(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016428
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】ねじゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 3/26 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
G01B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120727
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄一
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏武
【テーマコード(参考)】
2F061
【Fターム(参考)】
2F061CC17
2F061TT06
2F061TT22
(57)【要約】
【課題】簡便な構造により優れた調芯機構を実現するねじゲージを提供する。
【解決手段】ねじゲージは、一端から外周面上に雄ねじ状の完全ねじ20が形成されると共に他端面上に有底穴21が形成されたゲージ部2と、ゲージ部2の有底穴21に先端部が挿入されたシャフト1と、有底穴21の開口部に取り付けられる筒状のスリーブ3とを備えている。シャフト1は、その先端部にトルク伝達可能な雄形状を有するボールポイント部11と、このボールポイント部の最大外径よりも小さい最大外径を有するシャフト部12とを有している。有底穴21の少なくとも底部近傍の内周面には、ボールポイント部11に対応したトルク伝達可能な雌形状を有する係合部21aが形成されている。スリーブ3は、有底穴21の開口部に取り付けられたときに、ボールポイント部11の最大外径よりも小さく、かつ、シャフト部12の最大外径よりも大きい内径を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじ穴を検査するためのねじゲージであって、
一端から外周面上に雄ねじ状の完全ねじが形成され、かつ、他端面上に有底穴が形成されたゲージ部と、
前記ゲージ部の前記有底穴に先端部が挿入されたシャフトと、
前記有底穴の開口部に取り付けられる筒状のスリーブと、を備えており、
前記シャフトは、前記先端部にトルク伝達可能な雄形状を有するボールポイント部と、前記ボールポイント部から延出された、前記ボールポイント部の最大外径よりも小さい最大外径を有するシャフト部とを有し、
前記有底穴の少なくとも底部近傍の内周面に、前記ボールポイント部に対応したトルク伝達可能な雌形状を有する係合部が形成され、
前記スリーブは、前記開口部に取り付けられたときに、前記ボールポイント部の前記最大外径よりも小さく、かつ、前記シャフト部の前記最大外径よりも大きい内径を有している、ねじゲージ。
【請求項2】
前記スリーブに、その軸方向の一端から他端まで、スリットが形成されている、請求項1に記載のねじゲージ。
【請求項3】
前記スリーブの外周面上に、雄ねじ部が形成されており、かつ、
前記有底穴の内周面上に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されている、請求項2に記載のねじゲージ。
【請求項4】
前記スリーブの外周面上に、突起が周方向に延設されており、かつ、
前記有底穴の内周面上に、前記突起を収納する溝が周方向に形成されている、請求項2に記載のねじゲージ。
【請求項5】
前記スリーブに、前記ゲージ部の前記他端面と当接するフランジが形成されており、
前記フランジの最大外径が前記ゲージ部の最大外径よりも大きい、請求項1~4の何れか一項に記載のねじゲージ。
【請求項6】
前記ゲージ部の最大外径をDとした場合に、前記ゲージ部の一端面から前記有底穴の底面中心までの高さHが、0.2D≦H≦D/[2(3^(1/2)]の範囲内である、請求項1~5の何れか一項に記載のねじゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、雌ねじ穴を検査するためのねじゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
形成された雌ねじ穴の検査には、ねじゲージが用いられる。雌ねじ穴を検査するねじゲージは、そのシャフトの先端部に雄ねじ状のゲージ部を有しており、形成された雌ねじ穴にゲージ部が適切にねじ入れることができるかで、雌ねじ穴を検査する。ねじゲージには、基準となる正確なゲージ部を有する標準ねじゲージ、及び、基準寸法より小さく作成されたゲージ部を有する通り側ゲージ及び基準寸法より大きく作成されたゲージ部を有する止め側ゲージの一対のゲージからなる限界ねじゲージなどの種類がある。
