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特開2023-164259量子ドットを有するナノ複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164259
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】量子ドットを有するナノ複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20231102BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20231102BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20231102BHJP
   H10B 99/00 20230101ALI20231102BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALI20231102BHJP
   G01N 21/01 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L31/04 112B
H01G9/20 111A
H10B99/00 451
G01N21/3586
G01N21/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182940
(22)【出願日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022074343
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】722004171
【氏名又は名称】株式会社QDジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】玉浦 裕
(72)【発明者】
【氏名】川本 忠
【テーマコード(参考)】
2G059
5F083
5F151
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059EE01
2G059GG10
2G059HH05
2G059KK10
5F083FZ10
5F083GA01
5F083GA27
5F083JA60
5F083PR00
5F151AA07
5F151AA09
5F151AA11
5F151AA14
5F151BA18
5F151DA11
5F151FA04
(57)【要約】
【課題】 従来と異なる新規な量子ドットを有するナノ複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 量子ドットを有するナノ複合体の製造方法であって、複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間を反応場として、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を、前記直線状伝導体上に析出又は担持させ、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを有するナノ複合体の製造方法であって、
複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間を反応場として、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を、前記直線状伝導体上に析出又は担持させ、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体の製造方法。
【請求項2】
前記直線状伝導体を直鎖高分子とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直鎖高分子をポリアニリンとすることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記量子ドットを可視光域にバンドギャップを持つ酸化鉄、硫化鉄、CdSe、PbS、PbSeの少なくともいずれか一種からなるものとすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子を無機半導体とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記直線状伝導体を直鎖高分子とし、
前記ナノ粒子及び前記量子ドットの少なくともいずれか一方を、水溶液中の反応もしくは電析反応によって合成し、反応物濃度、反応pH、反応温度、反応時間の少なくともいずれか一つのパラメータを制御することにより前記直鎖高分子間の隙間に合成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記直線状伝導体を直鎖高分子とし、
前記ナノ粒子を酸化鉄もしくはTiOからなるものとし、
前記量子ドットをFeSからなるものとすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記直鎖高分子をポリアニリンとし、
水溶液中の反応及び電析反応によって前記酸化鉄もしくは前記TiOからなるナノ粒子に前記FeSからなる量子ドットを析出又は担持させることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子の形成のプロセスと、
前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子に前記FeSからなる量子ドットを析出又は担持させるプロセスと
を、繰り返して前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子と前記FeSからなる量子ドットからなるナノ複合体を、前記ポリアニリンの高分子直鎖方向に連結させて合成することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子及び前記FeSからなる量子ドットの少なくともいずれか一方を、水溶液中の反応もしくは電析反応によって合成し、反応物濃度、反応pH、反応温度、反応時間の少なくともいずれか一つのパラメータを制御することにより前記ポリアニリンの隙間に合成することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記直鎖高分子を透明電極表面に垂直方向に、かつ、前記直鎖高分子が互いに平行になるように成長させた高分子束が形成する該高分子束間の隙間を反応場とすることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法により製造した量子ドットを有するナノ複合体を、色素増感太陽電池又は有機太陽電池の製造に用いることを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記直線状伝導体を直鎖有機高分子として、該直鎖有機高分子を電池の電極にほぼ垂直方向に成長させ、
