(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164281
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ポリ(ヒドロキシアリーレン)、及びポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/10 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
C08G61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014200
(22)【出願日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2022075336
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「機能性配位子と疎水性ナノリアクターの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊東 忍
(72)【発明者】
【氏名】杉本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】植田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】東村 秀之
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA03
4J032CA04
4J032CA12
4J032CA14
4J032CD02
4J032CD07
4J032CE03
4J032CG01
(57)【要約】
【課題】ホルムアルデヒドを用いる必要がなく、フェノールを出発物質として使用する必要がない新規な樹脂の製造方法、及び当該製造方法に製造される、ポリ(ヒドロキシアリーレン)を提供する。
【解決手段】芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法であって、上記芳香族化合物、酸化触媒、及び酸化剤を含む反応液にて反応させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法であって、
上記芳香族化合物、酸化触媒、及び酸化剤を含む反応液にて反応させる、製造方法。
【請求項2】
上記酸化触媒が、酸化オスミウムである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記酸化剤が、過酸化水素である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記反応液に溶媒を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
上記溶媒が、水のみである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記溶媒が、水と極性有機溶媒との混合溶媒である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
反応液の反応温度が、20~100℃の範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
上記反応液に、共触媒を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法を行う、ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体の製造方法。
【請求項10】
下記式(1)に示されるC-Cカップリング構造からなる、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー:
【化1】
上記式(1)中、Aryleneは、炭素数6~24の芳香族炭化水素に由来するアリーレン単量体単位であり、mは、3~15の整数であり、nは、2~100000の整数であり、Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(1)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、1つの上記アリーレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
【請求項11】
1つの上記アリーレン単量体単位あたりに、平均として2つ以上の水酸基を有している、請求項10に記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー。
【請求項12】
下記式(2)に示されるC-Cカップリング構造からなる、ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマー:
【化2】
上記式(2)のフェニレン単量体単位中、mは、1~3の整数であり、nは、2~100000の整数であり、Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(2)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーは、1つの上記フェニレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
【請求項13】
1つの上記フェニレン単量体単位あたりに、平均として2つ以上の水酸基を有している、請求項12に記載のポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマー。
【請求項14】
請求項10~13の何れか一項に記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー、又はポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーの誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(ヒドロキシアリーレン)、及びポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、その硬化物において三次元的な網目構造を備え、電気的、機械的特性が良好で、合成樹脂の中でも特に耐熱性、難燃性に優れるという特徴を有している。このような特性から、耐熱性が要求される調理用品、及び自動車部品、並びに電気製品の基板等に用いる絶縁体として利用されている。また、接着剤や塗料などの主成分として用いられている。
【0003】
