(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163935
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】鋼管継手
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231102BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
E04B1/58 503H
E04B1/24 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075178
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】313015122
【氏名又は名称】日鉄物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 俊也
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AB16
2E125AC16
2E125AG03
2E125AG25
2E125BE08
2E125BF05
2E125CA06
2E125CA14
2E125EA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼管同士を強固に接合でき、製作コストも抑えることができる鋼管継手を提供することを目的としている。
【解決手段】各鋼管継手1は、一つの鋳型で鋳造される同一形状であって、前記鋼管(鋼管柱K)の端部Kaに取り付けられるベースプレート11と、前記鋼管(鋼管柱K)が取り付けられていないベースプレート11の一方の面11aに、該ベースプレート11の中心点を通る交差線に沿って、起立状に立設される接合プレート12a、12b、12c、12dと、を有し、前記2本の鋼管(鋼管柱K)を連結する際、一方の鋼管(鋼管柱K)の端部Kaに取り付けられる鋼管継手1の前記接合プレート12a、12b、12c、12dと、他方の鋼管(鋼管柱K)の端部Kaに取り付けられる鋼管継手1の前記接合プレート12a、12b、12c、12dとを重ね合わせ、高力ボルトBを用いて摩擦接合してなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の鋼管を連結するための一対の鋼管継手であって、
各鋼管継手は、一つの鋳型で鋳造される同一形状であって、
前記鋼管の端部に取り付けられるベースプレートと、
前記鋼管が取り付けられていないベースプレートの一方の面に、該ベースプレートの中心点を通る交差線に沿って、起立状に立設される接合プレートと、を有し、
前記2本の鋼管を連結する際、一方の鋼管の端部に取り付けられる鋼管継手の前記接合プレートと、他方の鋼管の端部に取り付けられる鋼管継手の前記接合プレートとを重ね合わせ、高力ボルトを用いて摩擦接合してなる鋼管継手。
【請求項2】
前記ベースプレートの外径は、前記鋼管の外径と同じか前記ベースプレートのほうが大きく、
前記ベースプレートの前記一方の面に、前記接合プレートが4つ対向配置され、
前記ベースプレートと前記接合プレートは、一体鋳造で製造されている、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項3】
前記ベースプレートの中央部分に、柱又は柱の一部が設けられてなる、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項4】
前記ベースプレートの一方の面と反対に位置する前記ベースプレートの他方の面に、前記ベースプレートや前記接合プレートと共に一体鋳造されるリブが設けられている、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項5】
前記鋼管の端部に前記プレートを取り付ける際、溶け込み溶接により接合する事によって取り付けてなる、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項6】
前記ベースプレートには、薄肉部又は貫通孔が鋳造時に形成される、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項7】
前記接合プレートの外側の端縁は、前記鋼管の内周面より外側に位置し、かつ外周面上かあるいは外周面より内側に位置する、請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項8】
前記接合プレートは、ザグリ状の2段形状に加工されたボルト孔を備える、請求項1に記載の鋼管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
