(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163981
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】気分をリセットする呼吸法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/96 20060101AFI20231102BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20231102BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20231102BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K8/96
A61Q13/00 101
A61K8/34
A61K8/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075248
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐子
(72)【発明者】
【氏名】平尾 直靖
(72)【発明者】
【氏名】宗像 大朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊一
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AD531
4C083AD532
4C083BB41
4C083BB60
4C083CC01
4C083CC02
4C083EE06
4C083EE50
4C083KK02
(57)【要約】
【課題】呼吸への意識を容易に集中させることができ、気分を好適にリセットすることができる呼吸法を提供する。
【解決手段】本開示の気分をリセットする呼吸法は、冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む、気分をリセットする呼吸法。
【請求項2】
前記呼吸することが、1分以上実施される、請求項1に記載の呼吸法。
【請求項3】
1分以上実施される前記呼吸することを1セットとしたときに、前記セットが、1回以上実施される、請求項2に記載の呼吸法。
【請求項4】
前記セットが、2回以上実施され、前記セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施する、請求項3に記載の呼吸法。
【請求項5】
前記冷感刺激性化合物が、TRPM8チャネルを刺激する化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法。
【請求項6】
前記冷感刺激性化合物が、メントール、ユーカリプトール、及びボルネオールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法。
【請求項7】
冷感刺激性化合物を含む、気分をリセットする呼吸法用香料組成物。
【請求項8】
前記冷感刺激性化合物が、TRPM8チャネルを刺激する化合物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記冷感刺激性化合物が、メントール、ユーカリプトール、及びボルネオールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の香料組成物を含む、気分をリセットする呼吸法用化粧料。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、請求項7~9のいずれか一項に記載の香料組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、請求項10に記載の化粧料。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法を表示した、シート又はディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気分をリセットする呼吸法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヨガなどを実施したり、或いは、香りを嗅がせたりすることによってストレスなどを改善する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、特定のヨガ用補助具を用いてヨガ呼吸法などを実践する、ヨガ実践方法が記載され、また、ヨガはストレス解消等を目的に行われていることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、スイートオレンジオイルの香りを嗅がせることを含む、ストレス応答力を改善する美容方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、バレリアン油を有効量吸引させる、ストレス緩和方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、コーヒー又は茶類の香気成分を哺乳動物に投与する、ストレスの予防又は軽減方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-103538号公報
