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特開2023-164109L型アミノ酸トランスポーター1を標的とした高分子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164109
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】L型アミノ酸トランスポーター1を標的とした高分子
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/60 20170101AFI20231102BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231102BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231102BHJP
   C08G 69/10 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K45/00
A61P35/00
A61K47/54
C08G69/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075447
(22)【出願日】2022-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療研究開発推進事業費補助金 橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業」、「オープンイノベーションの推進により世界のつくばから医療の未来を加速開拓する事業」、「シーズA19-33がん関連アミノ酸トランスポーターLAT1を標的とした光増感剤の開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】カク コウシン
(72)【発明者】
【氏名】ヴン ヤン ミン
(72)【発明者】
【氏名】徐 文
(72)【発明者】
【氏名】金盛 開人
(72)【発明者】
【氏名】山田 直生
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】荻山 朋子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4J001
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076AA95
4C076CC27
4C076DD51
4C076EE23
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF31
4C076FF32
4C084AA17
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZB26
4J001DA01
4J001DA02
4J001DB02
4J001DB05
4J001DC05
4J001DC12
4J001DD07
4J001DD13
4J001DD20
4J001EA36
4J001ED64
4J001EE28C
4J001EE44C
4J001EE72C
4J001FA03
4J001FA06
4J001FA07
4J001FB01
4J001FC01
4J001GA01
4J001GA05
4J001GA13
4J001GD02
4J001GD08
4J001JA20
4J001JB01
4J001JB03
4J001JB50
4J001JC01
(57)【要約】
【課題】本願発明は、体内残存時間が長い、がん標的治療のためのコンジュゲート、並びに薬物送達システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)結合部位に薬物を結合させたコンジュゲートであって、LAT1結合部位が、下記構造:
を有する化合物又は薬学的に許容される塩であり、特に、Rが、メチオニン様構造又はチロシン様構造であることによって特徴付けられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)結合部位に薬物を結合させたコンジュゲートであって、
LAT1結合部位が、下記構造:
【化1】
〔式中、
は、メチオニン様構造又はチロシン様構造を表し、ここで、メチオニン様構造が、
【化2】
であり、チロシン様構造が、
【化3】
であり;
は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいC1-10アルキル基、置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、チオール基、シアノ基、アジド基、又は薬物であり;
及びRは、独立して、水素原子又は-L-薬物であり;
、L、及びLは、独立して、リンカーであるか又は存在せず;
xは、0~1000の整数であり;
yは、2~1000の整数であり;並びに
各繰り返し単位の結合順は任意である〕
を有する化合物又は薬学的に許容される塩である、上記コンジュゲート。
【請求項2】
がメチオニン様構造である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
がチロシン様構造である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
、L、及びLが、それぞれ独立して、C1-40アルキレン基であり、該C1-40アルキレン基中のメチレン基は、1~10個のオキソ基、NH、又は重合度が2~2,000のポリオキシアルキレンで置換されていてもよい、請求項1~3のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
xが30~100の整数であり、yが10~70の整数である、請求項1~4のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
y/(x+y)の値が0.5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
薬物が、低分子化合物、中分子化合物、及び抗体からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
薬物が、抗がん剤、光増感剤、核酸医薬、細胞毒性を有するタンパク質、及び体内診断薬からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
薬物が抗がん剤又は光増感剤である、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫及び軟部肉腫からなる群から選択されるがんの治療に用いられる、請求項8又は9に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のコンジュゲート、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項12】
脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫及び軟部肉腫からなる群から選択されるがんの治療に用いられる、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん標的治療のための、L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)を標的としたメチオニン/チロシン修飾高分子及びコンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞がグルコーストランスポーターを過剰発現することは周知であるが、最近の研究では、アミノ酸トランスポーターも過剰発現していることが明らかになっている(非特許文献1及び2)。特に、SLC7A5とも呼ばれるL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)が注目されている。LAT1は、フェニルアラニンやメチオニンなどの嵩高い疎水的な側鎖を持つ中性アミノ酸を輸送するNa非依存性中性アミノ酸トランスポーターとして分類される(非特許文献3及び4)。
【0003】
先行研究によると、LAT1の過剰発現は様々な種類のがん細胞で観察できることが示されたが(非特許文献5~7)、正常な臓器では血液脳関門、胎盤、神経血管など極めて限定的な部位でのみ発現している(非特許文献4)。したがって、LAT1は、がんの診断と治療の有望な標的と見なされてきた。例えば、11C-メチオニン-(3-18F)-α-メチルチロシンは、LAT1を介してがん細胞に取り込まれ、PETを使用したがんのイメージングに利用されている(非特許文献8)。ホウ素中性子捕捉療法に使用されるp-ボロノフェニルアラニン(BPA)もLAT1を介して取り込まれる治療薬である(非特許文献9および10)。
【0004】
上述のLAT1に対する薬剤は全て低分子であり、トランスポーターを通過できないような嵩高い薬剤や高分子薬剤への応用はいまだ限定的である。いくつかの研究では、フェニルアラニン誘導体で装飾された高分子とナノ粒子が報告されており、LAT1認識による効率的な細胞取り込みが示されているが、LAT1ターゲティングを介してインビボでのドラッグデリバリーを成功させた研究はごくわずかである非特許文献11及び12)。特に、LAT1を標的とした高分子を用いて生体内で光線力学療法を成功させた報告例はない。これは、インビボという複雑な環境においてもなおLAT1への選択性を維持する薬物送達システムを開発することが困難だからであると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E.L. Lieu, T. Nguyen, S. Rhyne, J. Kim, Amino acids in cancer, Exp. Mol. Med. 52 (2020) 15-30. https://doi.org/10.1038/s12276-020-0375-3
【非特許文献2】Y.D. Bhutia, E. Babu, S. Ramachandran, V. Ganapathy, Amino acid transporters in cancer and their relevance to "glutamine addiction": Novel targets for the design of a new class of anticancer drugs, Cancer Res. 75 (2015) 1782-1788. https://doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-14-3745
【非特許文献3】E.M. del Amo, A. Urtti, M. Yliperttula, Pharmacokinetic role of l-type amino acid transporters lat1 and lat2, Eur. J. Pharm. Sci. 35 (2008) 161-174.
【非特許文献4】S.E. Jin, H.E. Jin, S.S. Hong, Targeting l-type amino acid transporter 1 for anticancer therapy: Clinical impact from diagnostics to therapeutics, Expert. Opin. Ther. Targets 19 (2015) 1319-1337.
【非特許文献5】H. Betsunoh, T. Fukuda, N. Anzai, D. Nishihara, T. Mizuno, H. Yuki, A. Masuda, Y. Yamaguchi, H. Abe, M. Yashi, Y. Fukabori, K. Yoshida, T. Kamai, Increased expression of system large amino acid transporter (lat)-1 mrna is associated with invasive potential and unfavorable prognosis of human clear cell renal cell carcinoma, BMC Cancer 13 (2013) 509. https://doi.org/10.1186/1471-2407-13-509
【非特許文献6】Z. Liang, H.T. Cho, L. Williams, A. Zhu, K. Liang, K. Huang, H. Wu, C. Jiang, S. Hong, R. Crowe, M.M. Goodman, H. Shim, Potential biomarker of l-type amino acid transporter 1 in breast cancer progression, Nucl. Med. Mol. Imaging 45 (2011) 93-102. https://doi.org/10.1007/s13139-010-0068-2
【非特許文献7】O. Yanagida, Y. Kanai, A. Chairoungdua, D.K. Kim, H. Segawa, T. Nii, S.H. Cha, H. Matsuo, J. Fukushima, Y. Fukasawa, Y. Tani, Y. Taketani, H. Uchino, J.Y. Kim, J. Inatomi, I. Okayasu, K. Miyamoto, E. Takeda, T. Goya, H. Endou, Human l-type amino acid transporter 1 (lat1): Characterization of function and expression in tumor cell lines, Biochim. Biophys. Acta 1514 (2001) 291-302. https://doi.org/10.1016/s0005-2736(01)00384-4
【非特許文献8】K. Kubota, T. Matsuzawa, M. Ito, K. Ito, T. Fujiwara, Y. Abe, S. Yoshioka, H. Fukuda, J. Hatazawa, R. Iwata, S. Watanuki, T. Ido, Lung-tumor imaging by positron emission tomography using c-11 l-methionine, J. Nucl. Med. 26 (1985) 37-42.
【非特許文献9】P. Wongthai, K. Hagiwara, Y. Miyoshi, P. Wiriyasermkul, L. Wei, R. Ohgaki, I. Kato, K. Hamase, S. Nagamori, Y. Kanai, Boronophenylalanine, a boron delivery agent for boron neutron capture therapy, is transported by atb0,+, lat1 and lat2, Cancer Sci. 106 (2015) 279-286. https://doi.org/10.1111/cas.12602
【非特許文献10】A. Wittig, W. Sauerwein, J. Coderre, J. Coderre, Mechanisms of transport of p-borono-phenylalanine through the cell membrane in vitro, Radiat. Res. 153 (2000) 173-180
【非特許文献11】E. Puris, M. Gynther, S. Auriola, K.M. Huttunen, L-type amino acid transporter 1 as a target for drug delivery, Pharm. Res. 37 (2020) 1-17. https://doi.org/Artn 8810.1007/S11095-020-02826-8
【非特許文献12】S. Takano, K. Sakurai, S. Fujii, Internalization into cancer cells of zwitterionic amino acid polymers via amino acid transporter recognition, Polym. Chem. 12 (2021) 6083-6087. https://doi.org/10.1039/d1py01010g
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、体内残存時間が長い、がん標的治療のためのコンジュゲート、並びに薬物送達システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、LAT1の基質となるメチオニン又はチロシン構造を側鎖に導入することにより、LAT1を標的として薬物を腫瘍に選択的に集積させ、効率的な抗がん療法を提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
メチオニンと類似した構造を有するシステインを側鎖に導入した高分子を使用した場合、メチオニンを導入した高分子と比較してLAT1に対する選択性が見られず、腫瘍集積性も比較的低いことが示された。このことから、側鎖構造を微調整することによりLAT1への選択性を高められることもまた見出された。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)結合部位に薬物を結合させたコンジュゲートであって、
LAT1結合部位が、下記構造:
【0010】
【化1】
【0011】
〔式中、
は、メチオニン様構造又はチロシン様構造を表し、ここで、メチオニン様構造が、
【0012】
【化2】
【0013】
であり、チロシン様構造が、
【0014】
【化3】
【0015】
であり;
は、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいC1-10アルキル基、置換されていてもよいC1-10アルコキシ基、チオール基、シアノ基、アジド基、又は薬物であり;