上記本発明は、鋼管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の建築では、鋼管を別の部材に接続する方法の一つとして、鋼管継手が利用される。鋼管継手には、接続する部材によって、様々な種類のものが存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ブレースの用途として利用される鋼管継手が開示されている。この鋼管継手は、中空の長四角柱状の木製拘束体と、この拘束体の中空部に芯材として挿入される、拘束体と同程度の長さの角形鋼管とからなる。この芯材の長手方向の端部には、芯材の長手方向から見て十字状となるように、鋼製プレートが直交させて設けられている。
【0004】
そして、鋼製プレートに設けられたボルト孔と、建物の梁と柱の直交箇所に設けられるガセットプレート等に接続するスプライスプレートとを、ボルト接合する。これにより、ブレースとして建物を補強することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような鋼管継手は、ブレースとしては好適であるが、柱として使用する2本の鋼管を接続する場合には、最適とは言えない。すなわち、上記の鋼管継手を用いて2本の鋼管を接続し、建築物の柱として使用する場合、1本目の鋼管の端部に、上記の鋼管継手の一端側の十字状の鋼製プレートを溶接等で固定し、2本目の鋼管の端部に、上記の鋼管継手の他端側の十字状の鋼製プレートを溶接等で固定することとなる。しかし、十字状の鋼製プレートと鋼管の端部とでは接する面積が小さいため、負荷がかかった場合、鋼管継手から鋼管へ、あるいは鋼管から鋼管継手へ、圧縮力等の必要な耐力が効率的に伝達しないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、鋼管同士を強固に接合でき、製作コストも抑えることができる鋼管継手を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
請求項1に記載の鋼管継手(1、1A)は、
2本の鋼管(鋼管柱K)を連結するための一対の鋼管継手(1、1、1A、1A)であって、
各鋼管継手(1、1A)は、一つの鋳型で鋳造される同一形状であって、
前記鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)に取り付けられるベースプレート(11)と、
前記鋼管(鋼管柱K)が取り付けられていないベースプレート(11)の一方の面(上側面11a)に、該ベースプレート(11)の中心点(P)を通る交差線(S1、S2)に沿って、起立状に立設される接合プレート(12a、12b、12c、12d)と、を有し、
前記2本の鋼管(鋼管柱K)を連結する際、一方の鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)に取り付けられる鋼管継手(1、1A)の前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)と、他方の鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)に取り付けられる鋼管継手(1、1A)の前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)とを重ね合わせ、高力ボルト(B)を用いて摩擦接合してなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記ベースプレート(11)の外径は、前記鋼管(鋼管柱K)の外径(中心点Pから外周面Kcまでの距離)と同じか前記ベースプレート(11)のほうが大きく、
前記ベースプレート(11)の前記一方の面(上側面11a)に、前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)が4つ対向配置され、
前記ベースプレート(11)と前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)は、一体鋳造で製造されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記ベースプレート(11)の中央部分に、柱(円筒部14aA)又は柱の一部(円筒片14a、14b)が設けられてなる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記ベースプレート(11)の一方の面(上側面11a)と反対に位置する前記ベースプレート(11)の他方の面(下側面11d)に、前記ベースプレート(11)や前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)と共に一体鋳