【0003】
ねじゲージによる検査は、完全に作業者の手作業で行う場合、基本的には作業者の手作業だがゲージの回転のみを電動ドライバなどで自動化する半自動の場合、又は、ゲージ部の雌ねじ穴への位置決めも含めて自動化する全自動の場合が考えられる。ただし、ゲージ部の雌ねじ穴への位置決めは難しく、雌ねじ穴の全数検査などでは検査時間の短縮化の妨げとなっている。全自動の場合だけでなく手動又は半自動の場合であっても、ゲージ部と雌ねじ穴との調芯には改善が望まれる。また、調芯が円滑に行われれば、ゲージの摩耗も抑えることができる。下記特許文献1は、シャフトの先端に設けられるゲージ部に調芯機構を持たせたねじゲージを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国実用新案第202004018244号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたねじゲージでは、そのゲージ部に軸方向に沿って穴が形成され、この穴の内部にシャフトの先端部が挿入されている。そして、ゲージ部の軸方向の中央でシャフトの先端部とゲージ部とがピンで結合されている。この結果、ピンを軸として、シャフトに対してゲージ部が揺動可能になっている。さらに、シャフトの先端部に形成された、ピンの挿通孔の両端の内径を中央部よりも大きくすることでシャフトに対するピン自体の揺動もある程度可能とし、シャフトに対するゲージ部の揺動自由度も拡張されている。このようにシャフトに対してゲージ部を揺動可能とすることで、調芯機能が実現されている。特許文献1は、さらに、ゲージ部とシャフトとの間にある程度の柔軟性を有する鋼材を配することで調芯機能を実現したねじゲージも開示している。
【0006】
しかし、より簡便な構造でより優れた調芯機能を有するねじゲージが望まれており、本開示の目的は、簡便な構造により優れた調芯機構を実現するねじゲージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るねじゲージは、雌ねじ穴を検査するためのねじゲージであって、一端から外周面上に雄ねじ状の完全ねじが形成され、かつ、他端面上に有底穴が形成されたゲージ部と、前記ゲージ部の前記有底穴に先端部が挿入されたシャフトと、前記有底穴の開口部に取り付けられる筒状のスリーブと、を備えている。前記シャフトは、前記先端部にトルク伝達可能な雄形状を有するボールポイント部と、前記ボールポイント部から延出された、前記ボールポイント部の最大外径よりも小さい最大外径を有するシャフト部とを有している。前記有底穴の少なくとも底部近傍の内周面には、前記ボールポイント部に対応したトルク伝達可能な雌形状を有する係合部が形成されている。前記スリーブは、前記開口部に取り付けられたときに、前記ボールポイント部の前記最大外径よりも小さく、かつ、前記シャフト部の前記最大外径よりも大きい内径を有している。
【0008】
前記スリーブに、その軸方向の一端から他端まで、スリットが形成されていてもよい。
【0009】
さらに、前記スリーブの外周面上に、雄ねじ部が形成されており、かつ、前記有底穴の内周面上に、前記雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されていてもよい。
【0010】
あるいは、前記スリーブの外周面上に、突起が周方向に延設されており、かつ、前記有底穴の内周面上に、前記突起を収納する溝が周方向に形成されていてもよい。
【0011】
また、前記スリーブに、前記ゲージ部の前記他端面と当接するフランジが形成されており、前記フランジの最大外径が前記ゲージ部の最大外径よりも大きくされていてもよい。
【0012】
また、前記ゲージ部の最大外径をDとした場合に、前記ゲージ部の一端面から前記有底穴の底面中心までの高さHが、0.2D≦H≦D/[2(3^(1/2)]の範囲内とされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第一実施形態に係るねじゲージの全体側面図である。
【
図2】上記ねじゲージの先端部分の分解側面図である(一部断面)。
【
図3】上記ねじゲージにおけるスリーブの三面図である。
【
図5】上記ねじゲージの先端部分の断面図である(雌ねじへの螺合状態)。
【
図6】上記ねじゲージの先端部分の断面図である(雌ねじ開口部との接触状態)。
