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特開2023-164287放射性同位体の製造装置、製造システム、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164287
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】放射性同位体の製造装置、製造システム、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21H 7/00 20060101AFI20231102BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20231102BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20231102BHJP
   G21F 7/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G21H7/00
G21K1/00 Z
G21K5/08 Z
G21F7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021976
(22)【出願日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2022075333
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】坂下 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 信正
(72)【発明者】
【氏名】石岡 典子
(57)【要約】
【課題】放射性同位体を製造する製造装置であって、従来とは異なる新しい製造装置を提供すること。
【解決手段】製造装置(10)は、宇宙空間において放射線をターゲット(21)に照射することによって放射性同位体を製造する。製造装置(10)は、宇宙空間に存在する放射線を焦点(P1,P2,P3)に集束させるソレノイドコイル(12)と、焦点(P1,P2,P3)にターゲット(21)を保持するホルダーと、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間において放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造する製造装置であって、
宇宙空間に存在する放射線を焦点に集束させるソレノイドコイルと、
前記焦点に前記ターゲットを保持するホルダーと、を備えている、
ことを特徴とする製造装置。
【請求項2】
前記ソレノイドコイルの磁場を制御することにより前記放射線のエネルギーに応じて前記焦点の位置を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記放射線の進行方向において、前記ターゲットの前段に前記放射線のエネルギーを遮蔽する遮蔽材を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項4】
製造する放射性同位体に応じて、前記ターゲットに照射される陽子線が所定のエネルギーに設定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項5】
前記ソレノイドコイルの中心軸に沿って延伸されたガイドレールを更に備え、
前記ホルダーは、(1)前記ガイドレールに嵌合しつつ、前記ガイドレールに沿って往復運動する嵌合部と、(2)当該嵌合部に固定された保持部であって、前記ターゲットを保持する保持部と、を備え、
前記ガイドレール及び前記ホルダーのうち少なくとも何れかには、前記嵌合部の位置をロック又はリリースするストッパーが設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項6】
前記ガイドレールの両端部のうち前記ソレノイドコイルから遠い側の端部に設けられた装填回収部であって、前記ガイドレールに前記ターゲットを装填するとともに、前記ガイドレールから前記ターゲットを回収する装填回収部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項5項に記載の製造装置。
【請求項7】
前記ターゲットを保持する前記ホルダーの数は、複数であり、
各ホルダーは、前記ガイドレールに対してロックされる場合に、前記ソレノイドコイルの異なる焦点距離に対応する位置に各ターゲットを固定するように、前記ガイドレールに対してロックされる、
ことを特徴とする請求項6に記載の製造装置。
【請求項8】
太陽が発する光を遮ることにより陰を形成する遮光部材を更に備え、
前記ソレノイドコイルは、超伝導コイルであり、
前記ソレノイドコイル及び前記遮光部材は、前記ソレノイドコイルの少なくとも一部が前記陰に隠れるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項9】
前記遮光部材は、太陽光発電パネルを含む、
ことを特徴とする請求項8に記載の製造装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の製造装置を複数備えている、
ことを特徴とする製造システム。
【請求項11】
各製造装置が備えているソレノイドコイルの中心軸は、略平行であり、且つ、各ソレノイドコイルの開口部を平面視した場合に、隣接するソレノイドコイルの開口部同士は、何れも重なっていない、
ことを特徴とする請求項10に記載の製造システム。
【請求項12】
宇宙空間において放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造する製造方法であって、
宇宙空間に存在する放射線を焦点に集束させる集束工程と、
前記集束工程において集束された放射線を、前記焦点において前記ターゲットに照射する照射工程と、を含む、
ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙での放射性同位体の製造装置、製造システム、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な分野において放射性同位体が利用されている。放射性同位体を人工的に製造する場合、原子炉又(非特許文献1参照)はサイクロトロン(非特許文献2参照)を用いる。前者の場合であれば、原子炉により生成される中性子を金属ターゲットに照射することにより放射性同位体を製造する。後者の場合であれば、サイクロトロンにより生成される放射線を金属ターゲットに照射することにより放射性同位体を製造する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Manual for reactor produced radioisotopes", IAEA TECDOC Series no. 1340,INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, p.82-115, JANUARY 2003.
【非特許文献2】"Cyclotron Produced Radionuclides: Physical Characteristics and Production Methods", Technical Reports Series No. 468, INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, p.122-130, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、原子炉を用いて放射性同位体を製造する場合、放射性同位体の製造スケジュールは、原子炉の稼働状況に依存せざるを得ない。現在、世界的に稼動する原子炉の数が減少しており、将来的に原子炉を用いて放射性同位体を製造することが難しくなることが懸念されている。
