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特開2023-16391インサート挿入工具及びこれを備えるロボット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016391
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】インサート挿入工具及びこれを備えるロボット
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/14 20060101AFI20230126BHJP
   B25J 17/02 20060101ALI20230126BHJP
   B23P 19/06 20060101ALN20230126BHJP
【FI】
B25B27/14 C
B25J17/02 H
B23P19/06 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120661
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】来田 宏
(72)【発明者】
【氏名】中川 智昭
(72)【発明者】
【氏名】水上 綾子
(72)【発明者】
【氏名】小林 明也
(72)【発明者】
【氏名】真船 潤
【テーマコード(参考)】
3C031
3C707
【Fターム(参考)】
3C031EE37
3C707AS06
3C707BS03
3C707BT19
3C707CY23
3C707HS24
(57)【要約】
【課題】フローティング機構による押圧力を吸収する機能を備えつつ、移動時等における振動を抑制することができるインサート挿入工具及びこれを備えるロボットを提案する。
【解決手段】インサート挿入工具1は、コイル状のインサートiに螺合する雄ねじ部11cを有する可動部10、11と、可動部10、11を上下方向に移動可能に支持する固定部5、6、7と、可動部10、11を上方に付勢する弾性部9とを有するフローティング機構を備え、可動部10、11の上下方向の移動を抑制する抑制機構8、11dを備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状のインサートに螺合する雄ねじ部を有する可動部と、前記可動部を上下方向に移動可能に支持する固定部と、前記可動部を上方に付勢する弾性部とを有するフローティング機構を備えるインサート挿入工具において、
前記可動部の上下方向の移動を抑制する抑制機構を備えるインサート挿入工具。
【請求項2】
前記抑制機構は、
前記可動部と前記固定部の何れか一方に設けられる磁性体部と、
前記可動部と前記固定部の何れか他方に設けられ、前記磁性体部に向けた磁力の発生・消滅を切り替え可能な電磁石部とを有する請求項1に記載のインサート挿入工具。
【請求項3】
前記抑制機構は、
前記可動部と前記固定部の何れか一方に設けられて前記可動部と前記固定部の何れか他方に対して進退移動可能な移動部と、前記移動部に設けられる接触部と、を備え、
前記移動部によって前進すると前記接触部が前記可動部と前記固定部の何れか他方に接触する請求項1に記載のインサート挿入工具。
【請求項4】
前記雄ねじ部を回転させる回転機構と、
前記回転機構及び前記抑制機構の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記雄ねじ部が回転する状態では前記可動部の上下方向の移動が可能な状態となり、前記雄ねじ部の回転が停止する状態では前記可動部の上下方向の移動が抑制状態となるように前記回転機構及び前記抑制機構の動作を制御する請求項1~3の何れか一項に記載のインサート挿入工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のインサート挿入工具を備えるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの雌ねじ部にインサートを挿入するためのインサート挿入工具及びこれを備えるロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、例えばアルミニウム等の軽金属や合成樹脂のような比較的強度が弱い母材によって形成されたワークを使用する場合において、事前にワークの雌ねじ部にインサートを挿入したものを用いることがある。インサートは、ねじ締結時に母材に与える負荷を軽減することができるため、ねじを締結した際に生じるワークの破損を防止することが可能である。またインサートによって、ねじによる締結力を増加させることもできる。
【0003】
