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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164165
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】建築物および連結構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/10 20060101AFI20231102BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
E04B1/10 A
E04B1/61 501
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075522
(22)【出願日】2022-04-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】510082053
【氏名又は名称】株式会社ストローグ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100228511
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彩秋
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100166442
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋雅
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】弁理士法人宮田特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】519051263
【氏名又は名称】原田 真宏
(71)【出願人】
【識別番号】519051274
【氏名又は名称】原田 麻魚
(71)【出願人】
【識別番号】519051285
【氏名又は名称】蒲池 健
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】弁理士法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 憲峰
(72)【発明者】
【氏名】大倉 義邦
(72)【発明者】
【氏名】原田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 麻魚
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 健
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA53
2E125AC24
2E125AG03
2E125CA79
(57)【要約】
【課題】
CLTを始めとする重厚な板材の性質を活用し、従来には存在しない特異性を有する建築物を提供するほか、自重や外力に対抗可能な連結構造の提供。
【解決手段】
建築物は直立した板材11、12、13で構成され、上下方向に隣接する二枚の板材の双方に欠損部73、88を形成するほか、これに隣接して残存部78、83を確保し、双方の残存部83、78を相手方の欠損部73、88に嵌め合わせて板材同士を連結する。また室内に入り込む板材の側端面は、外壁面よりも手前の室内で途切れる構成とすることで、板材の据え付けで部屋割りと通路の配置が確定することになり、このような板材の嵌め合わせによる建築物は、特異性を有する外観になる。さらに板材同士の嵌め合わせのため残存部83、78を確保することで、強度を確保できるほか、板材同士の接触面に金具類を配置することで板材の浮き上がりを防ぎ、地震などの外力に対抗可能になる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直立した板材(11乃至13)を水平方向に間隔を空けながら並べていくほか、該板材(11乃至13)を上下方向に積層させた建築物であって、
上下方向に隣接する二枚の前記板材(11乃至13)は、真上から見て交角を有するように配置してあり、二枚の該板材(11乃至13)において下方に配置されるものには、その上端面から下方に向けて伸びる欠損部(73)を形成してあり、また上方に配置されるものには、その下端面から上方に向けて伸びる欠損部(88)を形成してあり、双方の該欠損部(73、88)を互いに嵌め合わせることで、二枚の該板材(11乃至13)が連結され、該嵌め合わせにより多数の該板材(11乃至13)を一体化することで骨格が構築され、
個々の前記板材(11乃至13)は、外壁面に沿うように配置されるものと、室内に入り込むように配置されるものの二種類が存在しており、そのうち室内に入り込むように配置されるものにおいて、その側端面の一方または両方は、外壁面よりも手前の室内で途切れており、その先に空間が確保されていることを特徴とする建築物。
【請求項2】
上下方向に隣接する二枚の前記板材(11乃至13)において、下方に配置されるものを下方板(71)と規定し、また上方に配置されるものを上方板(81)と規定し、
前記下方板(71)の前記欠損部(73)は、該下方板(71)の側面上部を削り落とすように形成してあり、且つ該下方板(71)の厚さ方向において、該欠損部(73)よりも奥側には残存部(78)を確保してあり、
前記上方板(81)の前記欠損部(88)は、該上方板(81)の側面下部を削り落とすように形成してあり、且つ該上方板(81)の厚さ方向において、該欠損部(88)よりも奥側には残存部(83)を確保してあり、
前記下方板(71)の前記欠損部(73)には、前記上方板(81)の前記残存部(83)を嵌め合わせると共に、該上方板(81)の前記欠損部(88)には、該下方板(71)の前記残存部(78)を嵌め合わせることで、該下方板(71)と該上方板(81)が連結されることを特徴とする請求項1記載の建築物。
【請求項3】
上下方向に隣接する前記下方板(71)と前記上方板(81)において、該下方板(71)と該上方板(81)が上下方向に重なる接触面では、その一方の面に一方金具(21または22)を取り付け、残る一方の面に他方金具(31または32)を取り付け、
前記一方金具(21または22)と前記他方金具(31または32)が面接触した状態において、該一方金具(21または22)と該他方金具(31または32)を一体化することで前記上方板(81)の浮き上がりを防ぐことを特徴とする請求項1または2記載の建築物。
【請求項4】
いずれも直立している下方板(71)と上方板(81)が上下方向に隣接しており、双方の交差箇所で使用する連結構造であって、該下方板(71)と該上方板(81)は、真上から見て交角を有するように配置してあり、
