(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164225
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61C 1/07 20060101AFI20231102BHJP
A61C 1/05 20060101ALI20231102BHJP
A61C 1/12 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61C1/07 Z
A61C1/05 A
A61C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022083415
(22)【出願日】2022-04-30
(71)【出願人】
【識別番号】504230246
【氏名又は名称】鈴木 計芳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 計芳
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052AA20
4C052BB03
4C052CC02
4C052CC13
(57)【要約】
【課題】 根管壁を軽く楽に切削し得るようにすべく、歯科用ハンドピースが、切削用刃具の回転時に高周波振動を発するようにする。
【解決手段】
歯科用ハンドピース1は、歯の切削用刃具2を回転させるためのエアタービン3を備えた筐体10と、この筐体に取り付けられた、エアタービン3のための給気通路14を内蔵するハンドル側筐体11とから成り、エアタービン3が回転バランスを壊すことで高周波振動を発するように設けられた羽車30を備えている。そして羽車30の回転バランスを壊すべく、羽車30の回転軸を元来の回転軸の位置から1/1000mmずらして設けている。そこでエアタービン3を40万回転で回転させると、羽車30のブレによって都合良く400KHzの高周波振動を発する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の切削用刃具を回転させるためのエアタービンを備えた筐体と、この筐体に取り付けられた、前記エアタービンのための給気通路を内蔵するハンドル側筐体とから成り、前記エアタービンが、ブレなく回転させたいとする場合の設計上の回転中心からずらした位置に回転軸を設けた羽車を備えている、歯科用ハンドピース。
【請求項2】
複数個の軸受となるボールを羽車の前記回転軸に対して同軸上に配設し、これ等に羽車を両側から支持させて、羽車と前記ボールとの内部隙間によって、前記羽車が歳差運動を行うように設けられている、請求項1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記ボールが交換自在である、請求項2に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項4】
請求項1に記載の前記エアタービンがブレなく回転させたいとする設計上の回転中心からずらした位置に前記回転軸を設けた羽車を備えているのと同等の作用効果を得るべく、ブレなく回転させたいとする設計上の回転中心に回転軸を設けて、羽車を磁性体から構成し、この羽車を包囲する外殻の一部に前記磁性体を吸引する磁石を設けた、歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は切削用刃具に高周波振動を加えるようにしたエアタービン式の歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
エアタービン式の歯科用ハンドピースは、コンプレッサからの圧搾空気によりエアタービン内部の羽車を高速回転させて、この羽車に一般的には同軸で取り付けられている切削用刃具によって、虫歯の切削や除去を行う器具である。より詳しくは、筐体と、該筐体に内蔵された、歯の切削用刃具が設けられたエアタービンと、この筐体に取り付けた、エアタービンのための給気通路や排気通路などを内蔵するハンドル側筐体と、から成るものが一般的である。さらに洗浄水の噴霧口への洗浄水路や噴霧気路が設けられているものもある。なお噴霧気路に排気通路が接続される構成とする場合もある。なおコンプレッサからの圧搾空気は、チェアユニットのペダル等を含んで給気量を制御するための給気回路の、供給口に接続された給気チューブを介して供給される。
【0003】
歯科医師はこのような歯科用ハンドピースを用いて、チェアユニットのペダルを操作しつつ、高速回転させた切削用刃具で虫歯の切削を行うのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この際に、根管壁を軽く楽に切削出来るようにすれば、歯科医師にとっては施術が楽になり、時間短縮にもなり、その分、患者にとっては苦痛が軽減されると言うものである。この発明の課題は、根管壁を軽く楽に切削出来るような歯科用ハンドピースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
当発明者は、歯科用ハンドピースの切削用刃具に高周波振動を加えると、根管壁を軽く楽に切削出来ることを新たに見出した。しかしながらこのためには別途高周波振動の発信装置を用意しておく必要がある。何かもっと簡易な手段があるはずである。
【0006】