このようなインサートとして、菱形断面の鋼材線を巻き回して円筒圧縮コイルばねの如き形状で形成され、外周側が雄ねじ状であって内周側が雌ねじ状であるコイル状のインサートが既知である。また、コイル状のインサートをワークの雌ねじ部に挿入する際に使用される工具として、インサートの内側に設けられる雌ねじ状の部位に螺合する雄ねじ部を備えたインサート挿入工具も知られている。
【0004】
インサート挿入工具を用いてワークの雌ねじ部にインサートを挿入するにあたっては、まず、インサート供給装置等により供給されるインサートに対し、上述した雄ねじ部を回転させた状態で接近させ更に接触させることにより、インサートの内側に設けられる雌ねじ状の部位と雄ねじ部とを螺合させる工程が実行される。そして、インサートを螺合させた雄ねじ部を、ワークに設けた雌ねじ部の直上へ移動させ、雄ねじ部を回転させた状態で下降させる。これにより、インサートの外側に設けられる雄ねじ状の部位とワークの雌ねじ部とが螺合して、インサートが雌ねじ部に挿入される。その後は、インサート挿入工具の雄ねじ部を逆回転させることにより、インサートをワークに残したまま雄ねじ部のみが引き抜かれ、インサートのワークへの挿入作業が完了する。
【0005】
ところでコイル状のインサートは、上述したように円筒圧縮コイルばねの如き形態であって、ねじとばねの両方の性質を持つため、過大な力を付与すると変形してしまう。すなわち、インサート挿入工具の雄ねじ部をインサートに螺合させるにあたり、雄ねじ部がインサートに接触するときに生じる押圧力でインサートが変形するおそれがある。
【0006】
このような問題に鑑み、インサート挿入工具における雄ねじ部からの押圧力を吸収してインサートの変形を防止することができるフローティング機構が提案されている。例えば特許文献1には、雄ねじ部を備える回転ドライバ部とスライドとを板ばね(第1板ばね手段)を介して接続することで、雄ねじ部がインサートに接触する際の押圧力を吸収することが可能なフローティング機構が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-320440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようにフローティング機構は、雄ねじ部を備える部位をばねによって浮かせるように構成している。一方、このようなフローティング機構は、雄ねじ部をインサートに接近させ更に接触させる場合以外においては、不具合を生じさせることがある。例えば、雄ねじ部をインサートの近傍まで移動させるときや、雄ねじ部に螺合させたインサートをワークの近傍まで移動させるときには、移動時の加速度変化によって、雄ねじ部を備える回転ドライバ部が上下方向に大きく振動することがある。そして振動した状態のままで雄ねじ部をインサートの近傍やワークの近傍まで移動させると、インサートやワークに衝突してこれらを破損させるおそれがある。また振動が収まるまで待機していると、作業時間が長くなって作業性が低下してしまう。
【0009】
このような問題点に鑑み、本発明は、フローティング機構による押圧力を吸収する機能を備えつつ、移動時等における振動を抑制することができるインサート挿入工具及びこれを備えるロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コイル状のインサートに螺合する雄ねじ部を有する可動部と、前記可動部を上下方向に移動可能に支持する固定部と、前記可動部を上方に付勢する弾性部とを有するフローティング機構を備えるインサート挿入工具において、前記可動部の上下方向の移動を抑制する抑制機構を備えることを特徴とする。
【0011】
このようなインサート挿入工具において、前記抑制機構は、前記可動部と前記固定部の何れか一方に設けられる磁性体部と、前記可動部と前記固定部の何れか他方に設けられ、前記磁性体部に向けた磁力の発生・消滅を切り替え可能な電磁石部とを有することが好ましい。
【0012】
またこのようなインサート挿入工具において、前記抑制機構は、前記可動部と前記固定部の何れか一方に設けられて前記可動部と前記固定部の何れか他方に対して進退移動可能な移動部と、前記移動部に設けられる接触部と、を備え、前記移動部によって前進すると前記接触部が前記可動部と前記固定部の何れか他方に接触するように構成することが好ましい。
【0013】
またこのようなインサート挿入工具において、前記雄ねじ部を回転させる回転機構と、前記回転機構及び前記抑制機構の動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記雄ねじ部が回転する状態では前記可動部の上下方向の移動が可能な状態となり、前記雄ねじ部の回転が停止する状態では前記可動部の上下方向の移動が抑制状態となるように前記回転機構及び前記抑制機構の動作を制御することが好ましい。
【0014】
