IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-真空バルブ 図1
  • 特開-真空バルブ 図2
  • 特開-真空バルブ 図3
  • 特開-真空バルブ 図4
  • 特開-真空バルブ 図5
  • 特開-真空バルブ 図6
  • 特開-真空バルブ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016398
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/664 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
H01H33/664 D
H01H33/664 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120677
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日俣 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 芳充
(72)【発明者】
【氏名】大坊 昂
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
【テーマコード(参考)】
5G026
【Fターム(参考)】
5G026DA02
5G026DB01
5G026DB02
5G026DB06
5G026DB07
(57)【要約】
【課題】真空バルブの開放時(一対の電極を離間させたとき)、電極相互間に発生したアークを、特定位置に停滞させること無く、円周方向に駆動させることが可能な真空バルブを提供する。
【解決手段】離接可能に対向して位置付けられ、複数の溝部12,13によって分画された電極対向面E1s,E2sを備えた一対の電極E1,E2を有し、一対の電極において、電極対向面に隣接した対向領域8a,10aの電流密度は、対向領域以外の電流密度よりも高くなっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離接可能に対向して位置付けられ、複数の溝部によって分画された電極対向面を備えた一対の電極を有し、
一対の前記電極において、前記電極対向面に隣接した対向領域の電流密度は、前記対向領域以外の電流密度よりも高くなっている真空バルブ。
【請求項2】
一対の前記電極は、離接可能に対向して配置された接点と、前記接点に接続された通電軸と、を備え、
複数の前記溝部、前記電極対向面、前記対向領域は、前記接点に設けられ、
前記接点において、前記対向領域の電流密度は、最も高く設定されている請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記対向領域の導電率は、前記対向領域以外の導電率よりも高く設定されている請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
前記接点は、前記対向領域と、前記対向領域を支持する支持領域と、を含む多層構造を有し、
前記支持領域によって前記対向領域を支持することで、前記接点の機械的強度が一定に確保される請求項2に記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記通電軸は、前記支持領域を貫通して前記対向領域に接続されている請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項6】
複数の前記溝部は、前記電極対向面から前記対向領域を貫通し、かつ、前記支持領域を貫通して延在されている請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項7】
複数の前記溝部は、前記電極対向面から前記対向領域を貫通し、かつ、前記支持領域を貫通すること無く延在されている請求項4に記載の真空バルブ。
【請求項8】
前記対向領域の範囲内において、複数の前記溝部は、前記電極対向面に向けて開口したポケットを有し、
前記ポケットは、前記溝部よりも広く設定されている請求項6又は7に記載の真空バルブ。
【請求項9】
前記通電軸が前記支持領域を貫通した部分において、一対の前記電極は、前記通電軸と前記支持領域との間を流れる電流を抑制する通電抑制部を備え、
前記通電抑制部は、前記通電軸の周囲に隣接して設けられている請求項5に記載の真空バルブ。
【請求項10】
前記通電抑制部は、電流を遮断する絶縁材を、前記通電軸の周囲に沿って連続的或いは断続的に設けて構成されている請求項9に記載の真空バルブ。
【請求項11】
