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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016427
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】横置型ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20230126BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
F04C18/356 Q
F04C29/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120726
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】角田 和久
(72)【発明者】
【氏名】戸部 隆久
(72)【発明者】
【氏名】小和田 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】竹本 将司
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA09
3H129AA12
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB43
3H129CC05
3H129CC33
(57)【要約】
【課題】 ハウジング110内の圧縮機構部30が、横置のシリンダ31A、31Bと、偏心ローラ33A、33Bと、ベーン35A、35Bとを備える、横置ロータリ圧縮機において、ベーン35A、35B周りのシール性と摺動性を向上させる。
【解決手段】 ベーン35A、35Bは、横置のシリンダ31A、31Bの上側に先端部を下向きにして配置する。そして、ベーン35A、35Bの上側に、背圧室37A、37Bを設けると共に、背圧室37A、37Bに連なってハウジング110内に上向きに開口して潤滑油を導く還流孔39A、39Bを設ける。また、還流孔39A、39Bは、ハウジング110内にて冷媒出口119に至る高圧冷媒の経路上に設ける。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に、水平方向に配置される回転軸と、前記回転軸により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構部とを備え、
前記圧縮機構部が、横置のシリンダと、前記回転軸により駆動されて前記シリンダ内を偏心回転する偏心ローラと、前記シリンダに半径方向に移動可能に設けられて先端部で前記偏心ローラの外周面に当接し、前記シリンダ内を吸入ポート側の低圧室と吐出ポート側の高圧室とに仕切るベーンと、前記吐出ポートからの高圧冷媒を前記ハウジング内に吐出する吐出口と、を含む、
横置型ロータリ圧縮機であって、
前記ベーンは、前記横置のシリンダの上側に前記先端部を下向きにして配置し、
前記ベーンの上側に、前記ベーンの背面に前記高圧冷媒の圧力を作用させる背圧室を設けると共に、前記背圧室に連なって前記ハウジング内に上向きに開口し、前記ハウジング内の冷媒に含まれる潤滑油を前記背圧室に導く還流孔を設けたことを特徴とする、横置型ロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記還流孔は、前記背圧室への前記高圧冷媒の導入部を兼ねることを特徴とする、請求項1記載の横置型ロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記還流孔は、前記ハウジング内への前記吐出口から、前記ハウジングの外部への冷媒出口に至る冷媒の経路上に設けられることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の横置型ロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記冷媒出口は、前記ハウジングの上面に設けられることを特徴とする、請求項3記載の横置型ロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記ハウジング内への前記吐出口は、吐出冷媒を前記ハウジングの内壁面に衝突させるように当該内壁面を指向させ、