フェノール樹脂は、世界で初めて植物以外の原料より、人工的に合成された熱可塑性樹脂(プラスチック)であり、骨格にフェノール(ヒドロキシベンゼン)を有する代表的な高分子である。下記〔化1〕に示すように、フェノール樹脂は、ホルムアルデヒドとフェノールとを重合触媒を用いて重合させることで製造される。重合触媒には、酸性触媒、アルカリ性触媒があり、酸性触媒を用いることで、ノボラック型フェノール樹脂が合成され、アルカリ性触媒を用いることで、レゾール型フェノール樹脂が合成される。いずれの場合も、フェノールのフェニル基がホルムアルデヒド由来のメチレン基で架橋された高分子である。原料にはフェノールの他に、クレゾールなどのフェノール類に属する有機化合物を用いても同様の樹脂を合成できる(例えば、非特許文献1)。
【0004】
【0005】
上述のフェノール樹脂と同じく、フェノールを出発物質とする樹脂には、ポリ(p-フェニレンオキシド)(PPOはSABIC Innovative Plastics IP B.V.の登録商標)が挙げられる。ポリ(p-フェニレンオキシド)は、ポリ(p-フェニレンエーテル)(PPE)とも称され、フェノール(誘導体)が有する酸素を、当該酸素に対するパラ位の炭素に連結させることで合成される高分子である。例えば、2位と6位にアルキル基を持つフェノール誘導体を用いた酸化的重合によって合成される。ポリ(フェニレンオキシド)の酸化的重合法には、銅触媒と過酸化物などを用いる方法、及び電気化学的方法が知られている。下記〔化2〕に示すように、いずれの場合も、フェノキシルラジカルのラジカル重合により、重合反応が進行する(例えば、非特許文献2)。
【0006】
【0007】
また、フェノール樹脂の研究には、酵素を用いた酸化重合が報告されており、例えば、非特許文献3及び非特許文献4には、下記〔化3〕に示すように、酵素である西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を触媒として用い、過酸化水素を酸化剤として用いたフェノールの重合反応が報告されている。
【0008】
【0009】
このように西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を触媒として用いた報告では、例えば、テンプレート(鋳型)として、エチレングリコールモノドデシルエーテル(PEGMDE)を用いることで、フェニレン単量体単位と、オキシフェニレン単量体単位との比を制御する試みも報告されている(非特許文献5)。
【0010】
また、非特許文献6には、触媒として、鉄・N,N'-エチレンビス(サリチリジエン-アミン)(Fe-salen)を用い、始動用の基質として、ポリフェノールを用いた、超高分子量のポリフェノールの酵素的合成が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「高分子科学」,pp.3-44,共立出版株式会社刊,2020年4月発行
【非特許文献2】「基礎高分子科学 第2版」,pp.52,株式会社東京化学同人刊,2020年1月発行
【非特許文献3】Shiro Kobayashi et. al.,"Synthesis of a New Family of Phenol Resin by Enzymatic Oxidative Polymerization", CHEMISTRY LETERS, pp.423-426, 1994
【非特許文献4】Shiro Kobayashi et. al.,"Enzymatic Synthesis and Thermal Propaties of a New Class of Polyphenol", Bull. Chem. Soc. Jpn, 69, pp.189-193 (1996)
【非特許文献5】Shiro Kobayashi et. al.,"Peroxidase-Catalyzed Oxidative Polymerization of Phenol with a Nonionic Polymer Surfactant Template in Water", Macromol. Biosci. 2004, 4, pp.497-502
【非特許文献6】Shiro Kobayashi et. al.,"Synthesis of Ultrahigh Molecular Weight Polyphenols by Oxidative Coupling", Macromolecules 2003, 36, 8213-8215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述のような、非特許文献1に記載されたノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂は、合成に用いられるホルムアルデヒドがシックハウス症候群の原因なり得るという問題がある。
【0013】
また、非特許文献1~6に記載の樹脂はいずれも、ベンゼンでなく、フェノールを出発物質とて合成される樹脂である。このため、フェノールの合成又は準備が前段階として必要となる。
【0014】
また、非特許文献2に記載のポリ(フェニレンオキシド)は、C-Oカップリング構造を有する樹脂であり、非特許文献3、4に記載のフェノール樹脂は、C-Oカップリング構造とC-Cカップリング構造とが併存している。そして、非特許文献5には、テンプレートとしてエチレングリコールモノドデシルエーテル(PEGMDE)を用い、選択的にC-Cカップリング構造を有するヒドロキシアリーレンを製造することが検討されているが、C-Cカップリング構造からなるポリマーだけを選択的に製造する方法は未だ見出されてない。
【0015】
本発明は、上記のような問題を鑑みなされたものであり、ホルムアルデヒドを用いる必要がなく、フェノールを出発物質として使用する必要がない新規な樹脂の製造方法を提供し、当該製造方法により、ポリ(ヒドロキシアリーレン)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法であって、上記芳香族化合物、酸化触媒、及び酸化剤を含む反応液にて反応させる。
【0017】
また、本発明の一態様に係るポリ(ヒドロキシアリーレン)は、下記式(1)に示されるC-Cカップリング構造からなる、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーである。
【化4】
上記式(1)中、Aryleneは、それぞれ独立して、炭素数6~24の芳香族炭化水素に由来するアリーレン単量体単位であり、mは、3~15の整数であり、nは、2~100000の整数であり、5~10000の整数であることが好ましく、10~1000の整数であることがより好ましい。Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(1)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、1つの上記アリーレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
