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特開2023-163890光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163890
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2513 20130101AFI20231102BHJP
【FI】
H04B10/2513
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075099
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】ジュ パイクン
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠来
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】北山 研一
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA02
5K102AH26
5K102KA02
5K102KA39
5K102KA42
5K102PH02
5K102PH31
5K102PH49
5K102PH50
5K102RB01
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近中距離大容量IM-DD光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できる光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置を提供する。
【解決手段】光ファイバ通信信号の分散補償装置1による光ファイバ通信信号の分散補償方法であって,光前処理回路3が,光ファイバ5を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための光前処理工程と,電気分散補償回路7が,前処理後の光信号に対して分散補償処理を行う後処理工程と,を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ通信信号の分散補償方法であって,
光前処理回路(3)が,光ファイバ(5)を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための光前処理工程と,
電気分散補償回路(7)が,前記前処理後の光信号に対して分散補償処理を行う後処理工程と,
を含む,方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,
光電処理回路最適化部(9)が,前記後処理工程の出力信号の品質に基づいて,前記光前処理回路(3)及び前記電気分散補償回路(7)の駆動条件を最適化する駆動条件最適化工程をさらに含む,
方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって,
前記光電処理回路最適化部(9)が,前記後処理工程の出力信号の品質又は当該品質の解析モデルによる予測に基づいて,前記光前処理回路(3)における光信号分岐数及び干渉方法,並びに前記電気分散補償回路(7)の加減回路数及び乗除回路数を求める設計最適化工程をさらに含む方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって,前記光ファイバ(5)を伝送した光信号は,光強度変調方式に基づく50Gbps/レーン以上の広帯域伝送により,20km以上の光ファイバ(5)を伝送した光信号である,方法。
【請求項5】
光ファイバ通信信号の分散補償装置(1)であって,
光ファイバ(5)を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための光前処理回路(3)と,
前記前処理後の光信号に対して分散補償処理を行うための電気分散補償回路(7)と,
前記電気分散補償回路(7)からの出力信号の品質又は当該品質の解析モデルによる予測に基づいて,前記光前処理回路(3)及び前記電気分散補償回路(7)の駆動条件を最適化する光電処理回路最適化部(9)と,を有する,
分散補償装置(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の分散補償装置(1)であって,
前記光前処理回路(3)は,
前記光ファイバ(5)を伝送した光信号を所望の強度比で分離する強度分離部(11)と,
前記強度分離部(11)が分離した光信号の位相を調整する位相調整部(13)と,
前記強度分離部(11)が分離した光信号の遅延を調整する遅延調整部(15)と,
前記強度分離部(11)が分離し,前記位相調整部(13)及び遅延調整部(15)により位相及び遅延が調整された光信号を合波する合波部(17)とを有する,
分散補償装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,データセンタ間ネットワークやモバイルアクセス網フロントホール向けの近中距離(20~80km)大容量光ファイバ伝送システムの需要が高まっている。このため,400GBASE-ER/ZR など,光Ethernet(登録商標)規格の延伸化が盛んに議論されている.20kmを超える強度変調―直接検波(IM-DD)方式の光ファイバ伝送においては,ファイバ伝搬損失の小さい波長1550nm帯の使用が望ましい。一方,このような光ファイバ伝送においては,ファイバ色分散に起因する信号歪みが問題となる.色分散の影響は,光信号帯域幅の二乗に比例するため,特に50Gbps/レーンを超えるような広帯域IM-DD伝送においては,伝送距離の主たる制限要因となる.このため,上記延伸化の議論においては,種々の分散補償手法が検討されてきた.
【0003】
光ファイバ通信信号の分散補償方法として,電気分散補償技術が知られている。例えば,特表2019-514312号公報には,電気分散補償システムや,そのシステムを用いた分散補償方法が記載されている。電気分散補償技術は,デジタル信号処理により通信路の等化を行う.ただし,電気分散補償システムは,400GBASE-ER以上の広帯域IM-DD伝送においては,回路規模が著しく増大する傾向がある.電気分散補償システムは,論文レベルの報告では 100 タップ近い等化器が採用されることが多い.