前記還流孔が設けられる前記冷媒の経路は、前記内壁面に衝突した後の冷媒の経路であることを特徴とする、請求項3又は請求項4記載の横置型ロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記ハウジング内に、前記回転軸を回転させる電動機部を備えると共に、
前記ハウジング内を前記電動機部を収容する第1収容室と前記圧縮機構部を収容する第2収容室とに区画する隔壁部を備えることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の横置型ロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒圧縮機として用いられる横置型ロータリ圧縮機に関する。なお、冷媒圧縮機では、冷媒中に潤滑油を混入させて、圧縮機各部の潤滑を行っている。
【背景技術】
【0002】
従来この種の横置型ロータリ圧縮機の圧縮機構部は、特許文献1などに記載されているように、横置のシリンダと、シリンダ内を偏心回転する偏心ローラ(ローリングピストン)と、シリンダに半径方向に移動可能に設けられて先端部で偏心ローラの外周面に当接し、シリンダ内を吸入ポート側の低圧室と吐出ポート側の高圧室とに仕切るベーンと、を含む。
【0003】
ベーンは、シリンダに半径方向に形成したベーン溝に嵌め込まれ、溝内で往復動を繰り返す。また、ベーンは、偏心ローラの外周面と常に接しながら、溝内を動く必要があるため、溝の幅方向や厚み方向にクリアランスが設けられる。更に、低圧側と高圧側のシール機能も保持しなければならない。
【0004】
これらの要求を満たすため、ベーン(及びベーン溝)は、横置のシリンダの下側、すなわち圧縮機ハウジング内の下部位置(潤滑油溜まり位置)に配置され、溝周りを十分な潤滑油雰囲気とすることが多い。
また、圧縮動作を正常に行うためには、ベーンは偏心ローラの外周面に接して押付けられている必要がある。このために、ベーンの背面(背圧室)は高圧の潤滑油で満たされた圧縮機ハウジング内の底部の潤滑油溜まりに連通する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-042687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、次のような問題点がある。
偏心ローラの回転に伴って、ベーンはシリンダのベーン溝内を往復動するため、そのベーンの背面側の溝部分の体積は、ベーンの動きに合わせて変化する。更にその動作回数は、通常、数十Hzと高速になる。このため、粘性のある潤滑油がベーン背部空間を十分に満たすように出入りできない現象が発生する。
【0007】
その結果、ベーン背部の圧力が低下してしまうことがある。このときの圧力低下幅が大きいと、シリンダ内の圧力に押されて、偏心ローラの外周面からベーンが離れてしまい、シリンダ内で低圧側と高圧側とが連通してしまう。その結果、冷媒が高圧室から低圧室に漏れてしまい、冷媒を圧縮できなくなるため、圧縮機の性能低下につながってしまう。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑み、必要量の潤滑油の供給によりベーン周りのシール性と摺動性を確保しつつ、高圧冷媒ガス雰囲気下でベーン背部への押付力を得て圧縮不良の発生を回避することができる、横置型ロータリ圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る横置型ロータリ圧縮機は、ハウジング内に、水平方向に配置される回転軸と、前記回転軸により駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構部とを備える。
前記圧縮機構部は、横置のシリンダと、前記回転軸により駆動されて前記シリンダ内を偏心回転する偏心ローラと、前記シリンダに半径方向に移動可能に設けられて先端部で前記偏心ローラの外周面に当接し、前記シリンダ内を吸入ポート側の低圧室と吐出ポート側の高圧室とに仕切るベーンと、前記吐出ポートからの高圧冷媒を前記ハウジング内に吐出する吐出口と、を含む。
ここにおいて、前記ベーンは、前記横置のシリンダの上側に前記先端部を下向きにして配置し、前記ベーンの上側に、前記ベーンの背面に前記高圧冷媒の圧力を作用させる背圧室を設けると共に、前記背圧室に連なって前記ハウジング内に上向きに開口し、前記ハウジング内の冷媒に含まれる潤滑油を前記背圧室に導く還流孔を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベーンを横置のシリンダの上側に設けることで、ベーンの背圧室にハウジング内の冷媒の圧力を作用させる。これにより、潤滑油の粘性の影響を受けることなく、ベーンを偏心ローラに押付けることができて、安定した圧縮動作が可能となる。
