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特開2023-163932赤外線検出器、及びこれを用いたイメージセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163932
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】赤外線検出器、及びこれを用いたイメージセンサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20231102BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20231102BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L31/10 D
H01L27/144 K
H01L27/146 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075168
(22)【出願日】2022-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、防衛装備庁、請負契約、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 僚
【テーマコード(参考)】
4M118
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
4M118AA01
4M118AB01
4M118BA19
4M118CA14
4M118CA22
4M118CA40
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(57)【要約】
【課題】赤外線検出器において信号電流の低下を抑制し、受光感度を向上する。
【解決手段】赤外線検出器は、共通電位が与えられる電極と電気的に接続されたエッチングストッパ層と、前記エッチングストッパ層の上に設けられ第1波長帯の赤外線を吸収する第1受光層と、前記第1受光層の上に設けられ、第2波長帯の赤外線を吸収する第2受光層と、を有し、前記第1受光層で検出可能な最長の赤外線波長は、前記第2受光層で検出可能な最長の赤外線波長よりも短く、前記エッチングストッパ層のバンドギャップは前記第1受光層のバンドギャップと同じか、または前記第1受光層のバンドギャップよりも小さい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通電位が与えられる電極と電気的に接続されたエッチングストッパ層と、
前記エッチングストッパ層の上に設けられ、第1波長帯の赤外線を吸収する第1受光層と、
前記第1受光層の上に設けられ、第2波長帯の赤外線を吸収する第2受光層と、
を有し、
前記第1受光層で検出可能な最長の赤外線波長は、前記第2受光層で検出可能な最長の赤外線波長よりも短く、
前記エッチングストッパ層のバンドギャップは前記第1受光層のバンドギャップと同じか、または前記第1受光層のバンドギャップよりも小さい、
赤外線検出器。
【請求項2】
前記第1受光層はGaを含む材料で形成されており、前記エッチングストッパ層はGaを含まない材料で形成されている、
請求項1に記載の赤外線検出器。
【請求項3】
前記第1受光層はInAs/GaSb超格子で形成され、前記エッチングストッパ層はInAs/InAsSb超格子で形成されている、
請求項1または2に記載の赤外線検出器。
【請求項4】
前記第1受光層と前記第2受光層の間に設けられ、電子と正孔のいずれか一方に対するポテンシャル障壁となるバリア層、
を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項5】
前記第1受光層と前記第2受光層の導電型はp型であり、
前記エッチングストッパ層の伝導帯下端の電子に対するエネルギーは、前記第1受光層、前記バリア層、及び前記第2受光層の電子に対するエネルギーよりも低い、
請求項4に記載の赤外線検出器。
【請求項6】
前記第1受光層と前記第2受光層の導電型はn型であり、
前記エッチングストッパ層の価電子帯上端の正孔に対するエネルギーは、前記第1受光層、前記バリア層、及び前記第2受光層の正孔に対するエネルギーよりも高い、
請求項4に記載の赤外線検出器。
【請求項7】
前記第1受光層、前記バリア層、及び前記第2受光層の伝導帯下端のエネルギー差、または価電子帯上端のエネルギー差は、10meV以下である、
請求項4~6のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項8】
前記第1波長帯は3μmよりも長い波長帯であり、前記第2波長帯は8μmよりも長い波長帯である、
請求項1~7のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の赤外線検出器と、
前記赤外線検出器と電気的に接続されて前記赤外線検出器から信号を読み出す読出回路と、
