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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164192
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】表面処理鋼箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20231102BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20231102BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20231102BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20231102BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20231102BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231102BHJP
   C22C 38/28 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C25D7/06 Z
C25D5/26 A
C25D5/48
C25D5/50
C25D7/00 G
C22C38/00 301T
C22C38/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075594
(22)【出願日】2022-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 直治
(72)【発明者】
【氏名】桂 啓志
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
(72)【発明者】
【氏名】松重 大輔
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA02
4K024AA03
4K024AA04
4K024AA09
4K024AB01
4K024AB02
4K024AB09
4K024AB19
4K024BA03
4K024BB25
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CB12
4K024DB01
4K024DB07
4K024GA04
(57)【要約】
【課題】高い降伏点強度と疲労強度を備えた表面処理鋼箔を提供する。
【解決手段】鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に形成され、鉄ニッケル合金層と、を有し、前記鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、前記鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<101>極密度より大きい、ことを特徴とする表面処理鋼箔。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の面に形成され、鉄ニッケル合金層と、を有する表面処理鋼箔であって、
前記表面処理鋼箔の鉄ニッケル合金層を有する面の最表面に鉄ニッケル合金またはニッケルが存在し、
前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、
前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面おける圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<101>極密度より大きい、
ことを特徴とする表面処理鋼箔。
【請求項2】
前記圧延方向の逆極点図の<111>極密度が3.0未満である、請求項1に記載の表面処理鋼箔。
【請求項3】
前記鉄ニッケル合金層を有する面におけるニッケル(220)面または鉄ニッケル合金の(220)面の結晶子径が45nm以下である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項4】
前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面おける圧延方向の逆極点図の<001>極密度が1.3以上である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項5】
内部に含まれるφ50μm以上の大きさの非金属介在物の個数が、50個/千m以下である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項6】
前記鋼板の両面に鉄ニッケル合金層が形成されている、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項7】
引張強度が400MPa以上550MPa以下である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項8】
降伏点強度が360MPa以上である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項9】
伸び率が3%以上である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項10】
前記鉄ニッケル合金層を有する面において、ニッケル付着量が1.5g/m~30.0g/mである、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項11】
厚みが100μm未満である、請求項1又は2に記載の表面処理鋼箔。
【請求項12】
基材の少なくとも片面上に付着量1.5g/m~70.0g/mでニッケルめっき層を形成してニッケルめっき材とするニッケルめっき工程、
前記ニッケルめっき材に熱処理を施して鉄ニッケル合金を形成する一回目熱処理工程、
前記鉄ニッケル合金を有するニッケルめっき材を圧延する第1圧延工程、
前記第1圧延工程の後に500℃~650℃、4時間から80時間の加熱条件で熱処理を施す二回目熱処理工程、
を有することを特徴とする、表面処理鋼箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理鋼箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルめっき鋼板は、耐熱性、耐電解液性、耐食性、強度、加工性等の特性が求められる用途において用いられている。例えば、携帯電話、ノート型PC、車載用等に採用される二次電池として、ニッケル水素電池、ニッケル-カドミウム電池、リチウムイオン電池、等が知られている。これらの二次電池では、そのケースや集電体等の材料としてニッケルめっきした表面処理鋼箔が使用されている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、二次電池のケースや集電体等の材料として用いられるニッケルめっき鋼箔が開示されている。これらの文献では、強度があること、軽量であること、過放電時の耐金属溶出性に優れること、等の課題を満たすニッケルめっき鋼箔を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6140611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ニッケルめっき鋼箔は一般に耐食性を有する材料として知られているが、近年高機能性材料が求められる中で、ニッケルめっき鋼箔に対してもより高い耐食性が求められている。また同時に、より高い疲労強度や加工性も同時に求められており、これらの特性を兼ね備えたニッケルめっき鋼箔は、上記公知文献に開示の技術によっても実現可能なものではなかった。
【0006】
