(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164072
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】事象検出装置及び事象検出方法
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20231102BHJP
H04N 7/18 20060101ALI20231102BHJP
G01J 5/48 20220101ALN20231102BHJP
【FI】
A01K29/00 A
H04N7/18 N
G01J5/48 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075384
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川合 信夫
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 成俊
(72)【発明者】
【氏名】林 啓太
【テーマコード(参考)】
2G066
5C054
【Fターム(参考)】
2G066AC13
2G066BB11
2G066BC11
2G066CA02
2G066CA04
2G066CA08
5C054CA05
5C054CC02
5C054EA01
5C054EA05
5C054FC12
5C054FE05
5C054FE12
5C054HA19
(57)【要約】
【課題】温度に基づいて人その他の動物に関する事象を検出する。
【解決手段】事象検出装置2000は、対象動物20、又は対象動物20によって使用される対象物体30、又は対象動物20と対象物体30の双方について、複数箇所それぞれの温度を表す温度測定データ40を取得する。事象検出装置2000は、温度測定データ40を用いて特定される、対象動物20に関する温度の時間変化の分布に基づいて、対象動物20に関する事象を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象動物、又はその対象動物によって使用される対象物体、又は前記対象動物と前記対象物体の双方について、複数箇所それぞれの温度を表す温度測定データを取得する取得部と、
前記温度測定データを用いて特定される、前記対象動物に関する温度の時間変化の分布に基づいて、前記対象動物に関する事象を検出する検出部と、を有する事象検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、
前記温度測定データを用いて、前記対象動物に関する温度の時間変化の分布の特徴を表す特徴マップを生成し、
事象に対応付けて、その事象が発生している状況における温度の時間変化の分布の特徴を表す参照特徴マップが示される参照情報を用いて、前記参照特徴マップと前記特徴マップとを比較し、前記参照特徴マップと前記特徴マップとの類似度が閾値以上である場合に、その参照特徴マップに対応する事象を、前記対象動物に関する事象として検出する、請求項1に記載の事象検出装置。
【請求項3】
温度の時間変化又は温度の時間変化の時系列データについて、複数の所定パターンそれぞれに異なる識別情報が定められており、
前記特徴マップ及び前記参照特徴マップは、複数の箇所それぞれについて、その箇所における温度の時間変化又は温度の時間変化の時系列データに対応する前記所定パターンの識別情報を示す、請求項2に記載の事象検出装置。
【請求項4】
前記温度測定データは熱画像データであり、
前記対象動物に関する事象が検出された場合に、その事象が発生している箇所を表す表示が重畳された前記熱画像データを含む出力情報を出力する出力部を有する、請求項1から3いずれか一項に記載の事象検出装置。
【請求項5】
対象動物、又はその対象動物によって使用される対象物体、又は前記対象動物と前記対象物体の双方について、複数箇所それぞれの温度を表す温度測定データを取得する取得ステップと、
前記温度測定データを用いて特定される、前記対象動物に関する温度の時間変化の分布に基づいて、前記対象動物に関する事象を検出する検出ステップと、を有する、コンピュータによって実行される事象検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、事象検出装置及び事象検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳幼児などを監視することで、排泄などの事象を検出する技術が開発されている。特許文献1には、おむつの内壁面に設けられた赤外線カメラによって生成される赤外線画像を利用して、排尿と排便を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、赤外線画像によって示される特定の一時点におけるおむつ内部の温度に着目して、排尿等が検出されている。本開示は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、温度に基づいて人その他の動物に関する事象を検出する新たな技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の事象検出装置は、対象動物、又はその対象動物によって使用される対象物体、又は前記対象動物と前記対象物体の双方について、複数箇所それぞれの温度を表す温度測定データを取得する取得部と、前記温度測定データを用いて特定される、前記対象動物に関する温度の時間変化の分布に基づいて、前記対象動物に関する事象を検出する検出部と、を有する。
【0006】
本開示の事象検出方法は、コンピュータによって実行される。当該事象検出方法は、対象動物、その対象動物によって使用される対象物体、又は前記対象動物と前記対象物体の双方について、複数箇所それぞれの温度を表す温度測定データを取得する取得ステップと、前記温度測定データを用いて特定される、前記対象動物に関する温度の時間変化の分布に基づいて、前記対象動物に関する事象を検出する検出ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、温度に基づいて人その他の動物に関する事象を検出する新たな技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の事象検出装置の概要を例示する図である。
【
図2】実施形態の事象検出装置の機能構成を例示するブロック図である。
【
図3】実施形態の事象検出装置を実現するコンピュータのハードウエア構成を例示するブロック図である。
【
図4】実施形態の事象検出装置によって実行される処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図6】注目領域に対して温度マップの各セルが対応づけられている注目領域情を例示する図である。
【
図7】温度マップの時系列データと温度変化マップの時系列データとの関係を例示する第1の図である。
【
図8】温度マップの時系列データと温度変化マップの時系列データとの関係を例示する第2の図である。
【
図12】出力部を有する事象検出装置の機能構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。また、特に説明しない限り、所定値や閾値などといった予め定められている値は、その値を利用する装置からアクセス可能な記憶装置などに予め格納されているものとする。
