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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163986
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】熱転写記録媒体および印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/40 20060101AFI20231102BHJP
   B41M 5/382 20060101ALI20231102BHJP
   B41M 5/385 20060101ALI20231102BHJP
   B41M 5/395 20060101ALI20231102BHJP
   B41J 31/00 20060101ALI20231102BHJP
   B41J 2/325 20060101ALI20231102BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B41M5/40 310
B41M5/382 700
B41M5/385 300
B41M5/395 300
B41J31/00 A
B41J2/325 C
B41M5/44 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075255
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】武智 美奈
(72)【発明者】
【氏名】松元 春樹
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 有希
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 博昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 次郎
【テーマコード(参考)】
2C065
2C068
2H111
【Fターム(参考)】
2C065AA01
2C065AB03
2C065AF02
2C065DC11
2C065DC13
2C068AA02
2C068AA06
2C068AA15
2C068BB18
2C068BC24
2C068BC33
2C068BD27
2H111AA26
2H111BA03
2H111BA07
2H111BA12
2H111BA33
2H111BA53
2H111BA61
(57)【要約】
【課題】鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を記録できる熱転写記録媒体を提供する。
【解決手段】
熱転写記録媒体47は、表面53および裏面54を有する基材層48と、基材層48の表面53に順に、互いに直接的に接触して積層された、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52とを含み、溶着層70は、基材層48および第1熱転写層50の各溶解度パラメータ(SP値)よりも高い溶解度パラメータ(SP値)を有している。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および第2面を有する基材層と、
前記基材層の前記第1面に順に、互いに直接的に接触して積層された、溶着層、第1熱転写層および第2熱転写層とを含み、
前記溶着層は、前記基材層および前記第1熱転写層の各溶解度パラメータ(SP値)よりも高い溶解度パラメータ(SP値)を有している、熱転写記録媒体。
【請求項2】
第1面および第2面を有する基材層と、
前記基材層の前記第1面に順に、互いに直接的に接触して積層された、溶着層、第1熱転写層および第2熱転写層とを含み、
第1温度以上第2温度以下の低温で加熱されたときにおいて、前記溶着層と前記第1熱転写層との間の接着力は、前記第1熱転写層と前記第2熱転写層との間の接着力よりも高く、
前記第2温度を超える高温で加熱されたときにおいて、前記第1熱転写層と前記第2熱転写層との間の接着力は、前記基材層と前記第1熱転写層との間の接着力よりも高い、熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記溶着層は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項4】
前記第1熱転写層は、エポキシ樹脂およびアクリル系粘着剤を含む、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項5】
前記第2熱転写層は、熱可塑性樹脂およびワックスを含む、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項6】
前記溶着層の軟化点は、前記基材層の軟化点よりも低く、かつ前記第1熱転写層の軟化点と同じまたは前記第1熱転写層の軟化点よりも高い、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項7】
基材層、溶着材を含む溶着層、第1インクを含む第1インク層、および第2インクを含む第2インク層がこの順に積層され、前記第1インク層および前記第2インク層の少なくとも一部が被印字媒体に熱転写される熱転写記録媒体であって、
前記熱転写記録媒体が第1温度以上かつ第2温度以下まで加熱された後に第3温度以下まで冷却された第1状態で、前記基材層および前記第2インク層に対して互いに遠ざかる方向に外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記第2インク層との間または前記第2インク層内で破断され、
前記熱転写記録媒体が前記第2温度を超える温度まで加熱された後に前記第3温度以下まで冷却された第2状態で、前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記基材層との間または前記第1インク層内で破断される、熱転写記録媒体。
【請求項8】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記第2インク層の間または前記第2インク層内の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さく、
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記基材層の間または前記第1インク層内の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項7に記載の熱転写記録媒体。
【請求項9】
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記溶着層と前記基材層との間で破断される、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項10】
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記溶着層と前記基材層との間の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項9に記載の熱転写記録媒体。
【請求項11】
前記溶着層の軟化点は、前記基材層の軟化点よりも低く、かつ前記第1インク層の軟化点と同じまたは前記第1熱転写層の軟化点よりも高い、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項12】
前記溶着層は、前記基材層および前記第1インク層の各溶解度パラメータ(SP値)よりも高い溶解度パラメータ(SP値)を有している、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項13】
前記溶着層は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項14】
前記熱転写記録媒体は、前記第1インク層と前記第2インク層との間に形成された中間層を含む、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項15】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層と前記第2インク層との間で破断される、請求項14に記載の熱転写記録媒体。
【請求項16】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層と第2インク層との間の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項15に記載の熱転写記録媒体。
【請求項17】
前記中間層は、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項15または16に記載の熱転写記録媒体。
【請求項18】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)およびスチレン-エチレン・ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)の少なくとも1種を含む、請求項17に記載の熱転写記録媒体。
【請求項19】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレンの含有率は、10質量%~70質量%である、請求項18に記載の熱転写記録媒体。
【請求項20】
前記中間層は、酢酸エステル系熱可塑性エラストマーを含む、請求項15または16に記載の熱転写記録媒体。
【請求項21】
前記酢酸エステル系の熱可塑性エラストマーは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む、請求項20に記載の熱転写記録媒体。
【請求項22】
前記第1状態で、前記第1インク層と前記中間層とが混合されている、請求項14に記載の熱転写記録媒体。
【請求項23】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層内で破断される、請求項14に記載の熱転写記録媒体。
【請求項24】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項23に記載の熱転写記録媒体。
【請求項25】
前記中間層は、ポリオレフィン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂の少なくとも1種を含む、請求項23または24に記載の熱転写記録媒体。
【請求項26】
前記第1インク層は、少なくとも第1材料および第2材料を含み、
前記中間層は、第3材料を含み、
前記第2インク層は、第4材料および第5材料を含み、
前記溶着層は、第6材料を含み、
前記第1材料、前記第3材料および前記第5材料の溶解度パラメータ(SP値)は、前記第2材料、前記第4材料および前記第6材料の溶解度パラメータ(SP値)よりも小さく、
前記第2材料および前記第4材料の溶解度パラメータ(SP値)は、前記第6材料の溶解度パラメータ(SP値)よりも小さい、請求項14に記載の熱転写記録媒体。
【請求項27】
前記第1温度は、前記第3温度以上である、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項28】
前記第1状態は、前記熱転写記録媒体の前記基材層が前記第1温度以上かつ前記第2温度以下まで加熱された後に、前記第3温度以下まで冷却された状態であり、
前記第2状態は、前記熱転写記録媒体の前記基材層が前記第2温度を超える温度まで加熱された後に、前記第3温度以下まで冷却された状態である、請求項7または8に記載の熱転写記録媒体。
【請求項29】
基材層、溶着材を含む溶着層、第1インクを含む第1インク層、および第2インクを含む第2インク層がこの順に積層された熱転写記録媒体を、被印刷媒体に接触させた状態で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程によって加熱された前記熱転写記録媒体を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程によって冷却された前記熱転写記録媒体の前記基材層および前記第2インク層に対して互いに遠ざかる方向に外力を加えることによって、前記第1インクおよび前記第2インクの少なくとも一部を前記被印刷媒体に転写する転写工程とを実行する印刷装置であって、
前記加熱工程および前記冷却工程では、
前記熱転写記録媒体の第1部分を、第1温度以上かつ第2温度以下温度まで加熱した後に第3温度以下まで冷却して第1状態とし、前記熱転写記録媒体の第2部分を、前記第2温度を超える温度まで加熱した後に前記第3温度以下まで冷却して第2状態とし、
前記転写工程では、
前記外力を加えることによって、前記熱転写記録媒体の前記第1部分において、前記第1インク層と前記第2インク層との間または第2インク層内で前記熱転写記録媒体を破断し、前記第2インクを前記被印刷媒体に転写し、
前記外力を加えることによって、前記熱転写記録媒体の前記第2部分において、前記第1インク層と前記基材層との間または前記第1インク層内で前記熱転写記録媒体を破断し、前記第1インクおよび前記第2インクを前記被印刷媒体に転写する、印刷装置。
【請求項30】
請求項1または7に記載の熱転写記録媒体と、
前記熱転写記録媒体の一部が熱転写される被印字媒体とを内蔵する、カセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色の異なる文字を記録できる熱転写記録媒体、および当該熱転写記録媒体を被印字媒体に転写するための印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1および2は、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)文字の記録が可能な熱転写記録媒体を開示している。この種の熱転写記録媒体は、専用の印刷装置にセットされる。印刷装置のサーマルヘッドへの印加エネルギー量を調整することによって、異なる色の文字を被印字媒体に転写することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-094843号公報
【特許文献2】特開昭62-227788号公報
【特許文献3】特開昭63-214481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一実施形態は、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を記録できる熱転写記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体は、第1面および第2面を有する基材層と、前記基材層の前記第1面に順に、互いに直接的に接触して積層された、溶着層、第1熱転写層および第2熱転写層とを含み、前記溶着層は、前記基材層および前記第1熱転写層の各溶解度パラメータ(SP値)よりも高いSP値を有している。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体は、基材層および第1熱転写層の各溶解度パラメータ(SP値)よりも高い溶解度パラメータ(SP値)を有する溶着層を備えているので、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る印刷装置の構造を模式的に示す図である。
図2図2は、前記印刷装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、前記印刷装置の加熱工程および冷却工程を説明する模式図である。
図4図4Aおよび図4Bは、前記印刷装置の冷却工程および転写工程を説明する模式図である。
図5図5Aおよび図5Bは、前記印刷装置による印刷パターンの一例を示す図である。
図6図6は、本開示の一実施形態に係るインクリボンの層構成を示す模式的な断面図である。
