(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164030
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】アンテナ装置および接地点の設定位置決定方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/28 20060101AFI20231102BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01Q21/28
H01Q1/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075325
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】門間 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 一成
(72)【発明者】
【氏名】岸上 良文
(72)【発明者】
【氏名】若原 忍
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 剛司
【テーマコード(参考)】
5J021
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AA02
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB02
5J021HA10
5J021JA03
5J021JA07
5J046AA02
5J046AA07
5J046AA12
5J046AB06
5J046UA02
(57)【要約】
【課題】アンテナ素子間のアイソレーション性能を向上させ、送受信感度を向上させることができるアンテナ装置および接地点の設定位置決定方法を提供する。
【解決手段】複数のアンテナ素子(11A,11B)と一方の面に前記アンテナ素子が実装されたプリント基板(12)とを備え、プリント基板上の電子部品とケーブルの端部が接続される端子との間を接続する配線パターンが前記プリント基板に形成されているアンテナ装置において、前記プリント基板の、前記複数のアンテナ素子のうちいずれかのアンテナ素子に給電した際に電流が相対的に多く流れる領域でありかつ前記配線パターンが形成されていない領域内であって、前記複数のアンテナ素子から等距離の位置に近い箇所に高周波的な接地点を設けるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子と、一方の面に前記複数のアンテナ素子が実装されたプリント基板と、を備え、前記プリント基板上の電子部品とケーブルの端部が接続される端子との間を接続する配線パターンが前記プリント基板に形成されているアンテナ装置であって、
前記プリント基板の、前記複数のアンテナ素子のうちいずれかのアンテナ素子に給電した際に電流が相対的に多く流れる領域でありかつ前記配線パターンが形成されていない領域内であって、前記複数のアンテナ素子から等距離の位置に近い箇所に高周波的な接地点が設けられていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記プリント基板には、前記接地点を含む領域から当該プリント基板の配線パターンを除く領域に亘って広がる導電層のパターンが形成され、前記接地点は前記導電層のパターンに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記プリント基板の前記一方の面と反対側の面に対向するように設けられ当該プリント基板と所定の間隔をおいて離間され接地電位が印加されるグランド基板を備え、
前記プリント基板の前記グランド基板と対向する面の前記接地点の位置には、導電性の板バネからなるバネ接点の一方の端部が接続され、当該バネ接点の他端が前記グランド基板の前記接地点と対向する部位に接続されていることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記グランド基板の複数箇所に台座部が形成されており、前記台座部に前記プリント基板が導電性のネジによって結合され、複数の前記台座部のうち少なくとも一部の台座部に対応する前記プリント基板の接合領域に前記導電層のパターンが延設されていることを特徴とする請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
複数の前記台座部のうち、上方に前記アンテナ素子が存在する台座部に対応する前記プリント基板の接合領域には前記導電層のパターンが延設されていないことを特徴とする請求項4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
複数のアンテナ素子と、一方の面に前記複数のアンテナ素子が実装されたプリント基板と、を備えたアンテナ装置における前記プリント基板への高周波的な接地点の設定位置決定方法であって、