本発明は、かような課題を解決することを鑑みてなされたものであり、より高い耐食性を有する表面処理鋼箔を提供することを目的とする。またさらに、より高い疲労強度及び加工性を同時に備えた表面処理鋼箔を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における表面処理鋼箔は、(1)鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に形成され、鉄ニッケル合金層と、を有する表面処理鋼箔であって、前記表面処理鋼箔の鉄ニッケル合金層を有する面の最表面に鉄ニッケル合金またはニッケルが存在し、前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面おける圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<101>極密度より大きい、ことを特徴とする。
【0008】
また上記(1)における表面処理鋼箔は、(2)前記圧延方向の逆極点図の<111>極密度が3.0未満であることが好ましい。
【0009】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(3)前記鉄ニッケル合金層を有する面におけるニッケル(220)面または鉄ニッケル合金の(220)面の結晶子径が45nm以下であることが好ましい。
【0010】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(4)前記鉄ニッケル合金層を有する面の最表面おける圧延方向の逆極点図の<001>極密度が1.3以上であることが好ましい。
【0011】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(5)内部に含まれるφ50μm以上の大きさの非金属介在物の個数が、50個/千m以下であることが好ましい。
【0012】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(6)前記鋼板の両面に鉄ニッケル合金層が形成されていることが好ましい。
【0013】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(7)引張強度が400MPa以上550MPa以下であることが好ましい。
【0014】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(8)降伏点強度が360MPa以上であることが好ましい。
【0015】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(9)伸び率が3%以上であることが好ましい。
【0016】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(10)前記鉄ニッケル合金層を有する面において、ニッケル付着量が1.5g/m~30.0g/mであることが好ましい。
【0017】
上記(1)又は(2)における表面処理鋼箔は、(11)厚みが100μm未満であることが好ましい。
【0018】
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における表面処理鋼箔の製造方法は、(12)基材の少なくとも片面上に付着量1.5g/m~70.0g/mでニッケルめっき層を形成してニッケルめっき材とするニッケルめっき工程、前記ニッケルめっき材に熱処理を施して鉄ニッケル合金を形成する一回目熱処理工程、前記鉄ニッケル合金を有するニッケルめっき材を圧延する第1圧延工程、前記第1圧延工程の後に500℃~650℃、4時間から80時間の加熱条件で熱処理を施す二回目熱処理工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より高い耐食性を有する表面処理鋼箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態の表面処理鋼箔を模式的に示した図である。
図2】本発明の他の実施形態の表面処理鋼箔を模式的に示した図である。
図3】本発明の他の実施形態の表面処理鋼箔を模式的に示した図である。
図4】本発明の実施形態の表面処理鋼箔の製造方法を示したフローチャートである。
図5】本発明の他の実施形態の表面処理鋼箔の製造方法を示したフローチャートである。
図6A】EBSD法によって計算した、本発明の実施形態の逆極電図の一例を示す図であり、具体的には実施例1表面の鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図である。圧延方向はRDとも示す。
図6B】本発明の実施形態の表面の極密度を求めるための方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪表面処理鋼箔10≫
以下、本発明の表面処理鋼箔を実施するための実施形態について説明する。図1は、本発明の表面処理鋼箔10の一実施形態を模式的に示した図である。
【0022】
本実施形態の表面処理鋼箔10は、基材20、及び鉄ニッケル合金層30を有する。なお図1に示される表面処理鋼箔10はその片面に鉄ニッケル合金層30を有しているがこれに限られるものではなく、図2のように基材20の両面に鉄ニッケル合金層30を有していてもよい。
また鉄ニッケル合金層30は、図1に示されるように表面処理鋼箔10の最表面に配置されていてもよいし、図示はしないが鉄ニッケル合金層30の基材20とは反対側に別の金属層が形成されていてもよい。
【0023】
<基材20>
本実施形態の表面処理鋼箔10に使用される基材20としては圧延鋼板が使用される。種類としては具体的には、低炭素アルミキルド鋼に代表される低炭素鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%未満の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼が好適に用いられる。
【0024】
本実施形態の表面処理鋼箔10に使用される基材20の厚さとしては、10μm~100μm未満の範囲が好適である。体積および重量エネルギー密度の観点を重視した電池の集電体として用いる場合は、強度の観点、及び、望まれる電池容量の観点、等より、より好ましくは25μm~100μm未満、さらに好ましくは30μm~80μmである。基材20の厚さは、光学顕微鏡もしくは走査電子顕微鏡(SEM)の断面観察による厚み測定が適用可能である。
【0025】
ここで、基材20の成分組成の一例を次に示す。
基材20のうち主要な元素はFeである。その他の成分として、C:0.0001~0.15重量%、Si:0.001~0.5重量%、Mn:0.01~1.0重量%、P:0.001~0.05重量%、S:0.0001~0.02重量%、Al:0.0005~0.20重量%、N:0.0001~0.0040重量%、等が含まれる。
その他、付加成分として、Ti、Nb、B、Cu、Ni、Sn、及びCrなどが含有されていてもよい。例えばCの含有量が0.001~0.01重量%の範囲においては、Ti:0.01~0.1重量%、Nb:0.001~0.05重量%の範囲で1種または2種を含有させてもよい。また、本実施形態に係る基材20はCrが10.5%未満の鋼板がより好ましい。
その他、製造時に不可避的に混入してしまう不純物を含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態において、基材20としては、内部に含まれるφ50μm以上の大きさの非金属介在物の個数が、50個/千m以下であることが好ましい。なお微小な非金属介在物(non-metallic inclusion)は、微小内部欠陥検出器を用いて漏洩磁束探傷法により検出することが可能である。微小内部欠陥検出器としては、「東洋鋼鈑 Vol.33 17~22ページ」に開示された装置(新型IDD)を用いる事ができる。
【0027】
<鉄ニッケル合金層30>
