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特開2023-163940工芸用ディップ液、及び工芸品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163940
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】工芸用ディップ液、及び工芸品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231102BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231102BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231102BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20231102BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20231102BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20231102BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231102BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20231102BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C09D201/00
C08L101/00
C08L83/04
C08K5/37
C08K5/101
C08F220/10
C09D5/00 Z
C09D183/12
C09D133/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075183
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】396015828
【氏名又は名称】アルファ化研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】左右木 正巳
(72)【発明者】
【氏名】金子 大作
(72)【発明者】
【氏名】クンプガ・バハティ・トム
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BF051
4J002BF053
4J002CD201
4J002CF211
4J002CK041
4J002CP052
4J002EH076
4J002EH146
4J002EV067
4J002FD050
4J002FD090
4J002FD147
4J002FD157
4J002FD206
4J002GC00
4J002HA06
4J038DL132
4J038FA112
4J038FA252
4J038FA281
4J038JC02
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA15
4J038PA17
4J038PB14
4J100AG70Q
4J100AG70R
4J100AG70T
4J100AL01R
4J100AL02Q
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100AL09Q
4J100AL63R
4J100AL63S
4J100BA08P
4J100BC26Q
4J100BC26R
4J100BC45P
4J100BC45Q
4J100BC45R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA09
4J100DA62
4J100EA06
4J100FA18
4J100FA28
4J100GC26
4J100HE22
4J100JA01
4J100JA57
(57)【要約】
【課題】肉厚な硬化膜を容易に形成可能な工芸用ディップ液を提供する。
【解決手段】環状の枠体を浸して、引き上げることにより、枠体の内側に膜を形成可能な工芸用ディップ液を、紫外線硬化性樹脂組成物で構成する。かかる構成とすれば、有機溶剤に溶解した従来の工芸用ディップ液に比べて、肉厚な硬化膜を形成できる。このため、硬化膜形成後の補強作業を省略したり、補強作業を行う回数を従来よりも低減したりすることが可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の枠体を浸して引き上げることにより、前記枠体の内側に硬化可能な膜を形成する工芸用ディップ液であって、
浸した前記枠体を引き上げた後に、紫外線を照射することにより、前記枠体の内側で膜状態で硬化可能な紫外線硬化性樹脂組成物であることを特徴とする工芸用ディップ液。
【請求項2】
25℃における粘度が30Pa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の工芸用ディップ液。
【請求項3】
表面張力調整剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の工芸用ディップ液。
【請求項4】
前記表面張力調整剤は、ポリエーテル変性シリコーンオイルを含むことを特徴とする請求項3に記載の工芸用ディップ液。
【請求項5】
(メタ)アクリレート系の重合性化合物を含み、かつ、ポリチオールを3重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の工芸用ディップ液。