図7図7は、前記加熱工程および前記冷却工程における、経過時間と前記熱転写記録媒体の到達温度との関係を示す図である。
図8図8は、前記加熱工程および前記冷却工程における、経過時間と前記熱転写記録媒体の層間接着力との関係を示す図である。
図9図9は、前記加熱工程および前記冷却工程における、経過時間と前記熱転写記録媒体の層間接着力との関係を示す図である。
図10図10は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図11図11は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図12図12は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図13図13は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図14図14は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図15図15は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図16図16は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図17図17は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
図18図18は、本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体の各構成材料の溶解度パラメータ(SP値)の比較のための図である。
図19図19は、前記熱転写記録媒体の一部を構成する材料の種類と溶解度パラメータの大小との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本開示の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[印刷装置1の全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る印刷装置1の構造を模式的に示す図である。
【0010】
図1を参照して、印刷装置1は、被印字媒体の一例としてのプリンタテープ2にインクリボン3のインクを文字として熱転写する熱転写式サーマルプリンタである。プリンタテープ2は、例えば、インクが直接的に転写されるベース素材を含む帯状のフィルムテープ、帯状のベースフィルムに多数の紙ラベルが配列された紙ラベルテープ等を含んでいてもよい。
【0011】
プリンタテープ2に記録される文字は、例えば、典型的な文字、バーコードやQRコード(登録商標)等の記号、数字、図、文様等を含んでいてもよい。この実施形態に係る印刷装置1は、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)文字をプリンタテープ2に記録することができる。
【0012】
印刷装置1は、筐体4と、筐体4の内部に収容されたテープカセット5、サーマルヘッド6、プラテンローラ7、および制御基板8とを主に含む。
【0013】
筐体4は、例えばプラスチックケースからなる箱状部材であってもよい。筐体4の外壁には、印刷後のプリンタテープ2を取り出すための取出口9が形成されている。取出口9の近傍には、カッター(図示せず)が設けられていてもよい。カッターを用いた裁断によって、プリンタテープ2を使用単位ごとのサイズのラベルに分離して取り出すことができる。
【0014】
テープカセット5は、筐体4に対する着脱式カートリッジであってもよい。テープカセット5は、テープの送り方向D1(図1では右側から左側に向かう方向)の上流側から下流側に向かって順に、プリンタテープロール10(他の言い方で、ラベルテープロールであってもよい)、供給ローラ11、インクリボンロール12、インクリボン剥離部材13およびインクリボン巻取りロール14を収容していてもよい。この実施形態では、プリンタテープロール10およびインクリボンロール12は、テープカセット5に収容された状態で使用されるタイプであるが、例えば、印刷装置1に直接装着して使用するタイプであってもよい。
【0015】
プリンタテープロール10は、プリンタテープ2を円筒状に巻き取って作製されており、例えば、テープカセット5に回転可能に保持されている。供給ローラ11には、筐体4に設けられたテープ駆動軸16が挿入されている。テープ駆動軸16の駆動によって発生する回転力R1が供給ローラ11に伝達され、供給ローラ11が回転する。
【0016】
インクリボンロール12は、インクリボン3を円筒状に巻き取って作製されており、例えば、テープカセット5に回転可能に保持されている。インクリボン巻取りロール14には、筐体4に設けられたリボン駆動軸18が挿入されている。リボン駆動軸18の駆動によって発生する回転力R2がインクリボン巻取りロール14に伝達され、インクリボン巻取りロール14が回転する。
【0017】
インクリボン剥離部材13は、インクリボン3の送り方向D2を変更するガイド部材であってもよい。インクリボン剥離部材13は、搬送中のインクリボン3に当接可能な形状、例えば、ローラ状、ブレード状の形状を有していてもよい。インクリボン3はサーマルヘッド6によってプリンタテープ2に一部が熱圧着され、プリンタテープ2と共に取出口9に向かって搬送される。インクリボン剥離部材13は、搬送途中のインクリボン3に当接し、インクリボン3の送り方向D2をプリンタテープ2の送り方向D1に対して急角度で変更する。これにより、プリンタテープ2とインクリボン3とが引き離され、プリンタテープ2からインクリボン3が剥離する。
【0018】
サーマルヘッド6は、プリンタテープ2の送り方向D1において、プリンタテープロール10およびインクリボンロール12と、インクリボン剥離部材13との間に配置されている。サーマルヘッド6は、基板19と、基板19上に形成された発熱素子20(例えば、発熱抵抗体等)とを含む。発熱素子20への通電によって発生するジュール熱が、インクリボン3のインクの熱転写に利用される。
【0019】
プラテンローラ7には、例えば、筐体4に設けられたプラテン駆動軸21が挿入されている。プラテン駆動軸21の駆動によって発生する回転力R3がプラテンローラ7に伝達され、プラテンローラ7が回転する。制御基板8は、印刷装置1の電気的な制御を実行する電子機器であり、筐体4の内部に設置されている。
【0020】
[印刷装置1の電気的構成]
図2は、印刷装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0021】
図2を参照して、印刷装置1の制御基板8には、制御回路22が設けられている。制御回路22は、CPU23、ROM24、メモリ25、RAM26、および入出力I/F27(インターフェース)を含んでいてもよい。これらは、例えばデータバス(図示せず)を介して電気的に接続されている。
【0022】
ROM24には、印刷装置1を駆動するための各種プログラム(例えば、図3および図4A,Bに示す各工程を実行する制御プログラム等)が記憶されている。CPU23は、RAM26の一時記憶機能を利用しつつROM24に記憶されたプログラムに従って信号処理を実行し、印刷装置1を全体的に制御する。メモリ25は、例えばROM24の記憶領域の一部で構成されていてもよい。メモリ25には、インクリボン3の残量(消費量)を筐体4の表示部(図示せず)に表示するためのテーブルが予め記憶されていてもよい。
【0023】
入出力I/F27には、第1駆動回路28および第2駆動回路29が電気的に接続されている。第1駆動回路28は、サーマルヘッド6の発熱素子20の通電制御を実行する。第2駆動回路29は、供給ローラ11、インクリボン巻取りロール14、プラテンローラ7を回転駆動させる駆動モータ30に対し、駆動パルスを出力する駆動制御を実行する。
【0024】
[印刷装置1による印刷工程の流れ]
図3は、印刷装置1の加熱工程および冷却工程を説明する模式図である。図4Aおよび図4Bは、印刷装置1の冷却工程および転写工程を説明する模式図である。図4Bは、図4Aの矢印4Bの方向から転写パターンを見たときの要部拡大図である。図5Aおよび図5Bは、印刷装置1による印刷パターン44の一例を示す図である。図1および図3図5Aおよび図5Bを参照して、印刷装置1による印刷工程を具体的に説明する。
【0025】
プリンタテープ2に文字を印刷するには、供給ローラ11の回転駆動によってプリンタテープロール10からプリンタテープ2が送り出されると共に、インクリボン巻取りロール14の回転駆動によってインクリボンロール12からインクリボン3が送り出される。これにより、図1および図3に示すように、プリンタテープ2およびインクリボン3が、互いに重なり合った状態で下流側に向かって搬送される。プリンタテープ2において、インクリボン3側の面が印刷面31(表面)であり、その反対側の面が裏面32である。インクリボン3において、プリンタテープ2側の面が接着面33(表面)であり、その反対側の面が裏面34である。
【0026】
図3を参照して、インクリボン3は、基材層35と、第1熱転写層の一例としての第1インク層36と、第2熱転写層の一例としての第2インク層37とを含む。第1インク層36および第2インク層37は、この順で基材層35の第1面の一例としての表面38に積層されている。基材層35の表面38の反対側の面は裏面39(インクリボン3の裏面34)である。第1インク層36および第2インク層37は、互いに異なる色の着色剤を含有している。例えば、第1インク層36が第1インクの一例として黒色の着色剤を含有し、第2インク層37が第2インクの一例として赤色の着色剤を含有していてもよい。
【0027】
インクリボン3は、第2インク層37とプリンタテープ2とが接触した状態でサーマルヘッド6に向かって搬送される。サーマルヘッド6では、図3に示すように加熱工程が実行される。具体的には、通電によって発熱した発熱素子20をインクリボン3に押圧することによって、この熱が基材層35を介して第1インク層36および第2インク層37に伝達される。インクリボン3およびプリンタテープ2の積層体は、サーマルヘッド6とプラテンローラ7との間に挟持されることによって、サーマルヘッド6で加熱されながら下流側に搬送される。
【0028】
発熱素子20は、全体的に同じ温度に制御されてもよいし、部分的に異なる温度で制御されてもよい。例えば図3に示すように、発熱素子20の第1部分40が第1発熱温度に制御され、発熱素子20の第2部分41が第1発熱温度とは異なる第2発熱温度に制御されてもよい。これにより、インクリボン3は、第1発熱温度で加熱された第1部分42と、第2発熱温度で加熱された第2部分43とを含んでいてもよい。インクリボン3の第1部分42および第2部分43では、少なくとも第1インク層36および第2インク層37の一部または全部が溶融もしくは軟化し、プリンタテープ2に密着する。
【0029】
図3および図4A,Bを参照して、サーマルヘッド6とインクリボン剥離部材13との間の区間では冷却工程が実行される。具体的には、加熱工程でプリンタテープ2に熱圧着されたインクリボン3は、サーマルヘッド6からインクリボン剥離部材13に到達するまでの区間で自然に冷却され、印刷装置1の使用環境温度に向かって温度低下する。
【0030】
その後、図4A,Bに示すように、インクリボン剥離部材13によってインクリボン3の送り方向D2だけが選択的に変更されることによって、基材層35および第2インク層37に対して互いに遠ざかる方向に外力F1が加えられる。これにより、プリンタテープ2とインクリボン3とが引き離され、インクリボン3がインクリボン巻取りロール14に巻き取られる。この際、インクリボン3においてサーマルヘッド6で加熱された第1部分42および第2部分43が選択的にプリンタテープ2上に残存することによって、転写工程が実行される。例えば、第1部分42では、基材層35と第1インク層36および第2インク層37を含む積層体との間で剥離が生じて当該積層体が転写されてもよい。一方、第2部分43では、第1インク層36と第2インク層37との間で剥離が生じて第2インク層37が選択的に転写されてもよい。
【0031】
これにより、プリンタテープ2には、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)印刷パターン44が形成される。印刷パターン44は、例えば図5Aに示すように、独立した文字ごとに異なる色を有していてもよい。図5Aでは、プリンタテープ2の印刷面31側から見たときに、アルファベットの「A」および「C」の最表面に第2インク層37に基づく赤色パターン45が視認され、「B」の最表面に第1インク層36に基づく黒色パターン46が視認されてもよい。一方、図5Bに示すように、印刷パターン44は、各文字の部分ごとに赤色パターン45および黒色パターン46の両方が視認されてもよい。
【0032】
インクリボン3の転写後、文字が記録されたプリンタテープ2は、印刷装置1の取出口9から取り出される。
【0033】
[2色印刷における課題の一例]
熱転写式サーマルプリンタ(印刷装置1)では、サーマルヘッド6によって記録情報のパターンに応じてインクリボン3が加熱された後、インクリボン3がプリンタテープ2から剥離される。これにより、インク層36,37が、加熱パターンに応じて選択的に溶融もしくは軟化して基材層35から剥離すると共にプリンタテープ2の印刷面31に転写されて、当該印刷面31に文字が記録される。上記のような2色の熱転写印刷は、前述の特許文献1および2にも開示されているが、以下に示す課題がある。
【0034】
例えば、特許文献1は、2色の記録をするべく、基材と、基材上に積層された互いに色相が異なる複数の熱転写インク層(例えば、第1熱転写インク層および第2熱転写インク層)とを含む、熱転写シートを開示している。両熱転写インク層は、それぞれ熱可塑性樹脂やワックス等により形成されている。
【0035】
特許文献1において、例えばサーマルヘッドに相対的に低エネルギーを印加して、比較的に低温で熱転写を実行すると、第1熱転写インク層が軟化して基材に対する密着力が低下すると共に、第2熱転写インク層が軟化して被転写体の表面に対する密着力を生じる。しかし両熱転写インク層は、共に軟化することで密着力を維持する結果、熱転写インク層の全体、つまり第1熱転写インク層と第2熱転写インク層が一体的に被転写体の表面に熱転写される。そのため、被転写体の表面に記録される文字は、例えば、転写後の最表層に位置する第1熱転写インク層の色味、例えば黒色となる。
【0036】
一方、サーマルヘッドに相対的に高エネルギーを印加して、より高温で熱転写を実行すると、第1熱転写インク層がさらに軟化して逆に基材に対する密着力が上昇すると共に、第2熱転写インク層が軟化して被転写体の表面に対する密着力を生じる。この熱転写時には、第1熱転写インク層が基材側に残留するいわゆる逆転写が生じる。そのため、第2熱転写インク層のみが被転写体の表面に選択的に熱転写される。したがって、被転写体の表面に記録される文字は、第2熱転写インク層の色味、例えば赤色となる。
【0037】
しかしながら、両熱転写インク層が一体的に熱転写されるときの転写温度(≒サーマルヘッドに印加するエネルギー量、以下同様。)の範囲(以下、「低温転写範囲」と略記する場合がある)と、第2熱転写インク層のみが熱転写される転写温度の範囲(以下「高温転写範囲」と略記する場合がある)との間には、第1熱転写インク層の一部が第2熱転写インク層とともに転写されて、文字の色味が混濁する転写温度の範囲(以下「混濁転写範囲」と略記する場合がある)を生じる場合がある。
【0038】
しかも、両熱転写インク層を直接に積層した熱転写シートでは、混濁転写範囲が広く、低温転写範囲、高温転写範囲が狭くなる傾向がある。また、連続した熱転写印刷によって熱がサーマルヘッドに蓄積されて、サーマルヘッドの温度が徐々に上昇する傾向がある。そのため、とくにサーマルヘッドの温度を低温転写範囲に維持することが難しく、低温転写時に文字の色味が混濁しやすい。
【0039】