この発明では、歯の切削用刃具を回転させるためのエアタービンを備えた筐体と、この筐体に取り付けられた、前記エアタービンのための給気通路を内蔵するハンドル側筐体とから成り、前記エアタービンが、ブレなく回転させたいとする場合の設計上の回転中心からずらした位置に回転軸を設けた羽車を備えている、歯科用ハンドピースとすることにより、上記課題を解決することが出来た。
【0007】
一般的なエアタービンでは、切削用刃具をブレなく円滑に回転させることが常識であるから、このための回転中心が設計で定められる。これに対してこの発明では、この回転軸を敢えてずらして設ける設計としたのである。すると当然のことながら切削用刃具はブレながら回転する。
【0008】
従来の一般的なエアタービンに於ける回転軸に対して、この発明では回転軸をおおよそ1/1000mmほどずらすようにした。そうしてエアタービンを30万回転乃至50万回転で回転させると、回転のブレによって300KHz乃至500KHzの周波数の高周波振動を発する。好適にはこの中間値の400KHzであるが、この高周波振動は回転する切削用刃具に伝達されて切削用刃具に微細振動を引き起こす。これにより切削用刃具の高速回転運動による切削に振動運動による切削が加味されて、根管壁を軽く楽に切削することが出来る。
【0009】
なおこの発明では、ボールを用いることなしに、圧縮空気の薄い膜によるいわゆるエアベアリングにて軸支する構成も可能である。
【0010】
次に、複数個の軸受となるボールを羽車の前記回転軸に対して同軸上に配設して、これ等に羽車を両側から支持させて、羽車と前記ボールとの内部隙間によって前記羽車が歳差運動を行うように設けられているものとすることが出来る。羽車の歳差運動は切削用刃具の歳差運動として現れる。すなわち切削用刃具の先端部分が歳差運動を行いつつ根管壁に接触するので、更により軽く楽に根管壁を切削することが出来るようになる。
【0011】
なお前記ボールが交換自在であるものとしても良い。ボールには鋼鉄球やセラミック球などが任意に用いられるが、羽車が回転運動を行ったり歳差運動を行ったりすることにより摩耗するため、ボールを新しいものと交換自在にするのである。
【0012】
さて、この発明では、請求項1に記載の前記エアタービンが、ブレなく回転させたいとする設計上の回転中心からずらした位置に前記回転軸を設けた羽車を備えているのと同じ作用効果を得るべく、ブレなく回転させたいとする設計上の回転中心に回転軸を設けて、羽車を磁性体から成るものとし、この羽車を包囲する外殻の一部に前記磁性体を吸引する磁石を設けた、歯科用ハンドピースとすることにより、上記課題を解決することが出来ている。
【0013】
ブレなく回転させたいとする設計上の回転中心に回転軸を設けることは、一般的に行われていることであるが、この発明では、磁性体の羽車と、外殻の一部に設けた磁石とによる構成を有するものは、この発明が初めてである。回転する歯車は磁石が設けられている方向に常に引っ張られていることによって、上述した請求項1に記載の発明と同等の作用効果、すなわち回転軸をおおよそ1/1000mmほどずらした場合と同様に、エアタービンを30万回転乃至50万回転で回転させると、回転のブレによって300KHz乃至500KHzの周波数の高周波振動を発する、と言う作用効果が得られる。好適にはこの中間値の400KHzを起こさせるように磁力を調整するわけである。この高周波振動は回転する切削用刃具に伝達されて切削用刃具に微細振動を引き起こす。
【発明の効果】
【0014】
この発明の歯科用ハンドピースでは、切削用刃具を回転させるためのエアタービンが、ブレなく回転させたいとする場合の設計上の回転中心からずらした位置に回転軸を設けた羽車を備えている点が特徴である。この構成によって切削用刃具はブレながら高速回転して高周波振動を発生する。切削用刃具で根管壁を切削する際に、切削用刃具に高周波振動が印加される。これにより高周波振動が印加されていない場合と比較して、軽く楽に根管壁を切削することが出来ると言う効果を奏する。歯科医師にとっては、切削用刃具からの騒音や発熱が少なくなったり、切削用刃具の寿命が延びたり、治療に要する時間が短縮したりするなどの利点がある。
【0015】
なおこの他に、高機能な切削用刃具ではないスチール製などの普通の切削用刃具の切削能力が高まることが分かっている。これまでは切削用刃具の能力を高めるべく、カーボンコーティングまたはDLC(Diamond-Like Carbon)コーティングを施していた。カーボンをコーティングすることによって針部の表面の周囲により良い滑性を付与することが出来るからである。ダイヤモンドライクカーボンとはダイヤモンドと黒鉛との中間的な物性を持つ非晶質の硬質炭素であり、このコーティングによって金属表面にナノレベルの薄膜を形成し得る。コストは幾分高くはなるが、根管を往復動するのに都合の良い低摩耗係数の表面すなわち潤滑性の高い金属表面を得ることが出来る。同様の作用効果を欲するのであれば、ブレなく回転させたいとする場合の設計上の回転中心からずらした位置に回転軸を設けた羽車を備えるようにすれば良い。これは正に高周波振動の賜物である。
【0016】
また切削用刃具を虫歯に接触させると、高周波振動が切削用刃具を介して虫歯に伝わって、患者に痛みを感じ難くした状態で治療を行い得ることが分かっている。従ってこのような作用効果を欲するのであれば、上記同様の構成をそのまま採用すれば良い。これまでであれば、エイクレス(登録商標)と呼ばれる別の装置を用いる必要があった。ところがこの発明によれば、別々の装置である歯科用ハンドピースとエイクレス装置とを、同時に扱う必要もなければ患者の口腔内に一緒に入れる必要もなくなり、装置の取り回しが極めて楽なものとなっている。なおまた、従来のエイクレスがホーン部を切削する歯の側面に当てるのに対して、この発明の歯科用ハンドピースが切削用刃具をホーン部として切削を行う虫歯の中に直接当てていることから、この方が痛みの軽減に関する効果がより高くなるのは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】 実施例1の歯科用ハンドピース1の説明図である。