【特許文献2】特開2008-247894号公報
【特許文献3】国際公開第01/98442号
【特許文献4】国際公開第2005/011718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1にも記載されるように、精神的な緊張などに伴うストレスを解消する目的に、ヨガ呼吸法などが活用されている。しかし、かかる呼吸法は、典型的には、熟練度を要し、呼吸に意識を集中させることが難しく、その結果、十分なストレス解消効果が得られないため、気分を好適にリセットすることができない場合があった。
【0009】
また、特許文献2~4に記載されるように、香料から発せられる特定の香りを嗅ぐだけでも、ストレスをある程度解消できる場合もある。しかし、現代社会においては人の気分は複雑化しており、人は、精神的な緊張などに伴うストレス以外に、例えば、気分がすっきりしなかったり、気分が落ち着かなかったりといった様々な不快な気分も同時に抱いていることが多い。
【0010】
特定の香りを単に嗅ぐ動作において、例えば、ストレスを改善させる香りと、気分をすっきりさせる香りがあったとしても、それらを併用すると香りは容易に混ざり合ってしまうため、2つの作用を同時に発現させることは難しかった。また、仮に不快な気分がストレスのみであったとしても、香りが強すぎると逆に不快に感じることもあるため、香りを発する強度にはある程度限界があった。その結果、香りを単に嗅ぐだけでは、気分を改善する効果が乏しかった。
【0011】
したがって、本開示の主題は、呼吸への意識を容易に集中させることができ、気分を好適にリセットすることができる呼吸法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〈態様1〉
冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む、気分をリセットする呼吸法。
〈態様2〉
前記呼吸することが、1分以上実施される、態様1に記載の呼吸法。
〈態様3〉
1分以上実施される前記呼吸することを1セットとしたときに、前記セットが、1回以上実施される、態様2に記載の呼吸法。
〈態様4〉
前記セットが、2回以上実施され、前記セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施する、態様3に記載の呼吸法。
〈態様5〉
前記冷感刺激性化合物が、TRPM8チャネルを刺激する化合物である、態様1~4のいずれかに記載の呼吸法。
〈態様6〉
前記冷感刺激性化合物が、メントール、ユーカリプトール、及びボルネオールからなる群から選択される少なくとも一種である、態様1~4のいずれかに記載の呼吸法。
〈態様7〉
冷感刺激性化合物を含む、気分をリセットする呼吸法用香料組成物。
〈態様8〉
前記冷感刺激性化合物が、TRPM8チャネルを刺激する化合物である、態様7に記載の組成物。
〈態様9〉
前記冷感刺激性化合物が、メントール、ユーカリプトール、及びボルネオールからなる群から選択される少なくとも一種である、態様7に記載の組成物。
〈態様10〉
態様7~9のいずれかに記載の香料組成物を含む、気分をリセットする呼吸法用化粧料。
〈態様11〉
態様1~6のいずれかに記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、態様7~9のいずれかに記載の香料組成物、又は態様10に記載の化粧料。
〈態様12〉
態様1~6のいずれかに記載の呼吸法を表示した、シート又はディスプレイ。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、呼吸への意識を容易に集中させることができ、気分を好適にリセットすることができる呼吸法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、無香雰囲気下又は冷感刺激性の香りの雰囲気下において、ストループ課題及び所定の呼吸を実施したときの30秒毎に測定した皮膚コンダクタンスに関するグラフである。
【
図2】
図2は、無香雰囲気下又は冷感刺激性の香りの雰囲気下における、本開示の一実施形態の呼吸法のリセット呼吸中及びリセット呼吸後のアンケート結果に関するグラフである。
【
図3】
図3は、冷感刺激性の香りの雰囲気下における通常呼吸後のアンケート結果に関するグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したシートの一実施形態に関する図面である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したシートの別の実施形態に関する図面である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したディスプレイに関する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
本開示の呼吸法は、冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含み、気分をリセットすることができる。
