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  • 特開-橋脚の補修又は補強方法および型枠 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164070
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】橋脚の補修又は補強方法および型枠
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075382
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】504464173
【氏名又は名称】株式会社 南組
(74)【代理人】
【識別番号】100145078
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】南 修
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG01
2D059GG23
2D059GG40
(57)【要約】
【課題】補強又は補修用充填剤のひび割れ、亀裂等の不良を抑制できる橋脚の補強又は補修方法および型枠を提供する。
【解決手段】水中に立設された橋脚の補修又は補強方法であって、橋脚の補修又は補強箇所を覆うように型枠を配置して、橋脚と型枠との間にセメント系材料の充填層となる第1の空間を形成し、水と前記第1の空間との間に断熱層となる第2の空間を形成する、橋脚の補強又は補修方法である。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に立設された橋脚の補修又は補強方法であって、
前記橋脚の補修又は補強箇所を覆うように型枠を配置して、前記橋脚と前記型枠との間にセメント系材料の充填層となる第1の空間を形成し、
水と前記第1の空間との間に断熱層となる第2の空間を形成する、
橋脚の補修又は補強方法。
【請求項2】
前記第2の空間は前記型枠をバルーン状に構成することで形成される、
請求項1に記載の橋脚の補修又は補強方法。
【請求項3】
前記第2の空間は空気を用いた断熱層である、
請求項1又は2に記載の橋脚の補修又は補強方法。
【請求項4】
水中に立設された橋脚の補修又は補強箇所を覆うように配置した際に、前記橋脚との間にセメント系材料が充填可能な充填層を形成する型枠であって、
水と前記充填層の間に断熱層を備える、
型枠。
【請求項5】
前記断熱層は空気層である、
請求項4に記載の型枠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚の補修又は補強方法および型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、構造物は経年による劣化や腐食が避けられない。そのため、その対策やメンテナンスが必要となる。
【0003】
桟橋や道路橋等の構造物では、水中に立設された橋脚が厳しい自然環境に晒され、その劣化・腐食が問題となる。特に、タイダルゾーン(干満帯)、スプラッシュゾーン(飛沫帯)と呼ばれる水面付近の領域において、橋脚の腐食・劣化が著しく進行し易い。
【0004】
その対策として、塗装・FRP(繊維強化プラスチック)等による被覆や、電気防食など、設計段階で材料自体に耐食性を持たせる工夫が行われてきた。しかし、被覆材の経年劣化や、水面境界部の電気防食が有効に作用しない等の問題もあり、これらの対策だけでは十分とは言えない。
【0005】
他方、メンテナンスとして、劣化部分自体を補強する方法がある。例えば、後述する先行文献1では、柱状構築物の補強すべき劣化部分の周囲を覆うように、該柱状構築物にそれよりも大径の補強筒体を取付け、しかる後該柱状構築物の外面と該補強筒体の内面との間に形成される空隙部に補強充填材を充填する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-270464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、外部環境の影響で、充填された補強充填剤のうち、水面の上側(空気中)と下側(水中)とで温度差が生じてしまう。これにより、水面を堺にその上側と下側とで補強充填剤の収縮度合いに差が生じ、それが原因で補強充填剤にひび割れ、亀裂が生じ易いという課題がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みなされたものであり、補修又は補強用充填剤のひび割れ、亀裂等の不良を抑制できる橋脚の補修方法および型枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、水中に立設された橋脚の補修又は補強方法であって、前記橋脚の補修又は補強箇所を覆うように型枠を配置して、前記橋脚と前記型枠との間にセメント系材料の充填層となる第1の空間を形成し、水と前記第1の空間との間に断熱層となる第2の空間を形成する、橋脚の補強又は補修方法である。