前記下方板(71)には、その上端面から下方に向けて伸びる欠損部(73)を形成してあり、該欠損部(73)は、該下方板(71)の側面上部を削り落とすように形成してあり、且つ該下方板(71)の厚さ方向において、該欠損部(73)よりも奥側には残存部(78)を確保してあり、
前記上方板(81)には、その下端面から上方に向けて伸びる欠損部(88)を形成してあり、該欠損部(88)は、該上方板(81)の側面下部を削り落とすように形成してあり、且つ該上方板(81)の厚さ方向において、該欠損部(88)よりも奥側には残存部(83)を確保してあり、
前記下方板(71)の前記欠損部(73)には、前記上方板(81)の前記残存部(83)を嵌め合わせると共に、該上方板(81)の前記欠損部(88)には、該下方板(71)の前記残存部(78)を嵌め合わせることで、該下方板(71)と該上方板(81)が連結され、
前記下方板(71)と前記上方板(81)が上下方向に重なる接触面では、その一方の面に一方金具(21または22)を取り付け、残る一方の面に他方金具(31または32)を取り付け、
前記一方金具(21または22)と前記他方金具(31または32)が面接触した状態において、該一方金具(21または22)と該他方金具(31または32)を一体化することで前記上方板(81)の浮き上がりを防ぐことを特徴とする連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CLTなどの重厚な板材を骨格とした建築物と、この板材同士の交差箇所などで使用する連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅などの小規模な建築物は、以前から木造が主流となっているが、近年は大断面の集成材が無理なく入手できるようになり、より大規模な公共施設や店舗などの木造化も容易に実現可能となった。この集成材には様々な種類が存在しているが、その中でCLTと称されるものは、その大きさと厚さから十分な強度を有しており、そのままの状態で建築物の構造材として使用することができ、複数のCLTを組み合わせるだけで建築物の骨格を構築することができる。しかもCLTの表面は、木の自然な雰囲気を残すため、そのままで内装材として使用することができ、クロスなどが不要になるほか、CLTの特性から断熱材も削減可能であり、施工作業の簡素化など、様々な利点を有する。
【0003】
本発明と関連のある技術の例として後記の特許文献が挙げられ、そのうち特許文献1では、十分な開口を確保することのできる木質系ラーメン架構が開示されている。この木質系ラーメン架構は、胴差しや桁といった横架材を架空で支持するため、板状の壁柱を使用しており、この壁柱の上下端面の長手方向は、横架材の材軸方向に一致させてある。そして横架材と壁柱との連結には、定着部材と連結機構を使用しており、そのうち定着部材は、横架材や壁柱に埋め込む棒状のスクリュー部材であり、また連結機構は、ボルトやナットで構成されており、この連結機構により、同心で対向する定着部材同士を引き寄せることができる。さらに定着部材を収容するため、壁柱の四隅には切り欠きを設けてある。このように、定着部材と連結機構を使用して横架材と壁柱を連結することで、壁柱を耐震壁として取り扱うことができ、設計の自由度が向上し、十分な開口を確保することが可能になる。
【0004】
また特許文献2では、交差する二本の筋かいを狭い空間に配置する場合でも、耐震性能を低下させることのない筋かい補強具が開示されている。この筋かい補強具は、矩形状の基板と、基板の四隅から突出する取付片との二要素で構成されており、二本の筋かいが交差する箇所に配置されるが、双方の筋かいには、一側面を段差状に削り込んだ相欠き部分を形成してあり、この相欠き部分を互いに嵌め合わせることで、二本の筋かいが段差なく揃う。そして筋かい補強具は、この相欠き部分を覆うように組み込んでいくが、その際、一方の筋かいは、基板に沿うような配置になり、対向する取付片の間に挟み込まれることになるが、残る一方の筋かいは、基板の中央部と交差するような配置になり、取付片と接触することはない。このように筋かい補強具を組み込んだ後、基板や取付片からそれぞれの筋かいに向けて釘を打ち込むことで、筋かい補強具を介して二本の筋かいが一体化され、耐震性能を確保することができる。
【0005】
次の特許文献3では、木造建築物の構造躯体において、木質垂直構造材の横断面が細長の矩形状である場合でも、これに接続する木質水平構造材の接合強度を保持することのできる技術が開示されている。ここでの木質垂直構造材は、その横断面が細長の矩形状であり、角材ではなく板材に似た形態になっている。そのため、この木質垂直構造材を地面から直立させた後、その幅広の側面に水平荷重が作用した場合と、側端面に水平荷重が作用した場合では、強度に大きな差を生じることになる。そこでこの文献では、木質垂直構造材を二枚で一組としており、この二枚を真上から見てL字状やT字状に配置することで方向による強度の差を解消しており、これに接続する木質水平構造材の接合強度の保持が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-118275号公報
【特許文献2】特開平10-231558号公報
【特許文献3】特開2019-196656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CLTを始めとする重厚な板材は、伝統的な木造建築で使用される柱や梁といった部材とは異なる優れた性質を有しており、それを有効活用することで、従来には存在しない特異性を有する建築物が創作されるものと期待されている。このような建築物は、人々の記憶に深く刻み込まれるため、知名度の向上など、様々な効果を得ることができる。
【0008】
また、建築物の骨格としてCLTなどの板材を使用する場合、上下方向に隣接する板材同士の接触面では、自重などによる下向きの荷重が常時作用するほか、地震や強風や積雪などによる外力が作用することもある。ただし、隣接する板材同士の接触面積には限度があり、しかもCLTなどの板材は自重も大きいため、この接触面に過大な荷重が作用し、骨格が変形する恐れがある。そのほか、地震や強風や積雪などによる外力が作用した際は、通常とは異なり、上向きの荷重が発生して板材が浮き上がる恐れがあり、その対策も必要である。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、CLTを始めとする重厚な板材の性質を活用し、従来には存在しない特異性を有する建築物を提供するほか、自重や外力に対抗可能な連結構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、直立した板材を水平方向に間隔を空けながら並べていくほか、該板材を上下方向に積層させた建築物であって、上下方向に隣接する二枚の前記板材は、真上から見て交角を有するように配置してあり、二枚の該板材において下方に配置されるものには、その上端面から下方に向けて伸びる欠損部を形成してあり、また上方に配置されるものには、その下端面から上方に向けて伸びる欠損部を形成してあり、双方の該欠損部を互いに嵌め合わせることで、二枚の該板材が連結され、該嵌め合わせにより多数の該板材を一体化することで骨格が構築され、個々の前記板材は、外壁面に沿うように配置されるものと、室内に入り込むように配置されるものの二種類が存在しており、そのうち室内に入り込むように配置されるものにおいて、その側端面の一方または両方は、外壁面よりも手前の室内で途切れており、その先に空間が確保されていることを特徴とする建築物である。