造されるリブ(15a、15b、15c、15d)が設けられている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)に前記ベースプレート(11)を取り付ける際、溶け込み溶接(溶接部材Y)により接合する事によって取り付けてなる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記ベースプレート(11)には、薄肉部又は貫通孔(11b)が鋳造時に形成される、ことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記接合プレートの外側の端縁(12a1)は、前記鋼管(鋼管柱K)の内周面(Kb)より外側に位置し、かつ外周面(Kc)上かあるいは外周面(Kc)より内側に位置する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の鋼管継手(1、1A)は、上記請求項1に記載の鋼管継手において、
前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)は、ザグリ状の2段形状(ザグリ穴13a)に加工されたボルト孔(13)を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
請求項1に係る発明によれば、鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)に取り付けられるのはベースプレート(11)である。これにより、鋼管継手(1、1)が鋼管(鋼管柱K)の端部(Ka)と接する面積は従来に比べ大きくなり、鋼管継手(1、1)から鋼管(鋼管柱K)へ、あるいは鋼管(鋼管柱K)から鋼管継手(1、1)へ、圧縮力等の必要な耐力を効率的に伝達させることができる。
【0019】
また、1対の鋼管継手(1、1)は、接合プレート(12a、12b、12c、12d)どうしを重ね合わせることにより接合する。よって、接合時の一対の鋼管継手(1、1、1A、1A)の、一方のベースプレート11から他方のベースプレート11までの長さ(接合時の高さH1)は1つの鋼管継手(1、1A)の1つ分(接合前の高さH)の長さとほとんど変わらない。すなわち、接合時の一対の一対の鋼管継手(1、1、1A、1A)の長さを最小限に抑えることができるから、座屈強度の高い鋼管継手(1、1A)とすることができる。
【0020】
さらに、接合プレート(12a、12b、12c、12d)は、ベースプレート(11)の中心点(P)を通る交差線(S1、S2)に沿って、起立状に立設される。よって、2つの同一形状の鋼管継手(1、1A)を接合するにあたり、一方の鋼管継手(1、1A)の前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)と、他方の鋼管継手(1、1A)の前記接合プレート(12a、12b、12c、12d)とを、互いに干渉することなく重ね合わせることができる。これにより、一対の鋼管継手(1、1、1A、1A)は、一つの鋳型で鋳造される同一形状とすることができ、製作コストを抑えることができる。
【0021】
しかして、本発明によれば、鋼管同士を強固に接合できる鋼管継手とすることができ、しかも製作コストを抑えることができる。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、ベースプレート(11)の外径は、鋼管(鋼管柱K)の外径(中心点Pから外周面Kcまでの距離)と同じかベースプレート(11)のほうが大きいから、鋼管(鋼管柱K)への取り付けが容易である。
【0023】
また、ベースプレート(11)の一方の面(上側面11a)に接合プレート(12a、12b、12c、12d)を4つ対向配置し、一体鋳造することでも、鋼管同士を強固に接合できる鋼管継手とすることができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、中央部分に柱が設けられるため、柱が中空の場合は断面効率を良くすることができ、柱が中実の場合は鋳造のし易い鋼管継手(1、1A)とすることができる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、ベースプレート(11)の他方の面(下側面11d)にリブ(15a、15b、15c、15d)を設けると、接合時にリブ(15a、15b、15c、15d)は鋼管(鋼管柱K)内に入りこむこととなる。これにより、接合時の一対の鋼管継手(1、1、1A、1A)の、一方のベースプレート11から他方のベースプレート11までの長さ(接合時の高さH1)に影響を与えず、鋼管継手(1、1A)の座屈強度を上げることができる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、鋼管継手(1、1A)を溶け込み溶接(溶接部材Y)により鋼管(鋼管柱K)に接合するから、鋼管(鋼管柱K)に予め開先Keが設けられていれば、鋼管継手(1、1A)に開先等を設ける必要がない。