(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164201
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】イヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075607
(22)【出願日】2022-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】316001928
【氏名又は名称】オーツェイド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】渡部 嘉幸
【テーマコード(参考)】
5D005
【Fターム(参考)】
5D005BA12
(57)【要約】
【課題】 低価格化を図りつつ、特に高周波数域における電磁式発音体の特性を改善し、全体として広帯域の音声再生を可能とする。
【解決手段】
電磁式スピーカ30から放出された音は、太線矢印FSPで示すように、前記隙間44を通過して、後部筐体24の放音穴26へと放出される。この場合において、放出された音波(空気の振動)は、前記隙間44を通過するとともに、同時に振動板40にも直接放射される。これにより、振動板40が、電磁式スピーカ30から出力される高周波域の音波によって振動板40が共振するようになる。このため、電磁式スピーカ30の出力音に対して、矢印FHで示す振動板40の高音が重畳されるようになる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁式発音体を筐体内部に実装するイヤホンにおいて、
前記電磁式発音体の放音側に、その放音によって振動する振動体を設け、
前記筐体の放音穴から、前記電磁式発音体による音と、前記振動体の振動によって生ずる音の両方が放出されることを特徴とするイヤホン。
【請求項2】
前記振動体は、その外周と前記筐体内壁との間に隙間を有し、かつ、外周以外の少なくとも一点が固定されていることを特徴とする請求項1記載のイヤホン。
【請求項3】
前記振動体を、前記電磁式発音体からの放音によって共振する構造としたことを特徴とする請求項1記載のイヤホン。
【請求項4】
前記振動体の共振が、前記電磁式発音体による発音の高周波域で生ずるようにしたことを特徴とする請求項3記載のイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁式発音体(電磁式スピーカ)を用いたイヤホンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅環境の変化に伴い、近隣騒音などに配慮する必要から、大型のオーディオ装置などで音楽を楽しむことが難しくなってきた。一方で、通信速度の向上に伴い、音楽ソースの配信環境などが向上し、スマートホンやポータブルオーディオプレイヤーを用いた音楽再生機のイヤホンやヘッドホンが広く普及している。更に、高速化する音楽配信に合わせて非常に解像度の高いデジタル音源であるハイレゾ音源の普及も進み、ポータブル音楽再生でも高音質の音楽を聴くことが可能になった。また、同時に、ハイレゾ音源ではより解像度の高い信号源を再生するため、イヤホンやヘッドホンなどにおいても、40kHz以上の高周波域の再生が要求されるようになってきている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
加えて、電磁式スピーカの場合、インダクタ成分を有するため、高周波域におけるインピーダンスが高くなり、高周波域の音の再生が難しくなる。これに対し、例えば下記特許文献1には、高音質イヤホンにおいて、低周波数域を電磁式スピーカで再生し、高周波数域を圧電セラミックスにより再生するというハイブリッドな構成が考案されている。これは、低周波域でインピーダンスが低くなる電磁式(インダクタ成分)スピーカと、高周波域でインピーダンスが低くなるセラミック式(キャパシタンス成分)スピーカのそれぞれの利点を活用した手法であると考えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-86404号公報(特許第5860561号)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JAS Journal 2014 Vol.54 No.5 9月号,日本オーディオ協会「ハイレゾの定義と運用」(https://www.jas-audio.or.jp/hi-res/definition)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1記載の背景技術では、電磁式スピーカのインダクタ成分と、セラミック式スピーカのキャパシタ成分が接続されることで、発振現象が生ずる可能性があり、その対策として、例えば、抵抗やコンデンサなどの受動素子を、外付けで接続する必要があった。