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特開2023-164271オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164271
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   H03G 11/00 20060101AFI20231102BHJP
   H03H 17/02 20060101ALI20231102BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H03G11/00 002
H03H17/02 601G
H03H17/02 633A
H04R3/00 310
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211938
(22)【出願日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】17/732,417
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517409583
【氏名又は名称】エーエーシー マイクロテック(チャンヂョウ)カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】No.3 changcao road, Hi-TECH Industrial Zone, Wujin District, Changzhou City, Jiangsu Province, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュレヒト、セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フィエロ、レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリマキ、ヴェサ
(72)【発明者】
【氏名】バックマン、ユハ
【テーマコード(参考)】
5D220
5J030
【Fターム(参考)】
5D220AB08
5J030CB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法を提供する。
【解決手段】方法は、下記式1に基づいてオールパスフィルタの遅延係数m及びゲイン係数gを決定する。その値は、下記式2に基づいて得られ、ただし、hsは、インパルス応答関数を示し、x(n)は、入力信号であり、hsの値は、下記式3に基づいて得られる。

【効果】計算効率が高いオーディオ波形線形圧縮方法は、音声の再生、記憶及び放送に広く適用され、計算量が小さく、従来の非線形圧縮アルゴリズムに対する補足である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法であって、
下記(式1)に基づいてオールパスフィルタの遅延係数m及びゲイン係数gを決定し、
【数20】
その値は、下記(式2)に基づいて得られ、
ただし、hsは、インパルス応答関数を示し、x(n)は、入力信号であり、hsの値は、下記(式3)に基づいて得られることを特徴とする、オーディオピーク値を低減する方法。
【数21】
【請求項2】
遅延係数mは、自己相関関数における主要過渡ピーク値と同期する、請求項1に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【請求項3】
勾配降下法を用いてゲイン係数gのフィードバック選択を行い、ただし、勾配降下法のゲイン勾配は、フィルタ導関数により計算され、勾配降下法の最適ステップサイズは、線形計画により最適に求められる、請求項1に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【請求項4】
時間nでのゲイン勾配は、下記(式4)により得られる、請求項3に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数22】
【請求項5】
ゲイン勾配の伝達関数は、式(5)により得られる、請求項4に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数23】
【請求項6】
ゲイン勾配の保守的上界は、下記(式6)により得ることができる、請求項5に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数24】
【請求項7】
最適ステップサイズは、下記(式7)により得られる、請求項4に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数25】
【請求項8】
前記(式7)は、下記(式8)に簡略化することができる、請求項7に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数26】
【請求項9】