これにより、鋼管継手(1、1A)を製作するにあたり、加工量が低減し、加工時間を短縮することができる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、ベースプレート(11)に必要な耐力に応じて薄肉部又は貫通孔(11b)が鋳造時に容易に形成できるため、鋼管継手(1、1A)を軽量化できるとともに、薄肉部または貫通孔(11b)の分の溶湯が節約できるため、製作コストの低減を図ることができる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、接合プレート(12a、12b、12c、12d)の少なくとも一部は、鋼管(鋼管柱K)の肉厚部(Kd)の上に位置することとなる。このため、接合プレート(12a、12b、12c、12d)が受けた負荷は、ベースプレート(11)を介して鋼管(鋼管柱K)にも効率よく伝達することとなる。もって、ベースプレート(11)に負荷が集中することを回避することができ、鋼管継手(1、1)から鋼管(鋼管柱K)へ、あるいは鋼管(鋼管柱K)から鋼管継手(1、1)へ、圧縮力等の必要な耐力をより効率的に伝達させることができる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、高力ボルト(B)のボルト頭やナット頭を低く収め、鋼管(鋼管柱K)の外周面より突出することを押えることができる。このため、鋼管(鋼管柱K)の耐火被覆や仕上げ被覆などが容易となる。
【0030】
また、高力ボルト(B)の長さを統一でき、発注種類が少なく、在庫管理が容易となる。
【0031】
さらには、ボルト孔(13)を複数列に配置することが容易となるから、接合プレート(12a、12b、12c、12d)の高さ(H)が低く、座屈強度の高い鋼管継手(1、1A)とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る鋼管継手を鋼管柱に取り付けた状態を示す斜視図、(b)は(a)のうち破線の円で示すボルト孔の拡大図、(c)は2本の鋼管柱をこの鋼管継手により連結した状態を示す図である。
【
図2】(a)は同実施形態に係る鋼管継手を鋼管柱の端部に取り付けた状態を、ベースプレートの上側面の側から見た図、(b)は(a)の鋼管継手に、対をなすもう一方の鋼管継手を接合したときに、このもう一方の鋼管継手の接合プレートが(a)の鋼管継手のベースプレートに当接する位置を二点鎖線で示した図である。
【
図3】(a)は同実施形態に係る鋼管継手をベースプレートの下側面の側から見た図、(b)は同実施形態に係る鋼管継手の
図2(a)に示すA-A線断面である。
【
図4】(a)は本発明の別の実施形態に係る鋼管継手を鋼管柱に取り付けた状態を示す斜視図、(b)は鋼管柱をこの鋼管継手により連結した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る鋼管継手の一実施形態を、2本の鋼管柱を連結する場合を例にして、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0034】
<鋼管継手の概要説明>
一対の鋼管継手1、1は、
図1(a)に示すように、上側の鋼管柱Kと、下側の鋼管柱Kを連結するものである。なお、鋼管柱Kは、従来周知の構造からなるので、中空状に形成され、図示では、角管として形成されている。
【0035】
また、一対の鋼管継手1、1は、一つの金型等の鋳型で鋳造される同一形状であって、原料には、例えば鋳鋼、ステンレス、合金鋼などを使用することができる。
【0036】
より具体的に説明すると、1つの鋼管継手1は、
図1(a)に示すように、ベースプレート11と、ベースプレート11の上側面11aに起立状に立設する4つの接合プレート12a、12b、12c、12dと、これらの接合プレート12a、12b、12c、12dと連結する円筒片14a、14bで主に構成される。また、
図3(a)に示すように、ベースプレート11の下側面11dには、リブ15a、15b、15c、15dが設けられる。かくして、このような鋼管継手1は、これら構成要素がすべて一つの鋳型で一体的に形成されている。以下、これらの各構成要素について詳しく説明する。
【0037】
<ベースプレートの説明>
ベースプレート11は、
図1(a)に示すように、矩形の板状部材であって、下側面11d(
図3(a)参照)が鋼管柱Kの端部Kaに取り付けられる。一方、上側面11aには接合プレート12a、12b、12c、12dが設けられる。
【0038】
ベースプレート11の形状を、
