(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164066
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】流量制御弁
(51)【国際特許分類】
F16K 1/36 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
F16K1/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075374
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】岩井 一弘
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅明
【テーマコード(参考)】
3H052
【Fターム(参考)】
3H052AA01
3H052BA02
3H052CA23
(57)【要約】
【課題】低温環境で使用してもシール性を維持する。
【解決手段】流体通路となる第1ポートと、流体通路となる第2ポートと、この第2ポート及び第1ポートと連通する通路室と、この通路室に形成されるリング状の弁座とを有する制御弁ハウジングを備えている。また、弁座に着座離脱する弁体部材と、この弁体部材を弁座に着座させる第1方向と弁座より離脱させる第2方向に移動させる電磁弁も備えている。そして、弁体部材の弁座との着座位置には、弁座に当接するリング状の主シール部と、弁座に当接するリング状の副シール部とを配置し、主シール部に比して副シール部はより変形しやすい低硬度の弾性材で構成している。そのため、低温時に主シール部の硬度が上がり弁座との間のシール性能が低下しても、副シール部が主シール部を補完して所定のシール性能を維持することが可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路となる第1ポートと、流体通路となる第2ポートと、この第2ポート及び前記第1ポートと連通する通路室と、この通路室に形成されるリング状の弁座とを備える制御弁ハウジングと、
前記弁座に着座離脱する弁体部材と、
この弁体部材を弁座に着座させる第1方向と弁座より離脱させる第2方向に移動させる電磁弁とを備え、
前記弁体部材の前記弁座との着座位置には、前記弁座に当接するリング状の主シール部と、前記弁座に当接するリング状の副シール部とを配置し、前記主シール部に比して前記副シール部はより変形しやすい低硬度の弾性材で構成している
ことを特徴とする流量制御弁。
【請求項2】
前記弁体部材が前記第1方向に移動する際、前記副シール部が先に前記弁座に当接し、次いで前記主シール部が前記弁座に当接する
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御弁。
【請求項3】
前記主シール部の断面形状は円弧状であり、前記副シール部の断面形状は薄板状となっている
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御弁。
【請求項4】
前記副シール部は、前記第1方向に向けて前記主シール部から離れる方向に傾斜している
ことを特徴とする請求項3に記載の流量制御弁。
【請求項5】
前記第1ポートを流れる流体の圧力と前記第2ポートを流れる流体の圧力で、いずれか一方の流体圧力が他方の流体圧力より高い場合には、前記副シール部は前記主シール部より流体圧力の高い側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御弁。
【請求項6】
前記第1ポートを流れる流体の圧力と前記第2ポートを流れる流体の圧力で、いずれか一方の流体圧力と他方の流体圧力とで高低が変動する場合には、前記副シール部はリング状をした前記主シール部の内周側と外周側の双方に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の流量制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体の流量を制御する流量制御弁に関する。本開示の流量制御弁は、例えば、ガソリン燃料を貯蔵する燃料タンクと、蒸発燃料を吸着するキャニスタと、このキャニスタと燃料タンクの空気空間とを結ぶキャニスタ通路と共に用いられ、キャニスタ通路を流れる空気の遮断を行う密閉弁に用いて好適である。