【
図7】シャフト部がたわんだ状態の上記ねじゲージの側面図である(一部断面)。
【
図8】第二実施形態に係るねじゲージの
図5相当図である。
【
図9】第三実施形態に係るねじゲージの
図2相当図である。
【
図10】第三実施形態に係るねじゲージのスリーブの三面図である。
【
図11】第四実施形態に係るねじゲージのスリーブの三面図である。
【
図12】第五実施形態に係るねじゲージのスリーブの三面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ねじゲージの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
実施形態のねじゲージは、形成された雌ねじ穴を検査するためのねじゲージであり、電動ドライバのチャック部分に取り付けられるようにビットの形態で形成されている。また、本実施形態のねじゲージは、
図1に示されるように、シャフト1、ゲージ部2及びスリーブ3の三つの部材で構成されている。第一実施形態では、シャフト1、ゲージ部2及びスリーブ3はすべて金属によって形成されている。
【0016】
シャフト1の基端部には、チャック部10が形成されている。チャック部10は、ドライバビットと同様に六角形の断面を有しており、チャックされるための凹溝が周方向に形成されている。一方、シャフト1の先端部には、
図2に示されるように、トルク伝達可能な雄形状を有するボールポイント部11を有している。「トルク伝達可能な雄形状」は、シャフト1の回転軸に直角な径方向に突出する少なくとも一つの凸部を有する形状である。凸部が複数設けられる場合は、周方向に均等に設けられるのが好ましい。例えば、本実施形態における「トルク伝達可能な雄形状」は、通常の六角レンチなどに用いられている正六角形断面を有する凸形状である。従って、ボールポイント部11は、通常のボールポイント六角レンチの先端部と同様の形状を有しており、シャフト1がある程度傾いていても相手側の雌六角穴に挿入可能であり、かつ、シャフト1が傾いたままでもシャフト1を回転させることができる。
【0017】
チャック部10とボールポイント部11とは、シャフト部12によって一体的に接続されている。即ち、シャフト部12は、ボールポイント部11から延出されて、チャック部10に接続されている。本実施形態のシャフト部12は単純な丸棒である。シャフト部12の外径は、一定であり、少なくともボールポイント部11の最大外径よりも小さい。なお、シャフト部12の断面は、例えば正多角形であってもよいし、長さ方向に均一な大きさでなくてもよい。その場合は、シャフト部12の最大外径が、少なくともボールポイント部11の最大外径よりも小さい。シャフト1は金属製であるが、上述したように細く形成されるため、たわむことが可能、言い換えれば、しなることが可能である。
【0018】
シャフト部12は、金属製の場合、上述したたわみを実現するために、その長さは少なくともゲージ部2の最大外径の5倍以上にされる。また、シャフト部12の長さは、長すぎるとねじれが生じてねじゲージとして使用しにくくなるため、金属製の場合、ゲージ部2の最大外径の10倍以下にされる。さらに、シャフト部12の最大外径についても、細すぎるとねじれが生じてねじゲージとして使用しにくくなるため、少なくともゲージ部2の最大外径の1/4以上にされる。
【0019】
ゲージ部2は、その一端から外周面上に雄ねじ状の完全ねじ20が形成されている。本実施形態では、
図2に示されるように、完全ねじ20は、ゲージ部2の一端から他端まで周面全体に形成されている。ゲージ部2の他端面上には、ゲージ部2の回転軸方向に有底穴21が軸方向に穿孔されている。有底穴21は、ゲージ部2の先端、即ち、一端面近傍まで達する深さを有している。有底穴21の底部近傍の内周面には、ボールポイント部11に対応したトルク伝達可能な雌形状を有する係合部21aが形成されている。係合部21aは、上述したボールポイント部11と係合して、シャフト1からのトルクをゲージ部2に伝達する。
【0020】
本実施形態における「トルク伝達可能な雌形状」は、ゲージ部2の回転軸に直角な径方向に形成された少なくとも一つの凹部を有する形状である。凹部の数は、ボールポイント部11の「トルク伝達可能な雄形状」における凸部と同じ数であり、凹部が複数設けられる場合は、周方向に均等に設けられるのが好ましい。例えば、本実施形態における「トルク伝達可能な雌形状」は、上述したボールポイント部11の雄形状に対応する正六角形断面を有する凹形状である。係合部21aの正六角形の外接円は、ボールポイント部11の外接円よりもわずかに大きく形成されているが、トルクの伝達は可能である。