【0005】
また、核医学治療及び/又はPET(Positron Emission Tomography, 陽電子断層撮影)検査を実施する医療機関の一部では、機関内にサイクロトロンを設置している。ただし、核医学治療及び/又はPET検査を実施する医療機関ごとにサイクロトロンを設置することは難しい。
【0006】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、放射性同位体を製造する製造装置、製造システム、及び製造方法であって、従来とは異なる新しい製造装置、製造システム、及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る製造装置は、宇宙空間において放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造する製造装置であって、宇宙空間に存在する放射線を焦点に集束させるソレノイドコイルと、前記焦点に前記ターゲットを保持するホルダーと、を備えている。
【0008】
宇宙空間に存在する放射線は、宇宙線とも呼ばれ、無尽蔵に宇宙空間に存在する。本製造装置では、宇宙空間に存在する放射線を利用して放射性同位体を製造する。上記の構成によれば、宇宙空間の放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造することができる。したがって、原子炉及びサイクロトロンを用いることなく放射性同位体を製造することができる。すなわち、本製造装置は、従来とは異なる新しい製造装置を提供することができる。
【0009】
また、本発明の第2の態様に係る製造装置においては、上述した第1の態様に係る製造装置の構成に加えて、前記ソレノイドコイルの磁場を制御することにより前記放射線のエネルギーに応じて前記焦点の位置を変化させる、構成が採用されている。
【0010】
上記の構成によれば、所定のエネルギーを有する放射線が集束される焦点の位置を、任意に変化させることができる。
【0011】
また、本発明の第3の態様に係る製造装置においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る製造装置の構成に加えて、前記放射線の進行方向において、前記ターゲットの前段に前記放射線のエネルギーを遮蔽する遮蔽材を有する、構成が採用されている。
【0012】
上記の構成によれば、遮蔽材を用いてターゲットに照射する放射線のエネルギーを低下させる方向に調整することができる。
【0013】
また、本発明の第4の態様に係る製造装置においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る製造装置の構成に加えて、製造する放射性同位体に応じて、前記ターゲットに照射される陽子線が所定のエネルギーに設定されている、構成が採用されている。
【0014】
上記の構成によれば、放射性同位体を効率よく製造することができる。また、上記の構成によれば、意図しない放射性同位体が製造されることを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の第5の態様に係る製造装置においては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る製造装置の構成に加えて、
前記ソレノイドコイルの中心軸に沿って延伸されたガイドレールを更に備えている。本製造装置においては、前記ホルダーは、(1)前記ガイドレールに嵌合しつつ、前記ガイドレールに沿って往復運動する嵌合部と、(2)当該嵌合部に固定された保持部であって、前記ターゲットを保持する保持部と、を備え、前記ガイドレール及び前記ホルダーのうち少なくとも何れかには、前記嵌合部の位置をロック又はリリースするストッパーが設けられている、構成が採用されている。
【0016】
上記の構成によれば、ソレノイドコイルの中心軸に沿って、ターゲットを保持した状態のホルダーを往復運動させることができ、且つ、ターゲットを保持した状態のホルダーの往復運動をロックしたりリリースしたりすることができる。したがって、本製造装置は、ソレノイドコイルの中心軸上におけるターゲットの位置を調整することができる。
【0017】
また、本発明の第6の態様に係る製造装置は、上述した第5の態様に係る製造装置の構成に加えて、前記ガイドレールの両端部のうち前記ソレノイドコイルから遠い側の端部に設けられた装填回収部であって、前記ガイドレールに前記ターゲットを装填するとともに、前記ガイドレールから前記ターゲットを回収する装填回収部を更に備えている。
【0018】
上記の構成によれば、ガイドレールへのターゲットの装填、及び、ガイドレールからのターゲットの回収を容易にすることができる。
【0019】
また、本発明の第7の態様に係る製造装置においては、上述した第6の態様に係る製造装置の構成に加えて、前記ターゲットを保持する前記ホルダーの数は、複数であり、各ホルダーは、前記ガイドレールに対してロックされる場合に、前記ソレノイドコイルの異なる焦点距離に対応する位置に各ターゲットを固定するように、前記ガイドレールに対してロックされる、構成が採用されている。
【0020】
上記の構成によれば、ソレノイドコイルの中心軸に沿って、前記ターゲットを保持した状態のホルダーを複数配置することができる。したがって、本製造装置は、放射性同位体を製造する場合において複数ターゲットに対して同時に放射線を照射することが可能である。それにより、本製造装置は、放射性同位体の製造効率を更に高めることができる。
【0021】
また、本発明の第8の態様に係る製造装置は、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係る製造装置の構成に加えて、太陽が発する光を遮ることにより陰を形成する遮光部材を更に備えている。本製造装置においては、前記ソレノイドコイルは、超伝導コイルであり、前記ソレノイドコイル及び前記遮光部材は、前記ソレノイドコイルの少なくとも一部が前記陰に隠れるように配置されている、構成が採用されている。
【0022】
上記の構成によれば、遮光部材を備えていない場合と比較して、ソレノイドコイルの温度は、外部から冷却することなく低下する。したがって、遮光部材を備えていない場合と比較して、超伝導コイルを超伝導状態にすることが容易になるため、本製造装置の構成を簡素化することができるとともに、本製造装置のランニングコストを削減することができる。
【0023】
また、本発明の第9の態様に係る製造装置においては、上述した第8の態様に係る製造装置の構成に加えて、前記遮光部材は、太陽光発電パネルを含む、構成が採用されている。
【0024】
上記の構成によれば、遮光部材を用いて発電することができるので、本製造装置のランニングコストを更に削減することができる。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明の第10の態様に係る製造システムは、上述した第1の態様~第9の態様の何れか一態様に係る製造装置を複数備えている。
【0026】
上記の構成によれば、本発明の一態様に係る製造装置を1台のみ運用する場合と比較して、放射性同位体を大量生産することができる。
【0027】
また、本発明の第11の態様に係る製造システムにおいては、上述した第10の態様に係る製造システムの構成に加えて、各製造装置が備えているソレノイドコイルの中心軸は、略平行であり、且つ、各ソレノイドコイルの開口部を平面視した場合に、隣接するソレノイドコイルの開口部同士は、何れも重なっていない、構成が採用されている。
【0028】
上記の構成によれば、複数台の製造装置を並列に運用する場合に生じ得る放射線のロスを抑制することができるので、放射性同位体を製造する場合における効率を高めることができる。
【0029】