本実施形態の表面処理鋼箔10に含まれる鉄ニッケル合金層30は、鉄(Fe)とニッケル(Ni)が含まれる合金層であり、鉄とニッケルからなる合金(「鉄-ニッケル合金」、「Fe-Ni合金」とも称する)が含まれる合金層である。なおこの鉄とニッケルからなる合金の状態としては、固溶体、共析・共晶、化合物(金属間化合物)のいずれであってもよいし、それらが共存していてもよい。
【0028】
本実施形態の表面処理鋼箔10に含まれる鉄ニッケル合金層30は、本発明の課題を解決し得る限り、他の金属元素や不可避の不純物を含んでいてもよいが、NiまたはFeNiの結晶格子の阻害とならない量であることが必要である。例えば、鉄ニッケル合金層30中には、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)等の金属元素やホウ素(B)等の添加元素が含まれていてもよい。なお、鉄ニッケル合金層30中の鉄(Fe)とニッケル(Ni)以外の金属元素の割合は、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下が好ましい。鉄ニッケル合金層30は実質的に鉄とニッケルのみから構成される二元合金であってもよいため、不可避不純物を除く他の金属元素の含有割合の下限は0重量%である。
含有される他の金属元素の種類及び量は、蛍光X線(XRF)測定装置、グロー放電発光表面分析法(GDS)またはオージェ電子分光法(AES)等の公知の手段により測定することが可能である。
【0029】
本実施形態の表面処理鋼箔10に含まれる鉄ニッケル合金層30は次の工程を経て形成される。基材となる原板上にニッケルめっき層を形成してニッケルめっき材とする工程(ニッケルめっき工程)、ニッケルめっき材に熱処理を施す工程(一回目熱処理工程)、熱処理後のニッケルめっき材を圧延する工程(第1圧延工程)、二回目の熱処理を施す工程(二回目熱処理工程)、をこの順に経る。
なお、上記「第1圧延工程」における圧延は、基材となる原板の圧延(ホットコイルからの冷間圧延)と差別化する意味合いにおいて「再圧延」とも称するものとする。
また上記「二回目熱処理工程」における熱処理を単に「二回目熱処理」とも称するものとする。二回目熱処理工程の後に、後述する極密度の関係性の構成範囲を外れない程度の圧延を施す工程(第2圧延工程)を経てもよい。しかしながら本実施形態の表面処理鋼箔10の製造方法は、上述した製造方法に限定されるものではない。
【0030】
ニッケルめっきとしては、例えば電解めっき、無電解めっき、溶融めっき、乾式めっき等の方法が挙げられる。このうち、コストや膜厚制御等の観点より特に電解めっきによる方法が好ましい。なお本実施形態の表面処理鋼箔の製造方法について、詳細は後述する。
【0031】
(極密度)
本実施形態の表面処理鋼箔10は、鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図において、<001>極密度と<111>極密度との関係が一定の条件を満たすこと、及び、<001>極密度と<101>極密度との関係が一定の条件を満たすこと、を特徴とする。
すなわち、鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、<001>極密度が<101>極密度より大きい、ことを特徴とする。この両条件を満たすことにより、耐食性を向上させることができる。なお本明細書中において、圧延方向の逆極点図を、単に逆極点図と記すことがある。
【0032】
本実施形態において、以下に限定されるものではないが、<001>極密度は好ましくは1.3以上であり、より好ましくは2.1以上であり、さらに好ましくは2.2以上である。上限値は特に限定されないが、通常6.0以下であり、好ましくは5.0以下である。一方で、本実施形態において<111>極密度は3.0未満であることが好ましく、さらに2.0未満であることがより好ましい。なお<101>極密度は典型的には0.1~2.0である。
【0033】
以下、耐食性と極密度との関係について説明する。一般的なニッケルめっき鋼板において、鋼板のRD方向におけるニッケルめっき面の逆極点図は<101>極密度が大きく、優先方位となることが多い。一方で、圧延後や引張加工後においては、RD方向において、<111>極密度が大きく優先方位となる事が多い。これは、すべり面である{111}において、すべり変形を生じ結晶が回転した結果の形態であるため、このような優先方位を持つ場合に結晶内に大きな歪を含有した状態にある事が容易に推測できる。
【0034】
後述する製造方法により得られた本実施形態の表面処理鋼箔において、ニッケルめっき量、1回目熱処理条件、第1圧延、2回目熱処理を経たニッケルめっき層、または、上記工程且つ、第2圧延を経たニッケルめっき層は、加工歪み、回復、再結晶等の影響を複雑に受けた結果により優先方位を呈する事となる。本実施形態の圧延方向の<001>極密度が大きい状態であることは、すなわち、腐食の起点となりうる格子歪みを相対的に低減した状態であるため、耐食性に優れるものになると考えられる。またこの状態は、更なる加工変形に対する許容量が大きいとも言えるため、複雑形状へ加工に対応できる可能性が高いのである。このようにして、耐食性、降伏点強度、および伸びを高次元でバランスさせる事が可能になっていると考えられる。ただし、これは必ずしもメカニズムが明らかとなったものでは無い。
【0035】
本実施形態において、「鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図」とは、表面処理鋼箔10の鉄ニッケル合金層30が設けられた側の面において、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱解析)測定における結晶方位解析において、圧延方向(RD方向)の逆極点図を測定した結果を示す。この際、結晶方位解析は公知の解析ソフト(例えば、TSLソリューションズ社製のOIM Analysis)を用いて行われる。なお、極密度が高いほど、その方位の配向性が高いことを示す。
【0036】
(結晶子径)
さらに本実施形態において、前記鉄ニッケル合金層を有する面におけるニッケル(220)面または鉄ニッケル合金の(220)面の結晶子径が45nm(450Å)以下であることが好ましい。なお結晶子とは、微結晶の単結晶と見なせる最大の集まりを言う。
本実施形態においては、結晶子径を45nm以下とした場合に、得られる表面処理鋼箔に高い疲労強度を付与することが可能となることを見いだした。すなわち本実施形態の表面処理鋼箔は、前記鉄ニッケル合金層を有する面におけるニッケル(220)面または鉄ニッケル合金の(220)面の結晶子径が45nm以下であるため、降伏点強度が高まり、疲労強度の向上を実現することが可能となる。また、上記特徴により副次的に降伏点伸びを抑えることが可能となるため、加工性により優れる材料を実現することが可能となる。
なお結晶子径の下限としては特に制限はないが、小さすぎるとニッケル皮膜が硬くなりすぎる可能性があるため5nm以上であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の表面処理鋼箔10において前記鉄ニッケル合金層を有する面における結晶子径は、以下の式を用いてX線回折によるピーク半値幅より求められる。X線回折の測定は、例えば公知のX線回折装置を用いて行われる。結晶子径の算出は2θ=72~79°度に現れる鉄ニッケル合金の(220)面のピークを用いる。
D=K×λ/(β×cosθ)
D:結晶子径
K:Scherrer定数(K=0.94を使用)
λ:使用X線の波長
β:結晶子の回折X線の半値幅
θ:ブラッグ角
【0038】
(表面処理鋼箔10の厚み)
次に、本実施形態における表面処理鋼箔10全体の厚みについて説明する。
本実施形態における表面処理鋼箔10の全体の厚みは、100μm未満であることが好適である。また、強度の観点、及び、望まれる電池容量の観点、等より、より好ましくは10μm以上100μm未満、さらに好ましくは25μm以上100μm未満、特に好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0039】
なお、本実施形態における「表面処理鋼箔10の厚み」とは、マイクロメーターでの厚み測定が好適である。