【0021】
有底穴21の係合部21aと開口部との間には、円筒面21bが形成されている。円筒面21b上には、スリーブ3取り付けのための雌ねじ部22Aが形成されている。係合部21aと雌ねじ部22Aとの間の円筒面21bの円形断面は、係合部21aの正六角形の外接円である。雌ねじ部22Aと開口部との間の円形断面は、後述するスリーブ3の雄ねじ部32Aの最大外径よりやや大きな内径を有している。
【0022】
スリーブ3は、
図3に示されるように、基本的にはその軸方向に貫通孔が形成された筒部材である。しかし、スリーブ3は、以下に説明するスリット30、フランジ31及び雄ねじ部32Aを備えている。スリーブ3の外径は、上述した有底穴21の円筒面21bの内径に等しいかわずかに小さい。スリーブ3の長さは、有底穴21の円筒面21bの軸方向長さに後述するフランジ31の厚さを加算した長さに等しいかわずかに小さい。スリーブ3には、その軸方向の一端から他端までスリット30が形成されている。スリット30によってスリーブ3の内部と外部とが連通されている。シャフト1のシャフト部12は、このスリット30を通して、スリーブ3の内部に挿入される。従って、スリット30の幅は、シャフト部12の外径に等しいかわずかに大きい。
【0023】
スリーブ3の一端からは、上述したゲージ部2の他端面と当接するフランジ31が径外方に延出されている。また、
図3に示されるように、フランジ31には、後述するスリーブ3の有底穴21への締結時に利用するための一対の平行な平面33が形成されている。平面33は、スリーブ3の軸方向に平行である。
図5に示されるように、本実施形態では、フランジ31の最大外径は、ゲージ部2の最大外径よりも小さく、かつ、ねじゲージで検査される雌ねじ穴40の最小内径よりも小さい。
図5に示される雌ねじ穴40は、ワークWに形成されている。なお、
図5に示されるスリーブ3は、平面33を通らない断面で示されている。
【0024】
スリーブ3の外周面上には、上述したゲージ部2の雌ねじ部22Aと係合する雄ねじ部32Aが形成されている。ただし、雄ねじ部32Aは、スリット30が形成された部分には形成されない。雄ねじ部32Aの最大外径は、溝22の内径に等しいかわずかに小さい。スリーブ3を有底穴21の開口部に取り付けるには、雄ねじ部32Aと雌ねじ部22Aに螺合させ、この結果、スリーブ3がゲージ部2から抜けるのが防止される。
【0025】
図4の断面図は、ボールポイント部11の最大外径部を示している。即ち、
図4は、ボールポイント部11の正六角形断面の頂点を通る断面、かつ、係合部21aの正六角形断面の頂点を通る断面を示している。有底穴21に取り付けられたスリーブ3の内径は、ボールポイント部11の最大外径よりも小さい。このため、スリーブ3がゲージ部2から抜けるのが防止される。
図4に示されるように、ゲージ部2の有底穴21の底面は、その中心がゲージ部2の先端、即ち、一端面の側に凸となるような曲面として形成されている。この底面の曲率半径は、ボールポイント部11の先端部の曲率半径よりも大きくされており、この底面とボールポイント部11の先端部とは点接触する。
【0026】
有底穴21の底面中心Oは、少なくとも、完全ねじ部20の全長に対して、ゲージ部2の一端側、即ち、先端側の1/2の範囲内に位置されており、好ましくは、1/3の範囲内に位置される。言い換えれば、有底穴21の底面、即ち、底面中心Oの位置をできるだけゲージ部2の一端側に設定することで、ゲージ部2の揺動中心をその一端寄りに設定することができる。ゲージ部2の揺動中心をその一端寄りに設定することで、ゲージ部2の調芯機能を向上させることができる。
【0027】
より好ましくは、ゲージ部2の最大外径をDとすると、ゲージ部2の一端面、即ち、先端面から底面中心Oまでの高さHは、以下の不等式(1)で示される範囲内に設定される。言い換えれば、高さHは有底穴21の底壁の中心厚さである。
0.2D≦H≦D/[2(3^(1/2)] … (1)
ここで、
図4に示されるように、D/[2(3^(1/2)]は、ゲージ部2の一端面の外接円からゲージ部2の中心軸に向けて30°の線を引いたときの当該線と中心軸との交点の一端面からの高さである。一方、0.2Dは、ゲージ部2の最大外径の20%である。底面中心Oの高さHを不等式(1)で示される範囲内に設定することで、ゲージ部2の調芯機能をより向上させることができる。次に、この調芯機能について説明する。
【0028】