特許文献1の熱転写シートは、第1熱転写インク層と第2熱転写インク層との間に形成された剥離層をさらに含んでいてもよい。剥離層は、無色透明で、かつ溶融粘度が低く流動性の高いワックスなどからなる。剥離層は、熱転写時に溶融または軟化し、両熱転写インク層の分離を促進する。高温転写範囲をより低温側に拡げて、混濁転写範囲を狭くすることができる。しかしながら、剥離層の剥離を抑えつつ両熱転写インク層を一体的に転写できる低温転写範囲が、逆に狭くなる傾向がある。また、ワックスは溶融粘度が低いため周囲に影響を与えやすい。特にバーコード等の微細な画像を記録する際に余剥離を生じて、記録の鮮明性が低下する場合がある。
【0040】
特許文献2は、ベースと、ベース上に直接的に積層された第1インク層および第2インク層とを含むインクリボンを開示している。特許文献2では、まず低温転写範囲でインクリボンが加熱され、両インク層が一体的にベースの表面に熱転写される。その後、第2インク層のみを残存させる場合は、インクリボンの剥離時に再度加熱をし、第1インク層をベース側に逆転写させることが検討されている。しかしながら、特許文献2の熱転写印刷は、熱転写後に再加熱が可能な特殊なサーマルヘッドを備えるプリンタが必要であり、汎用性が低いという課題がある。
【0041】
特許文献1および2の熱転写方法を考慮して、本願発明者たちは複数の課題を発見した。複数の課題のうちの少なくとも1つ(第1の課題)は、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体(インクリボン)を提供することである。
【0042】
前記複数の課題のうちの他の1つ(第2の課題)は、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、連続して熱転写記録をしても色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離できる熱転写記録媒体(インクリボン)を提供することである。
【0043】
前記複数の課題のうちの他の1つ(第3の課題)は、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、連続して熱転写記録をしても色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性に優れた文字を記録できる熱転写記録媒体(インクリボン)を提供することである。
【0044】
[溶着層70の導入]
前記複数の課題の解決のため本願発明者たちは、溶着層を熱転写記録媒体(インクリボン)に導入することを検討および実施したので、以下に詳細に説明する。
【0045】
図6は、本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体47の層構成を示す模式的な断面図である。図6では、被印字媒体の一例としてのプリンタテープ2に接着した状態の熱転写記録媒体47が示されている。
【0046】
熱転写記録媒体47は、インクリボン3として、図1図4A,Bに示す印刷装置1および印刷工程に使用されてもよい。熱転写記録媒体47は、基材層48と、裏面層49と、溶着層70と、第1熱転写層50と、中間層51と、第2熱転写層52とを含む。溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52は、この順で基材層48の第1面の一例としての表面53に積層されている。基材層48の表面53の反対側の面は裏面54であってもよい。裏面層49は、基材層48の裏面54に積層されている。第1熱転写層50および第2熱転写層52は、それぞれ、第1インク層および第2インク層と称してもよい。
【0047】
本開示の熱転写記録媒体47の特徴は、基材層48と、当該基材層48の表面53に順に、互いに直接に接触させて積層された、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52とを含む点である。中間層51は、バインダとして熱可塑性エラストマーを含む。中間層51は、省略されていてもよい。
【0048】
以下、熱転写記録媒体47が含む、基材層48、裏面層49、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の具体的な組成および物性等について詳細な説明を加える。
【0049】
(1)基材層48
基材層48としては、例えば、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、トリアセテート等の樹脂のフィルム、コンデンサー紙、グラシン紙等の薄葉紙、およびセロファン等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルのフィルムが、機械的強度、寸法安定性、熱処理耐性、価格等の観点から好ましい。基材層48の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。例えば、基材層48の厚さは1μm以上であり、好ましくは2μm以上である。例えば、基材層48の厚さは10μm以下であり、好ましくは8μm以下である。例えば、基材層48の厚さは、1μm以上10μm以下であり、好ましくは2μm以上8μm以下である。
【0050】
(2)裏面層49
裏面層49は、サーマルヘッド6に接触する基材層48の裏面54の耐熱性、滑り性、耐擦過性等を向上させる。裏面層49としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン・フッ素共重合樹脂、ニトロセルロース樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂等が挙げられる。裏面層49は、必要に応じて滑剤を含有していてもよい。
【0051】
裏面層49は、例えば、上記の樹脂等を任意の溶剤に溶解または分散させた塗材を、基材層48の裏面54に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。裏面層49の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。裏面層49の厚さは、裏面層49の塗布量で調節することができる。
【0052】
例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.05g/m以上であり、好ましくは0.1g/m以上である。例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.5g/m以下であり、好ましくは0.4g/m以下である。例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.05g/m以上0.5g/m以下であり、好ましくは0.1g/m以上0.4g/m以下である。裏面層49の具体的な厚さとしては、例えば0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上である。裏面層49の厚さは、例えば0.5μm以下であり、好ましくは0.4μm以下である。裏面層49の厚さは、例えば0.05μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.1μm以上0.4μm以下であってもよい。
【0053】
(3)溶着層70
溶着層70は、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を含む。溶着層70は、低温加熱において基材層48および第1熱転写層50に対する親和性や密着力を向上することを考慮すると、ポリアミド系樹脂を用いて形成することが好ましい。
【0054】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、3員環以上のラクタム、重合可能なアミノカルボン酸、二塩基酸とジアミンまたはそれらの塩、あるいはこれらの混合物の重縮合によって得られるポリアミドが挙げられる。これらのポリアミド系樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0055】
ポリアミド系樹脂の具体的な市販品としては、例えば、(株)T&K TOKA製のトーマイド(登録商標)シリーズのうち、1310〔軟化点:120±5℃、溶融粘度:1500~4500mPa・s/200℃〕、1315〔軟化点:130±5℃、溶融粘度:7000~18000mPa・s/200℃〕、1320〔軟化点:100±5℃、溶融粘度:11000~20000mPa・s/200℃〕、1340〔軟化点:140±5℃、溶融粘度:8000~16000mPa・s/200℃〕、TXC-243A〔軟化点:105±5℃、溶融粘度:5000~10000mPa・s/200℃〕、TXC-245A〔軟化点:90±5℃、溶融粘度:1000~2000mPa・s/200℃〕等が挙げられる。
【0056】
なお、本願において複数の物質の熱変形に関係する温度を比較する場合に、ポリアミド系樹脂のように軟化点を有する物質の場合には、比較温度として軟化点が用いられる。融点を有する物質(例えば、後述するワックス等)の場合には、比較温度として融点が用いられる。融点および軟化点の両方を有さずガラス転移温度を有する物質(例えば、後述するポリエステル系樹脂等)の場合には、比較温度としてガラス転移温度が用いられる。
【0057】
ポリエステル系樹脂の具体的な市販品としては、例えば、ユニチカ(株)製のエリーテル(登録商標)シリーズのうち、UE-3320、UE-9820、UE-3350、UE-3380等、東洋紡(株)製のバイロン(登録商標)シリーズのうち、200〔ガラス転移温度:67℃〕、600〔ガラス転移温度:47℃〕、GK-360〔ガラス転移温度:56℃〕、GK-810〔ガラス転移温度:46℃〕、GK-680〔ガラス転移温度:10℃〕等が挙げられる。
【0058】
エポキシ系樹脂の具体的な市販品としては、例えば、三菱ケミカル(株)製のJER(登録商標)シリーズのエポキシ樹脂のうち、基本固形タイプである1001〔軟化点(環球法):64℃、数平均分子量Mn:約900〕、1002〔軟化点(環球法):78℃、数平均分子量Mn:約1200〕、1003〔軟化点(環球法):89℃、数平均分子量Mn:約1300〕、1055〔軟化点(環球法):93℃、数平均分子量Mn:約1600〕、1004〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1004AF〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1007〔軟化点(環球法):128℃、数平均分子量Mn:約2900〕、1009〔軟化点(環球法):144℃、数平均分子量Mn:約3800〕、1010〔数平均分子量Mn:約5500〕、1003F〔軟化点(環球法):96℃〕、1004F〔軟化点(環球法):103℃〕、1005F、1009F〔軟化点(環球法):144℃〕、1004FS〔軟化点(環球法):100℃〕、1006FS〔軟化点(環球法):112℃〕、1007FS〔軟化点(環球法):124℃〕。
【0059】
フェノール系樹脂の具体的な市販品としては、例えば、DIC(株)製のフェノライト(登録商標)シリーズのうち、TD-2131〔軟化点:78~82℃〕、TD-2106〔軟化点:88~95℃〕、TD-2093〔軟化点:98~102℃〕、TD-2090〔軟化点:117~123℃〕等、アイカ工業(株)製のショウノール(登録商標)シリーズのうち、BRG-555〔軟化点:66~72℃、溶融粘度:0.3~0.5Pa・s/125℃〕、BRG-556〔軟化点:77~83℃、溶融粘度:0.1~0.3Pa・s/150℃〕、BRG-557〔軟化点:82~88℃、溶融粘度:0.2~0.4Pa・s/150℃〕、BRG-558〔軟化点:93~98℃、溶融粘度:0.8~1.2Pa・s/150℃〕、CRG-951〔軟化点:93~99℃、溶融粘度:0.2~0.8Pa・s/150℃〕、TAM-005〔軟化点:80~88℃、溶融粘度:0.3~0.5Pa・s/150℃〕等が挙げられる。
【0060】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、けん化度が90以下の部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、例えば2000以下であり、好ましくは、500程度である。ポリビニルアルコール系樹脂の具体的な市販品としては、例えば、デンカ(株)製のデンカポバール(登録商標)シリーズのうち、B-05〔けん化度:86.5~89.5モル%、重合度:500程度、粘度(4%、20℃):5.0~6.0mPa・s〕、B-17〔けん化度:87.0~89.0モル%、重合度:1600程度、粘度(4%、20℃):21~25mPa・s〕、B-20〔けん化度:87.0~89.0モル%、重合度:2000程度、粘度(4%、20℃):27~33mPa・s〕等、(株)クラレ製のクラレポバール(登録商標)シリーズのうち、48-80〔けん化度:78.5~80.5モル%、粘度(4%、20℃):45.0~51.0mPa・s〕、3-88〔けん化度:87.0~89.0モル%、粘度(4%、20℃):3.2~3.6mPa・s〕、5-88〔けん化度:86.5~89.0モル%、粘度(4%、20℃):4.6~5.4mPa・s〕等が挙げられる。
【0061】
溶着層70に使用されるポリアミド樹脂の軟化点は、例えば90℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは125℃以上である。軟化点がこの範囲であれば、低温転写時の比較的低温において、ほとんど軟化せず基材層48と第1熱転写層50との間に高い粘着力を維持することができる。
【0062】
溶着層70は、例えば、溶着層70用の形成材料を任意の溶剤に溶解または分散させた塗材を、基材層48の表面53上に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。
【0063】
溶着層70の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。溶着層70の厚さは、溶着層70の塗布量で調節することができる。例えば、溶着層70の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上であり、好ましくは0.2g/m以上である。例えば、溶着層70の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して1.5g/m以下であり、好ましくは1.0g/m以下である。例えば、溶着層70の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上1.5g/m以下であり、好ましくは0.2g/m以上1.0g/m以下である。
【0064】
溶着層70の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上1.5μm以下、好ましくは0.2μm以上1.0μm以下であってもよい。溶着層70の厚さは、例えば、熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0065】
(4)第1熱転写層50
第1熱転写層50は、例えば、任意の熱可塑性樹脂によって形成することができる。第1熱転写層50は、溶着層70および中間層51に対する親和性や密着力を向上することを考慮すると、熱可塑性樹脂としてエポキシ樹脂を用いて形成することが好ましい。エポキシ樹脂は、PET等のポリエステルのフィルムからなる基材層48および中間層51を形成する熱可塑性エラストマーに対する親和性および密着力に優れている。第1熱転写層50は、硬化剤を配合していない(除く)状態のエポキシ樹脂を熱可塑性樹脂として用いて形成することができる。
【0066】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、プロピレングリコールグリコキシエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性樹脂、ブロム化エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0067】