また、上向きの還流孔を設けることで、ハウジング内の冷媒に含まれる潤滑油を還流孔に落下させて、背圧室に導くことができ、必要量の潤滑油の供給により、ベーン周りのシール性と摺動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る横置型電動ロータリ圧縮機の断面図
図2図1の要部拡大図
図3図2のA-A断面図
図4図2のB-B断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る横置型電動ロータリ圧縮機の断面図である。
【0013】
本実施形態の横置型電動ロータリ圧縮機は、横長のハウジング110を有している。ハウジング110は、円筒状のセンターハウジング110aと、開口端側がセンターハウジング110aの前端(図1における左端)に接合された有底円筒状のフロントハウジング110bと、開口端側がセンターハウジング110aの後端(図1における右端)に接合された有底円筒状のリアハウジング110cと、を含む。
【0014】
ハウジング110内は、センターハウジング110aに一体に設けられた隔壁部111によって、フロントハウジング110b側の第1収容室113とリアハウジング110c側の第2収容室115とに区画されている。第1収容室113は、センターハウジング110aとフロントハウジング110bとによって形成され、第2収容室115は、センターハウジング110aとリアハウジング110cとによって形成されている。
【0015】
本実施形態において、隔壁部111は、例えば、鋳造によってセンターハウジング110aと一体に成形されている。しかし、これに限られるものではない。隔壁部111は、センターハウジング110aと一体化されていればよい。例えば、隔壁部111は、溶接によってセンターハウジング110aに一体化されてもよいし、溶接以外の接合技術によってセンターハウジング110aに一体化されてもよい。
【0016】
隔壁部111の径方向中央部には、第1収容室113側に突出するボス部111aが形成されている。また、隔壁部111には、ボス部111aの先端面から第2収容室115側の面まで貫通する第1軸孔111bが形成されている。
【0017】
第1軸孔111bには、水平方向(前後方向)に延びる回転軸200の中間部が回転自在に挿通されている。回転軸200の一端(前端)側は第1収容室113内に位置し、回転軸200の他端(後端)側は第2収容室115内に位置している。第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間には微小隙間(クリアランス)が形成されている。この微小隙間は、回転軸200が回転可能であり、且つ、冷媒に混入されている潤滑油によって密封(シール)され得るように設定されている。
【0018】
第1収容室113には、回転軸200を回転させる電動機部10が収容されている。また、第1収容室113は、フロントハウジング110bに開設された冷媒入口117を介して図示省略の外部冷媒回路の低圧側に連通している。
【0019】
電動機部10は、外側のステータ11と内側のロータ12とを含む。
【0020】
ステータ11は、ハウジング110の内周面に固定されている。具体的には、ステータ11は、センターハウジング110aの隔壁部111よりもフロントハウジング110b側の部位の内周面に固定されている。ステータ11は、磁性体で円筒状に形成されたステータコア11aと、ステータコア11a(のティース部)に例えば集中巻きで巻回されたステータコイル11bと、を有している。
【0021】
ロータ12は、ステータ11の径方向内側に所定の隙間を有して配置されている。ロータ12には永久磁石が組み込まれている。ロータ12は、円筒状に形成されており、その中空部に回転軸200の前端側が挿通された状態で回転軸200に固定されている。
【0022】
電動機部10は、フロントハウジング110bに設けられた気密端子部20を介してステータ11(ステータコイル11b)に電力が供給されることによってロータ12が回転し、これにより、回転軸200を回転させるように構成されている。
【0023】
第2収容室115には、回転軸200を介して駆動される圧縮機構部30が収容されている。圧縮機構部30は後述のようにロータリ圧縮機として構成されている。第2収容室115は、センターハウジング110aに開設された冷媒出口119を介して前記外部冷媒回路の高圧側に連通している。なお、本実施形態では冷媒出口119をセンターハウジング110aに開設したが、リアハウジング110cに開設してもよい。