【0004】
このため,例えば,50Gbps/レーンを超えるような広帯域伝送であり,40km(ER)/80km(ZR)といった,近中距離大容量IM-DD光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できる光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019-514312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は,近中距離大容量IM-DD光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できる光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は,基本的には,簡便な光前処理回路によって,分散による信号歪成分のうち特に電気分散補償回路の規模増大の要因となっている成分のみを事前に除去し,電気分散補償回路の簡単化を図ることにより解決できる。
【0008】
最初の発明は,光ファイバ通信信号の分散補償方法に関する。この方法は,光前処理工程と,後処理工程とを含む。
光前処理工程は,光前処理回路3が,光ファイバ5を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための工程である。
後処理工程は,電気分散補償回路7が,前処理後の光信号に対して分散補償処理を行うための工程である。
【0009】
次の発明は,光ファイバ通信信号の分散補償装置1に関する。
光ファイバ通信信号の分散補償装置1は,光前処理回路3と,電気分散補償回路7と,光電処理回路最適化部9とを有する。
光前処理回路3は,光ファイバ5を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための要素である。
電気分散補償回路7は,前処理後の光信号に対して分散補償処理を行うための要素である。
光電処理回路最適化部9は,電気分散補償回路7からの出力信号の品質又はその出力信号の品質の解析モデルによる予測に基づいて,光前処理回路3及び電気分散補償回路7の駆動条件を最適化するための要素である。
【発明の効果】
【0010】
この発明は,近中距離大容量光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できる光ファイバ通信信号の分散補償方法及び分散補償装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は,光ファイバ通信信号の分散補償装置のブロック図である。
図2図2は,光ファイバ通信信号の分散補償方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3(a)は,光電融合型分散補償のシステム概略図である。図3(b)は光前処理回路の例であるシングルタップ遅延線を示す。 φは光位相シフトであり Dは光遅延を示す。
図4図4は,実施例における実験系を示す概念図である。実施例では,光前処理回路としてシングルタップ遅延線を,電気分散補償回路としてフィードフォワード型等化器を用いている。図中,PPGはパルスパターン生成器を示し,MZMはマッハツェンダー変調器を示し,SMFはシングルモード光ファイバを示し,VOAは可変光減衰器を示し,EDFAは光増幅器を示し,FSRは自由スペクトル領域を示し,OBPFは光バンドパスフィルタを示し,PDは光検出器を示し,ADCはアナログディジタル変換を示し,FFEはフィードフォワード型等化器を示す。
図5図5(a)は,シングルタップ遅延線の有無による50kmIM-DD光ファイバ伝送システムの周波数応答を示す図面に代わるグラフである。図5(b)は,シングルタップ遅延線のない50kmIM-DD光ファイバ伝送システムの極―零点プロットを示す図面に代わるグラフである。図5(c)は,シングルタップ遅延線を使用した50kmIM-DD光ファイバ伝送システムの極-零点プロットを示す図面に代わるグラフである。
図6図6は実験結果を示す。図6(a)は光電融合型分散補償回路を使用した112Gb/sPAM4信号の50kmSMF伝送後のビット誤り率(BER)対電気補償回路タップ数を示す。図6(b)は光電気融合型分散補償回路がある場合とない場合の112Gb/sPAM4信号の50kmSMF伝送後のBER対PD入力光電力。図6(c)は光電気融合型分散補償回路を使用した50kmおよび80km60Gb/sPAM2伝送のBER対電気補償回路タップ数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0013】
図1は,光ファイバ通信信号の分散補償装置のブロック図である。図1に示されるように,光ファイバ通信信号の分散補償装置1は,光前処理回路3と,電気分散補償回路7と,光電処理回路最適化部9とを有する。
