(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163987
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】熱転写記録媒体および印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/40 20060101AFI20231102BHJP
B41M 5/42 20060101ALI20231102BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20231102BHJP
B41J 31/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B41M5/40 310
B41M5/42 310
B41J2/325 C
B41J31/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075256
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】武智 美奈
(72)【発明者】
【氏名】松元 春樹
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 有希
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 博昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 次郎
【テーマコード(参考)】
2C065
2C068
2H111
【Fターム(参考)】
2C065AA01
2C065AB03
2C065AF02
2C065DC11
2C068AA02
2C068AA06
2C068AA15
2C068BB18
2C068BB19
2C068BD27
2C068BD37
2C068BD43
2H111AA26
2H111BA03
2H111BA04
2H111BA12
2H111BA61
(57)【要約】
【課題】2色の文字を記録できる熱転写記録媒体において、一方の色の転写時に発生する他方の色のフリンジの発生を抑制することができる熱転写記録媒体を提供する。
【解決手段】
熱転写記録媒体47は、表面53および裏面54を有する基材層48と、基材層48の表面53に順に、互いに直接的に接触して積層された、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52とを含む。熱転写記録媒体47が第2温度を超える温度まで加熱された後に第3温度以下まで冷却された第2状態(例えば高温加熱時)のときに破断して基材層48側から離れる全ての層の厚さの総和は、基材層48から離れずに残る部分のうち基材層48を除く熱転写前のいずれの層よりも厚い。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、第1インクを含む第1インク層、および第2インクを含む第2インク層がこの順に積層され、前記第1インク層および前記第2インク層の少なくとも一部が被印字媒体に熱転写される熱転写記録媒体であって、
前記熱転写記録媒体が第1温度以上かつ第2温度以下まで加熱された後に第3温度以下まで冷却された第1状態で、前記基材層および前記第2インク層に対して互いに遠ざかる方向に外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記基材層との間または前記第1インク層内で破断され、
前記熱転写記録媒体が前記第2温度を超える温度まで加熱された後に前記第3温度以下まで冷却された第2状態で、前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記第2インク層との間または前記第2インク層内で破断され、
前記第2状態のときに破断して前記基材層側から離れる全ての層の厚さの総和は、前記基材層から離れずに残る部分のうち前記基材層を除く熱転写前のいずれの層よりも厚い、熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記第2状態のときに破断して前記基材層側から離れる全ての層のうち、前記第2インク層が最も厚い、請求項1に記載の熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記第1状態で前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記基材層の間または前記第1インク層内の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さく、
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記第2インク層との間または前記第2インク層内の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項4】
前記熱転写記録媒体は、前記第1インク層と前記第2インク層との間に中間層を有し、
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層と前記第2インク層との間で破断される、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項5】
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層と前記第2インク層との間の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項4に記載の熱転写記録媒体。
【請求項6】
前記熱転写記録媒体は、前記第1インク層と前記第2インク層との間に中間層を有し、
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層内で破断される、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項7】
前記第2状態で前記外力が加えられたときに、前記中間層内の破断強度は、前記熱転写記録媒体の中で最も小さい、請求項6に記載の熱転写記録媒体。
【請求項8】
前記第1温度は、前記第3温度以上である、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項9】
前記第1状態は、前記熱転写記録媒体の前記基材層が前記第1温度以上かつ前記第2温度以下まで加熱された後に、前記第3温度以下まで冷却された状態であり、
前記第2状態は、前記熱転写記録媒体の前記基材層が前記第2温度を超える温度まで加熱された後に、前記第3温度以下まで冷却された状態である、請求項1または2に記載の熱転写記録媒体。
【請求項10】
基材層、第1インクを含む第1インク層、および第2インクを含む第2インク層がこの順に積層された熱転写記録媒体を、被印刷媒体に接触させた状態で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程によって加熱された前記熱転写記録媒体を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程によって冷却された前記熱転写記録媒体の前記基材層および前記第2インク層に対して互いに遠ざかる方向に外力を加えることによって、前記第1インクおよび前記第2インクの少なくとも一部を前記被印刷媒体に転写する転写工程とを実行する印刷装置であって、
前記加熱工程および前記冷却工程では、
前記熱転写記録媒体の第1部分を、第1温度以上かつ第2温度以下まで加熱した後に第3温度以下まで冷却して第1状態とし、前記熱転写記録媒体の第2部分を、前記第2温度を超える温度まで加熱した後に前記第3温度以下まで冷却して第2状態とし、
前記転写工程では、
前記外力を加えることによって、前記熱転写記録媒体の前記第1部分において、前記第1インク層と前記基材層との間または前記第1インク層内で前記熱転写記録媒体を破断し、前記第1インクおよび前記第2インクを前記被印刷媒体に転写し、
前記外力を加えることによって、前記熱転写記録媒体の前記第2部分において、前記第1インク層と前記第2インク層との間または前記第2インク層内で前記熱転写記録媒体を破断し、前記第2インクを前記被印刷媒体に転写し、転写された全ての層の厚さの総和が、前記基材層から離れずに残った部分のうち前記基材層を除く熱転写前のいずれの層よりも厚い、印刷装置。
【請求項11】
請求項1または2に記載の熱転写記録媒体と、
前記熱転写記録媒体の一部が熱転写される被印字媒体とを内蔵する、カセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色の異なる文字を記録できる熱転写記録媒体、および当該熱転写記録媒体を被印字媒体に転写するための印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1および2は、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)文字の記録が可能な熱転写記録媒体を開示している。この種の熱転写記録媒体は、専用の印刷装置にセットされる。印刷装置のサーマルヘッドへの印加エネルギー量を調整することによって、異なる色の文字を被印字媒体に転写することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-094843号公報
【特許文献2】特開昭62-227788号公報
【特許文献3】特開昭63-214481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一実施形態は、2色の文字を記録できる熱転写記録媒体において、一方の色の転写時に発生する他方の色のフリンジの発生を抑制することができる熱転写記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体は、基材層、第1インクを含む第1インク層、および第2インクを含む第2インク層がこの順に積層され、前記第1インク層および前記第2インク層の少なくとも一部が被印字媒体に熱転写される熱転写記録媒体であって、前記熱転写記録媒体が第1温度以上かつ第2温度以下まで加熱された後に第3温度以下まで冷却された第1状態で、前記基材層および前記第2インク層に対して互いに遠ざかる方向に外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記基材層との間または前記第1インク層内で破断され、前記熱転写記録媒体が前記第2温度を超える温度まで加熱された後に前記第3温度以下まで冷却された第2状態で、前記外力が加えられたときに、前記第1インク層と前記第2インク層との間または前記第2インク層内で破断され、前記第2状態のときに破断して前記基材層側から離れる全ての層の厚さの総和は、前記基材層から離れずに残る部分のうち前記基材層を除く熱転写前のいずれの層よりも厚い。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体によれば、2色の文字のうち一方の色の転写時に発生する他方の色のフリンジの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る印刷装置の構造を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、前記印刷装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、前記印刷装置の加熱工程および冷却工程を説明する模式図である。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、前記印刷装置の冷却工程および転写工程を説明する模式図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、前記印刷装置による印刷パターンの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、熱転写時に発生するフリンジのパターンを示す図である。
【
図7】
図7は、
図3のサーマルヘッドの発熱素子の回路パターンを示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の発熱素子の温度分布の説明のための図である。
【
図9】