及びRは、独立して、水素原子又は-L-薬物であり;
、L、及びLは、独立して、リンカーであるか又は存在せず;
xは、0~1000の整数であり;
yは、2~1000の整数であり;並びに
各繰り返し単位の結合順は任意である〕
を有する化合物又は薬学的に許容される塩である、上記コンジュゲート。
[2]Rがメチオニン様構造である、[1]に記載のコンジュゲート。
[3]Rがチロシン様構造である、[1]に記載のコンジュゲート。
[4]L、L、及びLが、それぞれ独立して、C1-40アルキレン基であり、該C1-40アルキレン基中のメチレン基は、1~10個のオキソ基、NH、又は重合度が2~2,000のポリオキシアルキレンで置換されていてもよい、[1]~[3]のいずれか1つに記載のコンジュゲート。
[5]xが30~100の整数であり、yが10~70の整数である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のコンジュゲート。
[6]y/(x+y)の値が0.5以下である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のコンジュゲート。
[7]薬物が、低分子化合物、中分子化合物、及び抗体からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれか1つに記載のコンジュゲート。
[8]薬物が、抗がん剤、光増感剤、核酸医薬、細胞毒性を有するタンパク質、及び体内診断薬からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれか1つに記載のコンジュゲート。
[9]薬物が抗がん剤又は光増感剤である、[8]に記載のコンジュゲート。
[10]脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫及び軟部肉腫からなる群から選択されるがんの治療に用いられる、[8]又は[9]に記載のコンジュゲート。
[11][1]~[10]のいずれか1項に記載のコンジュゲート、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
[12]脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫及び軟部肉腫からなる群から選択されるがんの治療に用いられる、[11]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明のメチオニン/システイン修飾高分子及びコンジュゲートを用いることにより、がんに選択的に薬物を送達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】PEG-PBLA97(2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図1B】PEG-PBLA27(2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図2A】PBLA100(2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図2B】PBLA57(2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図3A】PAsp110(10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図3B】PAsp57(10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図4A】PEG-PAsp97(10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図4B】PEG-PAsp27(10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図5A】PEG-P[Asp60/Asp(All)37](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示した。
図5B】PEG-P[Asp12/Asp(All)15](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示した。
図6A】P[Asp59/Asp(All)51](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示した。
図6B】P[Asp19/Asp(All)38](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示した。
図7A】P[Asp70/Asp(Met)40](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図7B】P[Asp33/Asp(Met)24](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図8A】PEG-P[Asp60/Asp(Met)37](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図8B】PEG-P[Asp14/Asp(Met)13](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図9】P[Asp74/Asp(Cys)36](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図10】PEG-P[Asp60/Asp(Cys)37](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを示す。
図11】FCMによるCy5標識したMet/Cys高分子の細胞取り込み評価を示す。(a)SKOV3-Luc、(b)CT26、(c)BxPC3及びNIH3T3。結果を平均±SDとして表す(n=5)。Tukey法により一元配置分散分析を用いて統計分析を行った(****p<0.0001)。
図12】FCMによるCy5標識したMet高分子の細胞取り込み評価を示す。(a)SKOV3-Luc、(b)CT26、(c)BxPC3。結果を平均±SDとして表す(n=5)。Tukey法により一元配置分散分析を用いて統計分析を行った(****p<0.0001)。
図13】Cy5標識した高分子の細胞内取り込みの定量的分析を示す図である。(a)SKOV3-Luc、(b)CT26、(c)BxPC3。結果を平均±SDとして表す(n=6)。多重比較法により二元配置分散分析を用いて統計分析を行った(****p<0.0001)。
図14】高分子の細胞内分布を示す図である。(a)SKOV3-Luc及びBxPC3細胞において2μMのCy5濃度とインキュベートした30分、1時間、2時間及び3時間後のMet官能化ポリマーの細胞内分布の蛍光画像。(b)SKOV3-Luc及びBxPC3細胞株において2μMのCy5濃度とインキュベートした3時間後のCys官能化ポリマーの細胞内分布の蛍光画像。(c)CT26細胞株において2μMのCy5濃度とインキュベートした3時間後のMet/Cys官能化ポリマーの細胞内分布の蛍光画像。スケールバーは10μmで示される。
図15A】フローサイトメトリーによって分析された阻害研究を示す図である。SKOV3-LucをBCH(システムL阻害剤)、BzlSer(ASCT2阻害剤)又はMeAIB(システムA阻害剤)とインキュベートした。結果を平均±SDとして表す(n=5)。スチューデントt検定を用いて統計分析を行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図15B】フローサイトメトリーによって分析された阻害研究を示す図である。CT26をBCH(システムL阻害剤)、BzlSer(ASCT2阻害剤)又はMeAIB(システムA阻害剤)とインキュベートした。結果を平均±SDとして表す(n=5)。スチューデントt検定を用いて統計分析を行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図15C】フローサイトメトリーによって分析された阻害研究を示す図である。BxPC3をBCH(システムL阻害剤)、BzlSer(ASCT2阻害剤)又はMeAIB(システムA阻害剤)とインキュベートした。結果を平均±SDとして表す(n=5)。スチューデントt検定を用いて統計分析を行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図16】Ppa-P[Asp92/Asp(Met)35]のインビトロでのPDTを示す。(a)光毒性、(b)暗毒性。細胞をPpa-P[Asp92/Asp(Met)35]とともに3時間インキュベートし、光毒性については、細胞をPBSで2回洗浄した後、新鮮な培地で3.0mW/cmで1時間ハロゲンランプ光照射を行った。暗毒性については、細胞をPBSで3回洗浄し、光照射なしで新鮮な培地でインキュベートした。結果を平均±SEMとして表す(n=6)。多重比較法により二元配置分散分析を用いて統計分析を行った(****p<0.05)。
図17】LAT1免疫組織化学検査を示す。腹腔内播種モデルは、がん細胞の腹腔内注射によって確立された。マウスから組織を採取し、5μmで切片化する2時間前に4%PFAで固定した。ヘマトキシリン染色を受けた試料を20倍で示した。スケールバーは50μmを示す。
図18】腹膜播種モデルにおけるポリマーの生体内分布評価を示す。(a)SKOV3-Luc腹膜播種モデルにおける生体内分布。示されるポリマーを1時間の腹腔内注射後に組織を取り出した。組織の生物発光/蛍光(ex/em=630nm/690nm)画像とCy5の分布をIVISによって撮像した。(b)SKOV3-Luc腫瘍モデルにおけるポリマー生体内分布の定量分析。ポリマーの放射効率測定は、画像処理に使用されるLiveImageソフトウェアによって自動的に割り当てられた。腫瘍の平均放射効率を生物発光領域の全蛍光として表した。結果を平均±SDとして示す(n=3)。Tukeyの多重比較法により二元配置分散分析を用いて統計分析を行った(**p<0.01)。(c)BxPC3腫瘍モデルにおけるIVISを使用した1時間のポリマー注入後の組織のポリマー蓄積の代表的な蛍光(ex/em=610nm/690nm)画像。(d)蛍光強度(ex/em=630nm/680nm)によって定量化され、注入された用量/g組織のパーセンテージとして表される、BxPC3腫瘍モデルにおけるポリマーの生体内分布。(e)腫瘍/血液及び腫瘍肝の比率。結果を平均±SDとして表す(n=3)。スチューデントt検定を用いて統計分析を行った(p<0.05、***p<0.001)。
図19】CT26腹膜播種モデルにおける生体内分布を示す。(a)組織の蛍光(ex/em=630nm/690nm)画像とCy5の分布をIVISによって撮像した。(b)CT26腫瘍モデルにおけるポリマー生体内分布の定量分析。ポリマーの腹腔内注射の1時間後に組織を取り出した。腫瘍の画像とCy5の分布をIVISによって撮像した。(c)ポリマーの1時間の腹腔内注射後の正常な臓器における生体内分布。
図20】SKOV3-Luc腹膜播種モデルにおける抗腫瘍能力を示す。PDT後のSKOV3-Luc腫瘍の生物発光画像。Ppa修飾ポリマーの投与量は0.1mg/マウスである。発光画像を光照射の0、5、10、15、20日後に収集した。
図21】平均腫瘍成長曲線を示す。腫瘍成長をマウス腹部の総生物発光として表した。結果を平均±SEM(n=5)として表す。Tukeyの多重比較法により二元配置分散分析を用いて統計分析を行った(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図22】ポリマー注入後の光照射なしのSKOV3-Luc腫瘍の生物発光画像を示す。Ppa修飾ポリマーの投与量は0.1mg/マウスである。発光画像を0、5、10、15、20日目に収集した。
図23】抗腫瘍研究(光刺激グループ)の終了時のSKOV-Luc腹膜播種モデルにおける肝臓及び膵臓の腫瘍増殖のエクスビボ画像を示す。ルシフェリンを5分間、腹腔内注射した後、組織を取り出した。
図24】PDTを用いた場合と用いない場合の相対的なマウスの体重曲線を示す図である。Met修飾ポリマーは、光照射により腫瘍抑制能力を示したが、光照射の有無にかかわらず副作用を誘発しなかった。これらの結果は、Met修飾ポリマーがPDTに大きな可能性を秘めていることを示唆する。
図25】N-PEG9k-PBLA95H NMRスペクトルを示す。
図26】N-PEG9k-PAsp95H NMRスペクトルを示す。
図27】N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]のH NMRスペクトルを示す。
図28】N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]のH NMRスペクトルを示す。
図29】N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]のH NMRスペクトルを示す。
図30】N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]のH NMRスペクトルを示す。
図31】Cy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の阻害研究を示す。BxPC3細胞を10mMのBCH溶液で処理した後、それぞれの2.0μMのCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]培地溶液を含む10mMのBCHで3時間処理し、フローサイトメトリー分析を行った。結果を平均±SDとして示す(n=3)。統計的有意性は、スチューデントt検定を使用して評価された(p<0.05、**p<0.01、***p<0.005)。
図32】Cy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の細胞取り込みを示す。BxPC3細胞を10mMのBCH溶液で処理した後、それぞれ2.0μMのCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]培地溶液を含む10mMのBCHで3時間処理し、フローサイトメトリー分析を行った。結果を平均±SDとして示す(n=3)。統計的有意性は、スチューデントt検定を使用して評価された(p<0.05、**p<0.01)。
図33】BxPC3異種移植腫瘍モデル(n=3)においてIVIS(ex/em=640/700nm)によって正常な臓器(脾臓、腎臓、肝臓、肺、心臓、腫瘍)で観察された蛍光を示す。
図34】BxPC3異種移植腫瘍モデル(n=3)におけるCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の腫瘍蓄積を示す。結果を平均±SDとして示す(n=3)。Tukeyの多重比較法により二元配置分散分析(ANOVA)を用いて統計分析を行った(p<0.05、**p<0.01)。
図35】BxPC3異種移植腫瘍モデルの正常な臓器(脾臓、腎臓、肝臓、肺、心臓)におけるCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の生体内分布を示す。結果を平均±SDとして示す(n=3)。
図36】BxPC3異種移植腫瘍モデルにおけるCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の血液保持を示す。結果を平均±SDとして示す(n=3)。
図37】BxPC3細胞におけるPpa結合ポリマーの光毒性を示す。結果を平均±SDとして示す(n=6)。
図38】BxPC3細胞におけるPPa結合ポリマーの暗毒性を示す。暗毒性について、暗毒性については、細胞をPBSで3回洗浄し、光照射なしに新鮮な培地中でインキュベートした。結果を平均±SDとして示す(n=6)。
図39】BxPC3細胞を皮下播種されたBalb/cヌードマウスにおける、各種ポリマーの腹腔内投与後の経時的な腫瘍サイズの変化を観察した結果を示す。
図40】BxPC3細胞を皮下播種されたBalb/cヌードマウスにおける、各種ポリマーの腹腔内投与後の経時的な体重変化を観察した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るL型アミノ酸トランスポーター1(以下、単に「LAT1」と称することがある)結合部位及びコンジュゲートについて説明する。LAT1は、様々ながん細胞で発現するアミノ酸トランスポーターであり、腫瘍標的における有望な標的分子と考えられている。
【0019】
本発明によれば、親水性高分子の側鎖に1又は複数のメチオニン/チロシン構造を結合させることにより、LAT1を標的とする薬物送達システムを提供することができる。後述するように、メチオニン(Met)修飾LAT1結合部位又はチロシン(Tyr)修飾LAT1結合部位は、LAT1介在型エンドサイトーシスによりがん細胞に効率的に取り込まれ、優れた腫瘍集積性を示す。さらに、抗がん剤(又は抗腫瘍剤)を結合させることにより、有意な抗腫瘍効果をもたらすことができる。
【0020】
1.アミノ酸トランスポーター
アミノ酸トランスポーターは、生体において、ごく限られた正常組織(例えば、脳血管内皮細、胎盤)に存在するが、がん細胞ではその発現が顕著であることが知られている。また、アミノ酸トランスポーターの中には、がん細胞特異的に発現するものもある。がん特異的であるLAT1は、がん診断マーカー及び治療の分子標的として着目されつつある。
【0021】
天然のアミノ酸には、タンパク質を構成するアミノ酸として21種類があり、これらのアミノ酸の側鎖の違いにより各アミノ酸の性質が大きく相違することは周知である。生体には、このような多様性のアミノ酸を適切な細胞等に輸送するために、性質の類似したアミノ酸群を基質とする各種のアミノ酸トランスポーターが存在する。アミノ酸トランスポーターは、細胞内小器官に存在する小胞膜型と、これとは異なる細胞膜型とに分類され、後者は、分子クローニング以前にはアミノ酸輸送システムとして機能上の特徴に基づいて、system Lやsystem B0,+などに分類されていた。
