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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164103
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】アレイアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/08 20060101AFI20231102BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20231102BHJP
   H01Q 11/10 20060101ALI20231102BHJP
   H01Q 23/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01Q21/08
H01Q21/24
H01Q11/10 100
H01Q23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075438
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 康宏
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA07
5J021AA13
5J021AB02
5J021AB03
5J021BA01
5J021BA03
5J021CA06
5J021FA13
5J021JA05
5J021JA08
(57)【要約】
【課題】誘電体基板に複数のアンテナ素子を高い密度で配置する場合であっても良好なアンテナ特性を確保し得るアレイアンテナを実現する。
【解決手段】誘電体基板10を用いたアレイアンテナ1は、誘電体基板10のY方向に沿って配列される複数のアンテナ素子20、30と、誘電体基板10を部分的に切り欠いて形成された1又は複数のスリット部40とを備えて構成され、それぞれのスリット部40はY方向に隣接するアンテナ素子20、30の間を隔てる空気層を構成している。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と導体層を積層してなる誘電体基板を用いたアレイアンテナであって、
前記誘電体基板に形成され、前記誘電体基板の厚さ方向に直交する第1の方向に沿って配列される複数のアンテナ素子と、
前記誘電体基板を部分的に切り欠いて形成され、前記第1の方向に隣接する少なくとも1対の前記アンテナ素子の間を隔てる空気層を構成する1又は複数のスリット部と、
を備えることを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項2】
前記複数のアンテナ素子は、前記誘電体基板の内部に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ。
【請求項3】
前記複数のアンテナ素子は、前記導体層に形成された複数の導体パターンと前記誘電体層を貫く複数のビア導体とを用いて構成された複数の対数周期アンテナであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアレイアンテナ。
【請求項4】
前記厚さ方向から見た平面視で前記複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数層のグランド導体が設けられることを特徴とする請求項3に記載のアレイアンテナ。
【請求項5】
前記複数のアンテナ素子は、1又は複数の水平偏波用アンテナ素子と1又は複数の垂直偏波用アンテナ素子と含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアレイアンテナ。
【請求項6】
前記水平偏波用アンテナ素子の個数と前記垂直偏波用アンテナ素子の個数は同一であることを特徴とする請求項5に記載のアレイアンテナ。
【請求項7】
前記水平偏波用アンテナ素子と前記垂直偏波用アンテナ素子とは前記第1の方向の中央位置に対して対称的な配置で並ぶことを特徴とする請求項6に記載のアレイアンテナ。
【請求項8】