図9は、サーマルヘッドから熱転写記録媒体への熱の伝わり方を説明するための図である。
【
図10】
図10は、前記熱転写記録媒体の複数の層境界における加熱到達温度と剥離力(接着力)との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、前記フリンジの発生原理の説明のための図である。
【
図12】
図12は、前記フリンジの解決策の説明のための図である。
【
図13】
図13は、本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体の層構成を示す模式的な断面図である。
【
図14】
図14は、前記加熱工程および前記冷却工程における、経過時間と前記熱転写記録媒体の到達温度との関係を示す図である。
【
図15】
図15は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
【
図16】
図16は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
【
図17】
図17は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
【
図18】
図18は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
【
図19】
図19は、前記熱転写記録媒体の剥離の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本開示の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[印刷装置1の全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る印刷装置1の構造を模式的に示す図である。
【0010】
図1を参照して、印刷装置1は、被印字媒体の一例としてのプリンタテープ2にインクリボン3のインクを文字として熱転写する熱転写式サーマルプリンタである。プリンタテープ2は、例えば、インクが直接的に転写されるベース素材を含む帯状のフィルムテープ、帯状のベースフィルムに多数の紙ラベルが配列された紙ラベルテープ等を含んでいてもよい。
【0011】
プリンタテープ2に記録される文字は、例えば、典型的な文字、バーコードやQRコード(登録商標)等の記号、数字、図、文様等を含んでいてもよい。この実施形態に係る印刷装置1は、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)文字をプリンタテープ2に記録することができる。
【0012】
印刷装置1は、筐体4と、筐体4の内部に収容されたテープカセット5、サーマルヘッド6、プラテンローラ7、および制御基板8とを主に含む。
【0013】
筐体4は、例えばプラスチックケースからなる箱状部材であってもよい。筐体4の外壁には、印刷後のプリンタテープ2を取り出すための取出口9が形成されている。取出口9の近傍には、カッター(図示せず)が設けられていてもよい。カッターを用いた裁断によって、プリンタテープ2を使用単位ごとのサイズのラベルに分離して取り出すことができる。
【0014】
テープカセット5は、筐体4に対する着脱式カートリッジであってもよい。テープカセット5は、テープの送り方向D1(
図1では右側から左側に向かう方向)の上流側から下流側に向かって順に、プリンタテープロール10(他の言い方で、ラベルテープロールであってもよい)、供給ローラ11、インクリボンロール12、インクリボン剥離部材13およびインクリボン巻取りロール14を収容していてもよい。この実施形態では、プリンタテープロール10およびインクリボンロール12は、テープカセット5に収容された状態で使用されるタイプであるが、例えば、印刷装置1に直接装着して使用するタイプであってもよい。
【0015】
プリンタテープロール10は、プリンタテープ2を円筒状に巻き取って作製されており、例えば、テープカセット5に回転可能に保持されている。供給ローラ11には、筐体4に設けられたテープ駆動軸16が挿入されている。テープ駆動軸16の駆動によって発生する回転力R1が供給ローラ11に伝達され、供給ローラ11が回転する。
【0016】
インクリボンロール12は、インクリボン3を円筒状に巻き取って作製されており、例えば、テープカセット5に回転可能に保持されている。インクリボン巻取りロール14には、筐体4に設けられたリボン駆動軸18が挿入されている。リボン駆動軸18の駆動によって発生する回転力R2がインクリボン巻取りロール14に伝達され、インクリボン巻取りロール14が回転する。
【0017】
インクリボン剥離部材13は、インクリボン3の送り方向D2を変更するガイド部材であってもよい。インクリボン剥離部材13は、搬送中のインクリボン3に当接可能な形状、例えば、ローラ状、ブレード状の形状を有していてもよい。インクリボン3はサーマルヘッド6によってプリンタテープ2に一部が熱圧着され、プリンタテープ2と共に取出口9に向かって搬送される。インクリボン剥離部材13は、搬送途中のインクリボン3に当接し、インクリボン3の送り方向D2をプリンタテープ2の送り方向D1に対して急角度で変更する。これにより、プリンタテープ2とインクリボン3とが引き離され、プリンタテープ2からインクリボン3が剥離する。
【0018】
サーマルヘッド6は、プリンタテープ2の送り方向D1において、プリンタテープロール10およびインクリボンロール12と、インクリボン剥離部材13との間に配置されている。サーマルヘッド6は、基板19と、基板19上に形成された発熱体20(例えば、発熱抵抗体等)とを含む。発熱体20への通電によって発生するジュール熱が、インクリボン3のインクの熱転写に利用される。
【0019】
プラテンローラ7には、例えば、筐体4に設けられたプラテン駆動軸21が挿入されている。プラテン駆動軸21の駆動によって発生する回転力R3がプラテンローラ7に伝達され、プラテンローラ7が回転する。制御基板8は、印刷装置1の電気的な制御を実行する電子機器であり、筐体4の内部に設置されている。
【0020】
[印刷装置1の電気的構成]
図2は、印刷装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0021】
図2を参照して、印刷装置1の制御基板8には、制御回路22が設けられている。制御回路22は、CPU23、ROM24、メモリ25、RAM26、および入出力I/F27(インターフェース)を含んでいてもよい。これらは、例えばデータバス(図示せず)を介して電気的に接続されている。
【0022】
ROM24には、印刷装置1を駆動するための各種プログラム(例えば、
図3および
図4A,Bに示す各工程を実行する制御プログラム等)が記憶されている。CPU23は、RAM26の一時記憶機能を利用しつつROM24に記憶されたプログラムに従って信号処理を実行し、印刷装置1を全体的に制御する。メモリ25は、例えばROM24の記憶領域の一部で構成されていてもよい。メモリ25には、インクリボン3の残量(消費量)を筐体4の表示部(図示せず)に表示するためのテーブルが予め記憶されていてもよい。
【0023】
入出力I/F27には、第1駆動回路28および第2駆動回路29が電気的に接続されている。第1駆動回路28は、サーマルヘッド6の発熱体20の通電制御を実行する。第2駆動回路29は、供給ローラ11、インクリボン巻取りロール14、プラテンローラ7を回転駆動させる駆動モータ30に対し、駆動パルスを出力する駆動制御を実行する。
【0024】
[印刷装置1による印刷工程の流れ]
図3は、印刷装置1の加熱工程および冷却工程を説明する模式図である。
図4Aおよび
図4Bは、印刷装置1の冷却工程および転写工程を説明する模式図である。
図4Bは、
図4Aの矢印4Bの方向から転写パターンを見たときの要部拡大図である。
図5Aおよび
図5Bは、印刷装置1による印刷パターン44の一例を示す図である。
図1および
図3~
図5Aおよび
図5Bを参照して、印刷装置1による印刷工程を具体的に説明する。
【0025】
プリンタテープ2に文字を印刷するには、供給ローラ11の回転駆動によってプリンタテープロール10からプリンタテープ2が送り出されると共に、インクリボン巻取りロール14の回転駆動によってインクリボンロール12からインクリボン3が送り出される。これにより、
図1および
図3に示すように、プリンタテープ2およびインクリボン3が、互いに重なり合った状態で下流側に向かって搬送される。プリンタテープ2において、インクリボン3側の面が印刷面31(表面)であり、その反対側の面が裏面32である。インクリボン3において、プリンタテープ2側の面が接着面33(表面)であり、その反対側の面が裏面34である。
【0026】
図3を参照して、インクリボン3は、基材層35と、第1熱転写層の一例としての第1インク層36と、第2熱転写層の一例としての第2インク層37とを含む。第1インク層36および第2インク層37は、この順で基材層35の第1面の一例としての表面38に積層されている。基材層35の表面38の反対側の面は裏面39(インクリボン3の裏面34)である。第1インク層36および第2インク層37は、互いに異なる色の着色剤を含有している。例えば、第1インク層36が第1インクの一例として黒色の着色剤を含有し、第2インク層37が第2インクの一例として赤色の着色剤を含有していてもよい。
【0027】
インクリボン3は、第2インク層37とプリンタテープ2とが接触した状態でサーマルヘッド6に向かって搬送される。サーマルヘッド6では、
図3に示すように加熱工程が実行される。具体的には、通電によって発熱した発熱体20をインクリボン3に押圧することによって、この熱が基材層35を介して第1インク層36および第2インク層37に伝達される。インクリボン3およびプリンタテープ2の積層体は、サーマルヘッド6とプラテンローラ7との間に挟持されることによって、サーマルヘッド6で加熱されながら下流側に搬送される。
【0028】
発熱体20は、全体的に同じ温度に制御されてもよいし、部分的に異なる温度で制御されてもよい。例えば
図3に示すように、発熱体20の第1部分40が相対的に低い第1発熱温度に制御され、発熱体20の第2部分41が第1発熱温度よりも高い第2発熱温度に制御されてもよい。これにより、インクリボン3は、第1発熱温度で加熱された第1部分42と、第2発熱温度で加熱された第2部分43とを含んでいてもよい。インクリボン3の第1部分42および第2部分43では、少なくとも第1インク層36および第2インク層37の一部または全部が溶融もしくは軟化し、プリンタテープ2に密着する。
【0029】
図3および
図4A,Bを参照して、サーマルヘッド6とインクリボン剥離部材13との間の区間では冷却工程が実行される。具体的には、加熱工程でプリンタテープ2に熱圧着されたインクリボン3は、サーマルヘッド6からインクリボン剥離部材13に到達するまでの区間で自然に冷却され、印刷装置1の使用環境温度に向かって温度低下する。
【0030】
その後、
図4A,Bに示すように、インクリボン剥離部材13によってインクリボン3の送り方向D2だけが選択的に変更されることによって、基材層35および第2インク層37に対して互いに遠ざかる方向に外力F1が加えられる。これにより、プリンタテープ2とインクリボン3とが引き離され、インクリボン3がインクリボン巻取りロール14に巻き取られる。この際、インクリボン3においてサーマルヘッド6で加熱された第1部分42および第2部分43が選択的にプリンタテープ2上に残存することによって、転写工程が実行される。例えば、第1部分42では、基材層35と第1インク層36および第2インク層37を含む積層体との間で剥離が生じて当該積層体が転写されてもよい。一方、第2部分43では、第1インク層36と第2インク層37との間で剥離が生じて第2インク層37が選択的に転写されてもよい。
【0031】
これにより、プリンタテープ2には、色の異なる(例えば、黒と赤の2色)印刷パターン44が形成される。印刷パターン44は、例えば
図5Aに示すように、独立した文字ごとに異なる色を有していてもよい。
図5Aでは、プリンタテープ2の印刷面31側から見たときに、アルファベットの「A」および「C」の最表面に第2インク層37に基づく赤色パターン45が視認され、「B」の最表面に第1インク層36に基づく黒色パターン46が視認されてもよい。一方、
図5Bに示すように、印刷パターン44は、各文字の部分ごとに赤色パターン45および黒色パターン46の両方が視認されてもよい。
【0032】
