(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164186
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】コーティング剤、及び物品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/10 20060101AFI20231102BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231102BHJP
【FI】
C09D201/10
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075580
(22)【出願日】2022-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】叶野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐登
(72)【発明者】
【氏名】黒原 啓彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩司
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038FA212
4J038GA15
4J038JB11
4J038NA27
(57)【要約】
【課題】実際の使用環境における耐久性が高くなるコーティング剤を提供する。
【解決手段】コーティング剤は、アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩と、シリケートオリゴマーと、アルコキシシリル基を含有する樹脂と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩と、
シリケートオリゴマーと、
アルコキシシリル基を含有する樹脂と、を含むコーティング剤。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩は、下記式(1)で表される、請求項1に記載のコーティング剤。
【化1】
(式(1)において、nは1~4の整数を示す。mは1~10の整数を示す。pは10~22の整数を示す。qは1~3の整数を示す。)
【請求項3】
本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項4】
本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下であり、シリケートオリゴマーが1.0質量部以上3.0質量部以下である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項5】
本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下であり、シリケートオリゴマーが1.0質量部以上3.0質量部以下であり、アルコキシシリル基を含む樹脂が3.0質量部以上10.0質量部以下である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項6】
更に、触媒を含む、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項7】
更に触媒を含み、本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下であり、前記触媒が0.01質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項8】
更に触媒を含み、本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下であり、シリケートオリゴマーが1.0質量部以上3.0質量部以下であり、前記触媒が0.01質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項9】
更に触媒を含み、本コーティング剤全体を100質量部とした場合に、前記4級アンモニウム塩は1.0質量部以上8.3質量部以下であり、シリケートオリゴマーが1.0質量部以上3.0質量部以下であり、アルコキシシリル基を含む樹脂が3.0質量部以上10.0質量部以下であり、前記触媒が0.01質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のコーティング剤を用いて形成された塗膜を有する物品。
【請求項11】
トイレ便座、トイレ便蓋、洗浄レバー、紙巻き器、リモコン、水栓のハンドル、ドアハンドル、照明スイッチ、玄関ドアハンドル、キッチン天板、キャビネット把手、窓サッシ、玄関上がりかまち、フローリング、玄関タイル、及びフロアタイルからなる群より選ばれる請求項10に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コーティング剤、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の技術では、抗菌抗ウィルス剤としてオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを含有することで、抗菌性・抗ウィルス性を確保している。この特許文献1では、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメトキシシリル基と反応する水酸基が存在しないこと等による塗布対象樹脂面への付着不良を解消し、抗菌抗ウィルス剤の塗布対象面に対する密着性を確保するように、3-メタクロリキシプロピルトリメトキシシランを添加している。