上記の課題を解決するために、本発明の第12の態様に係る製造方法は、宇宙空間において放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造する製造方法であって、宇宙空間に存在する放射線を焦点に集束させる集束工程と、前記集束工程において集束された放射線を、前記焦点において前記ターゲットに照射する照射工程と、を含んでいる。
【0030】
このように構成された本製造方法は、本発明の第1の態様に係る製造装置と同様の効果を奏する。
【0031】
また、本発明の一態様に係る製造装置は、上述した何れか一態様に係る製造装置の構成に加えて、前記複数のターゲットのうち少なくとも1つのターゲットの前段に設けられた遮蔽材を更に備えていてもよい。
【0032】
ソレノイドコイルの中心軸に沿ってみた場合に、エネルギーのより低い放射線は、よりソレノイドコイルに近い位置において集束され、エネルギーのより高い放射線は、よりソレノイドコイルから遠い位置において集束される。したがって、ソレノイドコイルの異なる焦点距離に対応する位置に設けられた各ターゲットのうち、遠い焦点距離に対応する位置に設けられたターゲットには、近い頂点距離に対応する位置に設けられたターゲットと比較して、高いエネルギーを有する放射線が照射される。このように高いエネルギーを有する放射線については、遮蔽材を透過させることによりエネルギーを低下させることができる。
【0033】
上記の構成によれば、複数のターゲットのうち少なくとも1つのターゲットの前段に遮蔽材を設けることによって、遠い焦点距離に対応する位置に設けられたターゲットに入射する放射線のエネルギーを、放射性同位体を製造するために好適なエネルギーにまで低下させることができる。したがって、本製造装置は、放射性同位体を製造する場合における効率をより一層高めることができる。
【0034】
なお、上記の構成は、放射線が陽子線である場合に好適に用いることができる。宇宙線には、様々なエネルギーを有する陽子線が含まれている場合が多いためである。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様によれば、宇宙での放射性同位体を製造する製造装置、製造システム、及び製造方法であって、従来とは異なる新しい製造装置、製造システム、及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る製造装置の斜視図である。(b)は、(a)に示す製造装置に含まれる太陽光発電パネルの平面図である。(c)は、(a)に示す製造装置に含まれるガイドレールの断面矢視図である。(d)は、(a)に示す製造装置に含まれるガイドレールの側面図である。
図2図1に示した製造装置の一変形例が備えているガイドレール及びターゲット設置回収ロボットの側面図である。(a)及び(b)は、ターゲット設置回収ロボットがターゲットを充填する工程を示し、(c)及び(d)は、ターゲット設置回収ロボットがターゲットを回収する工程を示す。
図3】(a)に示す製造装置において実施される製造方法のフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施形態に係る製造システムに含まれる各太陽光発電パネルの平面図である。
図5】本発明の参考例として、放射線輸送コードPHITSによる68Geの生成量の計算例を示すグラフである。
図6】本発明の参考例として、陽子線をターゲット21に1年間照射することにより得られる生成量のエネルギー依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る製造装置10について、図1図3を参照して説明する。図1の(a)は、製造装置10の斜視図である。図1の(b)は、製造装置10に含まれる太陽光発電パネル11の平面図である。図1の(b)においては、太陽光発電パネル11の受光面111を平面視している。図1の(c)は、製造装置10に含まれるガイドレール13の断面矢視図である。図1の(d)は、製造装置10に含まれるガイドレール13の側面図である。図2は、製造装置10の一変形例が備えているガイドレール13及びターゲット設置回収ロボット17Aの側面図である。図2の(a)及び図2の(b)は、ターゲット設置回収ロボット17Aがターゲット211~213を充填する工程を示し、図2の(c)及び図2の(d)は、ターゲット設置回収ロボット17Aがターゲット211~213を回収する工程を示す。図3は、製造装置10において実施される製造方法のフローチャートである。
【0038】
製造装置10は、宇宙空間において放射線をターゲット21に照射することによって放射性同位体を製造する製造装置である。宇宙空間に存在する放射線は、宇宙線とも呼ばれる。宇宙線の例としては、陽子及びイオンのビームが挙げられる。
【0039】
本実施形態では、ターゲット21として3つのターゲット211,212,213を用いる。ただし、各ターゲット211,212,213を区別する必要がない場合には、単にターゲット21と称する。
【0040】
製造装置10は、宇宙空間のうち地表面からの高度がおよそ2000km以上5000km以下である軌道上において運用することを想定している。高度が2000km以上5000km以下の領域には、捕捉粒子線帯と呼ばれる陽子の強度が高いバンアレン帯が存在する。
【0041】
<製造装置の構成>
図1の(a)に示すように、製造装置10は、太陽光発電パネル11と、ソレノイドコイル12と、を備えている。また、図1の(b)に示すように、太陽光発電パネル11は、発電した電力を蓄える電池112を含む。また、ソレノイドコイル12は、駆動電流を供給する電源122を含んでいる。また、製造装置10は、図1の(c)及び(d)に示すように、ガイドレール13と、ホルダー14と、を備えている。また、製造装置10は、制御部Cを備えている。制御部Cは、後述する姿勢制御部を用いて、宇宙空間における製造装置10の姿勢を制御したり、太陽光発電パネル11が発電する電力量に応じて電池112の充電スケジュールを制御したり、電源122がソレノイドコイルに供給する駆動電流を制御したりする。また、製造装置10は、図示を省略しているものの姿勢制御部を備えている。姿勢制御部は、制御部Cが出力する制御信号にしたがって、製造装置10の姿勢を制御する。
【0042】
(太陽光発電パネル)
太陽光発電パネル11は、受光面111にて受けた太陽光を電力に変換する。太陽光発電パネル11は、太陽電池とも呼ばれる。太陽光発電パネル11は、宇宙空間での使用を想定して設計されていることが好ましい。長期間に亘って放射線に晒されるためである。太陽光発電パネル11は、既存の太陽光発電パネルの中から適宜選択することができる。
【0043】
本実施形態において、太陽光発電パネル11は、6枚のサブパネルにより構成されている(図1の(a)及び(b)参照)。太陽光発電パネル11は、全体を平面視した場合に、正六角形状且つソレノイドレンズを覆うような環状の形状を有する。ただし、太陽光発電パネル11の形状は、これに限定されない。
【0044】
本実施形態において、各サブパネルを平面視した場合の形状は、合同であり且つ等脚台形状である。各サブパネルの形状は、隣接するサブパネルの脚部同士を平行な状態で近接させることにより、太陽光発電パネル11の外縁及び内縁が何れも正六角形状になるように定められている。ただし、各サブパネルの形状は、これに限定されない。
【0045】
製造装置10は、制御部Cが出力する制御信号にしたがって、受光面111が太陽の方向を向くように、その姿勢を制御されている(図1の(a)参照)。本実施形態において、制御部Cは、受光面111の法線方向と、太陽光の伝搬方向とが平行になるように、製造装置10の姿勢を制御することが好ましい。このように製造装置10の姿勢を制御することにより、太陽光発電パネル11は、太陽が発する光(太陽光)を遮り、結果として、受光面111の背面側の空間に陰を形成する。すなわち、太陽光発電パネル11は、遮光部材の一例として機能する。
【0046】