【0024】
第2収容室115の底部は、潤滑油が貯留される潤滑油貯留部を構成している。換言すれば、本実施形態において、潤滑油は主に第2収容室115に貯留され、第1収容室113にはほとんど貯留されないようになっている。
【0025】
圧縮機構部30は、ハウジング110の内径よりも小さい外径を有する。また、圧縮機構部30の下部は、貯留部の潤滑油に浸漬されている(すなわち、潤滑油の油面OLよりも下方に位置している)。
【0026】
圧縮機構部30は、中間仕切板40を挟んでその両側に配置された第1圧縮機構部30A及び第2圧縮機構部30Bを含む。第1圧縮機構部30Aは、中間仕切板40の隔壁部111側(すなわち、前側)に配置されており、第2圧縮機構部30Bは、中間仕切板40の隔壁部111側とは反対側(すなわち、後側)に配置されている。中間仕切板40の径方向中央部には、回転軸200が挿通される挿通孔が形成されている。
【0027】
図2図1の要部拡大図であり、主に圧縮機構部30を示している。図3図2のA-A断面図であり、主に第1圧縮機構部30Aの構成を示している。図4図2のB-B断面図であり、主に第2圧縮機構部30Bの構成を示している。
【0028】
第1圧縮機構部30Aは、図2及び図3に示されるように、第1シリンダ31Aと、第1偏心ローラ(ローリングピストン)33Aと、第1ベーン35Aと、を含む。
【0029】
第1シリンダ31Aの一方の面(前側の面)は、隔壁部111に密着しており、第1シリンダ31Aの他方の面(後側の面)は、中間仕切板40に密着している。第1シリンダ31Aは、径方向中央部に断面円形の第1シリンダ室32Aを有している。
【0030】
第1偏心ローラ33Aは、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室32A内に位置する回転軸200の第1偏心部201に取付けられている。第1偏心ローラ33Aは、回転軸200の回転に伴って第1シリンダ31Aの第1シリンダ室32A内を偏心回転する。
【0031】
第1ベーン35Aは、横置の第1シリンダ31Aの上側の壁部に上下方向に形成された第1ベーン溝36Aに嵌め込まれていて、上下方向に摺動可能であり、先端部が第1ベーン溝36Aの下端から突出して、第1偏心ローラ33Aの上側の外周面に当接(摺接)可能となっている。
【0032】
第1ベーン35Aの背面側には、第1ベーン35Aを第1偏心ローラ33Aに押圧すべく、第2収容室(吐出室)115と後述する第1還流孔39Aにより連通して、第2収容室(吐出室)115内の圧力を押圧力として第1ベーン35Aの背面に作用させるための第1背圧室37Aが形成されている。
【0033】
また、圧縮機にて高圧が得られない起動時に第1ベーン35Aを付勢するため、第1背圧室37Aに付勢用の第1スプリング38Aが収納されている。この第1スプリング38Aの押圧力は、通常運転時の高圧冷媒による押圧力の1/10程度である。
【0034】
また、第1背圧室37Aには、その上方に連ねて第1還流孔39Aを設け、この第1還流孔39Aは第1シリンダ31Aの上側の外周面に開口させてある。
ここで、第1還流孔39Aは、第1背圧室37Aへの高圧冷媒の導入部を兼ねると共に、第2収容室115内の冷媒に含まれる潤滑油を回収して第1背圧室37Aに導く機能を有している。
【0035】
隔壁部111の第1収容室113側の面には、ボス部111aを囲繞するように、環状の第1凹部111cが形成されている。そして、この第1凹部111cの開口側が、隔壁部111の第1収容室113側の面に密着する第1閉塞板121によって閉塞され、これによって、第1収容室113から区画された第1吐出消音室45Aが形成されている。第1吐出消音室45Aは、隔壁部111に形成された第1連通孔111d(図2参照)を介して、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室32A内の高圧室に位置する第1吐出ポート43A(図3参照)に連通している。
【0036】
第2圧縮機構部30Bは、第1圧縮機構部30Aと同様の構成を有する。すなわち、第2圧縮機構部30Bは、図2及び図4に示されるように、第2シリンダ31Bと、第2偏心ローラ(ローリングピストン)33Bと、第2ベーン35Bと、を含む。
【0037】