ゲイン幅と勾配線の符号反転は、下記(式9)により得られる、請求項7に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数27】
【請求項10】
最適ステップサイズは、下記(式10)により得られる、請求項9に記載のオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法。
【数28】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオデジタル信号処理の技術分野に関し、特にオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピーク振幅制限により信号のダイナミックレンジを低減することは、現在のオーディオ信号処理における所定の過程であり、それは、音声のダイナミクスを制限し、それによりそのラウドネスを最大化するために用いられることができるからである。一般的な圧縮又はこの目的に用いられることは、リミッタと呼ばれ、それは信号が利用可能なダイナミックレンジを超えることを防止する。音響工学及び音楽制作において、リミッタは、ゲイン素子と組み合わせて使用され、信号のピーク値と二乗平均平方根の比を低下させることにより、感知ラウドネスを増加させる。
【0003】
従来のダイナミックレンジの低減は、非線形技術に関し、これは新たな周波数成分を導入するため、高調波歪みを引き起こし、それにより音質に悪影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術における技術課題を解決するために、リアルタイム音声再生に広く応用することができ、かつ計算量が小さいオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法を提供し、
下記(式1)に基づいてオールパスフィルタの遅延係数m及びゲイン係数gを決定し、
【0006】
【数1】
【0007】
その値は、下記(式2)に基づいて得られ、
ただし、hsは、インパルス応答関数を示し、x(n)は、入力信号であり、hsの値は、下記(式3)に基づいて得られる。
【0008】
【数2】
【0009】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピークを低減する方法において、好ましくは、遅延係数mは、自己相関関数における主要過渡ピークと同期する。
【0010】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピークを低減する方法において、好ましくは、勾配降下法を用いてゲイン係数gのフィードバック選択を行い、ただし、勾配降下法のゲイン勾配は、フィルタ導関数により計算され、勾配降下法の最適ステップサイズは、線形計画により最適に求められる。
【0011】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピークを低減する方法において、好ましくは、時間nでゲイン勾配は、下記(式4)により得られる。
【0012】
【数3】
【0013】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピークを低減する方法において、好ましくは、ゲイン勾配の伝達関数は、下記(式5)により得られる。
【0014】
【数4】
【0015】
前記のようなオールパスフィルタを使用してオーディオピーク値を低減する方法において、好ましくは、ゲイン勾配の保守的上界は、下記(式6)により得られる。
【0016】
【数5】
【0017】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法において、好ましくは、最適ステップサイズは、下記(式7)により得られる。
【0018】
【数6】
【0019】
上記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピークを低減する方法において、好ましくは、上記(式7)は、下記(式8)に簡略化することができる。
【0020】
【数7】
【0021】
前記のようなオールパスフィルタを使用してオーディオピーク値を低減する方法において、好ましくは、ゲイン幅と勾配線の符号反転は、下記(式9)により得られる。
【0022】
【数8】
【0023】
前記のようなオールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法において、好ましくは、最適ステップサイズは、下記(式10)により得られる。
【0024】
【数9】
【発明の効果】
【0025】
