(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164357
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】水田メタン削減支援装置、水田メタン削減支援システム、情報処理装置、農業支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20120101AFI20231102BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071925
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022075401
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安達 知世
(72)【発明者】
【氏名】楠本 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】古城 美貴子
(72)【発明者】
【氏名】谷 直人
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】農業者による水田からのメタンの削減状況を評価して、利便性を向上させる。
【解決手段】水田メタン削減支援装置1は、水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶された記憶部1bと、当該モデルデータに基づいて水田のメタン排出量を算出する制御部1aと、を備え、制御部1aは、農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる農作業の実施状態に基づいて前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶された記憶部と、
前記モデルデータに基づいて水田のメタン排出量を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる前記農作業の実施状態に基づいて前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出する水田メタン削減支援装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記作業情報に含まれ且つ前記水田の水管理状態を示す水管理情報に基づいて、前記水田の前記メタン削減量を算出する請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記水田の湛水、灌水、及び落水を示す前記水管理情報に基づいて、前記水田における作物栽培中の中干状態を特定し、当該中干状態に基づいて前記水田の前記メタン削減量を算出する請求項2に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記水田の前記メタン削減量を示す評価情報を、前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知する請求項1~3のいずれかに記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と前記作業情報と前記モデルデータとに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、
前記水田の従来の前記水管理情報に基づいて、前記水田の基本中干状態を設定し、
前記算出式と前記基本中干状態とに基づいて、前記水田の前記基本メタン排出量を算出し、
前記算出式と前記基本中干状態と前記基本メタン排出量とを、前記水田情報と関連付けて前記記憶部に記憶させ、
前記水田の変更された前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定し、
前記水田の前記中干状態と前記算出式とに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出し、
前記水田の前記基本メタン排出量から前記メタン排出量を減算して、前記水田のメタン削減量を算出する請求項3に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と前記作業情報と前記モデルデータとに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、
前記水田の従来の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記基本中干状態を設定し、
前記算出式と前記基本中干状態とに基づいて、前記水田の前記基本メタン排出量を算出し、
前記算出式と前記基本中干状態と前記基本メタン排出量とを、前記水田情報と関連付けて前記記憶部に記憶させ、
シミュレーションで前記水田の前記基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記算出式と前記基本中干期間と前記基本メタン排出量とに基づいて前記メタン削減量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記メタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを前記記憶部に記憶させ、
前記水田の変更された前記水管理情報に基づいて、前記水田の中干期間を特定し、当該中干期間と前記第1相関データとに基づいて、前記水田のメタン削減量を算出する請求項3に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記水田の前記水田情報及び前記作業情報のうちの少なくともいずれかの変更に伴って、前記水田の前記算出式を更新する請求項5又は6に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項8】
外部装置と通信する通信部を備え、
前記制御部は、
複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、前記農業者が利用する農業者端末装置とのうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報と当該農業者情報に対応する水田の前記水田情報及び前記作業情報を前記通信部により取得し、
水田の前記水管理状態を検出する検出装置、前記農業管理装置、及び前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報に対応する水田の前記水管理情報を前記通信部により取得する請求項5又は6に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項9】
前記検出装置は、水田の水位を検出する水位センサの検出結果から、前記水田における作物栽培中の前記水管理状態を検出し、
前記制御部は、前記検出装置により検出された前記水田の前記水管理状態を示す前記水管理情報を周期的に又は所定のタイミングで取得して、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定する請求項8に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項10】
前記検出装置は、飛翔体又は飛行体に搭載された観測装置による水田の観測結果から、前記水田における作物栽培中の前記水管理状態を検出し、
前記制御部は、前記検出装置により検出された前記水田の前記水管理状態を示す前記水管理情報を周期的に又は所定のタイミングで取得して、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定する請求項8に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項11】
前記観測装置は合成開口レーダを有している請求項10に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項12】
前記制御部は、
前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と前記作業情報と前記モデルデータとに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、
前記水田の従来の前記水管理情報に基づいて、前記水田の基本中干状態を設定し、
前記算出式と前記基本中干状態とに基づいて、前記水田の前記基本メタン排出量を算出し、
シミュレーションで前記水田の前記基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記算出式と前記基本中干期間と前記基本メタン排出量とに基づいて前記メタン削減量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記メタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを前記記憶部に記憶させ、
前記第1相関データに基づいて、前記メタン削減量が所定値以上になる前記水田の推奨中干期間を判断し、
前記推奨中干期間を含む作業提案情報を、前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知する請求項3に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項13】
前記制御部は、
前記水田の前記基本中干期間と前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、前記水田の
前記作物の基本収量を推定し、
シミュレーションで前記水田の前記基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、前記水田の前記作物の収量を推定し、当該収量と前記基本収量とに基づいて前記作物の減収量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを前記記憶部に記憶させ、
前記第1相関データと前記第2相関データとに基づいて、前記メタン削減量が第1所定値以上で且つ前記作物の減収量が第2所定値以下になる前記水田の前記推奨中干期間を判断する請求項12に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項14】
外部装置と通信する通信部を備え、
前記制御部は、
前記水田の前記メタン削減量と前記水田に対応する前記農業者情報とを含む報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、
前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、
前記クレジット情報を前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知する請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項15】
外部装置と通信する通信部を備え、
前記制御部は、
複数の前記水田のメタン削減量を合算して、当該合算したメタン削減量を示す報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、
前記合算したメタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行されたクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、
前記クレジット情報で示される前記クレジットを複数の前記水田のメタンの削減量に応じて分配し、
分配した前記クレジットを示すクレジット情報を前記農業者情報に基づいて、複数の前記水田にそれぞれ対応する前記農業者に通知する請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記水田に関する水田情報、前記水田における従来の前記作業情報、前記水田からのメタンを削減するために変更された前記農作業を示す対象の前記作業情報、前記モデルデータに基づいて設定した前記水田の前記メタン排出量を算出する算出式、及び当該算出式に含まれる変数のうちの少なくともいずれかを、前記報告情報に含めて前記通信部により前記クレジット管理装置に送信する請求項14又は請求項15に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記水田のメタン削減量に応じた前記クレジットを見積もり、当該見積もったクレジットを示す仮クレジット情報を前記報告情報に含めて前記通信部により前記クレジット管理装置に送信し、又は前記仮クレジット情報を前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知する請求項14又は請求項15に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項18】
情報を入出力する入出力インタフェイスを備え、
前記制御部は、
前記農業者が所有する前記クレジットを売却したい旨を示す売却希望情報を、前記農業者が利用する農業者端末装置から前記通信部により受信すると、当該売却希望情報で示される前記クレジットの代価を所定の取引者に支払わせる指示を示す支払指示情報を前記入出力インタフェイスにより出力し、
前記取引者が前記代価を前記農業者に支払ったことを示す支払完了情報が、前記入出力
インタフェイスにより入力されると、前記クレジットの所有者を前記農業者から前記取引者に変更する請求項14又は15に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項19】
前記制御部は、
前記クレジットを買い取りたい旨を示す買取希望情報を、需要者が利用する需要者端末装置から前記通信部により受信すると、当該買取希望情報で示される前記クレジットの代価を前記需要者に支払わせる支払指令を、前記需要者端末装置に送信し、
前記需要者が前記代価を前記取引者に支払ったことを示す支払完了情報を、前記需要者端末装置から前記通信部により受信すると、前記クレジットの所有者を前記取引者から前記需要者に変更する請求項14又は15に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項20】
水田のメタン排出量の削減を支援する水田メタン削減支援装置と、
複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、を含み、
前記水田メタン削減支援装置は、
外部装置と通信する通信部と、
水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶された記憶部と、
前記モデルデータに基づいて水田のメタン排出量を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記農業管理装置と前記農業者が利用する農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる前記農作業の実施状態に基づいて前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出する水田メタン削減支援システム。
【請求項21】
前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、前記農業者情報に基づいて前記農業者端末装置に、前記水田の前記メタン削減量を示す評価情報を前記通信部により送信する請求項20に記載の水田メタン削減支援システム。
