(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164172
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】視線方向認識装置、及び、運転スキル推定装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20231102BHJP
B60W 40/09 20120101ALI20231102BHJP
B60K 28/02 20060101ALI20231102BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B60W40/08
B60W40/09
B60K28/02
G08G1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075530
(22)【出願日】2022-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D037
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D037FA09
3D037FB10
3D241BA49
3D241BA60
3D241BA70
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3D241DD07Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF33
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】ドライバの視線方向を適切に推定可能な視線方向推定装置等を提供する。
【解決手段】視線方向推定装置を、車両1のドライバDの肩部B2の位置を検出する肩部位置検出部401と、肩部位置検出部が検出した肩部の上下方向の位置に応じてドライバの上下方向の視線方向を推定する視線方向推定部とを備える構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバの肩部の位置を検出する肩部位置検出部と、
前記肩部位置検出部が検出した前記肩部の上下方向の位置に応じて前記ドライバの上下方向の視線方向を推定する視線方向推定部と
を備えることを特徴とする視線方向推定装置。
【請求項2】
前記ドライバを撮像する撮像装置を備え、
前記肩部位置検出部は、前記撮像装置が撮像した画像に画像に基づいて前記肩部の位置を検出すること
を特徴とする請求項1に記載の視線方向推定装置。
【請求項3】
前記ドライバの頭部の位置を検出する頭部位置検出部を備え、
前記視線方向推定部は、前記頭部の位置に対する前記肩部の位置の上下方向相対変位に基づいて前記視線方向を推定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の視線方向推定装置。
【請求項4】
前記視線方向推定部は、前記頭部及び前記肩部の骨格の位置を推定し、推定された前記骨格の位置に基づいて前記視線方向を推定すること
を特徴とする請求項3に記載の視線方向推定装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の視線方向推定装置と、
前記視線方向推定装置が推定した視線方向の上下方向の変動に基づいて前記ドライバの運転スキルを推定する運転スキル推定部と
を備えることを特徴とする運転スキル推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の乗員の視線方向認識装置、及び、運転スキル推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の運転支援等に関する技術として、例えば、特許文献1には、カーブ走行スキルの異なるドライバの当該スキルを向上するため、走行車線の曲率半径、ブレーキペダル踏込量、及び、車速に基づいて、カーブ走行時のドライバのスキルレベルを判断し、そのスキルレベルに基づいて支援内容を決定することが記載されている。
特許文献2には、適切な運転補助を実行するため、ドライバの視線を認識する視線認識手段を備え、認識された視線情報に基づいて、自車の運転を支援する車両の運転支援装置が記載されている。また、視線認識手段は、ドライバの両眼の視線に基づいて、自車からドライバが視認している視認物体までの距離を判定するとともに、この距離に基づいて、運転を補助する運転補助手段を備えることが記載されている。
特許文献3には、乗員の姿勢変化を減少させて疲労を低減するため、各車輪と車体との間に作用する力を制御することにより車体の姿勢を制御する車両の姿勢制御装置が記載されている。また、カメラにより撮像された画像から推定された骨格姿勢に基づいて乗員の筋力、シート反力を推定し、この推定結果に基づいて乗員の姿勢が理想的な姿勢に近づくようにサスペンションを制御することが記載されている。
特許文献4には、ドライバの眼のイニシャル位置を、高精度に且つ短時間で検出するため、眼の位置検出手段と、ドライバが正面を向いているときの眼の位置をイニシャル位置として設定するイニシャル設定手段と、先行車との車間時間に基づいて、イニシャル位置を決定するための精度をイニシャル設定精度として設定するイニシャル設定精度設定手段と、を有することが記載されている。また、イニシャル設定手段は、イニシャル設定精度設定手段により設定されたイニシャル設定精度で、ドライバの眼のイニシャル位置を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003- 99897号公報
【特許文献2】特開2011-204054号公報
【特許文献3】特開2020-117085号公報
【特許文献4】特開2004-130940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車の運転は、各種の運転支援装置や、各車輪の制駆動力、サスペンション等の制御装置などにより、特に高度な技能を要求されることなく、ドライバの意図に忠実な運転を容易に行えるようになってきている。
但し、これは、例えばカーブ路走行時の場合であれば、ドライバが自車両周囲の視認による確認行為、ブレーキ操作による速度制御、ステアリング操作による舵角付与、アクセル操作による速度制御、ステアリング操作による舵角戻しなど、一連の基本的な運転操作が可能であることを前提としている。
例えば運転が不慣れなドライバや、一部の高齢者ドライバのように、運転スキルが不十分である場合には、運転支援制御を頻繁に介入させる必要が生じ、特にカーブ時走行時などには、極端な場合常時運転支援制御を介入させたほうがよい場合もあり得る。
しかし、全てのドライバに対して同一の運転支援制御を行った場合、比較的運転スキルが高いドライバにとっては運転操作の自由度が損なわれた感覚を与えてしまうことになる。