前記通電抑制部は、前記通電軸と支持領域とが接触する接触部と、前記通電軸と支持領域とが接触しない非接触部とを、前記通電軸の周囲に沿って交互に連続させて構成されている請求項9に記載の真空バルブ。
【請求項12】
前記接点は、前記対向領域及び前記支持領域の一方或いは双方の比透磁率を1以上に設定して構成されている請求項4に記載の真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや大型施設に設けられる受配電用の開閉装置として、例えば、遮断器や断路器などの開閉器を具備したスイッチギヤが知られている。スイッチギヤには、開閉器の構成要素として真空バルブが適用されている。真空バルブの内部は、絶縁容器によって一定の絶縁状態に維持され、この絶縁容器の内部に一対の電極が離接可能に収容されている。この場合、一対の電極を離接操作することで、事故電流の遮断や負荷電流の開閉が行われ、スイッチギヤから電力が安定して供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-334639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通電状態から電流遮断状態に移行する際に、真空バルブを開放(即ち、一対の電極を離間)させたとき、電極相互間に発生したアーク放電(以下、アークと言う)によって、例えば、電極相互の対向面(以下、電極対向面という)が局所的に加熱されて表面温度が上昇する場合がある。
【0005】
このとき、表面温度の上昇の程度によっては、例えば、電極対向面から金属蒸気が噴出したり、或いは、電極対向面の一部が溶融(溶解)したりする。そうすると、真空バルブの真空度が劣化し、遮断性能(絶縁性能)が低下してしまう。
【0006】
このような事態の発生を回避するには、アークが局所的に停滞しないようにすれば良い。このため、既存の真空バルブでは、例えば、双方の電極にスリット(溝部)を設けることで電流の経路を制限して、アークに半径方向の磁界を印加する。このとき、アークには、フレミングの左手の法則によるローレンツ力が作用する。これにより、アークを円周方向に駆動させることができる。
【0007】
しかしながら、例えば、真空バルブの大きさや使用環境によっては、アークに印加させる磁界が低下することで、アークに作用させるローレンツ力が不十分になってしまう場合が想定される。この場合、アークを円周方向に駆動させることが困難になるため、アークが特定位置に停滞してしまう。そうすると、金属蒸気の噴出や電極対向面の局所溶融(溶解)を回避することができなくなり、その結果、真空バルブの真空度の劣化防止、遮断性能(絶縁性能)の低下防止を図ることができなくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、真空バルブの開放時(一対の電極を離間させたとき)、電極相互間に発生したアークを、特定位置に停滞させること無く、円周方向に駆動させることが可能な真空バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、離接可能に対向して位置付けられ、複数の溝部によって分画された電極対向面を備えた一対の電極を有し、一対の電極において、電極対向面に隣接した対向領域の電流密度は、対向領域以外の電流密度よりも高くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る真空バルブの内部構造を示す図。
図2】アークが電極相互間に発生した状態における一対の電極の斜視図。
図3図2に示す電極の内部構造を示す図。
図4】第1変形例に係る電極の内部構造を示す図。
図5】第2変形例に係る電極の内部構造を示す図。
図6】第3変形例に係る電極の内部構造を示す図。
図7】第4変形例に係る電極の内部構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「一実施形態」
図1は、本実施形態に係る真空バルブPの内部構造図である。真空バルブPは、固定電極E1と、可動電極E2と、絶縁容器1(真空容器とも言う)と、固定側封着部材2と、可動側封着部材3と、気密維持機構4と、アークシールド5と、を有している。固定電極E1、可動電極E2、気密維持機構4、アークシールド5は、絶縁容器1に収容されている。
【0012】
図1の例において、絶縁容器1は、例えば、アルミナセラミックなどの絶縁材料で中空円筒形状に成形されている。固定側封着部材2及び可動側封着部材3は、例えば、ステンレス鋼を主成分とする金属材料で構成されている。
【0013】