【0014】
光ファイバ通信信号の分散補償装置1
光ファイバ通信信号の分散補償装置1は,ファイバ色分散に起因する信号歪みを補償するための装置である。光ファイバ通信信号の分散補償装置1は,近中距離大容量光ファイバ伝送システム以上の光ファイバ伝送システムに対して好ましく用いることができる。
光ファイバによる伝送距離の例は,20km以上1000km以下であり,40km以上500km以下でもよいし,40km以上100km以下でもよいし,40km以上80km以下でもよい。
光ファイバ通信の帯域幅の例は,10Gbps/レーン以上1000Gbps/レーン以下であり,20Gbps/レーン以上500Gbps/レーン以下でもよく,40Gbps/レーン以上500Gbps/レーン以下でもよいし,50Gbps/レーン以上1000Gbps/レーン以下でもよいし,50Gbps/レーン以上500Gbps/レーン以下でもよいし,100Gbps/レーン以上500Gbps/レーン以下でもよい。
光ファイバ通信に用いられる光の波長の例は,256nm以上3200nm以下であり,500nm以上2500nm以下でもよいし,1000nm以上2000nm以下でもよい。
具体的な光信号の例は,IM-DD方式に基づく50Gbps/レーン以上の広帯域伝送により,20km以上の光ファイバを伝送した光信号である。
【0015】
光前処理回路3
光前処理回路3は,光ファイバ5を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための要素である。上記の機能を実現するため,光前処理回路3は,例えば,強度分離部11と,位相調整部13と,遅延調整部15と,合波部17とを有する。このような光前処理回路3の例は,光遅延干渉計やマッハツェンダー型光変調器である。
【0016】
強度分離部11は,光ファイバ5を伝送した光信号を所望の強度比で分離するための要素である。例えば,カプラが強度分離部11として機能する。分岐される導波路の数の例は2である。もっとも,分岐される導波路は2以上であってもよい。各導波路に分離される光の強度比を調整する方法は公知である。
【0017】
位相調整部13は,強度分離部11が分離した光信号の位相を調整するための要素である。通常は,導波路の何れかに設けられた位相変調器が,位相調整部13として機能する。位相調整部13は,分波された光信号の相対的な位相を調整する。位相変調器は,信号源からの駆動信号により,光信号の位相を調整することができ,これにより分波された2つの光信号の相対的な位相を調整できる。
【0018】
遅延調整部15は,強度分離部11が分離した光信号の遅延を調整するための要素である。通常は,導波路の経路長差調整回路が遅延調整部15として機能する。遅延調整部15は,強度分離部11が分離した光信号の相対的な時間差を調整する。遅延調整部15は,信号源からの駆動信号により,光信号の遅延を調整することができ,これにより分波された2つの光信号の相対的な遅延差を調整できる。
【0019】
合波部17は,強度分離部11が分離し,位相調整部13及び遅延調整部15により位相及び遅延が調整された光信号を合波するための要素である。最も,位相差及び遅延差を与えない場合の光信号も,位相及び遅延が調整された光信号に含まれる。
【0020】
光前処理回路3が上記の構成を有するので,光-電気変換後に不安定零点や極点となる成分を事前に除去することができる。また,光前処理回路3の駆動条件と,後述する電気分散補償回路7の駆動条件とを合わせて最適化することで,電気分散補償回路を簡素化でき,中距離大容量光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できることとなる。
【0021】
電気分散補償回路7
電気分散補償回路7は,前処理後の光信号に対して分散補償処理を行うための要素である。電気分散補償回路7の基本構成は,公知である。電気分散補償回路7の例は,特許第5658991号に記載された電気分散補償器(電気信号の群遅延特性を有する反射型のマイクロストリップ線路から構成された電気分散補償器)や,特開2010-278528号公報に記載された電気分散補償回路である。電気分散補償回路7として,フィードバック等化器,フィードフォワード等化器,及び信号判定回路のいずれかを用いてもよい。フィードバック等化器の例は,判定帰還等化器である。フィードフォワード等化器の例は,
FIRフィルタ,周波数領域等化器,及びボルテラフィルタ(Volterra filter)である。信号判定回路の例は,最尤推定回路である。
【0022】
光電処理回路最適化部9