前記直線状伝導体間の隙間を反応場として前記ナノ粒子及び前記量子ドットを形成した直鎖有機高分子を正極とすることを特徴とする請求項12に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、前記ナノ複合体を前記直線状伝導体から遊離回収することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法により、前記複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、前記ナノ複合体を構成する前記量子ドットを前記直線状伝導体から遊離回収することを特徴とする量子ドットの製造方法。
【請求項16】
量子ドットを有するナノ複合体であって、
複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間に、
前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、
前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を有し、
複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを有するナノ複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、大きさを変えることでバンドギャップエネルギーが制御でき、光の吸収や発光の波長を変化させることができるため、その特異な電気的性質を利用して、量子ドット太陽電池、量子ドットレーザ、単電子トランジスタ、量子テレポーテーション、量子コンピューター、テラヘルツ情報通信、医療、農林業などへの応用が期待されている。
【0003】
量子ドットとは、粒径が約20nm以下の無機ナノ粒子であり、量子サイズ効果の発現により、バルク体とは異なる物性を示すものである。量子ドット中に電子を閉じ込めることで生じる量子サイズ効果により従来の太陽電池では吸収することのできなかった波長の光や、高エネルギーの光を有効に利用することで変換効率を高めることができる。
【0004】
一般的なシリコン太陽電池は、超高純度のシリコンを利用することから、大きなコストダウンが期待できない。そこで、塗布プロセスなどの「ウェットプロセス」により製造される太陽電池が、低コストな次世代太陽電池として期待されている。従来型の太陽電池では熱損失として失われてしまうエネルギーを有効利用することが期待できる(ホットキャリア効果、マルチエキシトン生成効果)。
【0005】
「ウェットプロセス」により製造可能な次世代太陽電池として、量子ドット太陽電池がある。量子ドット型太陽電池は、理論効率でいうと、従来のシリコン型の2倍にあたる63%の変換効率を実現できる可能性があり、第三世代の太陽電池として製品化が待たれている。
【0006】
量子ドット太陽電池の強みは、これまで活用できなかった幅広い波長の光吸収を行えることと、高い光熱エネルギーとして損失する前に励起子(高いエネルギー状態にある電子・正孔の対)生成に活用できる。どちらも従来の太陽電池のボトルネックを解決するもので、高エネルギー光を活用するには、通常1光子に1つしか取り出せない励起子を、複数取り出すことができる多重励起子生成(MEG)の発現が鍵となっている。
【0007】
量子ドット型太陽電池は、量子ドット中に電子を封じ込めて「中間バンド」という方式によって量子ドットを三次元的に重ねることで、太陽電池の特定のエネルギー位置にバンドをつくりこみ、本来吸収できない波長の光も無駄なく吸収することができる。また、量子ドットの粒径の減少に伴い、バンドギャップエネルギーが増大(吸収波長が短波長化)し、粒径約3nmでバンドギャップエネルギー約1.2eVの硫化鉛(PbS)量子ドットを量子ドット太陽電池に用いることが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
また、量子ドットを高密度に配列させた構造にすると、量子ドット間の電子的結合が起こり、個々の量子ドット中に形成される離散化されたエネルギー準位が束となってエネルギーバンドが形成されるので、この中間バンドを介した光吸収を利用して、赤外域の太陽光を有効に吸収し太陽電池の高効率化を図ることができる。つまり、赤色の波長の光子を一つ吸収した電子が量子ドットから中間バンドへ持ち上がり、さらにもう一つ、今度は赤外の波長の光子を吸収して中間バンドから伝導帯へ上がるので、量子ドットによって光が吸収された結果、電流が増大し、発電効率を上げることができる(非特許文献2)。
【0009】
量子ドットを太陽電池に用いて70%以上の変換効率を得る為には、ミニバンドを自在に形成する必要があり、半導体レーザなどと同じエピタキシャル成長法によって、その実現が検討されてきた(非特許文献3)。しかしエピタキシャル成長法では、充分高均一な量子ドットの配列構造を、高い量子効率を維持したまま実現することが極端に難しく、試作された太陽電池の変換効率は非常に低い値に留まっている。
【0010】
また、非特許文献2に記載されているように、Layer-by-layer法により、半導体量子ドット超格子を作製するとともに、面内・積層方向の量子ドット間距離を制御することで量子共鳴の次元制御する方法が開発されている。近接した量子ドット間における量子共鳴は、電荷移動度の劇的な向上をもたらすことから、デバイス応用に向けて、量子共鳴に基づいた光・電子物性の理解が重要となっている。半導体量子ドットが一次元、二次元、三次元方向に近接した量子ドット超格子構造の次元性に基づいた発光特性が発現する。
【0011】
