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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163997
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】集中力を向上させるための呼吸法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20231102BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 25/26 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231102BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K31/05
A61Q13/00 101
A61K8/35
A61K8/34
A61K31/11
A61P25/26
A61K9/72
A61P43/00 111
C11B9/00 K
C11B9/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075273
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐子
(72)【発明者】
【氏名】平尾 直靖
(72)【発明者】
【氏名】宗像 大朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C206
4H059
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB25
4C076CC29
4C076FF68
4C083AC471
4C083AC472
4C083DD25
4C083EE06
4C083KK02
4C206AA02
4C206CA17
4C206CB09
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA32
4C206MA79
4C206NA14
4C206ZA11
4C206ZC41
4H059BA14
4H059BA20
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
【課題】少なくとも、呼吸への意識に対する集中力を向上させることができる呼吸法を提供する。
【解決手段】本開示の集中力を向上させるための呼吸法は、温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む、集中力を向上させるための呼吸法。
【請求項2】
前記呼吸することが、1分以上実施される、請求項1に記載の呼吸法。
【請求項3】
1分以上実施される前記呼吸することを1セットとしたときに、前記セットが、1回以上実施される、請求項2に記載の呼吸法。
【請求項4】
前記セットが、2回以上実施され、前記セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施する、請求項3に記載の呼吸法。
【請求項5】
前記温感刺激性化合物が、TRPV3チャネルを刺激する化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法。
【請求項6】
前記温感刺激性化合物が、バニリン、エチルバニリン、カルバクロール、及びチモールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法。
【請求項7】
温感刺激性化合物を含む、集中力を向上させるための呼吸法用香料組成物。
【請求項8】
前記温感刺激性化合物が、TRPV3チャネルを刺激する化合物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記温感刺激性化合物が、バニリン、エチルバニリン、カルバクロール、及びチモールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の香料組成物を含む、集中力を向上させるための呼吸法用化粧料。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、請求項7~9のいずれか一項に記載の香料組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、請求項10に記載の化粧料。