【請求項22】
水田の水管理状態を検出する検出装置を含み、
前記検出装置は、水田の水位を検出する水位センサの検出結果、又は飛翔体若しくは飛行体に搭載された観測装置による水田の観測結果に基づいて、前記水田の前記水管理状態を検出して、当該水管理状態を含む前記水管理情報を、前記農業管理装置と前記水田メタン削減支援装置のうちの少なくともいずれかに送信し、
前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、
前記農業管理装置と前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報と当該農業者情報に対応する前記水田の前記水田情報及び前記作業情報とを前記通信部により取得し、
前記検出装置と前記農業管理装置と前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記水田における作物栽培中の前記水管理情報を前記通信部により周期的に又は所定のタイミングで取得し、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定し、当該中干状態に基づいて前記水田の前記メタン削減量を算出する請求項20に記載の水田メタン削減支援システム。
【請求項23】
前記農業者端末装置は、前記農業者情報、前記作業情報、及び前記水田に関する水田情報のうちの少なくともいずれかを入力可能に構成されている請求項20に記載の水田メタン削減支援システム。
【請求項24】
前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、
前記水田の前記メタン削減量と前記水田に対応する前記農業者情報とを含む報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、
前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、
前記クレジット情報を前記通信部により前記農業者端末装置に送信する請求項20~23のいずれかに記載の水田メタン削減支援システム。
【請求項25】
水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報及び、検出装置により検出された前記水田の水管理状態を示す検出水管理情報を取得する取得部と、
前記作業情報から特定した前記水田の水管理状態を示す目標水管理情報と前記検出水管理情報との差異に基づいて、前記水田で水管理異常が発生したか否かを判断する制御部と、
前記水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を出力する出力部と、を備えた情報処理装置。
【請求項26】
前記検出水管理情報には、前記水田の水位を検出する水位センサの検出結果が含まれていて、
前記制御部は、
前記目標水管理情報から前記水田の目標水位を特定し、
前記水位センサの検出結果から前記水田の実水位を特定し、
前記実水位が前記目標水位より所定値以上高い場合に、前記水管理異常が発生したと判断する請求項25に記載の情報処理装置。
【請求項27】
前記検出水管理情報には、前記水田がある地域を観測する観測装置の観測結果が含まれていて、
前記制御部は、
前記目標水管理情報から前記水田の目標水管理状態を特定し、
前記観測装置の観測結果から前記水田の表面が水面であるか否かを特定し、
前記目標水管理状態が水田に水を張らない落水状態であるのに対して、前記観測装置の観測結果から前記水田の表面が水面であると特定した場合に、前記水管理異常が発生したと判断する請求項25に記載の情報処理装置。
【請求項28】
前記検出水管理情報には、少なくとも1つの前記水田がある地域を観測する観測装置の観測結果が含まれていて、
前記制御部は、
前記取得部により前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報から前記水田の位置を特定し、
前記目標水管理情報から表面が水面になる前記水田の目標水面面積を算出し、
前記観測装置の観測結果から前記水田及び前記水田の周辺にある土地の表面が水面であるか否かを判断して、表面が水面である前記水田及び前記土地の面積を合わせた実水面面積を算出し、
前記実水面面積が前記目標水面面積よりも所定値以上大きい場合に、前記水管理異常が発生したと判断する請求項25に記載の情報処理装置。
【請求項29】
前記制御部は、
前記水田に対応する農業者に関する農業者情報を前記取得部により取得し、
前記水管理異常が発生したと判断すると、前記農業者情報に基づいて前記農業者に前記水管理異常情報を前記出力部により通知する請求項25~28のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項30】
前記制御部は、
前記水田の周辺の土地の管理者を示す情報を含む土地管理情報を前記取得部により取得
し、
前記水管理異常が発生したと判断すると、前記土地管理情報に基づいて前記管理者に前記水管理異常情報を前記出力部により通知する請求項25~28のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項31】
水田の水管理状態を検出する検出装置と、
情報処理装置と、を含み、
前記情報処理装置は、
前記水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報及び、前記検出装置により検出された前記水田の水管理状態を示す検出水管理情報を取得する取得部と、
前記作業情報から特定した前記水田の水管理状態を示す目標水管理情報と前記検出水管理情報との差異に基づいて、前記水田で水管理異常が発生したか否かを判断する制御部と、
前記水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を出力する出力部と、を備えた農業支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田から排出されるメタンの削減を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の一因となっている温室効果ガスには、メタンが含まれている。メタンは、水稲などの作物を栽培する水田から排出されることが知られている。例えば非特許文献1~5に開示されているように、水田からのメタンの排出を削減するには、水田の水管理及び/又は有機物施用などの農作業を変更することが有効であるが、それにより作物の収量が減少するなどの弊害もある。また、非特許文献2~5には、稲作水田からのメタンの排出量を算出するモデル(DNDC-Riceモデル)と算出式などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】平成24年8月(独)農業環境技術研究所、「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル」(改訂版)、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL:https://www.naro.affrc.go.jp/ /archive/niaes/techdoc/methane_manual.pdf)
【非特許文献2】環境省ホームページ、温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告、3.C稲作、「3.C.1 灌漑田(Rice Cultivation - Irrigated Intermittently Flooded)(CH4)」、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL: https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/methodology/material/methodology_3C1.pdf)
【非特許文献3】Tamon Fumoto et.al、Global Change Biology (2008) 14, 382-402,「Revising a process-based biogeochemistry model (DNDC) to simulate methane emission from rice paddy fields under various residue management and fertilizer regimes」、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi:10.1111/j.1365-2486.2007.01475.x)
【非特許文献4】Nobuko Katayanagi et.al、Science of the Total Environment「Development of a method for estimating total CH4 emission from rice paddies in Japan using the DNDC-Rice model」、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL: http://dx.doi.org/10.1016/j.scitotenv.2015.12.149)
【非特許文献5】Hiroko Akiyama et.al、Atmos. Chem. Phys., 18, 10419-10431, 2018「Controlling variables and emission factors of methane from global rice fields」、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL:https://doi.org/10.5194/acp-18-10419-2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現状、農業者が水田からのメタンの排出量を削減するため、水田で実施する農作業を変更しても、メタンの削減状況を評価する方法がないので、農業者にとって利便性が低いのが実情である。このため、水田からのメタンを削減する取り組みが、農業者によって推進され難いおそれがある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑み、農業者による水田からのメタンの削減状況を評価して、利便性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る水田メタン削減支援装置は、水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶された記憶部と、前記モデルデータに基づいて水田のメタン排出量を算出する制御部と、を備え、前記制御部は、農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる前記農作業の実施状態に基づいて前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出する。
【0008】
本発明の一態様では、前記制御部は、前記作業情報に含まれ且つ前記水田の水管理状態を示す水管理情報に基づいて、前記水田の前記メタン削減量を算出してもよい。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田の湛水、灌水、及び落水を示す前記水管理情報に基づいて、前記水田における作物栽培中の中干状態を特定し、当該中干状態に基づいて前記水田の前記メタン削減量を算出してもよい。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田の前記メタン削減量を示す評価情報を、前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知してもよい。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と前記作業情報と前記モデルデータとに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、前記水田の従来の前記水管理情報に基づいて、前記水田の基本中干状態を設定し、前記算出式と前記基本中干状態とに基づいて、前記水田の前記基本メタン排出量を算出し、前記算出式と前記基本中干状態と前記基本メタン排出量とを、前記水田情報と関連付けて前記記憶部に記憶させ、前記水田の変更された前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定し、前記水田の前記中干状態と前記算出式とに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出し、前記水田の前記基本メタン排出量から前記メタン排出量を減算して、前記水田のメタン削減量を算出してもよい。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と前記作業情報と前記モデルデータとに基づいて、前記水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、前記水田の従来の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記基本中干状態を設定し、前記算出式と前記基本中干状態とに基づいて、前記水田の前記基本メタン排出量を算出し、前記算出式と前記基本中干状態と前記基本メタン排出量とを、前記水田情報と関連付けて前記記憶部に記憶させ、シミュレーションで前記水田の前記基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記算出式と前記基本中干期間と前記基本メタン排出量とに基づいて前記メタン削減量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記メタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを前記記憶部に記憶させ、前記水田の変更された前記水管理情報に基づいて、前記水田の中干期間を特定し、当該中干期間と前記第1相関データとに基づいて、前記水田のメタン削減量を算出してもよい。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田の前記水田情報及び前記作業情報のうちの少なくともいずれかの変更に伴って、前記水田の前記算出式を更新してもよい。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記水田メタン削減支援装置は、外部装置と通信する通信部を備え、前記制御部は、複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、前記農業者が利用する農業者端末装置とのうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報と当該農業者情報に対応する水田の前記水田情報及び前記作業情報を前記通信部により取得し、水田の前記水管理状態を検出する検出装置、前
