bとにより構成されており、穴側壁部21aの方が、外側壁部21bよりも高くなるように設計されている。したがって、凸部22bの第1の貫通穴22a側に、間隔G1が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部7が形成されている。
【0095】
このように構成された第5の実施形態に係る接合継手は、第3の実施形態と同様に、十分な大きさの裏波を有し、高い接合強度を有するものとなる。また、凸部22bに対して第1の貫通穴22aと反対側には、シール剤を配置することができる。
【0096】
なお、本発明においては、鋼板1に、アルミニウム合金板32に向かって突出する形状の凸部と、凸部を取り囲む形状の凹部が設けられていてもよい。また、第3の実施形態と同様に、溶接金属が適切な形状の余盛を有していれば、エレメント4は配置されていても配置されていなくてもよい。
【0097】
本発明に係る異種金属材の接合継手において、上記異種金属材の接合方法で説明したとおり、第1板材及び第1の貫通穴を有する第2板材の材質は特に限定されず、第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板及び鋼板のうちいずれか一方とし、第2板材を他方とすることができる。第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板とする場合に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶接金属を有するものとなる。なお、第1板材をアルミニウム又はアルミニウム合金板とする場合に、アルミニウム又はアルミニウム合金製のエレメントを有していてもよい。
【0098】
以上詳述したように、本発明においては、アークを発生させる領域において第1板材と第2板材との間に空隙部が形成されていれば、第1の貫通穴の径を大きくすることなくアークを広げることができ、接合強度を向上させることができる。
【0099】
図11は、第1板材として平板形状のアルミニウム合金板41の上に、断面形状がハット型である鋼板42を配置した異種金属材の組み合わせを示す斜視図である。
図11に示すように、鋼板42には、長手方向に延びるリブ43が形成されており、その断面形状がハット型となっている。また、リブ43の両側方に、複数の第1の貫通穴42aが設けられている。
【0100】
第2板材である鋼板42が
図11に示すような形状である場合、第1の貫通穴42aの径を広く設計することができない。したがって、第1の貫通穴42aが設けられている周辺においてアルミニウム合金板41と鋼板42との間に、間隔が0.1mm以上2.0mm以下である空隙部を設けることにより、高い接合強度を得ることができる。このように、本実施形態に係る異種金属材の接合方法は、狭隘な領域での接合が要求される場合に好適なものとなる。
【実施例0101】
以下、本実施形態に係る異材接合用アークスポット溶接法の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0102】
(実施例No.1)
図1A~
図1C及び
図2に示すように、鋼板1の上面に、スペーサ3を介して第1の貫通穴2aを有するアルミニウム合金板2を載置し、さらに第1の貫通穴2aに、第2の貫通穴4aを有するエレメント4を挿入した。なお、実施例No.1~6において、スペーサ3としては、0.1mmの厚さを有し、中心穴を有する円環形状のシム板を使用し、第1の貫通穴2aの周縁部において、鋼板1とアルミニウム合金板2との間の空隙部7の間隔G1が0.1mmとなるように、1枚のシム板を配置した。その後、エレメントアークスポット溶接により鋼板1の一部を溶融させ、裏波12を形成するとともに、エレメント4の一部を溶融させ、さらに第2の貫通穴4aに溶接金属5を充填することにより、鋼板1とアルミニウム合金板2とを接合した。溶接条件を以下に示す。
【0103】
鋼板1:980MPa級高張力鋼板製、板厚1.4mm
アルミニウム合金板2:6000系アルミ合金製、板厚2.0mm
第1の貫通穴2aの直径:7mm
エレメント4:軟鋼製、第2の貫通穴4aの直径 4.9mm
溶接ワイヤ:(種類とワイヤ径)JIS Z3312 G59J3M1T、1.2mm
シールドガス・流量:80%Ar+20%CO2、25リットル/分
溶接電流・溶接電圧:140A、20V
【0104】
(実施例No.2~実施例No.8)
上記実施例No.1における空隙部7が、以下に示す種々の間隔G1となるようにシム板の枚数を調整した。
実施例No.2:間隔G1が0.2mm
実施例No.3:間隔G1が0.3mm
実施例No.4:間隔G1が0.4mm
実施例No.5:間隔G1が0.5mm
実施例No.6:間隔G1が0.8mm
実施例No.7:間隔G1が1.4mm
実施例No.8:間隔G1が2.0mm
【0105】
(比較例No.1)
図3に示すように、スペーサ3を使用せず、空隙部7が0mmとなるように、鋼板1の上面にアルミニウム合金板2を接触させて配置し、実施例No.1と同様に鋼板1とアルミニウム合金板2とを接合した。
【0106】
(比較例No.2)
上記実施例No.1における空隙部7が、以下の間隔G1となるようにシム板の枚数を調整し、実施例No.1と同様に鋼板1とアルミニウム合金板2とを接合した。
比較例No.2:間隔G1が2.3mm
【0107】
上記実施例No.1~8及び比較例No.1~2の各条件で1~3回の接合を実施した後、裏波の直径を測定するとともに、接合中央部を切断し、断面観察によりナゲット径を測定した。なお、また、比較例No.1及び2、並びに、実施例No.1、7及び8の接合継手の各1例ずつについて、溶接金属が形成されている中心部分を、鋼板1及びアルミニウム合金板2の板厚方向に平行な方向に切断し、切断面を観察した。
【0108】
図12は、縦軸を裏波の直径とし、横軸を間隔G1とした場合の、裏波の直径と間隔G1との関係を示すグラフ図である。また、
図13は、縦軸をナゲット径とし、横軸を間隔G1とした場合の、ナゲット径と間隔G1との関係を示すグラフ図である。さらに、
図14は、比較例及び実施例の一部(比較例No.1及び2、並びに、実施例No.1、7及び8)を切断して示す図面代用写真である。
【0109】
上記
図12~
図14に示すように、空隙部の間隔G1が0.1mm以上であると、間隔G1が0mmである比較例No.1と比較して、裏波の直径及びナゲット径が大きくなり、接合強度が向上していることが示された。また、間隔G1が約1.5mmまでの範囲では、間隔G1の増加にともなって、裏波の直径及びナゲット径が大きくなった。特に、間隔G1が0.3mmまでの範囲では、間隔G1の増加にともなって、急激に裏波の直径及びナゲット径が大きくなった。なお、鋼板1とアルミニウム合金板2との接合強度、例えば引張せん断強さは、ナゲット径に比例するため、空隙部の間隔G1を0.3mm以上とすると、より一層安定して高い接合強度が得られることが示された。
【0110】
一方、空隙部の間隔G1を2.0mm超とした比較例No.2は、アークが鋼板1まで十分に届きにくくなり、これを解消するために溶接時間を延長すると、鋼板1を貫通し、溶接不良が発生した。また、溶接が実施できた場合であっても、裏波の直径が小さくなった。