を有するイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、赤外線検出器、及びこれを用いたイメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
タイプII超格子(Type II Superlattice:T2SL)は、水銀カドミウムテルル(Mercury Cadmium Telluride:MCT)に代わる次世代の赤外線検出器の材料として期待され、開発が進められている。タイプII超格子を用いた赤外線検出器の多くは、GaSb基板に、GaSbと格子定数の近いGaSb、InAs、AlSbなどの材料を用いて超格子構造を形成する。適切に設計された超格子構造を赤外線受光層とすることにより、中波長帯(3~5μm)、長波長帯(8~12μm)等、所望の波長帯域の赤外線を検出できる。
【0003】
2波長赤外線検出器の構成として、異なる波長の赤外線に感度をもつ2つの受光層の間に、電子と正孔のどちらか一方のキャリアの流れをブロックするユニポーラバリア層を配置した構造が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0004】
受光層を含む積層体で赤外線検出器アレイを形成する場合、隣接する画素間を分離するために、積層体はメサ形状に加工される。エッチングの深さ精度を高めるために、積層体の下にエッチングストッパ層が設けられることが多い。エッチングストッパ層として、成膜基板と格子定数が近く、かつ、特定の元素の濃度が上層の電極層(またはコンタクト層)や受光層と大きく異なる材料が用いられる。特定の元素成分を示す信号をモニタすることで、エッチング深さを制御できるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-155513号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SPIE Proceedings, Vol. 8155, pp. 815507 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3μmよりも長い2つの波長帯で赤外線を検出する場合、エッチングストッパ層のバンドギャップが受光層のバンドギャップよりも大きいときに、信号をうまく引き出せないという問題がある。エッチングストッパ層が少数キャリアに対するポテンシャル障壁として作用するからである。取り出す信号の種類と、エッチングストッパ層の伝導帯及び価電子帯のエネルギーによっては、電子に対するポテンシャル障壁として作用する場合も、正孔に対するポテンシャル障壁して作用する場合もあり得る。ポテンシャル障壁によって、特に長波長側の信号の流れが阻害され、受光感度が低下する。
【0008】
本開示のひとつの側面では、赤外線検出器において信号電流の低下を抑制し、受光感度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一形態によれば、赤外線検出器は、
共通電位が与えられる電極と電気的に接続されたエッチングストッパ層と、
前記エッチングストッパ層の上に設けられ、第1波長帯の赤外線を吸収する第1受光層と、
前記第1受光層の上に設けられ、第2波長帯の赤外線を吸収する第2受光層と、
を有し、前記第1受光層で検出可能な最長の赤外線波長は、前記第2受光層で検出可能な最長の赤外線波長よりも短く、前記エッチングストッパ層のバンドギャップは前記第1受光層のバンドギャップと同じか、または前記第1受光層のバンドギャップよりも小さい。
【発明の効果】
【0010】
赤外線検出器において、信号電流の低下を抑制し受光感度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】2波長赤外線検出器に生じ得る技術課題を説明する図である。
図1B】2波長赤外線検出器に生じ得る技術課題を説明する図である。
図2】第1実施形態の2波長赤外線検出器の断面模式図である。
図3】第1実施形態の2波長赤外線検出器の動作説明図である。
図4】第1実施形態の2波長赤外線検出器の動作説明図である。
図5A】第1実施形態の2波長赤外線検出器の作製工程図である。
図5B】第1実施形態の2波長赤外線検出器の作製工程図である。
図5C】第1実施形態の2波長赤外線検出器の作製工程図である。
図5D】第1実施形態の2波長赤外線検出器の作製工程図である。
図5E】第1実施形態の2波長赤外線検出器の作製工程図である。
図6】第2実施形態の2波長赤外線検出器の断面模式図である。
図7A】第2実施形態の2波長赤外線検出器の動作説明図である。
図7B】第2実施形態の2波長赤外線検出器の動作説明図である。
図8】実施形態のイメージセンサの模式図である。
図9】イメージセンサで用いられる赤外線検出器アレイの一部を示す断面模式図である。
図10】イメージセンサを組み込んだ撮像システムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の具体的な構成例を説明する前に、図1A図1Bを参照して、2波長赤外線検出器で生じ得る技術課題を、より詳しく説明する。図1A図1Bのエネルギーバンド図は、エッチングストッパ層(ES)、第1電極層(EL1)、波長λ1の光を吸収する第1受光層(L1)、バリア層(BR)、波長λ2の光を吸収する第2受光層(L2)、及び第2電極層(EL2)がこの順で積層された構成を前提としている。