インクリボン3の転写後、文字が記録されたプリンタテープ2は、印刷装置1の取出口9から取り出される。以上の工程を経て、印字されたプリンタテープ2を得ることができる。
【0033】
[2色印刷における課題の一例]
熱転写式サーマルプリンタ(印刷装置1)では、サーマルヘッド6によって記録情報のパターンに応じてインクリボン3が加熱された後、インクリボン3がプリンタテープ2から剥離される。これにより、インク層36,37が、加熱パターンに応じて選択的に溶融もしくは軟化して基材層35から剥離すると共にプリンタテープ2の印刷面31に転写されて、当該印刷面31に文字が記録される。上記のような2色の熱転写印刷は、前述の特許文献1および2にも開示されているが、以下に示す課題がある。
【0034】
例えば、
図6は、低温加熱時に黒色が転写され、高温加熱時に赤色が転写されるインクリボンの印刷パターン44を示している。例えば、2色のパターンのうち、一方の色パターンのみを選択的に転写したときにフリンジを生じる場合がある。例えば
図6を参照して、互いに間隔を空けた水玉状に配列された赤色パターン45において、各パターンの周縁部に選択的に黒色パターン46がフリンジ80として転写されることがある。この種のフリンジ80は、インクリボン3の面内に温度分布が生じ、例えば各パターンの周縁部において、赤色パターン45を転写させるために必要な到達温度に達していなかったことが要因と考えられる。インクリボン3の温度分布は、サーマルヘッド6の発熱体20の温度分布に起因する。以下では、
図7~
図11を参照して、フリンジ80の発生原理を詳細に説明する。
【0035】
図7は、
図3のサーマルヘッド6の発熱体20の回路パターンを示す図である。
図8は、
図7の発熱体20の温度分布の説明のための図である。
図7および
図8では、明瞭化のため、発熱体20にハッチングを付している。
【0036】
図7および
図8を参照して、サーマルヘッド6のより詳細な構造および発熱体20の温度分布について説明を加える。まず
図7を参照して、サーマルヘッド6では、複数の発熱体20が所定のピッチP
1で規則的に配列されている。複数の発熱体20は、例えば、テープの送り方向D1と直角に縦1列に配列されている。また、複数の発熱体20は、縦横方向で行に配置されていてもよい。
【0037】
この実施形態では、各発熱体20は、長方形状である。各発熱体20の主走査方向D3の長さL2は,例えば15μm以上300μm以下であってもよい。各発熱体20の副走査方向D4の長さL3は、主走査方向D3の長さL2よりも長くてもよい。副走査方向D4は主走査方向D3に直交する方向であり、かつプリンタテープ2の送り方向D1であってもよい。所定ピッチP1は、例えば互いに隣り合う2つの発熱体20の中心から中心までの距離である。所定ピッチP1は、例えば84.7μm(300dpi)であってもよい。
【0038】
複数の発熱体20は、一方の端子が全ての発熱体20に共通の共通電極81(例えば、GND電位)に接続されており、他方の端子が、それぞれ電気的に独立した個別電極82に接続されていてもよい。第1駆動回路28は、各個別電極82に供給する電力および通電時間を調整することによって、各発熱体20の発熱温度を制御する。
【0039】
図8を参照して、発熱体20の下側の温度分布図は、発熱体20の副走査方向D4に沿う方向の温度分布を示し、発熱体20の右側の温度分布図は、発熱体20の主走査方向D3に沿う方向の温度分布を示している。各発熱体20に電力(エネルギー)が供給されると、当該電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、各発熱体20は発熱する。発熱による発熱体20の温度上昇値は、例えば、次の式(1)で求めることができる。
【0040】
T1=Q/C+T0・・・(1)
式(1)において、T1=発熱体加熱温度、T0=周囲温度、Q=印加エネルギー、C=発熱体20の熱容量(サーマルヘッド6および発熱体20の形状や材質に依存)である。
【0041】
発熱体20のハッチング部分の全体に印加エネルギーQが加わった場合、発熱体加熱温度T1値は式(1)に従い、巨視的には破線83で示すような温度分布形状になろうとする。しかし、熱の移動は温度が高い方から低い方へ流れる性質があるために、印加エネルギーQが加わっていない発熱体20の周辺、つまり温度が低い周囲温度T0側方向へ熱が逃げるため、ミクロ的な温度分布としては実線84ように、中心部に近いほど高く、中心部から周縁部に向かうほど低くなる山型の温度分布形状となる。これは、端的に言うと、発熱体20の中心部では熱が逃げにくい一方、周縁部で熱が逃げやすいためである。
【0042】
図9は、サーマルヘッド6からインクリボン3への熱の伝わり方を説明するための図である。
【0043】
図9を参照して、
図8の各発熱体20からの熱は、基材層35から第1インク層36および第2インク層37へ向かって、この順にインクリボン3の内部に伝達される。
図9では、発熱体20からインクリボン3の内部への熱の伝わり方が、半楕円形状の温度曲線85A~85Fで示されている。温度曲線85A~85Fは、それぞれ、発熱体20から近い順に第1温度曲線85A、第2温度曲線85B、第3温度曲線85C、第4温度曲線85D、第5温度曲線85Eおよび第6温度曲線85Fである。温度曲線85A~85Fのそれぞれに囲まれた領域は、第1温度領域86A、第2温度領域86B、第3温度領域86C、第4温度領域86D、第5温度領域86Eおよび第6温度領域86Fである。発熱体20による加熱時、温度領域86A~86Fの到達温度は、86A>86B>86C>86D>86E>86Fの関係性を有している。
【0044】
したがって、加熱時に、インクリボン3の厚さ方向において到達温度の大小関係が生じている。例えば、基材層35と第1インク層36との間の第1境界部87の到達温度Tb(T
base)、第1インク層36と第2インク層37との間の第2境界部88の到達温度Th(T
high)、および第2インク層37とプリンタテープ2との間の第3境界部89の到達温度Tl(T
low)を比べると、Tb>Th>Tlの大小関係が存在している。
図9では、明瞭化のため、インクリボン3の各層の境界部の発熱体20の直下の部分を概念的に長方形状の第1境界部87、第2境界部88および第3境界部89として示している。
【0045】
さらにインクリボン3の面内方向(厚さ方向に直交する方向)においても、到達温度Tb,Th,Tlが一様ではなく大小関係(温度分布)が生じている。例えば、第2境界部88(第1インク層36-第2インク層37)では、中心部は第2温度領域86Bであるが、周縁部は第3温度領域86Cであり、中心部よりも低い。このような各境界部87~89の面内方向の温度分布がフリンジ80の発生に関係する。
【0046】
図10は、インクリボン3の複数の層境界における加熱到達温度と剥離力(接着力)との関係を示す図である。
【0047】
各境界部87~89の面内方向の温度分布とフリンジ80の発生との関係性の説明に先立って、
図10を参照して、インクリボン3の各層の境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlと、境界部87~89の剥離力(接着力)との間の関係性を説明する。
【0048】
図10を参照して、
図10の横軸は、インクリボン3の各層の境界部87~89の到達温度を示しており、
図10の縦軸は、インクリボン3の各層の境界部87~89の剥離に必要な力(剥離力)を示している。
図10の実線90が第2境界部88(第1インク層36-第2インク層37)での到達温度Thと剥離力との関係を示し、
図10の一点鎖線91が第3境界部89(第2インク層37-プリンタテープ2)での到達温度Tlと剥離力との関係を示し、
図10の二点鎖線92が第1境界部87(基材層35-第1インク層36)での到達温度Tbと剥離力との関係を示している。
【0049】
図10に示すように、各境界部87~89における剥離力の大小関係は一定ではなく、境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlの変化に従って変化している。例えば、
図10の横軸は、境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlの大きさに応じて、主に3つの区間に区分されてもよい。3つの区間は、第1区間93、第2区間94および第3区間95を含む。
【0050】
第1区間93は、境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlの範囲が最も低い区間である。第1区間93での各境界部87~89における剥離力の大小関係は、第3境界部89<第1境界部87<第2境界部88である。第3境界部89の剥離力がほぼ0(ゼロ)であることから、インクリボン3がプリンタテープ2に接着されていない状態である。つまり、第1区間93は、サーマルヘッド6によるエネルギー印加前の初期状態(熱転写前の状態)であってもよい。
【0051】
第2区間94は、境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlの範囲が、第1区間93と第3区間95との間である。第2区間94での各境界部87~89における剥離力の大小関係は、第1境界部87<第2境界部88<第3境界部89、または第1境界部87<第3境界部89<第2境界部88である。したがって、第3境界部89を介して第2インク層37がプリンタテープ2に接着され、かつ第2境界部88を介して第1インク層36と第2インク層37との接着状態が十分に維持された状態である。一方、第1境界部87を介する基材層35と第1インク層36との間の接着力が最も低い状態である。そのため、第2区間94においてインクリボン3に外力F1(
図4A,B参照)が加えられると、最も接着力が弱い第1境界部87で剥離が発生する。これにより、インクリボン3の全体、つまり第1インク層36と第2インク層37が一体的にプリンタテープ2に熱転写される。そのため、プリンタテープ2に記録される文字は、例えば、転写後の最表層に位置する第1インク層36の色味、例えば黒色となる。
【0052】
第3区間95は、境界部87~89の到達温度Tb,Th,Tlの範囲が最も高い区間である。第3区間95での各境界部87~89における剥離力の大小関係は、第2境界部88<第3境界部89<第1境界部87、または第2境界部88<第1境界部87<第3境界部89である。したがって、第3境界部89を介して第2インク層37がプリンタテープ2に接着され、かつ第1境界部87を介して基材層35と第1インク層36との間の接着が十分に維持された状態である。一方、第2境界部88を介する第1インク層36と第2インク層37との間の接着力が最も低い状態である。そのため、第3区間95においてインクリボン3に外力F1(
図4A,B参照)が加えられると、最も接着力が弱い第2境界部88で剥離が発生する。これにより、第1インク層36が基材層35側に残留するいわゆる逆転写が生じる一方、第2インク層37のみがプリンタテープ2に選択的に熱転写される。したがって、プリンタテープ2に記録される文字は、第2インク層37の色味、例えば赤色となる。
【0053】
このように、インクリボン3に外力F1が加わったときに、3つの境界部87~89のうち剥離位置となる境界部は、境界部87~89の到達温度に関係することが分かる。例えば、発熱体20に低エネルギーが印加されたときの低温加熱時(第2区間94)では、基材層35と第1インク層36との間が剥離位置となり、熱転写色は黒色となる。一方、発熱体20に高エネルギーが印加されたときの高温加熱時(第3区間95)では、第1インク層36と第2インク層37との間が剥離位置となり、熱転写色は赤色となる。
【0054】
しかしながら、フリンジ80の発生なく2色の文字を正確に転写するためには、第2境界部88および第3境界部89の各到達温度Th,Tlが境界部の面内方向全体にわたって一様であり、かつ転写に必要な温度条件を満たしている場合に限られる。
図9で示したように、通常は、インクリボン3の面内方向において温度分布が生じており、これがフリンジ80の発生要因である。
【0055】
図11は、フリンジ80の発生原理の説明のための図である。
図12は、フリンジ80の解決策の説明のための図である。
図11では、インクリボン3の厚さ方向を方向D5とし、厚さ方向D5に直交するインクリボン3の面内方向をD6として説明する。
【0056】
