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特開2023-164024インキ収容筒及びインキ収容筒を備えた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164024
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】インキ収容筒及びインキ収容筒を備えた筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/06 20060101AFI20231102BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20231102BHJP
【FI】
B43K7/06
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075318
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA15
2C350NC04
2C350NC14
4J039BE02
4J039BE22
4J039CA03
4J039GA27
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】 ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒、並びにこのインキ収容筒を備えた筆記具を提供する。
【解決手段】
筆記具用のインキGを収容する内部領域を有し、外部から内部領域に収容されたインキGを視認可能な程度の透光性を有するセラミック材料から形成されるインキ収容筒2及びインキ収容筒2を備えた筆記具10をを提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具用のインキを収容する内部領域を有し、
外部から前記内部領域に収容されたインキを視認可能な程度の透光性を有するセラミック材料から形成されることを特徴とするインキ収容筒。
【請求項2】
前記内部領域の内面の算術表面粗さRaが0.001μm以上1μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のインキ収容筒。
【請求項3】
収容されたインキと該インキと接する前記内部領域の内面との間の接触角が50度以上であることを特徴とする請求項1に記載のインキ収容筒。
【請求項4】
前記セラミック材料がアルミナであることを特徴とする請求項1に記載のインキ収容筒。
【請求項5】
収容されたインキの20℃におけるインキ表面張力が20mN/m以上であることを特徴とする請求項2に記載のインキ収容筒。
【請求項6】
収容されたインキの20℃、静止時におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下であることを特徴とする請求項2に記載のインキ収容筒。
【請求項7】
収容されたインキの後端に、インキの消費に追従するインキ追従体が充填されていることを特徴とする請求項2に記載のインキ収容筒。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載のインキ収容筒を備えたことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記用のインキを収容するインキ収容筒及びこのインキ収容筒を備えた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペン、万年筆、マーカをはじめとする筆記具では、多くの場合、筆記用のインキを収容したインキ収容筒が装着されている。このようなインキ収容筒として、金属製のインキ収容筒及び樹脂製のインキ収容筒が知られている。金属製のインキ収容筒は、ガスバリア性に優れているが、透光性を有さないため、外部から内部のインキを視認することができない。つまり、インキ視認性を有していない。インキ視認性を有しない場合には、インキ残量を確認できないため、突然、インキ切れで筆記ができなくなる等の課題が生じる。
【0003】
一方、樹脂製のインキ収容筒は、透光性を有する樹脂材料を採用することにより、インキ視認性を有することができるが、ガスバリア性に劣る。ガスバリア性に劣る場合には、インキの蒸発やインキの変質が起こり、インキ経時安定性や、インキ収容筒が装着された筆記具の筆記性に課題が生じる。
【0004】