【0040】
(ニッケル付着量)
本実施形態の表面処理鋼箔10において、鉄ニッケル合金層30を有する面におけるニッケルの付着量は1.5g/m~30.0g/mであることが、降伏点強度と疲労強度の観点から好ましい。同じ観点から、ニッケルの付着量の下限値は、3.0g/mであることがより好ましく、5.0g/mであることがさらに好ましく、10.0g/mであることが特に好ましい。またニッケルの付着量の上限値は、25.0g/mであることがより好ましく、20.0g/mであることがさらに好ましく、17.5g/mであることが特に好ましい。
【0041】
また、本実施形態の表面処理鋼箔10において、鉄ニッケル合金層30は図2に示されるように基材20の両面に形成されていてもよく、その場合、前記両方の面側のニッケルの付着量が、合計で3.0~60.0g/mであることが好ましい。
上述のニッケル付着量は、鉄ニッケル合金層30について蛍光X線装置を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
【0042】
本実施形態においては、鉄ニッケル合金層30は光沢剤を添加しない層であってもよいし、光沢剤(半光沢用の光沢剤も含む)を添加して形成される層であってもよい。
なお、上記した「光沢」又は「無光沢」は、目視外観上の評価に依拠しており厳密な数値での区分けは困難である。さらには後述する浴温などの他のパラメータに依っても光沢度合いが変化し得る。従って、本実施形態で用いる「光沢」「無光沢」は、あくまでも光沢剤の有無に着目した場合の定義付けである。
【0043】
(引張強度)
本実施形態の表面処理鋼箔10の引張強度は、300MPa以上750MPa以下となることが考えられるが、より好ましい降伏点強度と脆性の観点からは、350MPa以上590MPa以下が好ましく、特に400MPa以上550MPa以下であることが好ましい。
なお本実施形態において表面処理鋼箔10の引張強度は、例えば以下のように測定を行うことが可能である。JIS Z 2241の5号片の金属片の打ち抜きを行う。そしてこの試験片で、JIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行うことが可能である。
【0044】
(降伏点強度)
本実施形態の表面処理鋼箔10において、降伏点強度は200MPa以上720MPa以下となることが考えられるが、後の加工性等の観点からは降伏点強度は360MPa以上であることが好ましい。また、脆性の観点からは550MPa以下であることが好ましい。なお降伏点強度は、例えば上記引張強度と同様の装置により測定を行うことが可能である。
【0045】
(伸び率)
本実施形態の表面処理鋼箔10の伸び率は、1%以上35%以下であることが考えられるが、より好ましい降伏点強度と疲労強度の観点からは、伸び率の下限が特に3%以上であることが好ましい。なお、伸び率は35%以下であればよいが、通板時や加工時のストレッチャーストレイン抑制のためには、降伏点伸びが0.5%以下が好ましい。降伏点伸びの下限値は0である。なお本実施形態における表面処理鋼箔10の伸び率は、JIS Z2241(金属材料引張試験方法)に従って測定された値をいうものとする。
【0046】
本実施形態の表面処理鋼箔10は、内部に存在する微小な非金属介在物(non-metallic inclusion)が50個/千m以下であることが好ましい。なお微小な非金属介在物(non-metallic inclusion)は、微小内部欠陥検出器を用いて漏洩磁束探傷法により検出することが可能である。微小内部欠陥検出器としては、「東洋鋼鈑 Vol.33 17~22ページ」に開示された装置(新型IDD)を用いる事ができる。
【0047】
本実施形態における表面処理鋼箔10は、図3に示すように、前記鉄ニッケル合金層30上に形成される金属層40をさらに有していてもよい。前記金属層40を構成する金属材料としては、例えば、ニッケル、クロム、チタン、銅、コバルト、鉄、等が挙げられる。このうち、耐食性や強度に優れているという理由により特にニッケル又はニッケル合金が好ましい。
【0048】
また、本実施形態の表面処理鋼箔10においては、図示はしないがさらに最表面に粗化ニッケル層50が形成されていてもよい。なお、上述の金属層40が粗化ニッケル層であってもよいし、上述の金属層40上に粗化ニッケル層が形成されていてもよい。
粗化ニッケル層については例えば本出願人らの出願(WO2021/020338号公報等)に記載されているため詳細は省略する。
【0049】
≪表面処理鋼箔の製造方法≫
本実施形態の表面処理鋼箔10の製造方法の例を、図を用いて説明する。
【0050】
本実施形態の製造方法の一例としては、図4に示されるように、基材となる原板上にニッケルめっき層を形成してニッケルめっき材とする工程(STEP A:ニッケルめっき工程)、ニッケルめっき材に熱処理を施す工程(STEP B:一回目熱処理工程)、
熱処理後のニッケルめっき材を圧延する工程(STEP C:第1圧延工程)、二回目の熱処理を施す工程(STEP D:二回目熱処理工程)、をこの順に有している。
【0051】
本実施形態の製造方法により得られた表面処理鋼箔は、ニッケルめっき層中に基材20(原板)の鉄が拡散して鉄ニッケル合金層30が形成されると共に、鉄ニッケル合金層30を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、前記鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<101>極密度より大きいものとなる(以下、「極密度の関係性」とも称する)。
【0052】
また、STEP Dの後に、STEP CとSTEP Dを繰り返してもよい。
なお、上記「第1圧延工程」における圧延は、原板の圧延と差別化する意味合いにおいて「再圧延」とも称するものとする。
また上記「二回目熱処理工程」における熱処理を単に「二回目熱処理」とも称するものとする。
【0053】
また、図5に示されるように、さらなる厚み調整や調質等の目的のため、第2圧延工程(STEP E)をさらに順に有していてもよい。なおこの第2圧延工程を経た場合でも、上記の極密度の関係性を満たすことが好ましい。
STEP D または STEP Eの後に、図示はしないが、再めっき工程、粗化ニッケル層形成工程、等の工程を有していてもよい。
以下、各工程につき詳細に説明する。
【0054】
<事前工程>
まず、原板となる鋼板を用意する。
ここでいう原板とは、後述する各工程を経て表面処理鋼箔となった際の基材部分となる鋼の、下記圧延前の鋼板である。よって、基材と同様に、原板となる鋼板は、低炭素鋼または極低炭素鋼であることが好ましい。また、原板は冷延鋼板であることが好ましい。
なお、原板となる鋼板の成分組成について、特にS(硫黄、以降硫黄とも示す)の含有量が0.0001重量%~0.02重量%であることが、得られる表面処理鋼箔のニッケル皮膜の耐食性等の観点からは好ましい。Sの含有量の上限は、より好ましくは0.018重量%であり、さらに好ましくは0.015重量%である。
【0055】
原板の厚みは特に制限はないが、後述する第1圧延工程の後に鋼箔と称される程度の厚みのものを得るためには、原板は150~500μmであることが好ましい。
後述する第1圧延工程の後に120μm以下の箔を得るためには、原板の厚みは400μm以下であることがより好ましい。これは、原板が薄い方が圧延の際の圧下を緩和し、鉄の露出を防ぎやすいためである。
後述する第1圧延工程の後に100μm未満の箔を得るためには、原板の厚みは350μm以下であることがさらに好ましく、300μm以下であることが特に好ましい。
なお原板として冷延鋼板が使用される場合、一般的に冷延鋼鈑の加工硬化除去のために施される「焼きなまし」は、後述するニッケルめっき工程の前に行うことができる。
また、本実施形態では、この冷延鋼鈑の「焼きなまし」は省略することも可能であるが、これは後述するニッケルめっきの軟質化を主目的とする一回目熱処理工程において、冷延鋼鈑の加工硬化除去を同時に行うことができるからである。
【0056】
<STEP A:ニッケルめっき工程>