本実施形態のねじゲージは上述した構成を有しており、シャフト1の先端部のボールポイント部11がゲージ部2の有底穴21に遊嵌されている。このため、ゲージ部2は、シャフト1に対して揺動可能であり、螺合される雌ねじ穴40に対する調芯機能が実現される。さらに、上述した高さHが上記不等式(1)で示される範囲内に設定されるため、ゲージ部2の揺動中心はゲージ部2の先端側に位置する。即ち、ゲージ部2を雌ねじ穴40の開口部に螺合させるときに、開口部に近い位置を中心にしてゲージ部2が揺動するため、ゲージ部2の向きが雌ねじ穴40の軸線方向に一致しやすくなる。
【0029】
ゲージ部2を雌ねじ穴40の開口部に螺合させるときの状態を
図6に示す。ゲージ部2を雌ねじ穴40の開口部に螺合させるとき、ゲージ部2の軸線と雌ねじ穴40との軸線とが一致していない場合、ゲージ部2の先端周縁の一部が雌ねじ穴40の開口縁と接触し、その反対側の先端周縁は十分に接触しない。この
図6に示される状態であると、ゲージ部2の完全ねじ20は雌ねじ穴40のねじ山と正常に螺合できない。しかし、ゲージ部2の先端周縁と雌ねじ穴40の開口縁との部分接触、及び、有底穴21の底面とボールポイント部11の先端との接触により、ゲージ部2が揺動され、ゲージ部2の軸線と雌ねじ穴40との軸線とが一致する状態になる。即ち、ねじゲージと雌ねじ穴40とが調芯される。
【0030】
このとき、
図6に示されるように、断面上で三つの矢印で示されるような三角形の関係が形成されているので、ゲージ部2が速やかに揺動されて調芯される。ここで、調芯機能が速やかに機能するには、三角形の頂点となる上述した底面中心Oの高さHが、少なくとも完全ねじ20の長さの2/1、好ましくは1/3とされる。より好ましくは、高さHは、上記不等式(1)の範囲内に設定される。底面中心Oの高さHがD/[2(3^(1/2)]を超えるようであると、有底穴21の底面とボールポイント部11の先端との接触によって作用する力がゲージ部2の調芯とは逆方向に作用しやすくなってゲージ部2が調芯とは逆方向に倒れやすくなる。従って、高さHは、D/[2(3^(1/2)]以下とされることがより好ましい。なお、底面中心Oの高さHが0.2Dより小さいと、有底穴21の底部の強度が確保できない可能性がある。
【0031】
上述した特許文献1のねじゲージでは、ゲージ部のピン結合位置がゲージ部の高さ方向の中央であり、ゲージ部を逆方向に倒す力が発生しやすい。これに対して、本実施形態のねじゲージでは、ボールポイント部11がゲージ部2の十分に先端側に配置されるので、優れた調芯機能が実現される。なお、特許文献1のねじゲージでは、ゲージ部をピン結合するためのピンを圧入するためにゲージ部の外周面上の検査にとって大事なねじ部に穴を形成する必要がある。このため、特許文献1のねじゲージは、ねじゲージとして好ましくない面も有している。
【0032】
また、ねじゲージとしてのゲージ部2には全長にわたって完全ねじ20が形成されるため、螺合を容易にするためのテーパー部、即ち、ネジ山が完全でない不完全ねじがその先端に形成されない。不完全ねじが形成されると、ねじの検査を正確に行えないためである。このため、ゲージ部2を押し込んだだけでは通常のねじのような先端のテーパー部による調芯機能は発揮されないので、本実施形態のねじゲージにおける上述した調芯機構によってゲージ部2が調芯される。また、このような調芯機構はゲージ部2の摩耗も低減する。
【0033】
このとき、本実施形態のねじゲージによれば、
図7に示されるように、ゲージ部2の揺動に加えて、上述したようにシャフト部12がたわむことができるため、雌ねじ穴40に対してゲージ部2をより正確に調芯することができる。即ち、
図6では軸心の向きを合わせる調芯であったが、雌ねじ穴40の開口部が形成されている面内方向で、ゲージ部2の位置と雌ねじ穴40の位置とをシャフト部12のたわみによって一致させる調芯も行える。
【0034】
ゲージ部2を雌ねじ穴40に接触させると、
図6に示される調芯と並行して、ゲージ部2の中心が雌ねじ穴40の中心に向けて移動されるような力が作用する。この力は、ゲージ部2の先端周縁と雌ねじ穴40の開口縁との部分接触、及び、
図6に示されるゲージ部2の揺動によって生じる。この結果、シャフト部12がたわんで、
図7に示される調芯も行われる。特に、
図7に示されるシャフト部12のたわみは、ゲージ部2を介してシャフト部12の先端に設けられたボールポイント部11に作用する力によって生じるため、シャフト部12をたわませやすく、調芯機能を向上させる。本実施形態のねじゲージでは、
図6に示されるゲージ部2のシャフト1に対する揺動による調芯と、
図7に示されるシャフト部12のたわみによる調芯とが並行して行われるため、調芯機能が向上する。