【0010】
上述した課題を解決するために、第2の発明は、水中に立設された橋脚の補修又は補強箇所を覆うように配置した際に、前記橋脚との間にセメント系材料が充填可能な充填層を形成する型枠であって、水と前記充填層の間に断熱層を備える、型枠である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補修又は補強用充填剤のひび割れ、亀裂等の不良を抑制でき、橋脚をより高品位に補修・補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】桟橋式岸壁を模式的に示した図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る型枠(補修型枠)を橋脚に巻きつけた状態の部分断面図である。
図3】補修型枠を構成する型枠体の概略図である。
図4】補修型枠を構成するプレート体の概略図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る補修型枠を橋脚に巻きつけた状態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。説明は以下の順序で行う。なお、以下の実施の形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
<1.第1の実施の形態>
<2.第2の実施の形態>
<3.変形例>
<4.応用例>
【0014】
<1.第1の実施の形態>
図1から図4を参照して、本発明における橋脚の補修又は補強方法および型枠について説明する。
【0015】
この実施の形態では、桟橋式岸壁を例にして説明を行う。
【0016】
図1は、桟橋式岸壁10を模式的に示した図である。桟橋式岸壁10は、通常鋼矢板で土留めを行った後、水底に鋼管杭からなる橋脚11を打ち込み、水中に立設された橋脚11上に床板13を設置・固定することで形成される。
【0017】
橋脚11の水面15付近の領域は常に海の波に晒される。海面の干満により波に直接晒されるタイダルゾーン(干満帯)、およびその波が橋脚11に衝突することで生じる飛沫に晒されるスプラッシュゾーン(飛沫帯)は、橋脚11の中でもとりわけ腐食・劣化が著しく進行し易い領域であり、補修の要請が強い。
【0018】
ついで図2乃至4を参照して、橋脚の補修方法を説明する。補修箇所は橋脚11の干満帯、飛沫帯である。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る型枠(補修型枠)20を橋脚11に巻きつけた状態の部分断面図である。図3は補修型枠20を構成する型枠体30の概略図である。図4は補修型枠20を構成するプレート体40の概略図である。
【0020】
[補修方法の概要]
【0021】
橋脚11の補修は補修型枠20を用いて行われる。より詳しくは、橋脚11の補修又は補強箇所となる腐食箇所12(又は劣化箇所)を覆うように補修型枠20を橋脚11に巻きつけて、補修型枠20と橋脚11の間の空間50内にモルタルMを充填して硬化させることで、腐食箇所12を被覆して補修する。
【0022】
[補修型枠の構成]
以下、補修型枠20の構成を説明する。
【0023】
補修型枠20は、型枠体30と、2枚のプレート体40とで構成される。
【0024】
型枠体30は、例えばポリエチレン等のオレフィン系樹脂からなる柔軟性のある矩形のシート状の本体部32と、その上下(短手方向)の端縁に沿って所定の幅で形成される固定部34と、本体部32の左右(長手方向)の両端縁に沿って設けられた連結部36とで構成される。ただし、図2においては、型枠体30の一端側で断面を取って示しているため、図面上は、連結部36は他端側のみが描かれた状態となっている。
【0025】
本体部32は、浮き輪のように中空のドーナツ状の構成よりなる。この中空部33には、外部から空気Aを注入することができる吸気口が設けられており(図示せず)、後述するとおり、補修時にはこの中空部33が断熱層として機能する。なお、本体部32は1枚の連続するシート状からなる構成としたが、複数のパーツを連結することで構成してもよい。