【0018】
また、本発明の一態様に係るポリ(ヒドロキシフェニレン)は、下記式(1)に示されるC-Cカップリング構造を有するポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーである。
【0019】
【化5】
上記式(2)のフェニレン単量体単位中、mは、1~3の整数であり、nは、2~100000の整数であり、5~10000の整数であることが好ましく、10~1000の整数であることがより好ましい。Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(2)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーは、1つの上記フェニレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、ホルムアルデヒドを用いる必要がなく、フェノールを出発物質として使用する必要がない新規な樹脂の製造方法を提供でき、当該製造方法により、ポリ(ヒドロキシアリーレン)を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例で得られたポリ(フェニレン)の各沈殿物サンプル(1)~(3)のFT-IR(KBr法)のスペクトルを示している。
【
図2】
図2は、アセチル化ポリ(フェニレン)のサンプル(8)における
1H-NMRスペクトルを示している。
【
図3】
図3は、アセチル化ポリ(フェニレン)のサンプル(8)及びサンプルにおけるFT-IR(KBr法)のスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
〔1〕ポリ(ヒドロキシアリーレン)の製造方法
本発明の一実施形態に係る製造方法は、芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法であって、上記芳香族化合物、酸化触媒、及び酸化剤を含む反応液にてさせる。ここで、反応液は溶媒を含んでいてもよい。
【0024】
上記の構成により、下記〔化6〕の反応式に例示するように、水酸基を有していない、安価なベンゼン等の芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造できる。すなわち、一実施形態に係る製造方法は、従来のフェノール樹脂の製造方法と異なり、フェノールを予め合成、又は準備する必要がなく、ベンゼン等の安価な芳香族化合物を原料として直接フェノールのC-Cカップリング構造を選択的に製造できる新規な製造方法である。また、下記反応式により、ポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する一実施形態に係る製造方法は、安価な原料、酸化触媒を用いることができ、水酸基の付加反応、及びC-Cカップリング反応が一段階で行われる。よって、製造工程を簡素化できることができることが利点の1つである。
【0025】
【0026】
また、上記の構成により、ホルムアルデヒドを用いずとも、フェノール性水酸基を有する樹脂を製造することができる。よって、シックハウス症候群を回避できるポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造方法として有用である。
【0027】
また、一実施形態に係る製造方法において、芳香族化合物と、酸化触媒、酸化剤、及び溶媒とを含む反応液の反応温度は、限定されるものではないが、20~100℃の範囲内であることが好ましく、30~50℃の範囲内であることがより好ましい。このように温和な温度条件、及び常圧(大気圧)でポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造できることが、本発明の利点の一つである。一実施形態に係る製造方法は、例えば、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行なえばよい。
【0028】
また、一実施形態に係る製造方法において、芳香族化合物と、酸化触媒、酸化剤、及び溶媒とを含む反応液の時間は、限定されるものではないが、5~50時間反応させればよく、10~20時間反応させることがより好ましい。
【0029】
以下に、製造方法に用いる酸化触媒、酸化剤、及び溶媒等について説明する。
【0030】
〔1-1〕芳香族化合物
芳香族化合物は、ヒドロキシアリーレン単量体単位を形成するための原料であり、炭素数6~24の芳香族環(多環式芳香族環)を有する芳香族炭化水素及びその誘導体であり得、より具体的には、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、及びピレン、並びにビフェニル、及びターフェニル等に例示され、一実施形態に係るポリ(ヒドロキシアリーレン)は、1種の芳香族環(多環式芳香族環)を有する芳香族炭化水素及びその誘導体に由来する単量体単位からなるホモポリマー(単独重合体)であってもよく、2種以上の芳香族環(多環式芳香族環)を有する芳香族炭化水素及びその誘導体に由来する単量体単位を含んだコポリマー(共重合体)であってもよい。芳香族炭化水素は、典型的にはベンゼン、及びナフタレンである。
【0031】
芳香族炭化水素の誘導体は置換基を備え、当該置換基は、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、及びアルキル基等の置換基、並びに、アルキルアルコキシ基、カルボン酸アルキルエステル基、スルホンアルキル酸エステル基、及び、アルキルスルホニル基等のアルキル部位を有する置換基から選択され、上記アルキル基、及びアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4である。その他、芳香族炭化水素の誘導体が有する置換基は、水酸基であってもよく、アルキル基及びアルキル部位の水素の一部が水酸基に置換されていてもよい。芳香族炭化水素の誘導体には、より具体的には、例えば、フルオロベンゼン、p-フルオロベンゼン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、安息香酸、メトキシベンゼン、安息香酸エチルエステル、ベンゼンスルホン酸エチルエステル、メチルスルホニルベンゼン、アセチルベンゼン、エチルベンゼンなどが挙げられる。
【0032】
