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特開2023-164223多重三相巻線交流電動機の駆動システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164223
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】多重三相巻線交流電動機の駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20231102BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20231102BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022083411
(22)【出願日】2022-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】596137830
【氏名又は名称】有限会社シー・アンド・エス国際研究所
(72)【発明者】
【氏名】新中 新二
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB09
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ24
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】 本発明は、単一回転子とn個の三相巻線を有する単一固定子とからなるn重三相巻線交流電動機に対し、n個の巻線の間で強い相互誘導がある場合等にも、安定性と速応性に優れた電流制御を簡単な構成で可能とする電動機駆動システムを提供する。
【解決手段】 電動機1、電力変換装置2とともに電動機駆動システムを構成する電流制御装置3を、n個の三相巻線の固定子電流を個別検出した上で合成生成した合成固定子電流をフィードバック制御するように構成し、課題を解決した。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
nを2以上の整数とするとき、
単一回転子と互いに巻線間結線のない実質同一特性のn個の三相巻線を有する単一固定子とからなるn重三相巻線交流電動機と、
n個の三相巻線に、個別かつ同時に、非ゼロの三相電流を供給できる電力変換装置と、
電力変換装置へのn個の固定子電圧指令値の入力を介して、n個の三相巻線に流れる固定子電流をフィードバック制御する電流制御装置と
を備えるn重三相巻線交流電動機駆動システムであって、
Kcを正定数とし、
該n重三相巻線交流電動機のn個の三相巻線を構成する第k番三相巻線に流れる固定子電流を第k番固定子電流と呼称し、電流検出器で個別検出した第k番固定子電流を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電流として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電流として、ikと表現し、
第k番三相巻線へ第k番固定子電流を供給するために該電力変換装置に入力される固定子電圧指令値を第k番固定子電圧指令値と呼称し、第k番固定子電圧指令値を、設計者が指定した2軸座標系上のベクトル電圧指令値として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電圧指令値として、vk*と表現し、
個別検出した第k番固定子電流を用いて合成した合成固定子電流を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電流として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電流として、iと表現し、
合成固定子電流をその指令値である合成固定子電流指令値に追従さるための合成固定子電圧指令値を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電圧指令値として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電圧指令値として、v*と表現するとき、
個別検出した第k番固定子電流ikをk=1~nとして下の電流均等加算式に用いて、またはこれと数学的に等価な電流加算処理により、合成固定子電流iを合成し、
合成固定子電圧指令値v*を、合成固定子電流と合成固定子電流指令値とを少なくとも入力とする電流制御器を少なくとも用いて生成し、生成した合成固定子電圧指令値v*を下の電圧指令値均等式に用いて、またはこれと数学的に等価な電圧指令値均等処理により、第k番固定子電圧指令値vk*を生成するように、
該電流制御装置を構成したことを特徴とするn重三相巻線交流電動機駆動システム
【請求項2】