ニッケルめっき工程は、後述する二回目熱処理で形成する鉄ニッケル合金層30を形成するために必要なニッケルを、ニッケルめっき層として上述の原板の少なくとも片面上に付与する工程である。
このニッケルめっき工程において、原板に付与するニッケルめっき付着量としては片面あたり1.5g/m~70.0g/mが好ましい。より好ましくは両面に片面あたり10g/m以上~70g/m以下のニッケルめっきを施し、かつ、少なくとも片面側が片面あたり5g/m以上とすることがさらに好ましく、10g/m以上とすることが特に好ましい。なお、上限は70g/m以下がより好ましく、65g/m以下がさらに好ましい。
【0057】
ニッケルめっき付着量が70g/mを超える場合、生産性が悪い上に、1回目熱処理工程を経たとしても、第1圧延工程の際に箔全体の伸びの不足により、箔が破断する可能性がある。
一方で、ニッケルめっき付着量が5g/m未満の場合、最終的に二回目熱処理工程の後で得られる鉄ニッケル合金層30中のニッケルが不足し、極密度の関係性を満たさず、又は、好ましい降伏点強度と疲労強度を得られない可能性がある。
【0058】
上記ニッケルめっき工程において、電解めっきによるめっき条件等は、公知の条件を適用することができる。以下に、めっき条件の例を示す。
【0059】
[ニッケルめっき浴及びめっき条件の一例]
・浴組成:公知のワット浴
硫酸ニッケル六水和物:200~300g/L
塩化ニッケル六水和物:20~60g/L
ほう酸:10~50g/L
浴温:40~70℃
pH:3.0~5.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度:5~30A/dm
なお、浴組成については、上記のワット浴の他、公知のスルファミン酸ニッケル浴やクエン酸浴を用いてもよい。さらに公知の光沢剤などの添加物をめっき浴に添加して、光沢ニッケルめっき又は半光沢ニッケルめっきとしてもよい。
【0060】
<STEP B:一回目熱処理工程>
次に、一回目熱処理工程について説明する。一回目熱処理工程は、上述のニッケルめっき工程の後に最初に行われる熱処理工程であり、還元雰囲気下で行われる。この一回目熱処理工程は、後述する圧延工程に先立ち、上述のニッケルめっき工程で形成されたニッケルめっき層を軟質化することを主な目的とする工程である。
【0061】
ニッケルめっき後に熱処理を施さずに圧延する場合、調質圧延程度であれば問題ないが、箔の製造として、0.15~2.0mmの原板から、圧下率が35%を超えるような圧下を施し10μm~200μmの表面処理金属箔を得るような場合には、ニッケルめっき層のままでは硬質すぎて箔が製造できなかったり、ニッケルめっき層が剥離したりするため、目的の鉄ニッケル合金層を有する表面処理鋼箔が製造できない。そこで、ニッケルめっき層を軟質化することを目的として熱処理を行う。
【0062】
一回目熱処理工程の熱処理条件としては、ニッケルめっき層のニッケルが、後述の第1圧延工程が可能な程度に十分に軟質化する条件を適用可能である。例えば公知のバッチ焼鈍(箱型焼鈍)または連続焼鈍における熱処理条件を適用できる。
【0063】
連続焼鈍処理の場合の温度と時間の一例として、600℃~950℃で、均熱時間15秒~150秒の範囲内で行うことが好ましい。これより低温又は短時間の場合、軟質化が不十分となり、その後の第一圧延工程での圧延の際に箔が形成しにくくなる可能性があり好ましくない。一方で、上記熱処理範囲より高温又は長時間の場合、基材となる鋼箔などの機械的性質の変化が大きく、著しく強度が低下してしまうこと、あるいはコスト的な観点から、好ましくない。
また、十分な軟質化のためには均熱時間20秒~150秒がより好ましい。
【0064】
バッチ焼鈍(箱型焼鈍)処理の場合の温度と時間の一例として、450℃~690℃で、均熱時間が1.5時間~20時間、加熱・均熱および冷却時間を合わせた合計時間が4時間~80時間の範囲内で行うことが好ましい。これより低温又は短時間の場合、軟質化が不十分となり、その後の第一圧延工程での圧延の際に箔が形成しにくくなる可能性があり好ましくない。一方で、上記熱処理範囲より高温又は長時間の場合、基材となる鋼箔などの機械的性質の変化が大きく、著しく強度が低下してしまう可能性があること、あるいはコスト的な観点から、好ましくない。
【0065】
ただし、ニッケルめっきの付着量が片面あたり10g/m以下、特に片面側が6g/m以下の少なめの場合には、高温または長時間の熱処理をすると、二回目熱処理の際に基材の鉄からのFeの拡散が進み、耐食性が低下する恐れがあるため、たとえば780℃未満の連続焼鈍が好ましく、より好ましくは750℃未満である。
【0066】
なお、この一回目熱処理工程を経た時点で、原板の鉄とニッケルめっき層のニッケルが熱により相互拡散し、鉄ニッケル拡散層が形成される。すなわち上述のニッケルめっき工程においてニッケルめっきが施された面は、一回目熱処理工程を経た時点では、鉄ニッケル拡散層、または、鉄ニッケル拡散層および軟質ニッケル層が形成される。つまり、本実施形態において鉄ニッケル拡散層とは、上記極密度の関係性の特徴を満たさない、鉄とニッケルの熱処理で得られた合金層を指すものである。また本実施形態において軟質ニッケル層とは、原板の鉄がニッケルめっき層のニッケル中に、熱処理により拡散されていない、軟質化されたニッケルの層を指すものである。
【0067】
なお、本実施形態において上記極密度の関係性は、後述する二回目熱処理工程を経た時点で満たされていればよい。従って、この一回目熱処理工程を経た時点では、上記極密度の関係性は満たされていてもよいし、満たされていなくてもよい。
【0068】
なお、この一回目熱処理工程を経た後の熱処理後鋼板の厚みは、ニッケルめっき工程後のニッケルめっき鋼板の厚みと変わらない。
【0069】
<STEP C:第1圧延工程>
次に、本実施形態の製造方法における第1圧延工程について説明する。本実施形態における第1圧延工程は、上記ニッケルめっき工程および一回目熱処理工程を経た後の熱処理後のニッケルめっき材を圧延する工程である。この第1圧延工程は、所望の箔の厚さを得ること、又は、後述する第2圧延工程を経た時点で所望の厚さの箔を得るために前もって問題のない程度の厚さを得ること、が目的とされる。
【0070】
この第1圧延工程における圧下率としては、35%以上であることが好ましい。35%以上とすることで、好ましい降伏点強度と疲労強度を有する表面処理鋼箔を得ることが可能となる。圧下率はより好ましくは50%以上である。
ただし、圧下率が高くなるほど格子歪が多くなり極密度の関係性を満たさなくなるため、85%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは78%以下、特に好ましくは75%以下である。
【0071】
この第1圧延工程において作用する圧延ロールは、1組でもよいし、複数組みでもよい。通常圧延機は、板を薄くするのに直接的に作用する上下のロール、すなわち圧延ロールと、通板のためのロールとが複数組み合わされて構成されている。圧延の際には、圧延に作用する圧延ロールが1組である場合も、複数の圧延ロールが作用する場合もある。本実施形態において、第1圧延工程において作用する圧延ロールは1組または複数組みのいずれでもよく、また、たとえば圧延ロール3組を2回通板して合計6組の圧延ロールで圧延するなどしてもよい。一般的に圧延ロールを通す回数が増加すると、圧延の際に加工硬化による不具合が生じやすくなる。そのため、圧延に作用する圧延ロール6組以下が好ましく、より好ましくは4組以下である。なお、ここで圧延ロール1組とは、直接板に触れ、かつ、そのロールの前後で厚みが変化する上下のロールを対象に数える。
【0072】
また上述の圧下率とは、第1圧延工程の前後における厚みから得られる圧下率を指す。つまり、圧延ロール3組を2回通板する際は、1回目の通板前の厚みと、2回目の通板後の厚みとから求められる圧下率を指す。
【0073】
第1圧延工程において、1組目の圧延ロールによる圧下率は特に制限されないが、最初の一番軟質な状態の際に薄くすることにより鉄の露出を抑制しやすいという観点から、35%以上とすることが好ましい。ただし、1組目は圧延前の厚みが一番厚いため圧下量が多くなりすぎると厚みの均一性の制御が難しくなるという観点から、50%未満であることが好ましい。