本実施形態においては、太陽光発電パネル11の内縁を構成する正六角形状の対角線の長さは、後述するソレノイドコイル12の内径Riと等しく、太陽光発電パネル11の外縁を構成する正六角形状の対辺同士の間隔は、ソレノイドコイル12の外径Roと等しい。ただし、太陽から見た場合に、ソレノイドコイル12を太陽光発電パネル11によりできるだけ遮蔽するために、太陽光発電パネル11の内縁を構成する正六角形状の対角線の長さは、後述するソレノイドコイル12の内径Riよりも短いことが好ましく、且つ、太陽光発電パネル11の外縁を構成する正六角形状の対辺同士の間隔は、ソレノイドコイル12の外径Roよりも広いことが好ましい。
【0047】
なお、図1の(a)においては、太陽光の図示を省略している。図1の(a)に図示している3種類の矢印(実線、点線、及び破線)は、太陽光ではなく宇宙空間に存在する照射線を模式的に示している。3種類の放射線のうち、実線の矢印は相対的にエネルギーが高い放射線を模式的に示し、点線の矢印は相対的にエネルギーが中程度である放射線を模式的に示し、破線の矢印は相対的にエネルギーが低い放射線を模式的に示している。
【0048】
このように製造装置10の姿勢を制御することにより、太陽光発電パネル11の背面側に配置された太陽光発電パネル11に照射され得る太陽光を抑制することができるので、ソレノイドコイル12の温度を低く保つことができる。また、このように製造装置10の姿勢を制御することにより、太陽光発電パネル11における発電量を高めることができる。
【0049】
なお、宇宙空間に存在する照射線の伝搬方向は、太陽光の伝搬方向と平行なものだけではなく様々である。すなわち、本実施形態においては、伝搬方向が太陽光の伝搬方向と平行な放射線を集束させ、ターゲットに照射することを想定している。ただし、集束させてうえでターゲットに照射する放射線は、太陽光の伝搬方向と平行に伝搬する放射線に限定されない。
【0050】
また、太陽光発電パネル11のシステムには、電池112が含まれている。電池112は、太陽光発電パネル11が発電した電力を蓄電しつつ、必要に応じて後述する電源122に供給する。なお、本実施形態において、電池112は、後述するソレノイドコイル12と同様に、太陽光発電パネル11の背面側に設けられている。すなわち、ソレノイドコイル12は、日陰に設けられている。ただし、電池112を設ける位置は、その好ましい動作温度に応じて、日陰に設けられていてもよいし、日向に設けられていてもよい。また、ソレノイドコイル12が日陰に設けられる場合、ソレノイドコイル12の全体が日陰に設けられていてもよいし、ソレノイドコイル12の一部が日陰に設けられていてもよい。
【0051】
(ソレノイドコイル)
ソレノイドコイル12は、超伝導体製の線材により構成された超伝導コイルである。ソレノイドコイル12の形状は、その開口部121を平面視した場合に、外縁及び内縁が何れも円形状となるように構成された円環状である(図1の(a)及び(b)参照)。以下では、開口部121の内径を内径Riとする。
【0052】
ソレノイドコイル12は、その中心軸Acと、正六角形状である太陽光発電パネル11の中心軸とが一致するように、太陽光発電パネル11の背面側(すなわち、受光面111とは逆側)の空間に配置されている。
【0053】
以下においては、中心軸Acが延伸されている方向をx軸方向とする。また、x軸方向のうち、太陽光発電パネル11からソレノイドコイル12へ向かう方向をx軸正方向とする。なお、本実施形態において、x軸の原点は、ソレノイドコイル12の中心に取っている(図1の(a)には不図示)。
【0054】
ソレノイドコイル12は、円形状のコイルである。そのため、ソレノイドコイル12が発生する磁場は、中心軸Acを対称軸として、回転対称な形状となる。その結果、開口部121に対して中心軸Acと平行に入射する放射線は、そのエネルギーに応じて、磁場により中心軸Acの上に位置するいずれかの点に集束される。ここで、エネルギーが低い放射線は、太陽光発電パネル11に近い位置xに集束し、エネルギーが高い放射線は、太陽光発電パネル11から遠い位置xに集束する。したがって、製造装置10においては、後述するターゲット21を配置する位置xを選択することにより、ターゲット21に照射する放射線のエネルギーを選択することができる。
【0055】
本実施形態においては、異なる3つのエネルギーを有する各放射線をターゲット21に照射するために、位置x1に位置する焦点P1、位置x2に位置する焦点P2、及び、位置x3に位置する焦点P3の各々に、それぞれ、ターゲット21を配置する(図1の(a)及び(d)参照)。すなわち、位置x1,x2,x3の各々は、それぞれ、焦点P1,P2,P3の焦点距離に対応する。
【0056】
また、ソレノイドコイル12のシステムには、線材に駆動電流を供給する電源122が含まれている。本実施形態において、ソレノイドコイル12は、太陽光発電パネル11の背面側に設けられている。この構成によれば、ソレノイドコイル12の温度を低く保つことができるので、ソレノイドコイル12が所望の磁場を発生させるために消費する電力(すなわち消費電力)を抑制することができる。本実施形態においては、この消費電力をできるだけ抑制するために、上述したようにソレノイドコイル12として超伝導コイルを採用している。ただし、ソレノイドコイル12は、超伝導コイルに限定されず、常伝導コイルであってもよい。
【0057】
なお、ソレノイドコイル12を構成する超伝導体は、既存の超伝導体の中から適宜選択することができる。ソレノイドコイル12を構成する超伝導体は、相対的に臨界温度が低い金属系の超伝導体であってもよいし、相対的に臨界温度が高い銅酸化物系の超伝導体であってもよい。銅酸化物系の超伝導体は、高温超伝導体とも呼ばれる。金属系の超伝導体の例としては、NbSnやMgBなどが挙げられる。銅酸化物系の超伝導体としては、BiSrCaCuOやYBaCu7-δなどが挙げられる。太陽光発電パネル11の背面側に形成される陰に含まれる領域の典型的な温度は、-150℃から-170℃程度である。そのため、ソレノイドコイル12が太陽光発電パネル11の背面側に設けられていることによって、ソレノイドコイル12が太陽光に晒される場合と比較して、ソレノイドコイル12の温度を超伝導臨界温度以下に冷却するために要する電力を低減することができる。
【0058】
ソレノイドコイル12は、製造する放射性同位体に応じて所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線を焦点に集束させる磁場を発生することができるように、その内径Riと、線材の巻数と、が設計されている。また、制御部Cは、上述した所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線を焦点に集束させる磁場を発生するように電源122を制御する。電源122が適切な駆動電流をソレノイドコイル12に供給することにより、ソレノイドコイル12は、製造する放射性同位体に応じて所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線を焦点に集束させることができる。製造装置10を用いて製造する放射性同位体の例としては、Ge-68、I-125、及びMo-99が挙げられる。
【0059】
Ge-68を製造する場合、所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線は、13MeV以上60MeV以下のエネルギーを有する水素イオン(陽子)の放射線である。水素イオンの放射線は、陽子線とも呼ばれる。また、陽子のエネルギーは、13MeV以上30MeV以下であることが好ましい。
【0060】
また、I-125を製造する場合、所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線は、5MeV以上60MeV以下のエネルギーを有する陽子の放射線である。また、陽子のエネルギーは、5MeV以上10MeV以下であることが好ましい。
【0061】
また、Mo-99を製造する場合、所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線は、5MeV以上のエネルギーを有する陽子の放射線である。また、陽子のエネルギーは、5MeV以上16MeV以下であることが好ましい。