前記誘電体基板には、前記厚さ方向から見た平面視で前記中央位置の近傍領域において電子部品を収容可能な開口部が形成されていることを特徴とする請求項7に記載のアレイアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層と導体層を積層した誘電体基板を用いたアレイアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のアンテナ素子を平面領域に並べて配置したアレイアンテナが知られている。このようなアレイアンテナは、アンテナ素子数を適宜に増加させることができ、アンテナ利得の向上に適している。近年、小型軽量化のために、誘電体基板に複数のアンテナ素子を形成した構造のアレイアンテナが提案されている。例えば、特許文献1には、特定の偏波を放射する複数のアンテナ素子を誘電体基板に形成し、基板の側面方向に電波を放射するアレイアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2019/026913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のアレイアンテナにおいて、誘電体基板の所定方向に沿って並ぶ複数のアンテナ素子を形成する際、波長の1/2程度の間隔で隣接させる配置が一般的である。また、アンテナ素子同士の干渉に起因するアンテナ特性の劣化を抑制すべく、誘電体基板において隣接するアンテナ素子の間にグランド導体を形成する構成が採用される。しかし、近年においては2つの異なる偏波である水平偏波と垂直偏波の両方を放射し得るアレイアンテナが要請されており、この場合の誘電体基板には両方の偏波に対応する複数のアンテナ素子を高い密度(例えば、一方の偏波のみに比べて2倍程度の密度)で配置する必要があり、隣接するアンテナ素子の間隔を縮小せざるを得ない。その結果、隣接するアンテナ素子の間にはグランド導体を配置する十分なスペースを確保することは困難となるし、仮にグランド導体を配置したとしてもアンテナ素子とグランド導体との距離の接近によりアンテナ特性の劣化は避けられない。このように、誘電体基板を用いた上記従来のアレイアンテナは、異なる偏波に対応する際などアンテナ素子の高密度配置と良好なアンテナ特性とを両立することが困難である。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、誘電体基板において複数のアンテナ素子を高い密度で配置する場合であっても良好なアンテナ特性を確保し得るアレイアンテナを実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアレイアンテナは、誘電体層と導体層を積層してなる誘電体基板を用いたアレイアンテナであって、前記誘電体基板に形成され、前記誘電体基板の厚さ方向に直交する第1の方向に沿って配列される複数のアンテナ素子と、前記誘電体基板を部分的に切り欠いて形成され、前記第1の方向に隣接する少なくとも1対の前記アンテナ素子の間を隔てる空気層を構成する1又は複数のスリット部とを備えて構成される。
【0007】
本発明のアレイアンテナによれば、誘電体基板に複数のアンテナ素子を形成し、第1の方向に隣接するアンテナ素子の間を切り欠いてスリット部を形成したので、誘電体基板に複数のアンテナ素子を高い密度で配置する場合であっても、スリット部の空気層と誘電体基板の誘電率差によりアンテナ素子の並び方向への電波の広がりを抑制し、グランド導体を配置することなくアレイアンテナのアンテナ利得の向上を実現することができる。
【0008】
本発明のアレイアンテナに関しては、多様なアンテナ構造を採用することができる。例えば、複数のアンテナ素子を誘電体基板の内部に埋設することができる。これにより、周囲の誘電体層の波長短縮効果により複数のアンテナ素子の配置面積を縮小することができる。また例えば、複数のアンテナ素子として、導体層に形成された複数の導体パターンと誘電体層を貫く複数のビア導体とを用いて構成された複数の対数周期アンテナを用いることができる。これにより、平面方向の導体パターンと厚さ方向のビア導体を利用することで多様な立体的形状を有する対数周期アンテナを実現可能となる。
【0009】
本発明のアレイアンテナにおいて、前記厚さ方向から見た平面視で前記複数の対数周期アンテナが配置される領域と重ならない領域に配置された1層又は複数層のグランド導体を設けることができる。これにより、複数のアンテナ素子が多層構造を有する場合であっても、積層方向に連結したグランド導体を介して配置することができ、アンテナ特性の向上が可能となる。
【0010】
本発明のアレイアンテナの複数のアンテナ素子には、1又は複数の水平偏波用アンテナ素子と1又は複数の垂直偏波用アンテナ素子を含めることができる。これにより、2種の異なる偏波として典型的な水平偏波及び垂直偏波を高い密度で配置して両者を共用し得るアレイアンテナを実現することができる。この場合、水平偏波用アンテナ素子の個数と垂直偏波用アンテナ素子の個数を同一にすることや、水平偏波用アンテナ素子と垂直偏波用アンテナ素子とを第1の方向の中央位置に対して対称的な配置で並べることが可能である。