【0013】
タイプII超格子を用いた2波長赤外線検出器で受光感度を高めるに、移動度の高い電子を信号として検出する構成が多い。電子を信号として引き出す構成は、pBp(正孔ブロック)型と呼ばれる。
【0014】
図1Aで、第1受光層(L1)から信号として電子を引き出す場合、第2電極層(EL2)に正の電圧を印加し、第1電極層(EL1)に負の電圧を印加する。p型の第1受光層(L1)にとって逆バイアスの状態となり、第1受光層(L1)で生成された少数キャリアとしての電子は、第2電極層(EL2)に向かって流れ、信号として検出される。第1受光層(L1)で生じた正孔は、第1電極層(EL1)へと流れる。このとき、第2受光層(L2)は順バイアスの状態になっており、光吸収により生じたキャリア(電子-正孔対)は再結合して消滅するか、無視し得る程度に少ない。したがって、第1受光層(L1)に入射したλ1の赤外光は、正しく検出される。
【0015】
図1Bで、第2受光層(L2)から信号として電子を引き出す場合、第1電極層(EL1)に正の電圧を印加し、第2電極層(EL2)に負の電圧を印加する。p型の第2受光層(L2)にとって逆バイアスの状態となり、第2受光層で生成された少数キャリアとしての電子は、第1電極層(EL1)に向かって流れる。しかし、第1受光層(L1)よりもバンドギャップEBGの大きいエッチングストッパ層(ES)の伝導帯がポテンシャル障壁となって、信号(電子)を引き出すことができない。
【0016】
第2受光層(L2)から信号としての電子を効率よく引き出すには、エッチングストッパ層(ES)のバンドギャップEBGを、第1受光層(L1)のバンドギャップと同じ、またはそれよりも小さくすればよい。この構成により、信号の流れを保持して、受光感度を高めることができる。この知見に基づいて、実施形態の2波長赤外線検出器の具体的な構成を述べる。以下の説明で、「上に」または「下に」というときは積層方向または成長方向の上下を指し、絶対的な方向ではない。図中で、同じ構成要素には同じ符号を付けて重複する説明を省略する場合がある。
【0017】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の2波長赤外線検出器10の断面模式図である。第1実施形態では、電子を信号として取り出す。2波長赤外線検出器10は、図示の便宜上、ひとつの画素101として描かれている。実際の使用では、複数の2波長赤外線検出器10が一次元または二次元方向に配列された赤外線検出器アレイとして用いられる。
【0018】
2波長赤外線検出器10は、基板11の上に、エッチングストッパ層13、第1電極層14、第1受光層15、バリア層16、第2受光層17、及び第2電極層18がこの順で積層されている。基板11とエッチングストッパ層13の間に、バッファ層12が設けられていてもよい。メサ35は、第1電極層14、第1受光層15、バリア層16、第2受光層17、及び第2電極層18を含み、所定の箇所に設けられた電極21、及び22を除いて、全体が絶縁膜19で覆われている。
【0019】
エッチングストッパ層13は、個々の画素101を形成するメサ35の深さ精度を高めるために用いられる。エッチングストッパ層13は、第1電極層14の一部として、赤外線検出器アレイに含まれる複数の画素101に共通に用いられる共通電極として機能してもよい。この場合、エッチングストッパ層(ES)に、第1電極層(EL1)と同じp型不純物がドープされていてもよい。図2では、2波長赤外線検出器10の動作を説明する都合上、エッチングストッパ層13に接続される電極22が描かれている。エッチングストッパ層13を共通電極として用いる場合は、電極22は、赤外線検出器アレイの最外周の画素にだけ設けられてもよい。
【0020】
基板11として、たとえば、GaSb(100)基板を用いる。バッファ層12を設ける場合は、基板11と格子整合するGaSb層を用いてもよい。エッチングストッパ層13は超格子で形成され、そのバンドギャップが、第1電極層14、及び第1受光層15のバンドギャップと同じか、またはそれよりも小さくなるように、組成、膜厚、周期等が設計されている。
【0021】
第1電極層14は、第1受光層15と同じバンドギャップをもつように設計されていてもよい。あるいは、後述するように、第1電極層14と第1受光層15の伝導帯下端のエネルギー差が10meV以下で、かつ、双方ともにエッチングストッパ層13の伝導帯下端のエネルギー以上となる設計であってもよい。
【0022】
第1受光層15は、第1波長帯(たとえば3~5μm)に感度を有する。第2受光層17は、第2波長帯(たとえば8~12μm)に感度を有する。第1受光層15で検出可能な最長の赤外線波長は、第2受光層17で検出可能な最長の赤外線波長よりも短い。第1実施形態では、電子を少数キャリア、すなわち信号として検出するので、第1受光層15と第2受光層17はp型の導電型を有する。バリア層16は、積層方向で、第1受光層15と第2受光層17を分離する。バリア層16は、暗電流を抑制して、第1受光層15と第2受光層17から別々に信号を取り出すために、正孔に対するポテンシャル障壁として機能する。