【0010】
<概要>
図1は、実施形態に係る事象検出装置2000の概要を例示する図である。
図1は、事象検出装置2000の理解を容易にするために事象検出装置2000の動作の一例を概念的に示す図であり、事象検出装置2000の動作は
図1に示されているものに限定されない。
【0011】
事象検出装置2000は、対象動物20に関する事象を検出する。対象動物20は、事象の検出対象である人間その他の動物である。対象動物20が人間である場合、例えば対象動物20は、乳幼児や被介護者などである。対象動物20が人間以外である場合、例えば対象動物20は、犬などのペットである。
【0012】
対象動物20に関する事象は、その発生を検出することが有用な事象である。例えば対象動物20に関する事象は、清掃や着替えなどのように何らかの対処が求められる事象や、その発生を検出して記録することが有用な事象などである。対象動物20に関する事象の具体例としては、排泄、発汗、又は嘔吐などが挙げられる。例えば事象検出装置2000は、おむつを着用している乳幼児、被介護者、又はペットによる排泄の検出などに利用されうる。
【0013】
なお、事象検出装置2000が検出対象とする事象は、1種類の事象には限定されず、複数種類の事象であってもよい。後者の場合において、例えば事象検出装置2000が、事象A、事象B、及び事象Cという3種類の事象を検出できるとする。この場合、例えば事象検出装置2000は、対象動物20について、1)事象Aが発生した、2)事象Bが発生した、3)事象Cが発生した、及び4)事象Aから事象Cのいずれも発生していないという4つのうちのいずれに該当するのかを判定することにより、事象の検出を行う。
【0014】
ただし、複数種類の事象が同時に発生することも考えられる。この場合、発生した複数種類の事象のいずれもが検出されることが好適である。例えば上述の例において、事象Aと事象Bの双方が発生したとする。この場合、事象検出装置2000は、対象動物20について、「1)事象Aが発生した」と「2)事象Bが発生した」の双方に該当すると判定する。
【0015】
対象動物20に関する事象の検出には、温度測定データ40が利用される。温度測定データ40は、対象動物20に関する温度分布を示す。対象動物20に関する温度分布は、対象動物20、又は対象動物20によって使用されている対象物体30、又は対象動物20と対象物体30の双方についての温度の分布である。ここで、温度の分布とは、複数の箇所それぞれについて、その箇所の温度を示す情報である。
【0016】
対象物体30は、例えば、1)対象動物20が身につけている任意の物(被服)、又は2)対象動物20の身体に掛けられている任意の物(寝具)である。被服は、例えば、服、パジャマ、下着、肌着、又はおむつなどである。寝具は、毛布、タオルケット、ブランケット、又はタオルなどである。なお、ここでいう寝具は、寝具として利用するために作成された物には限定されず、寝具として利用しうる任意の物(例えばタオルなど)を含む。
【0017】
温度測定データ40によって示される温度は、温度センサ10を利用して測定される。温度センサ10は、複数の箇所それぞれの温度を測定することができる任意のセンサである。例えば温度センサ10は、赤外線カメラである。温度センサ10が赤外線カメラである場合、例えば温度測定データ40は、対象動物20を赤外線カメラで撮像することによって生成される熱画像データを含む。温度センサ10が赤外線カメラである場合、人物の体温度近辺の測定に適した遠赤外線カメラを用いることができる。遠赤外線カメラである場合の温度センサ10は、あらゆる物体から輻射される電磁波のうち、動物あるいは人体の生体から輻射されその表面温度に応じた強度を持つ波長10ミクロン前後の電磁波を捉え、その強度に応じた値を出力することで撮影対象の2次元の熱画像データを取得する。熱画像データは、複数の画素それぞれが被測定物の表面温度を示す画像データである。
【0018】
事象検出装置2000は、温度測定データ40を利用して、対象動物20に関する温度の時間変化(以下、温度変化)の分布を特定する。温度変化の分布は、複数の箇所それぞれにおける温度の時間変化を表す。なお、「対象動物20に関する温度変化の分布」には、「対象動物20上の温度変化の分布」と「対象物体30上の温度変化の分布」のいずれもが含まれうる。そして事象検出装置2000は、特定した温度変化の分布に基づいて、対象動物20に関する事象を検出する。
【0019】
<作用効果の例>
特許文献1では、特定の一時点におけるおむつ内部の温度に基づいて、排泄の検出が行われている。これに対し、本実施形態の事象検出装置2000によれば、対象動物20の関する温度変化の分布に基づいて、対象動物20に関する事象が検出されている。よって、事象検出装置2000によれば、温度に基づいて人その他の動物に関する事象を検出する技術として、先行技術には開示も示唆もされていない新たな技術が提供される。また、事象検出装置2000には、或る一時点における温度には特徴があまりないものの、温度の時間変化には大きな特徴があるという事象を精度良く検出できる、という利点がある。
【0020】
以下、本実施形態の事象検出装置2000について、より詳細に説明する。
【0021】
<機能構成の例>
図2は、実施形態の事象検出装置2000の機能構成を例示するブロック図である。この例において、事象検出装置2000は、取得部2020及び検出部2040を有する。取得部2020は温度測定データ40を取得する。検出部2040は、温度測定データ40を利用して、対象動物20に関する温度変化の分布を特定する。そして、検出部2040は、特定した温度変化の分布を用いて、対象動物20に関する事象を検出する。
【0022】
<ハードウエア構成の例>
事象検出装置2000の各機能構成部は、各機能構成部を実現するハードウエア(例:ハードワイヤードされた電子回路など)で実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせ(例:電子回路とそれを制御するプログラムの組み合わせなど)で実現されてもよい。以下、事象検出装置2000の各機能構成部がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせで実現される場合について、さらに説明する。
【0023】
図3は、実施形態の事象検出装置2000を実現するコンピュータ500のハードウエア構成を例示するブロック図である。コンピュータ500は、任意のコンピュータである。例えばコンピュータ500は、PC(Personal Computer)やサーバマシンなどといった、据え置き型のコンピュータである。その他にも例えば、コンピュータ500は、スマートフォンやタブレット端末などといった可搬型のコンピュータである。コンピュータ500は、事象検出装置2000を実現するために設計された専用のコンピュータであってもよいし、汎用のコンピュータであってもよい。
【0024】
例えば、コンピュータ500に対して所定のアプリケーションをインストールすることにより、コンピュータ500で、事象検出装置2000の各機能が実現される。上記アプリケーションは、事象検出装置2000の各機能構成部を実現するためのプログラムで構成される。なお、上記プログラムの取得方法は任意である。例えば、当該プログラムが格納されている記憶媒体(DVD ディスクや USB メモリなど)から、当該プログラムを取得することができる。その他にも例えば、当該プログラムが格納されている記憶装置を管理しているサーバ装置から、当該プログラムをダウンロードすることにより、当該プログラムを取得することができる。
