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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164012
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】コイル部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20231102BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F41/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075294
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安原 克志
(72)【発明者】
【氏名】瀬在 勇司
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩信
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062FF02
5E070AB08
5E070BB03
5E070DA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ショートしにくいコイル部品を提供する。
【解決手段】軟磁性金属粒子を含むコア部6と、コイル状に導体が巻回されてなるコイル部4と、を有し、コイル部4がコア部の外装部6c、6dの内部に形成されてなるコイル部品2である。コア部6は、コイル部4の内径で囲われた部分に位置する中芯部6aを有する。コイル部4の巻回軸方向に対する軟磁性金属粒子の偏向角度をθとして、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0.1以上である。中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粒子を含むコア部と、コイル状に導体が巻回されてなるコイル部と、を有し、前記コイル部が前記コア部の内部に形成されてなるコイル部品であって、
前記コア部は、前記コイル部の内径で囲われた部分に位置する中芯部を有し、
前記コイル部の巻回軸方向に対する前記軟磁性金属粒子の偏向角度をθとして、前記中芯部に含まれる前記軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0.1以上であり、
前記中芯部に含まれる前記軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上であるコイル部品。
【請求項2】
前記中芯部に含まれる軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上5.0以下である請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記コア部が軟磁性金属粒子および樹脂を含む圧粉体を有する請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
成形により中芯コアを準備する工程と、
前記成形における前記中芯コアの加圧方向とコイルの巻回軸方向とが垂直になるように中芯コアを配置する工程と、を有するコイル部品の製造方法。
【請求項5】
コイルと、ベースコアと、カバーコアと、を準備する工程と、
前記ベースコア上に前記中芯コアと前記コイルと前記カバーコアとを配置する工程と、
前記ベースコアと前記中芯コアと前記カバーコアとを一体的に成形する工程と、を有する請求項4に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は中芯部に略六角形状のコアを含むコイル部品を開示している。
【0003】
特許文献2はさまざまなT字型の磁気コアを含む磁性部品を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9318251号明細書
【特許文献2】米国特許第9959965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ショートしにくいコイル部品およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るコイル部品は、
軟磁性金属粒子を含むコア部と、コイル状に導体が巻回されてなるコイル部と、を有し、前記コイル部が前記コア部の内部に形成されてなるコイル部品であって、
前記コア部は、前記コイル部の内径で囲われた部分に位置する中芯部を有し、
前記コイル部の巻回軸方向に対する前記軟磁性金属粒子の偏向角度をθとして、前記中芯部に含まれる前記軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0.1以上であり、
前記中芯部に含まれる前記軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上である。
【0007】
上記コイル部品において、前記中芯部に含まれる軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上5.0以下であってもよい。
【0008】
上記いずれかのコイル部品において、前記コア部が軟磁性金属粒子および樹脂を含む圧粉体を有してもよい。
【0009】
本開示に係るコイル部品の製造方法は、
成形により中芯コアを準備する工程と、
前記成形における前記中芯コアの加圧方向とコイルの巻回軸方向とが垂直になるように中芯コアを配置する工程と、を有する。
【0010】
上記コイル部品の製造方法は、
コイルと、ベースコアと、カバーコアと、を準備する工程と、
前記ベースコア上に前記中芯コアと前記コイルと前記カバーコアとを配置する工程と、