【0011】
本発明のアレイアンテナにおいて、厚さ方向から見た平面視で中央位置の近傍領域において電子部品を収容可能な開口部を形成することができる。開口部に載置される電子部品としては、例えば、ICチップを挙げることができる。特に、水平偏波用アンテナ素子及び垂直偏波用アンテナ素子を中央位置に対して対称的な配置で並べる場合には、中央位置の直下に形成した開口部の電子部品によるアンテナ性能への影響を軽減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電体基板に形成した複数のアンテナ素子の間に空気層となるスリット部を設けたので、高い密度で複数のアンテナ素子を配置する場合でも、アンテナ特性の劣化の要因となるグランド導体を配置することなく、空気層の介在によりアンテナ素子の並び方向への電波の広がりを抑制して良好なアンテナ利得を実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のアレイアンテナ1の全体をZ方向の上方から見た平面図である
図2図1のアレイアンテナ1をX方向に沿った矢印A方向から見た概略の断面図であり
図3図1のアレイアンテナ1をY方向に沿った矢印B方向から見た概略の断面図である
図4図1の水平偏波用対数周期アンテナ20aの構造を拡大して示す図である。
図5】水平偏波用対数周期アンテナ20aの断面構造を示す図である。
図6図1の垂直平偏波用対数周期アンテナ30aの構造を拡大して示す図である。
図7】垂直偏波用対数周期アンテナ30aの断面構造を示す図である。
図8】本実施形態のアレイアンテナ1に関し、実施例と比較例とを対比したときのピーク利得の特性を示す図である。
図9図1の6個のスリット部40を設けない構造を有するアレイアンテナ1を比較例として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、本発明を具体化したアレイアンテナについて説明を行う。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0015】
本発明のアレイアンテナを適用した実施形態について、図1図7を用いて具体的に説明する。図1図7では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向(本発明の第1の方向)、Z方向をそれぞれ矢印にて示している。図1は、本実施形態のアレイアンテナ1の全体をZ方向の上方から見た平面図である。また、図2は、図1のアレイアンテナ1をX方向に沿った矢印A方向から見た概略の断面図であり、図3は、図1のアレイアンテナ1をY方向に沿った矢印B方向から見た概略の断面図である。また、アレイアンテナ1に構成される複数のアンテナ素子20、30のうち、図4は、水平偏波用対数周期アンテナ20aの構造を拡大して示す図であり、図5は、図4の水平偏波用対数周期アンテナ20aの断面構造を示す図である。同様に、図6は、垂直偏波用対数周期アンテナ30aの構造を拡大して示す図であり、図7は、図6の垂直偏波用対数周期アンテナ30aの断面構造を示す図である。
【0016】
本実施形態のアレイアンテナ1は、所定の誘電率を有する誘電体材料からなる誘電体基板10により構成される。誘電体基板10は、誘電体層と導体層とを交互に積層した多層構造を有し、X方向に沿う短辺と、Y方向に沿う長辺と、Z方向に沿う所定の厚さを有する直方体の板状部材である。図1は、Z方向の上方から見た平面視でアレイアンテナ1の全体が透過して示されている。誘電体基板10には、多層のグランド導体11や高周波回路などを含むRF領域A1と、複数のアンテナ素子20、30を含むアンテナ領域A2とがそれぞれ配置される。すなわち、RF領域A1とアンテナ領域A2とはX方向の境界位置XBで領域区分され、互いにX方向に対向している。
【0017】
アンテナ領域A2には、8個のアンテナ素子20、30が誘電体基板10の内部に埋設された状態で、Y方向に並んで配置されている。これら8個のアンテナ素子20、30には、4個の水平偏波用対数周期アンテナ20(20a、20b、20c、20d)と、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ30(30a、30b、30c、30d)との2種類が含まれる。ここで、対数周期アンテナは、長さの異なる放射素子対を規則的に配置することで広い周波数帯域と鋭い放射指向性を確保できるアンテナである。そして、4個の水平偏波用対数周期アンテナ20はそれぞれ水平偏波を放射し、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ30はそれぞれ垂直偏波を放射する。本実施形態では水平偏波用対数周期アンテナ20の個数及び垂直偏波用対数周期アンテナ30の個数がそれぞれ4個の場合を示すが、いずれも誘電体基板10のサイズに応じた任意の個数に設定可能である。ただし、アレイアンテナ1のアンテナ特性の観点から、両者の個数を同一に設定することが望ましい。