三菱ケミカル(株)製のJER(登録商標)シリーズのエポキシ樹脂のうち、基本固形タイプである1001〔軟化点(環球法):64℃、数平均分子量Mn:約900〕、1002〔軟化点(環球法):78℃、数平均分子量Mn:約1200〕、1003〔軟化点(環球法):89℃、数平均分子量Mn:約1300〕、1055〔軟化点(環球法):93℃、数平均分子量Mn:約1600〕、1004〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1004AF〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1007〔軟化点(環球法):128℃、数平均分子量Mn:約2900〕、1009〔軟化点(環球法):144℃、数平均分子量Mn:約3800〕、1010〔数平均分子量Mn:約5500〕、1003F〔軟化点(環球法):96℃〕、1004F〔軟化点(環球法):103℃〕、1005F、1009F〔軟化点(環球法):144℃〕、1004FS〔軟化点(環球法):100℃〕、1006FS〔軟化点(環球法):112℃〕、1007FS〔軟化点(環球法):124℃〕。
【0068】
第1熱転写層50に使用されるエポキシ樹脂の軟化点は、例えば95℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは125℃以上である。
【0069】
第1熱転写層50は、エポキシ樹脂に加えて粘着剤を含有していてもよい。粘着剤の含有によって、溶着層70および中間層51に対する親和性や密着力をさらに向上することができる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等が挙げられる。
【0070】
エポキシ樹脂との親和性や相溶性、および溶着層70や中間層51に対する親和性や密着力を向上することを考慮すると、粘着剤としてはアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種アクリル系粘着剤が挙げられる。これらのアクリル系粘着剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0071】
トーヨーケム(株)製のオリバイン(登録商標)BPS(溶剤系)シリーズのうちBPS1109(不揮発分:39.5質量%)、BPS3156D(不揮発分:34質量%)、BPS4429-4(不揮発分45質量%)、BPS4849-40(不揮発分:40質量%)、BPS5160(不揮発分:33質量%)、BPS5213K(不揮発分:35質量%)、BPS5215K(不揮発分:39質量%)、BPS5227-1(不揮発分:41.5質量%)、BPS5296(不揮発分37質量%)、BPS5330(不揮発分:40質量%)、BPS5375(不揮発分:45質量%)、BPS5448(不揮発分:40質量%)、BPS5513(不揮発分:44.5質量%)、BPS5565K(不揮発分:45質量%)、BPS5669K(不揮発分:46質量%)、BPS5762K(不揮発分:45.5質量%)、BPS5896(不揮発分:37質量%)、BPS5978(不揮発分:35質量%)、BPS6074HTF(不揮発分:52質量%)、BPS6080TFK(不揮発分:45質量%)、BPS6130TF(不揮発分:45.5質量%)、BPS6153K(不揮発分:25質量%)、BPS6163(不揮発分:37質量%)、BPS6231(不揮発分:56質量%)、BPS6421(不揮発分:47質量%)、BPS6430(不揮発分:33質量%)、BPS6574(不揮発分:57質量%)、BPS8170(不揮発分:36.5質量%)、BPS HS-1(不揮発分:40質量%)。
【0072】
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の溶剤型粘着剤(再剥離型)のうちAS-325(固形分濃度:45質量%)、AS-375(固形分濃度:45質量%)、AS-409(固形分濃度:45質量%)、AS-417(固形分濃度:45質量%)、AS-425(固形分濃度:45質量%)、AS-455(固形分濃度:45質量%)、AS-665(固形分濃度:40質量%)、AS-1107(固形分濃度:43質量%)、AS-4005(固形分濃度:45質量%)。
【0073】
第1熱転写層50に使用されるアクリル系粘着剤は、粘着付与剤と併用されてもよい。例えば、第1熱転写層50のキレを高め、余剥離を抑制し、記録する文字の鮮明性を向上できるためである。粘着付与剤としては、例えば、エステルガム、テルペンフェノール樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。粘着付与剤の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種粘着付与剤が挙げられる。これらの粘着付与剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0074】
ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターシリーズのテルペンフェノール樹脂のうち、U130(軟化点:130±5℃)、U115(軟化点:115±5℃)、T160(軟化点:160±5℃)、T145(軟化点:145±5℃)、T130(軟化点:130±5℃)、T115(軟化点:115±5℃)、T100(軟化点:100±5℃)、T80(軟化点:80±5℃)、S145(軟化点:145±5℃)、G150(軟化点:150±5℃)、G125(軟化点:125±5℃)、N125(軟化点:125±5℃)、K125(軟化点:125±5℃)、TH130(軟化点:130±5℃)。
【0075】
荒川化学工業(株)製のエステルガムのうち、AA-G〔軟化点(環球法):82~88℃〕、AA-L〔軟化点(環球法):82~88℃〕、AA-V〔軟化点(環球法):82~95℃〕、105〔軟化点(環球法):100~110℃〕、AT〔粘度:20000~40000mPa・s〕、H〔軟化点(環球法):68~75℃〕、HP〔軟化点(環球法):80℃以上〕。
【0076】
荒川化学工業(株)製のペンセル(登録商標)シリーズのロジンエステルのうち、GA-100〔軟化点(環球法):100~110℃〕、AZ〔軟化点(環球法):950~105℃〕、C〔軟化点(環球法):117~127℃〕、D-125〔軟化点(環球法):120~130℃〕、D-135〔軟化点(環球法):130~140℃〕、D-160〔軟化点(環球法):150~165℃〕、KK〔軟化点(環球法):165℃以上〕。
【0077】
第1熱転写層50に使用される粘着付与剤の軟化点は、例えば60℃以上であり、好ましくは120℃以下である。
【0078】
第1熱転写層50は、任意の着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、第1熱転写層50の色味に応じた1種または2種以上の、種々の着色剤を用いることができる。着色剤としては、例えば、顔料であってもよい。文字の耐候性の向上等を考慮すると、第1熱転写層50に使用される着色剤としては顔料が好ましい。例えば、第1熱転写層50を黒色に着色するための顔料としてはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種カーボンブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0079】
三菱ケミカル(株)製のMA77粉状〔LFF、DBP吸収量:68cm/100g〕、MA7粉状〔LFF、DBP吸収量:66cm/100g〕、MA7粒状〔LFF、DBP吸収量:65cm/100g〕、MA8粉状〔LFF、DBP吸収量:57cm/100g〕、MA8粒状〔LFF、DBP吸収量:51cm/100g〕、MA11粉状〔LFF、DBP吸収量:64cm/100g〕、MA100粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm/100g〕、MA100粒状〔LFF、DBP吸収量:95cm/100g〕、MA100R粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm/100g〕、MA100R粒状〔LFF、DBP吸収量:95cm/100g〕、MA100S粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm/100g〕、MA230粉状〔LFF、DBP吸収量:113cm/100g〕、MA220粉状〔LFF、DBP吸収量:93cm/100g〕、MA14粉状〔LFF、DBP吸収量:73cm/100g〕。
【0080】
三菱ケミカル(株)製の#3030B(ファーネス法、DBP吸収量:130cm/100g)、#3040B(ファーネス法、DBP吸収量:114cm/100g)、#3050B(ファーネス法、DBP吸収量:175cm/100g)、#3230B(ファーネス法、DBP吸収量:140cm/100g)、#3350B(ファーネス法、DBP吸収量:164cm/100g)、#3400B(ファーネス法、DBP吸収量:175cm/100g)。
【0081】
東海カーボン(株)製のトーカブラック(登録商標)シリーズのうち、#5500(ファーネス法、DBP吸収量:155cm/100g)、#4500(ファーネス法、DBP吸収量:168cm/100g)、#4400(ファーネス法、DBP吸収量:135cm/100g)、#4300(ファーネス法、DBP吸収量:142cm/100g)。
【0082】
オリオン エンジニアード カーボンズ(ORION ENGINEERED CARBONS)社製のPRINTEX(プリンテックス、登録商標)シリーズのうちL(ファーネス法、DBP吸収量:120cm/100g)、L6(ファーネス法、DBP吸収量:126cm/100g)。
【0083】
ビルラ・カーボン(Birla Carbon)社製のCONDUCTEX(コンダクテックス、登録商標)シリーズのうち、975(ファーネス法、170cm/100g)、SC(ファーネス法、115cm/100g)。
【0084】
キャボット(CABOT)社製のVULCAN(バルカン、登録商標)シリーズのうち、XC72(ファーネス法、DBP吸収量:174cm/100g)、9A32(ファーネス法、DBP吸収量:114cm/100g)、同社製のBLACK PEARLS(ブラックパール)シリーズのうち3700(ファーネス法、DBP吸収量:111cm/100g)。
【0085】
デンカ(株)製のデンカブラック(登録商標)シリーズのうち、デンカブラック粒状品(アセチレン法、DBP吸収量:160cm/100g)、FX-35(アセチレン法、DBP吸収量:220cm/100g)、HS-100(アセチレン法、DBP吸収量:140cm/100g)。
【0086】
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のKETJENBLACK(ケッチェンブラック、登録商標)シリーズのうち、EC300J(ガス化法、DBP吸収量:360cm/100g)、EC600DJ(ガス化法、DBP吸収量:495cm/100g)。
【0087】
第1熱転写層50における各成分の割合は、特に制限されない。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば30質量部以上であり、好ましくは40質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば150質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば30質量部以上150質量部以下であり、好ましくは40質量部以上100質量部以下である。
【0088】
エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば3質量部以上であり、好ましくは5質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば150質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば3質量部以上150質量部以下であり、好ましくは5質量部以上100質量部以下である。
【0089】
エポキシ樹脂100質量部に対するカーボンブラック等の着色剤の割合は、例えば100質量部以上であり、好ましくは130質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する着色剤の割合は、例えば230質量部以下であり、好ましくは200質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する着色剤の割合は、例えば100質量部以上230質量部以下であり、好ましくは130質量部以上200質量部以下である。
【0090】
なお、第1熱転写層50が含有する各成分のうち、任意の溶剤に溶解または分散した液状で供給される成分については、そのうち有効成分の割合が上記の範囲となるように、配合量を調整すればよい(以下、同様)。
【0091】
第1熱転写層50は、例えば、上記の各成分を任意の溶剤に溶解または分散した塗材を、溶着層70上に直接に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。本開示では、図5Aおよび図5Bに示したように、プリンタテープ2に記録する文字の色分けをする。この色分けのために、第1熱転写層50と溶着層70や他の各層との間の密着力の調整を考慮すると、第1熱転写層50は、溶着層70上に直接に形成することが好ましい。
【0092】
第1熱転写層50の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。第1熱転写層50の厚さは、第1熱転写層50の塗布量で調節することができる。
【0093】
例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上であり、好ましくは0.5g/m以上である。例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して3.0g/m以下であり、好ましくは2.5g/m以下である。例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上3.0g/m以下であり、好ましくは0.5g/m以上2.5g/m以下である。
【0094】
第1熱転写層50の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上であり、好ましくは0.5μm以上である。第1熱転写層50の厚さは、例えば3.0μm以下であり、好ましくは2.5μm以下である。第1熱転写層50の厚さは、例えば0.05μm以上3.0μm以下であり、好ましくは0.5μm以上2.5μm以下であってもよい。第1熱転写層50の厚さは、例えば、熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0095】
(5)中間層51
中間層51は、熱可塑性エラストマーを含む。特に中間層51は、熱可塑性エラストマーのみによって形成することが好ましい。中間層51を形成する熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび酢酸エステル系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0096】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等が挙げられる。酢酸エステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0097】