【請求項6】
環状の枠体を工芸用ディップ液に浸して、引き上げることにより、前記枠体の内側に膜を形成する成膜工程と、
前記膜を硬化させる硬化工程と
を含む工芸品の製造方法であって、
前記工芸用ディップ液は、紫外線硬化性樹脂組成物であって、
前記硬化工程では、前記枠体の内側に形成された前記膜に紫外線を照射して、前記膜を硬化させることを特徴とする工芸品の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の工芸用ディップ液を用いることを特徴とする請求項6に記載の工芸品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状の枠体を浸して引き上げることにより、枠体内に硬化可能な膜を形成する工芸用ディップ液に関する。
【背景技術】
【0002】
工芸用ディップ液に浸した枠体を引き上げて、枠体内に形成された膜を硬化させることによって、花びらや葉を模した形状に造形し、これを複数組み合わせて工芸品を製造するディップアートと呼ばれる手法が知られている。従来の工芸用ディップ液は有機溶剤に合成樹脂を溶解させた溶液であり、枠体をディップ液に浸して引き上げて常温で放置すると、枠体の内側に膜が形成された状態で有機溶剤が揮発して、硬化膜が形成される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3253139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の工芸用ディップ液で得られる硬化膜は膜厚が薄く、多くの場合、硬化膜の形成後に補強剤でコーティングして、膜厚を増大させる補強作業が必要となる。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来に比べて肉厚な硬化膜を容易に形成可能な工芸用ディップ液、及び工芸品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、環状の枠体を浸して引き上げることにより、前記枠体の内側に硬化可能な膜を形成する工芸用ディップ液であって、浸した前記枠体を引き上げた後に、紫外線を照射することにより、前記枠体の内側で膜状態で硬化可能な紫外線硬化性樹脂組成物であることを特徴とする工芸用ディップ液である。
【0007】
かかる工芸用ディップ液によれば、従来の工芸用ディップ液に比べて、厚みのあるしっかりとした硬化膜を形成できる。これは、紫外線硬化性樹脂組成物は、基本的に溶剤を必要としないため、硬化する際に膜が肉痩せしないためと考えられる。このため、本発明の工芸用ディップ液を用いて枠体に硬化膜を形成すれば、硬化膜の補強作業を省略し易くなる。また、補強作業を行って硬化膜の厚みを増やす場合でも、補強剤で硬化膜をコーティングする回数を、従来構成に比べて低減できる。
また、従来の工芸用ディップ液は、乾燥させた硬化膜を浸すと、硬化膜が有機溶剤に溶けてしまうため、硬化膜の補強剤として使用できない。これに対して、本発明の工芸用ディップ液は、紫外線硬化した硬化膜を浸して、引き上げた後に紫外線を再照射すれば、表面に付着した工芸用ディップ液で硬化膜をコーティングして、膜厚を増やすことができる。すなわち、本発明のディップ液は、硬化膜の補強剤としても使用できる。したがって、本発明によれば、工芸用ディップ液とは別に補強剤を用意する必要がなくなる。
【0008】
また、本発明の別の態様は、環状の枠体を工芸用ディップ液に浸して、引き上げることにより、前記枠体の内側に膜を形成する成膜工程と、前記膜を硬化させる硬化工程とを含む工芸品の製造方法であって、前記工芸用ディップ液は、紫外線硬化性樹脂組成物であって、前記硬化工程では、前記枠体の内側に形成された前記膜に紫外線を照射して、前記膜を硬化させることを特徴とする工芸品の製造方法である。
【0009】
かかる工芸品の製造方法によれば、溶剤型の工芸用ディップ液を用いる従来方法に比べて、厚みのあるしっかりとした硬化膜を形成できるため、硬化膜の補強作業を省略したり、低減したりすることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、従来の工芸用ディップ液を使用する場合に比べて、肉厚な硬化膜を容易に形成できるため、工芸用ディップ液を用いた工芸品の製造が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の工芸用ディップ液は、紫外線の照射により硬化する液状の紫外線硬化性樹脂組成物である。本発明の工芸用ディップ液は、少なくとも、重合性化合物と光反応開始剤を含む。
【0012】
本発明の工芸用ディップ液が含有する重合性化合物は、光ラジカル重合する重合性化合物と、光カチオン重合する重合性化合物のいずれも使用可能であるが、光ラジカル重合するものが望ましい。光ラジカル重合するものの方が、硬化速度が比較的速いためである。
【0013】
光ラジカル重合する重合性化合物としては、(メタ)アクリレート系の化合物、スチレンモノマー、ビニルモノマー、アリル化合物類などが挙げられる。(メタ)アクリレート系の化合物としては、(メタ)アクリレート系モノマー類、(メタ)アクリレート系オリゴマー類、アクリレート変性液状ゴム類などが挙げられる。(メタ)アクリレート系オリゴマー類としては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー類、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー類、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー類などが挙げられる。ビニルモノマーとしては、ビニルピロリドン、ジアリルフタレートなどが挙げられる。これらの光ラジカル重合する重合性化合物は、複数種類組み合わせることができる。