【0018】
図1に示すように、8個のアンテナ素子20、30の並び方は、Y方向の中央位置YCに対して対称的な配置となっている。すなわち、中央位置YCの近傍では、2個の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cが隣接し、そこから両側に向かって、垂直偏波用対数周期アンテナ30b、30c、水平偏波用対数周期アンテナ20a、20d、垂直偏波用対数周期アンテナ30a、30dの並び順になっている。また、本実施形態では、8個のアンテナ素子20、30がY方向に不等間隔で並んでいる。複数のアンテナを並べて配置する場合、使用波長に応じた等間隔に設定することが一般的であるが、本実施形態ではアンテナ間隔をある程度ずらした配置であってもアンテナ性能を確保することができる。なお、8個のアンテナ素子20、30が誘電体基板10の内部に埋設されている場合、波長短縮効果により互いの間隔をある程度短くすることができる。ただし、必要に応じて8個のアンテナ素子20、30を誘電体基板10の表面に露出させることも可能である。
【0019】
また、誘電体基板10には、8個のアンテナ素子20、30が互いに隣接する領域を部分的に切り欠いた6個のスリット部40(40a、40b、40c、40d、40e、40f)が形成されている。具体的には、図1の左側の領域の3個のスリット部40a、40b、40cと、図1の右側の領域の3個のスリット部40d、40e、40fとが、前述のアンテナ素子30と同様、中央位置YCに対して対称的に配置されている。6個のスリット部40は互いに同一形状であって、いずれも誘電体基板10のうち平面視でX方向の長辺とY方向の短辺からなる長方形状の領域をZ方向に沿って切り欠いた構造を有する。よって、それぞれのスリット部40は外部に連通するので隣接するアンテナ素子20、30の間の空気層として機能するが、スリット部40の役割について詳しくは後述する。なお、本実施形態では誘電体基板10に6個のスリット部40が形成される構造を例示するが、スリット部40の個数は必要に応じて適宜に増減することができる。
【0020】
以下、図2及び図3を参照して、図1のアレイアンテナ1の断面構造について説明する。図2は、図1のアレイアンテナ1をX方向に沿った矢印A方向から見た断面図であり、図3は、図1のアレイアンテナ1をY方向に沿った矢印B方向から見た断面図である。なお、図2及び図3においては、主にRF領域A1の構造を明確にするために、8個のアンテナ素子20、30については図示を省略している。図2及び図3に示すように、アレイアンテナ1の誘電体基板10には、Z方向に対向する下部の表面10a及び上部の表面10bを含めた複数の導体層Lが形成され、それぞれの導体層Lには多様な導体パターンが形成されている。また、誘電体基板10には、それぞれの誘電体層を厚さ方向であるZ方向に貫いて延伸する複数のビア導体Vが形成されている。複数の導体層Lには、前述の多層のグランド導体11(図1)が形成され、Z方向に対向するグランド導体11同士が複数のビア導体Vを介して電気的に接続されている。
【0021】
また、図2及び図3に示すように、誘電体基板10の表面10aの側の中央領域には開口部10cが形成され、その開口部10cにICチップ50が載置されている。ICチップ50は複数の端子50aを備えており、それぞれの端子50aが開口部10cに面した所定の導体層Lの複数のパッド(不図示)に接続されている。このICチップ50は、所定の8個の端子50aから、複数の導体層Lに形成された給電経路(不図示)を経由して8個のアンテナ素子20、30のそれぞれに対して給電する役割を有する。また、ICチップ50の近傍のRF領域A1には、ICチップ50の動作に必要なRF回路が構成されている。また、図3に示すように、アンテナ領域A2におけるICチップ50の上部には、反射板12が配置されている。この反射板12はグランド導体11に接続され、ICチップ50と8個のアンテナ素子20、30との間での干渉を防止するシールド板として機能する。図1に示すように、反射板12は1対の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cの直下に配置されている。仮に反射板12が前述のスリット部40の直下にあると、反射板12が切り欠かかれることになるので、これを避けるべく1対の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cの間の直下に前述のスリット部40が位置しない配置としたものである。