中間層51に含まれる熱可塑性エラストマーにおけるスチレンの含有率は、例えば10質量%以上70質量%以下であり、好ましくは15質量%以上50質量%以下である。スチレン含有率が高すぎると、中間層51のゴム状弾性が低下し、低温転写時に、第1熱転写層50および第2熱転写層52に対する密着力を維持できない場合や、文字の色味が混濁する場合がある。スチレン含有率が低すぎると、中間層51のゴム状弾性が大きくなり過ぎるため、高温転写時に第2熱転写層52を剥離できずに文字の色が混濁する場合がある。
【0098】
中間層51に含まれる熱可塑性エラストマーは、メルトマスフローレート(以下、単に「MFR」と略記する場合がある)は、例えば1000g/10min以下であり、好ましくは400g/10min以下である。MFRは、例えば、ISO 1133-1:2011において規定された測定方法によって求められる、温度190℃、荷重2.16kgでのMFRであってもよい。以下では、MFRの測定条件について特記しない限り、条件は温度190℃、荷重2.16kgである。
【0099】
MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーは、第2熱転写層52との親和性が強くなりすぎる傾向がある。そのため、低温転写時に第2熱転写層52を剥離できずに文字の色が混濁する場合がある。また、熱転写記録媒体47の全体、つまり基材層48、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51、および第2熱転写層52がプリンタテープ2の印刷面31に貼り付く場合がある。MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーは、溶融粘度が低く流動性が高いため、低温転写時に、第1熱転写層50および第2熱転写層52に対する密着力を維持できない場合や、文字の色味が混濁する場合もある。
【0100】
これに対し、MFRが400g/10min以下であり熱可塑性エラストマーであれば、MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーの使用時に生じ得る問題を抑制することができる。そして、連続して熱転写記録をしても、プリンタテープ2の印刷面31に色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性にすぐれた文字を記録することができる。これらの効果をより一層向上することを考慮すると、熱可塑性エラストマーのMFRは、上記の範囲でも2.5g/10min以下、とくに2.3g/10min以下であることが好ましい。
【0101】
MFRの下限については特に制限されず、前述した温度190℃、荷重2.16kgでの測定結果が「No Flow(流動せず)」である熱可塑性エラストマーまで使用することができる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0102】
旭化成(株)製のタフテック(登録商標)シリーズのSEBSのうち、H1521〔MFR:2.3g/10min〕、H1051〔MFR:0.8g/10min未満〕、H1052〔MFR:13.0g/10min未満〕、H1272〔MFR:No Flow〕、P1083〔MFR:3.0g/10min〕、P1500〔MFR:4.0g/10min〕、P5051〔MFR:3.0g/10min〕、P2000〔MFR:3.0g/10min〕。
【0103】
旭化成(株)製のタフプレン(登録商標)シリーズのSBSのうち、A〔MFR:2.6g/10min〕、125〔MFR:4.5g/10min〕、126S〔MFR:4.5g/10min〕。
【0104】
旭化成(株)製のアサプレン(登録商標)TシリーズのSBSのうち、T-411〔MFR:No Flow〕、T-432〔MFR:No Flow〕、T-437〔MFR:No Flow〕、T-438〔MFR:No Flow〕、T-439〔MFR:No Flow〕。
【0105】
(株)クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズのSEPSのうち、2002〔MFR:70g/10min〕、2004F〔MFR:5g/10min〕、2005〔MFR:No Flow〕、2006〔MFR:No Flow〕、2063〔MFR:7g/10min〕、2104〔MFR:0.4g/10min〕。これらのSEPSのMFRの測定条件は、いずれも温度230℃ 荷重2.16kgである。
【0106】
(株)クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズのSEEPSのうち、4033〔MFR:<0.1g/10min〕、4044〔MFR:No Flow〕、4055〔MFR:No Flow〕、4077〔MFR:No Flow〕、4099〔MFR:No Flow〕。これらのSEEPSのMFRの測定条件は、いずれも温度230℃ 荷重2.16kgである。
【0107】
(株)クラレ製のハイブラー(登録商標)シリーズのビニルSISのうち、5125〔MFR:4g/10min〕、5127〔MFR:5/10min〕。
【0108】
東ソー(株)製のウルトラセン(登録商標)シリーズのEVAのうち、514R〔MFR:0.41g/10min〕、515〔MFR:2.5g/10min〕、510〔MFR:2.5g/10min〕、510F〔MFR:2.5g/10min〕、520F〔MFR:2.0g/10min〕、540〔MFR:3.0g/10min〕、540F〔MFR:3.0g/10min〕、537〔MFR:8.5g/10min〕、537L〔MFR:8.5g/10min〕、537S-2〔MFR:8.5g/10min〕、541〔MFR:9.0g/10min〕、541L〔MFR:9.0g/10min〕、530〔MFR:75g/10min〕、526〔MFR:25g/10min〕、630〔MFR:1.5g/10min〕、631〔MFR:1.5g/10min〕、636〔MFR:2.5g/10min〕、625〔MFR:14g/10min〕、626〔MFR:3.0g/10min〕、627〔MFR:0.8g/10min〕、633〔MFR:20g/10min〕、635〔MFR:2.4g/10min〕、640〔MFR:2.8g/10min〕、634〔MFR:4.3g/10min〕、680〔MFR:160g/10min〕、681〔MFR:350g/10min〕、751〔MFR:5.7g/10min〕、710〔MFR:18g/10min〕、720〔MFR:150g/10min〕、722〔MFR:400g/10min〕、750〔MFR:30g/10min〕、752〔MFR:60g/10min〕、760〔MFR:70g/10min〕。
【0109】
中間層51は、例えば、熱可塑性エラストマーを少なくとも含む中間層51用の形成材料を任意の溶剤に溶解または分散させた塗材を、第1熱転写層50上に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。
【0110】
中間層51の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。中間層51の厚さは、中間層51の塗布量で調節することができる。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上であり、好ましくは0.2g/m以上である。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して2.0g/m以下であり、好ましくは1.5g/m以下である。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m以上2.0g/m以下であり、好ましくは0.2g/m以上1.5g/m以下である。
【0111】
中間層51の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上であり、好ましくは0.2μm以上である。中間層51の厚さは、例えば2.0μm以下であり、好ましくは1.5μm以下である。中間層51の厚さは、例えば0.05μm以上2.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下であってもよい。中間層51の厚さは、例えば、熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0112】
なお、塗工精度の限界から、中間層51の厚さには、測定位置によって誤差が生じることがある。上記の中間層51の塗布量および厚さは、当該誤差も含めた値であってもよい。例えば、0.2g/mの塗布量で形成された中間層51は、測定位置によっては0.1g/mの塗布量で形成された場合の厚さを有する領域を有していてもよい。
【0113】
(6)第2熱転写層52
第2熱転写層52は、例えば、任意の熱可塑性樹脂によって形成することができる。第2熱転写層52に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、プリンタテープ2の形成材料等に応じて適宜選択することができる。第1熱転写層50をエポキシ樹脂によって形成する場合には、第2熱転写層52も同様にエポキシ樹脂によって形成することが好ましい。
【0114】
第2熱転写層52をエポキシ樹脂によって形成することによって、溶着層70および中間層51に対する第1熱転写層50の密着力と、プリンタテープ2に対する第2熱転写層52の密着力とを拮抗させることができる。これにより、低温転写時に、第1熱転写層50と中間層51とを基材層48側、第2熱転写層52をプリンタテープ2側に良好に分離することができる。エポキシ樹脂としては、例えば、第1熱転写層50のエポキシ樹脂として例示した各種エポキシ樹脂が挙げられる。それらのエポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0115】
第2熱転写層52は、熱可塑性樹脂に加えてワックスを含有していてもよい。ワックスの含有によって、低温転写時に、第1熱転写層50と中間層51とを基材層48側、第2熱転写層52をプリンタテープ2側に良好に分離することができる。
【0116】
ワックスとしては、エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂との親和性や相溶性を有する任意のワックスを用いることができる。例えば、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックスを使用することができる。ワックスの具体例としては、特に制限されないが、例えば、トーヨーケム(株)製のカルナバワックス1号フレーク、2号フレーク、3号フレーク、1号パウダー、2号パウダー(以上、いずれも融点:80~86℃)、日本精蝋(株)製のパラフィンワックスであるEMUSTAR-1155(融点:69℃)、EMUSTAR-0135(融点:60℃)、EMUSTAR-0136(融点:60℃)等、日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックスであるEMUSTAR-0001(融点:84℃)、EMUSTAR-042X(融点:84℃)等、日本精蝋(株)製のフィッシャートロプシュワックスであるFNP-0090(凝結点:90℃)、SX80(凝結点:83℃)、FT-0165(融点:73℃)、FT-0070(融点:72℃)等が挙げられる。これらのワックスは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0117】
第2熱転写層52は、任意の着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、第2熱転写層52の色味に応じた1種または2種以上の、種々の着色剤を用いることができる。着色剤としては、例えば、顔料であってもよい。文字の耐候性の向上等を考慮すると、第2熱転写層52に使用される着色剤としては顔料が好ましい。例えば、第2熱転写層52を赤色に着色するための顔料としては、以下の各種赤色顔料が挙げられる。これらの赤色顔料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0118】
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、53:1、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255。
【0119】
第2熱転写層52における各成分の割合は、特に制限されない。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば3質量部以上であり、好ましくは5質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば11質量部以下であり、好ましくは9質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば3質量部以上11質量部以下であり、好ましくは5質量部以上9質量部以下である。
【0120】
エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば70質量部以上であり、好ましくは80質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば140質量部以下、好ましくは120質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば70質量部以上140質量部以下であり、好ましくは80質量部以上120質量部以下である。
【0121】
第2熱転写層52は、例えば、上記の各成分を任意の溶剤に溶解または分散した塗材を、中間層51上に塗布した後、乾燥させて形成することができる。
【0122】
第2熱転写層52の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。第2熱転写層52の厚さは、第2熱転写層52の塗布量で調節することができる。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.2g/m以上であり、好ましくは1.0g/m以上である。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して7.0g/m以下であり、好ましくは5.0g/m以下である。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.2g/m以上7.0g/m以下であり、好ましくは1.0g/m以上5.0g/m以下である。
【0123】
第2熱転写層52の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上であり、好ましくは1.0μm以上である。第2熱転写層52の厚さは、例えば7.0μm以下であり、好ましくは5.0μm以下である。第2熱転写層52の厚さは、例えば0.05μm以上7.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以上5.0μm以下であってもよい。第2熱転写層52の厚さは、例えば、熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0124】
熱転写記録媒体47おいては、例えば、サーマルヘッド6(図1および図3参照)に印加するエネルギー量を低めに設定して比較的低温で熱転写される場合がある。この場合、この実施形態では第2熱転写層52が軟化して基材層48に対する密着力が低下する。一方で第1熱転写層50と第2熱転写層52との密着力が減少する。この際、溶着層70は、高い軟化点を有しているので、ほとんど軟化することなく、基材層48と第1熱転写層50との間に高い密着力が維持される。その結果、熱転写時には、第1熱転写層50および中間層51が基材層48側に残留する逆転写を生じつつ、第2熱転写層52のみがプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。したがって、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は第2熱転写層52の色味、例えば赤色となる。