前記ベースコアと前記中芯コアと前記カバーコアとを一体的に成形する工程と、を有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の一例に係るインダクタの断面の模式図である。
図2図1のI-I線に沿う断面の模式図である。
図3】軟磁性金属粒子のアスペクト比および配向度を説明するための模式図である。
図4】第1実施形態の一例に係るインダクタを作製する過程で用いる各部材の熱圧着前の位置関係を示す模式図である。
図5】第1実施形態の一例に係るインダクタを作製する過程で用いる各部材の斜視図である。
図6】第2実施形態の一例に係るインダクタを作製する過程で用いる各部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示である。本開示の実施形態に係る各種構成要素、例えば数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり変更したりすることができる。
【0013】
また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状等とは必ずしも一致しない。説明のために形状等を改変している場合があるためである。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、本開示の第1実施形態に係るコイル部品の一種であるインダクタ2は、コイル部4と、コア部6と、を有する。コイル部4は、コイル状に導体5が巻回されてなる。コア部6は、コイル部4の内径で囲われた部分に位置する中芯部と、その他の部分である外周部と、を有する。
【0015】
本開示の第1実施形態に係るインダクタ2は、コア部6の上面および下面がZ軸に対して垂直であり、コア部6の側面は、X軸およびY軸を含む平面に対して垂直となっている。また、コイル部4の巻回軸はZ軸に対して平行となっている。ただし、コア部6の形状は、図1の形状に限定されない。
【0016】
なお、本開示における「平行」は、完全な平行だけではなく、実質的な平行も含む。すなわち、本開示における「平行」は、製造公差の範囲内で誤差を含んでもよく、製造公差の範囲を超えて誤差を含んでもよい。具体的には、線Aが線Bに対して平行であるとは、特に記載がなければ線Aと線Bとのなす角が0°以上10°以下であることを指すものとする。一方または両方の線を面に置き換えても同様である。
【0017】
なお、本開示における「垂直」は、完全な垂直だけではなく、実質的な垂直も含む。すなわち、本開示における「垂直」は、製造公差の範囲内で誤差を含んでもよく、製造公差の範囲を超えて誤差を含んでもよい。具体的には、線Aが線Bに対して垂直であるとは、特に記載がなければ線Aと線Bとのなす角が80°以上100°以下であることを指すものとする。一方または両方の線を面に置き換えても同様である。
【0018】
本開示の第1実施形態に係るインダクタ2のサイズは、特に限定されない。例えば、リード部5a、5bを除く部分のサイズの下限が、底面が2mm×2mmであり高さが1mmである直方体のサイズであってもよい。リード部5a、5bを除く部分のサイズの上限が、底面が20mm×20mmであり高さが20mmである立方体のサイズであってもよい。高さは図1のZ軸方向の長さである。なお、図1では、図5に示すコイル部4のリード部5a、5bの図示が省略してある。コイル部4を構成する導体の両端に形成してあるリード部5a、5bは、図1に示すコア部6の外部に取り出されるようになっている。
【0019】
コイル部4を構成する導体(導線)5には、必要に応じて外周を絶縁被覆層で被覆してある。導体5の材質には特に制限はない。例えば、導体5はCu、Al、Fe、Ag、Au、またはこれらの金属を含む合金で構成してあってもよい。絶縁被覆層の材質には特に制限はない。絶縁被覆層の材質は、例えばポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエステル-イミド、および/または、ポリエステル-ナイロンであってもよい。
【0020】
導体5の横断面形状には特に制限はない。横断面形状としては、円形状、平角形状が例示される。本開示の第1実施形態では、導体5の横断面形状は円形状としている。
【0021】
コア部6は、少なくとも軟磁性金属粒子を有する。軟磁性金属粒子の材質には特に制限はない。軟磁性金属粒子の材質は、例えば、Mn-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライトなどのフェライト、Fe-Si合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金、パーマロイ(Fe-Ni合金)などの軟磁性合金であってもよい。軟磁性金属粒子の微細構造には特に制限はない。軟磁性金属粒子の微細構造はアモルファスであってもよく結晶を含んでいてもよい。軟磁性金属粒子がアモルファスである場合には、軟磁性金属粒子を粉砕機等で予め偏平化してもよい。軟磁性金属粒子が結晶を含む場合の結晶粒径にも特に制限はない。結晶粒径は、例えば1μm以下であってもよい。
【0022】
コア部6は、熱硬化性樹脂(バインダ)を有していてもよい。熱硬化性樹脂の種類には特に制限はない。熱硬化性樹脂としては、たとえばエポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂、これらを組み合わせたものが例示される。
【0023】
コア部6は、コイル部4の内径で囲われた部分に位置する中芯部6a、および、外装部6c、6dを有する。中芯部6aおよび/または外装部6c、6dが軟磁性金属粒子および樹脂を含む圧粉体であってもよい。すなわち、コア部6が軟磁性金属粒子および樹脂を含む圧粉体を有していてもよい。
【0024】