【0022】
がん細胞において発現が上昇しているアミノ酸トランスポーターに関して、その一部であるが、以下の表1に示されるような情報が得られている(永森ら、生化学、第85巻、第3号、338~344頁(2014年)参照)。
【0023】
【表1】
【0024】
2.メチオニン/チロシン修飾したLAT1結合部位
本発明のメチオニン/チロシン修飾したLAT1結合部位は、下記の一般式(I):
【0025】
【化4】
【0026】
で表される構造を有するポリアスパラギン酸を含む重合体である。以下、本発明の上記重合体をより詳細に説明するために、本明細書では、上記式(I)中の「/(スラッシュ)」で区切られた右側部分を「Aセグメント」と称し、左側部分を「Bセグメント」と称することがある。本発明の重合体をより良く理解するために、便宜上、上記式(I)では、Bセグメント-Aセグメントの順に記載されているが、x及びyによって特定される繰り返し単位の構成及び順序は任意であってもよく、例えば、ブロックの形態であってもよく、又はランダムの形態であってもよい。後述するように、Bセグメントでは、x=0も取り得ることから、Aセグメントを単独に繰り返したホモポリマーの形態であってもよい。
【0027】
(1)Aセグメント
本発明のLAT1結合部位は、LAT1介在型エンドサイトーシスにより細胞(特に、がん細胞)内に取り込まれる。Aセグメント中のRは、LAT1に対する輸送基質を表し、メチオニン、チロシン、メチオニン誘導体、チロシン誘導体等を挙げることができる。輸送基質としては、特に、メチオニン、チロシンが好ましい。メチオニン、チロシン、メチオニン誘導体、及びチロシン誘導体の結合位置を明確にするために、メチオニン及びメチオニン誘導体については「メチオニン様構造」とし、チロシン及びチロシン誘導体については「チロシン様構造」とする用語を用いて、具体的に説明する。なお、これらのアミノ酸はL型であることが好ましい。
【0028】
「メチオニン様構造」は、
【0029】
【化5】
(式中、Rは、水素原子又は-L-薬物である)
【0030】
を有するが、本発明によれば、天然型メチオニン(すなわち、Rが水素原子である)を構造に有するAセグメントと同様の作用効果を得ることができれば、メチオニン誘導体を有するAセグメントを使用してもよい。メチオニン誘導体には、立体異性体及び鏡像異性体が含まれ、異なる異性体型で存在可能であり得る。メチオニン誘導体としては、限定されないが、例えば、メチオニンのエステル、メチオニンアミド、メチオニンアミドのエステル、メチオニンのヒドロキシ類似体(即ち、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブタン酸)、メチオニンのヒドロキシ類似体のエステル、及びそれらの塩等を挙げることができる。なお、エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル(即ち、n-ブチルエステル、s-ブチルエステル、イソブチルエステル及びt-ブチルエステル)、ペンチルエステル(n-ペンチルエステル、イソペンチルエステル)及びヘキシルエステル(特にn-ヘキシルエステル、イソヘキシルエステル)などが挙げられる。
【0031】
「システイン様構造」は、
【0032】
【化6】
(式中、Rは、水素原子又は-L-薬物である)
【0033】
を有する。該システイン様構造は、上記メチオニン様構造と類似するが、メチオニン様構造を側鎖に有するLAT1結合部位の使用と比較してLAT1に対する選択性は見られないものの、腫瘍集積性が低い程度に有する。また、システイン様構造は、メチオニン様構造を有するLAT1結合部位に対するコントロールとしても使用可能であるシステイン誘導体には、立体異性体及び鏡像異性体が含まれ、異なる異性体型で存在可能であり得る。
【0034】
「チロシン様構造」は、
【0035】
【化7】
(式中、Rは、水素原子又は-L-薬物である)
【0036】
を有するが、本発明によれば、天然型チロシン(すなわち、Rが水素原子である)を構造に有するAセグメントと同様の作用効果を得ることができれば、チロシン誘導体を有するAセグメントを使用してもよい。チロシン誘導体には、立体異性体及び鏡像異性体が含まれ、異なる異性体型で存在可能であり得る。チロシン誘導体としては、限定されないが、例えば、メチル(2R)-2-アミノ-3-(2-クロロ-4ヒドロキシフェニル)プロパノエート、D-チロシンエチルエステル塩酸塩、メチル(2R)-2-アミノ-3-(2,6-ジクロロ-3,4-ジメトキシフェニル)プロパノエートH-D-チロシン(tBu)-アリルエステル塩酸塩、メチル(2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4,5-ジメトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(2-クロロ-3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(4-[(2-クロロ-6-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(2-クロロ-3,4-ジメトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-5-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート、ジエチル2-(アセチルアミノ)-2-(4-[(2-クロロ-6-フルオロベンジル)オキシ]ベンジルマロネート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4-ヒドロキシ-5-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(2,6-ジクロロ-3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)プロパノエート、メチル(2R)-2-アミノ-3-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート、H-DL-チロシンメチルエステル塩酸塩、H-3,5-ジヨード-チロシン-メチルエステル塩酸塩、H-D-3,5-ジヨード-チロシン-メチルエステル塩酸塩、H-D-チロシン-メチルエステル塩酸塩、D-チロシンメチルエステル塩酸塩、D-チロシン-メチルエステル塩酸塩、メチルD-チロシネート塩酸塩、H-D-チロシンメチルエステル-塩酸塩、D-チロシンメチルエステル塩酸塩、H-D-チロシンメチルエステル-塩酸塩、(2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、(2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)メチルエステル塩酸塩、メチル(2R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート塩酸塩、メチル(2R)-2-アザニル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパノエート塩酸塩、3-クロロ-L-チロシン、3-ニトロ-L-チロシン、3-ニトロ-L-チロシンエチルエステル塩酸塩、DL-m-チロシン、DL-o-チロシン、Boc-チロシン(3,5-I2)-OSu、Fmoc-チロシン(3-NO2)-OH、α-メチル-L-チロシン、α-メチル-D-チロシン、及びα-メチル-DL-チロシンのうちの1つ以上が挙げられる。
【0037】
一実施形態では、Aセグメントの数を特定するための整数「y」は、0~1000であり、例えば、0~50、0~100、0~200、0~500などが挙げられる。
【0038】
一態様では、本発明のメチオニン様構造を有するLAT1結合部位に対して、Aセグメントの含量は、30~60重量%である。好ましくは、50重量%である。
【0039】
一実施形態では、Aセグメントの平均分子量は、少なくとも5000である。好ましくは、10700以上、12000以上であり、又は5000~11000、5000~13000の範囲である。
【0040】
別の態様では、本発明のチロシン様構造を有するLAT1結合部位に対して、Aセグメントの含量は、25~70重量%である。好ましくは、61重量%である。
【0041】
一実施形態では、Aセグメントの平均分子量は、少なくとも5000である。好ましくは、10000以上、11000以上であり、又は5000~11000、10000~23000の範囲である。
【0042】
Aセグメント中の「L」は、リンカーであるか又は存在せず、メチオニン様構造又はチロシン様構造が該リンカーを介して又はリンカーを介さずに主骨格の(ポリ)アスパラギン酸に結合することができる。また、上記R及びRにおける「L」は、水素原子又はリンカーを表すことができる。リンカーの種類、構造及び長さは、輸送基質(メチオニンなど)が、アミノ酸トランスポーターに認識され、また結合した薬物の作用が阻害されない限り、限定されない。
【0043】
及びLがリンカーである場合、限定されないが、例えば、C1-40アルキレン基である。ここで、C1-40アルキレン基中のメチレン基は、1~10個のオキソ基で置換されていてもよく、隣接するメチレン基同士が1~10個の不飽和結合で結ばれていてもよく、また、アルキレン基中のメチレン基のうち、1~20個のメチレン基がNH、N(C1-10アルキル)、O、S、C6-14アリーレン、5~10員のヘテロアリーレン、又は重合度が2~2,000のポリオキシアルキレンで置き換えられていてもよい。また、リンカーは、以下の構造:
【0044】
【化8】
〔式中、X及びYは、独立して、C1-5アルキレン基であるか又は存在せず;mは1~2,000である〕
であるか、又は
【0045】
【化9】
〔式中、X及びYは、独立して、C1-5アルキレン基であるか又は存在せず;mは1~2,000である〕
であってもよい。
【0046】
(2)Bセグメント
Bセグメントの末端部分は、場合により、例えば、R-NH-構造を取り得て、一定の長さを有することにより、本発明のLAT1結合部位が、血中滞留性や腎臓・肝臓等への移行を制御するのに役立つ。また、一定の長さを持つことで、末端に嵩高い構造を導入しても、高分子とLAT1との相互作用を阻害しないことが期待される。より具体的には、Rは、-CH-CH-R(ここで、Rは、水素、メチル、アジド、又はメトキシである)、-CH-CH-(O-CH-CH-O-R(ここで、Rは、水素、メチル、アジド、又はメトキシであり;mは、0~1500の整数であり、10~1000の整数であってよく、100~500の整数であってよい)、又は-CH-CH-(O-CH-CH-R(ここで、Rは、水素、メチル、アジド、又はメトキシであり;nは、0~1500の整数であり、10~1000の整数であってよく、100~500の整数であってよい)であり得る。
【0047】
一実施形態では、本発明のLAT1結合部位内のBセグメントの含量は、30~60重量%である。好ましくは、38重量%である。
【0048】
別の態様では、Bセグメントの平均分子量は、少なくとも1500である。好ましくは7000以上、8000以上であり、又は1500~7500、1500~8500の範囲である。
【0049】
一実施形態ではBセグメントの含量は、15~40重量%である。好ましくは16重量%である。
【0050】
別の態様では、Bセグメントの平均分子量は、少なくとも5000である。好ましくは、7000以上、8000以上であり、又は7000~9000、5000~9000の範囲である。
【0051】
は、リンカーであるか又は存在せず、上記R基が該リンカーを介して又はリンカーを介さずに主骨格の(ポリ)アスパラギン酸に結合することができる。リンカーの種類、構造及び長さは、該リンカーを介して結合した輸送基質(メチオニンなど)が、アミノ酸トランスポーターに認識され、また結合した薬物の作用が阻害されない得る限り、限定されない。
【0052】
がリンカーである場合、限定されないが、例えば、C1-40アルキレン基である。ここで、C1-40アルキレン基中のメチレン基は、1~10個のオキソ基で置換されていてもよく、隣接するメチレン基同士が1~10個の不飽和結合で結ばれていてもよく、また、アルキレン基中のメチレン基のうち、1~20個のメチレン基がNH、N(C1-10アルキル)、O、S、C6-14アリーレン、5~10員のヘテロアリーレン、又は重合度が2~2,000のポリオキシアルキレンで置き換えられていてもよい。また、リンカーは、以下の構造:
【0053】
【化10】
〔式中、X及びYは、独立して、C1-5アルキレン基であるか又は存在せず;mは1~2,000である〕
であるか、又は
【0054】
【化11】
〔式中、X及びYは、独立して、C1-5アルキレン基であるか又は存在せず;mは1~2,000である〕
であってもよい。
【0055】
(3)LAT1結合部位
本発明のAセグメントとBセグメントからなるLAT1結合部位は、市販の原料を用いて製造することができる。また、市販されていない場合は、当業者に周知の方法により、原料又は中間体を製造することができる。後述する実施例では、AセグメントとBセグメントの重合比を様々なに変更したLAT1結合部位を合成し、常法に従って、目的製造物が得られたことを確認している。例えば、NMR(核磁気共鳴)、ガスクロマトグラフィーを用いる方法が一般的である。
【0056】
LAT1結合部位を構成するAセグメントとBセグメントの割合を適宜変更した製造物を得ることができる。Aセグメント又はBセグメントの分率は、好ましくは、20~50モル%である。用語「モル%」は、本明細書中で使用するとき、多成分系における各成分のモル数の和で、ある成分のモル数を割ったものをいう。例えば、LAT1結合部位の構成をAセグメント及びBセグメントのモノマーユニットの数として、それぞれ「y」及び「x」を用いて表記した場合、例えば、Aセグメントの分率は、式:y×100/(x+y)により求めることができる。
【0057】
また、本発明によれば、LAT1結合部位の平均分子量(例えば、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn))は、当業者に周知な方法、例えば、クロマトグラフィー(GPC)法、粘度法、末端基定量法、浸透圧法、光散乱法、沈降速度法により測定することができる。本明細書中で使用するとき、用語「重量平均分子量(M)」は、多分散系高分子化合物の分子量を意味する。具体的には、分子量Mの分子がn個(i=1、2、・・・)ある多分散系における重量平均分子量は、下式:
【0058】
【数1】
【0059】
で表される。本発明のメチオニン様構造を有するLAT1結合部位の重量平均分子量(M)は、好ましくは、50000である。より好ましくは、40000である。一方、本発明のチロシン様構造を有するLAT1結合部位の重量平均分子量(M)は、好ましくは、50000である。より好ましくは、76000である。
【0060】
一方、用語「数平均分子量(M)」は、2個以上の原子より分子が構成されているときの平均分子量でi番目の原子量をM、その数をN個とすると、下式:
【0061】
【数2】
【0062】
で表される。本発明のメチオニン様構造を有するLAT1結合部位の数平均分子量(M)は、好ましくは、25000である。より好ましくは、20000である。一方、本発明のチロシン様構造を有するLAT1結合部位の数平均分子量(M)は、好ましくは、25000である。より好ましくは、38000である。
【0063】
後述する実施例において測定したように、LAT1結合部位の分子量は、M=42000、及びM=21000であることから、非常に大きな分子量を有していると言える。
【0064】
本発明のLAT1結合部位の分子量分布は、M/M(分散比)によって表すことができる。分散比は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.1以上3以下である。
【0065】
本発明のLAT1結合部位は、分子量が大きいことから、生体に投与された場合、分解されるまでの時間が長いことを特徴とする。したがって、後述する該LAT1結合部位と薬物を結合させたコンジュゲートは、生体内で速やかに代謝されることなく、長時間保持されることから、薬物の添加量を顕著に低く抑えることができる。例えば、がん治療といった臨床効果を目的とする場合、典型的には、本発明のLAT1結合部位は、下記に挙げるものが好ましい。
【0066】
2.コンジュゲート
本明細書に開示されるLAT1結合部位は、上記の通り、LAT1を標的としたエンドサイトーシスにより取り込まれるため、このような作用機序を利用することにより、LAT1結合部位にコンジュゲートさせた治療薬をがん細胞に特異的に送達させることができる。本発明において使用可能な治療薬の例としては、限定されないが、アドリアマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、マイトマイシン-C、ダウノマイシン、5-FU(フルオロウラシル)、塩酸ゲムシタビン、エムタンシン、カリキアマイシン、毒素(例えば、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素などの細胞毒素)、含ホウ素医薬(例えばボルテゾミブ、或いは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使用され得るp-ボロノフェニルアラニンなどの薬剤)、核酸医薬(例えば、デコイ核酸、アンチセンス核酸、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマー)、光線力学的療法(PDT)に使用され得る光増感剤(例えばポルフィリン誘導体)などが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「抗がん剤」又は「抗腫瘍剤」は、がん細胞(又は腫瘍細胞)に対して標的化された細胞傷害性効果を生じる薬物を指す。抗癌剤の例としては、限定されないが、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、アファチニブ、アレクチニブ、アキシチニブ、ベリノスタット、ボルテゾミブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、カルフィルゾミブ、セリチニブ、コビメチニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イブルチニブ、イデラリシブ、イマチニブ、イキサゾミブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、オラパリブ、オシメルチニブ、パルボシクリブ、パノビノスタット、パゾパニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、シプリューセル-T、ソニデジブ、ソラフェニブ、テムシロリムス、トファシチニブ、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、ビスモデギブ、及びボリノスタットが挙げられる。