このため、ドライバの運転スキルを適切に判別することが求められている。
上述したように、ドライバの視線方向に基づいて、運転スキルを判別することが提案されてはいるものの、視線方向をドライバの眼周辺の撮像画像から検出する場合、高度な画像処理を必要とし、さらに、眼鏡、サングラス等を着用している場合には検出に支障が出ることが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、ドライバの視線方向を適切に推定可能な視線方向推定装置、及び、このような視線方向推定装置を有する運転スキル推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の車両のドライバの肩部の位置を検出する肩部位置検出部と、前記肩部位置検出部が検出した前記肩部の上下方向の位置に応じて前記ドライバの上下方向の視線方向を推定する視線方向推定部とを備えることを特徴とする。
一般に、ドライバが近くを中心に見ている場合(視線方向が下がっている場合)には、肩が上がる傾向にある。
本発明によれば、ドライバの肩部の上下方向の位置に基づいてドライバの視線方向を推定することにより、例えばドライバが眼鏡、サングラス等を着用したり、光線状況の悪化などにより、眼部の撮像画像から視線方向を検出できない場合であっても、適切にドライバの上下方向の視線方向を推定することができる。
【0006】
本発明において、前記ドライバを撮像する撮像装置を備え、前記肩部位置検出部は、前記撮像装置が撮像した画像に画像に基づいて前記肩部の位置を検出する構成とすることができる。
これによれば、一般的な車両に設けられるドライバモニタリングカメラなどを利用して、簡単に本発明を車両に適用することができる。
【0007】
本発明において、前記ドライバの頭部の位置を検出する頭部位置検出部を備え、前記視線方向推定部は、前記頭部の位置に対する前記肩部の位置の上下方向相対変位に基づいて前記視線方向を推定する構成とすることができる。
これによれば、頭部の位置を基準として肩部の上下方向の変位を把握することにより、視線推定の精度を向上することができる。
【0008】
本発明において、前記視線方向推定部は、前記頭部及び前記肩部の骨格の位置を推定し、推定された前記骨格の位置に基づいて前記視線方向を推定する構成とすることができる。
これによれば、ドライバの体形や着衣の種類等に関わらず、肩部の位置を精度よく検出して上述した効果を確保することができる。
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の運転スキル推定装置は、上記いずれか一つの視線方向推定装置と、前記視線方向推定装置が推定した視線方向の上下方向の変動に基づいて前記ドライバの運転スキルを推定する運転スキル推定部とを備えることを特徴とする。
これによれば、運転スキルが比較的低いドライバに顕著にみられる上下方向の視線方向の変動に基づいてドライバの運転スキルを推定することにより、簡単な装置構成及びロジックにより、適切にドライバの運転スキルを推定することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、ドライバの視線方向を適切に推定可能な視線方向推定装置、及び、このような視線方向推定装置を有する運転スキル推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した視線方向推定装置及び運転スキル推定装置の実施形態を含む運転支援装置を有する車両のシステム構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置におけるドライバモニタリングカメラ、面圧センサの配置を模式的に示す図である。
【
図3】車両が一般道路を走行中におけるドライバの中心視野の位置履歴の一例を示す図である。
【
図4】乗員の骨格を前方から見た状態を模式的に示す図である。
【
図5】車両がカーブ路を通過する場合の走行ラインの一例を示す図である。
【
図6】車両が
図5に示すカーブに進入する際にドライバが視認する視界の一例を模式的に示す図である。
【
図7】実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両における起動時の動作を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両におけるカーブ路進入時の制御を示すフローチャートである。
【
図9】実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両において高スキルドライバと判別された場合のカーブ路走行時の運転支援制御を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両において低スキルドライバと判別された場合のカーブ路走行時の運転支援制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した視線方向推定装置及び運転スキル推定装置の実施形態について説明する。
実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置は、例えば、乗用車等の4輪の自動車に設けられるものである。
図1は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を含む運転支援装置を有する車両のシステム構成を模式的に示す図である。
【0013】
車両1は、環境認識ユニット100、運転支援制御ユニット200、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット310、パワーユニット制御ユニット320、ブレーキ制御ユニット330、車両状態認識ユニット340、乗員状態判別ユニット400等を備えている。
これらの各ユニットは、例えばCPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンとして構成することができる。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは、直接に、相互に通信可能となっている。
【0014】
環境認識ユニット100は、各種センサ等の出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
認識の対象となる自車両周囲の環境は、例えば、車両1が走行する道路の車線形状や、各種障害物の自車両に対する相対位置、相対速度等に関する情報を含む。
環境認識センサ100には、可視光カメラ110、ミリ波レーダ装置120、レーザスキャナ装置130、高精度地図データベース140、測位装置150等が接続されている。
環境認識ユニット100は、本発明の環境認識部、及び、ヨー角検出部として機能する。
【0015】