【0022】
次に、図4及び図5を用いて、アレイアンテナ1のうち水平偏波用対数周期アンテナ20aの構造について説明する。なお、他の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20c、20dについても若干の構造上の違いがあるが、基本的な機能は共通である。図4に示すように、水平偏波用対数周期アンテナ20aは、信号側接続導体60a、60b及びグランド側接続導体70a、70bと、信号側及びグランド側のビア導体Va、Vbと、信号側の3個の水平放射素子61、62、63と、グランド側の3個の水平放射素子71、72、73とを備えて構成される。図4においては境界位置XB(図1参照)を示し、アンテナ領域A2における水平偏波用対数周期アンテナ20aの構造のみを示している。
【0023】
以上の構成において、1対の信号側接続導体60a及びグランド側接続導体70aは同一の導体層La(図5)に形成され、それぞれの端部Ea、EbからX方向に延伸する。信号側接続導体60bは直下の導体層Lb(図5)に形成され、ビア導体Vaを介して信号側接続導体60aと接続され、信号側接続導体60aとはX方向を逆向きに延伸する。グランド側接続導体70bは直上の導体層Lc(図5)に形成され、ビア導体Vbを介してグランド側接続導体70aと接続され、グランド側接続導体70aとはX方向を逆向きに延伸する。従って、図5に示すように、連続する3層の導体層La、Lb、Lcのうち、中央の導体層Laに配置された1対の信号側接続導体60a及びグランド側接続導体70aを挟んで、下部の信号側接続導体60bと上部のグランド側接続導体70bとが配置される構造となっている。なお、信号側接続導体60aの端部Eaは、ICチップ50の所定の端子50aに至る給電経路13(図5)に接続され、グランド側接続導体70bの端部Ebは、所定のグランド導体11と連結されている。
【0024】
信号側接続導体60b及びグランド側接続導体70bには、信号側及びグランド側の全部で3対をなす1対の水平放射素子61、71と、1対の水平放射素子62、72と、1対の水平放射素子63、73とが接続され、それぞれの基端から先端までY方向の両側に延伸している。これら3対の水平放射素子は、境界位置XBに近付くにつれてY方向の長さが長くなり、かつ並び方向に沿ってY方向への延伸方向は互い違いとなっている。さらに、信号側とグランド側の各対のY方向の位置は共通であるが、図5で説明したように、Z方向の位置は信号側とグランド側で異なっている。
【0025】
次に、図6及び図7を用いて、アレイアンテナ1のうち垂直偏波用対数周期アンテナ30aの構造について説明する。なお、他の垂直偏波用対数周期アンテナ30b~30dについても若干の構造上の違いがあるが、基本的な機能は共通である。図6に示すように、垂直偏波用対数周期アンテナ30aは、信号側接続導体80a、80b及びグランド側接続導体90a、90bと、信号側の4個の垂直放射素子81、82、83、84と、グランド側の4個の水平放射素子91、92、93、94とを備えて構成される。図6においても、境界位置XBから一方側のアンテナ領域A2における垂直偏波用対数周期アンテナ30aの構造のみを示している。
【0026】
以上の構成において、1対の信号側接続導体80a及びグランド側接続導体90aは、それぞれの端部Ed、EeからX方向に延伸し、逆側の端部で折り返して1対の信号側接続導体80b及びグランド側接続導体90bがX方向を逆向きに延伸する。この場合、信号側接続導体80a、80bは導体層Ld(図7)に形成され、グランド側接続導体90a、90bは導体層Ldから僅かに直下の導体層Le(図7)に形成される。なお、1対の信号側接続導体80a及びグランド側接続導体90aはZ方向に対向配置されるが、1対の信号側接続導体80b及びグランド側接続導体90bは互いにY方向にも間隔を置いてZ方向に対向配置される。また、信号側接続導体80aの端部Edは、ICチップ50の所定の端子50aに至る給電経路13(図7)に接続され、グランド側接続導体90bの端部Eeは、所定のグランド導体11と連結されている。
【0027】