【0025】
コンピュータ500は、バス502、プロセッサ504、メモリ506、ストレージデバイス508、入出力インタフェース510、及びネットワークインタフェース512を有する。バス502は、プロセッサ504、メモリ506、ストレージデバイス508、入出力インタフェース510、及びネットワークインタフェース512が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ504などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。
【0026】
プロセッサ504は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの種々のプロセッサである。メモリ506は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現される主記憶装置である。ストレージデバイス508は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、又は ROM(Read Only Memory)などを用いて実現される補助記憶装置である。
【0027】
入出力インタフェース510は、コンピュータ500と入出力デバイスとを接続するためのインタフェースである。例えば入出力インタフェース510には、キーボードなどの入力装置や、ディスプレイ装置などの出力装置、カメラなどの映像出力装置が接続される。
【0028】
ネットワークインタフェース512は、コンピュータ500をネットワークに接続するためのインタフェースである。このネットワークは、LAN(Local Area Network)であってもよいし、WAN(Wide Area Network)であってもよい。
【0029】
ストレージデバイス508は、事象検出装置2000の各機能構成部を実現するプログラム(前述したアプリケーションを実現するプログラム)を記憶している。プロセッサ504は、このプログラムをメモリ506に読み出して実行することで、事象検出装置2000の各機能構成部を実現する。
【0030】
事象検出装置2000は、1つのコンピュータ500で実現されてもよいし、複数のコンピュータ500で実現されてもよい。後者の場合、複数のコンピュータ500は、互いに同一のハードウエア構成を有していてもよいし、互いに異なるハードウエア構成を有していてもよい。
【0031】
<処理の流れ>
図4は、実施形態の事象検出装置2000によって実行される処理の流れを例示するフローチャートである。取得部2020は温度測定データ40を取得する(S102)。検出部2040は、温度測定データ40を用いて、対象動物20に関する温度変化の分布を特定する(S104)。検出部2040は、対象動物20に関する温度変化の分布に基づいて、対象動物20に関する事象を検出する(S106)。
【0032】
<温度測定データ40の取得:S102>
取得部2020は温度測定データ40を取得する(S102)。温度測定データ40は、対象動物20に関する温度分布を示す。温度測定データ40は、対象動物20、対象物体30、又はその双方が温度センサ10の測定範囲に含まれる状態において、温度センサ10によって測定が行われることで生成される。温度センサ10が赤外線カメラである場合、例えば温度測定データ40は、対象動物20、対象物体30、又はその双方が撮像範囲に含まれる状態で赤外線カメラによって生成された、熱画像データである。
【0033】
なお、温度測定データ40によって温度が示されている物体には、対象動物20や対象物体30以外の物体が含まれていてもよい。例えば対象動物20がベッドに寝ている場合、温度測定データ40には、そのベッドの温度も含まれうる。
【0034】
ここで、温度測定データ40は、温度センサ10の測定範囲のうち、一部の範囲のみについての温度を示してもよい。例えば、温度センサ10の測定範囲のうち、対象動物20や対象物体30が含まれないことが明らかな範囲の温度については、温度測定データ40に含めないようにする。例えば対象動物20がベッドに寝ており、温度センサ10の測定範囲にそのベッドの外側も含まれるとする。この場合、温度測定データ40には、ベッドの内側の範囲(すなわち、対象動物20が寝られる範囲)の温度のみが含まれるようにしてもよい。
【0035】
温度センサ10は、温度の測定を繰り返し行うことで、それぞれ異なる時点について温度測定データ40を生成する。温度センサ10は、例えば1秒毎に温度の測定を行えばよい。ここで温度センサ10が遠赤外線カメラである場合、温度の測定の繰り返し間隔を長くすればするほどセンサの露光時間が長くなりセンサ感度が上がるが、その分対象動物20の動きに追従できなくなる。そのため温度センサ10は、対象動物20の種類に応じて適宜温度の測定の繰り返し間隔を設定するとよい。取得部2020は、これら複数の温度測定データ40を取得する。
【0036】
ここで、対象動物20の複数の部位それぞれについて事象を検出したい場合がある。例えば、頭部について嘔吐の検出を行い、胴体について発汗の検出を行い、下半身について排泄の検出を行うといったことが考えられる。この場合、これら複数の部位の温度が1つの温度測定データ40に含まれてもよいし、部位ごとに温度測定データ40が生成されてもよい。後者の場合、例えば取得部2020は、対象動物20の頭部の温度を示す温度測定データ40(以下、頭部の温度測定データ40)、対象動物20の胴体の温度を示す温度測定データ40(以下、胴体の温度測定データ40)、及び対象動物20の下半身の温度を示す温度測定データ40(以下、下半身の温度測定データ40)という3種類の温度測定データ40を取得する。
【0037】
ここで、このように測定範囲がそれぞれ異なる複数種類の温度測定データ40を利用する場合、測定範囲ごとに異なる温度センサ10が利用されてもよいし、各測定範囲について共通の温度センサ10が利用されてもよい。後者の場合、例えば、温度センサ10の測定範囲を周期的に変えながら測定を行うことにより、それぞれ測定範囲が異なる複数種類の温度測定データ40を生成することができる。
【0038】
取得部2020が温度測定データ40を取得する具体的な方法は任意である。例えば温度測定データ40は、温度測定データ40を生成する装置によって、任意の記憶部に格納される。そこで取得部2020は、この記憶部に繰り返しアクセスし、未取得の1つの以上の温度測定データ40を取得する。その他にも例えば、温度測定データ40は、温度測定データ40を生成する装置から事象検出装置2000へ送信されてもよい。この場合、取得部2020は、事象検出装置2000に対して送信された温度測定データ40を受信することで、温度測定データ40を取得する。
【0039】
温度測定データ40を生成する装置は、温度センサ10であってもよいし、温度センサ10以外の装置であってもよい。後者の場合、例えば、任意のコンピュータが、温度センサ10による測定の結果を表すデータを取得し、そのデータを加工することで、温度測定データ40を生成する。例えばこの加工は、温度センサ10による測定の結果から不要なデータを削除する処理である。不要なデータは、例えば前述した、ベビーベッドの外側の範囲の温度のように、対象動物20や対象物体30が存在しないことが明らかな範囲についてのデータである。