図1に示すように、中空円筒形の絶縁容器1は、真空バルブPの中心を規定する仮想軸線Pxを中心とした同心円状を成している。絶縁容器1は、仮想軸線Px方向で見て、その両端が開口されている。双方の開口(固定側開口K1、可動側開口K2)は、固定側封着部材2、及び、可動側封着部材3によって覆われている。具体的には、固定側封着部材2は、固定側封着金具6を介して、絶縁容器1の一方の固定側開口K1を閉塞している。可動側封着部材3は、可動側封着金具7を介して、絶縁容器1の他方の可動側開口K2を閉塞している。
【0014】
アークシールド5は、例えば、銅やステンレス鋼などを主成分とする金属材料で構成されている。アークシールド5は、中空円筒形状を成し、絶縁容器1に固定されている。アークシールド5は、その内部(内側)に、固定電極E1の固定接点8、並びに、可動電極E2の可動接点10を収容するように配置されている。なお、アークシールド5の固定方法としては、絶縁容器1以外に、例えば、固定側封着部材2や可動側封着部材3に固定される場合も想定される。
【0015】
固定電極E1及び可動電極E2は、仮想軸線Pxを中心に同心状に構成されていると共に、仮想軸線Pxに沿って整列して延在されている。この状態において、固定電極E1と可動電極E2とは、それぞれの電極対向面E1s,E2sが平行に対向するように位置付けられている。
【0016】
固定電極E1は、固定接点8と、固定通電軸9と、を備えている。可動電極E2は、可動接点10と、可動通電軸11と、を備えている。上記した一方の電極対向面E1sは、固定接点8に設けられ、他方の電極対向面E2sは、可動接点10に設けられている。固定通電軸9及び可動通電軸11は、互いに同一の直径を有する円柱形状を成し、導電率の高い材料(例えば、Cu)で構成されている。
【0017】
固定接点8及び可動接点10は、双方の電極対向面E1s,E2sが平行に対向するように、互いに対向して配置されている。固定接点8は、固定通電軸9の一端に接続され、固定通電軸9の他端は、固定側封着部材2を介して、仮想軸線Pxに沿って移動不能に真空バルブPに固定されている。可動接点10は、可動通電軸11の一端に接続され、可動通電軸11の他端は、可動側封着部材3を介して、図示しない操作機構に連結されている。なお、固定接点8及び可動接点10の構造並びに材質については、後述する図2及び図3の説明において詳述する。
【0018】
ここで、図1に示すように、操作機構によって可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させる。これにより、可動接点10を固定接点8に対して離接、具体的には、双方の電極対向面E1s,E2sを離接させることができる。この結果、真空バルブPを開閉操作(即ち、一対の電極E1,E2を離接操作)することができる。
【0019】
更に、可動通電軸11と可動側封着部材3との間には、気密維持機構4が配置されている。気密維持機構4は、伸縮性を有するベローズで構成され、ベローズ(気密維持機構)4は、例えば、ステンレスなどの薄い金属で構成されている。ベローズ4は、仮想軸線Px方向に伸縮可能な蛇腹状を成し、可動通電軸11の外側を隙間無く覆っている。
【0020】
ベローズ4は、その一端が可動側封着部材3に隙間無く接合され、その他端が可動通電軸11に隙間無く接合されている。これにより、絶縁容器1の内部は、常に気密状態(即ち、真空状態)に維持される。この結果、真空バルブPの開閉操作に際し、可動通電軸11を仮想軸線Pxに沿って移動させている間も、絶縁容器1の内部に大気(空気)が浸入することはない。
【0021】
ところで、真空バルブPの開放時(即ち、一対の電極E1,E2を離間させたとき)、電極E1,E2相互間(具体的には、電極対向面E1s,E2sの相互間)に発生したアークArcによって、例えば、電極対向面E1s,E2sから金属蒸気が噴出したり、電極対向面E1s,E2sが局所的に溶融(溶解)したりする場合がある。このような事態の発生を回避するには、アークArcを、特定位置に停滞させること無く、円周方向に駆動させればよい。
【0022】
そこで、本実施形態の真空バルブPxにおいて、一対の電極E1,E2(具体的には、固定接点8、可動接点10)には、電極E1,E2相互間に発生したアークArcを、特定位置に停滞させること無く、円周方向に駆動させる構造並びに材質が適用されている。
【0023】
図2は、固定接点8及び可動接点10の外部構造図である。図3は、固定接点8及び可動接点10の内部構造図である。図2及び図3の例において、固定接点8及び可動接点10は、互いに同一の大きさを有する円板形状を成し、互いに同一の構造及び材質を有して構成されている。固定接点8及び可動接点10は、それぞれ、導電率(抵抗率)の異なる多層構造を有している。
【0024】