反応液に含まれる、芳香族化合物の濃度は限定されるものではないが、例えば、0.1~10.0mol/Lであればよく、0.5~2.0mol/Lであることが好ましい。0.5~2.0mol/Lの範囲内であることにより、重合度を好適に制御でき、また、収率を高めることができる。
【0033】
〔1-2〕酸化触媒
本発明の一実施形態に係る製造方法は、芳香族化合物の酸化触媒として、典型的には、酸化オスミウム(OsO4)を用いる。酸化オスミウムは、四酸化オスミウムであり、例えば、12%程度の濃度の極性溶媒の溶液、つまり、オスミウム酸として酸化重合反応に供すればよい。
【0034】
酸化オスミウムの反応液における濃度は、反応に供される芳香族化合物の濃度に応じて設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、1~100μmol程度であればよく、10~30μmolであることがより好ましい。酸化オスミウムは、酸化触媒としてのターンオーバー数が大きいことも、好ましい酸化触媒であることの理由の1つである。
【0035】
酸化触媒は、酸化オスミウム以外の酸化触媒であってもよい。酸化オスミウム以外の酸化触媒には、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、及びロジウム(Rh)等の金属のオキソ酸、及びオキソ酸塩から選択すればよい。
【0036】
〔1-3〕酸化剤
酸化剤は、芳香族化合物を酸化することで自らは還元された酸化触媒を再酸化するために、反応液に供される。還元された酸化触媒は、酸化剤により再酸化されることで、再度、芳香族化合物を酸化することができるようになる。
【0037】
酸化剤は、典型的には、過酸化水素が挙げられ、その他には、トリメチルアミンオキシド(Me3NO)、及びtert-BuOOH(Milas法)等の有機過酸化物に例示される有機酸化剤、OsCl3-K3Fe(CN)6、及び過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)等の無機過酸化物に例示される無機酸化剤を再酸化剤として用いればよい。
【0038】
酸化剤の使用量は、酸化剤の種類、必要とされる重合度等に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、反応液に含まれる芳香族化合物1molに対し、等モル程度の量を使用すればよい。過酸化水素は、副生成物が水、及び酸素であることから、好ましい酸化剤であり得る。
【0039】
〔1-4〕共触媒
本発明の一実施形態に係る製造方法は、反応液に共触媒を含んでいることが好ましい。共触媒は、酸化剤の活性を促進する共触媒であり得る。共触媒には、例えば、ピリジン、N,N'-ジメチルアニリン、及びピロール等のアミン系共触媒に例示される塩基性化合物が挙げられる。また、共触媒には、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などの有機カチオン塩が挙げられ、当該アンモニウム塩には、カルボン酸アニオンのアンモニウム塩、及びハロゲン化物イオン等のアンモニウム塩が挙げられ、ハロゲン化物アンモニウム塩には、炭素数1~10のアルキル基を備える弗化アンモニウム塩等が挙げられる。また、アルカリ金属塩、及にアルカリ土類金属塩には、例えば、弗化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物、並びにアルカリ土類金属ハロゲン化物等が挙げられ、例えば、アルカリ金属塩は、アルコキシド塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩であってもよい。
【0040】
共触媒の使用量は、酸化剤の種類等に応じて適宜設計すればよく、限定されるものではないが、例えば、反応液に含まれる芳香族化合物1molに対し、0.01~0.50molの量を使用すればよい。
【0041】
〔1-5〕反応溶媒
一実施形態に係る製造方法において、反応液に用いる溶媒は、酸化触媒の水溶液との相溶性が高いことが好ましく、原料である芳香族化合物との相溶性がよい極性溶媒であることが好ましい。また、有機溶媒は酸化触媒により酸化されないものであることが好ましい。極性溶媒は、水であってもよく、極性有機溶媒であってもよい。極性有機溶媒には、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒、メタノール、エタノール、i-プロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のアセトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。また、極性有機溶媒には、例えば、ジメチルフォルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0042】
例えば、反応に供する反応溶媒は混合溶媒であってもよい。例えば、混合溶媒として、水と、上述の極性有機溶媒とから選択される溶媒から、少なくとも2種の溶媒を選択し、そのうちポリ(ヒドロキシアリーレン)の溶解度が高い極性有機溶媒を良溶媒として用い、そのうちポリ(ヒドロキシアリーレン)の溶解度が低い極性有機溶媒を貧溶媒として用いればよい。ここで、混合溶媒に含まれる良溶媒の量を多くすることで、ポリ(ヒドロキシアリーレン)の溶解度を高め、これにより、ポリ(ヒドロキシアリーレン)の重合度を高めることができる。また、混合溶媒に含まれる貧溶媒の量を多くすることで、ポリ(ヒドロキシアリーレン)の溶解度を低くし、これにより、ポリ(ヒドロキシアリーレン)の重合度を小さくすることができる。
【0043】
混合溶媒における極性溶媒の組み合わせは、芳香族化合物及びその誘導体の相溶性、及び、酸化触媒、及び酸化剤の相溶性に応じて選択すればよく、限定されるものではないが、貧溶媒として水を用い、良溶媒としてアセトニトリル等のニトリル系溶媒を用いる混合溶媒であることが好ましい。具体的には、例えば、混合溶媒には、水とアセトニトリルとの混合溶媒が挙げられる。
【0044】
また、一実施形態に係る製造方法において、ポリ(アリーレン)の反応液に用いる溶媒は水のみであることが好ましい。一実施形態に係る製造方法は、ホルムアルデヒドのみならず、さらには有機溶媒を用いずとも、ポリ(アリーレン)を製造することができることも利点の1つである。また、溶媒が水という、芳香族化合物と相溶性が低い溶媒でありながら、24%以上という高い収率にてポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造することができる。なお、本明細書中、溶媒が「水のみ」とは、反応液に用いる溶媒が実質的に水のみであればよく、例えば、酸化剤、及び共触媒を希釈するための溶媒が反応液に1%以下含まれることを除外しない。