記農業管理装置、及び前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報に対応する水田の前記水管理情報を前記通信部により取得してもよい。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記検出装置は、水田の水位を検出する水位センサの検出結果から、前記水田における作物栽培中の前記水管理状態を検出し、前記制御部は、前記検出装置により検出された前記水田の前記水管理状態を示す前記水管理情報を周期的に又は所定のタイミングで取得して、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定してもよい。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記検出装置は、飛翔体又は飛行体に搭載された観測装置による水田の観測結果から、前記水田における作物栽培中の前記水管理状態を検出し、前記制御部は、前記検出装置により検出された前記水田の前記水管理状態を示す前記水管理情報を周期的又は所定のタイミングでに取得して、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定してもよい。また、前記観測装置は合成開口レーダを有していてもよい。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、シミュレーションで前記水田の前記基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記算出式と前記基本中干期間と前記基本メタン排出量とに基づいて前記メタン削減量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記メタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを前記記憶部に記憶させ、前記第1相関データに基づいて、前記メタン削減量が所定値以上になる前記水田の推奨中干期間を判断し、前記推奨中干期間を含む作業提案情報を、前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知してもよい。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田の前記基本中干期間と前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、前記水田の前記作物の基本収量を推定し、シミュレーションで前記水田の前記基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と前記水田の前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、前記水田の前記作物の収量を推定し、当該収量と前記基本収量とに基づいて前記作物の減収量を算出して、前記水田の前記中干期間と前記作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを前記記憶部に記憶させ、前記第1相関データと前記第2相関データとに基づいて、前記メタン削減量が第1所定値以上で且つ前記作物の減収量が第2所定値以下になる前記水田の前記推奨中干期間を判断してもよい。
【0019】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田の前記メタン削減量と前記水田に対応する前記農業者情報とを含む報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、前記クレジット情報を前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知してもよい。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、複数の前記水田のメタン削減量を合算して、当該合算したメタン削減量を示す報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、前記合算したメタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行されたクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、前記クレジット情報で示される前記クレジットを複数の前記水田のメタンの削減量に応じて分配し、分配した前記クレジットを示すクレジット情報を前記農業者情報に基づいて、複数の前記水田にそれぞれ対応する前記農業者に通知してもよい。
【0021】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田に関する水田情報、前記水田にお
ける従来の前記作業情報、前記水田からのメタンを削減するために変更された前記農作業を示す対象の前記作業情報、前記モデルデータに基づいて設定した前記水田の前記メタン排出量を算出する算出式、及び当該算出式に含まれる変数のうちの少なくともいずれかを、前記報告情報に含めて前記通信部により前記クレジット管理装置に送信してもよい。
【0022】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田のメタン削減量に応じた前記クレジットを見積もり、当該見積もったクレジットを示す仮クレジット情報を前記報告情報に含めて前記通信部により前記クレジット管理装置に送信し、又は前記仮クレジット情報を前記農業者情報に基づいて前記農業者に通知してもよい。
【0023】
また、本発明の一態様では、前記水田メタン削減支援装置は、情報を入出力する入出力インタフェイスを備え、前記制御部は、前記農業者が所有する前記クレジットを売却したい旨を示す売却希望情報を、前記農業者が利用する農業者端末装置から前記通信部により受信すると、当該売却希望情報で示される前記クレジットの代価を所定の取引者に支払わせる指示を示す支払指示情報を前記入出力インタフェイスにより出力し、前記取引者が前記代価を前記農業者に支払ったことを示す支払完了情報が、前記入出力インタフェイスにより入力されると、前記クレジットの所有者を前記農業者から前記取引者に変更してもよい。
【0024】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記クレジットを買い取りたい旨を示す買取希望情報を、需要者が利用する需要者端末装置から前記通信部により受信すると、当該買取希望情報で示される前記クレジットの代価を前記需要者に支払わせる支払指令を、前記需要者端末装置に送信し、前記需要者が前記代価を前記取引者に支払ったことを示す支払完了情報を、前記需要者端末装置から前記通信部により受信すると、前記クレジットの所有者を前記取引者から前記需要者に変更してもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る水田メタン削減支援システムは、前記水田メタン削減支援装置と、複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、を含み、前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、前記農業管理装置と前記農業者が利用する農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる前記農作業の実施状態に基づいて前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出してもよい。
【0026】
本発明の一態様では、前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、前記農業者情報に基づいて前記農業者端末装置に、前記水田の前記メタン削減量を示す評価情報を前記通信部により送信してもよい。
【0027】
また、本発明の一態様では、前記水田メタン削減支援システムは、水田の水管理状態を検出する検出装置を含み、前記検出装置は、水田の水位を検出する水位センサの検出結果、又は飛翔体若しくは飛行体に搭載された観測装置による水田の観測結果に基づいて、前記水田の前記水管理状態を検出して、当該水管理状態を含む前記水管理情報を、前記農業管理装置と前記水田メタン削減支援装置のうちの少なくともいずれかに送信し、前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、前記農業管理装置と前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記農業者情報と当該農業者情報に対応する前記水田の前記水田情報及び前記作業情報とを前記通信部により取得し、前記検出装置と前記農業管理装置と前記農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記水田における作物栽培中の前記水管理情報を前記通信部により周期的に又は所定のタイミングで取得し、当該取得した複数の前記水管理情報に基づいて、前記水田の前記中干状態を特定し、当該中干状態に基づいて前記水田の前記メタン削減量を算出する。
【0028】
また、本発明の一態様では、前記農業者端末装置は、前記農業者情報、前記作業情報、及び前記水田に関する水田情報のうちの少なくともいずれかを入力可能に構成されてもよい。
【0029】
また、本発明の一態様では、前記水田メタン削減支援装置の前記制御部は、前記水田の前記メタン削減量と前記水田に対応する前記農業者情報とを含む報告情報を、前記通信部によりクレジット管理装置に送信し、前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信部により取得し、前記クレジット情報を前記通信部により前記農業者端末装置に送信してもよい。
【0030】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報及び、検出装置により検出された前記水田の水管理状態を示す検出水管理情報を取得する取得部と、前記作業情報から特定した前記水田の水管理状態を示す目標水管理情報と前記検出水管理情報との差異に基づいて、前記水田で水管理異常が発生したか否かを判断する制御部と、前記水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を出力する出力部と、を備える。
本発明の一態様に係る農業支援システムは、水田の水管理状態を検出する検出装置と、前記情報処理装置と、を含んでいる。
【0031】
本発明の一態様では、前記検出水管理情報には、前記水田の水位を検出する水位センサの検出結果が含まれていて、前記制御部は、前記目標水管理情報から前記水田の目標水位を特定し、前記水位センサの検出結果から前記水田の実水位を特定し、前記実水位が前記目標水位より所定値以上高い場合に、前記水管理異常が発生したと判断してもよい。
【0032】
また、本発明の一態様では、前記検出水管理情報には、前記水田がある地域を観測する観測装置の観測結果が含まれていて、前記制御部は、前記目標水管理情報から前記水田の目標水管理状態を特定し、前記観測装置の観測結果から前記水田の表面が水面であるか否かを特定し、前記目標水管理状態が水田に水を張らない落水状態であるのに対して、前記観測装置の観測結果から前記水田の表面が水面であると特定した場合に、前記水管理異常が発生したと判断してもよい。
【0033】
また、本発明の一態様では、前記検出水管理情報には、少なくとも1つの前記水田がある地域を観測する観測装置の観測結果が含まれていて、前記制御部は、前記取得部により前記水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報から前記水田の位置を特定し、前記目標水管理情報から表面が水面になる前記水田の目標水面面積を算出し、前記観測装置の観測結果から前記水田及び前記水田の周辺にある土地の表面が水面であるか否かを判断して、表面が水面である前記水田及び前記土地の面積を合わせた実水面面積を算出し、前記実水面面積が前記目標水面面積よりも所定値以上大きい場合に、前記水管理異常が発生したと判断してもよい。
【0034】
また、本発明の一態様では、前記水田に対応する農業者に関する農業者情報を前記取得部により取得し、前記水管理異常が発生したと判断すると、前記農業者情報に基づいて前記農業者に前記水管理異常情報を前記出力部により通知してもよい。又は、前記制御部は、前記水田の周辺の土地の管理者を示す情報を含む土地管理情報を前記取得部により取得し、前記水管理異常が発生したと判断すると、前記土地管理情報に基づいて前記管理者に前記水管理異常情報を前記出力部により通知してもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、農業者による水田からのメタンの削減状況を定量的に評価して、利便
性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】水田メタン削減支援システムの一例の構成図である。
【
図2】水田で水稲を栽培する場合の時期と水位の一例を示す図である。
【
図3】水田メタン削減支援装置の概略動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】水田メタン削減支援装置の初期設定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】水田メタン削減支援装置のモデル式の一例を示した図である。
【
図6】水田メタン削減支援装置のメタン評価動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データの一例を示す図である。
【
図8】水田メタン削減支援装置の中干提案動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】水田メタン削減支援装置の算出式更新動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】水田メタン削減支援装置のクレジット化動作の一例を示すフローチャートである。
【
図11】水田メタン削減支援装置のクレジット化動作の他例を示すフローチャートである。
【
図12】水田メタン削減支援装置のクレジット買取動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】水田メタン削減支援装置のクレジット取引動作の一例を示すフローチャートである。
【
図15】情報処理装置の水管理異常検出動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1は、水田メタン削減支援システム100の一例の構成図である。水田メタン削減支援システム100において、水田メタン削減支援装置1及び農業管理装置2は、例えば、管理センタに設置されたコンピュータ及びサーバなどの少なくともいずれかの情報処理装置で構成されている。
【0039】
水田メタン削減支援装置1は、水田から排出されるメタンの削減を支援する装置であって、制御部1a、記憶部1b、通信部1c、及び入出力インタフェイス1dを備えている。制御部1aはコントローラであり、CPU(又はマイクロコンピュータ)とメモリなどから構成されている。
【0040】
記憶部1bはストレージであり、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、又はハードディスクなどから構成されている。記憶部1bには、制御部1aが実行するソフトウェアプログラムが記憶され、制御部1aが利用する各種の制御データが読み書き可能に記憶されている。また、記憶部1bには、水田から排出されるメタンの排出量を算出するためのモデルデータが記憶されている。制御部1aは、記憶部1bに記憶されたモデルデータに基づいて、水田のメタン排出量及びメタン削減量などを算出する。
【0041】
通信部1cは、公衆通信網とインターネットなどを介して外部装置と通信するための通信インタフェイスである。入出力インタフェイス1dは、マウス、キーボード、又はタッ