【0040】
<温度変化の分布の特定:S104>
検出部2040は、温度測定データ40を利用して、対象動物20に関する温度変化の分布を特定する(S104)。例えば検出部2040は、以下の流れで、対象動物20に関する温度変化の分布を表す温度変化マップを生成する。
【0041】
まず検出部2040は、温度測定データ40から、対象動物20に関する注目領域の温度分布を表す温度マップを生成する。温度マップは複数のセルを有する。温度マップの複数のセルは、対象動物20の注目領域に含まれる複数の箇所それぞれの温度を示す。
【0042】
対象動物20に関する注目領域は、検出したい事象の影響を受ける対象動物20や対象物体30の領域である。対象動物20に関する注目領域の具体例は、対象動物20の頭部、上半身、又は下半身などである。なお、これらの部位の上に対象物体30がある場合(例えば、おむつを身につけている乳児の下半身を注目領域とする場合)、温度マップに示され温度分布は、対象物体30上の温度分布を表す。
【0043】
温度測定データ40から温度マップを生成するために、検出部2040は、温度測定データ40によって示されている複数の温度の中から、対象動物20に関する注目領域について示されている温度を特定する。例えば温度測定データ40が熱画像データである場合、検出部2040は、熱画像データに含まれる複数の画素の中から、対象動物20に関する注目領域の温度を表す1つ以上の画素を特定する。
【0044】
そのために、例えば、対象動物20を表す領域と、対象動物20に関する注目領域との位置関係を表す情報を予め用意しておく。この情報を「注目領域情報」と呼ぶ。注目領域情報は、例えば、事象検出装置2000からアクセス可能な任意の記憶部に格納されている。この場合、検出部2040は、この記憶部から注目領域情報を読み出して利用する。
【0045】
図5は注目領域情報を例示する図である。
図5では、対象動物20が乳幼児であることを想定している。注目領域情報60は、動物領域62と注目領域64を含む。動物領域62は、対象動物20を表す領域である。注目領域64は、対象動物20の注目領域を表す。
図5の例において、注目領域情報60は、注目領域64として、対象動物20の頭部に含まれる注目領域64-1、対象動物20の上半身に含まれる注目領域64-2、及び対象動物20の下半身に含まれる注目領域64-3を含む。
【0046】
このように注目領域64が複数定められている場合、温度マップは注目領域ごとに生成される。そのため、
図5の例では、注目領域64-1についての温度マップ、注目領域64-2についての温度マップ、及び注目領域64-3についての温度マップという、3つの温度マップが生成される。
【0047】
ここで、対象動物20は複数の姿勢を取りうる。対象動物20の姿勢は、例えば、仰向け、うつぶせ、左側が上の側臥位、及び右側が上の側臥位などといった臥位状態の種類で表される。このように対象動物20が複数の姿勢を取りうる場合、動物領域62と注目領域64との位置関係は、対象動物20の姿勢ごとに異なりうる。そこで、対象動物20が複数の姿勢を取りうる場合、対象動物20が取り得る複数の姿勢それぞれについて、注目領域情報60が用意される。
【0048】
また、複数の種類の動物を対象動物20として扱うことがありうる。そして、動物領域62と注目領域64との位置関係は、対象動物20の種類ごとに異なりうる。そこで、複数の種類の動物が対象動物20として扱われる場合、対象動物20の種類ごとに注目領域情報60が用意される。なお、ここでいう「複数の種類の動物」は、人間と犬のように生物学的な分類が互いに異なる動物だけでなく、大人の人間と子供の人間などのように、生物学的な分類は同一であるもののその属性が互いに異なる動物も含む。
【0049】
温度測定データ40から、対象動物20に関する注目領域の温度の分布を特定するために、まず検出部2040は、温度測定データ40の中から、対象動物20を表す領域の温度の分布を特定する。ここで、熱画像データなどの温度分布を表すデータから、特定の動物の温度を表す部分を検出する技術には、既存の技術を利用することができる。例えばこの検出には、ニューラルネットワークなどといった任意の機械学習モデルを利用することができる。例えば、熱画像データが入力されたことに応じて、その熱画像データから特定の動物の画像領域を検出するように、機械学習モデルが予め訓練される。検出部2040は、この訓練済みの機械学習モデルに対して熱画像データを入力することにより、その熱画像データについて、対象動物20を表す画像領域を特定することができる。
【0050】
ここで、複数の姿勢それぞれについて注目領域情報60が用意されている場合、検出部2040は、温度測定データ40の中から、対象動物20を表す領域の温度分布を特定する際に、対象動物20の姿勢をさらに特定する。例えば、対象動物20の姿勢を特定できる分類モデルとしてさらに機能するように、前述した機械学習モデルを予め訓練しておく。
【0051】
その後、例えば検出部2040は、温度測定データ40から得られた、対象動物20を表す領域の温度分布と、注目領域情報60によって示される動物領域62との位置合わせを行う。この位置合わせにより、温度測定データ40から得られた、対象動物20を表す領域の温度分布と、注目領域情報60によって示される注目領域64との位置合わせができる。そこで検出部2040は、温度測定データ40から得られた、対象動物20を表す領域の温度分布から、注目領域64に対応する領域の温度分布を抽出することにより、注目領域の温度分布(すなわち、温度マップ)を生成する。
【0052】
ここで、複数の姿勢それぞれについて注目領域情報60が用意されている場合、検出部2040は、前述したように対象動物20の姿勢を特定する。そして、検出部2040は、特定した姿勢に対応する注目領域情報60を、温度マップの生成に利用する。
【0053】
また、複数の種類の対象動物20を扱う場合、例えば検出部2040は、対象動物20の種類を示す情報を取得し、その情報に示されている種類に対応する注目領域情報60を、温度マップの生成に利用する。対象動物20の種類を示す情報は、例えば、事象検出装置2000の利用者によって予め入力される。その他にも例えば、検出部2040は、温度測定データ40を利用して、対象動物20の種類を特定してもよい。例えば温度測定データ40が熱画像データである場合、RGB 画像データに含まれる物体の種類を特定する方法と同様の方法(例えば、分類モデルとして機能するように訓練された機械学習モデルを利用する方法)により、対象動物20の種類を特定することができる。例えば検出部2040は、RGB 画像データをグレースケール画像(1ch)に変換した画像に含まれる物体の種類を特定する方法と同様の方法により、対象動物20の種類を特定してもよい。
【0054】
ここで、温度測定データ40から抽出された温度分布がそのまま温度マップとして利用されてもよいし、温度測定データ40から抽出された温度分布を加工することで温度マップが生成されてもよい。後者の場合、例えば、温度マップの1つのセルの値(温度)が、温度測定データ40から抽出された複数の箇所の温度によって決定される。これは、温度測定データ40が熱画像データである場合において、温度マップの1つのセルの値が、熱画像データの複数の画素値から決定されることを意味する。