【0023】
基板11側が光入射面となる。基板11とバッファ層12は、最終的に研磨等により除去されてもよい。
【0024】
図3図4は、第1実施形態の2波長赤外線検出器10の動作説明図である。2波長赤外線検出器10では、電極21と電極22に印加する電圧の極性を変えることで、異なる波長の赤外線を別々に検出する。
【0025】
図3で、第1受光層15から第1波長帯(λ1)の赤外光の検出信号を引き出す。図3の(A)は2波長赤外線検出器10の断面模式図、(B)はエネルギーバンド図である。電極21に正の電圧を印加し、電極22に負の電圧を印加すると、p型の第1受光層15は逆バイアスの状態となり、受光部として機能する。第1受光層15で光吸収により生じた少数キャリアの電子は、電界に沿って第2電極層18に向かって流れ、信号として検出される。
【0026】
一方、p型の第2受光層17は順バイアスの状態になっており、光吸収により生じたキャリア(電子-正孔対)は再結合して消滅するか、無視し得る程度に少ない。バリア層16は、第2受光層17で生じた正孔をブロックする。
【0027】
図4で、印加電圧の極性を切り替えて、第2受光層17から第2波長帯(λ2)の赤外光の検出信号を引き出す。図4の(A)は2波長赤外線検出器10の断面模式図、(B)はエネルギーバンド図である。電極21に負の電圧を印加し、電極22に正の電圧を印加する。p型の第2受光層17は逆バイアスの状態となり、受光部として機能する。第2受光層17で光吸収により生じた少数キャリアの電子は、電界に沿って第1電極層14に向かって流れ、信号として検出される。
【0028】
図4の(B)に示すように、エッチングストッパ層13のバンドギャップは第1受光層15のバンドギャップよりも小さいか同等であり、伝導帯に電子にとってのポテンシャル障壁はない。図1Bと異なり、電子の流れは阻害されず、第2受光層17の受光量が正しく検出される。
【0029】
一方、p型の第1受光層15は順バイアスの状態になっており、光吸収により生じたキャリア(電子-正孔対)は再結合して消滅するか、無視し得る程度に少ない。第1受光層15で生じた正孔は、バリア層16によってブロックされる。
【0030】
第1実施形態の2波長赤外線検出器10では、電極21、及び22に印加する電圧の極性を切り替えることで、λ1の赤外線の受光結果と、λ2の赤外線の受光結果のそれぞれを、正しく検出することができる。
【0031】
図5A図5Eは、2波長赤外線検出器10の作製工程図である。図5A図5Eを参照して説明する製造工程は一例であって、材料、組成、膜厚、層構成等は、適宜変更され得る。図5Aで、基板11の上に、バッファ層12、エッチングストッパ層13、第1電極層14、第1受光層15、バリア層16、第2受光層17、及び第2電極層18をこの順でエピタキシャル成長する。
【0032】
n型のGaSb(100)基板を、分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)装置の基板導入室に導入する。GaSbの基板11は、準備室において脱ガス処理され、その後、超高真空に保持された成長室へ搬送される。成長室へ搬送された基板11はSb雰囲気下で加熱されて、表面の酸化膜が除去される。酸化膜を除去した後に、基板11の表面の平坦性を良くするために、たとえば、GaSbのバッファ層12を基板温度500℃にて100nm成長する。
【0033】
次いで、エッチングストッパ層13を300nm成長する。エッチングストッパ層13は、例えば、InAsとInAsSbの超格子で形成される。超格子は、厚さ8.4nmのInAsと、厚さ2.2nmのInAs0.5Sb0.5をこの順で積層した構造を1周期(単位構造)として、30周期繰り返す。この超格子の平均格子定数と、基板11のGaSbの格子定数の差は、約1600ppmである。格子定数差が±2000ppm以内であれば、格子定数差に伴う欠陥を抑制することができる。
【0034】
エッチングストッパ層13のInAs/InAsSb超格子のバンドギャップは、約0.116eVである。エッチングストッパ層13には、不純物として、たとえばBeがドープされており、正孔濃度が1×1018cm-3のp型の導電性を示す。
【0035】
次いで、InAsとGaSbの超格子で第1電極層14を形成する。たとえば厚さ3.0nmのInAsと、厚さ1.2nmのGaSbをこの順序で積層した構造を1周期とする超格子で、第1電極層14を形成する。InAs/GaSb超格子を80周期繰り返して、360nmの厚さに成長する。この超格子のバンドギャップは、約0.256eVである。第1電極層14には、たとえばBeが不純物として添加されており、正孔濃度が1×1018cm-3のp型の導電性を示す。
【0036】
次いで、InAsとGaSbの超格子で第1受光層15を形成する。厚さ3.0nmのInAsと、厚さ1.2nmのGaSbをこの順序で積層した構造を1周期とする超格子を310周期繰り返して、1300nmの厚さに成長する。この超格子のバンドギャップは約0.256eVであり、中波長帯(3~5μm)の赤外光に感度を有する。第1受光層15は、たとえば正孔濃度が1×1016cm-3のp型の導電型を有する。