【0068】
本発明のLAT1結合部位にコンジュゲートさせることができる物質としては、治療薬の他、各種の化合物を挙げることができ、毒素、造影剤、光増感剤、核酸医薬、含ホウ素医薬などが含まれる。本発明のLAT1結合部位にこのような物質をコンジュゲートさせる方法は、例えば、AセグメントのRに該当するメチオニン様構造又はチロシン様構造のカルボキシ基又はアミノ基に、直接又はリンカーを介して、又は、BセグメントのRに該当する構造に直接又はリンカーを介して、上記物質の官能基を共有結合させることによって達成され、当業者に周知の方法によって行うことができる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「光増感剤」とは、光を吸収すると励起状態へと促進され得る化合物であり、「感光性分子」と称されることもある。光照射によって活性化(光励起)された光増感剤は、毒性になり得るか、または毒性分子を生じ得るため、光照射されたがん細胞に対して細胞傷害性となる。このような光増感剤の例としては、限定されないが、蛍光色素、赤外吸収色素、近赤外吸収色素、ポルフィリン分子及びクロロフィル分子などが挙げられる。
【0070】
本発明の治療薬をコンジュゲートさせる場合、治療薬の結合量を適宜調節して、治療を目的とする適用疾患に対して、適切な治療有効量でコンジュゲートを投与することが好ましい。本明細書で使用する場合、用語「治療有効量」とは、本発明のコンジュゲートが、対象の細胞、組織又は臓器に投与したときに、疾患の病態若しくは疾患の進行を予防または改善する効果がある治療薬の量を指す。
【0071】
3.医薬組成物
本発明によれば、本明細書の開示される高分子、又はその塩、誘導体、若しくは水和物、及び薬学的に許容される他の成分(担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含む、がんを治療するための医薬組成物が提供される。
【0072】
4.がん治療
本発明のコンジュゲートは、がんに特異的に集積し、結合された薬物により、がんを治療することができる。治療対象とするがんは、特に限定されないが、固形がんであることが好ましい。固形がんは、結腸がん、胃がん、乳がん、大腸がん、胆嚢がん、肺がん(具体的には腺がん)、転移性CRC等の結腸直腸がん(CRC)、頭頸部がん、肝がん、膵臓がん、及び骨肉腫等を含む、各種形態のがんから選択される。医師等の当業者であれば、がんを治療するための有効成分としての本発明のLAT1結合部位の投与量、濃度、回数、及び頻度を、がんの種類や悪性度等、及び対象(被験者)の性別、年齢、体重、患部の状態等を考慮して、適切に選択することができる。
【0073】
本発明によれば、本発明のLAT1結合部位、コンジュゲート及び医薬組成物は、シリンジ等を用いて、対象の静脈内又は局所に投与され得る。投与されるべき治療対象は、哺乳動物であることが好ましく、哺乳動物としては、限定されないが、ヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレット等が挙げられる。
【0074】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0075】
本実施例中で使用される代表的な試薬及び測定機器を下記に列挙した。また、全ての動物実験は、東京工業大学の施設内動物管理使用委員会からの承認を得て実施した。
【0076】
(1)試薬
・α-メトキシ-ω-アミノ-ポリ(エチレングリコール)(MeO-PEG-NHOA):株式会社ノフ(東京、日本)
・プロピルアミン:富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・β-ベンジルL-アスパラギン酸N-カルボキシ無水物(BLA-NCA):中央化成
・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・ジクロロメタン(DCM):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・酢酸エチル(EtOAc):関東化学株式会社(東京)
・ジエチルエーテル:関東化学株式会社(東京)
・ヘキサン:関東化学株式会社(東京)
・塩酸(HCl):ナカライテスク(京都、日本)
・水酸化ナトリウム(NaOH):ナカライテスク(京都、日本)
・N-メチル-2-ピロリドン:富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・アリルアミン:富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・トリエチルアミン(TEA):ナカライテスク(京都、日本)
・DL-ホモシステイン:東京化学工業株式会社(東京、日本)
・エルシステイン:東京化学工業(東京、日本)
・2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA):東京化学工業株式会社(東京、日本)
・アセトニトリル(CH3CN):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・塩化ナトリウム(NaCl):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4):富士フイルム和光純薬工業株式会社(大阪府)
・Cy5 NHSエステル:ルミプローブ(メリーランド州、米国)
・フェオホルビドa(Ppa):船越株式会社(東京、日本)
・アジド-ポリ(エチレングリコール)-アミン(N3-PEG9k-NH2)[Mw:9K]
・ベンゼン:ナカライテスク(京都、日本)
・β-ベンジルL-アスパラギン酸N-カルボキシ無水物(BLA-NCA):中央化成株式会社
・N-メチルピロリドン(NMP):和光純薬工業(株)
・ジメチルスルホキシド(DMSO):ナカライテスク(京都、日本)
・NH-Tyr(実験室で合成)
・NH-TEG-Tyr(第一三共提供)
・1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl):TCI化学物質
・N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS):和光純薬工業株式会社
・トリフルオロ酢酸(TFA):TCI化学物質
【0077】
(2)測定機器
・NMR(核磁気共鳴):BRUKER AVANCEIII 400(400MHz、BRUKER BioSpin)(Billerica、USA
・GPC(ゲル透過クロマトグラフィー):Jasco International Co.,Ltd.(東京、日本)
・カラム:
TSK-gel superAW3000、superAW4000カラム:東ソー株式会社(東京都)
Superdex 200 Increase 10/300 GL(GEヘルスケア(東京都))
GL sciences WP300 C18 5μm 4.6×250mm(東京都、日本)
・検出器:
屈折率-2031(RI-2031):Jasco International Co.,Ltd.(東京、日本)
紫外可視分光法-2070(UV-2070):Jasco International Co.,Ltd.(東京、日本)
・ディスポーザブルPD-10脱塩カラム:GEヘルスケア(東京都)
・ナノドロップマイクロボリューム分光光度計及び蛍光光度計:Thermo Fisher Scientific,Inc.(Waltham、MA)
・マイクロプレートリーダー:Spark,Tecan Japan Co.,Ltd.(川崎市、日本)
【0078】
なお、本明細書で使用される化合物の略称については、対応する以下の正式名称を参照されたい:
・PEG:ポリ(エチレングリコール)
・PAsp:ポリ(アスパラギン酸)
・PEG-PAsp:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(アスパラギン酸)
・P[Asp/Asp(Met)]:ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((3-アミノ-3-カルボキシプロピル)チオ)プロピル)アスパルトアミド](注:m及びnはそれぞれの平均ユニット数を示す。以下同じ。)
・PEG-P[Asp/Asp(Met)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((3-アミノ-3-カルボキシプロピル)チオ)プロピル)アスパルトアミド]
・P[Asp/Asp(Cys)]:ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)チオ)プロピル)アスパルトアミド]
・PEG-P[Asp/Asp(Cys)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)チオ)プロピル)アスパルトアミド]
・P[Asp/Asp(Met/Cys)]:ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((3-アミノ-3-カルボキシプロピル)チオ)プロピル)アスパルトアミド];及びポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)チオ)プロピル)アスパルトアミド]
・PEG-P[Asp/Asp(Met/Cys)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((3-アミノ-3-カルボキシプロピル)チオ)プロピル)アスパルトアミド];及びポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)チオ)プロピル)アスパルトアミド]
・P[Asp/Asp(All)]:ポリ(アスパラギン酸-ran-アリルアスパルトアミド)
・PEG-P[Asp/Asp(All)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-アリルアスパルトアミド]
・P[Asp/Asp(Tyr)]:ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-(4-(2-アミノ-2-カルボキシエチル)フェノキシ)プロピル)アスパルトアミド]
・P[Asp/Asp(TEG-Tyr)]:ポリ[アスパラギン酸-ran-(16-(4-(2-アミノ-2-カルボキシエチル)フェノキシ)-3,6,9,12-テトラオキサヘキサデカニル)アスパルトアミド]
・PEG-P[Asp/Asp(Tyr)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(3-(4-(2-アミノ-2-カルボキシエチル)フェノキシ)プロピル)アスパラギン酸]
・PEG-P[Asp/Asp(TEG-Tyr)]:ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ[アスパラギン酸-ran-(16-(4-(2-アミノ-2-カルボキシエチル)フェノキシ)-3,6,9,12-テトラオキサヘキサデカニル)アスパルトアミド]
【0079】
実施例1:メチオニン又はシステイン修飾高分子の合成
(1)概要
水溶性高分子のポリ(アスパラギン酸/アスパラギン酸(メチオニン))(以下、P[Asp/Asp(Met)])、ポリエチレングリコール-ポリ(アスパラギン酸/アスパラギン酸(メチオニン))(以下、PEG-P[Asp/Asp(Met)])、並びにポリ(アスパラギン酸/アスパラギン酸(システイン))(以下、P[Asp/Asp(Cys)])、ポリエチレングリコール-ポリ(アスパラギン酸/アスパラギン酸(システイン))(以下、PEG-P[Asp/Asp(Cys)])を合成した過程を記す。開始剤をプロピルアミン、モノマーをBLA-NCAとするN-カルボキシ無水物(NCA)重合により、PBLA(nは重合度を示す)を合成した。開始剤をα-メトキシ-2-アミノ-ポリ(エチレングリコール)、モノマーをBLA-NCAとするNCA重合によりPEG-PBLAを合成した。塩基性条件下で側鎖のカルボキシ基を脱保護し、PAspとPEG-PAspを得た(nは重合度を示す)。その後、アリルアミンのアミノ基をPAspとPEG-PAspのカルボキシ基に結合し、ポリ[Asp/Asp(アリルアミン)](以下、(P[Asp/Asp(All)])を得た。P[Asp/Asp(Met)]とP[Asp/Asp(Cys)]は、光化学ラジカルチオール-エンクリック反応により、DL-ホモシステインとL-システインをP[Asp/Asp(All)]側鎖炭素二重結合に導入することにより合成した。
【0080】
(2)合成手法及び解析
(2-1)PEG-PAsp(n=27及び97)及びPAsp(n=57及び110)の合成
ポリ(アスパラギン酸)(PAsp)及びポリエチレングリコール-ポリ(アスパラギン酸)(PEG-PAsp)の合成スキームを下記に示す。
【0081】
【化12】
【0082】
PEG-PAspとPAsp(nはPAspの重合度を示す)は、BLA-NCAの開環重合とその後の脱保護(加水分解)により合成した。PEG-b-ポリ(β-ベンジル-L-アスパラギン酸塩)(PEG-PBLA97)の合成では、MeO-PEG10k-NH2(500mg、0.05mmol)をベンゼン凍結乾燥した。BLA-NCA(1.195g、4.8mmol)をDCM(16.2ml)とDMF(1.8ml)の混合溶媒に溶解し、DCM(6.3ml)とDMF(0.7ml)混合溶媒に溶解したMeO-PEG10k-NHと室温で混合することで重合を開始した。2日間、アルゴン雰囲気下で撹拌した後、ヘキサン及び酢酸エチル混合溶媒(v/v=3/2)に滴下して再沈殿を行った。沈殿物を減圧濾過及び減圧乾燥により回収し、1.23gを得た。
【0083】
ポリ(β-ベンジル-L-アスパラギン酸塩)(PBLA97)の合成では、BLA-NCA(3.05g、12.7mmol)をDCM(20mL)とDMF(2mL)の混合溶媒に溶解し、プロピルアミン(9μL、0.12mmol)と混合して、室温で2日間、アルゴン雰囲気下で撹拌することにより重合した。その後、150mLのジエチルエーテルに滴下し、沈殿を得た。沈殿を減圧濾過及び減圧乾燥により回収し、2.4gを得た。その他のPEG-PBLAとPBLAについても同様の方法で重合した。
【0084】
PEG-PBLA
H NMRスペクトルのPEG由来のピーク[3.20-3.63ppm(-CH-CH-O-)]とPBLA由来のピーク[2.53-2.93ppm(-CH-CO-O-)、4.86-5.18(-O-CH-Ph)、7.13-7.43ppm(Ph)]の積分値の比からPBLAの重合度DP=27(n=27)及びDP=97(n=97)、数平均分子量Mn=15,600(n=27)及びMn=29,900(n=97)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子の分子量分散度はPDI=1.13(n=27)及びPDI=1.13(n=97)と求まり、狭い分子量分布を有することを確認した(データ示さず)。
【0085】
PEG-PBLA
H NMR(400MHz、DMSO-d6):δ8.27-8.06(br、-CO-CH-NH)、7.43-7.13(br、=CH-CH=)、5.18-4.86(br、-O-CH-)、4.71-4.48(br、-CO-CH-NH-)、3.71-3.65(br、-O-CH-CH)、3.63-3.20(br、-CH-CH-O-)、3.28-3.21(br、-CH-CH-CH-)、2.93-2.53(br、-CH-CO-)、1.25-1.22(br、CH-CH-NH-)
【0086】
PEG-PBLA97及びPEG-PBLA27(ともに2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを図1A及び1Bに示した。
【0087】
PBLA
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.71-0.78ppm(-CH-CH-)]とPBLA由来のピーク[2.54-2.94ppm(-CH-CO-O-)、4.90-5.14(-O-CH-Ph)、7.13-7.43ppm(Ph)]の積分値の比からPBLAの重合度DP=57(n=57)及びDP=110(n=110)、数平均分子量Mn=11,700(n=57)及びMn=22,600(n=110)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子の分子量分散度はPDI=1.07(n=57及びPDI=1.08(n=110)と求まり、狭い分子量分布を持つことを確認した(データ示さず)。PBLA110及びPBLA57(ともに2mg/ml、DMSO-d6中、室温)のH NMRスペクトルを図2A及び2Bに示した。
H NMR(400MHz、DMSO-d6):δ8.29-8.03(br、-CO-CH-NH)、7.43-7.13(br、=CH-CH=)、5.14-4.90(br、-O-CH-)、4.71-4.88(br、-CO-CH-NH-)、3.70-3.55(br、-CH-NH)、2.94-2.54(br、-CH-CO-)、1.83-1.70(br、-CH-CH-)、1.37-1.29(br、-CH-CH-NH-)、0.78-0.71(br、CH-CH-)。
【0088】