シミュレーションによって、前記複数のアンテナ素子のうちいずれかのアンテナ素子に給電した際におけるアンテナ装置の電流分布を取得する工程と、
前記電流分布に基づいて前記プリント基板の電流が相対的に多く流れる領域を抽出する工程と、
抽出された領域に前記プリント基板上の電子部品とケーブルの端部が接続される端子との間を接続する配線パターンが形成されている部位があるか否か判定する工程と、
前記抽出された領域に前記配線パターンが形成されている部位がある場合に、前記領域内の前記部位を除く範囲であって、前記複数のアンテナ素子から等距離の位置に近い箇所を、前記高周波的な接地点の設定位置として決定する工程と、
含むことを特徴とする接地点の設定位置決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板上に実装されたアンテナ素子を備えたアンテナ装置および接地点の設定位置決定方法に関し、例えば車両搭載用のアンテナ装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されて所定の周波数帯の無線通信信号を送受信するアンテナ装置は小型であることが要望されるため、アンプやフィルタなどの電子部品が実装されたプリント基板あるいは地板上にアンテナ素子(アンテナエレメント)を実装したデバイスが実用化されている。また、1つの基板上あるいは筐体内に複数のアンテナ素子を実装したデバイスもある。しかし、アンテナ素子同士の距離が短いと干渉が発生し、アンテナの送受信感度が低下するという問題があることが知られている。
【0003】
複数のアンテナ素子間の干渉を防止するには、アンテナ素子同士の距離を大きくすることが有効であるが、車両搭載用のアンテナ装置のように小型化が要求されるアンテナ装置には採用することができない。
また、他のアンテナとの干渉を低減させるため、それぞれのアンテナに車外と車室内という互いに逆方向の指向性を持たせることでアイソレーション性能を確保するようにした車載用の統合アンテナに関する発明がある(特許文献1)。また、特許文献1には、車載用の複合アンテナにおいて、アイソレーション性能を向上させるため、車外との通信のアンテナは、地板の中心を基準に所定の距離だけ車室の前方向または後方向にオフセットさせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているアンテナ装置のように、アンテナに互いに逆方向の指向性を持たせることでアイソレーション性能を確保するようにする場合、アンテナの向きによって送受信感度が変化するため、車外からの電波の受信や車外との通信および車室内での無線通信を良好にするというような限定的な用途を除き、採用することは適切でない。
また、例えば自動車のダッシュボード内には、アンテナ以外にケーブルやチューナー等が密集して配設されているため、車載用のアンテナには小型であることが望まれており、アンテナ同士の距離を離すのは小型化とは逆行する。
【0006】
この発明は上記のような課題に着目してなされたものでその目的とするところは、複数のアンテナ素子を基板上に近接して実装する場合にも、アンテナ素子間のアイソレーション性能を向上させ、送受信感度を向上させることができるアンテナ装置および接地点の設定位置決定方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、送受信感度を低下させることなく複数のアンテナ素子を基板上に近接して実装することができ、筐体の小型化を図ることができるアンテナ装置および接地点の設定位置決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
複数のアンテナ素子と、一方の面に前記複数のアンテナ素子が実装されたプリント基板と、を備え、前記プリント基板上の電子部品とケーブルの端部が接続される端子との間を接続する配線パターンが前記プリント基板に形成されているアンテナ装置であって、
前記プリント基板の、前記複数のアンテナ素子のうちいずれかのアンテナ素子に給電した際に電流が相対的に多く流れる領域でありかつ前記配線パターンが形成されていない領域内であって、前記複数のアンテナ素子から等距離の位置に近い箇所に高周波的な接地点が設けられているように構成したものである。
【0008】
上記のような構成を有するアンテナ装置によれば、回路基板や給電がなされていない側のアンテナ素子に流れる電流を接地点の近傍に集中させることができ、それによって複数のアンテナ素子間のアイソレーション性能が向上し、他のアンテナ素子の影響が低減されるため、送受信感度が向上する。
また、アイソレーション性能が向上するため、物理的に接触しない範囲までアンテナ素子同士を近づけることができ、アンテナ装置を収納する筐体の小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数のアンテナ素子を基板上に近接して実装する場合にも、アンテナ素子間のアイソレーション性能を向上させ、送受信感度を向上させることができる。また、送受信感度を低下させることなく複数のアンテナ素子を基板上に近接して実装することができ、筐体の小型化を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明を適用したアンテナ装置の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1におけるII-II線に沿った断面構造を示すアンテナ装置の断面図である。