【0055】
温度マップの1つのセルに対し、温度測定データ40から抽出された温度分布における複数箇所の温度が対応づけられる場合、検出部2040は、これら複数箇所の温度の統計値を、温度マップの対応するセルに設定する。例えばこの統計値は、平均値、中央値、最大値、又は最小値などである。
【0056】
温度マップの1つのセルと、温度測定データ40から抽出された温度分布における複数箇所との対応関係は、例えば、注目領域情報60によって予め定められる。例えば注目領域情報60において、注目領域64に対し、温度マップの各セルが予め対応づけられている。
図6は、注目領域64に対して温度マップの各セルが対応づけられている注目領域情報60を例示する図である。このように注目領域64に対して温度マップの各セルが予め対応づけられている場合、温度測定データ40から抽出された温度分布と注目領域情報60との位置合わせの結果として、注目領域64の各セル(すなわち、温度マップの各セル)に対し、温度測定データ40から抽出された温度分布の複数箇所が対応づけられる。
【0057】
なお、注目領域情報60が複数の注目領域64を含む場合、注目領域64におけるセルの大きさ(言い換えれば、温度マップの1つのセルに対応づけられる温度測定データ40のデータ数)は、注目領域64ごとに異なってもよい。例えば
図6の例では、セルの大きさが、注目領域64-1、注目領域64-3、及び注目領域64-2という順に大きくなっている。なお、1つの注目領域64の中に、互いに大きさが異なるセルが定められていてもよい。
【0058】
例えば注目領域情報60では、空間的により細かい粒度で温度変化を観察したい領域ほど、より小さいセルが設定される。例えば、鼻や口などのように細かなパーツを有する頭部は、その他の部位と比較し、空間的に細かい粒度で温度変化を観察することが好適である。一方で、温度マップのセルを大きくすることには、ノイズの影響を小さくしたり、計算の負荷を小さくしたりできるという利点がある。そこで、注目領域情報60において、温度マップのセルの大きさを場所ごとに適切に設定することにより、対象動物20に関する事象の検出の精度を向上しつつ、事象を検出するための計算の負荷を小さくすることができる。
【0059】
検出部2040は、それぞれ異なる時点についての複数の温度測定データ40それぞれから、温度マップを生成する。そして、検出部2040は、複数の温度マップを利用して、対象動物20の注目領域における温度変化の分布を表す温度変化マップを生成する。温度変化マップは、それぞれ異なる2つの時点について生成された温度マップについて、各セルの値の差分(すなわち、それら2つの時点間における温度変化)を示す。
【0060】
検出部2040は、対象動物20に関する事象の検出に、温度変化マップの時系列データを利用してもよい。この場合、検出部2040は、複数の時点それぞれについて得られた温度測定データ40を利用して、温度マップの時系列データを生成する。そして、検出部2040は、温度マップの時系列データから、温度変化マップの時系列データを生成する。
【0061】
例えば検出部2040は、温度マップの時系列データから、時系列で互いに隣接する温度マップ間の差分を表す温度変化マップを生成することにより、温度変化マップの時系列データを生成する。
図7は、温度マップの時系列データと温度変化マップの時系列データとの関係を例示する第1の図である。
図7の例では、温度マップ70の時系列データから、温度変化マップ80の時系列データが生成されている。具体的には、検出部2040は、温度マップ70-1と温度マップ70-2の差分を表す温度変化マップ80-1、温度マップ70-2と温度マップ70-3の差分を表す温度変化マップ80-2、温度マップ70-3と温度マップ70-4の差分を表す温度変化マップ80-3、及び温度マップ70-4と温度マップ70-5の差分を表す温度変化マップ80-5を生成する。
【0062】
その他にも例えば、検出部2040は、温度マップ70の時系列データに含まれる各温度マップ70について、基準の温度マップ70との差分を算出することにより、温度変化マップ80の時系列データを生成してもよい。
図8は、温度マップの時系列データと温度変化マップの時系列データとの関係を例示する第2の図である。
図8の例では、温度マップ70の時系列データを構成する温度マップ70-1から温度マップ70-5それぞれについて、基準の温度マップ70である温度マップ70-Rとの差分が算出されている。その結果、温度変化マップ80の時系列データを構成する温度変化マップ80-1から温度変化マップ80-5が算出されている。
【0063】
基準の温度マップ70は、例えば、或る基準時点(対象動物20の監視が開始された時点など)についての温度マップ70である。基準の温度マップ70は、定期的又は不定期に更新されてもよい。
【0064】
<<周囲の温度の考慮>>
検出部2040は、温度変化マップ80を生成する際に、対象動物20の周囲の温度(以下、周囲温度)を考慮して、温度マップ70の各セルの値を補正してもよい。これは、対象動物20や対象物体30の温度変化の中には、周囲の温度変化の影響が含まれうるためである。
【0065】
例えば、周囲温度 x と、周囲温度が x から単位温度(例えば1℃)変化することにより、対象動物20や対象物体30において変化する温度 y との関係を対応づけた情報(以下、補正情報)を予め定めておく。補正情報は、例えば、変化前後の周囲温度 x1 と x2 を入力とし、対象動物20や対象物体30において変化する温度 y を出力する補正関数 y=f(x1,x2) を示す。なお、補正関数は、必ずしも数式で表される必要はなく、入力値と出力値とを対応づけたテーブルなどで表されてもよい。
【0066】
補正情報が上述した補正関数 y=f(x) を示す場合、例えば検出部2040は、温度マップ70のセルの値を、以下の式(1)に従って補正する。
【数1】
ここで、a[i][j] は、補正後の温度マップ70におけるi行j列のセルの値を表す。b[i][j] は、補正前の温度マップ70におけるi行j列のセルの値を表す。T1 と T2 はそれぞれ、時点 t1 と時点 t2 における周囲温度を表し、t1 から t2 までの期間は、取得部2020が温度測定データ40を取得する間隔よりも十分長い期間とする。f は前述した補正関数を表す。
【0067】
対象動物20の周囲温度を特定する方法は様々である。例えば温度センサ10が、対象動物20の周囲温度も測定するように構成されているとする。この場合、検出部2040は、温度センサ10による周囲温度の測定結果を用いて、周囲温度を特定する。
【0068】
例えば、温度センサ10において、温度測定データ40を生成するモードと、周囲温度を測定するモードという2つのモードが用意されているとする。例えば、周囲温度を測定するモードの温度センサ10の測定範囲は、温度測定データ40を生成するモードの測定範囲よりも広く設定される。検出部2040は、周囲温度を測定するモードの温度センサ10によって生成された測定データを利用して、周囲温度を特定する。なお、このように温度センサ10が2つのモードで動作する場合、例えば、温度センサ10から出力される測定データが、温度センサ10のモードを示す情報と共に出力されるようにする。こうすることで、温度センサ10から得られた測定データが、どのモードで生成されたものであるのかを特定することができる。
【0069】