このような樹脂製のインキ収容筒におけるガスバリア性を向上させるため、多層構造の樹脂層を備え、少なくとも1層をエチレンビニルアルコール共重合樹脂で形成するインキ収容筒が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のインキ収容筒では、エチレンビニルアルコール共重合樹脂の層により、従来の樹脂製インキ収容筒に比べてガスバリア性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-307890号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されたガスバリア性を向上させる層は、あくまで樹脂層なので、ガスバリア性の向上にはおのずと限界があり、実用上十分なレベルのガスバリア性を有するまでは至らない。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒、並びにこのインキ収容筒を備えた筆記具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの実施態様に係るインキ収容筒は、
筆記具用のインキを収容する内部領域を有し、
外部から前記内部領域に収容されたインキを視認可能な程度の透光性を有するセラミック材料から形成される。
【0009】
本発明の1つの実施態様に係る筆記具は、上記のインキ収容筒を備えた筆記具である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明により、ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒、並びにこのインキ収容筒を備えた筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アルミナから形成され、異なる表面粗さを有する試料を試作し、各試料の接触角を測定した結果を示すグラフである。
図2】ボールペンのレフィルとして機能する本発明の1つの実施形態に係るインキ収容筒を備えた筆記具を模式的に示す側面断面図である。
図3】ボールペンのレフィルとして機能する本発明のその他の実施形態に係るインキ収容筒を備えた筆記具を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する各図において、同一の機能を有する対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0013】
(実施形態に係るインキ収容筒の概要)
筆記用のインキが収容されたインキ収容筒が、油性インキを用いた油性ボールペン、油性マーカー、水性インキを用いた水性ボールペン、水性マーカー、更に万年筆等に広く用いられている。このようなインキ収容筒は金属または樹脂で形成される場合が多い。金属製のインキ収容筒は、ガスバリア性に優れているが、透光性を有さないのでインキ視認性を有していない。インキ視認性を有しない場合には、インキ残量を確認できないため、突然、インキ切れで筆記ができなくなる等の課題が生じる。
【0014】
一方、樹脂製のインキ収容筒は、透光性を有する樹脂材料を採用することにより、インキ視認性を有することができるが、上記のように、ガスバリア性に優れたインキ収容筒は実現できていない。ガスバリア性に劣る場合には、インキの蒸発やインキの変質が起こり、インキ経時安定性や、インキ収容筒が装着された筆記具の筆記性に課題が生じる。
【0015】
発明者らは、インキ収容筒を透光性を有するセラミック材料で形成することにより、ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒を実現できることを知見した。セラッミック材料を用いることにより、インキ収容筒に優れたガスバリア性を付与できることは明らかである。
【0016】
更に、適切なセラミック材料及び製造方法を採用することにより、インキ収容筒の内部領域に収容されたインキを外部から視認できるようにすることを知見した。つまり、インキ収容筒に、実用上十分なレベルのインキ視認性を付与できることを知見した。例えば、後述するように、セラミック材料としてアルミナ(Al)を用いて、成形後、熱間等方圧加圧処理を施すことにより、実用上十分な透光性を有するセラミック製インキ収容筒を製造することができる。
【0017】
インキ収容筒の材料として、透光性を有するセラミック材料を用いる場合、透光性を有さないセラミック材料を用いた場合、金属材料を用いた場合、及び透明樹脂材料を用いた場合の特性を比較すると、下表のようになる。
【0018】
【表1】
【0019】
上記の表1に示すように、金属材料や透光性を有しない一般のセラミック材料では、ガスバリア性には優れるが、インキ視認性を有さない。一方、透明樹脂材料では、インキ視認性は有するが、ガスバリア性で劣る。ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れているのは、本実施形態のように、透光性を有するセラミック材料でインキ収容筒を形成する場合だけである。
【0020】