脱保護では、1.0gのPEG-PBLA又はPBLAを20mlの0.5M NaOH水溶液に入れ、12時間室温で撹拌することにより行った。溶液を透析膜(MWCO、3,500Da)を用いて、0.01M HCl水溶液と純水中で室温で透析し、凍結乾燥して回収した。(収率:PEG-PAsp:95%、PAsp:94%)。H NMRとサイズ排除クロマトグラフィーで高分子の物性を確認した。
【0089】
PEG-PAsp
H NMRスペクトルのPEG由来のピーク[3.48-3.90ppm(-CH-CH-O-)]とアスパラギン酸のα水素のピーク(2.68-3.02ppm)の積分値の比からAspの重合度DP=97(n=97)及びDP=27(n=27)、数平均分子量Mn=21,200(n=110)及びMn=13,200(n=27)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0090】
PAsp
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.79-0.97ppm(CH-CH-)]とアスパラギン酸のα水素のピーク(2.87-3.05ppm)の積分値の比からAspの重合度DP=110(n=110)及びDP=57(n=57)、数平均分子量Mn=12,700(n=110)及びMn=6,600(n=57)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。PAsp110及びPAsp57(ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図3A及び3Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.76-4.67(br、-CO-CH-NH-)、3.15-3.07(br、-CH-CH-NH-)、3.05-2.87(br、-CH-CO-)1.52-1.40(br、-CH-CH-)、0.91-0.79(br、CH-CH-)。
【0091】
PEG-PAsp
PEG-PAsp97及びPEG-PAsp27(ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図4A及び4Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.77-4.66(br、-CO-CH-NH-)、3.90-3.48(br、-CH-CH-O-)、3.21-3.28(br、-CH-CH-)、3.02-2.68(br、-CH-CO-)、1.83-1.72(br、-CH-CH-NH-)。
【0092】
(2-2)PEG-P[Asp/Asp(All)]及びP[Asp/Asp(All)]の合成
アリルアミン修飾PAsp及びPEG-PAspの合成スキームを下記に示す。
【0093】
【化13】
【0094】
PEG-P[Asp/Asp(All)]及びP[Asp/Asp(All)] は、高分子とアリルアミンの縮合反応により合成した。PEG-P[Asp60/Asp(All)37]の合成では、PEG-PAsp97(200mg)をDMF(15ml)に溶解し、DMT-MM(Asp単位に対して0.5当量、58mg)、TEA(3滴)、アリルアミン(Asp単位に対して0.5当量、12mg)をその溶液に加えた。室温で一晩反応させた。反応後NaHCO 10mM)水溶液及び脱イオン水中で透析し(MWCO:3,500Da)、凍結乾燥して回収した(収率=93.5%)。
【0095】
P[Asp59/Asp(All)51]の合成では、PAsp(100mg)をDMF(20mL)中に溶解し、DMT-MM(Asp単位に対して0.8当量、382.35mg)、TEA(3滴)、アリルアミン(Asp単位に対して2当量、442.34mg)を加えて、40℃で一晩撹拌し反応させた。その後、上記と同じ方法で透析及び凍結乾燥し、回収した(収率=94.7%)。全ての高分子についてH NMR分光法(溶媒:DO)及びGPCで物性を評価した。
【0096】
PEG-P[Asp /Asp(All)
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.79-0.97ppm(CH-CH-O-)]及びアリルアミンのピーク[(3.78-3.81ppm(-NH-CH-)、5.05-5.26ppm(-CH=CH)、5.73-5.94ppm(-CH-CH=)]の積分値の比からアリルアミンが導入されたユニット数は37(m=60、n=37)及び15(m=12、n=15)、数平均分子量Mn=22,700(m=60、n = 37)及びMn=13,800(m=12、n=15)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0097】
PEG-P[Asp /Asp(All)
PEG-P[Asp60/Asp(All)37]及びPEG-P[Asp12/Asp(All)15](ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図5A及び5Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ5.94-5.73(br、-CH-CH=)、5.26-5.05(br、-CH=CH)、4.75-4.36(br、-CO-CH-NH-)、3.91-3.78(br、-NH-CH-)、3.79-3.62(br、-CH2-CH-O-)、3.31-3.17(br、-CH-CH-CH-)、2.96-2.45(br、-CH-CO-)、1.35-1.25(br、-CH-CH-NH-)。
【0098】
P[Asp /Asp(All)
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.81-0.94ppm(CH-CH-)]及びアリルアミンのピーク[(3.69-3.90ppm(-NH-CH-)、5.07-5.29ppm(-CH=CH)、5.74-5.95ppm(-CH-CH=)]の積分値の比からアリルアミンが導入されたユニット数は51(m=59、n=51)及び38(m=19,n=38)、数平均分子量Mn=14,700(m=59、n=51)及びMn=8,100(m=19,n=38)と求められた。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。P[Asp59/Asp(All)51]及びP[Asp19/Asp(All)38](ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図6A及び6Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ5.95-5.74(br、-CH-CH=)、5.29-5.07(br、=CH)、4.73-4.59(br、-CO-CH-CH-CO-)、4.60-4.39(br、-CO-CH-CH-COOH)、3.90-3.69(br、-CONH-CH-)、3.17-3.10(br、-CH-CH-CH-)、3.02-2.44(br、-CH-CO-)、1.55-1.44(br、-CH-CH-NH-)、0.94-0.81(br、CH-CH-)。
【0099】
(2-3)PEG-P[Asp/(Asp―Met/Cys)]及びP[Asp/(Asp―Met/Cys)]の合成
メチオニン(Met)/システイン(Cys)官能化PAsp及びPEG-PAspの合成スキームを下記に示す。
【0100】
【化14】
【0101】
MetとCysのP[Asp/Asp(All)]及びPEG-P[Asp/Asp(All)]への導入は、光化学ラジカルチオール-エンクリック反応により行った。PEG-P[Asp/Asp(Met)]及びP[Asp/Asp(Met)]の合成では、PEG-P[Asp/Asp(All)]又はP[Asp/Asp(All)]を30mg秤量し、DL-ホモシステインをAsp(All)単位に対して150-450当量を水(7mL)に溶解し、DMPA(Asp(All))単位に対して30-100当量のアセトニトリル溶液(3mL)を加えた。30分撹拌した後、ハンディUVランプ(365nm)で光照射しながら室温で1.5~2h撹拌して反応させた。アセトンと水中で透析した後(MWCO:3,500)、凍結乾燥し、PEG-P[Asp/Asp(Met)]又はP[Asp/Asp(Met)]を得た(収率>90%)。
【0102】
PEG-P[Asp/Asp(Cys)]及びP[Asp/Asp(Cys)]の合成では、DL-ホモシステインの代わりにL-システインを用いることで合成した。得られた全ての高分子についてH NMR(溶媒:DO)及びGPC[カラム:Superdex 200 increase 10/300GL(GE Healthcare Ltd);溶出液:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(150mM NaCl含有);流速:0.6ml/分;温度:室温]で物性評価した。
【0103】
PEG-P[Asp /Asp(Met)
H NMRスペクトルのPEG由来のピーク[3.61-3.81ppm(CH-CH-O-)]及びメチオニンのピーク[(1.70-1.89ppm(-CH-CH-S-)、2.30-2.02ppm(-S-CH-CH-)、2.51-2.71ppm(-CH-S-CH-)、2.72-2.99ppm(-CH-CH-CO-)、3.20-3.41ppm(-NH-CH-CH-)、3.81-3.96ppm(-CO-CH-NH)]の積分値の比からメチオニンが導入されたユニット数は37(m=60、n=37)及び13(m=14、n=13)、数平均分子量Mn=28,300(m=60、n=37)及びMn=16,000(m=14、n=13)と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を有することを確認した(データを示さず)。
【0104】
P[Asp /Asp(Met)
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.80-0.92ppm(CH-CH-)]及びメチオニンのピーク[(1.70-1.86ppm-CH-CH-S-)、2.30-2.01ppm(-S-CH-CH-)、2.49-2.71ppm(-CH-S-CH-)、2.74-2.99ppm(-CH-CH-CO-)、3.19-3.43ppm(-NH-CH-CH-)、3.78-3.96ppm(-CO-CH-NH)]の積分値の比からメチオニンが導入されたユニット数は40(m=70、n=40)及び24(m=33、n=24)、数平均分子量Mn=21,100(m=70、n=40)及びMn=19,700(m=33、n=24)と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0105】
P[Asp /Asp(Met)
P[Asp70/Asp(Met)40]及びP[Asp33/Asp(Met)24](ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図7A及び7Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.70-4.50(br、-CO-CH-NH-)、3.96-3.78(br、-CO-CH-NH)、3.43-3.19(br、-NH-CH-CH-)、3.17-3.07(br、CH-CH-CH-)、2.99-2.74(br、-CH-CH-CO-)、2.71-2.49(br、-CH-S-CH-)、2.30-2.01(br、-S-CH-CH-)、1.86-1.70(br、-CH-CH-S-)、1.29-1.18(br、-CH-CH-NH)、0.92-0.80(br、CH-CH-)。
【0106】
PEG-P[Asp /Asp(Met)
PEG-P[Asp60/Asp(Met)37]及びPEG-P[Asp14/Asp(Met)13](ともに10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図8A及び8Bに示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.73-4.51(br、-CO-CH-NH-)、3.96-3.81(br、-CO-CH-NH)、3.81-3.61(br、-CH-CH-O-)、3.54-3.50(br、CH-O-CH-)、3.41-3.20(br、-CH-CH-CH-)、2.99-2.72(br、-CH-CH-CO-)、2.71-2.51(br、-CH-S-CH-)、2.30-2.02(br、-S-CH-CH-CH)、1.89-1.70(br、NH-CH-CH-CH-S-)、1.27-1.20(br、-NH-CH-CH-)。
【0107】
PEG-P[Asp /Asp(Cys)
H NMRスペクトルのPEG由来のピーク[3.58-3.78ppm(CH-CH-O-)]及びシステインのピーク[(1.68-1.91ppm(-CH-CH-CH-)、2.51-2.67ppm(-CH-CH-S-)、2.96-3.18ppm(-S-CH-CH-)、3.21-3.42ppm(-NH-CH-CH-)、3.91-3.99ppm(-CO-CH-NH2)]の積分値の比からシステインが導入されたユニット数は40(m=57、n=40)、数平均分子量Mn=27、200(m=57、n=40)と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0108】
P[Asp /Asp(Cys)
H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[0.82-0.91ppm(CH-CH-)]及びシステインのピーク[(1.69-1.89ppm(-CH-CH-CH-)、2.52-2.67ppm(-CH-S-CH-)、2.97-3.20ppm(-S-CH-CH-)、3.21-3.41ppm(-NH-CH-)、3.87-4.02ppm(-CO-CH-NH)]の積分値の比からシステインが導入されたユニット数は36(m=74、n=36)数平均分子量Mn=19,700(m=74、n=36)と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0109】
P[Asp /Asp(Cys)
P[Asp74/Asp(Cys)36](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図9に示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.72-4.49(br、-CO-CH-NH-)、4.02-3.87(br、-CO-CH-NH)、3.41-3.21(br、-NH-CH-)、3.20-2.97(br、-S-CH-CH-、-CH-CH-CH-)、2.98-2.67(br、-CH-CH-CO-)、2.67-2.52(br、-CH-S-CH-)、1.89-1.69(br、-CH-CH-NH-)、0.91-0.82(br、CH-CH-)。
【0110】
PEG-P[Asp /Asp(Cys)
PEG-P[Asp57/Asp(Cys)40](10mg/ml、DO中、室温)のH NMRスペクトルを図10に示した。
H NMR(400MHz、DO):δ4.75-4.50(br、-CO-CH-NH-)、3.99-3.91(br、-CO-CH-NH)、3.90-3.80(br、-O-CH-CH-)3.78-3.58(br、-CH-CH-O-)、3.55-3.50(br、CH-O-CH-)、3.42-3.21(br、-NH-CH-CH-)、3.18-2.96(br、-S-CH-CH-、-CH-CH-CH-)、2.97-2.67(br、-CH-CH-CO-)、2.67-2.51(br、-CH-CH-S-)、1.91-1.68(br、-CH-CH-NH-)。
【0111】
(2-4)高分子の蛍光標識
Met/Cysで修飾した高分子(10mg)を水に溶解し、Cy5-NHS(高分子に対して1.0当量)のDMSO溶液を加えて反応させた。一晩撹拌した後、溶液を脱イオン水中で透析し(MWCO:3,500)、さらにPD-10脱塩カラム(GE Healthcare)に通して未反応の色素を取り除いた後、凍結乾燥して回収した(収率:Cy5―PEG-P[Asp/Asp(Met)]=70%、Cy5―P[Asp/Asp(Met)]=88%)。生成物についてはGPC[カラム:Superdex 200 Increase 10/300GL(GE Healthcare Ltd);溶出液:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(150mM NaCl含有);流速:0.6mL/分;温度:室温]で分析し未反応のCy5を取り除いたことを確認した。PEG20k-NHについても同様にCy5を導入した。
【0112】
Cy5修飾高分子のPBS中における蛍光は、マイクロプレートリーダー(Spark、Tecan Japan Co.,Ltd.Kawasaki,Japan)により測定した。
【0113】
Met/Cys官能化高分子とCy5のコンジュゲーション(蛍光標識)について、下記に合成スキームを示す。
【0114】
【化15】
【0115】
(2-5)PEG-P[Asp/Asp(Met/Cys)]及びP[Asp/Asp(Met/Cys)]への光増感剤(フェオホルバイドa:Ppa)の結合
Met官能化PAspとPpaのコンジュゲーションについて、下記に合成スキームを示す。
【0116】
【化16】
【0117】
光増感剤の結合では、Ppa、DCC、及びNHS(1:1.2:1.4、30mg:12mg:8.22mg)をDMF(5ml)に溶解し、2h遮光して撹拌した。その後、シリカゲルカラムで精製(溶媒:ジクロロメタン/メタノール、10/1体積比)し、エバポレートして溶媒を取り除き、Ppa NHSエステルを回収した(収率=75%)。精製したPpa NHSエステルとMetで修飾した高分子高分子を2:1(0.42mg:10mg)の混合比で炭酸バッファー中に、触媒量のTEAとともに溶解し(pH=7~8)、一晩、遮光して室温で反応させた。脱イオン水中で透析し(MWCO:3,500)、PD-10脱塩カラムに通してフリーのPpaを取り除き、凍結乾燥してPpa結合高分子を回収した(収率:Ppa-P[Asp/Asp(Met)]=30%)。生成物についてはGPC[カラム:Superdex 200 Increase 10/300GL(GE Healthcare Ltd);溶出液:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(150mM NaCl含有);流速:0.6mL/分;温度:室温]で分析し、未反応のPpaが取り除かれたことを確認した(データを示さず)。