図2及び図3に示すように、固定接点8は、固定側対向領域8aと、固定側対向領域8aを支持する固定側支持領域8bと、を含んだ多層構造を成して構成されている。固定側対向領域8aは、上記した電極対向面E1sに隣接して設けられている。固定側支持領域8bは、電極対向面E1sの反対側の固定側対向領域8aに隣接して設けられている。
【0025】
可動接点10は、可動側対向領域10aと、可動側対向領域10aを支持する可動側支持領域10bと、を含んだ多層構造を成して構成されている。可動側対向領域10aは、上記した電極対向面E2sに隣接して設けられている。可動側支持領域10bは、電極対向面E2sの反対側の可動側対向領域10aに隣接して設けられている。
【0026】
なお、固定側対向領域8aと固定側支持領域8bとの接合方法、並びに、可動側対向領域10aと可動側支持領域10bとの接合方法は、例えば、摩擦圧接や銀ろう付けを適用すればよい。摩擦圧接では、摩擦による熱を利用することで、双方の領域8a,8bを接合する。銀ろう付けでは、双方の領域8a,8bよりも融点の低い合金を溶かして一種の接着剤として利用することで、領域8a,8bを溶融させずに、双方の領域8a,8bを接合する。このような接合方法によれば、領域8a,8b同士を堅牢に接合することができ、その結果、固定接点8及び可動接点10の耐用年数を延長することができる。
【0027】
ここで、上記した固定通電軸9と固定接点8との接続関係に着目すると、固定通電軸9は、固定側支持領域8bを貫通して固定側対向領域8aに対して面状に隙間無く接続されている。同様に、上記した可動通電軸11と可動接点10との接続関係に着目すると、可動通電軸11は、可動側支持領域10bを貫通して可動側対向領域10aに対して面状に隙間無く接続されている。これにより、通電時における電気的な損失を低減することができる。なお、通電軸9,11と接点8,10との接続方法も、上記した摩擦圧接や銀ろう付けを適用すればよい。
【0028】
また、仮想軸線Pxに沿った方向で見て、固定接点8及び可動接点10の厚さ、具体的には、上記した対向領域8a,10a及び支持領域8b,10bの厚さは、例えば、真空バルブPの大きさや使用環境に応じて設定されるため、特に数値限定はしない。この場合、支持領域8b,10bによって対向領域8a,10aを支持することで、固定接点8及び可動接点10の機械的強度を一定に確保することができる。
【0029】
更に、固定接点8には、固定側対向領域8a及び固定側支持領域8bに加えて、複数の溝部12(スリットとも言う)が設けられている。図2及び図3では一例として、3本の溝部12が設けられている。これら3本の溝部12は、固定通電軸9を回避しつつ、上記した仮想軸線Pxを中心に放射方向に螺旋状(スパイラル状とも言う)に延在し、かつ、円周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0030】
各々の溝部12は、電極対向面E1sから固定側対向領域8aを貫通し、かつ、固定側支持領域8bを貫通して延在されている。このとき、これら3本の溝部12によって分画された固定接点8には、螺旋状に延在した3つの羽部14が構成されている。
【0031】
これら3つの羽部14は、仮想軸線Pxを中心に放射方向に延在し、かつ、円周方向に沿って等間隔に配置されている。かくして、これら溝部12によって分画された電極対向面E1sを有する固定接点8(即ち、スパイラル固定電極E1)が実現されている。
【0032】
更に、可動接点10には、可動側対向領域10a及び可動側支持領域10bに加えて、複数の溝部13(スリットとも言う)が設けられている。図2及び図3では一例として、3本の溝部13が設けられている。これら3本の溝部13は、可動通電軸11を回避しつつ、仮想軸線Pxを中心に放射方向に螺旋状(スパイラル状とも言う)に延在し、かつ、円周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0033】
各々の溝部13は、電極対向面E2sから可動側対向領域10aを貫通し、かつ、可動側支持領域10bを貫通して延在されている。このとき、これら3本の溝部13によって分画された可動接点10には、螺旋状に延在した3つの羽部15が構成されている。
【0034】
これら3つの羽部15は、仮想軸線Pxを中心に放射方向に延在し、かつ、円周方向に沿って等間隔に配置されている。かくして、これら溝部13によって分画された電極対向面E2sを有する可動接点10(即ち、スパイラル可動電極E2)が実現されている。
【0035】
ここで、溝部12,13と羽部14,15の位置関係に着目すると、固定接点8及び可動接点10が仮想軸線Pxに沿って対向して位置付けられた状態において、双方の溝部12,13は、互いに対向し、かつ、仮想軸線Pxに沿って整列した位置関係を有している。これにより、双方の羽部14,15も、互いに対向し、かつ、仮想軸線Pxに沿って整列した位置関係を有している。