【
図3】
図1のアンテナ装置の回路基板におけるマイクロストリップラインが設けられる範囲を示すアンテナ装置の平面図である。
【
図4】(A),(B)は回路基板に接地点を設けたアンテナ装置および接地点を設けないものに関して、アンテナ素子および回路基板の表面に流れる電流の分布をシミュレーションによって検証した結果を示す電流分布図である。
【
図5】回路基板に接地点を設けたアンテナ装置および接地点を設けないものに関して算出した電話通信用の周波数帯におけるアイソレーション特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るアンテナ装置の一実施形態の斜視図を示す。なお、以下の説明においては、
図1のアンテナ装置10の左下側を前端側、右上側を後端側と称する。また、便宜上、
図1の状態で上側となる向きを上方、下側となる向きを下方と称する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のアンテナ装置10は、導電性金属板からなる2個のアンテナ素子11A,11Bと、これらのアンテナ素子11A,11Bが実装される回路基板12と、回路基板12の下方に配設され当該回路基板12の下面側にボルトにて結合される導電性金属からなる平板状のブラケット13とを備え、ブラケット13には接地電位が印加され、グランド基板として機能する。なお、ブラケット13は、回路基板12よりも一回り大きな矩形状をなし、回路基板12の下面側を保護する筐体としての機能も有している。
【0013】
特に限定されるものでないが、本実施形態のアンテナ装置10においては、2個のアンテナ素子11A,11Bは対称形状を有し同一周波数帯の信号(電波)を受信するように形成されている。また、それぞれのアンテナ素子11A,11Bは、回路基板12と平行をなす水平部11aと、この水平部11aの一つの辺から回路基板12へ向かって垂下する垂直部11bと、該垂直部11bから後方へ90度折曲された折返し部11cと、折返し部11cから下方へ向って折曲された脚部11dとより構成され、所定の間隔をおいて配設されている。
【0014】
さらに、アンテナ素子11A,11Bの脚部11dの下端に複数(例えば2個)の係合突起11eが設けられ、この係合突起11eが回路基板12の所定部に形成されているスリット状の係合穴に係合することでアンテナ素子11A,11Bが回路基板12に結合される。また、上記2個の係合突起11eは半田付けによって回路基板12に結合され、2個の係合突起11eのうち、基板の側方側に位置する係合突起当該部位とコネクタの端子との間を電気的に接続するように形成されている給電用のストリップラインと電気的に接続され、アンテナ素子11A,11Bへの給電点となるように構成されている。
【0015】
上記回路基板12は、導電層からなる配線パターンを有するプリント基板により構成されており、図示しないが、分配器やアンプ、フィルタ、アッテネータなどを構成する電子部品が実装されている。そして、回路基板12の下面であってアンテナ素子11A,11Bの垂直部11b間の近傍位置には、下方へ向かって突出するように、後方から見たときにZ字状をなす導電材の板バネからなるバネ接点14が固定されている。具体的には、バネ接点14は、上部水平片と該上部水平片の端部から斜め下方へ突出する傾斜片と、該傾斜片から水平方向へ折り返す下部水平片を有しており、上部水平片が回路基板12の下面に接続されている。なお、バネ接点14の形状はZ字状に限定されるものではない。
【0016】
また、回路基板12の下面のアンテナ素子結合側の縁部には、チューナーなどを有するヘッドユニットと呼ばれる機器に繋がる同軸ケーブル(以下、ケーブルと略す)の端部が下方より挿入されて接続されるコネクタ15が設けられている。なお、コネクタ15は、その上面の両側部に上向きに突出し先端に爪を有する複数の係止片15aが形成されており、これらの係止片15aが回路基板12の所定部に形成されている係合穴に挿入されることで、回路基板12に結合されている。そして、回路基板12には、コネクタ15のケーブル内導体が接続される端子と前記アンテナ素子11A,11Bの給電点(
図5のPa,Pb)との間を接続する線状の配線パターン(ストリップライン)が形成されている。
【0017】
さらに、回路基板12には、このバネ接点14の設定位置を含み、上記電子部品間および電子部品とコネクタ間を電気的接続する配線パターン(ストリップライン)を除く大部分の領域に亘って導電層が形成されている。そして、この導電層に電気的接続された状態で上記バネ接点14が回路基板12に接続され、バネ接点14の傾斜片の下端の下部水平片が、
図4に示すように、前記ブラケット13に結合されるように高さが設定されている。
【0018】