尤も、本開示の流量制御弁は、キャニスタとエンジンの吸気通路との間に配置され、キャニスタに吸着された燃料を含むパージ空気の流量を制御するパージバルブとして用いても好適であり、他の用途にも用いることができる。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクとキャニスタとの間はキャニスタ通路により連通しているが、燃料タンクから蒸発燃料が漏出しないよう、キャニスタ通路を確実にシールすることが求められる。そのため、特許文献1に示すように、燃料タンクの燃料蒸発を抑制するためのタンク密閉弁が採用されている。特許文献1では、シール部が1つの凸部で形成されている。一方、二次空気供給システムの用途であるが、シール部を2つの凸部で形成する例が特許文献2に示されている。ただ、特許文献2の流体制御弁も特許文献1の密閉弁もシール部は単一の素材で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-291241号公報
【特許文献2】特開2016-8683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密閉弁が適用される車両が近年拡大されていることから、低温でのシール性の確保が求められてきている。それに対し、特許文献1でも特許文献2でもシール部が単一の素材で形成されるため、低温環境下での使用では、シール部の硬度が大きくなり(硬くなり)、シール性が悪化するという問題が生じる。本開示は、この点に鑑み、低温環境で使用してもシール性を維持することができる流体制御弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1は、流体通路となる第1ポートと、流体通路となる第2ポートと、この第2ポート及び第1ポートと連通する通路室と、この通路室に形成されるリング状の弁座とを備える制御弁ハウジングを備えている。また、本開示の第1は、弁座に着座離脱する弁体部材と、この弁体部材を弁座に着座させる第1方向と弁座より離脱させる第2方向に移動させる電磁弁も備えている。
【0006】
そして、本開示の第1では、弁体部材の弁座との着座位置には、弁座に当接するリング状の主シール部と、弁座に当接するリング状の副シール部とを配置し、主シール部に比して副シール部はより変形しやすい低硬度の弾性材で構成している。
【0007】
本開示の第1では、主シール部と副シール部とで素材を変え、副シール部を主シール部より低硬度の材料で構成している。そのため、低温時に主シール部の硬度が上がり弁座との間のシール性能が低下しても、副シール部が主シール部を補完して所定のシール性能を維持することが可能となる。
【0008】
本開示の第2では、弁体部材が第1方向に移動する際、副シール部が先に弁座に当接し、次いで主シール部が弁座に当接する。本開示の第2によれば、先に副シール部が弁座に当接するので、弁座に異物が存在したとしても、その異物は先に副シール部によって処理され、異物が主シール部と弁座との間に噛み込む恐れが低減できる。即ち、侵入した異物は副シール部に噛み込まれるので、主シール部まで侵入する恐れが低減できる。
【0009】
本開示の第3では、主シール部の断面形状は円弧状であり、副シール部の断面形状は薄板状となっている。断面が円弧状をした主シール部により確実なシール性能を発揮することができる。一方、副シール部は薄板形状であるので、仮に副シール部が異物を噛み込むことがあったとしても、副シール部が損傷する恐れは低減できる。なお、本開示における円弧状や薄板形状は真円であったり平板であったりする必要は無い。詳細は発明を実施するための形態で説明する。
【0010】
本開示の第4では、副シール部は、第1方向に向けて主シール部から離れる方向に傾斜している。そのため、弁座に異物が存在していたとしても、副シール部によって異物を主シール部から離す方向に移動させることができる。これにより、主シール部が異物を噛み込む恐れをさらに低減することができる。
【0011】
本開示の第5では、第1ポートを流れる流体の圧力と第2ポートを流れる流体の圧力で、いずれか一方の流体圧力が他方の流体圧力より高い場合には、副シール部は主シール部より流体圧力の高い側に配置される。即ち、主シール部に対して副シール部を流体流れの上流側に配置している。異物が流入する場合は、上流側からの侵入が通常であるので、副シール部を上流側に配置することで、主シール部への異物の侵入を効果的に抑制することが可能である。
【0012】