加えて、高周波域までリニアな特性を有する高性能な圧電セラミックスを使用するため、前述の受動素子などの付加も合わせると、製品価格が上昇してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に着目したもので、その目的は、低価格化を図りつつ、特に高周波数域における電磁式発音体の特性を改善し、全体として広帯域の音声再生を可能とすることである。他の目的は、コストの増大,大型化,高価格化を回避しつつ、イヤホンの性能向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電磁式発音体を筐体内部に実装するイヤホンにおいて、前記電磁式発音体の放音側に、その放音によって振動する振動体を設け、前記筐体の放音穴から、前記電磁式発音体による音と、前記振動体の振動によって生ずる音の両方が放出されることを特徴とする。主要な形態の一つによれば、前記振動体は、その外周と前記筐体内壁との間に隙間を有し、かつ、外周以外の少なくとも一点が固定されていることを特徴とする。他の形態によれば、前記振動体を、前記電磁式発音体からの放音によって共振する構造としたことを特徴とする。更に他の形態によれば、前記振動体の共振が、前記電磁式発音体による発音の高周波域で生ずるようにしたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電磁式発音体の放音側に振動板を設け、これが電磁式発音体の放音に伴って振動するようにしたので、高周波域における電磁式発音体の放音特性を改善し、全体として広帯域の音声再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1のイヤホンの基本構造を示す主要断面図である。
【
図2】前記実施例1におけるイヤホン全体,電磁式スピーカ,振動板の出力放音特性を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例2のイヤホンの主要断面図である。
【
図4】(A)は前記実施例2の分解図であり、(B)は振動板の振動の様子を示す図である。
【
図5】前記実施例2における出力放音特性を示すグラフである。(A)はイヤホン全体,(B)は電磁式スピーカ,(C)は振動板の放音特性をそれぞれ示す。
【
図6】本発明の実施例3のイヤホンの主要断面図である。
【
図7】(A)は前記実施例3の分解図であり、(B)は振動板の支持体を示す図である。
【
図8】前記実施例3における振動板取付けの様子を示す斜視図である。
【
図9】前記実施例3における出力放音特性を示すグラフである。(A)はイヤホン全体,(B)は電磁式スピーカ,(C)は振動板の放音特性をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0012】
最初に、
図1~
図2を参照して、本発明の基本的な形態について説明する。
図1には、本発明のイヤホンの原理的な構造が示されている。同図において、イヤホン10の筐体(ハウジングないしケース)20は、電気信号が入力される前部筐体22と、再生音が放出される後部筐体24を備えている。前部筐体22には、電磁式発音体ないし電磁式スピーカ30及び振動板40が設けられている。振動板40は、電磁式スピーカ30の放音側に配置されており、その中心42が固定されている。振動板40と前部筐体22との間には、隙間44が形成されている。後部筐体24には、放音穴26が形成されている。筐体20に対する各部の固定は、例えば接着剤で行う。
【0013】
次に、基本的な作用を説明すると、電磁式スピーカ30から放出された音は、太線矢印FSPで示すように、前記隙間44を通過して、後部筐体24の放音穴26へと放出される。この場合において、放出された音波(空気の振動)は、前記隙間44を通過するとともに、同時に振動板40にも直接放射される。これにより、振動板40が、放射された音波によって振動するようになる。ここで、例えば、振動板40として金属板を用い、その共振周波数を高周波域に設定すると、電磁式スピーカ30から出力される高周波域の音波によって振動板40が共振するようになる。このため、電磁式スピーカ30の出力音に対して、矢印FHで示す振動板40の高音が重畳されるようになり、イヤホン全体としては、振動板40が高周波数域の音を補うツイータとして作用する2ウエイ方式の機能を発揮するようになる。