上記のように、バネ接点14が接地電位のブラケット13に接続されることによって、回路基板12の上記導電層に接地電位が印加された状態になる。つまり、バネ接点14が回路基板12の接地点となる。このバネ接点14の設定位置の決定の仕方が本発明のポイントであり、これについては後に詳しく説明する。
【0019】
一方、ブラケット13には、上記コネクタ15に対応する部位に開口13aが形成され、この開口13aの内側にコネクタ15が挿通されている。また、ブラケット13の複数箇所(図では4箇所)には、当該ブラケット13の一部を切り起こして前面視で「ユ」の字状に折曲した台座部13bが形成されている。そして、これらの台座部13bの上面に上記回路基板12の下面が接合されるとともに、台座部13bの上部水平片と回路基板12の対応する部位に形成されているネジ挿通穴12bに挿通される図示しないネジによって、回路基板12とブラケット13が結合されるように構成されている。
【0020】
なお、
図1に示すような構成のアンテナ装置においては、アンテナ素子11A,11Bと回路基板12との間隔はアンテナの受信感度に影響し間隔が大きい方が良いが、回路基板12とブラケット13との間隔はアンテナの受信感度に影響しないので、台座部13bをなくして回路基板12の下面とブラケット13の上面とを接合させるように構成することも可能である。にもかかわらず、上記のように、ブラケット13に台座部13bを設けているのは、使用するコネクタ15の高さを充分に小さくすることが難しい一方、
図1に示すアンテナ装置全体を収納するケースの下面よりのコネクタ15の突出量がユーザの仕様により規定されているためである。従って、条件によっては、ブラケット13に台座部13bを設けないようにしても良い。
【0021】
さらに、上記4箇所の台座部13bのうちコネクタ15の左右に位置する2個の台座部に対応する回路基板12のネジ挿通穴12bの周囲には、回路基板12内の前記導電層が延設されている。これにより、台座部のネジ挿通穴と対応する回路基板12のネジ挿通穴12bに導電性を有するネジを挿通して回路基板12とブラケット13を結合すると、ネジを介して回路基板12とブラケット13とが電気的に接続されるようになっている。
【0022】
一方、4箇所の台座部13bのうちコネクタ15から遠い側に位置する2個の台座部に対応する回路基板12のネジ挿通穴12bの周囲には、前記導電層が延設されていない。つまり、回路基板12の前記導電層に対する接地電位の印加は、前記バネ接点14およびコネクタ15の左右に位置する2個の台座部13bに限定されることとなる。
このようにしているのは、本実施形態のアンテナ装置においては、コネクタ15から遠い側に位置する2個の台座部の上方にアンテナ素子11A,11Bの一部が存在しており、この部位まで回路基板12の前記導電層を延設すると、アンテナ素子11A,11Bと導電層との距離が小さくなって受信感度が低下してしまうためである。
【0023】
これに対して、コネクタ15の左右に位置する2個の台座部13bの上方にはアンテナ素子11A,11Bがないので、回路基板12の導電層とブラケット13との間を接続したとても受信感度が低下することはない。そのため、コネクタ15の左右に位置する2個の台座部においても接地電位との接続を行うことができる。そして、ここでの接続では接地電位の印加が不足するので、本実施形態においては、別途バネ接点14を設けることで接地電位の印加が不足する事態を回避するようにしている。
【0024】
なお、弾性変形可能なバネ接点14の代わりに、弾性変形しないネジのような部材で回路基板12の前記導電層とブラケット13との接続を行うようにしても良いし、バネ接点14やネジは金属製に限定されるものでなく、導電性材料であれば樹脂など金属以外の材料であっても良い。また、本実施形態のアンテナ装置10においては、同一周波数帯の信号(電波)を受信する2個のアンテナ素子11A,11Bを設けているが、アンテナ素子は3個以上であっても良いし、長さを変えることでアンテナ素子11Aと11Bが異なる周波数帯の信号(電波)を受信するように構成しても良い。
【0025】
本発明の特長は、アンテナ素子が実装された回路基板上において接地点を設ける位置を、一方のアンテナ素子へ給電をしている状態で、回路基板上の電流の分布にて比較的電流が多く流れている領域であって、マイクロストリップラインが存在せずかつ2個のアンテナ素子からの距離が比較的同じにある領域に設定して、そこに電流を集中させるというものである。
【0026】
以下、本実施形態のアンテナ装置10において、アンテナ素子間のアイソレーション性能を向上させ、送受信感度を向上させることができるようにした理由について説明する。
本発明者らは、本発明に先立って、
図1に示すような構成を有するアンテナ装置(バネ接点有り)及びこれと同様な構成を有しバネ接点14を設けないもの(バネ接点無し)に関して、回路基板12の表面に流れる電流の分布をシミュレーションによって検証した。
【0027】
検証結果を
図4(A),(B)に示す。
図4(A)は接地点無しのアンテナ装置に関するもの,