【0017】
原理によって限定されるものではないが、本開示の呼吸法が、気分をリセットすることができる作用原理は以下のとおりであると考える。
【0018】
本開示における0.15Hz以下の間隔の呼吸(「リセット呼吸」と称する場合がある。)は、60秒に9回程度の、通常呼吸よりもゆっくりとした呼吸である。このようなゆっくりとした呼吸は、簡易に実施することができる一方で、例えば、ヨガ呼吸法における呼吸と類似した性能を有しているため、通常呼吸に比べれば、単独でもある程度のストレス解消効果などを得ることができる。
【0019】
本発明者は、冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香り(「冷感刺激性の香り」と称する場合がある。)の雰囲気下において、このようなゆっくりとした呼吸を実施すると、息(空気)の流れが感じやすくなり、また、呼吸がしやすくなるため、呼吸への意識を容易に集中させ得ることを見出した。そして、ゆっくりとした呼吸を容易に集中しながら実施し得る結果、ストレス解消等の様々な効果をより一層実感できるとともに、冷感刺激性の香りによる副次的な効果、例えば、ストレス解消効果とは異なる、気分をすっきりさせる効果、気分を落ち着かせる効果なども同時に得られるため、従来のヨガ呼吸法或いは香りを単に嗅がせる方法に比べ、気分を好適にリセットし得ることを、本発明者は見出した。
【0020】
冷感刺激性の香りの雰囲気下において本開示のリセット呼吸を実施すると、呼吸への意識を容易に集中させ得る理由は定かではないが、その理由は以下のように考えている。
【0021】
例えば、マインドフルネスという心理学的技法は、ストレスの軽減などに活用されている。かかる技法の一つに、レーズンを使用する方法がある。この方法は、床又は椅子に座り、リラックスした状態でレーズンを手に取り、じっくりとレーズンの色、陰影、表面の質感などを観察し、他のことは考えずに目の前のレーズンだけに意識を集中させるというものである。この方法では、視覚的に明確なレーズンに意識を集中させ、視覚を通じて脳に刺激を与えることができる結果、ストレスの軽減などに効果を発揮していると考えられる。
【0022】
一方、香りは嗅覚に作用する知覚の一種であるが、香りをレーズンのように視覚的に明確に作用させることはできない。しかし、本開示の呼吸法で使用する香りは、冷感刺激性の香りである。このような冷感刺激性の香りは、冷たいものを触ったような刺激も鼻腔又は喉などを通じて同時に得られるため、嗅覚以外に触覚にも作用すると考えている。その結果、視覚のみに作用させるレーズン法とは異なり、冷感刺激性の香りは、2つの知覚(嗅覚及び触覚)によって明確に息(空気)の流れを認識させることができ、また、鼻のとおりなどをよくして呼吸をしやすくする作用も有しているため、呼吸中の覚醒度が高まり、呼吸(リセット呼吸)への意識を容易に集中させることができると考えている。
【0023】
本開示における用語の定義は以下のとおりである。
【0024】
本開示において「冷感刺激性」とは、例えば、香りを含む30℃程度の雰囲気下において、香りを含む空気自体の温度は雰囲気温度と同程度であるものの、その香りを鼻又は口を通じて嗅いだとき又は吐いたときの息(空気)は、冷たく感じる性能を意味する。
【0025】
本開示において「気分をリセットする」とは、本開示の呼吸法を実施する前に抱いていたリセットしたい気分(例えば不安感)が、本開示の呼吸法を実施した後に、完全に消失したと感じ得ること以外に、改善したと感じ得ること、或いは、このような気分が残っていたとしても、他の快適な気分(例えば、すっきり感、充足感等)が高まる結果、快適な気分の方が優位になったと感じ得ることを意味する。なお、本開示において「気分をリセットする呼吸法」とは、人間を手術、治療又は診断する方法とは相違する。
【0026】
《気分をリセットする呼吸法》
本開示の呼吸法は、冷感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下で実施される。
【0027】
〈香料組成物〉
本開示の呼吸法で使用する香料組成物は、冷感刺激性化合物を含んでいるため、冷感刺激性の香りを発することができる。かかる香料組成物を用いて本開示のリセット呼吸を実施すると、気分をリセットすることができるため、かかる組成物は、気分をリセットする呼吸法用香料組成物と称することもできる。また、香料組成物は、例えば、冷感刺激性化合物とともに油分などを適宜混合して調製してもよく、或いは、冷感刺激性化合物を含む精油などの市販品を使用してもよい。
【0028】
(冷感刺激性化合物)
本開示の香料組成物中の冷感刺激性化合物としては特に制限はなく、例えば、温度感受性(Transient Receptor Potential: TRP)チャネルのうちのTRPA1チャネル又はTRPM8チャネルを刺激する化合物を挙げることができる。TRPA1チャネルを刺激する化合物は刺激が強いため、安全性等の観点から、TRPM8チャネルを刺激する化合物の方が好ましい。TRPA1チャネルを刺激する化合物を使用する場合には、少量で使用するか、或いは、TRPM8チャネルを刺激する化合物又は他の香料などと併用して使用することが好ましい。冷感刺激性化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