【0011】
本発明による建築物は、CLTを始めとする重厚な板材で構成され、この板材を外壁面などに沿って複数配置していくほか、板材同士を上下方向に積層させることで高層化を実現している。さらに上下方向に隣接する二枚の板材は、真上から見て同一方向に並ぶことはなく、必ず交角を有しており、この交差箇所では、双方に欠損部を形成してあり、欠損部同士を嵌め合わせることで、二枚の板材が噛み合うように連結される。なおこの欠損部の具体的な形状は自在に選択可能であり、単純な相欠きとすることもでき、また二枚の板材の交角についても、直角に限定されるものではない。
【0012】
欠損部は、板材の上端面や下端面を起点として側面に沿って上下方向に伸びる切り欠きだが、欠損部が板材の側端面に露出することはなく、必ず板材の中間部に位置するものとする。ただし欠損部は、板材の上端面と下端面を貫くことはなく、側面の中程で途切れるものとする。さらに板材を安定して直立させるため、一枚の板材に対し、他の板材を二枚以上嵌め合わせることが望ましく、通常は欠損部を複数形成する。なお板材の積層については、上下二段に限定される訳ではなく、三段以上とすることもあるが、最下段の板材については、アンカーボルトなどを介して基礎に据え付けることになる。
【0013】
板材は、建築物の外壁面に沿って配置するものだけではなく、外壁面に対して交角を有するように配置して室内に入り込むものも存在する。このように室内に入り込む板材は、必然的に室内の仕切として機能するため、その据え付けを終えた段階で部屋割りが確定するほか、建築物の骨格としても機能し、様々な荷重を受け止めることができる。そのため建築物の外壁面については、板材を途切れることなく配置する必要がなく、板材を配置しない区間を確保し、そこにエントランスや窓などを自在に設置できるほか、カーテンウォールなどで塞ぎ、室外と室内を区画することもできる。
【0014】
板材において、室内に入り込むものは、その一方の側端面が室外に突出することもあれば、両方の側端面が室内に位置することもある。そして、室内に入り込んでいる側端面については、外壁面に到達させることなく、外壁面の手前で途切れているものとする。その結果、この板材と外壁面との間には、通路や吹き抜けになる空間が確保され、必然的に通路の配置が確定することになる。なお室内に入り込む板材についても、他の板材と嵌め合わせ、その直立状態が維持されることに変わりはない。
【0015】
このように、直立した板材を外壁面などに沿って複数配置するほか、直立した板材を上下方向に積層させた建築物において、上下方向に隣接する二枚の板材は、交角を有するように配置し、その交差箇所では双方の欠損部を互いに嵌め合わせることで、板材同士が噛み合うように連結され、この嵌め合わせを繰り返すことで、全ての板材が緩みなく一体化した骨格が構築される。また室内に入り込むように配置する板材は、その側端面を外壁面に到達させることなく、その手前の室内で途切れさせることで、板材の据え付けを終えた段階で部屋割りと通路の配置が確定することになる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、隣接する二枚の板材の嵌め合わせを特定するものであり、上下方向に隣接する二枚の前記板材において、下方に配置されるものを下方板と規定し、また上方に配置されるものを上方板と規定し、前記下方板の前記欠損部は、該下方板の側面上部を削り落とすように形成してあり、且つ該下方板の厚さ方向において、該欠損部よりも奥側には残存部を確保してあり、前記上方板の前記欠損部は、該上方板の側面下部を削り落とすように形成してあり、且つ該上方板の厚さ方向において、該欠損部よりも奥側には残存部を確保してあり、前記下方板の前記欠損部には、前記上方板の前記残存部を嵌め合わせると共に、該上方板の前記欠損部には、該下方板の前記残存部を嵌め合わせることで、該下方板と該上方板が連結されることを特徴とする。
【0017】
本発明による建築物において、積層される板材は上下二段に限定される訳ではなく、三段以上とすることも可能だが、この請求項では、板材同士を嵌め合わせる方法を特定するため、建築物を構成する板材において、上下方向に隣接する二枚の板材だけを抽出することを想定している。そしてこの二枚の板材のうち、下方に配置されるものを下方板と規定し、上方に配置されるものを上方板と規定し、双方に欠損部を形成した後、下方板と上方板を互いに嵌め合わせることになる。
【0018】
なお、下方板と上方板としてCLTなどを使用する場合、その両側面(表裏面)は、木の繊維方向に沿うように展開する「板目面」となるが、この面は比較的柔らかく、圧縮荷重による陥没を生じやすい。対して「板目面」と直交する「木口面」は、圧縮荷重による陥没を生じにくい。そのため、下方板と上方板を嵌め合わせる方法として単純な相欠きを導入した場合、地震などによる水平荷重が作用すると、一方の板材が相手方の板材の側面(板目面)を押圧することになり、この面が圧縮荷重によって陥没する恐れがある。
【0019】
この陥没を抑制するため、本発明では欠損部を単純な相欠きとすることなく、欠損部の奥側に残存部を確保することを特徴としている。ただしここでの欠損部についても、単純な相欠きと同様、下方板や上方板の側面を削り落として形成することに変わりはないが、欠損部が単純に反対の側面に到達することはなく、途中で行き止まりとなる。そして、欠損部よりも奥側の削り落とされていない領域が残存部となる。この欠損部と残存部は、下方板と上方板の双方に形成し、その後、双方の残存部を相手方の欠損部に嵌め合わせることで、下方板と上方板が連結される。当然ながら双方の欠損部は、相手方の残存部を嵌め合わせ可能な形状に仕上げる必要があるが、その具体的な形状については、自在に決めることができる。なお欠損部は、下方板や上方板の両側面に形成し、その間に残された領域を残存部とすることもできる。
【0020】
このように下方板と上方板との嵌め合わせは、単純な相欠きではなく、欠損部の奥側に残存部を確保しておき、双方の残存部を相手方の欠損部に嵌め合わせることで、下方板と上方板との接触面には、木口面が含まれることになる。そのため、下方板の上方板のいずれか一方に地震などで水平荷重が作用し、相手方を押圧した場合でも、この荷重は木口面でも受け止められ、圧縮荷重による陥没を抑制することができる。なお下方板と上方板との接触面において、上下方向に展開する面は、下方板と上方板の双方の側面に対し、交角を有することが多い。