【0062】
以下の表1に、上述した3つの放射性同位体の各々を製造する場合について、好ましいエネルギーの範囲と、核反応と、製造する放射性同位体の半減期をまとめて示す。また、表1には、各放射性同位体を製造する場合に用いるターゲットを構成する元素を併せて示している。
【0063】
【表1】
なお、エネルギーが高すぎると核破砕反応等が生じて意図しない同位体が製造される場合がある。荷電粒子の放射線のエネルギーが表1に記載のエネルギーの上限値以下であることによって、意図しない同位体が製造されることを防ぐことができる。
【0064】
本実施形態において、内径Riは、20mである。なお、内径Riは、適宜定めることができる。なお、地上でソレノイドコイル12を組み立てておき、組立済のソレノイドコイル12をロケットで宇宙空間まで運搬する場合、ソレノイドコイル12のサイズ(例えば外径Ro及び内径Ri)は、ロケットのフェアリングに収容可能な大きさに限定される。すなわち、ソレノイドコイル12のサイズは、フェアリングのサイズの制約を受ける。一方、ソレノイドコイル12の各部品を宇宙空間まで運搬したうえで、宇宙空間においてソレノイドコイル12を組み立てる場合、ソレノイドコイル12のサイズは、フェアリングサイズの制約を受けない。
【0065】
製造装置10においては、ソレノイドコイルの内径Riが大きければ大きいほど、多くの放射線を集束させることができるので、放射線のフルエンス率を高めることができる。したがって、製造装置10は、放射性同位体を製造する場合における効率を高めることができる。
【0066】
例えば、本製造装置を地表面からの高度がおよそ2000km以上5000km以下の軌道上に打ち上げ、放射性同位体を製造する場合、ソレノイドコイルを用いて放射線を集束することにより、放射線の強度を高める必要がある。例えば、ソレノイドコイルの内径Riを8mとし、ソレノイドコイルに4×10A・turnの駆動電流を流すことにより、半径0.2mの円板のターゲットに集束させる陽子の量を15から20倍程度高めることができる。なお、この場合における陽子のエネルギーは、例えば50MeVである。
【0067】
また、太陽からの放射線(陽子)が最も得られる高度が2000km以上5000km以下の領域であるバンアレン帯に製造装置10を設置した場合、ターゲットに集束させる陽子の量を、国際宇宙ステーション軌道に比べて4桁以上高めることができる。
【0068】
なお、上述したように、製造装置10においては、製造する放射性同位体に応じて所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線を集束させつつターゲットに照射する。この放射線のエネルギー帯域は、宇宙線を遮蔽するための技術や、宇宙物理学などにおいて取り扱われる加速した宇宙線における放射線のエネルギー領域(典型的には、GeVのオーダー)よりも大幅に低い。
【0069】
例えば、バンアレン帯に製造装置10を設置し、ソレノイドコイルの内径Riを4mとし、ソレノイドコイル12の中心から11mの位置に半径0.2mの円板のターゲットを設置し、エネルギーが50MeVの陽子をターゲットに集束させるとする。この場合、ソレノイドコイル12の中心において0.6T程度の磁場を発生させるように、駆動電流を定めればよい。
【0070】
なお、宇宙物理学の分野において、宇宙反物質の新しい現象に起因する宇宙線を測定するために、ソレノイドコイルを用いて宇宙線を検出器部に集束する場合がある。この場合、ソレノイドコイルを用いて集束される宇宙線のエネルギーは、1GeV以上である。このように製造装置10で用いる宇宙線よりも高エネルギーな宇宙線を集束するため、この分野で用いられるソレノイドコイルは、ソレノイドコイル12よりも内径が小さく、長さが長い傾向がある。
【0071】
(ガイドレール)
ガイドレール13は、ソレノイドコイル12の中心軸Acに沿って延伸された、金属製の柱状部材である。本実施形態では、図1の(d)に示すように、ガイドレール13として2本の柱状部材を平行に配置している。ただし、ガイドレール13の本数は、2本に限定されるものではなく、適宜定めることができる。
【0072】
図1の(c)に示すように、ガイドレール13の断面形状は、アルファベットの「C」字状である。別の言い方をすれば、ガイドレール13は、中空な四角柱をベースにして、その四角柱を構成する4つの側面のうち1つの側面に、四角柱が延伸されている軸方向と平行な切り込みを形成することによって得られる。
【0073】
ガイドレール13の中空部分には、後述するホルダー14の嵌合部14bが、軸受け14dを介して嵌合する。
【0074】
(ホルダー)
ホルダー14は、保持部14aと、嵌合部14bと、連結部14cと、軸受け14dと、を備えている(図1の(c)参照)。
【0075】
保持部14aは、金属製の板状部材である。本実施形態において、保持部14aの形状は、主面を平面視した場合に、円形である。ただし、保持部14aの形状は、これに限定されず適宜定めることができる。保持部14aの直径は、後述するターゲット21の直径に応じて適宜定めることができる。
【0076】
保持部14aの一方の主面には、ターゲット21を固定することができる。図1の(c)及び(d)においては、ターゲット21が固定された状態のホルダー14を図示している。また、本実施形態では、後述するガイドレール13に3つのホルダー14を固定することができるように、製造装置10は構成されている。したがって、3つのホルダー14及びターゲット21の各々の末尾に1~3の番号を付すことによって、必要に応じてホルダー14及びターゲット21の各々を区別する。具体的には、図1の(d)に示すように、位置x1に位置するホルダー14及びターゲット21をホルダー141及びターゲット211とし、位置x2に位置するホルダー14及びターゲット21をホルダー142及びターゲット212とし、位置x3に位置するホルダー14及びターゲット21をホルダー143及びターゲット213とする。ただし、ホルダー14及びターゲット21の数は、3つに限定されるものではなく、1個であってもよいし、任意の複数であってもよい。
【0077】
嵌合部14bは、後述するガイドレール13に嵌合しつつ、ガイドレール13に沿って往復運動するように構成されている。本実施形態において、嵌合部14bは、金属製のブロックである。本実施形態において、嵌合部14bは、直方体状であり、且つ、嵌合部14bのサイズは、後述するガイドレール13の内部に、後述する軸受け14dとともに収容可能なように設計されている。嵌合部14bは、保持部14aと同様に金属製の板状部材である連結部14cを介して、保持部14aの外縁から外側へ向かって突出するように、保持部14aに対して固定されている。換言すれば、保持部14aは、連結部14cを介して嵌合部14bに固定されている。
【0078】
本実施形態においては、保持部14a、嵌合部14b、及び連結部14cは、同じ金属を用いて一体成型されている。ただし、保持部14a、嵌合部14b、及び連結部14cは、各部材が別個に構成されており、各部材を結合することにより一体化されていてもよい。
【0079】
なお、本実施形態においては、上述したようにガイドレール13を2本設けている。そのため、嵌合部14b及び連結部14cは、ガイドレール13の本数に対応して、保持部14aの外縁の2箇所に設けられている。図1の(c)においては、それら2箇所に設けられた嵌合部14b及び連結部14cのうち一方のみを図示している。なお、嵌合部14b及び連結部14cは、回転対称性を有する位置に設けられていることが好ましい。すなわち、ガイドレール13の本数が2本である場合、嵌合部14b及び連結部14cは、保持部14aの外縁に180度ごとに設けられることが好ましいし、ガイドレール13の本数が3本である場合、嵌合部14b及び連結部14cは、保持部14aの外縁に120度ごとに設けられることが好ましい。