【0035】
上述したねじゲージの組み立てについて簡単に説明する。まず、シャフト1のシャフト部12に、スリーブ3を装着する。この際、シャフト部12をスリーブ3のスリット30からスリーブ3の内部に入れることができる。その後、スリーブ3をボールポイント部11の近傍に位置させた状態で、スリーブ3の一対の平面33を利用して、工具を用いてスリーブ3の雄ねじ部32Aを有底穴21の雌ねじ部22Aに螺合させる。このとき、フランジ31の平面33が形成されていない部分が有底穴21の開口縁と当接することで雄ねじ部32Aと雌ねじ部22Aとの間に軸方向力が作用するのでスリーブ3と有底穴21との間に締結力が生じる。ゲージ部2の完全ねじ20が摩耗して交換が必要になった場合、本実施形態のねじゲージであれば、スリーブ3とゲージ部2と螺合を外せば、ゲージ部2を簡単に交換することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、フランジに31に一対の平面33を形成することで、スリーブ3の有底穴21への締結に必要な締結トルクを工具によって発生させる。しかし、フランジ31の外形を正六角形などの他の形状にするなどして、締結トルクを発生できるようにしてもよい。また、フランジ31に平面33を形成させずに、スリット30を利用して締結トルクを発生させる工具を製作してもよい。
【0037】
次に、第二実施形態のねじゲージについて、
図8を参照しつつ説明する。
図8に示されるスリーブ3も、
図5と同様に、平面33を通らない断面で示されている。上述した第一実施形態では、
図5に示されるように、スリーブ3のフランジ31の最大外径が、ゲージ部2の最大外径の最小内径よりも小さく形成された。即ち、フランジ31の最大外径は検査する雌ねじ40の最大外径よりも小さく、
図5に示されるように、フランジ31も雌ねじ穴40の内部に進入可能であった。一方、本実施形態では、
図8に示されているように、フランジ31の最大外径が、ゲージ部2の最大外径よりも大きく形成されている。即ち、フランジ31の最大外径は検査する雌ねじ穴40の最大外径よりも大きく、フランジ31は雌ねじ穴40に対するストッパとして機能する。なお、雌ねじの最大外径とは、ねじ溝の谷部分での外径を指す。フランジ31以外の構成は上述した第一実施形態の構成と同じであるので、それらの重複する説明は省略する。
【0038】
ここで、回転数を検出可能な機械を用いてゲージ部2の雌ねじ穴40への螺合を行う場合を考える。雌ねじ穴40の検査では雌ねじ穴40の深さも検査することがあり、このような機械を用いれば回転数とねじピッチとから雌ねじ穴40が所望深さまで正常に形成されているかを検知可能である。一方、手動又は半自動で検査を行う場合は螺合深さを検知するのは難しい。そこで、本実施形態のようにフランジ31をストッパとして形成し、ストッパが雌ねじ穴40の開口縁に当接するまで螺合できれば、雌ねじ穴40が所望深さまで正常に形成されていると判断することが可能となる。一方で、回転数を検出可能な機械と共に第一実施形態のねじゲージを用いて検査すれば、深い雌ねじ穴40の検査も可能である。第一実施形態によってもたらされる上述したその他の効果は本実施形態によってももたらされる。
【0039】
次に、第三実施形態のねじゲージについて、
図9及び
図10を参照しつつ説明する。上記第一及び第二実施形態では、スリーブ3の有底穴21への取り付けは、雄ねじ部32A及び雌ねじ部22Aによって行われた。本実施形態では、雄ねじ部32Aに代えて突起32を形成すると共に、雌ねじ部22Aに代えて溝22を形成して、スリーブ3を有底穴21に係合させる。本実施形態でも、スリーブ3は金属製である。その他の構成は上述した第一実施形態の構成と同じであるので、それらの重複する説明は省略する。
【0040】
本実施形態では、有底穴21の係合部21aと開口部との間には、係合部21aの正六角形の外接円を断面とする円筒面21bが形成されている。また、円筒面21b上には、スリーブ3の抜け止めのための溝22が、周方向に全周にわたって形成されている。また、スリーブ3の外周面上には、溝22と係合する突起32が周方向に全周にわたって延設されている。ただし、突起32は、スリット30が形成された部分には形成されない。突起32の外径は、溝22の内径に等しいかわずかに小さい。突起32の断面凸形状は溝22の断面凹形状と同じが僅かに小さく、スリーブ3が有底穴21の開口部に取り付けられると、突起32は溝22の内部に収納され、スリーブ3がゲージ部2から抜けるのが防止される。
【0041】