【0037】
次いで、たとえば、InAsとAlSbの超格子でバリア層16を形成する。バリア層16は、たとえば、4.6nmのInAsと、1.2nmのAlSbを、この順序で積層した構造を1周期とする超格子で形成される。InAs/AlSb超格子を、たとえば20周期繰り返して、100nm程度の厚さに成長する。この超格子のバンドギャップは、約0.484eVである。バリア層16は、主として正孔のみをブロックする障壁として機能し、たとえば、正孔濃度が1×1016cm-3のp型の導電型を有する。
【0038】
次いで、InAsとGaSbの超格子で第2受光層17を形成する。第2受光層17は、たとえば、4.2nmのInAsと、2.1nmのGaSbを、この順序で積層した構造を1周期とする超格子で形成される。InAs/GaSb超格子を、たとえば200周期繰り返して、1300nm程度の厚さに成長する。第2受光層17のInAs/GaSb超格子のバンドギャップは約0.127eVであり、第2受光層17は長波長帯(8~12μm)の赤外線に感度を有する。第2受光層は、たとえば正孔濃度が1×1016cm-3のp型の導電型を有する。
【0039】
次いで、例えば、InAsとGaSbの超格子で第2電極層18を形成する。第2電極層18は、たとえば4.2nmのInAsと、2.1nmのGaSbをこの順序で積層した構造を1周期とする超格子で形成される。InAs/GaSb超格子を、たとえば60周期繰り返して、360nm程度の厚さに成長する。この超格子のバンドギャップは、約0.127eVである。第2電極層18は、たとえば正孔濃度が1×1018cm-3のp型の導電型を有する。以上の工程により、図5Aの積層構造が得られる。
【0040】
図5Bで、図5Aの積層構造をエッチング加工して、メサ35を形成する。エッチングストッパ層13の一部の表面が露出するように、第2電極層18、第2受光層17、バリア層16、第1受光層15、及び第1電極層14を選択的にエッチングする。図5Bでは1つのメサ35のみが描かれているが、このエッチング工程で、アレイ状に配置される複数のメサ35が形成される。隣接するメサ35の間の空間は、画素分離溝36となる。
【0041】
メサ35は、たとえば、反応性イオンエッチングで形成される。エッチング中に、エッチングの副生成物に含まれるGa元素の信号をモニタする。第2電極層18から第1電極層14までのエッチングでは、Ga元素が検出されるのに対し、エッチングストッパ層13にGa元素は含まれていない。Ga元素の信号をモニタすることにより、精度良くエッチング深さを制御することができる。
【0042】
図5Cで、メサ35の全体と、露出したエッチングストッパ層13の表面を覆う絶縁膜19を形成する。絶縁膜19は、たとえば厚さ500nmの酸化ケイ素の膜であるが、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などの、その他の絶縁膜を形成してもよい。酸化ケイ素の膜を形成する場合は、反応ガスとしてシラン、及び一酸化二窒素を用いて、化学気相堆積法で形成することができる。
【0043】
図5Dで、エッチングマスクを用いた選択的エッチングで、絶縁膜19の所定の箇所に開口37-1、及び37-2を形成して、第2電極層18の一部と、エッチングストッパ層13の一部を露出する。
【0044】
図5Eで、開口37-1、及び37-2に、電極21、及び22を形成する。電極21は第2電極層18と接続される。電極22はエッチングストッパ層13と接続される。電極21、及び22は、たとえばTi/Pt/Auで形成される。Tiは下層膜との密着膜として機能し得る。電極21、及び22を、金属膜のスパッタリングとミリングにより形成してもよいし、蒸着とリフトオフ法により形成してもよい。この後、後述するように、赤外線検出器アレイの最外周画素で電極22に接続される配線と、各有効画素で電極21に接続される電極バッドを形成して、各画素に突起電極を設ける。必要に応じて、基板11とバッファ層12を除去してもよい。
【0045】
第1実施形態の構成では、第1受光層15と第1電極層14のバンドギャップが約0.256eVであるのに対し、エッチングストッパ層13のバンドギャップは、約0.116eVである。第2受光層17で赤外光の吸収により生成された信号(電子)は、バリア層16、第1受光層15、第1電極層14、及びエッチングストッパ層13を経由して、電極22から外部に引き出される。このとき、エッチングストッパ層13のバンドギャップが第1受光層15、及び第1電極層14のバンドギャップよりも小さいので、λ2の検出信号(電子)に対するポテンシャル障壁がなく、容易に信号を取り出せる。印加する電圧の極性を変えて第1受光層15から信号を引き出すときは、図3に示したように、従来と同様に高感度で信号を検出できる。
【0046】
エッチングストッパ層13とGaSbの基板11との格子定数の差は±2000ppm以内なので、格子定数差にともなう欠陥を抑制することができ、エッチングストッパ層13は成膜の観点での要求を満たす。上層の第1電極層14と第1受光層15がGaを含むのに対し、エッチングストッパ層13はGaを含まない。エッチング中にGa元素の信号をモニタすることで、エッチング深さを高精度に制御できる。エッチングストッパ層13は、プロセスの観点での要求も満たす。