【0125】
一方、熱転写記録媒体47は、サーマルヘッド6に印加するエネルギー量を高めに設定して、より高温で熱転写される場合がある。この場合、溶着層70がさらに軟化して、例えば基材層48との間の密着力が大幅に減少する。これにより、熱転写層の全体、つまり溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52が、一体的にプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は、転写後の最表層に位置する第1熱転写層50の色味、例えば黒色となる。
【0126】
その結果、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、例えば黒色と赤色の2色のパターンを記録することができる。
【0127】
したがって、本開示によれば、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、連続して熱転写記録をしても色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性に優れた文字を記録することができる。
【0128】
[力の不可逆変化に基づく溶着層70の導入]
図6では、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体(インクリボン)の一例として、溶着層70を備える熱転写記録媒体47が示されている。溶着層70は、具体的な化学組成として、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を含む。本願発明者たちは、同様の効果を発現する熱転写記録媒体を別の観点からも検討および実施したので、以下に詳細に説明する。端的には、図6では溶着層70の成分の化学組成に着目したのに対し、以下では、熱転写記録媒体47の到達温度制御による層間接着力の不可逆変化に着目した。
【0129】
図7は、図1図4A,Bで示した加熱工程および冷却工程における、経過時間と熱転写記録媒体47の到達温度との関係を示す図である。
【0130】
図7の横軸は、印刷装置1の印刷工程の経過時間を示している。tが印刷開始時を示しており、tがサーマルヘッド6による加熱終了時を示し、tがインクリボン剥離部材13への到達時を示している。図7の縦軸は、熱転写記録媒体47の到達温度を示している。熱転写記録媒体47の到達温度は、外的要因によって変化する熱転写記録媒体47の温度であると定義することができる。当該外的要因は、例えば、サーマルヘッド6による加熱、熱転写記録媒体47の搬送中の自然冷却等を含んでいてもよい。
【0131】
図7を参照して、印刷装置1では、制御回路22でサーマルヘッド6の温度出力(温度エネルギー)を制御することによって、熱転写記録媒体47の到達温度を制御することができる。例えば、加熱工程において相対的に低い第1エネルギー量をサーマルヘッド6に印加する。この場合の熱転写記録媒体47の温度は、一点鎖線の第1温度曲線55で示す通り、熱転写記録媒体47の周囲の環境温度(例えば、室温)Tから指数関数的に増加してTR1に到達する。
【0132】
到達温度TR1は、第1温度T以上かつ第2温度T以下の温度と定義してもよい。例えば、第1温度Tは、60℃以上120℃以下であり、好ましくは70℃以上90℃以下である。例えば、第2温度Tは、80℃以上180℃以下であり、好ましくは130℃以上150℃以下である。到達温度TR1は、使用する印刷装置1のサーマルヘッド6の出力設定方法に応じて適宜設定することができる。例えば、サーマルヘッド6の発熱素子20に供給する電圧や電流、通電時間等の定量的パラメータに関連付けて到達温度が設定されてもよい。また、所定の基準値(例えば、通電前の数値を0(ゼロ)等)に対する相対的数値に関連付けて到達温度が設定されてもよい。
【0133】
一方、加熱工程において前記第1エネルギー量よりも相対的に高い第2エネルギー量をサーマルヘッド6に印加する。この場合の熱転写記録媒体47の温度は、実線の第2温度曲線56で示す通り、環境温度Tから指数関数的に増加してTR2に到達する。到達温度TR2は、第2温度Tを超える温度と定義してもよい。
【0134】
加熱工程後、熱転写記録媒体47は、インクリボン剥離部材13の到達までの区間で自然冷却される(図3および図4A,Bも参照)。冷却工程では、熱転写記録媒体47の温度は、到達温度TR1およびTR2から指数関数的に減少してTに到達する。この時の到達温度Tは、インクリボン剥離部材13によって熱転写記録媒体47の一部が剥離される温度であるため、剥離温度Tと定義してもよい。剥離温度Tは、第3温度T以下であることが好ましい。第3温度Tは、第1温度Tよりも低く(つまり、第1温度Tは第3温度T以上)、例えば40℃以上90℃以下であり、好ましくは60℃以上80℃以下である。第1温度T、第2温度Tおよび第3温度Tの大きさは、熱転写記録媒体47のインクの化学組成および物性を考慮して、プリンタテープ2に転写させるために必要な温度範囲で適宜設定することができる。
【0135】
冷却工程における熱転写記録媒体47の温度曲線(冷却曲線)は、加熱工程で第1温度曲線55および第2温度曲線56が示すいずれの加熱制御を経由しても、最終的には一定の温度に収束する。したがって、冷却工程の時間(t→t)を長く確保することによって、第1温度曲線55および第2温度曲線56の剥離温度Tをほぼ同じにすることができる。冷却工程の時間を長くするには、例えば、サーマルヘッド6とインクリボン剥離部材13との距離(図1の剥離距離L)を長くすればよい。例えば、図7に第1温度曲線55で示す温度変化によって加熱工程および冷却工程が実行された後の熱転写記録媒体47の状態を第1状態Cと定義してもよい。これに対し、図7に第2温度曲線56で示す温度変化によって加熱工程および冷却工程が実行された後の熱転写記録媒体47の状態を第2状態Cと定義してもよい。
【0136】
このように、印刷装置1では、サーマルヘッド6の温度出力(温度エネルギー)の制御によって、加熱工程の開始から冷却工程に終了までのプロセスにおいて、開始温度(環境温度T)および最終温度(剥離温度T)を一定にしつつ、熱転写記録媒体47の到達温度を様々に変化させることができる。この温度制御を考慮して、例えば、図6の熱転写記録媒体47の基材層48、裏面層49、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の各物性に応じてサーマルヘッド6の温度出力を制御することによって、熱転写記録媒体47の各層の間の接着力を制御することが期待される。
【0137】
図8および図9は、加熱工程および冷却工程における、経過時間と熱転写記録媒体47の層間接着力との関係を示す図である。図8は、熱転写記録媒体47の温度を、図6の第1温度曲線55に従って変化させたときの各接着力Fの変化を示している。図9は、熱転写記録媒体47の温度を、図6の第2温度曲線56に従って変化させたときの各接着力Fの変化を示している。
【0138】
図8および図9の横軸は、印刷装置1の印刷工程の経過時間を示している。tが印刷開始時を示しており、tがサーマルヘッド6による加熱終了時を示し、tがインクリボン剥離部材13への到達時を示している。図8および図9の縦軸は、熱転写記録媒体47の各層の間の接着力の大きさを示している。
【0139】
図8および図9では、熱転写記録媒体47の第1熱転写層50と第2熱転写層52との間の第1接着力Fが、実線の第1接着力曲線57で示されている。また、基材層48と第1熱転写層50との間の第2接着力Fが、一点鎖線の第2接着力曲線58で示されている。第1接着力Fは、中間層51と第2熱転写層52との接合が外れるときの力、第2熱転写層52が内部で破断するときの力、中間層51が内部で破断するときの力を含んでいてもよい。また、第1熱転写層50および中間層51の成分が溶融によって混合して混合層を形成している場合には、当該混合層と第2熱転写層52との接合が外れるときの力を含んでいてもよい。第2接着力Fには、基材層48と溶着層70との接合が外れるときの力、溶着層70と第1熱転写層50との接合が外れるときの力、第1熱転写層50が内部で破断するときの力、溶着層70が内部で破断するときの力を含んでいてもよい。
【0140】
図8および図9を参照して、第1接着力Fおよび第2接着力Fはいずれも、加熱工程時にサーマルヘッド6に印加されるエネルギー量に関係なく、加熱工程および冷却工程を実行することによって経時的に変化する。より具体的には、加熱時間の経過に伴って第1接着力Fおよび第2接着力Fは共に減少し、加熱後の冷却時間の経過に伴って第1接着力Fおよび第2接着力Fは共に増加する。
【0141】
加熱前および冷却後における第1接着力Fおよび第2接着力Fの大小関係は、サーマルヘッド6に印加されるエネルギー量に応じて変化する。例えば図8に示すように、サーマルヘッド6に印加されるエネルギー量が相対的に低い場合は、加熱前および冷却後(第1状態C)のいずれにおいても、第2接着力Fが第1接着力Fよりも大きい。したがって、第1状態Cで剥離を実行すれば、第1接着力F<第2接着力Fであるため、第1熱転写層50と第2熱転写層52との間で剥離が発生し、第2熱転写層52がプリンタテープ2に転写される。一方で、冷却後に第1接着力F<第2接着力Fの条件を整えるためには、少なくとも、図9に示す第1接着力曲線57と第2接着力曲線58との交点59に対応する時間tよりも長く冷却工程を実行することが好ましい。熱転写記録媒体47が十分に冷却され、確実に冷時剥離を実行できるためである。
【0142】
また、例えば図9に示すように、サーマルヘッド6に印加されるエネルギー量が相対的に高い場合は、加熱前および冷却後(第2状態C)において第1接着力Fおよび第2接着力Fの大小関係が逆転する。加熱前は第2接着力Fが第1接着力Fよりも大きい一方、冷却後(第2状態C)では、第2接着力Fが第1接着力Fよりも小さくなる。つまり、第1接着力Fが不可逆変化を起こしている。したがって、第2状態Cで剥離を実行すれば、第1接着力F>第2接着力Fであるため、基材層48と第1熱転写層50との間で剥離が発生し、接着した状態の第1熱転写層50および第2熱転写層52がプリンタテープ2に転写される。一方で、冷却後に第1接着力F>第2接着力Fの条件を整えるためには、少なくとも、図9に示す第1接着力曲線57と第2接着力曲線58との交点60に対応する時間tよりも長く冷却工程を実行することが好ましい。熱転写記録媒体47が十分に冷却され、確実に冷時剥離を実行できるためである。
【0143】
時間tは、低エネルギーで加熱された熱転写記録媒体47の冷却後に第1接着力F<第2接着力Fとなり、かつ高エネルギーで加熱された熱転写記録媒体47の冷却後に第1接着力F>第2接着力Fとなるように、適切に設定すればよい。例えば、低エネルギー印加および高エネルギー印加のいずれの場合でも、熱転写記録媒体47の到達温度を第3温度Tよりも低くするために必要な時間であってもよい。この時間tを確保するために必要な剥離距離L図1参照)は、例えば70mm以上150mm以下であり、好ましくは90mm以上120mm以下である。
【0144】
このように、サーマルヘッド6に印加されるエネルギー量に応じて発生する第1接着力Fの不可逆変化を利用すれば、熱転写記録媒体47の剥離位置を自由に制御でき、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体47を提供することができる。
【0145】
(1)熱転写記録媒体47の剥離モード
図10図17は、熱転写記録媒体47の剥離の状態を示す図である。まず、第1接着力Fおよび第2接着力Fの大小関係によって、熱転写記録媒体47がどのように剥離するのかを図10図17を参照して説明する。図10図17を参照して、熱転写記録媒体47には複数の剥離モードが挙げられる。図10図17の剥離モードを順に、第1~第8剥離モードと称してもよい。サーマルヘッド6に供給されるエネルギーの観点から、図10図13に示す低エネルギー剥離モードと、図14図17に示す高エネルギー剥離モードとに区別することができる。
【0146】
図10図13は、図7の第1温度曲線55の加熱制御(低エネルギー印加)を経由して、第1状態Cで剥離(熱転写)が実行されたときの剥離モードである。図10の第1剥離モードでは、第1状態Cで中間層51と第2熱転写層52との間の破断強度(第1接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する。図11の第2剥離モードでは、第1状態Cで第2熱転写層52内の破断強度(第1接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、第2熱転写層52の内部で剥離が発生する。図12の第3剥離モードでは、第1状態Cで中間層51内の破断強度(第1接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、中間層51の内部で剥離が発生する。図13の第4剥離モードでは、第1状態Cで、第2熱転写層52に接している層が第1熱転写層50および中間層51の成分が溶融によって混合された混合層61である。そして、混合層61と第2熱転写層52との間の破断強度(第1接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する。図10の第1剥離モードおよび図13の第4剥離モードが界面破壊であり、図11の第2剥離モードおよび図12の第3剥離モードが凝集破壊である。図10図13いずれの剥離モードであっても、第2熱転写層52がプリンタテープ2に転写される。
【0147】
図14図17は、図7の第2温度曲線56の加熱制御(高エネルギー印加)を経由して、第2状態Cで剥離(熱転写)が実行されたときの剥離モードである。図14図17の剥離モードも第1~第4剥離モードと同様に、少なくとも界面破壊および凝集破壊の2つに区別することができる。
【0148】
図14の第5剥離モードでは、第2状態Cで基材層48と溶着層70との間の破断強度(第2接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する(界面破壊)。図15の第6剥離モードでは、第2状態Cで溶着層70と第1熱転写層50との間の破断強度(第2接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する(界面破壊)。
【0149】
図16の第7剥離モードでは、第2状態Cで第1熱転写層50内の破断強度(第2接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、第1熱転写層50の内部で剥離が発生する(凝集破壊)。図17の第8剥離モードでは、第2状態Cで溶着層70内の破断強度(第2接着力F)が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、溶着層70の内部で剥離が発生する(凝集破壊)。
【0150】
図14図17いずれの剥離モードであっても、接着した状態の第1熱転写層50および第2熱転写層52が選択的にプリンタテープ2に転写される。
【0151】
熱転写記録媒体47が図10図17のいずれの剥離モードで破断しているかどうかは、例えば、破断後の熱転写記録媒体47の断面観察によって確認することができる。例えば、破断後の熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0152】
以上のように、第1~第4剥離モードでは、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字が第2熱転写層52の色味、例えば赤色となる。第5~8剥離モードでは、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字が第1熱転写層50の色味、例えば黒色となる。
【0153】