また、次世代太陽電池の最有力候補として、近年の光電変換効率の急増が報告されている、ペロブスカイト太陽電池がある。このペロブスカイト太陽電池は、例えば、メチルアンモニウムなどのカチオンとヨウ化鉛などのハロゲン化金属塩から構成されるペロブスカイト化合物(CHNHPbI)を光吸収層に用いた光電変換素子を具備する(非特許文献4)。カチオン種、ハロゲン元素、金属元素などの組成によりペロブスカイト化合物の化学的、物理的特性が変化することが知られている。例えば、ハロゲン元素のヨウ素を臭素に置換することによって、光電変換素子の耐久性は向上するものの、ペロブスカイト化合物の吸収短波長化(バンドギャップエネルギーの増大)に伴う変換効率低下が報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ACS Nano 2014,8,614-622
【非特許文献2】Nature Communications, 10.1038/s41467-020-19337-0
【非特許文献3】向井剛輝,横浜国立大学,科研費(基盤研究C) 18K04972(2020)
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.2009,131,6050-6051
【非特許文献5】Nano Lett.2013,13,1764-1769
【非特許文献6】Chemical Physics Letters 2012, 542, 89-93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、量子ドットを利用した従来の光電変換素子は、優れた耐久性と高い変換効率が両立されていない。例えば、量子ドットは、大気中で表面酸化されやすいため、経時に伴い光電変換効率が低下してしまい、耐久性に乏しい。また、ペロブスカイト化合物は、大気中の水分などにより分解するため、耐久性に問題がある。
【0014】
また、従来の量子ドット太陽電池では、1平方cmあたり、500~1千億個の量子ドットが入っているが、効率を上げるには、現状の10倍の量子ドットが必要で、さらに微小な量子ドットを作製する技術および効率化となる配列をする技術の開発が求められている。
【0015】
また、量子ドット中に電子を封じ込めて「中間バンド」という方式にするには、光子エネルギーを吸収して中間バンドに励起された電子は、2個目の光子エネルギーを吸収させて量子ドットの外へ取り出せるように三次元的に重ね合わせることが求められる。しかし、未だ、このような2個目の光子エネルギーを吸収させて量子ドットの外に取り出せる十分な技術が確立されていない。
【0016】
さらに、量子ドットの外に脱出した電子は、拡散・ドリフトによる移動を経て電極に向かう途中で別の量子ドットに再び捕獲される確率があるので、捕獲と光励起(脱出)の過程を繰り返しながら最終的には電流として取り出せるようにセル構造を最適化する必要がある。多重励起子の寿命は数10ピコ秒と言われており、この時間以内で、電子と正孔に電荷分離させる必要がある(非特許文献6)。
【0017】
本発明は、従来と異なる新規な量子ドットを有するナノ複合体の製造方法を提供すること、及び、そのような量子ドットを有するナノ複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、量子ドットを有するナノ複合体の製造方法であって、複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間を反応場として、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を、前記直線状伝導体上に析出又は担持させ、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体の製造方法を提供する。
【0019】
また、前記直線状伝導体を直鎖高分子とすることが好ましい。
【0020】
さらにこのとき、前記直鎖高分子をポリアニリンとすることが好ましい。
【0021】
また、前記量子ドットを可視光域にバンドギャップを持つ酸化鉄、硫化鉄、CdSe、PbS、PbSeの少なくともいずれか一種からなるものとすることが好ましい。
【0022】
また、前記ナノ粒子を無機半導体とすることが好ましい。
【0023】
また、前記直線状伝導体を直鎖高分子とし、前記ナノ粒子及び前記量子ドットの少なくともいずれか一方を、水溶液中の反応もしくは電析反応によって合成し、反応物濃度、反応pH、反応温度、反応時間の少なくともいずれか一つのパラメータを制御することにより前記直鎖高分子間の隙間に合成することが好ましい。
【0024】
また、前記直線状伝導体を直鎖高分子とし、前記ナノ粒子を酸化鉄もしくはTiOからなるものとし、前記量子ドットをFeSからなるものとすることが好ましい。
【0025】
この場合、前記直鎖高分子をポリアニリンとし、水溶液中の反応及び電析反応によって前記酸化鉄もしくは前記TiOからなるナノ粒子に前記FeSからなる量子ドットを析出又は担持させることが好ましい。
【0026】
さらにこの場合、前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子の形成のプロセスと、
前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子に前記FeSからなる量子ドットを析出又は担持させるプロセスとを、繰り返して前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子と前記FeSからなる量子ドットからなるナノ複合体を、前記ポリアニリンの高分子直鎖方向に連結させて合成することが好ましい。
【0027】
また、前記酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子及び前記FeSからなる量子ドットの少なくともいずれか一方を、水溶液中の反応もしくは電析反応によって合成し、反応物濃度、反応pH、反応温度、反応時間の少なくともいずれか一つのパラメータを制御することにより前記ポリアニリンの隙間に合成することが好ましい。
【0028】
また、本発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法では、前記直鎖高分子を透明電極表面に垂直方向に、かつ、前記直鎖高分子が互いに平行になるように成長させた高分子束が形成する該高分子束間の隙間を反応場とすることが好ましい。
【0029】
また、本発明は、上記のいずれかの方法により製造した量子ドットを有するナノ複合体を、色素増感太陽電池又は有機太陽電池の製造に用いることを特徴とする太陽電池の製造方法を提供する。
【0030】