図2(a)を用いてさらに説明する。
図2(a)は鋼管柱Kの端部Kaにベースプレート11を取り付けた状態を、上側面11aの側からみた状態を示す。破線はその鋼管柱Kの内周面Kbを示し、この内周面Kbと外周面Kcとに挟まれた部分は鋼管柱Kの肉厚部Kdである。
【0039】
かくして、ベースプレート11の外径は、
図2(a)に示すように、鋼管柱Kの外径(中心点Pから外周面Kcまでの距離)と同一に形成される。なお、本実施形態においては、ベースプレート11の外径と鋼管柱Kの外径を同一にする例を示したが、それに限らず、鋼管柱Kの外径より大きくてもよい。
【0040】
しかして、このように、ベースプレート11の外径を鋼管柱Kの外径と同一又は大きくすれば、ベースプレート11を鋼管柱Kに溶接により取り付ける際(詳しくは後述する)、鋼管柱Kの端部Kaに載置しやすく、溶接による取り付けが容易となる。すなわち、溶接の品質確保が容易で、精度確保がしやすい。
【0041】
一方、ベースプレート11には、
図2(a)に示すように、各接合プレート12a、12b、12c、12dの間に1つずつ、合計4つの貫通孔11bが形成されている。
【0042】
このように、ベースプレート11に貫通孔11bを形成することにより、鋼管継手1を軽量化できる。また、鋼管継手1は鋳造されるものであるため、貫通孔11bを鋳抜き孔として形成すれば、その分の溶湯を節約できることとなり、製作コストの低減を図る事ができる。
【0043】
なお、貫通孔11bは、貫通されていない凹み状の薄肉部としても良い。薄肉部にしても、鋼管継手1の軽量化となり、また、溶湯が節約できることから、製作コストの低減を図る事ができる。また、言うまでもないが、薄肉部と貫通孔を混在させても良い。
【0044】
ところで、上記のように構成されるベースプレート11の
図2(a)に示すX軸廻り及びY軸廻りの断面係数は、溶接により取り付けられる鋼管柱Kの断面係数の1/2以上となるよう設計されてもよい。
【0045】
<接合プレートの説明>
上記のようなベースプレート11の上側面11aに、
図1(a)に示すように、4つの接合プレート12a、12b、12c、12dが対向配置され、起立状に立設されている。
【0046】
各接合プレート12a、12b、12c、12dは同じ形状であるため、1枚の接合プレート12aについて説明する。
図2(a)に示すように、接合プレート12aは、高さH(
図1(a)参照)、長手方向の長さL、厚みW1の板状部材である。また、
図2(a)に示すように、接合プレート12aの長手方向における外側(中心点P側の逆側)の端縁12a1は、鋼管柱Kの外周面Kc上に位置する。
【0047】
これにより、鋼管柱Kに鋼管継手1を取り付けたときに、
図2(a)に示すように、接合プレート12aの外側の端縁12a1付近が、鋼管柱Kの内周面Kbと外周面Kcの間の肉厚部Kdの上に載ることとなる。そのため、接合プレート12aが受けた負荷は、ベースプレート11を介して鋼管柱Kにも効率よく伝達される。よって、接合プレート12aが受けた負荷がベースプレート11に集中することを回避することができ、鋼管継手1から鋼管柱Kへ、あるいは鋼管柱Kから鋼管継手1へ、圧縮力等の必要な耐力を効率的に伝達させることができる。
【0048】
なお、
図2(a)に示す接合プレート12aの厚みW1は、例えば、鋼管継手1により連結される上側の鋼管柱Kと下側の鋼管柱Kのうち、肉厚部Kdが薄い方の1~2.5倍程度の厚みとすることで、必要な断面性能を確保でき、鋳造時の湯流れをよくし、内部欠損を防止することができる。
【0049】
なお、後述のように、1対の鋼管継手1を用いて上下鋼管柱Kを連結するにあたっては、鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12d同士を摩擦係合する。そのため、接合プレート12aの表面は、機械加工を施すことで、摩擦接合に適した精度の高い接触面とすることが好ましい。
【0050】
上記のような接合プレート12a、及び接合プレート12aと同じ形状である接合プレート12b、12c、12dが、
図1(a)に示すように、ベースプレート11の上側面11aに起立状に立設される。
【0051】
接合プレート12a、12b、12c、12dをベースプレート11の上側面11a上で立設させる位置について、より詳しく説明すると、
図2(a)に示すように、ベースプレート11の上側面11aに、ベースプレート11の中心点Pを通る交差線S1、S2を設定する。そして、交差線S1、S2に沿って、接合プレート12a、12b、12c、12dが起立状に立設される。なお、本実施形態においては、この交差線S1、S2は、対角線を示している。
【0052】