図11を参照して、山型に描かれた実線は、第2インク層37の転写時に転写されずに基材層35側に残るインクリボン3の最表面の到達温度Thの第1温度分布曲線96を示しており、頂部が最も高温で、裾に近づくほど低温である。山型に描かれた一点鎖線は、インクリボン3の最表面(つまり、第3境界部89)の到達温度Tlの第2温度分布曲線97を示しており、頂部が最も高温で、裾に近づくほど低温である。第1温度分布曲線96および第2温度分布曲線97を横切る2本の直線は、それぞれ、上から順に、赤色の転写に必要な高温側境界条件98(
図10のTh-tarに対応)と、黒色の転写に必要な低温側境界条件99(
図10のTl-tarに対応)である。
【0057】
図11の左側(低温加熱時)を参照して、印刷パターン44の面内方向D6の全体にわたって、第1温度分布曲線96および第2温度分布曲線97のいずれもが、低温側境界条件99と高温側境界条件98との間(第2区間94)に存在している。
図10を参照して、この条件では印刷パターン44の面内方向D6のどの位置においても、第1境界部87の剥離力が最も小さくなるので、印刷パターン44の面内方向D6の全体にわたって第1境界部87で剥離が発生する。したがって、フリンジ80の発生なく、黒色の転写が可能となる。
【0058】
図11の右側を参照して、第2温度分布曲線97は、低温側境界条件99と高温側境界条件98との間(第2区間94)に存在している。これに対して、第1温度分布曲線96は、比較的高温になりやすい中心部100では高温側境界条件98を超えている(第3区間95)が、中心部100に比べて低温になりやすい周縁部101では、低温側境界条件99と高温側境界条件98との間(第2区間94)に存在している。このような状況では、第2境界部88(第1インク層36-第2インク層37間)での剥離力が十分に低下せず、周縁部101における剥離力の大小関係が、
図10の第2区間94に示す大小関係となる。つまり、第1境界部87の剥離力が最も小さくなるので、第1境界部87で剥離が発生する。これにより。印刷パターン44の周縁部101に選択的にフリンジ80が発生する。
【0059】
そこで、本願発明者たちは、このようなフリンジ80を抑制するため、
図12に示すように、第2境界部88の到達温度Thと第3境界部89の到達温度Tlとの温度差と、高温側境界条件(Th_tar)と低温側境界条件(Tl_tar)との温度差とを近づけることによって、フリンジ80を抑制できることを見出した。つまり、|Th-Tl|を|(Tl_tar)-(Th_tar)|に近づけることで、フリンジ80を抑制できることを見出した。より具体的には、第2インク層37の厚さを大きく調整することによって、第2境界部88と第3境界部89との間の熱伝達距離を大きくすることで第3境界部89への熱伝達量を低下させればよい。これにより、
図12に示すように第2境界部88に対して第2温度分布曲線97の頂部が相対的に低くなるので、|Th-Tl|=|(Tl_tar)-(Th_tar)|に近づけることができる。
【0060】
[熱転写記録媒体の具体的構成]
次に、フリンジ80の発生を抑制できる熱転写記録媒体47(インクリボン)の構成の一例を説明する。
【0061】
図13は、本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体47の層構成を示す模式的な断面図である。
図13では、被印字媒体の一例としてのプリンタテープ2に接着した状態の熱転写記録媒体47が示されている。
【0062】
熱転写記録媒体47は、インクリボン3として、
図1~
図4A,Bに示す印刷装置1および印刷工程に使用されてもよい。熱転写記録媒体47は、基材層48と、裏面層49と、第1熱転写層50と、中間層51と、第2熱転写層52とを含む。第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52は、この順で基材層48の第1面の一例としての表面53に積層されている。基材層48の表面53の反対側の面は裏面54であってもよい。裏面層49は、基材層48の裏面54に積層されている。第1熱転写層50および第2熱転写層52は、それぞれ、第1インク層および第2インク層と称してもよい。
【0063】
本開示の熱転写記録媒体47の特徴は、基材層48と、当該基材層48の表面53に順に、互いに直接に接触させて積層された、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52とを含む点である。中間層51は、バインダとして熱可塑性エラストマーを含む。
【0064】
熱転写記録媒体47おいては、例えば、サーマルヘッド6(
図1および
図3参照)に印加するエネルギー量を低めに設定して比較的低温で熱転写される場合がある。この場合、第1熱転写層50が軟化して基材層48に対する密着力が低下する。一方で第2熱転写層52が軟化してプリンタテープ2の印刷面31に対する密着力を生じる。また、両熱転写層50,52と中間層51との親和性が高まって、当該両熱転写層50,52の中間層51に対する密着力がそれぞれ向上する。さらに、特許文献1のように剥離層を形成するワックス等に比べて、熱可塑性エラストマーを含む中間層51は、相対的に高い溶融粘度を有している。中間層51は、そのゴム状弾性力によって、第1熱転写層50および第2熱転写層52に対する密着力を維持する。その結果、熱転写層の全体、つまり第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52が、一体的にプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は、転写後の最表層に位置する第1熱転写層50の色味、例えば黒色となる。
【0065】
一方、熱転写記録媒体47は、サーマルヘッド6に印加するエネルギー量を高めに設定して、より高温で熱転写される場合がある。この場合、第1熱転写層50がさらに軟化して基材層48に対する密着力が上昇すると共に、第2熱転写層52は、プリンタテープ2の印刷面31に対する密着力を生じる。また、第1熱転写層50の、中間層51に対する密着力が上昇して、第2熱転写層52と中間層51との密着力を上回る。熱転写時には、第1熱転写層50および中間層51が基材層48側に残留する逆転写を生じつつ、第2熱転写層52のみがプリンタテープ2の印刷面31に熱転写される。したがって、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字は第2熱転写層52の色味、例えば赤色となる。その結果、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、例えば黒色と赤色の2色のパターンを記録することができる。
【0066】
また、中間層51が含む熱可塑性エラストマーは、上記のように、ワックス等に比べて高い溶融粘度を有するため、両熱転写層50,52を一体的に転写できる低温転写範囲を高温側に拡げて、混濁転写範囲を狭くすることができる。しかも、溶融粘度の高い熱可塑性エラストマーを含む中間層51の、ゴム状弾性力や密着力等の特性は、両熱転写層50,52や剥離層に比べて温度依存性が低い。そのため、連続して熱転写記録をしてサーマルヘッド6の温度が徐々に上昇しても、文字の色味が混濁することを抑制することもできる。
【0067】
したがって、本開示によれば、2色の記録に対応した汎用の熱転写プリンタを用いて、連続して熱転写記録をしても色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性に優れた文字を記録することができる。
【0068】
以下、熱転写記録媒体47が含む、基材層48、裏面層49、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の具体的な組成および物性等について詳細な説明を加える。
【0069】
(1)基材層48
基材層48としては、例えば、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、トリアセテート等の樹脂のフィルム、コンデンサー紙、グラシン紙等の薄葉紙、およびセロファン等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルのフィルムが、機械的強度、寸法安定性、熱処理耐性、価格等の観点から好ましい。基材層48の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。例えば、基材層48の厚さは1μm以上であり、好ましくは2μm以上である。例えば、基材層48の厚さは10μm以下であり、好ましくは8μm以下である。例えば、基材層48の厚さは、1μm以上10μm以下であり、好ましくは2μm以上8μm以下である。
【0070】
(2)裏面層49
裏面層49は、サーマルヘッド6に接触する基材層48の裏面54の耐熱性、滑り性、耐擦過性等を向上させる。裏面層49としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン・フッ素共重合樹脂、ニトロセルロース樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂等が挙げられる。裏面層49は、必要に応じて滑剤を含有していてもよい。
【0071】
裏面層49は、例えば、上記の樹脂等を任意の溶剤に溶解または分散させた塗材を、基材層48の裏面54に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。裏面層49の厚さは、例えば、熱転写プリンタの仕様等に応じて任意に設定することができる。裏面層49の厚さは、裏面層49の塗布量で調節することができる。
【0072】
例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.05g/m2以上であり、好ましくは0.1g/m2以上である。例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.5g/m2以下であり、好ましくは0.4g/m2以下である。例えば、裏面層49の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.05g/m2以上0.5g/m2以下であり、好ましくは0.1g/m2以上0.4g/m2以下である。裏面層49の具体的な厚さとしては、例えば0.05μm以上0.5μm以下、好ましくは0.1μm以上0.4μm以下であってもよい。
【0073】
(3)第1熱転写層50
第1熱転写層50は、例えば、任意の熱可塑性樹脂によって形成することができる。第1熱転写層50は、基材層48および中間層51に対する親和性や密着力を向上することを考慮すると、熱可塑性樹脂としてエポキシ樹脂を用いて形成することが好ましい。エポキシ樹脂は、PET等のポリエステルのフィルムからなる基材層48および中間層51を形成する熱可塑性エラストマーに対する親和性および密着力に優れている。第1熱転写層50は、硬化剤を配合していない(除く)状態のエポキシ樹脂を熱可塑性樹脂として用いて形成することができる。
【0074】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、プロピレングリコールグリコキシエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性樹脂、ブロム化エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0075】
三菱ケミカル(株)製のJER(登録商標)シリーズのエポキシ樹脂のうち、基本固形タイプである1001〔軟化点(環球法):64℃、数平均分子量Mn:約900〕、1002〔軟化点(環球法):78℃、数平均分子量Mn:約1200〕、1003〔軟化点(環球法):89℃、数平均分子量Mn:約1300〕、1055〔軟化点(環球法):93℃、数平均分子量Mn:約1600〕、1004〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1004AF〔軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕、1007〔軟化点(環球法):128℃、数平均分子量Mn:約2900〕、1009〔軟化点(環球法):144℃、数平均分子量Mn:約3800〕、1010〔数平均分子量Mn:約5500〕、1003F〔軟化点(環球法):96℃〕、1004F〔軟化点(環球法):103℃〕、1005F、1009F〔軟化点(環球法):144℃〕、1004FS〔軟化点(環球法):100℃〕、1006FS〔軟化点(環球法):112℃〕、1007FS〔軟化点(環球法):124℃〕。