この場合、前記直線状伝導体を直鎖有機高分子として、該直鎖有機高分子を電池の電極にほぼ垂直方向に成長させ、前記直線状伝導体間の隙間を反応場として前記ナノ粒子及び前記量子ドットを形成した直鎖有機高分子を正極とすることが好ましい。
【0031】
また、発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法では、前記複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、前記ナノ複合体を前記直線状伝導体から遊離回収することができる。
【0032】
また、本発明は、上記のいずれかの方法により、前記複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、前記ナノ複合体を構成する前記量子ドットを前記直線状伝導体から遊離回収することを特徴とする量子ドットの製造方法をも提供する。
【0033】
また、本発明は、量子ドットを有するナノ複合体であって、複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間に、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を有し、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在する量子ドットを有するナノ複合体を提供する。
【発明の効果】
【0034】
本発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法は、従来と異なる新規な量子ドットを有するナノ複合体の製造方法を提供することができる。また、本発明により、そのような量子ドットを有するナノ複合体を製造することができる。本発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法により、「リニア配列量子ドット」と称することができる構造の量子ドットを有するナノ複合体を製造することができる。このようなリニア配列量子ドットを有するナノ複合体は、高性能の光電変換素子に応用することができ、電気エネルギー・量子コンピューター、医療・農林業への利用をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の量子ドットを有するナノ複合体の一例を示す概略図である。
図2】本発明の量子ドットの製造方法の一例を示す概略図である。
図3】本発明の量子ドットを有するナノ複合体を用いた色素増感太陽電池の一例を示す概略図である。
図4】本発明の量子ドットを有するナノ複合体を用いたテラヘルツ電磁波発生器の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
本発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法は、複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間を反応場として、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を、前記直線状伝導体上に析出又は担持させ、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体の製造方法である。
【0038】
また、本発明の量子ドットを有するナノ複合体は、複数の直線状伝導体が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間に、前記ナノ複合体のコアであるナノ粒子と、前記ナノ粒子の表面に付着した量子ドットとからなるナノ複合体を有し、複数の前記ナノ複合体が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在することを特徴とする量子ドットを有するナノ複合体である。
【0039】
[実施形態1]
(ナノ複合体とその合成方法の形態)
図1に、本発明の量子ドットを有するナノ複合体の製造方法により製造したナノ複合体を示す概略図を示した。図1に示した量子ドットは、「リニア配列量子ドット」と称することができる。
【0040】
上記のように、本発明は、量子ドット14を有するナノ複合体10である(図1(a)及び(b)参照)。本発明では、複数の直線状伝導体24が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間(図1(a)では50~100nmを例示している)に、ナノ複合体10のコアであるナノ粒子12と、ナノ粒子12の表面に付着した量子ドット14とからなるナノ複合体10を有する。また、本発明では、複数のナノ複合体10が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在することを特徴としている。
【0041】
このような量子ドット14を有するナノ複合体10は、上記のように複数の直線状伝導体24が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間を反応場として、ナノ複合体10のコアであるナノ粒子12と、ナノ粒子12の表面に付着した量子ドット14とからなるナノ複合体10を、直線状伝導体24上に析出又は担持させる。このとき、本発明では、複数のナノ複合体10が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成する。また、複数の直線状伝導体24が1nm以上100μm以下の間隔で並んだ隙間は、図1(a)に示した電極22に直線状伝導体24を複数本形成することによって準備することができる。
【0042】
このとき、直線状伝導体24を直鎖高分子とすることが好ましい。さらに、この直鎖高分子をポリアニリンとすることが好ましい。
【0043】
また、量子ドット14を可視光域にバンドギャップを持つ酸化鉄、硫化鉄、CdSe、PbS、PbSeの少なくともいずれか一種からなるものとすることが好ましい。
【0044】
また、ナノ粒子12を無機半導体とすることが好ましく、特に、酸化鉄もしくはTiOからなるものとすることが好ましい。
【0045】
本発明では、特に、直線状伝導体24を直鎖高分子とし、ナノ粒子12及び量子ドット14の少なくともいずれか一方を、水溶液中の反応もしくは電析反応によって合成し、反応物濃度、反応pH、反応温度、反応時間の少なくともいずれか一つのパラメータを制御することにより直鎖高分子間の隙間に合成することができる。この場合、特に好ましくは、直鎖高分子をポリアニリンとし、水溶液中の反応及び電析反応によって酸化鉄もしくはTiOからなるナノ粒子12にFeSからなる量子ドット14を析出又は担持させることができる。