【0014】
光カチオン重合する重合性化合物としては、環状エーテル(エポキシド及びオキセタン等)、エチレン性不飽和化合物(ビニルエーテル及びスチレン等)、ビシクロオルトエステル、スピロオルトカーボネート及びスピロオルトエステル等が挙げられる。エポキシドとしては、公知のもの等が使用でき、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド及び脂肪族エポキシドが含まれる。エチレン性不飽和化合物としては、公知のカチオン重合性単量体等が使用でき、脂肪族モノビニルエーテル、芳香族モノビニルエーテル、多官能ビニルエーテル、スチレン類及びカチオン重合性窒素含有モノマーが含まれる。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0015】
本発明の工芸用ディップ液が含有する、光反応開始剤の種類は特に限定されず、重合性化合物に適したものを選択することができる。ラジカル重合する重合性化合物の光反応開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤を例示できる。光ラジカル重合開始剤としては、1‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノンのアルキルフェノン系、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドのアシルホスフィンオキシド系、チタノセン系、オキシムエステル系、オキシフェニル酢酸エステル系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等を例示できる。熱ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等を例示できる。硬化性組成物に含まれるラジカル重合開始剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0016】
カチオン重合する重合性化合物の光反応開始剤としては、光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤を例示できる。光カチオン重合開始剤としては、アリールスルホニウム塩、ジアリールスルホニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、フェナシルスルホニウム塩、アルキルベンジルスルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン等を例示できる。熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩、ジアリールスルホニウム塩、トリアリールスルホルニウム塩等を例示できる。 硬化性組成物に含まれるカチオン重合開始剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。光反応開始剤の含有量は特に限定されないが、0.5重量%以上であることが望ましい。
【0017】
発明者の研究によれば、本発明の工芸用ディップ液は、粘度が高いものほど、硬化膜の膜厚が厚くなる傾向がある。このため、所望の硬化薄膜の膜厚にあわせて粘度を調整することが提案される。ただし、発明者の研究によれば、本発明の工芸用ディップ液は、25℃における粘度が30Pa・sを上回ると、硬化膜の表面に液溜りによる凹凸が目立つようになって平滑度が低下し、硬化膜の美観が低下する。このため、本発明の工芸用ディップ液は、25℃における粘度が30Pa・s以下であることが望ましい。
【0018】
本発明の工芸用ディップ液は、表面張力調整剤を含むことが望ましい。発明者の研究によれば、表面張力調整剤を含有する場合には、枠体に形成される未硬化の膜を比較的安定に保持可能となる。このため、かかる構成とすれば、比較的大きな枠体に硬化膜を形成し易くなる。また、かかる構成では、未硬化の膜を枠体に比較的長時間保持できるため、照射する紫外線強度が弱く、硬化に時間を要する場合でも、枠体に保持した膜を、破れる前に硬化させ易くなる。本発明の工芸用ディップ液に含有させる表面張力調整剤は特に限定されないが、具体例としては、ポリエーテル変性シリコーンオイルやポリメチルシロキサン基含有アクリレート化合物、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。これらは、複数種類組み合わせることができる。本発明の工芸用ディップ液に含有させる表面張力調整剤の含有量は特に限定されないが、含有量が多いほど、未硬化の膜が安定となる傾向がある。
【0019】