【0021】
請求項3記載の発明は、建築物に作用する自重や様々な外力に対抗するためのものであり、上下方向に隣接する前記下方板と前記上方板において、該下方板と該上方板が上下方向に重なる接触面では、その一方の面に一方金具を取り付け、残る一方の面に他方金具を取り付け、前記一方金具と前記他方金具が面接触した状態において、該一方金具と該他方金具を一体化することで前記上方板の浮き上がりを防ぐことを特徴とする。
【0022】
下方板と上方板が互いに嵌まり合った後は、上方板の自重などにより、その状態が自然に維持されることになる。ただし地震や強風や積雪などによる外力を受けた場合、上方板が持ち上がり、建築物の骨格が変形する恐れがある。そこでこの発明では、下方板と上方板との接触面に一方金具と他方金具を配置しており、そのうち一方金具は、下方板または上方板のいずれか一方に取り付け、他方金具は残る一方に取り付ける。なお下方板と上方板が互いに嵌まり合った状態において、一方金具と他方金具が面接触するよう、双方の形状や配置を調整する必要があり、その結果、一方金具と他方金具により、水平荷重の伝達が可能になるほか、一方金具と他方金具を何らかの手段で一体化することで、上方板の浮き上がりを防ぐことができる。
【0023】
一方金具や他方金具を配置する場所については、下方板の上端面や上方板の下端面や欠損部の終点面が挙げられる。さらに一方金具や他方金具を覆い隠すため、これらの面に穴や溝を形成し、そこに一方金具や他方金具を埋め込むこともできる。また一方金具と他方金具は、あらゆる方向の水平荷重を伝達できるよう、単なる面接触ではなく、嵌め合わせ構造とすることが望ましい。そのほか、一方金具と他方金具を一体化する手段は自在に選択可能だが、その具体例については、双方を貫くように差し込む固定ピンやボルトが挙げられる。
【0024】
下方板と上方板を嵌め合わせた後、上方板の自重のほか、上方板に作用する下向きの荷重は、下方板との接触面だけで受け止められるため、必然的にこの接触面に作用する圧縮荷重が増大し、経年による陥没などを引き起こす可能性がある。そこでこの圧縮荷重を分散できるよう、一方金具と他方金具のそれぞれの背後には、ラグスクリューなど、杭のような機能を果たす棒状の物を埋め込むことがある。その結果、下方板と上方板との接触面に作用する圧縮荷重が緩和され、経年による陥没を抑制し、建築物の高層化が容易になる。
【0025】
このように、下方板と上方板が上下方向に重なる接触面には、一方金具と他方金具を配置し、下方板と上方板を嵌め合わせた後、一方金具と他方金具を一体化することで、上方板の浮き上がりを防ぐことができる。しかもこの状態では、一方金具と他方金具が面接触することから、これらを介して水平荷重を伝達することができる。さらに、一方金具と他方金具のそれぞれの背後にラグスクリューなどを埋め込むことで、自重などによる圧縮荷重の増大を抑制することができる。
【0026】
請求項4記載の発明は、いずれも直立している下方板と上方板が上下方向に隣接しており、双方の交差箇所で使用する連結構造であって、該下方板と該上方板は、真上から見て交角を有するように配置してあり、前記下方板には、その上端面から下方に向けて伸びる欠損部を形成してあり、該欠損部は、該下方板の側面上部を削り落とすように形成してあり、且つ該下方板の厚さ方向において、該欠損部よりも奥側には残存部を確保してあり、前記上方板には、その下端面から上方に向けて伸びる欠損部を形成してあり、該欠損部は、該上方板の側面下部を削り落とすように形成してあり、且つ該上方板の厚さ方向において、該欠損部よりも奥側には残存部を確保してあり、前記下方板の前記欠損部には、前記上方板の前記残存部を嵌め合わせると共に、該上方板の前記欠損部には、該下方板の前記残存部を嵌め合わせることで、該下方板と該上方板が連結され、前記下方板と前記上方板が上下方向に重なる接触面では、その一方の面に一方金具を取り付け、残る一方の面に他方金具を取り付け、前記一方金具と前記他方金具が面接触した状態において、該一方金具と該他方金具を一体化することで前記上方板の浮き上がりを防ぐことを特徴とする。
【0027】
この請求項では、下方板および上方板と称する二枚の板材をいずれも直立させ、しかもこれらを上下方向に隣接させた場合の連結構造を開示しており、ここでの下方板と上方板は、請求項2記載の発明と同じものを指しており、交角を有する状態で上下方向に隣接しており、その交差箇所では、請求項2記載の発明と同様、双方に欠損部を形成してあり、その奥側には残存部を確保している。そして、下方板と上方板の双方の残存部を相手方の欠損部に嵌め合わせることで、下方板と上方板が連結される。さらに下方板と上方板が上下方向に重なる接触面には、請求項3記載の発明と同様、一方金具と他方金具を取り付ける。したがって、一方金具と他方金具を固定ピンなどで一体化することで、上方板の浮き上がりを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明のように、直立した板材を外壁面などに沿って複数配置するほか、直立した板材を上下方向に積層させた建築物において、上下方向に隣接する二枚の板材は、交角を有するように配置し、その交差箇所では双方の欠損部を互いに嵌め合わせることで、板材同士が噛み合うように連結され、この嵌め合わせを繰り返すことで、全ての板材が緩みなく一体化した骨格が構築される。また室内に入り込むように配置する板材は、その側端面を外壁面に到達させることなく、その手前の室内で途切れさせることで、施工時、板材の据え付けを終えた段階で部屋割りと通路の配置が確定することになる。そのため内装に関する作業が簡素化され、時間や費用の削減を期待できる。
【0029】
そして建築物の骨格となる板材は、必然的に柱と梁の機能を併せ持つことになる。またCLTは、その構造上、異方性を有していない。そのため板材としてCLTを使用することで、水平荷重と垂直荷重のいずれに対しても十分な強度を確保でき、補強などの対策を講じることなく健全な建築物を構築することができる。
【0030】
さらに本発明による建築物は、重厚な板材を中心に構成されるほか、その側端面が室外に突出するなど、従来の建築物とは一線を画す特異性を有する外観になり、また重厚な板材だけで室内が仕切られていることを容易に認識可能であり、これらの特徴が人々の記憶に深く刻み込まれ、知名度の向上などの効果を期待できる。そのほか室内に入り込むように配置される板材は、部屋割りとして機能するほか、建築物の骨格としても機能する。そのため建築物の外壁面については、板材を途切れることなく配置する必要がなく、板材を配置しない区間を確保し、そこにエントランスや窓やカーテンウォールなどを自在に設置可能であり、デザインの自由度が向上し、この点でも特異性の確保が容易になる。