中芯部6aは均一であってもよく不均一であってもよい。中芯部6aが不均一である場合にはSEM等で中芯部6aを観察する場合に互いにコントラストが異なる部分が生じる。コントラストの違いは、各部分に含まれる軟磁性金属粒子の材質の違い、平均アスペクト比の違い、平均配向度の違い、充填密度の違いにより生じる場合がある。また、コントラストの違いは、各部分に含まれる樹脂または無機物の種類の違い、樹脂または無機物の含有量の違いにより生じる場合もある。
【0025】
本開示の以下の記載では特に言及が無ければ中芯部6aは均一である。
【0026】
中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0.1以上であり、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のアスペクト比の平均値が1.1以上である。上記の各パラメータが所定の値を有することにより、コイル部品のインダクタンスを向上させやすくなる。そして、後述する熱圧着時の成形圧力を低くしても高いインダクタンスが得られる。成形圧力を低くすることでコイルへの負荷を軽減でき、コイルがショートしにくくなる。さらに、コイル抵抗の低いコイル部品や小型化したコイル部品の設計も容易となる。
【0027】
中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度が、中芯部6a以外の部分、特にコイル部4の外側に含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度よりも大きくてもよい。具体的には、コイル部4の巻回軸方向に対する軟磁性金属粒子の偏向角度をθとして、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が、コイルの巻回軸から見てコイル部4の外側の部分に含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値よりも大きくてもよい。なお、本開示での配向度は、コイル部4の巻回軸方向への配向度を指す。
【0028】
中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1.0であってもよい。
【0029】
中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比が1.1以上であってもよく、1.1以上5.0以下であってもよく、1.5以上5.0以下であってもよい。
【0030】
以下、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比および軟磁性金属粒子のcos2θの平均値の算出方法について説明する。中芯部6a以外の部分に含まれる軟磁性金属粒子についても同様である。ただし、アスペクト比およびcos2θは、後述する断面画像において長軸径が10μm以上である軟磁性金属粒子を測定対象とする。後述する断面画像において長軸径が10μm未満である軟磁性金属粒子を測定対象としないのは、断面画像において長軸径が小さい軟磁性金属粒子は、実際のサイズが比較的大きな軟磁性金属粒子の端部である場合があるためである。その場合には当該軟磁性金属粒子を適切に観察できているとはいえない。したがって、断面画像において長軸径が小さい軟磁性金属粒子を測定対象としてしまうと、算出される平均アスペクト比の誤差およびcos2θの平均値の誤差が大きくなる場合がある。
【0031】
まず、図1のI-I線に沿ってインダクタ2を切断する。得られる断面が図2である。次にコア部6の互いに向かい合う側面と平行になるようにインダクタ2を切断する。具体的には、図2のA-A線に沿ってインダクタ2を切断し、A-A線に沿う断面を得る。さらに、図2のA-A線と直交するB-B線に沿ってインダクタ2を切断する。
【0032】
汎用の画像解析装置を用いてA-A線に沿う断面を観察し、A-A線に沿う断面画像を得る。さらに、B-B線に沿う断面を観察し、B-B線に沿う断面画像を得る。
【0033】
図3に示すように、断面画像で観察される軟磁性金属粒子iの輪郭に接する平行な2本の接線を引く場合において、当該2本の接線間の距離が最も長い場合に各接点を結んだ線分が長軸である。当該長軸の長さが軟磁性金属粒子iの長軸径Liである。なお、長軸を決定する場合における平行な2本の接線は各接線のなす角が0°である。
【0034】
また、図3に示すように、上記の接線間の距離が最も長い場合における各接線と直交し、かつ、断面画像で観察される軟磁性金属粒子iの輪郭に接する平行な2本の接線を引く場合において、当該2本の接線間の距離が最も長い場合に各接点を結んだ線分が短軸である。当該短軸の長さが軟磁性金属粒子iの短軸径Diである。なお、短軸を決定する場合における平行な2本の接線は各接線のなす角が0°である。
【0035】
それぞれの断面画像で中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子iの長軸径をLi、短軸径をDi、軟磁性金属粒子の個数をNとして、Σ(Li/Di)/N(i=1、2、・・・、N)を求める。断面画像の1枚当たりの面積には特に限定はないが、例えば200μm×200μmとする。断面画像において長軸径が10μm以上である軟磁性金属粒子の個数Nが100個未満である場合には、複数の断面画像を得ることによりN≧100とする。得られた値がそれぞれの断面画像での平均アスペクト比である。
【0036】
それぞれの断面画像での平均アスペクト比を比較する。中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比は、A-A線に沿う断面画像での平均アスペクト比とB-B線に沿う断面画像での平均アスペクト比のうち大きい方の平均アスペクト比とする。
【0037】
平均アスペクト比が大きい方の断面画像を、後述する軟磁性金属粒子のcos2θの平均値の算出に用いる断面画像とする。
【0038】