【0045】
〔1-6〕精製
反応により得られたポリ(ヒドロキシアリーレン)は、再沈殿等の公知の方法によって、精製すればよい。再沈殿には、例えば、良溶媒として、例えば、DMF、DMSO等の極性有機溶媒を選択すればよく限定されない。再沈殿における貧溶媒には、例えば、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン等の塩素系溶媒であってもよく、限定されない。
【0046】
〔2-1〕ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー
以上の通り、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されたポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、上述の芳香族化合物、及びその誘導体に由来するヒドロキシアリーレン単量体単位が重合してなるポリマーである。ヒドロキシアリーレン単量体単位は、そのアリーレン基同士が直接結合するC-Cカップリング構造を備えている。
【0047】
より具体的には、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、以下の式(1)で表されるアリーレン単量体単位によるC-Cカップリング構造からなる、ポリマーであり得る。
【0048】
【0049】
上記式(1)中、Aryleneは、それぞれ独立して、炭素数6~24の芳香族炭化水素に由来するアリーレン単量体単位であり、より具体的には、フェニレン単量体単位、ナフチレン単量体単位、アントラセニレン単量体単位、フェナントレニレン単量体単位、及び、ピレニレン単量体単位、並びにビフェニレン単量体単位、及びターフェニレン単量体単位であり得、これらアリーレン単量体単位のそれぞれは、Rとは別に、1つの水酸基(OH)を有している。
【0050】
上記式(1)中、mは、炭素数6~24の芳香族環(多環式芳香族環)を有する芳香族炭化水素に由来するアリーレン単量体単位の種類に応じて決定され、3~15の整数であり得、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、1つのアリーレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上、より好ましくは2つ以上の水酸基を有しているとよい。
【0051】
上記式(1)中、Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有するアルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4である。Rが、水酸基であるか、ヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルキル部位である場合、これらの基が有する水酸基は、本発明の一態様に係る製造方法によって、芳香族化合物に付加された水酸基であり得る。
【0052】
上記式(1)中、nは、2~100000の整数であり、5~10000の整数であることが好ましく、10~1000の整数であることがより好ましく、ここで、当該nは、重量平均分子量から求められる平均重合度から決定される。また、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、ヒドロキシアリーレン単量体単位のC-Cカップリング体(C-Cカップリング構造)のみからなるポリマーであることが好ましく、上記式(1)に示すC-Cカップリング体から選択される複数のC-Cカップリング体を含んだポリマーであってよく、上記式(1)に示すC-Cカップリング体から選択される1つのC-Cカップリング体のみを含んだポリマーであってよい。
【0053】
ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、より具体的には、下記式(2)に示されるフェニレン単量体単位のポリマーであり得る。
【0054】
【0055】
上記式(2)のフェニレン単量体単位中、mは、1~3の整数であり、nは、2~100000の整数であり、5~10000の整数であることが好ましく、10~1000の整数であることがより好ましい。Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4である。上記式(2)に示ように、フェニレン単量体単位は、Rとは別に、1つの水酸基(OH)を有している。また、ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーは、1つのフェニレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上、より好ましくは2つ以上の水酸基を有しているとよい。
【0056】
以上の式(2)に示すポリ(ヒドロキフェニレン)おけるnは、重量平均分子量から求められる平均重合度から決定される。また、ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーは、ヒドロキシフェニレン単量体単位のC-Cカップリング体のみからなるポリマーであることが好ましく、上記式(2)に示すC-Cカップリング体から選択される複数のC-Cカップリング体を含んだポリマーであってよく、上記式(2)に示すC-Cカップリング体から選択される1つのC-Cカップリング体のみを含んだポリマーであってよい。
【0057】
以上の式(1)及び(2)に示されるポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、ポリ(ヒドロキシアリーレン)、つまり、C-Cカップリングされた単量体単位のポリマーである新規な樹脂である。ポリ(ヒドロキシアリーレン)は、従来のフェノール樹脂、及びポリ(フェニレンオキシド)等のフェノールを原料とする従来の樹脂にない新規な機械的、化学的特性が期待される。例えば、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、フェノール性水酸基に官能基の導入することが容易であり、官能基の導入による高機能化により、機能性樹脂材料への用途展開が期待される。例えば、塗料、接着剤、及び成形材料等の製品に使用するときにおいて、これら製品にホルムアルデヒドが含まれることを回避できることにおいて、有用であると期待される。
【0058】
また、ヒドロキシアリーレン基と、例えば、遷移金属との錯形成を利用した高機能化による、電導性材料、酸化還元触媒などへの用途展開も期待される。
【0059】