【0076】
第1熱転写層50に使用されるエポキシ樹脂の軟化点は、例えば95℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは125℃以上である。軟化点がこの範囲であれば、低温転写時の比較的低温において、第1熱転写層50と基材層48との間に高い粘着力が生じることを抑制することができる。第1熱転写層50の低温転写範囲を十分に高温側に拡げることができるので、連続して熱転写記録をしても、色味が混濁することを抑制することができる。
【0077】
第1熱転写層50は、エポキシ樹脂に加えて粘着剤を含有していてもよい。粘着剤の含有によって、基材層48および中間層51に対する親和性や密着力をさらに向上することができる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等が挙げられる。
【0078】
エポキシ樹脂との親和性や相溶性、および基材層48や中間層51に対する親和性や密着力を向上することを考慮すると、粘着剤としてはアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種アクリル系粘着剤が挙げられる。これらのアクリル系粘着剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0079】
トーヨーケム(株)製のオリバイン(登録商標)BPS(溶剤系)シリーズのうちBPS1109(不揮発分:39.5質量%)、BPS3156D(不揮発分:34質量%)、BPS4429-4(不揮発分45質量%)、BPS4849-40(不揮発分:40質量%)、BPS5160(不揮発分:33質量%)、BPS5213K(不揮発分:35質量%)、BPS5215K(不揮発分:39質量%)、BPS5227-1(不揮発分:41.5質量%)、BPS5296(不揮発分37質量%)、BPS5330(不揮発分:40質量%)、BPS5375(不揮発分:45質量%)、BPS5448(不揮発分:40質量%)、BPS5513(不揮発分:44.5質量%)、BPS5565K(不揮発分:45質量%)、BPS5669K(不揮発分:46質量%)、BPS5762K(不揮発分:45.5質量%)、BPS5896(不揮発分:37質量%)、BPS5978(不揮発分:35質量%)、BPS6074HTF(不揮発分:52質量%)、BPS6080TFK(不揮発分:45質量%)、BPS6130TF(不揮発分:45.5質量%)、BPS6153K(不揮発分:25質量%)、BPS6163(不揮発分:37質量%)、BPS6231(不揮発分:56質量%)、BPS6421(不揮発分:47質量%)、BPS6430(不揮発分:33質量%)、BPS6574(不揮発分:57質量%)、BPS8170(不揮発分:36.5質量%)、BPS HS-1(不揮発分:40質量%)。
【0080】
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の溶剤型粘着剤(再剥離型)のうちAS-325(固形分濃度:45質量%)、AS-375(固形分濃度:45質量%)、AS-409(固形分濃度:45質量%)、AS-417(固形分濃度:45質量%)、AS-425(固形分濃度:45質量%)、AS-455(固形分濃度:45質量%)、AS-665(固形分濃度:40質量%)、AS-1107(固形分濃度:43質量%)、AS-4005(固形分濃度:45質量%)。
【0081】
第1熱転写層50に使用されるアクリル系粘着剤は、粘着付与剤と併用されてもよい。例えば、第1熱転写層50のキレを高め、余剥離を抑制し、記録する文字の鮮明性を向上できるためである。粘着付与剤としては、例えば、エステルガム、テルペンフェノール樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。粘着付与剤の具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種粘着付与剤が挙げられる。これらの粘着付与剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0082】
ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターシリーズのテルペンフェノール樹脂のうち、U130(軟化点:130±5℃)、U115(軟化点:115±5℃)、T160(軟化点:160±5℃)、T145(軟化点:145±5℃)、T130(軟化点:130±5℃)、T115(軟化点:115±5℃)、T100(軟化点:100±5℃)、T80(軟化点:80±5℃)、S145(軟化点:145±5℃)、G150(軟化点:150±5℃)、G125(軟化点:125±5℃)、N125(軟化点:125±5℃)、K125(軟化点:125±5℃)、TH130(軟化点:130±5℃)。
【0083】
荒川化学工業(株)製のエステルガムのうち、AA-G〔軟化点(環球法):82~88℃〕、AA-L〔軟化点(環球法):82~88℃〕、AA-V〔軟化点(環球法):82~95℃〕、105〔軟化点(環球法):100~110℃〕、AT〔粘度:20000~40000mPa・s〕、H〔軟化点(環球法):68~75℃〕、HP〔軟化点(環球法):80℃以上〕。
【0084】
荒川化学工業(株)製のペンセル(登録商標)シリーズのロジンエステルのうち、GA-100〔軟化点(環球法):100~110℃〕、AZ〔軟化点(環球法):950~105℃〕、C〔軟化点(環球法):117~127℃〕、D-125〔軟化点(環球法):120~130℃〕、D-135〔軟化点(環球法):130~140℃〕、D-160〔軟化点(環球法):150~165℃〕、KK〔軟化点(環球法):165℃以上〕。
【0085】
第1熱転写層50に使用される粘着付与剤の軟化点は、例えば60℃以上であり、好ましくは120℃以下である。軟化点がこの範囲であれば、高温転写時において、第1熱転写層50および中間層51を、基材層48側に良好に逆転写させることができる。第1熱転写層50の高温転写範囲を十分に低温側に拡げることができるので、色味が混濁することを抑制することができる。
【0086】
第1熱転写層50は、任意の着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、第1熱転写層50の色味に応じた1種または2種以上の、種々の着色剤を用いることができる。着色剤としては、例えば、顔料であってもよい。文字の耐候性の向上等を考慮すると、第1熱転写層50に使用される着色剤としては顔料が好ましい。例えば、第1熱転写層50を黒色に着色するための顔料としてはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種カーボンブラックが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0087】
三菱ケミカル(株)製のMA77粉状〔LFF、DBP吸収量:68cm3/100g〕、MA7粉状〔LFF、DBP吸収量:66cm3/100g〕、MA7粒状〔LFF、DBP吸収量:65cm3/100g〕、MA8粉状〔LFF、DBP吸収量:57cm3/100g〕、MA8粒状〔LFF、DBP吸収量:51cm3/100g〕、MA11粉状〔LFF、DBP吸収量:64cm3/100g〕、MA100粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm3/100g〕、MA100粒状〔LFF、DBP吸収量:95cm3/100g〕、MA100R粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm3/100g〕、MA100R粒状〔LFF、DBP吸収量:95cm3/100g〕、MA100S粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm3/100g〕、MA230粉状〔LFF、DBP吸収量:113cm3/100g〕、MA220粉状〔LFF、DBP吸収量:93cm3/100g〕、MA14粉状〔LFF、DBP吸収量:73cm3/100g〕。
【0088】
三菱ケミカル(株)製の#3030B(ファーネス法、DBP吸収量:130cm3/100g)、#3040B(ファーネス法、DBP吸収量:114cm3/100g)、#3050B(ファーネス法、DBP吸収量:175cm3/100g)、#3230B(ファーネス法、DBP吸収量:140cm3/100g)、#3350B(ファーネス法、DBP吸収量:164cm3/100g)、#3400B(ファーネス法、DBP吸収量:175cm3/100g)。
【0089】
東海カーボン(株)製のトーカブラック(登録商標)シリーズのうち、#5500(ファーネス法、DBP吸収量:155cm3/100g)、#4500(ファーネス法、DBP吸収量:168cm3/100g)、#4400(ファーネス法、DBP吸収量:135cm3/100g)、#4300(ファーネス法、DBP吸収量:142cm3/100g)。
【0090】
オリオン エンジニアード カーボンズ(ORION ENGINEERED CARBONS)社製のPRINTEX(プリンテックス、登録商標)シリーズのうちL(ファーネス法、DBP吸収量:120cm3/100g)、L6(ファーネス法、DBP吸収量:126cm3/100g)。
【0091】
ビルラ・カーボン(Birla Carbon)社製のCONDUCTEX(コンダクテックス、登録商標)シリーズのうち、975(ファーネス法、170cm3/100g)、SC(ファーネス法、115cm3/100g)。
【0092】
キャボット(CABOT)社製のVULCAN(バルカン、登録商標)シリーズのうち、XC72(ファーネス法、DBP吸収量:174cm3/100g)、9A32(ファーネス法、DBP吸収量:114cm3/100g)、同社製のBLACK PEARLS(ブラックパール)シリーズのうち3700(ファーネス法、DBP吸収量:111cm3/100g)。
【0093】
デンカ(株)製のデンカブラック(登録商標)シリーズのうち、デンカブラック粒状品(アセチレン法、DBP吸収量:160cm3/100g)、FX-35(アセチレン法、DBP吸収量:220cm3/100g)、HS-100(アセチレン法、DBP吸収量:140cm3/100g)。
【0094】
ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のKETJENBLACK(ケッチェンブラック、登録商標)シリーズのうち、EC300J(ガス化法、DBP吸収量:360cm3/100g)、EC600DJ(ガス化法、DBP吸収量:495cm3/100g)。
【0095】
第1熱転写層50における各成分の割合は、特に制限されない。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば30質量部以上であり、好ましくは40質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば150質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対するアクリル系粘着剤の割合は、例えば30質量部以上150質量部以下であり、好ましくは40質量部以上100質量部以下である。
【0096】
エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば3質量部以上であり、好ましくは5質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば150質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する粘着付与剤の割合は、例えば3質量部以上150質量部以下であり、好ましくは5質量部以上100質量部以下である。
【0097】
エポキシ樹脂100質量部に対するカーボンブラック等の着色剤の割合は、例えば100質量部以上であり、好ましくは130質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する着色剤の割合は、例えば230質量部以下であり、好ましくは200質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する着色剤の割合は、例えば100質量部以上230質量部以下であり、好ましくは130質量部以上200質量部以下である。