【0031】
請求項2記載の発明のように、下方板と上方板との嵌め合わせは、単純な相欠きではなく、欠損部の奥側に残存部を確保しておき、双方の残存部を相手方の欠損部に嵌め合わせることで、下方板と上方板との接触面は、陥没を生じやすい板目面だけではなく、陥没を生じにくい木口面が含まれることになる。そのため、下方板の上方板のいずれか一方に地震などで水平荷重が作用し、相手方を押圧した場合でも、この荷重は木口面でも受け止められ、圧縮荷重による陥没が抑制され、建築物の健全性を維持することができる。
【0032】
請求項3記載の発明のように、下方板と上方板が上下方向に重なる接触面には、一方金具と他方金具を配置し、下方板と上方板を嵌め合わせた後、一方金具と他方金具を一体化することで、上方板の浮き上がりを防ぐことができ、地震や強風や積雪といった外力に対抗することができる。しかも一方金具と他方金具は面接触することから、これらを介して水平荷重を伝達することができ、下方板と上方板との接触面(上下方向に展開する面)の負担を軽減することができる。そのほか、一方金具と他方金具のそれぞれの背後にラグスクリューなどを埋め込むことで、自重などによる圧縮荷重を広範囲に分散させることができ、ここでも下方板と上方板との接触面(水平方向に展開する面)の負担を軽減することができる。
【0033】
請求項4記載の発明のように、下方板と上方板との連結構造として下方板と上方板の双方に欠損部を形成するほか、欠損部の奥側には残存部を確保し、下方板の欠損部には、上方板の残存部を嵌め合わせると共に、上方板の欠損部には、下方板の残存部を嵌め合わせることで、請求項2記載の発明と同様、下方板の上方板のいずれか一方に地震などで水平荷重が作用し、相手方を押圧した場合でも、この荷重は木口面でも受け止められ、圧縮荷重による陥没を抑制することができる。また、下方板と上方板が上下方向に重なる接触面には、一方金具と他方金具を配置することで、請求項3記載の発明と同様、上方板の浮き上がりを防ぐことができるほか、地震などの外力に対抗することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明による建築物の具体例を示す斜視図であり、図の下方には、下方板と上方板との嵌め合わせの詳細を描いてある。
図2】本発明による連結構造の具体例を示す斜視図であり、図の左側には、下方板と上方板の全体を描いてあり、図の右側には、下方板と上方板との交差箇所の詳細を描いてある。
図3図2の上方板および他方金具を上下反転させた状態を示す斜視図である。
図4図2の下方板に一方金具を取り付けたほか、上方板に他方金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
図5図4の下方板と上方板を互いに嵌め合わせた状態を示す斜視図である。
図6図5の下方板の詳細を示す斜視図である。
図7図2と同一の連結構造を示す斜視図だが、格納溝が上方板の側面に露出している点だけが図2とは異なる。
図8図7の下方板に一方金具を取り付けたほか、上方板に他方金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
図9図8の下方板と上方板を互いに嵌め合わせた状態を示す斜視図である。
図10】これまでの各図とは異なる形態の連結構造を示す斜視図であり、一方金具と他方金具に円筒形のものを使用しているほか、埋設具として異形棒鋼を使用している。
図11図10の下方板と上方板の双方に一方金具と他方金具を取り付けた状態を示す斜視図である。
図12図11の下方板と上方板を互いに嵌め合わせた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明による建築物の具体例を示しており、図の下方には、下方板71と上方板81との嵌め合わせの詳細を描いてある。なおこの図は、あくまでも発明の理解を目的としており、実現性については一切考慮していない。この建築物は、CLTなどを所定の大きさに切り出した板材11、12、13だけで骨格が構築され、さらに板材11、12、13は上下三段に積層されている。そのうち下段の板材11は、基礎から直立するように配置されるが、アンカーボルト(図示は省略)などを介して基礎と一体化してある。そしてこの下段の板材11の上方には、中段の板材12が積層されており、この中段の板材12の上方には、上段の板材13が積層されている。ただし下段の板材11の全てが同じ大きさではなく、用途に応じて個々に異なっており、中段の板材12と上段の板材13についても同様である。
【0036】
中段の板材12は、下段の板材11に対して直交するように配置してあり、しかも隣接する下段の板材11と中段の板材12との交差箇所には、双方に欠損部73、88を形成してあり、これらを嵌め合わせることで、下段の板材11と中段の板材12が連結される。そして中段の板材12の上方には、上段の板材13が積層されている。この上段の板材13は、中段の板材12に対して直交するように配置してあり、ここでも、中段の板材12と上段の板材13との交差箇所には、双方に欠損部73、88を形成してあり、これらを嵌め合わせることで、中段の板材12と上段の板材13が連結される。このように欠損部73、88同士を嵌め合わせることで、個々の板材11、12、13は、いずれも隣接する他の板材11、12、13と連結され、全てが直立した状態で一体化され、建築物の骨格が完成する。なお中段の板材12と上段の板材13は、安定性を確保するため、いずれも二枚以上の他の板材11、12で支持されている。
【0037】
板材11、12、13は、建築物の外壁面に沿って途切れることなく配置する必要がなく、この図のように開口となる区間を確保することもできる。この区間は、エントランスや窓などを自在に設置できるほか、カーテンウォールなどで外壁を構築することもできる。そのほか一部の板材11、12、13は、室内に入り込むように配置してあり、これによって部屋割りが確定することになるが、その一方の側端面は、外壁面に到達することなく、その手前で途切れており、そこに通路や吹き抜けとなる空間が確保される。なお建築物の室内には床が必要になるほか、上部には屋根も必要になるが、これらは板材11、12、13を介して据え付けることになる。さらに床については、複数を異なる高さに設置することで、室内を多層構造にすることもできる。
【0038】
図の下方では、上下方向に積層される二枚の板材11、12の嵌め合わせの詳細を描いてある。ここでは下段の板材11を下方板71と規定しており、中段の板材12を上方板81と規定しており、下方板71の両側面上部には、図のように三角形断面の欠損部73を形成してあり、さらに下方板71において、対向する二箇所の欠損部73の間には残存部78が確保されている。また上方板81についても、その両側面下部には、三角形断面の欠損部88を形成してあるほか、対向する二箇所の欠損部88の間には残存部83が確保されており、双方の残存部78、83を相手方の欠損部88、73に嵌め合わせることで、下方板71と上方板81が噛み合った状態で連結される。