該合成固定子電流と該合成固定子電流指令値とを少なくも入力とし、該合成固定子電圧指令値v*の生成を担う該電流制御器を、モータパラメータに由来しかつ該合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータを用い、設計あるいは構成したことを特徴とする請求項1記載のn重三相巻線交流電動機駆動システム。
【請求項3】
該正定数Kcを下式右辺に選定したことを特徴とする請求項1記載のn重三相巻線交流電動機駆動システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
nを2以上の整数とするとき、本発明は、回転子とn個の三相巻線を有する固定子とからなるn重三相巻線交流電動機と、n個の三相巻線に三相電流を個別かつ同時に供給できる電力変換装置とを少なくとも備えるn重三相巻線交流電動機の駆動システムに関する。以降の説明では、簡単のため、「巻線」を「三相巻線」と同義で使用する。上記のn重三相巻線交流電動機を、簡単のため、多重巻線電動機と略称する。さらには、同様の理由で、同駆動システムを多重巻線電動機駆動システムと略称する。また、多重巻線電動機における巻線の個数を示すnを「多重数」と呼称する。
【0002】
本発明では、多重巻線電動機において三相巻線が施された部分を「固定子」と呼称する。本発明における「固定子」は、「電機子」と同義である。固定子に施される三相巻線の結線には、Y形とΔ形が存在する。当業者には周知のように、三相端子から評価した場合、Y形結線による特性とΔ形結線による特性は互いに等価変換される。説明の簡明性を確保すべく、本明細書における技術説明は、Y形結線を想定して行なう。等価変換の存在より明白なように、これにより、本発明の一般性を失うことなない。本発明が対象とする多重巻線電動機では、「n個の三相巻線は実質同一特性を有する」ものとしている。また、「n個の三相巻線は、巻線間の結線はない」もの、換言するならば「Y形結線を想定する場合、n個の三相巻線のY形結線中性点は結線されていない」ものとしている。
【0003】
三相電流で駆動される一重三相巻線交流電動機の代表は、同期電動機、誘導電動機である。同期電動機としては、永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、ハイブリッド界磁形同期電動機、同期リラクタンス電動機が広く活用されている。これら一重三相巻線交流電動機においては、単一回転子と1個の三相巻線を備えた単一固定子とからなり、それらの固定子は原理的に同一であり、それらの相違は回転子にある。本発明が対象とする多重三相巻線交流電動機は、一重三相巻線交流電動機の場合と同様に、多重三相巻線の同期電動機、誘導電動機を包含している。さらには、多重三相巻線の同期電動機は、多重三相巻線の永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、ハイブリッド界磁形同期電動機、同期リラクタンス電動機を包含している。これら種々の多重三相巻線交流電動機においても、これら固定子は原理的に同一であり、これらの相違は回転子にある。本発明は、種々の多重三相巻線交流電動機における「単一固定子の同一性」を利用するものであり、同一の単一固定子をもつ種々の多重三相巻線交流電動機に適用できる。
【0004】
本発明では、2次元平面を極座標的に捉え、角度、空間的位置、空間的位相の3用語を同義で使用する。これらの単位は「ラジアン(rad)」または「度(degree)」である。本発明における角度、空間的位置、空間的位相の正方向は、左周り(反時計周り)、右周り(時計周り)のいずれに定義してもよい。ただし、本明細書では、説明の簡明性を維持すべく、角度、空間的位置、空間的位相の正方向は左周り(反時計周り)と定義し、本発明を説明する。これにより、本発明の一般性を失うことはない。
【0005】
本発明では、多重巻線電動機に交流電流を供給する装置を、電力変換装置と呼称する。電力変換装置の主要機器である電力変換器としては、インバータ、マトリックスコンバータなどが実用化されている。単一の3n相用、n個の三相用、3n個の単相用の電力変換器等が、本発明の電力変換装置を構成しうる。
【0006】
当業者は周知の通り、回転子速度には電気速度と機械速度が存在するが、両速度の間には1対1の厳密な関係が存在し、電気速度から機械速度、機械速度から電気速度への一意の変換が可能である。本発明では、当業者間の周知性を考慮し、説明の明瞭性が失われない限り、回転子速度は電気速度を意味するものとして、これを使用する。
【背景技術】
【0007】