【0036】
更に、上記したような多層構造を有する電極E1,E2(接点8,10)において、電極対向面E1s,E2sに隣接した対向領域8a,10aの電流密度は、最も高く設定されていることが好ましい。電流密度とは、単位面積に垂直な方向に単位時間に流動する電気量(電荷の量)を指す。
【0037】
これに応えるために、固定接点8において、固定側対向領域8aと固定側支持領域8bとは、互いに異なる導電率(抵抗率)を有している。可動接点10において、可動側対向領域10aと可動側支持領域10bとは、互いに異なる導電率(抵抗率)を有している。
【0038】
具体的には、対向領域8a,10aの導電率は、対向領域8a,10a以外(即ち、支持領域8b,10b)の導電率よりも高く設定されている。換言すると、対向領域8a,10aの抵抗率は、対向領域8a,10a以外(即ち、支持領域8b,10b)の抵抗率よりも低く設定されている。
【0039】
これにより、対向領域8a,10aの電流密度は、対向領域8a,10a以外(即ち、支持領域8b,10b)の電流密度よりも高くなっている。この場合、真空バルブPの開閉時に、通電軸9,11から接点8,10を介して流動する交流電流16は、その大部分が対向領域8a,10aに集中する。この結果、一対の電極E1,E2を離間させた際に、電極E1,E2相互間に発生したアークArcに隣接(接近)させて交流電流16を流動させることができる。
【0040】
なお、対向領域8a,10aには、通電性と耐弧性(耐アーク性とも言う)とが要求されるため、対向領域8a,10aの材質としては、例えば、Cu、Agなどの通電材料と、Cr、W、WCなどの耐弧材料との合金を適用することが好ましい。これに対して、支持領域8b,10bには、電流抑制特性が要求されるため、支持領域8b,10bの材質としては、例えば、SUSなどを主成分とした通電性の成分の含有量の少ない合金を適用することが好ましい。
【0041】
加えて、接点8,10は、対向領域8a,10a及び支持領域8b,10bの一方或いは双方の比透磁率を1以上(1≦比透磁率)に設定して構成してもよい。この場合、羽部14,15を流れる交流電流16によって生じる磁束(右ねじの法則に基づく)の経路に透磁率の高い部分が介在することになる。そうすると、当該磁束の経路を規定する羽部14,15の磁気抵抗が低減する。これにより、同じ起磁力(交流電流16)でも羽部14,15で発生する磁束が増加し、その結果、接点8,10相互間の磁束密度が増加する。かくして、アークArcに印加させる磁界Mfが増加する。
【0042】
次に、真空バルブPの動作の一例として、通電状態から電流遮断状態に移行する場合を想定して説明する。図2及び図3の例において、真空バルブPを開放(即ち、一対の電極E1,E2を離間)させた際に、交流電流16は、固定通電軸9から固定接点8並びに可動接点10を介して可動通電軸11に流動する。この間、交流電流16が零点を迎えるまで、電極E1,E2相互間にアークArcが発生する。
【0043】
この状態において、固定通電軸9から固定接点8に流入した交流電流16は、その大部分が羽部14の固定側対向領域8aに沿って流動する。続いて、交流電流16は、アークArcを通って可動接点10に流入する。可動接点10に流入した交流電流16は、その大部分が羽部15の可動側対向領域10aに沿って流動する。この後、交流電流16は、可動通電軸11を通って流出する。
【0044】
このとき、羽部14,15を流れる交流電流16は、その大部分がアークArcの両側に隣接した対向領域8a,10aに沿って流動する。換言すると、交流電流16は、アークArcに最も近接しつつ、対向領域8a,10aに沿って流れる。これにより、アークArcに印加させる磁界Mfは、低下すること無く、常に一定に維持される。この結果、アークArcには、フレミングの左手の法則によるローレンツ力Lfが安定して作用する。かくして、アークArcは、特定位置に停滞すること無く円周方向に駆動する。
【0045】
以上、本実施形態によれば、交流電流16は、その大部分が対向領域8a,10aに沿ってアークArcに隣接(接近)して流動する。この場合、アークArcに印加させる磁界Mfは、常に一定に維持される。これにより、安定したローレンツ力Lfによって、アークArcを連続的に移動させることができる。この結果、真空バルブPの大きさや使用環境を問わず、真空度の劣化防止、遮断性能(絶縁性能)の低下防止を図ることができる。
【0046】