【0046】
本発明では、特に、直鎖高分子を透明電極表面に垂直方向に、かつ、直鎖高分子が互いに平行になるように成長させた高分子束が形成する該高分子束間の隙間を反応場とすることが好ましい。
【0047】
図1を参照してより具体的な例を説明するが、本発明はこれに限定されない。導電性高分子であるポリアニリンの例えば約1000ファイバーからなる高分子繊維束を一つの直線状伝導体24として、採用することができる。電極22としては、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)を材料として作用することができる。FTO透明電極はガラス板上に形成したものを使用することができる。上記の高分子繊維束をFTO透明電極面の表面上に例えば30nmの間隔で多数並べることによってできる隙間の空間を反応場とすることができる。このような反応場において、例えば、鉄酸化物の一つであるαFeナノ粒子(コアとなるナノ粒子12)を電析によって前記ポリアニリンのいくつかのファイバーにオーム接触して析出させ、さらに少なくとも第一鉄イオンとイオウイオンを含む反応液から電析によって前記αFeナノ粒子表面上にFeS量子ドット(量子ドット14)の例えば2nm~10nmのサイズの粒子を三次元的に堆積することによってナノ複合体10を合成することができる。
【0048】
ここで直線状伝導体24として用いる導電性高分子は、前記ポリアニリンの他、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール等でもよく、また前記ナノ粒子はTiOでもよい。さらに、前記FeS量子ドットは、可視光域にバンドギャップを持つ酸化鉄、硫化鉄、CdSe、PbS、PbSeのいずれの量子ドットであってもよい。
【0049】
前記ナノ粒子の大きさは電析の反応時間等によって変えることができるので、電析の電流通過時間とタイミングを変えることによって、前記ナノ粒子のサイズを様々な大きさに設計することができる。これにより、入射光が複雑に散乱する構造となり、太陽電池として利用する場合には、いわゆる「光の封じ込め」ができ、短い電池セル厚みで、光電変換効率を高めることができる。
【0050】
また、前記αFeナノ粒子を電析によって析出させる方法は、予め調整したナノ粒子の分散液で反応場の空間隙間を浸す方法に代えることもできる。さらに前記αFeナノ粒子表面上にFeS量子ドット2nm~10nmを三次元的に堆積する方法は、予め調整した量子ドット溶液に浸す方法でよく、これらのナノ粒子と量子ドットのサイズは調整時に適宜選択することができる。
【0051】
前記高分子繊維束の長さは、例えば、ポリアニリンの酸化重合反応の反応時間と反応物濃度を変えることによって調整できる。また、重合反応を繰り返すことによって、特性の異なる光電変換素子を層構造にすることもできる。また、前記高分子繊維束の直径は、基板となるFTO透明電極表面に予めマスキングする膜に通過穴を形成させる径の大きさによって自由に決めることができる。
【0052】
前記ポリアニリンの重合反応において、例えばポリビニールアルコールのような液晶特性を有する化合物を共存させることにより、前記高分子繊維束の直線性をより厳密にすることができる。
【0053】
入射光子は前記ナノ粒子のサイズを種々に変化させることによって「光封じ込め」が可能となり光吸収が増大し光電変更効率を高めることが可能であるが、さらに吸収を増大させるにはセル厚みを増大させることが考えられる。しかし、この場合には厚さが増すと電極と電解液との接触面積が増えることから、量子ドットの色素からナノ粒子に注入された電子が電極から電解液へ流れる確率や、電極から酸化型となった量子ドット色素への電子の 再結合の可能性が増えることが危惧される。しかし、本発明の実施形態1のようにポリアニリンを直線高分子導電体として用いていれば、ナノ粒子は個々に直線高分子導電性とオーム接触しているので、例え電解液との接触面積が増えたとしても電子が電解液に流れる確率や量子ドット色素への電子の再結合は起こり難い。つまり、本発明の実施形態1の場合には、セルの厚みを多くしても光電変換効率が低下するものではなく、むしろ厚くすることによって光吸収効率が高まり光電変換効率は高めることが可能となる。
【0054】
[実施形態2]
(実施形態1のナノ複合体の合成を利用する遊離ナノ複合体の合成及び遊離量子ドット合成)
本発明は、実施形態1に示したようにして、直線状伝導体24上にナノ複合体10を製造することができるのであるが、以下に説明する実施形態2のようにして、遊離したナノ複合体や遊離量子ドットを合成することもできる。
【0055】
すなわち、本発明では、直線状伝導体24上に複数のナノ複合体10が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、ナノ複合体10を直線状伝導体24から遊離回収することができる。
【0056】
また、複数のナノ複合体10が相互に離散もしくは集合して吸着もしくは結合した状態で存在するように合成した後、さらに、ナノ複合体10を構成する量子ドット14を、直線状伝導体24から遊離回収することもできる。
【0057】
この実施形態2のうち量子ドット14を遊離回収する方法の、より具体的な態様を、図2を参照して説明する。図2は、本発明のリニア配列量子ドットを用いてナノ複合体を合成する方法を用いて、種々の無機化合物の量子ドットを適宜目的とするサイズで、かつそのサイズが鋭く揃うように合成する方法を示す図である。
【0058】
上記実施形態1と同様に方法により、ポリアニリンの約1000~数万ファイバー数からなる高分子繊維束を一つの直線状伝導体24として、ガラス板のFTO透明電極面の表面上に例えば10nmの間隔で多数並べることによってできる隙間の空間を反応場として、少なくとも第一鉄イオンとイオウイオンを含む反応液から電析によってFeS量子ドット14nmを合成する。その後、反応液から前記ガラス板を取り出し、ナノ粒子を分散させる溶媒、例えばエタノールアミンを分散剤として溶解させたエタノール溶液に浸して、超音波処理によって前記量子ドット14を溶解させたエタノール溶液が得られる。
【0059】
上記導電性高分子はポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール等でもよく、また前記FeS量子ドットは、可視光域にバンドギャップを持つ酸化鉄、硫化鉄、CdSe、PbS、PbSeのいずれの量子ドットであってもよい。