例えば、周囲温度を測定するモードの温度センサ10が熱画像データを生成する場合、検出部2040は、その熱画像データの各画素に示されている温度の統計値を、周囲温度として算出する。なお、検出部2040は、周囲温度とは大きく異なる温度を示すと考えられる領域に対応する画素を、周囲温度の算出に利用する画素から除外してもよい。周囲温度とは大きく異なる温度を示すと考えられる領域とは例えば、冷暖房などの空調により局所的に温度が著しく異なる部分、あるいは日差しなどが影響する部分などである。その他にも例えば、周囲温度とは大きく異なる温度を示すと考えられる領域は、例えば、対象動物20である人などが寝ているベッドの内側などのように、対象動物20や対象物体30が含まれる領域である。
【0070】
周囲温度の測定は、温度センサ10以外を利用して行われてもよい。例えば、対象動物20の周囲に、室温の測定に利用できる温度計を設置しておく。この場合、検出部2040は、この温度計による測定の結果を、対象動物20の周囲温度として利用する。
【0071】
<事象の検出:S106>
検出部2040は、温度変化マップ80を利用して、対象動物20に関する事象を検出する(S106)。具体的には、検出部2040は、温度変化マップ80によって表されている、対象動物20に関する温度変化の分布の特徴に基づいて、対象動物20に関する事象を検出する。以下、温度変化マップ80を利用して対象動物20に関する事象を検出する方法について、具体的な方法をいくつか例示する。
【0072】
<<方法1>>
例えば検出部2040は、温度変化マップ80を利用して、対象動物20に関する温度変化の特徴量の分布を表す特徴マップを生成する。そして、検出部2040は、特徴マップと、予め用意されている参照情報とを比較することにより、対象動物20に関する事象を検出する。参照情報は、対象動物20に関する温度変化の分布の特徴と、対象動物20に関する事象とを対応づける情報である。参照情報についての詳細は後述する。
【0073】
特徴マップは、複数のセルを有する。複数のセルはそれぞれ、温度変化の特徴を表す特徴量を示す。ここでいう温度変化の特徴は、ある2つの時点間の温度変化の特徴であってもよい、温度変化の時系列データから得られる特徴であってもよい。言い換えれば、特徴マップのセルの値は、1つの温度変化マップ80を用いて決定されてもよいし、温度変化マップ80の時系列データを用いて決定されてもよい。
【0074】
特徴マップ90が1つの温度変化マップ80から生成される場合、検出部2040は、特徴マップ90の各セルが示す特徴量を、そのセルに対応する温度変化マップ80のセルの値から決定する。温度変化の特徴量の定め方は様々である。例えば温度変化の特徴量は、温度変化の大きさを、それぞれ重複しない複数の数値範囲のいずれかに分類することで定められる。
【0075】
例えば、温度変化の大きさ t の数値範囲として、「A: t<-x1」、「B: -x1<=t<-x2」、「C: -x2<=t<0」、「D: 0<=t<x3」、「E: x3<=t<x4」、及び「F: x4<=t」という6個の数値範囲を定めておく。ここで、-x1<-x2<x3<x4 である。この場合、検出部2040は、特徴マップ90の各セルについて、上記複数の数値範囲の中から、そのセルに対応する温度変化マップ80のセルの値が含まれる数値範囲を特定する。そして、検出部2040は、特徴マップ90の各セルに対し、そのセルについて特定された数値範囲の識別情報を、特徴量として設定する。例えば、x4 よりも大きい値を示す温度変化マップ80のセルに対応する特徴マップ90のセルには、F という特徴量が設定される。
【0076】
図9は、特徴マップを例示する図である。
図9の特徴マップ90は、下半身の注目領域64について生成された温度変化マップ80から生成されたものである。
【0077】
温度変化マップ80の時系列データから特徴マップ90が生成される場合、検出部2040は、温度マップ70の時系列データから、特徴マップ90の各セルについて、そのセルに対応する温度マップ70のセルの値を抽出することで、温度変化の時系列データを得る。そして、検出部2040は、特徴マップ90の各セルに対し、そのセルについて得られた温度変化の時系列データ(言い換えれば、温度の時間変化)の特徴を表す特徴量を設定する。
【0078】
温度変化の時系列データの特徴量を定める方法は様々である。例えば、温度変化の時系列データについて、複数の所定パターンそれぞれに対し、予め識別子を割り当てておく。検出部2040は、特徴マップ90の各セルについて、複数の所定パターンの中から、そのセルについて得られた温度変化の時系列データにマッチする(例えば、最も類似する)パターンを特定する。そして、検出部2040は、特徴マップ90の各セルが示す特徴量として、そのセルについて特定したパターンに対応する識別情報を設定する。なお、時系列データ同士のマッチングには、種々の既存の技術を利用することができる。
【0079】
検出部2040は、特徴マップ90と参照情報を利用して、対象動物20に関する事象を検出する。
図10は、参照情報を例示する第1の図である。
図10の参照情報50は、事象種別52と参照特徴マップ54という2つの列を有する。事象種別52は、嘔吐や排泄などのように、対象動物20に関する事象の種類を示す。
【0080】
参照特徴マップ54は、対象動物20に関する特定の事象が起こっている状況について、その事象に関係する対象動物20の注目領域における温度変化の分布の特徴を示す。例えば、嘔吐という事象に対応する参照特徴マップ54は、対象動物20が嘔吐した状況について、対象動物20の頭部の注目領域における温度変化の分布の特徴を示す。
【0081】
より具体的には、参照特徴マップ54は、特徴マップ90と同様に、複数のセルを有する。そして、参照特徴マップ54の複数のセルは、対象動物20の注目領域における対応箇所について、その対応箇所における温度変化の特徴を表す特徴量を示す。この特徴量は、1つの温度変化の特徴を表す特徴量であってもよいし、温度変化の時系列データの特徴を表す特徴量であってもよい。
【0082】
なお、参照特徴マップ54のセルには、特徴マップ90との比較において考慮対象から除外されるもの(すなわち、対応する特徴マップ90のセルがどのような特徴量を示していても、参照特徴マップ54と特徴マップ90との比較の結果が変わらないもの)が存在してもよい。以下、このように特徴マップ90との比較において考慮対象から除外される参照特徴マップ54のセルのことを「除外セル」と呼ぶ。この場合、例えば、参照特徴マップ54のセルによって示されうる特徴量の1つとして、除外セルであることを表す識別情報を定めておく。そして、除外セルには、除外セルであることを表す識別情報が設定される。
【0083】
参照情報50は、対象動物20の姿勢ごとに定められてもよい。また、参照情報50は、対象動物20の種類ごとに定められてもよい。
【0084】
図11は、参照情報50を例示する第2の図である。
図11の参照情報50は、動物種別56及び姿勢種別58という2つの列をさらに有する。動物種別56は、対象動物20の種類を表す。姿勢種別58は、対象動物20の姿勢の種類を表す。
【0085】