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか一項に記載の呼吸法を表示した、シート又はディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、集中力を向上させるための呼吸法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヨガなどを実施したり、或いは、香りを嗅がせたりすることによってストレスなどを改善する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、特定のヨガ用補助具を用いてヨガ呼吸法などを実践する、ヨガ実践方法が記載され、また、ヨガはストレス解消等を目的に行われていることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、スイートオレンジオイルの香りを嗅がせることを含む、ストレス応答力を改善する美容方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、バレリアン油を有効量吸引させる、ストレス緩和方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、コーヒー又は茶類の香気成分を哺乳動物に投与する、ストレスの予防又は軽減方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、バニリンはリラックス効果をもたらす成分であることが記載されている([0009])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-103538号公報
【特許文献2】特開2008-247894号公報
【特許文献3】国際公開第01/98442号
【特許文献4】国際公開第2005/011718号
【特許文献5】特開2018-198834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1にも記載されるように、例えば、精神的な緊張に伴うストレスを解消する目的に、ヨガ呼吸法などが活用されている。しかし、かかる呼吸法は、典型的には、熟練度を要するため、呼吸法を実施している間、呼吸に意識を集中させることが難しかった。
【0010】
したがって、本開示の主題は、少なくとも、呼吸への意識に対する集中力を向上させることができる呼吸法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〈態様1〉
温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む、集中力を向上させるための呼吸法。
〈態様2〉
前記呼吸することが、1分以上実施される、態様1に記載の呼吸法。
〈態様3〉
1分以上実施される前記呼吸することを1セットとしたときに、前記セットが、1回以上実施される、態様2に記載の呼吸法。
〈態様4〉
前記セットが、2回以上実施され、前記セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施する、態様3に記載の呼吸法。
〈態様5〉
前記温感刺激性化合物が、TRPV3チャネルを刺激する化合物である、態様1~4のいずれかに記載の呼吸法。
〈態様6〉
前記温感刺激性化合物が、バニリン、エチルバニリン、カルバクロール、及びチモールからなる群から選択される少なくとも一種である、態様1~4のいずれかに記載の呼吸法。
〈態様7〉
温感刺激性化合物を含む、集中力を向上させるための呼吸法用香料組成物。
〈態様8〉
前記温感刺激性化合物が、TRPV3チャネルを刺激する化合物である、態様7に記載の組成物。
〈態様9〉
前記温感刺激性化合物が、バニリン、エチルバニリン、カルバクロール、及びチモールからなる群から選択される少なくとも一種である、態様7に記載の組成物。
〈態様10〉
態様7~9のいずれかに記載の香料組成物を含む、集中力を向上させるための呼吸法用化粧料。
〈態様11〉
態様1~6のいずれかに記載の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容されている、態様7~9のいずれかに記載の香料組成物、又は態様10に記載の化粧料。
〈態様12〉
態様1~6のいずれかに記載の呼吸法を表示した、シート又はディスプレイ。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、少なくとも、呼吸への意識に対する集中力を向上させることができる呼吸法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、無香雰囲気下又は温感刺激性の香りの雰囲気下において、ストループ課題及び所定の呼吸を実施したときの30秒毎に測定した皮膚コンダクタンスに関するグラフである。