可視光カメラ装置110は、自車両の周囲(前方、後方、側方等)をステレオカメラ、単願カメラなどの可視光カメラで撮像する撮像装置である。
可視光カメラ装置110は、撮像画像に画像処理を施し、自車両周囲の物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置、相対速度や、車線形状等を検出する機能を備えている。
ミリ波レーダ装置120は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置130は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
【0016】
高精度地図データベース140は、車両1の走行が想定される範囲内の高精度3次元地図データ(HDマップ)に係るデータを蓄積するものである。
このデータは、例えば、車線、路肩縁、車線区分線(いわゆる白線)などを、例えばcm単位の分解能で、緯度、経度、高度の情報を含む3次元データとしている。
測位装置150は、例えばGPS等の準天頂衛星システムの受信機や、路車間通信装置、自律航法用のジャイロセンサ等を有し、車両1の現在位置を検出するものである。
【0017】
運転支援制御ユニット200は、環境認識ユニット100が認識した自車両周囲の環境や、後述する各ユニット、センサの出力に基づいて認識される車両1の走行状態、ドライバDの運転スキルに基づいて、運転支援制御を行うものである。
運転支援制御として、例えば、ドライバDに対する画像、音声、振動などによる情報の提示を行う情報提示制御、及び、制動力の制御、走行用動力源の出力制御、操舵制御などの車両の走行支援制御が含まれる。
【0018】
運転支援制御ユニット200には、入出力装置210、通信装置220が接続されている。
入出力装置210は、例えば、タッチパネルディスプレイ等の入力装置を兼ねた画像表示装置や、音声スピーカなどの出力装置と、物理スイッチ、音声マイクロフォンなどの入力装置を有する。
また、入出力装置210は、ドライバDがフロントウインドウガラス越しに視認する直接視界と重畳して、画像表示を行うことが可能なヘッドアップディスプレイ(HUD)装置を有する。
ドライバDは、入出力装置210を用いて、運転支援制御に関する各種設定を行うとともに、各種情報の提供を受けることが可能となっている。
通信装置220は、例えば、無線通信回線を用いて、車外に設けられた基地局と通信し、各種データの送受信を行うものである。
【0019】
電動パワーステアリング制御ユニット310は、車両1の操向輪(典型的には前輪)を操舵する図示しない操舵装置に、ドライバDの操舵操作に応じたアシスト力や、自動操舵時における操舵力を与える制御を行うものである。
電動パワーステアリング制御ユニット310には、舵角センサ311、トルクセンサ312、モータ313等が接続されている。
【0020】
舵角センサ311は、操舵装置における操舵角を検出するセンサ(舵角検出部)である。
トルクセンサ312は、ドライバDが操舵操作を行う図示しないステアリングホイールが接続されたステアリングシャフトに負荷されるトルクを検出するセンサである。
電動パワーステアリング制御ユニット310は、トルクセンサ312が検出したトルクに応じて、アシスト力の発生を行う。
モータ313は、操舵装置にアシスト力、操舵力を与え、ラック推力を発生させる電動アクチュエータである。
モータ313の出力は、電動パワーステアリング制御ユニット310により制御される。
【0021】
パワーユニット制御ユニット320は、車両1の走行用動力源及びその補機類を統括的に制御するものである。
走行用動力源として、例えば、内燃エンジン(ICE)、電動モータ、エンジン-電動モータのハイブリッドシステム等を用いることができる。
パワーユニット制御ユニット320は、例えば図示しないアクセルペダルの操作量等に基づいて要求トルクを設定し、走行用動力源が発生する実際のトルクが要求トルクと一致するよう、走行用動力源を制御する。
【0022】
ブレーキ制御ユニット330は、車両の前後左右の車輪にそれぞれ設けられるブレーキ装置の制動力を、個別に(車輪ごとに)制御するものである。
ブレーキ装置として、例えば、液圧式ディスクブレーキを有する構成とすることができる。
ブレーキ制御ユニット330には、ハイドロリックコントロールユニット331、車速センサ332、加速度センサ333、ヨーレートセンサ334等が接続されている。
【0023】
ハイドロリックコントロールユニット331は、各車輪の図示しないホイルシリンダのブレーキフルード液圧を個別に調節する液圧制御装置である。
ハイドロリックコントロールユニット331は、ブレーキフルードを加圧する電動ポンプ、及び、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を制御する増圧弁、減圧弁、圧力保持弁などを備えている。
【0024】
ハイドロリックコントロールユニット331には、ブレーキフルード配管を介して、図示しないマスタシリンダ、ホイルシリンダ等が接続されている。
マスタシリンダは、ドライバがブレーキ操作を行う図示しないブレーキペダルの操作に応じて、ブレーキフルードを加圧するものである。
マスタシリンダが発生したブレーキフルード液圧は、ハイドロリックコントロールユニット331を経由して、ホイルシリンダに伝達されるようになっている。
ハイドロリックコントロールユニット331は、マスタシリンダが発生するブレーキフルード液圧にオーバライドして、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を増減する機能を有する。
ホイルシリンダは、各車輪に設けられ、例えばディスクロータにブレーキパッドを押圧し、ブレーキフルード液圧に応じた摩擦力(制動力)を発生させるものである。
【0025】
車速センサ332は、各車輪を回転可能に支持するハブ部に設けられ、各車輪の回転速度に応じた車速信号を発生するセンサである。
加速度センサ333は、車体に作用する前後方向、及び、左右方向(車幅方向)の加速度を検出するセンサ(加減速検出部)である。
ヨーレートセンサ334は、車体の鉛直軸回りにおける回転(自転)角速度であるヨーレートを検出するセンサである。
【0026】
車両状態認識ユニット340は、車両の各車輪のサスペンション及びタイヤの特性、及び、車両の荷重状態と重量配分を認識する。
サスペンション及びタイヤの特性として、例えば、バネ定数、減衰特性を認識する構成とすることができる。
例えば、サスペンションが空気バネを用いたニューマチックサスペンションである場合には、空気バネの内圧に基づいて、バネ定数を推定することができる。また、サスペンションスプリングとして金属バネを用いる場合は、バネ定数は既定値となる。
また、サスペンションに設けられる減衰要素であるダンパ(ショックアブソーバ)が減衰力調整式のものである場合には、減衰力可変機構の設定状態に基づいて、減衰力特性を認識することができる。