この技術では、3-メタクロリキシプロピルトリメトキシシランと塗布対象面との相互作用、及び3-メタクロリキシプロピルトリメトキシシランと塗料中の抗菌抗ウィルス剤との相互作用により、塗膜の密着性の向上を訴求するとともに、耐摩耗性も訴求していると推測される。また、別の技術として、トリメシン酸(多価カルボン酸)を添加して、トリメシン酸のカルボン酸と塗料中の抗菌抗ウィルス剤とのイオン結合によって、耐水性を向上させて、抗菌抗ウィルス剤の溶出を抑制した技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来技術では、一定の耐水性や耐摩耗性の向上は期待できる。しかし、相互作用やイオン結合は不安定で弱いため、有効成分(抗菌抗ウィルス剤)の溶出や欠損が発生し、実際の使用環境における耐久性は必ずしも十分ではなかった。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑み、実際の使用環境における耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩と、
シリケートオリゴマーと、
アルコキシシリル基を含有する樹脂と、を含むコーティング剤。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る塗膜を有する物品の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る物品を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0009】
1.コーティング剤
コーティング剤は、アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩と、シリケートオリゴマーと、アルコキシシリル基を含有する樹脂と、を含む。
【0010】
(1)アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩
アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩は特に限定されない。4級アンモニウム塩は、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。一般式(1)で示される化合物は、抗菌性抗ウィルス性を有するから、コーティング剤は抗菌性抗ウィルス性コーティング剤となる。
【0011】
【化1】
(式(1)において、nは1~4の整数を示す。mは1~10の整数を示す。pは10~22の整数を示す。qは1~3の整数を示す。)
【0012】
本開示において、上記(1)で表される化合物のうち好ましい化合物を以下に挙げる。この化合物(2)は、(1)の化合物において、n=1、m=3、p=18、q=1としたものであり、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリドである。この化合物は、抗菌性抗ウィルス性、安全性の面で好ましい。
【0013】
【0014】
(2)シリケートオリゴマー
シリケートオリゴマーは、特に限定されない。シリケートオリゴマーとして、テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーが好適に例示される。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロピオキシシラン、テトラブトキシシラン等が例示される。シリケートオリゴマーの好適な例として、テトラメトキシシランの部分加水分解オリゴマーが挙げられる。シリケートオリゴマーは、例えば、下記一般式(3)で示される。尚、下記一般式(3)におけるmは、例えば加水分解率を制御することにより調整できる。
【0015】
【化3】
(式(3)において、mは2~100の整数を示す。)
【0016】
シリケートオリゴマーは、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロピオキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、又はテトラフェノキシシランを加水分解することにより得られる。mはこの場合の加水分解率を制御することにより調整できる。
【0017】
(3)アルコキシシリル基を含有する樹脂
アルコキシシリル基を含有する樹脂としては、アルコキシシリル基含有アクリル樹脂、アルコキシシリル基含有ポリエステル、アルコキシシリル基含有エポキシ樹脂、アルコキシシリル基含有アルキッド樹脂、アルコキシシリル基含有フッ素樹脂、アルコキシシリル基含有ポリウレタン、アルコキシシリル基含有フェノール樹脂、アルコキシシリル基含有メラミン樹脂等を例示できる。アルコキシシリル基としては、トリアルコキシシリル基、ジメトキシシリル基、モノアルコキシシリル基等を例示できる。
アルコキシシリル基を含有する樹脂としては、アルコキシシリル基含有アクリル樹脂が好ましい。アルコキシシリル基含有アクリル樹脂は、アクリル主鎖にアルコキシシリル基が側鎖として結合している。アルコキシシリル基含有アクリル樹脂は、シロキサン架橋型のシリコン変性アクリル樹脂(シラン変性アクリルポリマー)である。
アルコキシシリル基を含有する樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。コーティング剤をコートに適した粘度にする観点から、重量平均分子量は、例えば、1000以上50000以下が好ましく、10000以上25000以下がより好ましい。
【0018】
(4)溶媒