本実施形態に係るインキ収容筒は、ガスバリア性に優れるので、インキの蒸発やインキの変質が生じにくく、インキ経時安定性や、インキ収容筒が装着された筆記具の筆記性にも優れている。これとともに、インキ視認性を有するので、外部から容易にインキ残量を確認できるので、突然のインキ切れ等の問題が生じるのを防ぐことができる。
【0021】
以上のように、本実施形態では、ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒を提供することができる。
【0022】
特に、セラミック材料がアルミナである場合には、確実にインキ視認性に優れたインキ収容筒を提供することができる。
【0023】
また、樹脂材料を用いることがないので、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に適合し、特に、環境保全や温暖化防止に貢献できる。更に、全周にわたって内部領域のインキを視認できるので、例えば、透明樹脂からなるインキ収容筒の外面にガスバリア促進膜を形成し、その一部を除去して内部のインキを視認可能とした場合に比べて、より容易に確実にインキ残量を把握できる。
【0024】
<本実施形態に係るインキ収容筒の製造方法>
次に、本実施形態に係るインキ収容筒の製造方法を説明する。
本実施形態に係るインキ収容筒の製造方法は以下の工程を含む。
工程1:セラミック原料微粉体(例えば、アルミナ(Al)の微粉体)と有機バインダとを混合してコンパウンドを得る工程。
工程2:押出成形機を用いて、得られたコンパウンドから円筒状の成形体を形成する工程。
工程3:形成された成形体を、焼結する工程。
工程4:得られた焼結体に熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)処理を施して透光性を有するインキ収容筒を得る工程。
【0025】
熱間等方圧加圧(HIP)処理では、例えば、1400℃、1000気圧でアルゴン雰囲気で行うことができる。ガスを圧力媒体として、焼結体に等方的圧力を加えることにより、気孔が減り、密度を高めることができる。焼結体では、気孔や析出物による散乱、結晶粒界相による散乱や、結晶粒界分域での散乱等により透光性を有さないが、高温環境下で等方的に高圧を加えることにより、気孔や結晶粒界における散乱要因を減らすことにより、透光性を有するようにすることができる。
【0026】
以上のような熱間等方圧加圧(HIP)処理により、外部から内部領域に収容されたインキを視認可能な程度の透光性を有するセラミック製インキ収容筒を得ることができる。
【0027】
本実施形態では、押出成形により、インキ収容筒を成形しているが、これに限られるものではない。例えば、射出成形法、プレス成形法などの従来公知の成形法でも成形することができる。
また、本実施形態では、熱間等方圧加圧(HIP)処理により透光性を有するインキ収容筒を製造しているが、これに限られるものではない。例えば、マイクロ波プラズマ焼結を用いる方法、一次焼結の後、より高温で二次焼結を行う方法をはじめとする、既知の任意の製造方法で透光性を有するセラミック製インキ収容筒を製造することができる。
【0028】
また、本実施形態では、セラミック材料としてアルミナを用いているが、これに限られるものではない。PLZT(鉛、ランタン、ジルコニウム、チタンの酸化物)をはじめとする既知の任意の透光性セラミック材料を用いることができる。中でも、材料の入手の容易性、透光性と強度、硬度のバランスなどを考慮すると、アルミナを用いることが好ましい。
【0029】
また、インキ収容筒を構成するセラミックスの結晶粒子径は、0.1μm以上30μm以下であることが好ましく、0.2μm以上10μm以下がより好ましく、0.3μm以上5μm以下がさらに好ましく、0.3μm以上1μm以下が特に好しい。セラミックスの結晶粒子径が上記の数値範囲内であれば、透光性と強度、硬度のバランスが得られやすく、また、後述するように、適正な表面粗さに調整しやすい。
【0030】
セラミックスの結晶粒子径は、SEM観察図を使用したプラニメトリック法により求めることができる。詳細には、SEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を計測し、合計の結晶粒子数(Nc
+Ni)が250±50個となるようにした上で、以下の式(A)を使用して結晶粒子径
を求めることができる。
【0031】
結晶粒子径=2/{π×(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M2)}0.5 ・・式
(A)
【0032】
上式(A)において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは
円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率(例えば、5、000倍~10,00