本開示の第6では、第1ポートを流れる流体の圧力と第2ポートを流れる流体の圧力で、いずれか一方の流体圧力と他方の流体圧力とで高低が変動する場合には、副シール部はリング状をした主シール部の内周側と外周側の双方に配置される。副シール部を主シール部の内周側と外周側の双方に配置することで、異物がいずれの方向から侵入してきたとしても、その上流側にいずれかの副シール部が位置することとなる。これにより、主シール部に異物が侵入するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】密閉弁が用いられるシステムを示す構成図である。
【
図5】
図4図示密閉弁のシール部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図4図示密閉弁のシール部材開状態を拡大して示す断面図である。
【
図7】
図4図示密閉弁のシール部材閉状態を拡大して示す断面図である。
【
図8】密閉弁の他の例のシール部材開状態を拡大して示す断面図である。
【
図9】密閉弁の他の例のシール部材閉状態を拡大して示す断面図である。
【
図10】密閉弁の更に他の例のシール部材開状態を拡大して示す断面図である。
【
図11】密閉弁の更に他の例のシール部材閉状態を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本開示の流量制御弁100が用いられるシステムの一例を示している。この例では、本開示の流量制御弁100は、密閉弁として用いられる。従って、この例においては、流量制御弁を密閉弁100と呼ぶ。密閉弁100は、ガソリンを貯蔵する燃料タンク10の上面の気相空間とキャニスタ20とを連通するパージ通路30に配置される。キャニスタ20は、活性炭により燃料タンク10から流入した空気に含まれる蒸発燃料を吸着する。キャニスタ20には大気導入口21が開口しており、内部は大気圧である。なお、図示していないが、大気導入口21には大気導入口21を閉じる大気導入弁が配置されている。
【0015】
密閉弁100には、燃料タンク10の正圧側リリーフ通路31及び負圧側リリーフ通路32が配置されている。正圧側リリーフ通路31には燃料タンク10内の圧力が大気圧より所定圧、例えば15キロパスカル程度高くなったときに正圧側リリーフ通路31を開いて、蒸発燃料と空気をキャニスタ20側に流す正圧側リリーフ弁33が配置されている。また、負圧側リリーフ通路32には燃料タンク10内の圧力が大気圧より所定圧、例えば8キロパスカル程度低くなったときに負圧側リリーフ通路32を開いて、空気をキャニスタ20から燃料タンク10側に流して、燃料タンク10内を大気圧に近づけようとする負圧側リリーフ弁34が配置されている。
【0016】
キャニスタ20に吸着された燃料は、出口側パージ通路40を介して、エンジン50のスロットルバルブ51下流の吸気通路52に供給される。出口側パージ通路40にはパージバルブ41が配置され、パージバルブ41により出口側パージ通路40の開閉、及び出口側パージ通路40を流れる蒸発燃料の量が制御される。
【0017】
エンジン50の運転状態を制御するコントローラ60は、スロットルバルブ51の開度等に応じて、インジェクタ53よりエンジン50に供給する燃料量や点火のタイミング等を制御する。密閉弁100の開閉はこのコントローラ60によって制御される。同様に、パージバルブ41の流量もこのコントローラ60により制御される。
【0018】
燃料タンク10の上面には圧力センサ11が配置され、燃料タンク10内の蒸発燃料及び空気の圧力を測定している。圧力センサ11の信号もコントローラ60に送信される。コントローラ60は、燃料タンク10への給油の状況や、圧力センサ11からの信号、パージバルブ41の制御状況等に応じて密閉弁100の開閉を制御する。
【0019】
密閉弁100は、
図2及び
図3に示すように、制御弁ハウジング110と電磁弁ハウジング250とを備えている。制御弁ハウジング110は、ポリフェニレンサルファイドPPS等の樹脂製で、パージ通路30を介して燃料タンク10と連通する第1ポート111と、パージ通路30を介してキャニスタ20と連通する第2ポート112が設けられている。第1ポート111及び第2ポート112は共に径が20ミリメートル程度、長さが50ミリメートル程度である。なお、本例では、上述の正圧側リリーフ弁33及び負圧側リリーフ弁34を収納するリリーフ弁ハウジング35が制御弁ハウジング110に連結している。
【0020】