光電処理回路最適化部9は,電気分散補償回路7からの出力信号の品質又は出力信号の品質の解析モデルによる予測に基づいて,光前処理回路3及び電気分散補償回路7の駆動条件を最適化するための要素である。最適化は,実際の出力信号に基づいて適応的に行ってもよいし,出力信号の品質についての解析解を用いて事前に行ってもよい。例えば,光電処理回路最適化部9は,電気分散補償回路7からの出力信号のビット誤り率特性やその解析モデルによる予測値に基づいて,位相調整部13と遅延調整部15との駆動信号や,電気分散補償回路7のタップ係数やタップ数を適応的に最適化する。出力信号の品質(例えばビット誤り率特性)を予測するための解析モデルは公知である。このため公知の解析モデルを用いて予測値を得ればよい。光電処理回路最適化部9は,例えば,出力信号のパラメータを測定するセンサから,測定値を受け取る。そして,光電処理回路最適化部9は,記憶部に記憶されたプログラムを読み出し,出力信号の測定値を用いて,演算部に各種演算を行わせ,光前処理回路3と電気分散補償回路7の駆動条件を最適化すればよい。プログラムは,例えば,公知の機械学習アルゴリズムを含んでいてもよい。
【0023】
光前処理回路3及び電気分散補償回路7の設計(設計最適化工程)
光電処理回路最適化部9が,後処理工程の出力信号の品質又は出力信号の解析モデルによる予測に基づいて,光前処理回路3における光信号分岐数及び干渉方法,並びに電気分散補償回路7の加減回路数及び乗除回路数を求めてもよい。このようにして,光電処理回路最適化部9は,光前処理回路3及び電気分散補償回路7を設計できる。この態様は,光ファイバ通信信号の分散補償装置1の構築(製造)方法ともいえる。光電処理回路最適化部9は,例えば,出力信号のパラメータを測定するセンサから,測定値を受け取る。そして,光電処理回路最適化部9は,記憶部に記憶されたプログラムを読み出し,出力信号の測定値を用いて,演算部に各種演算を行わせ,光前処理回路3における光信号分岐数及び干渉方法,並びに電気分散補償回路7の加減回路数及び乗除回路数を求めることができる。プログラムは,例えば,公知の機械学習アルゴリズムを含んでいてもよい。干渉方法を求める例は,それぞれの導波路における位相変調器13や遅延調整部15の駆動条件を求めるものである。
【0024】
光ファイバ通信信号の分散補償方法
次に,上記の装置を用いた光ファイバ通信信号の分散補償方法について説明する。図2は,光ファイバ通信信号の分散補償方法を説明するためのフローチャートである。図2に示される通り,この方法は,光前処理工程(S101)と,後処理工程(S102)とを含む。この方法は,駆動条件最適化工程(S103)をさらに含んでもよい。
【0025】
光前処理工程(S101)は,光前処理回路3が,光ファイバ5を伝送した光信号を分岐及び干渉させ,前処理後の光信号を得るための工程である。
【0026】
後処理工程(S102)は,電気分散補償回路7が,前処理後の光信号に対して分散補償処理を行うための工程である。
【0027】
駆動条件最適化工程(S103)は,光電処理回路最適化部9が,後処理工程の出力信号の品質に基づいて,光前処理回路3及び電気分散補償回路7の駆動条件を最適化するための工程である。この工程が,光前処理回路3及び電気分散補償回路7の駆動条件を同時に最適化するので,近中距離大容量光ファイバ伝送システムを現実的な回路規模で実装できる光ファイバ通信信号の分散補償方法を提供できることとなる。駆動条件を最適化した後は,最適化した条件を用いて,光前処理工程(S101)及び後処理工程(S102)を行ってもよい。
【実施例0028】
実装系のコンセプト
図3(a)は,近中距離IM-DD光ファイバ伝送のための光電融合型分散補償回路の概念を示す図である。光電融合型分散補償回路の光前処理回路の目的は,ファイバ分散による信号歪成分のうち,電気分散補償回路の規模増大につながる成分を光領域で事前に除去することである。光回路は,シンプルかつ低コストで,可能であればパッシブな光学素子のみで構成されることが望ましい。光電融合型分散補償回路出力における信号品質やその解析モデルによる予測に基づき,光学前処理回路及び電気分散補償回路のパラメータを適応的に,あるいは事前に最適化することで補償回路全体としての複雑さと消費電力を大幅に削減することが可能である。電気分散補償回路の。
図3(b)は,光前処理回路の最も簡便な実現の1つであるシングルタップ遅延線を示す。この光学部品は1x2光分波器,位相変調器,光遅延および2x1光合波器で構成され,必要に応じて導波路型光回路として集積化することもできある。
【0029】
実験系