また、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、及びポリフェニレンオキシドと同じく、アリーレン単量体単位を備えてなるポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、高い耐熱性、寸法安定性、及び高い耐衝撃性等を備えていると期待され、ポリスチレン、耐衝撃性スチレンブタジエン共重合体、ポリアミド等の改質剤への用途が期待される。
【0060】
また、アリーレン単量体単位を備えてなるポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、エポキシ樹脂等のフェノール性水酸基と反応する官能基を持つ樹脂と熱硬化反応させることで、これら樹脂に高い耐熱性、寸法安定性、及び高い耐衝撃性等を付与できると期待される。
【0061】
〔2-2〕ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体
本発明の一実施形態に係るポリ(ヒドロキシアリーレン)は、当該ポリ(ヒドロキシアリーレン)、例えば、ヒドロキシフェニレン単量体単位などの、ヒドロキシアリーレン単量体単位が備えるヒドロキシル基の水素の少なくとも一部が置換基で置換されていればよい。これにより、一実施形態に係るポリ(ヒドロキシアリーレン)に、溶媒への溶解性の付与、及び、/又は光硬化性、又は熱硬化性等の機能性を付与することができる。
【0062】
ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体が有する置換基には、例えば、炭素数1~10のアルキル基、アセチル基に例示される炭素数1~10のアルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基などのオキソ酸基、トリアルキルシリル基やパーフルオロアルキル基等が挙げられ、これらのアルキル置換基は炭素数1~10が挙げられる。これら置換基により、ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体は、他の機能性材料との相溶性が付与されていてもよい。また、ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体が有する置換基には、例えば、エポキシ基などのカチオン重合性基、(メタ)アクリロイル、ビニル基などのラジカル重合性基、並びに、プロパギル基及びシアノ基等の機能性官能基が挙げられる。例えば、カチオン重合性基、又はラジカル重合性基が導入されたポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体は光硬化性、又は熱硬化性が付与された新規な機能性材料、金属イオン補足材料等として期待される。
【0063】
ポリ(ヒドロキシアリーレン)への置換基の導入は、例えば、アルコール、無水オキソ酸、エポキシ化合物等を用いる公知の方法に準じて行うとよい。例えば、エピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル、(メタ)アクリル酸ハライド等のハロゲン化アシル、無水(メタ)アクリル酸等の酸無水物等とポリ(ヒドロキシアリーレン)とを反応させることで製造できる。本発明の一実施形態に係るポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体、及びその製造方法も、本発明の範疇である。
【0064】
〔3〕まとめ
本発明は以下の発明を包含する。
<1>芳香族化合物からポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法であって、
上記芳香族化合物、酸化触媒、及び酸化剤を含む反応液にて反応させる、製造方法。
<2>上記酸化触媒が、酸化オスミウムである、<1>に記載の製造方法。
<3>上記酸化剤が、過酸化水素である、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>上記反応液に溶媒を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>上記溶媒が、水のみである、<1>~<4>に記載の製造方法。
<6>上記溶媒が、水と極性有機溶媒との混合溶媒である、<4>に記載の製造方法。
<7>反応液の反応温度が、20~100℃の範囲内である、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>上記反応液に、共触媒を含む、<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9><1>~<8>の何れかに記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造する製造方法を行う、ポリ(ヒドロキシアリーレン)誘導体の製造方法。
<10>下記式(1)に示されるC-Cカップリング構造からなる、ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー:
【化9】
上記式(1)中、Aryleneは、炭素数6~24の芳香族炭化水素に由来するアリーレン単量体単位であり、mは、3~15の整数であり、nは、2~100000の整数であり、Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(1)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマーは、1つの上記アリーレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
<11>1つの上記アリーレン単量体単位あたりに、平均として2つ以上の水酸基を有している、<10>に記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー。
<12>下記式(2)に示されるC-Cカップリング構造からなる、ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマー:
【化10】
上記式(2)のフェニレン単量体単位中、mは、1~3の整数であり、nは、2~100000の整数であり、Rは、それぞれ独立して、塩素、臭素、及びフッ素から選択されるハロゲン基、水素、水酸基、ニトリル基、ニトロ基、カルボン酸基、スルホン酸基、及びアシル基、アルキル基、及びヒドロキシアルキル基、並びに、アルキル部位又はヒドロキシアルキル部位を有する、アルコキシ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、及び、スルホニル基から選択され、上記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキル部位及びヒドロキシアルキル部位の炭素数は、それぞれ独立して、1~4であり、