多重巻線電動機駆動システムすなわち多重巻線電動機を対象した駆動システムに関する従前技術を紹介する。本発明は、多重巻線電動機駆動システムの主要構成装置の1つである電流制御装置に関するものである。この点を踏まえ、多重巻線電動機駆動システムのための電流制御装置に関する従前技術を紹介する。図6は、非特許文献1~2で提案された二重巻線(永久磁石形同期)電動機駆動システムのための電流制御装置を引用したものである(特許文献1にも同一発明者による実質同一の電流制御装置が示されている)。図6の左側に記載された3つのブロック「第1群電流制御系」、「第2群電流制御系」、「非干渉化部」が本発明で用いる用語「電流制御装置」に該当する。同図の「第1群電流制御系」は、第1番巻線用のフィードバック電流制御器を意味し、この出力信号(図6では「電圧指令-1」と記載)をv11*で表現している。同様に、同図の「第2群電流制御系」は、第2番巻線用のフィードバック電流制御器を意味し、この出力信号(図6では「電圧指令-2」と記載)をv22*で表現している。同図より明白なように、従前電流制御装置では、第1、第2番巻線に対応した形で電流制御器が構成されている。各巻線用の電流制御器は、各巻線のd軸、q軸電流を制御する必要があり、2入力2出力(以下、「2×2」と略記)である。したがって、二重巻線では、多重数に比例した4×4相当の電流制御器が必要とされる。従前電流制御装置の考え方をn重巻線電動機駆動システムに適用する場合、(2n)×(2n)相当の電流制御器が必要とされる。二重巻線(永久磁石形同期)電動機において、2個の巻線の中性点が結線されていない場合にも、2個の巻線に同時通電する場合には、2巻線間には磁気的結合(相互誘導)が発生し、巻線間干渉が発生する。本干渉は、電流応答に低速モード応答と高速モード応答をもたらし、各巻線の安定なあるいは高速な電流制御を大変困難にする。図6における「非干渉化部」は、この巻線間干渉の影響を和らげることを目的に用意されたものである。
【0008】
以上、非特許文献1~2、特許文献1を参考に、従前の電流制御装置の問題を紹介した。特許文献2,3は、低速モード応答と高速モード応答に起因した不安定化問題、高速応答問題を緩和あるいは解決しているが、この代償として、電流制御装置が複雑化するという問題を新たに引き起こしている。「従前の電流制御装置の考え方をn重巻線電動機駆動システムに適用する場合、(2n)×(2n)相当の電流制御器が必要とされる」という問題は、解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】佐竹彰・水野滋基:「多重巻線電動機の制御装置」、特開第2003-153585号(2001-11-6)
【特許文献2】新中新二:「二重三相巻線永久磁石同期形電動機の駆動システム」、特開第2018-201319号(2017-5-29)
【特許文献3】新中新二:「二重三相巻線永久磁石同期形電動機の駆動システム」、特開第2019-037111号(2017-8-15)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】佐竹彰・加藤覚・今中晶:「多重巻線永久磁石モータのモデル化と非干渉制御方式」、電気学会産業応用部門大会講演論文集、I、pp.199-202(2005)
【非特許文献2】S.Satake,Y.Okamoto,and S.Kato:“Design of Coupling Cancellation control for a Double Winding PMSM”,IEEJ Journal of Industry Application,Vol.6,No.1,pp.29-35(2017)
【非特許文献3】新中新二:「永久磁石同期モータのベクトル制御技術(原理から最先端まで)」、電波新聞社(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景の下になされたものである。本発明の目的は、以下の機能・性能をもつ多重巻線電動機駆動システムのための新たな電流制御装置を提供することにある。
(1) 巻線間に強い磁気的結合(相互誘導)が存在し、大きな高速モード電流応答を発する多重巻線電動機にも適用できる。
(2) 多重巻線電動機のフィードバック電流制御のための電流制御器として、最少入出力数の電流制御器が利用でき、最もコンパクトな電流制御装置の実現を可能とする。より具体的には、従前の一重巻線交流電動機用電流制御器と同様の単一の2×2電流制御器が利用でき、(2n)×(2n)相当の電流制御器は必要としない。
(3) 多重巻線電動機の電流制御系に対して高い安定性と速応性を同時に付与できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、
nを2以上の整数とするとき、単一回転子と互いに巻線間結線のない実質同一特性のn個の三相巻線を有する単一固定子とからなるn重三相巻線交流電動機と、n個の三相巻線に、個別かつ同時に、非ゼロの三相電流を供給できる電力変換装置と、電力変換装置へのn個の固定子電圧指令値の入力を介して、n個の三相巻線に流れる固定子電流をフィードバック制御する電流制御装置とを備えるn重三相巻線交流電動機駆動システムであって、