【0026】
プレート体40は、例えば鋼、鉄筋コンクリート、又は木材等からなるリング状の部材であり、中心に穴部46が形成されている。より具体的には、プレート体40は、半円形のアーチ状の第1のプレート部42と、同形状の第2のプレート部44とを、図示しない連結プレート等の部材で連結固定することでリング状になる。プレート体40の穴部46は、設計段階でその径が橋脚11の径に対応するように設定されている。
【0027】
また、第1のプレート部42には、貫通孔43が設けられている。
【0028】
[補修型枠の設置方法]
ついで、補修型枠20を橋脚11に設置する方法を説明する。
【0029】
補修型枠20を設置する際、まずは、補修型枠20が橋脚11の腐食箇所12を覆うことができる位置を決め、補修型枠20の上端と下端それぞれに対応する位置に、第1のプレート部42と第2のプレート部44とで橋脚11を挟み込むようして、プレート体40を配置する。
【0030】
配置したプレート体40の側面に、シール部材(図示しない)を介して型枠体30の固定部34を巻きつける。固定部34は内部にワイヤー35が挿通されており、このワイヤー35を荷締機等を用いて締め付けることで、補修型枠20を橋脚11に対して締結固定して位置決めする。
【0031】
さらに、補修型枠20の中空部33に空気を注入する。これにより、中空部33が膨張し、補修型枠20はバルーン状に変形する。
【0032】
[補修方法]
ついで、橋脚11の補修方法を説明する。
【0033】
補修型枠20を橋脚11に位置決めした状態で、下側(水底側)のプレート体40の貫通孔43からモルタルMを充填する。モルタルMは、補修型枠20と橋脚11との間に形成された空間50内に流入し、空間50(第1の空間)は充填層として機能して、水底側から徐々にモルタルMで充填されていく。
【0034】
モルタルMが徐々に上側に向かって堆積していくと、補修型枠20の空間50内を満たしていた海水60が流入したモルタルMによって押し上げられ、上側のプレート体40に設けた貫通孔43から補修型枠20の外部に排出される。これにより、空間50内は補修用のモルタルMで満たされる。
【0035】
補修型枠20はこのままモルタルMが硬化するまで養生としても機能する。モルタルMが硬化することで腐食箇所12が被覆され、橋脚11が補修される。
【0036】
[作用効果]
従前は、充填されたモルタルのうち、空気中にある部分と水中にある部分とで外部環境の影響により温度差が生じて、モルタルが硬化する際に収縮度合いに差が生じた結果、モルタルにひび割れ、亀裂が生じ易くなる課題があった。しかしながら、以上のようにして本発明の方法ないし補修型枠を用いることにより、外層にあたる中空部33(第2の空間)が断熱層として機能するため、内層にあたる空間50に充填されたモルタルMでは、外部環境の影響による温度差を生じにくくなる。これにより、モルタルMにクラック等の不良が発生しづらくなり、より高品位な補修が可能となる。
【0037】
また、モルタルMは温度が低いと硬化に時間がかかるが、外層に断熱層を形成することでとりわけ寒冷期にモルタルMの温度が下がりづらくなり、硬化時間が短くて済むため、工期も短くすることができる。
【0038】
なお、本実施の形態においては、補修型枠20と断念層(中空部33)を一体で構成したが、これを別体としてもよい。さらに、断熱層を1層としたが、この構成に限られず、複数の断熱層を設けてもよい。また、断熱層と空間50の間に他の空間(層)が設けられてもよい。
【0039】
本実施の形態では充填剤としてセメントモルタルを使用したが、ポリマーセメントモルタル、樹脂モルタルなど、他のモルタル系材料を使用してもよい。また、充填剤にはモルタル以外にも、他のセメント系材料を使用してもよい。
【0040】
また、近年では、スラット工法等のように桟橋の補修工事自体が大規模化する傾向にあるところ、本発明に係る方法ないし型枠を用いることにより、腐食箇所をピンポイントで補修することができるため、作業性が良く、相対的に小規模で安価に補修作業を行うことができる。
【0041】
<第2の実施の形態>
[補修型枠の構成]
【0042】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る補修型枠120を橋脚11に巻きつけた状態の部分断面図である。第2の実施の形態では、プレート体40が用いられていない点で、第1の実施の形態の補修型枠20と異なっている。
【0043】