【0074】
なお、第1圧延工程の後の鋼箔におけるニッケル付着量、つまりニッケルめっき工程で付与されたニッケルが圧延によって延ばされた後の面積あたりのニッケルの量は、耐食性の観点から少なくとも片面側が1.2g/m超えであることが好ましく、より好ましくは6.0g/m以上であり、さらに好ましくは6.5g/m以上である。また、より安定的な耐食性を得るために鋼箔の両面ともがそれぞれ1.2g/m超えであることが好ましい。
【0075】
<STEP D:二回目熱処理工程>
次に、本実施形態の製造方法における二回目熱処理工程について説明する。
二回目熱処理工程は、上記第1圧延工程の後の材料に対して還元雰囲気下で焼鈍を行う工程である。
この二回目熱処理工程は、鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<111>極密度より大きく、且つ、前記鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図の<001>極密度が<101>極密度より大きいものとすること、を目的として行われる。
【0076】
より詳細には、まず、上述の一回目熱処理で表面に形成された鉄ニッケル拡散層または鉄ニッケル拡散層および軟質ニッケル層は、第1圧延工程にて、原板と共に圧延される。この圧延により材料の厚みが薄くなる。それと共に<111>方位が圧延方向に平行となり、すなわち<111>極密度が高くなると考えられる。
【0077】
そして、第1圧延工程により極端に薄くなった箇所や歪が導入された箇所は、二回目熱処理工程により格子歪が解消(除去)され、且つ、極密度の関係性が満たされる。これにより、降伏点強度と伸び率を兼ね備えた表面処理鋼箔が得られる。
【0078】
二回目熱処理工程における熱処理条件は、二回目熱処理前の鋼箔の状態によって極密度の関係性を満たすための条件が異なる。
一例として、二回目熱処理工程が連続焼鈍の場合は、680℃~950℃かつ均熱時間30秒~150秒間の範囲内で行われる。一方で、バッチ焼鈍(箱型焼鈍)の場合は500℃~650℃で均熱時間が1.5時間~20時間、加熱、均熱、冷却時間をあわせた合計時間が4時間から80時間の範囲内で行われる。
本実施形態における二回目熱処理工程では箱形焼鈍であっても連続焼鈍であってもよいが、箱形焼鈍の場合、ハンドリングのし易さ、より精度の高い機械特性の制御が可能となる点、時効硬化をより抑制できストレッチャーストレインの抑制が可能となる点、広幅鋼箔においても全面に目的の極密度を得やすい点、等のメリットがある。
【0079】
上記熱処理温度より低いまたは時間が短い場合、<001>極密度が充分に大きくならない可能性があるため、好ましくない。
【0080】
また、極密度の関係性を満たす構成となる条件であれば制限はされないが、特に上述の第1圧延工程の圧下率を50%以上とした場合は、この二回目熱処理工程で十分<001>極密度を大きくするため、および格子歪の解消のために、連続焼鈍の場合は700℃~750℃で均熱時間が60秒~150秒または760℃以上の条件とすることが好ましく、箱型焼鈍の場合は500℃以上540℃未満で均熱時間が4時間以上または540℃以上の条件とすることが好ましい。
【0081】
なお、二回目熱処理工程を経過した時点で得られた表面処理鋼箔のニッケル付着量は、上述の第1圧延工程を経た時点での後とニッケル付着量と変わらない。
【0082】
特に連続鋼帯である場合、二回目熱処理工程の前に、ニッケルめっきの密着防止のための表面処理を施してもよい。このニッケルめっきの密着防止のための表面処理としては、例えば、特開平08-333689に開示されるオルソケイ酸ソーダを主成分とする浴でのシリコン酸化物の層の形成などが挙げられる。なお、このニッケルめっきの密着防止のための表面処理は、二回目熱処理工程の後に除去してもよい。
【0083】
<STEP E:第2圧延工程>
次に、二回目熱処理工程の後の、第2圧延工程について説明する。この第2圧延工程は、表面処理鋼箔のさらなる厚み調整や調質等の目的のための工程である。なおこの第2圧延工程は必須の工程ではなく、適宜省略可能である。
【0084】
この第2圧延工程において、圧下率(第2圧延工程の前と後の厚みの差分から計算される圧下率)は、35%未満であることが好ましく、より好ましくは33%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。下限は特になく、実質厚みが変化しない調質圧延も含めれば0%以上である。
【0085】
なお、この第2圧延工程を経た時点において、上述の極密度の関係性を満たすようにする必要がある。
【0086】
また、第2圧延工程の圧下率に応じてニッケル付着量が減るため、第2圧延工程を経る場合には、第2圧延後の状態で好ましいニッケル付着量とする必要がある。
第2圧延後の好ましいニッケル付着量は、耐食性の観点から少なくとも片面側が1.2g/m超えであることが好ましく、より好ましくは6.0g/m以上であり、さらに好ましくは6.5g/m以上である。また、より安定的な耐食性を得るために鋼箔の両面ともがそれぞれ5.0g/m超えであることが好ましい。
【0087】
<その他の工程>
なお、図示はしないが、第1圧延工程、二回目熱処理工程、第2圧延工程、の少なくともいずれかの後にめっきを施し金属層40を形成する工程(再めっき工程)を設けてもよい。
あるいは本実施形態の表面処理鋼箔10の製造方法において、最表面に粗化ニッケル層50を形成する工程を有していてもよい。
【0088】
なお本実施形態の表面処理鋼箔10の製造方法では、連続製造する方式(たとえばロールtoロール方式)を適用することもできるし、例えば切り板を用いたバッチ式での製造も可能である。
【0089】
本実施形態の製造方法により得られた表面処理鋼箔は、引張強度が400MPa以上550MPa以下、降伏点強度が360MPa以上、伸び率が3%以上、の少なくともいずれかを満たすものであることが、降伏点強度と疲労強度の観点からは好ましい。
また本実施形態の製造方法により得られた表面処理鋼箔は、鉄ニッケル合金層を有する面において、Ni付着量が1.2g/m~30.0g/mであることが、耐食性の観点から好ましい。
【0090】
≪実施例≫
以下に、実施例を挙げて本発明について、より具体的に説明する。まず、実施例における測定方法について記載する。
【0091】
[EBSD法による極密度の取得]
得られた表面処理鋼箔において、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)測定による結晶方位解析を行うことにより、鉄ニッケル合金層を有する面における圧延方向の逆極点図を測定し、<001>、<111>、<101>の極密度を評価した。走査電子顕微鏡は日立ハイテクノロジーズ社製FE-SEM(SU8020)を用い、EBSD測定による結晶方位解析において、解析ソフト(TSLソリューションズ社製のOIM Analysis)を用いた。EBSD測定における測定条件は以下の通りとした。
【0092】
(a)SEM条件
・ビーム条件:加速電圧20kV、照射電流量20μA
・ワークディスタンス:20mm
・観察視野:圧延方向(RD)100μm×圧延直角方向(TD)120μm
・観察面:サンプルの表面
※測定座標系と試料座標系が同じになるようにサンプルを取り付ける。
すなわち、測定座標におけるRDとサンプルの圧延方向とが一致するように取り付けた。
【0093】
(b)EBSD条件
・測定プログラム:OIM Data Collection(Ver.6.21)
・ステップ幅:0.2μm
【0094】
(c)解析条件
・データ解析プログラム:OIM Analysis(Ver.6.20)
※RD(圧延方向)の逆極点図において、<111>、<101>、<001>の極密度を評価した。
【0095】
EBSD測定し、データ解析プログラムを用いて圧延方向の逆極点図を取得した。