0倍)である。なお、ひとつのSEM観察図における結晶粒子数(Nc+Ni)が200
個未満である場合、複数のSEM観察図を用いて(Nc+Ni)を250±50個とすれ
ばよい。
【0033】
(インキのビジブル性)
内部領域に収容されたインキと内部領域の内面との間において、一般的に20度以上または30度以上の接触角(図2、3の”θ”参照)を有することが好ましいとされている。このような範囲の接触角を有する場合であっても、比較的接触角が小さい場合には、インキが消費されてインキが減っていっても、インキが内部領域の内面に付着して、インキの液面を外部から視認しずらくなる虞がある。つまり、インキ追従時に、インキ収容筒の内面にインキが付着して残ってしまい、インキのビジブル性に問題が生じる場合がある。
【0034】
インキのビジブル性に問題がある場合には、インキ残量を的確に確認できないため、急なインキ切れ等の問題が生じる虞がある。
【0035】
インキとの接触角について、一般的に、平滑面は50度程度の接触角を有するといわれている。更に、60度以上の接触角を有する場合には、インキ付着を十分に抑制することができる「撥水促進面」であるといいわれている。更に、接触角が70度以上の撥水促進面であれば、インキ付着を更に効果的に抑制することができる。
よって、インキ残量を的確に確認できるインキのビジブル性を確保するため、インキとこのインキと接するインキ収納領域の内面との間において、50度上の接触角を有することが好ましく、60度以上の接触角を有することがより好ましく、70度以上の接触角を有することが更に好ましい。
【0036】
以上のように、収容されたインキとこのインキと接する内部領域の内面との間の接触角が50度以上である場合には、インキ残量を的確に確認できるインキのビジブル性を有することができる。また、 収容されたインキとこのインキと接する内部領域の内面との間の接触角が60度以上である場合には、より良好なインキのビジブル性を有することができ、収容されたインキとこのインキと接する内部領域の内面との間の接触角が70度以上である場合には、更に良好なインキのビジブル性を有することができる。
【0037】
(内部領域の内面の表面粗さと接触角の関係)
接触角は、接触面の表面粗さによって変化することが知られている。十分なインキのビジブル性を有するような接触角度を得るため、発明者らは、様々な表面粗さを有するセラミック製の試料を試作し、その接触角を測定した。
【0038】
具体的には、押出成形によりアルミナ製の直方体の部材を試作し、外面に表面加工を施して、表面粗さの異なる4つの試料を作成した。試料は透光性を有するアルミナではなく、通常のアルミナ(乳白色)を用いているが、表面粗さと接触角との関係においては影響は少ないと考えられる。
【0039】
4つの試料を更に詳細に述べれば、押出成形し焼結した部材にラップ盤を用いて仕上加工を施した算術平均粗さRa(JISB0601)が0.011μmの試料1、押出成形した部材のまま無加工の算術平均粗さRa(JISB0601)が0.035μmの試料2、押出成形した部材に中研磨加工を施した算術平均粗さRa(JISB0601)が0.298μmの試料3、及び押出成形した部材に粗研磨加工を施した算術平均粗さRa(JISB0601)が0.540μmの試料4である。
【0040】
これらの4つの試料にイオン交換水を滴下して、接触角を測定した。更に詳細に述べれば、協和界面科学株式会社製の自動接触角計DMo-602で、液滴法(θ/2法)で測定した。試料に滴下した液滴に光を当て、撮像装置で液滴の画像を捉え、画像解析で接触角を計算した。測定結果を下表に示す。
【0041】
なお、筆記用のインキとイオン交換水とでは、少なくとも、水を主溶媒とした水性インキにおいて、接触角の傾向(算術平均粗さが大きくなると接触角も大きくなること)に差は生じないことが知られている。また、万年筆用インキ(例えば、商品名:INK-30-B、パイロットコーポレーション株式会社製)など、溶媒として水を90%以上、含有する水性インキにおいては、イオン交換水とで接触角自体の差も僅かである。
【0042】
、筆記具用のインキにおいては、界面活性剤等、添加剤を含有して表面張力(インキ収容筒との接触角)をコントロールすることもできる。
なお、万年筆用インキ(INK-30-B)の成分として、染料、水、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤等を含む。また、万年筆用インキ(INK-30-B)の表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器(DY-200)を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定したところ、51mN/mであった。
【0043】
【表2】
【0044】