TRPA1チャネルを刺激する化合物としては特に制限はなく、例えば、シンナムアルデヒド、及びアリルイソチオシアネートからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0030】
TRPM8チャネルを刺激する化合物としては特に制限はなく、例えば、メントール、ユーカリプトール、及びボルネオールからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。なかでも、ユーカリの精油中に多く含まれる成分でもあるユーカリプトールが好ましい。ユーカリプトールは、呼吸への意識を集中させやすいことに加え、副次的に、呼吸後において、気分をすっきりさせ、かつ、落ち着かせることができ、また、充足感(満足感)を感じさせつつ、集中力も向上させることができるため、他の化合物に比べ、気分をより好適にリセットすることができる。
【0031】
香料組成物は、香りを発生させるために、そのまま使用してもよく、或いは薄めて使用してもよい。したがって、香料組成物における冷感刺激性化合物の配合量は、香料組成物の使用形態に応じて適宜調整すればよく、特に制限はない。かかる配合量は、例えば、組成物の全量に対し、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1.0質量%以上、5.0質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上とすることができ、また、100質量%未満、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、又は3.0質量%以下とすることができる。例えば、TRPA1チャネルを刺激する化合物の場合は、かかる化合物を組成物中に少量配合することが好ましいが、TRPM8チャネルを刺激する化合物の場合は、かかる化合物を組成物中に高濃度で配合してもよい。
【0032】
(任意成分)
香料組成物は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、上記冷感刺激性化合物以外の各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、例えば、界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤)、増粘剤、保湿剤、分散剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール(例えばエタノール)、多価アルコール(例えばエチレングリコール)、高級アルコール、各種抽出液、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、キレート剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、水溶性薬剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、安定化剤、噴射剤、充填剤、清涼剤、顔料、染料、色素、香料、水、油分等を挙げることができる。任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
香料組成物は、上記冷感刺激性化合物以外の香料(例えば非刺激性香料)を含んでも構わない。しかし、例えば、ユーカリプトールは、上述したように、副次的な効果として、気分をすっきりさせ、かつ、落ち着かせることができ、また、充足感(満足感)を感じさせつつ、集中力も向上させることもできるが、他の香りによって臭いが複合化されると、このような効果を奏し得なくなるおそれがある。したがって、冷感刺激性化合物による副次的な効果も同時に得たい場合には、香料組成物中における上記冷感刺激性化合物以外の香料の配合量は、香料組成物の全量に対し、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であることが好ましく、かかる香料は配合しないことがより好ましい。
【0034】
(使用形態)
香料組成物から発生した香りの雰囲気を得るための香料組成物の使用形態としては特に制限はない。例えば、香料組成物を、そのまま又は薄めて、蓋を開けた状態の瓶などの容器、又は芳香拡散器に入れて使用してもよく、あるいは、香料組成物を浴槽又は洗面器に入れて使用してもよい。香料組成物は、必要に応じて加温されてもよい。
【0035】
香料組成物を、そのまま又は薄めて、スプレー容器に入れて使用してもよい。スプレー容器中の香料組成物は、部屋の空間に適宜散布してもよく、或いは、部屋の壁、床、若しくはカーテン、又は着用している衣類などに散布してもよい。
【0036】
香料組成物を、そのまま又は薄めて、吸収性物品(例えば、コットン、紙、不織布)に吸収させて使用してもよい。
【0037】
あるいは、香料組成物を、化粧料の形態とし、肌等に適用して使用してもよい。化粧料の形態としては特に制限はなく、例えば、乳液状、クリーム状、液状といった形態を採用することができる。
【0038】