該n重三相巻線交流電動機のn個の三相巻線を構成する第k番三相巻線に流れる固定子電流を第k番固定子電流と呼称し、電流検出器で個別検出した第k番固定子電流を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電流として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電流として、ikと表現し、第k番三相巻線へ第k番固定子電流を供給するために該電力変換装置に入力される固定子電圧指令値を第k番固定子電圧指令値と呼称し、第k番固定子電圧指令値を、設計者が指定した2軸座標系上のベクトル電圧指令値として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電圧指令値として、vk*と表現し、個別検出した第k番固定子電流を用いて合成した合成固定子電流を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電流として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電流として、iと表現し、合成固定子電流をその指令値である合成固定子電流指令値に追従さるための合成固定子電圧指令値を、設計者が指定した2軸座標系上の2×1ベクトル電圧指令値として、あるいは設計者が指定した3軸座標系上の3×1ベクトル電圧指令値として、v*と表現するとき、
個別検出した第k番固定子電流ikをk=1~nとして下の(1)式の電流均等加算式に用いて、またはこれと数学的に等価な電流加算処理により、合成固定子電流iを合成し、
【数1】
合成固定子電圧指令値v*を、合成固定子電流と合成固定子電流指令値とを少なくとも入力とする電流制御器を少なくとも用いて生成し、生成した合成固定子電圧指令値v*を下の(2)式の電圧指令値均等式に用いて、またはこれと数学的に等価な電圧指令値均等処理により、第k番固定子電圧指令値vk*を生成するように、
【数2】
該電流制御装置を構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載のn重三相巻線交流電動機駆動システムであって、該合成固定子電流と該合成固定子電流指令値とを少なくも入力とし、該合成固定子電圧指令値v*の生成を担う該電流制御器を、モータパラメータに由来しかつ該合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータを用い、設計あるいは構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1記載のn重三相巻線交流電動機駆動システムであって、該正定数Kcを下の(3)式右辺に選定したことを特徴とする。
【数3】
【発明の効果】
【0015】
以降の説明の平易化を図るべく、先ず、本発明が用いる座標系を説明する。図1を考える。同図(a)には、本発明が用いる2軸座標系として、αβ固定座標系、dq同期座標系、γδ一般座標系を示している。αβ固定座標系は固定子に対応した座標系であり、一般に、α軸は、第1番固定子巻線のu相巻線の位相に取られる(第k番固定子巻線のu相巻線の位相に取っても本質的相違はない)。dq同期座標系は回転座標系の1つであり、特に、d軸が回転子磁束(同図では「φm」と表記)と同期した座標系となっている。すなわち、dq同期座標系においては、d軸の位相は回転子磁束の位相と同一である。dq同期座標系の速度ωnは、回転子磁束の速度と瞬時瞬時において同一である。α軸から見たd軸の位相をθαで表現している。γδ一般座標系は、設計者が任意に指定できる一般性のある座標系であり、その速度はωγで、γ軸から見たd軸位相をθγで表現している。γδ一般座標系は、特別な場合として、αβ固定座標系、dq同期座標系を包含している。永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、ハイブリッド界磁形同期電動機においては、「回転子磁束の位相」は「磁極・N極相当の位相」と同義である。また、磁極を有しない同期リラクタンス電動機においては、「回転子磁束の位相」は「回転子突極の位相」あるいは「回転子逆突極の位相」と同義である。
【0016】
図1(b)には、本発明が用いる3軸座標系として、第1番固定子巻線のu相巻線の位相をu1軸としたuvw1座標系を示した。本例では、uvw1のu1軸は、αβ固定座標系(参考までに、破線表示)のα軸と同一である。同様にして、3軸座標系として、第k番固定子巻線のu相巻線の位相をuk軸の位相としたuvwk座標系を定義できる。
【0017】
本発明の効果を説明する。請求項1の発明の効果の説明には、簡単のため、先ず、単一固定子に施された巻線の数すなわち多重数nを「n=2」として行う。多重巻線における高速モード電流応答発生の根本原因は、巻線間の磁気的結合(相互誘導)に起因した巻線間干渉である。巻線間の磁気的結合(相互誘導)は、各巻線の固定子電流と固定子反作用磁束を用いて表現される。例えば、dq同期座標系上の固定子電流と固定子反作用磁束を用いる場合、次式で表現される。
【数4】
上式におけるik、φkiは、第k番巻線の固定子電流、固定子反作用磁束を意味する。Lkd、Lkqは第k番巻線のd軸、q軸(自己)インダクタンスであり、Md、Mqは、巻線間の磁気的結合(相互誘導)を表現したd軸、q軸相互インダクタンスである。なお、本発明では、各巻線の自己インダクタンスは、巻線に依存した相違はなく、実質同一としている。
【0018】
(4)式の第1式と第2式に対して、請求項1の発明の均等加算式((1)式参照)に従い、各辺ごとに均等加算を行うと、次式を得る。