【0060】
また、溶液や遊離処理の条件を変更することにより、さらに、ナノ複合体10(ナノ粒子12に量子ドット14が付着した状態)を直線状伝導体24から遊離回収することもできる。
【0061】
[実施形態3]
(ナノ複合体を利用する色素増感太陽電池)
本発明の方法により製造した量子ドットを有するナノ複合体を、色素増感太陽電池又は有機太陽電池の製造に用いることができる。このとき、直線状伝導体24を、電池の電極にほぼ垂直方向に成長させ、直線状伝導体束が形成する直線状伝導体24間の隙間を反応場としてナノ粒子12及び量子ドット14で形成させた有機高分子を正極とすることができる。色素増感太陽電池の具体的な態様を、図3を参照して説明する。
【0062】
図3は、本発明のナノ複合体10を、アノードとして作製した色素増感型太陽電池を示す図である。
【0063】
図3のナノ複合体は、実施形態1でポリアニリンの約3000本のファイバーからなる高分子繊維束(長さ10ミクロンメーター)、FTO透明電極、30nmの間隔、αFeナノ粒子の電析、FeS量子ドット2nmで合成したものを例として記載した。これをアノードとし、対極をFeSとしエタノール*水=8:2の混合溶媒に0.5MのNaS、0.1MのS、及び0.05MのGuSCN(グアニジンチオシアン酸塩、guanidine thiocyanate)を溶解したものを電解液として、100mW/cmの疑似太陽光照射により変換効率35%を得た。粒径は透過型電子顕微鏡写真より計測した。
【0064】
αFeナノ粒子は異種界面での光吸収、比表面積を高めるために多孔質化やナノ粒子化することが一般的に行われるが、本発明ではナノ粒子によって比表面積を高めることができる。
【0065】
入射光子を十分に吸収させるために電極間の厚さを増すと、一般的には電極と電解液との接触面積が増えることから、量子ドットの色素から注入された電子が電解液へ流れる確率や、酸化型となった量子ドット色素への電子の再結合の可能性が増えることとなり、光熱変換効率が低下する。しかし、本発明の実施形態1では量子ドット色素からひとつのナノ粒子に移動した電子は、オーム接触している導電性高分子に流れるので、電解液へ流れる確率がかなり低く抑えられる。そのため、電極間の厚みを増大することが可能となるので、結果的に量子ドットの色素数が増大でき、吸光係数の大きい電極として100%近くまでに光子を吸収できるので光の利用でのエネルギーロスが少なくなり、効率向上に有利となる。
【0066】
このように、本発明者らは、従来の量子ドット光電変換素子とは全く異なるリニア配置量子ドット光電変換素子による光吸収層を用いることにより、光電変換効率を大幅に向上し、さらに近赤外光領域の光電変換効率(量子効率)を共に向上できることを見出した。
【0067】
すなわち、従来の量子ドット太陽電池では、基板上に電析もしくはスピンコートの後にアニーリング処理する方法では数十nmの量子ドットを高密度に充填することに限界があると共に、光電変換効率を高めるために必要な配列の制御が困難となっている。このことに鑑み、量子ドットの配置の仕方そのものを抜本的に変えて、導電性高分子の直鎖方向にリニア配置とすると共に、導電性高分子にオーム結合した鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子表面に量子ドットを電析もしくは担持させたものを光電変換素子とした。
【0068】
鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子と量子ドットとの異種界面では、吸収光で発生したエキシトンは自由キャリヤーとなるが、異種界面から遠くになると光を吸収するのみで光電流を発生しなくなり、変換効率が低下する。そのために、太陽電池への入射太陽光を入射表面で分散させて光路を増大させて量子ドット界面での光吸収をランダムに起こさせて光吸収効率を高めると共に、さらに異種界面からの距離ができる限り短くなるようにセル層を薄く形成するようにしているが、このようなセル層を薄くすることと、量子ドットを高密度化することとは相反することであり、既存技術にはこのような矛盾があるために既存の技術では、光電変換効率が低く抑えられているのが現状である。この矛盾を解決する方法につき鋭意検討し、本発明のリニア配置方式を考案したもので、この矛盾を解決することができる一つの手段である。
【0069】
鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子を太陽光セル表面に対して直線状に延びた導電体とオーミック接続させることにより、異種界面でTiOナノ粒子に移動したキャリヤー電子を同ナノ粒子から電子を直接引き抜くことができるようにし、従来技術では鉄酸化物ナノ粒子間もしくはTiOナノ粒子間をキャリヤー電子が次々に移動する間に消失することを避けるようにした。導電体は直線状なのでこの導電体に沿って配置されたTiOに析出もしくは担持させた量子ドットはTiOナノ粒子との異種界面は直線状に配置され、このように光を吸収する異種界面が直線状になる。このような異種界面が直線となる配置は既存の技術とは全く異なるもので、リニア配置と呼ぶことにする。
【0070】
一つの鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子の表面には多くの量子ドットが電析もしくは担持されているので、一つの鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子には多くの異種界面が存在し、これらの各々の異種界面での光吸収によるエキシトンの励起電子はフリー電子としてオーミック接触を介して外部回路に運ばれる。従来技術よりもキャリヤー再結合をはるかに小さくできる。
【0071】
量子ドットの光吸収波長は、鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子表面の量子ドットのサイズに依存するため、一定のサイズのみの量子ドットでは太陽光の幅広い波長に対応することができないので、変換効率が低下する。これを解決するために、本発明では、リニア配置の直線方向に対して量子ドットのサイズを変えることができるようにした。これによって吸収される光の波長を幅広く選択できる。
【0072】
鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子表面への量子ドットの存在密度は、表面への電析反応時間あるいは担持させるときの溶液濃度を変えることによって小さい値から3次元的な重なりが生じるまで密度を高めることができる。