スリーブ3の有底穴21の開口部への取り付けについて説明する。まず、第一実施形態と同様に、シャフト1のシャフト部12にスリーブ3が装着される。その後、スリーブ3をボールポイント部11の近傍に位置させた状態で、スリーブ3に外力を加えて突起32の外径が有底穴21の円筒面21bの内径以下となるように弾性変形させつつ、スリーブ3を有底穴21に挿入する。加えていた外力を解除すると、スリーブ3はその弾性復元力で元の形に復帰し、突起32は溝22に収納される。本実施形態でも、ゲージ部2の完全ねじ20が摩耗して交換が必要になった場合、上述した工程と逆の工程を行うことで、ゲージ部2を簡単に交換することができる。本実施形態によれば、第一実施形態の雄ねじ部32A及び雌ねじ部22Aの複雑なねじ加工を行う必要はなく、突起32及び溝22の簡単な加工でスリーブ3の抜け止めを実現できる。第一実施形態によってもたらされる上述したその他の効果は本実施形態によってももたらされる。
【0042】
次に、第四実施形態のねじゲージについて、
図11を参照しつつ説明する。本実施形態では、スリーブ3を有底穴21に圧入することで、スリーブ3をゲージ部2に固定する。本実施形態でも、スリーブ3は金属製である。スリーブ3を有底穴21に圧入するため、スリーブ3の外周面上に突起32は形成されていない。さらに、圧入後にスリーブ3が固定されるように、締め代として、スリーブ3の外径は有底穴21の円筒面21bの内径よりわずかに大きく形成されている。なお、図示しないが、円筒面21b上に雌ねじ部22A又は溝22を形成する必要はない。その他の構成は上述した第一実施形態の構成と同じであるので、それらの重複する説明は省略する。
【0043】
ねじゲージの組立方法は第一実施形態のねじゲージとほぼ同様であるが、スリーブ3の有底穴21の開口部への取り付けは、単に圧入するだけでよい。圧入後は、スリット30の幅がわずかに狭くなると思われるが、シャフト部12は既にスリーブ3の内部に位置しているため問題ない。本実施形態では、圧入後にゲージ部2にわずかに応力が作用することになるが、スリーブ3のゲージ部2への取り付けが容易になる。また、第一実施形態の雄ねじ部32A及び雌ねじ部22A、又は、第三実施形態の突起32及び溝22の加工は必要なく、スリーブ3の抜け止めを実現できる。第一実施形態によってもたらされる上述したその他の効果は本実施形態によってももたらされる。
【0044】
次に、第五実施形態のねじゲージについて、
図12を参照しつつ説明する。本実施形態では、スリーブ3を樹脂製とし、スリーブ3を有底穴21に圧入することで、スリーブ3をゲージ部2に固定する。スリーブ3が樹脂製であるため、その弾性変形量は金属よりも大きい。このため、スリット30の幅を狭くしても、スリット30の幅を広げるように弾性変形させてシャフト部12をその内部に配置することができる。また、スリット30の幅は、有底穴21への圧入後に閉じるような幅に設定されている。即ち、圧入前では、スリーブ3の外径は、有底穴21の円筒面21bの内径より大きく形成されている。より詳しくは、スリット30が閉じるまでスリーブ3を弾性変形させたときに、締め代として、弾性変形後のスリーブ3の外径が有底穴21の円筒面21bの内径よりわずかに大きくなるように、スリーブ3が形成されている。本実施形態でも、円筒面21b上に雌ねじ部22A又は溝22を形成する必要はない。その他の構成は上述した第一実施形態の構成と同じであるので、それらの重複する説明は省略する。
【0045】
ねじゲージの組立方法は第一実施形態のねじゲージとほぼ同様であるが、上述したようにスリーブ3をシャフト部12に装着する際には、スリット30を広げて装着する。また、スリーブ3の有底穴21の開口部への取り付けは、単に圧入するだけでよい。圧入後は、スリット30が閉じ、上述した締め代が有効に機能して、スリーブ3が有底穴21の開口部に固定される。本実施形態でも、スリーブ3のゲージ部2への取り付けが容易になる。第一実施形態によってもたらされる上述したその他の効果は本実施形態によってももたらされる。
【0046】
上記実施形態に係るねじゲージは、有底穴21が形成されたゲージ部2と、有底穴21に先端のボールポイント部が挿入されたシャフト1と、有底穴21の開口部に取り付けられる筒状のスリーブ3と、を備えている。トルク伝達可能な雄形状を有するボールポイント部11とこれに対応したトルク伝達可能な雌形状を有する有底穴21の係合部21aとによって、シャフト1からゲージ部2にはトルク伝達可能であり、かつ、ゲージ部2はシャフト1に対して揺動可能である。スリーブ3は、有底穴21の開口部に取り付けられたときに、ボールポイント部11の最大外径よりも小さく、かつ、シャフト部12の最大外径よりも大きい内径を有している。このため、シャフト1の先端、かつ、有底穴21の底部を基準としてゲージ部2が揺動する調芯機構を簡単な構造で実現できる。