本実施形態によれば、通電軸9,11は、支持領域8b,10bを貫通して対向領域8a,10aに対して面状に隙間無く接続されている。この場合、通電軸9,11は、接点8,10のうち電流密度の最も高い対向領域8a,10aにダイレクトに接続される。これにより、通電時における電気的な損失を低減することができると共に、電流遮断時には、交流電流16の大部分をアークArcの両側に隣接した対向領域8a,10aに沿って流動させることができる。この結果、電流遮断時において、アークArcを停滞させること無く駆動させるのに十分な磁界Mfを、当該アークArcに印加させることができる。
【0047】
本実施形態によれば、導電率の高い(抵抗率の低い)対向領域8a,10aは、支持領域8b,10bによって支持されている。これにより、接点8,10の機械的強度を一定に確保することができる。この結果、固定接点8及び可動接点10の耐用年数を延長することができる。
【0048】
本実施形態によれば、接点8,10において、対向領域8a,10a及び支持領域8b,10bの一方或いは双方の比透磁率を1以上(1≦比透磁率)に設定する。この場合、羽部14,15を流れる交流電流16によって生じる磁束の経路に透磁率の高い部分が介在する。そうすると、当該磁束の経路を規定する羽部14,15の磁気抵抗が低減する。これにより、同じ起磁力(交流電流16)でも羽部14,15で発生する磁束が増加する。この結果、接点8,10相互間の磁束密度を増加させることができる。かくして、アークArcに印加させる磁界Mfを増加させることができる。
【0049】
「第1変形例」
図4は、第1変形例に係る固定接点8及び可動接点10の内部構造図である。図4に示すように、接点8,10の対向領域8a,10aの範囲内において、溝部12,13は、電極対向面E1s,E2sに向けて開口したポケット12p,13pを有している。ポケット12p,13pは、溝部12,13よりも広く(大きく)設定されている。
【0050】
図4の例において、ポケット12p,13pは、断面矩形状の立体的な輪郭を成しているが、これに限定されることはなく、電極対向面E1s,E2sに向けて拡がった断面台形状や断面円弧状の立体的な輪郭を適用してもよい。なお、他の構成は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0051】
第1変形例によれば、例えば、アークArcによって電極対向面E1s,E2sの一部が溶融(溶解)した場合、その溶融(溶解)物をポケット12p,13pに流入させて貯留することができる。この結果、短絡などの不具合の発生を未然に防止することができる。
【0052】
第1変形例によれば、ポケット12p,13pを対向領域8a,10aの範囲内に構成したことで、支持領域8b,10bの強度が一定に維持され、その結果、接点8,10全体の機械的強度の低下防止を図ることができる。なお、他の効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0053】
「第2変形例」
図5は、第2変形例に係る固定接点8及び可動接点10の内部構造図である。図5に示すように、溝部12,13は、有底構造を成している。即ち、溝部12,13は、電極対向面E1s,E2sから対向領域8a,10aを貫通し、かつ、支持領域8b,10bを貫通すること無く延在されている。なお、他の構成は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0054】
第2変形例によれば、有底の溝部12,13は、その全体が上記したポケットと同様の機能を発揮させる構造となる。これにより、例えば、アークArcによって電極対向面E1s,E2sの一部が溶融(溶解)した場合、その溶融(溶解)物を溝部12,13に流入させて貯留することができる。
【0055】
この場合、有底の溝部12,13に対して、上記した第1変形例のポケット12p,13pを増設してもよい。これにより、溶融(溶解)物の貯留効果を更に向上させることができる。なお、他の効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0056】
ここで、有底の溝部12,13を有する接点8,10において、対向領域8a,10a及び支持領域8b,10bの一方或いは双方に添加される材料の如何によっては、支持領域8b,10bを断続化させる溝部12g,13g(スリットとも言う)を新たに増設する必要がある。
【0057】
例えば、添加材料として強磁性材料を想定すると、真空バルブPの開放時に支持領域8b,10bには、通電軸9,11を中心として円周方向に渦電流が発生する場合がある。この場合、渦電流による磁束(即ち、磁界の方向)は、アークArcを駆動するために当該アークArcに印加する磁界Mfの方向と逆方向に発生する。そうなると、アークArcに印加する磁界Mfの強さを一定に維持すること、即ち、安定化させることができなくなってしまう。