図3ではコイルの巻回軸方向がZ軸方向である。図3に示すように、コイルの巻回軸方向に対する軟磁性金属粒子iの偏向角度θiはコイルの巻回軸方向と軟磁性金属粒子iの長軸とがなす角の大きさである。
【0039】
軟磁性金属粒子のcos2θの平均値は、Σcos2θi/N(i=1、2、・・・、N)で算出される。N≧100となるように断面画像の大きさを設定する。Σcos2θi/Nを軟磁性金属粒子の平均配向度Φとする。
【0040】
Φ=1であれば、全ての軟磁性金属粒子がコイルの巻回軸方向に配向している。Φ=0であれば、個々の軟磁性金属粒子がコイルの巻回軸方向に対してランダムに配向し、軟磁性金属粒子全体としてはどの方向にも配向していない。Φ=-1であれば、全ての軟磁性金属粒子がコイルの巻回軸方向に垂直な方向に配向している。
【0041】
次に、図1に示すインダクタ2の製造方法について図4および図5を用いて説明する。
【0042】
図4および図5に示すように、本開示の第1実施形態におけるインダクタ2の製造方法により製造されるインダクタ2は、最終的に主に中芯部6aとなる中芯コア6a1と、最終的に主に外装部6cとなるベースコア6c1と、最終的に主に外装部6dとなるカバーコア6d1と、空芯コイルなどで構成されるコイル部4を有するインサート部材と、を一体化することにより製造される。また、最終的に主に中芯部6bおよび/または外装部6dとなるコア材料(図示せず)を用いてもよい。
【0043】
図4に示すように、中芯コア6a1のZ軸方向の長さは、コイル部4のZ軸方向の長さよりも長くする。はみ出した部分が後述する熱圧着時にカバーコア6d1に押されて変形して中芯部6aに移動し、中芯部6aに充填される。
【0044】
(中芯コア6a1)
中芯コア6a1の材料として軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末、および、樹脂を準備する。
【0045】
軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子の形状には特に制限はない。軟磁性金属粒子の形状は、例えば、球状であってもよく、偏平状であってもよく、針状であってもよい。軟磁性金属粉末の平均粒径に特に制限はない。例えば平均粒径が0.5~50μmであってもよい。互いに形状、平均粒子径等が異なる軟磁性金属粒子を複数種類、混合して得られた軟磁性金属粉末を準備してもよい。例えば、予め偏平化した軟磁性金属粒子に対して、予め偏平化していない軟磁性金属粒子を混合した軟磁性金属粉末を準備してもよい。
【0046】
樹脂としては、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂を適宜組み合わせた樹脂を準備してもよい。
【0047】
次に、軟磁性金属粉末と樹脂とを混合し、造粒して顆粒を得る。造粒方法には特に制限はない。たとえば磁性粉体に樹脂を添加し撹拌した後に乾燥させてもよい。また、顆粒の平均粒径や粒度分布を適宜、調整してもよい。
【0048】
樹脂の含有割合には特に制限はないが、例えば、軟磁性金属粉末100重量部に対して1.0~6.0重量部としてもよい。
【0049】
軟磁性金属粉末と樹脂とを混合する前に、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を形成してもよい。例えば、ゾルゲル法によりSiO2膜である絶縁被膜を形成することができる。
【0050】
軟磁性金属粉末に樹脂を添加し撹拌した後にメッシュを通過させることで粗大な顆粒を取り除いてもよい。また、樹脂は磁性粉体に添加する際に溶媒で希釈してもよい。溶媒としては、例えばケトン類等が用いられる。
【0051】
次に、圧縮成形により中芯コア6a1を準備する。具体的には、得られた顆粒を金型に充填し、加圧することにより、中芯コア6a1が得られる。この際に軟磁性金属粒子が変形し、加圧方向に垂直な面の方向に軟磁性金属粒子が偏平化する。その結果、軟磁性金属粒子が加圧方向に垂直な方向に配向する。以下、圧縮成形により中芯コア6a1を準備することを第1の成形と呼ぶことがある。また、圧縮成形により準備された中芯コア6a1は軟磁性金属粒子および樹脂を含む圧粉体である。
【0052】
加圧時の圧力には特に制限はなく、圧力が高いほど軟磁性金属粒子が大きく偏平化しやすい。例えば400MPa~1000MPaであってもよい。
【0053】
第1の成形時に、磁場を印加しながら加圧してもよい。磁場の印加方向および/または磁場の大きさを制御することでも軟磁性金属粒子の配向度を変化させることができる場合がある。例えば圧縮方向に垂直な方向に磁場を印加することで、中芯コア6a1に含まれる軟磁性金属粒子の配向度の絶対値を大きくすることができる場合がある。
【0054】
(ベースコア6c1)
ベースコアを準備する。ベースコア6c1の作製方法には特に制限はなく、中芯コア6a1の作製方法と同様であってもよい。ベースコア6c1の作製に用いられる軟磁性金属粉末は、中芯コア6a1の作製に用いられる軟磁性金属粉末と同一種であってもよく、異なっていてもよい。ベースコア6c1の作製に用いられる樹脂は、中芯コア6a1の作製に用いられる樹脂と同一種であってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
(カバーコア6d1)
ポット型のカバーコア6d1を準備する。カバーコア6d1の作製方法には特に制限はなく、中芯コア6a1の作製方法と同様であってもよい。カバーコア6d1の作製に用いられる軟磁性金属粉末は、中芯コア6a1の作製に用いられる軟磁性金属粉末と同一種であってもよく、異なっていてもよい。カバーコア6d1の作製に用いられる樹脂は、中芯コア6a1の作製に用いられる樹脂と同一種であってもよく、異なっていてもよい。カバーコア6d1に含まれる樹脂の含有量が多いほど、所定のインダクタンスLを有するコイル部品を得る場合に、コイルがショートしにくくなる。