上記式(2)で示されるC-Cカップリング構造から選択される、複数のC-Cカップリング構造を含んでいてもよく、
上記ポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーは、1つの上記フェニレン単量体単位あたりに、平均として1つ以上の水酸基を有している。
<13>1つの上記フェニレン単量体単位あたりに、平均として2つ以上の水酸基を有している、<12>に記載のポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマー。
<14><10>~<13>の何れかに記載のポリ(ヒドロキシアリーレン)ポリマー、又はポリ(ヒドロキシフェニレン)ポリマーの誘導体。
【0065】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0066】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0067】
〔1〕実施例1: ポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造
5mLの反応容器に溶媒として、2.0mLのアセトニトリルを投入し、当該アセトニトリルに、24mmolのベンゼン、共触媒として480μmolのピリジンを加え、窒素ガスにより不活性雰囲気に置換した。次いで、不活性雰囲気下、酸化触媒として、酸化オスミウム(OsO4)の12.3%水溶液を酸化オスミウムが16μmolになるように反応容器に投入し、再酸化剤として、30%過酸化水素を24mmolになるように投入することで反応液を調製し、反応を開始した。反応は、30℃を維持しつつ、16時間行なった。
【0068】
16時間が経過した後、反応液は、黒色懸濁液となっており、当該黒色懸濁液に過剰量のアセトンを加えたところ、赤褐色に変色し、茶色沈殿物(1)が析出した。茶色沈殿物(1)を赤褐色の溶液から吸引濾過で分離した。得られた茶色沈殿物(1)の収量は、36mgであり、ベンゼンを基準として算出するポリ(ヒドロキシフェニレン)の質量収率は2%に相当していた。当該茶色沈殿物(1)をサンプル(1)とした。
【0069】
茶色沈殿物(1)を分離した後の赤褐色の溶液に、過剰量のジエチルエーテルを加えると、茶色沈殿物(2)が析出した。得られた茶色沈殿物(2)の収量は、125mgであり、ベンゼンを基準とするポリ(ヒドロキシフェニレン)の質量収率は7%に相当していた。当該茶色沈殿物(2)をサンプル(2)とした。
【0070】
茶色沈殿物(1)を分離した後の赤褐色の溶液に、過剰量のジエチルエーテルを加えると、茶色沈殿物(2)が析出した。得られた茶色沈殿物(2)の収量は、125mgであり、ベンゼンを基準として算出するポリ(ヒドロキシフェニレン)の質量収率が7%に相当していた。
【0071】
過剰量のジエチルエーテルを加えることで、茶色沈殿物(2)を回収した後、反応容器の壁面に付着していた固形物をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。その後、ジエチルエーテルを加えると黒色沈殿物(3)が析出した。得られた黒色沈殿物(3)の収量は、31mgであり、ベンゼンを基準として算出するポリ(ヒドロキシフェニレン)の質量収率は2%であった。当該黒色沈殿物(3)をサンプル(3)とした。
【0072】
上記操作により得られた各沈殿物サンプルの各溶媒に対する溶解性は、以下の表1に示す通りである。
【0073】
【0074】
〔1-1〕分子量測定
表1に示す、各沈殿物サンプルの溶解性から、展開溶媒DMFを選択し、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により、各沈殿物サンプルの分子量を評価した。分子量評価は、以下の条件にて行なった。
GPC分析装置:LC-NetII/ADC(JASCO社製)
検出器:UV-2070Plus(JASCO社製)
検出波長:272nm
カラム:K-807L(Shodex社製)を2本使用した。
展開溶媒:DMF(10mmol/LのLiBrを含む)
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
標準物質:ポリスチレン(EasiCal PS-1:Agilent Technologies社製)
【0075】
分子量測定により求められた各サンプルの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を以下の表2に示す。
【0076】
【0077】
表2に示すように、各サンプル(1)~(3)の量Mnは1600~2000であり、Mwは6000~6200であった。
【0078】
〔1-2〕FT-IRによる構造分析
図1に、FT-IR(KBr法)における各サンプル、及びポリフェニレンオキシドのIRスペクトルを示している。
図1に示しているように、各サンプルは、いずれも、3400cm
-1付近におけるフェノール性水酸基に帰属するピークが存在しており、ポリ-p-フェニレンオキシド(PPO)に認められるC-O-C伸縮に基づく、1200cm
-1付近のピークが認められなかった。このことから、各サンプルは生成物として、下記の式に示すような、フェノール性水酸基を有し、かつ、C-Cカップリング構造を有するホモポリマーであると確認された。なお、下記式中、nは上記表2のM
nに相当する。
【0079】
【0080】
〔2〕実施例2: ポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造
実施例1のポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造における共触媒をピリジンから、テトラブチルアンモニウム弗化物・三水和物(TBAF・3H2O)に変更した以外は、同じ手順に沿って、実施例2のポリ(ヒドロキシフェニレン)のサンプル(4)を得た。サンプル(4)は黒色沈殿物として得られ、実施例1のサンプル(1)~(3)と同じ条件にて、GPC法によって分子量測定を行った。
【0081】
〔3〕実施例3: 水溶媒におけるポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造
溶媒として水を使用し、共触媒として弗化カリウム(KF)を使用した反応系により、ポリ(ヒドロキシフェニレン)を製造した。
【0082】