また本発明は、上述したインサート挿入工具の何れか一つを備えるロボットでもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインサート挿入工具及びこれを備えるロボットによれば、インサート挿入工具の雄ねじ部がインサートに接触する作業が行われるときには、フローティング機構によってインサートに作用する雄ねじ部からの押圧力を吸収することができる。また抑制機構によって、雄ねじ部を有する可動部の上下方向の移動を抑制することができるため、従来、雄ねじ部が振動する可能性があった作業(例えば雄ねじ部をインサートの近傍まで移動させる作業)において、雄ねじ部の振動を抑えることができる。このため、従来問題とされていたインサートやワークに衝突してこれらを破損させてしまうことがなく、また作業時間が長くなることもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るインサート挿入工具及びこれを備えるロボットを用いたインサート挿入装置の一実施形態を示した概略図である。
図2図1に示したインサート挿入装置に関し、(a)はインサート挿入工具周辺の部分拡大図であり、(b)は回転ドライバ部周辺における側面視での断面図である。
図3図1に示したインサート挿入装置のブロック図である。
図4図1に示したインサート挿入装置でインサートをワークに挿入する工程を示した説明図である。
図5図1に示したインサート挿入工具で図4に示した工程を実行するための教示データを示した図である。
図6】本発明に係るインサート挿入工具の他の実施形態に関し、(a)はインサート挿入工具周辺の部分拡大図であり、(b)は抑制機構が作用した状態での回転ドライバ部周辺における側面視での断面図であり、(c)は抑制機構が作用していない状態での回転ドライバ部周辺における側面視での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るインサート挿入工具及びこれを備えるロボットを採用したインサート挿入装置の一実施形態であるインサート挿入装置1について説明する。以下の説明においては、便宜上、図面に示した右、左、前、後、上、下、及びX、Y、Zの向きで説明することとする。
【0018】
図1に示すように本実施形態のインサート挿入装置1は、インサート挿入工具2、インサート挿入工具2をワークWに対して3次元的に移動させるロボット3、及びインサートi(図4参照)をインサート挿入工具2に供給するインサート供給装置4で構成される。本実施形態のワークWは、図4(e)に示すように雌ねじ部Tを備えている。
【0019】
図2(a)に示すようにインサート挿入工具2は、後述するロボット3のZユニット18に取り付けられるベース5を備えている。本実施形態のベース5は板状であって、その左右方向中央部には、図示したように切欠き部5aが設けられている。またベース5は、この切欠き部5aを挟んで左右両側に円形の穴を備えていて、この穴には、円柱状のスライドシャフト6が上下方向に指向した状態で取り付けられる。本実施形態においてスライドシャフト6は、止めねじS1によってベース5に保持されている。そしてベース5の前方には、板状の固定プレート7がねじS2によって取り付けられる。固定プレート7の後面における左右方向中央部には、ねじS2によって電磁石部8が取り付けられる。電磁石部8は、通電されると磁力を発生させて通電を停止すると磁力が消滅する。
【0020】
またインサート挿入工具2は、2つのスライドシャフト6にそれぞれ挿通されるコイル状の圧縮ばね9を備えている。
【0021】
更にインサート挿入工具2は、2つのスライドシャフト6がそれぞれ挿通される2つの穴を有し、スライドシャフト6に対して上下方向に移動可能な可動プレート10を備えている。図示したように可動プレート10は、ベース5との間に圧縮ばね9を介在させた状態でスライドシャフト6に挿通されている。すなわち可動プレート10は、圧縮ばね9によって上方に付勢された状態で支持されている。
【0022】
本実施形態の可動プレート10は、左右方向中央部にも穴を備えていて、この穴には、止めねじS1によって回転ドライバ部11が保持される。回転ドライバ部11は、回転ドライバモータ11a(図3参照)を内蔵した本体部11bと、回転ドライバモータ11aによって回転する雄ねじ部11cとを備えていて、本体部11bに対して雄ねじ部11cが下方に位置する状態で可動プレート10に取り付けられる。可動プレート10に取り付けられた回転ドライバ部11は、可動プレート10がスライドシャフト6に挿通された際、上述した切欠き部5aの内側に収まる。なお、図2(b)に示すように可動プレート10をスライドシャフト6に取り付けた際、本体部11bとベース5の間には微小な隙間G1があいていて、本体部11bと電磁石部8との間には、微小な隙間G2がある。
【0023】