コーティング剤には、コートに適した粘度とする観点から、溶媒が含まれていることが好ましい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール(n-プロピルアルコール)、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール(ペンタノール)、2-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール(IPA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類が好適に例示される。また、他の溶媒も使用することができる。他の溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、パラフィン等の直鎖炭化水素系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメン、スチレン等の芳香族炭化水素系化合物、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、臭化エチル、臭化プロピル、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、フルオロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系化合物、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、ジベンジルエーテル、ジオキサン、トリオキサン、フラン、シネオール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセタール等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、2-ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物等が挙げられる。
溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いることも可能である。
コーティング剤の溶媒は、例えば、アルコールと水を含む混合溶媒を用いることができる。コーティング剤の溶媒には、各成分を良好に溶解してコートに適した粘度とする観点から、1-ペンタノール、1-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及び水が含まれていることが好ましい。
溶媒として1-ペンタノール、1-プロパノール、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いる場合には、コーティング剤全体を100質量部とした場合に、1-ペンタノールは、1質量部以上10質量部以下が好ましく、1-プロパノールは、10質量部以上30質量部以下が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルは、40質量部以上60質量部以下が好ましい。
【0019】
(5)配合比率
アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩の配合量は、特に限定されない。例えば、4級アンモニウム塩等の配合量は、有効な抗菌性抗ウィルス性を発現する観点と安全性の観点から、コーティング剤全体を100質量部とした場合に、好ましくは1.0質量部以上8.3質量部以下、更に好ましくは2.7質量部以上4.1質量部以下、特に好ましくは2.9質量部以上3.2質量部以下である。
シリケートオリゴマーの配合量は、特に限定されない。例えば、シリケートオリゴマーの配合量は、実際の使用環境における耐久性を高める観点から、コーティング剤全体を100質量部とした場合に、好ましくは1.0質量部以上3.0質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以上2.5質量部以下、特に好ましくは1.8質量部以上2.2質量部以下である。
アルコキシシリル基を含有する樹脂の配合量は、特に限定されない。例えば、アルコキシシリル基を含有する樹脂の配合量は、実際の使用環境における耐久性を高める観点から、コーティング剤全体を100質量部とした場合に、好ましくは3.0質量部以上10.0質量部以下、更に好ましくは3.5質量部以上5.5質量部以下、特に好ましくは4.1質量部以上4.5質量部以下である。
【0020】
(6)触媒
コーティング剤には、酸、非スズ系の触媒、スズ系の触媒が配合されていてもよい。触媒を配合する場合には、コーティング剤は、触媒を含まないA液と、触媒を含むB液と、を備えて構成することが好ましい。コートに際し、A液とB液とを混合してコーティング剤にすることで、使用前の硬化反応を抑制しつつ、強固な塗膜(コート層)を速やかに形成できる。A液とB液を用いる場合には、A液には、アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩と、シリケートオリゴマーと、アルコキシシリル基を含有する樹脂と、水以外の溶媒と、が含まれていることが好ましい。また、B液には、触媒と、水と、水以外の溶媒と、が含まれていることが好ましい。このように、A液とB液を用いる場合には、現場等での使用の際に、A液とB液を混合することになる。すなわち、この場合には、触媒は後から添加される。
尚、上述の「(4)溶媒」「(5)配合比率」の欄で記載した「コーティング剤全体」の「100質量部」は、A液とB液を用いる場合には、A液とB液の合計が100質量部であることを意味する。
【0021】
触媒としての酸は、無機酸及び有機酸から選択される1種以上である。無機酸は、特に限定されない。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、炭酸、モリブデン酸、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、セレン酸、テルル酸、亜テルル酸、タングステン酸、ホスホン酸等の二価の酸、リン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、バナジン酸等の三価の酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが挙げられる。無機酸を使用する場合は、塩酸であることが好ましい。