したがって、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体47を提供するには、第1温度曲線55の加熱制御(低エネルギー印加)時に第1~第4剥離モードの少なくとも1つを達成し、第2温度曲線56の加熱制御(高エネルギー印加)時に第5~第8剥離モードの少なくとも1つを達成する。これらを達成するために、熱転写記録媒体47の各層の条件を以下の複数の観点から検討した。
【0154】
(2)熱転写記録媒体47の各層の化学組成
熱転写記録媒体47の各層の化学組成の観点では、前述の「[溶着層70の導入]」の項で示した基材層48、裏面層49、溶着層70、第1熱転写層50、中間層51、および第2熱転写層52の各層の化学組成が好ましい。むろん、当該化学組成を備える熱転写記録媒体47は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種を含む溶着層70を備えているので、図7に示す温度制御に関係なく、汎用の熱転写プリンタで一般的な条件の温度制御によって、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録することができる。
【0155】
印刷装置1における熱転写を図7に示す温度制御で実行する場合には、中間層51として前述の熱可塑性エラストマーに加え、他の組成を採用することができる。例えば、中間層51は、ポリオレフィン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0156】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、三菱ケミカル(株)製のサーフレン(登録商標)P-1000等が挙げられる。
【0157】
長鎖アルキル系樹脂としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のピーロイル(登録商標)シリーズのうち、1010、1010S、1050、1070、406等が挙げられる。
【0158】
以上の例示した樹脂を含む溶着層70および中間層51を備えることによっても、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体47を提供することができる。
【0159】
(3)熱転写記録媒体47の各層の溶解度パラメータ(SP値)
熱転写記録媒体47の各層の物性の観点では、各層の構成成分の溶解度パラメータ(SP値)および軟化点の相対関係に着目する。各層の構成成分のSP値および軟化点を調整することによって、熱転写記録媒体47の層間接着力および内部剥離を制御することができる。互いに接触している構成成分のSP値が近いほど接着し易く(親和性が高く)、SP値が離れるほど剥離しやすい(親和性が低い)。したがって、熱転写記録媒体47の各層の構成成分のSP値および含有率のバランスを調整することによって、熱転写記録媒体47における剥離位置を柔軟に制御する。これにより、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体47を提供する。
【0160】
以下において、SP値の相対関係(大小関係)を示す場合、比較対象のSP値の算出条件が同じであればよい、例えば、SP値は、HSP値(Hansen(ハンセン)溶解度パラメータ)であってもよいし、SP値(Hildebrand(ヒルデブランド)溶解度パラメータであってもよい。また、SP値の算出方法は特に制限されず、例えば、蒸発潜熱から求める方法、Hildebrand Ruleによる方法、表面張力による方法等の物性値から推算する方法、Smallの計算方法、Fedorsの計算方法、Hansenの計算方法、Hoyの計算方法等の分子構造から推算する方法のいずれであってもよい。なお、本開示においてSP値の範囲および具体的数値を示す場合のSP値は、特記しない限りSP値(Hildebrand(ヒルデブランド)溶解度パラメータである。
【0161】
図18は、本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体47の各構成材料の溶解度パラメータ(SP値)の比較のための図である。
【0162】
図18を参照して、第1熱転写層50は、少なくとも第1材料62および第2材料63で構成されている。第1材料62は、第2材料63に比べて相対的に低いSP値および軟化点を有する材料である。第1材料62のSP値は、例えば7.5~9.5であり、好ましくは8.0~9.0である。第1材料62としては、前述の「[溶着層70の導入]」の第1熱転写層50の成分として例示した粘着剤および粘着付与剤等が挙げられる。
【0163】
第2材料63は、第1材料62に比べて相対的に高いSP値および軟化点を有する材料である。第2材料63のSP値は、例えば9.0~12.0であり、好ましくは10.0~11.0である。第2材料63の軟化点は、例えば、60℃以上150℃以下であり、好ましくは90℃以上145℃以下である。第2材料63としては、前述の「[溶着層70の導入]」の第1熱転写層50の成分として例示した熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0164】
第1熱転写層50における第1材料62および第2材料63の重量割合は、例えば第2材料63の100質量部に対し、第1材料62が30質量部以上であり、好ましくは45質量部以上である。例えば第2材料63の100質量部に対し、第1材料62が300質量部以下であり、好ましくは200質量部以下である。例えば第2材料63の100質量部に対し、第1材料62が30質量部以上300質量部以下であり、好ましくは45質量部以上200質量部以下である。
【0165】
中間層51は、少なくとも第3材料64で構成されている。第3材料64は、第2材料63および第5材料66(後述)に比べて相対的に低いSP値を有する材料である。第3材料64のSP値は、例えば7.5~10.0であり、好ましくは8.0~9.0である。第3材料64としては、前述の「[溶着層70の導入]」で例示した熱可塑性エラストマーの他、ポリオレフィン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂等が挙げられる。
【0166】
第2熱転写層52は、少なくとも第4材料65および第5材料66で構成されている。第4材料65は、第5材料66に比べて相対的に高いSP値および軟化点を有する材料である。第4材料65のSP値は、例えば9.0~12.0であり、好ましくは10.0~11.0である。第4材料65の軟化点は、例えば、60℃以上150℃以下であり、好ましくは90℃以上145℃以下である。第4材料65としては、前述の「[溶着層70の導入]」の第2熱転写層52の成分として例示した熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0167】
第5材料66は、第4材料65に比べて相対的に低いSP値および軟化点を有する材料である。第5材料66のSP値は、例えば7.5~9.5であり、好ましくは8.0~9.0である。第5材料66の融点は、例えば、60℃以上120℃以下であり、好ましくは65℃以上100℃以下である。第5材料66としては、前述の「[溶着層70の導入]」の第2熱転写層52の成分として例示したワックス等が挙げられる。
【0168】
第2熱転写層52における第4材料65および第5材料66の重量割合は、例えば第4材料65の100質量部に対し、第5材料66が3質量部以上であり、好ましくは5質量部以上である。例えば第4材料65の100質量部に対し、第5材料66が11質量部以下であり、好ましくは9質量部以下である。例えば第4材料65の100質量部に対し、第5材料66が3質量部以上11質量部以下であり、好ましくは5質量部以上9質量部以下である。
【0169】
溶着層70は、少なくとも第6材料67で構成されている。第6材料67は、基材層48の材料および第2材料63に比べて相対的に高いSP値および軟化点を有する材料である。第6材料67のSP値は、例えば9.0~14.0であり、好ましくは12.0~14.0である。第6材料67としては、前述の「[溶着層70の導入]」で例示したポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された少なくとも1種等が挙げられる。
【0170】
なお、基材層48の材料としては、前述の「[溶着層70の導入]」で例示した樹脂のフィルム、コンデンサー紙、グラシン紙等の薄葉紙、およびセロファン等が挙げられる。
【0171】
SP値および軟化点の相対関係をまとめると、まずSP値に関して、第1材料62、第3材料64および第4材料65のSP値は、第2材料63、第5材料66および第6材料67のSP値よりも小さい。また、第2材料63および第5材料66のSP値は、第6材料67のSP値よりも小さい。軟化点に関して、第1材料62、第4材料65および第5材料66の軟化点は、第2材料63および第3材料64の軟化点よりも低い。また、第2材料63および第3材料64の軟化点は、第6材料67の軟化点よりも低く、第3材料64および第6材料67の軟化点は、基材層48の軟化点よりも低い。
【0172】
図19は、熱転写記録媒体47の一部を構成する材料の種類と溶解度パラメータの大小との関係を示す図である。
【0173】
前述のように第1~第6材料62~67として使用可能な材料名を例示したが、熱転写記録媒体47におけるSP値の相対関係(大小関係)が上記の通りであれば、使用材料は特に制限されない。例えば、図19に示す大小関係を参考にして、適宜材料を選択することができる。その際、材料間のSP値が近いものほど接着し易く、SP値が遠いものほど剥離し易い性質があることを考慮する。
【0174】
例えば第1熱転写層50に関して、第1材料62としてテルペンフェノール樹脂を選択し、第2材料63としてエポキシ樹脂を選択してもよい。例えば中間層51に関して、第3材料64として熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン等を選択してもよい。例えば第2熱転写層52に関して、第4材料65としてワックスを選択し、第5材料66としてエポキシ樹脂を選択してもよい。例えば溶着層70に関して、第6材料67として、SP値が特に高いポリアミド系樹脂を選択してもよい。
【0175】
以上のようにSP値を上記のように組み合わせれば、図7の第1温度曲線55の加熱制御(低エネルギー印加)時に第1~第4剥離モードの少なくとも1つを達成でき、第2温度曲線56の加熱制御(高エネルギー印加)時に第5~第8剥離モードの少なくとも1つを達成することができる。
【0176】
例えば、サーマルヘッド6(図1および図3参照)に印加するエネルギー量を低めに設定して比較的低温で熱転写される。この場合、この実施形態では第2熱転写層52が軟化して基材層48に対する密着力が低下する。一方で第1熱転写層50と第2熱転写層52との密着力が減少する。この際、溶着層70は、高い軟化点を有しているので、ほとんど軟化することなく、基材層48と第1熱転写層50との間に高い密着力が維持される。溶着層70の第6材料67のSP値は比較的高く、凝集力が大きくなりやすく軟化点が高くなりやすいためである。その結果、熱転写時には、第1熱転写層50および中間層51が基材層48側に残留する逆転写を生じつつ、第2熱転写層52のみがプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。したがって、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は第2熱転写層52の色味、例えば赤色となる。つまり、低温転写では、第1~第4剥離モードの少なくとも1つが達成できる。
【0177】
一方、熱転写記録媒体47は、サーマルヘッド6に印加するエネルギー量を高めに設定して、より高温で熱転写される。この場合、溶着層70がさらに軟化して、例えば基材層48との間の密着力が大幅に減少する。これにより、熱転写層の全体、つまり溶着層70、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52が、一体的にプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は、転写後の最表層に位置する第1熱転写層50の色味、例えば黒色となる。つまり、高温転写では、第5~第8剥離モードの少なくとも1つが達成できる。その結果、鮮明性が良好な少なくとも2色の文字を同時に記録できる熱転写記録媒体47を提供することができる。
【実施例0178】
以下に本開示を、実験例に基づいてさらに説明するが、本開示の構成は、これらの例に限定されるものではない。
【0179】
[第1熱転写層用塗材(I)]
下記表1に示す各成分を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/4の混合溶剤に溶解して、固形分濃度22.5質量%の第1熱転写層用塗材(I)を調製した。アクリル系粘着剤中の有効成分の割合は、エポキシ樹脂100質量部あたり80質量部であった。
【0180】
【表1】
【0181】
表中の各成分は下記のとおりである。
【0182】
エポキシ樹脂:三菱ケミカル(株)製のJER1007〔基本固形タイプ、軟化点(環球法):128℃、数平均分子量Mn:約2900、SP値:9.5~11.5〕
アクリル系粘着剤:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のAS-665〔固形分濃度:40質量%、SP値:8.0~9.5〕
粘着付与剤:テルペンフェノール樹脂、ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターT80(軟化点:80±5℃、SP値:8.0~9.0)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のMA100粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm/100g〕
[溶着層用塗材(1)]
ポリアミド系樹脂〔(株)T&K TOKA製のトーマイド1315、SP値:13.60、軟化点:130±5℃〕を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の溶着層用塗材(1)を調製した。
【0183】
[溶着層用塗材(2)]
ポリビニルアルコール系樹脂〔デンカ(株)製のデンカポバールB-05、SP値:12.60、軟化点:200℃〕を、水に溶解して、固形分濃度10質量%の溶着層用塗材(2)を調製した。
【0184】
[溶着層用塗材(3)]
フェノール系樹脂〔DIC(株)製のフェノライトTD-2090、SP値:11.30、軟化点:117~123℃〕を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の溶着層用塗材(3)を調製した。
【0185】
[溶着層用塗材(4)]
フェノール系樹脂〔三菱ケミカル(株)製のJER1001、SP値:10.90、軟化点(環球法):64℃〕を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の溶着層用塗材(4)を調製した。
【0186】
[溶着層用塗材(5)]
ポリエステル系樹脂〔東洋紡(株)製のバイロンGK-360、SP値:9.30、ガラス転移温度:56℃〕を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の溶着層用塗材(5)を調製した。
【0187】
溶着層用塗材(1)~(5)の材料名、SP値、軟化点をまとめると下記表2の通りである。構成成分の配合割合については、中間層用塗材(1)~(5)のいずれも固形分/溶媒=10/90なので省略する。
【0188】
【表2】
【0189】
[中間層用塗材(1)]
熱可塑性エラストマー〔旭化成(株)製のタフテックH1521、SEBS、MFR:12.3g/10min、スチレン含有率18質量%、SP値:7.5~9.0〕を、トルエンとヘキサンの質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の中間層用塗材(1)を調製した。
【0190】
[中間層用塗材(2)]