【0056】
(コア材料)
コア材料を用いる場合において、コア材料の種類には特に制限はない。例えば、軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末と、樹脂との混合物であってもよい。コア材料に用いられる軟磁性金属粉末は、中芯コアの作製に用いられる軟磁性金属粉末と同一種であってもよく、異なっていてもよい。コア材料に用いられる軟磁性金属粉末は、ベースコアの作製に用いられる軟磁性金属粉末と同一種であってもよく、異なっていてもよい。コア材料に用いられる軟磁性金属粉末は、カバーコアの作製に用いられる軟磁性金属粉末と同一種であってもよく、異なっていてもよい。コア材料に用いられる樹脂は、中芯コアの作製に用いられる樹脂と同一種であってもよく、異なっていてもよい。コア材料に用いられる樹脂は、ベースコアの作製に用いられる樹脂と同一種であってもよく、異なっていてもよい。コア材料に用いられる樹脂は、カバーコアの作製に用いられる樹脂と同一種であってもよく、異なっていてもよい。
【0057】
さらに、軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末と、樹脂との混合物の形状については特に制限はない。例えば、顆粒であってもよく、ペーストであってもよい。ペーストを作製する場合には、必要に応じて混合物を加熱してもよい。
【0058】
(インサート部材)
コイル状に導体が巻回されてなるコイル部4を有するインサート部材を準備する。コイル部4を構成する導体5の両端は、リード部5a、5bとして、コイル部4の外側に引き出されている。端子は後述する成形後にリード部5a、5bと接続してもよい。端子は後述する成形前に予めリード部5a、5bと接続しておいてもよい。端子とリード部5a、5bとの接続部は、外装部6c、6dの外側に位置してもよく、外装部6c、6dの内側に位置してもよい。また、コイル部4の形状は巻回軸方向から見て円形に限定されない。コイル部4の形状は巻回軸方向から見て楕円形または四角形などの形状でもよい。
【0059】
(中芯コア、ベースコア、カバーコア、インサート部材の一体化)
まず、ベースコア6c1を金型に挿入する。次に、図4に示すようにインサート部材および中芯コア6a1をベースコア6c1上の所定の位置に配置する。このときに、上記の中芯コア6a1の加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が垂直になるように中芯コア6a1を配置する。このことにより、最終的に得られるインダクタ2において中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子がコイルの巻回軸方向に配向し、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が正の値となる。また、リード部5a、5bとリードフレームとを接合してもよい。
【0060】
次に、カバーコア6d1を金型に挿入し、図4に示すようにインサート部材上および中芯コア6a1上の所定の位置に配置する。なお、カバーコア6d1を金型に挿入する前にコア材料を適宜、金型に充填してもよいが、以下、コア材料を充填しないものとして説明する。
【0061】
次に、熱圧着による成形を行う。具体的には、金型に挿入した各コアを樹脂が軟化する温度まで加熱した後に金型に挿入したベースコア6c1、中芯コア6a1、カバーコア6d1およびインサート部材を熱圧着する。あらかじめ各コアやインサート部材などを加熱(予備加熱)してもよい。また、金型の枠型やパンチ類などを加熱してもよい。加圧方向はコイルの巻回軸方向とする。加圧によりコイルとコアとが熱圧着され、一体化される。各コアが熱圧着により変形するが、特に中芯コア6a1が円柱状に変形し、中芯コア6a1とインサート部材との間にあった隙間に中芯コア6a1が充填される。熱圧着時の圧力には特に制限はない。たとえば100MPa~400MPaである。熱圧着時の温度には特に制限はない。例えば50℃~100℃とする。所定のインダクタンスLを有するコイル部品を得る場合において、本開示の一実施形態に係るコイル部品の製造方法でコイル部品を作製する場合には、中芯コア作製時の加圧方向に沿った方向で加圧して熱圧着する場合に比べ、熱圧着時の圧力を低くすることができる。その結果、得られるコイル部品がショートしにくくなる。また、金型を長寿命化し得る。以下、中芯コア6a1などの各部材を一体化させる成形を第2の成形と呼ぶ場合がある。第2の成形は熱圧着による成形以外の方法による成形であってもよい。以下の記載では第2の成形が熱圧着による成形であるとする。
【0062】
熱圧着によりベースコア6c1と中芯コア6a1とカバーコア6d1とが一体的に成形されてコア部6が得られる。すなわち、中芯部6aおよび外装部6c、6dを有するコア部6が得られる。また、外装部6c、6dに含まれる軟磁性金属粒子は、加圧方向に垂直な面の方向に偏平化する場合がある。その結果、外装部6c、6dに含まれる軟磁性金属粒子が加圧方向(コイルの巻回軸方向)に垂直な方向に配向する場合がある。すなわち、外装部6dに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が0または負の値になりやすい。
【0063】
熱圧着後に金型から取り出したインダクタ2に対して加熱を行い、樹脂をさらに硬化させてもよい。その際の加熱温度には特に制限はない。例えば150℃~200℃としてもよい。
【0064】
(第2実施形態)
以下、本開示の第2実施形態について説明するが、特に記載のない部分については第1実施形態と同様である。
【0065】
本開示の第2実施形態に係るコイル部品の1種であるインダクタ2は第1実施形態に係るコイル部品の1種であるインダクタ2とは製造方法が異なる。
【0066】