参照情報50の作成方法は任意である。例えば、事象検出装置2000の管理者等は、様々な環境下において、実際に温度センサ10を用いて対象動物20を観察する。これにより、事象検出装置2000の管理者等は、各事象が発生している状況と、いずれの事象も発生していない状況とについて、温度変化マップ80や温度変化マップ80の時系列データを得る。さらに、事象検出装置2000の管理者等は、各事象が発生している状況と、いずれの事象も発生していない状況とについて、温度変化マップ80や温度変化マップ80の時系列データを利用して、特徴マップ90を生成する。そして、事象検出装置2000の管理者等は、各事象について、その事象が発生している状況について得られた特徴マップ90と、いずれの事象も発生していない状況について得られた特徴マップ90とを比較することにより、その事象が発生している状況に特有の特徴量の分布を表す参照特徴マップ54を生成する。なお、事象検出装置2000の管理者は、上記の作業を、様々な種類の対象動物20や様々な種類の姿勢について行うことにより、対象動物20の種類や姿勢を考慮した参照情報50を作成することができる。
【0086】
ただし、参照情報50の作成は、温度センサ10を利用して対象動物20を実際に観察する方法に限定されない。例えば事象検出装置2000の管理者等は、各事象が発生している状況や、いずれの事象も発生していない状況について、コンピュータを用いたシミュレーションを行うことで温度分布のシミュレーションデータを得てもよい。この場合、シミュレーションデータを用いて温度変化マップ80が生成される。
【0087】
前述したように、検出部2040は、特徴マップ90と参照特徴マップ54との比較を行うことで、対象動物20に関する事象を検出する。例えば検出部2040は、参照情報50に含まれる1つ以上の参照特徴マップ54それぞれについて、その参照特徴マップ54と特徴マップ90との類似度を算出する。さらに検出部2040は、特徴マップ90との類似度が閾値以上である参照特徴マップ54が存在するか否かを判定する。特徴マップ90との類似度が閾値以上である参照特徴マップ54が存在する場合、検出部2040は、その参照特徴マップ54に対応する事象種別52によって特定される事象を、対象動物20に関する事象として検出する。一方、特徴マップ90との類似度が閾値以上である参照特徴マップ54が存在しない場合、検出部2040は、対象動物20に関する事象が発生していないと判定する。
【0088】
ここで、参照特徴マップ54と特徴マップ90の類似度を算出する方法には、複数の箇所それぞれの特徴量を示す2次元マップの間の類似度を算出可能な任意の方法を採用することができる。例えば検出部2040は、特徴マップ90と参照特徴マップ54とにおいて同一の特徴量が示されているセルの数を、参照特徴マップ54に含まれるセルの総数で割ることで得られる値を、特徴マップ90と参照特徴マップ54との類似度として算出する。なお、参照特徴マップ54に前述した除外セルが存在する場合、例えば、上記類似度を算出する際、参照特徴マップ54に含まれるセルの総数の代わりに、参照特徴マップ54に含まれるセルの総数から除外セルの総数を引いた値を利用するようにする。
【0089】
なお、対象動物20の姿勢を考慮する場合、検出部2040は、対象動物20の姿勢に対応する参照情報50に示される参照特徴マップ54を、特徴マップ90とのマッチングの対象とする。対象動物20の姿勢を特定する方法は前述した通りである。
【0090】
同様に、対象動物20の種類を考慮する場合、検出部2040は、対象動物20の種類に対応する参照情報50に示される参照特徴マップ54を、特徴マップ90とのマッチングの対象とする。対象動物20の種類を特定する方法は前述した通りである。
【0091】
<<機械学習モデルの利用>>
検出部2040は、機械学習モデルを利用して、対象動物20に関する事象を検出してもよい。以下、対象動物20に関する事象の検出に利用される機械学習モデルのことを、「事象検出モデル」と呼ぶ。事象検出モデルは、ニューラルネットワークやサポートベクトルマシンなどといった種々の機械学習モデルで構成される。
【0092】
例えば事象検出モデルは、温度変化マップ80が入力されたことに応じて、対象動物20に関する事象の種類、又は、対象動物20に関する事象が発生していないことを特定可能な出力データを出力する。事象検出モデルがニューラルネットワークで構成される場合、例えば事象検出モデルは、入力層、中間層、出力層で構成される。入力層は、温度変化マップ80を入力する。中間層は、入力層から伝播された温度変化マップ80の情報から特徴量を抽出する。出力層は、中間層から伝播された特徴量から、対象動物20に関する1つ以上の事象それぞれが発生した確率を示す出力データを出力する。
【0093】
検出部2040は、各事象の確率が閾値以上であるか否かを判定する。確率が閾値以上である事象が存在する場合、検出部2040は、その事象を、対象動物20に関する事象として検出する。一方、確率が閾値以上である事象が存在しない場合、検出部2040は、対象動物20に関する事象が発生していないと判定する。
【0094】
例えば、検出対象の事象が事象Aから事象Cという3種類の事象であるとする。この場合、例えば出力データは、事象Aが発生した確率 Pa、事象Bが発生した確率 Pb、及び事象Cが発生した確率 Pcをこの順で示す3次元ベクトル (Pa, Pb, Pc) である。なお、複数の事象が発生することもあるため、これら3つの確率の和は1にならなくてもよい。
【0095】
検出部2040は、事象が発生している確率 Pa、Pb、及び Pc のそれぞれが閾値以上であるか否かを判定することにより、対象動物20に関する事象の検出を行う。例えば、確率 Pa が閾値以上であるとする。この場合、検出部2040は、事象Aを、対象動物20に関する事象として検出する。
【0096】
事象検出モデルは、訓練データを用いて予め訓練される。訓練データは、入力データと正解データ(ground truth data)とを対応づけたデータである。入力データは、温度変化マップ80を表す。正解データは、対象動物20に関する温度変化の分布が、対応する入力データで表される場合において、対象動物20について発生している事象、又は、対象動物20について事象が発生していないことを表す。例えば事象検出モデルの出力データが前述した3次元ベクトル (Pa, Pb, Pc) で表される場合において、対象動物20について事象Cが発生していることを表す正解データは (0,0,1) である。また、いずれの事象も発生していないことを表す正解データは (0,0,0) である。
【0097】
事象検出モデルの訓練を行う装置(以下、訓練装置)は、複数の訓練データを用いて、事象検出モデルの訓練を行う。ここで、訓練データを用いて機械学習モデルの訓練を行う方法には、既存の種々の手法を利用することができる。例えば訓練装置は、訓練データに含まれる入力データを事象検出モデルに入力し、事象検出モデルから出力データを得る。さらに訓練装置は、予め定義されている損失関数に対して、訓練データに含まれる正解データと、事象検出モデルから出力された出力データとを適用することで、正解データと出力データとの差異の大きさを表す損失を算出する。そして、訓練装置は、算出した損失を利用して、事象検出モデルの訓練可能なパラメータ(例えば、ニューラルネットワークにおける各ノード間の重みとバイアス)を更新する。以上の処理を複数の訓練データを利用して繰り返し行うことにより、訓練済みの事象検出モデルが得られる。なお、損失を利用して機械学習モデルのパラメータを更新する具体的な方法には、既存の種々の手法を利用することができる。
【0098】