第2シリンダ31Bの一方の面(前側の面)は、中間仕切板40に密着しており、第2シリンダ31Bの他方の面(後側の面)は、吐出消音室形成部材47に密着している。第2シリンダ31Bは、径方向中央部に断面円形の第2シリンダ室32Bを有している。
【0038】
第2偏心ローラ33Bは、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室32B内に位置する回転軸200の第2偏心部202に取付けられている。第2偏心ローラ33Bは、回転軸200の回転に伴って第2シリンダ31Bの第2シリンダ室32B内を偏心回転する。なお、第2偏心部202は、第1偏心部201に対して回転軸200に軸線周りに180°ずらして(180°の位相差を有して)設けられている。
【0039】
第2ベーン35Bは、横置の第2シリンダ31Bの上側の壁部に上下方向に形成された第2ベーン溝36Bに嵌め込まれていて、上下方向に摺動可能であり、先端部が第2ベーン溝36Bの下端から突出して、第2偏心ローラ33Bの上側の外周面に当接(摺接)可能となっている。
【0040】
第2ベーン35Bの背面側には、第2ベーン35Bを第2偏心ローラ33Bに押圧すべく、第2収容室(吐出室)115と後述する第2還流孔39Bにより連通して、第2収容室(吐出室)115内の圧力を押圧力として第2ベーン35Bの背面に作用させるための第2背圧室37Bが形成されている。
【0041】
また、圧縮機にて高圧が得られない起動時に第2ベーン35Bを付勢するため、第2背圧室37Bに付勢用の第2スプリング38Bが収納されている。
【0042】
また、第2背圧室37Bには、その上方に連ねて第2還流孔39Bを設け、この第2還流孔39Bは第2シリンダ31Bの上側の外周面に開口させてある。
ここで、第2還流孔39Bは、第2背圧室37Bへの高圧冷媒の導入部を兼ねると共に、第2収容室115内の冷媒に含まれる潤滑油を回収して第2背圧室37Bに導く機能を有している。
【0043】
吐出消音室形成部材47の径方向中央部には、第2軸孔47aが形成されている。第2軸孔47aには、回転軸200の後端部及びその近傍が回転自在に挿通されている。つまり、回転軸200は、隔壁部111に形成された第1軸孔111bと吐出消音室形成部材47に形成された第2軸孔47aとによって回転自在に支持されており、これら第1軸孔111b及び第2軸孔47aがそれぞれ回転軸200の軸受部を構成している。なお、第1軸孔111bの場合と同様、第2軸孔47aの内周面と回転軸200の外周面との間には微小隙間が形成されている。
【0044】
また、吐出消音室形成部材47の第2シリンダ31B側とは反対側の面(すなわち、後側の面)には、第2軸孔47aを囲繞するように、環状の第2凹部47bが形成されている。そして、この第2凹部47bの開口側が、吐出消音室形成部材47の第2シリンダ31Bとは反対側の面に密着する第2閉塞板49によって閉塞され、これによって、第2吐出消音室45Bが形成されている。第2吐出消音室45Bは、吐出消音室形成部材47に形成された第2連通孔47c(図2参照)を介して、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室32B内の高圧室に位置する第2吐出ポート43B(図4参照)に連通している。
【0045】
ここで、本実施形態において、第1閉塞板121、第1シリンダ31A、中間仕切板40、第2シリンダ31B、吐出消音室形成部材47及び第2閉塞板49は、隔壁部111と共に、複数本の締結部材(例えば通しボルト)60によって締結されることで、隔壁部111に固定されている。換言すれば、本実施形態において、圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)は、隔壁部111に取付けられ且つ固定されている。
【0046】
第1吐出消音室45Aと第2吐出消音室45Bとは、吐出連通路51を介して連通している。吐出連通路51は、第1凹部111cの底部から第2凹部47bの底部へ、隔壁部111、第1シリンダ31A、中間仕切板40、第2シリンダ31B及び吐出消音室形成部材47を水平方向に貫通して形成されている。なお、図2では作図上、吐出連通路51を回転軸200より下側に位置させているが、回転軸200と同等の高さ位置又は上側に配置してもよい。
【0047】
また、第2吐出消音室45Bは、第2閉塞板49に形成された吐出口53を介して第2収容室115に連通している。
【0048】