本発明の工芸用ディップ液に含有させる表面張力調整剤は、ポリエーテル変性シリコーンオイルを含むことが望ましい。発明者の研究によれば、本発明の工芸用ディップ液は、表面張力調整剤の含有量が増大すると、硬化膜が濁って透明度が低下する傾向があるが、ポリエーテル変性シリコーンオイルは、比較的少量でも膜を安定させる効果が強いため、他の表面張力調整剤に比べて、硬化膜の透明度が低下し難くなる。硬化膜本来の透明度が高ければ、顔料や染料を混合したり、塗料を塗布したりすることで、硬化膜の色や透明度を調整し易くなる。発明者の研究によれば、ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有量は、1重量%未満とすることが望ましく、0.6重量%未満とすることがより望ましい。含有量が1重量%以上であると、硬化膜が濁り易く、含有量が0.6重量%未満であれば、硬化膜の濁りを確実に防止できる。一方で、ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有量は、0.05重量%以上とすることが望ましく、0.2重量%以上とすることがより望ましい。含有量が0.05重量%以上であれば、未硬化の膜を枠体に安定に保持でき、含有量が0.2重量%以上であれば、枠体に保持した未硬化の膜を、紫外線で確実に硬化し得る時間だけ維持できる。
【0020】
本発明の工芸用ディップ液は、膜の硬化時に、膜の表裏両面に空気が接触するため、重合性化合物として、(メタ)アクリレート系の化合物を含有する場合には、硬化反応が酸素に阻害され易い。酸素阻害により硬化反応が不十分になると、硬化膜の表面がベタついて、手触りが悪くなる。強力な紫外線を照射すれば、酸素に阻害されることなく、硬化反応を進行させられるが、強力な紫外線は人体への悪影響が強く、照射装置も高額であるため、工芸用途では利用しづらい。このため、本発明の工芸用ディップ液が、重合性化合物として(メタ)アクリレート系の化合物を含有する場合は、さらに、ポリチオールを含有することが望ましい。ポリチオールを含有することにより酸素阻害の影響を低減できるためである。発明者の研究によれば、ポリチオールは、3重量%以上含有することが望ましく、4重量%以上含有することが望ましい。3重量%以上含有する場合は、工芸用の紫外線照射装置が照射するレベルの紫外線強度でも、硬化反応を十分進行させて、硬化膜のベタツキを概ね抑えることができ、4重量%以上含有する場合は、硬化膜のベタツキを確実に防止できる。本発明の工芸用ディップ液が含有するポリチオールは特に限定されるものではないが、具体例としては、ジメルカプトブタンやトリメルカプトヘキサンなどのメルカプト基置換アルキル化合物、ジメルカプトベンゼンなどのメルカプト基置換アリル化合物、トリメチロールプロパン-トリス-(β-チオプロピネート)、トリス-2-ヒドロキシエチル-イソシアヌレート・トリス-β-メルカプトプロピオネート、ペンタエリストールテトラキス(β-チオプロピオネート)などのチオグリコール酸やチオプロピオン酸などの多価アルコールエステル、及び1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、1,11-ジメルカプト3,6,9-トリオキサドデカン、ジエチレングリコールビスチオグリコレート、トリエチレングリコールビスチオグリコレート、テトラエチレングリコールビスチオグリコレート、ペンタエチレングリコールビスチオグリコレート、ヘキサエチレングリコールビスチオグリコレート、オクタエチレングリコールビスチオグリコレート、ドデカンエチレングリコールビスチオグリコレート、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ヘキサエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、オクタエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ドデカンエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、トリエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ヘキサエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、オクタエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ドデカンエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ポリエチレングリコールビスチオグリコレート、ポリエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ポリエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ポリプロピレングリコールビスチオグリコレート、ポリプロピレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ポリプロピレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパン-トリス-(3-メルカプトプロピネート)のエチレンオキサイド付加物、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレートのエチレンオキサイド付加物、ペンタエリストールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)のエチレンオキサイド付加物、ペンタエリストールテトラキス(3-メルカプトブチレート)のエチレンオキサイド付加物、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)のエチレンオキサイド付加物、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、1,3,5-トリス(3-メルカブトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ジペンタエリストールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)のエチレンオキサイド付加物等の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と硫化水素の反応生成物、その他、1,8-ジメルカプト-3,6-ジスルフィドオクタン、トリアジンチオールなどが挙げられる。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0021】