測定結果をグラフ化したものを図1に示す。図1は、アルミナから形成され、異なる表面粗さを有する試料を試作し、各試料の接触角を測定した結果を示すグラフである。横軸に表面粗さRa[μm]を示し、縦軸に接触角[度]を示す。上記の試料1~4をプロットし、それらの点を滑らかな曲線で繋いでグラフ化した。
【0045】
図1から明らかなように、表面粗さが増加するにつれて、接触角が増加していく傾向を示した。特に、表面粗さRa[μm]が0.1μm以下の場合には、表面粗さの増加に対する接触角の増加の度合い(グラフの傾き)が大きく、表面粗さRa[μm]が0.1μmより大きい場合には、表面粗さの増加に対する接触角の増加の度合い(グラフの傾き)が小さくなっていく傾向を示した。
【0046】
グラフから、内面の表面粗さRa[μm]が0.01μm以上であれば、60度より大きな接触角が得られ、十分なインキのビジブル性が得られると考えられる。内面の表面粗さRa[μm]が0.03μm以上であれば、65度より大きい接触が得られ、より良好なインキのビジブル性が得られ、0.05μm以上であれば、70度より大きい接触角が得られ、更に良好なインキのビジブル性が得られると考えられる。
なお、内面の表面粗さRaは、株式会社小坂研究所社製の触針式表面粗さ計(製品名:サーフコーダ SE-3400)を用いて、JIS B 061-2001の測定条件で測定される。
【0047】
(インキのビジブル性とインキ視認性のバランス)
上記のように、内面の表面粗さが増加すると接触角が増していくので、インキのビジブル性(濡れ性)にとっては有利であるが、一方、表面粗さが増加すると透明度が減少する虞がある。つまり、表面粗さが増加すると表面における光の散乱が増加して、インキ視認性が低下する虞がある。
【0048】
表面粗さ及び透明度の関係の検討が、例えば、色材協会誌 92[5]131-1352019)技術論文”透明アクリル樹脂いたの表面性状が視覚のテクスチャに及ぼす影響”に記載されている。測定したアクリル樹脂の表面粗さと透過率との関係が、Fig.6に示されている。
Fig.6によれば、算術平均高さSa(ISO25178)の値が1μm以下の場合、全光線透過率は80%を超えると考えられる。また、算術平均高さSa(ISO25178)の値が0.3μm以下の場合、全光線透過率は85%以上となると考えられる。更に、「算術平均高さSa(ISO25178)の値が0.1μm以下の場合、全光線透過率は90%を超えており、一般的なアクリル樹脂の光学特性と一致している。(3.2項参照)」と記載されている。
【0049】
表面粗さの透過率に対する影響は、透光性を有するセラミック材料でも透明アクリル樹脂と同様な傾向を示すと考えられ、算術平均粗さRa(JISB0601)と算術平均高さSa(ISO25178)とは、基本的に同じ指標であり、算術平均粗さRa(JISB0601)の値を小さくすることで、セラミック材料においても全光線透過率が向上すると推測できる。このため、用いる素材によっても異なるが、算術平均粗さRa(JISB0601)の値を1μm以下とすることで、良好な透過率、例えば30%以上の透過率が得られやすく、表面粗さによる影響は限定的であり、目視による十分なインキ視認性が得られると考えられる。また、算術平均粗さRa(JISB0601)の値が0.3μm以下であれば、より全光線透過率が向上するので、より良好なインキ視認性が得られると考えられる。更に、算術平均粗さRa(JISB0601)の値が0.1μm以下とすることで、更に良好なインキ視認性(例えば50%以上の透過率)が得られると考えられる。
【0050】
以上のように、インキのビジブル性及びインキ視認性の両立を考えると、内面の表面粗さRa[μm]が、
0.001μm以上1μm以下の範囲にあることが好ましく、
0.005μm以上1μm以下の範囲にあることがより好ましく、
0.01μm以上1μm以下の範囲にあることが更に好ましく、
0.03μm以上0.3μm以下の範囲にあることが特に好ましく。
0.05μm以上0.1μm以下の範囲にあることが最も好ましい。
なお、表面粗さRa[μm]の範囲については、上記の任意の下限値と上限値とを組み合わせることができる。
【0051】
内部領域の内面の表面粗さRa[μm]が0.001μm以上1μm以下の範囲にある場合には、インキ視認性及びガスバリア性に優れるとともに、インキのビジブル性にも優れたインキ収容筒を提供することができる。また、内面の表面粗さRa[μm]が0.005μm以上1μm以下の範囲にある場合には、より優れたインキのビジブル性を有するインキ収容筒を提供することができる。更に、内面の表面粗さRa[μm]が0.01μm以上1μm以下の範囲にある場合には、更に優れたインキのビジブル性を有するインキ収容筒を提供することができる。更に、内面の表面粗さRa[μm]が0.03μm以上0.3μm以下の範囲にある場合には、インキ視認性により優れるとともに、インキのビジブル性により優れたインキ収容筒を提供することができる。更に、内面の表面粗さRa[μm]が0.05μm以上0.1μm以下の範囲にある場合には、インキ視認性に更に優れるとともに、更に優れたインキのビジブル性を有するインキ収容筒を提供することができる。