図2図2は、無香雰囲気下又は温感刺激性の香りの雰囲気下における、本開示の一実施形態の呼吸法の集中力向上呼吸後のアンケート結果に関するグラフである。
図3図3は、温感刺激性の香りの雰囲気下における通常呼吸後のアンケート結果に関するグラフである。
図4図4は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したシートの一実施形態に関する図面である。
図5図5は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したシートの別の実施形態に関する図面である。
図6図6は、本開示の一実施形態の呼吸法のやり方を表示したディスプレイに関する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
本開示の呼吸法は、温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下において、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含み、少なくとも、呼吸への意識に対する集中力を向上させることができる。
【0016】
原理によって限定されるものではないが、本開示の呼吸法が、少なくとも、呼吸への意識に対する集中力を向上させることができる作用原理は以下のとおりであると考える。
【0017】
本開示における0.15Hz以下の間隔の呼吸(「集中力向上呼吸」と称する場合がある。)は、60秒に9回程度の、通常呼吸よりもゆっくりとした呼吸である。このようなゆっくりとした呼吸は、簡易に実施することができる一方で、例えば、ヨガ呼吸法における呼吸と類似した性能を有しているため、通常呼吸に比べれば、単独でもある程度のストレス解消効果などを得ることができる。
【0018】
本発明者は、温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香り(「温感刺激性の香り」と称する場合がある。)の雰囲気下において、このようなゆっくりとした呼吸を実施すると、呼吸法中に呼吸への意識に対する集中力を向上させ得ることを見出した。
【0019】
温感刺激性の香りの雰囲気下において本開示の集中力向上呼吸を実施すると、呼吸法中に呼吸への意識を容易に集中させ得る理由は定かではないが、その理由は以下のように考えている。
【0020】
例えば、マインドフルネスという心理学的技法は、ストレスの軽減などに活用されている。かかる技法の一つに、レーズンを使用する方法がある。この方法は、床又は椅子に座り、リラックスした状態でレーズンを手に取り、じっくりとレーズンの色、陰影、表面の質感などを観察し、他のことは考えずに目の前のレーズンだけに意識を集中させるというものである。この方法では、視覚的に明確なレーズンに意識を集中させ、視覚を通じて脳に刺激を与えることができる結果、ストレスの軽減などに効果を発揮していると考えられる。
【0021】
一方、香りは嗅覚に作用する知覚の一種であるが、香りをレーズンのように視覚的に明確に作用させることはできない。しかし、本開示の呼吸法で使用する香りは、温感刺激性の香りである。このような温感刺激性の香りは、温かいものを触ったような刺激も鼻腔又は喉などを通じて同時に得られるため、嗅覚以外に触覚にも作用すると考えている。その結果、視覚のみに作用させるレーズン法とは異なり、温感刺激性の香りは、2つの知覚(嗅覚及び触覚)の影響によって呼吸中の覚醒度が高まりやすいため、呼吸法中に呼吸への意識を容易に集中させることができると考えている。
【0022】
さらに、本発明者は、本開示の呼吸法によれば、呼吸法を実施した後における集中力等も向上させ得ることも見出した。
【0023】
例えば、特許文献2~4に記載されるように、香料から発せられる特定の香りを嗅ぐだけでも、ストレスをある程度解消できる場合もあることから、香料によっては、その香りを嗅いだ後、集中力をある程度高められる場合もあり得るのかもしれない。しかしながら、香りが強すぎると逆に不快に感じることもあるため、香りを発する強度にはある程度限界がある。したがって、香りを単に嗅ぐだけでは、従来のヨガ呼吸法等の呼吸法を実践する場合に比べても、その後の集中力等を向上させる効果は乏しいことが予想される。
【0024】
一方、本開示の呼吸法によれば、呼吸法中、呼吸への意識を容易に集中させることができる結果、かかる呼吸法を実施した後において、香りを単に嗅ぐだけの場合、或いは、従来のヨガ呼吸法などに比べ、より効率的かつ効果的に集中力等を向上させ得ると考えている。
【0025】
本開示における用語の定義は以下のとおりである。
【0026】