図6Aは、その逆極点図から各方位の集積度を、結晶方位に統計的な偏りがない状態、いわゆるランダムな状態の極密度を1として、集合組織の配向状態を等高線で表示したものである。この図からは、対象サンプルのRD(圧延方向)逆極点図において< 0 0 1 > 方位の集積度が高いことがわかる。
【0096】
本発明における<111>、<101>、<001>方位の極密度とは、図6Aのような各サンプルにおける、RD(圧延方向)の等高線図を用いて求めた。具体的には、解析ソフト上で図6Bに示すように、<111>の極密度の場合は頂点A、<101>の場合は頂点B、<001>の場合は頂点Cの位置を選択する事で読み取れる数値を各方位の極密度とした。なお、各頂点の近傍(例えば等高線図における同じ色の範囲)であれば、極密度の変化は小さいため、頂点近傍(等高線図における同じ色の範囲)を選択して読み取れる最大の極密度を採用しても良い。
【0097】
[結晶子径測定方法]
結晶子径の測定のため、X線回折装置(株式会社リガク製、全自動多目的水平型X線回折装置SmartLab)を用いてX線回折を行った。
<装置構成>
・X線源:CuKα
・ゴニオメータ半径:300nm
・光学系:集中法
(入射側スリット系)
・ソーラースリット:5°
・長手制限スリット:5mm
・発散スリット:2/3°
(受光側スリット系)
・散乱スリット:2/3°
・ソーラースリット:5°
・受光スリット:0.3mm
・単色化法:カウンターモノクロメーター法
・検出器:シンチレーションカウンタ
<測定パラメータ>
・管電圧-管電流:45kV 200mA
・走査軸:2θ/θ(集中法)
・走査モード:連続
・測定範囲:2θ 72~79°
・走査速度:2°/min
・ステップ:0.02°
【0098】
得られた表面処理鋼箔から試験片を切り出し、試験片を測定用試料台に載せた。鉄ニッケル合金層を有する面において、X線回折角2θ=72~79°の範囲を反射法にてX線回折測定した。その後、得られた測定値に対し、株式会社リガク製 統合粉末X線解析ソフトウェア PDXLを用いて、結晶子径を下記式に基づき算出した。
具体的には,得られた測定チャートにおいて,鉄ニッケル合金とニッケルの(220)面のピーク重複が見られるため,上記X線解析ソフトウェアを用いてX線回折角2θ=72~79°の範囲において、ピークの最適化処理を行うことで、ピーク分離とピーク分離後の結晶子径の算出をおこなった.なお,ピーク分離後において,ニッケル由来のピーク高さ(cps)が,鉄ニッケル合金由来のピーク高さ(cps)に比べて高い場合は,ニッケル由来のピークの結晶子径を代用した.表2に結晶子径を示す。ここで、表2の結晶子径数値欄に_Niもしくは_FeNiと示しているのは、結晶子径算出に用いたピークを示すものである。
D=K×λ/(β×cosθ)
D:結晶子径
K:Scherrer定数(K=0.94を使用)
λ:使用X線の波長
β:結晶子の回折X線の半値幅
θ:ブラッグ角
【0099】
[中性塩水噴霧試験及び耐食性評価]
得られた表面処理鋼箔を幅60mm、長さ130mmの大きさで切り出し、片方の面を評価面として端面をテープでマスキングを施した後、JIS Z 2371:2015中性塩水噴霧試験に準拠してスガ試験機株式会社製の塩水噴霧試験機にて塩水濃度5%(NaCl=50g/L)、噴霧温度35℃にて2時間噴霧した。噴霧後の鉄ニッケル合金層を有する面における点錆の個数を目視でカウントし以下のように点数化して評価した。
5点:150個/dm未満
4点:150~250個/dm未満
3点:250~350個/dm未満
2点:350~500個/dm未満
1点:500個/dm以上
【0100】
[引張試験による機械特性評価]
引張強度(TS)、上降伏点強度(YP)、降伏点伸び(YP・EL)、破断伸び(EL)を以下の方法で測定した。
まず、JIS Z 2241の5号片の金属片の打ち抜きを行った。次に、この試験片でJIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行った。なお、引張方向が圧延方向と平行方向となるように試験片を採取した。
引張試験の装置としては引張試験機(ORIENTEC製 万能材料試験機 テンシロンRTC-1350A)を用いた。また測定条件としては、室温で、引張速度10mm/minの条件で行った。
JIS Z 2241に則り、引張強さ、降伏点、(上降伏点)、降伏点伸び、伸び(破断伸び)を測定した。
【0101】
[漏洩磁束探傷法による微小介在物測定]
得られた表面処理鋼箔の内部に存在する微小な非金属介在物(non-metallic inclusion)を、微小内部欠陥検出器を用いて漏洩磁束探傷法により検出した。微小内部欠陥検出器としては、「東洋鋼鈑 Vol.33 17~22ページ」に開示された装置(新型IDD)を用いた。
具体的には、鋼板にニッケルめっきを施した後であって第1圧延の前に、非金属介在物の大きさと個数を測定した。測定の際のニッケルめっき鋼板の厚さは100~300μmであった。測定後に、本実施形態の厚みに圧延した場合の千m以内に含まれるφ50μm以上の大きさの非金属介在物の個数に換算した場合に、以下のように評価できる。
特に好ましい:10個/千m以下
更に好ましい:20個/千m以下
より好ましい:30個/千m以下
好ましい:40個/千m以下
実用可能:50個/千m以下
【0102】
<実施例1>
まず基材20となる原板として下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延鋼板(厚さ170μm)を準備した。
C:0.049重量%、Mn:0.33重量%、Si:0.003重量%、P:0.012重量%、S:0.009重量%、Al:0.047重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0103】
次に、準備した原板に対して電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてニッケルめっきを行って、狙い厚みを表のとおりとしてニッケルめっき層を両面にそれぞれ形成した(ニッケルめっき工程)。なお、ニッケルめっきの条件は以下の通りとした。
(Niめっきの条件)
浴組成:ワット浴
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ほう酸:30g/L
浴温:60℃
pH:4.0~5.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度:10A/dm
【0104】
ニッケル付着量は蛍光X線装置を用いて測定した。なお、後述する二回目熱処理工程の後、第2圧延工程の後、のそれぞれにおいても、同様に蛍光X線装置により測定することで、ニッケル付着量をそれぞれ求めた。蛍光X線装置は、リガク社製、ZSX100eを用いた。
【0105】
次いで、上記で形成したニッケルめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度660℃、均熱時間30秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行い、処理鋼板を得た(一回目熱処理工程)。
【0106】
次に、処理鋼板に対して圧延を行い、圧延鋼箔を得た(第1圧延工程)。この際の圧延の条件としては、圧下率65.0%以上70.0%未満の冷間圧延とした。次いで、第1圧延工程後の処理鋼板に対し、590℃で均熱時間8時間、合計80時間の条件で焼鈍を行い、表面処理鋼箔を得た(二回目熱処理工程)。
【0107】
次に二回目熱処理工程後の表面処理鋼箔に対し、圧下率10.0%以上15.0%未満の条件で圧延を行った(第2圧延工程)。なお、第1圧延工程前の厚みと第2圧延工程後の厚みから計算される合計の圧下率は70.0%以上75.0%未満であった。得られた表面処理鋼箔の極密度、結晶子径、耐食性、機械特性、非金属介在物、等を表2に示す。
【0108】
<実施例2>
まず基材20となる原板の厚みを180μmとし、ニッケルめっきの狙い厚みを表のように異ならせた以外は実施例1と同様にニッケルめっきを行った(ニッケルめっき工程)。
【0109】