第1シリンダ31Aの第1シリンダ室32A内の低圧室に位置する第1吸気ポート41A(図3参照)は、第1収容室113に、第1吸入通路55(図2参照)を介して連通している。第1吸入通路55は、第1収容室113側から、第1閉塞板121及び隔壁部111を貫通して、第1シリンダ31Aの第1吸入ポート41Aに接続している。
【0049】
第2シリンダ31Bの第2シリンダ室32B内の低圧室に位置する第2吸入ポート41B(図4参照)も、第1収容室113に、第1吸入通路55(図2参照)及びこれにつながる第2吸入通路(図示せず)を介して連通している。第2吸入通路は、第1吸入通路55につながり、第1シリンダ31A及び中間仕切板40を貫通して、第2シリンダ31Bの第2吸入ポート41Bに接続している。
【0050】
潤滑油の供給系については、回転軸200の軸受部(第1軸孔111b、第2軸孔47a)及び圧縮機構部30(第1及び第2圧縮機構部30A、30B)の各摺動部に潤滑油を供給すべく、第1油通路71と、第2油通路72と、第1~第4油案内孔73~76とが設けられている(図2参照)。
【0051】
第1油通路71は、第2閉塞板49の内部に、一端(下端)が第2閉塞板49の底部(潤滑油溜まりに位置する部位)に開口すると共に上方に延びた後に回転軸200の後端面に向かって屈曲し、開口する通路として形成されている。
【0052】
第2油通路72は、一端が回転軸200の前記後端面に開口する(前記第1油通路71と連通する)と共に回転軸200内をその軸線に沿って第1シリンダ31Aを超えた位置(換言すれば、第1軸孔111b内に相当する位置)まで延びて他端が閉塞されている。
【0053】
なお、第2収容室(吐出室;高圧側)115と第1収容室(吸入室;低圧側)113との圧力差によって、第2収容室115の底部に貯留されている潤滑油が第1油通路71を介して吸い上げられて第2油通路72に導かれる。
【0054】
第1油案内孔73は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を半径方向に延びて他端が第2軸孔47a内に位置する回転軸200の外周面に開口している。
【0055】
第2油案内孔74は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を半径方向に延びて他端が回転軸200の第2偏心部202の外周面に開口している。
【0056】
第3油案内孔75は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を半径方向に延びて他端が回転軸200の第1偏心部201の外周面に開口している。
【0057】
第4油案内孔76は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を半径方向に延びて他端が第1軸孔111b内に位置する回転軸200の外周面に開口している。
【0058】
次に、本実施形態の横置型電動ロータリ圧縮機における冷媒(ガス)の流れについて説明する。なお、冷媒には潤滑油がミスト状態で混入されている。
【0059】
電動機部10を収容する第1収容室113には、前記外部冷媒回路の低圧側の冷媒(低圧冷媒)がフロントハウジング110bに形成された冷媒入口117を介して流入する。つまり、第1収容室113は、外部から低圧冷媒が流入する「吸入室」を構成しており、第1収容室113の圧力は、前記外部冷媒回路の低圧側の圧力とほぼ同等である。
【0060】
電動機部10に電力が供給されると回転軸200が回転し、第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室32Aでは第1偏心ローラ33Aが偏心回転し、第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室32Bでは第2偏心ローラ33Bが偏心回転する。
【0061】
冷媒入口117から第1収容室113に流入した低圧冷媒は、電動機部10におけるステータ11とロータ12との隙間を通過し、これによって、電動機部10が冷却される。そして、第1収容室113から第1吸入通路55及び第1吸入ポート41A(図3参照)を通過した低圧冷媒が第1シリンダ室32Aに吸入される。また、第1収容室113から第1吸入通路55、第2吸入通路(図示せず)及び第2吸入ポート41Bを通過した低圧冷媒が第2シリンダ室32Bに吸入される。このとき、第1収容室113の底部に貯留されている潤滑油も低圧冷媒と共に第1シリンダ室32A及び第2シリンダ室32Bに吸入される。
【0062】