また、タイヤに関しては、空気圧を検出することで、既知のタイヤ特性データを用いて、バネ定数及び減衰特性を推定することができる。
【0027】
車両の荷重状態(一例として車両総重量)、各車輪の重量配分は、例えば、各車輪のサスペンション装置に設けられたストロークセンサを用いて検出することができる。
例えば、サスペンション装置のバネ定数と、所定の基準状態に対するサスペンションのストロークから、各車輪の荷重状態を検出することができる。
【0028】
以上説明した電動パワーステアリング制御ユニット310、パワーユニット制御ユニット320、ブレーキ制御ユニット330、車両状態認識ユニット340は、環境認識ユニット100と協働して、車両1の走行状態を検出する走行状態検出部として機能する。
【0029】
乗員状態判別ユニット400は、乗員(典型的にはドライバD)の意識状態、感情状態、健康状態等を判別するものである。
また、乗員状態判別ユニット400は、ドライバの視線方向を検出する
乗員状態班別ユニット400には、ドライバモニタリングカメラ401、面圧センサ402等が接続されている。
【0030】
図2は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置におけるドライバモニタリングカメラ、面圧センサの配置を模式的に示す図である。
車両1は、ドライバDが着座するシートSを有する。
シートSは、シートクッションS1、バックレストS2、ヘッドレストS3等を有する。
シートクッションS1は、ドライバDの大腿部、臀部等が載せられる座面部である。
バックレストS2は、ドライバDの背部と当接し、ドライバDの上体を保持する部分である。
バックレストS2は、シートクッションS1の後部近傍から、上方かつ斜め後方側に突出している。
ヘッドレストS3は、ドライバDの頭部後方側に配置され、頭部が後退した際に頭部を保持する部分である。
ヘッドレストS3は、バックレストS2の上端部から上方へ張り出して配置されている。
【0031】
ドライバモニタリングカメラ401は、ドライバDを車両前方側から撮像する撮像装置である。
ドライバモニタリングカメラ401は、ドライバDの顔面、及び、ステアリングホイールSWを把持した状態における手を撮像画角内に含むよう配置されている。
ドライバモニタリングカメラ401は、例えば、CMOSやCCD等の固体撮像素子、固体撮像素子に被写体像を結像させるレンズ群などの光学系、固体撮像素子の駆動回路、出力処理回路などを有する。
【0032】
面圧センサ402は、シートクッションS1及びバックレストS2に設けられ、ドライバDからシートクッションS1の上面部、バックレストS2の前面部が受ける面圧の分布を測定するセンサである。
また、乗員状態判別ユニット400は、これら以外のセンサを有する構成としてもよい。
例えば、乗員の心拍数、体温、血圧、血中酸素飽和濃度などの各種生体情報(いわゆるバイタルサイン)や、呼気中アルコール濃度等を取得するセンサを設けてもよい。
【0033】
乗員状態判別ユニット400は、環境認識ユニット100が認識した自車両周囲の環境に関する情報や、各種センサが検出した情報などの車両1の走行状態、ドライバモニタリングカメラ401、面圧センサ402等が検出する乗員状態等に基づいて、乗員の視線方向(中心視野位置)、及び、運転スキルを判別する機能を備えている。
乗員状態判別ユニット400は、ドライバモニタリングカメラ401等と協働して、本発明の頭部位置検出部、肩部位置検出部、ドライバスキル推定部として機能する。
【0034】
乗員状態判別ユニット400は、乗員の運転スキルの良否を、例えば、視線方向(眼から中心視野への方向)の変動に基づいて推定することができる。
図3は、車両が一般道路を走行中におけるドライバの中心視野の位置履歴の一例を示す図である。
図3(a)は、比較的運転スキルが低い低スキルドライバのデータを示し、
図3(b)は、比較的運転スキルが高い低スキルドライバのデータを示している。
図3(a)、
図3(b)において、いずれも横軸は左右方向角度を示し、縦軸は上下方向角度を示している。
【0035】
図3に示すように、低スキルドライバの視線方向は、高スキルドライバの視線方向に対して、変動量や、変動の頻度が大きいことがわかる。
これは、低スキルドライバの場合には、運転中に注視すべき箇所を適切に判断できないこと、周囲の環境確認を、中心視野を安定させたまま周辺視野により行えないこと、自車両に近接した領域を見過ぎることなどが原因として考えられる。
一方、高スキルドライバの場合であっても、例えば視界が不良な場合(一例として、カーブ路が出口まで見通せないブラインドコーナの場合や、飛び出しなどが懸念される道路との交差点などがある場合)には、左右方向の視線移動は大きくなる場合があることがわかっている。
【0036】
そこで、乗員状態判別ユニット400は、ドライバの上下方向の視線方向(中心視野の方向)の変動に基づいて、運転スキルを推定する。
例えば、上下方向の視線位置の分散、標準偏差や、上下方向の視線移動の頻度、上下方向の視線移動量の平均値などをパラメータとして、所定の期間内におけるパラメータの平均値の増加に応じて、運転スキルが低いと推定する構成とすることができる。
また、低スキルドライバの場合、車両の走行に伴い接近してくる物体等が気になり、物体等を凝視してしまうことから、車速に応じて視線方向が下降する場合が多い。このような特徴を有するドライバの場合、カーブ路において前方の状況を十分に視認していないことが多いと考えられる。
そこで、乗員判別ユニット400は、ドライバの視線方向が下降する際の移動速度が、車速の増加に応じて増加している場合には、運転スキルが低いと推定する構成とすることができる。
また、複数のパラメータを併用して運転スキルを推定してもよい。例えば、複数のパラメータの重み付け和を、所定の閾値と比較して運転スキルを判別するようにしてもよい。
【0037】
乗員状態判別ユニット400は、ドライバモニタリングカメラ401が撮像した画像に、所定の画像処理を施すことにより、ドライバの上下方向の視線方向を検出する。
視線方向を検出する画像処理として、例えば、乗員の眼部の画像から、眼球の中心位置、及び、瞳孔の中心位置を検出し、これらの偏差から瞳孔が向いた方向を推定し、これを視線方向としてもよい。
【0038】
また、上述した瞳孔位置を用いた視線方向の推定に代えて、あるいは、これと推定して、ドライバの骨格状態を画像から推定し、骨格状態から視線方向を推定してもよい。
図4は、乗員の骨格を前方から見た状態を模式的に示す図である。
ドライバが近くを中心に見ている場合(視線方向が下がっている場合)には、緊張状態もあるが、肩が上がる傾向にある。