第2実施形態に係るインダクタ2の製造方法では、カバーコアを用いない。図6に示すように中芯コア6a1と、ポット型のベースコア6c1と、コア材料(図示せず)と、空芯コイルなどで構成されるコイル部4を有するインサート部材と、を一体化することにより製造される。
【0067】
中芯コア6a1のZ軸方向の長さは、コイル部4のZ軸方向の長さと同一であってもよく、コイル部4のZ軸方向の長さよりも長くてもよく、コイル部4のZ軸方向の長さよりも短くてもよい。ポット型のベースコア6c1の巻回軸方向の長さなどを適宜調整してもよい。
【0068】
(中芯コア、ベースコア、コア材料、インサート部材の一体化)
まず、ポット型のベースコア6c1を金型に挿入する。次に、インサート部材および中芯コア6a1をベースコア6c1上の所定の位置に配置する。このときに、上記の中芯コア6a1の加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が垂直になるように中芯コア6a1を配置する。このことにより、最終的に得られるインダクタ2において中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のうち中芯コア6a1に由来する軟磁性金属粒子がコイルの巻回軸方向に配向し、中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子のcos2θの平均値が正の値となる。また、リード部5a、5bとリードフレームとを接合してもよい。
【0069】
次に、コア材料を金型に充填する。
【0070】
次に、第2の成形を行う。具体的には、金型に挿入したポット型のベースコア6c1、中芯コア6a1、インサート部材およびコア材料を加圧する。加圧方向はコイルの巻回軸方向とする。加圧によりコイルとコアとが圧着され、一体化される。第2の成形時の圧力には特に制限はない。たとえば10~600MPaである。第2の成形時の圧力が高いほどコイル部品のインダクタンスLが向上しやすくなるが、コイルがショートしやすくなる。また、金型の寿命も短くなりやすい。
【0071】
第2の成形前の中芯コア6a1とインサート部材との間の隙間等にコア材料が充填され、さらに熱圧着によりポット型のベースコア6c1と中芯コア6a1とコア材料とが一体的に成形されてコア部6が得られる。すなわち、中芯部6aおよび外装部6c、6dを有するコア部6が第2の成形により得られる。成形時に中芯コア6a1が変形して成形前の中芯コア6a1とインサート部材との間の隙間に充填されてもよい。
【0072】
第2の成形時の温度には特に制限はないが、樹脂が軟化する温度で第2の成形を行ってもよい。樹脂が軟化する温度で第2の成形を行う成形方法は、一般的に温間成形、コンプレッション成形などと呼ばれる成形方法である。この場合には、あらかじめ各コアやインサート部材などを加熱(予備加熱)してもよい。また、金型の枠型やパンチ類などを加熱してもよい。
【0073】
第2の成形後に金型から取り出したインダクタ2に対して加熱を行い、樹脂をさらに硬化させてもよい。その際の加熱温度には特に制限はない。例えば150~200℃としてもよい。
【0074】
第2実施形態で得られるインダクタ2は、中芯部6aが不均一である。具体的には、主に中芯コア6a1に由来する部分と、主にコア材料に由来する部分と、の間で軟磁性金属粒子の配向度や軟磁性金属粒子のアスペクト比などが異なる。中芯部6aに含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度および軟磁性金属粒子の平均アスペクト比の測定は、観察範囲の位置、観察する軟磁性金属粒子の個数などを適切に設定して実施する。
【0075】
(その他の実施形態)
本開示に係るインダクタ2の作製方法は上記の方法に限定されない。特にコアの形状および個数については、最終的に図1に示すインダクタ2が得られれば特に制限はない。また、第1実施形態および第2実施形態に示すようにモールド一体型のコイル部品、すなわち、導線のリード部を除くコイル部品全体が樹脂により封止されてなるコイル部品であってもよい。
【0076】
第1実施形態に関連して、例えば、ベースコア6c1がカバーコア6d1と同様にポット型であってもよい。その場合には、ポット型のベースコア6c1の巻回軸方向の長さ、カバーコア6d1の巻回軸方向の長さ、リード部5a、5bの位置などを適宜、調整する。第2の成形によりベースコア6c1の一部が変形してインサート部材と中芯コア6a1との間の空隙を埋めてもよい。また、ベースコア6c1および/またはカバーコア6d1を平板型とした上で、ベースコア6c1とカバーコア6d1との間に別のコアを挿入してもよい。
【0077】
上記の第2実施形態では、ベースコア6c1が平板型であってもよい。その場合には、リード部5a、5bの位置などを適宜、調整する。中芯コア6a1の加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が垂直になるように中芯コア6a1を配置しているが、この配置方法は必須ではない。中芯コア6a1の成形時(第1の成形時)に加圧方向に磁場を印加することで、中芯コア6a1に含まれる軟磁性金属粒子を加圧方向に配向させることができる場合がある。この場合には、中芯コア6a1の加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が平行になるように中芯コア6a1を配置してもよい。
【0078】
本開示に係るコイル部品はインダクタに限定されない。例えば、トランス、リアクトルなどのコイル部品であってもよい。しかし、本開示に係るコイル部品はインダクタンスを向上させやすいこと、および、トランス、リアクトルはモールド一体型とすることが困難であることを考慮すれば、本開示に係るコイル部品はインダクタであってもよい。
【実施例0079】
以下、本開示を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示は、これら実施例に限定されない。