本実施形態の本体部11bは、少なくとも一部(詳細には、可動プレート10が圧縮ばね9によって支持された状態において少なくとも電磁石部8に対向する部分)に、磁性体部11dを備えている。磁性体部11dは、電磁石部8からの磁力によって電磁石部8に吸引される又は反発する磁性体として機能するものである。磁性体部11dは、鉄等の軟質磁性体でもよいし、永久磁石等の硬質磁性体でもよい。本実施形態においては、本体部11bにおける外側ケースを構成する素材が軟質磁性体であって、本体部11bの全体を磁性体部11dとして機能させている。
【0024】
雄ねじ部11cは、図4(a)に示すように、インサートiの内側に設けられた雌ねじ状の部位に適合する雄ねじ形状となっている。また雄ねじ部11cの先端には、インサートiの内側に設けた凹状のノッチNに係合するフック11eが設けられている。フック11eは、インサートiに対し径方向内側及び外側に向けて移動可能であって、径方向外側に付勢されている。
【0025】
またインサート挿入工具2は、図3に示した挿入工具制御部12を備えている。挿入工具制御部12は、電磁石部8、及び回転ドライバモータ11aと電気的に接続される。
【0026】
なお上述したように、可動プレート10をスライドシャフト6に取り付けた際、本体部11bに対してベース5と電磁石部8の間には微小な隙間G1、G2がある。また可動プレート10はスライドシャフト6に対して上下方向に移動可能である。すなわち回転ドライバ部11が取り付けられた可動プレート10は、上下方向には固定されておらず、可動プレート10と回転ドライバ部11の自重と圧縮ばね9の付勢力が釣り合う位置において静止していて、言わば浮いている状態を保っている。従ってこの状態で回転ドライバ部11に上方向又は下方向の力が加わる場合、力の大きさは微小であっても回転ドライバ部11はベース5に対して上方向又は下方向に移動するため、加わる力を吸収することができる。
【0027】
このように本実施形態においては、ベース5、スライドシャフト6、固定プレート7、及びこれらの周辺部材(本明細書の「固定部」に相当する)と、可動プレート10、回転ドライバ部11、及びこれらの周辺部材(本明細書の「可動部」に相当する)と、圧縮ばね9(本明細書の「弾性部」に相当する)によって、フローティング機構を構成している。
【0028】
一方、電磁石部8が発生する磁力によって、本体部11bの磁性体部11dが電磁石部8に吸着すると、可動プレート10は電磁石部8に対して固定された状態になるため、上下方向への移動が抑制される。つまり、通電により電磁石部8に磁力が発生し、磁性体部11dが電磁石部8に引き寄せられる。それによる磁性体部11dと電磁石部8との接触、もしくは磁性体部11dに発生するモーメントにより、可動プレート10が上下方向に移動する際に抵抗力が生じる。そして通電が停止されると、電磁石部8による磁力が消滅するため、可動プレート10が上下方向に移動する際の抵抗力も消滅する。なお、磁性体部11dに対して電磁石部8から反発力を作用させる場合(例えば、磁性体部11dとして電磁石部8からの磁力に反発する永久磁石を使用する場合)も、本体部11bにモーメントが発生するため、可動プレート10が上下方向に移動する際に抵抗力が生じて可動プレート10の上下方向の移動を抑制することができる。
【0029】
このように本実施形態においては、電磁石部8と磁性体部11dによって、可動プレート10の上下方向の移動を抑制する抑制機構を構成している。
【0030】
なお、上述した回転ドライバモータ11aは、本明細書の「回転機構」に相当する。また挿入工具制御部12は、本明細書の「制御部」に相当する。
【0031】
次にロボット3について説明する。本実施形態のロボット3は、図1に示すようにロボットベース13と、ロボットベース13の左右に設けられた一対のコラム14と、コラム14に掛け渡されたアーム15とを備えている。ロボットベース13の前面には、作業者が教示データ(ティーチングデータ)を入力する際や各種操作を行う際に使用する教示・操作部16が設けられている。またロボット3は、ロボットベース13の上面に設けられてワークWをX軸方向に移動させるXテーブル17を備えている。更にロボット3は、インサート挿入工具2のベース5が取り付けられてインサート挿入工具2をZ軸方向に移動させるZユニット18と、Zユニット18を保持するとともにアーム15に対してY軸方向に移動可能なYユニット19とを備えている。
【0032】
またロボット3は、図3に示したロボット制御部20を備えている。ロボット制御部20は、上述したXテーブル17、Zユニット18、及びYユニット19に設けられるX駆動モータ17a、Z駆動モータ18a、Y駆動モータ19aと電気的に接続される。またロボット制御部20には、上述した教示・操作部16と、ロボット3を動作させるプログラムや教示・操作部16等から入力した教示データを記憶させたプログラム・教示データ記憶部21が電気的に接続される。更にロボット制御部20には、上述した挿入工具制御部12と、インサート供給装置4に設けた後述する供給装置制御部23が電気的に接続されていて、これによりインサート挿入工具2、ロボット3、及びインサート供給装置4は、協働して所定の作業を実行する。