ここで、接合プレート12aは交差線S1を跨がないよう、交差線S1に沿って立設される。接合プレート12bは交差線S2を跨がないよう、交差線S2に沿って立設される。また、接合プレート12cは交差線S1を跨がないよう、交差線S1に沿って立設される。また、接合プレート12dは交差線S2を跨がないよう、交差線S2に沿って立設される。
【0053】
このように構成すれば、2つの同一形状の鋼管継手1を接合することが可能となる。すなわち、
図2(a)に示す一方の鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12dに対し、他方の鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12dを対向させ、中心点Pを中心に柱軸回りを90度回転させてから接合する。そうすると、
図2(b)に二点鎖線で示すように、他方の鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12dは、一方の鋼管継手1接合プレート12a、12b、12c、12dに干渉することなく、交差線S1、S2を挟んで重ね合わせることができる。
【0054】
これにより、一対の鋼管継手1は、一つの鋳型で鋳造される同一形状とすることができ、製作コストを抑えることができる。
【0055】
なお、
図1(a)に示すように、接合プレート12a、12b、12c、12dには所定個数(図示では4つ)のボルト孔13が2列に設けられる。同数のボルト孔13を配置するにあたっては、1列に配置するよりも、複数列(図示では2列)に配置するほうが、接合プレート12a、12b、12c、12dの高さHは低く形成することができる。すなわち、座屈強度の高い鋼管継手1とすることができる。
【0056】
ここで、
図1(b)を用いて、12dに設けられるボルト孔13を例に、ボルト孔13についてより詳しく説明する。ボルト孔13は、接合プレート12dを貫通して開設される。ボルト孔13には、ボルトの頭部やナットを収容するためのザグリ穴13aを、外側面12d1(一対の鋼管継手1を接合する時に、他方の鋼管継手1の接合プレート12cと重ならない側の面)に備える。これにより、ボルト孔13を利用して、高力ボルトB(
図1(b)参照)を締結する際、高力ボルトBのボルト頭やナット頭を低く収めることができ、もって、高力ボルトBのボルト頭やナット頭が鋼管柱Kの外周面Kcより突出する事態を低減させることができる。このため、鋼管柱Kの耐火被覆や仕上げ被覆などが容易となる。
【0057】
また、ボルト孔13にザグリ穴13aを設けることにより、高力ボルトBの長さを統一でき、高力ボルトBの発注種類が少なく、在庫管理が容易となる。このことを、以下、
図1(b)を参照してより詳しく説明する。
【0058】
建設現場では、外径、厚さ等が異なる種々のサイズの鋼管柱Kが用いられている。そして、鋼管柱Kのサイズにより、鋼管継手1に必要な強度が異なるから、接合プレート12a、12b、12c、12dの板厚13cも異なる。ここで、もしボルト孔13にザグリ穴13aを設けなければ、接合プレート12a、12b、12c、12dの板厚13cにあわせて高力ボルトBを発注する場合、異なる板厚13cごとに、高力ボルトBを発注する必要がある。
【0059】
そこで、ボルト孔13にザグリ穴13aを設け、板厚13cが厚ければザグリ穴13aを深く形成し、板厚13cが薄ければザグリ穴13aを浅く形成する、というように調整する。このようにすれば、板厚13cが異なっても、ボルト孔13の長さ13dを統一することができる。その結果、板厚13cの異なる鋼管継手1であっても、同じ長さの高力ボルトBを共通して利用することができる。そのため、高力ボルトBの発注種類が少なくて済み、在庫管理も容易となる。
【0060】
なお、上記のように、ボルト孔13にザグリ穴13aを設け、同じ長さの高力ボルトBを共通して利用することができるため、ボルト孔13を複数列に配置することが容易となる。より詳しく説明すると、
図1(a)に示すように、接合プレート12a、12b、12c、12d上にボルト孔13を1列ではなく複数列(図示では2列)に配置すると、外側の列のボルト孔13が鋼管柱Kの外周面Kcに近くなってしまう。しかし、上記のように、共通して利用する高力ボルトBは、ボルト軸部(図示せず)がボルト孔13の長さ13dに統一されている。そのため、高力ボルトBのボルト頭やナット頭が鋼管柱Kの外周面Kcより突出する心配がない。そのため、容易にボルト孔13を複数列に配置することができ、接合プレート12a、12b、12c、12dの高さHが低く、座屈強度の高い鋼管継手1とすることができる。
【0061】
なお、ボルト孔13の内径13bは、高力ボルトBを締結する際にシャーレンチ等の締付け工具が挿入可能な程度の大きさとすることが好ましい。
【0062】
このようなボルト孔13は、鋼管継手1を鋳造工程にて設けられる鋳抜き孔としてもよいし、鋼管継手1を鋳造したあとに機械加工にて設けられてもよい。または、鋳造工程にて形成し、機械仕上げで完成されても良い。