本発明の工芸用ディップ液は、上記以外にも様々な添加剤を含むことができる。具体的には、その他の添加剤としては、顔料、染料、紫外線吸収剤、ポリマー(プレポリマー)、重合禁止剤等があげられる。顔料としては特に限定はなく、ジケトピロロピロール系顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、ペリレン・ペリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、酸化チタン系顔料、カーボンブラック系顔料等を例示できる。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0022】
染料としては、特に限定はなくアゾ系染料、金属錯塩アゾ染料、アントラキノン系染料、トリアリールメタン系染料、キサンテン系染料、シアニン系染料、インジゴ系染料、ナフトキノン染料、キノンイミン染料、メチン染料、フタロシアニン染料等、いずれの基本骨格(発色部位)を有する染料であってもよい。また、上記染料は、アニオン性置換基を有する酸性染料や、カチオン性置換基を有する塩基性染料等、いずれに分類される染料であってもよい。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0023】
紫外線吸収剤としては特に限定はなく、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、サリチル酸誘導体系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等の少なくとも一種を使用することができる。
【0024】
アクリルモノマー化合物と相溶性のあるポリマー(プレポリマー)としてはアリルエステルモノマー及びコポリマー、(メタ)アクリルエステルモノマー及びコポリマー、スチレン(メタ)アクリレートコポリマー、塩ビ酢ビコポリマー、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル(メタ)アクリレートコポリマー、ポリジアリルフタレート、エチレン酢ビコポリマー、ポリエステルポリマー及びプレポリマー、エポキシ樹脂類、石油樹脂類、ロジンおよびその誘導体樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂等を例示できる。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0025】
重合禁止剤としては特に限定される事はなく、ジブチルヒドロキシトルエン、4-メトキシフェノール、4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、4-メトキシ-1-ナフトール、アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル、アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル、2,2-ビス{[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ]メチル}プロパン-1,3-ジイルビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネートなどが挙げられる。これらは、複数種類組み合わせることができる。
【0026】
本発明の工芸用ディップ液は、上記の成分を常温で混合することにより製造され得る。
【0027】
本発明の工芸品の製造方法は、本発明の工芸用ディップ液に環状の枠体を浸して、引き上げることにより、枠体の内側に膜を形成する成膜工程と、枠体の内側に形成された膜に紫外線を照射して、膜を硬化させる硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0028】
硬化膜を形成する枠体は、従来の工芸用ディップ液で使用する枠体を用いることができる。すなわち、金属や樹脂の線材を環状に屈曲・湾曲して形成した柄付きの枠体を好適に用い得る。枠体は環状であれば形は特に限定されず、枠体の大きさも膜を形成可能なものであればよい。
【0029】
本発明の工芸品の製造方法にあって、硬化工程で照射する紫外線は、工芸用ディップ液を硬化させ得る強度と波長であれば、特に限定されるものではない。発明者の研究によれば、本発明の硬化工程では、1分程度の紫外線照射によって膜を完全に硬化させることができる。従来の工芸用ディップ液は、膜を完全に硬化させるまでに、数十分の乾燥時間が必要であるため、本発明によれば、従来に比べて短時間で硬化膜を得ることができる。また、本発明の工芸用ディップ液は、有機溶剤が不要であるため、従来構成に比べて、人体に対する悪影響を低減でき、火災の危険性もなくなるという利点がある。
【0030】