図4に示すように、制御弁ハウジング110は第1ポート111と第2ポート112との間に円筒状の通路室113が形成されている。そして、第2ポート112よりこの通路室113に向けて円環状に弁座114が3ミリメートル程度突出形成されている。弁座114には後述する弁体部材301のシール部302が当接する。
【0021】
電磁弁ハウジング250内には、電磁弁200の各部材が収納されている。電磁弁ハウジング250はポリブチレンテレフタレートPBT製等の樹脂製である。そして、制御弁ハウジング110と電磁弁ハウジング250とは、
図4に示すように、Oリング254を介在させて、金属製結合板251によりカシメ固定されている。電磁弁ハウジング250には、密閉弁100を自動車の車体や燃料タンク10のブラケットにボルト止めするためのグロメット257が形成され、グロメット257にはボルト通し穴252が設けられている。また、電磁弁ハウジング250には、コネクタ253が形成されており、コネクタ253には、正電極255と負電極256との2本の電極ピンが配置されている。
【0022】
電磁弁200は、制御弁ハウジング110の通路室113の弁座114とは反対側に配置されている。電磁弁200は、ポリブチレンテレフタレートPBT等の樹脂製のボビン201に多数回巻装されたコイル202を備えている。コイル202は、コネクタ253の正電極255及び負電極256と電気接続している。そして、正電極255及び負電極256より駆動電圧を受けてコイル202に通電された際には、コイル202は励磁する。その際の磁気回路を形成するようにコイル202の外側には鉄製のヨーク203が配置されている。また、コイル202の内周側には同じく鉄製のステータコア204が配置されて、磁気回路を形成している。
【0023】
ステータコア204は円筒形状をしており、内部には鉄製で円筒形状をしたムービングコア205が移動可能に配置されている。ステータコア204には、磁気絞り部204aが形成され、この磁気絞り部204aにより、ステータコア204とムービングコア205との間に磁気ギャップ206が形成される。コイル202の励磁時にはこの磁気ギャップ206を縮めるべく、ムービングコア205は
図4で上方向(第2方向b)に吸引される。そして、バネ207はムービングコア205を吸引方向と反する方向(第1方向a)に付勢している。バネ207は一方をムービングコア205に支持され、他方はバネ受け部材208によって支持されている。バネ受け部材208はステータコア204の内周に配置されている。
【0024】
制御弁ハウジング110の通路室113には、弁座114と対向する位置に円筒状の弁体部材301が配置される。弁体部材301はポリフェニレンサルファイドPPS等の樹脂製で、弁座114とのシール性を高めるため、弁座114と接する位置にリング状のシール部302が配置されている。シール部302は、
図5に示すように、主シール部303と副シール部304とに分かれている。
【0025】
主シール部303は断面が円弧状の凸部で、低温フッ素ゴム製である。主シール部303の硬度はデューロメータタイプAで52DuroA程度であり、主シール部303の突出高さは1ミリメートル程度である。一方、副シール部304は断面が薄板状のリップシールで、発泡フッ素ゴム製である。副シール部304の硬度はデューロメータタイプAで35DuroA程度であり、副シール部304の長さは2.2ミリメートル程度である。
【0026】
副シール部304は主シール部303の外周側に配置されている。即ち、主シール部303が第2ポート112側に配置され、副シール部304は第1ポート111側に配置されている。また、薄板状のリップシールである副シール部304は、第2方向bに向けて主シール部303から離れる方向に傾斜している。傾斜角度としては45度程度である。本例では、主シール部303と副シール部304とは二色成形でシール部302として一体に成形されている。尤も、主シール部303と副シール部304とを別々に成形して両者を接着してもよい。そして、二色成形や接着で一体化したシール部302は弁体部材301に接着により固定されている。なお、主シール部303と副シール部304とは分離して形成しても良い。その場合は、主シール部303と副シール部304との夫々が弁体部材301に固定されることとなる。
【0027】
ムービングコア205の移動を弁体部材301に伝達するのが係合部材310で、係合部材310は円筒形状をしている。係合部材310の一端は円筒状をしたムービングコア205の内周に圧入され、係合部材310の他端は同じく円筒状をした弁体部材301の内周に固定される。また、係合部材310で係合した状態で、弁体部材301とムービングコア205との間にはダイヤフラム320が挟持される。