【
図3】 実施例1の羽車の底板34を外して底面視した説明図である。
【
図4】 実施例2の歯科用ハンドピース4の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下ではこの発明の実施例を図面に基づいて説明するが、この発明はこれ等に限定されるものではない。
【実施例0019】
図1に表した歯科用ハンドピース1は、切削用刃具2を回転させるためのエアタービン3を備えた筐体10と、この筐体に取り付けたエアタービン3のための給気通路14や、給水通路15を内蔵するハンドル側筐体11とから成る。筐体10に於いて、切削用刃具2が一体的に設けられたセラミックス製の羽車30は、ボールベアリング12によって、回転軸31から回転自在であるように支持されている。切削用刃具2と羽車30との境は段部32となっている。これによって切削用刃具2は、筐体10の底部の開口部13から筐体10外に突出することが出来る。なお符号20は切削用刃具2の先端部のやすり部を指す。
【0020】
ここで注目すべきは、切削用刃具を回転させるためのエアタービンが、ブレなく回転させたいとする場合の設計上の回転中心からずらした位置に回転軸を設けた羽車を備えているようにしたので、切削用刃具2の回転軸と、羽車30単独の元来の回転軸とが、
図1に矢線で示したように僅かにズレていることである。
【0021】
この羽車30は8枚のブレードが回転対称に設けられている。
図3はこの実施例の歯科用ハンドピース用の羽車30を、底板34を透視する形で底面視にて表したものである。
図3で表すように羽車30は全体が比重3.0のセラミックス製に成るものである。そして切削用刃具2と同軸となるように取り付けた場合の羽車30が、鎖線で表されたものであるのに対して、この実施例の羽車30は、実線で表したように図の左方に僅かにズレて取り付けられている。すなわち羽車30の回転軸は元来の回転軸の位置からズレていることになる。この距離は1/1000mmである。
【0022】
ハンドル側筐体11では、給気パイプ17が接続された給気通路14が、エアタービン3の羽車30に向けて設けられている。エアタービン3は排気のために噴霧口16に通じているが、この噴霧口16には、歯の冷却のための水を通す給水通路15が接続され、またこの給水通路15には給水パイプ18が接続されている。すなわちエアタービン3からの排気が給水通路15からの水に合流して、噴霧口16からは霧状の冷却水が放出されるように構成されている。
【0023】
エアタービン3の羽車30は、給気通路14からの圧搾空気により高速回転を行って、パワフルな駆動力を発揮する。なおエアタービン3の排気のための排気専用通路を、ハンドル側筐体11の給気パイプ17に添設するような構成も可能である。
【0024】
この構成によれば、エアタービン3を40万回転で回転させると、羽車30のブレによって、回転時に都合良く400KHzの高周波振動を発するのである。
【0025】
なお図示しないが、ボールベアリング12と羽車30との間の内部隙間を敢えて活かすことによって、羽車30に僅かな歳差運動を起こさせることが出来る。すると切削用刃具2の先端部のやすり部20に歳差運動を生じて根管壁に接触するので、根管壁の切削治療が更により軽く楽なものになる。
【0026】
また図示しないが、ボールベアリング12を、その摩耗などによって交換したくなった場合に備えて、上記筐体10の上部が開いて、ボールベアリング12の交換が行えるように構成すると便利である。
先端部分にやすり部20のある切削用刃具2は、筐体40の底部の開口部43から筐体40外に突出している。切削用刃具2は回転軸51と同軸に設けられており、同様にブレード52も羽車50も同軸で回転対称に設けられている。
ハンドル側筐体41では、給気パイプ47が接続された給気通路44が、エアタービン5の羽車50に向けて設けられている。エアタービン5は排気のために噴霧口46に通じているが、この噴霧口46には、歯の冷却のための水を通す給水通路45が接続されており、またこの給水通路45には給水パイプ48が接続されている。すなわちエアタービン5からの排気が給水通路45からの水に合流して、噴霧口46からは霧状の冷却水が放出されるように構成されている。
さて上記エアタービン5の羽車50とこれを包囲する外殻53とに付き、ブレード52を含む羽車50はステンレススチール製であって、外殻53の羽車50に相対する部位に磁石54が設けられている。そこで羽車50を回転させると、外殻53の磁石54と羽車50との間で磁力による吸引力が発生する。すなわち上述したようにブレード52を含む羽車50は磁性体であるステンレススチール製であるから、どのブレード52も磁石54の部位を通過する際には両者の間に磁力による吸引力が発生する。この際に回転バランスが所望の程度に壊されて回転軸51延いては切削用刃具2に高周波振動を発生することになる。
なお羽車をセラミックス製のものにすると共にこのブレードの一部に磁石を固定して、外殻の一部に上記磁石と吸引または反発するように磁石を固定する、と言うような構成もまた可能である。