【0098】
なお、第1熱転写層50が含有する各成分のうち、任意の溶剤に溶解または分散した液状で供給される成分については、そのうち有効成分の割合が上記の範囲となるように、配合量を調整すればよい(以下、同様)。
【0099】
第1熱転写層50は、例えば、上記の各成分を任意の溶剤に溶解または分散した塗材を、基材層48の表面53上に直接に、または任意の離型層を介して塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。本開示では、
図5Aおよび
図5Bに示したように、プリンタテープ2に記録する文字の色分けをする。この色分けのために、第1熱転写層50と基材層48や他の各層との間の密着力の調整を考慮すると、第1熱転写層50は、離型層を省略して基材層48の表面53に直接に形成することが好ましい。
【0100】
(4)中間層51
中間層51は、前述のように熱可塑性エラストマーを含む。特に中間層51は、熱可塑性エラストマーのみによって形成することが好ましい。中間層51を形成する熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび酢酸エステル系熱可塑性エラストマーの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0101】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブテン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等が挙げられる。酢酸エステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。
【0102】
中間層51に含まれる熱可塑性エラストマーにおけるスチレンの含有率は、例えば10質量%以上70質量%以下であり、好ましくは15質量%以上50質量%以下である。スチレン含有率が高すぎると、中間層51のゴム状弾性が低下し、低温転写時に、第1熱転写層50および第2熱転写層52に対する密着力を維持できない場合や、文字の色味が混濁する場合がある。スチレン含有率が低すぎると、中間層51のゴム状弾性が大きくなり過ぎるため、高温転写時に第2熱転写層52を剥離できずに文字の色が混濁する場合がある。
【0103】
中間層51に含まれる熱可塑性エラストマーは、メルトマスフローレート(以下、単に「MFR」と略記する場合がある)は、例えば1000g/10min以下であり、好ましくは400g/10min以下である。MFRは、例えば、ISO 1133-1:2011において規定された測定方法によって求められる、温度190℃、荷重2.16kgでのMFRであってもよい。以下では、MFRの測定条件について特記しない限り、条件は温度190℃、荷重2.16kgである。
【0104】
MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーは、第2熱転写層52との親和性が強くなりすぎる傾向がある。そのため、高温転写時に第2熱転写層52を剥離できずに文字の色が混濁する場合がある。また、熱転写記録媒体47の全体、つまり基材層48、第1熱転写層50、中間層51、および第2熱転写層52がプリンタテープ2の印刷面31に貼り付く場合がある。MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーは、溶融粘度が低く流動性が高いため、低温転写時に、第1熱転写層50および第2熱転写層52に対する密着力を維持できない場合や、文字の色味が混濁する場合もある。
【0105】
これに対し、MFRが400g/10min以下であり熱可塑性エラストマーであれば、MFRが400g/10minを超える熱可塑性エラストマーの使用時に生じ得る問題を抑制することができる。そして、連続して熱転写記録をしても、プリンタテープ2の印刷面31に色味が混濁しにくく明りょうに2色に分離され、しかも余剥離を生じることなく鮮明性にすぐれた文字を記録することができる。これらの効果をより一層向上することを考慮すると、熱可塑性エラストマーのMFRは、上記の範囲でも2.5g/10min以下、とくに2.3g/10min以下であることが好ましい。
【0106】
MFRの下限については特に制限されず、前述した温度190℃、荷重2.16kgでの測定結果が「No Flow(流動せず)」である熱可塑性エラストマーまで使用することができる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、特に制限されないが、例えば、以下の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0107】
旭化成(株)製のタフテック(登録商標)シリーズのSEBSのうち、H1521〔MFR:2.3g/10min〕、H1051〔MFR:0.8g/10min未満〕、H1052〔MFR:13.0g/10min未満〕、H1272〔MFR:No Flow〕、P1083〔MFR:3.0g/10min〕、P1500〔MFR:4.0g/10min〕、P5051〔MFR:3.0g/10min〕、P2000〔MFR:3.0g/10min〕。
【0108】
旭化成(株)製のタフプレン(登録商標)シリーズのSBSのうち、A〔MFR:2.6g/10min〕、125〔MFR:4.5g/10min〕、126S〔MFR:4.5g/10min〕。
【0109】
旭化成(株)製のアサプレン(登録商標)TシリーズのSBSのうち、T-411〔MFR:No Flow〕、T-432〔MFR:No Flow〕、T-437〔MFR:No Flow〕、T-438〔MFR:No Flow〕、T-439〔MFR:No Flow〕。
【0110】
(株)クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズのSEPSのうち、2002〔MFR:70g/10min〕、2004F〔MFR:5g/10min〕、2005〔MFR:No Flow〕、2006〔MFR:No Flow〕、2063〔MFR:7g/10min〕、2104〔MFR:0.4g/10min〕。これらのSEPSのMFRの測定条件は、いずれも温度230℃ 荷重2.16kgである。
【0111】
(株)クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズのSEEPSのうち、4033〔MFR:<0.1g/10min〕、4044〔MFR:No Flow〕、4055〔MFR:No Flow〕、4077〔MFR:No Flow〕、4099〔MFR:No Flow〕。これらのSEEPSのMFRの測定条件は、いずれも温度230℃ 荷重2.16kgである。
【0112】
(株)クラレ製のハイブラー(登録商標)シリーズのビニルSISのうち、5125〔MFR:4g/10min〕、5127〔MFR:5/10min〕。
【0113】
東ソー(株)製のウルトラセン(登録商標)シリーズのEVAのうち、514R〔MFR:0.41g/10min〕、515〔MFR:2.5g/10min〕、510〔MFR:2.5g/10min〕、510F〔MFR:2.5g/10min〕、520F〔MFR:2.0g/10min〕、540〔MFR:3.0g/10min〕、540F〔MFR:3.0g/10min〕、537〔MFR:8.5g/10min〕、537L〔MFR:8.5g/10min〕、537S-2〔MFR:8.5g/10min〕、541〔MFR:9.0g/10min〕、541L〔MFR:9.0g/10min〕、530〔MFR:75g/10min〕、526〔MFR:25g/10min〕、630〔MFR:1.5g/10min〕、631〔MFR:1.5g/10min〕、636〔MFR:2.5g/10min〕、625〔MFR:14g/10min〕、626〔MFR:3.0g/10min〕、627〔MFR:0.8g/10min〕、633〔MFR:20g/10min〕、635〔MFR:2.4g/10min〕、640〔MFR:2.8g/10min〕、634〔MFR:4.3g/10min〕、680〔MFR:160g/10min〕、681〔MFR:350g/10min〕、751〔MFR:5.7g/10min〕、710〔MFR:18g/10min〕、720〔MFR:150g/10min〕、722〔MFR:400g/10min〕、750〔MFR:30g/10min〕、752〔MFR:60g/10min〕、760〔MFR:70g/10min〕。
【0114】
中間層51としては、熱可塑性エラストマーの他、ポリオレフィン系樹脂および長鎖アルキル系樹脂等であってもよい。
【0115】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、三菱ケミカル(株)製のサーフレン(登録商標)P-1000等が挙げられる。長鎖アルキル系樹脂としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のピーロイル(登録商標)シリーズのうち、1010、1010S、1050、1070、406等が挙げられる。
【0116】
中間層51は、例えば、中間層51用の形成材料を任意の溶剤に溶解または分散させた塗材を、第1熱転写層50上に塗布した後、乾燥させることによって形成することができる。
【0117】
(5)第2熱転写層52
第2熱転写層52は、例えば、任意の熱可塑性樹脂によって形成することができる。第2熱転写層52に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、プリンタテープ2の形成材料等に応じて適宜選択することができる。第1熱転写層50をエポキシ樹脂によって形成する場合には、第2熱転写層52も同様にエポキシ樹脂によって形成することが好ましい。
【0118】
第2熱転写層52をエポキシ樹脂によって形成することによって、基材層48および中間層51に対する第1熱転写層50の密着力と、プリンタテープ2に対する第2熱転写層52の密着力とを拮抗させることができる。これにより、高温転写時に、第1熱転写層50と中間層51とを基材層48側、第2熱転写層52をプリンタテープ2側に良好に分離することができる。高温転写範囲を低温側に拡げることができるので、色味が混濁することを抑制する効果をさらに向上することができる。エポキシ樹脂としては、例えば、第1熱転写層50のエポキシ樹脂として例示した各種エポキシ樹脂が挙げられる。それらのエポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0119】
第2熱転写層52は、熱可塑性樹脂に加えてワックスを含有していてもよい。ワックスの含有によって、高温転写時に、第1熱転写層50と中間層51とを基材層48側、第2熱転写層52をプリンタテープ2側に良好に分離することができる。そのため、高温転写範囲を低温側に拡げることができるので、色味が混濁することを抑制する効果をさらに向上することができる。
【0120】
ワックスとしては、エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂との親和性や相溶性を有する任意のワックスを用いることができる。例えば、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックスを使用することができる。ワックスの具体例としては、特に制限されないが、例えば、トーヨーケム(株)製のカルナバワックス1号フレーク、2号フレーク、3号フレーク、1号パウダー、2号パウダー(以上、いずれも融点:80~86℃)、日本精蝋(株)製のパラフィンワックスであるEMUSTAR-1155(融点:69℃)、EMUSTAR-0135(融点:60℃)、EMUSTAR-0136(融点:60℃)等、日本精蝋(株)製のマイクロクリスタリンワックスであるEMUSTAR-0001(融点:84℃)、EMUSTAR-042X(融点:84℃)等、日本精蝋(株)製のフィッシャートロプシュワックスであるFNP-0090(凝結点:90℃)、SX80(凝結点:83℃)、FT-0165(融点:73℃)、FT-0070(融点:72℃)等が挙げられる。これらのワックスは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0121】