【0063】
ところで、このように構成される接合プレート12a、12b、12c、12dの断面積は、鋼管柱Kの断面積の1以上の値となっている。
【0064】
<円筒片の説明>
次に、円筒片14a、14bについて説明する。
図2(a)に示すように、円筒片14aは接合プレート12a、12bの中心点P側の端縁を一体的に連結し、円筒片14bは接合プレート12c、12dの中心点P側の端縁を一体的に連結する。円筒片14a、14bは、接合プレート12a、12b、12c、12dの高さHと等しい高さで(
図1(a)参照)、
図2(a)に示すように、円筒を交差線S1、S2を境界に4等分したような形状をしている。
【0065】
図2(b)に示すように、このような円筒片14a、14bは、1対の鋼管継手1を接合したときに、中空の円筒を形成する。すなわち、中心点Pに近い部分が空洞となる。しかしながら、中心点Pに近い部分の部材の有無は強度には影響が殆どない。そのため、断面効率のよい鋼管継手1とすることができる。
【0066】
なお、図示しないが、円筒片14a、14bは、1対の鋼管継手1を接合したときに、中実の円柱を形成する円柱片としてもよい。すなわち、中心点Pを中心に中実の円柱を置き、それを交差線S1、S2を境界に4等分したような形状の円柱片としても良い。
【0067】
円柱片とした場合、円筒片と比べて、湯流れが良くなり、鋳造のし易い鋼管継手1とすることができる。
【0068】
さらに、
図2(b)のように、円筒片14a、14bは有底の円筒を形成するが、この円筒の底にあたる部分のベースプレート11を貫通させ、円筒片14a、14bが無底の円筒を形成するようにしてもよい。これにより、鋼管継手1の軽量化となり、また、溶湯が節約できることから、製作コストの低減を図る事ができる。特に、大きなサイズの鋼管継手1の製作にあたっては、大幅な製作コストの低減となる。
【0069】
<リブの説明>
次に、リブ15a、15b、15c、15dについて説明する。
【0070】
リブ15a、15b、15c、15dは、
図3(a)に示すように、ベースプレート11の下側面11dに形成される。また、ベースプレート11や接合プレート12a、12b、12c、12dとともに一体鋳造されて設けられる。
【0071】
より詳しく説明すると、
図3(a)に示すように、リブ15a、15b、15c、15dは、接合プレート12a、12b、12c、12dの厚みW1(
図2(a)参照)と同じ厚みW2を有し、リブ15aは接合プレート12aの真裏に、リブ15bは接合プレート12bの真裏に、リブ15cは接合プレート12cの真裏に、リブ15dは接合プレート12dの真裏に、各々設けられる。
【0072】
なお、リブ15a、15b、15c、15dlの長手方向における内側(中心点P側)は、
図3(a)に示すように、中心点Pまで延伸し、中心点Pにてリブ15a、15bがV字状に一体連結し、リブ15c、15dがV字状に一体連結する。また、リブ15a、15b、15c、15dの長手方向における外側(中心点P側の逆側)は、
図3(a),(b)に示すように、鋼管柱Kの内周面Kbまでしか延伸しない。
【0073】
これにより、
図3(b)に示すように、ベースプレート11を鋼管柱Kの端部Kaに載置したときに、リブ15a、15b、15c、15dが鋼管柱K内に収まる。よって、接合時の高さH1(
図1(c)参照)を変えることなく、鋼管継手1の強度を高めることができる。
【0074】
また、
図3(b)に示すように、リブ15a、15b、15c、15dは所定の厚み15eを有し、内部は中空である。さらに、リブ15a、15b、15c、15dの長手方向における外側の端縁15fは傾斜面となっている。
【0075】
これにより、ベースプレート11を鋼管柱Kの端部Kaに載置するにあたり、リブ15a、15b、15c、15dの外側の端縁15fの傾斜面がガイドの役割を果たし、スムーズに載置することができる。
【0076】
なお、リブ15a、15b、15c、15dの厚みW2は接合プレート12a、12b、12c、12dの厚みW1(
図2(a)参照)と同じとしたが、厚みW2は厚みW1の2倍の厚さとしてもよい。すなわち、交差線S1、S2を跨いで左右に厚みW1ずつの厚さを有するリブ15a、15b、15c、15dとしてもよい。
【0077】
このようにすれば、1対の鋼管継手1を接合したときに、ベースプレート11の上側面11aに当接する他方の鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12dの位置(
図2(b)の二点鎖線の位置)のちょうど裏側もリブ15a、15b、15c、15dにより補強されることとなる。これにより、より強度を高くすることができる。
【0078】