次いで、上記で形成したニッケルめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度680℃、均熱時間30秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行い(一回目熱処理工程)、処理鋼板を得た。
上記のようにして得られた処理鋼板に対して、圧延を行い(第1圧延工程)、圧延鋼箔を得た。圧延の条件としては、圧下率65.0%以上70.0%未満の冷間圧延にて行った。
【0110】
上記の第1圧延後の圧延鋼箔に対し、還元雰囲気下にて590℃で均熱時間8時間、合計80時間の条件で焼鈍を行った(二回目熱処理工程)。次に二回目熱処理工程後の表面処理鋼箔に対し、圧下率10.0%以上15.0%未満の条件で圧延を行った(第2圧延工程)。なお、第1圧延工程前の厚みと第2圧延工程後の厚みから計算される合計の圧下率は70.0%以上75.0%未満であった。得られた表面処理鋼箔の極密度、結晶子径、耐食性、機械特性、非金属介在物、等を表2に示す。
【0111】
<実施例3>
ニッケルめっきの狙い厚みを表のように異ならせた以外は実施例1と同様にニッケルめっきを行った(ニッケルめっき工程)。
次いで、上記で形成したニッケルめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度680℃、均熱時間30秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行い(一回目熱処理工程)、処理鋼板を得た。
上記のようにして得られた処理鋼板に対して、圧延を行い(第1圧延工程)、圧延鋼箔を得た。圧延の条件としては、圧下率65.0%以上70.0%未満の冷間圧延にて行った。
【0112】
上記の第1圧延後の圧延鋼箔に対し、還元雰囲気下にて590℃で均熱時間8時間、合計80時間の条件で焼鈍を行った(二回目熱処理工程)。次に二回目熱処理工程後の表面処理鋼箔に対し、圧下率10.0%以上15.0%未満の条件で圧延を行った(第2圧延工程)。なお、第1圧延工程前の厚みと第2圧延工程後の厚みから計算される合計の圧下率は70.0%以上75.0%未満であった。得られた表面処理鋼箔の極密度、結晶子径、耐食性、機械特性、非金属介在物、等を表2に示す。
【0113】
<実施例4>
原板の厚みを表1のように異ならせた以外は実施例1と同様にニッケルめっきを行った(ニッケルめっき工程)。
次いで、上記で形成したニッケルめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度680℃、均熱時間30秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行い(一回目熱処理工程)、処理鋼板を得た。
上記のようにして得られた処理鋼板に対して、圧延を行い(第1圧延工程)、圧延鋼箔を得た。圧延の条件としては、圧下率65.0%以上70.0%未満の冷間圧延にて行った。
【0114】
上記の第1圧延後の圧延鋼箔に対し、還元雰囲気下にて590℃で均熱時間8時間、合計80時間の条件で焼鈍を行った(二回目熱処理工程)。次に二回目熱処理工程後の表面処理鋼箔に対し、圧下率35.0%以上40.0%未満の条件で圧延を行った(第2圧延工程)。なお、第1圧延工程前の厚みと第2圧延工程後の厚みから計算される合計の圧下率は80.0%以上85.0%未満であった。得られた表面処理鋼箔の極密度、結晶子径、耐食性、機械特性、非金属介在物、等を表2に示す。
【0115】
<実施例5>
基材20となる原板の厚みを200μmとし、ニッケルめっきの狙い厚みを表のようにした以外は実施例1と同様にニッケルめっきを行った(ニッケルめっき工程)。次いで、上記で形成したニッケルめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度780℃、均熱時間30秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行い(一回目熱処理工程)、処理鋼板を得た。
上記のようにして得られた処理鋼板に対して、圧延を行い(第1圧延工程)、圧延鋼箔を得た。圧延の条件としては、圧下率70.0%以上72.0%未満の冷間圧延にて行った。
上記の第1圧延後の圧延鋼箔に対し、還元雰囲気下にて560℃で均熱時間8時間、合計80時間の条件で焼鈍を行った(二回目熱処理工程)。第2圧延工程は行わなかった。第1圧延工程前の厚みと第2圧延工程後の厚みから計算される合計の圧下率は70.0%以上75.0%未満であった。得られた表面処理鋼箔の極密度、結晶子径、耐食性、機械特性、非金属介在物、等を表2に示す。
【0116】
<実施例6>
原板の厚みを表1のとおりとした点、及び、第2圧延工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0117】
<実施例7>
まず基材20となる原板として下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延鋼板(厚さ180μm)を準備した。
C:0.052重量%、Mn:0.34重量%、Si:0.001重量%以下、P:0.012重量%、S:0.007重量%、Al:0.05重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
一回目熱処理工程の熱処理温度を680℃とした点、二回目熱処理工程の熱処理温度を580℃とした点以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0118】
<実施例8>
実施例7に再めっきとして表面に表裏狙い厚み0.6μmのニッケルめっきを追加で施した以外は、実施例7と同様に行った。結果を表2に示す。ここで、再めっきしたニッケルめっきの条件は前述したニッケルめっき条件を用いており、通電時間を制御することで狙い厚みにした。再めっきのニッケルめっきの前処理として下記に示すストライクニッケルめっき条件を用いた。
<ストライクニッケルめっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
硫酸:50g/L
・浴温:60℃
・電流密度:30A/dm
・めっき時間:5秒間
【0119】
<実施例9>
まず基材20となる原板として下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延鋼板(厚さ180μm)を準備した。
C:0.040重量%、Mn:0.35重量%、Si:0.01重量%、P:0.013重量%、S:0.018重量%、Al:0.047重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
上記原板を使用した以外は、実施例8と同様に行った。結果を表2に示す。
【0120】
<比較例1>
第1圧延工程及び第2圧延工程の圧下率を変更した以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0121】
<参考例>
ニッケルめっき工程、一回目熱処理工程を経た後の工程を行わない以外は、実施例5と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
以上の実施例及び比較例によれば、本実施例により製造された表面処理鋼箔は高い耐食性が示された。一方で比較例の表面処理鋼箔は要求される耐食性を得られないことが示された。
また本実施例のうち結晶子径が所定値以下である場合には、降伏点強度が高まり、降伏点伸びが抑えられることが示された。このことにより、疲労強度と加工性の向上が図れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上説明したように、本発明の表面処理鋼箔は、二次電池のほか、自動車や電子機器など広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0127】
10 表面処理鋼箔
20 基材
30 鉄ニッケル合金層
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B