【0080】
軸受け14dは、ガイドレール13に嵌合した状態の嵌合部14bが、ガイドレール13に沿ってスムースに往復運動できるように、嵌合部14bとガイドレール13との間に生じ得る摩擦抵抗を低減するための構成である。本実施形態では、軸受け14dとして、6個のボールベアリングを採用している。ただし、軸受け14dは、ボールベアリングに限定されるものではなく、既存のベアリングのなかから適宜選択することができる。また、本実施形態において、軸受け14dは、図示を省略しているリテーナーを介して嵌合部14bに固定されている。ただし、軸受け14dは、ガイドレール13の中空部分にリテーナーを介して固定されていてもよい。この場合、ガイドレール13の内壁にリテーナーを介して、複数の軸受け14dを固定しておけばよい。
【0081】
嵌合部14bとガイドレール13との間に軸受け14dが介在することによって、嵌合部14bは、ガイドレール13に沿って滑らかに往復運動することができる。
【0082】
なお、図1の(c)に示すように、嵌合部14bがガイドレール13の中空部に嵌合しているため、ガイドレール13の端部においてのみ、ホルダー14をガイドレール13に嵌合させることができるし、ホルダー14をガイドレール13から取り外すことができる。本実施形態においては、ガイドレール13の両端部のうちソレノイドコイル12から遠い側(xが大きい側)の端部に、後述する装填回収部18を設けている(図1の(d)参照)。装填回収部18は、ガイドレール13の端部において、ガイドレール13にターゲット21を保持したホルダー14を装填するとともに、ガイドレール13からターゲット21を保持したホルダー14を回収する。
【0083】
放射線を照射された後にガイドレール13から回収されたターゲット21は、製造された放射性同位体を含む。したがって、ターゲット21から発せられる放射線が漏洩しないように、装填回収部18において、ターゲット21は、金属製の遮蔽容器19に収納されていることが好ましい。
【0084】
装填回収部18の内部においては、放射線を照射される前の新しいターゲット21を含むホルダー14が遮蔽容器19から取り出され、ガイドレール13に装填される。また、装填回収部18の内部においては、放射線を照射された後のターゲット21、すなわち放射性同位体を含むターゲット21がガイドレール13から回収され、遮蔽容器19に戻される。
【0085】
ガイドレール13にホルダー14を装填する場合、ホルダー14の嵌合部14bをガイドレール13の中空部に嵌合させたうえで、ホルダー14に対してx軸負方向へ向かう力を作用させる。これにより、ホルダー14は、ガイドレール13に沿って、x軸負方向へ向かって並進運動する。
【0086】
(ストッパー及び推進力印加部)
ストッパー161,162,163の各々は、ガイドレール13における嵌合部14b(延いてはガイドレール13におけるホルダー14)の位置をロック又はリリースする。換言すれば、ホルダー141,142,143の各々は、それぞれ、ストッパー161,162,163の各々により、焦点P1,P2,P3の各位置に、ガイドレール13に対して固定される。
【0087】
図1の(d)に示すように、ストッパー161は、ターゲット211の表面が位置x1に位置するように設けられている。同様に、ストッパー162は、ターゲット212の表面が位置x2に位置するように設けられており、ストッパー163は、ターゲット213の表面が位置x3に位置するように設けられている。ストッパー161,162,163の各々は、設けられている位置がことなるものの、構成は同一である。そこで、以下においては、特に区別する必要が無い場合には、ストッパー161,162,163のことを単にストッパー16と称する。
【0088】
ストッパー16は、2つの突出部16a,16bを備えている。突出部16a,16bの各々は、ガイドレール13の延伸方向に対して直交する方向に往復運動可能なように構成されている。その結果、突出部16a,16bの各々は、ガイドレール13に収容された状態(以下においてリリース状態)と、ガイドレール13から突出した状態(以下においてロック状態)と、を取り得る。なお、ロック状態において、突出部16a,16bの各々は、ガイドレール13から中心軸Acに向かって突出するように構成されている。
【0089】
リリース状態においては、突出部16a,16bの各々がガイドレール13に収容されているため、突出部16a,16bの各々は、x軸正方向(装填時)又はx軸負方向(回収時)に向かって移動するホルダー14及びターゲット21の動きを妨げない。一方、ロック状態においては、突出部16a,16bの各々がガイドレール13から突出しているため、突出部16a,16bの各々は、ホルダー14及びターゲット21の動きを妨げる。
【0090】
例えば、ホルダー141をガイドレール13に装填する場合、ストッパー161の突出部16aのみをガイドレール13から突出させ、ストッパー161の突出部16b、ストッパー162、及びストッパー163をガイドレール13に収容しておく。その状態で装填回収部18からガイドレール13に装填されたホルダー14は、ガイドレール13のx軸正方向側の端部からx軸負方向に向かって移動し、ストッパー161の突出部16aに引っかかり、その移動を止められる。その状態でストッパー161の突出部16bを突出させることにより、ホルダー141に保持されたターゲット211は、焦点P1に固定される。
【0091】
一方、ホルダー141をガイドレール13から回収する場合、ガイドレール13から突出しているストッパー161の突出部16a,16bのうち突出部16bをガイドレール13に収容する。その状態で、推進力印加部17をホルダー141に保持されたターゲット211に作用させることにより、ホルダー141は、焦点P1からx軸正方向へ向かって移動する。宇宙空間においては、重力がないため、嵌合部14bとガイドレール13との間に生じ得る摩擦力は、とても小さい。そのため、ターゲット211を保持するホルダー141は、容易に装填回収部18に到達し、回収される。
【0092】
ここでは、位置x1に対応するように設けられたストッパー161を例にしている。ただし、ストッパー162,163もストッパー161と同様に構成されていればよい。
【0093】
なお、推進力印加部17(図1の(d)においては、位置x1に対応する推進力印加部171、位置x2に対応する推進力印加部172、及び、位置x3に対応する推進力印加部173)は、ホルダー14及びターゲット21の少なくとも何れかにx軸負方向へ向かう推進力を印加可能であればどのように構成されていてもよい。図1の(d)においては、手元の端部をガイドレール13に固定したハンマーを用いて推進力印加部17を構成している。ただし、推進力印加部17は、これに限定されず、ターゲット21を保持したホルダー14をx軸正方向に向かって移動させることができる構成であればよい。
【0094】
また、図1の(d)においては図示を省略しているが、ガイドレール13の両端部のうち装填回収部18側の端部には、推進力印加部17と同様の構成であって、ターゲット21を保持したホルダー14をx軸負方向に向かって移動させる推進力印加部を設けておけばよい。
【0095】
また、製造装置10の一変形例では、上述した推進力印加部17の代わりに、自走式のターゲット設置回収ロボット17Aを採用することもできる(図2参照)。なお、図2においては、x軸方向における位置x1,x2,x3の図示を省略している。ただし、本変形例における位置x1,x2,x3は、図1の(d)に図示する位置x1,x2,x3と同じ位置である。
【0096】
ターゲット設置回収ロボット17Aは、ガイドレール13を構成する2本の柱状部材の間を、中心軸Acに沿って、自走可能なように構成されている。ターゲット設置回収ロボット17Aが中心軸Acに沿って自走するための構成は、限定されない。ターゲット設置回収ロボット17Aは、ターゲット211~213を筒状の本体に固定したり開放したりすることができる。本変形例において、ターゲット設置回収ロボット17Aは、本体内に電磁石を備えており、ホルダー141~143の各々が磁性体(例えば鉄)により構成されている。この構成によれば、ターゲット設置回収ロボット17Aの電磁石がオンの場合、ホルダー141~143の各々は、本体に固定され、電磁石がオフの場合、ホルダー141~143の各々は、本体から開放される。