【0058】
アークArcに印加する磁界Mfの強さを安定化させるためには、支持領域8b,10bを流れる渦電流を遮断する必要がある。そこで、渦電流を遮断する方向、例えば、渦電流に直交する方向(換言すると、通電軸9,11を中心に放射方向)に沿って溝部12g,13gを増設する。図5の例において、溝部12g,13gは、支持領域8b,10bを一部切り欠いて構成されている。このとき、通電軸9,11側から支持領域8b,10bを平面視すると、支持領域8b,10bは、ローマ字のCの如き輪郭形状を成す。これにより、渦電流の経路が遮断され、その結果、渦電流の発生を防止することができる。かくして、アークArcに印加する磁界Mfの強さを安定化させることができる。
【0059】
「第3変形例」
図6は、第3変形例に係る固定接点8及び可動接点10の内部構造図である。図6に示すように、通電軸9,11が支持領域8b,10bを貫通した部分(範囲)において、電極E1,E2は、通電軸9,11と支持領域8b,10bとの間を流れる電流を抑制する通電抑制部17を備えている。通電抑制部17は、通電軸9,11の周囲に隣接して設けられている。
【0060】
通電抑制部17は、仮想軸線Pxに沿った方向で見て、支持領域8b,10bと同一の厚さに設定してもよいし、或いは、支持領域8b,10bよりも薄く設定してもよい。図6では一例として、通電抑制部17は、支持領域8b,10bよりも薄く設定されている。
【0061】
通電抑制部17は、交流電流16を遮断する絶縁材を、通電軸9,11の周囲に沿って連続的或いは断続的に設けて構成することができる。絶縁材としては、例えば、セラミックやガラスなどの固体絶縁材料を適用すればよい。
【0062】
これ以外に、通電抑制部17は、通電軸9,11と支持領域8b,10bとがダイレクトに接触する接触部17pと、通電軸9,11と支持領域8b,10bとが接触しない非接触部(図示しない)とを、通電軸9,11の周囲に沿って交互に連続させて構成することができる。非接触部としては、通電軸9,11と支持領域8b,10bとの間に空間的な隙間を構成すればよい。なお、他の構成は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0063】
第3変形例によれば、通電軸9,11から支持領域8b,10bへの交流電流16の流入量を大幅に抑制することができる。これにより、通電軸9,11から対向領域8a,10aへの交流電流16の流入量を増加させることができる。この結果、アークArcに印加させる磁界Mfを増加させることができる。なお、他の効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0064】
「第4変形例」
図7は、第4変形例に係る固定接点8及び可動接点10の内部構造図である。図7に示すように、通電軸9,11は、支持領域8b,10bを貫通して対向領域8a,10aに対して面状に隙間無く接続されている。この状態において、通電軸9,11は、その一部(例えば、先端部分9p,11p)を対向領域8a,10a内に埋め込むように、対向領域8a,10aに接続されている。なお、他の構成は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0065】
第4変形例によれば、電流密度の最も高い対向領域8a,10aにダイレクトに接続させる通電軸9,11の接続範囲を増加させることができる。これにより、通電時における交流電流16の通電量の向上、並びに、電流遮断時における対向領域8a,10aへの交流電流16の流動量の向上を同時に実現することができる。なお、他の効果は、上記した実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0066】
以上、本発明の一実施形態及びいくつかの変形例を説明したが、これらの実施形態及び変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1…絶縁容器、2…固定側封着部材、3…可動側封着部材、4…気密維持機構、5…アークシールド、6…固定側封着金具、7…可動側封着金具、8…固定接点、8a…固定側対向領域、8b…固定側支持領域、9…固定通電軸、10…可動接点、10a…可動側対向領域、10b…可動側支持領域、11…可動通電軸、12,13…溝部、14,15…羽部、16…交流電流、17…通電抑制部、P…真空バルブ、E1…固定電極、E2…可動電極、E1s,E2s…電極対向面、Px…仮想軸線、K1…固定側開口、K2…可動側開口、Arc…アーク、Lf…ローレンツ力、Mf…磁界。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7