【0047】
第1実施形態の構成は、上述した効果が得られる範囲であれば適宜変更してもよい。第1受光層15、及び第2受光層17を形成する超格子は、目的とする吸収波長に応じて各層の膜厚を適宜変更してもよい。ただし、第1受光層15、バリア層16、及び第2受光層17のそれぞれの伝導帯下端のエネルギー差が小さいことが望ましい。典型的には、熱エネルギーによりエネルギー差を容易に乗り越えらえるように、隣接する層との伝導帯下端のエネルギー差は10meV以下であることが望ましい。
【0048】
エッチングストッパ層13は、厚さ8.4nmのInAsと厚さ2.2nmのInAs0.5Sb0.5の超格子に限定されない。エッチングストッパ層13のバンドギャップが、第1受光層15のバンドギャップと同じか小さければ、InAsの膜厚やInAsSbの膜厚を適宜変更してもよい。InAs/InAsSb超格子に替えて、InAsSb1-x(0≦x<1)でエッチングストッパ層13を形成してもよい。エッチングストッパ層13は、基板であるGaSbと格子定数差が小さいことが好ましく、格子定数差は±2000ppm以内、より好ましくは、±1000ppm以内である。
【0049】
p型の不純物として、Be以外の不純物、たとえば、Znを用いてもよい。2波長赤外線検出器10の積層方法は、MBE法に限らず、MOCVD法や、積層構造が作製可能なその他の成長方法を用いてもよい。絶縁膜19は、原子層堆積法、化学気相蒸着法の他、スパッタ法などで形成してもよい。
【0050】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の2波長赤外線検出器20の断面模式図である。第2実施形態では、正孔を信号として取り出す。2波長赤外線検出器20は、基板11の上に、バッファ層12、エッチングストッパ層23、第1電極層24、第1受光層25、バリア層26、第2受光層27、及び第2電極層28がこの順でエピタキシャル成長されている。積層体は、所定の箇所に設けられた電極21、及び22を除いて、全体が絶縁膜19で覆われている。電極21は第2電極層28と接続されている。電極22はエッチングストッパ層23と接続されている。
【0051】
基板11は、第1実施形態と同様に、n型GaSb(100)基板である。バッファ層12も、第1実施形態と同様に、厚さ100nm程度のGaSb層である。エッチングストッパ層23はInAs/InAsSb超格子で形成された厚さ300nmの層である。超格子は、例えば、InAsを8.4nm、InAs0.5Sb0.5を2.2nmの順序で積層された構造を1周期とした超格子とする。この超格子の平均格子定数と、基板であるGaSbの格子定数の差は、約1600ppmである。格子定数差が±2000ppm以内であれば、格子定数差に伴う欠陥を抑制することができるため、成膜の観点における要求が満たされている。
【0052】
エッチングストッパ層23のInAs/InAsSb超格子のバンドギャップは約0.116eVである。エッチングストッパ層23には、例えばSiが不純物としてドープされており、電子濃度が1×1018cm-3のn型の導電性を示す。
【0053】
第1電極層24は、InAs/GaSb超格子で形成された、厚さ360nmの層である。厚さ2.4nmのInAsと、厚さ3.6nmのGaSbをこの順序で積層した構造を1周期とする。このInAs/GaSb超格子のバンドギャップは、約0.249eVである。第1電極層24は、Siがドープされた電子濃度が1×1018cm-3のn型の導電層である。
【0054】
第1受光層25は、InAs/GaSb超格子で形成された厚さ1300nmの層である。厚さ2.4nmのInAsと、厚さ3.6nmのGaSbをこの順序で積層した構造を1周期とする。このInAs/GaSb超格子のバンドギャップは約0.249eVであり、第1受光層25は中波長帯(3~5μm)の赤外線に感度を有する。第1受光層25は、例えばSiが不純物としてドープされた電子濃度が1×1016cm-3のn型の導電型を有する。
【0055】
バリア層26は、Al0.2Ga0.8Sbで形成された厚さ100nmの層である。Al0.2Ga0.8Sbのバンドギャップは約1.083eVである。バリア層26は、主として電子のみをブロックし、電子濃度が1×1016cm-3のn型の導電型を有する。
【0056】
第2受光層27は、InAs/GaSb超格子で形成された厚さ1300nmの層である。超格子は、例えば、厚さ4.2nmのInAsと、厚さ2.1nmのGaSbをこの順序で積層された構造を1周期とする。第2受光層27のバンドギャップは、約0.127eVであり、第2受光層は長波長帯(8~12μm)の赤外線に感度を有する。第2受光層27は、例えば電子濃度が1×1016cm-3のn型である。
【0057】