そこで、乗員状態判別ユニット400は、ドライバモニタリングカメラ401の撮像画像をもとに、頭蓋骨B1の眼部Eの位置と、鎖骨B2の上部との距離L1を推定し、この距離L1の減少に応じて、視線方向が低下していると推定することができる。このような距離L1の推定は、左右の肩部に対して独立して行うことができる。この場合、左右の距離L1がともに減少している場合に、ドライバがカーブ路の前方側を適切に視認していないと推定される。
なお、このような視線方向の推定を行う場合、ドライバの個人差や、疲労具合、緊張具合などにより、眼部Eと鎖骨B2の位置関係は変化する場合がある。
これに対し、例えば、車両1が赤信号などで停車し、ドライバの視線位置が信号機を視認するために高くなっている状態において、視線方向検出ロジックに用いられる各パラメータをイニシャライズする構成とすることができる。車両1前方の赤信号、停止標識等は、例えば、可視光カメラ装置110を用いて検出することができる。
【0039】
図5は、車両がカーブ路を通過する場合の走行ラインの一例を示す図である。
図5においては、左側通行の場合における右カーブを例として示している。
車両V1(典型的には自車両1)は、比較的運転スキルが高い高スキルドライバにより運転される場合には、車両の旋回軌跡の曲率を抑制するため、いわゆるアウト-イン-アウトと呼ばれる走行ラインをとる場合が多い。
この場合、カーブ進入直前位置P1においては、右カーブに備えて車線内における左側(アウト側)に寄った状態となる。
【0040】
その後、必要に応じてブレーキングを行って減速し、ドライバが右向きの舵角を与えることにより、車両V1は旋回を開始する。旋回開始直後位置P2において、車両V1は、車体前方がクリッピングポイントCP(走行ラインが最もイン側(旋回内側)となる箇所)を向く姿勢となるよう、車線の進行方向に対してヨー角θをもった状態となっている。
さらに車両V1が進行し、クリッピングポイント通過位置P3になると、車両V1の走行ラインは、車線幅内で最もイン側に寄った状態となる。これと前後して、ドライバは、舵角を減少させつつアクセル操作(加速操作)を行うことで、車両V1は、カーブ出口に向けて脱出する姿勢への推移を開始する。
脱出開始位置P4においては、車両V1は舵角を減少させながら加速を行い、車線内横位置は、徐々にアウト側に推移する。
その後、カーブを抜けた後の脱出終了位置P5においては、舵角は実質的にゼロとなり、車両V1は所定の速度まで加速を継続する。
このとき、車線内横位置は、カーブ路のアウト側に沿った状態となる。
【0041】
高スキルドライバと、低スキルドライバとの運転には、例えば、以下のような特徴があると考えられる。
先ず、視野の変化について説明する。
図6は、車両が
図5に示すカーブに進入する際にドライバが視認する視界の一例を模式的に示す図である。
ここで、視界良好である場合とは、例えば、カーブ出口まで見通せる視界が確保されている場合を示す。
また、視界不良である場合とは、カーブ出口が見通せないブラインドコーナの場合、飛び出しが懸念される場合を示す。
【0042】
高スキルドライバの場合には、例えば、視界良好であるカーブを確認したときは、中心視野が車線幅方向において例えば中央にあり、周辺視野により周囲の状況を確認している。
その後、車両の走行ラインが最もカーブ内側を走行するクリッピングポイントCPの直前から、クリッピングポイントCPを通過するまでの間は、中心視野はイン側(カーブ内側)に位置する。このときの高スキルドライバの中心視野VP1の一例を
図6に示す。
クリッピングポイントCPを通過した後、カーブ脱出姿勢になると、中心視野はアウト側に推移し、例えば車線中央付近に移動する場合が多い。
また、視界不良である場合も基本的な中心視野の移動は視界良好である場合と同様であるが、高スキルドライバの場合には、中心視野の移動は比較的少ない状態で、周辺視野により周囲の状況を把握する傾向がある。
【0043】
これに対し、低スキルドライバの場合には、視界良好であるカーブの場合であっても、例えばカーブ進入時であっても中心視野がアウト側に振れるなどして、自車両の走行ラインの確認が不十分となる場合がある。
低スキルドライバの中心視野VP2の変動の一例を
図6に示す。
また、クリッピングポイントCPの直前から、クリッピングポイントCPの通過時、さらにカーブ脱出時に至るまで、カーブのイン側を凝視してしまう場合があり、走行ラインをアウト側へ推移させながら理想的な状態でカーブを脱出できない場合が多い。
視界不良であるカーブの場合には、特にこのような特徴が顕著となりやすい。
【0044】
さらに、例えば、
図5に示すように対向車V2が存在する場合には、対向車V2を過度に注視し、他の領域の視認が不十分となる場合がある。
低スキルドライバの場合には、一般的に自車両の走行ラインよりも周囲の状況に注意をひかれやすく、前方の道路状況を十分に収集できない傾向がある。このため、その後行うべき運転動作のための準備ができないことが懸念される。
【0045】
また、操舵操作に関しては、高スキルドライバの場合には、上述したアウト-イン-アウトのライン取りにより、状況に応じた最低限の舵角、操舵操作でカーブ路を走行することが可能である。
一方、低スキルドライバの場合には、アウト側へラインが膨らむことに対する恐怖心から、カーブ路への進入時から脱出時まで通じて、車線幅内におけるイン側に沿った走行を行う傾向があり、その結果走行ラインの曲率が大きくなって横加速度が大きくなり、あるいは、過度に減速を行う必要が生じる結果となる。さらに、イン側に寄りたいという焦りから、操舵速度や舵角が過大となって、対向車線側へ車線逸脱したり、縁石などの障害物に接近したりすることが懸念される。
【0046】
また、速度制御(加速操作、減速操作)に関しては、高スキルドライバの場合には、カーブ進入時に操舵を開始するまでに、適切な速度まで減速を行うことが可能であり、カーブ進入からクリッピングポイントCPを通過するまで、舵角、路面状態、周囲の環境などに適合した適切な車速を維持することが可能である。
また、カーブ路の脱出時には、車両1が挙動を乱すことがない程度の適度な加速操作を行って車両を加速させることができる。
【0047】
これに対し、低スキルドライバの場合には、カーブ路進入時にはカーブ路入口までの距離や、曲率に対する判断の精度が低い結果、進入直前に急制動を行うことになり、あるいは、オーバースピードでカーブに進入する場合がある。
また、カーブ路進入からクリッピングポイントCPを通過するまでの間では、本来不必要な減速操作、加速操作を行うことにより、車両の挙動が乱れることが懸念される。
さらに、カーブ路の脱出時には、加速を焦って過剰な加速操作を行い、車両の挙動が乱れることが懸念される。
【0048】
このようなカーブ路走行時の運転スキルの良否に関わらず、安定した走行を行うため、実施形態の運転支援装置においては、以下説明するように、ドライバのスキルに応じて異なる運転支援制御を行っている。
図7は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両における起動時の動作を示すフローチャートである。