【数5】
【0019】
上記の(5)式は、単一固定子に施された巻線の数すなわち多重数nを「n=2」とした場合のものである。次に、(5)式に示した結果を、多重数nが2以上の場合に一般化する。これは、次式で与えられる。
【数6】
「n個の巻線の特性は同一」との前提の下、(6d)式の右辺は、第1番巻線関係の自己インダクタンス、相互インダクタンスを用いて表現している。なお、M1kd、M1kqは、第1番巻線と第k番巻線との間のd軸、q軸相互インダクタンスを意味している。
【0020】
(6a)式右辺の2行2列(以下、「2×2」と略記)インダクタンス行列においては、この逆対角要素はゼロとなっている。本事実は、「(6b)式に定義した合成固定子電流と(6c)式に定義した合成固定子反作用磁束においては、巻線間の磁気的結合(相互誘導)関係は存在しない」、「合成固定子電流に関しては、安定かつ高速な電流制御を困難とした高速モード応答は存在しない」、「合成固定子電流と合成固定子反作用磁束との関係は、従前の一重巻線交流電動機の固定子電流と固定子反作用磁束の関係と形式的に同一である」、「簡単な制御で、合成固定子電流の制御が可能である」ことを意味する。なお、合成固定子電流と合成固定子反作用磁束の間の動特性は、(6d)式に定義した新規パラメータにより関係づけられることになる。本発明では、(6d)式右辺のような本来のモータパラメータL1d、L1q、M1kd、M1kqを用いて新たに合成した(6d)式左辺のような新規パラメータを「モータパラメータに由来しかつ合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータ」と、あるいは簡単に「合成パラメータ」と総称している。本発明では、(6d)式左辺のインダクタンス形の合成パラメータLd、Lqを、特に「合成インダクタンス」と呼称する
【0021】
「(6b)式の合成固定子電流iは、k=1~nとして個別検出した第k番固定子電流のn個平均値に正定数Kcが乗じたもの」と解釈することもできる。この合成固定子電流iに対応した合成固定子電圧指令値v*には、乗じられた正定数Kcの影響が比例的に出現する。ひいては、次式の対応関係が成立する。
【数7】
【0022】
請求項1の発明は、(1)式すなわち(6b)式に従って合成固定子電流iを合成し、(2)式すなわち(7b)式の関係に従って第k番三相巻線へ第k番固定子電流を供給するための第k番固定子電圧指令値vk*を生成するものである。
【0023】
(5)~(7)式を用いた以上の説明より明白なように、請求項1の発明によれば、以下の機能・性能をもつ多重巻線電動機駆動システムのための新たな電流制御装置を構築できるという効果が得られる。(1) 巻線間に強い磁気的結合(相互誘導)が存在し、大きな高速モード電流応答を発する多重巻線電動機にも適用できる。(2) 多重巻線電動機のフィードバック電流制御のための電流制御器として、最少入出力数の電流制御器が利用でき、最もコンパクトな電流制御装置の実現を可能とする。より具体的には、従前の一重巻線交流電動機用電流制御器と同様の単一の2×2電流制御器が利用でき、(2n)×(2n)相当の電流制御器は必要としない。(3) 多重巻線電動機の電流制御系に対して高い安定性と速応性を同時に付与できる。
【0024】
つづいて、請求項2の発明の効果を説明する。(5)、(6)式を用いて説明したように、合成固定子電流の動特性は、多重巻線電動機の元来の個々のモータパラメータに代わって、(5d)、(6d)式に示したような合成パラメータにより支配される。請求項2の発明によれば、合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータを用いて、電流制御器を設計あるいは構成できるようになる。この結果、高性能な電流制御器を設計・構成できるという効果が得られる。ひいては、請求項1の発明の効果を高めることができるという効果が得られる。
【0025】
なお、第k番巻線の巻線抵抗をRkと表現するとき、Rkに由来しかつ合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータR(以降、合成パラメータRを「合成抵抗」と呼称)は、次式となる。
【数8】
また、回転子磁束を有する同期電動機においては、第k番巻線が感知する回転子磁束の強度(「速度起電力係数」と同義)をΦkと表現するとき、Φkに由来しかつ合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータΦ(以降、合成パラメータΦを「合成磁束強度」と呼称)は、次式となる。
【数9】
【0026】
つづいて、請求項3の発明の効果を説明する。n個の巻線を有する固定子の全電流ノルムの総和は、「特性が同一の各巻線に流れる電流は同一」との条件下では、次式のように評価される。
【数10】
一方、合成固定子電流のノルム、上記と同一の条件下では、請求項3の発明よる(3)式を適用すると、次式のように評価される。
【数11】