図4(B)は接地点有りのアンテナ装置に関するもので、いずれもアンテナ素子11Aへのみ給電を行なっている状態での電流分布である。なお、左右のL字のパターンがアンテナ素子であり、アンテナ素子11Aへの給電点は符号Paで示されている。また、
図4においては、電流の多い部分ほど白色に近い明色で表され、電流の少ない部分ほど黒色に近い暗色で表されている。
【0028】
図4(A)の電波分布に着目すると、給電をしていない側のアンテナ素子11Bは明色でありアンテナ素子11Bにも比較的多くの電流が流れていることから、アンテナ素子同士が干渉しておりアイソレーションが行えていないことが分かる。また、回路基板12の中央部分すなわち2つのアンテナ素子11Aと11Bの間の中心寄りの部分も明色で電流が多く流れていることを意味しており、電流が多く流れていることが分かる。
【0029】
そこで、本発明者らは、回路基板12上の電流の分布にて比較的電流が多く流れているアンテナ素子11Aと11Bの間の中心寄りの領域であって、マイクロストリップラインが存在せずかつ2個のアンテナ素子からの距離が比較的同じにある領域に、接地点を設けた場合について、シミュレーションにより電流分布を検証した。
図4(B)に、その結果を示す。
【0030】
図3および
図4(B)において、符号Gが付されている箇所が接地点を設けた位置である。接地点の位置Gが、アンテナ素子11Aと11Bの間の中心でなくアンテナ素子11Aの側にずれているのは、アンテナ素子11Aと11Bの間の中央には、
図3に示すように、回路を構成する素子(電子部品)とコネクタ15の端子との間を接続するマイクロストリップラインが設けられる領域Eがあるためである。
図4(B)より、電流は接地点の位置Gの周辺に集中しており、アンテナ素子11Bにはほとんど電流が流れていない、つまりのアンテナ素子11A,11B間の干渉がなく、アイソレーション性能が向上していることが分かった。
【0031】
そこで、次に、上記のような箇所に接地点を設けたアンテナ装置について、電話通信用の周波数帯におけるアイソレーション特性を算出した。
図5に、その結果を示す。
図5において、実線Aは接地点有りの場合のアイソレーションレベル、破線Bは接地点無しの場合のアイソレーションレベルを示したものである。
図5より、低い周波数帯(699~960MHz)で、接地点無しの場合のアイソレーションレベルは-10dB~-15dBであるのに対し、接地点有りの場合のアイソレーションレベルは-20dB~-35dBであり、大幅にアイソレーション特性が向上することが分かる。
【0032】
なお、
図5より、高い周波数帯においては、接地点無しの場合のアイソレーションレベルと接地点有りの場合のアイソレーションレベルとにあまり差異はなく、上記対策を行なったとしても高い周波数帯でのアイソレーション性能はほとんど向上しないことが分かる。従って、高い周波数帯でのアイソレーション性能を向上させるには他の対策が必要である。ただし、接地点有りと接地点無しいずれの場合もアイソレーションレベルは-15dB以下あるので、ユーザの仕様によっては、別途対策をせず上記対策のみで済ませることができる場合もある。
【0033】
本実施形態のアンテナ装置においては、上述したような箇所に接地点を設けることによって、回路基板や給電されていない側のアンテナ素子に流れる電流を接地点の近傍に集中させることができ、それによってアイソレーション性能が向上し、他方のアンテナ素子の影響が低減されるため、送受信感度が向上する。また、アイソレーション性能が向上するため、物理的に接触しない範囲までアンテナ素子同士を近づけることができ、アンテナ装置を収納する筐体の小型化が可能となるという利点がある。
【0034】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、回路基板12の接地点とブラケット13との接続をバネ接点のような物理的に接触する手段で行なっているが、例えば対向電極や金属層同士が向かい合ってキャパシタのように振る舞う構造によって高周波的に接続されていればよく、物理的に接触している必要はない。
また、アンテナ素子の形状も、
図1に示すものに限定されず、他の形状を有するアンテナ素子を回路基板に実装したアンテナ装置に適用することができる。
【0035】
さらに、前記実施形態のように、マイクロストリップラインが設けられるなどの理由により、接地点の位置Gをアンテナ素子11Aと11Bより等距離の位置からどちらかに一方に片寄った位置に設定した場合、回路基板12の中心線を挟んで上記位置Gの対称位置にも接地点を設けるようにしても良い。なお、2箇所に接地点を設けたとしてもアイソレーション性能がそれほど大きく向上するわけではない場合、費用対効果の観点から2箇所に接地点を設けるか1箇所にするか決定すれば良い。
【符号の説明】
【0036】
10…アンテナ装置、11A,11B…アンテナ素子、12…回路基板(プリント基板)、12b…ネジ挿通穴、13…ブラケット(グランド基板)、13b…台座部、14…バネ接点(接地点)、15…ケーブルのコネクタ、Pa,Pb…給電点、G…接地点の設定位置