この処理は、例えば、車両1の主電源投入(イグニッションオン)後に、ドライビングサイクル毎に行われる。
ここで、ドライビングサイクルとは、車両1の主電源投入から目的地までの走行を経て、主電源をオフされるまでの期間を示すものとする。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0049】
<ステップS01:車両キャリブレーション>
運転支援制御ユニット200は、車両状態認識ユニット340と協働して、車両1の性能に関するパラメータのキャリブレーション及び初期化(車両キャリブレーション)を行う。
車両キャリブレーションは、例えば、ドライビングサイクルの開始後、以下の条件を全て充足するまでの間に行われる。
(a)信号又は一時停止に応じた停車を伴う直角交差点を所定回数(例えば3回)以上通過
(b)走行距離が所定距離(例えば4km)到達
(c)所定の速度(例えば40km/h)での連続走行距離が所定距離(例えば200m)以上
ここでキャリブレーションされるパラメータとして、例えば各車輪のサスペンション、タイヤのバネ定数、減衰特性、車両の積載状態(積載重量、車両の総重量)、各車輪の荷重配分などがある。
なお、キャリブレーションが完了するまでは、前回のドライビングサイクルで取得した値を用いる。
その後、ステップS02に進む。
【0050】
<ステップS02:乗員キャリブレーション>
乗員状態判別ユニット400は、乗員(ドライバ)の運転スキルの良否を把握する。
このとき、乗員状態判別ユニット400は、例えば体調不良、運転不適感情(注意力散漫、不安混迷、焦燥、憤怒等)、飲酒など、ドライバが運転に適さない状態であるか否かを判別するようにしてもよい。ドライバが運転に適さない状態の場合には、乗員状態判別ユニット400は、運転支援制御ユニット200を介して、乗員への警告や、他に設けられた基地局への通報を行うようにしてもよい。
このような乗員キャリブレーションは、例えば、所定の車速(例えば20km/h)以上での走行時間が所定時間(例えば15分)毎に、ドライビングサイクル中に随時行うようにすることができる。
なお、キャリブレーションが完了するまでは、前回のドライビングサイクルで取得した値を用いる。
その後、ステップS03に進む。
【0051】
<ステップS03:現在地・地図情報照合開始>
環境認識ユニット100は、測位装置150を用いた自車両の現在位置の検出を開始する。
環境認識ユニット100は、検出された現在位置をもとに、高精度地図データベース140に蓄積された地図データとの照合を行い、自車両周辺の道路形状(車線形状)等に関する情報を把握する。
その後、ステップS04に進む。
【0052】
<ステップS04:車速取得開始>
運転支援制御ユニット200は、ブレーキ制御ユニット340から、車速センサ332の出力から算出された車速に関する情報を取得する。
その後、ステップS05に進む。
【0053】
<ステップS05:車両位置・角度検出開始>
環境認識ユニット100は、各センサの出力を用いて、車両1が走行する車線内における横位置(車幅方向における位置)、及び、車線の進行方向に対する車両1の車体前後方向の偏角(角度)の検出を開始する。
その後、ステップS06に進む。
【0054】
<ステップS06:視線方向検出開始>
乗員状態判別ユニット400は、ドライバモニタリングカメラ401が撮像する画像に基づいて、ドライバの視線方向(中心視野の方向)の検出を開始する。
その後、ステップS07に進む。
【0055】
<ステップS07:車両挙動検出開始>
ブレーキ制御ユニット330は、加速度センサ333、ヨーレートセンサ334の出力を用いて、車体に作用する前後方向、車幅方向、上下方向の並進方向加速度、及び、ヨーレートの検出を開始する。
その後、ステップS08に進む。
【0056】
<ステップS08:対向車検出開始>
環境認識ユニット100は、可視光カメラ装置110等を用いて、自車両走行車線と隣接する対向車線を、自車両に接近する方向に走行する他車両(対向車V2等)の検出を開始する。
その後、一連の起動処理を終了する。
【0057】
上述した起動処理が終了した後、車両1は、カーブ路への接近に応じて、以下の制御を開始する。
図8は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両におけるカーブ路進入時の制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0058】
<ステップS11:カーブ接近判断>
環境認識ユニット100は、測位装置150が検出した自車両の位置と、高精度地図データベース140に蓄積された地図データとに基づいて、自車両の前方にカーブ路が接近しているか否かを判別する。
カーブ路が、推定到達時間が所定値以下となるまで接近している場合は、ステップS12に進み、その他の場合はステップS11を繰り返す。
【0059】
<ステップS12:車両位置・角度重点管理開始>
環境認識ユニット100は、自車両の車線内横位置、及び、車線進行方向に対する自車両前後方向の角度の検出を、通常時よりも高い時間分解能、空間分解能で行う重点管理を開始する。
その後、ステップS13に進む。
【0060】
<ステップS13:視線方向重点管理監視>
乗員状態判別ユニット400は、ドライバの視線方向の検出を、通常時よりも高い時間分解能、空間分解能で行う重点管理を開始する。
その後、ステップS14に進む。
【0061】
<ステップS14:車両挙動重点管理開始>
運転支援制御ユニット200は、車体に作用する前後方向、車幅方向、上下方向の並進方向加速度、及び、ヨーレートの検出を、通常時よりも高い時間分解能、空間分解能で行う重点管理を開始する。
その後、ステップS15に進む。
【0062】
<ステップS15:対向車重点管理開始>
環境認識ユニット100は、対向車の検出を、通常時よりも高い時間分解能、空間分解能で行う重点管理を開始する。
その後、ステップS16に進む。
【0063】
<ステップS16:減速ポテンシャル推定>
運転支援制御ユニット200は、上述した車両キャリブレーションの結果、及び、現在の車速、自車両走行車線の前後方向傾斜に基づいて、自車両がカーブ路の進入時までに所定の車速まで安全に減速できる可能性に関するパラメータである減速ポテンシャルを推定する。減速ポテンシャルは、車両の積載重量の増加、荷重配分の前輪側又は後輪側への偏重度合いの増加、車速の増加、路面の下り勾配の増加に応じて低下するよう設定される。
運転支援制御ユニット200は、本発明の減速ポテンシャル推定部として機能する。
その後、ステップS17に進む。
【0064】
<ステップS17:ドライバスキル判別>
乗員状態判別ユニット400は、ドライバが比較的運転スキルの高い高スキルドライバであるか、比較的運転スキルの低い低スキルドライバであるかを判別する。