本発明に係る硬化工程によって形成された硬化膜は、従来の工芸用ディップ液を用いて形成した硬化膜よりも肉厚なものとなる。これは、従来の工芸用ディップ液は、大部分が揮発性の有機溶剤であるのに対して、本発明の工芸用ディップ液は、揮発成分を殆ど又は全く含有せず、硬化する際に肉痩せしないためと考えられる。このように、本発明の工芸品の製造方法では、従来方法に比べて肉厚な硬化膜が得られるため、硬化膜の補強作業を省略可能なケースが多くなる。また、補強作業を行って硬化膜の厚み増やす場合でも、ベースとなる硬化膜が肉厚であるため、補強剤で硬化膜をコーティングする回数を従来方法に比べて低減できる。
【0031】
本発明の工芸品の製造方法では、硬化膜の形成後に、補強剤でコーティングする補強作業を行う場合、硬化膜の形成に用いた工芸用ディップ液を補強剤として用いることができる。すなわち、硬化膜が形成された枠体を、再び工芸用ディップ液に浸して、引き上げた後に紫外線を照射して、硬化膜の表面に付着した工芸用ディップ液を硬化させれば、硬化膜の厚みを増やすことができる。従来の工芸用ディップ液は、工芸用ディップ液に硬化膜を再浸漬すると、硬化膜が有機溶剤に溶けてしまうため、硬化膜の補強剤として使用できないが、本発明の工芸用ディップ液は、上述のように硬化膜の補強剤として兼用できるという利点がある。
【0032】
本発明の工芸品の製造方法にあって、成膜工程及び硬化工程によって硬化膜が形成された枠体は、既存のディップアートの手法によって、工芸品に用いることができる。例えば、枠体の形状を成形したり、硬化膜に着色したりすることにより、花びらや葉を模した形状に造形し、こうした枠体を複数組み合わせることにより、植物を模した工芸品が製造され得る。
【実施例0033】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の構成に限定されるものでなく、本発明の趣旨を変更しない限りで適宜変更可能である。
【0034】
<実施例1~10>
表1に示す各成分を、表1に示す含有量となるよう夫々混合して、実施例1~10の工芸用ディップ液を作製した。
【0035】
【表1】
UF-8001B:ウレタンアクリレートオリゴマー(共栄社化学製)
UA-H-B55:ウレタンアクリレートオリゴマー(アルファ化研製)
PDBE-200A:エチレンオキシド変性ビスフェノールAジメタアクリレート(日本油脂製)
HPMA:ヒドロキシプロピルメタアクリレート
A-BPE-4:エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート(新中村化学製)
IBXA:イソボニルアクリレート
M-305:ペンタエリストールテトラアクリレート(東亜合成製)
Omirad TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(豊通ケミプラス製)
SH-28:ポリエーテル変性シリコーンオイル(トーレ・ダウ・コーニング製)
BYK-3500:アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー製)
EBECRYL350:シリコンジアクリレート(ダイセルオルネクス製)
PEMP:ペンタエリストールテトラキス(3メルカプトプロピオネート、SC有機化学製)
DAP-A:ポリジアリルフタレート(大阪ソーダ製)
トアディップ:No.2クリヤー(トウペ製)
【0036】
<比較例1>
市販の工芸用ディップ液(株式会社トウペ製、トアディップ、色「クリヤー」)を、比較例の工芸用ディップ液とした。かかる工芸用ディップ液は酢酸綿を有機溶剤に溶解させた溶液である。
【0037】
<評価試験1>
実施例1~10及び比較例の各工芸用ディップ液について、ブルックフィールド粘度計を用いて、25℃の粘度を測定した。結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1~10の工芸用ディップ液は、比較例の工芸用ディップ液の粘度の1/10以下から3倍以上まで幅広い粘度を示した。
【0038】
【表2】
【0039】
<評価試験2>
実施例1~10及び比較例の各工芸用ディップ液について、25℃の表面張力を測定した。測定には、デュヌイ表面張力試験機514-B2(株式会社伊藤製作所製)を使用した。結果を表2に示す。表2に示されるように、殆どの工芸用ディップ液では、表面張力が30dyn/cm前後であったが、表面張力調整剤を含有しない実施例10の工芸用ディップ液は、表面張力が36.7dyn/cmと、他よりも突出して高くなっていた。
【0040】
<評価試験3>
線径1mmのアルミ製ワイヤーを屈曲・湾曲して、棒状の柄と、柄の先端に形成された直径15mmの円環形状の枠体を作製した。実施例1~10の工芸用ディップ液に枠体を夫々浸し、引き上げた後に静止状態で保持し、紫外線の非照射下で、枠体の内側に形成された膜が持続する時間を測定した。なお、膜は60秒間以上持続すれば、紫外線で確実に硬化可能であるため、測定は60秒経過時点で終了した。結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1~10の工芸用ディップ液の全てにおいて、引き上げた後の枠体の内側に膜が形成された。しかしながら、表面張力調整剤を含有しない実施例10の工芸用ディップ液では、膜は1秒間しか維持されなかった。これに対して、表面張力調整剤を含有する実施例1~9の工芸用ディップ液では、膜は40秒間以上維持された。この結果は、表面張力調整剤の含有により、硬化前の膜を安定化できることを示唆している。
【0041】