事象検出モデルに対する入力データは、温度変化マップ80の時系列データであってもよい。この場合、事象検出モデルは、温度変化マップ80の時系列データが入力されたことに応じて、前述した出力データを出力する。時系列データを入力として扱える機械学習モデルとしては、例えば、3D-CNN(Convolutional Neural Network)や RNN(Recurrent Neural Network)などがある。なお、事象検出モデルが温度変化マップ80の時系列データを入力データとして扱う場合、事象検出モデルの訓練に利用する訓練データの入力データも、温度変化マップ80の時系列データを示す。
【0099】
ここで、複数の注目領域64それぞれについて温度マップ70が生成される場合、例えば事象検出モデルは、注目領域64ごとに用意される。この場合、検出部2040は、温度マップ70又は温度マップ70の時系列データを、それらに対応する注目領域64の事象検出モデルに対して入力する。これにより、対象動物20に関する事象の検出が、複数の注目領域64それぞれについて行われる。
【0100】
また、対象動物20の姿勢を考慮する場合、例えば事象検出モデルは、対象動物20の姿勢ごとに用意される。この場合、検出部2040は、対象動物20の姿勢に対応する事象検出モデルに対して、温度マップ70又は温度マップ70の時系列データを入力することで、対象動物20に関する事象を検出する。
【0101】
また、対象動物20の種類を考慮する場合、例えば事象検出モデルは、対象動物20の種類ごとに用意される。この場合、検出部2040は、対象動物20の種類に対応する事象検出モデルに対して、温度マップ70又は温度マップ70の時系列データを入力することで、対象動物20に関する事象を検出する。
【0102】
<結果の出力>
事象検出装置2000は、対象動物20に関する事象の検出の結果に基づいて、種々の情報を出力する。以下、事象検出装置2000によって出力される、対象動物20に関する事象の検出の結果を表す情報のことを、総称して「出力情報」と呼ぶ。また、出力情報の生成及び出力を行う事象検出装置2000の機能構成部を「出力部」と呼ぶ。
図12は出力部を有する事象検出装置2000の機能構成を例示する図である。
【0103】
出力情報としては、種々の情報を採用することができる。例えば出力情報は、事象の発生を知らせる通知(以下、事象発生通知)を表す。事象発生通知は、例えば、検出された事象の名称や、事象が検出された日時などを含む。また、対象動物20が複数存在する場合、すなわち、事象検出装置2000によって複数の対象動物20それぞれについて事象の検出が行われる場合、事象発生通知は、事象が検出された対象動物20の識別情報(対象動物20の名称など)をさらに含むことが好適である。
【0104】
例えば出力部2060は、事象発生通知を表す情報として、上述した種々の情報を表す表示が含まれる画面(以下、通知画面)を生成する。通知画面は、温度測定データ40や事象の発生箇所を表す表示をさらに含んでもよい。例えば出力部2060は、事象の検出に利用された熱画像データに対し、事象の発生箇所を表す所定のマークを重畳し、このマークが重畳された熱画像データを通知画面に含める。
【0105】
図13は、通知画面を例示する図である。通知画面100は、表示エリア110と表示エリア120を含む。表示エリア110は、事象が検出された対象動物20の名称を示す。表示エリア120は、対象動物20に関する事象の検出に利用された熱画像データ120、事象の発生箇所を表すマーク130、及び事象に関する情報を示す詳細表示140を含む。事象の発生箇所を表すマーク130は、特徴マップ90に基づいて生成された形状でもよい。例えば特徴量が A から F までと設定されている場合に、A から F までの特徴量ごとに表示色を定めておき、
図9に示す特徴マップ90の各セルについて、そのセルの特徴量に対応する表示色を示した画像を事象の発生個所を表すマーク130としてもよい。
【0106】
事象発生通知の出力先は任意である。例えば出力部2060は、所定の人物が利用する端末へ事象発生数値を送信する。所定の人物は、例えば、対象動物20である乳幼児の親、対象動物20であるペットの飼い主、又は、対象動物20である人が滞在している施設(病院や老人ホームなど)の職員などである。その他にも例えば、出力部2060は、事象検出装置2000に接続されているディスプレイ装置に対して事象発生通知を出力する。
【0107】
事象発生通知は通知画面に限定されない。例えば出力部2060は、事象発生通知として、前述した事象発生通知に含める種々の情報を表す音声データを生成してもよい。この場合、出力部2060は、前述した所定の人物の端末に設けられているスピーカや、事象検出装置2000に接続されているスピーカなどに対して、事象発生通知を出力する。
【0108】
その他にも例えば、状態の変化を視覚で認識できるデバイス(例えば、ランプなどの発光デバイス)や、状態の変化を聴覚で認識できるデバイス(例えば、ブザーなどの音響デバイス)を利用して、事象発生通知が実現されてもよい。具体的には、これらのデバイスを、対象動物20の周辺や、前述した種々の所定の人物が滞在する場所に予め設けておく。出力部2060は、対象動物20に関する事象が検出されたことに応じてこれらのデバイスへ制御信号を送信することにより、これらのデバイスを作動させることで、事象発生通知を出力する。この場合、事象発生通知は、発光デバイスによる発光や、音響デバイスによる音の出力によって実現される。なお、発光デバイスによって発光される光の色や、音響デバイスによって出力される音の種類が可変である場合、事象検出装置2000は、対象動物20に関して検出した事象の種類に応じて異なる制御信号を送信することにより、光の色や音の種類を変えてもよい。
【0109】
出力情報は通知に限定されない。例えば出力部2060は、前述した事象発生通知に示される種々の情報を示す出力情報を、任意の記憶部に格納する。これにより、事象発生のログを作成することができる。
【0110】
以上、実施の形態を参照して本開示の発明について説明をしたが、本開示の発明は、上記実施形態に限定されものではない。本開示の発明の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0111】
上記実施形態において、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0112】
本開示は、SDGs(Sustainable Development Goals)の「すべての人に健康と福祉を」の実現に貢献し、ヘルスケア製品・サービスによる価値創出に寄与する事項を含む。
【符号の説明】
【0113】
10 温度センサ
20 対象動物
30 対象物体
40 温度測定データ
50 参照情報
52 事象種別
54 参照特徴マップ
56 動物種別
58 姿勢種別
60 注目領域情報
62 動物領域
64 注目領域
70 温度マップ
80 温度変化マップ
90 特徴マップ
100 通知画面
110 表示エリア
120 表示エリア
120 熱画像データ
130 マーク
140 詳細表示
500 コンピュータ
502 バス
504 プロセッサ
506 メモリ
508 ストレージデバイス
510 入出力インタフェース
512 ネットワークインタフェース
2000 事象検出装置
2020 取得部
2040 検出部
2060 出力部