【0033】
図5は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶させた教示データの一例を示している。図5に示した教示データでは、ポイント番号毎に、Xテーブル17とYユニット19とZユニット18の位置座標、つまりワークにWに対するインサート挿入工具2の移動先の位置座標、そしてその移動時の速度条件、移動後にロボット制御部20が実行(出力)する命令が設定されている。なお、図5に示した位置座標XYZに添えた数字、及び速度条件Vに添えた数字は、ポイント番号Pに添えた数字に対応することを意味するものであって、添えた数字が異なっていても位置座標や速度は変わらないことがある。例えばポイント番号P1における位置座標Y1とポイント番号P2における位置座標Y2は、以下の説明においては同一の位置である。そしてロボット制御部20は、この教示データをポイント番号順に読み込み、各ポイント番号に対応する指令を順次発信して、インサート挿入工具2、ロボット3、及びインサート供給装置4に対して所定の作業を実行させる。
【0034】
次にインサート供給装置4について説明する。本実施形態のインサート供給装置4は、図1に示すようにロボットベース13の上面に設けられる。インサート供給装置4は、図3に示した供給装置駆動モータ22と、供給装置駆動モータ22と電気的に接続される供給装置制御部23を備えている。なお構成に関する詳細な説明は省略するが、インサート供給装置4は、供給装置駆動モータ22を駆動させることによって、インサート供給装置4にバラ積み状態で収納されたインサートiを整列させながら所定の供給位置に移動させることができる。
【0035】
次に、本実施形態のインサート挿入装置1によってインサートiをワークWの雌ねじ部Tに挿入する工程について、図4図5を参照しながら説明する。
【0036】
まず挿入作業開始にあたり、ワークWを載置したXテーブル17とインサート挿入工具2は、図5に示したポイント番号P0の教示データに基づいて、ホームポジション(Xテーブル17はX軸方向における位置X0、インサート挿入工具2はY軸方向及びZ軸方向における位置Y0、Z0)で待機しているものとする。またこの状態において、回転ドライバモータ11aはOFF(回転停止)であって、電磁石部8はON(磁力発生)である。すなわち、この状態において雄ねじ部11cは回転しておらず、また可動プレート10の上下方向の移動は抑制された状態にある。
【0037】
そして教示・操作部16からの操作によって作業開始の指令を受信すると、ロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P1の教示データに基づいて、Xテーブル17を速度V1で位置X1に移動させ、インサート挿入工具2を速度V1で位置Y1、Z1の位置に移動させる。移動後においてインサート挿入工具2の雄ねじ部11cは、インサート供給装置4におけるインサートiの供給位置の直上に位置する。なお、インサート挿入工具2が移動する際、回転ドライバモータ11aはOFFであり電磁石部8はONであるため、可動プレート10の上下方向の移動は抑制された状態にある。すなわち、インサート挿入工具2の移動に伴う回転ドライバ部11の上下の振動が抑えられるため、移動後直ちに雄ねじ部11cをインサートiの近傍に動かしても、雄ねじ部11cとインサートiとの衝突を防止することができる。そしてインサート挿入工具2が位置Y1、Z1の位置に移動した後は、ロボット制御部20は、回転ドライバモータ11aをON(回転方向はCW)にし電磁石部8をOFFにする。これにより、雄ねじ部11cは時計回りに回転し(図4(a)参照)、また可動プレート10は、上下方向に自由に移動できる状態になる。
【0038】
次いでロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P2の教示データに基づいて、Zユニット18を速度V2で下降させる(図4(b)参照)。下降中において雄ねじ部11cは回転しているため、インサートiの内側に設けられた雌ねじ状の部位と雄ねじ部11cが係合し、雄ねじ部11cはインサートiに引込まれる。一方、インサートiの形状のばらつきやインサート供給装置4で供給される際のインサートiの姿勢によっては、実際に雄ねじ部11cがインサートiに引込まれる量は教示データに基づくZユニット18の下降量に対して多少ずれることがある。しかし、Zユニット18が下降する際に電磁石部8はOFFであって、可動プレート10は上下方向に自由に移動できる状態にあるため、このずれが吸収されて、雄ねじ部11cからインサートiに過剰な力が加わることがない。そして雄ねじ部11cとインサートiとの螺合が進むと、雄ねじ部11cの先端に設けたフック11eがインサートiのノッチNに係合する。なお、Zユニット18が所定の位置まで下降すると、ロボット制御部20は、回転ドライバモータ11aをOFFにし電磁石部8をONにする。従って、雄ねじ部11cの回転は停止し、可動プレート10の上下方向の移動は抑制された状態になる。