また、表面張力調整剤としてシリコンジアクリレート(EBECRYL350)を用いた実施例8や、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(BYK-3500)を用いた実施例9では、表面張力調整剤の含有量が約1.5重量%である時に、膜が45~50秒間維持された。これに対して、表面張力調整剤としてポリエーテル変性シリコーンオイル(SH-28)を用いた実施例2では、約0.05重量%以上の含有率で、膜が40秒間維持された。この結果は、ポリエーテル変性シリコーンオイルを表面張力調整剤として用いた場合には、他の表面張力調整剤よりも少ない含有量で未硬化の膜を安定化できることを示唆している。また、表面張力調整剤としてポリエーテル変性シリコーンオイルを、約0.2重量%以上含有する実施例1,3~7では、膜が60秒間以上維持された。この結果は、ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有量が0.2重量%以上であれば、紫外線で確実に硬化可能な時間だけ、未硬化の膜を枠体に維持できることを示唆している。
【0042】
<試験品>
評価試験3で使用した枠体を、実施例1~10の工芸用ディップ液に夫々浸し、引き上げた後に枠体の内側に形成された膜に対して、紫外線を120秒間照射した。紫外線の照射は、工芸用の紫外線照射装置(UV-LEDハンディライト3:株式会社パジコ製)を用いて、365nm及び405nmの波長の紫外線を照射した。その結果、実施例1~9の工芸用ディップ液については、枠体の内側の膜を硬化させることができた。これらの硬化膜を、以下の評価試験の試験品とした。なお、実施例10の工芸用ディップ液については、膜が硬化する前に破れてしまい、硬化膜を得ることができなかった。この結果は、膜が比較的不安定な場合には、より強力な紫外線を照射して、短時間で膜を硬化させる必要であることを示唆している。
【0043】
上記の枠体を、比較例の工芸用ディップ液に浸し、引き上げた後、室温で30分間乾燥させて、枠体の内側の膜を硬化させた。得られた硬化膜を比較用の試験品とした。
【0044】
<評価試験4>
実施例1~9から得られた試験品、及び比較例から得られた試験品について、枠体の中央部の膜厚を、マイクロメーターを用いて測定した。結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1~9から得られた試験品は、比較例から得られた試験品に比べて膜厚が3~13倍であった。この結果は、本発明の工芸用ディップ液では、従来の工芸用ディップ液に比べて、肉厚な硬化膜が得られることを示唆している。また、表1に示されるように、実施例1~9から得られた試験品の膜厚は、工芸用ディップ液の粘度が高いものほど、硬化膜が厚くなる傾向が認められた。この結果は、工芸用ディップ液の粘度によって、硬化膜の厚みを調整できることを示唆している。
【0045】
<評価試験5>
実施例1~9から得られた試験品、及び比較例から得られた試験品について、表面の平滑度を、目視によって以下の3段階で評価した。
○:凹凸が目立たない
△:凹凸が少し目立つ
×:凹凸が目立つ、
結果を表2に示す。表2に示されるように、粘度が最も高い33Pa・sの実施例3に係る試験品では、硬化膜の表面に液溜りによる凹凸が目立ち、平滑度は低評価となった。粘度が0.66~29Pa・sである他の実施例に係る試験品では、液溜りや皺などの凹凸は目立たず、平滑度はいずれも高評価となった。この結果は、本発明の工芸用ディップ液は、粘度が30Pa・s以下の場合に、平滑度の高い硬化膜が得られることを示唆している。
【0046】
<評価試験6>
実施例1~9から得られた試験品、及び比較例から得られた試験品について、目視によって硬化膜の透明度を以下の3段階で評価した。
○:濁りなし
△:少し濁りあり
×:濁りが強い
結果を表2に示す。表2に示されるように、表面張力調整剤の含有量が0.6重量%未満の実施例1~6に係る試験品では、硬化膜に濁りは認められず、透明度が高評価となった。表面張力調整剤を1重量%以上含有する実施例7~9に係る試験品では、硬化膜の白濁が認められ、透明度が低評価又は中評価となった。この結果は、本発明の工芸用ディップ液は、表面張力調整剤の含有量が多くなると、得られる硬化膜の透明度が低下することを示唆している。また、この結果は、ポリエーテル変性シリコーンオイルを表面張力調整剤として用いる場合には、ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有量を少なくとも1重量%未満、望ましくは0.6重量%未満とすることが望ましいことを示唆している。
【0047】
<評価試験7>
実施例1~9から得られた試験品、及び比較例から得られた試験品の硬化膜について、指触によって表面のベタツキ度合いを、以下の3段階で評価した。
○:ベタツキなし
△:少しベタツキあり
×:ベタツキあり
結果を表2に示す。表2に示されるように、ポリチオールの含有量が約2重量%である実施例4に係る試験品では、硬化膜の表面にベタツキが認められた。また、ポリチオールの含有量が約3重量%である実施例8に係る試験品では、硬化膜の表面に少しベタツキが認められた。そして、ポリチオールの含有量が4重量%以上である実施例1~3,5~7,9に係る試験品では、硬化膜の表面にベタツキは認められなかった。この結果は、本発明の工芸用ディップ液は、ポリチオールを3重量%以上含有する場合に、硬化膜のベタツキを概ね抑えることができ、ポリチオールを4重量%以上含有する場合に、硬化膜のベタツキを確実に防止できることを示唆している。