第2電極層28は、InAs/GaSb超格子で形成された、厚さ360nmの層である。超格子は、厚さ4.2nmのInAsと、厚さ2.1nmのGaSbをこの順序で積層された構造を1周期とする。第2電極層28のバンドギャップは、約0.127eVである。第2電極層28は、例えば電子濃度が1×1018cm-3のn型である。第1受光層25、バリア層26、及び第2受光層27で、nBn(電子をブロック)型の赤外線検出構造が形成される。
【0058】
図7A図7Bは、第2実施形態の2波長赤外線検出器20の動作説明図である。2波長赤外線検出器20では、電極21と電極22に印加する電圧の極性を変えることで、異なる波長の赤外線を検出する。
【0059】
図7Aで、第1受光層25からλ1の赤外光の検出信号を引き出す。電極21から第2電極層28に負の電圧を印加し、電極22からエッチングストッパ層23に正の電圧を印加する。n型の第1受光層25は逆バイアスの状態となり、受光部として機能する。第1受光層25で光吸収により生成された少数キャリアの正孔は、第2電極層28に向かって流れ、信号として検出される。
【0060】
一方、n型の第2受光層27は順バイアスの状態になっており、光吸収により生じたキャリア(電子-正孔対)は再結合して消滅するか、無視し得る程度に少ない。バリア層26は、第2受光層17で生じた電子をブロックする。
【0061】
図7Bで、印加電圧の極性を切り替えて、第2受光層27からλ2の赤外光の検出信号を引き出す。電極21から第2電極層28に正の電圧を印加し、電極22からエッチングストッパ層23に負の電圧を印加する。n型の第2受光層27は逆バイアスの状態となり、受光部として機能する。第2受光層27で光吸収により生じた少数キャリアの正孔は、第1電極層24に向かって流れ、信号として検出される。
【0062】
図7Bに示すように、エッチングストッパ層23のバンドギャップは第1受光層25のバンドギャップよりも小さいか同等であり、価電子帯の正孔にとってのポテンシャル障壁はない。正孔の流れは阻害されず、第2受光層27の受光量が正しく検出される。
【0063】
一方、n型の第1受光層25は順バイアスの状態になっており、光吸収により生じたキャリア(電子-正孔対)は再結合して消滅するか、無視し得る程度に少ない。第1受光層25で生じた電子は、バリア層26によってブロックされる。
【0064】
第2実施形態の2波長赤外線検出器20では、正孔を信号として検出する。電極21、及び22に印加する電圧の極性を切り替えることで、λ1の赤外線の受光結果と、λ2の赤外線の受光結果のそれぞれを、正しく検出することができる。
【0065】
第2実施形態の構成では、第1受光層25と第1電極層24のバンドギャップが約0.249eVであるのに対し、エッチングストッパ層23のバンドギャップは約0.116eVである。第2受光層27で赤外線を吸収して生成した信号(正孔)は、バリア層26、第1受光層25、第1電極層24、及びエッチングストッパ層23を経由して外部に引き出される。エッチングストッパ層23のバンドギャップが第1受光層25および第1電極層24のバンドギャップよりも小さいので、エッチングストッパ層23は信号(正孔)に対するポテンシャル障壁にならず、容易に信号を引き出せる。第2受光層27で生成された信号の流れは低下せず、高感度が維持される。印加する電圧の極性を変えて、第1受光層25から信号(正孔)を引き出す場合は、従来通り信号の流れは妨げられず、高い感度が得られる。
【0066】
エッチングストッパ層23が、基板11のGaSbとの格子定数差が±2000ppm以内であること、及び、Ga元素の信号をモニタすることでエッチング深さを精度良く制御できることは、第1実施形態と同じである。
【0067】
第2の実施形態の構成は、効果が得られる範囲で適宜変更しても構わない。第1受光層25、及び第2受光層27を構成する超格子について、吸収波長に応じて各層の厚さは適宜変更して構わないが、第1受光層25、バリア層26、第2受光層27のそれぞれの価電子帯上端のエネルギー差が小さいことが望ましい。典型的には、熱エネルギーによりエネルギー差を乗り越えることが容易となるように、隣接する層との価電子帯上端のエネルギー差が10meV以下であることが好ましい。
【0068】
エッチングストッパ層23のバンドギャップが、第1受光層25のバンドギャップと同じか小さければ、InAsの膜厚やInAsSbの膜厚を適宜変更して構わない。また、InAsSb1-x(0≦x<1)でエッチングストッパ層23を形成してもよい。
【0069】
第2実施形態では、バリア層26をAl0.2Ga0.8Sbとしたが、AlGa1-ySb(0<y≦1)、AlAsSb1-z(0≦z≦1)などであってもよい。第1電極層24、及び第2電極層28のドーパントをSiに替えて、その他のn型不純物、たとえばTeを用いてもよい。積層体の成長方法と、絶縁膜19の成膜方法を適宜選択できることは第1実施形態で述べたとおりである。
【0070】
<2波長赤外線検出器を用いたイメージセンサ>
図8は、2波長赤外線検出器10を用いたイメージセンサ100の模式図である。イメージセンサ100は、複数の画素101の配列を含む赤外線検出器アレイ50と、読出回路60を有する。赤外線検出器アレイ50は、突起電極31によって読出回路60にフリップチップ接合されている。赤外線検出器アレイ50と読出回路60の間にアンダーフィルが充填され硬化されていてもよい。図8では、赤外線検出器アレイ50は第1実施形態の2波長赤外線検出器10を用いているが、第2実施形態の2波長赤外線検出器20を用いてもよい。