【0028】
係合部材310の中心軸位置には直径が1ミリメートル程度の連通通路311が形成されている。また、上述の通り、制御弁ハウジング110の通路室113と電磁弁200との間には、フロロシリコンゴム製のダイヤフラム320が配置されている。ダイヤフラム320はリング状をしており、その内周は弁体部材301とムービングコア205に保持部材312を介して挟持されている。ダイヤフラム320の外周は制御弁ハウジング110と電磁弁ハウジング250とによって挟持されている。
【0029】
従って、制御弁ハウジング110の通路室113と電磁弁200とはダイヤフラム320によって仕切られている。また、電磁弁200の配置される空間の圧力は連通通路311によって制御弁ハウジング110の第2ポート112内の圧力と同一となっている。本例では、ムービングコア205及びバネ受け部材208にも連通通路を設けて、電磁弁200と第2ポート112との均圧化を行っている。
【0030】
次に、上記構成よりなる密閉弁100の作動を説明する。密閉弁100には、燃料タンク10内の空気や蒸発燃料がキャニスタ20に漏出しないよう燃料タンク10内に閉じ込めておく機能が求められる。このシール機能はエンジン50の運転時も運転していない駐車時にも求められる。密閉弁100には、通常はコイル202に通電されていなく、ムービングコア205はバネ207の付勢力を受けて、第2方向に押圧される。このムービングコア205の移動は、係合部材310を介して弁体部材301に伝達される。
【0031】
その結果、シール部302はバネ207の付勢力を受けて弁座114側に着座する。燃料タンク10は密閉されているので、燃料タンク10内の圧力は外部環境の温度変化を受けて変動する。外部温度が高くなったり、振動を受けたりして、燃料タンク10内の圧力が大気圧以上に上昇すると、第1ポート111から燃料タンク10内の圧力が通路室113に伝達され、通路室113内の圧力も大気圧以上となる。一方、キャニスタ20は大気圧の状態であるので、第2ポート112の圧力は大気圧である。従って、第1ポート111側の圧力が第2ポート112側の圧力より高い状態となる。逆に、外部温度が低くなって、燃料タンク10内の圧力が負圧となると、通路室113内の圧力も大気圧以下に低下する。この場合には、第1ポート111側の圧力の方が、第2ポート112側の圧力より低くなる。
【0032】
駐車時のように、圧力センサ11やコントローラ60が作動していなく、密閉弁100も作動しない状態で、燃料タンク10内の圧力が所定値以上高くなったり、低くなったりした場合には、正圧側リリーフ弁33や負圧側リリーフ弁34が開いて、燃料タンク10内の圧力が異常に変動するのを抑えている。なお、正圧側リリーフ弁33や負圧側リリーフ弁34は、燃料タンク10内圧力の異常変動を回避するものであるため、その設定圧は、弁体部材301の開弁圧より数倍程度大きくなっている。
【0033】
燃料タンク10に給油する際には、燃料タンク10内の圧力が大気圧以上になっていることが多い。その状態で、燃料タンク10上方部に存在する蒸発燃料を急速にキャニスタ20側に逃がす必要がある。そこで、給油口が開かれる等で給油開始の信号を感知すると、コントローラ60はコイル202に通電信号を出し、コイル202を励磁させる。コイル202の励磁により磁気回路がステータコア204、ムービングコア205及びヨーク203に形成される。この磁気回路内に磁気絞り部204aが存在するので、ムービングコア205は磁気ギャップ206を狭めるよう第2方向bに移動する。
【0034】
このムービングコア205の第2方向bの移動は係合部材310により弁体部材301に伝達される。ここで、通路室113と第2ポート112側との間に圧力差が生じていたとしても、第2ポート112側の大気圧は連通通路311により電磁弁ハウジング250側にも加わっている。従って、弁体部材301を閉じる方向の受圧面と開く方向の受圧面とが圧力差を互いにキャンセルする方向に作用する。これにより、弁体部材301のスムーズな開弁が可能となっている。
【0035】
密閉弁100は弁体部材301の開弁時には、弁座との間で充分な距離を確保できるようにしている。本開示では、ムービングコア205の移動距離は、3ミリメートル程度としている。この場合170リットル程度のパージ空気を1分で流すことができる。燃料タンク10内の圧力状態にもよるが、15~20秒程度で燃料タンク10内の圧力を大気圧にすることができる。なお、密閉弁100のシール部302が弁座114より離脱した状態を