【0039】
図1では、隣接する二枚の板材11、12、13の交差箇所の全てにおいて、双方の残存部78、83を相手方の欠損部88、73に嵌め合わせることを想定しており、この嵌め合わせだけで全ての板材11、12、13が直立状態を維持することになる。また板材11、12、13としてCLTを使用することで、その異方性を有しない性質により、柱と梁の両方の機能を兼ね備えることができる。
【0040】
図2は、本発明による連結構造の具体例を示しており、図の左側には、下方板71と上方板81の全体を描いてあり、図の右側には、下方板71と上方板81との交差箇所の詳細を描いてある。ここでの下方板71と上方板81は、図1の板材11、12、13のように、建築物の骨格として機能する重厚な集成材であり、いずれも直立させ、上下方向に隣接するように配置する。またこの図の下方板71と上方板81は、真上から見て直交しているが、上方板81が下方板71に積層されるため、下方板71の上部と上方板81の下部が互いに嵌まり合う。そしてこの嵌まり合いを実現するため、ここでは下方板71と上方板81の双方に三角断面の欠損部73、88を形成してある。
【0041】
下方板71の欠損部73は、下方板71の側面を削り落とした部位であり、その横断面は三角形としてあり、この三角形の底辺が下方板71の側面に位置している。またこの三角形の頂点は、下方板71の厚さ方向の中心線上に位置している。さらに欠損部73は、この頂点を基準として下方板71の両側面に形成してある。そのため下方板71の横断面においては、一対の欠損部73が向かい合うように配置されることになる。そしてこの欠損部73は、図の左側に描くように、下方板71の上端面から下方に向けて伸びているが、これが下方板71の下端面に到達することはなく、その途中で打ち切りとなっている。そのほか、向かい合いように配置される二箇所の欠損部73の間の領域は、真上から見て三角形になるが、そこを残存部78と称するものとする。残存部78についても、一対が向かい合うように配置される。
【0042】
上方板81についても、同様に欠損部88を形成してあり、これに隣接する三角形の部位を残存部83と称するものとする。ただしここでの欠損部88は、上方板81の下端面から上方に向けて伸びているが、これが上方板81の上端面に到達することはなく、その途中で打ち切りとなっている。そして下方板71の欠損部73には、上方板81の残存部83を嵌め合わせるほか、上方板81の欠損部88には、下方板71の残存部78を嵌め合わせることで、下方板71と上方板81が連結される。当然ながら双方の欠損部73、88は、相手方の残存部83、78を嵌め合わせ可能な形状に仕上げることになるが、その具体的な形状については、この図に限定される訳ではなく、自在に決めることができる。
【0043】
下方板71と上方板81が互いに嵌まり合った後も、上方板81の浮き上がりは可能であり、下方板71と上方板81との配置が変化する恐れがある。これを防ぐため、この図では、一方金具21と他方金具31と埋設具41などを使用しており、この一方金具21は下方板71に取り付け、また他方金具31は上方板81に取り付けるが、下方板71と上方板81が互いに嵌まり合った際、一方金具21と他方金具31は、互いに噛み合うように面接触し、さらに双方を貫くように固定ピン57を差し込むことで、一方金具21と他方金具31は分離不能になる。
【0044】
一方金具21の左右両側には、上方に突出する側台25を設けてある。ただし左右の側台25のいずれも、その中央には溝状の収容部24を設けてあるため、個々の側台25は前後に分断されている。また左右の側台25の間については、高さを抑制した盆地状になっており、その中心には係止穴26を設けてある。さらに一方金具21は、下方板71の上端面の残存部78に載せるが、この図では個々の残存部78に一方金具21を載せるため、二個の一方金具21を向かい合うように配置することになる。なお、一方金具21が残存部78からはみ出して欠損部73を塞ぐことを避けるため、一方金具21の二箇所の角部には面取りを設けてある。
【0045】
一方金具21は、埋設具41を介して下方板71に取り付けるが、この図では埋設具41としてラグスクリューを使用している。この埋設具41の側周面には、螺旋状に伸びる凸条44が突出しているほか、埋設具41の一端面には、六角形の頭部45を形成してあり、その中心にはメネジ46を形成してある。また下方板71の上端面において、個々の残存部78には下穴76を形成してあり、そこに埋設具41を埋め込む。埋設具41の凸条44は下穴76の内周面に食い込むため、埋設具41は下方板71と強固に一体化する。
【0046】
下方板71に埋設具41を完全に埋め込んだ後、これを覆い隠すように一方金具21を載せ、その係止穴26と埋設具41のメネジ46を同心に揃えた後、係止穴26にボルト48を差し込み、これを締め付けると一方金具21が下方板71に取り付けられる。なお係止穴26の入り口側は内径を拡大させてあり、そこにボルト48の頭部が埋め込まれるため、この頭部が外部に突出することはない。
【0047】
他方金具31の左右両側には、下方に突出する突出部34を設けてあり、これが一方金具21の収容部24に嵌まり込む。また他方金具31において、左右の突出部34の間には、下方への突出が抑制された中台35を設けてあり、その中心には係止穴36を設けてある。中台35は、一方金具21の左右の側台25の間に嵌まり込むため、一方金具21と他方金具31が面接触した後は、一方金具21と他方金具31が一体で水平方向に移動することになる。
【0048】
他方金具31は、一方金具21の真上に配置する。そのため他方金具31は、上方板81の欠損部88の終点面に取り付ける。ただし、これが下方板71と上方板81との面接触を妨げないよう、上方板81の欠損部88の終点面には、一方金具21と他方金具31を一括して収容可能な格納溝84を形成してある。格納溝84は、欠損部88の終点面を削り取った形態であり、上方板81の側面には到達していないため、一方金具21や他方金具31が外部に露出することはない。なお格納溝84は、個々の欠損部88に形成するため、二箇所の格納溝84は、向かい合うように配置される。
【0049】
他方金具31を上方板81に取り付けるため、ここでも下方板71と同一の埋設具41を埋め込んでいる。そして上方板81の下穴86は、格納溝84の奥面に形成してあり、そこに埋設具41を埋め込み、さらに格納溝84に他方金具31を収容した後、他方金具31の係止穴36から埋設具41に向けてボルト48を差し込むことになる。なお、ボルト48の頭部を他方金具31に埋め込むため、係止穴36の入り口側は内径を拡大させてある。
【0050】