化粧料の製品形態としても特に制限はなく、例えば、美容液、化粧水、保湿ジェル、マッサージジェル、乳液、及びクリーム等のスキンケア化粧料;パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、アイシャドー等のメーキャップ化粧料;日焼け止め化粧料(サンスクリーン剤);ボディー化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料等の毛髪化粧料;シェービングクリーム、プレシェービングローション、アフターシェービングローション等の髭剃り化粧料;軟膏などを挙げることができる。
【0039】
化粧料は、体のあらゆる部分に適用することができ、例えば、皮膚の表面(体表)上のいかなる箇所に適用することができる。具体的には、例えば、顔(唇、目元、瞼、頬、額、眉間、鼻など)、頭(頭皮)、耳、手、腕、首、脚、足、胸、腹、背中等の皮膚表面に対して適宜適用することができる。ここで、皮膚には、皮膚の表皮の角質が変化して硬化した爪なども含まれる。
【0040】
冷感刺激性化合物が、食用として使用可能な化合物の場合には、香料組成物を、食用の形態(例えば、ガム、飴、飲料)で使用してもよい。
【0041】
また、香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料は、上述した本開示の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容することができ、それによって使用する香料組成物又は化粧料が上述した本開示の呼吸法のためのものであることを明示できる。かかる記載は、容器又はパッケージの外側及び内側の少なくともいずれか一方に記載され得る。
【0042】
〈0.15Hz以下の間隔の呼吸(リセット呼吸)〉
本開示の呼吸法は、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む。ここで「0.15Hz」とは、9回/60秒より算出される値である。つまり、例えば、0.15Hzの間隔の呼吸とは、60秒に9回の間隔で呼吸することを意味する。また、本開示において「呼吸」とは、息を吸って吐く動作を意味し、この一連の動作を1回とカウントする。この一連の動作には、息を吸って吐くまでの間に、息を止める動作を含んでもよい。
【0043】
気分を好適にリセットする観点から、呼吸は、0.14Hz(50秒に7回)以下、0.12Hz(50秒に6回)以下、0.10Hz(60秒に6回)以下、0.08Hz(50秒に4回)以下、又は0.05Hz(60秒に3回)以下であることが好ましい。かかる呼吸間隔の下限値としては特に制限はなく、例えば、0.01Hz(100秒に1回)以上又は0.02Hz(50秒に1回)以上とすることができる。
【0044】
気分を好適にリセットする観点から、リセット呼吸は、1分以上、1.5分以上、又は2分以上実施することが好ましい。リセット呼吸の時間の上限値としては特に制限はなく、呼吸への意識を持続的に集中させる観点から、10分以下、7分以下、又は5分以下であることが好ましい。この時間内に実施されるリセット呼吸は、同一の間隔で実施してもよく、或いは異なる間隔で実施してもよい。例えば、毎回0.15Hzの間隔で呼吸を実施してもよく、或いは、0.15Hzの間隔に次いで、0.10Hzの間隔で呼吸を実施してもよい。
【0045】
気分を好適にリセットする観点から、例えば、1分以上、1.5分以上、又は2分以上のリセット呼吸のいずれかを1セットとしたときに、かかるセットを1回以上、2回以上、又は3回以上実施することが好ましい。かかるセットの実施回数の上限値としては特に制限はなく、50回以下、30回以下、15回以下、10回以下、7回以下、又は5回以下とすることができる。
【0046】
かかるセットを2回以上実施する場合には、セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施することが好ましい。リセット呼吸のみを実施していると、集中力が次第に散漫になりやすいが、リセット呼吸とリセット呼吸との間に通常呼吸を導入することで、呼吸への意識を持続的に集中させることができる。かかる通常呼吸は、1分以上、1.5分以上、又は2分以上とすることができ、また、10分以下、7分以下、又は5分以下とすることができる。通常呼吸の実施時間は、同一であってもよく、或いは異なってもよい。例えば、
図1に示す試験では、前段階(前安静)では2分間の通常呼吸が行われ、後段階(後安静)では3分間の通常呼吸が行われている。また、
図4のシートに示している例では、2回のリセット呼吸の前段階として、2分間の通常呼吸が行われている。
【0047】
《呼吸法を表示したシート》
いくつかの実施形態において、上述した本開示の呼吸法を表示したシートを提供する(
図4、5)。このようなシートとしては特に制限はなく、例えば、チラシ、能書き、取り扱い説明書、パンフレット、及びカタログを挙げることができる。本開示の呼吸法が表示されたシートは、利用者がそれを見ながら本開示の方法を的確に実施することができるため、気分をより効率的かつ効果的にリセットすることができる。
【0048】
シートに記載される本開示の呼吸法の内容及び記載形式については特に制限はなく、上述した呼吸法の内容を、例えば、文章、図面、写真などを用いて適宜記載することができる。