第1シリンダ室32Aに吸入された低圧冷媒は、第1偏心ローラ33Aの偏心回転によって第1シリンダ室32A内で圧縮されて高圧冷媒となる。この高圧冷媒は、第1シリンダ室32Aから第1吐出ポート43A(図3参照)及び第1連通孔111d(図2参照)を介して第1吐出消音室45Aに吐出される。その後、吐出連通路51を通過して第2吐出消音室45Bに流入する。
【0063】
第2シリンダ室32Bに吸入された低圧冷媒は、第2偏心ローラ33Bの偏心回転によって第2シリンダ室32B内で圧縮されて高圧冷媒となる。この高圧冷媒は、第2シリンダ室32Bから第2吐出ポート43B(図4参照)及び第2連通孔47c(図2参照)を介して第2吐出消音室45Bに吐出される。
【0064】
第1シリンダ室32Aから吐出された高圧冷媒及び第2シリンダ室32Bから吐出された高圧冷媒は第2吐出消音室45Bで合流し、合流した高圧冷媒は、圧縮機構部30の後端の第2閉塞板49に設けられた吐出口53を介して、第2収容室115に吐出される。つまり、第2収容室115は、圧縮機構部30で圧縮された高圧冷媒が吐出される「吐出室」を構成しており、第2収容室115の圧力は、高圧冷媒の圧力(前記外部冷媒回路の高圧側の圧力)とほぼ同等である。従って、第2収容室115の圧力は第1収容室113の圧力よりも高い。
【0065】
第2収容室115に吐出された高圧冷媒は、これに含まれている潤滑油が後述のように分離された後、センターハウジング110aに設けられた冷媒出口119を介して、前記外部冷媒回路の高圧側に流出する。
【0066】
ここにおいて、圧縮機構部30の第2収容室115内への吐出口53は、第2閉塞板49に設けられて、吐出冷媒をリアハウジング110cの内壁面、特に端壁に衝突させるように、当該端壁を指向している。
【0067】
従って、吐出口53から第2収容室115に吐出された高圧冷媒は、リアハウジング110cの端壁内面に衝突(及び/又は接触)する。吐出口53から吐出される高圧冷媒は、潤滑油との混合状態であり、前記衝突(及び/又は接触)によって、高圧冷媒からそこに含まれていた潤滑油がある程度分離される。
【0068】
高圧冷媒から分離された潤滑油の多くは、主に重力によって下方に移動して第2収容室115の底部に貯留される。
【0069】
一方、前記外部冷媒回路への冷媒出口119は、第2収容室115のセンターハウジング110a側の上部に設けられており、潤滑油が分離された後の高圧冷媒、及び、分離された一部の潤滑油は、第2収容室115の上部空間をセンターハウジング110a側の冷媒出口119へと向かう。言い換えれば、冷媒出口119の位置設定により、前記分離後の高圧冷媒及び一部の潤滑油が第2収容室115の上部空間を後方から前方へ向かって流れる構成としてある。
【0070】
ここで、第1及び第2ベーン35A、35Bは横置の第1及び第2シリンダ31A、31Bの上側に設け、これら第1及び第2ベーン35A、35Bの上側に、第1及び第2背圧室37A、37Bを設けると共に、これらの第1及び第2背圧室37A、37Bに連なって上向きに開口する第1及び第2還流孔39A、39Bを設けている。
【0071】
従って、前記分離後の高圧冷媒及び一部の潤滑油が、第1及び第2ベーン35A、35B、第1及び第2背圧室37A、37B、及び、第1及び第2還流孔39A、39Bの上側を通過する構成としてある。言い換えれば、第1及び第2還流孔39A、39Bは、圧縮機構部30の吐出口53からの高圧冷媒が、リアハウジング110cの端面との衝突後に、センターハウジング110a上面の冷媒出口119へと向かう経路上に設けている。
【0072】
上記の構成によって、前記分離後の一部の潤滑油は、第2収容室115の上部空間を流れながら次第に重力により落下し、あるいは天壁内周に接触してこれを伝いながら落下し、第1及び第2還流孔39A、39Bに流れ込む。また、高圧冷媒に少量ながら未だ含まれている潤滑油についても、天壁内周に接触するなどして分離し、同様に、第1及び第2還流孔39A、39Bに流れ込む。
【0073】
このように、冷媒ガスの流れから分離した一部の潤滑油が、重力により、第1及び第2還流孔39A、39Bへ流れ込み、第1及び第2背圧室37A、37Bから第1及び第2ベーン溝36A、36Bに供給されるため、第1及び第2ベーン35A、35B周りのクリアランスへの潤滑油補充がなされ、第1及び第2ベーン35A、35B周りのシール性と摺動性が維持される。
【0074】