図6に示す。
【0036】
密閉弁100がパージ通路30を開いて燃料タンク10内の圧力が大気圧まで低下すると、若しくは燃料タンク10内の圧力が大気圧まで上昇すると、給油を開始する。給油中は、密閉弁100はパージ通路30を開いたままとする。給油口が閉じた時の信号等により、コントローラ60が給油の終了を確認すると、コイル202への通電を停止する。すると、磁気回路が消滅し、ムービングコア205はバネ207の付勢力で第1方向aに移動する。そして、ムービングコア205の第1方向aの移動は係合部材310によって弁体部材301に伝達され、シール部302が弁座114に押し付けられる。このシール部302が弁座114の当接面1140に当接している状態を
図7に示す。なお、
図6及び
図7は、
図4で破線Cで示す個所を拡大した断面図である。
【0037】
キャニスタ20に吸着された蒸発燃料は、エンジン50の運転中に、スロットルバルブ51下流の吸気通路52に、吸気負圧を利用して戻される。出口側パージ通路40を流れる蒸発燃料の量はパージバルブ41により制御される。その際に、燃料タンク10上方部の蒸発燃料をキャニスタ20側に流すべく、密閉弁100も所定タイミングで開閉する。パージバルブ41の流量制御や密閉弁100の開閉制御は、コントローラ60によりなされる。
【0038】
図6及び
図7から分かるように、弁体部材301の着座時には副シール部304の方が先に弁座114の当接面1140に当接する。そして、薄板状の副シール部304は弁座114の当接面1140に当接する際に外周側に向けて折れ曲がるように屈曲する。この屈曲により、仮に弁座114の当接面1140に異物が存在していたとしても、その異物を掃き出すことができる。特に、副シール部304は主シール部303に比べて硬度が低い(柔らかい)素材でできているので、外周側に屈曲しやすくなっている。加えて、副シール部304は薄板状のリップシールであるので、この形状によっても異物が掃き出し易くなっている。
【0039】
なお、
図6及び
図7は燃料タンク10内の圧力が大気圧より高い状態で使用されることが多い例を示している。即ち、第1ポート111内の圧力の方が第2ポート112側の圧力より高い状態である。この場合には、蒸発燃料を含んだ空気は通路室113側から弁座114に流れることとなる。そのため、副シール部304が主シール部303に対して空気流れの上流となる。従って、弁座114に流入する空気中に異物が含まれていたとしても、その異物は副シール部304によって補足され、主シール部303にまで移動するのが抑制される。
【0040】
シール部302の主なシールは主シール部303によりなされるので、主シール部303での異物み込みが低減できれば、シール部302のシール性能の向上に繋がる。即ち、バネ207によるシール荷重の多くは主シール部303が弁座114の当接面1140に押し付けられることで受け持っている。その為、この主シール部303による当接面1140への押し付けがシール部302のシール性能に大きく影響する。従って、主シール部303での異物の噛み込みは極力避けたく、副シール部304を主シール部303の上流に配置して主シール部303に異物が流入しにくくするのは望ましい。
【0041】
また、バネ207によるシール荷重の多くを主シール部303が受け持つ結果、副シール部304は大きく屈曲しても歪みが抑制され、副シール部304の耐久性も確保できる。特に、本開示では副シール部304を低硬度の柔らかい素材で形成して、変形しやすくしているので、主シール部303がバネ207によるシール荷重の多くを受け持つことは望ましい。副シール部304は、バネ207の付勢力の一部と、自身の変形による弾性力と、通路室113と第2ポート112との差圧によりシール力を確保している。副シール部304のシール性を自身の変形と差圧で得るためにも、副シール部304を低硬度の素材で形成するのが好ましい。何故なら、低硬度(柔らかい)素材の方が弁座114との密着性が高まるからである。
【0042】
更に、シール部302を主シール部303と副シール部304との二重構造とすることで、異物噛み込み時のシール性劣化に対するロバスト性が向上している。即ち、主シール部303はバネ207の付勢力によるシールを行い、副シール部304は自身の復元力や差圧を利用したシールを行っている。このように、主シール部303と副シール部304とで夫々がシールを行うので、単一のシール部302でシールを行う場合に比して異物を噛み込む確率が小さくなっている。