【0022】
有機酸は、特に限定されない。有機酸としては、例えば、トリメシン酸(1,3,5ベンゼントリカルボン酸)、クエン酸、ギ酸、酢酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、乳酸、マンデル酸、ビニル酢酸、3-ヒドロキシ絡酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、フタル酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、グルタル酸、オキサロ酢酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、メリト酸、イソクエン酸、アコニット酸、オキサロコハク酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、オクタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、安息香酸、ケイヒ酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、グリコール酸、サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、シリング酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、プロカテク酸、オルセリン酸、没食子酸、タルトロン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、シトラマル酸、キナ酸、シキミ酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸,メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸、等の有機酸、及び、無水マレイン酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸などが挙げられる。
【0023】
触媒(酸等)の配合量は、特に限定されない。例えば、コーティング剤(触媒を用いた場合には、触媒を混合後のコーティング剤を意味し、A液とB液を用いる場合には、A液とB液の混合物を意味する)全体を100質量部とした場合に、触媒の配合量は、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。
尚、触媒を含むB液としては、アルコキシシリル基を含有する樹脂とシリケートオリゴマーにより、三次元架橋構造の強固な塗膜を形成する観点から、濃度が1質量%以上5質量%以下の塩酸水溶液(HClaq)を用いることが好ましい。
【0024】
2.コーティング剤の塗布、硬化
基材上にコーティング剤を塗布する方法は特に制限はなく、コーティング剤の性状や粘度、塗布量等に合わせ選択することができる。例えば、コーティング剤を染み込ませた布や刷毛を用いた塗布、スプレー塗布、浸漬塗布、ローラー塗り、カーテンフローコーター塗布等の公知の方法より選択できる。コーティング剤を塗布する前に基材をプライマー処理してもよい。
【0025】
本開示のコーティング剤が用いられる基剤は特に限定されない。基剤として、樹脂基材、金属基材が例示される。樹脂基材、金属基材は、めっき層を有していてもよい。
樹脂基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル-塩化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS)、等のスチレン系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー等のポリアセタール(POM)樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、エチレン塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、変性ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ミディアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PETP、PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBTP、PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂、ポリオキシメチレンコポリマー、その他のエンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PSU)、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、エチルセルロース(EC)等のセルロース誘導体、不飽和ポリエステル系、アクリル系、ビニルエステル系、ウレタン系、エポキシ系等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0026】
本開示のコーティング剤を用いて形成された塗膜を有する物品は、特に限定されない。塗膜を有する物品の断面図を
図1に示す。符号1は物品を示し、符号3は基材を示し、符号5は塗膜を示す。尚、基材と塗膜の間に他の層(プライマー層等)が存在していてもよい。
本開示のコーティング剤を用いて形成された塗膜は、高い耐水性と耐摩耗性を有する抗菌性抗ウィルスコーティングであるため、トイレ空間やキッチンシンクで手に触れる機会が多い物品に好適に用いられる。この観点から、物品として、トイレ便座、トイレ便蓋、洗浄レバー、紙巻き器、リモコン、水栓のハンドル、ドアハンドルが好適に例示される。