【0118】
実施例2:培養細胞に対する評価
(1)概要
蛍光色素(Cy5)で標識したメチオニン/システイン(Met/Cys)修飾高分子の細胞取り込み量を比較した。その後、Met/Cys修飾高分子の細胞内分布を共焦点顕微鏡により観察した。続いて、アミノ酸トランスポーター阻害剤を用いて、LAT1への特異性を調べた。最後に、光増感剤(Ppa)で標識したMet/Cys修飾高分子のがん細胞光毒性をCCK-8アッセイにより評価した。
【0119】
(2)Met/Cys官能化高分子の細胞取り込み量の評価
(2-1)フローサイトメーター(FCM)による細胞取り込みの測定
24ウェルプレートに細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるよう播種し、SKOV3-Luc細胞ではMcCoy’s 5A(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、BxPC3及びCT26細胞ではRPMI(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、NIH3T3細胞ではDMEM(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、37℃、5%CO下で24時間前培養した。培地交換後、以下のサンプル溶液500μLを加え、3時間インキュベートした。
・Cy5-Met/Cys修飾高分子(Cy5:2μM)
・PEG20k-Cy5(Cy5:2μM)
【0120】
D-PBS 0.5mLで2回洗浄後、150μLトリプシン-EDTA溶液を加え、SKOV3-Luc細胞及びCT26細胞では3分間、BxPC3細胞では10分間、NIH3T3細胞では5分間インキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、SKOV3-Luc細胞ではMcCoy’s 5A(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、BxPC3及び CT26細胞ではRPMI(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、NIH3T3細胞ではDMEM(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)を350μL加え、懸濁した後に、FCMにより細胞取り込みを測定した。得られた結果を図11及び図12に示す。
【0121】
(2-2)ライセートの蛍光定量による細胞取り込みの測定
96ウェルプレートに細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるよう播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。以下のサンプル溶液100μLを加え、3時間インキュベートした。
・Cy5-Met/Cys修飾高分子(Cy5:2μM)
・PEG20k-Cy5(Cy5:2μM)
【0122】
D-PBS(+)0.1mLで2回洗浄後、0.1mL Lysis buffer溶液を加え、30分間インキュベートした。50μL溶液をブラックプレートに移動した後に、マイクロプレートリーダーにより蛍光強度を測定した(ex/em=635/690nm)。検量線により計算した取り込み量を図13に示す。
【0123】
LAT1過剰発現がん細胞において、Met修飾高分子は、Cys修飾高分子とPEG20kよりも高い細胞取り込み量を示した(図11)。一方、正常細胞であるNIH3T3細胞に対しては、Met修飾高分子は極めて少ない取り込み量を示した。同様の結果はcell lysateの蛍光定量においても得られた(図12)。さらに、細胞取り込み量は重合度依存的であり、P[Asp70/Asp(Met)40]は、P[Asp33/Asp(Met)24]よりも高い取り込み量を示した(図13)。
【0124】
実施例3:共焦点顕微鏡による細胞内分布の観察
(1)共焦点顕微鏡による観察
35mmのガラス製ディッシュに細胞を5.0×10細胞/ディッシュとなるよう播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。各ディッシュに2.0μM Cy5-Met/Cys修飾高分子溶液を1mL加え、3時間インキュベートした。D-PBS(-) 1mLで洗浄後、100nM LysoTracker(登録商標)red DND-99/(D-PBS:RPMI=1:9)溶液1mLを加え、30分間インキュベートした。D-PBS 1mLで洗浄後、5.0μg/ml Hoechst/D-PBS溶液1mLを加え、D-PBS 1mLで2回洗浄後、SKOV3-Luc細胞ではMcCoy’s 5A、BxPC3及びCT26細胞ではRPMI 2mLを加え、CLSMで観察した。得られた結果を図14に示す。
【0125】
Met/Cys修飾高分子は、エンドソーム/リソソームに局在したことから、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれることが示唆された。
【0126】
(2)特異性評価
24ウェルプレートに細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるよう播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。以下のサンプル溶液500μLを加え、30分間インキュベートした。
・BCH(System L阻害剤):10mM
・BzlSer(ASCT2阻害剤):10mM
・MeAIB(System A阻害剤):10mM
【0127】
その後、以下のサンプル溶液500μLを加え、3時間インキュベートした。
・Cy5-Met修飾高分子(Cy5:2μM)、BCH 10mM
・Cy5-Met修飾高分子(Cy5:2μM)、BzlSer 10mM
・Cy5-Met修飾高分子(Cy5:2μM)、MeAIB 10mM
・Cy5-Cys修飾高分子(Cy5:2μM)、BCH 10mM
・Cy5-Cys修飾高分子(Cy5:2μM)、BzlSer 10mM
・Cy5-Cys修飾高分子(Cy5:2μM)、MeAIB 10mM
【0128】
D-PBS 0.5mLで2回洗浄後、150μLトリプシン-EDTA溶液を加え、SKOV3-Luc細胞、CT26細胞では3分間、BxPC3細胞では10分間インキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、SKOV3-Luc細胞ではMcCoy’s 5A、BxPC3及びCT26細胞では RPMI 2mLを350μL加え、懸濁した後に、FCMにより細胞取り込みを測定した。Cys修飾高分子の特異性評価は上記と同じように行った。得られた結果を図15に示す。
【0129】
LAT1阻害剤はSKOV3-Luc、CT26及びBxPC3におけるMet修飾PAspの細胞取り込みを有意に阻害することができたが、ASCT2及びシステムA阻害剤は細胞取り込みを阻害せず、Met修飾PAspの細胞取り込みはLAT1によって媒介されるエンドサイトーシスであることが示唆された。一方、Met修飾PEG-PAsp Cys修飾高分子の細胞取り込みは、阻害の処理下では低下しなかった。これは、側鎖の化学構造がLAT1標的に寄与することを示唆した。
【0130】
実施例4:細胞光毒性評価
Ppa-Met修飾高分子のがん細胞増殖抑制作用をCCK-8アッセイにより評価した。
(1)細胞毒性測定
96ウェルプレートに細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるよう播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。以下のサンプル溶液100μLを加え、3時間インキュベートした。
・Ppa-Met修飾高分子(Ppa:2μM)
【0131】
D-PBS(-)0.1mLで2回洗浄後、SKOV3-Luc細胞ではMcCoy’s 5A(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、BxPC3細胞ではRPMI(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)、NIH3T3細胞ではDMEM(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)を100μL加え、1時間680nmのハロゲンランプを用いて光照射した。48時間インキュベートした後、10%CCK-8溶液を各ウェルに100μL加え、1.5時間インキュベートした後、450nmの吸光度を測定した。得られた結果を図16に示す。
【0132】
P[Asp92/Asp(Met)35]-Ppaはがん細胞に対して極めて高い光毒性を示したが、NIH3T3細胞に対する光毒性は低かった(図16(a))。この結果は細胞取り込み量と整合性のとれる結果であった(図16(b))。一方、光照射を行わなければ、P[Asp92/Asp(Met)35]-Ppa細胞毒性は誘起されなかった。すなわち、高分子-光増感剤そのものに顕著な毒性はないということが示唆された。
【0133】
実施例5:腹膜播種腫瘍マウスモデルに対する効果(腫瘍におけるLAT1発現量、腫瘍集積性及び抗腫瘍効果)
(1)概要
腹膜播種腫瘍マウスモデル(SKOV3-Luc、BxPC3、及びCT26)に対して蛍光色素(Cy5)で標識したMet/Cys修飾高分子を腹腔内注射し、体内動態を評価した。さらに、SKOV3-Luc(ヒト卵巣がん細胞株)腹膜播種腫瘍マウスモデルに対して光増感剤(Ppa)で標識したMet/Cys修飾高分子を腹腔内注射し、抗腫瘍効果を評価した。
【0134】
(2)免疫組織化学による腫瘍LAT1発現量の評価
(2-1)腹膜播種腫瘍マウスモデルの作製
CT26:細胞懸濁液(3.0×10細胞/ml)をBalb/cマウスに対して200μl腹内に注射した。
SKOV3-Luc・BxPC3:細胞懸濁液(5.0×10細胞/ml)をBalb/cヌードマウスに対して200μl腹内に注射した。
【0135】
(2-2)免疫組織化学
パラフィン包埋された5μm厚の組織切片を脱パラフィン及び脱水した後、抗原賦活のためクエン酸バッファー中でmicrowave処理を10分間行った。内因性ペルオキセダーゼ活性をブロックするために3%Hにより20分間処理を行った。3%BSA PBST溶液で30分間ブロックした後、ウサギポリクローナル抗LAT1抗体(5μg/ml、Massachusetts,USA)を組織切片上に乗せ、室温で2時間反応させ、PBSTで3回の洗浄をした後、Histofine(登録商標)Simple StainTM Rabbit MAX PO(Nichirei biosciences Inc.Tokyo,Japan)を組織切片上に乗せ、室温で15分反応させた。最後に、3-3’ジアミノベンジン(DAB;Agilent Technologies Japan,Ltd.)を反応色素に用い、ヘマトキシリンで核染色を行った後、光学顕微鏡で観察した。得られた結果を図17に示す。
【0136】
SKOV3-Luc、BxPC3、CT26腹膜播種腫瘍マウスモデルいずれもLAT1の強い発現を認めた。
【0137】
実施例6:メチオニン・システイン官能化高分子の体内動態
(1)腹膜播種腫瘍マウスモデルの作製
CT26:細胞懸濁液(3.0×10細胞/ml)をBalb/cマウスに対して200μl腹内に注射した。
SKOV3-Luc・BxPC3:細胞懸濁液(5.0×10細胞/ml)をBalb/cヌードマウスに対して200μl腹内に注射した。
【0138】
(2)体内動態の評価
がん細胞の腹腔播種から2週間後、以下のサンプルD-PBS(-)溶液250μLを腹腔内投与した(Cy5 10μM、250μL/マウス)。
・Cy5-Met修飾高分子
・Cy5-Cys修飾高分子
・PEG20k-Cy5
【0139】
サンプル注射から1時間後にマウスを安楽死させた。SKOV3腫瘍モデルについては、安楽死5分前に200μLのルシフェリン(30mg/ml)を腹腔内投与した。腫瘍と臓器を摘出した後、PBSで丁寧に洗浄し、余分な水分をティッシュペーパーで拭き取った後、Cy5の蛍光をインビボイメージングシステム(ex/em=630/690nm;IVIS,Perkin Elmer,Waltham,MA)により撮像した。SKOV3モデルについてはルシフェリンの発光も測定した。
【0140】
定量については、膵臓付近の腫瘍を摘出しPassive Lysis Bufferを加えてホモジェナイズした。各種臓器についても同様にホモジェナイズした。ホモジェナイズはマルチビーズショッカーにより行った。ホモジェナイズ溶液をブラック96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific Inc.USA)に移し、マイクロプレートリーダー(SPARK TKS01,TEACN,Switzerland)(ex/em=630nm/680nm)により蛍光を測定した。また検量線を臓器ホモジェナイズ溶液を用いて作成し、各サンプル内に含まれるCy5量を算出することにより、投薬量%/g組織に換算した。結果を図18及び図19に示す。
【0141】
Met/Cys修飾高分子は腫瘍に迅速に集積した。一方、正常組織に対してはあまり集積しなかった。
【0142】
実施例7:抗腫瘍効果
SKOV3-Luc細胞をBalb/cヌードマウスの腹腔播種から2週間後、以下のサンプルD-PBS(-)溶液250μLを腹腔内投与した(Ppa 10μM、250μL/マウスe)。
・Ppa-P[Asp92/Asp(Met)35
・Ppa-P[Asp89/Asp(Cys)38
・Ppa-PEG20k
【0143】
光照射群に関しては、試料投与から1時間後にマウスの腹部に200mW/cm 680nmのレーザーを600秒照射した。照射日を1日目とし、5日おきに腫瘍の成長をIVISにて、体重を電子天秤にて全20日間測定した。
【0144】
評価した検体をまとめると下記のようになる(n=5)。
・Ppa-P[Asp92/Asp(Met)35](Light)
・Ppa-P[Asp89/Asp(Cys)38](Light)
・Ppa-P[Asp92/Asp(Met)35](Dark)
・Ppa-P[Asp89/Asp(Cys)38](Dark)
・Ppa-PEG20k(Light)
・処置なし
【0145】
結果を図20図24に示す。
【0146】
実施例8:チロシン修飾高分子の合成
(1)N-PEG9k-ポリ[アスパラギン酸/アスパラギン酸(チロシン)]及びN-PEG9k-ポリ[アスパラギン酸/アスパラギン酸(トリエチレングリコール-チロシン)]の合成
本チロシンリガンド修飾高分子N-PEG9k-ポリ[アスパラギン酸/アスパラギン酸(チロシン)]及びN-PEG9k-ポリ[アスパラギン酸/アスパラギン酸(トリエチレングリコール-チロシン)](以下、N-PEG-P[Asp/Asp(Tyr)]及びN-PEG-P[Asp/Asp(TEG-Tyr)](m=Aspのユニット数、n=Asp(Tyr)又はAsp(TEG-Tyr)のユニット数)の合成法を記す。
【0147】
-PEG-P[Asp/Asp(Tyr)]の合成スキームを下記に示す。
【0148】
【化17】
【0149】
-PEG-P[Asp/Asp(TEG-Tyr)]の合成スキームを下記に示す。
【0150】
【化18】
【0151】
開始剤をN-PEG9k-NH、モノマーをBLA-NCAとするN-カルボキシ無水物(NCA)重合によりN-PEG9k-PBLAを合成した。塩基性条件下で側鎖のカルボキシ基を脱保護し、N-PEG9k-PAspを得た。その後、プロピルスペーサー及びトリエチレングリコールスペーサーを有するチロシン構造リガンドNH-Tyr及びNH-TEG-Tyrのアミノ基をそれぞれN-PEG9k-PAspnのカルボキシ基に結合し、N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を得た。
【0152】
(2)合成手法
(2-1)N-PEG9k-PBLA95の合成
300mL二口ナスフラスコにN-PEG9k-NH 0.40g(0.044mmol)を量り取り、ベンゼン8.0mLに溶解させた後、凍結乾燥した。アルゴン雰囲気下で100mL二口ナスフラスコにBLA-NCAを1.26g(5.07mmol)(n=95)を量り取った。N-PEG9k-NHに蒸留精製したDMFを1.36mL、DCMを13.6mL加えた。またBLA-NCAにそれぞれDMFを3.55mL及びDCMを35.5 mL加えて、溶解させた。BLA-NCA溶液をN-PEG9k-NH溶液に加え、アルゴン雰囲気下のもと室温で48時間攪拌した。反応溶液をそれぞれヘキサン、酢酸エチル混合溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)800mLに滴下し、再沈殿により精製した。その後、減圧乾燥させ、白色固体N-PEG9k-PBLA95を収量1.20g、収率96%で得た。H NMRスペクトルを図25に示す。H NMR(400MHz,DMSO-d6):δ8.41-8.02(br,-NH-C=O-),7.48-7.06(br,=CH-CH=),5.30-4.83(br,-O-CH-C-),4.82-4.32(br,-CO-CH-NH-),3.73-3.64(br,-CH-CH-NH-),3.57-3.43(br,-CH-CH-O-),2.94-2.72,2.70-2.55(br,-CH-CH-C=O-),2.36-2.29(br,-N-CH-CH-)。
【0153】
(2-2)N-PEG9k-PBLA(n=95)の脱保護