【0080】
実験例1
表1に示す各実施例および各比較例(試料No.1を除く)におけるインダクタ試料の作製方法について説明する。
【0081】
まず、中芯コア、ベースコア、ポット型のカバーコアおよびインサート部材を準備した。
【0082】
(中芯コア)
中芯コアの材料として軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末、および、樹脂を準備した。軟磁性金属粒子の材質はFe-Si合金(Fe95.5重量%、Si4.5重量%)、軟磁性金属粒子の硬度は300HVとした。軟磁性金属粉末の平均粒径は25μmとした。樹脂としてはエポキシ樹脂を用いた。
【0083】
次に、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を形成した。具体的には、ゾルゲル法によりSiO2膜である絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の厚みは40nm程度とした。
【0084】
次に、軟磁性金属粉末と樹脂とを混合し、造粒して顆粒を得た。具体的には、案磁性金属粉末に樹脂を添加し撹拌した後に40℃で10時間、乾燥させた。樹脂の含有割合は軟磁性金属粉末の含有割合を100重量部として2~3重量部とした。樹脂の種類はエポキシ樹脂とした。軟磁性金属粉末に樹脂を添加し撹拌した後にメッシュを通過させることで粗大な顆粒を取り除いた。具体的には、目開き100μmのメッシュを通過させた。最終的に得られる顆粒の平均粒径は60μm程度とした。
【0085】
次に、得られた顆粒を金型に充填し、コア成形することにより、図5に示す四角柱である中芯コアを得た。中芯コアの寸法は1.0mm×1.0mm×1.5mmとした。この際に軟磁性金属粒子が変形し、加圧方向に垂直な面の方向に軟磁性金属粒子が偏平化した。その結果、軟磁性金属粒子が加圧方向に垂直な方向に配向した。成形圧力は400~1000MPaとした。なお、実施例に用いる中芯コアと比較例に用いる中芯コアとで加圧方向を変化させた。
【0086】
最終的に得られるインダクタ試料において中芯部の平均アスペクト比が5.0、中芯部の配向度(Φ1)が1.0である場合には、軟磁性金属粉末を樹脂と混合させる前に偏平化処理を行った。具体的には、軟磁性金属粉末に、溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を添加してスラリーを作製した後に、湿式の粉砕機であるビーズミルを用いて軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子を粉砕した。粉砕後にスプレードライヤーなどで乾燥してIPAを除去した。さらに、顆粒に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を添加した。添加量は顆粒100重量部に対して0.2重量部以下とした。さらに、第1の成形は温間成形で実施した。具体的には、金型および顆粒を加熱しながら第1の成形を行った。加熱温度は樹脂の軟化点付近とした。さらに、第1の成形は加圧方向に垂直な方向に磁場を印加しながら行った。
【0087】
中芯部の平均アスペクト比を5.0よりも小さくする場合には、偏平化処理の有無および条件、コア成形時の成形圧力、軟磁性金属粉末の硬度、樹脂の硬度等を適宜制御した。偏平化処理の条件としては、具体的には、粉砕時間、粉砕機の回転数、スラリーの濃度、スラリーの粘性などを適宜、制御した。
【0088】
中芯部の配向度を1.0よりも小さくする場合には、磁場の印加の有無、第1の成形時の加熱の有無および加熱温度、潤滑剤の有無および添加量を適宜、制御した。
【0089】
(ベースコア)
ベースコアの作製方法は、中芯コアの作製方法と同様とした。
【0090】
(カバーコア)
ポット型のカバーコアの作製方法は、軟磁性金属粉末の偏平化処理を行わなかった点以外については中芯コアの作製方法と同様とした。
【0091】
(インサート部材)
図5に示すコイル部4を有するインサート部材を準備した。なお、コイル部4のサイズは内径1.5mm、高さ1.0mmとし、コイル部4の材質はCuとした。
【0092】
(中芯コア、ベースコア、カバーコア、インサート部材の一体化)
まず、ベースコアを金型に挿入した。次に、図4に示すようにインサート部材および中芯コアをベースコア上の所定の位置に配置した。このときの中芯コアの設置方向を表1に示す。中芯コアの加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が垂直である場合に「垂直」と記載し、中芯コアの加圧方向と、コイルの巻回軸方向と、が平行である場合に「平行」と記載した。
【0093】
さらに、図4に示すようにポット型のカバーコアを所定の位置に配置した。
【0094】
次に、熱圧着による成形を行った。具体的には、金型に挿入したベースコア、中芯コア、インサート部材およびカバーコアを80℃で加熱して樹脂を軟化させた後に加圧した。加圧方向はコイルの巻回軸方向とした。加圧によりコイルと各コアとが熱圧着され、一体化された。熱圧着時の成形圧力を表1に示す。
【0095】
熱圧着による成形の後に金型から取り出したインダクタ2に対して加熱を行い、樹脂を硬化させた。加熱温度は150℃~200℃とし、加熱時間は1時間~3時間とした。
【0096】
以上の工程により、図1に示すインダクタが得られた。インダクタの寸法は3mm×3mm×2mmであった。なお、高さが2mmであった。
【0097】
表1に示す比較例、試料No.1は、中芯コアを用いず、代わりに下記のコア材料を用いた点以外は試料No.2~4と同条件で実施した。
【0098】
(コア材料)
コア材料として軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末、および、樹脂を準備した。軟磁性金属粒子の材質はFe-Si合金(Fe95.5重量%、Si4.5重量%)、軟磁性金属粒子の硬度は300HVとした。軟磁性金属粉末の平均粒径は25μmとした。樹脂としてはエポキシ樹脂を用いた。