折り返し側の信号側接続導体80b及びグランド側接続導体90bには、信号側及びグランド側の全部で4対をなす1対の垂直放射素子81、91と、1対の垂直放射素子82、92と、1対の垂直放射素子83、93と、1対の垂直放射素子84、94とが接続され、それぞれの基端から先端までZ方向の上下に延伸している。これら4対の垂直放射素子は、境界位置XBに近付くにつれてZ方向の長さが長くなり、かつ並び方向に沿ってZ方向への延伸方向は互い違いとなっている。さらに、信号側とグランド側の各対のX方向の位置は共通であるが、前述したように、Y方向の位置は信号側とグランド側で異なっている。
【0028】
図1において、両端近傍の2個の水平偏波用対数周期アンテナ20a、20dの構造は図4に示す通りであるが、他の中央近傍の2個の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cについては構造に相違がある。すなわち、2個の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cが図4と異なる点は、水平放射素子の個数が全部で8個(4対)であり、かつ4対の水平放射素子がY方向から傾斜した方向に延伸していることである。また、両端近傍の2個の垂直偏波用対数周期アンテナ30a、30dの構造は図6に示す通りであるが、中央近傍の2個の垂直偏波用対数周期アンテナ30b、30cについては構造に相違がある。すなわち、2個の垂直偏波用対数周期アンテナ30b、30cが図6と異なる点は、8個(4対)垂直放射素子の並び方向が境界位置XBに近付くほど互いに中央から離れる方向に傾斜していることである。ただし、水平偏波用対数周期20及び垂直偏波用対数周期30のそれぞれの放射素子の個数や傾斜方向については基本的な機能に与える影響は小さく、アンテナ特性の調整に応じて適宜に選択可能な設計事項である。
【0029】
上記のように、長さの異なる複数の水平放射素子を具備する水平偏波用対数周期アンテナ20と、長さの異なる複数の垂直放射素子を具備する垂直偏波用対数周期アンテナ30とは、主にX方向に沿って広い周波数帯域の水平偏波及び垂直偏波の電波を放射することができる。ただし、複数のグランド導体11の存在により、水平偏波用対数周期アンテナ20及び垂直偏波用対数周期アンテナ30の放射指向性は、X方向に沿って主にアンテナ領域A2の側の側面を向く方向で強くなり、RF領域A1の側を向く方向では相対的に弱くなる。また、アレイアンテナ1の全体の放射指向性は、4個の水平偏波用対数周期アンテナ20a、20b、20c、20dを合成した指向性と、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ30a、30b、30cを合成した指向性とにより定まる。
【0030】
一般には、水平偏波と垂直偏波を共用可能なアレイアンテナ1において、水平偏波用対数周期アンテナの個数と垂直偏波用対数周期アンテナの個数を同一とし、かつ交互に並べる配置が採用される。しかし、本実施形態の場合、中央位置YCの近傍直下に開口部10c内のICチップ50やその上部の反射板12(図1)が存在するので、Z方向の両側に延伸する垂直偏波用対数周期アンテナ30(図7)を配置することは困難である。従って、Z方向の厚さを十分小さくすることが可能な2個の水平偏波用対数周期アンテナ20b、20cを中央位置の近傍YCに配置することで、ICチップ50及び反射板12の配置の妨げになることを回避できる。ただし、水平偏波用対数周期アンテナ20と垂直偏波用対数周期アンテナ30は、中央位置YCに対して図1の左側と右側で対称的な配置かつ両者は同数であるため、比較的良好なアンテナ性能を確保することができる。
【0031】
以下、本実施形態のアレイアンテナ1の構造上の特徴に基づくアンテナ特性に関し、図8及び図9を参照しつつ説明する。ここでは、図1の構造を有するアレイアンテナ1の実施例との対比を行うために、図9に示すように、図1の6個のスリット部40を設けない構造を有するアレイアンテナ1を比較例とし、両者に同様のシミュレーションを行った。図8では、周波数が36.5~39.5GHzの範囲内で、上記実施例と上記比較例との両方のシミュレーションの検証結果として、4個の水平偏波用対数周期アンテナ20についての合成したピーク利得を図8(A)に示すとともに、4個の垂直偏波用対数周期アンテナ30についての合成したピーク利得を図8(B)に示している。
【0032】