運転スキルの判別は、例えば、上述したように、通常走行時の上下方向の視線変動に基づいて行うことができる。
また、従前のカーブ路走行の走行状態に応じて、ドライバのスキルを判別してもよい。例えば、カーブ路への進入時(操舵開始初期・
図5におけるP2の位置)に、車線に対する自車両のヨー角θが、クリッピングポイントCP側へ向いていれば高スキルドライバであり、車線と平行な方向に近ければ低スキルドライバであると判別することができる。
その後、一連の処理を終了する。
【0065】
次に、カーブ路走行時の具体的な運転視線制御の内容について説明する。
先ず、上述したステップS17において、高スキルドライバと判別された場合の処理について説明する。
図9は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両において高スキルドライバと判別された場合のカーブ路走行時の運転支援制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0066】
<ステップS21:進入時位置アウト側判断>
環境認識ユニット100は、自車両がカーブ路の入口から所定の距離にあるときに、車線内横位置がカーブ路のアウト側に設定された所定のアウト領域内にあるか否かを判別する。
車線内横位置がアウト領域内である場合はステップS23に進み、その他の場合はステップS22に進む。
【0067】
<ステップS22:進入時位置センター判断>
環境認識ユニット100は、自車両がカーブ路の入口から所定の距離にあるときに、車線内横位置が車線中央部に設定された所定のセンター領域内にあるか否かを判別する。
車線内横位置がセンター領域内である場合はステップS25に進み、その他の場合はイン側からの進入であるものとしてステップS30に進む。
【0068】
<ステップS23:ステアリングアシスト通常制御>
電動パワーステアリング制御ユニット310は、トルクセンサ312の出力とアシスト力(モータ313の出力)との相関を、通常走行時の状態とする。
その後、ステップS24に進む。
【0069】
<ステップS24:アクセル通常制御>
パワーユニット制御ユニット320は、アクセルペダルの操作量と、走行用動力源の制御に用いられる要求トルクとの相関を、通常走行時の状態とする。
その後、一連の処理を終了する。
【0070】
このように、高スキルドライバがカーブ路のアウト側から進入する場合には、いわゆるアウト-イン-アウトのライン取りにより、カーブ路進入時に車線方向に対して車体がクリッピングポイントCP側を指向するよう、比較的大きいヨー角θ(
図5参照)が発生している場合が多い。
ここで、仮にカーブ路進入時(例えば、
図5のP2に相当する位置)において、車両の車線方向に対するヨー角θが不十分である場合には、ドライバの運転スキルの推定に誤りがあったか、あるいは、ドライビングミスである可能性があることから、例えば自動的に制動を行って車速を低下させる制御や、パワーステアリング装置のアシスト力を増加させて、舵角増加方向への操舵操作を促進させる操舵力軽減制御、車両がクリッピングポイントCP通過時に車線内におけるイン側を通過するよう、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生制御等を行うことができる。
【0071】
<ステップS25:進入時緩減速制御>
運転支援制御ユニット200は、ブレーキ制御ユニット330に指令を与え、カーブ路進入時までに、車両1の車速を所定の目標車速まで自動的に減速させる進入時減速制御を行う。
目標車速は、例えば、環境認識ユニット100が可視光カメラ装置110や、高精度地図データベース140を用いて認識したカーブ路の曲率に応じて設定することができる。
進入時減速制御における減速度(制動力)は、上述した減速ポテンシャルの減少に応じて、抑制されるよう制御される。
その後、ステップS26に進む。
【0072】
<ステップS26:ステアリングアシスト抑制制御(弱)>
運転支援制御ユニット200は、電動パワーステアリング制御ユニット310に指令を与え、トルクセンサ312の出力に対するモータ313の出力(電動パワーステアリング装置のアシスト量)を低減するステアリングアシスト抑制制御(操舵力増加制御)を行う。
これにより、ドライバが舵角増加方向への操舵操作を行う際の操作力(操舵力)、及び、舵角を維持するための保舵力が増加し、不適切な操舵操作によって過度な舵角が与えられ、イン側への車線逸脱や対向車V2への異常接近が生じることを防止できる。
その後、ステップS27に進む。
【0073】
<ステップS27:アクセル抑制制御>
パワーユニット制御ユニット320は、アクセルペダルの操作量と要求トルクとの相関を、同じ操作量に対する要求トルクが減少するよう、通常時に対して走行用動力源の出力が抑制される方向に変更するアクセル抑制制御を実行する。
これにより、ドライバのスキルが当初推定されたスキルに対して低い場合であっても、過度な駆動力の発生によって車両が不安定な状態となることを防止できる。
その後、ステップS28に進む。
【0074】
<ステップS28:車両イン側推移判断>
運転支援制御ユニット200は、環境認識ユニット100の出力に基づいて、車両1の走行ラインがカーブ路のイン側に所定以上推移しているか否かを判別する。
例えば、車両1のヨー角θが車線方向に対してイン側(クリッピングポイントCP側)でありかつ所定の閾値以上である場合や、車両1の車線内横位置が所定以上イン側へ推移した場合には、ステップS29に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0075】
<ステップS29:ステアリングアシスト抑制制御(強)>
運転支援制御ユニット200は、電動パワーステアリング制御ユニット310に指令を与え、電動パワーステアリング装置のアシスト量を、ステップS26におけるステアリングアシスト抑制制御(弱)よりもさらに低減するステアリングアシスト抑制制御(操舵力増加制御)(強)を行う。
これにより、操舵力がさらに増加することにより、走行ラインをイン側に推移させるためにドライバが舵角を増加させる操舵制御を行った後に、誤操作によってさらに舵角を増加させて車線逸脱等が発生することを防止できる。
その後、一連の処理を終了する。
【0076】
<ステップS30:進入時減速制御>
運転支援制御ユニット200は、ブレーキ制御ユニット330に指令を与え、カーブ路進入時までに車両1の車速を所定の目標車速まで自動的に減速させる進入時減速制御を行う。
進入時減速制御における減速度は、上述した減速ポテンシャルの減少に応じて、抑制されるよう制御されるとともに、ステップS25における進入時緩減速制御に対して、目標車速が低く設定される。
その後、ステップS31に進む。
【0077】
<ステップS31:ステアリングアシスト抑制制御(強)>