チパネルなどの入力インタフェイスと、ディスプレイ、スピーカ、又はタッチパネルなどの出力インタフェイスなどから構成されている。
【0042】
農業管理装置2は、農業に関する種々の情報を管理する装置である。
図1では、農業管理装置2を1台例示しているが、農業管理装置2は2台以上あってもよい。農業管理装置2にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。また、農業管理装置2には、複数の水田と、水田で作物を栽培する複数の農業者に関する各種情報を格納したデータベース2dが構築されている。詳しくは、データベース2dには、農業者に関する農業者情報、水田に関する水田情報、及び水田で作物を栽培するために実施された農作業に関する作業情報などが複数格納されている。また、農業者情報と水田情報と作業情報とは、農業者毎又は水田毎に対応付けられて、データベース2dに格納されている。
【0043】
農業者情報には、農業者の個人情報、農業者のアカウントなどの識別情報、農業者が利用する農業者端末装置3のIPアドレスなどの情報が含まれている。水田情報には、水田の識別情報、水田がある地域、水田の位置(緯度、経度など)、面積、輪郭形状、土壌状態、排水性、栽培されている作物、及び水田に設置されたセンサと装置などの情報が含まれている。
【0044】
作業情報には、水田で作物を栽培するための農作業計画、農作業の内容、及び農作業の実施状態などが含まれている。また、作業情報に含まれる農作業には、例えば、水田における湛水、灌水、及び落水といった水管理作業があり、当該水管理作業とこれの実施状態(水管理状態、例えば水田の取水口又は排出口の開閉状態と開閉日時など)とを示す水管理情報が、作業情報に含まれている。また、水田における稲わらのすき込み、稲わらの持ち出し、及び堆肥施用などの農作業の実施状態が、作業情報に含まれていてもよい。さらに、水田で農作業を行った日の気象情報と、水田における作物の生育情報が、作業情報に含まれていてもよい。水田における作物の生育情報として、例えば水稲の出穂日、分げつ期、及び幼穂形成期などが作業情報に含まれていてもよい。例えば作業情報は、水田における電子的な農業日誌であってもよい。
【0045】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、通信部1cにより農業管理装置2と通信して、データベース2dから農業者情報と水田情報と作業情報とをそれぞれ取得(受信)する。また、制御部1aは、水田からのメタンの削減に関する情報を、通信部1cにより農業管理装置2へ送信して、データベース2dに格納させる。
【0046】
農業者端末装置3は、農業者が利用するパーソナルコンピュータ、タブレット端末装置、又はスマートフォンなどから構成されている。
図1では、農業者端末装置3を2台例示しているが、農業者端末装置3は3台以上あってもよい。農業者端末装置3にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。農業者は、農業者端末装置3に農業者情報と水田情報と作業情報などの各種情報を入力する。農業者端末装置3は、入力された農業者情報と水田情報と作業情報などを、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0047】
農業管理装置2は、農業者端末装置3から送信された農業者情報と水田情報と作業情報などを受信した場合、当該各情報をデータベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、農業者端末装置3から送信された農業者情報と水田情報と作業情報などを通信部1cにより受信した場合、当該各情報を記憶部1bに記憶させる。
【0048】
水管理装置4は、水田の畔又は水田内に設置されている、水位センサ5は、水田内に設置されている。水管理装置4と水位センサ5とは、有線又は無線で電気的に接続されてい
る。
図1では、水管理装置4と水位センサ5とを1台ずつ例示しているが、水管理装置4と水位センサ5とは、水田毎にそれぞれ1台以上設置されている。水管理装置4にも、制御部、記憶部、及び通信部が備わっている(図示省略)。また、水管理装置4には、操作スイッチ、アクチュエータ、蓄電池、及び太陽光発電デバイスなどが備わっている。水管理装置4は、モータなどのアクチュエータにより水田の水門を開閉して、水田に対して給水又は排水する。また、水田に対する給排水を促進するポンプなどの別のアクチュエータが、水管理装置4に設けられていてもよい。この場合、ポンプなどのアクチュエータの作動状態が作業情報に含まれてもよい。
【0049】
水位センサ5は水田の水位を検出して、当該検出結果を水管理装置4に送信する。水管理装置4は、水位センサ5の検出結果に基づいて、水田における湛水、灌水、又は落水などの水管理状態を検出する。そして、水管理装置4は、水位センサ5の検出結果及び水田の水管理状態に応じて、アクチュエータの作動を制御し、水田に対して給水又は排水して、水田の湛水、間断灌漑、及び落水を行う。
【0050】
また、水管理装置4は、水位センサ5の検出結果と水田の水管理状態とを示す水管理情報を、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。農業管理装置2は、水管理装置4から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を対応する水田の作業情報に含めるように(関連付けて)、データベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、水管理装置4から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を記憶部1bに記憶させる。
【0051】
地球観測衛星7は飛翔体及び観測装置の一例であり、地表面を観測する。水田メタン削減支援システム100では、地球観測衛星7は、SAR(Synthetic Aperture Radar)衛星から構成され、合成開口レーダにより水田を観測する。モニタリング装置6は、地球観測衛星7の観測結果を取得する。モニタリング装置6にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、モニタリング装置6と地球観測衛星7とを1台ずつ例示しているが、モニタリング装置6と地球観測衛星7はそれぞれ2台以上あってもよい。
【0052】
モニタリング装置6は、地球観測衛星7の観測結果から、水田における湛水、灌水、落水などの水管理状態を検出する。具体的には、モニタリング装置6は、地球観測衛星7の合成開口レーダにより撮像された水田のレーダ画像を取得して、当該レーダ画像に基づいて水田の凹凸部分を検出する。そして、モニタリング装置6は、例えば水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合を算出して、当該割合が所定値未満の場合に、水田の表面が水面であり、水田が湛水状態であると判断する。また、モニタリング装置6は、水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合が所定値以上の場合に、水田の表面が水面ではなく(水田の水位がゼロの状態)、水田が落水状態であると判断する。さらに、モニタリング装置6は、水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合の変化から、水田が灌水状態であると判断してもよい。
【0053】
合成開口レーダのレーダ画像による水田の湛水、灌水、落水などの水管理状態の判断は、上記に限定されず、その他の方法で判断されてもよい。また、水田メタン削減支援装置1にAI(Artificial Intelligence)を備えて、当該AIで機械学習により、合成開口レーダのレーダ画像から水田の水管理状態を検出してもよい。
【0054】
モニタリング装置6は、水田の水管理状態を示す水管理情報を、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。農業管理装置2は、モニタリング装置6から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を対応する水田の作業情報に含めるように(関連付けて)、データベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1
a)は、モニタリング装置6から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を記憶部1bに記憶させる。
【0055】
水田の水管理状態を検出するため、水位センサ5と水管理装置4とを含む第1検出構成と、地球観測衛星7とモニタリング装置6とを含む第2検出構成とのうち、少なくともいずれかの検出構成を、水田メタン削減支援システム100に適用すればよい。また、上記第1検出構成と第2検出構成のうちの少なくともいずれかに加えて又は代えて、農業者が農業者端末装置3により水田の水管理状態を入力してもよい。また、地球観測衛星7以外の飛翔体、又はドローン若しくはUAV(Unmanned Aerial Vehicles)などの飛行体に、合成開口レーダ、3次元レーザ測量器、或いは撮像装置などの観測装置を搭載して、水田を観測してもよい。
【0056】
クレジット管理装置8は、温室効果ガスの削減量に応じた電子的なクレジットを管理する装置であり、クレジット管理業者により利用される。クレジット管理装置8にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、クレジット管理装置8を1台例示しているが、クレジット管理装置8は2台以上あってもよい。また、クレジット管理業者は、複数あってもよい。
【0057】
水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、水田のメタン削減量と当該水田に対応する農業者情報とを含む報告情報を、クレジット管理装置8に送信する。クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1から受信した報告情報に含まれる水田のメタン削減量に応じてクレジットを発行し、当該クレジットを示すクレジット情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、クレジット管理装置8からクレジット情報を受信すると、当該クレジット情報を対応する農業者が利用する農業者端末装置3に送信(転送)する。また、水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、農業者からクレジットを買い取るための処理を実行する。
【0058】
需要者端末装置9は、クレジットを売買する企業、団体、又は個人などの需要者が利用する端末装置である。需要者端末装置9にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、需要者端末装置9を1台例示しているが、需要者端末装置9は2台以上あってもよい。また、需要者は複数いてもよい。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、需要者端末装置9との間で、クレジットの取引(売買)するための処理を実行する。
【0059】
図2は、水田Hで水稲Rを栽培する場合の時期と水位WLの一例を示す図である。水田Hで作物として水稲Rを栽培する場合、代掻き期から水田Hに灌水して、田植え期と活着期には、水田Hを深水状態にする。そして、分げつ期からしばらくの間、水田Hに間断灌水をして、水田Hを浅水状態にした後、水田Hから落水させて、水田Hをしばらくの間中干し(水田の水位がゼロの状態に)する。また、気温の高い分げつ期に、水田Hの湛水状態が続くと、土壌の還元が進み、土壌中のメタン生成菌の活動が活発になり、稲わらなどの有機物を基質として、メタン(温室効果ガス)が生成される。生成されたメタンは、水稲Rの器官を通じて大気中に排出される。
【0060】
このような水田Hからのメタンの排出量を削減するため、例えば水田Hを間断灌漑したり中干ししたりして、酸素を土壌に取り込むことで、土壌を還元状態から酸化状態に変化させる。また、水田Hの中干期間を延長することで、水田Hからのメタンの排出量がより削減される。水田Hの中干しは、通常の慣行農法では、実施しないか、又は無駄な分げつの発生を抑制し、過繁茂を防ぎ、根の発達を促し、倒伏を防ぐ目的で実施される。また、中干しは、田面に軽く亀裂が生じる程度の落水状態とし、概ね5~7日間この状態を継続する。また、水田Hの中干期間は、7日以上延長されるのが好ましいという考えもある。
然るに、水稲Rの幼穂形成期の前後は、水田Hに間断灌漑(間断灌水)する。水田Hの分げつ期から幼穂形成期(より好ましくは水稲Rの出穂前)までの間に、水稲Rの幼穂形成に悪影響を与えることなく、メタンの排出量を削減するには、中干期間を後倒し(幼穂形成期側)で延長するよりも、前倒し(分げつ期側で)延長する方が有効である。
【0061】
出穂期の前後は、水田Hに湛水して、水田Hを深水状態にする。その後、水稲Rの登熟期には、水田Hに間断灌水し、成熟期には、水田Hから落水して、水田の水位をゼロにし、水田の土壌を乾かす。水稲Rの収穫後に、稲わらを土壌にすき込むことでも、水田Hからのメタンの排出量が削減される。また、そのすき込み(秋すき込み)の際に、堆肥を施用することで、水田Hからのメタンの排出量が一層削減される。
【0062】
図3は、水田メタン削減支援装置1の概略動作の一例を示すフローチャートである。各処理は、制御部1aが実行する。(後述する
図4、
図6、
図8~
図12の各処理も、制御部1aが実行する。)
【0063】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、まずメタンの排出量を削減する農業者と水田を登録する(
図3のS1)。次に、制御部1aは、水田からのメタンの削減を評価するための設定を行う(S2)。そして、制御部1aは、農業者による水田での農作業の実施状態に基づいて、水田からのメタンの削減状況を評価する(S3)。当該評価時に、制御部1aは、水田のメタン削減量を算出する。その後、制御部1aは、水田のメタン削減量をクレジット管理装置8によりクレジット化し(S4)、当該クレジットを、農業者端末装置3を介して農業者と取引したり、需要者端末装置9を介して需要者と取引したりする(S5)。
【0064】
図4は、水田メタン削減支援装置1の初期設定動作(初期設定時の動作)の一例を示すフローチャートである。
図4の初期設定動作は、
図3の処理S1、S2の詳細を示している。例えば、農業者が農業者端末装置3により水田メタン削減支援装置1に接続して、メタンを削減する水田の識別情報などを入力すると、農業者端末装置3が、当該水田の識別情報と農業者の識別情報とを含む登録情報を生成して、当該登録情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0065】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの登録情報を通信部1cにより受信すると(
図4のS11)、当該登録情報に含まれる農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報の送信を要求する情報要求信号を、通信部1cにより農業管理装置2に送信する(S12)。
【0066】