従来技術に比べて、本発明は、計算効率が高いオーディオ波形線形圧縮方法を提供し、1つの解決手段において、各過渡ピークに対して、オールパスフィルタの遅延線が同期され、信号の自己相関関数における負のピーク値のヒステリシスをマッチングし、別の解決手段において、入力信号を繰り返してクリップし、振幅スペクトルを回復し、これもピーク信号値の減少をもたらす。当該方法は、音声の再生、記憶及び放送に広く適用され、計算量が小さく、従来の非線形圧縮アルゴリズムに対する補足である。以降の動作において、当該方法は、周波数に関連するアクティブフィルタに普及することができ、当該方法は、各信号フレームのオールパスフィルタを最適化することによりオンライン処理に適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1a】同期適応フィルタの指数減衰正弦波での応用であり、遅延係数m=50及びゲイン係数g=0.67の場合の元の音声及び処理された音声である。
図1b】同期適応フィルタの指数減衰正弦波での応用であり、遅延係数m=50及びゲイン係数g=0.67の場合の自己相関関数及びインパルス応答関数である。
図1c】同期適応フィルタが指数減衰正弦波での応用であり、絶対ピークマップ(階調領域)及び自己相関関数(曲線領域)を示す。
図2a】同期適応フィルタのハンマー音環境における応用であり、遅延係数m=272及びゲイン係数g=0.62の場合の元の音声及び処理された音声である。
図2b】同期適応フィルタのハンマー音環境における応用であり、絶対ピークマップ(階調領域)及び自己相関関数(曲線領域)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照して説明した実施例は、例示的なものであり、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定するものと解釈することができない。
【0028】
本発明の実施例は、オールパスフィルタを用いてオーディオピーク値を低減する方法を提供し、オールパスフィルタを使用して従来の非線形コンプレッサにより導入された歪みを回避することができ、オールパスフィルタは、信号の位相に作用することでピーク値を低減する。このように、信号の総エネルギーを維持すると同時に波形ピーク値の周囲の信号エネルギーを塗ることができ、具体的には、
下記(式1)に基づいてオールパスフィルタの遅延係数m及びゲイン係数gを決定し、
【0029】
【数10】
【0030】
その値は、下記(式2)に基づいて得られ、
ただし、hsは、インパルス応答関数を示し、x(n)は、入力信号であり、hsの値は、下記(式3)に基づいて得られる。
【0031】
【数11】
【0032】
構成が疎であるため、オールパスフィルタインパルス応答係数hsの非ゼロ値が規則の格子に配置され、オールパスフィルタは、最小の計算作業量で大きな群遅延を生じることができる。遅延係数m及びゲイン係数gは、フィルタの群遅延を決定し、遅延係数m及びゲイン係数gの選択に基づいて、フィルタは、位相干渉を解消し、信号ピーク値を低下させることができる。
【0033】
(式1)によりオールパスフィルタの遅延係数m及びゲイン係数gを決定することができ、
【0034】
【数12】
【0035】
遅延係数m及びゲイン係数gの取得が決定される。
【0036】
従来技術において、絶対ピークマップY(m,g)は、網羅的なグリッドサーチにより計算することができる。網羅的なグリッドサーチは、図1cに一例(マークA)を示し、ピーク値低減の問題を解決するには、全てのパラメータ値に対して網羅的なグリッドサーチを行う必要があるが、計算効率が低い。
【0037】
これにより、本発明者らは、計算効率が高いオーディオ波形線形圧縮方法を提供し、以下の全てのケースは、いずれも44.1kHzのサンプリング条件で行われるものである。
【0038】
本実施例において、遅延係数mは、自己相関関数Rxx(m)における主要過渡ピークと同期し、図1a、1b及び1cに示すように、図1aに指数減衰正弦波の励起例を示し、図1aにおいて、元の音声曲線は曲線1であり、処理された音声曲線は曲線2であり、図1bから分かるように、遅延係数mを正弦半サイクルにマッチングさせることにより、位相曖昧は前の2つの周期で相殺干渉を生じ、それにより総ピークレベルを低下させ、その結果、図1aにおける曲線2に示すように減衰正弦波の絶対ピークマップY(m,g)は、図1cに示すように、正規化された自己相関関数Rxx(m)をカバーする。最低の自己相関ピークのピーク値は、遅延係数m=50およびゲイン係数g=0.67に対応する。他の遅延時間の自己相関ピークは、絶対ピークマップY(m,g)における極小値を表し、すなわち遅延係数m=150、250は、プラスゲイン係数gを表し、遅延係数m=100、200は、マイナスゲイン係数gを表す。
【0039】
一般的には、遅延係数mを自己相関関数Rxx(m)の2つの最も主要な負のピークと2つの最も主要な正のピークのうちの1つに同期させることは、非常によい選択である。当該設計は、サーチ空間をさらに縮小し、還元性能に顕著に影響を与えない。このような設計を採用したオールパスフィルタは、同期適応フィルタと呼ばれる。
【0040】
さらに、遅延係数mが一定であると仮定し、ゲイン係数gのみが最適化され、勾配降下法を採用してゲイン係数gのフィードバック選択を行い、ここで、勾配降下法のゲイン勾配は、フィルタ導関数により計算され、勾配降下法の最適ステップサイズは、線形計画により最適に求められる。