運転支援制御ユニット200は、電動パワーステアリング制御ユニット310に指令を与え、電動パワーステアリング装置のアシスト量を、ステップS26におけるステアリングアシスト抑制制御(弱)よりもさらに低減するステアリングアシスト抑制制御(操舵力増加制御)(強)を行う。
その後、ステップS32に進む。
【0078】
<ステップS32:アクセル抑制制御>
パワーユニット制御ユニット320は、アクセルペダルの操作量と要求トルクとの相関を、同じ操作量に対して要求トルクが減少するよう、通常時に対して走行用動力源の出力が抑制される方向に変更するアクセル抑制制御を実行する。
その後、一連の処理を終了する。
【0079】
図10は、実施形態の視線方向推定装置及び運転スキル推定装置を有する車両において低スキルドライバと判別された場合のカーブ路走行時の運転支援制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0080】
<ステップS41:進入時減速制御>
運転支援制御ユニット200は、ブレーキ制御ユニット330に指令を与え、カーブ路進入時までに、車両1の車速を所定の目標車速まで自動的に減速させる進入時減速制御を行う。
ここでの目標車速は、上述したステップS30における目標車速よりもさらに低く設定される。
その後、ステップS42に進む。
【0081】
<ステップS42:ステアリングアシスト抑制制御(弱)>
運転支援制御ユニット200は、電動パワーステアリング制御ユニット310に指令を与え、電動パワーステアリング装置のアシスト量を低減するステアリングアシスト抑制制御(操舵力増加制御)を行う。このときのアシスト量の低減量は、例えば、上述したステップS26と同等に設定することができる。
その後、ステップS43に進む。
【0082】
<ステップS43:車速維持制御>
運転支援制御ユニット200は、パワーユニット制御ユニット320及びブレーキ制御ユニット330と協働して、車両1の車速を所定のカーブ通過時目標車速に維持する車速維持制御を行う。
車速維持制御の実行中は、ドライバのアクセル操作は無効化あるいは抑制される。
その後、ステップS44に進む。
【0083】
<ステップS44:走行ライン適否判断>
運転支援制御ユニット200は、環境認識ユニット100の認識結果を用いて、車両1が車線内におけるイン側に沿ってクリッピングポイントCPを通過する所定の目標走行ラインと、実際に車両1が走行している走行ラインとの車線幅方向の乖離量を演算する。
なお、環境認識ユニット100が、自車両に接近する対向車V2を認識した場合には、目標走行ラインは、対向車を認識しない場合に対してアウト側にオフセットして設定される。
目標走行ラインと実際の走行ラインとの乖離量が所定値以上である場合は、走行ラインを変更する制御の介入が必要であるとしてステップS45に進み、その他の場合は、カーブ路脱出まで現在の制御を継続し、その後一連の処理を終了する。
【0084】
<ステップS45:ヨーモーメント発生制御>
運転支援制御ユニット200は、ブレーキ制御ユニット330に指令を与え、左右車輪の制動力差によって、車両1を目標走行ラインに近づける方向のヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生制御を実行する。
また、このような制動力差の発生に代えて、電動パワーステアリング制御ユニット310に指令を与えて、モータ313によって操舵装置の舵角を制御することで、車両1にヨーモーメントを発生させてもよい。
その後、ステップS46に進む。
【0085】
<ステップS46:走行ライン維持制御>
運転支援制御ユニット200は、車両1が目標走行ラインに沿って走行するよう、ステップS45において開始したヨーモーメントの制御を継続する。
その後、車両1がカーブ路を脱出した後に、各運転支援制御を終了し、一連の処理を完了する。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバDの肩部の上下方向の位置に基づいてドライバDの視線方向を推定することにより、例えばドライバDが眼鏡、サングラス等を着用したり、光線状況の悪化などにより、眼部の撮像画像から視線方向を検出できない場合であっても、適切にドライバDの上下方向の視線方向を推定することができる。
(2)一般的な車両に設けられるドライバモニタリングカメラ401を利用してドライバDの肩部の上下方向の位置を検出することにより、簡単に本発明を車両に適用することができる。
(3)頭蓋骨B1の眼部の位置に対する鎖骨B2(肩部)の上下方向の変位を把握することにより、視線推定の精度を向上することができる。
(4)乗員の骨格(頭蓋骨B1、鎖骨B2等)の位置を推定し、推定された骨格の位置に基づいて視線方向を推定することにより、ドライバDの体形や着衣の種類等に関わらず、肩部の位置を精度よく検出して上述した効果を確保することができる。
(5)ドライバDの肩部の上下方向の位置から推定された視線方向の上下方向の変動に基づいてドライバDの運転スキルを推定することにより、運転スキルが比較的低いドライバに顕著にみられる上下方向の視線方向の変動を利用し、簡単な装置構成及びロジックにより、適切にドライバDの運転スキルを推定することができる。
【0087】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)視線方向推定装置、運転スキル推定装置、運転支援装置、及び、これが搭載される車両の構成、運転支援制御の具体的内容などは、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
(2)実施形態においては、ドライバの肩(鎖骨)の上昇量を、ドライバモニタリングカメラの撮像画像に基づいて検出しているが、これに限らず、他の手法によってドライバの骨格の状態を検出してもよい。例えば、バックレスト部に設けられた面圧センサの出力に基づいて、ドライバの肩部の上昇を認識してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 車両 100 環境認識ユニット
110 可視光カメラ装置 120 ミリ波レーダ装置
130 レーザスキャナ装置 140 高精度地図データベース
150 測位装置 200 運転支援制御ユニット
210 入出力装置 220 通信装置
310 電動パワーステアリング制御ユニット
311 舵角センサ 312 舵角センサ
313 モータ 320 パワーユニット制御ユニット
330 ブレーキ制御ユニット
331 ハイドロリックコントロールユニット
332 車速センサ 333 加速度センサ
334 ヨーレートセンサ 340 車両状態認識ユニット
400 乗員状態判別ユニット
401 ドライバモニタリングカメラ 402 面圧センサ
P 乗員 T 親指
SW ステアリングホイール g 間隔
S シート S1 シートクッション
S2 バックレスト S3 ヘッドレスト
V1 車両 V2 対向車
θ ヨー角
B1 頭蓋骨 B2 鎖骨
E 眼部