【0052】
(インキ収容筒に収容されるインキ)
インキ収容筒に収容されるインキについて、以下に説明する。
本発明のインキ収容筒に収容されるインキは、通常、筆記具に用いられる筆記具用のインキを用いることができる。以下、インキに用いられる成分およびインキの物性について、説明する。
【0053】
<有機溶剤>
本実施形態で用いるインキに用いられる有機溶剤は、ガスバリア性の観点から、有機溶剤の蒸発を抑制し、インキ経時安定性を考慮すると、沸点160℃以上の有機溶剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、沸点200℃以上の有機溶剤を用いることが好ましい。一方、沸点が300℃を超えると、筆跡乾燥性に影響を生じやすい。このため、沸点が300℃以下とすることが好ましい。
【0054】
具体的には、水性インキに用いられる有機溶剤としては、グリセリン(290℃)、ジエチレングリコール(245℃)、トリエチレングリコール(276℃)、ジプロピレングリコール(225℃)、プロピレングリコール(188℃)、エチレングリコール(198℃)等を挙ることができる。
油性インキの有機溶剤としては、ベンジルアルコール(205℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(245℃)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(170℃)等を挙ることができる。
【0055】
<インキ粘度>
本実施形態で用いるインキの20℃、静止時におけるインキ粘度は、30000mPa・s以下にすることが好ましい。30000mPa・sを越えると、インキ追従性に影響がしやすく、本実施形態に係るインキ収容筒に対する、インキのビジブル性に影響しやすいためである。より、インキのビジブル性の向上を考慮すれば、インキ粘度は、10000mPa・s以下にすることがより好ましく、5000mPa・s以下がさらに好ましく、4000mPa・s以下が特に好ましく、3000mPa・s以下が更に好ましい。
なお、静止時のインキ粘度とは、以下の条件でインキ粘度を測定したものである。
油性インキの場合は、20℃、剪断速度5sec-1でインキ粘度を測定。
水性インキの場合は、20℃、剪断速度1.92sec-1でインキ粘度を測定。
【0056】
以上のように、内部領域に収容されたインキの20℃、静止時におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下である場合には、インキ収容筒において優れたインキのビジブル性を得ることができる。
【0057】
<インキ表面張力>
本実施形態で用いるインキの20℃における表面張力は、20mN/m以上であることが好ましい。インキの表面張力が上記数値範囲以上であれば、本実施形態に係るインキ収容筒に対する、インキのビジブル性を向上することができる。上記効果の向上とともに、ペン先からのインキの吐出性を良好に維持し、良好な筆跡を得ることを考慮すれば、インキの表面張力は、25~65mN/mであることがより好ましく、30~60mN/mであることが更に好ましい。
【0058】
以上のように、収容されたインキの20℃におけるインキ表面張力が20mN/m以上である場合には、インキ収容筒において優れたインキのビジブル性を得ることができる。
なお、インキの表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器(DY-200)を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0059】
(インキ追従体)
インキ収容筒の内部領域に収容したインキの後端には、インキの消費に追従するインキ追従体が充填されることが好ましい(図3の”F”参照)。これは、セラミック材料のインキ収容筒において、インキ追従性を良好とし、インキのビジブル性を良好とすることができるためである。更に、液栓の効果も得られるため、ガスバリア性の観点からも、より溶媒蒸発を抑制し、インキ経時安定性を良好となりやすいためである。
【0060】
インキ追従体として、液状または固体の何れも用いることもでき、液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、シリコーン油等の不揮発性媒体を含むことが好ましく、所望により媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム等を添加することもできる。
【0061】