本開示において「温感刺激性」とは、例えば、香りを含む30℃程度の雰囲気下において、香りを含む空気自体の温度は雰囲気温度と同程度であるものの、その香りを鼻又は口を通じて嗅いだとき又は吐いたときの息(空気)は、温かく感じる性能を意味する。
【0027】
本開示において「集中力を向上させる」とは、少なくとも、本開示の呼吸法において、呼吸(集中力向上呼吸)への意識に対する集中力が向上したと感じる、又は呼吸への意識に対する集中力が向上したとみなせることを意味し、また、この他に、本開示の呼吸法を実施した後において、集中力が向上したと感じることも包含し得る。ここで、「呼吸への意識に対する集中力が向上したとみなせる」とは、呼吸(集中力向上呼吸)への意識に対する集中力が向上したと実感していなかったとしても、後述する皮膚コンダクタンス試験において、無香の場合に比べ、皮膚コンダクタンス値が上昇していることを意味する。なお、本開示において「集中力を向上させるための呼吸法」とは、人間を手術、治療又は診断する方法とは相違する。
【0028】
《集中力を向上させるための呼吸法》
本開示の呼吸法は、温感刺激性化合物を含む香料組成物から発生した香りの雰囲気下で実施される。
【0029】
〈香料組成物〉
本開示の呼吸法で使用する香料組成物は、温感刺激性化合物を含んでいるため、温感刺激性の香りを発することができる。かかる香料組成物を用いて本開示の集中力向上呼吸を実施すると、集中力を向上させることができるため、かかる組成物は、集中力を向上させるための呼吸法用香料組成物と称することもできる。また、香料組成物は、例えば、温感刺激性化合物とともに油分などを適宜混合して調製してもよく、或いは、温感刺激性化合物を含む精油などの市販品を使用してもよい。
【0030】
(温感刺激性化合物)
本開示の香料組成物中の温感刺激性化合物としては特に制限はなく、例えば、温度感受性(Transient Receptor Potential: TRP)チャネルのうちのTRPV1チャネル又はTRPV3チャネルを刺激する化合物を挙げることができる。TRPV1チャネルを刺激する化合物は刺激が強いため、安全性等の観点から、TRPV3チャネルを刺激する化合物の方が好ましい。TRPV1チャネルを刺激する化合物を使用する場合には、少量で使用するか、或いは、TRPV3チャネルを刺激する化合物又は他の香料などと併用して使用することが好ましい。温感刺激性化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
TRPV1チャネルを刺激する化合物としては特に制限はなく、例えば、カプサイシン、ギンゲロール、ジンゲロン、ピペリン、及びアリシンからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0032】
TRPV3チャネルを刺激する化合物としては特に制限はなく、例えば、バニリン、エチルバニリン、カルバクロール、及びチモールからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0033】
温感刺激性の香りは、その香り自体に集中力を向上させる効果がなかったとしても、本開示の呼吸法におけるゆっくりとした呼吸と組み合わせることによって、意外にも、無香雰囲気の場合に比べて集中力を向上させることができる。なかでも、TRPV3チャネルを刺激する化合物が好ましく、バニリンがより好ましい。バニリンは、バニラの精油中に多く含まれる成分であり、特許文献5にも記載されるように、その香り自体はリラックス効果をもたらす香りとして知られているが、集中力を向上させる香りとしては知られていない。しかしながら、かかる香りを本開示の呼吸法における集中力向上呼吸と組み合わせると、無香雰囲気の場合に比べ、呼吸への意識に対する集中力を向上させ得るとともに、呼吸法を実施した後においても、集中力を向上させ得ることができる。
【0034】
香料組成物は、香りを発生させるために、そのまま使用してもよく、或いは薄めて使用してもよい。したがって、香料組成物における温感刺激性化合物の配合量は、香料組成物の使用形態に応じて適宜調整すればよく、特に制限はない。かかる配合量は、例えば、組成物の全量に対し、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1.0質量%以上、5.0質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上とすることができ、また、100質量%未満、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、又は3.0質量%以下とすることができる。例えば、TRPV1チャネルを刺激する化合物の場合は、かかる化合物を組成物中に少量配合することが好ましいが、TRPV3チャネルを刺激する化合物の場合は、かかる化合物を組成物中に高濃度で配合してもよい。