【0073】
入射光をセル内に深く侵入させて吸収効率を高めると共に、光電変換素子と導電性高分子をオーム接合させることによって、深部からの励起電子をホールとの再結合や量子ドット内での再結合を起こり難くする構造とした。これにより、量子ドット密度と吸収効率を飛躍的に向上させることが可能となり、変換効率を向上することができる。
【0074】
光電変換素子の鉄酸化物ナノ粒子もしくはTiOナノ粒子表面に電析もしくは担持させた各量子ドットは、三次元的に重なりを持つため、量子ドットの吸収できる近赤外などの長波長領域も含む幅広い波長領域の光を吸収できるため、幅広い波長領域において光電変換機能を有する光電変換素子を得ることができる。
【0075】
高密度に量子ドットを3次元で重なるようにした場合には、量子ドット間でバンドが形成され超格子が形成されるために赤外シフトが起こり、超波長の赤外線も吸収することができる。つまり、両面発電の太陽光発電パネルとした場合には、裏面の地面からの熱放射線を吸収して電力に変換することができる。
【0076】
[実施形態4]
(本発明のナノ複合体を利用するテラヘルツ電磁波発生器)
テラヘルツ波は、金属以外のプラスチックや布をよく透過する電磁波で、X線検査と異なり、人体に無害なテラヘルツ波は空港の人体のセキュリテイ検査への実用化されている。荷物の非破壊検査、食品中の異物検査、損傷や劣化を調べるデバイス品質検査、医療への応用などに広く応用できる。
【0077】
テラヘルツ波は、電波と光波の中間に位置する波長約10マイクロメートル(周波数30テラヘルツ)ないし1ミリメートル(周波数300ギガヘルツ)の電磁波である。このテラヘルツ波の振動周波数は、物質を構成する分子の振動周波数と重なり、ほぼすべての物質の指紋スペクトルが存在するなど、他の電磁波にはないユニークな特徴を有している。そのため、「見えないものを見る」安心・安全のための分光・イメージングや、超高速無線通信などのさまざまな学術・産業分野でテラヘルツ波を利用する技術の開発が急速に進展している。特に、超スマート社会の実現に必須となる情報通信サービスの飛躍的な向上には、テラヘルツ波を利用する次世代超高速無線通信である6Gや7Gの技術開発が必須である。しかしながら、トランジスタをはじめとする電子デバイスも、レーザをはじめとする光デバイスも、テラヘルツ帯での動作は本質的な物理限界のために困難を極めてきた。特に、6Gや7Gの無線信号の送信手段として不可欠な、室温で動作し小型集積化が可能でかつ電池駆動型のテラヘルツ増幅素子やレーザ素子の実現には未だ至っていない。
【0078】
図4は、本発明の一実施形態として直線高電子にポリアニリン、ナノ粒子をGaAs、量子ドットをp型InAsとして合成したナノ複合体をアノード、とし、ポリサルファイドを水素結合の形成がし難い非水系の電解液を用いて作成したテラヘルツ電磁波発生器を示す図である。本発明の量子ドットの析出もしくは担持を3Dに集合させることによって形成された量子ドット半導体の超格子をテラヘルツ波時間領域分光法に適用したところ、THz電磁波を発生させることができた。また、テラヘルツ波の検出もでき、受信機として動作させることができた。
【0079】
[実施形態5]
(本発明のナノ複合体を利用する量子ビットの転写と再生)
本発明の一実施形態として直線高分子をポリアニリンとし、またInAsナノ粒子、p型InAs量子ドットを用いてナノ複合体を合成し、これを用いて、超高感度ヘテロダイン検出フォトンエコー法により、広帯域(>THz)、高時間帯域幅積(>103)、時間モードの保存、通信波長帯光子の直接転写を実施した。これにより、フォトンエコー法によりピコ秒単一光子time-bin量子ビットの転写/再生が可能なことが分かった。
【0080】
半導体における量子制御技術の発展は、短パルスレーザーの開発と、半導体ナノテクノロジーの進歩に依るところが大きい。固体中では、周囲との強い相互作用により、電子系の量子コヒーレンスは数ピコ秒程度の極短い時間内に喪失してしまう(デコヒーレンス)。従って量子制御を行なうためには、それよりも短いフェムト秒パルスが必要で、現在、チタンサファイアレーザーの普及により、市販のレーザーで数十フェムト秒程度の超短光パルスを得られるようになったため、比較的誰でも量子制御の実験に着手することができるようになり、研究対象の多様化が進んでいる。
【0081】
また、光パルスの波形や位相を高度に制御する技術に加え、単一光子や量子もつれ光子対、スクイーズド光といった特色ある光の生成技術が発達しており、より複雑で多彩な量子制御を実現する試みも量子コンピューターの実用化に向け、進められている。一方、ナノテクノロジーの進歩は、“人工原子”と呼ばれる半導体量子ドットを固体化学的、電気化学的、溶液化学的に高品質に作製することが可能となっている。これにより、量子制御に適した電子系の定常状態を用意することが可能となっており、さらに、量子ドットを微小共振器やフォトニック結晶に内包することで、光との結合の大きさを自在に制御できるようにもなりつつある。本発明の実施形態5はこれらに係る新しい独自技術を提供する。
【0082】
量子メモリは量子中継を始めとする多くの量子情報プロトコルを実現するためのキーデバイスである。また量子ゲート操作可能な量子ビットで量子メモリを構築することで、分散型量子計算機の実現といった新しい応用も見えてきている。さらに量子もつれ光子対を転写することで、離れた物質間での量子もつれ合い状態の生成や量子テレポーテーションが実現されつつあり、本発明の実施形態5は、このような量子メモリに係る、量子情報のみならず、量子力学や物性物理といったあらゆる研究領域に貢献する重要な基盤技術となっている。
【0083】
固体での量子メモリ実現が望まれており、量子ドットも有力な候補の一つである。量子ドットは小型化・集積化の点で有利である ことに加え、超短パルスが適用可能であることや、遷移波長を通信波長帯に調整できることから、通信用途に適した量子メモリを構築できる可能性がある。また量子ドット間相互作用が強いため、高速な量子ゲート操作が可能である点も、用途によっては魅力的である。
【0084】
しかし量子ドットでは、ドットごとにサイズや歪の大きさが異なることにより、遷移波長や光との結合の大きさに不均一性が生じてしまう点が問題である。不均一性の影響を避けるため、ほとんどの量子制御の実験は単一量子ドットを対象に行なわれており、いかに光との相互作用を強くするかが課題となっている。