【0043】
密閉弁100の使用環境によっては、低温地区での使用もありうる。上述のように、主シール部303はバネ207の付勢力を受け持つため、硬度がデューロメータタイプAで52DuroAの低温フッ素ゴムを利用している。この低温フッ素ゴムは、常温環境で適切に使用されるように設定されている。換言すれば、常温使用時に適切に使用するためには主シール部303の硬度を低く設定するのは望ましくない。一方で、デューロメータタイプAで52DuroAの低温フッ素ゴムでは、低温環境ではゴム硬度が大きくなってシール性が悪化する恐れがある。
【0044】
この課題に対応するため、本開示では、主シール部303と副シール部304とでゴム材料の硬度が異なる素材を用いている。副シール部304の素材として硬度がデューロメータタイプAで35DuroAの発泡フッ素ゴムを利用している。その為、低温環境で主シール部303のシール性能が劣化しても、副シール部304によりシール部302のシール性を維持することが可能である。
【0045】
この低温環境下でのシール部302のシール性維持には2つの理由がある。1つは、副シール部304が硬化しにくい結果、副シール部304によるシール性能が維持できるからである。他の1つは、副シール部304によって異物が主シール部303側に流れるのを効果的に阻止しているからである。主シール部303での異物み込みの可能性が低くなっているから、低温環境下で主シール部303の硬度が大きくなっても、主シール部303のシール性の低下を副シール部304で補完することができる。
【0046】
このように、副シール部304の硬度を主シール部303より変形しやすい低硬度のゴム材料とした結果、常温使用環境でも低温使用環境でも、シール部302のシール性能を向上することができている。上述のように、常温使用環境では、副シール部304による異物の掃き出しと、差圧による副シール部304の自己シール性能がある。いずれにおいても、副シール部304を変形しやすい低硬度のゴム材料とすることで、その効果を一層引き立てることができる。また、低温使用環境でも、副シール部304が硬化しにくい結果、シール性能が維持できている。
【0047】
なお、上述の例は、第1ポート111内の圧力の方が第2ポート112側の圧力より高く、蒸発燃料を含む空気が通路室113から第2ポート112側に流れる例を示している。ただ、使用環境によっては、第2ポート112側の圧力の方が第1ポート111側の圧力より高くなる状態もある。その場合、蒸発燃料を含む空気は第2ポート112から通路室113側に流れることとなる。その場合には、
図8及び
図9に示すように、副シール部304を主シール部303の内周側に配置する。
【0048】
図8は開弁状態で、
図9は閉弁状態を示しているが、
図8及び
図9から分かるように副シール部304は空気流れの上流側に向って45度程度傾斜している。そして、閉弁時に内周側に向って変形し、異物を上流側に掃き出すようにしている。
図7と
図9の対比より明らかなように、本例では、副シール部304は第1ポート111及び第2ポート112のうち圧力が高くなる側に配置している。
【0049】
なお、
図6及び
図7の例でも、
図8及び
図9の例でも常に第1ポート111と第2ポート112との一方側が他方側の圧力より高いことを要求している訳ではない。上述の通り、燃料タンク10内の圧力は大気圧より高くなる場合もあり、逆に低くなる場合もある。その為、
図6及び
図7の例は、通常の使用状態では燃料タンク10内の圧力が大気圧以上となり、第1ポート111の圧力が第2ポート112の圧力より高くなる場合が多い状態での使用例を示している。また、
図8及び
図9の例は、第2ポート112の圧力が第1ポート111の圧力より高くなる使用例の方がその逆の使用例より多い例を示している。
【0050】
しかし、使用状態によっては、第1ポート111側の圧力が第2ポート112側の圧力より高い状態が常態となることが無く、逆に第2ポート112側の圧力が第1ポート111側の圧力より高い状態が常態でも無い場合もある。即ち、第1ポート111と第2ポート112とで上流となるポートが一定しない場合である。このような場合には、
図10及び