(10)、(11)式は、「請求項3の発明よる(3)式の下では、合成固定子電流のノルムは、(10)式に示したn個の巻線を有する固定子の全電流ノルムの総和に等しい」ことを意味する。本結論に(8)式を適用すると、「請求項3の発明よる(3)式の下では、「元来の固定子電流による損失(銅損)と合成固定子電流による損失(銅損)が等しい」ことが主張される。
【0027】
損失(銅損)の等価性は、請求項3の発明の効果の一つに過ぎず、一般的には、請求項3の発明によれば、「n個の巻線をもつ固定子の全電流に起因するパワー、トルクと合成固定子電流によるパワー、トルクが等価となる」という効果が得られる。多重巻線電動機は、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換機であり、さらには、トルク発生機でもある。固定子電流制御の本質的目的は、固定子電流と概ね比例関係にあるトルクの制御を、固定子電流制御を介して行うことにある(図3図5の指令変換器4を参照)。本事実より既に明らかなように、請求項3の発明によれば、「固定子電流制御の本質的目的であるトルク制御を、電流制御を介して用意に行えるようになる」という効果が得られる。ひいては、請求項1の発明の効果を高めることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】 「2軸座標系の3例と3軸座標系の1例を示す図」
図2】 「多重巻線交流電動機の巻線配置例を示す図」
図3】 「本発明による電流制御装置を用いた多重巻線電動機駆動システムの構成例を示す図」
図4】 「本発明による合成パラメータを用いた2入力2出力電流制御器の構成例を示す図」
図5】 「本発明による電流制御装置を用いた多重巻線電動機駆動システムの構成例を示す図」
図6】 「従前の電流制御装置の基本構成を示す図」
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を用いて、本発明の好適な態様を具体的に説明する。
【実施例0030】
本発明による合成固定子電流を用いた固定子電流制御は、図1に示した任意の座標系上で遂行可能である。この中で、簡易で高性能が得やすい固定子電流制御は、2軸座標系の1つであるdq同期座標系の上で遂行するものである。また、(1)式に提示した合成固定子電流の合成は、任意の2軸座標系上、3軸座標系上で遂行可能である。この中で、簡単で汎用性に富む合成は、2軸座標系の1つであるαβ固定座標系の上での合成である。この点を考慮して、合成固定子電流をαβ固定座標系上で合成し、これをdq同期座標系上の合成固定子電流へ変換することを考える。
【0031】
なお、以降では、ベクトル量としての電流、電圧指令値に対して、これらが定義された座標系を明示すべく、これらベクトル量に対し、脚符r(dq同期座標系)、s(αβ固定座標系)、t(3軸座標系)をつける。第k番巻線の三相電流(iku、ikv、ikw)を要素とする3×1ベクトルをit,kとし、αβ固定座標系上の第k番固定子電流をis,kとし、αβ固定座標系上の合成固定子電流をisとし、dq同期座標系上の合成固定子電流をirとして、表現するならば、本発明の(1)式より、次の関係を得る。
【数12】
(12b)式におけるS’kは第k番固定子電流用の相変換器(3×2行列)である。また、(12d)式右辺のR(θα)は2×2ベクトル回転器であり、次の(13)式のように定義されている。なお、これら行列における頭符Tは、転置を意味する。
【数13】
【0032】
(12)式のαβ固定座標系上での合成固定子電流の生成手順は、以下のように集約される。
【数14】
【0033】
電流制御器の出力として得られたdq同期座標系上の固定子電圧指令値をvr*とし、αβ固定座標系上の固定子電圧指令値をvs*とし、第k番巻線のαβ固定座標系上の固定子電圧指令値をvs,k*とし、第k番巻線の3軸座標系上の固定子電圧指令値をvt,k*として、表現するならば、合成固定子電流の生成をαβ固定座標系上で遂行する(12)、(14)式に対応する第k番巻線のαβ固定座標系上の固定子電圧指令値vs,k*、および3軸座標系上の固定子電圧指令値vt,k*の生成手順は、以下のように記述される。
【数15】
【0034】
(15)式に示した、αβ固定座標系上での第k番固定子電圧指令値を用いた3軸座標系上での第k番固定子電圧指令値vt,k*の生成手順は、以下のように集約される。
【数16】
【0035】
(14)、(16)式は、請求項1の発明に直接的に従ったものである。すなわち、(14)式は、2以上の多重数nをもつn重巻線交流電動機(同期電動機、誘導電動機)を対象に、「固定子の同一性」を利用し、2軸座標系の1つであるαβ固定座標系の上で、(1)式と等価な電流均等加算式により、合成固定子電流を合成するものである。これに対応すべく、(16)式は、2以上の多重数nをもつn重巻線交流電動機(同期電動機、誘導電動機)を対象に、「固定子の同一性」を利用し、2軸座標系の1つであるαβ固定座標系の上で、(2)式と等価な電圧指令値均等式により、第k番固定子電圧指令値を生成するものである。
【実施例0036】