【0099】
次に、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を形成した。具体的には、ゾルゲル法によりSiO2膜である絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の厚みは40nm程度とした。
【0100】
次に、軟磁性金属粉末と樹脂とを混合し、造粒して顆粒を得た。具体的には、案磁性金属粉末に樹脂を添加し撹拌した後に40℃で10時間、乾燥させた。樹脂の含有割合を表1に示す。樹脂の種類はエポキシ樹脂とした。軟磁性金属粉末に樹脂を添加し撹拌した後にメッシュを通過させることで粗大な顆粒を取り除いた。具体的には、目開き100μmのメッシュを通過させた。最終的に得られる顆粒の平均粒径は60μm程度とした。
【0101】
得られたインダクタについて、中芯部に含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比、中芯部に含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度Φ1、外装部に含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度Φ2を測定した。
【0102】
具体的には、まず、各試料のインダクタを図1のI-I線に対応する部分に沿って切断した。得られた断面について、図2のA-A線に対応する部分およびb-b線に対応する部分に沿って切断した。汎用の画像解析装置を用いてA-A線に沿う断面を観察し、A-A線に沿う断面画像を得た。さらに、B-B線に沿う断面を観察し、B-B線に沿う断面画像を得た。
【0103】
各断面画像について、中芯部に含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比を測定した。大きい方を中芯部に含まれる軟磁性金属粒子の平均アスペクト比とした。さらに、平均アスペクト比が大きい方の断面画像を用いてΦ1、Φ2を測定した。それぞれ、表1に示す数値であることを確認した。各実施例において、中芯部に含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度Φ1は、外装部に含まれる軟磁性金属粒子の平均配向度Φ2よりも高かった。
【0104】
得られたインダクタについて、インダクタンスLを測定した。インダクタンスの測定は、測定周波数1MHz、測定電圧500mVで、RFインピーダンスマテリアルアナライザー(アジレントテクノロジー製4491A)を用いて行った。結果を表1に示す。インダクタンスが0.95μH以上である場合を良好とした。
【0105】
得られたインダクタについて、HBM(Human Body Model)でJEITA ED-4701/302Aに準拠するESD試験(静電破壊試験)を行った。試験電圧は±2kVとした。ESD試験をpassしたか否かを表1に示す。
【0106】
得られたインダクタについて、インパルス破壊電圧試験(インパルスBDV試験)を行った。インパルス破壊電圧試験は、インパルス巻線試験機(Chroma製19301A)を用いて、インパルス巻線テスト破壊電圧モード(IWT BDV MODE)により行った。具体的には、サンプル(インダクタ)に所定の最大振幅を持つ交流電流パルス信号を入力し、基準となるパルス波形を測定した。次に評価用パルス信号を入力し、評価用パルス信号に対する応答として検出されるパルス波形を取得した。パルス波形の取得は、測定電圧を上昇させながら段階的に実施した。パルス波形の面積が基準となるパルス波形の面積の2.0%を下回った場合における測定電圧を絶縁破壊電圧とした。すなわち、取得したパルス波形の面積が基準となるパルス波形の面積に対して2.0%を下回った場合にコイル部を構成する導体間のショートが発生したと判定した。測定電圧の範囲は50V~350V(測定電圧ステップ:1%)、パルス印加回数は1回とした。表1には、測定電圧350Vで絶縁破壊が発生しなかった場合、すなわち、絶縁破壊電圧が350Vを上回る場合にpass、測定電圧350V以下で絶縁破壊が発生した場合、すなわち、絶縁破壊電圧が350V以下である場合にshortと記載した。
【0107】
【表1】
【0108】
Φ1が0.1以上である中芯部を有する各実施例はΦ1が0.0以下である中芯部を有する各比較例と比較してインダクタンスLが高くなった。
【0109】
(実験例2)
実験例2は実験例1とは異なり、インダクタンスLが1.00μHとなるようにカバーコアの樹脂量および成形圧力を制御した。その他の点については実験例1と同条件で実施した。結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
Φ1が0.1以上である中芯部を有する各実施例はΦ1が0.0以下である中芯部を有する各比較例とでインダクタンスLが同一の値となるように製造条件を制御した場合において、各比較例は静電気破壊試験および/またはインダクタンス試験の結果が悪化した。カバーコアの樹脂量が少なく、熱圧着時の成形圧力が大きいためであると考えられる。
【0112】
Φ1が0.1以上である中芯部を有する各実施例は、カバーコアの樹脂量、すなわち外装部の樹脂量を増加させたり、熱圧着時の成形圧力を低下させたりしても高いインダクタンスLを維持することができた。すなわち、高いインダクタンスを維持しながら作製時におけるコイルに対する負荷を低減させることができた。
【符号の説明】
【0113】
2… インダクタ
4… コイル部
5… 導体
5a、5b… リード部
6a… 中芯部
6c、6d… 外装部
6a1… 中芯コア
6c1… ベースコア
6d1… カバーコア
図1
図2
図3
図4
図5
図6