【0097】
ターゲット211~213の各々を、それぞれ、ガイドレール13の位置x1~x3に充填する場合、ターゲット設置回収ロボット17Aは、ターゲット211~213を本体に固定した状態(電磁石がオンの状態)で、x軸負方向へ向かって自走する(図2の(a)参照)。なお、ストッパー161~163の各々の突出部16a,16bは、ストッパー161の突出部16aのみがガイドレール13から突出し、他の突出部は、ガイドレール13に収容されている。
【0098】
ターゲット設置回収ロボット17Aがx軸負方向へ自走していき、ターゲット211が位置x1に至ると、ストッパー161の突出部16bがガイドレール13から突出し、ストッパー161の突出部16aとともにホルダー141を挟み込む。その後、ターゲット設置回収ロボット17Aは、x軸正方向へ向かって自走する。この時、ターゲット設置回収ロボット17Aの電磁石はオンのままであるが、ホルダー141は、ストッパー161の突出部16a,16bに挟み込まれている。そのため、ホルダー141及びターゲット211は、位置x1に残置される。一方、ホルダー142,143は、ターゲット設置回収ロボット17Aの本体に固定されたまま、x軸正方向に向かって移動する。
【0099】
ターゲット212が位置x2に至ると、ストッパー162の突出部16a,16bがガイドレール13から突出する。ストッパー162の突出部16a,16bは、ホルダー142を挟み込む(図2の(b)参照)。その後、ターゲット設置回収ロボット17Aは、x軸正方向へ向かって自走する。この時、ターゲット設置回収ロボット17Aの電磁石はオンのままであるが、ホルダー142は、ストッパー162の突出部16a,16bに挟み込まれている。そのため、ホルダー142及びターゲット212は、位置x2に残置される。一方、ホルダー143は、ターゲット設置回収ロボット17Aの本体に固定されたまま、x軸正方向に向かって移動する。
【0100】
ターゲット213が位置x3に至ると、同様に、ストッパー163の突出部16a,16bがガイドレール13から突出し、ホルダー143を挟み込む。その後、ターゲット設置回収ロボット17Aは、電磁石をオフにし、x軸正方向へ向かって自走する。以上の工程により、ターゲット211~213の各々は、ガイドレール13に充填される。
【0101】
ターゲット211~213の各々を、それぞれ、ガイドレール13の位置x1~x3から回収する場合、ターゲット設置回収ロボット17Aは、電磁石をオン状態にしたうえで、x軸負方向へ向かって自走する。ターゲット設置回収ロボット17Aが位置x3に至ると、ストッパー163の突出部16a,16bをガイドレール13に収容する。これにより、ターゲット213は、ホルダーを介してターゲット設置回収ロボット17Aの本体に固定され、ターゲット設置回収ロボット17Aとともに移動可能な状態になる。
【0102】
ターゲット設置回収ロボット17Aは、ターゲット213とともにx軸負方向へ向かって自走する。ターゲット設置回収ロボット17Aが位置x2に至ると、ストッパー162の突出部16a,16bをガイドレール13に収容する(図2の(c)参照)。これにより、ターゲット212は、ホルダーを介してターゲット設置回収ロボット17Aの本体に固定され、ターゲット設置回収ロボット17Aとともに移動可能な状態になる。
【0103】
ターゲット設置回収ロボット17Aは、ターゲット212,213とともにx軸負方向へ向かって自走する。ターゲット設置回収ロボット17Aが位置x1に至ると、ストッパー161の突出部16bをガイドレール13に収容する。これにより、ターゲット211は、ホルダーを介してターゲット設置回収ロボット17Aの本体に固定され、ターゲット設置回収ロボット17Aとともに移動可能な状態になる。
【0104】
その後、ターゲット設置回収ロボット17Aは、ターゲット211~213を本体に固定したまま、x軸正方向へ向かって自走する(図2の(d)参照)。以上の工程により、ターゲット211~213の各々は、ガイドレール13から回収される。
【0105】
(ターゲット)
ターゲット21は、金属製の板状部材である。本実施形態において、ターゲット21の形状は、その主面を平面視した場合に、円形状である。なお、図1の(c)においては、ターゲット21の一部が拡大して図示されているため、ターゲット21の外縁を構成する弧の一部のみが図示されている。また、ターゲット21は、ホルダー14の保持部14aにより保持されている。
【0106】
ターゲット21は、所定のエネルギーを有する放射線を照射されることにより所定の放射性同位体を生成する元素により構成されている。ターゲット21を構成する元素の例としては、Ga-69、Te-125、及びMo-100が挙げられる。Ga-69に対して陽子線を照射することによりGe-68を製造することができる。また、Te-125に対して陽子線を照射することによりI-125を製造することができる。また、Mo-100に対して陽子線を照射することによりMo-99を製造することができる。
【0107】
このように、製造装置10においては、ターゲット21を構成する元素と、ターゲット21に照射する放射線とを適宜選択することにより、様々な種類の放射性同位体を製造することができる。
【0108】
製造装置10においては、上述したように、ガイドレール13の異なる位置xである位置x1,x2,x3の各々に、ターゲット21を保持しているホルダー14を固定することができる。したがって、製造装置10においては、3組のターゲット21及びホルダー14に対して同時に放射線を照射することによって放射性同位体を製造することができる。
【0109】
なお、製造装置10においては、図1の(d)に示すように、複数のターゲット211~213のうち少なくとも1つのターゲット(本実施形態ではターゲット212,213)の前段に設けられた遮蔽材(本実施形態では遮蔽材152,153)を更に備えている。大きなエネルギーを有する放射線が集束される焦点に位置するターゲットの前段にこのような遮蔽材を設けることによって、ターゲットに集束される放射線のエネルギーを、放射性同位体を製造するために適切なエネルギーまで低下させることができる。
【0110】
本実施形態において、遮蔽材152,153は、金属や樹脂などにより構成された板状部材である。遮蔽材152,153を構成する金属や樹脂などは、放射線のエネルギーを所定のエネルギーに近づけるように吸収する材料であればよい。遮蔽材152,153を構成する金属の一例としては、アルミニウムが挙げられる。また、遮蔽材152,153を構成する樹脂の一例としては、アクリル樹脂(例えばPoly Methyl Methacrylate, PMMA)が挙げられる。
【0111】
(ターゲット及び放射性同位体の運搬)
放射線を照射される前の新しいターゲット21を含むホルダー14を、地球上から製造装置10まで運搬する手段は、特に限定されないが、例えば、宇宙船を利用することができる。宇宙船を利用する場合、大量のターゲット21をまとめて製造装置10に運搬しておくことが好ましい。
【0112】
また、放射線を照射された後のターゲット21、すなわち放射性同位体を含むターゲット21を製造装置10から地球上へ運搬する方法としては、ターゲット21を回収用のポッドに収容し、そのポッドを地球上へ投下する方法が考えられる。ポッドを用いて地球上へ投下することにより、頻繁に放射性同位体を地球上へ運搬することができるので、半減期が短い放射性同位体であっても効率良く製造することができる。なお、ポッドを用いたこの方法については、第2の実施形態において説明する。
【0113】
なお、ターゲット21を運搬する場合には、新しいターゲット21であるか放射性同位体を含むターゲット21であるかに関わらず、装填回収部18に収容しておくことが好ましい。