反応容器に12.8mLの水を投入し、55.8mgの弗化カリウム(KF)溶解させることで弗化カリウム水溶液を得、当該弗化カリウム水溶液に0.1mol/LのOsO4のアセトニトリル溶液160μLを加え、室温で3分間撹拌した。その後、30%過酸化水素4.9mLと、ベンゼン2.14mLとを加えることで反応液とし、空気雰囲気下、40℃で24時間撹拌し、これにより、黒色溶液を得た。続いて、反応後の黒色溶液から溶媒を除去し、得られた固形分を10mLのメタノールに溶解した後、200mLのクロロホルムを加えて再沈殿し、吸引ろ過、及び減圧乾燥することで黒色固体サンプル(5)を得た。得られた黒色個体サンプルの収率は24%であった。
【0083】
〔4〕実施例4: 水溶媒におけるポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造
共触媒として弗化カリウム(KF)に代えて、TBAF・3H2Oを使用した以外は、実施例3の手順と同じ操作によって水反応系により、ポリ(ヒドロキシフェニレン)の黒色固体サンプルを製造した。得られた黒色個体サンプルの収率は37%であった。
【0084】
〔5〕実施例5: 水溶媒におけるポリ(ヒドロキシフェニレン)の製造
共触媒として弗化カリウム(KF)に代えて、ピリジンを使用した以外は、実施例3の手順と同じ操作によって水反応系により、ポリ(ヒドロキシフェニレン)の黒色固体サンプル(6)を得た。
【0085】
サンプル(4)~(6)のそれぞれにおける数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を示す。
【0086】
【0087】
〔6〕実施例6: 水溶媒におけるポリ(ヒドロキシナフチレン)の製造
芳香族化合物として、ナフタレンを使用し、ポリ(ヒドロキシナフチレン)の製造を行った。
【0088】
反応容器に溶媒として、13.9mLのアセトニトリルを投入し、当該アセトニトリルに共触媒としてのテトラブチルアンモニウム弗化物・三水和物(TBAF・3H2O)を303mg(960μmol)溶解し、共触媒のアセトニトリル溶液を得た。次いで、当該共触媒のアセトニトリル溶液に0.1mol/LのOsO4のアセトニトリル溶液を160μL加え、室温で3分間撹拌した。その後、攪拌したアセトニトリル溶液に30%過酸化水素を4.9mL加え、3.03g(24mmol)のナフタレンを溶解させることで反応液とし、当該反応液を空気雰囲気下、40℃で24時間撹拌することで、黒色溶液を得た。当該黒色溶液から溶媒を除去し、得られた固形分を10mLのアセトンに溶解した後、200mLのジエチルエーテルを加えて再沈殿し、吸引ろ過、減圧乾燥することで黒色固体サンプル(7)を得た。得られた黒色個体サンプル(7)の収率は10%であった。
【0089】
〔6-1〕分子量測定
実施例1と同じくGPC法により、サンプルの分子量を評価した。分子量評価は、以下の条件にて行なった。
GPC分析装置:LC-NetII/ADC(JASCO社製)
検出器:UV-2070Plus(JASCO社製)
検出波長:272nm
カラム:K-807L(Shodex社製)を2本使用した。
展開溶媒:DMF(10mmol/LのLiBrを含む)
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
標準物質:ポリスチレン(EasiCal PS-1:Agilent Technologies社製)
【0090】
分子量測定により求められた各サンプルの数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を以下の表4に示す。
【0091】
【0092】
〔7〕実施例7: ポリ(ヒドロキシフェニレン)のアセチル化
実施例5で得られた黒色固体サンプル(5)400mgを、10mLのピリジンに溶解することで溶液を得、当該溶液に7mLの無水酢酸を加えることで反応液とし、室温で12時間撹拌した。その後、反応液に1.5mol/Lの塩酸水溶液100mLを加えることで再沈殿し、吸引ろ過、減圧乾燥することで、アセチル化したポリ(ヒドロキシフェニレン)の黒色固体サンプル(8)を得た。黒色固体のサンプル(8)の収率は79%であった。
【0093】
黒色固体のサンプル(8)を、ジクロロメタン-d
2に溶解し、
1H-NMR(400MHz)分析を行った。標準物質をTMSとした。
図2に示すサンプル(8)の
1H-NMRスペクトルにおいて、ベンゼン環に結合したアセチル基の数をxとして、ベンゼン環部に由来する6.5-8.5ppmのブロードなピークと、アセチル基のメチル基由来の2ppm付近のブロードなピークとの比は1:5.3であった。(4-x):3x=1:5.3となり、x=2.5と算出され、このことから、アセチル化前のサンプル(5)において、ポリ(ヒドロキシフェニレン)は、1つの単量体単位において、平均として2.5個の水酸基を有しているものと認められた。
【0094】
図3に、アセチル化された黒色固体のサンプル(8)及びを、黒色固体のサンプル(8)の原料として用いたサンプル(5)のFT-IRスペクトルを示す。
図3に示すように、サンプル(8)のIRスペクトルでは、1760cm
-1(C=O)、及び1200cm
-1(C-O-C)にアセチル基に由来するピークが確認され、サンプル(5)のIRスペクトルにおいて確認されるような、3000~3500cm
-1の水酸基に由来するブロードな及びピークは確認されなかった。
【0095】
〔8〕実施例8: ポリ(ヒドロキシフェニレン)の硬化性評価
実施例5で得られたポリ(ヒドロキシフェニレン)黒色固体サンプル(5)を用い、エポキシ樹脂による硬化性評価を行った。
【0096】
23.2mgの黒色固体サンプル(5)に、52.8mgのEP4(4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン))を混合し、混合物を得た。得られた混合物5mgを採取し、加熱炉で加熱した。混合物の加熱は、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度にて250℃まで昇温し、その後、30分間、250℃の条件で加熱を継続した。その後、加熱した混合物を、室温に冷却することで黒色固体状の硬化物を得た。実施例8と同じ条件にて加熱したEP4は、液体のままであり硬化物は得られなかった。以上のことから、黒色固体状のポリ(ヒドロキシフェニレン)サンプルをエポキシ樹脂の硬化剤として用いることができることを確認した。
本発明は、ホルムアルデヒドを使用することなく、安価な芳香族化合物を原料とし、簡素化された反応経路でポリ(ヒドロキシアリーレン)を製造できる。ポリ(ヒドロキシアリーレン)は、機能性樹脂材料への用途展開、電導性材料、酸化還元触媒などへの用途展開、機能性樹脂の改質剤への用途が期待される。