農業管理装置2は、水田メタン削減支援装置1からの情報要求信号を受信して、データベース2dを検索し、要求された農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報とがデータベース2dに格納されていれば、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを水田メタン削減支援装置1に送信する。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの農業者情報と水田情報と作業情報とを通信部1cにより受信(取得)すると(S13:YES)、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを記憶部1bに記憶させる(S18)。このとき、制御部1aが取得した農業者情報と水田情報と作業情報とは対応している。
【0067】
一方、農業管理装置2は、水田メタン削減支援装置1から要求された農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と過去の水田情報と作業情報とがデータベース2dに格納されていなければ、対応する情報が無いことを水田メタン削減支援装置1に通知する。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、対応する情報が無いことを示す通知を通信部1cによる受信すると(S14)、農業者の識別情報に対応する農業者端末装置
3に農業者情報と水田情報と作業情報とを要求する情報要求信号を通信部1cにより送信する(S15)。
【0068】
農業者端末装置3は、水田メタン削減支援装置1からの情報要求信号を受信すると、農業者情報と水田情報と作業情報とを入力する画面を入出力インタフェイスのディスプレイに表示させる。即ち、農業者端末装置3は、農業者情報、作業情報、及び水田情報などを入力可能に構成されている。農業者端末装置3は、入出力インタフェイスのキーボードなどにより農業者情報と水田情報と作業情報とが入力されると、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0069】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの農業者情報と水田情報と作業情報とを通信部1cにより受信すると(S16)、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを農業管理装置2に送信してデータベース2dに格納させ(S17)、且つ当該農業者情報と水田情報と作業情報とを記憶部1bに記憶させる(S18)。このとき、制御部1aが取得した農業者情報と水田情報と作業情報も対応している。
【0070】
次に、制御部1aは、農業管理装置2又は農業者端末装置3から受信(取得)した水田情報と作業情報、並びに記憶部1bに記憶されたモデルデータに基づいて、水田のメタン排出量を算出する算出式を設定する(S19a)。モデルデータには、例えば
図5に示すような、公知のモデル式(1)、(2)と、当該モデル式(1)、(2)中の変数A、fd、fw、fo、EF、α、a、X、bを設定するためのテーブルデータ(図示省略)などが含まれている。モデル式(1)は、水田のメタン排出量Eを算出するための式である。モデル式(2)は、モデル式(1)に含まれる排出係数を算出するための式である。
【0071】
制御部1aは、水田の水田情報と作業情報と対応するテーブルデータとに基づいて、モデル式(1)、(2)の変数A、fd、fw、fo、α、EF、X、a、b(A;地域別水稲作付面積、fd;排水性割合、fw:水管理割合、fo:有機物割合、α:補正係数、EF:排出係数、X:地域別・施用有機物別有機物施用量、a:地域別・排水性別・水管理別傾き、b:地域別・排水性別・水管理別切片)を確定することにより、水田のメタン排出量を算出する算出式(変数確定後の式(1)、(2))を設定する。
【0072】
モデル式(2)の変数fw、EF、a、bは、水田の水管理状態によって定まる値である。モデル式(1)の補正係数αは、例えば所定の機関から発行される地球温暖化係数に基づいて定められてもよい。モデル式(1)、(2)の変数fd、EFは、水田の排水性に基づいて定められるが、当該排水性は、水田の日減水深を所定の条件で測定した結果に基づいて定められてもよい。また、水田の日減水深は、作業情報に含まれていてもよい。
【0073】
制御部1aは、農業管理装置2又は農業者端末装置3から受信(取得)した水田の作業情報に含まれる従来の水管理情報に基づいて、水田の基本中干状態を設定する(
図4のS19b)。従来の水管理情報は、例えば水田のある地域で慣習的に行われていた水田の水管理状態を示している。制御部1aは、例えば今年度から過去数年度の水管理情報に基づいて、水田の基本中干状態を設定してもよい。基本中干状態には、中干の実施の有無と、中干期間(例えば水田の水位がゼロ又は実質的にゼロ(ある程度の誤差を含む。)である状態の継続期間)とが含まれている。制御部1aは、例えば従来の水管理情報で示された水田に対する給水日及び排水日、又は中干開始日及び中干終了日から、中干の実施の有無と中干期間とを特定してもよい。
【0074】
また、制御部1aは、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定の傾き算出式に基づいて変数aを設定し、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定の切片算出式に基づいて変数bを設定し、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定のテーブルデータに基づ
いて変数fwを設定する。そして、制御部1aは、確定した算出式(1)、(2)により水田の基本メタン排出量を算出する(S19c)。即ち、制御部1aは、確定した算出式(1)、(2)と基本中干状態とに基づいて、水田の基本メタン排出量を算出する。さらに、制御部1aは、確定した算出式(1)、(2)と基本中干状態と基本メタン排出量とを記憶部1bに記憶させる(S19d)。
【0075】
水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータ及び算出式は、上記に限定されず、
図5の式(1)、(2)以外の式又はデータであってもよい。また、気象情報のような、水田の水田情報と作業情報以外の情報も考慮したモデルデータ及び算出式により、水田のメタン排出量を算出してもよい。さらに、AIで機械学習により、水田のメタン排出量の算出式を設定したり、水田のメタン排出量を算出したりしてもよい。
【0076】
図6は、水田メタン削減支援装置1のメタン評価動作(メタン評価時の動作)の一例を示すフローチャートである。
図6のメタン評価動作は、水田からのメタンの削減状況を評価する動作であって、
図3の処理S3の詳細を示している。例えば、農業者が水田からのメタンを削減するため、水田における水管理作業などの農作業を変更し、その後水田の作物(水稲)を収穫して、今期の農作業を終える。そして、農業者が農業者端末装置3により水田メタン削減支援装置1に接続して、水田のメタン評価の実行を指示すると、農業者端末装置3がメタン評価指令を水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0077】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からのメタン評価指令を通信部1cにより受信すると(
図6のS21)、当該メタン評価指令に含まれる農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(S22)。この情報取得処理S22は、
図4の処理S12~S18と同様の手順で実行される。(後述する
図8の処理S31と
図9の処理S41の情報取得処理も同様である。)
【0078】
次に、制御部1aは、取得した作業情報に含まれる農作業の実施状態を読み込み、当該作業情報に含まれる水管理情報に基づいて、実施された水田の中干状態を特定する(S23)。このとき特定される中干状態には、水田における中干の実施の有無と中干期間とが含まれる。制御部1aは、例えば上記取得した作業情報に含まれる水管理情報で示された水田に対する給水日及び排水日、又は中干開始日及び中干終了日から、中干の実施の有無と中干期間とを特定してもよい。また、このとき制御部1aは、特定した中干期間の開始日と終了日のうち、少なくとも開始日が水田で栽培している水稲の出穂前であるか否を確認してもよい。そして、制御部1aは、中干期間の開始日が水稲の出穂前であれば、特定した中干期間を確定し、中干期間の開始日が水稲の出穂日又は出穂後であれば、特定した中干期間を無効にして、中干が実施されなかったと判断してもよい。水田における水稲の出穂日は、例えば農業者が水稲の出穂を目視で確認した日を農業者端末装置3に入力した後、農業者端末装置3から直接又は農業管理装置2を介して水田メタン削減支援装置1に送信される。
【0079】
次に、制御部1aは、水田に対応する算出式(前述の確定した式(1)、(2))を記憶部1bから読み出し、当該算出式と、読み込んだ農作業の実施状態と、特定した水田の中干状態とに基づいて、水田のメタン排出量を算出する(S24)。次に、制御部1aは、水田に対応する基本メタン排出量を記憶部1bから読み出し、当該基本メタン排出量から水田のメタン排出量を減算することにより、水田のメタン削減量を算出する(S25)。即ち、制御部1aは、水田での農作業が変更されたこと、又は特定した中干状態の基本中干状態に対する変更により削減された水田のメタン削減量を算出する。
【0080】
そして、制御部1aは、算出した水田のメタン削減量を含む評価情報を生成し、農業者
情報に基づいて農業者端末装置3に対して、当該評価情報を通信部1cにより送信する(S26)。評価情報には、水田のメタン削減量だけでなく、特定した中干期間又は算出したメタン排出量などが含まれていてもよい。
【0081】
図6に示したメタン評価動作では、水田に対応する算出式によりメタン排出量を算出して、当該メタン排出量を基本メタン排出量から減算することにより、メタン削減量を算出する例を示したが、これ以外に、例えば、予め算出式に基づいて水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係と特定した中干期間とに基づいて、メタン削減量を算出してもよい。
【0082】
具体的には、例えば制御部1aは、予め初期設定動作などにおいて、シミュレーションで水田の基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後(前倒し又は後倒し)に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田の算出式とに基づいてメタン排出量を算出し、当該メタン排出量を前記基本メタン排出量から減算して、水田のメタン削減量を算出する。そして、制御部1aは、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを記憶部1bに記憶させる。
【0083】
図7は、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データの一例を示す図である。
図7に示す第1相関データでは、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係とをテーブル形式で示している。また、第1相関データでは、水田の基本中干期間(5日間)の場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒しで7日間及び14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を後倒しで7日間及び14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒し7日間及び後倒し7日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒し14日間及び後倒し14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量を示している。
【0084】
この場合、制御部1aは、メタン評価動作において、水田の中干状態を特定し、当該中干状態に含まれる中干期間と第1相関データとに基づいて、水田のメタン排出量を算出することなく、メタン削減量を算出する。具体的には、例えば、水田の中干期間を基本中干期間よりも前倒しで10日間延長した場合、制御部1aは、第1相関データの前倒し7日間の場合のメタン削減量Yaと、前倒し14日間の場合のメタン削減量Ycとに基づいて、前倒し10日間の中干期間のメタン削減量を算出する。
【0085】
水田のメタン削減量の算出方法は、上述した算出方法に限定されず、他の演算式又はデータに基づいて、水田のメタン削減量を算出してもよい。また、水田のメタン削減量(及びメタン排出量)として、水田全体のメタン削減量(及びメタン排出量)及び水田の単位面積当たりのメタン削減量(及びメタン排出量)のうちの少なくともいずれかを算出してもよい。或いは、水田のメタン削減率(%)を、メタン削減量として算出してもよい。また、気象情報のような、水田の水田情報と作業情報以外の情報も考慮したモデルデータ及び算出式により、水田のメタン削減量を算出してもよい。さらに、AIで機械学習により、水田のメタン削減量を算出してもよい。
【0086】
図8は、水田メタン削減支援装置1の中干提案動作の一例を示すフローチャートである。
図8の中干提案動作は、水田からのメタンを有効且つ有益に削減する推奨中干期間を提案する動作である。例えば、農業者が水田の中干作業を開始する前に、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田に対応する農業者情報と水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(
図8のS31)。この情報取得の処理S31は、
図4の処理S12~S18と同様の手順で実行される。
【0087】
次に、制御部1aは、前述したように、シミュレーションで水田の基本中干状態に含ま
れる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、水田のメタン削減量を算出して、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを記憶部1bに記憶させる(
図8のS32)。
【0088】
また、制御部1aは、シミュレーションで水田の基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、水田の作物の減収量を算出して、水田の中干期間と作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを記憶部1bに記憶させる(S33)。
【0089】
具体的には、例えば制御部1aは、水田の基本中干期間と水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の基本収量を推定する。また、制御部1aは、シミュレーションで水田の基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田の水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の収量を推定する。水田の中干期間が長くなるほど、作物の収量は減少する。このため、制御部1aは、延長した中干期間毎に算出した作物の収量を基本収量から減算することにより、作物の減収量を算出して、水田の中干期間と作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを生成する。第2相関データは、テーブル形式のデータであってもよいし、或いは演算式であってもよい。