請求項1の発明に従った(14)、(16)式を用いた実施例をより詳細かつ具体的に示すべく、多重数n=2とした上で、さらに請求項2、請求項3の発明を適用することを考える。本考えの下、以下の条件「正定数は、Kc=√2」、「多重巻線電動機は、二重巻線永久磁石形同期電動機」、「単一固定子における第1番、第2番巻線の配置は、図2(a)」を追加する。この場合の多重巻線電動機駆動システムの1構成例は、図3のように描画される。
【0037】
同図の駆動システムは大きくは、多重巻線電動機(回転子、固定子を含む)1、電力変換装置2(破線ブロック表示)、電流制御装置3(破線ブロック表示)から構成されている。電力変換装置の内部構成と電流制御装置の内部構成は、第1番巻線用と第2番巻線用は基本的に同一である。この点を踏まえ、基本的に第1番巻線用を中心にこれらを説明し、第1番巻線用と第2番巻線用で相違がある場合に限り、個別に説明する。
【0038】
電力変換装置2は、電力変換器21、電流検出器22から構成されている。電流制御装置3は、相変換器31a、31b、ベクトル回転器32a、32b、電流制御器33、ベクトル回転器へ位相情報を、電流制御器へ速度情報を送るための補助機器(位相検出器341、速度検出器342、余弦正弦信号発生器343)から構成されている。本例では、参考までに、トルク指令値から電流指令値ir*を生成し、これを電流制御器33へ送る指令変換器4を追加している。
【0039】
本実施例では、図3より明白なように、合成固定子電流isは、αβ固定座標系上で合成されている。この結果、同図では、一対のベクトル回転器32a、32bより左側の機器は、一重巻線電動機と同様に、2×1合成固定子電流指令値ir*と合成固定子電流irを入力とし、2×1合成固定子電圧指令値vr*を出力とする単一の2×2電流制御器33があるに過ぎない。合成固定子電流isのαβ固定座標系上での合成に対応して、合成固定電圧指令値vs*は、αβ固定座標系上で均等分離されている。
【0040】
なお、(12)、(14)、(15)、(16)式に用いた第k番巻線用の相変換器は、図2(a)の巻線配置の電動機を利用した図3の実施例では、次式となる。
【数17】
【0041】
これより、(14)、(16)式に用いた相変換器に関し、次式の関係が得られる。
【数18】
【0042】
(18)式を(14)、(16)式に適用すると、次式を得る。
【数19】
【数20】
図3における3軸座標系上の第1番、第2番固定子電流it,1、it,2からdq同期座標系上の合成固定子電流irの合成過程は、(19)式に正確に従っている。また、dq同期座標系上の合成固定電圧指令値vr*から3軸座標系上の第1番、第2番巻線用の固定子電圧指令値vt,1*、vt,2*の生成過程は、(20)式に正確に従っている。これらは、2軸座標系の1つであるαβ固定座標系の上で、(1)式と等価な電流均等加算式により、合成固定子電流を合成し、また、2軸座標系の1つであるαβ固定座標系の上で、(2)式と等価な電圧指令値均等式により、第k番固定子電圧指令値を生成するものである。
【0043】
図3のおける電流制御器33は、請求項2の発明に従って、設計あるいは構成されている。電流制御器の設計・構成の1例を図4に示した。同図では、ベクトル信号に代わってスカラ信号を用いて電流制御器の設計・構成の様子を示している。なお、ベクトル信号とスカラ信号の関係は、次の定義式の通りである。
【数21】
図4に例示した電流制御器33は、大きくは、d軸、q軸用PI制御器(破線ブロック)331と非干渉器(破線ブロック)332から構成されている。PI制御器の制御器係数は、請求項2の発明に従い、合成固定子電流の特性と直接的に関連した(5d)、(6d)、(8)、(9)式定義の合成パラメータ(合成インダクタンス、合成抵抗、合成磁束強度)の少なくも1つを用いて設計することになる。PI制御器の制御器係数の設計は、非特許文献3等で詳しく解説されている一重巻線電動機のための公知の電流制御器設計法を、合成パラメータの利用を条件に、実質無修正で利用すればよい。当業者における電流制御器設計法の公知性を考慮し、この解説はこれで止める。
【0044】
図4の非干渉器332の特徴は、合成固定子電流の特性と直接的に関連した(5d)、(6d)、(9)式定義の合成パラメータ(合成インダクタンスLd、Lq、合成磁束強度Φ)を用いて構成されている点にある。非干渉器332自体の設計は、非特許文献3等で詳しく解説されている一重巻線電動機のための公知の非干渉器設計法を忠実に従っている。当業者における非干渉器設計法の公知性を考慮し、この解説はこれで止める。
【実施例0045】
n個の第k番固定子電流用相変換器がすべて同一の場合には(下の(22b)式参照)、(14)式は、以下のように簡略化される。
【数22】
また、n個の第k番固定子電流用相変換器がすべて同一の場合には((22b)式参照)、(16)式は、以下のように簡略化される。
【数23】
なお、(22)、(23)式に用いた相変換器「S1’」の定義は、基本的に(17a)式と同一である。
【0046】