【0039】
その後ロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P3の教示データに基づいて、Zユニット18を速度V3で上昇させる(図4(c)参照)。上昇中においても、また上昇が完了してインサートiがインサート供給装置4から持ち上げられた状態においても(図4(d)参照)、回転ドライバモータ11aはOFFであって電磁石部8はONであるため、雄ねじ部11cの回転は停止し、可動プレート10の上下方向の移動は抑制された状態にある。
【0040】
しかる後ロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P4の教示データに基づいてインサート挿入工具2を速度V4で移動させる。これによりインサートiが螺合した雄ねじ部11cは、ワークWの雌ねじ部Tの直上へ移動する。なお、雄ねじ部11cが雌ねじ部Tの直上へ移動するときも、回転ドライバモータ11aはOFFであり電磁石部8はONであるため、回転ドライバ部11の上下の振動が抑えられている。従って、本実施形態のインサート挿入工具2によれば、従来必要であった移動中の振動が収まるまでの停止時間は不要であるため、雄ねじ部11cを雌ねじ部Tの直上へ移動させた後は直ちに次の動作を開始することができる。そして雄ねじ部11cを雌ねじ部Tの直上へ移動させた後、ロボット制御部20は、回転ドライバモータ11aをON(回転方向はCW)にし電磁石部8をOFFにする。これにより、雄ねじ部11cは時計回りに回転し、また可動プレート10は、上下方向に自由に移動できる状態になる(図4(e)参照)。
【0041】
次いでロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P5の教示データに基づいて、Zユニット18を速度V5で下降させる(図4(f)参照)。下降中において雄ねじ部11cは回転しているため、インサートiの外側に設けられた雄ねじ状の部位とワークWの雌ねじ部Tが係合し、インサートiを保持した雄ねじ部11cは、雌ねじ部Tに引込まれる。一方、雌ねじ部Tは、ワークWにこれを形成する際の加工精度や雌ねじ部Tにおけるねじ部開始位置のばらつき等によって、実際に雄ねじ部11cが雌ねじ部Tに引込まれる量は、教示データに基づくZユニット18の下降量に対して多少ずれることがある。しかし、Zユニット18が下降する際に電磁石部8はOFFであり、可動プレート10は上下方向に自由に移動できる状態にあるため、このずれが吸収されて、雄ねじ部11cからインサートiに過剰な力が加わることや、インサートiを介して雌ねじ部Tに過剰な力が加わることがない。そしてZユニット18が所定の位置まで下降すると、ロボット制御部20は、回転ドライバモータ11aの回転方向を逆転させる(回転方向はCCWで回転ドライバモータ11aをONにする)。またこのとき、電磁石部8はOFFのままとする。
【0042】
その後ロボット制御部20は、プログラム・教示データ記憶部21に記憶したポイント番号P6の教示データに基づいて、Zユニット18を速度V6で上昇させる(図4(g)参照)。上昇中において、雄ねじ部11cは反時計回りに回転するため、雄ねじ部11cとインサートiとの螺合が解除され、インサートiをワークWに残したまま雄ねじ部11cのみを上昇させることができる(図4(h)参照)。なお、雄ねじ部11cとインサートiとの螺合が解除される際の雄ねじ部11cの上昇量と教示データに基づくZユニット18の上昇量は、インサートiのばらつき等によってずれることがある。しかし、Zユニット18が上昇する際に電磁石部8はOFFであり、可動プレート10は上下方向に自由に移動できる状態にあるため、このずれを吸収することができる。
【0043】
Zユニット18の上昇が完了すると、ロボット制御部20は、回転ドライバモータ11aをOFFにし電磁石部8をONにして、インサートiをワークWに挿入する1つの作業が完了する。引き続き次のインサートiを挿入する作業が行われる場合は、ロボット制御部20はポイント番号P1~P6の工程を再び実行する。また全ての作業が終了した後は、ロボット制御部20はポイント番号P0の工程を実行し、作業者に対して全作業が完了したことを報知する。
【0044】
以上、本発明を具現化した実施形態について例示したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0045】