【0071】
赤外線検出器アレイ50の突起電極31と反対側の面が光入射面であり、第1受光層15(または25)の側から光が入射する。タイプII超格子の場合は、受光層のバンドギャップと波長応答特性の関係から、応答波長が短い第1受光層15が光入射面に近い側に設けられる。
【0072】
読出回路60には、赤外線検出器アレイ50の各画素101に対応する駆動セルを有する。各駆動セルは、対応する画素101に、正電位を与えるバイアスと負電位を与えるバイアスを交互に印加して、第1受光層15と第2受光層17から電子を信号として読み出す。各駆動セルで、第1の波長と第2の波長に対応する電荷のそれぞれを積分して、各波長の入射強度に対応した電圧信号を出力する。読出回路60は、各画素101からの応答出力を順次に走査して、観測対象からの温度分布やガス分布の情報を含む信号を、時系列信号として出力してもよい。この場合、第1波長(たとえば中赤外波長)の時系列信号と、第2波長(遠赤外波長)の時系列信号を交互に出力してもよい。
【0073】
図9は、イメージセンサ100で用いられる赤外線検出器アレイ50の一部を示す断面模式図である。たとえば、第1実施形態の2波長赤外線検出器10を1つの画素101として、複数の画素101が2次元状に配置されている。各画素101は、画素分離溝36によって互いに分離され、In等で形成された個別の突起電極31pを介して、読出回路60の対応する駆動セルのトランジスタ61と電気的に接続されている。
【0074】
個別の突起電極31pは、各画素101のメサの上部に設けられた電極21に接続される表面配線用の金属膜32の上に配置されている。対応する駆動セルのトランジスタ61のゲート印加されるゲート電圧VIGに応じたバイアス電圧が、突起電極31pから、画素101に選択的に印加される。
【0075】
赤外線検出器アレイ50の最外周の画素は、ダミー画素101Dとして、共通電極31dにより共通の電位Vに接続されている。共通電極31dは、配線33を介して、エッチングストッパ層13とオーミック接触する電極22に接続されており、エッチングストッパ層13を介して、各画素101に共通の電位Vが供給される。
【0076】
金属膜32と配線33は、図5Eの工程の後に同一の工程で形成される。金属膜32と配線33上に、個別の突起電極31pと共通電極31dが同一の工程で形成される。赤外線検出器アレイ50が、突起電極31pと共通電極31dを介して読出回路60にフリップチップ接合されたあとに、必要に応じて、基板11、及びバッファ層12が除去されてもよい。これにより、図8のイメージセンサ100が得られる。
【0077】
図10は、イメージセンサ100を組み込んだ撮像システム1の概略ブロック図である。撮像システム1は、イメージセンサ100と、イメージセンサ100に接続される制御演算部2と、制御演算部2に接続される表示部3を有する。イメージセンサ100の光入射側に光学系110を配置してもよい。
【0078】
光学系110は、イメージセンサ100の赤外線検出器アレイ50の光入射面に、入射赤外線の光像を結像させる。画素101ごとに2波長で検出される赤外線の強度情報は、交互に読出回路60に読み出される。赤外線検出器アレイ50から得られる赤外線強度情報は、観測対象からの赤外線放射、すなわち温度分布やガス濃度分布を表わしている。
【0079】
イメージセンサ100の読出回路60から出力される電圧信号は、制御演算部2の入力に接続されている。電圧信号が制御演算部2に入力される前に、デジタル信号に変換されてもよい。制御演算部2は、読出回路60からの出力信号に補正処理、画像処理等を施して観測対象の温度分布やガス分布に応じた画像を生成する。補正処理には、画素101ごとの感度や非線形性のばらつきの補正が含まれていてもよい。
【0080】
実施形態の2波長赤外線検出器10または20を用いた赤外線検出器アレイ50は、各画素で長波長側の信号流の低下が抑制され、高画質の赤外線画像が得られる。制御演算部2により生成された画像は、表示部3に表示され、温度分布やガス分布が視覚的に認識可能になる。
【0081】
実施形態のイメージセンサ100と撮像システム1は、セキュリティ、インフラ点検の分野等への応用が可能である。イメージセンサ100で用いられる2波長赤外線検出器10または20は、少数キャリアの流れを阻害しないエネルギーバンド構造を有し、長波長側での信号低下が抑制され、観察対象物に対する識別精度が高い。
【符号の説明】
【0082】
1 撮像システム
10、20 2波長赤外線検出器
11 基板
12 バッファ層
13、23 エッチングストッパ層
14、24 第1電極層
15、25 第1受光層
16、26 バリア層
17、27 第2受光層
18、28 第2電極層
21、22 電極
31、31p 突起電極
31d 共通電極
32 金属膜
33 配線
50 2波長赤外線検出器アレイ
60 読出回路
100 イメージセンサ
101 画素
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10