本開示のコーティング剤を用いて形成された塗膜は、意匠性も高いため住宅設備で手に触れる機会が多い物品に好適に用いられる。この観点から、物品として、照明スイッチ、玄関ドアハンドル、キッチン天板、キャビネット把手、窓サッシが好適に例示される。
更に、本開示のコーティング剤は、玄関上がりかまち、フローリング、玄関タイル、フロアタイル等にも適用できる。尚、
図2には物品の一例としてのトイレ便座7が示されている。
【0027】
3.コーティング剤の作用機構及び効果
本開示のコーティング剤には、シリケートオリゴマーが含まれている。そのため、下記推定図で模式的に示されるように、抗菌抗ウィルス剤であるシラン変成四級アンモニウム(アルコキシシリル基を有する4級アンモニウム塩)を共有結合により固定化できる。更にアルコキシシリル基を含有する樹脂とシリケートオリゴマーにより、三次元架橋構造を有する強固な塗膜にすると共に、塗膜と基材との結合が増加し、密着性が強化されると推測される。
塗膜では、4級アンモニウム塩とシリケートオリゴマーとは、シロキサン結合(-Si-O-Si-)で結合していると推測される。また、塗膜では、シリケートオリゴマーとアルコキシシリル基を含有する樹脂とは、シロキサン結合(-Si-O-Si-)で結合していると推測される。
尚、上記の作用機構はあくまでも推定の作用機構であって、この作用機構によらずに他の作用機構によって本開示の作用効果が奏されるとしても、上記作用機構によって本開示の権利範囲が限定的に解釈されることはないことを付言する。
【0028】
本開示のコーティング剤によれば、高い耐水性と耐摩耗性を有する抗菌抗ウィルスコーティングを実現できる。その耐久性の高さから、耐アルコール性も有するため、実使用のコロナ対策で行われているアルコール拭きにも対応できる。
本開示のコーティング剤で形成された塗膜は、マット化しにくく(ツヤ消しされにくく)、意匠性が高い。また、本開示のコーティング剤で形成された塗膜は、透明性が高く、意匠性が高い。
【0029】
【実施例0030】
以下、実施例によって詳細に説明する。
【0031】
<<実験A>>
以下の実験を行った。
実験例1,2,3,4はいずれも本願の実施例に相当する。
1.実験例の評価サンプルの作製
(1)コーティング剤の調製
(1.1)A液及びB液の調製
コーティング剤の調合のために下記に示す組成のA液及びB液を用意した。表1における溶媒以外の各薬剤は以下の通りである。A液は塗膜に抗菌抗ウィルス性を持たせるために機能し、B液は硬化促進剤として機能する。
・AEM5700(抗ウィルス剤 有効成分45質量%):シラン変性第四級アンモニウム塩(ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド 溶液)
・8SQ-1175(シリコン変性アクリル樹脂 有効成分50質量%):大成ファインケミカル株式会社製のシリコン変性アクリル樹脂「8SQ-1175」
・MS56(シリケートオリゴマー 有効成分100質量%):三菱化学株式会社製「MKCシリケート MS56」
【0032】
【0033】
【0034】
(1.2)コーティング剤の調製(A液及びB液の混合)
抗ウィルス剤の有効成分、シリコン変性アクリル樹脂の有効成分(固形分)、シリケートオリゴマーの有効成分(固形分)、溶媒、塩酸が以下の配合比(質量基準)となるようにA液及びB液を混合した。
【0035】
【0036】
(2)評価サンプルの作製
表4に示す各実験例の各種評価サンプル(以下、塗装品ともいう)を準備した。尚、基材の詳細は以下の通りである。
ABS:ABS樹脂の基材
SUS430:SUS430の基材
Crめっき:真鍮基材の表面にNiめっきを施した後に、更にCrめっきを施した基材
アクリルウレタン:PP(ポリプロピレン)の基材をアクリルウレタン塗料で塗装した基材
【0037】
【0038】
(2.1)基材の脱脂
各基材の表面(塗布対象面)を、脱脂した。脱脂には、アルコール(IPA(イソプロピルアルコール))を用いた。具体的には、アルコールを染み込ませた布で、基材の表面を拭いた。
【0039】
(2.2)プライマーの塗布
実験例1,4では、基材の表面にプライマーを塗布し、乾燥した。プライマーとして、日本製紙株式会社製の商品名アウローレンAE301(特殊変性ポリオレフィン樹脂)を用いた。
実験例2,3では、プライマーを塗布しなかった。
【0040】
(2.3)コーティング剤の塗布(トップコートの塗布)
実験例1,4では、プライマーを塗布した基材の表面に(1.2)の欄で調製したコーティング剤を塗布した。その後、基材を乾燥させて評価サンプルとした。
実験例2,3では、基材の表面に(1.2)の欄で調製したコーティング剤を塗布した。その後、基材を乾燥させて評価サンプルとした。
【0041】
2.評価方法
評価サンプルに対して表4に記載の各種評価をした。
(1)外観の評価
塗膜の表面を目視した。外観は、以下の基準で評価した。
A:塗膜に、はじき、白化、割れのいずれもなく、無色透明であり、外観が良好である。塗膜は光沢を有する。
A’:塗膜に、はじき、白化、割れのいずれもなく、無色透明であり、外観が良好である。塗膜は艶消し(マット調)である。
B:塗膜に、はじき、白化、割れのいずれかがあり、外観が不良である。
【0042】
(2)塗膜の基材への密着性(碁盤目試験)
JIS K 5600-5-6に準拠し、上記塗膜を2mm×2mmの碁盤目(10×10=100マス)にクロスカットし、この上に付着テープを張り付けて、引き剥し、100マス中、剥離せず密着しているマス目の個数を、目視で数え、以下の基準で評価した。100/100は、塗膜のはく離面積が0%である場合を示し、例えば、90/100は、塗膜のはく離面積が10%である場合を示し、50/100は、塗膜のはく離面積が50%である場合を示す。