【0090】
次に、制御部1aは、第1相関データと第2相関データとに基づいて、メタン削減量が第1所定値以上で且つ作物の減収量が第2所定値以下である水田の推奨中干期間を判断する(S34)。そして、制御部1aは、判断した推奨中干期間を含む作業提案情報を、通信部1cにより水田に対応する農業者端末装置3に送信する(S35)。基本中干期間が0日であった場合、即ち従来水田で中干が実施されていなかった場合、制御部1aは、処理S35で中干の実施を勧める旨の情報を作業提案情報に含めてもよい。基本中干期間が1日以上であった場合、即ち従来水田で中干が実施されていた場合、制御部1aは、処理S35で従来からの中干期間の延長日時を作業提案情報に含めてもよい。
【0091】
農業者端末装置3は、水田メタン削減支援装置1からの作業提案情報を受信して、当該作業提案情報で示される水田の推奨中干期間を、入出力インタフェイスのディスプレイなどに表示する。
【0092】
他の例として、制御部1aが、第1相関データと第2相関データのうちのいずれかを導出して、当該導出した相関データと、特定した水田の中干期間とに基づいて、最適な推奨中干期間を判断してもよい。また、他の例として、水田のメタンを削減するため、制御部1aが、水田の中干の実施と中干期間の延長に加えて或いは代えて、水田の間断灌漑などの水管理作業、作物の収穫後の稲わらのすき込み又は堆肥施用などの農作業の実施を提案してもよい。また、さらに、AIで機械学習により、水田の推奨中干期間、推奨水管理作業、稲わらのすき込み、又は堆肥施用などの提案を導出してもよい。
【0093】
図9は、水田メタン削減支援装置1の算出式更新動作の一例を示すフローチャートである。
図9の算出式更新動作は、水田のメタン排出量の算出式を更新する動作である。例えば、水田メタン削減支援装置1の管理者が入出力インタフェイス1dにより、ある水田に対応する算出式の更新指示を入力すると(
図9のS41)、制御部1aは、水田に対応する水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(S42)。そして、制御部1aは、取得した水田情報及び作業情報に含まれる情報のうち、水田のメタン排出量の算出に関係する情報に変更があった場合(S43:YES)、当該情報の変更に応じて水田のメタン排出量の算出式を更新する(S44)。
【0094】
具体的には、例えば、水田情報に含まれる水田の排水性又は作業情報に含まれる施用有機物に変更があった場合、制御部1aは、当該変更に応じて、水田のメタン排出量の算出
式(
図5)の変数fd、fo、EF、a、bを変更することにより、算出式を更新する(S44)。
【0095】
また、上記算出式の更新に伴って、制御部1aが、基本メタン排出量も更新してもよい。また、オペレータが水田メタン削減支援装置1の入出力インタフェイス1d(マウス、キーボードなど)を操作し、メタン測定器により測定された水田のメタンの濃度又は排出量の実測値に基づいて、記憶部1bに記憶されたモデルデータを更新してもよい。
【0096】
図10は、水田メタン削減支援装置1のクレジット化動作の一例を示すフローチャートである。
図10のクレジット化動作は、水田のメタン削減量を電子的なクレジットに変えるときの動作であり、
図3の処理S4の詳細を示している。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田のメタン削減量の算出後に、水田のメタン削減量と、水田に対応する農業者情報とを含む報告情報を生成し、当該報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(
図10のS51)。
【0097】
このとき、制御部1aは、水田に関する水田情報、水田における従来の作業情報(例えば、過去数年度の作業情報)、水田からのメタンを削減するために変更された農作業を示す対象の作業情報(今年度の作業情報)、モデルデータに基づいて設定した水田のメタン排出量を算出するための確定した算出式(
図5のモデル式(1)、(2)の各変数を確定した式)、及び当該算出式における変数のうちの少なくともいずれかを、報告情報に含めて通信部1cによりクレジット管理装置8に送信してもよい。また、制御部1aは、上記算出式における変数を報告情報に含める場合は、当該変数を確定するために用いたデータ(例えば日減水深などの測定値と、当該測定値の測定時に降雨が無かったことを示す気象情報など)も報告情報に含めてもよい。さらに、制御部1aが報告情報に含める従来作業情報及び対象の作業情報として、水田で栽培した水稲の出穂日と、水田の中干期間などの水管理情報とがあってもよい。
【0098】
クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1から報告情報を受信すると、当該報告情報に含まれる水田のメタン削減量に応じてクレジットを発行し、当該クレジットを示すクレジット情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。このとき、例えばクレジット管理装置8或いはクレジット管理業者において、報告情報の確認(検証)が行われることがある。そしてその際、農業者により入力(申告)された水田の水管理情報だけが報告情報に含まれている場合と、水位センサ5、水管理装置4、地球観測衛星7、及びモニタリング装置6などにより検出された客観的な水田の水管理情報(水管理状態の裏付け)が報告情報に含まれている場合とで、前記場合よりも後記場合の方が、クレジットが多く発行されるなどのように、発行するクレジットの多寡に差が設けられてもよい。
【0099】
クレジット管理装置8からのクレジット情報には、クレジットの値、識別情報(管理番号)、及びクレジットの所有者などの情報が含まれている。制御部1aは、クレジット管理装置8からクレジット情報を受信すると(S52)、当該クレジット情報で示されるクレジットの所有者である農業者を特定し、当該農業者が利用する農業者端末装置3に受信したクレジット情報を送信する(S53)。
【0100】
図10のクレジット化動作では、水田毎にメタン削減量をクレジット化したが、これ以外に、例えば
図11に示すように、複数の水田のメタン削減量を一括してクレジット化してもよい。
【0101】
図11は、水田メタン削減支援装置1のクレジット化動作の他例を示すフローチャートである。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、複数の水田のメタン削減量を合算して(
図11のS54)、当該合算したメタン削減量を含む報告情報を生成し、当該報告情
報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S51a)。
【0102】
そして、制御部1aは、合算したメタン削減量に応じてクレジット管理装置8から発行されたクレジットを示すクレジット情報を通信部1cにより受信(取得)すると(S52a)、当該クレジット情報で示されるクレジットを、複数の水田のメタン削減量に応じて分配する(S55)。また、制御部1aは、分配したクレジットを示すクレジット情報を新たに生成して、当該クレジット情報を通信部1cにより、複数の水田に対応する農業者の農業者端末装置3に送信する(S53a)。
【0103】
また、制御部1aは、水田のメタン削減量に応じたクレジットを、所定の計算式又は所定のテーブルデータに基づいて見積もり、当該見積もったクレジットを示す仮クレジット情報を報告情報に含めて通信部1cによりクレジット管理装置8に送信してもよい。所定の計算式又は所定のテーブルデータは、例えば記憶部1b或いは農業管理装置2(
図1)のデータベース2dに予め記憶されていてもよい。所定の計算式又は所定のテーブルデータがデータベース2dに記憶されている場合、制御部1aは、通信部1cにより農業管理装置2から所定の計算式又は所定のテーブルデータを取得(受信)すればよい。
【0104】
また、制御部1aは、仮クレジット情報を農業者情報に基づいて農業者に通知してもよい。具体的には、制御部1aは、例えば農業者が利用する農業者端末装置3に仮クレジット情報を通信部1cにより送信する。仮クレジット情報を受信した農業者端末装置3は、当該仮クレジット情報をディスプレイなどにより出力する。これにより、農業者は、仮クレジット情報を認識可能になる。
【0105】
また、制御部1aは、報告情報に含める従来作業情報及び対象の作業情報として、水田で栽培した水稲の出穂日と、水田の中干期間などの水管理情報とに加えて又は代えて、水田における稲わらのすき込みと堆肥施用の実施日と実施状況などを示す情報があってもよい。即ち、水田の中干などの水管理作業だけでなく、稲わらのすき込みと有機性肥料施用の量又は時期の管理などのような、メタン発生量の増減に影響する他の作業を実施した場合も、当該作業の実施によるクレジットの発行量の増減に反映され、クレジットの発行対象となり得る。
【0106】
より具体的には、制御部1aなど(クレジット管理装置8でもよい。)が、水田における稲わらのすき込み及び有機性肥料施用のうちの少なくともいずれかの量又は時期に応じて、水田の中干により削減されたメタン発生量に対して与えるクレジットの発行量を増減させても良い。また、稲わらのすき込み及び有機性肥料施用のうちの少なくともいずれかの量若しくは時期が変更されることにより、灌水状態におけるメタン発生量の削減が見込まれる場合には、当該削減量が単独でクレジットの発行対象となってもよい。例えば水田において、稲わらのすき込み又は有機性肥料の施用時期が水稲の作付け直前から前年の収穫後に変更されると、灌水前に落水状態を維持して、有機物の酸化的な分解を促進し、嫌気的な分解の対象となる有機物の割合を減じることができる。
【0107】
図12は、水田メタン削減支援装置1のクレジット買取動作の一例を示すフローチャートである。
図12のクレジット買取動作は、農業者からクレジットを買い取るときの動作であり、
図3の処理S7の一例を示している。例えば、農業者が所有するクレジットを売却したい旨を示す情報を農業者端末装置3に入力すると、農業者端末装置3は、当該クレジットを売却したい旨を示す売却希望情報を生成して、当該売却希望情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。売却希望情報には、クレジットを売却したい旨だけでなく、クレジットの値と識別番号などを示すクレジット情報も含まれている。
【0108】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの売却希望情報を通
信部1cにより受信すると(S61)、当該売却希望情報で示されるクレジットの代価を決定する。このとき、クレジット情報で示されるクレジットが、農業者により入力された水田の水管理情報だけに基づいて発行された場合と、水位センサ5、水管理装置4、地球観測衛星7、及びモニタリング装置6などによる客観的な水田の水管理情報に基づいて発行された場合とで、前記場合よりも後記場合の方がクレジットの対価が多くなるなどのように、対価の多寡に差が設けられてもよい。
【0109】
そして、制御部1aは、決定した代価を所定の取引者に支払わせる指示を示す支払指示情報を、入出力インタフェイス1dにより出力する(S62)。このとき、例えば制御部1aは、入出力インタフェイス1dに含まれるディスプレイに、支払指示情報を表示させる。又は、所定の取引者が利用する取引者端末装置(図示省略)に、支払指示情報を転送してもよい。
【0110】
その後、取引者が代価を農業者に支払ったことを示す支払完了情報が、入出力インタフェイス1d(マウス、キーボードなど)により入力されると(S63)、制御部1aは、対応するクレジットの所有者を農業者から取引者に変更して、取引者に代わってクレジットを管理する(S64)。また、制御部1aは、対応するクレジットを示すクレジット情報と、当該クレジットの所有者が農業者から取引者に変更されたことを示す情報とを含む変更報告情報を生成し、当該変更報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S65)。
【0111】
クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1からの変更報告情報を受信すると、当該変更報告情報で示されるクレジットの所有者の変更を受け付けて、当該クレジットの管理情報を更新する。
【0112】
図13は、水田メタン削減支援装置1のクレジット取引動作の一例を示すフローチャートである。
図13のクレジット取引動作は、需要者にクレジットを売却するときの動作であり、
図3の処理S7の一例を示している。例えば、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、管理するクレジットを買い取りたい旨を示す買取希望情報を、需要者が利用する需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると(S71)、当該買取希望情報で示されるクレジットの代価を決定し、当該代価を需要者に支払わせる支払指令を、需要者端末装置9に送信する(S72)。
【0113】
その後、制御部1aは、需要者が代価を取引者に支払ったことを示す支払完了情報を、需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると(S73)、対応するクレジットの所有者を取引者から需要者に変更して(S74)、当該クレジットを管理対象から外す。また、制御部1aは、そのクレジットを示すクレジット情報と、当該クレジットの所有者が取引者から需要者に変更されたことを示す情報とを含む変更報告情報を生成し、当該変更報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S75)。
【0114】
以上の実施形態では、農業管理装置2及び農業者端末装置3が、水田メタン削減支援装置1に対して外部装置である例を示したが、これに限定しない。例えば、水田メタン削減支援装置1と農業管理装置2とを同一のコンピュータ又はサーバなどで構成したり、水田メタン削減支援装置1と農業者端末装置3とを、同一のコンピュータ又は端末装置で構成したりしてもよい。また、水田メタン削減支援装置1、農業管理装置2、及び農業者端末装置3をクラウド上に設けて、クラウド上で互いに情報を入出力するようにしてもよい。またこの場合、水田のメタン削減量を示す評価情報、水田の推奨中干期間を含む作業提案情報、及びメタン削減量に応じたクレジットを示すクレジット情報を、同一のコンピュータなど或いはクラウド上で入出力してもよい。
【0115】
また、水田のような圃場から排出されるメタン以外の温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量及び削減量を算出するために、水田メタン削減支援装置1を構成するコンピュータなどを用いてもよい。この場合、対象の温室効果ガスの排出量及び削減量を算出するモデルデータを用いればよい。
【0116】
ところで、水田で水稲などの作物を栽培する地域では、雨期に多雨により洪水などの異常増水が発生することがある。水田の周辺で異常増水が発生したときに、農業者などが水田の周辺に近づくと危険である。また、例えば水田からのメタンの排出を削減するために、中干などの水管理作業を実施したときに、排水口の閉塞などにより、水田から水が抜けない排水異常が発生した場合、当該メタンの削減効果が得られない。さらに、例えば水田の中干を終了するために、水田に対して給水作業を実施しても、給水口の閉塞又は水不足などにより、水田が湛水されない給水異常が発生した場合、水田における水稲の収量が減少してしまう。そこで、例えば