【0049】
このようなシートは、1枚で構成されてもよく、或いは2枚以上で構成されてもよい。また、シートは、折られた状態であってもよい。
【0050】
シートの形状は特に制限はなく、例えば、多角形(例えば、三角形、正方形、長方形、菱形、五角形、六角形、八角形)、円形、及び楕円形を挙げることができる。シート形状は、異形状であってもよい。
図5には、異形状シートの一例が示されているが、かかるシートは、例えば、上述した香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料などを収納することが可能な容器を構成することができる。この場合、本開示の呼吸法の表示は、容器の内側及び/又は外側となる面に記載され得るが、容器外観の意匠性等の観点から、かかる表示は容器の内側となる面に記載されていることが好ましい。
【0051】
また、異形状ではないシート、例えば、
図4に示されるような長方形のシートは、短辺同士及び長辺を接合することによって、例えば、上述した香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料などを収納することが可能なパッケージを構成することができる。この場合、本開示の呼吸法の表示は、パッケージの内側及び/又は外側となる面に記載され得るが、パッケージ外観の意匠性等の観点から、かかる表示は容器の内側となる面に記載されていることが好ましい。
【0052】
《呼吸法を表示したディスプレイ》
いくつかの実施形態において、上述した本開示の呼吸法を表示したディスプレイを提供する(
図6)。このようなディスプレイとしては特に制限はなく、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ノート型パソコン、モニター、テレビなどのディスプレイを挙げることができる。本開示の呼吸法が表示されたディスプレイも、利用者がそれを見ながら本開示の方法を的確に実施することができるため、気分をより効率的かつ効果的にリセットすることができる。
【0053】
ディスプレイに表示される本開示の呼吸法の内容及び表示形式については特に制限はなく、上述した呼吸法の内容を、静止画(例えば文章、図面、写真)及び/又は動画(例えばアニメーション)などの画像を通じて適宜表示することができる。
【0054】
ディスプレイへの画像の提供手段としては特に制限はなく、例えば、モニター画像、タッチパネル画像などを採用することができる。画像の提供は、ディスプレイ内に保存されている画像情報に基づいて実施されてもよく、或いは、有線手段又は無線手段を通じて実施されてもよい。
【0055】
ディスプレイには、呼吸法のやり方以外に、例えば、香料組成物から発生する香りの性能、利用者の心理情報なども表示することができる。
【実施例0056】
以下の試験例及び実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
《試験例1》
試験例1では、以下に示す皮膚コンダクタンス試験の結果から、リセット呼吸時における呼吸への意識の集中力向上効果を検討した。その結果を
図1に示す。ここで、
図1におけるY軸の皮膚コンダクタンスの値(「皮膚コンダクタンス変動値」(skin conductance change: SCC)と称する場合がある。)は、皮膚電気活動(electrodermal activity: EDA)の指標の一つであり、この値が高いほど交感神経が優位であると評価される。すなわち、リセット呼吸時においてこの値が高いほど、呼吸への意識の集中度が高くなっていると言える。
【0058】
〈皮膚コンダクタンス試験〉
下記の実験プロトコル1及び装置を採用して試験を実施した。
【0059】
(実験プロトコル1)
香りの条件:(A)無香、(B)ユーカリ系の香り(使用香料:ユーカリプトールを含む精油100%)
被験者 :23~59歳の一般女性モニター(30名)。なお、同一被験者が(A)無香と(B)ユーカリ系の香りの両方の香りの条件下で試験を各々実施した。香りの各条件は被験者ごとにランダムになるように設定した。
実施環境 :24℃、40%RHの恒温恒湿に調整された部屋
香りの提示:20μLの香料(ユーカリプトールを含む精油)を滴下した2本のムエットを、リセット呼吸中にのみ被験者の目の前に配置して提示
試験手順 :(1)ストループ課題を3分間提示、
(2)通常呼吸を2分間実施(前安静期間)
(3)リセット呼吸(0.1Hz呼吸)を2分間実施
(4)通常呼吸を3分間実施(後安静期間)
ここで、ストループ課題の提示においては、ストループのミスが分かるようにカウントしてストレスをかけた。また、リセット呼吸時においては、呼吸間隔と香りに意識を集中するように事前に指導するとともに、呼吸間隔を合わせるために1.25秒周期で鳴るメトロノームを使用した。
【0060】
(装置)
ソフト:Vital Recorder2(キッセイコムテック株式会社製)
皮膚電気活動(EDA)計測器:DA-3b(ヴェガ・システムズ株式会社製)
ディスポ電極 :ビトロード(商標)F(日本光電工業株式会社製)
ここで、ディスポ電極は、被験者の左手の中指と人差し指に適用した。
【0061】
〈結果〉