以上のように、収容されたインキの後端に、インキの消費に追従するインキ追従体が充填されている場合には、インキ追従性を良好とし、より優れたインキのビジブル性を得ることができる。
【0062】
(インキ収容筒を備えた筆記具)
次に、図2及び図3を参照しながら、ボールペンの場合を例にとって、インキ収容筒を備えた筆記具の説明を行う。図2は、ボールペンのレフィルとして機能する本発明の1つの実施形態に係るインキ収容筒を備えた筆記具を模式的に示す側面断面図である。図3は、ボールペンのレフィルとして機能する本発明のその他の実施形態に係るインキ収容筒を備えた筆記具を模式的に示す側面断面図である。
【0063】
図2に示す筆記具(ボールペン)10では、内部領域にインキG1が収容されたインキ収容筒2(透光性セラミックス)の先端側に、ボールペンチップ4が直接装着されている。また、図3に示す筆記具(ボールペン)10では、内部領域にインキG2が収容されたインキ収容筒2の先端側に、チップホルダ6を介してボールペンチップ4が装着されている。図3示す筆記具(ボールペン)10では、収容されたインキGの後端に、インキの消費に追従するインキ追従体F(ポリブテン含有)が充填された場合を示す。
【0064】
なお、インキG1のインキ粘度は、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR-G2(ステンレス製40mm 2°ローター)を用いて20℃環境下で、剪断速度5sec-1(静止時)の条件にてインキ粘度を測定したところ、20000mPa・sであった。
インキG2のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃環境下で、剪断速度1.92sec-1(静止時)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1600mPa・sであった。
【0065】
インキG2の表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器(DY-200)を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定したとこころ、28mN/mであった。
インキG1の成分:染料、ベンジルアルコール(205℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(245℃)、ブチラール樹脂、アミン、界面活性剤を含む
インキG2の成分:顔料、グリセリン(290℃)、水、アミン、界面活性剤、防腐剤、キサンタンガムを含む。
【0066】
何れの場合も、ガスバリア性及びインキ視認性の両方に優れたインキ収容筒2及び筆記具(ボールペン)10を提供することができる。
【0067】
本実施形態に係るインキ収容筒をは、ボールペンに装着する場合に限られるものではなく、マーカや万年筆等に装着することもできる。内部領域に収容されるインキも、既知の任意の油性インキまたは水性インキを採用することができる。
【0068】
以上のように、本発明の第1の実施態様は、
筆記具用のインキを収容する内部領域を有し、
外部から前記内部領域に収容されたインキを視認可能な程度の透光性を有するセラミック材料から形成されるインキ収容筒である。
【0069】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、
前記内部領域の内面の算術表面粗さRaが0.001μm以上1μm以下の範囲にあるインキ収容筒である。
【0070】
本発明の第3の実施態様は、第1または第2の実施態様において、
収容されたインキと該インキと接する前記内部領域の内面との間の接触角が50度以上であるインキ収容筒である。
【0071】
本発明の第4の実施態様は、第1から3の実施態様の何れかにおいて、
前記セラミック材料がアルミナであるインキ収容筒である。
【0072】
本発明の第5の実施態様は、第1から4の実施態様の何れかにおいて、
収容されたインキの20℃におけるインキ表面張力が20mN/m以上であるインキ収容筒である。
【0073】
本発明の第6の実施態様は、第1から5の実施態様の何れかにおいて、
収容されたインキの20℃、静止時におけるインキ粘度が30,000mPa・s以下であるインキ収容筒である。
【0074】
本発明の第7の実施態様は、第1から6の実施態様の何れかにおいて、
収容されたインキの後端に、インキの消費に追従するインキ追従体が充填されているインキ収容筒である。
【0075】
本発明の第8の実施態様は、
第1から7の実施態様の何れかのインキ収容筒を備えた筆記具である。
【0076】
本発明の実施の形態を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0077】
2 インキ収容筒
10 筆記具
F インキ追従体
G1、G2 インキ
図1
図2
図3