(22)、(23)式は、請求項1の発明に直接的に従ったものである。すなわち、(22)式は、2以上の多重数nをもつn重巻線交流電動機(同期電動機、誘導電動機)を対象に、「固定子の同一性」を利用し、3軸座標系上で、(1)式と等価な電流均等加算式により、合成固定子電流を合成するものである。これに対応すべく、(23)式は、2以上の多重数nをもつn重巻線交流電動機(同期電動機、誘導電動機)を対象に、「固定子の同一性」を利用し、3軸座標系上で、(2)式と等価な電圧指令値均等式により、第k番固定子電圧指令値を生成するものである。
【実施例0047】
請求項1の発明に従った(22)、(23)式を用いた実施例をより詳細かつ具体的に示すべく、多重数n=2とした上で、さらに請求項2、請求項3の発明を適用することを考える。本考えの下、以下の条件「正定数は、Kc=√2」、「多重巻線電動機は、二重巻線永久磁石形同期電動機」、「単一固定子における第1番、第2番巻線の配置は、図2(b)または(c)」を追加する。この場合の多重巻線電動機駆動システムの1構成例は、図5のように描画される。
【0048】
図5における機器の意味は、図3における同一番号をもつ機器と同一である。このため、これらの機器の説明は省略する。図3に対する図5の相違は、合成固定電流の合成過程と第1番、第2番巻線用の固定子電圧指令値vt,1*、vt,2*の生成過程にある。
【0049】
前述の追加条件を(22)、(23)式に適用すると、次式を得る。
【数24】
【数25】
上式における相変換器「S1」は、基本的には、(17a)式を用いた(18a)式で定義されたものと同一である。
【0050】
図5における3軸座標系上の第1番、第2番固定子電流it,1、it,2からdq同期座標系上の合成固定子電流irの合成過程は、(24)式に正確に従っている。また、dq同期座標系上の合成固定電圧指令値vr*から3軸座標系上の第1番、第2番巻線用の固定子電圧指令値vt,1*、vt,2*の生成過程は、(25)式に正確に従っている。これらは、3軸座標系上で、(1)式と等価な電流均等加算式により、合成固定子電流を合成し、また、3軸座標系上で、(2)式と等価な電圧指令値均等式により、第k番固定子電圧指令値を生成するものである。
【0051】
図5における電流制御器としては、実施例2で利用した図4の電流制御器がそのまま利用できる。本利用に際し、請求項2の発明における「モータパラメータに由来しかつ合成固定子電流の動特性を反映した合成パラメータを用いた電流制御器の設計・構成」は、実施例2、実施例4に関連した図4のものに限定されるものでないことを、改めて指摘しておく。本設計・構成には、一重巻線交流電動機に対し利用されてきた公知の設計・構成法が実質的な修正なく利用できることを指摘しておく。「当業者には公知であり、実質的修正がない」点を考慮の上、ここでは、これらの説明を省略している。
【実施例0052】
実施例1~4では、(1)式に従った合成固定子電流の合成に伴う定数「Kc/n」の演算を相変換器の演算と一体的に実施し、演算負荷の低減を図った。定数「Kc/n」の演算は、これに限定されるものではなく、他にも「第k番固定子電流の個別検出に利用される電流検出器のゲインに定数演算効果を持たせる」、「ベクトル回転器に本定数演算の効果を持たせる」、「個別に定数演算する」といった種々の演算形式がある。本発明はこうした種々の形式の定数演算を排除するものではないことを、指摘しておく。
【実施例0053】
実施例1~4では、(2)式に従った第k番固定子電圧指令値vk*の生成に伴う定数「1/Kc」の演算を相変換器の演算と一体的に実施し、演算負荷の低減を図った。定数「1/Kc」の演算は、これに限定されるものではなく、「(2)式右辺の合成固定子電圧指令値v*の生成段階で、本定数演算処理を行う」こともできる。本定数演算処理は、「電流制御器の各種ゲインに本定数効果を予め持たせる」、「ベクトル回転器に本定数演算効果を持たせる」といった種々の方法で実現できる。もちろん、(2)式に直接的に従って、定数「1/Kc」の演算を実施することもできる。第k番固定子電圧指令値を受け取った電力変換装置の内部で電力変換器用スイッチング信号を生成する段階で、本定数演算効果を実質的に遂行することもできる。本発明はこうした種々の形式の定数演算を排除するものではないことを、指摘しておく。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、バッテリ電気自動車、燃料電池電気自動車、ハイブリッド電気自動車の主駆動電動機、家電用高速電動機などに代表される、広範囲にわたり効率駆動を要求される用途での多重巻線電動機、対故障性、機能安全性を要求される用途での多重巻線電動機の駆動システムに好適である。
【符号の説明】
【0055】
1 多重三相巻線交流電動機
2 電力変換装置
21 電力変換器
22 電流検出器
3 電流制御装置
31a 相変換器
31b 相変換器
32a ベクトル回転器
32b ベクトル回転器
33 電流制御器
331 PI制御器
332 非干渉器
341 位相検出器
342 速度検出器
343 余弦正弦発生器
4 指令変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6