【0035】
(任意成分)
香料組成物は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、上記温感刺激性化合物以外の各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、例えば、界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤)、増粘剤、保湿剤、分散剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール(例えばエタノール)、多価アルコール(例えばエチレングリコール)、高級アルコール、各種抽出液、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、キレート剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、水溶性薬剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、安定化剤、噴射剤、充填剤、清涼剤、顔料、染料、色素、香料、水、油分等を挙げることができる。任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
香料組成物は、上記温感刺激性化合物以外の香料(例えば非刺激性香料)を含んでも構わない。しかし、温感刺激性の香りは、その香りによる副次的な効果、例えば、リラックス効果、気分をすっきりさせる効果、気分を落ち着かせる効果なども同時に発現させ得る場合がある。例えば、バニリンは、上述したように、副次的な効果として、リラックス効果を発現させることができる。温感刺激性の香りが、他の香りによって臭いが複合化されると、このような副次的な効果を奏し得なくなるおそれがある。したがって、温感刺激性化合物による副次的な効果も同時に得たい場合には、香料組成物中における上記温感刺激性化合物以外の香料の配合量は、香料組成物の全量に対し、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下であることが好ましく、かかる香料は配合しないことがより好ましい。
【0037】
(使用形態)
香料組成物から発生した香りの雰囲気を得るための香料組成物の使用形態としては特に制限はない。例えば、香料組成物を、そのまま又は薄めて、蓋を開けた状態の瓶などの容器、又は芳香拡散器に入れて使用してもよく、あるいは、香料組成物を浴槽又は洗面器に入れて使用してもよい。
【0038】
香料組成物を、そのまま又は薄めて、スプレー容器に入れて使用してもよい。スプレー容器中の香料組成物は、部屋の空間に適宜散布してもよく、或いは、部屋の壁、床、若しくはカーテン、又は着用している衣類などに散布してもよい。
【0039】
香料組成物を、そのまま又は薄めて、吸収性物品(例えば、コットン、紙、不織布)に吸収させて使用してもよい。
【0040】
あるいは、香料組成物を、化粧料の形態とし、肌等に適用して使用してもよい。化粧料の形態としては特に制限はなく、例えば、乳液状、クリーム状、液状といった形態を採用することができる。
【0041】
化粧料の製品形態としても特に制限はなく、例えば、美容液、化粧水、保湿ジェル、マッサージジェル、乳液、及びクリーム等のスキンケア化粧料;パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、アイシャドー等のメーキャップ化粧料;日焼け止め化粧料(サンスクリーン剤);ボディー化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料等の毛髪化粧料;シェービングクリーム、プレシェービングローション、アフターシェービングローション等の髭剃り化粧料;軟膏などを挙げることができる。
【0042】
化粧料は、体のあらゆる部分に適用することができ、例えば、皮膚の表面(体表)上のいかなる箇所に適用することができる。具体的には、例えば、顔(唇、目元、瞼、頬、額、眉間、鼻など)、頭(頭皮)、耳、手、腕、首、脚、足、胸、腹、背中等の皮膚表面に対して適宜適用することができる。ここで、皮膚には、皮膚の表皮の角質が変化して硬化した爪なども含まれる。
【0043】
温感刺激性化合物が、食用として使用可能な化合物の場合には、香料組成物を、食用の形態(例えば、ガム、飴、飲料)で使用してもよい。
【0044】