【0041】
初期ゲイン係数gを有する処理信号を与え、時間nでのゲイン勾配は、下記(式4)により得られる。
【0042】
【数13】
【0043】
ただし、hs’は、オールパスフィルタのインパルス応答関数hsの導関数である。対応する伝達関数は、下記(式5)である。
【0044】
【数14】
【0045】
インパルス応答関数hsの導関数hs’は、元のフィルタのスパース性を保持し、それにより効率を向上させて、乗算の総回数は、1回から2回に増加する。仮にx(n)の振幅が[-1,1]の範囲のみを跨ぎ、上記(式4)に基づいてゲイン勾配の保守的上界を導入し、下記(式6)に参加する。
【0046】
【数15】
【0047】
フィードバックゲインの微小変化に対して、低い値を持つ信号サンプルは、ピーク値に対して関連する影響を与えず、すなわちピーク値の幅変化は、ゲインの平滑化関数である。
【0048】
標準的な勾配降下法は、パラメータを決定し、所定のゲインの勾配方向に沿った適切なステップサイズを必要とし、上記(式1)をゲイン勾配の低下と表記することにより、下記(式7)により、最適なステップサイズを与える。
【0049】
【数16】
【0050】
絶対値を除去することにより、下記(式8)に簡略化することができる。
【0051】
【数17】
【0052】
同時に、下記(式9)を提供する。
【0053】
【数18】
【0054】
上記(式9)が提供するのは、符号反転の振幅と勾配線である。
【0055】
【数19】
【0056】
したがって、ステップサイズγを取得し、新たなゲイン係数gi+1=gi+γの値を更新することができ、ただし、iは、現在の繰り返しである。
【0057】
ゲイン係数gの良好な初期化は、線形計画の速度を加速することができ、勾配降下法は、局所極小値しか見つけることができず、複数回の初期化を必要とする可能性がある。統計的事前評価は、ゲイン係数g=0.7がゲイン初期化の最適値であることを決定し、それらがオールパスフィルタの最も一致した影響ゲイン値であるため、図2b及び1cを支持例として参照する。
【0058】
勾配降下法の性能と計算コストに影響を与えるもう1つの要因は、繰り返し回数である。好ましくは、3つの繰り返しを選択し、それは、計算時間と実現されたピーク値の低下との間に選択可能なトレードオフを提供することが証明されるためである。
【0059】
1つの繰り返しステップのコストは、例ごとに1回の乗算及び2回の加算アルゴリズム(オールパスフィルタ)に2回の乗算及び3回の加算アルゴリズム(フィルタ導関数)を加算するか、又は例ごとに合計3回の乗算及び5回の加算アルゴリズムである。高速線形計画及び選択的にピーク信号及び勾配値を更新することにより、全体の計算コストをさらに低減することができる。
【0060】
以上の実施例に基づいて、指数減衰正弦波の例は、遅延選択アルゴリズムに対する更なる洞察力を提供する。図1cに示すように、網羅的なグリッドサーチ(マークA)の解決手段は、ゲイン係数g=0.54及び遅延係数m=250の場合に、最適なピーク値が5.2dB低下し、同期適応フィルタ(マークB)の解決手段のゲイン係数g=-0.55及び遅延係数m=200の場合に、最適なピーク値が4.8dB低下する。
【0061】
小槌で叩く過程は、図2a及び2bに示すように、図2aにおいて、元の音声曲線が曲線1であり、処理された音声曲線が曲線2であり、同じゲイン係数g及び遅延係数mに対して、遅延係数m=270及びゲイン係数g=-0.61(マークA)である場合、最適ピーク値が4.3dB低下し、遅延係数m=272及びゲイン係数g=-0.62である場合、同期適応フィルタ(マークB)の最適ピーク値が3.9dB低下する。
【0062】
以上の実施例に基づいて、本発明は、計算効率が高いオーディオ波形線形圧縮方法を提供し、1つの解決手段において、各過渡ピークに対して、オールパスフィルタの遅延線が同期され、信号の自己相関関数における負のピーク値のヒステリシスにマッチングし、別の解決手段において、入力信号を繰り返してクリップし、振幅スペクトルを回復し、これもピーク信号値の減少をもたらす。当該方法は、音声の再生、記憶及び放送に広く適用され、計算量が小さく、従来の非線形圧縮アルゴリズムに対する補足である。以降の作業において、当該方法は、周波数に関連するアクティブフィルタに普及することができ、当該方法は、各信号フレームのオールパスフィルタを最適化することによりオンライン処理に適応することができる。
【0063】
以上は、図面に示す実施例に基づいて本発明の構造、特徴及び作用効果を詳細に説明し、上記したのは、本発明の好ましい実施例だけであり、本発明は、図面に示される実施範囲を限定せず、本発明の構想に応じて行われる変更、又は同等変化の等価実施例に修正することは、依然として明細書及び図面に含まれる精神を超えない場合、いずれも本発明の保護範囲内にあるべきである。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b