【0043】
(3)抗ウィルス性の評価
抗ウィルス活性値は、ISO 21702:2019のプラーク測定法によって測定した。試験ウィルスとしてはAインフルエンザウィルス(H3N2)(A/Hong Kong/8/68;TC adapted ATCCVR-1679)を用い24時間後のウィルス感染価を測定した。ブランクフィルムとのウィルス感染価の差を抗ウィルス活性値とした。抗ウィルス活性値は2.0以上であれば、抗ウィルス性は良好である。試験概要を以下に示す。
<試験概要>
・試験ウィルス:Aインフルエンザウィルス(H3N2)(A/Hong Kong/8/68;TC adapted ATCCVR-1679)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)
・洗い出し液:SCDLP培地
・放置条件:放置温度 25℃
放置時間 24時間
・サンプルサイズ:5cm×5cm
・密着フィルム:PETフィルム(4cm×4cm)
・試験ウィルス懸濁液接種量:0.4mL
・試験片の洗浄化:試験片の全面を純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭いた後、十分に乾燥させた。
【0044】
抗ウィルス性は、評価サンプルに対して表4に記載の耐久試験を行った後に、抗ウィルス活性値を測定することで評価した。尚、耐久試験前(初期)の抗ウィルス活性値も測定した。
表4に記載の「初期」は、初期の状態の塗装品を評価した。即ち、塗装後の塗装品をそのまま評価した。
表4に記載の「耐水試験後」は、塗装品を常温(22℃)の水に16時間浸漬させた後の塗装品について評価した。
表4に記載の「耐アルコール試験後」は、塗装品をイソプロピルアルコールに10分間浸漬させた後の塗装品について評価した。
表4に記載の「耐摩耗試験後」は、塗装品の塗膜の表面に対し、接触子として台布巾を用いて、試験片245Paの圧力(5cm×5cmの面積当たりに1kgfの荷重)をかけて、摺動摩耗試験機により1500回の摩擦を加えた。この後に、上述の抗ウィルス試験を行い、摩耗後の塗装品について評価した。
【0045】
3.結果
(1)外観
評価結果を表4に併記する。実験例1,2,3,4は、いずれも外観が良好であった。実験例1,2,3,4は、黄色味を帯びておらず、光沢感を有していた。
【0046】
(2)塗膜の基材への密着性
実験例1,2,3,4は、碁盤目試験の結果が100/100であり、塗膜の基材への密着性が非常に良好であった。
【0047】
(3)抗ウィルス性
実験例1,2,3,4は、初期において抗ウィルス活性値が3.5よりも大きく、抗ウィルスが良好であった。
実験例1,2,3,4は、各種耐久試験後(耐水試験後、耐アルコール試験後、耐摩耗試験後)においても抗ウィルス活性値が2.0以上であり、抗ウィルス性は良好に持続していた。抗菌抗ウィルス剤(4級アンモニウム塩)が共有結合により強固に固定されたためと推測される。
【0048】
<<実験B>>
以下の実験を行った。
実験例5は本願の実施例に相当する。実験例6は本願の比較例に相当する。
1.実験例の評価サンプルの作製
実験例5の評価サンプルは、PP(ポリプロピレン)の基材を用いたこと以外は、実験Aの実験例1と同様に作製した。
実験例6の評価サンプルは、PP(ポリプロピレン)の基材を用いて、特開2015-067657号(特許第6141162号)の実施例1と同様に作製した。実験例6の評価サンプルでは、多価カルボン酸と4級アンモニウム塩とがイオン結合した塗膜が形成されている。
【0049】
【0050】
2.評価方法
評価サンプルに対して表5に記載の各種評価をした。
(1)外観の評価
実験Aと同様に評価した。
【0051】
(2)抗ウィルス性の評価
実験Aと同様に評価した。
【0052】
(3)抗菌性の評価
抗菌性の評価は、JIS Z 2801:2012記載の評価方法に準拠し、大腸菌を使用し、菌液への接触時間を4時間に変更して試験を実施した。試験後の抗菌活性値を測定した。抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌性は良好である。
表5に記載の「初期」は、初期の状態の塗装品を評価した。即ち、塗装後の塗装品をそのまま評価した。
表5に記載の「耐水試験後」は、塗装品を常温(22℃)の水に16時間浸漬させた後の塗装品について評価した。
表5に記載の「耐アルコール試験後」は、塗装品をエタノールに10分間浸漬させた後の塗装品について評価した。
表5に記載の「耐摩耗試験後」は、塗装品の塗膜の表面に対し、接触子として台布巾を用いて、試験片245Paの圧力(5cm×5cmの面積当たりに1kgfの荷重)をかけて、摺動摩耗試験機により15000回の摩擦を加えた。この後に、上述の抗菌試験を行い、摩耗後の塗装品について評価した。
【0053】
3.結果
(1)外観
評価結果を表5に併記する。実験例5は、塗膜が光沢感を有しており、外観が良好であった。実験例6は、塗膜がマット調であった。
【0054】
(2)抗ウィルス性
実験例5,6は、初期において抗ウィルス活性値が3.5以上であり、抗ウィルスが良好であった。
【0055】
(3)抗菌性
実験例5は、各種耐久試験後(耐水試験後、耐アルコール試験後、耐摩耗試験後)においても抗菌活性値が2.0以上であり、抗菌性を良好に持続していた。抗菌抗ウィルス剤(4級アンモニウム塩)が共有結合により固定されたためと推測される。
実験例6では、耐アルコール試験後及び耐摩耗試験後に、初期と比べて抗菌性能が著しく低下した。これは、実験例6では、抗菌抗ウィルス剤(4級アンモニウム塩)の固定がイオン結合で弱いためと考えられる。耐久試験後の抗菌性能が低下するということは、抗菌抗ウィルス剤が溶出や欠損しているからと推測される。よって、実験例6は、耐アルコール試験後及び耐摩耗試験後では、抗ウィルス性能も低下していると推測される。