また、香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料は、上述した本開示の呼吸法のためのものである旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容することができ、それによって使用する香料組成物又は化粧料が上述した本開示の呼吸法のためのものであることを明示できる。かかる記載は、容器又はパッケージの外側及び内側の少なくともいずれか一方に記載され得る。
【0045】
〈0.15Hz以下の間隔の呼吸(集中力向上呼吸)〉
本開示の呼吸法は、0.15Hz以下の間隔で呼吸することを含む。ここで「0.15Hz」とは、9回/60秒より算出される値である。つまり、例えば、0.15Hzの間隔の呼吸とは、60秒に9回の間隔で呼吸することを意味する。また、本開示において「呼吸」とは、息を吸って吐く動作を意味し、この一連の動作を1回とカウントする。この一連の動作には、息を吸って吐くまでの間に、息を止める動作を含んでもよい。
【0046】
集中力を向上させる観点から、呼吸は、0.14Hz(50秒に7回)以下、0.12Hz(50秒に6回)以下、0.10Hz(60秒に6回)以下、0.08Hz(50秒に4回)以下、又は0.05Hz(60秒に3回)以下であることが好ましい。かかる呼吸間隔の下限値としては特に制限はなく、例えば、0.01Hz(100秒に1回)以上又は0.02Hz(50秒に1回)以上とすることができる。
【0047】
集中力を向上させる観点から、集中力向上呼吸は、1分以上、1.5分以上、又は2分以上実施することが好ましい。集中力向上呼吸の時間の上限値としては特に制限はなく、呼吸への意識を持続的に集中させる観点から、10分以下、7分以下、又は5分以下であることが好ましい。この時間内に実施される集中力向上呼吸は、同一の間隔で実施してもよく、或いは異なる間隔で実施してもよい。例えば、毎回0.15Hzの間隔で呼吸を実施してもよく、或いは、0.15Hzの間隔に次いで、0.10Hzの間隔で呼吸を実施してもよい。
【0048】
集中力を向上させる観点から、例えば、1分以上、1.5分以上、又は2分以上の集中力向上呼吸のいずれかを1セットとしたときに、かかるセットを1回以上、2回以上、又は3回以上実施することが好ましい。かかるセットの実施回数の上限値としては特に制限はなく、50回以下、30回以下、15回以下、10回以下、7回以下、又は5回以下とすることができる。
【0049】
かかるセットを2回以上実施する場合には、セットの各々における前段階及び後段階のうちの少なくとも一つの段階において、通常の呼吸を30秒以上実施することが好ましい。集中力向上呼吸のみを実施していると、集中力が次第に散漫になりやすいが、集中力向上呼吸と集中力向上呼吸との間に通常呼吸を導入することで、呼吸への意識を持続的に集中させることができる。かかる通常呼吸は、1分以上、1.5分以上、又は2分以上とすることができ、また、10分以下、7分以下、又は5分以下とすることができる。通常呼吸の実施時間は、同一であってもよく、或いは異なってもよい。例えば、図1に示す試験では、前段階(前安静)では2分間の通常呼吸が行われ、後段階(後安静)では3分間の通常呼吸が行われている。また、図4のシートに示している例では、2回の集中力向上呼吸の前段階として、2分間の通常呼吸が行われている。
【0050】
《呼吸法を表示したシート》
いくつかの実施形態において、上述した本開示の呼吸法を表示したシートを提供する(図4、5)。このようなシートとしては特に制限はなく、例えば、チラシ、能書き、取り扱い説明書、パンフレット、及びカタログを挙げることができる。本開示の呼吸法が表示されたシートは、利用者がそれを見ながら本開示の方法を的確に実施することができるため、より効率的かつ効果的に集中力を向上させることができる。
【0051】
シートに記載される本開示の呼吸法の内容及び記載形式については特に制限はなく、上述した呼吸法の内容を、例えば、文章、図面、写真などを用いて適宜記載することができる。
【0052】
このようなシートは、1枚で構成されてもよく、或いは2枚以上で構成されてもよい。また、シートは、折られた状態であってもよい。
【0053】
シートの形状は特に制限はなく、例えば、多角形(例えば、三角形、正方形、長方形、菱形、五角形、六角形、八角形)、円形、及び楕円形を挙げることができる。シート形状は、異形状であってもよい。図5には、異形状シートの一例が示されているが、かかるシートは、例えば、上述した香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料などを収納することが可能な容器を構成することができる。この場合、本開示の呼吸法の表示は、容器の内側及び/又は外側となる面に記載され得るが、容器外観の意匠性等の観点から、かかる表示は容器の内側となる面に記載されていることが好ましい。