図8に示すように、水平偏波の場合と垂直偏波の場合のいずれに関しても、実施例の特性(実線)の方が比較例の特性(破線)に比べて概ねピーク利得がある程度増加する傾向にある。すなわち、図1に示す6個のスリット部40を設けることにより、アレイアンテナ1の放射方向に沿った電界強度が強くなり、アンテナ利得を上昇させる効果が確認された。この結果は、比較例の構造を採用する場合、隣接するアンテナ素子20、30の間には全体的に誘電体基板10が存在し、誘電率が同一の誘電体材料の領域内に複数のアンテナ素子20、30が並ぶことになり、アレイアンテナ1の放射方向の垂直方向への電波の広がりが避けられないためである。これに対し、実施例の構造を採用する場合、6個のスリット部40の位置では誘電体材料より十分に誘電率が小さい空気層が存在するため、アレイアンテナ1の放射方向の垂直方向に沿って誘電率差が大きい領域が壁状に介在し、その方向に電波が広がることが抑制される結果、X方向に沿った放射方向でアンテナ利得が向上するものである。
【0033】
一方、図9の比較例において、図1の6個のスリット部40に代え、隣接するアンテナ素子20、30の間にグランド導体を形成することで、アレイアンテナ1の放射方向の垂直方向への広がりを抑制する手段も想定される。しかし、水平偏波と垂直偏波を共用するには同一偏波に比べて2倍程度の高密度でアンテナ素子20、30を並べて配置する必要があるため、上述のようなグランド導体を形成する構造を採用する場合、それぞれのアンテナ素子20、30とそれらの間のグランド導体との距離が接近し過ぎる結果、アレイアンテナ1のアンテナ特性の劣化は避けられない。従って、図1に示すような6個のスリット部40を設けることは、アンテナ利得の向上を含めてアレイアンテナ1のアンテナ特性の面で望ましい構造である。
【0034】
以上の本実施形態においては、高密度で配置される複数のアンテナ素子の例として、水平偏波用対数周期アンテナ20及び垂直偏波用対数周期アンテナ30を用いる形態を示したが、複数のアンテナ素子としては対数周期アンテナに限られることなく、多様なアンテナ素子を用いることができる。例えば、複数のアンテナ素子として、複数のダイポールアンテナを用いる場合であっても本発明が適用である。この場合、水平偏波用ダイポールアンテナと垂直偏波用ダイポールアンテナを交互に並べる構成は高密度な配置が必要となるので、各ダイポールアンテナの間にスリット部40を設けることにより、前述した通りの十分な効果を得ることがきる。なお、対数周期アンテナとダイポールアンテナのいずれについても、水平偏波と垂直偏波の両方を用いる場合に加え、水平偏波と垂直偏波の一方を用いる場合であっても、本発明を適用可能である。また、対数周期アンテナやダイポールアンテナに限られず、所定方向に並んで配置される多様なアンテナ素子を用いる場合であっても、本発明を適用可能である。
【0035】
また、本実施形態において、スリット部40の構造や個数についても多様な変形が可能である。すなわち、図1におけるスリット部40の個数や、スリット部40のX方向の長さ、Y方向の幅、Z方向の高さ等についても、アレイアンテナ1で得られるアンテナ利得に応じて適宜に調節することができる。例えば、2個のアンテナ素子とその間の1個のスリット部40という構造を採用してもよい。また例えば、図1ではスリット部40のX方向の長さはアンテナ素子20、30のX方向の長さより若干短いが、効果に応じてスリット部40のX方向の長さを可変してもよい。スリット部40のY方向の幅やZ方向の高さについても同様である。
【0036】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更を施すことができる。すなわち、図1図7を用いて説明したアレイアンテナ10は、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様な形態に対して広く本発明を適用することができる。特に、アンテナ素子20、30については、少なくとも2個形成されていれば、平面形状、立体的構造、配置、その他の設計事項などに関し、本発明の作用効果を得られる限り、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…アレイアンテナ
10…誘電体基板
10a、10b…表面
10c…開口部
11…グランド導体
12…反射板
13…給電経路
20(20a、20b、20c、20d)…水平偏波用対数周期アンテナ
30(30a、30b、30c、30d)…垂直偏波用対数周期アンテナ
40(40a、40b、40c、40d、40e、40f)…スリット部
50…ICチップ
61、62、63、71、72、73…水平放射素子
81、82、83、84、91、92、93、94…垂直放射素子
60a、60b、80a、80b…信号側接続導体
70a、70b、90a、90b…グランド側接続導体
L…導体層
V…ビア導体
A1…RF領域
A2…アンテナ領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9