【0014】
図2には、イヤホン10の出力音圧特性の一例が示されている。
図2(A)は、電磁式スピーカ30の音圧特性(点線グラフG2A参照)と、同スピーカ30の共振により振動する振動板40の音圧特性(実線グラフG2B参照)を示す図である。電磁式スピーカ30のインピーダンスZは、Z=2πfL(fは周波数,Lはコイルのインダクタンス)となるため、高周波域になると、インピーダンスZが増加し、コイルに対する流入電流が抑制される。その結果、高周波域における音圧が徐々に低下する。一方、振動板40の音圧は、その共振周波数が基軸になり、かつ金属板のように剛性の高いものを用いているため、高周波域の音を共振現象により発生する。イヤホン10からは、これらグラフG2A,G2Bの音が重畳されて出力されるようになり、
図2(B)のグラフG2Cで示すように、電磁式スピーカ30の高周波域の音圧低下を、振動板40の共振音圧によって補う音圧特性が得られるようになる。
【0015】
本実施例によれば、イヤホンの低音再生用に電磁式スピーカを用い、高音再生用に前記電磁式スピーカが発生する音波により共振する振動板を用いることとした。共振する振動板を用いることで、その材質,直径,厚みなどを、前記電磁式スピーカの高音域における音圧調整に利用することができる。同時に複数の能動的な発音体を用いる必要がないため、放音における消費電力を抑制することができ、かつ、広帯域再生可能なイヤホンを供給することができる。更に、単に振動板を付加するだけであることから、コストを抑制するのみではなく、省スペース化も可能となり、大型化や高価格化を回避しつつ、イヤホンの性能向上を図ることができる。
放音ユニット150の電磁式スピーカ120には、後部筐体114側において、リード線122,導線124を介して音声信号が供給されるようになっている。電磁式スピーカ120の放音側には、プロテクタ130が設けられており、複数の放音穴(図示の例では4つ)132が均等の間隔で設けられている。また、プロテクタ130の中央には取付穴134が設けられており、ブッシュ136が取り付けられている。そして、このブッシュ136の先端に、振動板140が取り付けられている。これら、電磁式スピーカ120,プロテクタ130,ブッシュ136,振動板140によって、放音ユニット150が構成されており、これが、前部筐体112と後部筐体114とによって形成された円筒状の空間内に設けられている。
以上の各部のうち、電磁式スピーカ120には、例えば直径10mmのものを採用し、その端部を、後部筐体114に接着剤で固定する。後部筐体114には、音声信号を流すためのリード線122を挿入し、このリード線122から分岐する正負の導線124を電磁式スピーカ120の入力端子に半田で電気的に接合する。
電磁式スピーカ120の放音面に設けたプロテクタ130としては、保護を目的としてステンレス製の厚み0.3mmのものを使用する。プロテクタ130には、放音穴132として、直径2mmの穴を4個設けている。また、プロテクタ130の中心部の直径2.5mmの取付穴134に、ABS樹脂製の固定用ブッシュ136を接着剤にて固定した。更に、ブッシュ136の先端部を振動板140の中心穴142に挿入して、同じく接着剤にて固定した。その後、これら電磁式スピーカ120,プロテクタ130,ブッシュ136,振動板140による放音ユニット150を、前部筐体112と後部筐体114の円筒状内部空間に実装する。最後に、前部筐体112と後部筐体114の円筒開口を、一方の凸部を他方の凹部に挿入して嵌め込み、接着剤で固定する。このようにして、イヤホン100が完成する。
以上のようなイヤホン100の出力音圧特性を、IEC:711カプラを利用し、10mWの出力で周波数掃引して測定した結果、
図5(A)のような結果が得られた。同図の音圧特性は、イヤホン100の全体の特性であり、電磁式スピーカ120と振動板140の特性が重畳された結果になっている。そこで、ブッシュ136及び振動板140を取り外した比較例のイヤホンを作成し、同様の特性測定を行ったところ、
図5(B)のような結果が得られた。このグラフは、電磁式スピーカ120単体での特性と考えることができる。そこで、
図5の(A)と(B)の差(A)-(B)を求めたところ、
図5(C)のようなグラフになった。このグラフは、振動板140の共振で得られた音圧特性になる。
図5(C)に示すように、12.3kHzに音圧のピークがあり、前述の数値解析の結果得られた「12.1kHz」とほぼ一致していることから、本発明の有用性が認められる。