下方板71に一方金具21を取り付け、上方板81に他方金具31を取り付けた後、一方金具21と他方金具31を接近させていくと、他方金具31の突出部34が一方金具21の収容部24に嵌まり込み、最終的には、一方金具21と他方金具31が面接触して一つの塊状になる。その際、他方金具31の中台35は、一方金具21の左右の側台25の間で挟み込まれるため、一方金具21と他方金具31のいずれも、相手方に対して水平方向の移動が規制され、水平荷重の伝達を担うことができる。さらに一方金具21と他方金具31を一体化するため、双方を貫くように固定ピン57を差し込む。そのため一方金具21の側台25にはピン穴27を設けてあり、他方金具31の突出部34にもピン穴37を設けてある。当然ながら双方のピン穴27、37は、一方金具21と他方金具31が面接触した際、同心に揃うものとする。
【0051】
上方板81の側面には、固定ピン57を差し込むため、固定穴87を形成してあり、固定穴87は格納溝84に到達させてある。当然ながら固定穴87は、格納溝84に収容された一方金具21と他方金具31の双方のピン穴27、37と同心に揃うように配置する。なお格納溝84は二箇所に配置してある。そのため固定穴87は、上方板81の両側面に形成し、それぞれを隣接する格納溝84に到達させることもできる。ただしこの図では、長尺の固定ピン57を使用しており、二箇所の格納溝84を一括して貫くことを想定している。これにより固定穴87は、上方板81の一側面だけに露出することになる。
【0052】
図3は、図2の上方板81および他方金具31を上下反転させた状態を示している。この図では、上方板81の欠損部88の終点面とその周辺を描いてあり、欠損部88の終点面には格納溝84を形成してある。なお格納溝84は、残存部83に入り込むことを防ぐため、単純な矩形状ではなく、二箇所の角部に面取りを設けてある。また上方板81の側面には、格納溝84に到達する固定穴87を形成してある。そのほか他方金具31については、左右の突出部34の間に中台35が配置されているが、この中台35は、突出部34よりも高さを抑制してあり、しかも中台35の中心には係止穴36を設けてある。
【0053】
図3の中程には、上下反転させた上方板81の縦断面を描いてあり、そのうち左側のものは、下穴86の中心を切断面としており、また右側のものは、固定穴87の中心を切断面としている。このように固定穴87は、二箇所の格納溝84を貫いているが、上方板81の両側面を貫くことはなく、一側面だけに露出している。
【0054】
図4は、図2の下方板71に一方金具21を取り付けたほか、上方板81に他方金具31を取り付けた状態である。下方板71の下穴76に埋設具41を埋め込んだ後、これを覆い隠すように下方板71の上端面に一方金具21を載せ、さらにボルト48を締め付けると、一方金具21は下方板71に取り付けられる。なお一方金具21の二箇所の角部には、面取りを設けてあるが、これを欠損部73と残存部78との境界に揃えることで、一方金具21を正確に配置することができる。また上方板81の格納溝84には、他方金具31が収容されているが、これは埋設具41を介して上方板81に取り付けられている。そしてこの図のように、一方金具21と他方金具31のいずれも、二個が向かい合うように配置される。そのほか固定ピン57は、一本で二箇所の格納溝84を貫くため、長尺となっている。
【0055】
図5は、図4の下方板71と上方板81を互いに嵌め合わせた状態を示している。なお図の右上には、下方板71と上方板81との交差箇所の横断面を描いてある。先の図4のように、一方金具21と他方金具31を取り付けた後、下方板71の欠損部73に上方板81の残存部83を嵌め合わせると共に、上方板81の欠損部88に下方板71の残存部78を嵌め合わせることで、最終的にはこの図のように、下方板71の上端面と上方板81の欠損部88の終点面が接触し、下方板71と上方板81との連結構造が完成する。
【0056】
下方板71と上方板81との嵌め合わせを終えると、一方金具21も格納溝84に収容され、そこで他方金具31と面接触した状態になる。以降、一方金具21と他方金具31は、その収容部24と突出部34などにより、相手方に対して水平方向への移動が規制されるため、一方金具21と他方金具31との間での水平荷重の伝達を担うことができる。なお図の右上のように、ここでの欠損部73、88と残存部78、83は、いずれも二等辺の直角三角形であり、その頂点が連結構造の中心に集結している。
【0057】
固定ピン57は、一方金具21と他方金具31を貫いているため、上方板81の浮き上がりを防ぐことができる。また下方板71は、上方板81から伝達する下向きの荷重を受け止めることになるが、この荷重は、埋設具41を介して下方板71の広範囲に分散されることになる。そのため下方板71の上端面や上方板81の欠損部88の終点面など、下方板71と上方板81との接触面に作用する圧縮荷重が緩和され、その陥没を抑制することができる。そのほか、一方金具21や他方金具31や埋設具41は、下方板71や上方板81の内部に埋め込まれており、外部に露出することはなく、美観などに優れている。固定ピン57についても、上方板81の両側面のうち、片方だけに露出するため、美観などへの影響が最小限に抑制される。
【0058】
図6は、図5の下方板71の詳細を示している。下方板71や上方板81としてCLTを使用する際は、設計図に基づいて所定の寸法に切り出した後、欠損部73などを形成することになるが、CLTの表裏面については、何らの加工も行わないため、施工後も当初の状態を維持することになる。そしてこのCLTの表裏面は、下方板71や上方板81の側面となるが、この面では多数のラミナが同一方向に並んでいるため、その板目面だけが露出することになる。対してCLTの各端面では、ラミナの配置上、板目面に加えて木口面も露出することになる。
【0059】
このようにCLTの表面に露出する板目面は、その性質上、圧縮荷重が作用した際に陥没を生じやすい。そのため仮に下方板71と上方板81の双方に相欠きを形成し、これらを互いに嵌め合わせた後、下方板71や上方板81に水平荷重が作用すると、相欠きにより、相手方の表面(板目面)を押圧して陥没を生じる可能性がある。
【0060】
そこでこの図のように、欠損部73の奥側に残存部78を確保するほか、欠損部73と残存部78との境界面を下方板71の側面に対して傾けることで、欠損部73と残存部78との境界面には、木口面が露出することになり、そこに上方板81が面接触する。そのため下方板71と上方板81を嵌め合わせた後は、木口面同士が接触することになり、強度上の弱点が解消され、陥没の抑制を期待できる。
【0061】
図7は、図2と同一の連結構造を示しているが、格納溝84が上方板81の側面に露出している点だけが図2とは異なる。なお図の右側には、上方板81の縦断面を描いてある。先の図5のように、一方金具21や他方金具31などは、できるだけ下方板71や上方板81に埋め込むことが望ましい。しかし諸事情により、一方金具21や他方金具31を覆い隠す必要がない場合、このように格納溝84を上方板81の側面に露出させることで、格納溝84の形成や他方金具31の取り付けなどの作業を簡素化することができる。