また、第1及び第2ベーン35A、35Bの第1及び第2背圧室37A、37Bには、高圧冷媒ガスも十分に存在することになるため、第1及び第2ベーン35A、35Bは常に安定した高圧によって第1及び第2偏心ローラ33A、33Bへ適正に押付けられた状態となる。従って、第1及び第2偏心ローラ33A、33Bと第1及び第2ベーン35A、35Bとが離れることはなく、圧縮不良の発生を回避できる。
【0075】
なお、特開2005-276624号公報には、ロータリ型の圧縮機構部の吸入ポート及び吐出ポートを回転軸より上方に配置した横置ロータリ圧縮機が開示されており、ベーンはシリンダの上側に配置されている。
しかしながら、特開2005-276624号公報に記載の圧縮機では、オイルポンプを用い、これにより汲み上げられた潤滑油を回転軸側とベーン側とに分流して、ベーンの潤滑を行うようにしており、オイルポンプを必要とする分、コストアップとなる。
【0076】
本実施形態の横置型電動ロータリ圧縮機によれば、更に、次のような効果が得られる。
ハウジング110内は、隔壁部111によって、電動機部10を収容する第1収容室113と圧縮機構部30を収容する第2収容室115とに区画されている。また、第2収容室115の底部が潤滑油を貯留する潤滑油貯留部を構成しており、隔壁部111には、潤滑油を第1収容室113と第2収容室115との間で流通させる油流通口等が設けられていない。このため、横置型電動ロータリ圧縮機が、車両などの移動体に搭載されていて、傾斜等した場合でも、潤滑油が第2収容室115から第1収容室113に流入することがほとんどなく、圧縮機構部30側に十分な量の潤滑油が確保され得る。また、電動機部10の回転によって攪拌される潤滑油もほとんどないため、圧縮機から高圧冷媒と共に前記外部冷媒回路に流出する潤滑油の量も大幅に低減される。したがって、従来に比べて少ない量の潤滑油によって圧縮機構部30の潤滑性とシール性とが確保され得る。
【0077】
また、第2収容室115の圧力は、第1収容室113の圧力よりも高く、第1及び第2油通路71、72は、第2収容室115と第1収容室113との圧力差を利用して第2収容室115に貯留されている潤滑油を吸い上げて潤滑油を各部に供給するように構成されている。このため、圧縮機の動作中、各部への給油が安定且つ確実に行われ得る。
【0078】
特に、本実施形態において、第1収容室113は冷媒入口117を介して外部からの低圧冷媒が流入する吸入室(低圧室)として構成され、及び、第2収容室115は圧縮機構部30で圧縮された高圧冷媒が吐出される吐出室(高圧室)として構成されている。このため、前記圧力差がより大きくなり、前記給油がより十分に行われ得る。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の改良・変更が可能であることは言うまでもない。
【0080】
例えば、本発明では、ベーンは、横置のシリンダの上側に先端部を下向きにして設けるが、ここでいう「上側」とは、鉛直方向上側を意味するものではなく、一定の効果が得られる限りにおいて、シリンダ室の中心より上側に配置されればよく、従ってベーンの先端部が斜め下側を向いていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…電動機部 49…第2閉塞板
11…ステータ 51…吐出連通路
11a…ステータコア 53…吐出口
11b…ステータコイル 55…第1吸入通路
12…ロータ 60…締結部材(通しボルト)
20…気密端子部 71、72…第1及び第2油通路
30…圧縮機構部 73~76…第1~第4油案内孔
30A、30B…第1及び第2圧縮機構部 110…ハウジング
31A、31B…第1及び第2シリンダ 110a…センターハウジング
32A、32B…第1及び第2シリンダ室 110b…フロントハウジング
33A、33B…第1及び第2偏心ローラ 110c…リアハウジング
35A、35B…第1及び第2ベーン 111…隔壁部
36A、36B…第1及び第2ベーン溝 111a…ボス部
37A、37B…第1及び第2背圧室 111b…第1軸孔
38A、38B…第1及び第2スプリング 111c…第1凹部
39A、39B…第1及び第2還流孔 111d…第1連通孔
40…中間仕切板 113…第1収容室(吸入室)
41A、41B 第1及び第2吸入ポート 115…第2収容室(吐出室)
43A、43B…第1及び第2吐出ポート 117…冷媒入口
45A、45B…第1及び第2吐出消音室 119…冷媒出口
47…吐出消音室形成部材 121…第1閉塞板
47a…第2軸孔 200…回転軸
47b…第2凹部 201、202…第1及び第2偏心部
47c…第2連通孔
図1
図2
図3
図4