図14に示す構成により、上記のような水田の水管理異常が発生したことをいち早く検出する。
【0117】
図14は、農業支援システム100の一例の構成図である。本農業支援システム100は、土地管理端末装置10以外の構成は、
図1に示した水田メタン削減支援システム100と同様である。即ち、農業支援システム100は、水田メタン削減支援システム100を構成する。また、前述したように、水田メタン削減支援装置1は、コンピュータなどの情報処理装置から構成されている。水田メタン削減支援装置1は、水田における水管理異常の発生を検出する情報処理装置である。以下、水田メタン削減支援装置1を、情報処理装置1ということがある。
【0118】
土地管理端末装置10は、水田の周辺の土地を管理する管理者が利用するコンピュータ、タブレット端末装置、又はスマートフォンなどから構成されている。土地の管理者は、個人であってもよいし、営農団体、法人、水田がある地域の自治体などであってもよい。
図14では、土地管理端末装置10を1台例示しているが、土地管理端末装置10は2台以上あってもよい。
【0119】
土地管理端末装置10には、制御部(CPU)、記憶部(メモリ)、通信部(通信インタフェイス)、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。土地管理端末装置10は、通信部によりインターネットなどを介して水田の周辺の土地に関する情報を受信し、当該受信した情報を入出力インタフェイスにより出力(表示)する。
【0120】
図15は、情報処理装置1の水管理異常検出動作の一例を示すフローチャートである。情報処理装置1の制御部1aは、例えば雨期などの所定の時期に所定の周期で本水管理異常検出動作を実行する。まず制御部1aは、対象の水田に対応する水田情報と作業情報を農業管理装置2又は当該水田に対応する農業者が利用する農業者端末装置3から通信部1cにより取得する(S121)。通信部1cは、取得部及び出力部の一例である。
【0121】
また、制御部1aは、水管理装置4又はモニタリング装置6により検出された水田の水管理状態を示す検出水管理情報を農業管理装置2から通信部1cにより取得する(S122)。検出水管理情報には、水田の水位を検出する水位センサ5の検出結果及び、水田がある地域を観測する地球観測衛星7の観測結果(レーダ画像)のうちの少なくともいずれかが含まれている。
【0122】
次に、制御部1aは、取得した作業情報から、水田の目標となる水管理状態を示す目標水管理情報を特定する(S123)。このとき、制御部1aは、例えば作業情報に含まれる農作業の実施状況から水田における湛水、灌水、及び落水といった水管理作業の実施状態(水管理状態)を読み込み、当該実施状態から水田の目標となる表面の状態が水面であ
るか否かを判断して、当該判断結果を目標水管理情報として特定する。又は、制御部1aは、例えば水田の目標水位、若しくは水田の表面が水面である箇所の面積などを、目標水管理情報として特定してもよい。
【0123】
次に、制御部1aは、目標水管理情報と検出水管理情報との差異に基づいて、水管理異常の有無を判断する(S124)。このとき、制御部1aは、例えば目標水管理情報から水田の目標水位を特定し、検出水管理情報に含まれる水位センサ5の検出結果から水田の実水位(水位の実測値)を特定する。そして、制御部1aは、水田の実水位が目標水位より第1所定値以上高い場合に、水田で水管理異常(異常増水)が発生したと判断する。また、第1所定値より大きい第2所定値が設定され、水田の実水位が目標水位より第2所定値以上高い場合に、制御部1aが水田及び水田の周辺で洪水が発生したと判断してもよい。対して、水田の実水位が目標水位より第1所定値以上高くない場合に、制御部1aは、水田で水管理異常が発生していないと判断する。
【0124】
他の例として、制御部1aは、例えば目標水管理情報から水田の目標水管理状態を特定し、検出水管理情報に含まれる地球観測衛星7の観測結果から、水田の表面が水面であるか否かを特定する。そして、制御部1aは、水田の目標水管理状態が水田に水を張らない落水状態(水位が実質的にゼロの状態)であるのに対して、地球観測衛星7の観測結果から水田の表面が水面であると特定した場合、水田で水管理異常(水田の排水異常或いは水田周辺での洪水などの異常増水)が発生したと判断する。また、制御部1aは、水田の目標水管理状態が水田に水を張らない落水状態であり、地球観測衛星7の観測結果から水田の表面が水面でないと特定した場合、水田で水管理異常が発生していないと判断する。
【0125】
また、他の例として、制御部1aは、例えば水田情報から水田の位置を特定し、目標水管理情報から表面が水面になる水田の目標水面面積を算出する。また、制御部1aは、地球観測衛星7の観測結果から、水田と水田の周辺にある土地の表面が水面であるか否かを判断して、表面が水面である水田及び土地の面積を合わせた実水面面積を算出する。そして、例えば、多雨により水が水田から周辺の土地に溢れ出して、実水面面積が目標水面面積よりも所定値以上大きくなった場合、制御部1aは、水田及び水田の周辺で水管理異常(洪水などの異常増水)が発生したと判断する。また、制御部1aは、実水面面積が目標水面面積よりも所定値以上大きくない場合、水田及び水田の周辺で水管理異常が発生していないと判断する。
【0126】
また、上記では水田の水管理異常として排水異常又は異常増水を検出する例を示したが、制御部1aは、目標水管理情報と検出水管理情報との差異から、水田における給水異常を判断するもできる。例えば制御部1aは、水田の実水位が目標水位より第3所定値以上低い場合に、水田で給水異常(水管理異常)が発生したと判断する。第3所定値は、第1所定値よりも小さく設定される。また、制御部1aは、水田の目標水管理状態が湛水状態であるのに対して、地球観測衛星7の観測結果から水田の表面が水面でないと特定した場合も、水田で給水異常が発生したと判断する。
【0127】
上記のように制御部1aは水管理異常が発生したと判断すると(S125:YES)、水田及び水田の周辺で水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を通信部1cにより出力する(S126)。このとき、制御部1aは、水管理異常の内容、目標水管理情報、及び検出水管理情報などを水管理異常情報に含めてもよい。
【0128】
また、制御部1aは、例えば水田に対応する農業者に関する農業者情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から通信部1cにより取得し、当該農業者情報に基づいて水管理異常情報を通信部1cにより農業者端末装置3に送信(出力)してもよい。この場合、農業者端末装置3は、水管理異常情報を受信すると、当該水管理異常情報を入出力インタフ
ェイスにより表示することで、水田(及び水田周辺)で水管理異常が発生したことを農業者に通知する。このとき、水管理異常として洪水の発生が水管理異常情報で示されている場合、洪水が発生したため水田の周辺に近づかないことを示す警告(メッセージなど)を、農業者端末装置3により農業者に通知してもよい。なお、制御部1aは、水管理異常が発生したと判断する前に、農業者情報を通信部1cにより取得してもよい。
【0129】
また、制御部1aは、水田の水管理異常として洪水が発生したと判断した場合、水田の周辺の土地の管理者を示す情報を含む土地管理情報を農業管理装置2又は土地管理端末装置10から通信部1cにより取得し、当該土地管理情報に基づいて水管理異常情報を土地管理端末装置10に通信部1cにより送信(出力)してもよい。土地管理端末装置10は、水管理異常情報を受信すると、当該水管理異常情報を入出力インタフェイスにより表示することで、水田及び水田の周辺で洪水が発生したことを水田の周辺の土地の管理者に通知する。このときも、洪水が発生したため水田の周辺に近づかないことを示す警告(メッセージなど)を、農業者端末装置3により農業者に通知してもよい。なお、制御部1aは、洪水が発生したと判断する前に、土地管理情報を通信部1cにより取得してもよい。
【0130】
また、制御部1aは、洪水が発生したことを示す水管理異常情報を通信部1cにより農業管理装置2に出力してもよい。また、情報処理装置1、農業管理装置2、及び土地管理端末装置10は、所定のプロバイダにアクセスして、インターネット上の所定のホームページに洪水が発生したことを示す水管理異常情報を表示させてもよい。また、制御部1aは、水管理異常が発生した水田に対応する水管理装置5に対して、当該水管理異常を解消するための給排水動作の実行を命じる給排水指令を直接或いは農業管理装置2を介して送信してもよい。水管理装置5は、上記給排水指令を受信すると、当該給排水指令に基づいてアクチュエータを作動させて、水田に対する排水又は給水を実行する。
【0131】
上述した水管理異常検出動作は、制御部1aが1つの水田を対象として実行してもよいし、或いは複数の水田を対象として実行してもよい。また、制御部1aは、所定範囲内にある複数の水田で異常増水(水管理異常)が発生したと判断した場合に、水田がある地域で洪水が発生したと確定し、当該複数の水田のうち、一方の水田で異常増水が発生したと判断し、他方の水田で異常増水が発生してないと判断した場合に、水田がある地域で洪水が発生していないと判断してもよい。
【0132】
また、制御部1aは、水田で異常増水(水管理異常)が発生したと判断した場合、通信部1cにより農業管理装置2又は水田に対応する水管理装置4と通信して、水田の排水口又は排水用水門で正常排水できない排水エラーが発生しているか否を確認してもよい。例えば、制御部1aは、水田に対応するエラー情報の送信を要求するリクエスト信号を、通信部1cにより農業管理装置2又は水管理装置4に送信する。そして、農業管理装置2又は水管理装置4から排水エラーが発生したことを示すエラー情報を通信部1cにより受信した場合、水田で排水エラーによる異常増水が発生したと判断する。また、制御部1aは、農業管理装置2又は水管理装置4からエラー情報を受信しなかった場合、水田の異常増水が排出エラーによるものではなく、多雨などによる洪水であると判断する。即ち、制御部1aは、水田の異常増水が排水エラーではないことを確認してから、当該異常増水が水田周辺の洪水によるものであると判断する。
【0133】
また、制御部1aが、地球観測衛星7の観測結果、即ちレーダ画像(SAR衛星画像)を用いて水田の異常増水の有無を判断する場合、水田の表面が水面であるときのレーダ画像と、水田の表面が水面でないときのレーダ画像とから、水田の表面が水面であるか否かを判定するための閾値を設定してもよい。また、当該閾値を用いて、例えば他の圃場(畑)、道路、住宅街、工業団地、及び河川敷などのような、水田以外の土地の表面が水面であるか否かを判断してもよい。そして、水田以外の土地において異常増水(又は洪水)の
有無を判断する場合に、
図15の水管理異常検出動作を適用してもよい。この場合、制御部1aが、例えば地球観測衛星7の観測結果から、対象地の実際の水位・水面状態を検出することで、種々の対象地における異常増水(又は洪水)の有無を検出することができ、また対象地に水位センサ5などを設置しなくても、異常増水(又は洪水)の有無を広範囲にわたって検出することが可能となる。
【0134】
上記実施形態では、水田メタン削減支援装置1を構成する情報処理装置が、水管理異常検出動作を実行した例を示したが、これに代えて、農業管理装置2を構成する情報処理装置が、水管理異常検出動作を実行してもよい。又は、水田メタン削減支援装置1及び農業管理装置2とは異なる情報処理装置が、水管理異常検出動作を実行してもよい。
【0135】
以上説明した本実施形態の水田メタン削減支援装置1及び水田メタン削減支援システム100は、以下の構成を備え、効果を奏する。
【0136】
本実施形態の水田メタン削減支援装置1は、水田のメタンの排出量を算出するためのモデルデータ(
図5)が記憶された記憶部1bと、モデルデータに基づいて水田のメタン排出量を算出する制御部1aと、を備え、制御部1aは、農業者に関する農業者情報と、当該農業者情報に対応する水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報とを取得して、当該作業情報に含まれる農作業の実施状態に基づいて水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出する。
【0137】
また、本実施形態の水田メタン削減支援システム100は、水田のメタン排出量の削減を支援する水田メタン削減支援装置1と、複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベース2dが構築された農業管理装置2と、を含んでいる。
【0138】
上記構成によれば、農業者が水田での農作業の実施状態を変更することで、水田メタン削減支援装置1により水田のメタン削減量が定量的に評価されるので、利便性を向上させることができる。またこの結果、水田からメタンを削減する取り組みが農業者によって推進され、農業分野でのメタンの削減を活性化させることが可能となる。
【0139】
本実施形態では、制御部1aは、作業情報に含まれ且つ水田の水管理状態を示す水管理情報に基づいて、水田のメタン削減量を算出する。これにより、農業者が水田の間断灌漑又は中干などの水管理作業の実施状態を変更することで、水田メタン削減支援装置1により水田のメタン削減量が定量的に評価され、利便性を向上させることができる。
【0140】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田の湛水、灌水、及び落水を示す水管理情報に基づいて、水田における作物栽培中の中干状態を特定し、当該中干状態に基づいて水田のメタン削減量を算出する。これにより、農業者が水田の中干を実施したり、中干期間を延長したりすることで、水田メタン削減支援装置1により水田のメタン削減量が定量的に評価され、利便性を向上させることができる。
【0141】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田のメタン削減量を示す評価情報を、農業者情報に基づいて農業者に通知する。また、一実施形態では、制御部1aは、農業者情報に基づいて農業者端末装置3に、水田のメタン削減量を示す評価情報を通信部1cにより送信する。これにより、農業者は、水田での農作業の実施状態を変更したことによるメタンの削減効果を容易に把握することができ、利便性を向上させることができる。
【0142】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報と作業情報とモデルデータとに基づいて、水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、水田の従来の水管理情報に基づいて、水田の基本中干状態を設定し、算出式と基本中
干状態とに基づいて、水田の基本メタン排出量を算出し、算出式と基本中干状態と基本メタン排出量とを、水田情報と関連付けて記憶部1bに記憶させ、水田の変更された水管理情報に基づいて、水田の中干状態を特定し、水田の中干状態と算出式とに基づいて、水田のメタン排出量を算出し、水田の基本メタン排出量からメタン排出量を減算して、水田のメタン削減量を算出する。これにより、水田の基本中干状態に対して実際の中干期間が延長されるなどのように、実際の中干状態が変更されることで、水田のメタン排出量の基本メタン排出量に対する削減量を算出することができる。
【0143】