<1対の鋼管継手を用いた上下鋼管柱の連結の説明>
次に、上記のような鋼管継手1を1対用いて、上側の鋼管柱Kと下側の鋼管柱Kを連結する方法を説明する。
【0079】
まず、
図1(a)に示すように、1対の鋼管継手1の一方を上側の鋼管柱Kに取り付け、他方を下側の鋼管柱Kに取り付ける。この際、他方の鋼管継手1は、一方の鋼管継手1に対向させ、中心点Pを中心に柱軸回りを90度回転させて、下側の鋼管柱Kに取り付ける。
【0080】
なお、鋼管柱Kの端部Kaには、
図3(b)に示すように、予め開先Keが設けられている(多くの場合、このような開先Keは、鋼管メーカーにより予め設けられている。)。そのため、鋼管継手1に開先等を設ける必要がない。これにより、鋼管継手1を製作するにあたり、加工量が低減し、加工時間を短縮することができる。
【0081】
上記のような鋼管柱Kに鋼管継手1を取り付けるには、鋼管柱Kの端部Kaに鋼管継手1のベースプレート11の下側面11dを載置し、溶接部材Yにて溶け込み溶接を行えばよい。
【0082】
次に、
図1(c)に示すように、上側の鋼管柱Kと下側の鋼管柱Kを互いに接近させ、一対の鋼管継手1の接合プレート12a、12b、12c、12d同士を重ね合わる。そして、各接合プレート12a、12b、12c、12dのボルト孔13に高力ボルトBを挿通させ、シャーレンチ等の締付け工具で締め付けることにより摩擦係合する。
【0083】
かくして、このようにして、鋼管継手1を1対用いて、上側の鋼管柱Kと下側の鋼管柱Kを連結する方法を説明することができる。
【0084】
なお、上記のような、上下鋼管柱の連結は、建設現場で行われるため、作業環境が天候に左右される。そのため、連結作業の簡便性・迅速性は重要である。しかし、もし溶接で連結するとなると、熟練工を必要とし、作業時間が長くかかり、X線検査などによる精度・品質確保が必要となってしまう。一方、上記のように、鋼管継手1は高力ボルトBで接合するため、熟練工を必要とせず、接合時間は短くて済み、精度・品質確保も容易である。すなわち、連結作業の簡便性・迅速性が確保できる効果がある。
【0085】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、鋼管柱同士を強固に接合でき、しかも製作コストを抑えることができる。
【0086】
<変形例の説明>
なお、本実施形態において示した鋼管継手1はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において種々の変形・変更が可能である。例えば、ベースプレート11に設けられる円筒片14a、14bは、一対の鋼管継手1を接合したときに円筒を形成するが、円筒片のかわりに多角筒片や多角柱片とし、多角筒や多角柱を形成するようにしてもよい。また、円筒片14a、14bが、接合プレート12a、12b、12c、12dの高さHと等しい高さとしたが(
図1(a)参照)、これを高さHの半分にしてもよい。
【0087】
この点、
図4を参照して説明すると、
図4(a)に示すように、円筒部14aAは、接合プレート12a、12b、12c、12dの高さHの半分の高さとしたものである。円筒片14a、14bが交差線S1、S2により4等分されたような形状であるのに対し、この円筒部14aAは等分されない完全な円筒をなし、接合プレート12a、12b、12c、12dの全てと一体的に連結する。
【0088】
このような円筒部14aAも、
図4(b)に示すように、1対の鋼管継手1を接合したときに、中空の円筒を形成する。なお、円筒部14aAも、円筒片14a、14bと同様に、中空の円筒ではなく中実の円柱としても良い。
【0089】
また、本実施形態においては、角形鋼管柱を連結する例を示すが、丸形鋼管柱でも連結が可能である。2本の円形鋼管の連結に本発明に係る鋼管継手を用いる場合、ベースプレートはこの円形鋼管の外形と同じ円形としてもよい。その場合、この円形のベースプレートの中心点を通る2本の交差線に沿って、接合プレートとリブを形成すればよい。
【0090】
また、本実施形態の交差線S1および交差線S2は、ベースプレート11の対角線であるが、これに限られず、中心点Pを通る交差線であればよい。
【符号の説明】
【0091】
1、1A 鋼管継手
11 ベースプレート
11a 上側面 (ベースプレートの一方の面)
11b 貫通孔
11d 下側面 (ベースプレートの他方の面)
12a、12b、12c、12d 接合プレート
12a1 外側の端縁
13 ボルト孔
13a ザグリ穴 (ザグリ状の2段形状)
14a、14b 円筒片 (柱の一部)
14aA、24aA 円筒部 (柱)
15a、15b、15c、15d リブ
K 鋼管柱 (鋼管)
Ka 端部 (端部)
Kb 内周面
Kc 外周面
B 高力ボルト
P 中心点
S1、S2 交差線
L 長手方向
Y 溶接部材 (溶け込み溶接)