【0114】
(変形例)
図1に示した製造装置10においては、ソレノイドコイル12の一方の側(図1に示した状態では右側)にのみガイドレール13及び装填回収部18を設けている。この構成では、x軸正方向へ向かって伝搬する放射線のみを集束しターゲット21に照射することができる。
【0115】
ただし、製造装置10の一変形例においては、ソレノイドコイル12の両側(図1に示した状態では右側及び左側)にガイドレール13及び装填回収部18を設けることもできる。この構成によれば、x軸正方向へ向かって伝搬する放射線に加えてx軸負方向へ向かって伝搬する放射線も放射性同位体の製造に用いることができる。
【0116】
(製造方法)
本実施形態では、製造装置10について説明したが、図3に示すように、宇宙空間において放射線をターゲットに照射することによって放射性同位体を製造する製造方法M10も本発明の範疇に含まれる。製造方法M10は、製造装置10において実施される製造方法である。
【0117】
図3に示すように、製造方法M10は、集束工程S11と、照射工程S12と、を含む。集束工程S11は、製造する放射性同位体に応じて所定のエネルギーを有する荷電粒子の放射線を、そのエネルギーに応じて、焦点P1,P2,P3に集束させる工程である。集束工程S11は、ソレノイドコイル12を用いて実施される。
【0118】
照射工程S12は、集束工程S11において集束された放射線を、各焦点P1,P2,P3においてターゲット21に照射する工程である。
【0119】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る製造システム1について、図4を参照して説明する。図4は、製造システム1に含まれる複数の製造装置10の各々が備えている各太陽光発電パネル11の平面図である。本実施形態において、製造システム1は、4つの製造装置10を備えている。ここでは、4つの製造装置10の各々を区別するために、それぞれの製造装置10を製造装置10A,10B,10C,10Dとする。ただし、製造システム1は、複数の製造装置10を備えていればよく、その数は、4つに限定されない。
【0120】
製造装置10A,10B,10C,10Dを構成する各部材については、第1の実施形態にて説明した製造装置10を構成する各部材と同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0121】
図4に示すように、製造装置10A,10B,10C,10Dの各々が備えているソレノイドコイル12の中心軸Acは、略平行(本実施形態においては平行)であることが好ましい。そのうえで、各ソレノイドコイル12の開口部121を平面視した場合に、隣接するソレノイドコイル12の開口部121同士は、何れも重なっていないことが好ましい。
【0122】
製造システム1の装填回収部18においては、遮蔽容器19が製造装置10A,10B,10C,10Dを順番に巡回する。装填回収部18は、新しいターゲット21を各製造装置10のガイドレール13に装填するとともに、放射性同位体を含むターゲット21を各製造装置10のガイドレール13から回収する。製造システム1においては、4つの製造装置10A,10B,10C,10Dを用いて、同時に沢山のターゲット21に放射線を照射することができるので、放射性同位体を製造する場合における効率を高めることができる。
【0123】
なお、製造システム1は、第1の実施形態に係る製造装置10と比較して、大量の放射性同位体(本実施形態では4倍の放射性同位体)を製造することができる。そのため、製造システム1においては、第1の実施形態に係る製造装置10と比較して、より多くの新しいターゲット21(放射線を照射する前のターゲット21)を製造システム1の装填回収部18にストックしておくことが好ましい。
【0124】
製造システム1において製造された放射性同位体は、回収用のポッド22に収容し、そのポッド22を地球上へ投下することが好ましい。ポッド22を用いて地球上へ投下することにより、頻繁に放射性同位体を地球上へ運搬することができるので、半減期が短い放射性同位体であっても効率良く製造することができる。
【0125】
なお、ポッド22が大気圏に突入したあと、地球上に着地あるいは着水するときには、図4に示すようにパラシュートを用いて衝撃を低減することが好ましい。また、ポッド22は、GPS信号を受信する受信部と、受信したGPS信号から自身の位置を表す位置情報を生成する位置情報生成部と、当該位置情報を送信する送信部とを備えていることが好ましい。この構成によれば、ポッド22から送信される位置情報を手がかりにして、ポッド22を見つけることができる。
【0126】
〔参考例〕
Ge-68/Ga-68ジェネレータを例として、宇宙空間で製造できると予想される放射性同位体の製造量を評価した。なお、以下では、宇宙空間ではなく日本原子力研究開発機構の放射線輸送コードPHITSを用いて評価した。そのため、ここでは、本評価結果を本発明の参考例と称する。なお、Ge-68/Ga-68ジェネレータの実験値は、IAEA-TECDOC-1211より引用した。
【0127】
自然組成のGa(69Gaが60.11%、71Gaが39.89%)に陽子線を照射したときに生成される68Geの生成量を評価した。陽子線を1C(1A・1s)照射したときに生成された68Geの生成量(MBq/C)と、陽子線のエネルギー(MeV)との関係を以下の図5に示す。
【0128】
図5は、放射線輸送コードPHITSによる68Geの生成量の計算例を示すグラフである。なお、国際宇宙ステーション軌道付近の陽子線(銀河宇宙線)のフラックスは、100MeVの陽子について約2×10-3/cm/s/MeVである。第1の実施形態に係る製造装置10を設置予定の捕捉粒子線帯の陽子(エネルギーは、およそ10MeV以上200MeV以下)のフラックスは、国際宇宙ステーション軌道付近の10倍から10倍であることが知られている。ここで、内径Riが20mのであるソレノイドコイル12を用いて、開口部121の領域に入射する陽子線(銀河宇宙線)集束させ、ターゲット21に照射する場合について計算した。
【0129】
ターゲット21に1年間照射することにより生成される放射性同位体の生成量を、図6に示す。図6は、国際宇宙ステーション軌道付近の陽子線をターゲット21に1年間照射することにより得られる生成量のエネルギー依存性を示すグラフである。本参考例では、陽子線のエネルギーを0MeV以上200MeV以下の範囲内において変化させた。なお、各陽子線のエネルギー毎のフラックスは、2×10-3/cm/s/MeVと仮定した。
【0130】
図6に示す結果より、50MeVごとに矩形近似した場合における放射性同位体の総生成量は、約4100Bqと評価できる。補足粒子線帯付近に設置した場合は、ソレノイドレンズによる放射線の集束効率が100%の場合、最大で10倍から10倍である41MBqから410MBq程度の放射性同位体を1年間に生成することができると見積もられる。
【0131】
また、ガイドレール13をソレノイドコイル12の両側に設けることによって、図1に示すx軸正方向側から伝搬してくる陽子線を利用することができれば、約80MBqから0.8GBqの放射性同位体を1年間に生成できる可能性がある。
【0132】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0133】
1 製造システム
10,10A,10B,10C,10D 製造装置
11 太陽光発電パネル
111 受光面
112 電池
12 ソレノイドコイル
121 開口部
122 電源
C 制御部
13 ガイドレール
14,141,142,143 ホルダー
14a 保持部
14b 嵌合部
14c 連結部
14d 軸受け
152,153 遮蔽材
16 ストッパー
17 推進力印加部
18 装填回収部
19 遮蔽容器
21,211,212,213 ターゲット
図1
図2
図3
図4
図5
図6