50mLナスフラスコにPEG9k-PBLA95 1.05g(0.037mmol)を量り取り、0.1M NaOHaq 15mL及びNMP 15mLを加えて室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜(MWCO=3.5kDa)に入れ、2Lの純水で3回透析した。溶液を凍結乾燥させ、白色固体N-PEG9k-PAsp95を収量787mg、収率93%で得た。H NMRスペクトルを図26に示す。H NMR(400MHz,DO):δ7.34-7.12,7.11-6.83(br,-CH=CH-),4.75-4.35(br,-C=O-CH-NH),4.17-3.99(br,-CH-CH-O-),3.98-3.85(br,-CH-CH-C=O-),3.86-3.60(br,-CH-CH-O-),3.47-3.27(br,-CH-CH-),3.26-3.13,3.12-2.93(br,-CH-CH-CH-),2.94-2.51(br,-CH-CH-C=O-),2.08-1.78(br,-CH-CH-CH-)。
【0154】
(2-3)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の合成
20mLスクリュー管瓶にN-PEG9k-PAsp95 150mg(7.5μmol)を量り取り、HOとDMFの混合溶媒(HO:DMF=2:8)10mLに溶解させた。そこに、NH-Tyr 84mg(214 μmol)(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])及び211mg(534μmol)(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、NH-TEG-Tyr 125mg(214μmol)(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び313mg(534μmol)(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])、TEA 298μL(2.138mmol)、EDC・HCl 55mg(285μmol)(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、137mg(713μmol)(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、55mg(285μmol)(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び137mg(713μmol)(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])、NHS 33mg(285μmol)(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、82mg(713μmol)(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、33mg(285μmol)(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び82mg(713μmol)(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])をそれぞれ加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜(MWCO=3.5kDa)に入れ、それぞれ2Lの0.01M NaOHで透析を2回行った後、2Lの純水でそれぞれ4回ずつ透析した。得られた溶液を凍結乾燥し、白色固体N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を収量177mg(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、219mg(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、213mg(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び302mg(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])、収率86%(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、93%(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、89%(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び92%(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])で得た。
【0155】
(2-4)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の脱保護
20mLスクリュー管瓶にそれぞれ150mg N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20](5.5μmol)、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30](4.8μmol)、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21](4.7μmol)及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43](3.4μmol)を量り取り、95%TFA 5mLに溶かして室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO=3.5kDa)に入れ、それぞれ2Lの0.01M NaOHで透析を2回行った後、2Lの純水で4回透析した。溶液を凍結乾燥させ、白色固体N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を収量95mg(3.9μmol)(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、91mg(3.4μmol)(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、107mg(3.7μmol)(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び124mg(3.3μmol)(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])、収率71%(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、71%(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、79%(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21)及び97%(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])で得た。H NMRスペクトルを図27(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、図28(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、図29(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び図30(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])に示す。
【0156】
-PEG-P[Asp/Asp(Tyr)](n=20及び30):H NMR(400MHz,DO):δ7.34-7.12,7.11-6.83(br,-CH=CH-),4.75-4.35(br,-C=O-CH-NH),4.17-3.99(br,-CH-CH-O-),3.98-3.85(br,-CH-CH-C=O-),3.86-3.60(br,-CH-CH-O-),3.47-3.27(br,-CH-CH-),3.26-3.13,3.12-2.93(br,-CH-CH-CH-),2.94-2.51(br,-CH-CH-C=O-),2.08-1.78(br,-CH-CH-CH-)。
【0157】
-PEG-P[Asp/Asp(TEG-Tyr)](n=21及び43):H NMR(400MHz,DO):δ7.35-7.16,7.10-6.91(br,-CH=CH-),4.74-4.38(br,-C=O-CH-NH),4.19-4.03(br,-CH-CH-O-),4.02-3.85(br,-CH-CH-O-),3.82-3.63(br,-CH-CH-O-),3.47-3.32(br,-C-CH-CH-),3.31-3.16(br,-O-CH-CH-),3.17-2.97(br,-CH-CH-O-),2.96-2.50(br,-CH-CH-C=O-),2.48-2.29(br,-CH-CH-C=O-),1.96-1.80(br,-CH-CH-CH-),1.79-1.64(br,-CH-CH-CH-)。
【0158】
(2-5)tert-ブチルO-(16-アミノ-5,8,11,14-テトラオキサヘキサデカン-1-イル)-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-チロシネート(「NH-TEG-Tyr」(中間体)の合成
NH-TEG-Tyrを下記の合成スキームに従って合成した。
【0159】
【化19】
【0160】
スキーム1.4の合成。試薬及び条件:(a)トランス-1,4-ジブロモ-2-ブテン、テトラ-n-ブチルアンモニウム水素硫酸塩、NaOH、CHCl、HO、58%。(b)ベンジル(2-{2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}エチル)カルバメート、テトラ-n-ブチルアンモニウム水素硫酸塩、NaOH、CHCl、HO、30%;(c)H(1atm)、Pd/C、AcOEt、MeOH、51%。
【0161】
(2-5-1)tert-ブチル O-[(2E)-4-ブロモブタ-2-エン-1-イル]-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-チロシネート(2)
【0162】
【化20】
【0163】
tert-ブチル N-(tert-ブトキシカルボニル)L-チロシネート(0.20g、0.59mmol)、及び、trans-1,4-ジブロモ-2-ブテン(0.25g、1.2mmol)のジクロロメタン溶液(1.8mL)に、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素塩(0.20g、0.59mmol)、及び、水酸化ナトリウム(0.047g、1.2mmol)の水溶液(0.95mL)を加え、室温にて45分間攪拌した。反応液にジクロロメタン、及び、水を加え分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標記化合物(0.16g、収率:58%)を無色固体として得た。
H NMR(CDCl)δ:7.08(2H、d、J=8.5Hz)、6.82(2H、d、J=8.5Hz)、6.11-5.95(2H、m)、4.97(1H、d、J=7.9Hz)、4.53(2H、dd、J=4.8、1.2Hz)、4.40(1H、q、J=6.7Hz)、3.99(2H、d、J=7.3Hz)、2.99(2H、d、J=3.6Hz)、1.42(9H、s)、1.41(9H、s).HRMS(ESI)m/z:470.1555(M+H)(計算値:C2233BrNO:470.1537)。
【0164】
(2-5-2)tert-ブチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-O-[(18E)-3-オキソ-1-フェニル-2,7,10,13,16-ペンタオキサ-4-アザイコス-18-エン-20-イル]-L-チロシネート(3)
【0165】
【化21】
【0166】
tert-ブチル O-[(2E)-4-ブロモブタ-2-エン-1-イル]-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-チロシネート(1.0g、2.1mmol)、及び、ベンジル(2-{2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}エチル)カルバメート(0.84g、2.6mmol)のジクロロメタン溶液(1.8mL)に、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素塩(0.72g、2.1mmol)、及び、水酸化ナトリウム(0.17g、4.3mmol)の水溶液(0.95mL)を加え、室温にて2時間攪拌した。反応液にジクロロメタン、及び、水を加え分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標記化合物(0.45g、収率:30%)を無色の液体として得た。
H NMR(CDCl)δ:7.35(4H、d、J=5.1Hz)、7.32-7.30(1H、m)、7.07(2H、d、J=8.5Hz)、6.81(2H、d、J=8.5Hz)、5.92(2H、s)、5.49(1H、s)、5.10(2H、brs)、4.98(1H、d、J=8.5Hz)、4.49(2H、brs)、4.40(1H、q、J=6.7Hz)、4.03(2H、s)、3.64-3.55(14H、m)、3.39(2H、q、J=5.2Hz)、2.99(2H、d、J=5.4Hz)、1.42(9H、s)、1.41(9H、s).HRMS(ESI)m/z:717.4009(M+H)(計算値:C385711:717.3957)。
【0167】
(2-5-3)tert-ブチル O-(16-アミノ-5,8,11,14-テトラオキサヘキサデカン-1-イル)-N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-チロシネート(4)
【0168】
【化22】
【0169】
tert-ブチル N-(tert-ブトキシカルボニル)-O-[(18E)-3-オキソ-1-フェニル-2,7,10,13,16-ペンタオキサ-4-アザイコス-18-エン-20-イル]-L-チロシネート(0.46mg、0.63mmol)の酢酸エチル(3mL)及び、メタノール(3mL)溶液に、10%パラジウム-活性炭素(87mg)を加え、水素雰囲気下、室温で4時間撹拌した。セライトろ過後、減圧下にて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/メタノール)で精製し、粗生成物(0.19g、収率:51%)を無色の液体として得た。
H NMR(CDCl)δ:7.06(2H、d、J=9.1Hz)、6.80(2H、d、J=8.5Hz)、4.98(1H、d、J=8.5Hz)、4.40(1H、q、J=6.9Hz)、3.95(2H、t、J=6.0Hz)、3.68-3.59(12H、m)、3.54-3.49(4H、m)、2.99(2H、d、J=5.4Hz)、2.86(2H、t、J=5.1Hz)、1.88-1.72(4H、m)、1.42(9H、s)、1.41(9H、s).HRMS(ESI)m/z:585.3761(M+H)(計算値:C3053:585.3746)。
【0170】
実施例9:解析
(1)N-PEG9k-PBLA95
H NMRスペクトルの開始剤N-PEG9k-NH由来のピーク[3.57-3.43(br、-CH-CH-O-)]とBLA-NCA由来のピーク[8.41-8.02(br、-NH-C=O-)、5.30-4.83(br、-O-CH-C-)、2.94-2.72、2.70-2.55(br、-CH-CH-C=O-)]の積分値の比からPBLAの重合度DP=95、数平均分子量Mn=28,500と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子の分子量分散度はPDI=1.11と求まり、狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0171】
(2)N-PEG9k-PAsp95
H NMRスペクトルの開始剤N-PEG9k-NH2由来のピーク[3.57-3.43(br、-CH-CH-O-)]とアスパラギン酸のα水素のピーク(3.01-2.40(br、-CH-CH-C=O-)の積分値の比からAspの重合度DP=95(n=95)、数平均分子量Mn=20,000と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0172】
(3)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43
H NMRスペクトルのアスパラギン酸のα水素のピーク(3.01-2.40(br、-CH-CH-C=O-)及びNH-Tyrのベンゼン環上の水素のピーク[7.34-7.12、7.11-6.83(br、-CH=CH-)]の積分値の比からNH-Tyrの導入数は20(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])及び30(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、数平均分子量はMn=24,300(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])及びMn=26,500(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])と求まった。同様に、H NMRスペクトルのアスパラギン酸のα水素のピーク(3.01-2.40(br、-CH-CH-C=O-)及びNH-TEG-Tyrのベンゼン環上の水素のピーク[7.34-7.12、7.11-6.83(br、-CH=CH-)]の積分値の比からNH-TEG-Tyrの導入数は21(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び43(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])、数平均分子量はMn=28,500(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及びMn=37,200(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])と求まった。また、GPCカーブから、得られた高分子は単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した(データを示さず)。