図4は,1550nm帯高速光PAM伝送の実験装置を示す図である。送信機側では,パルスパターン生成器(PPG,アンリツ)から56GBdの電気PAM4信号を生成し,マッハツェンダー変調器(MZM,3dB帯域幅約25GHz)を用いて,1547nmの光キャリア(NKT Coheras Basik)をPAM方式で変調した。変調信号は50kmのシングルモードファイバ(SMF)上を伝送され,,光増幅器(EDFA)により増幅された後,遅延(D)が約8psのシングルタップ遅延線によって前処理された。光前処理回路出力光信号は,50GHz光検出器(PD)によって検出され,160GSa/sアナログ-デジタルコンバータ(ADC,Agilentリアルタイムオシロスコープ)によって測定された。電気分散補償及びPAM復調はオフライン処理にて行った。電気分散補償には,特に簡素なフィードフォワード型等化器(FFE)を用いた。特性評価は,復調後ビット誤り率(BER)によって行った。
【0030】
結果
図5(a)は,強度変調―直接検波(IM-DD)方式の50km光ファイバ伝送において,シングルタップ遅延線を用いる場合と用いない場合のシステム全体の周波数応答を示す図面に代わるグラフである。図5(b)は,シングルタップ遅延線を用いない場合の50kmIM-DD光ファイバ伝送システムの極―零点プロットを示す図面に代わるグラフである。図5(c)は,シングルタップ遅延線を使用した50kmIM-DD光ファイバ伝送システムの極-零点プロットを示す図面に代わるグラフである。
【0031】
図5(a)ではシステム全体の周波数応答にファイバ色分散に起因する5つの周波数ノッチが存在する。また図5(b)では,この5つのノッチに対応する,5つの不安定極―零点が上半面単位円周上に存在する。このことは,ファイバ分散の影響によりIM-DDシステムが不安定零―極を持つ非最小位相系システムとなっていることを示している。非最小位相系のシステムでは,FFEなど通常の電気分散補償回路では雑音増強が発生し,効率的に分散補償ができない。一方,図5(c)のように,シングルタップ遅延線を用いた場合,不安定零―極点(の一部)が除去されるため,FFEなどを用いて分散に起因する信号歪を効率的に補償することが可能となる。
【0032】
図6(a)は,PD入力光パワーが3dBmの場合の,56Gbaud(112Gb/s) PAM4伝送のBER特性とFFEタップの数の関係を示す。光前処理回路を用いることで31タップのFFEにより,6.7%冗長度の硬判定誤り訂正符号(HD-FEC)を用いたエラーフリー伝送に必要な閾値BERを達成している。
【0033】
図6(b)は,光電融合型分散補償回路(シングルタップ遅延線及び31タップFFE)を採用した50kmPAM4伝送のBER対受信光電力を示す。図6(b)では,比較のためシングルタップ遅延線を用いない,電気分散補償のみの場合のBER特性も示されている。光電融合型分散補償を用いる場合,入力電力は3dBm以上で6.7% HD-FECの閾値BERを達成できている。一方,光前処理を用いない場合,3倍の回路規模をもつDFEを用いても,閾値BERを達成できていない。
【0034】
また,図6(c)は,光電融合型分散補償を用いた80km(ZR)60Gb/sPAM2伝送のBER対FFEタップ長である。シングルタップ遅延線と電気分散補償を組み合わせることで,23タップのFFEのみでKP4 FECの閾値BERを達成している。また図6(c)では,80kmと同じ光前処理回路を用いた50km伝送60Gb/sPAM2伝送のBER特性についても示している。特に光学系の変更なく,13タップFFEのみで閾値BERを達成している。
【0035】
考察
実験より,電気分散補償回路の複雑化の要因となるファイバ分散に起因する不安定零―極点の発生が,簡便なシングルタップ遅延線により効率的に回避できること,またそれにより,31タップ程度の軽量なFFEにより所望のBER特性が達成可能となることが実証さ,本発明の光電融合型分散補償技術の有効性が示された。光電融合型分散補償にもちいる光遅延線やFFEの出力信号特性の解析解は比較的容易に導出可能であることから,光電融合型分散補償回路の最適設計は解析解に基づいて事前に行うことも可能である.
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明は,情報通信産業において利用されうる。
この発明の分散補償装置における電気分散補償回路は,既存の Ethernet(登録商標)向けPAM4送受信機の信号処理回路と共通部分が多い。また,分散補償装置における光前処理回路3は数mm程度のパッシブな光導波路で実装できる。このため,この発明の分散補償装置は,既存送受信機のファイバコネクタ部分に遅延干渉計モジュールを装着するだけで,既存送受信機の大幅な改修なしに,延伸化を実現するような用途が期待される。
【符号の説明】
【0037】
1 光ファイバ通信信号の分散補償装置
3 光前処理回路
5 光ファイバ
7 電気分散補償回路
9 光電処理回路最適化部
11 強度分離部
13 位相調整部
15 遅延調整部
17 合波部
図1
図2
図3
図4
図5
図6