【0054】
また、異形状ではないシート、例えば、図4に示されるような長方形のシートは、短辺同士及び長辺を接合することによって、例えば、上述した香料組成物、又は香料組成物を含む化粧料などを収納することが可能なパッケージを構成することができる。この場合、本開示の呼吸法の表示は、パッケージの内側及び/又は外側となる面に記載され得るが、パッケージ外観の意匠性等の観点から、かかる表示は容器の内側となる面に記載されていることが好ましい。
【0055】
《呼吸法を表示したディスプレイ》
いくつかの実施形態において、上述した本開示の呼吸法を表示したディスプレイを提供する(図6)。このようなディスプレイとしては特に制限はなく、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ノート型パソコン、モニター、テレビなどのディスプレイを挙げることができる。本開示の呼吸法が表示されたディスプレイも、利用者がそれを見ながら本開示の方法を的確に実施することができるため、より効率的かつ効果的に集中力を向上させることができる。
【0056】
ディスプレイに表示される本開示の呼吸法の内容及び表示形式については特に制限はなく、上述した呼吸法の内容を、静止画(例えば文章、図面、写真)及び/又は動画(例えばアニメーション)などの画像を通じて適宜表示することができる。
【0057】
ディスプレイへの画像の提供手段としては特に制限はなく、例えば、モニター画像、タッチパネル画像などを採用することができる。画像の提供は、ディスプレイ内に保存されている画像情報に基づいて実施されてもよく、或いは、有線手段又は無線手段を通じて実施されてもよい。
【0058】
ディスプレイには、呼吸法のやり方以外に、例えば、香料組成物から発生する香りの性能、利用者の心理情報なども表示することができる。
【実施例0059】
以下の試験例及び実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
《試験例1》
試験例1では、以下に示す皮膚コンダクタンス試験の結果から、集中力向上呼吸時における呼吸への意識の集中力向上効果を検討した。その結果を図1に示す。ここで、図1におけるY軸の皮膚コンダクタンスの値(「皮膚コンダクタンス変動値」(skin conductance change: SCC)と称する場合がある。)は、皮膚電気活動(electrodermal activity: EDA)の指標の一つであり、この値が高いほど交感神経が優位であると評価される。すなわち、集中力向上呼吸時においてこの値が高いほど、呼吸への意識の集中度が高くなっていると言える。
【0061】
〈皮膚コンダクタンス試験〉
下記の実験プロトコル1及び装置を採用して試験を実施した。
【0062】
(実験プロトコル1)
香りの条件:(A)無香、(B)バニリンの香り(使用香料:バニリンの1%希釈物)
被験者 :23~59歳の一般女性モニター(30名)。なお、同一被験者が(A)無香と(B)バニリンの香りの両方の香りの条件下で試験を各々実施した。香りの各条件は被験者ごとにランダムになるように設定した。
実施環境 :24℃、40%RHの恒温恒湿に調整された部屋
香りの提示:20μLの香料(バニリンの1%希釈物)を滴下した2本のムエットを、集中力向上呼吸中にのみ被験者の目の前に配置して提示
試験手順 :(1)ストループ課題を3分間提示、
(2)通常呼吸を2分間実施(前安静期間)
(3)集中力向上呼吸(0.1Hz呼吸)を2分間実施
(4)通常呼吸を3分間実施(後安静期間)
ここで、ストループ課題の提示においては、ストループのミスが分かるようにカウントしてストレスをかけた。また、集中力向上呼吸時においては、呼吸間隔と香りに意識を集中するように事前に指導するとともに、呼吸間隔を合わせるために1.25秒周期で鳴るメトロノームを使用した。
【0063】
(装置)
ソフト:Vital Recorder2(キッセイコムテック株式会社製)
皮膚電気活動(EDA)計測器:DA-3b(ヴェガ・システムズ株式会社製)
ディスポ電極 :ビトロード(商標)F(日本光電工業株式会社製)
ここで、ディスポ電極は、被験者の左手の中指と人差し指に適用した。
【0064】
〈結果〉
図1を見ると、温感刺激性の香りを嗅がせながら0.1Hzの間隔で呼吸(集中力向上呼吸)を実施した方が、無香の場合に比べ、皮膚コンダクタンス値が上昇していた。かかる結果より、温感刺激性の香りを嗅がせながら簡易な集中力向上呼吸を実施するだけで、呼吸への意識を容易に集中させ得ることが分かった。
【0065】