また、本実施形態では、制御部1aは、シミュレーションで水田の基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田の算出式と基本中干期間と基本メタン排出量とに基づいてメタン削減量を算出して、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを記憶部1bに記憶させ、水田の変更された水管理情報に基づいて、水田の中干期間を特定し、当該中干期間と第1相関データとに基づいて、水田のメタン削減量を算出する。これにより、水田のメタン排出量を算出することなく、中干期間と第1相関データとに基づいてメタン削減量を容易に算出することができる。
【0144】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田の水田情報及び作業情報のうちの少なくともいずれかの変更に伴って、水田の算出式を更新する。これにより、水田の基本メタン排出量又は中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データも更新することができ、水田のメタン削減量の正確性を向上させることが可能となる。
【0145】
また、本実施形態では、水田メタン削減支援装置1は、外部装置と通信する通信部1cを備え、制御部1aは、複数の水田と複数の農業者に関する情報を格納したデータベース2dが構築された農業管理装置2と、農業者が利用する農業者端末装置3とのうちの少なくともいずれかから、農業者情報と当該農業者情報に対応する水田の水田情報及び作業情報を通信部1cにより取得し、水田の水管理状態を検出する検出装置4、6(水管理装置4、モニタリング装置6)、農業管理装置2、及び農業者端末装置3のうちの少なくともいずれかから、農業者情報に対応する水田の水管理情報を通信部1cにより取得する。これにより、水田メタン削減支援装置1は、検出装置4、6、農業管理装置2、又は農業者端末装置3から取得した水田の水管理状態を示す水管理情報に基づいて、中干状態を正確に特定することができる。
【0146】
また、本実施形態では、農業者端末装置3は、農業者情報、作業情報、及び水田情報のうちの少なくともいずれかを入力可能に構成されている。このため、農業者情報、作業情報、又は水田情報に変更があっても、農業者が変更後の農業者情報、作業情報、又は水田情報を即座に入力することができる。また、農業者は、検出装置4、6によって検出することができない水田の水管理状態を示す水管理情報を含んだ作業情報を、農業者端末装置3により入力することができる。そして、水田メタン削減支援装置1が、水田の水管理情報に基づいて、中干状態を特定することができる。
【0147】
また、本実施形態では、検出装置4(水管理装置4)は、水田の水位を検出する水位センサ5の検出結果から、水田における作物栽培中の水管理状態を検出し、制御部1aは、検出装置4により検出された水田の水管理状態を示す水管理情報を周期的に又は所定のタイミングで取得して、当該取得した複数の水管理情報に基づいて、水田の中干状態を特定する。これにより、水位センサ5による水田の水位の検出結果に基づいて、水田の湛水、灌水、及び落水の水管理状態を正確に検出し、当該水管理状態を示す水管理情報に基づいて、水田の中干状態をより正確に特定することができる。
【0148】
また、本実施形態では、検出装置6(モニタリング装置6)は、飛翔体又は飛行体に搭
載された観測装置(地球観測衛星)7による水田の観測結果から、水田における作物栽培中の水管理状態を検出し、制御部1aは、検出装置6により検出された水田の水管理状態を示す水管理情報を周期的に又は所定のタイミングで取得して、当該取得した複数の水管理情報に基づいて、水田の中干状態を特定する。これにより、観測装置7による水田の観測結果に基づいて、水田の湛水、灌水、及び落水の水管理状態を正確に検出し、当該水管理状態を示す水管理情報に基づいて、水田の中干状態をより正確に特定することができる。また、水田に水管理状態を検出する装置を設置しなくてもよいので、当該装置の設置にかかるコストを削減することができる。
【0149】
また、本実施形態では、観測装置7は合成開口レーダを有している。これにより、天候及び雲の影響を受けずに、合成開口レーダにより水田を観測して、当該観測結果に基づいて、水田の湛水、灌水、又は落水の水管理状態を正確に検出し、当該水管理状態を示す水管理情報に基づいて、水田の中干状態をより正確に特定することができる。
【0150】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データに基づいて、メタン削減量が所定値以上になる水田の推奨中干期間を判断し、推奨中干期間を含む作業提案情報を、農業者情報に基づいて農業者に通知する。これにより、水田からのメタンの削減に適した推奨中干期間が農業者に通知されるので、農業者が推奨中干期間に基づいて水田の中干を実施して、水田からのメタンを容易且つ有効に削減することができ、利便性を一層向上させることが可能となる。
【0151】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田の基本中干期間と水田に対応する水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の基本収量を推定し、シミュレーションで水田の基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田の水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の収量を推定し、当該収量と基本収量とに基づいて作物の減収量を算出して、水田の干期間と前作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを記憶部1bに記憶させ、第1相関データと第2相関データとに基づいて、メタン削減量が第1所定値以上で且つ作物の減収量が第2所定値以下になる水田の推奨中干期間を判断する。これにより、水田のメタン削減量と作物の収量とのバランスがとられた推奨中干期間が農業者に通知されるので、農業者が推奨中干期間に基づいて水田の中干を容易に実施して、作物の減収量を低く抑えながら、水田からのメタンを削減することができ、利便性を一層向上させることが可能となる。
【0152】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田のメタン削減量と水田に対応する農業者情報とを含む報告情報を、通信部1cによりクレジット管理装置8に送信し、水田のメタン削減量に応じてクレジット管理装置8から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を通信部1cにより取得し、クレジット情報を農業者情報に基づいて農業者に通知する。これにより、農業者は煩雑な手続きを行わなくても、水田での農作業変更に伴って生じたメタン削減量に応じたクレジットを得ることができ、農業者の利便性及び有益性を向上させることが可能となる。
【0153】
また、本実施形態では、制御部1aは、複数の水田のメタン削減量を合算して、当該合算したメタン削減量を示す報告情報を、通信部1cによりクレジット管理装置8に送信し、当該合算したメタン削減量に応じてクレジット管理装置8から発行されたクレジットを示すクレジット情報を通信部1cにより取得し、当該クレジット情報で示されるクレジットを複数の水田のメタンの削減量に応じて分配し、当該分配したクレジットを示すクレジット情報を農業者情報に基づいて、複数の水田にそれぞれ対応する農業者に通知する。これにより、農業者は水田毎に煩雑な手続きを行わなくても、農作業の変更に伴って生じたメタン削減量に応じたクレジットを一括で得ることができ、また、1枚1枚の水田のメタン削減量が少なくても、当該メタン削減量に応じたクレジットを得ることができる。この
ため、農業者の利便性及び有益性を一層向上させることが可能となる。
【0154】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田に関する水田情報、水田における従来の作業情報、水田からのメタンを削減するために変更された農作業を示す対象の作業情報、モデルデータに基づいて設定した水田のメタン排出量を算出する算出式、及び当該算出式に含まれる変数のうちの少なくともいずれかを、報告情報に含めて通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する。これにより、クレジット管理業者は、クレジット管理装置8により受信した報告情報に含まれる水田情報、作業情報、算出式、又は変数によって、当該報告情報に含まれるメタン削減量を検証したり、当該メタン削減量の妥当性を判断したりすることができ、クレジットを正当に発行することができる。
【0155】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田のメタン削減量に応じたクレジットを見積もり、当該見積もったクレジットを示す仮クレジット情報を報告情報に含めて通信部1cによりクレジット管理装置8に送信し、又は仮クレジット情報を農業者情報に基づいて農業者に通知する。これにより、水田のメタン削減量に応じたクレジットの見積もりを、水田メタン削減支援装置1で管理することができ、又は農業者が把握することができる。
【0156】
また、本実施形態では、水田メタン削減支援装置1は、情報を入出力する入出力インタフェイス1dを備え、制御部は1a、農業者が所有するクレジットを売却したい旨を示す売却希望情報を、農業者端末装置3から通信部1cにより受信すると、当該売却希望情報で示されるクレジットの代価を所定の取引者に支払わせる指示を示す支払指示情報を入出力インタフェイス1dにより出力し、取引者が代価を農業者に支払ったことを示す支払完了情報が、入出力インタフェイス1dにより入力されると、クレジットの所有者を農業者から取引者に変更する。これにより、農業者は煩雑な手順で直接需要者とクレジットを取引しなくても、所有するクレジットの代価を容易に得ることができ、農業者の利便性及び有益性を一層向上させることが可能となる。
【0157】
また、本実施形態では、制御部1aは、クレジットを買い取りたい旨を示す買取希望情報を、需要者が利用する需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると、当該買取希望情報で示されるクレジットの代価を需要者に支払わせる支払指令を、需要者端末装置9に送信し、需要者が代価を取引者に支払ったことを示す支払完了情報を、需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると、クレジットの所有者を取引者から需要者に変更する。これにより、水田のメタン削減量に応じて発行されたクレジットを、需要者との間で容易に取引することができ、利便性を一層向上させることが可能となる。
【0158】
本実施形態の情報処理装置1は、水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報及び、検出装置4、6(水管理装置4、モニタリング装置6)により検出された水田の水管理状態を示す検出水管理情報を取得する取得部(通信部)1cと、作業情報から特定した水田の水管理状態を示す目標水管理情報と検出水管理情報との差異に基づいて、前記水田で水管理異常が発生したか否かを判断する制御部1aと、水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を出力する出力部(通信部)1cと、を備える。また、本実施形態の農業支援システム100は、検出装置4、6と情報処理装置1とを備える。
【0159】
上記構成により、水田の目標水管理情報と、検出装置4、6により検出した検出水管理情報とから、水田で水管理異常が発生したことをいち早く検出することができる。また、水田で水管理異常が発生したことを示す水管理異常情報を出力して、関係者に通知することができ、農業者などが水田の水管理異常に適切に対処することが可能となる。
【0160】
また、本実施形態では、検出水管理情報には、水田の水位を検出する水位センサ5の検出結果が含まれていて、制御部1aは、目標水管理情報から水田の目標水位を特定し、水
位センサの検出結果から水田の実水位を特定し、実水位が目標水位より所定値以上高い場合に、水田で水管理異常が発生したと判断する。これにより、例えば水田の水位が多雨により異常に増水した場合に、洪水などの水管理異常が発生したことを確実且つ迅速に検出することができる。
【0161】
また、本実施形態では、検出水管理情報には、水田がある地域を観測する観測装置(地球観測衛星)7の観測結果が含まれていて、制御部1aは、目標水管理情報から水田の目標水管理状態を特定し、観測装置7の観測結果から水田の表面が水面であるか否かを特定し、目標水管理状態が水田に水を張らない落水状態であるのに対して、観測装置7の観測結果から水田の表面が水面であると特定した場合に、水田で水管理異常が発生したと判断する。これにより、例えば農業者が意図せずに、多雨により水が水田に溜まって、さらに当該水が水田の周辺にあふれ出るような洪水が生じたときに、当該洪水が発生したことを確実且つ迅速に検出することができる。
【0162】
また、本実施形態では、検出水管理情報には、少なくとも1つの水田がある地域を観測する観測装置7の観測結果が含まれていて、制御部1aは、取得部1cにより水田に関する水田情報を取得して、当該水田情報から水田の位置を特定し、目標水管理情報から表面が水面になる水田の目標水面面積を算出し、観測装置7の観測結果から水田及び水田の周辺にある土地の表面が水面であるか否かを判断して、表面が水面である水田及び土地の面積を合わせた実水面面積を算出し、実水面面積が目標水面面積よりも所定値以上大きい場合に、水田で水管理異常が発生したと判断する。これにより、例えば多雨により水が水田から周辺の土地にあふれ出て、当該土地で洪水などの水管理異常が生じたときに、当該水管理異常が発生したことを確実且つ迅速に検出することができる。
【0163】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田に対応する農業者に関する農業者情報を取得部1cにより取得し、水管理異常が発生したと判断すると、農業者情報に基づいて農業者に水管理異常情報を出力部1cにより通知する。これにより、農業者などが水田又は水田の周辺で水管理異常が発生したことを確実に認識して、当該水管理異常に適切に対処することができる。
【0164】
さらに、本実施形態では、制御部1aは、水田の周辺の土地の管理者を示す情報を含む土地管理情報を取得部1cにより取得し、水管理異常が発生したと判断すると、土地管理情報に基づいて管理者に水管理異常情報を出力部1cにより通知する。これにより、水田の周辺の土地の管理者が水田又は水田の周辺で水管理異常が発生したことを確実に認識して、当該水管理異常に適切に対処することができる。また、水管理異常が洪水などの異常増水である場合には、土地の管理者などが、当該異常増水が発生したことを地域の人々などに周知させることで、地域の人々などが水田の周辺に近づくのを防止することができる。
【0165】
以上、本発明について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0166】
1 水田メタン削減支援装置、情報処理装置
1a 制御部
1b 記憶部
1c 通信部(取得部、出力部)
1d 入出力インタフェイス
2 農業管理装置(外部装置、情報処理装置)
2d データベース
3 農業者端末装置(外部装置)
4 水管理装置(外部装置、検出装置)
5 水位センサ
6 モニタリング装置(外部装置、検出装置)
7 地球観測衛星(観測装置)
8 クレジット管理装置(外部装置)
9 需要者端末装置(外部装置)
100 水田メタン削減支援システム、農業支援システム
H 水田
R 水稲(作物)