第2熱転写層52は、任意の着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、第2熱転写層52の色味に応じた1種または2種以上の、種々の着色剤を用いることができる。着色剤としては、例えば、顔料であってもよい。文字の耐候性の向上等を考慮すると、第2熱転写層52に使用される着色剤としては顔料が好ましい。例えば、第2熱転写層52を赤色に着色するための顔料としては、以下の各種赤色顔料が挙げられる。これらの赤色顔料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0122】
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、53:1、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255。
【0123】
第2熱転写層52における各成分の割合は、特に制限されない。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば3質量部以上であり、好ましくは5質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば11質量部以下であり、好ましくは9質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対するワックスの割合は、例えば3質量部以上11質量部以下であり、好ましくは5質量部以上9質量部以下である。
【0124】
エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば70質量部以上であり、好ましくは80質量部以上である。エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば140質量部以下、好ましくは120質量部以下である。エポキシ樹脂100質量部に対する赤色顔料等の着色剤の割合は、例えば70質量部以上140質量部以下であり、好ましくは80質量部以上120質量部以下である。
【0125】
第2熱転写層52は、例えば、上記の各成分を任意の溶剤に溶解または分散した塗材を、中間層51上に塗布した後、乾燥させて形成することができる。
【0126】
[熱転写記録媒体47の各層の厚さ]
本開示の一実施形態に係る熱転写記録媒体47の特徴の1つは、高温加熱時の熱転写によって基材層48から離れる転写物の総厚さが、基材層48から離れずに残るいずれの層(基材層48を除く)よりも厚いことである。以下では、
図1~
図4A,Bで示した加熱工程および冷却工程の詳細な説明を加え、熱転写記録媒体47の厚さの特徴について言及する。
【0127】
図14は、
図1~
図4A,Bで示した加熱工程および冷却工程における、経過時間と熱転写記録媒体47の到達温度との関係を示す図である。
【0128】
図14の横軸は、印刷装置1の印刷工程の経過時間を示している。t
0が印刷開始時を示しており、t
1がサーマルヘッド6による加熱終了時を示し、t
2がインクリボン剥離部材13への到達時を示している。
図14の縦軸は、熱転写記録媒体47の到達温度を示している。熱転写記録媒体47の到達温度は、外的要因によって変化する熱転写記録媒体47の温度であると定義することができる。当該外的要因は、例えば、サーマルヘッド6による加熱、熱転写記録媒体47の搬送中の自然冷却等を含んでいてもよい。
【0129】
図14を参照して、印刷装置1では、制御回路22でサーマルヘッド6の温度出力(温度エネルギー)を制御することによって、熱転写記録媒体47の到達温度を制御することができる。例えば、加熱工程において相対的に低い第1エネルギー量をサーマルヘッド6に印加する。この場合の熱転写記録媒体47の温度は、一点鎖線の第1温度曲線55で示す通り、熱転写記録媒体47の周囲の環境温度(例えば、室温)T
Eから指数関数的に増加してT
R1に到達する。
【0130】
到達温度TR1は、第1温度T1以上かつ第2温度T2以下の温度と定義してもよい。例えば、第1温度T1は、60℃以上120℃以下であり、好ましくは70℃以上90℃以下である。例えば、第2温度T2は、80℃以上180℃以下であり、好ましくは130℃以上150℃以下である。到達温度TR1は、使用する印刷装置1のサーマルヘッド6の出力設定方法に応じて適宜設定することができる。例えば、サーマルヘッド6の発熱体20に供給する電圧や電流、通電時間等の定量的パラメータに関連付けて到達温度が設定されてもよい。また、所定の基準値(例えば、通電前の数値を0(ゼロ)等)に対する相対的数値に関連付けて到達温度が設定されてもよい。
【0131】
一方、加熱工程において前記第1エネルギー量よりも相対的に高い第2エネルギー量をサーマルヘッド6に印加する。この場合の熱転写記録媒体47の温度は、実線の第2温度曲線56で示す通り、環境温度TEから指数関数的に増加してTR2に到達する。到達温度TR2は、第2温度T2を超える温度と定義してもよい。
【0132】
加熱工程後、熱転写記録媒体47は、インクリボン剥離部材13の到達までの区間で自然冷却される(
図3および
図4A,Bも参照)。冷却工程では、熱転写記録媒体47の温度は、到達温度T
R1およびT
R2から指数関数的に減少してT
Pに到達する。この時の到達温度T
Pは、インクリボン剥離部材13によって熱転写記録媒体47の一部が剥離される温度であるため、剥離温度T
Pと定義してもよい。剥離温度T
Pは、第3温度T
3以下であることが好ましい。第3温度T
3は、第1温度T
1よりも低く(つまり、第1温度T
1は第3温度T
3以上)、例えば40℃以上90℃以下であり、好ましくは60℃以上80℃以下である。第1温度T
1、第2温度T
2および第3温度T
3の大きさは、熱転写記録媒体47のインクの化学組成および物性を考慮して、プリンタテープ2に転写させるために必要な温度範囲で適宜設定することができる。
【0133】
冷却工程における熱転写記録媒体47の温度曲線(冷却曲線)は、加熱工程で第1温度曲線55および第2温度曲線56が示すいずれの加熱制御を経由しても、最終的には一定の温度に収束する。したがって、冷却工程の時間(t
1→t
2)を長く確保することによって、第1温度曲線55および第2温度曲線56の剥離温度T
Pをほぼ同じにすることができる。冷却工程の時間を長くするには、例えば、サーマルヘッド6とインクリボン剥離部材13との距離(
図1の剥離距離L
1)を長くすればよい。例えば、
図14に第1温度曲線55で示す温度変化によって加熱工程および冷却工程が実行された後の熱転写記録媒体47の状態を第1状態C
1と定義してもよい。これに対し、
図14に第2温度曲線56で示す温度変化によって加熱工程および冷却工程が実行された後の熱転写記録媒体47の状態を第2状態C
2と定義してもよい。
【0134】
このように、印刷装置1では、サーマルヘッド6の温度出力(温度エネルギー)の制御によって、加熱工程の開始から冷却工程に終了までのプロセスにおいて、開始温度(環境温度T
E)および最終温度(剥離温度T
P)を一定にしつつ、熱転写記録媒体47の到達温度を様々に変化させることができる。この温度制御を考慮して、例えば、
図13の熱転写記録媒体47の基材層48、裏面層49、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の各物性に応じてサーマルヘッド6の温度出力を制御することによって、熱転写記録媒体47の各層の間の接着力を制御することが期待される。
【0135】
そして、熱転写記録媒体47は、第2状態C2のときに破断して基材層48側から離れる全ての層の厚さの総和(転写物の厚さの総和)が、基材層48から離れずに残る部分のうち基材層48を除く熱転写前(t0)のいずれの層よりも厚い条件を有している。この実施形態では、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の各層の厚さを調整することによって、上記の条件を満たすことができる。なお、第1熱転写層50、中間層51および第2熱転写層52の厚さは、例えば、熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0136】
第1熱転写層50の厚さは、例えば、第1熱転写層50の塗布量で調節することができる。例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m2以上であり、好ましくは0.5g/m2以上である。例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して3.0g/m2以下であり、好ましくは2.5g/m2以下である。例えば、第1熱転写層50の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m2以上3.0g/m2以下であり、好ましくは0.5g/m2以上2.5g/m2以下である。第1熱転写層50の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上3.0μm以下、好ましくは0.5μm以上2.5μm以下であってもよい。
【0137】
中間層51の厚さは、例えば、中間層51の塗布量で調節することができる。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m2以上であり、好ましくは0.2g/m2以上である。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して2.0g/m2以下であり、好ましくは1.5g/m2以下である。例えば、中間層51の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.1g/m2以上2.0g/m2以下であり、好ましくは0.2g/m2以上1.5g/m2以下である。中間層51の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上2.0μm以下、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下であってもよい。中間層51は、第1熱転写層50および第2熱転写層52よりも薄いことが好ましい。顔料等の着色剤を含有していない中間層51が厚すぎると膜切れ性が悪くなり、記録パターンの鮮明性が低下するおそれがあるためである。
【0138】
第2熱転写層52の厚さは、例えば、第2熱転写層52の塗布量で調節することができる。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.2g/m2以上であり、好ましくは1.0g/m2以上である。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して7.0g/m2以下であり、好ましくは5.0g/m2以下である。例えば、第2熱転写層52の塗布量は、単位面積あたりの固形分量で表して0.2g/m2以上7.0g/m2以下であり、好ましくは1.0g/m2以上5.0g/m2以下である。第2熱転写層52の具体的な厚さ(印刷前)としては、例えば0.05μm以上7.0μm以下、好ましくは1.0μm以上5.0μm以下であってもよい。
【0139】
なお、転写物の総厚さは、12μm以下であることが好ましい。転写物の総厚さが10μmを超えると、サーマルヘッド6の加熱温度を高く設定する必要があり、サーマルヘッド6の寿命を損なう可能性があるためである。また、第1熱転写層50(この実施形態では、黒)の厚さと、第2熱転写層52(この実施形態では、赤)の厚さとが極端に異なる場合(例えば、4倍以上の厚さの差)、黒の印刷であっても赤の影響が強く残り、黒色が劣る可能性がある。したがって、適切な塗布量の範囲内で、第1熱転写層50および第2熱転写層52の各厚さ、および着色剤の選定等によって調整する必要がある。
【0140】
[熱転写記録媒体47の剥離モード]
図15~
図19は、熱転写記録媒体47の剥離の状態を示す図である。
図15~
図19を参照して、熱転写記録媒体47には複数の剥離モードが挙げられる。
図15~
図19の剥離モードを順に、第1~第5剥離モードと称してもよい。サーマルヘッド6に供給されるエネルギーの観点から、
図15に示す低エネルギー剥離モードと、
図16~
図19に示す高エネルギー剥離モードとに区別することができる。
【0141】
図15は、
図14の第1温度曲線55の加熱制御(低エネルギー印加)を経由して、第1状態C