図11に示すように、主シール部303の両側に副シール部304を配置する。2つの副シール部304は、共に第2方向に向かって主シール部303より離れる方向に45度程度傾斜している。そのため、第1ポート111及び第2ポート112のいずれが空気流れの上流となっても、上流側に位置する副シール部304は常に上流側に向かって傾斜することとなる。これにより、異物の掃き出し効果を得ることができる。
【0051】
なお、上述したのは、本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。上述した材料や大きさは一例であり、求められる性能等に応じて設計すればよい。主シール部303の硬度をデューロメータタイプAで52DuroAとしたり、副シール部304の硬度をデューロメータタイプAで35DuroAとしたりするのは一例で、使用環境に応じて適切な硬度を選択すればよい。また、主シール部303を低温フッ素ゴムとし、副シール部304を発泡フッ素ゴムとするのも一例で、弾性材料であれば適宜設定可能である。
【0052】
また、主シール部303の形状も弁座114の当接面1140に着座する円弧面を備えていればよい。なお、本開示において断面形状が円弧状であるとは、当接面1140に着座する面に円弧面を備えていれば良い。従って、円筒状の端面を円弧面とした形状も含まれる。また、円弧面も、真円である必要はなく楕円形状でも良い。当接面1140の着座時に変形して十分なシール性能が得られる曲面であればよい。
【0053】
同様に、副シール部304の形状も適宜変更可能である。本開示において、副シール部304の断面形状を薄板状とするのは、副シール部304の厚みが全長に亘って同一である必要はなく、根元部の方が先端部より厚肉としてもよい。また、副シール部304は空気流れの上流に向かって傾斜するのが望ましいが、傾斜角度は45度に限らない。かつ、傾斜も必須ではない。第2方向bに向かって真っすぐ延びる形状としてもよい。
【0054】
副シール部304は断面形状が薄板状のリップシールとするのが、異物の掃き出しを行う上でも好適である。特に、上述のように差圧に基づく自己シールが行えて副シール部304の形状として適している。ただ、製造上の理由等により、副シール部304も主シール部303と同様、断面形状を円弧状にすることは除外していない。主シール部303に加えて副シール部304を配置し、その硬度を変えることで、常温使用時から低温使用時まで幅広い温度帯で密閉弁100のシール性を確保することが可能となる。
【0055】
ここで、副シール部304の硬度を主シール部303の硬度より高くすることも検討できる。例えば、低温環境で使用されるのが状態の密閉弁100で主シール部303の硬度を低く設定したいような場合である。ただ、このような使用方法であっても、主シール部303への異物流入を抑制する上では、やはり、副シール部304の硬度は主シール部303より低い方が望ましい。
【0056】
また、電磁弁200の形態も種々に変更可能である。上述の例では、ムービングコア205の移動は係合部材310を介して弁体部材301に伝達したが、ムービングコア205の移動を直接弁体部材301に伝達するようにしても良い。また、上述の例では、バネ207の付勢力を利用して弁体部材301を第1方向aに押圧したが、流体流れが常に一定である場合で、流体流れの圧力を利用することができるような場合には、バネ207を廃止することも可能である。また、上述の例では、ダイヤフラム320を設けて、通路室113と第2ポート112との均圧化を図っていた。電磁弁200の磁気吸引力を効果的に利用することができて望ましい例である。ただ、必要に応じてダイヤフラム320や連通通路311を廃止することは可能である。
【0057】
また、上述の例では、流量制御弁を密閉弁100として用いた例を説明したが、上記の通り、本開示の流量制御弁はパージバルブ41としても用いることができる。パージバルブ41として用いた際には、第1ポート111は出口側パージ通路40を介してキャニスタ20からパージ空気を流入することになる。また、第2ポート112は、パージ空気を吸気通路52に流出することとなる。
【0058】
本開示の流量制御弁は、密閉弁100やパージバルブ41として利用するのが好適である。ただ、パージ空気の流量制御に限られるものではない。他にも流体の流量を制御する弁として多様な用途に対応可能である。
【符号の説明】
【0059】
100 密閉弁、流量制御弁
110 ハウジング
111 第1ポート
112 第2ポート
113 通路室
114 弁座
200 電磁弁
301 弁体部材
302 シール部
303 主シール部
304 副シール部