【0085】
不均一性の大きな量子ドット集合体でも適用可能な、フォトンエコー法を用いた新しい方式の量子メモリが開発され、通信波長帯で量子ドット集合体からのフォトンエコー法を利用することが可能となっている。
【0086】
[実施形態6]
(本発明のナノ複合体の合成法を利用するバッテリー)
本発明の一実施形態として、直線高分子をポリアニリン、電析もしくは溶液化学反応によって鉄酸化物ナノ粒子を形成させた後、量子ドットをポリアニリン有機量子ドットとして、ナノ複合体を合成し、これを正極材として電池に組み立てた。
【0087】
[実施形態7]
(本発明のナノ複合体を利用するバイオ・医療分野への応用)
テラヘルツの電磁波の新規産業にバイオ・医療分野がある。そのひとつにバイオセンシングへの応用が期待されている。その理由は、周波数帯・エネルギー・時間領域が、大きな質量の分子の運動、生きたタンパク質と水との相互作用など水和反応、DNAなどにおける水素結合エネルギーなどに対応するとともに、水などイオン性溶液に非常に敏感であることなどによる。それにより、バイオチップや創薬への応用、薬品の結晶多形評価、成分分析による薬の混合不良検査、タブレット・コーティング非破壊検査、高輝度テラヘルツ光を用いたバイオ分子操作や選択培養促進、発症前診断などへの応用が期待される。この分野はこれからの新産業分野であり、これからの分野である。
【0088】
最も広く利用されているのはテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS: Time Domain Spectroscopy)で、基本原理としては、フェムト秒光パルスにより、パルス電磁波を発生し、光パルスが入射したときにだけ動作する高速検出器で、光パルスに時間遅延を与えることで時間領域計測ができる。THz-TDSが検出器として市販されているが、それは、物質のパルス電磁波の透過・反射特性などから、その複素屈折率を広帯域(普及型で0.1 THzから5 THz程度)で求め、その屈折率から、誘電率/導電率などを求めることができる。また、時間領域で計測するため、様々な物質界面での反射/透過特性を利用して、3次元THz-CTとして利用することもでき、皮膚癌の深さ方向2次元分布や薬錠剤のコーティング分布分析など、様々な応用が研究されている。
【0089】
普及型THz-TDSが市販されてから既に十年以上が立つが、期待される応用に比べてその普及は広がっていない。その一つはテラヘルツ波のビーム径が大きく、微量検査・高分解能イメージングには向いていないことであり、また、イメージング時間とコストがトレードオフの関係にあるためにイメージング取得時間が実用的で無いことが理由である。
【0090】
もともと、テラヘルツ波は光よりも波長が長いため画面が粗く、またテラヘルツ波は光として計測するにはエネルギーが低く電波として計測するには周波数が高すぎるために検出感度が極めて悪い。テラヘルツ波の発生を大出力化する必要がある。
【0091】
D.H.Austonらによって超短パルスレーザーを用いたピコ秒オーダーのパルス発生と時間時間波形の計測が報告され、常温でテラヘルツ波の発生と検出が可能となり、この原理を分光法へと応用することで広帯域なテラヘルツ波の振幅と移送情報が短時間の測定で得られるようになり、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS; Terahertz Time Domain Spectroscopy)として知られるようになった。
【0092】
代表的な検出器として,ショットキー接合によって発生するI-V特性の非線形性を用いることで整流検出できるショットキーバリアダイオードがある。さらにTHz-TDSで広く使用される検出器として,フェムト秒レーザーでアンテナ部の微小ギャップ間を光励起することで,テラヘルツ波の電場強度をアンテナ間で発生する瞬時電流によって検出する光伝導アンテナ(PCA: Photo Conductive Antenna)やテラヘルツ波の電場強度を,プローブ光の複屈折に置き換えて検出する電気光学結晶などが挙げられる。これらの検出器は,無線通信や分光利用の研究によく利用されており,産業応用に向けて低コスト化やアレーによる高感度化が求められている。
【0093】
非線形光学を用いて量子光学的にテラヘルツ波を光子エネルギーの大きな近赤外光へ波長変換し、高感度な近赤外光カメラで計測するテラヘルツ波可視化システムが既に開発されている。非線形光学結晶には、有機非線形光学結晶DASTが用いられており、この結晶を使うと、波長をテラヘルツ波と近赤外光の間で自在に変換できる。つまり、診断用に発信した反射テラヘルツ波のエコー像は高感度化でき、エコー像の高感度化については解決されている。しかしながら、反射テラヘルツ波そのもの強度は低いままであり、鮮明な像が得られるとしてもより深部の撮影は困難であり、透過型の画像診断は不可能である。この課題を解決するためには発信するテラヘルツ波そのものを高強度にする必要がある。
【0094】
前記実施形態4のテラヘルツ電磁波発生器を用いてテラヘルツ時間領域分光法により可視光もしくはCWレーザー光を重ねて照射すると同時に両極間に電位を1-10V印加すると同時に数Wに相当する1-3テスラの電磁波を発信することができ、テラヘルツ波の高強度化ができた。
【0095】
[実施形態8]
直線状伝導体24(導電線)としてポリアニリンを酸化物還元体によってn型の金属性にしたものを用い、実施形態3の構造の太陽電池を形成させた。酸化物還元体としてはZn-,Mn-,Ni-,Mg-のフェライトを100-150℃で水素ガスもしくは原子水素によって処理したものを用いた。導電性は水素処理時間に依存するが150℃においては10分以上で変換効率16%が得られた。N型の金属性ポリアニリンを形成させる方法は既存技術であるが本実施形態の方法によれば従来技術よりも導電性を高くすることができる。
【0096】
[実施形態9]
実施形態8において使用した酸化物還元体(フェライト還元体)を硫化水素ガス(HS)と室温~80℃で気体接触によって反応させて酸化物還元体の表面に鉄イオンもしくはフェライト含有金属イオンからなる金属硫化物を量子ドットとして積層させ、これを実施形態3の構造の太陽電池に形成させ、変換効率23%を得た。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0098】
10…ナノ複合体、
12…ナノ粒子、
14…量子ドット、
22…電極、
24…直線状伝導体。
図1
図2
図3
図4