1で剥離(熱転写)が実行されたときの剥離モードである。
図15の第1剥離モードでは、第1状態C
1で基材層48と第1熱転写層50との間の破断強度が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する。
図15の第1剥離モードは界面破壊である。
図15の剥離モードであれば、接着した状態の第1熱転写層50および第2熱転写層52がプリンタテープ2に転写される。
【0142】
図16~
図19は、
図14の第2温度曲線56の加熱制御(高エネルギー印加)を経由して、第2状態C
2で剥離(熱転写)が実行されたときの剥離モードである。
図16~
図19の剥離モードは、少なくとも界面破壊および凝集破壊の2つに区別することができる。
【0143】
図16の第2剥離モードでは、第2状態C
2で第1熱転写層50と第2熱転写層52との間の破断強度が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する(界面破壊)。
図17の第3剥離モードでは、第2状態C
2で第2熱転写層52内の破断強度が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、第2熱転写層52の内部で剥離が発生する(凝集破壊)。
【0144】
図18の第4剥離モードでは、第2状態C
2で中間層51内の破断強度が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、中間層51の内部で剥離が発生する(凝集破壊)。
図19の第5剥離モードでは、第2状態C
2で、第2熱転写層52に接している層が第1熱転写層50および中間層51の成分が溶融によって混合された混合層61である。そして、混合層61と第2熱転写層52との間の破断強度が熱転写記録媒体47の中で最も小さくなり、これらの界面で剥離が発生する(界面破壊)。
【0145】
図16~
図19いずれの剥離モードであっても、第1熱転写層50が残存しないように第2熱転写層52が選択的にプリンタテープ2に転写される。
【0146】
熱転写記録媒体47が
図15~
図19のいずれの剥離モードで破断しているかどうかは、例えば、破断後の熱転写記録媒体47の断面観察によって確認することができる。例えば、破断後の熱転写記録媒体47のSEM(Scanning Electron Microscope)画像、TEM(Transmission Electron Microscope)画像等に基づいて確認することができる。
【0147】
以上のように、第1剥離モードでは、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字が第1熱転写層50の色味、例えば黒色となる。第2~5剥離モードでは、プリンタテープ2の印刷面31に記録される文字が第2熱転写層52の色味、例えば赤色となる。
【実施例0148】
以下に本開示を、実験例に基づいてさらに説明するが、本開示の構成は、これらの例に限定されるものではない。
【0149】
[第1熱転写層用塗材]
下記表1に示す各成分を、トルエンとメチルエチルケトン(MEK)の質量比1/4の混合溶剤に溶解して、固形分濃度22.5質量%の第1熱転写層用塗材を調製した。アクリル系粘着剤中の有効成分の割合は、エポキシ樹脂100質量部あたり80質量部であった。
【0150】
【0151】
表中の各成分は下記のとおりである。
【0152】
エポキシ樹脂:三菱ケミカル(株)製のJER1007〔基本固形タイプ、軟化点(環球法):128℃、数平均分子量Mn:約2900〕
アクリル系粘着剤:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のAS-665〔固形分濃度:40質量%〕
粘着付与剤:テルペンフェノール樹脂、ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターT80(軟化点:80±5℃)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のMA100粉状〔LFF、DBP吸収量:100cm3/100g〕
[中間層用塗材(1)]
熱可塑性エラストマー〔旭化成(株)製のタフテックH1521、SEBS、MFR:12.3g/10min、スチレン含有率18質量%〕を、トルエンとヘキサンの質量比1/1の混合溶剤に溶解して、固形分濃度10質量%の中間層用塗材(1)を調製した。
【0153】
[中間層用塗材(2)]
熱可塑性エラストマーに代えて、変性ポリオレフィン樹脂〔三菱ケミカル(株)製のサーフレン(登録商標)P-1000〕を同量配合したこと以外は中間層用塗材(1)と同様にして、中間層用塗材(2)を調製した。固形分濃度は10質量%であった。
【0154】
[第2熱転写層用塗材]
下記表2に示す各成分を、トルエンとMEKの質量比1/4の混合溶剤に溶解して、固形分濃度28質量%の第2熱転写層用塗材を調製した。
【0155】
【0156】
表中の各成分は下記のとおりである。
【0157】
エポキシ樹脂:三菱ケミカル(株)製のJER1004〔基本固形タイプ、軟化点(環球法):97℃、数平均分子量Mn:約1650〕
ワックス:トーヨーケム(株)製のカルナバワックス2号パウダー(融点:80~86℃)
赤色顔料:C.I.ピグメントレッド53:1〔DIC(株)製のSYMULER(登録商標)レーキレッドC-102〕
[実験例1~7]
(1)熱転写記録媒体の製造
まず、基材層として、厚さ4.5μmのPETフィルムを準備した。次に、当該基材層の、熱転写層を形成する表面とは反対面(裏面)に、シリコーン系樹脂からなる、単位面積あたりの固形分量が0.1g/m2の裏面層を形成した。次に、先に調製した第1熱転写層塗材を、下記表3に示す厚さを有するように単位面積あたりの固形分量を調整し、基材層の表面に塗布したのち乾燥させて、第1熱転写層を形成した。次に、先に調製した中間層用塗材のいずれかを、下記表3に示す厚さを有するように単位面積あたりの固形分量を調整し、第1熱転写層の上に塗布したのち乾燥させて、中間層を形成した。次に、先に調製した第2熱転写層用塗材を、下記表3に示す厚さを有するように単位面積あたりの固形分量を調整し、中間層の上に塗布したのち乾燥させて、第2熱転写層を形成して、熱転写記録媒体を製造した。実験例1~7で得られた熱転写記録媒体の各層の組成は、下記表3に示すとおりである。
(2)評価
(2-1)フリンジ印刷性評価
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。当該熱転写プリンタの主な仕様は次のとおりである。
<解像度> 300dpiラインサーマルヘッド
<発熱体の抵抗値>1830Ω
<転写荷重> 30N/2inch
<搬送速度> 20mm/sec
<剥離距離> 110mm
次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、赤)にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50〕の表面に、所定の印刷パターンを記録した。印刷パターンは、5dot×5dotの多数の正方形を、間隔を空けて水玉状に配列したパターンであった。そして、印刷したパターンの水玉1つを顕微鏡で拡大して観察した。当該水玉において赤で印刷された像と、黒で印刷された像(周縁)の面積率(黒/赤+黒)を求め、下記の基準に基づいてフリンジの印刷性を評価した。
〇:面積率が10%未満であった。
△:面積率が10%以上20%未満であった。
×:面積率が20%以上であった。
(2-2)記録の鮮明性評価
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、(2-1)と同じ仕様の熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を低エネルギー(0.25mJ/dot:25V(0.34W/dot)/750μsec、黒)または高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、赤)に別々にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50〕の表面に、バーコードを記録した。そして記録したバーコードを、バーコード検証機〔ムナゾヲ(株)製のレーザーエグザマイナーElite IS〕を用いて読み取った結果から、米国国家規格協会規格 ANSI X3.182-1990)に規定されたデコーダビリティ等級を求めて、下記の基準で、記録の鮮明性を評価した。
〇:黒、赤ともにデコーダビリティ等級はA[秀]またはB[優]であった。
△:黒または赤のいずれか一方は、デコーダビリティ等級がC[良]で、かつ他方はC[良]以上であった。
×:黒または赤の少なくとも一方は、デコーダビリティ等級がD[可]またはF[不可]であった。
【0158】
結果を表3~4に示す。なお、実験例1~7のうち、実験例1~5が実施例であり、実験例6~7が比較例であってもよい。
(2-3)破断位置の観察
各実験例で製造した熱転写記録媒体を所定の幅のリボン状にスリットし、ロール状に巻き取って、(2-1)と同じ仕様の熱転写プリンタ〔ブラザー工業(株)製の試作プリンタ〕にセットした。次に、外気温25℃の環境下、熱転写プリンタにあらかじめ設定された、サーマルヘッドに印加するエネルギー値を低エネルギー(0.25mJ/dot:25V(0.34W/dot)/750μsec、黒)または高エネルギー(0.34mJ/dot:25V(0.34W/dot)/1000μsec、赤)に別々にセットして、可変情報印字用ラベル素材〔ポリエステルフィルム(白色・ツヤ)、リンテック(株)製のFR1415-50〕の表面に、70mm四方のベタ画像を記録した。いずれの場合も、熱転写プリンタの剥離距離が110mm確保されているので、十分に冷却(60℃以下)されてから剥離処理がされている。得られたベタ画像の断面を透過型電子顕微鏡(TEM:(株)日立ハイテク製 HT7820 加速電圧100kV)を用いて観察した。黒色転写および赤色転写のそれぞれにおいて、熱転写記録媒体のどの位置で破断が発生しているかを確認した。破断位置を次の通り、剥離モードで区分した。
【0159】
第1剥離モード:基材層と第1熱転写層との間(界面破壊
図15参照)
第2剥離モード:中間層と第2熱転写層との間(界面破壊
図16参照)
第3剥離モード:第2熱転写層の内部(凝集破壊
図17参照)
第4剥離モード:中間層の内部(凝集破壊
図18参照)
第5剥離モード:混合層と第2熱転写層との間(界面破壊
図19参照)
結果を表3~4に示す。表3~4では、第1~第5剥離モードをそれぞれ、円で囲まれた数字のみで示している。また、表3~4において、複数の剥離モードが示されている場合は、熱転写記録媒体の面内方向において互いに異なる剥離モードが発生していることを示している。また、実験例2は中間層を備えない層構成であるため、実験例2の剥離モードは、厳密には、
図15、
図17および
図19から中間層51を省略した状態の剥離モードが生じていた。
【0160】
【0161】
【0162】
実験例1と実験例6~7との比較から、第2熱転写層を第1熱転写層よりも厚くすることによって、フリンジ印刷性を向上できることが分かった。実験例6~7では、第2熱転写層の厚さが第1熱転写層の厚さ以下であり、その結果、フリンジが発生しやすくなっていたと考えられる。ただし、実験例7と実験例5とを比較すると、転写前の層厚さのバランスが類似している。しかしながら、実験例5では中間層が凝集破壊しているため、転写物の総厚さが大きくなっており、フリンジ印刷性が向上できていた。一方で、実験例5の鮮明性は、中間層が凝集破壊しているため、実験例7よりも劣っていた。
【0163】
実験例2に関して、中間層を備えていない場合、第1熱転写層と第2熱転写層とが接触して隣り合うため、実験例1に比べてフリンジが発生しやすくなっていた。また、第1熱転写層と第2熱転写層とが離れにくく、鮮明性が劣る結果となった。
【0164】
実験例3に関して、中間層が比較的厚く形成されている場合、フリンジ印刷性は良好であった。一方、中間層はキレ性が良くなく、余剥離等によって鮮明性が劣る結果となった。
【0165】
実験例4に関して、中間層がポリオレフィン等の凝集破壊する材料であれば、高温印刷での剥離位置は中間層の内部であり、転写物は第2熱転写層および中間層の一部となる。中間層が凝集破壊を起こすため鮮明性は、中間層に熱可塑性エラストマー(SEBS)を使用する場合に比べて劣る結果となった。