補修型枠120は型枠体130から構成される。型枠体130は、第1の実施の形態と同様に、中空部33(第2の空間)を備える本体部32と、固定部34と、連結部36とを備える。本体部32には、下側(水底側)にモルタルMの充填口143、上側に排水口144が設けられており、空間50は充填口143、排水口144を介して直接補修型枠120の外部と連通している。
【0044】
[補修型枠の設置方法]
【0045】
補修型枠120は、その上下の固定部34をシール部材を介して橋脚11に巻きつけた状態で、橋脚11に対してワイヤー35で締結固定され、橋脚11の腐食箇所12を覆う位置に設置される。
【0046】
[補修方法]
【0047】
補修型枠120を橋脚11に対して締結固定した状態で、下側(水底側)の充填口143から、型枠体130と橋脚11との間に形成された空間50内にモルタルMを充填する。
【0048】
モルタルMが空間50の下側から堆積していくにつれて、空間50内を満たしていた海水60がモルタルMにより押し上げられ、補修型枠120の排水口144から補修型枠120の外部に排出される。これにより、空間50内は補修用のモルタルMで満たされ、この状態のままモルタルMが硬化することで、腐食箇所12がモルタルMで被覆され、橋脚11が補修される。
【0049】
[作用効果]
【0050】
上述したように、第2の実施の形態に係る補修方法および補修型枠120では、中空部33(第2の空間)が断熱層として機能した状態でモルタルMを硬化させることができる。そのため、第1の実施の形態と同様に、モルタルMにクラック等の不良が発生しづらくなり、より高品位な橋脚11の補修が可能となる。また、モルタルMの温度が下がりづらくなり、硬化時間が短くて済むため、工期も短くなる。
【0051】
さらに、型枠体130のみで補修型枠120を構成することで、補修型枠120の現場設置が簡便となり、工期の短縮に繋がる。
【0052】
<3.変形例>
【0053】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0054】
実施の形態では補修する構造物が桟橋式岸壁である場合を例にして説明を行ったが、構造物は桟橋式岸壁に限られない。桟橋式岸壁以外の構造物、例えば桟橋、橋梁、高架橋、などを補修にする際にも本発明を用いることができる。
【0055】
また、実施の形態では橋脚の劣化・腐食箇所の補修する場合を例に説明を行ったが、橋脚を補強する場合にも適用することも可能である。
【0056】
また、橋脚の形状は円柱状のものに限られず、角柱その他の形状のものであっても本発明を適用することが可能である。同様に、補修型枠やプレート体の形状も一例であって、橋脚の形状にあわせてその形状を変えることができる。
【0057】
また、断熱層を形成する方法として中空部に空気を注入する方法を採用したが、この他にも、例えばグラスウール、セルロースファイバー等の繊維系断熱材をすることで断熱層を形成してもよい。
【0058】
また、第1の実施の形態において、補修型枠20の上下2つのプレート体40は同じものを用いたが、同様の機能を果たすことができれば、異なる形態のものを用いてもよい。特に、上側のプレート体40について、穴部46は実施の形態に示される具体的な形状に限られず、排水の機能を果たせれば種々の形状を取り得る。また、上側のプレート体40を用いずに補修型枠20を構成することも可能である。
【0059】
また、実施の形態で説明した補修型枠の設置方法の各工程はあくまで一例であり、必ず同じ順序で行わなければならないものではない。
【0060】
<4.応用例>
【0061】
なお、本発明に係る補修方法および補修型枠を海中で使用する場合は、真水と比べて浮力が大きくなることから、補修型枠20に別途重りを付けて、設置時の作業性を高めてもよい。例えば、この重りには水を用いてもよい。
【0062】
以上、本発明の実施の形態およびその変形例・応用例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施の形態およびその変形例・応用例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0063】
例えば、上述の実施の形態およびその変形例・応用例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
11・・・橋脚
12・・・腐食箇所(補修又は補強箇所)
20・・・補修型枠(型枠)
33・・・中空部(第2の空間)
50・・・空間(第1の空間)

図1
図2
図3
図4
図5