【0173】
実施例10:培養細胞に対する評価
(1)概要
蛍光色素(Cy5)で標識したN-PEG-PAsp(Cy5-PEG-PAsp)、N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20](Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30](Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21](Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43](Cy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])の細胞内の取り込み量を比較した。次に、BCH(LAT1阻害剤)との共培養における取り込み量を測定し、LAT1特異性を比較した。
【0174】
(2)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の細胞取り込み量の評価
蛍光色素(Cy5)をN-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]に導入し、細胞に添加したのちに細胞内のCy5蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した。
【0175】
(3)Cy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の合成
クリックケミストリーにより、N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の末端のアジド基にCy5-DBCOを結合した。N-PEG-PAsp95を50.0mg(2.50μmol)、N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]を70.0mg(2.88μmol)、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]を70.0mg(2.64μmol)、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]を80.0mg(2.81μmol)及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を80.0mg(2.15μmol)を10mLバイアルに量り取り、5.00mLの純水に溶解させた。次に、高分子溶液に対してそれぞれ1等量のCy5-DBCO(12.5mg/ml Cy5-DBCO/DMSO溶液)それぞれ202μL(N-PEG-PAsp95)、233μL(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、213μL(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、227μL(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び174μL(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])を高分子溶液に加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜(MWCO=3.5kDa)に入れ、それぞれ2Lの純水で4回透析した。その後、PD-10カラムを用いてさらに精製し、高分子溶液を凍結乾燥させ、青色固体44.3mg(N-PEG-PAsp95)、64.8mg(N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20])、61.2mg(N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30])、62.2mg(N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21])及び58.9mg(N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43])を得た。
【0176】
(4)細胞内Cy5蛍光強度の測定
24ウェルプレートにBxPC3細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるように播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。上記の高分子溶液をそれぞれ2.0μMとなるように培地で調製し、ウェルに500μLずつ加えて3時間インキュベートした。D-PBS 500μLで2回洗浄後、150μLトリプシン-EDTA溶液を加え、7分間インキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、RPMI培地を350μL加え、懸濁してフローサイトメトリー(Ex/Em=650/670nm)により細胞への取り込み量を測定した。得られた結果を図31に示す。
【0177】
チロシン修飾高分子はいずれもチロシン修飾していないコントロールであるCy5-PEG-PAsp95に比べて有意な取り込み量の増大を示した。Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]は、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]及びCy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]に比べて取り込み量が高く、また両方ともチロシンリガンドの数の増加につれて取り込み量が増加した。
【0178】
(5)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]のBCHによる阻害効果の評価
蛍光色素(Cy5)を導入したN-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を用いて、LAT1阻害剤であるBCHと細胞に共培養したのちに細胞内のCy5蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定した。
【0179】
24ウェルプレートにBxPC3細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるように播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。BCHを10.0mMとなるように培地で調製し、ウェルに500μLずつ加えて30分間インキュベートした。D-PBS 500μLで2回洗浄後、上記の高分子溶液をそれぞれ2.0μM、BCHを10.0mMとなるように培地で調製し、ウェルに500μLずつ加えて3時間インキュベートした。D-PBS 500μLで2回洗浄後、150μLトリプシン-EDTA溶液を加え、7分間インキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、RPMI培地を350μL加え、懸濁してフローサイトメトリー(Ex/Em=650/670nm)により細胞への取り込み量を測定した。得られた結果を図32に示す。
【0180】
BCH(LAT1阻害剤)との共培養下において、Cy5-PEG-PAsp95とCy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]は細胞内取り込み量に変化が見られなかった。一方、チロシン修飾高分子であるCy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の取り込み量に大きな差は確認された。以上の結果から、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]は、LAT1特異的に介してエンドサイトーシスにより効率的に細胞内に取りこまれたことが示唆された。
【0181】
実施例11:皮下腫瘍マウスモデルに対する効果(血中滞留性及び腫瘍集積性)
(1)概要
BxPC3(ヒト膵臓腺がん細胞)皮下腫瘍マウスモデルに対してCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を静脈注射し、体内動態を評価した。
【0182】
(2)N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、N-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びN-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の体内動態
BxPC3皮下腫瘍マウスモデルに対してCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]を静脈注射し、血中滞留性及び腫瘍集積性を評価した。
【0183】
(3)BxPC3皮下腫瘍マウスモデルの作製
BxPC3細胞懸濁液(5.0×10細胞/ml)をBalb/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0184】
(4)体内動態の評価
腫瘍サイズがおよそ200mmに達したモデルマウスに対して、上記の50.0μM高分子調製溶液100μLを尾静脈投与した。投与量はマウス一匹当たりそれぞれ0.10mg Cy5-PEG-PAsp95、0.12mg Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、0.13mg Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、0.14mg Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及び0.19mg Cy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]となる。試料投与から1、3、6、24時間後に解剖し、血液及び各種臓器をマルチビーズショッカー粉砕チューブに回収した。その後、各種臓器をPBSで洗浄して、IVISを用いて(Ex/Em=640/700nm)で蛍光強度を観察し、その結果を図33に示す。回収された臓器100mgに対してPassive Lysis Bufferを800μL加え、マルチビーズショッカーでホモジナイズした後、96ウェルプレートに移してTECANより蛍光強度を定量的に測定した(Ex/Em=640nm/700nm)。その結果を図34~36に示す。
【0185】
投与されたCy5-PEG-PAsp95は肝臓における集積を示した一方で、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]は24時間後も腎臓に集積を示した。また、Cy5-PEG-PAsp95に比べて、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]に投与された腫瘍組織は比較的に高い蛍光を示した(図33)。
【0186】
投与されたCy5-PEG-PAsp95の腫瘍集積性は24時間を経て約1.0%投薬量/g組織に維持した。それに対して、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]とCy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]は投与後6時間に腫瘍集積性が少し上昇したものの、有意な差が見られなかった。一方で、図34の結果に一致して、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]はCy5-PEG-PAsp95に比べて有意な腫瘍集積性の増加を示し、投与後6時間でそれぞれ約1.5%投薬量/g組織及び2.0%投薬量/g組織を示した。本チロシン修飾高分子はチロシン修飾より腫瘍集積性の付与を達成することが示された。
【0187】
投与から6時間後におけるCy5-PEG-PAsp95、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]の血中濃度は5.0%投薬量/ml以下となり、投与から24時間後血中濃度は1.0%投薬量/ml以下と血中からの速やかな消失を示した(図35)。
【0188】
投与されたCy5-PEG-PAsp95は肝臓における集積を示した一方で、Cy5-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]、Cy5-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]、Cy5-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]及びCy5-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]は腎臓に集積を示した。また図36よりチロシン修飾高分子は投与された後に腎臓を通して速やかに体内から排泄されたとここで示唆された。
【0189】
実施例12:細胞光毒性評価
Ppa-Tyr修飾高分子のがん細胞増殖抑制作用をCCK-8アッセイにより評価した。
(1)細胞毒性測定
96ウェルプレートに細胞を1.0×10細胞/ウェルとなるよう播種し、37℃、5%CO下で24時間前培養した。以下のサンプル溶液100μLを加え、3時間インキュベートした。
・Ppa-Tyr修飾高分子(Ppa:1μM)
【0190】
D-PBS(-)0.1mLで2回洗浄後、BxPC3細胞ではRPMI(10%ウシ胎児血清/ペニシリン含有)を100μL加え、1時間680nmのハロゲンランプを用いて光照射した。48時間インキュベートした後、10%CCK-8溶液を各ウェルに100μL加え、1.5時間インキュベートした後、450nmの吸光度を測定した。得られた結果を図37図38に示す。
【0191】
Ppa-Tyr修飾高分子はいずれも光照射を行わなければ、がん細胞に対して光毒性を示さなかった(図38)。一方、光照射を行う場合では、N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]-Ppaはがん細胞に対して、N-PEG-PAsp95-Ppa、N-PEG-P[Asp75/Asp(Tyr)20]-Ppa、N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]-Ppa及びN-PEG-P[Asp74/Asp(TEG-Tyr)21]-Ppaより高い光毒性を示した。(図37)。すなわち、本チロシン修飾高分子はチロシン修飾より光毒性の増加付与を達成することが示された。
【0192】
本発明によれば、アミノ酸トランスポーター(LAT1)を標的としたメチオニン又はチロシン修飾したLAT1結合部位に抗がん剤を結合させたコンジュゲートの使用により、がんを治療することが可能になる。
【0193】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
【0194】
実施例13:抗腫瘍効果
BxPC3細胞をBalb/cヌードマウスの皮下播種から2週間後、以下のサンプルD-PBS(-)溶液100μLを腹腔内投与した(Ppa 50μM、100μL/マウスe)。
・N-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]-Ppa
・N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]-Ppa
・N-PEG-PAsp95-Ppa
【0195】
試料投与から6時間後にマウスの皮下に200mW/cm 680nmのレーザーを600秒照射した。照射日を1日目とし、3日おきに腫瘍の成長をバーニャ目盛にて、体重を電子天秤にて全28日間測定した。結果を図39及び図40に示す。
【0196】
光照射を行う場合では、N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]-PpaとN-PEG-P[Asp65/Asp(Tyr)30]-Ppaは、N-PEG-PAsp95-Ppaより高い抗腫瘍効果を示した。また、Ppa-Tyr修飾高分子が投与されていないコントロールグループに比べて、N-PEG-P[Asp52/Asp(TEG-Tyr)43]-Ppaはより高い抗腫瘍効果という有意差を示した(図39)。いずれのPpa-Tyr修飾高分子を光照射した後も、Balb/cヌードマウスの体重は著しく変化することが見られなかった(図40)。すなわち、本チロシン修飾高分子はチロシン修飾よりBxPC3の皮下腫瘍モデルに対して抗腫瘍効果の増加付与を達成することが示された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18
図19
図20
図21
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図24
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図26
図27
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図29
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図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40