熱可塑性エラストマーとして、旭化成(株)製のタフテックH1517〔SEBS、MFR:3.0g/10min未満、スチレン含有率43質量%、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(2)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0191】
[中間層用塗材(3)]
熱可塑性エラストマーとして、旭化成(株)製のタフテックH1272〔SEBS、MFR:No Flow、スチレン含有率35質量%、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(3)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0192】
[中間層用塗材(4)]
熱可塑性エラストマーとして、旭化成(株)製のタフテックH1221〔SEBS、MFR:4.5g/10min未満、スチレン含有率12質量%、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(4)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0193】
[中間層用塗材(5)]
熱可塑性エラストマーとして、旭化成(株)製のタフテックH1043〔SEBS、MFR:2.0g/10min未満、スチレン含有率67質量%、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(5)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0194】
[中間層用塗材(6)]
熱可塑性エラストマーとして、旭化成(株)製のタフプレンA〔SBS、MFR:2.6g/10min、スチレン含有率40質量%、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(6)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0195】
[中間層用塗材(7)]
熱可塑性エラストマーとして、東ソー(株)製のウルトラセン634〔EVA、MFR:4.3g/10min、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(7)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0196】
[中間層用塗材(8)]
熱可塑性エラストマーとして、東ソー(株)製のウルトラセン722〔EVA、MFR:400g/10min、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(8)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0197】
[中間層用塗材(9)]
熱可塑性エラストマーとして、東ソー(株)製のウルトラセン725〔EVA、MFR:1000g/10min、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(9)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0198】
[中間層用塗材(10)]
熱可塑性エラストマーとして、東ソー(株)製のウルトラセン684〔EVA、MFR:2000g/10min、SP値:7.5~9.0〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(10)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0199】
[中間層用塗材(11)]
熱可塑性エラストマーに代えて、変性ポリオレフィン樹脂〔三菱ケミカル(株)製のサーフレン(登録商標)P-1000、SP値:7.5~8.5〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(11)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0200】
中間層用塗材(1)~(11)の材料名、MFR、スチレン含有量をまとめると下記表3の通りである。構成成分の配合割合については、中間層用塗材(1)~(11)のいずれも固形分/トルエン/ヘキサン=10/45/45なので省略する。
【0201】
【表3】
【0202】
[第2熱転写層用塗材(I)]
下記表4に示す各成分を、トルエンとMEKの質量比1/4の混合溶剤に溶解して、固形分濃度28質量%の第2熱転写層用塗材(I)を調製した。
【0203】
【表4】
【0204】
表中の各成分は下記のとおりである。
【0205】
エポキシ樹脂:三菱ケミカル(株)製のJER1004〔基本固形タイプ、軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650、SP値:10.0~11.0〕
ワックス:トーヨーケム(株)製のカルナバワックス2号パウダー(融点:80~86℃、SP値:7.0~9.0)
赤色顔料:C.I.ピグメントレッド53:1〔DIC(株)製のSYMULER(登録商標)レーキレッドC-102〕
[実験例1~21]
(1)熱転写記録媒体の製造
まず、基材層として、厚さ4.5μmのPETフィルムを準備した。次に、当該基材層の、熱転写層を形成する表面とは反対面(裏面)に、シリコーン系樹脂からなる、単位面積あたりの固形分量が0.1g/mの裏面層を形成した。次に、先に調製した溶着層用塗材のいずれかを、基材層の表面に塗布したのち乾燥させて、単位面積あたりの固形分量が0.4g/mである溶着層を形成した。次に、先に調製した第1熱転写層塗材を、溶着層の表面に塗布したのち乾燥させて、単位面積あたりの固形分量が1.7g/mである第1熱転写層を形成した。次に、必要により先に調製した中間層用塗材のいずれかを、第1熱転写層の上に塗布したのち乾燥させて、中間層を形成した。中間層用塗材の塗布量に関して、実験例1~16では単位面積あたりの固形分量が1g/mであり、実験例18~21では、それぞれ下記表9に示す通りであった。次に、先に調製した第2熱転写層用塗材(I)を、中間層または第1熱転写層の上に塗布したのち乾燥させて、単位面積あたりの固形分量が2.5g/mである第2熱転写層を形成して、熱転写記録媒体を製造した。実験例1~21で得られた熱転写記録媒体の各層の組成は、下記表5~9に示すとおりである。表中、中間層のバインダの欄のNFはNo Flowを示す。
(2)評価
(2-1)連続記録性評価
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。当該熱転写プリンタの主な仕様は次のとおりである。
<解像度> 300dpiラインサーマルヘッド
<発熱体の抵抗値>1830Ω
<転写荷重> 30N/2inch
<搬送速度> 20mm/sec
<剥離距離> 110mm
次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を低エネルギー(0.25mJ/dot:25V(0.34W/dot)/750μsec、黒)または高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、赤)にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50、SP値:10.7、軟化点:240℃〕の表面に、70mm四方のベタ画像を20回に亘って連続して記録した。記録途中で少しの混濁が観察された場合は、その時点で連続印刷を終了し、黒色または赤色で印刷された回数を連続印刷数として記録した。評価にあたって、20回目でも黒色が印刷される実験例は20回以上の優秀な連続印刷性を持ち、3回目以下で混濁が発生する実験例は、実用上十分ではないと考えられる。結果を表5~9に示す。
(2-2)記録の鮮明性評価
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、(2-1)と同じ仕様の熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を低エネルギー(0.25mJ/dot:25V(0.34W/dot)/750μsec、黒)または高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、赤)にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50、SP値:10.7、軟化点:240℃〕の表面に、バーコードを記録した。そして記録したバーコードを、バーコード検証機〔ムナゾヲ(株)製のレーザーエグザマイナーElite IS〕を用いて読み取った結果から、米国国家規格協会規格 ANSI X3.182-1990)に規定されたデコーダビリティ等級を求めて、下記の基準で、記録の鮮明性を評価した。
〇:黒、赤ともにデコーダビリティ等級はA[秀]またはB[優]であった。
△:黒または赤のいずれか一方は、デコーダビリティ等級がC[良]で、かつ他方はC[良]以上であった。
×:黒または赤の少なくとも一方は、デコーダビリティ等級がD[可]またはF[不可]であった。
【0206】
結果を表5~9に示す。なお、実験例1~17のうち、実験例1~16および実験例18~21が実施例であり、実験例17が比較例であってもよい。
(2-3)破断位置の観察
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、(2-1)と同じ仕様の熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を低エネルギー(0.25mJ/dot:25V(0.34W/dot)/750μsec、到達温度TR1:80℃、黒)および高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、到達温度TR2:140℃、赤)に別々にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50、SP値:10.7、軟化点:240℃〕の表面に、70mm四方のベタ画像を記録した。いずれの場合も、熱転写プリンタの剥離距離が110mm確保されているので、十分に冷却(60℃以下)されてから剥離処理がされている。得られたベタ画像の断面を透過型電子顕微鏡(TEM:(株)日立ハイテク製 HT7820 加速電圧100kV)を用いて観察した。黒色転写および赤色転写のそれぞれにおいて、熱転写記録媒体のどの位置で破断が発生しているかを確認した。破断位置を次の通り、剥離モードで区分した。
【0207】
第1剥離モード:中間層と第2熱転写層との間(界面破壊 図10参照)
第2剥離モード:第2熱転写層の内部(凝集破壊 図11参照)
第3剥離モード:中間層の内部(凝集破壊 図12参照)
第4剥離モード:混合層と第2熱転写層との間(界面破壊 図13参照)
第5剥離モード:基材層と溶着層との間(界面破壊 図14参照)
第6剥離モード:溶着層と第1熱転写層との間(界面破壊 図15参照)
第7剥離モード:第1熱転写層の内部(凝集破壊 図16参照)
第8剥離モード:溶着層の内部(凝集破壊 図17参照)
結果を表5~9に示す。表5~9では、第1~第8剥離モードをそれぞれ、円で囲まれた数字のみで示している。また、表5~9において、複数の剥離モードが示されている場合は、熱転写記録媒体の面内方向において互いに異なる剥離モードが発生していることを示している。また、実験例6および17は中間層を備えない層構成であるため、表6の下段の剥離モードは、厳密には、図11および図13から中間層51を省略した状態の凝集破壊が生じていた。
【0208】
【表5】
【0209】
【表6】
【0210】
【表7】
【0211】
【表8】
【0212】
【表9】
【0213】
表5~表8の実験例1~16と実験例17との比較から、たとえば図17を参照して溶着層、第1熱転写層、第2熱転写層および中間層の構成成分のSP値のバランスを調整することによって、所望の剥離モードを達成できることが分かった。その結果、連続して熱転写記録をしても色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性にすぐれた文字を記録できる熱転写記録媒体が得られることが分かった。
【0214】
実験例1~4と実験例5との比較から、特に、溶着層のSP値は、基材層のSP値(=10.7)および第1熱転写層のエポキシ樹脂のSP値(=10.0~11.0)よりも高いことが好ましいことが分かった。これにより、連続記録性を10回以上達成できた。
【0215】
実験例1と実験例6との比較から、第1熱転写層と第2熱転写層との間には中間層を備えることが好ましいことが分かった。これにより、連続記録性および鮮明性の両方に優れる熱転写記録媒体を提供することができる。
【0216】
実験例7~15と実験例16との比較から、連続記録性および鮮明性を一層向上することを考慮すると、中間層としては熱可塑性エラストマーを用いることが好ましいと分かった。
【0217】
また実験例1、7~15の結果より、中間層を形成する熱可塑性エラストマーとしてはEVA、SBS、SEBS等が好ましいことが分かった。さらに、連続記録性を一層向上することを考慮すると、熱可塑性エラストマーとしては、温度190℃、荷重2.16kgでのMFRが1000g/10min以下のものが好ましく、400g/10min以下のものがさらに好ましく、2.5g/10min以下のものがとりわけ好ましく、2.3g/10min以下のものが最も好ましいことが分かった。
【0218】
実験例1および実験例18~21から、中間層の塗布量を変化させても、実用上十分な連続記録性および鮮明性を達成できることが分かった。実験例1および実験例18~21のうち、実験例1、19および20がとりわけ、連続記録性および鮮明性に優れることが分かった。実験例1、19および20は、熱転写記録媒体を構成する層のうち中間層が最も薄く(塗布量が少なく)、かつ中間層の厚さ(塗布量)が、中間層の導入による効果を十分発現できる大きさである。
【0219】
言い換えれば、実験例21では、熱転写記録媒体を構成する層のうち中間層が最も薄くなく比較的厚いため、転写される面積(余剥離)が大きくなり、鮮明性が低下した。通常は、実験例21のように、隣り合う層のうち熱源に近い側の一方の層の厚さが増加すると、当該一方の層と他方の層との間の界面での到達温度が低下するので、転写面積が減少すると考えられる。しかしながら、中間層と第2熱転写層との界面においては、界面到達温度が下がると、中間層-第2熱転写層間(図6の「51」と「52」との間)の接着力が比較的低く維持される現象が起こり得る。その結果、バーコードの周囲の際の部分において、ラベル素材-第2熱転写層間(図6の「2」と「52」との間)の接着力よりも中間層-第2熱転写層間の接着力が相対的に低くなり、中間層-第2熱転写層間で破断し、余剥離が大きくなったと考えられる。
【0220】
一方、実験例18では、熱転写記録媒体を構成する層のうち中間層が最も薄いが、塗布量が0.1g/mというかなり少量であるため、中間層本来の役割を十分に果たせず、連続記録性および鮮明性の双方において低下が確認された。
【符号の説明】
【0221】
1 :印刷装置
2 :プリンタテープ
3 :インクリボン
6 :サーマルヘッド
20 :発熱素子
31 :印刷面
32 :裏面
35 :基材層
36 :第1インク層
37 :第2インク層
42 :第1部分
43 :第2部分
44 :印刷パターン
45 :赤色パターン
46 :黒色パターン
47 :熱転写記録媒体
48 :基材層
50 :第1熱転写層
51 :中間層
52 :第2熱転写層
61 :混合層
62 :第1材料
63 :第2材料
64 :第3材料
65 :第4材料
66 :第5材料
67 :第6材料
70 :溶着層
:外力
:第1温度
:第2温度
:第3温度
R1 :到達温度
R2 :到達温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19