【0062】
図8は、図7の下方板71に一方金具21を取り付けたほか、上方板81に他方金具31を取り付けた状態である。ここでは格納溝84が上方板81の側面に露出しており、他方金具31のピン穴37についても、上方板81で覆い隠されることなく露出する。ただし固定ピン57は、二箇所の格納溝84を一括して貫くため、長尺のものを使用しており、二箇所の格納溝84の間には、固定ピン57を差し込むための固定穴87を形成してある。
【0063】
図9は、図8の下方板71と上方板81を互いに嵌め合わせた状態を示している。ここでは格納溝84から一方金具21や他方金具31が露出しており、そこに固定ピン57を差し込んでいる。なおこの図では、下方板71に一方金具21を取り付け、上方板81に他方金具31を取り付けているが、これとは逆に下方板71に他方金具31を取り付け、上方板81に一方金具21を取り付けることもできる。そのほか、一方金具21と他方金具31の取り付け箇所は変更可能であり、この図とは異なり、下方板71の欠損部73の終点面と上方板81の下端面を利用することもできる。
【0064】
図10は、これまでの各図とは異なる形態の連結構造を示しており、一方金具22と他方金具32に円筒形のものを使用しているほか、埋設具42として異形棒鋼を使用している。ここでの一方金具22は、下端面だけが閉じた円筒形であり、その内部が収容部24として機能するほか、側周面の上下二箇所にはピン穴27を設けてあり、さらに下端面の中心には係止穴26を設けてある。なおピン穴27は、収容部24を挟んで両側面に設けてある。また他方金具32は、上端面だけが閉じた円筒形だが、一方金具22よりも小径であり、一方金具22の収容部24に緩みなく嵌まり込むことができる。そして他方金具32についても、側周面の上下二箇所にはピン穴37を設けてあるほか、上端面の中心には係止穴36を設けてある。
【0065】
ここでの埋設具42は、側周面にリブ49が形成された異形棒鋼を所定の長さに切り出し、その一端面の中心にメネジ46を形成したものである。そして埋設具42を下穴76、86に埋め込む際は、あらかじめリブ49の周囲などに接着剤を塗布しておき、これが凝固することで、埋設具42は下方板71や上方板81と一体化する。そのほか、一方金具22や他方金具32を埋設具42に取り付ける際は、その係止穴26、36と埋設具42のメネジ46を同心に揃え、次に一方金具22や他方金具32の内部にボルト48を差し入れ、その軸部を係止穴26、36からメネジ46に到達させる。
【0066】
この図において、下方板71の欠損部73は三角形状だが、これまでの各図のように下方板71の両側面に形成する訳ではなく、一側面だけに形成しており、反対面には欠損部73が露出していない。そしてこの欠損部73の奥側が残存部78になる。また上方板81についても、下方板71に応じた欠損部88を形成してあり、その奥側が残存部83になる。なお、双方の残存部78、83を相手方の欠損部88、73に嵌め合わせることは、これまでと同様である。
【0067】
下方板71の欠損部73の終点面には、一方金具22を収容するため、格納溝74を形成してある。ここでの格納溝74は、一方金具22に応じた円断面になっている。そして格納溝74の奥面には、より小径の下穴76を形成してあり、そこに接着剤を塗布した埋設具42を埋め込む。そのほか下方板71の側面には、固定ピン57を差し込むため、上下二箇所に固定穴77を形成してある。また上方板81についても、その欠損部88の終点面には、一方金具22を収容するため、格納溝84を形成してあり、その奥面には下穴86を形成してあるほか、格納溝84と交差するように固定穴87を形成してある。
【0068】
他方金具32は、一方金具22と同心に揃える必要があるため、下方板71の上端面と上方板81の下端面の双方に配置する。そして他方金具32を取り付けるため、双方の残存部78、83には下穴76、86を形成してあり、そこに接着剤を塗布した埋設具42を埋め込み、次に埋設具42を覆うように他方金具32を載せ、最後にはボルト48で他方金具32を取り付けていく。したがって取り付け後の他方金具32は、下方板71の上端面や上方板81の下端面から突出する。
【0069】
図11は、図10の下方板71と上方板81の双方に一方金具22と他方金具32を取り付けた状態である。下方板71については、二箇所の下穴76に埋設具42を埋め込んだ後、格納溝74に一方金具22を埋め込み、埋設具42と一方金具22をボルト48で一体化する。したがって一方金具22は、下方板71の欠損部73の終点面に露出している。また下方板71の上端面には、他方金具32を取り付けてある。対する上方板81についても、その格納溝84には一方金具22を取り付けてあり、下端面には他方金具32を取り付けてある。当然ながら双方の他方金具32は、相手方の一方金具22と同心に揃う。
【0070】
図12は、図11の下方板71と上方板81を互いに嵌め合わせた状態を示している。なお図の下方には、一方金具22と他方金具32が一体化する際の流れを描いてある。先の図11のように、一方金具22と他方金具32の取り付けを終えた後、下方板71の欠損部73には、上方板81の残存部83を嵌め合わせると共に、上方板81の欠損部88には、下方板71の残存部78を嵌め合わせると、やがて一方金具22の内部に他方金具32が嵌まり込み、最終的にはこの図のように、下方板71の上端面と上方板81の欠損部88の終点面が接触する。その際、一方金具22と他方金具32の双方のピン穴27、37が同心に揃うため、そこに向けて固定穴77、87から固定ピン57を差し込むと、下方板71と上方板81との連結構造が完成する。このように固定ピン57を差し込むことで、一方金具22と他方金具32との間で垂直荷重を伝達可能になり、下方板71と上方板81との接触面の負担が軽減される。
【符号の説明】
【0071】
11 板材(下段に配置されるもの)
12 板材(中段に配置されるもの)
13 板材(上段に配置されるもの)
21 一方金具(角形のもの)
22 一方金具(円筒形のもの)
24 収容部
25 側台
26 係止穴
27 ピン穴
31 他方金具(角形のもの)
32 他方金具(円筒形のもの)
34 突出部
35 中台
36 係止穴
37 ピン穴
41 埋設具(ラグスクリュー)
42 埋設具(異形棒鋼)
44 凸条
45 頭部
46 メネジ
48 ボルト
49 リブ
57 固定ピン
71 下方板
73 欠損部
74 格納溝
76 下穴
77 固定穴
78 残存部
81 上方板
83 残存部
84 格納溝
86 下穴
87 固定穴
88 欠損部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12