例えば上述した実施形態では、可動プレート10の上下方向の移動を抑制する抑制機構として電磁石部8と磁性体部11dを用いたが、その他の構成でも実現可能である。
【0046】
図6は、抑制機構としてソレノイド24を用いたインサート挿入工具2を示している。本実施形態のソレノイド24は、固定プレート7の後面に取り付けられるソレノイド本体24aと、プランジャ24bと、プランジャ24bの先端に設けられたゴム部24cとを備えている。またソレノイド本体24aは、図3に示した挿入工具制御部12に電気的に接続される。本実施形態のソレノイド24は所謂プル型ソレノイドであって、プランジャ24bは、ソレノイド本体24aの内部に設けた不図示のスプリング機構によって突出する一方、ソレノイド24に通電するとソレノイド本体24aに引込まれるように構成されている。また図6(c)に示すようにプランジャ24bが引込まれた状態において、回転ドライバ部11の本体部11bとゴム部24cとの間には隙間があいているが、図6(b)に示すようにプランジャ24bが突出すると、ゴム部24cは本体部11bに接触する。
【0047】
なお上述したソレノイド本体24aとプランジャ24bは、本明細書の「移動部」に相当し、ゴム部24cは本明細書の「接触部」に相当する。
【0048】
このようなソレノイド24を用いる場合は、ソレノイド本体24aに通電することによってプランジャ24bが引込まれ、ゴム部24cは本体部11bに対して非接触となる。すなわちこの状態においては、可動プレート10は上下方向に自由に移動できるため、雄ねじ部11cがインサートiに接触しても、過大な力がインサートiに加わることがない。一方、ソレノイド本体24aへの通電を停止している場合は、ゴム部24cが本体部11bに接触するため、可動プレート10の上下方向の移動が抑制され、回転ドライバ部11の上下の振動を抑えることができる。
【0049】
なお、上述した実施形態ではゴム部24cを本体部11bに接触させるようにしたが、ゴム部24cを廃止してプランジャ24bの先端部を接触させるようにしてもよい。またソレノイド24はプル型ソレノイドに限られず、プッシュ型ソレノイドを使用してもよい。そしてソレノイド24に替えて、エアシリンダを採用してもよい。
【0050】
また上述した実施形態において、フローティング機構と抑制機構は回転ドライバ部11の外部に設けていたが、これらの機構を回転ドライバ部11に内蔵してもよい。
【0051】
そして図2に示した実施形態では、電磁石部8を「固定部」である固定プレート7に設け、磁性体部11dを「可動部」である回転ドライバ部11に設けたが、電磁石部8を「可動部」に設け、磁性体部11dを「固定部」に設けてもよい。また図6に示した実施形態において、「固定部」である固定プレート7に設けたソレノイド24を「可動部」に設けるとともに、プランジャ24bを前進させた際にゴム部24cが「固定部」となる部材に接触するように構成してもよい。
【0052】
また上述した実施形態の抑制機構によって抑制されるフローティング機構は、可動プレート10が圧縮ばね9により上方に付勢されると共にスライドシャフト6に対して上下方向に移動可能な構成により回転ドライバ部11を上下方向に浮かせるものであったが、上述した特許文献1のように上下左右前後の3方向に移動するフローティング機構を設けてもよい。すなわちこの場合は、抑制機構を機能させることによって上下方向だけでなく、左右方向、及び前後方向の移動が抑制されるため、各方向の振動を抑えることができる。
【0053】
また上述した実施形態の制御部として、挿入工具制御部12とロボット制御部20とが協働して機能するような構成であったが、挿入工具制御部12のみによって構成されてもよい。例えば、図4、5で説明したように回転ドライバモータ11aのON/OFFの切り換えタイミングと抑制機構のON/OFFの切り換えタイミングは同一であるため、インサート挿入工具2を工具単体で使用する場合には、挿入工具制御部12として回転ドライバモータをON/OFF及び抑制機構をON/OFFする同一のスイッチ回路を設け、作業者がスイッチを操作することで、回転ドライバモータ11a:ON、抑制機構:OFFの状態と回転ドライバモータ11a:OFF、抑制機構:ONを切り替える構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
2:インサート挿入工具
3:ロボット
5:ベース(固定部)
6:スライドシャフト(固定部)
7:固定プレート(固定部)
8:電磁石部(抑制機構)
9:圧縮ばね(弾性部)
10:可動プレート(可動部)
11:回転ドライバ部(可動部)
11a:回転ドライバモータ(回転機構)
11c:雄ねじ部
11d:磁性体部(抑制機構)
12:挿入工具制御部(制御部)
24:ソレノイド(抑制機構)
24a:ソレノイド本体(移動部)
24b:プランジャ(移動部)
24c:ゴム部(接触部)
i:インサート
図1
図2
図3
図4
図5
図6