【0047】
また、シャフト1の先端、かつ、有底穴21の底部を基準としてゲージ部2が揺動するので、優れた調芯機構を実現できる。このとき、ボールポイント部11は有底穴21に遊嵌されているため、ゲージ部2はシャフト1に対して抵抗なく揺動でき、調芯は円滑に行われ得る。さらに、シャフト部12の最大外径がボールポイント部11の最大外径よりも小さくされており、シャフト部12はたわむことが可能である。このため、上述したゲージ部2の揺動による調芯機能にシャフト部12のたわみによる調芯機能も加わるので、より優れた調芯機構を実現できる。
【0048】
また、スリーブ3にスリット30が形成されているので、スリーブ3をシャフト部12に装着させやすい。即ち、より簡単な構造でねじゲージを構築することができる。
【0049】
ここで、第一及び第二実施形態では、スリット30を形成させつつ、さらに、スリーブ3の外周面上に雄ねじ部32Aが形成され、かつ、有底穴21の内周面上に雄ねじ部32Aと螺合する雌ねじ部22Aが形成されている。従って、有底穴21からのスリーブ3の確実な抜け止めを実現できる。
【0050】
あるいは、第三実施形態では、スリット30を形成させつつ、さらに、スリーブ3の外周面上に突起32が周方向に延設され、かつ、有底穴21の内周面上に突起32を収納する溝22が周方向に形成されている。従って、有底穴21からのスリーブ3の確実な抜け止め構造も簡便な構造で実現できる。
【0051】
また、第二実施形態では、スリーブ3に、ゲージ部2の他端面、即ち、有底穴21の開口部と当接するフランジ31が形成されており、フランジ31の最大外径がゲージ部2の最大外径よりも大きくされている。従って、フランジ31が検査する雌ねじ穴40に対するストッパとして機能するため、手動又は半自動での検査時に雌ねじ穴40の深さも検査することができる。
【0052】
さらに、上記実施形態では、有底穴21の底面中心Oの高さHが上記不等式(1)の範囲内に設定されているので、上述した調芯機能を確実に実現できる。
【0053】
本開示のねじゲージは、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態における「トルク伝達可能な雄形状及び雄形状及び雌形状」は、正六角形の凸形状及び凹形状であった。しかし、「トルク伝達可能な雄形状及び雌形状」は、ヘックスローブ又はペンタローブなどの他のトルク伝達可能な形状であってもよい。ヘックスローブ又はペンタローブなどの形状でも、ボールポイント部11を形成することは可能である。
【0054】
また、上記実施形態では、ねじゲージはビットの形態で形成されたが、ビットの形態で形成されず、手動で使用することのみを前提とした形態で形成されてもよい。また、ビットの形態で形成される場合でも、そのチャック部10の形態は
図1に示される形態に限定されず、他の形態で形成されてもよい。さらに、本開示のねじゲージによれば、ロボットアームを用いて全自動で雌ねじ穴40の検査を行うような場合、調芯機能が向上しているため全自動化に対応しやすい。
【0055】
また、上記実施形態では、シャフト1は、一体物として形成されたが、シャフト部12とボールポイント部11が一体物として形成され、シャフト部12がチャック部10に螺合などによって接合される形態でもよい。この場合、シャフト部12をチャック部10に接合する前に、スリーブ3にシャフト部12を挿通させておくことができるため、スリーブ3にシャフト部12を通すためにスリット30を設ける必要はない。ただし、突起32と溝22とを係合させる第三実施形態の場合は、スリーブ3の有底穴21の開口部への取り付けのためにスリットの形成が必要になる。
【0056】
また、上記実施形態では、雄ねじ部32Aと雌ねじ部22Aとの螺合、突起32と溝22との係合、又は、スリーブ3の圧入によってスリーブ3をゲージ部2から抜けないようにした。しかし、スリーブ3と円筒面21bとを接着することで、スリーブ3の有底穴21の開口部に固定してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 シャフト
2 ゲージ部
3 スリーブ
11 ボールポイント部
12 シャフト部
21 有底穴
21a 係合部
22A 雌ねじ部
22 溝
30 スリット
31 フランジ
32A 雄ねじ部
32 突起
40 雌ねじ穴
O (有底穴21の)底面中心