図1を見ると、冷感刺激性のユーカリ系の香りを嗅がせながら0.1Hzの間隔で呼吸(リセット呼吸)を実施した方が、無香の場合に比べ、皮膚コンダクタンス値が上昇していた。かかる結果より、冷感刺激性の香りを嗅がせながら簡易なリセット呼吸を実施するだけで、呼吸への意識を容易に集中させ得ることが分かった。
【0062】
また、リセット呼吸後の後安静期間では、無香の場合及び冷感刺激性の香りを嗅がせた場合のいずれにおいても、皮膚コンダクタンス値が低下している。この結果から、いずれの場合もリセット呼吸後においてリラックスした状態が得られていると言えるが、冷感刺激性の香りを嗅がせた場合の方が、無香の場合に比べて皮膚コンダクタンス値の落差が大きいことから、被験者はリラックス感をより実感できたと考えられる。
【0063】
《試験例2》
試験例2では、上記の実験プロトコル1を採用してリセット呼吸を実施したときの各種の効果実感を、VAS法に従ってアンケート形式で検討した。ここで、「VAS法」の「VAS」とは、Visual Analogue Scaleの略であり、10cmの長さの直線において、左端(0cm)を「全くそう思わない」、右端(10cm)を「非常にそう思う」と設定し、現在の心理状態がどのあたりに相当するかを10cmの直線上に印(縦の直線)で示して評価するスケールである。VAS法に従うアンケート形式では、印が左端(0cm)から何cmのところにあるかを測り、その長さの値を各アンケートのスコアとした。なお、中間の5cmよりも大きい値は、アンケートに対して肯定的であると言える。
【0064】
無香及び冷感刺激性の香り(ユーカリ系の香り)を用いた実験の後で行ったアンケート結果の平均値を、下記の表1に示す。また、表1には、被験者の8割以上が気分をリセットできたと感じた場合を「良」、被験者の5割以上8割未満が気分をリセットできたと感じた場合を「可」、被験者の5割未満が気分をリセットできたと感じた場合を「不良」として示している。なお、表1には、
図1の皮膚コンダクタンス(SCC)の結果を踏まえ、リセット呼吸中における呼吸への意識の集中度の結果も示している。ここで、呼吸への意識の集中度が高い順に、「良」、「可」、「不良」と表記している。
【0065】
【0066】
〈結果〉
表1及び
図2から分かるように、冷感刺激性の香りの雰囲気下において、リセット呼吸を実施すると、呼吸への意識の集中度が高まる結果、かかる呼吸後に、すっきりした気分、落ち着いた気分、充足感(満足感)、及び集中力の向上などの様々な効果をより実感できるため、被験者の多くが気分をリセットすることができたと感じていると考えられる。
【0067】
図1のリセット呼吸(0.1Hz呼吸)時において、皮膚コンダクタンス値は、無香の場合でも上昇している。したがって、無香雰囲気下においてリセット呼吸を実施しなかった場合(すなわち、通常呼吸のみの場合)、皮膚コンダクタンス値としては
図1の前安静のような状態がそのまま維持されるため、そのときのアンケート結果は、
図2の無香の場合よりもさらに低い結果になることが予測できる。それを踏まえると、本開示の呼吸法によれば、無香雰囲気下においてリセット呼吸を実施しない場合(すなわち、通常呼吸のみの場合)に比べ、大幅に気分をリセットすることができたと言える。
【0068】
《試験例3》
試験例3では、以下の実験プロトコル2を採用して通常呼吸を実施したときの各種の効果実感を、試験例2と同様に、VAS法に従ってアンケート形式で検討した。
【0069】
(実験プロトコル2)
香りの条件:ユーカリ系の香り(使用香料:ユーカリプトールを含む精油100%)
被験者 :23~59歳の一般女性モニター(4名)
実施環境 :24℃、40%RHの恒温恒湿に調整された部屋
香りの提示:20μLの香料(ユーカリプトールを含む精油)を滴下した2本のムエットを、以下の試験手順(2)の通常呼吸中にのみ被験者の目の前に配置して提示
試験手順 :(1)通常呼吸を2分間実施(前安静期間)
(2)香りを提示した状態で通常呼吸を2分間実施
(3)通常呼吸を3分間実施(後安静期間)
【0070】
実験の後で行ったアンケート結果の平均値を、下記の表2に示す。また、表2には、被験者の4人が気分をリセットできたと感じた場合を「良」、被験者の2~3人が気分をリセットできたと感じた場合を「可」、被験者の0~1人が気分をリセットできたと感じた場合を「不良」として示している。
【0071】
【0072】
〈結果〉
表2及び
図3から明らかなように、冷感刺激性の香りを単に嗅ぐだけでは、アンケート結果の平均値はいずれも5~6程度にとどまり、試験例2における実施例1の結果よりも劣ることが分かった。この結果から、冷感刺激性の香りを単に嗅ぐだけでは、すっきりした気分、落ち着いた気分などの効果実感を得にくいため、被験者の多くが気分をリセットすることができたと感じなかったと考えられる。
【0073】
また、表1及び表2の結果から分かるように、無香雰囲気下においてリセット呼吸を実施した場合、及び冷感刺激性の香りを単に嗅いだ場合はいずれも、被験者の多くが気分をリセットすることができたとは感じていない。その一方で、冷感刺激性の香りの雰囲気下においてリセット呼吸を実施した場合には、被験者の多くが気分をリセットすることができたと感じていることから、冷感刺激性の香りとリセット呼吸との併用が、特異的に、気分をリセットさせることに対して好適に作用したと考えられる。