また、集中力向上呼吸後の後安静期間では、無香の場合及び温感刺激性の香りを嗅がせた場合のいずれにおいても、皮膚コンダクタンス値が低下している。この結果から、いずれの場合も集中力向上呼吸後においてリラックスした状態が得られていると言えるが、温感刺激性の香りを嗅がせた場合の方が、無香の場合に比べて皮膚コンダクタンス値の落差が大きいことから、被験者はリラックス感をより実感できたと考えられる。
【0066】
《試験例2》
試験例2では、上記の実験プロトコル1を採用して集中力向上呼吸を実施したときの各種の効果実感を、VAS法に従ってアンケート形式で検討した。ここで、「VAS法」の「VAS」とは、Visual Analogue Scaleの略であり、10cmの長さの直線において、左端(0cm)を「全くそう思わない」、右端(10cm)を「非常にそう思う」と設定し、現在の心理状態がどのあたりに相当するかを10cmの直線上に印(縦の直線)で示して評価するスケールである。VAS法に従うアンケート形式では、印が左端(0cm)から何cmのところにあるかを測り、その長さの値を各アンケートのスコアとした。なお、中間の5cmよりも大きい値は、アンケートに対して肯定的であると言える。
【0067】
無香及び温感刺激性の香り(バニリンの香り)を用いた実験の後で行ったアンケート結果の平均値を、下記の表1に示す。なお、表1には、図1の皮膚コンダクタンス(SCC)の結果を踏まえ、集中力向上呼吸中における呼吸への意識の集中度の結果も示している。ここで、呼吸への意識の集中度が高い順に、「良」、「可」、「不良」と表記している。
【0068】
【表1】
【0069】
〈結果〉
表1及び図2から分かるように、温感刺激性の香り(バニリン)の雰囲気下において集中力向上呼吸を実施すると、呼吸後の集中力に関するアンケート結果が最も高い数値を示していた。この結果からも明らかなように、温感刺激性の香りの雰囲気下において集中力向上呼吸を実施すると、呼吸への意識の集中度が高まるとともに、呼吸法を実施した後においても、集中力を向上させ得ることが分かった。
【0070】
図1の集中力向上呼吸(0.1Hz呼吸)時において、皮膚コンダクタンス値は、無香の場合でも上昇している。したがって、無香雰囲気下において集中力向上呼吸を実施しなかった場合(すなわち、通常呼吸のみの場合)、皮膚コンダクタンス値としては図1の前安静のような状態がそのまま維持され、また、そのときのアンケート結果は、図2の無香の場合よりもさらに低い結果になることが予測できる。それを踏まえると、本開示の呼吸法によれば、無香雰囲気下において集中力向上呼吸を実施しない場合(すなわち、通常呼吸のみの場合)に比べ、大幅に集中力を向上させ得ると言える。
【0071】
《試験例3》
試験例3では、以下の実験プロトコル2を採用して通常呼吸を実施したときの各種の効果実感を、試験例2と同様に、VAS法に従ってアンケート形式で検討した。
【0072】
(実験プロトコル2)
香りの条件:(A)バニリンの香り(使用香料:バニリンの1%希釈物)、(B)チモールの香り(使用香料:チモールの10%希釈物)、(C)エチルバニリンの香り(使用香料:エチルバニリンの0.1%希釈物)。なお、同一被験者が、(A)バニリンの香りと(B)チモールの香りと(C)エチルバニリンの香りの全ての香りの条件下で試験を各々実施した。香りの各条件は被験者ごとにランダムになるように設定した。
被験者 :23~59歳の一般女性モニター(4名)。
実施環境 :24℃、40%RHの恒温恒湿に調整された部屋
香りの提示:20μLの香料を滴下した2本のムエットを、以下の試験手順(2)の通常呼吸中にのみ被験者の目の前に配置して提示
試験手順 :(1)通常呼吸を2分間実施(前安静期間)
(2)香りを提示した状態で通常呼吸を2分間実施
(3)通常呼吸を3分間実施(後安静期間)
【0073】
実験の後で行ったアンケート結果の平均値を、下記の表2示す。
【0074】
【表2】
【0075】
〈結果〉
表2及び図3から明らかなように、温感刺激性の香りを単に嗅ぐだけでは、集中力は向上しないことが分かった。
【0076】
また、表2及び図3から明らかなように、温感刺激性の香りはいずれの場合も、集中力に関するアンケート結果の平均値が5を下回っているため、温感刺激性の香りを単に嗅ぐと、集中力を逆に低下させ得ることが分かった。このことから、温感刺激性の香りの雰囲気下において集中力向上呼吸を実施すると、集中力は低下することが予想される。しかしながら、温感刺激性の香りの雰囲気下において集中力向上呼吸を実施すると、意外にも、集中力が向上することが判明した。これは、温感刺激性の香りと集中力向上呼吸との併用が、特異的に、集中力の向上に対して好適に作用したためであると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6